説明

自動車の前部車体構造

【課題】衝突時の入力により、サイドメンバが上方に変形するのを確実に防止できる自動車の前部車体構造を提供する。
【解決手段】車両衝突時の荷重入力により、補強部材4がアッパメンバ3との結合部20を中心に下方に回動することにより、サイドメンバ2の前後方向中途部(フロントメンバ部2aの後端部)を上方に折れ変形させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバの上方に、アッパメンバを該アッパメンバの前端が該サイドメンバの前端より後方に位置するよう配設した自動車の前部車体構造に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の自動車では、アッパメンバをサイドメンバより後方に偏位させて配置することによりアッパメンバの前方に配置スペースを形成し、該配置スペースにヘッドライトを配設する場合がある。このような構造を採用した場合、前面衝突時の入力によりサイドメンバ前端部が上方に変形すると、車体前部が沈み込み、車体後部が浮き上がるという、いわゆるピッチング現象が生じるおそれがあり、衝撃力を有効に吸収できない。
【0003】
このようなサイドメンバ前端部が上方に変形するのを防止するために、アッパメンバの前端部とサイドメンバとを上下方向に延びる剛性部材で結合し、サイドメンバの前端部を剛性部材とアッパメンバとで押さえ込むという、いわゆるモーメントキャンセラ構造を採用する場合がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−335619号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記従来の、サイドメンバとアッパメンバとを剛性部材により強固に結合する構造の場合、衝突初期はサイドメンバの前端部を軸方向に圧縮変形させ、衝突中期はサイドメンバとアッパメンバとで分担して荷重を吸収させることを狙っている。しかしこの従来構造の場合、前記衝突初期においてサイドメンバの前端部が上方に変形する場合があり、前記ピッチング減少を確実に回避できないという問題がある。
【0005】
本発明は、前記従来の状況に鑑みてなされたもので、衝突時の入力により、サイドメンバ前端部が上方に変形するのを確実に防止できる自動車の前部車体構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の発明は、車両前後方向に延びるサイドメンバと、該サイドメンバの上方にて車両前後方向に延び、かつその前端が前記サイドメンバの前端より後方に位置するよう配設されたアッパメンバと、該アッパメンバの前端部と前記サイドメンバとの間に架け渡して結合された補強部材とを備えた自動車の前部車体構造であって、車両衝突時の荷重入力により、前記補強部材は、前記アッパメンバとの結合部を中心に下方に回動することにより、前記サイドメンバの前後方向中途部を上方に折れ変形させることを特徴としている。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載の自動車の前部車体構造において、
前記補強部材とアッパメンバとの結合部は、その周辺部位より脆弱に形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
請求項1の発明に係る前部車体構造によれば、車両衝突時の荷重入力により、補強部材がアッパメンバとの結合部を中心に下方に回動することから、該補強部材によりサイドメンバ前端部は下方に押さえ込まれることとなり、これに伴ってサイドメンバの前後方向中途部が上方に持ち上がる。その結果、車体前部全体が持ち上がることになり、車体前部が沈み込み、車体後部が浮き上がるというピッチング現象を抑制できる。
【0009】
請求項2の発明では、補強部材とアッパメンバとの結合部がその周辺部位より脆弱に形成されているので、補強部材が結合部を中心に下方に回動し易くなり、サイドメンバの中途部の上方への折れ変形を確実に行うことができる。また、この折れ変形の確実化を、補強部材とアッパメンバとの結合部を脆弱にするという簡単な手段で実現でき、コストの上昇といった問題を回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を添付図面に基づいて説明する。
【0011】
図1ないし図4は、本発明の一実施形態による自動車の前部車体構造を説明するための図であり、図1は自動車の前部車体フレームの側面図、図2は前部車体フレームの平面図、図3(a)〜図3(c)及び図4は車両衝突時における前部車体フレームの挙動状態を模式的に示す図である。
【0012】
図において、1は自動車の前部車体フレームを示している。該前部車体フレーム1は、車両前後方向に延びる左,右のサイドメンバ2,2と、該左,右のサイドメンバ2の上方にて車両前後方向に延びる左,右のアッパメンバ3,3と、該左,右のアッパメンバ3の前端部3bと前記サイドメンバ2とを連結する左,右の補強部材4,4とを備えている。ここで、前部車体フレーム1は、車体中心線Cに対して略左右対称をなしている。
【0013】
また前部車体フレーム1は、左,右のサイドメンバ2の車外側に配置され、該サイドメンバ2と平行に延びる左,右のロッカパネル5,5と、前記左,右のサイドメンバ2の車内側に配置され、該サイドメンバ2と略平行に延びる左,右のトンネルメンバ6,6と、前記左,右のサイドメンバ2の後端部,左,右のロッカパネル5及び左,右のトンネルメンバ6を車幅方向に連結するクロスメンバ7とを有している。
【0014】
前記左,右のサイドメンバ2は、閉断面をなす角筒状のものであり、前後方向に略直線状に延びるフロントメンバ部2aと、該フロントメンバ部2aの後端から後斜め下方に延びるキック部2bと、該キック部2bの下端から後方に略直線状に延びるリヤメンバ部2cとを有する。前記キック部2bの断面積は、フロントメンバ部2aの断面積より小さく設定されている。
【0015】
前記左,右のキック部2bには、車外側に延びるアウタトルクボックス8及び車内側に延びるインナトルクボックス9が結合されている。該アウタトルクボックス8の外端部に前記ロッカパネル5の前端部が結合され、インナトルクボックス9の内端部に前記トンネルメンバ6の前端部が結合されている。
【0016】
前記左,右のサイドメンバ2のキック部2bの下方には、中空状のサスペンションメンバ10が配置されている。該サスペンションメンバ10には、エンジンユニット(不図示)及び左,右の前輪14,14を支持するサスペンションアーム(不図示)が搭載されている。
【0017】
前記サスペンションメンバ10の左,右前端部には、支持パイプ11,11が接続され、該左,右の支持パイプ11は、車幅方向外側に屈曲して延びて、前記フロントメンバ部2aの後端部下面にボルト12により取り付けられている。またサスペンションメンバ10の左,右後端部は、前記キック部2bの下端部下面にボルト13により取り付けられている。
【0018】
前記左,右のサイドメンバ2のフロントメンバ部2aとアッパメンバ3との間には、サスペンションタワー15,15が配置され、該左,右のサスペンションタワー15の上端部はアッパメンバ3に結合され、下端部はフロントメンバ部2aに結合されている。この左,右のサスペンションタワー15の後側壁にはダッシュパネル16が接続され、該ダッシュパネル16の下縁部にはフロアパネル17の前縁部が接続されている。
【0019】
前記左,右のアッパメンバ3は、縦断面ハット状の剛体からなり、車両側方から見ると、前側にいくほど上下寸法が小さくなる概ね三角形状をなしている。
【0020】
前記左,右のアッパメンバ3の後端部3aは、上下方向に延びるフロントピラー18に結合され、該左,右のフロントピラー18の下端部は前記ロッカパネル5に結合されている(図3参照)。
【0021】
前記左,右のアッパメンバ3の前端3′は、サイドメンバ2の前端2′より後方に位置しており、該左,右のアッパメンバ3の前端3′とサイドメンバ2の前端2′との間に形成された配置スペースにヘッドライト等の車両構成部品が配設されている。
【0022】
前記左,右の補強部材4は、閉断面を有し、上下方向に延びる剛体で構成されており、車両側方から見ると、上側にいくほど前後寸法が小さくなる概ね三角形状をなしている。
【0023】
前記左,右の補強部材4の頂角部4aは前記アッパメンバ3の前端部3bに結合され、下辺部4bは前記サイドメンバ2のフロントメンバ部2aに結合されている。これによりフロントメンバ部2aの補強部材4より前側部分は、前面衝突時に軸方向に圧縮変形するクラッシュストローク部2a′となっている。
【0024】
前記左,右の補強部材4の、前壁部4cはアッパメンバ3の前端部3bから前下りに傾斜して延びており、また後壁部4dはアッパメンバ3の前端部3bから大略真下に延びている。そのため前記補強部材4の前壁部4cの長さaは、後壁部4dの長さbより長くなっており、車両側方から見ると、略直角三角形をなしている。
【0025】
前記左,右の補強部材4の頂角部4aとアッパメンバ3の前端部3bとの結合部20は、その周辺部より脆弱に、あるいは低強度に形成されている。詳細には、アッパメンバ3の前端部3bは、その一部3b′を切り欠くことにより尖り形状をなしており、該尖り形状をなす前端部3bに頂角部4aが溶接により接合されている。このようにして、前記結合部20は、アッパメンバ3の前端部3bより後方の部分及び補強部材4の頂角部4aより下方の部分より脆弱となっている。
【0026】
このように側面視三角形状の補強部材4の下辺部をフロントメンバ部2aに高剛性をなすように結合するとともに、三角形状の頂角部4aを尖り形状の前端部3bに脆弱をなすように結合したので、前面衝突時の荷重入力により、前記補強部材4がアッパメンバ3との結合部20を中心に下方に回動し、これに伴って前記サイドメンバ2のフロントメンバ部2aの後端部が上方に折れ変形する。
【0027】
詳細には、図3(a)〜図3(c)に示すように、前面衝突時の入力により、フロントメンバ部2aのクラッシュストローク部2a′が軸方向に圧縮変形しつつ、補強部材4が結合部20を中心にフロントメンバ部2aを押し下げる方向に回動し、これに伴ってフロントメンバ部2aが下方に変形し、該フロントメンバ部2aの後端部のキック部2bとの境界部分が上方に逆V字状に折れ曲がる。この場合、アッパメンバ3及び補強部材4自体は剛体であるので変形したり,座屈したりすることは殆どなく、主として脆弱な結合部20のみが変形する。
【0028】
フロントメンバ部2aが上方に折れ曲がると、サスペンションメンバ10の支持パイプ11に上下方向の荷重が作用することから、該支持パイプ11が破断してサイドメンバ2から離脱する。さらにフロントメンバ部2aの折れ曲がりが大きくなると、エンジンやトランスミッションからの力も加わり、サスペンションメンバ10の左,右後端部が破断し、該サスペンションメンバ10全体が脱落する。
【0029】
一方、前記フロントメンバ部2aが上方に折れ曲がり、補強部材4がさらに回動して前壁部4cが略垂直状態になるに伴って、フロントメンバ部2aが前記入力をフロントピラー18に矢印c方向に作用させる。
【0030】
このようにしてサイドメンバ2のフロントメンバ部2aは、補強部材4により下方に押し込められることから、衝突と略同時にサスペンションメンバ10が脱落し、車体のクラッシュストロークを稼ぐことができる。その結果、サスペンションメンバ10を含むエンジンユニットが室内側に進入するのを防止できる。
【0031】
またフロントメンバ部2aが下方に押し込められることにより、フロントピラー18周辺部分がリフトアップされる。その結果、車体前部全体が持ち上がることとなり、車体前部が沈み込み、そのため、車体の後部が浮き上がるというピッチング現象が抑制される。その結果、図4に示すように、乗員をシートに拘束するシートベルト装置のアンカー25が前方に移動するのを回避でき、該アンカー25をロック位置に保持することができ、乗員の拘束性能を確保できる。即ち、図5に示すように、ピッチング現象により車体後部が浮き上がると、該浮き上がりに応じてアンカー25がロック位置からxだけ前方に移動することとなる。場合によっては、乗員を拘束しているシートベルトが緩む方向に移動し、乗員の拘束性能に影響を与える可能性がある。
【0032】
このように本実施形態によれば、前面衝突時の荷重入力により、補強部材4がアッパメンバ3との結合部20を中心に下方に回動するように構成したので、補強部材4によりサイドメンバ2のフロントメンバ部2aは下方に押さえ込まれると同時に、フロントメンバ部2aの後端部が上方に持ち上がることとなる。これにより、車体前部の沈み込みを抑制し、さらには逆にリフトアップさせることにより、車体後部が持ち上がるというピッチング現象を抑制できるとともに、サスペンションメンバ10を略瞬時に脱落させることができる。
【0033】
本実施形態では、前記補強部材4とアッパメンバ3との結合部20を、その周辺部位である補強部材4,アッパメンバ3自体の剛性,強度より脆弱に形成したので、補強部材4が結合部20を中心に回動し易くなり、ピッチング現象の抑制を、結合部20を脆弱化させるという簡単な手段で実現でき、コストの上昇を回避できる。
【0034】
本実施形態では、前記補強部材4の前壁部4cの長さaを後壁部4dの長さbより大きくしたので、衝突時のフロントメンバ部2aの下方への押さえ込みをより確実に行うことができ、ピッチング現象をより一層確実に抑制することができる。ここで、前部車体の大きさ,寸法等に応じて後壁部4dの長さbに対する前壁部4cの長さaの比率を変えることにより、ピッチング量を調整することが可能である。
【0035】
なお、前記実施形態では、結合部20を、アッパメンバ3の前端部3bの一部3b′を切り欠くことにより脆弱に形成した場合を説明したが、本発明における脆弱化には、各種の変形例が考えられる。例えば、結合部の板厚を他の部分より薄くしたり、結合部の溶接量を他の部分より少なくしたりしてもよく、あるいは結合部をボルト結合やヒンジ構造にしたり、アッパメンバ,補強部材の結合部以外の部分に補強ビード等を追加し、これにより結合部の剛性,強度を相対的に低くするようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の一実施形態による自動車の前部車体フレームの側面図である。
【図2】前記前部車体フレームの平面図である。
【図3】前記実施形態による前部車体フレームの変形状態を示す模式図である。
【図4】前記実施形態による車体のピッチング現象の抑制効果を示す模式図である。
【図5】一般的な車体のピッチング現象を示す模式図である。
【符号の説明】
【0037】
1 前部車体フレーム
2 サイドメンバ
2′ 前端
3 アッパメンバ
3′ 前端
3b 前端部
4 補強部材
20 結合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前後方向に延びるサイドメンバと、該サイドメンバの上方にて車両前後方向に延び、かつその前端が前記サイドメンバの前端より後方に位置するよう配設されたアッパメンバと、該アッパメンバの前端部と前記サイドメンバとの間に架け渡して結合された補強部材とを備えた自動車の前部車体構造であって、
車両衝突時の荷重入力により、前記補強部材は、前記アッパメンバとの結合部を中心に下方に回動することにより、前記サイドメンバの前後方向中途部を上方に折れ変形させることを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車の前部車体構造において、
前記補強部材とアッパメンバとの結合部は、その周辺部位より脆弱に形成されていることを特徴とする自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−113638(P2009−113638A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−289015(P2007−289015)
【出願日】平成19年11月6日(2007.11.6)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】