説明

自動車の前部車体構造

【課題】前方衝突時におけるパワートレインの後退動抑制と,パワートレインの支持剛性確保とを共に高い次元で満足させる。
【解決手段】前輪用となる左右一対のサスペンション支持部13がそれぞれ,後アッパフレーム22によって,モノコック式とされたキャビン部1の前端部に位置するヒンジピラー5の上端部に連結される。各サスペンション支持部13から前下がりに傾斜して伸びる前サスタワーフレーム26の下端部が,下クロスメンバ28を介して,キャビン部1の前端部から前方へ伸びるアンダフレーム23に連結される。各前サスタワーフレーム26に設けた左右一対のマウント部材37によって,パワートレインPTが保持される。マウント部材37から後下がりに傾斜して伸びるエンジンマウントフレーム30の下端部が,上記アンダフレーム23に連結される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車の前部車体構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体構造,特に乗用車の車体構造は,軽量化と生産性向上の観点から,板材を組み合わせて構成された応力分散構造となるモノコック構造のものが多くなっている。そして,このモノコック構造のうち強度が要求される部分,例えばサイドシル,フロントフレーム,リアフレーム,フロアフレーム,クロスメンバ,ヒンジピラー等の各種ピラー,ル−フの各周縁部(ル−フレール,フロントヘッダー,リアヘッダー)等は,閉断面構造として構成されている。
【0003】
モノコック構造とされた車体構造においては、通常、車室前端の仕切壁となるダッシュパネルよりも前方のエンジンルームを画成する部分もモノコック構造とされることが多く、このため、通常は車室を画成するキャビン部から前方へ左右一対のフロントサイドフレームを延設することが行われている。特許文献1には、前下がりに傾斜させたフロントサイドフレームとエプロンレインとによってトラス構造として、このフロントサイドフレームにパワートレンを支持するためのマウント部を配設したものが開示されている。この特許文献1に記載のものでは、前方衝突時において、パワートレンを下方へ落とすという観点からは好ましいものとなる。
【0004】
一方,車体構造の中には,剛性の高さや軽量化の観点をより進めて,パイプ材を組み合わせてなるスペースフレーム構造がよく知られている。特許文献2には,このスペースフレーム構造を,車体前部に前方衝突時の衝撃吸収用として部分的に適用した技術が開示されている。すなわち,車体前部を,キャビン部の直前方に配設されるサスペンションモジュールと,サスペンションモジュールの直前方に構成されたエネルギ吸収モジュールとで構成して,このエネルギ吸収モジュールをスペースフレーム構造としたものが開示されている。しかしながら、特許文献2に記載のものでは、エネルギ吸収モジュールがつぶれ変形した後の衝撃吸収については特に意図されていないものとなっている。
【特許文献1】特開平7−47843号公報
【特許文献2】特表2000−509345号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前方衝突時の安全性向上、特に車室内に向けての突出変形抑制のために、パワートレンの後退動をいかに抑制するがかが重要となる。この一方、車体へのエンジン振動の伝達を低減する等の観点から、パワートレンの支持剛性の確保も重要となる。
【0006】
本発明は以上のような事情を勘案してなされたもので,その目的は,前方衝突時におけるパワートレンの後退動の抑制と、パワートレンの支持剛性の確保とを共に高い次元で満足できるようにした自動車の前部車体構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため,本発明にあっては次のような解決手法を採択してある。すなわち,特許請求の範囲における請求項1に記載のように,
ラジエタシュラウドの後方にモノコック構造とされたキャビン部が配設されて,該ラジエタシュラウドと該キャビン部との間の空間がパワートレンが配設されるエンジンルームとされた自動車の前部車体構造であって,
前記ラジエタシュラウドとキャビン部との間に,サスペンションダンパの上端部が取付けられる左右一対のサスペンション支持部が配設され,
前記各サスペンション支持部が,前後方向に伸びる左右一対の後アッパフレームを介して前記キャビン部の前端部に構成されている左右のヒンジピラーの上端部に連結され,
前後方向に伸びて,後端部が前記キャビン部の前下端部に連結された左右一対のアンダフレームが設けられ,
前記各サスペンション支持部から前下がりに延設され、下端部が前記アンダフレームに連結された左右一対の前サスタワーフレームが設けられ,
前記各前サスタワーフレームに,パワートレンが取付けられる左右一対のマウント部が設けられ,
前記各マウント部から後下がりに傾斜して伸びて,下端部が前記アンダフレームに連結された左右一対のエンジンマウントフレームが設けられている,
ようにしてある。
【0008】
上記解決手法によれば,前方衝突時にパワートレインが後退動される衝突荷重を受けたときは,衝突荷重は,マウント部よりエンジンマウントフレーム,アンダフレームを経てキャビン部の下端部に伝達されるばかりでなく,マウント部より,前サスタワーフレーム,サスペンション支持部,後アッパフレームという荷重伝達経路を経てヒンジピラーの上端部つまりキャビン部の上端部へと効果的に伝達されることになる。このように,マウント部に作用する後方への衝突荷重が,キャビン部の下端部のみならず上端部へも効果的に伝達されて,キャビン部の広い範囲でもって衝突荷重を受け止めることができ,パワートレインの後退動が効果的に抑制されることになる。また,マウント部は,サスペンション支持部を含めて,後アッパフレーム,前サスタワーフレーム,アンダフレームおよびエンジンマウントフレームによって構成されるフレーム構造体によってしっかりと支承されているため,パワートレインの支持剛性も十分に確保することができる。
【0009】
上記解決手法を前提とした好ましい態様は、特許請求の範囲における請求項2以下に記載のとおりである。すなわち,
前記左右のサスペンション支持部同士が,車幅方向に伸びる上クロスメンバによって連結され,
前記左右の前サスタワーフレームの下端部同士が,車幅方向に伸びる下クロスメンバによって連結され,
前後方向から見たときに,前記左右の前サスタワーフレームと上下のクロスメンバとによって略矩形の枠形形状が構成されている,
ようにすることができる(請求項2対応)。この場合、左右一対の前サスタワーフレームが,上下のクロスメンバと共働して略矩形の枠形形状を構成するため,パワートレインの支持剛性をより一層高めることができる。
【0010】
前記ラジエタシュラウドは,前後方向から見たときに略矩形の枠形形状とされ,
前記ラジエタシュラウドの左右上端部が,左右一対の前アッパフレームを介して前記サスペンション支持部に連結され,
前記左右一対のアンダフレームの前端部が,前記ラジエタシュラウドの左右下端部に連結されている,
ようにすることができる(請求項3対応)。この場合、前方衝突時には,ラジエタシュラウドの広い面積範囲に渡って効果的に衝突荷重を受けつつ,衝突荷重をアンダフレームを介してキャビン部の下端部で受け止めると共に,前後のアッパフレームを介してヒンジピラー上端部つまりキャビン部の上端部でも受け止めて,衝突初期時からキャビン部によって衝撃吸収を効果的に行う上で好ましいものとなる。
【0011】
前記サスペンション支持部から後下がりに傾斜して伸びる後サスタワーフレームがさらに設けられ、
前記後サスタワーフレームの下端部が前記アンダフレームに連結され,
前記エンジンマウントフレームの下端部が,前記後サスタワーフレームの下端部に連結されて,該後サスタワーフレームを介して前記アンダフレームに連結されている,
ようにすることができる(請求項4対応)。この場合、前後一対のサスタワーフレームを設けることにより,サスペンション支持部回りの剛性をより高めて,パワートレインの支持剛性をより一層高めることができる。また,エンジンマウントフレームを直接アンダフレームに連結する場合に比して,アンダフレームへの応力集中を抑制する上で好ましいものとなる。
【0012】
前記前サスタワーフレームの下端部の位置が,最大舵角時における前輪の車幅方向最内端位置に対して,該前輪の車軸側寄りでかつ車幅方向外方側となるように位置設定されている,ようにすることができる(請求項5対応)。この場合、前輪を最大舵角位置にまで操舵したときに形成されるデッドスペースを有効に利用して,前サスタワーフレームの下端部を極力車幅方向外方側に位置させることができ,最大舵角を大きくすることと,前サスタワーフレームを含むフレーム構造体の剛性向上の上で好ましいものとなる。
【0013】
前記アンダフレームは,上下方向から見たときに枠形構造とされたペリメータフレームのうち前後方向に伸びるフレーム部によって構成されている,ようにすることができる(請求項6対応)。この場合、既存のペリメータフレームを有効に利用して,アンダフレームを構成することができる。また,ペリメータフレームそのものの剛性が高いことから,パワートレインを支持する周囲のフレーム構造体の剛性を全体的に高める上でも好ましいものとなる。さらに,ペリメータフレームの剛性を調整することにより,前方衝突時の変形を所望通りとなるように設定することも容易のとなる。
【0014】
前記パワートレンは,エンジンの出力軸が車幅方向に伸びる横置きとされ,
前記左右一対のマウント部は,エンジンの慣性主軸上に位置するように設定されている,
ようにすることができる(請求項7対応)。この場合、エンジンの振動が極力車体に伝達されないようにする上で好ましいものとなる。
【0015】
前記パワートレンは,エンジンの出力軸が車幅方向に伸びる横置きとされ,
前記左右一対のマウント部は,前記パワートレンの慣性主軸上に位置するように設定されている,ようにすることができる(請求項8対応)。この場合、パワートレインの振動が極力車体に伝達されないようにする上で好ましいものとなる。
【0016】
前記後アッパフレームと前サスタワーフレームとエンジンマウントフレームとがそれぞれ,複数の部材を結合することにより閉断面構造として構成されている,ようにすることができる(請求項9対応)。この場合、周方向全長に渡って1つの部材からなる通常のパイプ材を用いる場合に比して,各フレームの生産性ひいては車体前部の生産性を高める上で好ましいものとなる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば,マウント部に作用する後方への衝突荷重が,キャビン部の下端部のみならず上端部へも効果的に伝達されて,キャビン部の広い範囲でもって衝突荷重を受け止めることができ,パワートレインの後退動が効果的に抑制されることになる。また,マウント部は,サスペンション支持部を含めて,後アッパフレーム,前サスタワーフレーム,アンダフレームおよびエンジンマウントフレームによって構成されるフレーム構造体によってしっかりと支承されているため,パワートレインの支持剛性も十分に確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図1〜図4において,1は車室を画成するキャビン部であり,このキャビン部1は,前方のエンジンルームに対する仕切壁となるダッシュパネル2を有して,既知のようにモノコック構造として構成されている。すなわち,キャビン部1は,複数枚の板金を接合することによって全体として応力を分散して吸収する構造として構成されている。そして,強度が要求される部分は,板金を接合して閉断面構造とすることにより,部分的な強度も十分に確保されている。上記閉断面構造とされている代表的な部位として,車幅方向端部において前後方向に伸びる左右一対のサイドシル3,サイドシル3の車幅方向内方側において前後方向に伸びる左右一対のフロアフレーム4,車幅方向端部でかつ前端部において上下方向に伸びる左右一対のヒンジピラー5を有する。さらに,キャビン部2の車幅方向端部でかつ前端下部には,閉断面構造のトルクボックス6が形成されている。このトルクボックス6に対して,サイドシル3の前端部,フロアフレーム4の前端部,ヒンジピラー5の下端部が連結されている。なお,キャビン部1は,上述した閉断面構造以外にも,例えば,ヒンジピラー5の上端部から上方へ伸びるフロントピラー7,車幅方向に伸びて左右一対のヒンジピラー5の上端部同士を連結するカウルボックス8等がある。なお,左右一対のサイドシル3間にフロアパネル9が架設されて,このフロアパネル9の下面に上記フロアフレーム4が構成される。
【0019】
上記キャビン部1の前方には,ラジエタシュラウド10が配設されている。このラジエタシュラウド10は,前後方向から見たときに,略矩形の枠形構造として構成されている。すなわち,ラジエタシュラウド10は,上下方向に伸びる左右一対の縦フレーム部10aと,車幅方向に伸びて縦フレーム部10aの上端部同士を連結する上横フレーム部10bと,車幅方向に伸びて縦フレーム部10aの下端部同士を連結する下横フレーム部10cとを有する。このように,ラジエタシュラウド10は,ラジエタRの取付けに好適な形状とされ,かつ前方衝突時に広い面積範囲でもって衝突対象物(特に車高の高い大型車両)に当接可能なように設定されている。
【0020】
上記キャビン部1とラジエタシュラウド10との間の空間がエンジンルームとされて,ここにエンジン11と変速機12とを含むパワートレインPTが横置に(エンジン出力軸が車幅方向に伸びるように)配設される。また,キャビン部1とラジエタシュラウド10との間には,左右一対のサスペンション支持部13が配設され,このサスペンション支持部13の下方に左右の前輪14が配設されている。なお,上記パワートレインPTは,少なくともエンジン11と変速機12とを含むが,その他,エンジン11と変速機12との間に位置される動力断続部材(クラッチあるいはトルクコンバータ),デファレンシャルギア等を含み,4輪駆動とする場合はセンタデフも含むものとして構成される等,車両の駆動形態に応じて適宜の構成とされる。
【0021】
キャビン部1とラジエタシュラウド10とが,複数のフレーム部材を組み合わせてなるフレーム構造体Fによって後述のように互いに連結されているが,このフレーム構造体Fは,一種のスペースフレームを構成するようになっている。フレーム構造体Fは,ほぼ左右対称に構成されているので,左側の構造について説明し,その後左右の連結関係について説明することとする。
【0022】
まず,左側サスペンション支持部13とラジエタシュラウド10の上左端部とが,前後方向に伸びる前アッパフレーム21によって連結されている。また,左側サスペンション支持部13と左側ヒンジピラー5の上端部とが,前後方向に伸びる後アッパフレーム22によって連結されている。前アッパフレーム21は,後方に向かうにつれて,上方かつ車幅方向外側に位置するように傾斜されている。また,後アッパフレーム22も,後方に向かうにつれて,上方かつ車幅方向外側に位置するように傾斜されているが,上下方向の傾斜は前アッパフレーム21の上下方向の傾斜よりも小さくされている。右側のサスペンション支持部13についても,左側サスペンション支持部13と同様に,前アッパフレーム21,後アッパフレーム22が連結されている。
【0023】
ラジエタシュラウド10の左下端部が,左側アンダフレーム23によって,キャビン部1の左前下端部,より具体的には,左側フロアフレーム4の前端部に連結されている。同様に,ラジエタシュラウド10の右下端部が,右側アンダフレーム23によって,キャビン部1の右前下端部,より具体的には,右側フロアフレーム4の前端部に連結されている。アンダフレーム23は,サスペンション支持部13よりも車幅方向内側に位置されて,実施形態ではペリメータフレームPFの一部を構成するようになっている。すなわち,ペリメータフレームPFは,左右一対のアンダフレーム23の前端部同士を連結する前連結フレーム部24と,アンダフレーム23の後端部同士を連結する後連結フレーム部25とを有して,全体的に,上下方向から見たときに略方形の枠形構造として構成されている。
【0024】
左側サスペンション支持部13と左側アンダフレーム23とが,前後一対のサスタワーフレーム26,27によって連結されている。同様に,右側サスペンション支持部13と右側アンダフレーム23とが,前後一対のサスタワーフレーム26,27によって連結されている。前サスタワーフレーム26は,後サスタワーフレーム27に比して,下方に向かうにつれて前方かつ車幅方向外側に位置するように傾斜されていて,左右一対の前サスタワーフレーム26の下端部同士が,車幅方向に伸びる下クロスメンバ28によって連結されている。そして,下クロスメンバ28がアンダフレーム23に連結されていて,前サスタワーフレーム26は,この下クロスメンバ28を介してアンダフレーム23に連結されている。後サスタワーフレーム27は,下方に向かうにつれて後方に位置するように傾斜されて,アンダフレーム23に対して直接連結されている。上記アンダフレーム23のうち,ラジエタシュラウド10から前サスタワーフレーム26(下クロスメンバ28)までの間は,後方に向かうにつれて下方に位置するように傾斜された傾斜部23aとされている。
【0025】
左右一対のサスペンション支持部13同士は,車幅方向に伸びる上クロスメンバ29によって連結されている。これにより,左右一対の前サスタワーフレーム26と上下のクロスメンバ28,29とによって,前後方向から見たときに,略矩形の枠形構造が構成されている。そして,上クロスメンバ29の車幅方向中間部が,左右一対の補強フレーム35を介して,後アッパフレーム22の後端部に連結されている。この補強フレーム35は,後方に向かうにつれて車幅方向外側に位置するように傾斜されている。
【0026】
前後一対のサスタワーフレーム26と27とは,エンジンマウントフレーム30によって連結されている。このエンジンマウントフレーム30は,後方に向かうにつれて下方に位置するように傾斜されて,その前端部(上端部)が前サスタワーフレーム26の上下方向略中間部に連結され,その後端部(下端部)が後サスタワーフレーム27の上下方向中間部よりも若干下方位置に連結されている。なお,エンジンマウントフレーム30の下端部を直接アンダフレーム23に連結してもよいが,この連結部への前方衝突時の荷重集中を避けるために,上述のように,エンジンマウントフレーム30の下端部を後サスタワーフレーム27に連結してある。
【0027】
ラジエタシュラウド10の車幅方向端部のうち上下方向略中間部が,サスペンション支持部13に対して,クラッシュカン支持フレーム31によって連結されている。クラッシュカン支持フレーム31は,後方に向かうにつれて上方に位置するように傾斜されている。ラジエタシュラウド10とクラッシュカン支持フレーム31との連結部位には,板金からなる補強部材32が配設されている。この補強部材32は,ラジエタシュラウド10およびクラッシュカン支持フレーム31に対して接合されている。補強部材32を設けることにより,前方衝突時におけるクラッシュカン支持フレーム31の曲がり態様を所望の曲がり態様に設定することが容易化される。なお,図23一点鎖線で示すように,補強部材32Bをクラッシュカン支持フレーム31と前アッパフレーム21との間に架設することにより,前方衝突時における両フレーム31,21の曲がり態様を所望の曲がり態様に設定することが容易化される。
【0028】
ラジエタシュラウド10の前面のうち,車幅方向端部でかつ上下方向略中間部となる位置,つまりクラッシュカン支持フレーム31の連結部位に対応した位置において,図1,図3に示すようにクラッシュカン33が取付けられている。そして,この左右一対のクラッシュカン33に対して,バンパレインフォースメント34が取付けられている。このバンパレインフォースメント34に対して,図示を略すバンパが取付けられる。上記クラッシュカン33は,前方衝突時の衝突エネルギを吸収するためのものである。
【0029】
前サスタワーフレーム26には,ベースプレート36を介して,エンジン11つまりパワートレインPT取付用のマウント部材37が固定されている。ベースプレート36は,前サスタワーフレーム26とクラッシュカン支持フレーム31との間に架設されて,左右一対設けられている。各ベースプレート36に取付けられた左右一対のマウント部材37によって,パワートレインPTが支持されている。左右一対のマウント部材37は,エンジン1の慣性主軸あるいはパワートレインPTの慣性主軸上に位置するように設定されている。すなわち,エンジン1を運転したときの振動の中心線が左右一対のマウント部材37同士を結ぶ仮想線上に位置するようにされて,マウント部材37ひいてはフレーム構造体Fに極力エンジン1を運転したときの振動が伝達されないように設定されている。パワートレインPTは,さらに,ペリメータフレームPFのうち後連結フレーム部25に設けたマウント部材38によっても支持されている。このマウント部材38によって,上記慣性主軸を中心としたパワートレインPTの揺れが阻止されることになる(慣性主軸とマウント部材37の位置との関係については,後述する図20の説明をも参照)

【0030】
図1〜図4において,15は車軸(図1),16は車輪支持部材(図3),17はサスペンションアーム(図4),18サスペンションダンパ(図3),19はブレーキ用倍力装置(図1)であり,サスペンションダンパ18の上端部がサスペンション支持部13に取付けられる。また,20は,キャビン部1に設けられて,図示を略すホイールエプロンやフロントフェンダを取付けるためのブラケット部である。
【0031】
なお,前述した各フレームやクロスメンバ21,22,26,27,28,29,30,31,35は,それぞれ,金属のパイプ材を切断することによって構成されているが,後述するように,複数枚,例えば2枚の板金を接合して閉断面構造の部材として構成することもできる。
【0032】
次に,図5〜図19を参照しつつ,さらに詳細な部分について説明する。まず,図5,図6は,ラジエタシュラウド10とペリメータフレームPFとの連結例を示すものである。このペリメータフレームPFのうち前連結フレーム部24が,ラジエタシュラウド10のうち下横フレーム部10cの下面に着座された状態で,ボルト41,ナット42を利用して接合されている。このボルト41,ナット42による接合位置は,前連結フレーム部24の車幅方向端部つまりアンダフレーム23の前端部に相当する位置とされている。なお,図7中符号43はスペーサである。
【0033】
図7,図8は,後サスタワーフレーム27とアンダフレーム23との連結例を示すものである。すなわち,アンダフレーム23に,連結ブラケット45が溶接等により一体化されている。この連結ブラケット45は,後サスタワーフレーム27の軸線方向に伸びると共に上方に向けて開口する連結用筒部45aを有する。後サスタワーフレーム27の下端部が連結用筒部45a内に挿入された状態で,連結用筒部45aの側方から取付けられるボルト46が後サスタワーフレーム27をその径方向から貫通して,後サスタワーフレーム27の連結用筒部45aからの抜けが規制される。また,後サスタワーフレーム27の下端部内にはあらかじめナット47が溶接されて,アンダフレーム23の下方から取付けられるボルト48がナット47に螺合される。このようにして,後サスタワーフレーム27が,アンダフレーム23に対してしっかりと固定されることになる。
【0034】
図9,図10は,前サスタワーフレーム26と下クロスメンバ28とアンダフレーム23との連結例を示すものである。すなわち,アンダフレーム23の上面に,取付ブラケット51がボルト52,ナット53によって固定される。取付ブラケット51は,アンダフレーム23の上面と共働して車幅方向に伸びる連結用筒部51aを構成しており,この連結用筒部51a内を,下クロスメンバ28が貫通している。そして,上記ボルト52,ナット53の締結力によって,下クロスメンバ28がアンダフレーム23に強固に押しつけられて固定されている。前サスタワーフレーム26の下端部は,下クロスメンバ28に対して例えば溶接等により接合されている(フレーム部材同士の接合例については後述の説明をも参照)。なお,図10中符号54はスペーサである。
【0035】
図11〜図13は,後アッパフレーム22とヒンジピラー5との連結例を示すものである。すなわち,ヒンジピラー5の前面に取付ブラケット56が溶接接合されている。この取付ブラケット56は,後アッパフレーム22の軸線方向に伸びる連結用筒部56aを有し,この連結用筒部56a内に,後アッパフレーム22の後端部が挿入される。後アッパフレーム22の後端部には,雌ねじ部57が形成されて,取付ブラケット56の後面側から取付けられるボルト58が雌ねじ部57に螺合されている(ボルト58による後アッパフレーム22の後方への引張)。取付用ブラケット56の側方からは,ボルト59が挿通されて,このボルト59が連結用筒部56aおよび後アッパフレーム22を径方向に貫通した状態で,ボルト59の先端部にナット60が螺合されている。これにより,後アッパフレーム22がヒンジピラー5に対して強固に一体化される。なお,後アッパフレーム22の後端部外周面は,先端(後端)に向かうにつれて徐々に細径となるテーパ面22aとされる一方,連結用筒部56aの内径は後方に向かうにつれて徐々に小径となるテーパ面56bとされて,両テーパ面22aと56bとが密着して,後アッパフレーム22とヒンジピラー5とががたつきなく強固に一体化される。
【0036】
図14は,図11〜図13の変形例を示すものであり,図11〜図13で用いた構成要素と同一の構成要素には同一符号を付してある。図14の例では,前述した連結ブラケット56のうち連結用筒部56aに相当するスペーサ部材63を,ヒンジピラー5内に固定して配設してある。そして,後アッパフレーム22の後端部を,ヒンジピラー5の前面の開口部からその内部に挿入することによりスペーサ部材63内に挿入した状態で,ヒンジピラー5の後面側から挿入されたボルト58が雌ねじ部57に螺合されている。
【0037】
図15〜図17は,前述した各種のフレーム部材同士の連結例を示すものであり,例えば下クロスメンバ28と前サスタワーフレーム26との連結部位,エンジンマウントフレーム30のサスタワーフレーム26あるいは27に対する連結部位等に適用される。以下の説明では,エンジンマウントフレーム30と前サスタワーフレーム26との連結部位を例として示してある。まず,図16の例は,両フレーム30と26とを溶接接合した場合であり,溶接部位が符号65で示される。
【0038】
図16の例は,3方継手部材67を用いた例である。すなわち,継手部材67は,同一軸線上に伸びて開口方向が互いに180度反対方向とされた第1,第2の一対の連結用筒部67a,67bと,この連結用筒部67a,67bと直交する方向に開口された第3の連結用筒部67cとを有する。前サスタワーフレーム26が軸線方向に2分割された一対の分割フレーム26A,26Bとされている。一方の分割フレーム26Aが第1連結用筒部67aに挿入され,他方の分割フレーム26Bが第2連結用筒部67bに挿入され,エンジンマウントフレーム30が第3連結用筒部67cに挿入された状態で,各フレーム26A,26B,30が継手部材67に溶接接合される(溶接部位が符号65で示される)。
【0039】
図17の例は,図16の変形例となるもので,図16における継手部材67に相当する継手部材が符号68で示される。継手部材68は,継手部材67と同様に,3つの連結用筒部68a(67a対応),68b(67b対応),68c(67c対応)を有する。ただし,図17の例では,第3連結用筒部68cに挿入されるエンジンマウントフレーム30と継手部材68の接合を,溶接ではなく,ボルト69を利用した接合としてある。すなわち,第3連結用筒部67cに挿入されるエンジンマウントフレーム30には雌ねじ部70が形成されて,継手部材68の外方側から挿入されるボルト69が雌ねじ部70に螺合されて,エンジンマウントフレーム30をその軸線方向から継手部材68側に引張する接合形式となっている。
【0040】
図18は,ペリメータフレームPFつまりアンダフレーム23とフロアフレーム4との連結例を示すものである。ただし,図3,図4は,図18に対応しないで,後述する図19の場合に対応している。図18の例では,フロアフレーム4の前端部下面にアンダフレーム23が配設された状態で,ボルト75,ナット76によってフロアフレーム4とアンダフレーム23とが一体化される。フロアフレーム4に連結されたアンダフレーム23の後端面から若干後方位置において,フロアフレーム4の下面にブラケット77が接合されている。このブラケット77は,剛性(特に前後方向の剛性)が高くなるように,フロアフレーム4と共働して閉断面を構成している。そして,ブラケット77の前面に,アンダフレーム23の後端面に臨ませて,クラッシュカン78が取付けられている。このクラッシュカン78は,前方衝突時の衝突後期において,アンダフレーム23がフロアフレーム4に対して後方へ相対変位したときに,アンダフレーム23に押圧されて衝撃吸収するものである。このとき,後述するようにアンダフレーム23の後部は前下がりに傾斜されているので,クラッシュカン78を介してブラケット77に入力される前方衝突時の衝突荷重は,キャビン部1を上方へ変位させる外力となる。なお,フロアフレーム4のうち,ブラケット77よりも前方部分は,従来のフロアフレーム4よりも前方へ延設された延設部4aとなっており,アンダフレーム23はこの延設部4aに連結されている。
【0041】
図19は,図18の変形例を示すものである。すなわち,図19の例では,ブラケット77を別途設けることなく,フロアフレーム4を途中で下方に拡大することにより(拡大部を符号79で示す),アンダフレーム23の後端面に臨む対向面(クラッシュカン78の取付面)を構成したものである。図3,図4は,この図19の場合に対応したものとなっている。
【0042】
図20〜図22は,マウント部材37(38も同じ)の詳細を示すものである。左右一対のマウント部材37同士は,前述したように,エンジン1またはパワートレインPTの慣性主軸α上に配置されている。エンジン11の種類変更や,連結される変速機12の種類変更等によって,上記慣性主軸の位置が若干ずれる場合がある。このような場合は,マウント部材37の位置を,例えば図20の二点鎖線で示すように変更すればよく,これに応じて,エンジンマウントフレーム30の上端部の位置も二点鎖線で示すように変更すればよい(慣性主軸の変更に対して容易に対応可能)。
【0043】
図21,図22は,マウント部材37(38も同じ)の具体例を示すものである。ただし,図21の例では,フレーム部材26,31が,2枚の板金を接合して閉断面構造とすることにより構成されている。図21において,81はベースプレート36に固定されたブラケットであり,このブラケット81内に,ゴムブッシュ82が保持されている。ゴムブッシュ82は,2つのゴム部材82A,82Bを組み合わせてなる。2つのゴム部材82A,82Bの硬さは互いに相違されて,つまり振動減衰特性が互いに相違されていて,これにより幅広い範囲での振動が吸収される。ゴムブッシュ82は,ボルト83によってブラケット81に固定され,ゴムブッシュ82から一体的に伸びる支持脚部84が,取付ボルト85によってパワートレインPTに取付けられる。
【0044】
フレーム構造体Fを構成する複数のフレーム部材のうち後アッパフレーム22の剛性が,他のフレーム部材21,26,27,23の剛性よりも高くなるように設定されている(例えば大径にしたり,肉厚に設定する等)。これにより,後アッパフレーム22を介してのヒンジピラー5上端部への衝突荷重の伝達がより確実に確保される。また,フレーム構造体Fは,ペリメータフレームPF以外は,ラジエタシュラウド10と共にあらかじめキャビン部1に一体的に組み付けられる。そして,パワートレンPTやサスペンションアーム17,サスペンションダンパ18は,あらかじめペリメータフレームPFに搭載されて,このパワートレンPT等があらかじめ搭載されたペリメータフレームPFが,下方からフレーム構造体F,ラジエタシュラウド10,キャビン部1に対して組付られる。
【0045】
以上のような構成において,フレーム構造体Fは,しっかりとした構造となって,剛性特にねじり剛性に優れたものとなる。とりわけ,上下のアッパフレーム21,22と23とが前後一対のサスタワーフレーム26,27でもって連結された一種のトラス構造となり,走行中に路面からの荷重が集中して作用するサスペンション支持部13付近の剛性が十二分に確保されることになる。この一方,フレーム構造体Fは,その上下方向の寸法が前後方向ほぼ全長に渡って十分に確保され,しかも上方が大きく開放された構造である。したがって,パワートレンPTの搭載性に優れ,またそのメンテナンス等も容易である。勿論,前後方向から見たときに枠型構造とされた通常一般のラジエタシュラウド10を有するので,ラジエタRの搭載性という点でもなんら問題のないものとなっている。
【0046】
図23〜図26は,前方衝突時にフレーム構造体Fが変形する様子を順次示すものである。衝突前の図23の状態から,前方衝突されると,まずクラッシュカン33がつぶれ変形されて,衝撃吸収が行われる。軽衝突時には,図24に示すようにクラッシュカン33がつぶれ変形する程度であって,ラジエタシュラウド10等が若干変形される以外は,フレーム構造体Fの前部がわずかに変形される程度であり,フレーム構造体Fの後部やキャビン部1への影響は殆ど生じない。前方衝突時の荷重は,ラジエタシュラウド10の広い面積範囲でもって効果的に受け止められる。
【0047】
衝突荷重は,ラジエタシュラウド10から,アンダフレーム23を介してキャビン部1の下部つまりフロアフレーム4に伝達される。また同時に,衝突荷重は,アッパフレーム21,22を介してキャビン部2の上端部つまりヒンジピラー5の上端部に伝達されると共に,クラッシュカン支持フレーム31から後アッパフレーム22を介してヒンジピラー5の上端部に伝達される。このように,キャビン部1への衝突荷重の伝達が従来よりも効果的に行われて,衝突荷重によってキャビン部1が極力上方へと持ち上げられるように(パワートレインPTに対してキャビン部1が相対的に上方に変位するように)設定されている。
【0048】
重衝突時には,図24の状態からまず図25に示すように変形が生じる。この図25の状態では,衝突荷重によってパワートレインPTが直接後方へ押圧され始める直前の状態である。すなわち,フレーム構造体Fのうちサスペンション支持部13よりも前方部分は大きく変形するが,フレーム構造体Fのうちサスペンション支持部13よりも後方部分の変形は殆ど生じない。前方衝突時の衝突荷重によって,前アッパフレーム21の前端部が下方へ大きく曲げ変形され,アンダフレーム23の前端部も下方へ大きく曲げ変形される。これにより,パワートレインPTが下方へ変位される一方,サスペンション支持部13に対しては,衝突荷重が共に前下がりに傾斜した前アッパフレーム21とクラッシュカン支持フレーム31とを介して伝達されるので,上方へ向かうように衝突荷重が作用して(サスペンション支持部13の高さ位置は,図23,図24の場合よりも高い位置となる),キャビン部1が上方へ向けて変位される。このようにして,キャビン部1に対してパワートレインPTが相対的に大きく下方へ変位されて,車室内に向けての突出変形が抑制される。
【0049】
図26は,図25の状態から,衝突荷重によりパワートレンPTつまりそのマウント部材37が直接後方へ押圧されたときを示す。この図26の状態では,衝突荷重は前サスタワーフレーム26を介してヒンジピラー5の上端部へ伝達されると同時,エンジンマウントフレーム30を介してフロアフレーム4に伝達される。後アッパフレーム22は剛性が極めて高いために,ヒンジピラー5上端部に対して衝突荷重が確実に伝達されて,衝突荷重がキャビン部1の下端部のみならず上端部にも効果的に分散して受け止められる。また,アンダフレーム23を介してキャビン部1の下端部へ伝達される衝突荷重は,クラッシュカン78をつぶすことにより衝撃吸収が行われ,さらにクラッシュカン78が完全につぶれ変形した後は,アンダフレーム23の後部が前下がりに傾斜されているので,フロアフレーム4を後上方へと持ち上げる作用を行うこととなって,キャビン部1の上方への変位が促進される(図26の状態では,サスペンション支持部13の高さ位置が,図25の場合と同じか若干上方位置とされる)。
【0050】
図26の状態のように,衝突荷重が直接パワートレンPTを押圧するようになると,パワートレンPTをそれ以上下方へ落とすことは事実上難しいものとなる。しかしながら,前述のように,それぞれ前下がりに傾斜された前アッパフレーム21とクラッシュカン支持フレーム31とによるヒンジピラー5上端部への衝突荷重の効果的な伝達に加えて,後部が前下がりに傾斜されたアンダフレーム23を介してキャビン部1の下端部に伝達される衝突荷重によってキャビン部1が上方へと変位されることにより,相対的に,パワートレンPTがキャビン部1に対して下方位置となり,車室への突出変形防止の上でより好ましいものとなっている。
【0051】
以上に加えて,図26から明らかなように,車輪支持部材16の中心位置つまり前輪14の中心位置の高さ位置がサイドシル3の高さ位置とほぼ合致される。これにより,衝突荷重は,前輪14を介してサイドシル3へと効果的に伝達されて,キャビン部1のより広い部分で荷重を分散して受け止めることになり,キャビン部1の変形特に車室内への突出変形をより効果的に防止する上で好ましいものとなる。
【0052】
次に,図27以下を参照しつつ,補足説明を行う。まず,図27について説明すると,前サスタワーフレーム26の下端部(下クロスメンバ28との連結部位)の位置は,アンダフレーム23や後サスタワーフレーム27下端部よりも車幅方向外方側に位置されている。つまり,前サスタワーフレーム26は,後サスタワーフレーム27に比して,下方に向かうにつれて徐々に車幅方向外方側に向かうように傾斜設定されていて,後サスタワーフレーム27と協働してサスペンション支持部13を3次元的に支承することになる。これにより,前サスタワーフレーム26下端部の車幅方向位置を後サスタワーフレーム27下端部の車幅方向位置とほぼ同一位置とした場合に比して,サスペンション支持部13の支持剛性がより優れたものとされる。
【0053】
また,前サスタワーフレーム26下端部は,前輪14の最大舵角時に形成されるデッドスペースに位置するように設定される。すなわち,図27では,右前輪14が,その前端部側が車幅方向内側を向く左側への最大舵角位置となった状態が示される。このとき,車幅方向もっとも内側に位置する前輪14の最内方端位置をβとしたとき,前サスタワーフレーム26下端部は,最内方端位置βよりも車軸側(図27の場合は後方)でかつ最内方端位置βよりも車幅方向外方側に位置するように設定される。勿論,前サスタワーフレーム26下端部の位置は,最大舵角位置にある前輪14の内側側面よりも車幅方向内側に位置される。このように,前サスタワーフレーム26の下端部を極力車幅方向外方側に位置するように位置設定しつつ前輪14との干渉を避けて,前輪14の最大舵角を極力大きく確保することが可能となっている。なお,前サスタワーフレーム26の下端部あるいは後サスタワーフレーム27の下端部の位置を,前輪14を図27の場合とは反対方向に最大舵角操作したときに,前輪14の最内方端位置よりも車軸側で,かつこの最内方端位置よりも車幅方向外側に位置するように設定することもできる(図27とは反対側に前輪27を最大舵角操作したときに形成されるデッドスペースの有効利用)。
【0054】
図28〜図31は,フレーム構造体Fを構成する閉断面構造の各フレーム部材を,複数枚のパネル材を接合して構成する場合の一例を示すものである。すなわち,図28において,90はホイールエプロンであり,ホイールエプロン90は,従来のモノコック構造の車体前部と同様に,サスペンション支持部13から立体的に下方へ伸びるサスペンションタワー部13Aを有する。フレーム部材21,22,26,27,31は,ホイールエプロン90を有効に利用して,ホイールエプロン90に接合した断面略ハット状の板金を溶接接合することにより,ホイールエプロン90と協働して閉断面構造を構成するようになっている。図29は,後アッパフレーム22の断面構造を示すものであり,ホイールエプロン90の内面側に,互いに重ね合わされたそれぞれ断面略ハット状とされた2枚の板金21A,21Bを接合することにより構成されて,その剛性が十分に大きくなるように設定されている。
【0055】
前後のサスタワーフレーム26,27は,図28,図30に示すように,ホイールエプロン90のうちスペンションタワー部13Aの車幅方向外面側に1枚のハット状の板金を接合することにより構成されているが,サスペンション支持部13よりも下方部分は開断面とされている(下方部分も閉断面にしてもよい)。また,エンジンマウントフレーム30は,上記サスペンションタワー部13Aの車幅方向内面側に断面略ハット状の板金を接合することにより構成されている。さらに,図28,図31に示すように,前アッパフレーム21とクラッシュカン支持フレーム31,断面略ハット状の板金をホイールエプロン90に接合することにより構成されている。なお,板金を二重に接合しているのはもっとも剛性が要求される後アッパフレーム22のみとされている。なお,上記した以外の他のフレーム部材,例えば上下のクロスメンバ28,29,補強フレーム35等は,パイプ材により構成してもよいが,それぞれ例えば断面略ハット状とされた2枚の細長い板金同士を図30や図31に示すように接合して構成するようにしてもよい。
【0056】
図32〜図33は,2枚の板金を利用して,複数のフレーム部材が一体化されたユニット体を構成する場合を示す。すなわち,図33に示すように,フレーム部材21,22,26,27,30,31のユニット体S1が,インナパネルP1とアウタパネルP2とを接合することにより構成されて,このユニット体S1をホイールエプロン90が接合される(図34参照)。後アッパフレーム22の剛性を他のフレーム部材よりも高くするには,後アッパフレーム22部分のみに例えばレインフォースメントを介在させるようにすればよい。上クロスメンバ29と左右一対の補強フレーム35は,アッパパネルとロアパネルとを接合することにより1つのユニット体S2として構成される。
【0057】
以上実施形態について説明したが,本発明は,実施形態に限定されるものではなく,特許請求の範囲の記載された範囲において適宜の変更が可能である。勿論,本発明の目的は,明記されたものに限らず,実質的に好ましいあるいは利点として表現されたものを提供することをも暗黙的に含むものである。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の一実施形態を示すもので,車体前部を示す斜視図。
【図2】図1に示すフレーム構造体の斜視図。
【図3】図1の車体前部を左側から見た側面図。
【図4】図1を下方から見た図。
【図5】ラジエタシュラウドとペリメータフレームとの連結例を示す分解斜視図。
【図6】図5のボルト,ナット部分での締結部位を示す側面断面図。
【図7】後サスタワーフレームとアンダフレームとの連結例を示す斜視図。
【図8】後サスタワーフレームとアンダフレームとの連結例を示す側面断面図。
【図9】アンダフレームと下クロスメンバと前サスタワーフレームとの連結例を示す分解斜視図。
【図10】図9のボルト,ナット部分での締結部位を示す側面断面図。
【図11】後アッパフレームとヒンジピラーとの連結例を示す分解斜視図。
【図12】後アッパフレームとヒンジピラーとの連結例を示す分解側面断面図。
【図13】後アッパフレームとヒンジピラーとの連結例を示す側断面図。
【図14】図11〜図13の変形例を示すもので,図13に対応した側面断面図。
【図15】フレーム部材同士の連結例を示す側面図。
【図16】フレーム部材同士の別の連結例を示す側面図。
【図17】フレーム部材同士のさらに別の連結例を示す側面図。
【図18】アンダフレームとフロアフレームとの連結例を示す側面断面図。
【図19】アンダフレームとフロアフレームとの別の連結例を示す側面断面図。
【図20】慣性主軸とマウント部材との位置関係を示す斜視図。
【図21】マウント部材の一例を示す要部斜視図。
【図22】図21のA−A線相当断面図。
【図23】前方衝突時のフレーム構造体の変形の様子を示すもので,衝突前の状態を示す側面図。
【図24】前方衝突時のフレーム構造体の変形の様子を示すもので,衝突初期の状態を示す側面図。
【図25】前方衝突時のフレーム構造体の変形の様子を示すもので,図24の状態からさらに変形が進行した状態を示す側面図。
【図26】前方衝突時のフレーム構造体の変形の様子を示すもので,図25の状態からさらに衝突が進行した状態を示す側面図。
【図27】前サスタワーフレームの下端部の位置と最大舵角位置にある前輪との関係を示す下面図。
【図28】フレーム部材を複数枚の板金を接合して構成する場合の一例を示す要部斜視図。
【図29】図28のX29−X29線相当断面図。
【図30】図28のX30−X30線相当断面図。
【図31】図28のX31−X31線相当断面図。
【図32】フレーム部材を2枚の板金を接合して構成する場合の別の例を示す要部斜視図。
【図33】図33に示すユニット体S1の分解斜視図。
【図34】図32のX34−X34線相当断面図。
【符号の説明】
【0059】
1 キャビン部
2 ダッシュパネル
3 サイドシル
4 フロアフレーム
4a 前方への延設部
5 ヒンジピラー
10 ラジエタシュラウド
11 エンジン
12 変速機
13 サスペンション支持部
14 前輪
15 車軸
16 車輪支持部材
17 サスペンションアーム
18 サスペンションダンパ
21 前アッパフレーム
22 後アッパフレーム
23 アンダフレーム
23a アンダフレームの傾斜部
24 前連結フレーム部
25 後連結フレーム部
26 前サスタワーフレーム
27 後サスタワーフレーム
28 下クロスメンバ
29 上クロスメンバ
30 エンジンマウントフレーム
31 クラッシュカン支持フレーム
32 補強部材
32B 補強部材
33 クラッシュカン
34 バンパレインフォースメント
35 補強フレーム
36 ベースプレート(マウント部材)
37 マウント部材(左右一対)
38 マウント部材(ペリメータフレーム)
78 クラッシュカン(衝撃吸収部材)
F フレーム構造体
PF ペリメータフレーム
PT パワートレイン
R ラジエタ
S1,S2 フレーム部材のユニット体


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジエタシュラウドの後方にモノコック構造とされたキャビン部が配設されて,該ラジエタシュラウドと該キャビン部との間の空間がパワートレンが配設されるエンジンルームとされた自動車の前部車体構造であって,
前記ラジエタシュラウドとキャビン部との間に,サスペンションダンパの上端部が取付けられる左右一対のサスペンション支持部が配設され,
前記各サスペンション支持部が,前後方向に伸びる左右一対の後アッパフレームを介して前記キャビン部の前端部に構成されている左右のヒンジピラーの上端部に連結され,
前後方向に伸びて,後端部が前記キャビン部の前下端部に連結された左右一対のアンダフレームが設けられ,
前記各サスペンション支持部から前下がりに延設され、下端部が前記アンダフレームに連結された左右一対の前サスタワーフレームが設けられ,
前記各前サスタワーフレームに,パワートレンが取付けられる左右一対のマウント部が設けられ,
前記各マウント部から後下がりに傾斜して伸びて,下端部が前記アンダフレームに連結された左右一対のエンジンマウントフレームが設けられている,
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項2】
請求項1において,
前記左右のサスペンション支持部同士が,車幅方向に伸びる上クロスメンバによって連結され,
前記左右の前サスタワーフレームの下端部同士が,車幅方向に伸びる下クロスメンバによって連結され,
前後方向から見たときに,前記左右の前サスタワーフレームと上下のクロスメンバとによって略矩形の枠形形状が構成されている,
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項3】
請求項1または請求項2において,
前記ラジエタシュラウドは,前後方向から見たときに略矩形の枠形形状とされ,
前記ラジエタシュラウドの左右上端部が,左右一対の前アッパフレームを介して前記サスペンション支持部に連結され,
前記左右一対のアンダフレームの前端部が,前記ラジエタシュラウドの左右下端部に連結されている,
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項において,
前記サスペンション支持部から後下がりに傾斜して伸びる後サスタワーフレームがさらに設けられ、
前記後サスタワーフレームの下端部が前記アンダフレームに連結され,
前記エンジンマウントフレームの下端部が,前記後サスタワーフレームの下端部に連結されて,該後サスタワーフレームを介して前記アンダフレームに連結されている,
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項において,
前記前サスタワーフレームの下端部の位置が,最大舵角時における前輪の車幅方向最内端位置に対して,該前輪の車軸側寄りでかつ車幅方向外方側となるように位置設定されている,ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項において,
前記アンダフレームは,上下方向から見たときに枠形構造とされたペリメータフレームのうち前後方向に伸びるフレーム部によって構成されている,ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において,
前記パワートレンは,エンジンの出力軸が車幅方向に伸びる横置きとされ,
前記左右一対のマウント部は,エンジンの慣性主軸上に位置するように設定されている,
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項8】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項において,
前記パワートレンは,エンジンの出力軸が車幅方向に伸びる横置きとされ,
前記左右一対のマウント部は,前記パワートレンの慣性主軸上に位置するように設定されている,
ことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項において,
前記後アッパフレームと前サスタワーフレームとエンジンマウントフレームとがそれぞれ,複数の部材を結合することにより閉断面構造として構成されている,ことを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【公開番号】特開2006−56395(P2006−56395A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−240568(P2004−240568)
【出願日】平成16年8月20日(2004.8.20)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】