説明

自動車の流体式リターダを調整し作動させるための方法および装置

本発明は、自動車の流体式リターダ(1)を調整し作動させるための方法であって、調節可能な油圧回路(15)とこの油圧回路(15)内の油圧圧力を検出するための手段とをリターダ(1)が有し、所定の制動トルク特性曲線に追従する制動トルクを生成するための少なくとも1つの予調整が行われ、この予調整が制御調節ユニット(6)内に持続的に格納され、この予調整に基づいてリターダ(1)が走行運転時に作動するものに関する。このリターダの制動トルクの調整精度を改善するために、少なくとも予調整時にリターダ(1)の油圧回路(15)内の油圧圧力が考慮されるようになっている。設けられている装置ではさらに、少なくとも1つの圧力センサ(9)を備えた調節可能な油圧回路(15)をリターダ(1)が有し、この油圧回路(15)に制御調節ユニット(6)が付設されており、この制御調節ユニットが不揮発性データ記憶装置とプロセッサユニットとを有し、このプロセッサユニット内で実際の入力データと記憶されたデータが処理可能であり、またこのプロセッサユニット内で、処理されたデータから、リターダ(1)の電気弁機構(13)および/または油充填機構を作動させるための出力信号が発生可能であり、所定の目標制動トルク(Msoll)がこれらの機構を介して調整可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1もしくは請求項17の前文に係る自動車の流体式リターダを調整し作動させるための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
流体式リターダは自動車、好ましくは商用車において、摩擦ブレーキとして通常形成されるホイールブレーキの負担を軽減するために非摩耗式補助減速ブレーキとして利用される。例えば高速からの制動過程時、総重量の重い車両の場合、そして長い下り坂走行時にリターダは摩耗を減らし、摩擦ブレーキの熱的過負荷を防止する。付加的に適合制動によって制動快適性も改善され、例えば坂道での定速保持が改善される。
【0003】
流体式リターダでは駆動軸の機械的エネルギーが液体、一般に油の運動エネルギーに変換され、物理的作用原理は、内燃エンジンによって駆動されるポンプインペラを駆動部、タービンホイールを被動部として有する流体クラッチの作用原理に一致している。但し、タービンは固定されている。従って、流体式リターダは、動力流れ中にあるロータとリターダケースに強固に結合された翼列付きステータとを有する。リターダの操作時、要求された制動出力に一致した油量がリターダ室に持ち込まれる。油流はたいてい電気比例弁を介して調節され、比例弁の比例磁石は相応に通電される。リターダ室内で回転するロータが油を駆動し、油は運動学的流れエネルギーを熱に変換しながらステータ翼列で支えられ、これによりロータおよびその駆動軸に対する制動作用が生成され、こうして車両全体の減速が引き起こされる。
【0004】
このような流体式リターダが、例えば独国特許出願公開第10140220号明細書により公知である。リターダを制御するために設けられている作動回路(リターダ回路)は、調節可能な電気モータによって駆動可能な油圧ポンプと、冷却のための熱交換器と、入口弁および出口弁と調節弁または切換弁とを有する弁機構と、ポンプおよび弁を制御するための制御調節ユニットとを含む。この配置は、実際の車速もしくは推進軸回転数またはリターダ回転数にかかわりなく調整が可能である。これに匹敵する配置は、独国特許出願公開第10141794号明細書からも公知である。
【0005】
流体式リターダの制動トルクは普通、制御調節ユニットを介して予め定められる相応する圧力がリターダ回路内で調整されることによって調整される。制御調節ユニットの相応する操作量、例えば比例弁の電流とそこから帰結する制動トルクとの間の関係は、例えばマップを介して実現される。もたらされるリターダ制動トルクは制動特性曲線上の1点に一致するか、もしくは、リターダロータの駆動部によって予め定められたリターダ回転数に対するリターダ制動トルクをプロットした制動トルク特性曲線上の1点に一致する。
【0006】
その際の基本的問題は調整された制動トルクの精度にある。その原因は、実質的にリターダ翼列の品質、送油ハウジングの公差、そして機械的操作要素(アクチュエータ、調節ピストン、ばね要素等)の公差の品質にある。
【0007】
各機器の実際の制動トルクと目標トルクとの偏差を最小にするために、リターダの制動トルクをシリーズ試験台で試験することが知られている。測定された実際トルクと目標トルクとの偏差に相応して、リターダの制動特性曲線を極力正確に確証するために補正が行われる。この補正は、試験台での制動トルクの測定と、調整要素例えば調整ねじによる制動トルクの補正とによって、または試験台での制動トルクの測定と抵抗器または符号化スイッチを介して電子制御装置内に格納された複数のマップの1つを選択的に選択することとによって実現することができる。
【0008】
しかし、試験経過時に個々の機器について適合されるこれら公知の手段では、制動トルクは不十分な正確さでごく大雑把に(作動範囲全体について1つの調整点で)校正できるにすぎない。他方で、制動トルクの調整精度に対する要求、すなわち実際に調整された制動トルクがどの程度高いかのフィードバック精度に対する要求は、別のシステム、例えばリターダにおいて支援のために制動トルクを要求する電子ブレーキシステムへのリターダの統合が増加していることによってより高まっている。
【0009】
精度を高めるための改善は未刊行の独国特許出願公開第102005021718号明細書に述べられている。試験台で実行される電子的校正では、個々の機器が試験台で制動特性曲線に関して測定され、所要の補正値は電子制御装置の不揮発性記憶装置内に格納される。この校正は、制動特性曲線のさまざまな支点で設定される操作量の個々のオフセット(上昇/低下)によって実現される。
【0010】
そのことの欠点として、補正がむしろ経験的に行われ、特にリターダの機能様式にとって重要な作動回路内の油圧圧力が明確には検討されない。
【0011】
国際公開第2003/020562号パンフレットに述べられた方法では、リターダの作動回路内の油圧が測定され、そこから制動トルクが導き出され、この制動トルクが要求制動トルクと比較される。要求制動トルクは普通、操作要素(例えばブレーキペダル)の位置に一致し、常に運転者によって開始される。生成された制動トルクと要求制動トルクとの間で検出された偏差は補償することができる。調節品質を改善するために行うことのできる適合において、先行する作動との偏差が検出されて記憶され、再作動時に使用される。運転者の要求制動トルクを基準とした圧力偏差の補償を補足して、規定された閾値を上まわるときにも運転者に警告を発することができる。この警告発生は、コンポーネントに欠陥があるときまたはリターダ内の油面が低すぎるとき現れることがある。
【0012】
その際の欠点として、測定された実際圧力から計算された制動トルクの校正にとって決定的なのは、運転者要求、もしくは運転者要求に相応する操作要素の瞬時調整のみである。この補償はリターダにとって好ましい制動特性曲線から逸脱することがあり、この逸脱は、特に電子制動システムにおいてリターダのむしろ非効率的な利用に帰結することがある。それに加えて、調節の精度は相応する操作要素、例えばブレーキペダルの調整精度に本質的に左右される。操作要素が比較的大きな製造公差を伴っている場合、または時間の経過とともに操作要素の調整パラメータが変化する場合、運転者要求に従って調整するとき一定した高い精度を難なく保証することはできない。
【0013】
さらに、空圧制御システムを備えた流体式リターダが公知であり、そこでは作動回路内の油圧圧力が、リターダ室内の油面に作用する空圧操作圧力を介して調整される。
【0014】
独国特許出願公開第19929152号明細書により公知のこのような空圧制御システムでは、空圧操作圧力が測定される。測定されたこの空圧圧力と運転者によって予め定められた値、つまり特定の制動トルクに対する実際の運転者要求とを頼りに目標値‐実際値偏差を判定し補償することができる。さらに、空圧システムの弁機構の障害に基づく間違った過度に高い操作圧力を検知し、空気供給管路内の(他の)切換弁を頼りに場合によってはリターダシステム全体を作動停止することが可能である。
【0015】
独国特許出願公開第10361448号明細書によりリターダ用の他の空圧制御システムが公知である。そこに述べられた方法では、空圧操作圧力調節回路中に設けられた圧力センサによってリターダの空圧操作圧力の推移が測定される。測定されたこの時間的圧力推移は次に記憶された目標特性曲線(予警告特性曲線と機能停止特性曲線)と比較され、所定の判定基準が満たされていないとき警告通知が出力され、および/または操作者、つまり車両運転者によるリターダの将来的起動が妨げられる。リターダの起動または遮断時に動的圧力推移が監視され、また選択的に予選択目標制動トルクに対する制動トルク変化時の推移も監視される。使用される特性曲線はリターダシステムの設計中に計算し、または実験によって決定することができ、または車両運転時間の開始時に学習することもできる。時間的推移の比較の他に、予め定められた2つの圧力点の間で測定された時間または操作圧力推移勾配も比較することができる。
【0016】
空圧リターダ制御システムでは欠点として、空圧システム用の付加的費用および設計支出が比較的高い。それに加えて、このような公知システムはむしろ限定された調節挙動を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】独国特許出願公開第10140220号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10141794号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第102005021718号明細書
【特許文献4】国際公開第2003/020562号パンフレット
【特許文献5】独国特許出願公開第19929152号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第10361448号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
そのことを背景に本発明の課題は、制動トルクの調整精度を改善し、安価であり、先行技術の前記諸欠点を防止する流体式リターダを調整し作動させるための方法を明示することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
この課題の解決は独立請求項の特徴から明らかとなり、本発明の有利な諸構成、諸態様はそれぞれ付属する従属請求項から読み取ることができる。
【0020】
本発明の根底にあるのは、リターダ内の圧力調整精度を改善する可能性でもたらされる制動トルクの精度も改善できるとの認識である。この改善は実質的に、リターダの操作量用の補正値として圧力を含む予調整を前もってリターダで行うことによって達成される。
【0021】
従って本発明がまず前提とするのは、自動車の流体式リターダを調整し作動させるための方法であって、調節可能な油圧回路とこの油圧回路内の油圧圧力を検出するための手段とをリターダが有し、所定の制動トルク特性曲線に追従する制動トルクを生成するための少なくとも1つの予調整が行われ、この予調整が制御調節ユニット内に持続的に記憶され、この予調整に基づきリターダが走行運転時に作動するようになった方法である。提起された課題を解決するために本発明によればさらに、少なくとも予調整時にリターダの油圧回路内の油圧圧力が考慮される。
【0022】
リターダ作動回路内の油圧圧力を使用することは制動トルクを一層正確に調整もしくは決定するための基礎である。リターダ回転数と組合せて特定の制動トルクをもたらす圧力が操作量を介して調整される。このため機器固有の油圧目標圧力が求められ、制御調節ユニット内に格納される。そのことの利点として、空圧制御システムが必要でなく、走行運転時に運転者要求との比較を評価する必要もない。
【0023】
作動回路内の圧力を調節するための圧力センサが既に設けられている流体式リターダにおいて、特別安価な予調整を行うために、圧力センサのセンサ情報が本発明に係る方法用に使用することができる。
【0024】
さらに、好ましくは走行運転時、制御調節ユニット内に格納されている予調整とリターダの油圧回路内で実際に測定された油圧実際圧力との間で平衡化を行うようにすることができる。予調整において目標圧力が決定され、この目標圧力は操作量の精度を既に著しく改善する。
【0025】
予調整において決定されたこの目標圧力と実際に測定された実際圧力および万一存在する偏差の補償との平衡化によって、操作量の調整精度はなお高めることができ、リターダの実際の制動トルクは制動特性曲線上にある要求された目標制動トルクに正確に一致し、またはせいぜいそれから僅かに相違しているにすぎない。さらに、実際に調整された制動トルクに関する精確なデータが電子ブレーキマネジメントに提供できると特別有利である。
【0026】
そのことから得られる可能性として、引き続き予定しておくことができるように、走行運転時、車両制動運転にとって重要な運転パラメータから決定される実際の目標制動トルクは、リターダの油圧回路に付属した電気弁機構を操作する修正された目標電流を介してごく正確に調整することができ、各目標電流は予調整と、予調整と実際圧力との平衡化とを介して決定される。
【0027】
さらに、機器に左右されない予め定められた少なくとも1つの基本調整と、車両運転開始前またはその時間的近傍で各リターダについて決定された機器固有の補正調整とを予調整が含むようにすることができ、その際、試験台で行われる機器固有の補正調整が特別有利である。
【0028】
1形式のすべての機器について、予め一回決定されて制御調節ユニット内に固定記憶された基本調整から出発して、試験台での機器固有の補正は製造公差の相殺を可能とし、こうしてすべての機器について同じ高さの調整精度が保証される。予調整は、制御調節ユニット内に格納されるマップの態様で簡単に実現することができる。
【0029】
このため、基本調整が電流基準マップを含み、リターダの電気弁機構に通電するための電気基準電流とリターダの目標制動トルクとの間の関係がこの電流基準マップ内で確定されており、基本調整が圧力基準マップを含み、リターダの油圧回路内の油圧基準圧力とリターダの目標制動トルクとの間の関係がこの圧力基準マップ内で確定されているようにすることができる。
【0030】
さらに、補正調整が、電流基準マップを機器固有に補正するための電流補正マップと、圧力基準マップを機器固有に補正するための圧力補正マップとを含むようにすることができる。
【0031】
圧力マップと圧力補正マップとを明確に含めることによって、リターダ調整用操作量の一層正確な調整が達成される。というのも機器固有のものとして決定された圧力もしくは実際の瞬時圧力が、目標制動トルクを生成するための操作量の調整精度にとって決定的であるからである。
【0032】
補正調整が電流補正特性曲線および/または圧力補正特性曲線を含み、これらの特性曲線においてリターダの油圧回路内の作動油の粘度の温度依存性が考慮されることによって、調整精度はさらになお高めることができる。油の粘度が温度に伴って変化するので、リターダの充填/排出時に変化する体積流による影響と、リターダ内の温度依存圧力変化は、弁機構用操作量の調整時に自動的に考慮することができる。
【0033】
さらに、油圧圧力を監視するための圧力監視部が少なくともリターダの油圧回路内に設けられており、目標圧力設定値またはそれから導出された変量からの許容外の圧力偏差が検知されると、この圧力監視部がエラー反応を生成するようにすることができる。
【0034】
従ってリターダ作動回路中での圧力測定は、制動トルク調整時の高い精度の他に、リターダの機能待機状態および運転信頼性の監視も可能とする。リターダの運転信頼性にとって重要な時間的圧力推移および/または単数または複数の閾値によって目標設定値を規定しておくことができる。
【0035】
有意義なエラー反応は、警告通知から運転制限を経てリターダの遮断にまで及ぶことがある。検知されたエラーは例えば記憶し、および/または運転者に表示することができる。制動出力を低減させた運転も可能である。
【0036】
エラー反応が正確にはどのようなものであるかは、境界条件を頼りに決定することができる。境界条件とは、車両重量および/または実際の路面勾配および/または実際の路面性状に関する情報とすることができる。例えば、軽量の車両ではリターダを完全に省くことができようが、重い車両ではリターダは場合によってはその制動出力のみが限定される。検知されたエラーに応じてリターダの完全運転も有意義であり得るが、但し制動トルクの精度が限定され、それに応じて制動快適性が限定される。路面勾配に関するナビゲーションシステムの情報または路面性状(グリップ性、平坦性)に関するセンサデータも、その他の境界条件となり得る。
【0037】
付属する変速機との共通給油部を有するリターダの場合、圧力監視部が変速機内の油面監視部を一緒に含むと特別有利である。リターダ作動回路中での圧力測定と合せた他の可能性は、変速機との共通給油部を有するリターダにおいて変速機内の油面の監視である。その際、実際の運転条件(回転数、意図する制動トルク、油温度)に依存してリターダ油圧から、もしくは目標圧力との偏差から、変速機内に油不足が存在し、場合によっては相応する保護措置を開始しなければならないか否かを突き止めることができる。
【0038】
最後になお設けておくことのできる機能監視部では、リターダ制御装置の機能信頼性が妥当性検査を頼りに点検され、その際リターダの少なくとも前記実際の油圧圧力が含められる。この妥当性検査のとき、付加的に油温度が考慮されるようにすることもできる。圧力監視と並ぶこの他の態様はリターダの油圧制御に役立つ。油圧力の監視は、場合によっては油温度または他の測定量と合せて、油圧制御装置の機能の妥当化に利用することができる。
【0039】
既存のセンサ信号相互の妥当化も可能である。リターダが制御装置によって作動されているにもかかわらず、例えば油圧力が測定されない場合、これは圧力センサの故障であることもある。測定された油温度が上昇する場合、圧力センサが故障していると考えることができる。しかし油温度が一定している場合、このことは、リターダが確かに電子制御装置によって作動されたが、油圧制御装置が故障し(例えば弁狭窄物)、またはシステム内の油が少なすぎることを示唆している。
【0040】
本発明の他の課題は、僅かな費用および設計支出において、制動トルクの調整精度を改善することのできる流体式リターダを調整し作動させるための装置を提供することである。
【0041】
この課題の解決は、独立した装置請求項の特徴から明らかとなる。
【0042】
これに関連して、本発明は自動車の流体式リターダを調整し作動させるための装置から出発する。提起された課題を解決するために本発明では、少なくとも1つの圧力センサを備えた調節可能な油圧回路をリターダが有し、この油圧回路に制御調節ユニットが付設されており、この制御調節ユニットが不揮発性データ記憶装置とプロセッサユニットとを有し、このプロセッサユニット内で実際の入力データと記憶されたデータが処理可能であり、またこのプロセッサユニット内で、処理されたデータからリターダの電気弁機構および/または油充填機構を作動させるための出力信号が発生可能であり、所定の目標制動トルクがこれらの機構を介して調整可能である。
【0043】
リターダの作動回路内の圧力を測定する圧力センサを使用すると、リターダ制動トルクの高い調整精度を比較的簡単かつ安価に達成することが可能となる。この圧力測定は、操作量を突き止めるための予調整の枠内で試験台において利用することができる。この予調整は、油圧圧力を考慮する基準マップおよび補正マップの態様で制御調節ユニット内に記憶することができる。
【0044】
制御調節ユニットは、マップと場合によっては実際の実際圧力での調節補正とを頼りに目標制動トルク設定値を入力信号として処理し、かつリターダ操作量用の相応する出力信号を出力するように形成されている。走行運転時に作動回路内で実際の圧力を測定し、試験台で機器固有のものとして決定された目標圧力に調節することができる。これから、目標制動トルクを生成するために、補償された目標電流を生成することができ、この目標電流が例えば比例弁を操作し、この比例弁を介してリターダ圧力が調整され、このリターダ圧力は、リターダ回転数と組合されて、所定の目標制動トルクを高い精度にてリターダで発生させる。
【0045】
調整精度のさらなる向上は油温度センサを頼りに達成することができ、この油温度センサは制御調節ユニットと信号技術的に結合されており、付加的に操作量の粘度補正を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】圧力および温度センサ装置を有する流体式リターダのリターダ回路の略図である。
【図2】リターダの制動トルクを調整するための図式である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
本発明を明確にするために一実施例の図面が明細書に添付されている。
【0048】
自動車の流体式リターダ1の作動回路として形成されるリターダ回路15が図1に示してある。このようなリターダの構造と機能様式はそれ自体周知であり、ここでは本発明にとって重要な部材のみを詳しく言及する。
【0049】
作動回路15は油供給のためにポンプ10と上流側の濾過器12とを有し、このポンプは電気モータ2を介して駆動可能かつ調節可能である。ポンプ10はオイルパン11から給油可能である。さらに、リターダ1内で熱に変換される運動学的流れエネルギーを排出するための熱交換器3が設けられている。リターダ1を充填し排出するために入口側および出口側に2つの逆止め弁4、5がそれぞれ配置されており、リターダ出口に付加的に1つの排出弁14が設けられており、この排出弁14を介してリターダ1は必要に応じて完全排出可能である。
【0050】
作動回路15は制御調節ユニット6によって調節可能である。制御調節ユニット6は、作動回路15内の油圧圧力を検出するための1つの圧力センサ9と、回路内および直接に熱交換器3でそれぞれ油温度を検出するための2つの温度センサ7、8とに結合されている。さらに、制御調節ユニット6はリターダ制御のために制御線路を介して調節弁13と電気モータ2とに結合されている。調節弁13は有利には電気比例弁として形成されており、この比例弁の通電を介してリターダ1は制御可能である。
【0051】
本発明によれば、制御調節ユニット6が不揮発性データ記憶装置とプロセッサユニットとを有し、このプロセッサユニットにおいて実際の入力データと記憶されたデータが処理可能であり、また処理されたデータから調節弁13を作動させるための出力信号が発生可能である。図1に示す配置は、調節弁13を介しても調節可能な電気モータ2を介してもリターダの制御を可能とする。
【0052】
自動車の流体式リターダを調整し作動させるための本発明に係る方法は、リターダの油圧作動回路15内で測定した油圧圧力を考慮する予調整に実質依拠している。
【0053】
図2は図1に示す構造様式に相応するリターダもしくはリターダ回路を調整し作動させるための図式を示しており、これに基づいて本発明に係る方法が以下で説明される。
【0054】
それによれば、重要な要求、例えば運転者または別のシステムの制動トルク要求から目標制動トルクMsollがリターダ制御装置において設定値として決定され、この設定値は場合によっては、車両またはシステムに起因した諸制限(ABS、温度帰還調節等)によって低減される。ところでリターダ1の制御調節ユニット6は、調節弁13の相応する電流をリターダ1で調整することによってこの帰結する設定値、つまり目標制動トルクMsollを発生するよう試みる。
【0055】
所要の精度を達成するために、目標制動トルクMsollと実際のリターダ回転数とから電流Irefが決定され、この電流は電流基準マップ16に依拠している。電流基準マップ16において、基準電流Irefは目標制動トルクMsollおよびリターダ回転数にわたって確定されている。この基準マップ16は事前に実験で全機器に対して事前に決定されたれたものであり、制御調節ユニット6内に固定記憶されている。
【0056】
基準マップ16の基準電流Irefは、引き続き電流オフセットIkorrを付加される。この電流オフセットは、目標制動トルクMsollおよびリターダ回転数にわたってオフセットIkorrをプロットした機器固有の電流補正マップ17から取り出される。この機器固有の補正マップ17は個々のリターダについて試験台で決定され、制御調節ユニット6内に持続的に記憶される。
【0057】
引き続き、作動回路15内の油の温度依存粘度について、電流補正が固定記憶された電流補正特性曲線18を使用することによって付加的に行われ、この電流補正特性曲線18には別の電流オフセットIkorr、ηが油温度にわたってプロットされている。個々の電流成分Iref、Ikorr、Ikorr、ηを加算することによって、それらから目標電流Isollが決定される。
【0058】
本発明によれば、目標電流Isollの算定と平行して目標圧力psollが同様に算定される。目標制動トルクMsollおよびリターダ回転数にわたって基準圧力prefが確定されている圧力基準マップ19は全機器について制御調節ユニット6内に記憶される。基準マップ19のこの圧力prefは次に圧力オフセットpkorrを付加される。この圧力オフセットは、目標制動トルクMsollおよびリターダ回転数にわたって圧力オフセットpkorrをプロットした機器固有の圧力補正マップ20から取り出される。この機器固有の補正マップ20はやはり個々のリターダについて試験台で決定され、制御調節ユニット6内に持続的に記憶される。
【0059】
付加的に、油粘度の圧力補正も考慮され、この圧力補正は圧力補正特性曲線21に固定格納されており、この圧力補正特性曲線21には他の圧力オフセットpkorr、ηが油温度にわたってプロットされている。個々の圧力成分pref、pkorr、pkorr、ηを加算することによって目標圧力psollが決定される。
【0060】
マップすなわち特性曲線16〜21は、作動回路15内の圧力を考慮して、所定の目標制動特性曲線に相応して制動トルク(リターダ回転数に対する制動トルク)を調整するためのリターダ1の予調整を表す。
【0061】
目標圧力psollは基本的に、付加的調節量として、好適な仕方で目標電流Isollに応用することができる。本発明によれば、走行運転時、測定された実際の実際圧力pistと存在することのある偏差の補償とで目標圧力予調整の校正が実行される。目標圧力psollと実際圧力pistはコントローラ22(PIDコントローラ)において処理され、このコントローラは前記値の差から制御‐操作量を求め、この制御‐操作量は他の補正値として目標電流Isollに加算される。これにより得られる修正された目標電流Isoll、korrは、最後に、操作量としてリターダ1の比例調節弁13で調整される。
【符号の説明】
【0062】
1 リターダ
2 電気モータ
3 熱交換器
4 入口弁
5 出口弁
6 制御調節ユニット
7 温度センサ
8 温度センサ
9 圧力センサ
10 ポンプ
11 オイルパン
12 濾過器
13 弁機構;調節弁
14 排出弁
15 油圧回路
16 電流基準マップ
17 電流補正マップ
18 電流補正特性曲線
19 圧力基準マップ
20 圧力補正マップ
21 圧力補正特性曲線
22 コントローラ
ref 基準電流
korr 電流オフセット
korr、η 粘度影響用電流オフセット
soll 目標電流
soll、korr 修正された目標電流
soll 目標制動トルク
ref 基準圧力
korr 圧力オフセット
korr、η 粘度影響用圧力オフセット
soll 目標圧力
ist 実際圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の流体式リターダ(1)を調整し作動させるための方法であって、調節可能な油圧回路(15)とこの油圧回路(15)内の油圧圧力を検出するための手段とをリターダ(1)が有し、所定の制動トルク特性曲線に追従する制動トルクを生成するための少なくとも1つの予調整が行われ、この予調整が制御調節ユニット(6)内に持続的に格納され、この予調整に基づいてリターダ(1)が走行運転時に作動するものにおいて、
少なくとも予調整時にリターダ(1)の油圧回路(15)内の油圧圧力が考慮されることを特徴とする方法。
【請求項2】
走行運転時、制御調節ユニット(6)内に格納されている予調整とリターダ(1)の油圧回路(15)内で実際に測定された油圧実際圧力(pist)との間で平衡化が行われることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
走行運転時、車両制動運転にとって重要な運転パラメータから突き止められた各目標制動トルク(Msoll)が実質的に、修正された目標電流(Isoll、korr)を介して調整され、この目標電流が、リターダ(1)の油圧回路(15)に付属する電気弁機構(13)を操作し、各目標電流(Isoll、korr)が予調整と、予調整と実際圧力(pist)との平衡化とを介して決定されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
予調整が、機器に左右されない所定の少なくとも1つの基本調整と、車両運転開始前またはその時間的近傍で各リターダについて決定された機器固有の補正調整とを含むことを特徴とする、請求項1から3のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
機器固有の補正調整が試験台で行われることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
基本調整が電流基準マップ(16)を含み、リターダ(1)の電気弁機構(13)に通電するための電気基準電流(Iref)とリターダ(1)の目標制動トルク(Msoll)との間の関係が、この電流基準マップ内で確定されており、基本調整が圧力基準マップ(19)を含み、リターダ(1)の油圧回路(15)内の油圧基準圧力(pref)とリターダ(1)の目標制動トルク(Msoll)との間の関係が、この圧力基準マップ内で確定されていることを特徴とする、請求項1から5のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
補正調整が、電流基準マップ(16)を機器固有に補正するための電流補正マップ(17)と、圧力基準マップ(19)を機器固有に補正するための圧力補正マップ(20)とを含むことを特徴とする、請求項1から6のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
補正調整が電流補正特性曲線(18)および/または圧力補正特性曲線(21)を含み、これらの特性曲線において、リターダ(1)の油圧回路内の作動油の粘度の温度依存性が考慮されることを特徴とする、請求項1から7のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
油圧圧力を監視するための圧力監視部が少なくともリターダ(1)の油圧回路(15)内に設けられており、目標設定値またはそこから導出された変量からの許容外の圧力偏差が検知されると、この圧力監視部がエラー反応を生成することを特徴とする、請求項1から8のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
リターダ(1)の運転信頼性にとって重要な時間的圧力推移および/または単数または複数の閾値によって、前記目標設定値が規定されていることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
リターダが付属する変速機との共通給油部を有する場合、圧力監視部が変速機内の油面監視部を含むことを特徴とする、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
エラー反応が、リターダ(1)に関係する警告通知、運転制限および遮断の群から成る少なくとも1つの措置を含むことを特徴とする、請求項9から11のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
エラー反応の判定時、自動車の制動挙動にとって重要な少なくとも1つの境界条件が考慮されることを特徴とする、請求項9から12のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
車両重量および/または実際の路面勾配および/または実際の路面性状に関する情報が、境界条件として利用されることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
リターダの少なくとも前記実際の油圧圧力(pist)を含む妥当性検査に基づいてリターダ(1)の制御装置の機能信頼性を点検する機能監視部が設けられていることを特徴とする、請求項1から14のうちのいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
妥当性検査のとき付加的に油温度が考慮されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
自動車の流体式リターダ(1)を調整し作動させるための装置において、少なくとも1つの圧力センサ(9)を備えた調節可能な油圧回路(15)をリターダ(1)が有し、この油圧回路(15)に制御調節ユニット(6)が付設されており、この制御調節ユニットが不揮発性データ記憶装置とプロセッサユニットとを有し、このプロセッサユニット内で実際の入力データと記憶されたデータが処理可能であり、またこのプロセッサユニット内で、処理されたデータから、リターダ(1)の電気弁機構(13)および/または油充填機構を作動させるための出力信号が発生可能であり、所定の目標制動トルク(Msoll)がこれらの機構を介して調整可能であることを特徴とする装置。
【請求項18】
油圧回路(15)が少なくとも1つの油温度センサ(7、8)を有することを特徴とする、請求項17に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−537396(P2009−537396A)
【公表日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−511440(P2009−511440)
【出願日】平成19年4月25日(2007.4.25)
【国際出願番号】PCT/EP2007/054024
【国際公開番号】WO2007/134939
【国際公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【出願人】(500045121)ツェットエフ、フリードリッヒスハーフェン、アクチエンゲゼルシャフト (312)
【氏名又は名称原語表記】ZF FRIEDRICHSHAFEN AG
【Fターム(参考)】