説明

自動車クロージャー部品および製造方法

【課題】接合部に圧痕や溶融部が形成されることがなく外観に優れ、十分な強度を有する接合部をそなえた自動車クロージャー部品およびその製造方法を提供する。
【解決手段】プレス成形された金属製のアウターパネル2とインナーパネル3からなり、端縁部Eが電磁シーム圧接されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車クロージャー部品、とくにフード(ボンネット)、ドア、トランクのような自動車クロージャー部品、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボンネット、ドア、トランクなどの自動車クロージャー部品を構成する材料は、機能性に応じて決められており、アルミニウム、鋼、樹脂、カーボンファイバーなど多種多用の材料とそれに適した接合手法が必要とされている。
【0003】
近年、歩行者保護のため自動車ボンネットへのアルミニウム材の適用が進んでいるが、その形状や加工方法、接合方法についてはまだ十分に開発されたとはいえず、多くの場合、ボンネットの製造は、ボンネットを構成するアウターパネルとインナーパネルを凹凸のある形状にプレス成形し、アウターパネルの外周の大部分をヘム加工して、ヘム加工部にインナーパネルを挿着し両者を接着することにより行われていた。
【0004】
また、補強材との接合には、抵抗スポット溶接、リベット接合、クリンチ、FSW(摩擦攪拌接合)、レーザ溶接、アーク溶接、ボルトナットによる結合が用いられてきた。しかしながら、これらの接合手法においては、いずれも接合部の両側に圧痕や溶融部が形成されるため外観上の難点がある。前記の接着は強度が十分でないとともに劣化の問題があり、他の接合法との組み合わせを余儀なくされる場合が多く、また施工時も塗布や養生に手間がかかるため生産性が劣る。
【0005】
上記の接合方法に対して、金属板を重ねて配置し、片側にコイルを配置して、コイルに放電電流を急激に流し、金属板に渦電流を生じさせてジュール加熱するとともに、金属板を互いに押し付け合う方向に向かって作用する電磁力を瞬間的に発生させて、金属板同士を衝突させ、固相接合する方法が提案されている(特許文献1、特許文献2、非特許文献参照)。
【特許文献1】特開平11−192562号公報
【特許文献2】特開2004−42085号公報
【非特許文献1】溶接学会平成17年度春季大会講演概要集、128頁、相沢友勝、岡川啓悟、辺見信夫「金属薄板の周回電磁シーム溶接」
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の接合方法をボンネット、その他の自動車クロージャー部品の製造に適用した場合、従来の問題を解消し得る接合部を形成することができることを見出した結果としてなされたものであり、その目的は、接合部に圧痕や溶融部が形成されることがなく外観に優れ、十分な強度を有する接合部をそなえた自動車クロージャー部品およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するための請求項1による自動車クロージャー部品は、プレス成形された金属製のアウターパネルとインナーパネルからなり、端縁部が電磁シーム圧接されていることを特徴とする。
【0008】
請求項2による自動車クロージャー部品は、請求項1において、前記アウターパネルの端部にヘム加工部を形成し、該ヘム加工部にインナーパネルを差込んで形成された3枚重ねの端縁部が電磁シーム圧接されていることを特徴とする。
【0009】
請求項3による自動車クロージャー部品は、請求項2において、前記3枚重ねの端縁部にシール剤または接着剤が充填されていることを特徴する。
【0010】
請求項4による自動車クロージャー部品は、請求項1において、前記アウターパネルの端部にヘム加工部が形成されるともに、該ヘム加工部の内方にアウターパネルとインナーパネルによりフランジ部を形成してなる端縁部のフランジ部が電磁シーム圧接されていることを特徴する。
【0011】
請求項5による自動車クロージャー部品は、請求項1〜4のいずれかにおいて、前記アウターパネルとインナーパネルの間にシール剤、クッション剤または接着剤が介在されていることを特徴とする。
【0012】
請求項6による自動車クロージャー部品は、請求項1〜5のいずれかにおいて、前記アウターパネルおよびインナーパネルの一方がアルミニウム板、他方がアルミニウム板、鋼板またはめっき鋼板の組み合わせからなることを特徴とする。
【0013】
請求項7による自動車クロージャー部品は、請求項1〜6のいずれかに記載の自動車クロージャー部品がフード、ドアまたはトランクであることを特徴とする。
【0014】
請求項8による自動車クロージャー部品の製造方法は、請求項1〜7のいずれかに記載の自動車クロージャー部品を製造する方法であって、アウターパネル側に裏当て治具を配置し、電磁力による板厚減少がインナーパネル側に生じるようにして、プレス成形されたアウターパネルとインナーパネルを端縁部および中央部で電磁シーム圧接することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、接合部に圧痕や溶融部が形成されることがなく外観に優れ、十分な強度を有し、劣化の問題もなく、施工時の生産性も良好な自動車クロージャー部品およびその製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の自動車クロージャー部品は、プレス成形された金属製のアウターパネルとインナーパネルからなり、端縁部が電磁シーム圧接されていることを特徴とするものであり、端縁部の電磁シーム圧接はつぎのように行われる。
【0017】
アウターパネルとインナーパネルとを重ね合わせ、その接合部位を、互いに押し付け合い得る状態、あるいは数mm以内の間隙がある状態とし、片側に圧接用コイルを配置して、圧接用コイルに瞬間大電流を流し、コイル側に位置するアウターパネルまたはインナーパネルの接合部位に、アウターパネルとインナーパネルとを互いに押し付け合う方向に向かって作用する電磁力を瞬間的に発生させて、接合部位において、アウターパネルとインナーパネルとを衝突させ、接合部位を瞬間的に圧接させることにより一体化する。圧接部は、使用形態に応じて、直線状、曲線状、円周状、あるいは交差状とすることができる。
【0018】
以下、自動車クロージャー部品としてフードを例として電磁シーム圧接の実施形態について説明する。図1のE−1に示すように、重ね合わせたアウターパネル2とインナーパネル3からなるフード1の端縁部Eを電磁シーム圧接する場合の第1の実施形態においては、アウターパネル2の端部にヘム加工部4を形成し、ヘム加工部4にインナーパネル3の端部を差込んで形成された3枚重ねの端縁部が電磁シーム圧接される。この場合、端縁部において、種々の形状に成形されたアウターパネル2(意匠面)側に裏当て治具を当て、インナーパネル3側にコイルを配置して電磁シーム圧接を行うのが好ましい。
【0019】
第2の実施形態は、図1のE−2に示すように、図1のE−1に示す3枚重ねの端縁部にシリコーンなどのシール剤またはエポキシ樹脂などの接着剤が充填されているものであり、一層強固な接合が得られる。
【0020】
第3の実施形態は、図1のE−3に示すように、フード1の端縁部Eが、アウターパネル2の端部にヘム加工部4が形成されるともに、ヘム加工部4の内方にアウターパネル2とインナーパネル3によりフランジ部5を形成してなり、フランジ部5が電磁シーム圧接されているもので、フランジ部5を必要とするフードに適用される。
【0021】
重ね合わせたアウターパネル2とインナーパネル3からなるフード1の端縁部Eのみでなく、中央部Cも電磁シーム圧接する場合の実施形態について説明すると、第1の実施形態は、図2に示すように、フード1の縦方向に複数の電磁シーム圧接部6を形成するものである。
【0022】
この場合は、種々の形状にプレス成形されたアウターパネル2側(意匠面側)に裏当て治具8を配置し、インナーパネル3側にコイル9を配置し、電磁力による板厚減少に起因するパネルの窪みがインナーパネル3側に生じるようにして、アウターパネル2とインナーパネル3とを中央部Cで電磁シーム圧接し、電磁シーム圧接部6を形成する。
【0023】
第2の実施形態は、図3に示すように、フード1に複数の円形状または楕円形状の電磁シーム圧接部7を形成するものである。この場合は、種々の形状にプレス成形されたアウターパネル2側(意匠面側)に裏当て治具8を配置し、インナーパネル3側にコイル9を配置し、電磁力による板厚減少に起因するパネルの窪みがインナーパネル3側に生じるようにして、アウターパネル2とインナーパネル3とを中央部Cで電磁シーム圧接し、電磁シーム圧接部7を形成する。
【0024】
図2に示す縦方向に複数の電磁シーム圧接部6を形成したフード1、および図3に示す複数の円形状の電磁シーム圧接部7を形成したフード1のアウターパネル2とインナーパネル3の間にシリコーンなどのシール剤、ウレタンなどのクッション剤またはエポキシ樹脂などの接着剤を介在させ、歩行者保護を目的とするフードを構成することもできる。
【0025】
本発明においては、アウターパネルおよびインナーパネルは金属板からなるが、アウターパネルおよびインナーパネルの一方がアルミニウム板、他方がアルミニウム板、鋼板またはめっき鋼板の組み合わせとするのが望ましい。アウターパネルおよびインナーパネル共にアルミニウム板なる構成する場合には、アウターパネルに比べインナーパネルをより薄くして、あるいはアウターパネルに比べインナーパネルをより軟質として、意匠性の重要なアウターパネルの変形を抑えることが望ましい。
【0026】
以上、本発明の自動車クロージャー部品について、フード(ボンネット)を例として説明したが、本発明は、ドアやトランクにも適用することができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明の実施例について説明する。これらの実施例は本発明の一実施態様を示すものであり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
実施例1
アルミニウム製アウターパネル(6061合金、調質:T4、板厚:1.1mm)とアルミニウム製インナーパネル(6061合金、調質:T4、板厚:0.9mm)とを所定形状にプレス成形し、これらのアウターパネルとインナーパネルを重ね合わせてフードに成形する。
【0029】
図1のE−1に示すように、アウターパネル2の端部にヘム加工部4(曲げ半径:R)を形成し、ヘム加工部4にインナーパネル3の端部を差込んで3枚重ねの端縁部Eを形成した。端縁部Eのアウターパネル2側に裏当て治具8を当て、インナーパネル3側にフード1の端縁部Eの長さの線状の電極コイル9を配置して、10kVの電圧で通電し、パネルに渦電流を発生させてパネル同士を衝突させ、数μsで電磁シーム圧接を行った。その結果、ヘム加工部のRは平坦化され、フードとして十分な接合強度を有していた。
【0030】
実施例2
実施例1において、図1のE−2に示すように、ヘム加工部4にシリコン系充填剤を塗布して電磁シーム圧接を行った。フード1の端縁部Eには充填剤が途切れることなく塗布、密封されたフードが形成され、フードとして十分な接合強度を有していた。
【0031】
実施例3
アルミニウム製アウターパネル(5182合金、調質:O材、板厚:1mm)とアルミニウム製インナーパネル(5182合金、調質:O材、板厚:1mm)とを所定形状にプレス成形し、これらのアウターパネルとインナーパネルを重ね合わせてフードに成形する。
【0032】
図1のE−3に示すように、アウターパネル2の端部にヘム加工部4を形成し、ヘム加工部4の内方にアウターパネル2とインナーパネル3によりフランジ部5を形成し、図1のE−3に示すように、裏当て治具8と端縁部Eの長さの線状の電極コイル9を配置して、10kVの電圧で通電し、パネルに渦電流を発生させてパネル同士を衝突させて電磁シーム圧接を行ったところ、接合部はフードパネルとして十分な強度をそなえていた。
【0033】
実施例4
実施例1において、図1のE−1に示すように、3枚重ねの端縁部Eのアウターパネル2側に裏当て治具8を当て、インナーパネル3側にフード1の端縁部Eの長さの線状の電極コイル9を配置した。
【0034】
また、図2に示すように、フード1の中央部Cも電磁シーム圧接し、フード1の縦方向に複数の電磁シーム圧接部6を形成するために、フード中央部のアウターパネル2側に裏当て治具8を当て、インナーパネル3側に電極コイル9を配置した。
【0035】
端縁部Eと中央部Cに配置した電極コイル9、9に同時に通電してパネルに渦電流を発生させ、パネル同士を衝突させて、フードの端縁部Eと中央部Cとを同時に電磁シーム圧接した。その結果、図2に示すように、フード中央部の縦方向に、複数本の波型に窪んだ電磁シーム圧接部6がインナーパネル側に形成された。
【0036】
得られたフードについて、アウターパネル側から人頭を模したハンマーをぶつける衝撃試験を行ったところ、人頭を破壊しない規定値の衝撃吸収性をそなえていることが確認された。
【0037】
実施例5
実施例4において、図1のE−1に示すように、3枚重ねの端縁部Eのアウターパネル2側に裏当て治具8を当て、インナーパネル3側にフード1の端縁部Eの長さの線状の電極コイル9を配置するとともに、図3に示すように、フード1の中央部Cにも複数の楕円形状の電磁シーム圧接部7を形成するために、フード中央部のアウターパネル2側に裏当て治具8を当て、インナーパネル3側に電極コイル9を配置した。
【0038】
端縁部Eと中央部Cに配置した電極コイル9、9に同時に通電してパネルに渦電流を発生させ、パネル同士を衝突させて、フードの端縁部Eと中央部Cとを同時に電磁シーム圧接した。その結果、図3に示すように、フード中央部に、複数の波型に窪んだ楕円形状の電磁シーム圧接部7がインナーパネル側に形成された。
【0039】
得られたフードについて、アウターパネル側から人頭を模したハンマーをぶつける衝撃試験を行ったところ、人頭を破壊しない規定値の衝撃吸収性をそなえていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】フードの端縁部を電磁シーム圧接するための本発明による実施形態を示す図である。
【図2】フードの中央部を電磁シーム圧接するための本発明による実施形態を示す図である。
【図3】フードの中央部を電磁シーム圧接するための本発明による他の実施形態を示す図である。
【符号の説明】
【0041】
1 フード
2 アウターパネル
3 インナーパネル
4 ヘム加工部
5 フランジ部
6 電磁シーム圧接部
7 電磁シーム圧接部
8 裏当て治具
9 電極コイル
E 端縁部
C 中央部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形された金属製のアウターパネルとインナーパネルからなり、端縁部が電磁シーム圧接されていることを特徴とする自動車クロージャー部品。
【請求項2】
前記アウターパネルの端部にヘム加工部を形成し、該ヘム加工部にインナーパネルを差込んで形成された3枚重ねの端縁部が電磁シーム圧接されていることを特徴とする請求項1記載の自動車クロージャー部品。
【請求項3】
前記3枚重ねの端縁部にシール剤または接着剤が充填されていることを特徴するた請求項2記載の自動車クロージャー部品。
【請求項4】
前記アウターパネルの端部にヘム加工部が形成されるともに、該ヘム加工部の内方にアウターパネルとインナーパネルによりフランジ部を形成してなる端縁部のフランジ部が電磁シーム圧接されていることを特徴する請求項1記載の自動車クロージャー部品。
【請求項5】
前記アウターパネルとインナーパネルの間にシール剤、クッション剤または接着剤が介在されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の自動車クロージャー部品。
【請求項6】
前記アウターパネルおよびインナーパネルの一方がアルミニウム(合金を含む、以下同じ)板、他方がアルミニウム板、鋼板またはめっき鋼板の組み合わせからなることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の自動車クロージャー部品。
【請求項7】
フード、ドアまたはトランクであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の自動車クロージャー部品。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の自動車クロージャー部品を製造する方法であって、アウターパネル側に裏当て治具を配置し、電磁力による板厚減少がインナーパネル側に生じるようにして、プレス成形されたアウターパネルとインナーパネルを端縁部および中央部で電磁シーム圧接することを特徴とする自動車クロージャー部品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−221865(P2008−221865A)
【公開日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−58473(P2007−58473)
【出願日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【出願人】(000002277)住友軽金属工業株式会社 (552)
【Fターム(参考)】