説明

自動車用フロア敷設材およびその製造方法

【課題】カーペット屑を利用したリサイクル材である自動車用フロア敷設材において、それ自体が発生する揮発性有機化合物(VOC)の放出量を低減する。
【解決手段】自動車室内のフロアパネル上に敷設されて、フロアパネルとフロアカーペットの間の隙間を埋める自動車用フロア敷設材1が、表層10と薬剤層12と裏層11とが順番に積層された構成である。表層10と裏層11は、互いに混合され熱硬化性バインダーによって結合させられたカーペット屑粉砕物および不織布裁断物からなる。薬剤層12は、固体もしくは液体であって、吸着機能を有する吸着剤と、触媒作用を有する分解剤と、化学反応を伴う変性剤とのうちの少なくとも1つの薬剤を含んでいる。表層10と裏層11はこのような薬剤を含有していない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車用フロア敷設材に関し、特に、自動車用フロアカーペットのトリミングロス等であるカーペット屑粉砕物を用いて形成される自動車用フロア敷設材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車のフロアパネルは、タフテッドカーペットやニードルパンチカーペットなどの種々のフロアカーペットを敷設することによって被覆され、フロアカーペットが自動車室内を装飾している。
【0003】
自動車のフロアパネルの表面は、シートやロッカーパネルやダッシュパネルなどのために様々な凹凸形状を有しており、このようなフロアパネルの表面上に敷設される自動車用フロアカーペットは、フロアパネルの表面に沿う形状に成形しておく必要がある。タフテッドカーペットやニードルパンチカーペットなどのフロアカーペットを所望の形状に成形するために、フロアカーペットの裏面に熱可塑性樹脂の裏打ちを施し、この裏打ち部分を加熱して裏打ち部分が可塑化した状態において、この裏打ちされたフロアカーペットを成形型内に配設して型締めすることによって、フロアパネルの表面に沿った所望の形状に成形することができる。
【0004】
自動車用フロアカーペットには、意匠性のほかに、車外から車室内に伝播する振動や音波を減衰または遮蔽する防音性や、乗員が乗降する際の踏み心地および平坦性を確保する剛性や、その他に保湿性や吸湿性等の特性が必要とされている。これらの必要な特性を同時に満たすことが自動車用フロアカーペット単体では困難な場合には、自動車用フロアカーペットとフロアパネルとの間に、嵩上げ機能を有するとともに前記した各種の特性を向上させる自動車用フロア敷設材を介在させている。
【0005】
これらの自動車用フロア敷設材としては、一般に、各種の合成繊維や、熱可塑性もしくは熱硬化性樹脂の発泡体などが用いられている。具体的には、ビーズ状の熱可塑性樹脂発泡体を加熱発泡させて結合させたビーズ発泡タイプや、繊維、あるいは粉砕した発泡体を結合させたバインダータイプや、ニードルで繊維を突き固めて形成したニードルパンチタイプ等のフロア敷設材がある。これらのフロア敷設材は、自動車ごとの必要な特性に合わせて密度や厚さが設定され、場合によっては複数種のタイプのフロア敷設材が組み合わせて用いられる例もある。
【0006】
ところで、前記した自動車用フロアカーペットを製造する際には、外周のトリミングロスや、コンソールボックスなどを避けるための孔加工などによって、多量のカーペット屑が発生する。通常は廃棄物として棄てられるこのようなカーペット屑をリサイクルして有効利用するとともに、廃棄処理にかかるコストを削減する試みが従来からなされている。その一例として、フロアカーペットのトリミングロスやフロアカーペットの廃棄物から回収される合成繊維であるカーペット屑粉砕物と、合成繊維からなる不織布裁断物を、熱硬化性バインダーで結合させるとともに、プレス成形することによって、自動車用フロア敷設材を形成する場合がある。すなわち、この自動車用フロア敷設材は、フロアカーペットのリサイクル材であるカーペット屑の有効利用と廃棄コストの低減を可能にするとともに、ビーズ発泡タイプ、バインダータイプ、ニードルパンチタイプ等のフロア敷設材を別途作製する必要をなくし、資源の節約および製造コストの低減を達成することができる。
【0007】
なお、特許文献1には、カーペット屑裁断物にポリオレフィン繊維不織布廃材を溶融させ、さらに熱可塑性エラストマー廃材を加えて混合溶融させた後にペレット化した材料を用いて成形した自動車用樹脂板が記載されている。この自動車用樹脂板の用途としては、自動車用フロア板、トランクのトリム板、内装トリム板が挙げられている。
【特許文献1】特開2002−88263号公報
【特許文献2】特開2000−51054号公報
【特許文献3】特開2001−218668号公報
【特許文献4】特開2005−198684号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
フロアカーペットのトリミングロス等であるカーペット屑裁断物と、合成繊維からなる不織布およびバインダー樹脂とを含む自動車用フロア敷設材は、繊維油剤の変性物、熱硬化性バインダー残存モノマーの変性物、またはその他の周辺からの汚染物として、ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどの揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compounds)を発生する可能性がある。
【0009】
ホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのVOCは、シックハウス(室内空気汚染)の一要因として近年問題視されるようになってきている。例えば、特許文献2〜4には、建物の内部にて床材や壁材などの建材から発生するVOCを吸収・除去するためのカーペットが提案されている。ただし、これらのカーペットは、建材から広い室内に一旦放出されたVOCのうち、カーペットに到達したものののみを吸収・除去するものに過ぎない。
【0010】
近年では、特許文献2〜4にて問題にされていた建物内部だけでなく、自動車室内においても、乗員が蒸発・気化したVOCを吸入することによって、不快な症状をもたらす惧れが指摘されるようになってきている。そこで、VOCの発生量を低減するための対策が考えられており、例えば、発生源対策を行うことによりVOCの発生量を低減する試みがなされている。しかし、発生源対策によって、VOCの発生量のある程度の低減は図れるものの、各物質の意図しない混合や汚染の影響等により、VOCの発生量を確実に抑えるには至っていない。特に、フロアカーペットのリサイクル材(カーペット屑)は、熱硬化性バインダー以外の材料が工程内リサイクル材料であり、その種類は多岐にわたるため、そのカーペット屑から発生するVOCの発生量を安定的に抑制することはできない。
【0011】
そこで本発明は、自動車用フロアカーペットの製造時に生じるカーペット屑を再生して形成されるリサイクル材であって、そのリサイクル材自体が発生源となって室内に放出するホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのVOCの放出量を、著しく低減することができる自動車用フロア敷設材とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、自動車室内のフロアパネル上に敷設されて、フロアパネルとフロアカーペットの間の隙間を埋める自動車用フロア敷設材において、互いに混合されるカーペット屑粉砕物および不織布裁断物と、カーペット屑粉砕物と不織布裁断物とを結合させる熱硬化性バインダーと、揮発性有機化合物の放出量を低減させるための薬剤とを含むことを特徴とする。
【0013】
この構成によると、薬剤によって、カーペット屑粉砕物や不織布や熱硬化性バインダーなどからのVOCの発生量を低減する、またはVOCをフロア敷設材内部にて吸着、分解、変性して自動車室内へのVOCの放出量を低減することが可能である。
【0014】
薬剤としては、固体もしくは液体であって、吸着機能を有する吸着剤、または触媒作用を有する分解剤、または化学反応を伴う変性剤が好適に用いられる。吸着剤は多孔質表面を有しているものであってもよい。発生するVOCの種類に応じて、様々な薬剤を適宜選択して用いることができるため、効率よくVOCの放出量を低減することができる。このとき、自動車用フロア敷設材に添加される薬剤は、1種類でもよいし、複数種の薬剤を添加してもよく、複数の薬剤を配合して添加することも可能である。
【0015】
薬剤からなり、自動車用フロア敷設材の全面に、または部分的に設けられている薬剤層を含む構成であると、VOCを効率よく、吸着、分解、または変性させることが可能であり、VOCの室内への放出量をより一層低減することができる。
【0016】
薬剤層は複数積層されていることが好ましい。なぜならば、このような構成にすることによって、VOCと薬剤との接触頻度が増大するため、VOCの自動車室内への拡散量が著しく低減できるからである。
【0017】
また、このフロア敷設材は、表層と裏層とを有し、薬剤層は表層と裏層との間に挟まれていることが好ましい。さらに、表層および裏層はカーペット屑粉砕物と不織布裁断物と熱硬化性バインダーとからなり、薬剤を含有していないことが好ましい。これは、薬剤が表層および裏層から離れて位置する薬剤層のみに存在することを意味し、それによって、薬剤が自動車用フロア敷設材の表面から脱落するおそれがなく、また、薬剤の影響で自動車用フロア敷設材の表面がべとつくなどの不具合を抑えることができる。
【0018】
薬剤層が、層厚方向に沿って切断した断面形状が波形状であると、薬剤層の表面積が増加するため、VOCと薬剤層との接触頻度が増大し、VOCの自動車室内への拡散量をより低減することができるという利点がある。
【0019】
また、本発明の自動車用フロア敷設材の製造方法は、カーペット屑粉砕物と不織布裁断物とバインダー樹脂とを混合した成形材料を用意する工程と、成形材料の一部を成形型に投入する工程と、吸着機能を有する吸着剤、触媒作用を有する分解剤、化学反応を伴う変性剤のうちの少なくとも1つを含む、揮発性有機化合物の放出量を低減するための薬剤を、成形型に投入された前記成形材料からなる層の表面の全面にもしくは部分的に塗布することによって、薬剤層を形成する工程と、成形型に投入された成形材料からなる層の上に形成された薬剤層の上に、残りの成形材料を投入する工程と、成形材料からなる2つの層と、この2つの層の間に位置する薬剤層とが収容された成形型を、型締めして加熱する工程と、を含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明の自動車用フロア敷設材は、フロアカーペットの製造時のトリミングロスからなるカーペット屑粉砕物を主要な成分として形成されるリサイクル材であって、資源の節約およびコストの低減に寄与する。しかも、このリサイクル材自体から発生する揮発性有機化合物(VOC)を、薬剤によって、吸着、分解、変性して、自動車室内へのVOCの放出量を著しく低減できる。このため、この自動車用フロア敷設材をフロアパネル上に敷設しても、乗員に不快感を及ぼす惧れを著しく低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0022】
(構成)
図1は本発明の第1の実施形態の自動車用フロア敷設材を示す斜視図、図2はそのA−A線断面図である。このフロア敷設材1は、裏層11、薬剤層12、表層10が順番に積層された構成である。表層10および裏層11は、カーペット屑粉砕物と不織布裁断物とが混合され熱硬化性バインダーによって互いに結合させられたものである。一例として、本実施形態では、カーペット屑粉砕物は、自動車用フロアカーペットの製造時のトリミングロスから回収された合成繊維からなり、不織布裁断物はスパンボンド不織布の裁断物であり、熱硬化性バインダーはポリウレタン系バインダーである。
【0023】
薬剤層12は、固体もしくは液体である、吸着機能を有する吸着剤、触媒作用を有する分解剤、または化学反応を伴う変性剤のうちの、少なくとも1つの薬剤が、表層10または裏層11に塗布されることによって形成された層である。薬剤の塗布量は6.0g/m2以上であり、より好ましくは12.0g/m2以上である。吸着剤としては活性炭が好適に用いられ、これは揮発性有機化合物(VOC)を捕捉して、VOCの自動車室内への放出・拡散を防ぐ機能を有している。分解剤としては酸化チタンなどの光触媒が好適に用いられ、これはVOCを二酸化炭素と水に分解する機能を有している。変性剤としてはアミン系のアルデヒドキャッチャー剤が好適に用いられ、これはVOCと反応して、VOCをアルコキシドに変性させる機能を有する。いずれの薬剤も、VOCの自動車室内への放出量を低減させるためのものである。
【0024】
このフロア敷設材1は、防音性、高い剛性、保湿性、および吸湿性等の好ましい特性をフロアカーペットに付与するとともに、フロアカーペットの製造時のトリミングロスを主要な成分とするリサイクル材であるため、コストの低減や資材の節約の効果がある。しかも、薬剤層12が、カーペット屑粉砕物や不織布裁断物や熱硬化性バインダーから発生するホルムアルデヒドやアセトアルデヒドなどのVOCを吸着、分解、または変性させることによって、VOCの室内への放出量を著しく低減することができる。従って、このフロア敷設材1を自動車室内のフロアパネル上に敷設すると、VOCの発生によって乗員に不快感を及ぼす惧れを著しく低減することができる。
【0025】
(製造方法)
次に、図1,2に示す自動車用フロア敷設材1の製造方法について説明する。
【0026】
まず、自動車用フロアカーペットの製造時のトリミングロスまたは廃棄物からなるリサイクル材(合成繊維)であるカーペット屑粉砕物と、スパンボンド不織布の裁断物と、ポリウレタン系などの熱硬化性バインダーとを所定の比率で配合し、所定量の成形材料を作製する。そして、この所定量の成形材料を概ね1/2ずつに分けて、1/2ずつに分けた成形材料のうちの一方を、図示しない成形型のキャビティ内に投入する。なお、成形型のキャビティは、通常は薄板状であるフロア敷設材1の所望の外形に合わせた形状である。
【0027】
次に、成形型のキャビティ内に投入された、所定量の1/2の成形材料からなる層(表層10または裏層11)の表面上に、薬剤層12を形成する。薬剤層12は、前記したとおり、活性炭などの多孔質表面を有し吸着機能を有する吸着剤、光触媒(例えば酸化チタン)などの触媒作用を有する分解剤、およびアミン系のアルデヒドキャッチャー剤などの変性剤のうちの少なくとも1つを含む、固体または液体の薬剤から形成される。薬剤層12の形成方法としては、例えば吸着剤等の薬剤が液体である場合には、スプレーなどで霧状に噴霧することや、如雨露などで液滴状にして滴下することが望ましい。また、吸着剤等の薬剤が固体である場合には、水に分散させた後に前記した液体の場合と同様にスプレーによる霧状の噴霧や如雨露による滴下を行うこと、あるいは、粉体のまま振動篩などで散布することが望ましい。ここでは、これらの方法を総称して「塗布」と言う。薬剤の塗布量は6.0g/m2以上、好ましくは12.0g/m2以上であり、できるだけ均一な厚さに塗布することが好ましい。
【0028】
それから、所定量の1/2である、残りの成形材料を、成形型のキャビティ内の薬剤層12の表面上に投入する。このようにして成形型のキャビティ内に、成形材料の層(表層10)/薬剤層12/成形材料の層(裏層11)という3層のサンドイッチ構造を形成し、それから、蒸気を用いてこの成形型を加熱すると同時に、型締めして成形することによって、図1,2に示すフロア敷設材1を作製する。
【0029】
なお、表層10、薬剤層12、裏層11の順番に形成するか、裏層11、薬剤層12、表層10の順番に形成するかは、作業者が適宜に決定すればよい。
【0030】
本実施形態によると、成形前の材料に薬剤を添加するのではなく、フロア敷設材1の成形中に薬剤層12を形成するため、固体の薬剤を用いる場合には薬剤のロスが少なくなるとともに脱落が防止できる。液体の薬剤を用いて薬剤層12を形成する場合には、薬剤が放置されている間に熱硬化性バインダーの硬化が進行するのを抑えるため、薬剤層12を形成してから1分以内に型締めを行うことが望ましい。
【0031】
また、薬剤層12は表層10および裏層11に挟まれた構成であり、表層10および裏層11は、前記した通りカーペット屑粉砕物と不織布裁断物と熱硬化性バインダーとからなり、薬剤を含有していないため、薬剤はフロア敷設材1の表面および裏面から離して配置することができる。この構成によると、フロア敷設材1の表面および裏面に直接薬剤が添加されている構成や、フロア敷設材1の表面および裏面の近くに薬剤が添加されている構成と比較して、薬剤が固体である場合にその脱落を防ぐことができるとともに、薬剤が液体である場合に、その薬剤に起因するべとつきがフロア敷設材1の表面や裏面に生じることや、フロアカーペットを成形するのと同時にフロア敷設材に貼り合わせる際の接着性の悪化などの不具合を防ぐことができる。この観点から見ると、薬剤層12と、フロア敷設材1の表面および裏面との距離はそれぞれ広いほど好ましい。
【0032】
なお、カーペット屑粉砕物や不織布裁断物や熱硬化性バインダーからのVOCの発生量が予め予測できる場合には、薬剤量がその発生量に適合するように適宜に調整することによって、薬剤の無駄を省き効率化を図ることができる。
【0033】
また、自動車用フロア敷設材1の形状や厚さに応じて、薬剤層12を全面に形成するか、部分的に形成するかを任意に選択することもできる。薬剤層12を部分的に形成する場合、または部分的に薬剤の量を多くする場合には、VOCの発生量の分布に合わせて薬剤を配置することによって、VOCの放出量を効率よく一層低減することができる。さらに、VOCの種類に応じて、複数種の薬剤を適宜に効率よく配合することも可能である。
【0034】
(第2の実施形態)
図3は本発明の第2の実施形態の自動車用フロア敷設材1’を示す斜視図、図4はそのB−B線断面図である。この構成では、表層10’および裏層11’に挟まれている薬剤層12’が波形状に形成されている。このフロア敷設材1’は、成形型のキャビティ内に先に投入した成形材料からなる層(表層10’または裏層11’)を、表面に凹凸が生じるように加工した状態である程度硬化させ、その凹凸状の表面上に薬剤層12’を形成している。このように、薬剤層12’が、層厚方向に沿って切断した断面形状が波形状となっていると、薬剤層12’の表面積が増大するため、発生したVOCと薬剤層との接触頻度が増大し、VOCの自動車室内への放出量をより低減することができる。なお、薬剤層12’を、断面が波形状になるように形成する方法は限定されず、成形型のキャビティ内に先に成形材料を投入する際に、その成形材料の表面が凹凸状になるようにしてもよく、または、この成形材料を投入した後に、その表面に凹凸形状を形成するように加工を施してもよい。あるいは、成形型のキャビティ内に先に成形材料を投入してから薬剤を塗布する際に、または薬剤を塗布した後に、薬剤層12’と成形材料からなる層の表面とを同時に凹凸状になるようにしてもよい。凹凸形状を形成する具体的な方法についても何ら限定するものではない。
【0035】
なお、以上説明した内容以外の構成および製造方法については、第1の実施形態と同じであるので、説明を省略する。
【0036】
(第3の実施形態)
前記した2つの実施形態ではフロア敷設材は3層構造であったが、より多層のフロア敷設材を形成することもできる。例えば、図5,6に示すように、成形材料の層(表層10)/薬剤層12/成形材料の層(中間層13)/薬剤層12/成形材料の層(裏層11)という5層のサンドイッチ構造を形成することもできる。このように、薬剤層12を複数有する構成にすると、発生したVOCと薬剤との接触頻度が増大するため、VOCの自動車室内への放出・拡散量が著しく低減できる。もちろん、もっと多層の構造(例えば7層以上の構造)にすることもできる。
【0037】
なお、以上説明した内容以外の構成および製造方法については、第1の実施形態と同じであるので、説明を省略する。
【実施例】
【0038】
本発明の自動車用フロア敷設材1の具体的な実施例と、それらの性能試験を行った結果について説明する。
【0039】
まず、本発明に基づく自動車用フロア敷設材1を、以下の方法で作製した。すなわち、自動車用フロアカーペットの製造時のトリミングロスを回収して得られる合成繊維からなるカーペット屑粉砕物と、スパンボンド不織布の裁断物と、ポリウレタン系の熱硬化性バインダーとを、45:45:10の比率で配合し、ミキサーに投入して、バインダーが固化しないように約60〜70℃に加熱しながら約6分間混合した。
【0040】
こうして作製した成形材料の約1/2を、図示しない成形型のキャビティ内へ投入した。続いて、成形型のキャビティ内に投入された成形材料の層の表面に、薬剤を霧状に噴霧するか、または、薬剤の液滴を滴下することによって、薬剤層を形成した。その後に、残りの成形材料を、成形型のキャビティ内にて、先に投入された成形材料の層の上に位置する薬剤層12の表面上に投入する。
【0041】
それから、成形型を型締めして、プレス圧5tで約110秒間プレスするとともに、成形型内に約100℃の蒸気を導入することによって、成形材料を固化させた。その後、型開きして、表層10/薬剤層12/裏層11の3層構造からなる成形品を取り出し、約110℃で80分間乾燥させた。こうして、表面および裏面の面積が500cm2で、板厚が40mmで、比重が0.12である試験サンプルを得た。
【0042】
薬剤層12を構成する薬剤として、大塚化学製「ケムキャッチT−8400」(商標)を使用し、塗布量と塗布方法を変えて下記の実施例1〜3の試験サンプルを作製した。さらに、薬剤を塗布して薬剤層を形成する工程を省いて形成した、薬剤層を持たない成形品を比較例として作製した。
【0043】
実施例1…薬剤の塗布量:6g/m2、塗布方法:4%水溶液を調整して霧吹きにより噴霧
実施例2…薬剤の塗布量:12g/m2、塗布方法:4%水溶液を調整して霧吹きにより噴霧
実施例3…薬剤の塗布量:12g/m2、塗布方法:ケチャップ容器等の合成樹脂チューブを用いて、所定の固形分になるように塗布
比較例・・・薬剤の塗布量:0g/m2
【0044】
図7に示すように、これらの実施例1〜3および比較例を試験サンプル1として、それぞれ、ジーエルサイエンス株式会社製の10リットル「テドラーバッグ」(商標)などのサンプリングバッグ2内に収容し、試験片挿入口9をテープで密封した。そして、サンプリングバッグ2内の空気を排出した後、5リットルの窒素ガスをサンプリングバッグ2内に注入した。次に、窒素ガスを封入したサンプリングバッグ2を乾燥機3内に入れて、サンプリングバッグ2を、シリコンチューブおよびテフロンチューブと、ワンタッチストップバルブ5と、DNPH(ジニトロフェニルヒドラジン)捕集管6を介して、ポンプ7および回転流量計8に接続した。ポンプ7としては、ジーエルサイエンス株式会社製サンプリングポンプ「SP208 Dual」を用いた。なお、本実施形態では、ポンプ7と回転流量計8が一体になった装置を用いた。DNPH捕集管6は、和光純薬工業株式会社製のDNPHカートリッジ「Presep−C」(商標)を封入したものである。
【0045】
そこで、乾燥機3内を60℃に加熱して2時間経過した後に、サンプリングバッグ2内の気体を、ポンプ7を使って800ml/minの吸引速度でDNPH捕集管6内に吸引した。
【0046】
こうしてDNPH捕集管6内のDNPHによって捕捉されたホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドを、アセトニトリルで抽出し、その抽出液中のホルムアルデヒド量およびアセトアルデヒド量を、HPLC(高速液体クロマトグラフ)で定量するとともに、サンプルサイズから、ホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドの単位面積あたりの放出量を算出した。その結果を表1に示す。
【0047】
【表1】

実施例1〜3のいずれも、比較例と比べてホルムアルデヒドおよびアセトアルデヒドの放出量が低減されていることが確認できた。
【0048】
薬剤を霧吹きによって噴霧した実施例1と実施例2とを比較すると、薬剤の塗布量の多い実施例2の方が、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドのいずれも、放出捕捉量が実施例1よりも低減できている。
【0049】
薬剤を液滴として滴下した実施例3は、薬剤の塗布量が同じ実施例2に比べて、ホルムアルデヒドとアセトアルデヒドのいずれも、放出量の低減効果が薄れている。これは、薬剤を液滴として滴下した場合、霧吹きで噴霧した実施例1,2と比べて、薬剤の分布が不均一になってVOCとの接触頻度が少ないためと推察される。
【0050】
したがって、本発明のように、フロアカーペットのトリミングロスのリサイクル材を主要な成分として形成される自動車用フロア敷設材において、ホルムアルデヒドなどのVOCの放出量を低減するには、VOCの低減機能を有する薬剤とVOCとの接触頻度を増大させることが効果的であるといえる。その点では、前記した変形例のように、フロア敷設材中に多層の薬剤層を設けた構成や、薬剤層の断面形状を波形状に形成した構成が好ましいと言える。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の第1の実施形態の自動車用フロア敷設材を示す斜視図である。
【図2】図1のA−A線断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態の自動車用フロア敷設材を示す斜視図である。
【図4】図3のB−B線断面図である。
【図5】本発明の第3の実施形態の自動車用フロア敷設材を示す斜視図である。
【図6】図5のB−B線断面図である。
【図7】揮発性有機化合物の放出量の測定装置を示す模式図である。
【符号の説明】
【0052】
1,1’ 自動車用フロア敷設材
10、10′ 表層
11、11′ 裏層
12、12′ 薬剤層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車室内のフロアパネル上に敷設されて、フロアパネルとフロアカーペットの間の隙間を埋める自動車用フロア敷設材であって、
互いに混合されたカーペット屑粉砕物および不織布裁断物と、前記カーペット屑粉砕物と前記不織布裁断物とを結合させる熱硬化性バインダーと、揮発性有機化合物の放出量を低減させるための薬剤とを含む
ことを特徴とする自動車用フロア敷設材。
【請求項2】
前記薬剤は、固体もしくは液体であって、吸着機能を有する吸着剤と、触媒作用を有する分解剤と、化学反応を伴う変性剤とのうちの少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1に記載の自動車用フロア敷設材。
【請求項3】
前記薬剤からなり、前記自動車用フロア敷設材の全面に、または部分的に設けられている薬剤層を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の自動車用フロア敷設材。
【請求項4】
前記薬剤層が複数積層されていることを特徴とする、請求項3に記載の自動車用フロア敷設材。
【請求項5】
表層と裏層とを有し、前記薬剤層は前記表層と前記裏層との間に挟まれていることを特徴とする、請求項3または4に記載の自動車用フロア敷設材。
【請求項6】
前記表層および前記裏層は前記カーペット屑粉砕物と前記不織布裁断物と前記熱硬化性バインダーとからなり、前記薬剤を含有していない、請求項5に記載の自動車用フロア敷設材。
【請求項7】
前記薬剤層は、層厚方向に沿って切断した断面形状が波形状であることを特徴とする、請求項3〜6のいずれか1項に記載の自動車用フロア敷設材。
【請求項8】
カーペット屑粉砕物と不織布裁断物とバインダー樹脂とを混合した成形材料を用意する工程と、
前記成形材料の一部を成形型に投入する工程と、
吸着機能を有する吸着剤と、触媒作用を有する分解剤と、化学反応を伴う変性剤とのうちの少なくとも1つを含む、揮発性有機化合物の放出量を低減するための薬剤を、前記成形型に投入された前記成形材料からなる層の表面の全面にもしくは部分的に塗布することによって、薬剤層を形成する工程と、
前記成形型に投入された前記成形材料からなる層の上に形成された前記薬剤層の上に、残りの前記成形材料を投入する工程と、
前記成形材料からなる2つの層と、該2つの層の間に位置する前記薬剤層とが収容された前記成形型を、型締めして加熱する工程と
を含む、自動車用フロア敷設材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−114784(P2008−114784A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−301727(P2006−301727)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(000251060)林テレンプ株式会社 (134)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】