説明

自動車の車体構造

【課題】軽量化を図りながら、正面衝突や側面衝突に対する強度の向上を実現した自動車の車体構造を提供する。
【解決手段】車体前部に配置され、前後方向に延びるフロントサイドフレーム2,3と、両フロントサイドフレーム2,3の後部上方に配置されたフロントサイドピラーアッパ6,7と、その前端が両フロントサイドフレーム2,3の前端に接合され、その後端が両フロントサイドピラーアッパ6,7の前端に接合され、更に、車幅方向内側にダンパベース26,27が接合されたアッパメンバ10,11とを備えた自動車のボディ1において、各アッパメンバ10,11が、閉断面を有するとともに、ダンパベース26,27との接合部位における閉断面内部にアウタスチフナ33およびインナスチフナ34を備え、各フロントサイドピラーアッパ6,7の後端の上下はボルト29,29によって締結されるように構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の車体構造に係り、軽量化を図りながら、フルラップ衝突やオフセット衝突に対する強度の向上を実現する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
モノコック構造の自動車(以下、モノコック車と記す)は、薄鋼板をプレス成型することで多数のボディパネルや骨格部材を製造した後、これらをスポット溶接等により接合することでボディが製造される。そして、このようなモノコック車には、車体の前方へ左右一対のフロントサイドフレームを延ばすとともに、これら両フロントサイドフレームの前端をバンパビームで連結し、フロントサイドフレームの後部上方に設けられた一対のフロントピラーの前端から左右一対のアッパメンバを前方へ延ばすとともに、連結部材を介してこれら前端を両フロントサイドフレームの前端外側に接合した車体構造を採用しているものがある。
【0003】
上記構成の車体構造では一般に、フロントサイドフレームの車幅方向外側にホイールハウスが設けられ、ホイールハウス上部に設けられたダンパベースが両アッパメンバの車幅方向内側に接合されている。ホイールハウスの後方には、ダッシュボードロアパネルが設けられ、これにより、エンジンルームと車室空間とが画成されている。そして、正面衝突による荷重は、フロントサイドフレームへ伝達されるだけでなく、アッパメンバを介してフロントピラーにも伝達されるようになっており、衝突荷重が所定値以上である場合には、フロントサイドフレームやアッパメンバ等の前部が大きく変形することで衝突エネルギを吸収し、車室空間の変形を防止して乗員の安全を図っている。
【0004】
低速運転中のフルラップ衝突と異なり、高速運転時における衝突やオフセット衝突などの場合、その衝突荷重は非常に大きいため、このような条件下では衝突荷重をフロントピラーへ効率的に分散させる必要がある。そして、この課題を解決するために、上記構成の車体構造において、アッパメンバを車体後方に向けて上がり勾配となるように略直線状に形成した自動車前部の車体構造が本出願人によって提案されている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−112173号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、フロントサイドフレーム等の前部の変形のみでは衝突エネルギが吸収されない場合、衝突荷重は前輪へ入力し、ダンパベースを介してアッパメンバへ伝達されるため、板厚を厚くする等してアッパメンバ後部の剛性を高める必要があった。また、各フレームを構成するパネルや骨格部材は上述したようにスポット溶接により接合されているのが一般的であるが、アッパメンバ後部の剛性を高めた場合には、アッパメンバとフロントピラーとの接合強度も高める必要があった。
【0006】
本発明は、このような背景に鑑みなされたもので、軽量化を図りながら、オフセット衝突およびフルラップ衝突に対する強度の向上を実現した自動車の車体構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明は、自動車の車体構造において、車体前部に配置され、前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、前記フロントサイドフレームの後部上方に配置された左右一対のフロントサイドピラーアッパと、その前端が連結部材を介して前記フロントサイドフレームの前端に接合され、その後端が前記フロントサイドピラーアッパの前端に接合され、更に、車幅方向内側にダンパベースが接合された左右一対のアッパメンバとを備え、前記アッパメンバは、閉断面を有するとともに、前記ダンパベースとの接合部位における前記閉断面内部にスチフナを備えるように構成する。
【0008】
また、上記構成の自動車の車体構造において、前記アッパメンバの後端を、前記フロントサイドピラーアッパにボルト締結するとよい。また、その左右側部が前記両フロントサイドピラーアッパの前端に接合されたダッシュボードアッパを更に備え、前記アッパメンバの後端を前記ダッシュボードアッパの各側部にボルト締結するとよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、フロントサイドフレームまたは前輪から入力した衝突荷重は、アッパメンバを介してフロントサイドピラーアッパへ伝達されるが、アッパメンバのダンパベースが接合された部位はスチフナによってその剛性を高められているため、フロントサイドフレーム等の前部の潰れ、衝突エネルギの吸収が確実に行われる。また、エネルギ吸収されなかった衝突荷重がアッパメンバの後部へ確実に伝達されるとともに、ダンパベース接合部位の変形により、ダンパベースが後退してダッシュボードロアに干渉する虞が低減される。
【0010】
また、アッパメンバの後端を、フロントサイドピラーアッパにボルト締結すること、あるいは、アッパメンバの後端を、ダッシュボードアッパの左右各側部にボルト締結することにより、アッパメンバがフロントサイドピラーアッパ等の車体構造に高い接合強度をもって確実に接合される。これにより、衝突時におけるダンパベースの後退が一層確実に防止され、正面衝突に対する乗員の安全性がより向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
≪実施形態の構成≫
以下、図面を参照して、本発明を適用した自動車用車体構造の一実施形態を詳細に説明する。本実施形態は、ハッチバック乗用車用のボディに本発明を適用したものであり、図1は実施形態に係る車体骨格構造を示す斜視図であり、図2は実施形態に係る車体骨格構造の前部を示す右側面図である。なお、図2以降においては、ボディ1の骨格構造が概ね左右対称の構成をなしているため、ボディ1の右側構造について説明し、左側構造についてはその説明を省略する。
【0012】
図1、図2に示すように、実施形態のボディ1は、その前部主要部材として、車体前部に配置された前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレーム2,3と、両フロントサイドフレーム2,3の後部側方に鉛直方向に延びる左右一対のフロントサイドピラーロア4,5と、両フロントサイドピラーロア4,5の上方に一体形成され、両フロントサイドフレーム2,3の後部上方に配置された左右一対のフロントサイドピラーアッパ6,7と、その前端が連結部材8,9を介して両フロントサイドフレーム2,3の前端に接合され、その後端が両フロントサイドピラーアッパ6,7の前端に接合された左右一対のアッパメンバ10,11とを備えている。
【0013】
両フロントサイドフレーム2,3の前端には、前方に延出する左右一対のフロントサイドフレームエクステンション12,13が接合され、その前端には左右方向に延在するバンパビーム14が設けられている。また、両フロントサイドフレーム2,3の前端部車幅方向内側には、左右のバルクヘッドサイドステイ15,16が垂設され、その上端がバルクヘッドアッパフレームで連結されると共に、その下方には左右にフロントロアクロスメンバ17が設けられている。
【0014】
左右のフロントサイドピラーアッパ6,7と左右のアッパメンバ10,11との接合部には、その左右のダッシュボードサイドメンバ18,19が接合されたダッシュボードアッパ20が水平に延設されており、その下方にはダッシュボードロア21が垂設されてエンジンルーム22と車室23とを画成している。左右のアッパメンバ10,11の車幅方向内側であってダッシュボードロア21の前方には、その上下がアッパメンバ10,11とフロントサイドフレーム2,3とにそれぞれ接合された左右一対のホイールハウス24,25が設けられており、その上端部にはそれぞれダンパベース26,27が一体形成されている。
【0015】
図2に示すように、ダッシュボードサイドメンバ19は、フロントサイドピラーアッパ7の前端7aを前方へ延出するような形態で、フロントサイドピラーアッパ7にスポット溶接されている。そして、アッパメンバ11の後端は、フロントサイドピラーアッパ7の前端7aおよびダッシュボードサイドメンバ19にスポット溶接されている。また、アッパメンバ11は後端に近づくほど横断面形状における縦寸法が大きくなっており、後端近傍の上部がボルト28によってダッシュボードサイドメンバ19に締結されるとともに、後端近傍の下部がボルト29によってフロントサイドピラーアッパ7の前端7aに締結されている。
【0016】
図3は実施形態に係る車体骨格構造の要部を示す透視右側面図であり、図4は図2中のIV−IV断面図である。図3、図4に示すように、アッパメンバ11は、その車幅方向外側面および上面を構成するアッパメンバアウタ31と、その車幅方向内側面および下面を構成するアッパメンバインナ32とから構成された閉断面を有している。そして、ダッシュボードアッパ20との接合部においては、図4に示すように、ダッシュボードサイドメンバ19がアッパメンバアウタ31とアッパメンバインナ32とに接合されることによって、閉断面を形成している。そして、アッパメンバインナ32のダッシュボードサイドメンバ19とのラップ部位における車幅方向内側面に、ダンパベース27が接合されている。
【0017】
アッパメンバ11の閉断面内には、前後方向におけるダンパベース27が接合された位置に、アッパメンバアウタ31の上面および車幅方向外側面に沿って断面略円弧状のアウタスチフナ33が設けられ、アッパメンバインナ32の下面および車幅方向内側面に沿って断面L字状のインナスチフナ34が設けられている。
【0018】
図4に示すように、ダッシュボードサイドメンバ19の車幅方向内側には、ウェルドナット30が設置されており、ボルト28がアッパメンバ11の車幅方向外側から締め付けられることで、ウェルドナット30と螺着し、アッパメンバ11とダッシュボードサイドメンバ19とを締結している。同様に、ボルト29が設置されるフロントサイドピラーアッパ7の前端7a(フロントサイドピラーロア5の上方前端部)の内側にも、図示しないウェドナットが溶着されており、アッパメンバ11とフロントサイドピラーアッパ7とがボルト締結されている。
【0019】
≪実施形態の作用効果≫
次に、本実施形態のボディ1における作用効果について説明する。自動車の走行時あるいは停車時において、ボディ1の前面に車両や障害物が衝突する(すなわち、正面衝突が起きる)ことがある。正面衝突によってバンパビーム14から入力した衝突荷重は、フロントサイドフレーム2,3を伝って後方のフロアフレームやサイドシルインナ等に伝達される。また、アッパメンバ10,11に入力した衝突荷重は、後方のフロントサイドピラーアッパ6,7に伝達される。衝突荷重が大きい場合には、フロントサイドフレーム2,3およびアッパメンバ10,11の前部が最初に潰れることにより、衝突エネルギが吸収される。
【0020】
しかし、高速走行時におけるフルラップ衝突の場合や、オフセット衝突の場合など、フレーム前部の変形のみでは衝突エネルギが吸収されない場合、障害物または潰れたアッパメンバ11の前部が前輪(図示せず)に干渉し、前輪およびダンパベース27を押し下げる。この際、アッパメンバ11には、長手方向への圧縮荷重だけでなく、後端接合部を支点とする下方向への曲げモーメントが作用するが、後端に近づくほど横断面形状における縦寸法が大きくなっているため、アッパメンバ11後部の衝突に対する曲げ剛性が高められている。
【0021】
また、ダンパベース27から入力した衝突荷重は、アッパメンバ11に対し、圧縮荷重、下方向の曲げモーメントだけでなく、車幅方向内側への曲げモーメントを作用させるが、アウタスチフナ33およびインナスチフナ34がダンパベース27の配置位置におけるアッパメンバ11の閉断面内に設けられているため、アッパメンバ11の前端から入力する衝突荷重だけでなく、ダンパベース27から入力する衝突荷重に対しても、アッパメンバ11の剛性が高められている。
【0022】
更に、アッパメンバ11の後端近傍の上下が、ボルト28,29によってそれぞれダッシュボードサイドメンバ19およびフロントサイドピラーアッパ7の前端7aに締結されていることにより、アッパメンバ11後端とフロントサイドピラーアッパ7前端との接合強度が高められており、剛性の高められたアッパメンバ11がボディ1に確実に接合される。したがって、アッパメンバ11に入力した衝突荷重がフロントサイドピラーアッパ7へ効率的に伝達される他、アッパメンバ11の接合が外れることによってダンパベース27が後退してダッシュボードロア21に干渉することが抑止されている。これにより、正面衝突を起しても車室23が確保され、乗員に対する安全性が向上している。
【0023】
本実施形態では、上述したように、アッパメンバ11の構成部材(アッパメンバアウタ31およびアッパメンバインナ32)の板厚を厚くするのではなく、必要に応じて断面寸法を変化させたり、補強材(アウタスチフナ33およびインナスチフナ34)を用いたりすることにより、ボディ1の軽量化を図りながら、オフセット衝突およびフルラップ衝突に対するボディ1の強度向上を実現できた。
【0024】
また、アッパメンバ11を、アッパメンバアウタ31およびアッパメンバインナ32と、アウタスチフナ33およびインナスチフナ34とに分割したため、必要に応じて板厚や材質(通常の鋼板と高張力鋼板)を使い分けることが可能となり、成型性や生産性の向上を実現できた。
【0025】
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。例えば、上記実施形態は本発明をハッチバック乗用車に適用したものであるが、セダン型4ドア/2ドア乗用車等、他の自動車に本発明を適用してもよい。また、上記実施形態ではアッパメンバ11の後端上部をダッシュボードサイドメンバ19に締結しているが、フロントサイドピラーアッパ7の前端7aへ直接締結してもよい。更に、アッパメンバ10,11やフロントサイドピラーアッパ6,7、フロントサイドピラーロア4,5等の具体的形状や接合形態等についても、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施形態に係る車体骨格構造を示す斜視図
【図2】実施形態に係る車体骨格構造の前部を示す右側面図
【図3】実施形態に係る車体骨格構造の要部を示す透視右側面図
【図4】図2中のIV−IV断面図
【符号の説明】
【0027】
1 ボディ
2,3 フロントサイドフレーム
4,5 フロントサイドピラーロア
6,7 フロントサイドピラーアッパ
8,9 連結部材
10,11 アッパメンバ
18,19 ダッシュボードサイドメンバ
20 ダッシュボードアッパ
21 ダッシュボードロア
22 エンジンルーム
23 車室
24,25 ホイールハウス
26,27 ダンパベース
28,29 ボルト
30 ウェルドナット
31 アッパメンバアウタ
32 アッパメンバインナ
33 アウタスチフナ
34 インナスチフナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前部に配置され、前後方向に延びる左右一対のフロントサイドフレームと、
前記フロントサイドフレームの後部上方に配置された左右一対のフロントサイドピラーアッパと、
その前端が連結部材を介して前記フロントサイドフレームの前端に接合され、その後端が前記フロントサイドピラーアッパの前端に接合され、更に、車幅方向内側にダンパベースが接合された左右一対のアッパメンバと
を備え、
前記アッパメンバは、閉断面を有するとともに、前記ダンパベースとの接合部位における前記閉断面内部にスチフナを備えたことを特徴とする自動車の車体構造。
【請求項2】
前記アッパメンバの後端が、前記フロントサイドピラーアッパにボルト締結されたことを特徴とする、請求項1に記載の自動車の車体構造。
【請求項3】
その左右側部が前記両フロントサイドピラーアッパの前端に接合されたダッシュボードアッパを更に備え、
前記アッパメンバの後端が、前記ダッシュボードアッパの各側部にボルト締結されたことを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の自動車の車体構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−29201(P2009−29201A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−193407(P2007−193407)
【出願日】平成19年7月25日(2007.7.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】