説明

自動車用樹脂シート

【課題】印刷適性が良好であり、木質材料と同様な温感性と意匠性を有し、インサート成形などの後加工によってもその特性が失われない自動車用樹脂シートを提供する。
【解決手段】ショアD硬度55以下の熱可塑性軟質樹脂100質量部に対して、平均粒径20〜35μm、真密度0.8g/cm3以下、耐圧強度100MPa以上の中空粒子20〜100質量部を含み、厚さが0.1〜10mmのシートである自動車用樹脂シート、及び、ショアD硬度55以下の熱可塑性軟質樹脂100質量部に対して、平均粒径20〜35μm、真密度0.8g/cm3以下、耐圧強度100MPa以上の中空粒子20〜100質量部を含む厚さ0.1〜10mmの樹脂シートを下地とし、厚さ10〜160μmのポリエステル系、アクリル系、ポリウレタン系、ポリカーボネート系又はポリオレフィン系のフィルムを上地として、積層されてなる自動車用樹脂シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用樹脂シートに関する。さらに詳しくは、本発明は、印刷適性が良好であり、木質材料と同様な温感性と意匠性を有し、真空成形、インサート成形などの後加工によってもその特性が失われない自動車用樹脂シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の軽量化と製造工程合理化を目指して、自動車部材へのプラスチックの採用が進められ、その使用部位は、内装材、外装材、エンジン周り、足周り、電気電子部品、燃料タンクなど多岐にわたっている。これらの中で、内装材に関しては、機能的特性に加えて、温感性、意匠性などの高級感が求められている。このために、自動車内装材として各種のプラスチック材料の開発が進められている。
例えば、各種工業部品用の表皮材として適した特性を有し、艶消し性に優れた軟質シート用組成物として、平均粒子径1〜90μmの艶消し剤を含有するショアA硬度95未満の熱可塑性ポリウレタン及びゴム強化スチレン系樹脂からなる組成物が提案されている(特許文献1)。また、高周波域の防音性能が優れるとともに、良好な歩行感を有する制振遮音シートとして、バインダー成分、高比重充填剤及び吸音性充填剤からなる制振遮音シートが提案されている(特許文献2)。しかし、これらの材料からなるシートを自動車内装用、特にインストルメントパネル部分の木目調パネルに使用した場合、熱流速が大きく、官能試験における温感性に劣り、触ったときの木の感触、温かみが出ないという問題がある。
さらに、施工の際に施工面に追随する柔軟性を有し、施工面に美観を与え、高温、高圧下で粘着性を帯びることのない化粧断熱性シートを与える断熱性層形成用塗料組成物として、ポリウレタン樹脂及び中空粒子が水に分散している組成物が提案されている(特許文献3)。しかし、この化粧断熱性シートを、インストルメントパネルの木目調パネルに使用した場合、表面粗度が大きく印刷性に劣り、熱流速も大きく、木肌感が出ないという問題がある。
現行、インストルメントパネルの木目調パネルには、下地ABS樹脂に上地アクリル樹脂を積層した印刷シートが使用されているが、熱流速が大きく、官能試験において温感性に劣り、意匠性においてもリアル感が乏しく、見た目は木目調だが、感触はプラスチックという問題がある。
さらに、ASA(アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体)発泡材料を樹脂シートとして使用した場合、後加工のインサート成形において、発泡セルのつぶれがあり、目的の機能が発現しないという問題がある。
【特許文献1】特開平10−245483号公報
【特許文献2】特開平11−6234号公報
【特許文献3】特開2002−60685号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、印刷適性が良好であり、木質材料と同様な温感性と意匠性を有し、真空成形、インサート成形などの後加工によってもその特性が失われない自動車用樹脂シートを提供することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、熱可塑性軟質樹脂に平均粒径20〜35μm、真密度0.8g/cm3以下、耐圧強度100MPa以上の中空粒子を配合することにより、木質材料と同様な温感性と意匠性を有する樹脂シートが得られ、さらに該樹脂シートを下地とし、プラスチックフィルムを上地として積層することにより、樹脂シートの性能をいっそう向上させ得ることを見いだし、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)ショアD硬度55以下の熱可塑性軟質樹脂100質量部に対して、平均粒径20〜35μm、真密度0.8g/cm3以下、耐圧強度100MPa以上の中空粒子20〜100質量部を含み、かつ厚さが0.1〜10mmのシートであることを特徴とする自動車用樹脂シート、
(2)ショアD硬度55以下の熱可塑性軟質樹脂100質量部に対して、平均粒径20〜35μm、真密度0.8g/cm3以下、耐圧強度100MPa以上の中空粒子20〜100質量部を含む厚さ0.1〜10mmの樹脂シートを下地とし、厚さ10〜160μmのポリエステル系フィルム、アクリル系フィルム、ポリウレタン系フィルム、ポリカーボネート系フィルム及びポリオレフィン系フィルムから選ばれる1種を上地として、積層されてなることを特徴とする自動車用樹脂シート、
(3)上地と下地の間に、平均粒径20〜35μm、真密度0.8g/cm3以下、耐圧強度100MPa以上の中空粒子20〜80体積%を含む接着剤層を有する(2)記載の自動車用樹脂シート、
(4)接着剤層の厚さが、10〜80μmである(3)記載の自動車用樹脂シート、
(5)熱可塑性軟質樹脂が、熱可塑性ウレタンエラストマーである(1)又は(2)記載の自動車用樹脂シート、
(6)中空粒子が、中空ガラスビーズである(1)ないし(3)のいずれか1項に記載の自動車用樹脂シート、
(7)上地が、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムである(2)記載の自動車用樹脂シート、
(8)表面に印刷層を有する(1)ないし(7)のいずれか1項に記載の自動車用樹脂シート、
(9)上地と下地の間に印刷層を有する(2)又は(8)記載の自動車用樹脂シート、
(10)表面に盛り上がり印刷が施されてなる(1)ないし(9)のいずれか1項に記載の自動車用樹脂シート、
(11)表面にエンボス加工及び/又はトップコートが施されてなる(1)ないし(10)のいずれか1項に記載の自動車用樹脂シート、及び、
(12)熱流速の最大値が、0.2〜0.4W/m2である(1)ないし(11)のいずれか1項に記載の自動車用樹脂シート、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0005】
本発明の自動車用樹脂シートは、印刷適性に優れ、意匠性に優れた微細木目調の模様を印刷することができ、熱流速の最大値が小さく、手で触ったときに木質材料と変わらない木肌感と温感性があり、真空成形、インサート成形などの後加工によってもその特性が失われることがなく、インストルメントパネルの木目調パネルとして好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
本発明の自動車用樹脂シートの第一の態様は、ショアD硬度55以下の熱可塑性軟質樹脂100質量部に対して、平均粒径20〜35μm、真密度0.8g/cm3以下、耐圧強度100MPa以上の中空粒子20〜100質量部を含み、かつ厚さが0.1〜10mmのシートである自動車用樹脂シートである。
本発明の自動車用樹脂シートの第二の態様は、ショアD硬度55以下の熱可塑性軟質樹脂100質量部に対して、平均粒径20〜35μm、真密度0.8g/cm3以下、耐圧強度100MPa以上の中空粒子20〜100質量部を含む厚さ0.1〜10mmの樹脂シートを下地とし、厚さ10〜160μmのポリエステル系フィルム、アクリル系フィルム、ポリウレタン系フィルム、ポリカーボネート系フィルム及びポリオレフィン系フィルムから選ばれる1種を上地として、積層されてなる自動車用樹脂シートである。
本発明において、熱可塑性軟質樹脂のショアD硬度が55を超えると、自動車用樹脂シートの木肌感のある意匠性が損なわれるおそれがある。ショアD硬度は、ASTM D 2240にしたがって測定することができる。ショアD硬度55以下の熱可塑性軟質樹脂としては、例えば、熱可塑性ウレタンエラストマー、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、スチレン−イソプレン−スチレン共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン共重合体、エチレン−プロピレン共重合体、変性ポリエステル、ポリエステル系エラストマー、ポリアミドエラストマー、ポリ塩化ビニル系エラストマー、クロロトリフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体、シリコーンエラストマーなどを挙げることができる。これらの中で、熱可塑性ウレタンエラストマーは、加工性が良好なので、特に好適に用いることができる。
【0007】
本発明に用いる中空粒子は、平均粒径20〜35μm、より好ましくは25〜30μmであり、真密度0.8g/cm3以下、より好ましくは0.7g/cm3以下であり、耐圧強度100MPa以上、より好ましくは110MPa以上である。このような特性を有する中空粒子としては、例えば、耐圧中空ガラスビーズなどを挙げることができる。中空粒子の平均粒径が20μm未満であると、自動車用樹脂シートの熱流速が大きくなり、温感性が損なわれるおそれがある。中空粒子の平均粒径が35μmを超えると、耐圧強度の低下が大きくなるおそれがある。中空粒子の真密度が0.8g/cm3を超えると、自動車用樹脂シートの熱流速が大きくなり、温感性が損なわれるおそれがある。中空粒子の耐圧強度が100MPa未満であると、自動車用樹脂シートの製造工程において、中空粒子が破壊され、自動車用樹脂シートの熱流速が大きくなり、温感性が損なわれるおそれがある。中空粒子の耐圧強度は、真密度を測定した中空粒子を圧力容器に入れ、乾燥窒素ガスにより加圧し、加圧後、真密度を再測定し、真密度が10%上昇したときの圧力を耐圧強度とする。
本発明においては、熱可塑性軟質樹脂100質量部に対して、中空粒子20〜100質量部、より好ましくは35〜75質量部を含有させる。熱可塑性軟質樹脂100質量部に対する中空粒子の含有量が20質量部未満であると、自動車用樹脂シートの熱流速が大きくなり、温感性が損なわれるおそれがある。熱可塑性軟質樹脂100質量部に対する中空粒子の含有量が100質量部を超えると、自動車用樹脂シートの製造工程における加工性が低下するおそれがある。
【0008】
本発明の自動車用樹脂シートの第一の態様においては、自動車用樹脂シートの厚さが0.1〜10mmであり、より好ましくは0.15〜2mmであり、さらに好ましくは0.2〜1mmである。自動車用樹脂シートの厚さが0.1mm未満であると、十分な木肌感が発現しないおそれがある。自動車用樹脂シートの厚さが10mmを超えると、真空成形が困難になるおそれがある。
本発明の自動車用樹脂シートの第二の態様においては、下地樹脂シートの厚さが0.1〜10mmであり、より好ましくは0.15〜2mmであり、さらに好ましくは0.2〜1mmである。下地樹脂シートの厚さが0.1mm未満であると、十分な木肌感が発現しないおそれがある。下地樹脂シートの厚さが10mmを超えると、真空成形が困難になるおそれがある。
本発明の第二の態様においては、下地樹脂シートに、ポリエステル系フィルム、アクリル系フィルム、ポリウレタン系フィルム、ポリカーボネート系フィルム及びポリオレフィン系フィルムから選ばれる1種を上地として積層する。これらの中で、ポリエステル系フィルム及びアクリル系フィルムは、透明性、加工性、機械物性や表面物性等の各種物性に優れるので、好適に用いることができる。下地樹脂シートに上地フィルムを積層することにより、自動車用樹脂シートの木肌感と温感性はわずかに低下するが、自動車用樹脂シートの表面硬度を高め、耐擦傷性を向上することができる。上地フィルムの厚さは、10〜160μmであり、より好ましくは15〜100μmである。上地フィルムの厚さが10μm未満であると、積層工程の作業性が低下するとともに、下地樹脂シートを保護する効果が十分に発現しないおそれがある。上地フィルムの厚さが160μmを超えると、自動車用樹脂シートの真空成形性が低下するおそれがある。
【0009】
本発明において、下地樹脂シートと上地フィルムを積層する方法に特に制限はなく、例えば、熱ラミネーション、押出ラミネーション、接着剤を用いるドライラミネーションなどを挙げることができる。これらの中で、接着剤を用いるドライラミネーションを好適に用いることができる。ドライラミネーションによるとき、接着剤層が、中空粒子20〜80体積%を含むことが好ましく、中空粒子40〜70体積%を含むことがより好ましい。接着剤層に中空粒子を含ませることにより、接着剤層の断熱性を高め、自動車用樹脂シートの木肌感と温感性を向上することができる。中空粒子の含有量が20体積%未満であると、木肌感と温感性の向上効果が十分に発現しないおそれがある。中空粒子の含有量が80体積%を超えると、接着強度が低下するおそれがある。
接着剤層に含有させる中空粒子は、平均粒径20〜35μmであることが好ましく、25〜30μmであることがより好ましい。中空粒子の平均粒径が20μm未満であると、接着剤層の熱流速が大きくなり、自動車用樹脂シートの温感性が損なわれるおそれがある。中空粒子の平均粒径が35μmを超えると、耐圧強度の低下が大きくなるおそれがある。接着剤層に含有させる中空粒子は、真密度0.8g/cm3以下であることが好ましく、0.7g/cm3以下であることがより好ましい。中空粒子の真密度が0.8g/cm3を超えると、接着剤層の熱流速が大きくなり、自動車用樹脂シートの温感性が損なわれるおそれがある。接着剤層に含有させる中空粒子の耐圧強度は100MPa以上であることが好ましく、110MPa以上であることがより好ましい。中空粒子の耐圧強度が100MPa未満であると、自動車用樹脂シートの製造工程において、中空粒子が破壊され、接着剤層の熱流速が大きくなり、自動車用樹脂シートの温感性が損なわれるおそれがある。
本発明において、接着剤層の厚さは、10〜80μmであることが好ましく、30〜70μmであることがより好ましい。接着剤層の厚さが10μm未満であっても、80μmを超えても、下地樹脂シートと上地フィルムの接着強度が低下するおそれがある。
【0010】
本発明においては、上地フィルムがイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムであることが好ましい。イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムは、良好な成形性を有するので、自動車用樹脂シートの真空成形において、複雑な型形状にも追随して、高精度の成形品を得ることができる。
本発明においては、自動車用樹脂シートの表面に印刷層を設けることが好ましい。印刷層としては、例えば、微細木目調の模様の印刷などを挙げることができる。印刷層を設けることにより、自動車用樹脂シートの木肌感をいっそう高めることができる。本発明の自動車用樹脂シートの第一の態様においては、樹脂シートの表面に印刷層を設けることができる。本発明の自動車用樹脂シートの第二の態様においては、上地フィルムのトッププリント、上地フィルムのバックプリント又は下地樹脂シート表面の印刷として印刷層を設けることができる。上地フィルムのバックプリント又は下地樹脂シート表面の印刷として印刷層を設けると、自動車用樹脂シートの上地と下地の間に印刷層が存在し、印刷層が直接外部と接触することがないので、印刷層の損傷を防いで自動車用樹脂シートの耐久性を向上することができる。印刷方法に特に制限はなく、例えば、グラビア印刷、フレキソ印刷、シルクスクリーン印刷、インクジェット印刷などを挙げることができる。
本発明の自動車用樹脂シートの第一の態様においては、グラビア印刷層の上に盛り上がり印刷層を設けることができる。本発明の自動車用樹脂シートの第二の態様においては、上地フィルムの裏面にグラビア印刷層を設け、表面に盛り上がり印刷層を設けることができる。盛り上がり印刷は、高温焼き付け又は紫外線照射によりインクが収縮し、部分的に高さ方向に盛り上がりが生ずる印刷方法である。自動車用樹脂シートの最外面に盛り上がり印刷層を設けることにより、自動車用樹脂シートに触れたときに木質材料のリアル感が感じられ、意匠性を向上することができる。
【0011】
本発明の自動車用樹脂シートにおいては、表面にエンボス加工及び/又はトップコートを施すことができる。エンボス加工の模様としては、例えば、微細木目調模様、梨地シボ模様などを挙げることができる。表面にエンボス加工を施すことにより、自動車用樹脂シートの木肌感を高めることができる。トップコートとしては、例えば、紫外線硬化型塗料、二液熱硬化型塗料の塗布、硬化によるトップコートなどを挙げることができる。表面にトップコートを設けることにより、自動車用樹脂シートの表面を保護し、外部からの損傷を防いで、自動車用樹脂シートの耐久性を向上することができる。
本発明の自動車用樹脂シートは、熱流速の最大値が0.2〜0.4W/m2であることが好ましく、0.23〜0.35W/m2であることがより好ましい。熱流速の最大値が0.2W/m2未満であると、自動車用樹脂シートの空隙率が高すぎて、強度が不足するおそれがある。熱流速の最大値が0.4W/m2を超えると、自動車用樹脂シートに触れたときに冷たさが感じられ、木肌感と温感性が損なわれるおそれがある。本発明において、熱流速の最大値は、接触冷温感測定機を用い、試験片温度20℃、センサー温度30℃で試験片とセンサーを接触させたときの熱流速の最大値である。試験片とセンサーを接触させると、センサーから試験片に急速に熱が流れて、接触後約1秒で熱流速が最大値に達したのち、熱流速は徐々に減少して5〜15秒程度で0W/m2となる。
図1は、本発明の自動車用樹脂シートの一態様の模式的断面図である。中空ガラスビーズ1を含む熱可塑性軟質樹脂2からなる樹脂シート3に、グラビア印刷層4が設けられ、さらにその上に盛り上がり印刷層5が設けられている。図2は、本発明の自動車用樹脂シートの他の態様の模式的断面図である。中空ガラスビーズ6を含む熱可塑性軟質樹脂7からなる下地樹脂シート8に、中空ガラスビーズ9を含む接着剤層10を介して、バックプリント印刷層11を有する上地フィルム12が積層され、上地フィルムの表面には、トップコート層13が設けられている。
【実施例】
【0012】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
なお、実施例及び比較例において、評価は下記の方法により行った。
(1)中空粒子の耐圧強度
真密度を測定した中空粒子を圧力容器に入れ、乾燥窒素ガスにより加圧する。加圧後、真密度を再測定し、真密度が10%上昇したときの圧力を耐圧強度とする。
(2)印刷適性
各シートの印刷面に微細木目調の模様をグラビア印刷し、目視によりその鮮映性を判定する。
○:模様がきわめて鮮映である。
△:模様が鮮映である。
×:模様が鮮映性に欠ける。
(3)意匠性
自動車用樹脂シートの完成品を目視により観察し、木質材料としてのリアル感により評価する。
◎:木質材料とまったく見分けがつかない。
○:木質材料に近い高級感がある。
△:プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有する。
×:木質材料としてのリアル感に欠ける。
(4)熱流速の最大値
接触冷温感測定機[カトーテック(株)、フィンガーロボット サーモラボ KES−F7]を用い、20℃の恒温室内において、20℃に状態調節した樹脂シート試験片と、30℃のセンサーとを接触させ、熱流速の経時的変化を記録し、その最大値を読み取る。
○:0.30W/m2未満
△:0.30W/m2以上0.40W/m2未満
×:0.40W/m2以上
(5)温感性
20℃の恒温室内で、10人のパネラーが自動車用樹脂シートに手で触れ、下記の3段階で評価し、10人の評価点の平均値を求める。
3点:木質材料と変わらぬ温かさを感じる。
2点:木質材料に近い温かさを感じる。
1点:プラスチック材料の冷たさを感じる。
○:平均2.5点以上
△:平均1.5点以上2.5点未満
×:平均1.5点未満
(6)後加工性
自動車用樹脂シートを真空成形したのち、射出成形によりABS樹脂を裏打ちしてインサート成形し、インストルメントパネル部品を作製する。得られたインストルメントパネル部品について、微細木目調の模様の保持状態に着目して、その表面状態を目視により観察する。
○:微細木目調模様が完全に保持されている。
△:微細木目調模様にわずかな変化が認められる。
×:微細木目調模様が変形し、美観が損なわれている。
【0013】
また、実施例及び比較例において、下記の原材料を用いた。
(1)熱可塑性ウレタンエラストマー:ディーアイシーバイエルポリマー(株)、パンデックス(登録商標)T−7890N、ポリカーボネート系熱可塑性ポリウレタンエラストマー、ショアD硬度36。
(2)スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体:JSR(株)、JSR TR2000、ショアD硬度31。
(3)TPEE(A):東洋紡績(株)、ペルプレンP55B、ポリエステル系エラストマー、ショアD硬度44。
(4)TPEE(B):東洋紡績(株)、ペルプレンP150B、ポリエステル系エラストマー、ショアD硬度57。
(5)中空ガラスビーズA:住友スリーエム(株)、スコッチライト(登録商標)グラスバブルスS60HS、平均粒径27μm、真密度0.6g/cm3、耐圧強度124MPa。
(6)中空ガラスビーズB:東海工業(株)、セルスター(登録商標)Z−60、平均粒径28μm、真密度0.6g/cm3、耐圧強度108MPa。
(7)中空ガラスビーズC:ポッターズバロティーニ社、HSC−110、平均粒径13μm、真密度1.1g/cm3、耐圧強度98MPa。
(8)中空ガラスビーズD:住友スリーエム(株)、スコッチライト(登録商標)グラスバブルスS60、平均粒径30μm、真密度0.6g/cm3、耐圧強度69MPa。
(9)中空ガラスビーズE:住友スリーエム(株)、スコッチライト(登録商標)グラスバブルスK20、平均粒径65μm、真密度0.2g/cm3、耐圧強度35MPa。
(10)二液硬化型塗料:綜研化学(株)、アクトフローUMB−2005P(OH基導入アクリル系樹脂)100質量部に日本ポリウレタン(株)、コロネートHX(ヘキサメチレンジイソシアネート)70質量部からなる塗料。
(11)ASA発泡シート:UMG・ABS(株)、ダイヤラックE510B(ASA樹脂)100質量部に永和化成工業(株)、FE−512(アゾジカルボアミド系発泡剤)1質量部をブレンドし、200℃でTダイ押出成形したシート。
(12)ウレタン系二液硬化型塗料:ザ・インクテック(株)、NH−WP、トップコート剤。
(13)ポリエステルフィルム:帝人デュポンフィルム(株)、テフレックス(登録商標)FT、易成形性ポリエチレンテレフタレート系フィルム、厚さ20μm。
(14)アクリルフィルム:住友化学(株)、テクノロイ(登録商標)S001、ポリメタクリル酸メチル、艶あり。
(15)盛り上がり印刷インク:イソホロンジイソシアネート666質量部とテトラヒドロフルフリルアクリレート440質量部とポリエチレングリコールジアクリレート300質量部とを混合し、さらにトリメチロールプロパンとε−カプロラクトンの開環反応物1,200質量部を添加しながら70℃で撹拌反応させ、イソシアネート基が減少したのを確認した後、2−ヒドロキシエチルアクリレート350質量部を仕込み、70℃で反応させ、イソシアネート基を完全に消滅させてウレタンアクリレートを合成した。次いで、このウレタンアクリレートと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとを97:3質量部で配合したインク。
(16)接着剤:大日本インキ化学工業(株)、LX−901/KW−40、ウレタン系接着剤。
【0014】
実施例1
熱可塑性ウレタンエラストマー[ディーアイシーバイエルポリマー(株)、パンデックスT−7890N]100質量部と中空ガラスビーズA[住友スリーエム(株)、スコッチライトグラスバブルスS60HS、平均粒径27μm、真密度0.6g/cm3、耐圧強度124MPa]50質量部を混合し、二軸押出機を用いて混練し、Tダイから押し出して厚さ250μmのシートとした。
このシートに、微細木目調模様のグラビア印刷を施し、さらにウレタン系二液硬化型塗料[ザ・インクテック(株)、NH−WP]100質量部とポリイソシアネート[ザ・インクテック(株)、XEL硬化剤、ポリイソシアネート濃度75質量%]10質量部を用いてトップコートを施した。さらに、その表面に微細木目調のエンボス加工を施して、自動車用樹脂シートを完成した。
シートに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートには、木質材料に近い高級感があった。熱流速の最大値は0.25W/m2であり、温感性官能試験の平均値は2.8点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
実施例2
実施例1と同様にして、厚さ250μmのシートを押し出し、巻き取った。このシートに、微細木目調模様をグラビア印刷し、さらにその上に盛り上がり印刷インク[イソホロンジイソシアネート666質量部とテトラヒドロフルフリルアクリレート440質量部とポリエチレングリコールジアクリレート300質量部とを混合し、さらにトリメチロールプロパンとε−カプロラクトンの開環反応物1,200質量部を添加しながら70℃で撹拌反応させ、イソシアネート基が減少したのを確認した後、2−ヒドロキシエチルアクリレート350質量部を仕込み、70℃で反応させ、イソシアネート基を完全に消滅させてウレタンアクリレートを合成した。次いで、このウレタンアクリレートと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとを97:3質量部で配合したインク。]を用いてスクリーン印刷により盛り上がり印刷を施し、紫外線照射により表面を硬化させて、自動車用樹脂シートを完成した。
シートに施した微細木目調模様のグラビア印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、木質材料とまったく見分けがつかなかった。熱流速の最大値は0.26W/m2であり、温感性官能試験の平均値は2.7点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
実施例3
盛り上がり印刷の上に、さらにウレタン系二液硬化型塗料[ザ・インクテック(株)、NH−WP]100質量部とポリイソシアネート[ザ・インクテック(株)、XEL硬化剤、ポリイソシアネート濃度75質量%]10質量部を用いてトップコートを施した以外は、実施例2と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
シートに施した微細木目調模様のグラビア印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、木質材料とまったく見分けがつかなかった。熱流速の最大値は0.25W/m2であり、温感性官能試験の平均値は2.7点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
【0015】
実施例4
エンボス加工とトップコートを施さなかった以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
シートに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.27W/m2であり、温感性官能試験の平均値は2.7点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
実施例5
熱可塑性ウレタンエラストマーの代わりに、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体[JSR(株)、JSR TR2000]を用いた以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
シートに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.30W/m2であり、温感性官能試験の平均値は2.4点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
実施例6
熱可塑性ウレタンエラストマーの代わりに、TPEE(A)[東洋紡績(株)、ペルプレンP55B、ポリエステル系エラストマー、ショアD硬度44]を用い、中空ガラスビーズAの代わりに、中空ガラスビーズB[東海工業(株)、セルスターZ−60、平均粒径28μm、真密度0.6g/cm3、耐圧強度108MPa]を用いた以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
シートに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.32W/m2であり、温感性官能試験の平均値は2.2点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
【0016】
比較例1
中空ガラスビーズAの代わりに、中空ガラスビーズC[ポッターズバロティーニ社、HSC−110、平均粒径13μm、真密度1.1g/cm3、耐圧強度98MPa]を用いた以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
シートに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.40W/m2であり、温感性官能試験の平均値は1.4点であった。インサート成形後に、微細木目調模様にわずかな変化が認められた。
比較例2
中空ガラスビーズAの代わりに、中空ガラスビーズD[住友スリーエム(株)、スコッチライトグラスバブルスS60、平均粒径30μm、真密度0.6g/cm3、耐圧強度69MPa]を用いた以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
シートに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.36W/m2であり、温感性官能試験の平均値は1.8点であった。インサート成形後に、微細木目調模様にわずかな変化が認められた。
比較例3
中空ガラスビーズAの代わりに、中空ガラスビーズE[住友スリーエム(株)、スコッチライトグラスバブルスK20、平均粒径65μm、真密度0.2g/cm3、耐圧強度35MPa]を用いた以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
シートに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.41W/m2であり、温感性官能試験の平均値は1.3点であった。インサート成形後に、微細木目調模様にわずかな変化が認められた。
比較例4
熱可塑性ウレタンエラストマーの代わりに、TPEE(B)[東洋紡績(株)、ペルプレンP150B、ポリエステル系エラストマー、ショアD硬度57]を用いた以外は、実施例1と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
シートに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.37W/m2であり、温感性官能試験の平均値は1.7点であった。インサート成形後に、微細木目調模様にわずかな変化が認められた。
【0017】
比較例5
熱可塑性ウレタンエラストマー[ディーアイシーバイエルポリマー(株)、パンデックスT−7890N]の厚さ200μmのシートの上に、二液硬化型塗料[綜研化学(株)、アクトフローUMB−2005P(OH基導入アクリル系樹脂)100質量部に日本ポリウレタン(株)、コロネートHX(ヘキサメチレンジイソシアネート)70質量部からなる塗料]を固形分として100質量部と中空ガラスビーズA[住友スリーエム(株)、スコッチライトグラスバブルスS60HS、平均粒径27μm、真密度0.6g/cm3、耐圧強度124MPa]50質量部とからなる塗工液を乾燥厚さ50μmになるように塗工した。このシートに、微細木目調模様のグラビア印刷を施し、さらにウレタン系二液硬化型塗料[ザ・インクテック(株)、NH−WP]100質量部とポリイソシアネート[ザ・インクテック(株)、XEL硬化剤、ポリイソシアネート濃度75質量%]10質量部を用いてトップコートを施した。さらに、その表面に微細木目調のエンボス加工を施して、自動車用樹脂シートを完成した。
シートに施した微細木目調模様の印刷は、鮮映性に欠けていた。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.31W/m2であり、温感性官能試験の平均値は2.3点であった。インサート成形後に、塗膜の割れが生じ、微細木目調模様が変形し、美観が損なわれていた。
比較例6
厚さ250μmのアクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体発泡シート[UMG・ABS(株)、ダイヤラックE510B(ASA樹脂)100質量部に永和化成工業(株)、FE−512(アゾジカルボアミド系発泡剤)1質量部をブレンドし、200℃でTダイ押出成形したシート]の表面に、微細木目調模様のグラビア印刷を施し、さらにウレタン系二液硬化型塗料[ザ・インクテック(株)、NH−WP]100質量部とポリイソシアネート[ザ・インクテック(株)、XEL硬化剤、ポリイソシアネート濃度75質量%]10質量部を用いてトップコートを施し巻き取った。さらに、その表面に微細木目調のエンボス加工を施して、自動車用樹脂シートを完成した。
シートに施した微細木目調模様の印刷は、鮮映性に欠けていた。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.38W/m2であり、温感性官能試験の平均値は1.6点であった。インサート成形後に、発泡セルがつぶれ、微細木目調模様が変形し、美観が損なわれていた。
実施例1〜6の自動車用樹脂シートの構成と評価結果を第1表に、比較例1〜6の自動車用樹脂シートの構成と評価結果を第2表に示す。
【0018】
【表1】

【0019】
【表2】

【0020】
第1表に見られるように、熱可塑性ウレタンエラストマー、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体又はショアD硬度44のポリエステル系エラストマーに、平均粒径27μm、真密度0.6g/cm3、耐圧強度124MPaの中空ガラスビーズA又は平均粒径28μm、真密度0.6g/cm3、耐圧強度108MPaの中空ガラスビーズBを配合したシートからなる実施例1〜6の自動車用樹脂シートは、印刷適性と意匠性が良好であり、熱流速の最大値が小さく、温感性に優れ、インサート成形性も良好である。特に、盛り上がり印刷を施した実施例2〜3の自動車用樹脂シートは、木質材料とまったく見分けがつかず、エンボス加工とトップコートを施した実施例1の自動車用樹脂シートは、木質材料に近い高級感を有している。
これに対して、平均粒径13μm、真密度1.1g/cm3の中空ガラスビーズCを配合した比較例1の自動車用樹脂シート、耐圧強度35MPaの中空ガラスビーズEを配合した比較例3の自動車用樹脂シート及び熱可塑性軟質樹脂としてショアD硬度57のポリエステル系エラストマーを用いた比較例4の自動車用樹脂シートは、いずれも熱流速の最大値が大きく、温感性が不良である。耐圧強度69MPaの中空ガラスビーズDを配合した比較例2の自動車用樹脂シートも、熱流速の最大値がやや大きく、温感性がやや不良である。熱可塑性ウレタンエラストマーのシートに中空ガラスビーズAを含有する二液硬化型塗料を塗布した比較例5の自動車用樹脂シートと、アクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体発泡シートを用いた比較例6の自動車用樹脂シートは、いずれも印刷した模様に鮮映性が欠け、インサート成形により外観不良となる。
【0021】
実施例7
実施例1と同様にして、熱可塑性ウレタンエラストマー[ディーアイシーバイエルポリマー(株)、パンデックスT−7890N]100質量部と中空ガラスビーズA[住友スリーエム(株)、スコッチライトグラスバブルスS60HS、平均粒径27μm、真密度0.6g/cm3、耐圧強度124MPa]50質量部を混合し、二軸押出機を用いて混練し、Tダイから押し出して厚さ250μmの樹脂シートとした。
厚さ20μmの易成形性ポリエチレンテレフタレート系フィルム[帝人デュポンフィルム(株)、テフレックスFT]に微細木目調模様のグラビア印刷を施した。印刷適性は良好であり、微細木目調模様はきわめて鮮映であった。60体積%の中空ガラスビーズAを含む接着剤を用いて厚さ60μmの接着剤層を形成し、上記の樹脂シートとポリエチレンテレフタレート系フィルムの印刷面とを接着し、さらにウレタン系二液硬化型塗料[ザ・インクテック(株)、NH−WP]100質量部とポリイソシアネート[ザ・インクテック(株)、XEL硬化剤、ポリイソシアネート濃度75質量%]10質量部を用いてトップコートを施し巻き取った。さらに、その表面に微細木目調のエンボス加工を施して、自動車用樹脂シートを完成した。
得られた自動車用樹脂シートには、木質材料に近い高級感があった。熱流速の最大値は0.28W/m2であり、温感性官能試験の平均値は2.6点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
実施例8
ポリエチレンテレフタレート系フィルムの表面に盛り上がり印刷インク[イソホロンジイソシアネート666質量部とテトラヒドロフルフリルアクリレート440質量部とポリエチレングリコールジアクリレート300質量部とを混合し、さらにトリメチロールプロパンとε−カプロラクトンの開環反応物1,200質量部を添加しながら70℃で撹拌反応させ、イソシアネート基が減少したのを確認した後、2−ヒドロキシエチルアクリレート350質量部を仕込み、70℃で反応させ、イソシアネート基を完全に消滅させてウレタンアクリレートを合成した。次いで、このウレタンアクリレートと2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オンとを97:3質量部で配合したインク。]を用いてスクリーン印刷により盛り上がり印刷を施し、紫外線照射により表面を硬化させて、トップコート及びエンボス加工を施さなかった以外は、実施例7と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
ポリエチレンテレフタレート系フィルムに施した微細木目調模様のグラビア印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、木質材料とまったく見分けがつかなかった。熱流速の最大値は0.28W/m2であり、温感性官能試験の平均値は2.6点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
【0022】
実施例9
易成形性ポリエチレンテレフタレート系フィルムの代わりに、厚さ70μmのアクリル系フィルム[住友化学(株)、テクノロイS001]を用い、アクリル系フィルムの非印刷面と樹脂シートを接着した以外は、実施例7と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
アクリル系フィルムに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、木質材料に近い高級感があった。熱流速の最大値は0.29W/m2であり、温感性官能試験の平均値は2.5点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
実施例10
易成形性ポリエチレンテレフタレート系フィルムの代わりに、厚さ150μmのアクリル系フィルム[住友化学(株)、テクノロイS001]を用い、アクリル系フィルムの非印刷面と樹脂シートを接着した以外は、実施例7と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
アクリル系フィルムに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.38W/m2であり、温感性官能試験の平均値は1.6点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
【0023】
実施例11
接着剤層に配合する中空ガラスビーズを、中空ガラスビーズC[ポッターズバロティーニ社、HSC−110、平均粒径13μm、真密度1.1g/cm3、耐圧強度98MPa]とした以外は、実施例7と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
ポリエチレンテレフタレート系フィルムに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートには、木質材料に近い高級感があった。熱流速の最大値は0.30W/m2であり、温感性官能試験の平均値は2.4点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
実施例12
接着剤層に中空ガラスビーズを配合せず、接着剤層の厚さを40μmとした以外は、実施例7と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
ポリエチレンテレフタレート系フィルムに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.36W/m2であり、温感性官能試験の平均値は1.8点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
実施例13
実施例1と同様にして作製した厚さ250μmの樹脂シートに、微細木目調模様のグイビア印刷を施し、厚さ20μmの易成形性ポリエチレンテレフタレート系フィルム[帝人デュポンフィルム(株)、テフレックスFT]とこの印刷面を熱ラミネーションにより接着した以外は、実施例7と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
樹脂シートに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.34W/m2であり、温感性官能試験の平均値は2.0点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
【0024】
比較例7
中空ガラスビーズAの代わりに、中空ガラスビーズC[ポッターズバロティーニ社、HSC−110、平均粒径13μm、真密度1.1g/cm3、耐圧強度98MPa]を用いた以外は、実施例7と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
ポリエチレンテレフタレート系フィルムに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.42W/m2であり、温感性官能試験の平均値は1.2点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
比較例8
中空ガラスビーズAの代わりに、中空ガラスビーズD[住友スリーエム(株)、スコッチライトグラスバブルスS60、平均粒径30μm、真密度0.6g/cm3、耐圧強度69MPa]を用いた以外は、実施例7と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
ポリエチレンテレフタレート系フィルムに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.39W/m2であり、温感性官能試験の平均値は1.5点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
【0025】
比較例9
熱可塑性ウレタンエラストマーの代わりに、TPEE(B)[東洋紡績(株)、ペルプレンP150B、ポリエステル系エラストマー、ショアD硬度57]を用いた以外は、実施例7と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
ポリエチレンテレフタレート系フィルムに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.40W/m2であり、温感性官能試験の平均値は1.4点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
比較例10
下地樹脂シートとして、厚さ250μmのアクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体発泡シート[UMG・ABS(株)、ダイヤラックE510B(ASA樹脂)100質量部に永和化成工業(株)、FE−512(アゾジカルボアミド系発泡剤)1質量部をブレンドし、200℃でTダイ押出成形したシート]を用いた以外は、実施例7と同様にして、自動車用樹脂シートを作製した。
ポリエチレンテレフタレート系フィルムに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、プラスチックであることは分かるが、木質材料としてのリアル感を有していた。熱流速の最大値は0.41W/m2であり、温感性官能試験の平均値は1.3点であった。インサート成形後に、発泡セルがつぶれ、微細木目調模様が変形し、美観が損なわれていた。
比較例11
下地樹脂シートとして厚さ250μmのABS樹脂シートを用い、上地フィルムとして微細木目調模様の印刷を施した厚さ120μmのアクリル系フィルムを用い、下地樹脂シートと上地フィルムの印刷面を熱ラミネーションにより接着し、さらにウレタン系二液硬化型塗料[ザ・インクテック(株)、NH−WP]100質量部とポリイソシアネート[ザ・インクテック(株)、XEL硬化剤、ポリイソシアネート濃度75質量%]10質量部を用いてトップコートを施し巻き取った。さらに、その表面に微細木目調のエンボス加工を施して、自動車用樹脂シートを完成した。
アクリル系フィルムに施した微細木目調模様の印刷は、きわめて鮮映であった。得られた自動車用樹脂シートは、木質材料としてのリアル感に欠けていた。熱流速の最大値は0.43W/m2であり、温感性官能試験の平均値は1.0点であった。インサート成形後に、微細木目調模様は完全に保持されていた。
実施例7〜13の自動車用樹脂シートの構成と評価結果を第3表に、比較例7〜11の自動車用樹脂シートの構成と評価結果を第4表に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
【表4】

【0028】
【表5】

【0029】
第3表に見られるように、熱可塑性ウレタンエラストマーに、平均粒径27μm、真密度0.6g/cm3、耐圧強度124MPaの中空ガラスビーズAを配合した樹脂シートに、ポリエチレンテレフタレート系フィルム又はアクリル系フィルムを積層してなる実施例7〜13の自動車用樹脂シートは、印刷適性と意匠性が良好であり、熱流速の最大値が小さく、温感性に優れ、インサート成形性も良好である。特に、盛り上がり印刷を施した実施例8の自動車用樹脂シートは、木質材料とまったく見分けがつかず、意匠性に優れている。
これに対して、平均粒径13μm、真密度1.1g/cm3の中空ガラスビーズCを配合した比較例7の自動車用樹脂シート、熱可塑性樹脂樹脂としてショアD硬度57のポリエステル系エラストマーを用いた比較例9の自動車用樹脂シート及び下地樹脂シートとしてABS樹脂シートを用いた比較例11の自動車用樹脂シートは、いずれも熱流速の最大値が大きく、温感性が不良である。耐圧強度69MPaの中空ガラスビーズDを配合した比較例8の自動車用樹脂シートも、熱流速の最大値がやや大きく、温感性がやや不良である。下地樹脂シートとしてアクリロニトリル−スチレン−アクリレート共重合体発泡シートを用いた比較例10の自動車用樹脂シートは、熱流速の最大値がやや大きく、温感性がやや不良であり、インサート成形により外観不良となる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の自動車用樹脂シートは、印刷適性が良好であり、木質材料と同様な温感性と意匠性を有し、真空成形、インサート成形などの後加工によってもその特性が失われないので、インストルメントパネルなどの木目調パネルとして好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の自動車用樹脂シートの一態様の模式的断面図である。
【図2】本発明の自動車用樹脂シートの他の態様の模式的断面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 中空ガラスビーズ
2 熱可塑性軟質樹脂
3 樹脂シート
4 グラビア印刷層
5 盛り上がり印刷層
6 中空ガラスビーズ
7 熱可塑性軟質樹脂
8 下地樹脂シート
9 中空ガラスビーズ
10 接着剤層
11 バックプリント印刷層
12 上地フィルム
13 トップコート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショアD硬度55以下の熱可塑性軟質樹脂100質量部に対して、平均粒径20〜35μm、真密度0.8g/cm3以下、耐圧強度100MPa以上の中空粒子20〜100質量部を含み、かつ厚さが0.1〜10mmのシートであることを特徴とする自動車用樹脂シート。
【請求項2】
ショアD硬度55以下の熱可塑性軟質樹脂100質量部に対して、平均粒径20〜35μm、真密度0.8g/cm3以下、耐圧強度100MPa以上の中空粒子20〜100質量部を含む厚さ0.1〜10mmの樹脂シートを下地とし、厚さ10〜160μmのポリエステル系フィルム、アクリル系フィルム、ポリウレタン系フィルム、ポリカーボネート系フィルム及びポリオレフィン系フィルムから選ばれる1種を上地として、積層されてなることを特徴とする自動車用樹脂シート。
【請求項3】
上地と下地の間に、平均粒径20〜35μm、真密度0.8g/cm3以下、耐圧強度100MPa以上の中空粒子20〜80体積%を含む接着剤層を有する請求項2記載の自動車用樹脂シート。
【請求項4】
接着剤層の厚さが、10〜80μmである請求項3記載の自動車用樹脂シート。
【請求項5】
熱可塑性軟質樹脂が、熱可塑性ウレタンエラストマーである請求項1又は請求項2記載の自動車用樹脂シート。
【請求項6】
中空粒子が、中空ガラスビーズである請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の自動車用樹脂シート。
【請求項7】
上地が、イソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルムである請求項2記載の自動車用樹脂シート。
【請求項8】
表面に印刷層を有する請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の自動車用樹脂シート。
【請求項9】
上地と下地の間に印刷層を有する請求項2又は請求項8記載の自動車用樹脂シート。
【請求項10】
表面に盛り上がり印刷が施されてなる請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載の自動車用樹脂シート。
【請求項11】
表面にエンボス加工及び/又はトップコートが施されてなる請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の自動車用樹脂シート。
【請求項12】
熱流速の最大値が、0.2〜0.4W/m2である請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の自動車用樹脂シート。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−277485(P2007−277485A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−108813(P2006−108813)
【出願日】平成18年4月11日(2006.4.11)
【出願人】(000250384)リケンテクノス株式会社 (236)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】