説明

自動車の前部車体構造

【課題】車室空間の拡大を図りつつ、重量化を招くことなく、衝突に対する強度の向上を実現する自動車の車体構造を提供する。
【解決手段】ホイールハウス15の上部を構成する左右一対のホイールハウスアッパメンバ6の後端を、各フロントピラーロア3に接合し、両フロントピラーロア3l,3r間にダッシュボードロア10を配置し、ダッシュボードロア10の下部にダッシュロアクロスメンバ11を接合して閉断面を形成した前部車体構造において、ホイールハウスアッパメンバ6を、フロントピラーロア3の上部から前方へ略水平に延出する上部水平部6aと、フロントピラーロア3の下部から前方へ略水平に延出する下部水平部6bと、下部水平部6bの前部から前方斜め上方へ延出するとともに、上部水平部6aに接合された傾斜部6cとから構成し、ダッシュロアクロスメンバ11の両端を左右両下部水平部6bの前端に接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の前部車体構造に係り、車室空間の拡大を図りつつ、荷重分散によって衝突に対する強度の向上を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モノコック構造の自動車(以下、モノコック車と記す)は、薄鋼板をプレス成型することで多数のボディパネルや骨格部材を製造した後、これらをスポット溶接等により接合することでボディが製造される。そして、このようなモノコック車には、フロントピラーロアの上端から車体前方へ左右一対のアッパメンバを延ばし、このアッパメンバにダンパベースの車幅方向外側端縁を接合するとともにホイールハウスの上部を構成させた車体構造を採用しているものがある。
【0003】
そして、大きな応力負荷を支えて強度・剛性を向上させるべく、フロントピラーロアのヒンジ部下部の内面にレインフォースメント・ピラーロアを取り付け、このレインフォースメント・ピラーロアにダッシュサイド・パネルを取り付け、フロントピラーロアのヒンジ部上部の外面にホイールハウスアッパメンバ(レインフォースメント・カウルサイドおよびレインフォースメント・エンジンコンパートメントパネル)を取り付けた車体において、レインフォースメント・フロントピラーロアに対して前方へ延出する補強部を形成してホイールハウスアッパメンバ(レインフォースメント・カウルサイド)に溶接した側部車体構造が提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2001−260941号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記構成の車体構造では、左右のフロントピラーロアはクロスメンバで連結されていないため、ホイールハウスアッパメンバはフロントピラーロアのみによって支持され、支持剛性が低い。ホイールハウスアッパメンバの支持剛性を高めるためには、部材の板厚を厚くしたり、フロントピラーロアの太くしたりする必要があるため、車体重量が増大してしまうという課題があった。
【0005】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、車室空間の拡大を図りつつ、重量化を招くことなく、入力する荷重を分散させることによって衝突に対する強度の向上を実現する自動車の車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明は、左右一対のフロントピラーロアと、その後端が前記フロントピラーロアに接合され、フロントホイールハウスの上部を構成する左右一対のホイールハウスアッパメンバと、前記両フロントピラーロア間に配置されたダッシュボードロアと、前記ダッシュボードロアの下部に接合されて閉断面をなすダッシュロアクロスメンバとを備えた自動車の前部車体構造において、前記ホイールハウスアッパメンバが、前記フロントピラーロアの上部から前方へ略水平に延出する上部水平部と、前記フロントピラーロアの下部から前方へ略水平に延出する下部水平部と、該下部水平部の前部から前方斜め上方へ延出するとともに、前記上部水平部に接合された傾斜部とを有し、前記ダッシュロアクロスメンバの両端が前記両下部水平部の前端に接合されるように構成する(請求項1)。
【0007】
上記構成の自動車の前部車体構造においては、前記傾斜部を、前記フロントピラーロアを構成するフロントピラーインナによって閉断面に形成したり(請求項2)、前記下部水平部の前記ダッシュロアクロスメンバとの接合位置に、スチフナを取り付けたり(請求項3)するとよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ホイールハウスアッパメンバの前端から入力した衝突荷重は、上部水平部からフロントピラーロア、フロントピラーアッパへ至る荷重経路と、傾斜部から下部水平部、閉断面をなすダッシュロアクロスメンバまたはサイドシルへ至る荷重経路とに分散されるため、衝突に対する車体強度が向上する。また、ダッシュロアクロスメンバがフロントピラーロアよりも前方に配置されるため、車室空間を広くとることができる。更に、車室空間を狭くすることなく、ホイールハウスアッパメンバをトラス構造としてダッシュロアクロスメンバおよびフロントピラーロアの両方に結合させることにより、支持剛性を高めることができる。
【0009】
また、傾斜部がフロントピラーインナによって閉断面に形成されることにより、傾斜部の形成とダッシュロアクロスメンバとの接合をスポット溶接で行うことが可能となり、製造が容易となる。
【0010】
一方、下部水平部のダッシュロアクロスメンバとの接合位置にスチフナを取り付けることにより、ダッシュロアクロスメンバへの荷重分散に対する強度を高め、効率的に荷重分散させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明を適用した自動車用前部車体構造の実施形態を詳細に説明する。本実施形態は、モノコック構造を採用した自動車のボディに本発明を適用したものである。ボディ1の骨格構造は概ね左右対称の構成をなしているため、説明にあたっては、ボディ1の左右に配置された部材または部位等については、それぞれ数字の符号に左右を示す添字lまたはrを付して、例えば、左側ホイールハウスアッパメンバ6l、右側ホイールハウスアッパメンバ6rと記すとともに、総称する場合には、例えば、ホイールハウスアッパメンバ6と記す。
【0012】
≪実施形態の構成≫
図1は実施形態に係る前部車体骨格構造の斜視図を示し、図2は実施形態に係る前部車体骨格構造の左側面図を示し、図3は図2中のIII−III断面図を示し、図4は図2中のIV−IV断面図を示している。図1に示すように、実施形態のボディ1は、その前部主要部材として、車体前部に配置された前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム2l,2rと、両フロントサイドフレーム2の後部側方に鉛直方向に延びる左右一対のフロントピラーロア3l,3rと、その前端がバルクヘッドアッパフレーム7に接合され、その後端が両フロントピラーロア3に接合された左右一対のホイールハウスアッパメンバ6l,6rとを備えている。
【0013】
両フロントピラーロア3は、その下端が左右のサイドシル16l,16rに接合され、その上端には、上方斜め後方へ向かって延設された左右一対のフロントピラーアッパ4l,4rが両フロントピラーロア3と一体形成されている。両フロントサイドフレーム2の前端には垂直に延在する左右のバルクヘッドサイドステイ5l、5rが接合され、その上端はバルクヘッドアッパフレーム7に接合され、その下端はフロントロアクロスメンバ8で連結されている。
【0014】
また、両フロントピラーロア3は、その上端がダッシュボードアッパ9によって車幅方向について相互に連結されている。両フロントピラーロア3間におけるダッシュボードアッパ9の下方には、ダッシュボードロア10が垂設され、車室21とエンジンルーム22とを画成している。そしてダッシュボードロア10の下部には、前方へ突出する断面コ字状のダッシュロアクロスメンバ11が下縁に沿って接合されており、ダッシュボードロア10と共に閉断面のクロスメンバを形成している。
【0015】
左右のホイールハウスアッパメンバ6の前後方向における中央近傍の車幅方向内側には、その上部および下部がそれぞれホイールハウスアッパメンバ6およびフロントサイドフレーム2に接合された左右一対のダンパハウジング12l,12rが設置されている。ダンパハウジング12の上面には、前輪の荷重を支持するダンパベース13l,13rがそれぞれ一体形成されている。両ダンパハウジング12の後方には、ホイールハウスリア14l,14r(右側のみ図示)が設けられ、これらダンパハウジング12、ダンパベース13、ホイールハウスアッパメンバ6、ホイールハウスリア14等によってホイールハウス15が構成されている。
【0016】
図2に併せて示すように、ホイールハウスアッパメンバ6は、フロントピラーロア3の上端から前方へ略水平に延出する上部水平部6aと、フロントピラーロア3の下部から前方へ、上部水平部6aよりも短く略水平に延出する下部水平部6bと、下部水平部6bの前部上縁から前方斜め上方へ延出するとともに、上部水平部6aに接合された傾斜部6cとを有している。これら上部水平部6a、下部水平部6bおよび傾斜部6cは、いずれも閉断面を有し、フロントピラーロア3と共に略三角形のトラス構造を形成している。
【0017】
図3に示すように、フロントピラーロア3は、車幅方向外側に配置されたフロントピラーアウタ3oと、車幅方向内側に配置されたフロントピラーインナ3iとから構成されている。フロントピラーロア3の閉断面内には、ドアヒンジ取付ナット18を備えたフロントピラーロアスチフナ17が、フロントピラーアウタ3oに面接触するように接合されており、これにより、ドアの取付強度が向上されている。
【0018】
図4に併せて示すように、フロントピラーインナ3iは、複数の板材が接合されることにより、フロントピラーアウタ3oとの前側の接合部から更に前方へ垂設状態で延出しており、ホイールハウスアッパメンバ6の一部のインナ部材を兼ねている。ホイールハウスアッパメンバ6は、アッパメンバアウタ6oがフロントピラーインナ3iに接合されることによって閉断面を形成している。そして、フロントピラーインナ3iは、アッパメンバアウタ6oとフロントピラーアウタ3oとによって囲繞される略三角形の開口を塞ぐようにこれらに接合されており、これにより、トラス構造の補強が図られている。
【0019】
図3に示すように、ホイールハウスアッパメンバ6の下部水平部6bの前端には、ダッシュロアクロスメンバ11が接合されている。そして、下部水平部6b内には、下部水平部6bのアウタとインナ(フロントピラーインナ3iとアッパメンバアウタ6o)とに接合されたスチフナ19が、ダッシュボードロア10と同一平面上に配置されている。
【0020】
≪実施形態に係る前部車体構造の組立手順≫
次に、実施形態に係る前部車体構造の組立手順について説明する。図5はダッシュロアクロスメンバ11の左端部を示す斜視図であり、図6はホイールハウスアッパメンバ6の分解状態を示す斜視図であり、図7はホイールハウスアッパメンバ6のフロントピラーロア3への接合状態を示す斜視図であり、図8はダッシュロアクロスメンバ11のホイールハウスアッパメンバ6への接合状態を示す斜視図である。
【0021】
図5に示すように、ダッシュロアクロスメンバ11は、後部が開いたコ字状断面の後端上部および下部に接合フランジ11aを備えており、この接合フランジ11a上の溶接点aにおけるスポット溶接によってダッシュボードロア10に接合されている。そしてダッシュロアクロスメンバ11の車幅方向の両端部には、フロントピラーインナ3i(図6参照)との接合の際にスポット溶接の溶接点となる接合フランジ11bが、コ字状断面の上面、前面、下面のそれぞれに形成されている。
【0022】
図6に示すように、アッパメンバアウタ6oは、下部水平部6b内にスチフナ19が設置された状態でフロントピラーアウタ3oおよびフロントピラーインナ3iに対してスポット溶接によって接合される。図7に示すように、アッパメンバアウタ6oは、フロントピラーアウタ3oに対しては、溶接点bにおけるスポット溶接によって接合され、フロントピラーインナ3iに対しては、溶接点cにおけるスポット溶接によって接合される。
【0023】
図8に示すように、アッパメンバアウタ6oは、その下端に、溶接点dにおけるスポット溶接によって接合され、略水平に延在して下部水平部6bの下面を構成する下端面部材20を備えている。下端面部材20の車幅方向内側には、接合フランジ20aが垂設されており、接合フランジ20a上の溶接点eにおけるスポット溶接によっても、アッパメンバアウタ6oはフロントピラーインナ3iに接合される。
【0024】
≪実施形態の作用効果≫
図9を参照して、本実施形態のボディ1における作用効果について説明する。図9は前部車体骨格構造を示し、白塗矢印はバルクヘッドアッパフレーム7から入力する衝突荷重の流れを、黒塗矢印はフロントロアクロスメンバ8およびバルクヘッドサイドステイ5から入力する衝突荷重の流れを示している。
【0025】
実施形態に係る自動車が正面衝突を起こすと、フロントロアクロスメンバ8およびバルクヘッドサイドステイ5から入力した衝突荷重は、フロントサイドフレーム2、ダッシュロアクロスメンバ11、ホイールハウスアッパメンバ6の下部水平部6bを順に伝ってサイドシル16に伝達する。一方、バルクヘッドアッパフレーム7に入力した衝突荷重は、その大半がホイールハウスアッパメンバ6の上部水平部6aを伝ってフロントピラーロア3、フロントピラーアッパ4へ伝達し、その一部が傾斜部6cを介して下部水平部6bを介してへサイドシル16へ伝達する。
【0026】
このように、本実施形態に係る前部車体構造によれば、ホイールハウスアッパメンバ6の前端から入力した衝突荷重は、上部水平部6aからフロントピラーロア3、フロントピラーアッパ4へ至る荷重経路と、傾斜部6cから下部水平部6b、サイドシル16へ至る荷重経路とに分散されるため、衝突に対する車体強度が向上している。また、傾斜部6cへ分散した衝突荷重は、特に斜め衝突の場合にはサイドシル16だけでなく、閉断面をなすダッシュロアクロスメンバ11へも分散可能である。
【0027】
そして、ダッシュロアクロスメンバ11はフロントピラーロア3よりも前方に配置されているため、車室21の空間を広くとることが可能となっている。更に、車室空間を狭くすることなく、ホイールハウスアッパメンバ6をトラス構造としてダッシュロアクロスメンバ11およびフロントピラーロア3の両方に結合させることにより、支持剛性が高まっている。
【0028】
そして本実施形態では、傾斜部6cがフロントピラーインナ3iによって閉断面に形成されることにより、傾斜部6cの形成とダッシュロアクロスメンバ11との接合をスポット溶接で行うことが可能となり、製造が容易となっている。
【0029】
一方、下部水平部6bのダッシュロアクロスメンバ11との接合位置にスチフナ19が取り付けられたことにより、ダッシュロアクロスメンバ11への荷重分散およびダッシュロアクロスメンバ11からの荷重分散に対する強度が高まり、効率的な荷重分散が可能となった。
【0030】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態は本発明をSUVのボディに適用したものであるが、ハッチバックやセダン等、あらゆるタイプの自動車に適用可能である。また、各種部材の具体的な構成等、本発明の趣旨を逸脱しない範囲であれば適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】前部車体骨格構造の斜視図
【図2】前部車体骨格構造の左側面図
【図3】図2中のIII−III断面図
【図4】図2中のIV−IV断面図
【図5】前部車体構造の要部を示す組立説明図
【図6】前部車体構造の要部を示す組立説明図
【図7】前部車体構造の要部を示す組立説明図
【図8】前部車体構造の要部を示す組立説明図
【図9】前部車体骨格構造の作用説明図
【符号の説明】
【0032】
1 ボディ
2 フロントサイドフレーム
3 フロントピラーロア
3o フロントピラーアウタ
3i フロントピラーインナ
4 フロントピラーアッパ
6 ホイールハウスアッパメンバ
6a 上部水平部
6b 下部水平部
6c 傾斜部
6o アッパメンバアウタ
10 ダッシュボードロア
11 ダッシュロアクロスメンバ
12 ダンパハウジング
15 ホイールハウス
16 サイドシル
21 車室
22 エンジンルーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右一対のフロントピラーロアと、
その後端が前記フロントピラーロアに接合され、フロントホイールハウスの上部を構成する左右一対のホイールハウスアッパメンバと、
前記両フロントピラーロア間に配置されたダッシュボードロアと、
前記ダッシュボードロアの下部に接合されて閉断面をなすダッシュロアクロスメンバと
を備え、
前記ホイールハウスアッパメンバは、前記フロントピラーロアの上部から前方へ略水平に延出する上部水平部と、前記フロントピラーロアの下部から前方へ略水平に延出する下部水平部と、該下部水平部の前部から前方斜め上方へ延出するとともに、前記上部水平部に接合された傾斜部とを有し、
前記ダッシュロアクロスメンバの両端が前記両下部水平部の前端に接合されたことを特徴とする自動車の前部車体構造。
【請求項2】
前記傾斜部は、前記フロントピラーロアを構成するフロントピラーインナによって閉断面に形成されたことを特徴とする、請求項1に記載の自動車の前部車体構造。
【請求項3】
前記下部水平部の前記ダッシュロアクロスメンバとの接合位置には、スチフナが取り付けられたことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の自動車の前部車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2009−248805(P2009−248805A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−100338(P2008−100338)
【出願日】平成20年4月8日(2008.4.8)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】