説明

自動車の前部車体構造

【課題】車両の前面衝突時にフロント側からの衝突荷重を上記ヒンジピラーへ効率よく伝達して、衝突荷重をヒンジピラーへ分散させつつ、キャビンの前倒れの動きを抑制することができる自動車の前部車体構造の提供を目的とする。
【解決手段】フロントサイドフレーム35のサスペンションタワー配設位置αから上方かつ後方に向けて側面視で略直線的に延びヒンジピラー1の上部に接続される補助フレーム40を備えたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ヒンジピラーと、ダッシュパネルと、サスペンションタワーと、フロントサイドフレームと、を備えたような自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上述例の自動車の前部車体構造としては、例えば、特許文献1に開示された構造がある。
すなわち、図12に示すように、左右一対のヒンジピラー91,91(但し、図12では車両右側の構成のみを示す)と、これら左右の両ヒンジピラー91,91に接合されてエンジンルーム92とその後方の車室93とを仕切るダッシュパネルと、このダッシュパネルから車両前方に離間した位置に配設されたサスペンションタワー94と、車体前方から後方に向けて延び上述のサスペンションタワー94に接続されると共に、後端が下方に湾曲してフロアフレームの前部に接続されたフロントサイドフレーム95と、を備えた自動車の前部車体構造において、フロントサイドフレーム95のサスペンションタワー配設位置96からサスペンションタワー94に沿って斜め上方かつ車幅方向外方に向けて延び、フロントピラー97前方のエプロンアッパメンバ98に渡って補助フレームとしてのガセット99を取付けた構造である。
なお、図12において、100はカウル、101はカウルレインフォースメント、102はバルクヘッド、103はホイールアーチである。
【0003】
この従来構造において、車両の前面衝突時に車体に入力される衝突荷重が、図12に点線矢印で示すように、フロントサイドフレーム95からそのサスペンションタワー配設位置96を介してガセット99に伝達された後に、このガセット99の取付け構造により該荷重は一旦、車幅方向外方に伝達され、その後、エプロンアッパメンバ98を介して、フロントピラー97およびヒンジピラー91に伝達されるので、衝突荷重の伝達効率が悪い。
【0004】
車両の前面衝突時には車両は前のめに変位するが、上述のように衝突荷重の伝達効率が悪いので、キャビンの前倒れの動きを充分に抑制することができない問題点があった。
【特許文献1】特開2003−182633号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、この発明は、フロントサイドフレームのサスペンションタワー配設位置から上方かつ後方に向けて側面視で略直線的に延びヒンジピラー上部に接続される補助フレームを設けることで、車両の前面衝突時にフロント側からの衝突荷重を上記ヒンジピラーへ効率よく伝達して、衝突荷重をヒンジピラーへ分散させつつ、キャビンの前倒れの動きを抑制することができる自動車の前部車体構造の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明による自動車の前部車体構造は、左右一対のヒンジピラーと、左右の両ヒンジピラーに接合されてエンジンルームとその後方の車室とを仕切るダッシュパネルと、該ダッシュパネルから前方に離間した位置に配設されるサスペンションタワーと、車体前方から後方に向けて延び上記サスペンションタワーに接続されると共に、後端が下方に湾曲してフロアフレームの前部に接続されるフロントサイドフレームと、を備えた自動車の前部車体構造であって、上記フロントサイドフレームのサスペンションタワー配設位置から上方かつ後方に向けて側面視で略直線的に延び上記ヒンジピラーの上部に接続される補助フレームを備えたものである。
【0007】
上記構成によれば、車両の前面衝突時には、フロント側からの衝突荷重は、側面視で略直線的に延びる上述の補助フレームを介してヒンジピラー上部にダイレクトに効率よく伝達され、該衝突荷重をヒンジピラーおよびフロントピラーに分散させつつ、キャビン(cabin、運転者室)の前倒れの動き所謂前のめりを抑制することができる。
【0008】
この発明の一実施態様においては、上記ダッシュパネルと上記サスペンションタワーとの間にカウルボックスを備えた構造であって、上記補助フレームは上記カウルボックスの直下部を通って上記ヒンジピラーの上部に接続されたものである。
【0009】
上記構成によれば、補助フレームがカウルボックスの直下部を通ってヒンジピラー上部に接続されているので、カウルボックスに影響を及ぼすことなく、補助フレームのヒンジピラーへの接続位置をその上部と成すことができ、この結果、キャビンの前倒れの動きをより一層効率的に抑制することができる。
【0010】
この発明の一実施態様においては、上記補助フレームの上面部と、上記カウルボックスの下面部と、を接合させたものである。
上記構成によれば、補助フレームとカウルボックスとの接合構造により、補助フレームを有効利用してカウルボックスサイド部の剛性向上を図ることができる。
【0011】
この発明の一実施態様においては、上記補助フレームのヒンジピラー接続部と略同一高さ位置に、フロントドアのインパクトバーの前端部を配置させたものである。
上記構成によれば、フロントドア内部に存在する既存のインパクトバーを有効利用して効率的な荷重の伝達、分散を行なうことができる。
【0012】
この発明の一実施態様においては、フロントドアのベルトライン部にベルトラインレインフォースメントを備え,インパクトバーの前端部をベルトライン部より下方に配置させる構造であって、上記補助フレームのヒンジピラー接続部を、上記ベルトライン部と上記インパクトバー前端部との間の高さ位置に配置させたものである。
【0013】
上記構成によれば、ベルトライン部とインパクトバー前端部との間の高さ位置に対応すべく上記補助フレームをヒンジピラーに接続したので、前面衝突荷重は補助フレームおよびヒンジピラーを介して上述のベルトラインレインフォースメントとインパクトバーとの両者に伝達される。
【0014】
この結果、インパクトバーのレイアウト自由度(側突に対応したインパクトバー前端部の適切なレイアウト位置の自由度)を拡大しつつ、効率的な前面衝突荷重の伝達を行なうことができる。
【0015】
この発明の一実施態様においては、フロントドアはドアヒンジを介して上記ヒンジピラーに開閉可能に取付けられ、上記補助フレームのヒンジピラー接続部は、上記ドアヒンジと対応する高さ位置に配置させたものである。
【0016】
上記構成によれば、次の如き効果がある。
すなわち、フロントドアはドアヒンジを介してヒンジピラーに接続されており、この部分に補助フレームのヒンジピラー接続部を設けたので、前面衝突時の荷重をヒンジピラーからドアヒンジを介してインパクトバー、ベルトラインレインフォースメントに確実に伝達することができる。
【発明の効果】
【0017】
この発明によれば、フロントサイドフレームのサスペンションタワー配設位置から上方かつ後方に向けて側面視で略直線的に延びヒンジピラー上部に接続される補助フレームを設けたので、車両の前面衝突時にフロント側からの衝突荷重を上記ヒンジピラーへ効率よく伝達して、衝突荷重をヒンジピラーへ分散させつつ、キャビンの前倒れの動きを抑制することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
前面衝突時の荷重をヒンジピラーへ分散させながら、キャビンの前倒れ(前のめり)の動きを抑制するという目的を、左右一対のヒンジピラーと、左右の両ヒンジピラーに接合されてエンジンルームとその後方の車室とを仕切るダッシュパネルと、該ダッシュパネルから前方に離間した位置に配設されるサスペンションタワーと、車体前方から後方に向けて延び上記サスペンションタワーに接続されると共に、後端が下方に湾曲してフロアフレームの前部に接続されるフロントサイドフレームと、を備えた自動車の前部車体構造において、上記フロントサイドフレームのサスペンションタワー配設位置から上方かつ後方に向けて側面視で略直線的に延び上記ヒンジピラーの上部に接続する補助フレームを設けるという構成にて実現した。
【実施例】
【0019】
この発明の一実施例を以下図面に基づいて詳述する。
図1は自動車の前部車体構造を示す側面図(但し、車幅方向の中間部分から車幅方向外方を見た状態で示す側面図)、図2は図1の要部拡大図、図3は図1の要部の斜視図、図4は図2の構造を斜め上方から見た状態で示す斜視図、図5は自動車の前方車体構造をダッシュロアパネルの図示を省略し、かつ車両後方から見た状態で示す斜視図、図6は図4のA−A線矢視断面図、図7は図4のB−B線矢視断面図、図8は図4のC−C線矢視断面図である。
【0020】
図1、図2に示すように左右一対のヒンジピラー1,1(但し、図面では車両右側のヒンジピラーのみを示す)を設けている。このヒンジピラー1はヒンジピラーインナ2とヒンジピラーアウタとを接合して、車両の上下方向に延びるピラー閉断面を備えた車体剛性部材である。
【0021】
上述のヒンジピラー1の上部には、前部が低く、後部が高くなるようにフロントピラー3を接合固定する一方、左右の両ヒンジピラー1,1間、詳しくは左右の両ヒンジピラーインナ2,2間にはダッシュロアパネル4を接合固定して、このダッシュロアパネル4でエンジンルームとその後方の車室とを前後方向に仕切っている。
【0022】
また、上述のダッシュロアパネル4の下部後端部には、フロアパネル5を接合固定している。このフロアパネル5は後方に向けて略水平に延び、車室の底面を構成するパネルであって、図5に示すように、このフロアパネル5の車幅方向中央部には、車室内に突出し、かつ前後方向に延びるトンネル部6を一体または一体的に形成している。このトンネル部6は車体剛性の中心となるものである。
【0023】
図5に示すように、トンネル部6の上部には該トンネル部6に沿って前後方向に延びるトンネルメンバ7を接合固定し、このトンネルメンバ7と上述のトンネル部6の左右上端コーナ部との間には、前後方向に延びる2つの閉断面を形成して、車体剛性の向上を図るように構成している。
【0024】
また、図5に示すように、ダッシュロアパネル4の車室側の面には、車幅方向に延びる断面ハット形状のダッシュクロスメンバ8を接合固定し、このダッシュクロスメンバ8とダッシュロアパネル4との間に、車幅方向に延びるダッシュクロス閉断面を形成して、前部車体剛性の向上を図るように構成している。
さらに、図5に示すように、上述のダッシュクロスメンバ8の車室側の面と、上述のトンネルメンバ7との間を、左右のトンネルメンバフロント9,9で前後方向に連結している。
【0025】
一方、図5に示すように、上述のフロアパネル5の左右両サイド部(但し、図面では右側の構成のみを示す)には、車両の前後方向に延びるサイドシル10,10を設けている。このサイドシル10はサイドシルインナ11とサイドシルアウタとを接合して、車両の前後方向に延びるサイドシル閉断面を備えた車体剛性部材である。
【0026】
図1に示すように、上述のサイドシル10とルーフサイドレールとの間を上下方向に接続するセンタピラー12を設けている。このセンタピラー12はセンタピラーインナ13とセンタピラーアウタとを接合して、車両の上下方向に延びるセンタピラー閉断面を備えた車体剛性部材である。
【0027】
そして、同図に示すように、ヒンジピラー1、フロントピラー3、サイドシル10、センタピラー12で囲繞された前席乗員の昇降口としてのドア開口部14を形成し、このドア開口部14をフロントドア15で開閉すべく構成している。
【0028】
図2に示すように、上述のフロントドア15は、その前端部が上下一対のドアヒンジ16,16を介してヒンジピラー1に開閉可能に連結されたものである。また、このフロントドア15はドアインナパネル17と、ドアアウタパネルとを接合して構成されると共に、図1、図2、図5に示すように、ドア内部のベルトライン部BLには前後方向に延びるベルトラインレインフォースメント18が設けられている。
【0029】
ここで、上述のドアヒンジ16は、ヒンジピラーアウタに取付けられるボディ側のヒンジブラケットと、ドアインナパネル17の前端部に取付けられるドア側のヒンジブラケットと、これら両ヒンジブラケットを枢着するヒンジピンと、を備えている。
さらに、図1、図2、図5に示すようにドアインナパネル17とドアアウタパネルとの間、つまりドア内部には前高後低状に傾斜して前後方向に延びる上下のインパクトバー19,20が設けられている。
【0030】
上記のインパクトバー19は主としてドアアウタパネルの張り剛性を確保するためのものであり、下側のインパクトバー20は主として側面衝突時におけるフロントドア15の車室内への侵入を抑制するためのものである。また、上側のインパクトバー19の前端部は、ベルトライン部BLおよびベルトラインレインフォースメント18よりも下方に配置されている。なお、21はドアインナパネル17に形成されたドアモジュール配設用の開口部であり、22はドアインナパネル17に形成されたスピーカ配設用の開口部である。
【0031】
ところで、図2に示すように、上述のダッシュロアパネル4の上端折曲部には、ダッシュアッパパネル23を接合固定し、このダッシュアッパパネル23の上部および前部にはカウルパネル24を接合固定して、このカウルパネル24とダッシュアッパパネル23との間には車幅方向に延びるカウル閉断面25を形成している。
【0032】
また、同図に示すように、ダッシュロアパネル4上端折曲部と、ダッシュアッパパネル23の下端部と、カウルパネル24の下端部との三者の接合部位から前方に延びるようにカウルフロントメンバ26を設けると共に、このカウルフロントメンバ26の前側縦壁部との間に、車幅方向に延びる閉断面27を形成すべく該カウルフロントメンバ26の前部上側にはカウルフロントクロスメンバ28を取付けている。
そして、上述のダッシュアッパパネル23と、カウルパネル24と、カウルフロントメンバ26と、カウルフロントクロスメンバ28と、の四者により車幅方向に延びるオープンボックスタイプのカウルボックス29を形成している。
【0033】
図2に示すように、上述のダッシュロアパネル4から前方に離間した位置にはサスペンションタワー30(以下単にサスタワーと略記する)を配設している。
【0034】
このサスタワー30は、図4のA−A線断面を図6に示し、また図4のC−C線断面を図8に示すように、板厚が大きい部材にて形成されたサスタワートップ30aと、タワー部およびホイールアーチを形成するエプロンパネル30bとを一体的に接合固定して構成されたものである。
【0035】
図2に示すように、上述のカウルボックス29は、サスタワー30とダッシュロアパネル4との間に位置するものであり、また図3に示すように上述のカウルフロントメンバ26およびカウルフロントクロスメンバ28の車幅方向両サイド部は、サスタワー30に接続されている。
【0036】
さらに、図4、図8に示すように、上述のダッシュアッパパネル23の車幅方向両サイドには、前方に延びる延出部23aを一体形成し、この延出部23aを図8に示すようにサスタワートップ30aの後面部にスポット溶接手段などにより接合固定している。
【0037】
上述のサスタワー30の上部車外側には、図1〜図4に示すように、前後方向に延びるエプロンレインフォースメント31が設けられている。
このエプロンレインフォースメント31は、図4のA−A線断面を図6に示し、また図4のB−B線断面を図7に示すように、エプロンレインアウタ32と、エプロンレインインナアッパ33と、エプロンレインインナロア34とを備えている。
【0038】
また、上述のサスタワー30の下部車内側には、図1〜図4に示すように、フロントサイドフレーム35が接続されている。
このフロントサイドフレーム35はエンジンルームの両サイド部において車体前方から後方に向けて延び上述のサスタワー30に接続されると共に、後端35a(図2参照)が下方に湾曲してフロアフレーム36の前部に接続された車体剛性部材である。
【0039】
この実施例では、図2に示すように、フロントサイドフレーム35の後端35a側と、フロアフレーム36の前端36a側とが、所定長さLだけオーバラップするように構成されている。
【0040】
また、上述のフロントサイドフレーム35はA−A断面位置においては、図6に示すように、その上下の接合フランジ部35b,35cがエプロンパネル30bに接合固定されて、前後方向に延びる閉断面37を形成している。
【0041】
さらに、上述のフロントサイドフレーム35はB−B断面位置においては、図7に示すように、下部フレーム35dと上部フレーム35eとの2部材から成り、これら両者35d,35e間に上記閉断面37(図6参照)と連結する閉断面38を形成した状態で、ダッシュロアパネル4の下部に接合固定されている。
【0042】
また、図2、図7に示すように、上述のフロアフレーム36は、ダッシュロアパネル4の下部とフロアパネル5の下部とに一体的に接合固定された車体剛性部材である。
しかも、図2に示すように、フロントサイドフレーム35のサスタワー配設位置αから上方かつ後方に向けて側面視で略直線的に延び前述のヒンジピラー1の上部に接続される補助フレーム40を設けている。
【0043】
この補助フレーム40は、図6、図7、図8に断面図で示すように断面略コ字状の板金部材にて形成されると共に、図2に示すように、フロントサイドフレーム35に接合される下端フランジ40aと、ヒンジピラー1におけるヒンジピラーインナ2に接合される上端フランジ40bと、該補助フレーム40の長手方向中間部の上下に一体形成された中間上部フランジ40cおよび中間下部フランジ40dと、を備えている。
【0044】
また、上述の補助フレーム40は、図6、図7、図8に示すように対応する部材としてのエプロンパネル30bに接合されて、補助フレーム40とエプロンパネル30bとの間には、前後方向に連続する閉断面41が形成されている。
【0045】
すなわち、図6に示すA−A線矢視断面位置においては、エプロンパネル30bの車幅方向内方の面に、中間上部フランジ40c、中間下部フランジ40dを接合して、該エプロンパネル30bと補助フレーム40との間に閉断面41を形成している。
【0046】
図7に示すB−B線矢視断面位置においては、エプロンパネル30bの上部車外側に門形部30cを一体形成し、この門形部30cに中間上部フランジ40c、中間下部フランジ40dを接合して、該エプロンパネル30bにおける門形部30cと補助フレーム40との間に閉断面41を形成している。
【0047】
図7に示すようにエプロンレインアウタ32の下部接合フランジ32aと、エプロンレインインナロア34の下部と、門形部30cの車外側下部との三者を、所謂3枚打ち構造によりスポット溶接にて接合固定している。
【0048】
また、図7に示すように、ダッシュアッパパネル23の車外側端部23bと、エプロンレインインナロア34の上部と、門形部30cの車外側の上側コーナ部との三者を、所謂3枚打ち構造によりスポット溶接にて接合固定している。
【0049】
さらに、図7に示すように、エプロンレインインナアッパ33の下部接合フランジ33aには、開口部42(または切欠き部)を形成し、ダッシュアッパパネル23の車外側端部23bと、補助フレーム40の中間上部フランジ40cと、門形部30cの上面車外側部との三者を、所謂3枚打ち構造によりスポット溶接にて接合固定している。
【0050】
加えて、図7に示すように、門形部30cの上面車内側部には、開口部43(または切欠き部)を形成し、エプロンレインインナアッパ33の下部接合フランジ33aと、ダッシュアッパパネル23の車外側端部23bと、補助フレーム40の中間上部フランジ40cとの三者を、所謂3枚打ち構造によりスポット溶接にて接合固定している。
【0051】
図8に示すC−C線矢視断面位置においては、エプロンパネル30bのリヤ側の面に、中間上部フランジ40c、中間下部フランジ40dを接合して、該エプロンパネル30bと補助フレーム40との間に閉断面41を形成している。
この場合、上述の中間上部フランジ40cと、ダッシュアッパパネル23と、エプロンパネル30bとの三者が、図8に示すように所謂3枚打ち構造によりスポット溶接にて接合固定される一方で、同図に示すように、ダッシュアッパパネル23の延出部23aは、サスタワートップ30aの後面部に所謂2枚打ち構造によりスポット溶接にて接合固定されている。
【0052】
上述の補助フレーム40は、図5で示したように、カウルボックス29の直下部を通って上述のヒンジピラー1におけるヒンジピラーインナ2の上部に接続されたものであって、図8で示すように、補助フレーム40の上面部と、カウルボックス29の下面部(詳しくはカウルボックス29を形成するダッシュアッパパネル23の下面部)と、を接合させたものである。
【0053】
しかも、図2に示すように、補助フレーム40のヒンジピラー接続部β(具体的には補助フレーム40の上端フランジ40bがヒンジピラーインナ2と接続される部位)は、前述のフロントドア15のインパクトバー19の前端部が配置され、かつドアヒンジ16が配置される高さと略同一高さ位置に配置されている。
【0054】
また、図2に示すように、インパクトバー19上方のベルトライン部BLにはベルトラインレインフォースメント18が配設されており、上述の補助フレーム40のヒンジピラー接続部βは、ベルトラインレインフォースメント18とインパクトバー19との間の高さ位置に配置されればよい。
【0055】
なお、図中、矢印Fは車両前方を示し、矢印Rは車両後方を示し、矢印INは車両内方を示し、矢印OUTは車両後方を示し、矢印UPは車両上方を示す。
【0056】
このように構成した自動車の前部車体構造において、車両が前面衝突すると、そのフロント側からの衝突荷重は、フロントサイドフレーム35に入力され、このフロントサイドフレーム35に入力された衝突荷重の一方は、その後端35aからフロアフレーム36に伝達される一方、上記フロントサイドフレーム35に入力された衝突荷重の他方は、そのサスタワー配設位置αから側面視で略直線的に延びる上述の補助フレーム40を介してヒンジピラー1の上部にダイレクト、かつ効率よく伝達されて、該衝突荷重がヒンジピラー1およびフロントピラー3に分散すると共に、キャビンの前倒れの動き、所謂前のめりを抑制することができる。
【0057】
このように、上記実施例の自動車の前部車体構造は、左右一対のヒンジピラー1,1と、左右の両ヒンジピラー1,1に接合されてエンジンルームとその後方の車室とを仕切るダッシュロアパネル4と、該ダッシュロアパネル4から前方に離間した位置に配設されるサスタワー30と、車体前方から後方に向けて延び上記サスタワー30に接続されると共に、後端35aが下方に湾曲してフロアフレーム36の前部に接続されるフロントサイドフレーム35と、を備えた自動車の前部車体構造であって、上記フロントサイドフレーム35のサスタワー配設位置αから上方かつ後方に向けて側面視で略直線的に延び上記ヒンジピラー1の上部に接続される補助フレーム40を備えたものである(図2参照)。
【0058】
この構成によれば、車両の前面衝突時には、フロント側からの衝突荷重は、側面視で略直線的に延びる上述の補助フレーム40を介してヒンジピラー1上部にダイレクトに効率よく伝達され、該衝突荷重をヒンジピラー1およびフロントピラー3に分散させつつ、キャビン(cabin、運転者室)の前倒れの動き所謂前のめりを抑制することができる。
【0059】
また、上記ダッシュロアパネル4と上記サスタワー30との間にカウルボックス29を備えた構造であって、上記補助フレーム40は上記カウルボックス29の直下部を通って上記ヒンジピラー1の上部に接続されたものである(図2参照)。
【0060】
上記構成によれば、補助フレーム40がカウルボックス29の直下部を通ってヒンジピラー1上部に接続されているので、カウルボックス29に影響を及ぼすことなく、補助フレーム40のヒンジピラー1への接続位置をその上部(ヒンジピラー上部)と成すことができ、この結果、キャビンの前倒れの動きをより一層効率的に抑制することができる。
さらに、上記補助フレーム40の上面部と、上記カウルボックス29の下面部と、を接合させたものである(図8参照)。
【0061】
この構成によれば、補助フレーム40とカウルボックス29との接合構造により、補助フレーム40を有効利用してカウルボックス29サイド部の剛性向上を図ることができる。
【0062】
加えて、上記補助フレーム40のヒンジピラー接続部βと略同一高さ位置に、フロントドア15のインパクトバー19の前端部を配置させたものである(図2参照)。
【0063】
この構成によれば、フロントドア15内部に存在する既存のインパクトバー19を有効利用して効率的な荷重の伝達、分散を行うことができる。
【0064】
また、フロントドア15のベルトライン部BLにベルトラインレインフォースメント18を備え、インパクトバー19の前端部をベルトライン部BLより下方に配置させる構造であって、上記補助フレーム40のヒンジピラー接続部βを、上記ベルトライン部BLと上記インパクトバー19前端部との間の高さ位置に配置させたものである(図2参照)。
【0065】
この構成によれば、ベルトライン部BLとインパクトバー19前端部との間の高さ位置に対応すべく上記補助フレーム40をヒンジピラー1に接続したので、前面衝突荷重は補助フレーム40およびヒンジピラー1を介して上述のベルトレインフォースメント18とインパクトバー19との両者に伝達される。
【0066】
この結果、インパクトバー19のレイアウト自由度(側突に対応したインパクトバー19前端部の適切なレイアウト位置の自由度)を拡大しつつ、効率的な前面衝突荷重の伝達を行なうことができる。
【0067】
さらに、フロントドア15はドアヒンジ16を介して上記ヒンジピラー1に開閉可能に取付けられ、上記補助フレーム40のヒンジピラー接続部βは、上記ドアヒンジ16と対応する高さ位置に配置させたものである(図2参照)。
【0068】
上記構成によれば、次の如き効果がある。
すなわち、フロントドア15はドアヒンジ16を介してヒンジピラー1に接続されており、この部分に補助フレーム40のヒンジピラー接続部βを設けたので、前面衝突時の荷重をヒンジピラー1からドアヒンジ16を介してインパクトバー19、ベルトラインレインフォースメント18に確実に伝達することができる。
【0069】
図9〜図11は自動車の前部車体構造の他の実施例を示し、図9はA−A線断面の図6に相当し、図10はB−B線断面の図7に相当し、図11はC−C線断面の図8に相当するものである。
【0070】
先の実施例においては、補助フレーム40を、断面略コ字状の板金部材にて形成したが、図9〜図11に示すこの実施例では、補助フレーム50を、角パイプまたはハイドロフォーム成形部材にて構成し、前後方向に連続する独立した閉断面51を、該フレーム50のみにより形成したものである。
【0071】
そして、この補助フレーム50の複数箇所には、該補助フレーム50をフロントサイドフレーム35、サスタワー30、カウルボックス29およびヒンジピラー1に接合するために予めフランジ52〜57および図示しない他のフランジが溶接固定されている。
【0072】
図9に示すように、A−A線断面に相当する位置においては、上下のフランジ52,53を用いて補助フレーム50をエプロンパネル30bの車幅方向内方の面に取付けている。
【0073】
図10に示すように、B−B線断面に相当する位置においては、上下のフランジ54,55を用いて補助フレーム50をエプロンパネル30bの門形部30cに取付けている。
【0074】
図11に示すように、C−C線断面に相当する位置においては、上下のフランジ56,57を用いて補助フレーム50をエプロンパネル30bのリヤ側の面と、カウルボックス29の下面とに取付けている。
【0075】
このように、フレーム単独で閉断面51を備えた補助フレーム50を、図2で示したように、フロントサイドフレーム35のサスタワー配設位置αから上方かつ後方に向けて側面視で略直線的に延ばして上記ヒンジピラー1の上部に接続すると、該補助フレーム50それ自体の剛性が高いので、フロント側からの衝突荷重の伝達効率がさらに向上し、キャビンの前倒れの動きをより一層確実に抑制することができる。
【0076】
なお、図9〜図11で示した実施例においても、その他の構成、作用、効果については先の実施例と同様であるから、図9〜図11において前図と同一の部分には同一符号を付して、その詳しい説明を省略する。
【0077】
この発明と、上述の実施例との対応において、
この発明のダッシュパネルは、実施例のダッシュロアパネル4に対応し、
以下同様に、
サスペンションタワーは、サスタワー30に対応するも、
この発明は、上述の実施例の構成のみに限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明の自動車の前部車体構造を示す側面図
【図2】図1の要部拡大図
【図3】図1の要部の斜視図
【図4】カウルフロントメンバおよびカウルフロントクロスメンバを取外して図2の構造を斜め上方から見た状態で示す斜視図
【図5】ダッシュロアパネルを取外して前部車体構造を後方から見た状態で示す斜視図
【図6】図4のA−A線矢視断面図
【図7】図4のB−B線矢視断面図
【図8】図4のC−C線矢視断面図
【図9】自動車の前部車体構造の他の実施例のA−A線断面相当位置の正面図
【図10】B−B線断面相当位置の正面図
【図11】C−C線断面相当位置の側面図
【図12】従来の自動車の前部車体構造を示す要部平面図
【符号の説明】
【0079】
1…ヒンジピラー
4…ダッシュロアパネル(ダッシュパネル)
15…フロントドア
16…ドアヒンジ
18…ベルトラインレインフォースメント
19…インパクトバー
29…カウルボックス
30…サスタワー(サスペンションタワー)
35…フロントサイドフレーム
35…フロアフレーム
40,50…補助フレーム
α…サスタワー配設位置(サスペンションタワー配設位置)
β…ヒンジピラー接続部
BL…ベルトライン部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のヒンジピラーと、左右の両ヒンジピラーに接合されてエンジンルームとその後方の車室とを仕切るダッシュパネルと、該ダッシュパネルから前方に離間した位置に配設されるサスペンションタワーと、車体前方から後方に向けて延び上記サスペンションタワーに接続されると共に、後端が下方に湾曲してフロアフレームの前部に接続されるフロントサイドフレームと、を備えた自動車の前部車体構造であって、
上記フロントサイドフレームのサスペンションタワー配設位置から上方かつ後方に向けて側面視で略直線的に延び上記ヒンジピラーの上部に接続される補助フレームを備えたことを特徴とする
自動車の前部車体構造。
【請求項2】
上記ダッシュパネルと上記サスペンションタワーとの間にカウルボックスを備えた構造であって、
上記補助フレームは上記カウルボックスの直下部を通って上記ヒンジピラーの上部に接続されたことを特徴とする
請求項1記載の自動車の前部車体構造。
【請求項3】
上記補助フレームの上面部と、上記カウルボックスの下面部と、を接合させたことを特徴とする
請求項2記載の自動車の前部車体構造。
【請求項4】
上記補助フレームのヒンジピラー接続部と略同一高さ位置に、フロントドアのインパクトバーの前端部を配置させたことを特徴とする
請求項1〜3の何れか1に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項5】
フロントドアのベルトライン部にベルトラインレインフォースメントを備え、インパクトバーの前端部をベルトライン部より下方に配置させる構造であって、
上記補助フレームのヒンジピラー接続部を、上記ベルトライン部と上記インパクトバー前端部との間の高さ位置に配置させたことを特徴とする
請求項1〜3の何れか1に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項6】
フロントドアはドアヒンジを介して上記ヒンジピラーに開閉可能に取付けられ、
上記補助フレームのヒンジピラー接続部は、上記ドアヒンジと対応する高さ位置に配置させたことを特徴とする
請求項4または5記載の自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−265653(P2008−265653A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−113997(P2007−113997)
【出願日】平成19年4月24日(2007.4.24)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】