説明

自動車

【課題】モータに過電圧が作用したり過電流が流れたりするのを抑制する。
【解決手段】駆動輪の回転数の減少時に、モータを駆動するインバータの制御方式を矩形波制御方式から過変調制御方式に切り替える矩形波過変調切替条件が成立したときにおいて(S530,S540)、駆動輪の回転数減少率ΔNwが所定値Nref以下のときには過変調制御方式に切り替え(S600)、駆動輪の回転数減少率ΔNwが所定値Nrefより大きいときには過変調制御方式を経由せずに正弦波制御方式に直接切り替える(S610)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車に関し、詳しくは、駆動輪に接続されたモータと、モータを駆動するインバータと、インバータを介してモータに電力を供給可能なバッテリと、モータからトルクを出力して走行するよう正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかでインバータを制御する制御手段と、を備える自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動車としては、車両を駆動するモータと、モータを駆動するインバータと、バッテリと、バッテリからの直流電圧を昇圧してインバータに供給する昇圧コンバータと、を備え、インバータに対して矩形波制御モードと過変調制御モードと正弦波制御モードとを切り替えてスイッチング制御を行ない、矩形波制御モードにおいてスリップ・グリップなどが発生してモータ電流に乱れが生じて矩形波制御モードではモータの同期が乱れてしまう場合には矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替え、さらに、過変調制御モードにおいて同様にモータ電流に乱れが生じた場合には過変調制御モードから正弦波制御モードに切り替えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この自動車では、こうした制御により、モータの同期が乱れるのを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−20383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の自動車では、駆動輪のスリップ・グリップによる回転数の減少時に、矩形波制御モードから過変調制御モードを経由して正弦波制御モードに切り替えることになるため、回転数の単位時間あたりの減少の程度が大きいときなどには、正弦波制御モードへの切り替えが遅れる場合がある。一般に、過変調制御モードは、正弦波制御方式に比して制御性が低いため、正弦波制御モードへの切り替えが遅れると、モータに過電圧が作用したり過電流が流れたりする可能性がある。
【0005】
本発明の自動車は、モータに過電圧が作用したり過電流が流れたりするのを抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の自動車は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の自動車は、
駆動輪に接続されたモータと、前記モータを駆動するインバータと、前記インバータを介して前記モータに電力を供給可能なバッテリと、前記モータからトルクを出力して走行するよう正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかで前記インバータを制御する制御手段と、を備える自動車であって、
前記制御手段は、前記駆動輪の回転数の減少時に、前記インバータの制御方式を矩形波制御方式から過変調制御方式に切り替える切替条件が成立したとき、前記駆動輪の回転数の減少率が予め定められた所定値以下のときには前記インバータの制御方式を過変調制御方式に切り替え、前記駆動輪の回転数の減少率が前記所定値より大きいときには前記インバータの制御方式を正弦波制御方式に切り替える手段である、
ことを特徴とする。
【0008】
この本発明の自動車では、駆動輪の回転数の減少時に、インバータの制御方式を矩形波制御方式から過変調制御方式に切り替える切替条件が成立したとき、駆動輪の回転数の減少率(単位時間あたりの減少量)が予め定められた所定値以下のときにはインバータの制御方式を過変調制御方式に切り替え、駆動輪の回転数の減少率が所定値より大きいときにはインバータの制御方式を正弦波制御方式に切り替える。切替条件が成立したときに駆動輪の回転数の減少率が大きいときには、通常、その後にインバータの制御方式を過変調制御方式から正弦波制御方式に切り替える過変調正弦波切替条件が成立するまでの時間(過変調制御方式でインバータを制御すべき時間)が比較的短いと考えられる。したがって、切替条件が成立したときに駆動輪の回転数の減少率が所定値より大きいときには、過変調制御方式を経由せずに正弦波制御方式に直接切り替えることにより、正弦波制御方式への切替の遅れを抑制することができる。この結果、モータに過電圧が作用したり過電流が流れたりするのを抑制することができる。
【0009】
こうした本発明の自動車において、前記制御手段は、前記インバータの制御方式を矩形波制御方式から正弦波制御方式に切り替えたときには、予め定められた所定時間が経過するまでは正弦波制御方式を継続する手段である、ものとすることもできる。
【0010】
また、本発明の自動車において、正弦波制御方式は、d軸,q軸の電流と電流指令とを用いてd軸,q軸の電圧指令を設定して前記インバータを制御する方式であり、過変調制御方式は、d軸,q軸の電流になまし処理を施して得られるd軸,q軸のなまし後電流とd軸,q軸の電流指令とを用いてd軸,q軸の電圧指令を設定して前記インバータを制御する方式である、ものとすることもできる。
【0011】
さらに、本発明の自動車において、正弦波制御方式および過変調制御方式は、前記モータから出力すべきトルク指令とd軸,q軸の電流指令との関係を定めた電流指令ラインに前記トルク指令を適用して得られるd軸,q軸の電流指令を用いて前記インバータを制御する方式であり、前記切替条件は、d軸,q軸の電流が前記電流指令ラインよりd軸の電流の大きさが小さくなる切替ラインに至ったときに成立する条件である、ものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施例としての電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。
【図2】モータ32を含む電機駆動系の構成の概略を示す構成図である。
【図3】正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかでインバータ34を制御する場合のモータ32のトルク指令Tm*と回転数Nmとインバータ34の制御方式(正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式)とのおおよその関係の一例を示す説明図である。
【図4】電子制御ユニット50により実行される正弦波制御方式実行ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図5】電流指令設定用マップの一例を示す説明図である。
【図6】正弦波制御方式でインバータ34を制御するときの電圧指令大きさVrと電圧指令角度θvr(d軸の電圧指令Vd*,q軸の電圧指令Vq*を成分とするベクトルのq軸の方向に対する角度)との一例を示す説明図である。
【図7】電子制御ユニット50により実行される過変調制御方式実行ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図8】電子制御ユニット50により実行される矩形波制御方式実行ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図9】電流指令ラインと切替ラインとの一例を示す説明図である。
【図10】変形例のハイブリッド自動車120の構成の概略を示す構成図である。
【図11】変形例のハイブリッド自動車220の構成の概略を示す構成図である。
【図12】変形例のハイブリッド自動車320の構成の概略を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0014】
図1は、本発明の一実施例としての電気自動車20の構成の概略を示す構成図であり、図2は、モータ32を含む電機駆動系の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車20は、図1に示すように、駆動輪26a,26bにデファレンシャルギヤ24を介して接続された駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32と、モータ32を駆動するためのインバータ34と、例えばリチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ36と、インバータ34が接続された電力ライン(以下、駆動電圧系電力ラインという)42とバッテリ36が接続された電力ライン(以下、電池電圧系電力ラインという)44とに接続されて駆動電圧系電力ライン42の電圧VHを調節すると共に駆動電圧系電力ライン42と電池電圧系電力ライン44との間で電力のやりとりを行なう昇圧コンバータ40と、車両全体をコントロールする電子制御ユニット50と、を備える。
【0015】
モータ32は、永久磁石が埋め込まれたロータと三相コイルが巻回されたステータとを備える周知の同期発電電動機として構成されている。インバータ34は、図2に示すように、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16と、トランジスタT11〜T16に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16と、により構成されている。トランジスタT11〜T16は、駆動電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側となるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータ32の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用している状態でトランジスタT11〜T16のオン時間の割合を調節することにより、三相コイルに回転磁界を形成でき、モータ32を回転駆動することができる。駆動電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ46が接続されている。
【0016】
昇圧コンバータ40は、図2に示すように、2つのトランジスタT31,T32とトランジスタT31,T32に逆方向に並列接続された2つのダイオードD31,D32とリアクトルLとからなる昇圧コンバータとして構成されている。2つのトランジスタT31,T32は、それぞれ駆動電圧系電力ライン42の正極母線,駆動電圧系電力ライン42および電池電圧系電力ライン44の負極母線に接続されており、トランジスタT31,T32同士の接続点と電池電圧系電力ライン44の正極母線とにはリアクトルLが接続されている。したがって、トランジスタT31,T32をオンオフすることにより、電池電圧系電力ライン44の電力を昇圧して駆動電圧系電力ライン42に供給したり、駆動電圧系電力ライン42の電力を降圧して電池電圧系電力ライン44に供給したりすることができる。電池電圧系電力ライン44の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ48が接続されている。
【0017】
電子制御ユニット50は、CPU52を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU52の他に処理プログラムを記憶するROM54と、データを一時的に記憶するRAM56と、図示しない入出力ポートと、を備える。電子制御ユニット50には、駆動輪26a,26bの回転数を検出する回転数センサ28a,28bからの駆動輪26a,26bの回転数Nwl,Nwr,モータ32のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置θmや、モータ32の三相コイルのV相,W相に流れる相電流を検出する電流センサ33U,33Vからの相電流Iu,Iv,バッテリ36の端子間に取り付けられた電圧センサ37aからの端子間電圧Vb,バッテリ36の出力端子に取り付けられた電流センサ37bからの充放電電流Ib,バッテリ36に取り付けられた温度センサ37cからの電池温度Tb,コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからのコンデンサ46の電圧(駆動電圧系電力ライン42の電圧)VH,コンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからのコンデンサ48の電圧(電池電圧系電力ライン44の電圧)VL,イグニッションスイッチ60からのイグニッション信号,シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSP,アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル65の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ68からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット50からは、インバータ34のトランジスタT11〜T16へのスイッチング制御信号や昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、電子制御ユニット50は、回転位置検出センサ32aにより検出されたモータ32のロータの回転位置θmに基づいてモータ32のロータの電気角θeや回転角速度ωm,回転数Nmを演算したり、電流センサ37bにより検出されたバッテリ36の充放電電流Ibに基づいてそのときのバッテリ36から放電可能な電力量の全容量に対する割合である蓄電割合SOCを演算したり、演算した蓄電割合SOCと電池温度Tbとに基づいてバッテリ36を充放電してもよい最大許容電力である入出力制限Win,Woutを演算したりしている。
【0018】
こうして構成された実施例の電気自動車20では、電子制御ユニット50は、アクセル開度Accと車速Vとに応じて駆動軸22に出力すべき要求トルクTr*を設定し、バッテリ36の入出力制限Win,Woutをモータ32の回転数Nmで除してモータ32から出力してもよいトルクの上下限としてのトルク制限Tmin,Tmaxを設定し、要求トルクTr*をトルク制限Tmin,Tmaxで制限してモータ32から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm*を設定し、設定したトルク指令Tm*でモータ32が駆動されるようインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御する。また、モータ32のトルク指令Tm*とモータ32の回転数Nmとに応じて駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VHtagを設定し、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが目標電圧VHtagとなるよう昇圧コンバータ40のトランジスタT31,T32をスイッチング制御する。以下、インバータ34の制御について説明する。
【0019】
インバータ34は、実施例では、電子制御ユニット50により、正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかで制御するものとした。ここで、正弦波制御方式は、基本的には、モータ32の電圧指令と三角波(搬送波)電圧との比較によってトランジスタT11〜T16のオン時間の割合を調節するパルス幅変調(PWM)制御方式のうち、三角波電圧の振幅以下の振幅の正弦波状の電圧指令を変換して得られる擬似的三相交流電圧をモータ32に供給する制御方式である。また、過変調制御方式は、基本的には、パルス幅変調制御方式のうち、三角波電圧の振幅より大きな振幅の正弦波状の電圧指令を変換して得られる過変調電圧方式をモータ32に供給する制御方式である。さらに、矩形波制御方式は、矩形波電圧をモータ32に供給する制御方式である。
【0020】
図3は、正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかでインバータ34を制御する場合のモータ32のトルク指令Tm*と回転数Nmとインバータ34の制御方式(正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式)とのおおよその関係の一例を示す説明図である。インバータ34の制御方式は、一般に、図3に示すように、モータ32のトルク指令Tm*の大きさや回転数Nmが小さい側から順に、正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式とする。これは、モータ32やインバータ34の特性として、矩形波制御方式,過変調制御方式,正弦波制御方式の順で、モータ32の出力応答性や制御性がよくなり出力が小さくなりインバータ34のスイッチング損失などが大きくなるという特性を踏まえて、低回転数低トルクの領域では、正弦波制御方式でインバータ34を制御することによってモータ32の出力応答性や制御性を良くし、高回転数高トルク領域では、矩形波制御方式でインバータ34を制御することによって大きな出力を可能とすると共にインバータ34のスイッチング損失などを低減するためである。以下、正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式でのインバータ34の制御について順に説明する。
【0021】
まず、正弦波制御方式でのインバータ34の制御について説明する。図4は、電子制御ユニット50により実行される正弦波制御方式実行ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、正弦波制御方式でンバータ34を制御するときに所定時間毎(例えば数百μsec毎)に繰り返し実行される。
【0022】
正弦波制御方式実行ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、モータ32のトルク指令Tm*や電気角θe,電流センサ33U,33VからのU相,V相電流Iu,Iv,電圧センサ46aからの駆動電圧系電力ライン42の電圧VHなど制御に必要なデータを入力し(ステップS100)、モータ32の三相コイルのU相,V相,W相に流れる相電流Iu,Iv,Iwの総和を値0としてモータ32の電気角θeを用いて次式(1)により相電流Iu,Ivをd軸,q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相−2相変換)する(ステップS110)。ここで、モータ32のトルク指令Tm*は、上述の駆動制御で設定されたもの、即ち、駆動軸22に出力すべき要求トルクTr*をトルク制限Tmin,Tmaxで制限した値を入力するものとした。また、モータ32の電気角θeは、回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置に基づいて演算されたものを入力するものとした。さらに、d軸はモータ32のロータに埋め込まれた永久磁石によって形成される磁束の方向であり、q軸はd軸に対してモータ32の正回転方向にπ/2だけ電気角θeが進角した方向である。
【0023】
【数1】

【0024】
続いて、モータ32のトルク指令Tm*に基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定する(ステップS120)。ここで、d軸,q軸の電流指令Id*,Iq*は、実施例では、モータ32のトルク指令Tm*とd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*との関係、具体的には、トルク指令Tm*に対応するトルクをモータ32から出力させるための電流指令大きさIr(電流指令Id*の二乗と電流指令Iq*の二乗との和の平方根)が最小値近傍となるトルク指令Tm*と電流指令Id*,Iq*との関係(以下、この関係を示すラインを電流指令ラインという)を予め定めて電流指令設定用マップとしてROM54に記憶しておき、モータ32のトルク指令Tm*が与えられると記憶したマップから対応するd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を導出して設定するものとした。電流指令設定用マップの一例を図5に示す。図5の例では、モータ32のトルク指令Tm*がトルクT3のときにこのトルク指令Tm*に対応するd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定する様子を示している。なお、図5には、電流指令ラインやトルク指令Tm*,電流指令Id*,Iq*の他に、電流指令大きさIrと、電流指令角度θir(d軸の電流指令Id*,q軸の電流指令Iq*を成分とするベクトルのq軸の方向に対する角度)と、についても図示した。
【0025】
そして、d軸,q軸の電流Id,Iqと電流指令Id*,Iq*とを用いて次式(2),(3)によりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を計算する(ステップS130)。ここで、式(2),(3)は、d軸,q軸の電流Id,Iqと電流指令Id*,Iq*との差が打ち消されるようにするための電流フィードバック制御における関係式であり、式(2),(3)中、「Kp1」,「Kp2」は比例項のゲインであり、「Ki1」,「Ki2」は積分項のゲインである。
【0026】
Vd*=Kp1・(Id*-Id)+Ki1・Σ(Id*-Id) (2)
Vq*=Kp2・(Iq*-Iq)+Ki2・Σ(Iq*-Iq) (3)
【0027】
次に、d軸の電圧指令Vd*の二乗とq軸の電圧流指令Vq*の二乗との和の平方根を電圧指令大きさVrとして計算すると共に(ステップS140)、計算した電圧指令大きさVrを駆動電圧系電力ライン42の電圧VHで除して変調率(電圧利用率)Rmを計算し(ステップS150)、計算した変調率Rmを所定値Rref1(約0.61)と比較する(ステップS160)。ここで、d軸の電圧指令Vd*の二乗とq軸の電圧流指令Vq*の二乗との和の平方根として得られる電圧指令大きさVrは、正弦波制御方式でインバータ34を制御するときにおける、PWM信号を生成する際の正弦波状の電圧指令の振幅に相当する。また、所定値Rref1は、PWM信号を生成する際の三角波(搬送波)電圧の振幅を駆動電圧系電力ライン42の電圧VHで除したものに相当する。ステップS160の処理は、インバータ34の制御方式を正弦波制御方式から過変調制御方式に切り替える正弦波過変調切替条件が成立したか否かを判定する処理である。なお、参考のために、正弦波制御方式でインバータ34を制御するときの電圧指令大きさVrと電圧指令角度θvr(d軸の電圧指令Vd*,q軸の電圧指令Vq*を成分とするベクトルのq軸の方向に対する角度)との一例を図6に示す。
【0028】
変調率Rmが所定値Rref1以下のときには、正弦波過変調切替条件が成立していないと判断し、モータ32の電気角θeを用いて次式(4)および式(5)によりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*をモータ22の三相コイルのU相,V相,W相に印加すべき電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に座標変換(2相−3相変換)し(ステップS170)、座標変換した電圧指令Vu*,Vv*,Vw*をインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチングするためのPWM信号に変換し(ステップS180)、変換したPWM信号をインバータ34に出力することによってインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御して(ステップS190)、本ルーチンを終了する。
【0029】
【数2】

【0030】
ステップS160で変調率Rmが所定値Rref1より大きいときには、正弦波過変調切替条件が成立していると判断し、正弦波制御方式から過変調制御方式への切替を待機すべき待機条件が成立したか否かを判定し(ステップS200)、待機条件が成立していないときには、インバータ34の制御方式を正弦波制御方式から過変調制御方式に切り替えて(ステップS210)、本ルーチンを終了し、待機条件が成立しているときには、正弦波制御方式を継続すると判断し、ステップS170〜S190の処理を実行して本ルーチンを終了する。待機条件は、詳細は後述するが、実施例では、インバータ34の制御方式を矩形波制御方式から正弦波制御方式に切り替えたときにその切替から所定時間(例えば、数msecや数十msecなど)が経過していない条件を用いるものとした。即ち、矩形波制御方式から正弦波制御方式に切り替えてから所定時間が経過するまでは待機条件が成立していると判断して正弦波制御方式を継続するものとした。
【0031】
次に、過変調制御方式でのインバータ34の制御について説明する。図7は、電子制御ユニット50により実行される過変調制御方式実行ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、過変調制御方式でンバータ34を制御するときに所定時間毎(例えば数msec毎)に繰り返し実行される。
【0032】
過変調制御方式実行ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、モータ32のトルク指令Tm*や電気角θe,回転角速度ωm,U相,V相電流Iu,Iv,駆動電圧系電力ライン42の電圧VHなど制御に必要なデータを入力し(ステップS300)、モータ32の電気角θeを用いて上述の式(1)により相電流Iu,Ivをd軸,q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相−2相変換)する(ステップS310)。モータ32のトルク指令Tm*や電気角θe,U相,V相電流Iu,Iv,駆動電圧系電力ライン42の電圧VHの入力方法については上述した。モータ32の回転角速度ωmは、回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置に基づいて演算されたものを入力するものとした。
【0033】
続いて、次式(6),(7)により、d軸,q軸の電流Id,Iqになまし処理を施してなまし後電流Idmo,Iqmoを計算する(ステップS320)。ここで、式(6),(7)中、「T1」は時定数であり、「前回Idmo」,「前回Iqmo」は前回に本ルーチンが実行されたときに計算されたなまし後電流Idmo,Iqmoである。時定数T1は、d軸,q軸の電流Id,Iqに含まれる高調波成分を減衰させるための値としてモータ32の回転数Nmや本ルーチンの実行間隔などに応じて設定することができる。このように、過変調制御方式でインバータ34を制御するときには、d軸,q軸の電流Id,Iqになまし処理を施してなまし後電流Idmo,Iqmoを計算することにより、電流センサ33U,33Vにより検出された相電流Iu,Ivや相電流Iu,Ivを座標変換して得られたd軸,q軸の電流Id,Iqに含まれる高調波成分を減衰させた電流としてなまし後電流Idmo,Iqmoを計算することができる。
【0034】
Idmo=(1-T1)・Id+T1・(前回Idmo) (6)
Iqmo=(1-T1)・Iq+T1・(前回Iqmo) (7)
【0035】
続いて、図4の正弦波制御方式実行ルーチンのステップS120の処理と同様に、モータ32のトルク指令Tm*に基づいてd軸,q軸の電流指令Id*,Iq*を設定する(ステップS330)。そして、d軸,q軸のなまし後電流Idmo,Iqmoと電流指令Id*,Iq*とモータ32の回転角速度ωmとを用いて次式(8),(9)によりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を計算する(ステップS340)。ここで、式(8),(9)は、d軸,q軸のなまし後電流Idmo,Iqmoと電流指令Id*,Iq*との差が打ち消されるようにするための電流フィードバック制御における関係式であり、式(8),(9)中、「Ld」,「Lq」はそれぞれd軸,q軸のインダクタンスであり、「φ」は誘起電圧係数であり、「Kp3」,「Kp4」は比例項のゲインであり、「Ki3」,「Ki4」は積分項のゲインである。
【0036】
Vd*=-ωm・Lq・Iq*+Kp3・(Iq*-Iqmo)+Ki3・Σ(Iq*-Iqmo) (8)
Vq*=-ωm・Ld・Id*+ωm・φ+Kp4・(Id*-Idmo)+Ki4・Σ(Id*-Idmo) (9)
【0037】
そして、次式(10),(11)によりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*になまし処理を施してなまし後電圧指令Vdmo*,Vqmo*を計算する(ステップS350)。ここで、式(10),(11)中、「T2」は時定数であり、「前回Vdmo*」,「前回Vqmo*」は前回に本ルーチンが実行されたときに計算されたなまし後電圧指令Vdmo*,Vqmo*である。時定数T2は、d軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*に含まれる高調波成分を減衰させるための値としてモータ32の回転数Nmや本ルーチンの実行間隔などに応じて設定することができる。このように、過変調制御方式でインバータ34を制御するときには、d軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*になまし処理を施してなまし後電圧指令Vdmo*,Vqmo*を計算することにより、高調波成分を減衰させた電圧指令としてなまし後電圧指令Vdmo*,Vqmo*を計算することができる。
【0038】
Vdmo*=(1-T2)・Vd*+T2・(前回Vdmo*) (10)
Vqmo*=(1-T2)・Vq*+T2・(前回Vqmo*) (11)
【0039】
こうしてd軸,q軸のなまし後電圧指令Vdmo*,Vqmo*を計算すると、計算したd軸のなまし後電圧指令Vdmo*の二乗とq軸のなまし後電圧流指令Vqmo*の二乗との和の平方根を電圧指令大きさVrとして計算すると共にd軸のなまし後電圧指令Vdmo*とq軸のなまし後電圧流指令Vqmo*とを用いて電圧指令角度θvrを計算し(図6参照)(ステップS360)、計算した電圧指令大きさVrを駆動電圧系電力ライン42の電圧VHで除して変調率Rmを計算し(ステップS370)、変調率Rmを上述の値Rref1(約0.61)から所定値αを減じた値(Rref1−α)および所定値Rref2(約0.78)と比較する(ステップS380)。ここで、所定値αは、正弦波制御方式と過変調制御方式との切替が頻繁に生じないようにヒステリシスを持たせるためのものである。また、所定値Rref2は、過変調制御方式でインバータ34を制御するときの最大変調率に相当する。ステップS380の処理は、インバータ34の制御方式を過変調制御方式から正弦波制御方式に切り替える過変調正弦波切替条件またはインバータ34の制御方式を過変調制御方式から矩形波制御方式に切り替える過変調矩形波切替条件が成立したか否かを判定する処理である。
【0040】
変調率Rmが値(Rref1−α)より大きく所定値Rref2未満のときには、過変調正弦波切替条件も過変調矩形波切替条件も成立していないと判断し、ステップS360で計算した電圧指令大きさVrにリニア補正処理を施してリニア補正後電圧指令Vrmoを設定する(ステップS390)。過変調制御方式では、PWM信号を生成する際に正弦波状の電圧指令の振幅(電圧指令大きさVr)が三角波電圧の振幅より大きいため、モータ32に印加される電圧が略正弦波状にならない。リニア補正処理は、そのことを踏まえて、モータ32に印加される電圧が値(VH・Rref1〜VH・Rref2)の範囲で電圧指令大きさVrの増加に応じて略線形に増加するようにするために電圧指令大きさVrを補正する処理である。このリニア補正処理は、実施例では、ステップS360で計算した電圧指令大きさVrに相当する大きさの電圧がモータ32に印加されるよう、電圧指令大きさVrとリニア補正後電圧指令大きさVrmoとの関係を予め実験や解析などによって定めてリニア補正用対応関係としてROM54に記憶しておき、電圧指令大きさVrが与えられると記憶したマップから対応するリニア補正後電圧指令大きさVrmoを導出して設定するものとした。
【0041】
こうしてd軸,q軸のリニア補正後電圧指令Vrmoを計算すると、計算したリニア補正後電圧指令Vrmoと電圧指令角度θvrとを用いてd軸,q軸のリニア補正後電圧指令Vdmo2*,Vqmo2*を計算し(ステップS400)、モータ32の電気角θeを用いて、上述の式(4)および式(5)の「Vd*」,「Vq*」を「Vdmo*」,「Vqmo*」に置き換えたものにより、d軸,q軸のリニア補正後電圧指令Vdmo2*,Vqmo2*をモータ22の三相コイルのU相,V相,W相に印加すべき電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に座標変換(2相−3相変換)し(ステップS410)、座標変換した電圧指令Vu*,Vv*,Vw*をインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチングするためのPWM信号に変換し(ステップS420)、変換したPWM信号をインバータ34に出力することによってインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御して(ステップS430)、本ルーチンを終了する。ここで、過変調制御方式では、PWM信号の変換に用いられる正弦波状の電圧指令の振幅として、リニア補正後電圧指令大きさVrmoが用いられる。
【0042】
このように、過変調制御方式では、d軸,q軸の電流Id,Iqになまし処理を施してなまし後電流Idmo,Iqmoを計算すると共に、計算したなまし後電流Idmo,Iqmoを用いてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を計算し、計算したd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*になまし処理を施してなまし後電圧指令Vdmo*,Vqmo*を計算してインバータ34の制御に用いることにより、高調波成分をより適正に減衰させてインバータ34を制御することができる。なお、上述の図4の正弦波制御方式実行ルーチンでは、正弦波制御方式が過変調制御方式に比して出力応答性が高いことを踏まえて、d軸,q軸の電流Id,Iqやd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*に対してなまし処理を施さずにインバータ34の制御に用いるものとした。
【0043】
ステップS380で変調率Rmが値(Rref1−α)以下のときには、過変調正弦波切替条件が成立していると判断し、インバータ34の制御方式を過変調制御方式から正弦波制御方式に切り替えて(ステップS440)、本ルーチンを終了する。また、ステップS380で変調率Rmが所定値Rref2以上のときには、インバータ34の制御方式を過変調制御方式から矩形波制御方式に切り替えて(ステップS450)、本ルーチンを終了する。
【0044】
次に、矩形波制御方式でのインバータ34の制御について説明する。図8は、電子制御ユニット50により実行される矩形波制御方式実行ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、矩形波制御方式でインバータ34を制御するときに所定時間毎(例えば数msec毎)に繰り返し実行される。
【0045】
矩形波制御方式実行ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、モータ32のトルク指令Tm*や電気角θe,U相,V相電流Iu,Iv,回転数センサ28a,28bからの駆動輪26a,26bの回転数Nwl,Nwrなど制御に必要なデータを入力し(ステップS500)、モータ32の電気角θeを用いて上述の式(1)により相電流Iu,Ivをd軸,q軸の電流Id,Iqに座標変換(3相−2相変換)し(ステップS510)、上述の式(6),(7)により、d軸,q軸の電流Id,Iqになまし処理を施してなまし後電流Idmo,Iqmoを計算する(ステップS520)。モータ32のトルク指令Tm*や電気角θe,U相,V相電流Iu,Ivの入力方法については上述した。また、d軸,q軸の電流Id,Iqになまし処理を施すのは、過変調制御方式と同様の理由である。
【0046】
続いて、d軸,q軸のなまし後電流Idmo,Iqmoがインバータ34の制御方式を矩形波制御方式から過変調制御方式に切り替える切替ラインに至ったか否かを判定する(ステップS530,S540)。矩形波制御方式では、後述するように、電圧位相指令θp*の調整によってインバータ34を制御するため、変調率Rmは一定である。したがって、実施例では、d軸,q軸のなまし後電流Idmo,Iqmoがd軸,q軸の電流Id,Iqが上述の電流指令ライン(図5参照)よりd軸の電流Idの大きさが小さくなる切替ラインに至ったか否かによってインバータ34の制御方式を矩形波制御方式から過変調制御方式に切り替える矩形波過変調切替条件が成立したか否かを判定するものとした。電流指令ラインと切替ラインとの一例を図9に示す。矩形波制御によってインバータ34を制御しているときには、弱め界磁のために、d軸の電流Idが電流指令ラインよりも−d軸の方向に大きな値となることが多い。したがって、実施例では、過変調変調制御方式と矩形波制御方式との頻繁な切替を抑制するために、電流指令ラインよりもd軸の電流Idの大きさが小さくなるよう切替ラインを定めるものとした。
【0047】
d軸,q軸のなまし後電流Idmo,Iqmoが切替ラインに至っていないときには、矩形波過変調切替条件は成立していないと判断し、d軸,q軸のなまし後電流Idmo,Iqmoに基づいて、モータ32から出力されていると推定される推定トルクTmestを求める(ステップS550)。ここで、推定トルクTmestは、実施例では、d軸,q軸のなまし後電流Idmo,Iqmoと推定トルクTmestとの関係を予め実験や解析などによって定めてROM54に記憶しておき、d軸,q軸のなまし後電流Idmo,Iqmoが与えられると記憶したマップから対応する推定トルクTmestを導出して設定するものとした。
【0048】
こうして推定トルクTmestを求めると、モータ32の推定トルクTmestとトルク指令Tm*とを用いて次式(12)により電圧位相指令θp*を計算し(ステップS560)、計算した電圧位相指令θp*に基づく矩形波電圧がモータ32に印加されるよう矩形波信号をインバータ34のトランジスタT11〜T16に出力することによってトランジスタT11〜t16をスイッチング制御して(ステップS570)、本ルーチンを終了する。ここで、電圧位相指令θp*は、正弦波制御方式や過変調制御方式における電圧指令角度θvrに相当する位相指令である。また、式(12)は、モータ32の推定トルクTmestとトルク指令Tm*との差が打ち消されるようにするためのトルクフィードバック制御における関係式であり、式(12)中、「Kp5」は比例項のゲインであり、「Ki5」は積分項のゲインである。
【0049】
θp*=Kp5・(Tm*-Tmest)+Ki5・Σ(Tm*-Tmest) (12)
【0050】
ステップS530,S540でd軸,q軸のなまし後電流Idmo,Iqmoが切替ラインに至ったときには、矩形波過変調切替条件が成立したと判断し、駆動輪26a,26bの回転数Nwl,Nwrを用いて駆動輪26a,26bの回転数減少率ΔNwを計算する(ステップS580)。ここで、駆動輪26a,26bの回転数減少率ΔNwは、駆動輪26a,26bの回転数Nwl,Nwfの平均値Nwの単位時間(例えば、数msecなど)あたりの減少量として計算するものとした。
【0051】
こうして駆動輪26a,26bの回転数減少率ΔNwを計算すると、計算した駆動輪26a,26bの回転数減少率ΔNwを閾値Nrefと比較し(ステップS590)、駆動輪26a,26bの回転数減少率ΔNwが閾値Nref以下のとき(駆動輪26a,26bの回転数Nwl,Nwrの減少の程度が比較的緩やかなとき)には、インバータ34の制御方式を矩形波制御方式から過変調制御方式に切り替えて(ステップS600)、本ルーチンを終了する。一方、駆動輪26a,26bの回転数減少率ΔNwが閾値Nrefより大きいとき(駆動輪26a,26bの回転数Nwl,Nwrの減少の程度が比較的急なとき)には、インバータ34の制御方式を、矩形波制御方式から過変調制御方式ではなく、矩形波制御方式から正弦波制御方式に切り替えて(ステップS610)、本ルーチンを終了する。ここで、閾値Nrefは、矩形波過変調切替条件が成立してから比較的短い時間で過変調正弦波切替条件が成立すると考えられる回転数減少率ΔNwの上限近傍の値を用いることができ、モータ32の制御性などを考慮して、例えば、50rpm/msecや70rpm/msec,100rpm/msecなどを用いることができる。
【0052】
いま、矩形波制御方式でインバータ34を制御している最中に駆動輪26a,26bの回転数Nwf,Nwrの減少によって矩形波過変調切替条件が成立したとき、例えば、駆動輪26a,26bの空転によるスリップが発生して矩形波制御方式でインバータ34を制御している最中に駆動輪26a,26bのグリップによって駆動輪26a,26bの回転数(モータ32の回転数Nm)が急減して矩形波過変調切替条件が成立したときなどを考える。過変調制御方式では、上述したように、d軸,q軸の電流Id,Iqになまし処理を施したりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*になまし処理を施したり電圧指令大きさVrにリニア補正処理を施したりすると共に正弦波制御方式の実行間隔(例えば数百μsec毎)より長い実行間隔(例えば数msec毎)でインバータ34を制御したりするなどの理由により、正弦波制御方式に比して制御性や出力応答性が低い。また、d軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*になまし処理を施して得られるなまし後電圧指令Vdmo*,Vqmo*を用いて電圧指令大きさVrを計算して過変調正弦波切替条件や過変調矩形波切替条件の成立の有無に用いるため、d軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を直接用いて電圧指令大きさVrを計算して過変調正弦波切替条件や過変調矩形波切替条件の成立の有無に用いるものに比してインバータ34の制御方式の切替が遅れやすいと考えられる。これらのため、インバータ34の制御方式を、矩形波PWM切替条件が成立したときに矩形波制御方式から過変調制御方式に切り替えると共にその後に過変調正弦波切替条件が成立したときに過変調制御方式から正弦波制御方式に切り替えるものとすると、回転数減少率ΔNwが大きいときなど矩形波PWM切替条件の成立と過変調正弦波切替条件の成立との時間間隔が比較的短いときには、正弦波制御方式への切り替えがある程度遅れることがある。正弦波制御方式への切替がある程度遅れると、正弦波制御方式でインバータ34を制御すべきときに過変調制御方式でインバータ34を制御することになり、特に、回転数減少率ΔNwが大きいとき(変調率Rmが比較的迅速に小さくなるとき)に、モータ32に作用する電圧が過電圧になったり、モータ32の相電流が過電流になったりする可能性がある。これに対して、実施例では、矩形波PWM切替条件が成立したときに駆動輪26a,26bの回転数減少率ΔNwが大きいときには、インバータ34の制御方式を過変調制御方式を経由せずに正弦波制御方式に直接切り替えることにより、正弦波制御方式への切替が遅れるのを抑制することができ、モータ32に過電圧が作用したり過電流が流れたりするのを抑制することができる。なお、この場合、正弦波制御方式に切り替えた直後は、変調率Rmは所定値Rref1より大きくなり、正弦波制御方式でインバータ34を制御するものの、PWM信号は、過変調制御方式と同様の信号になると考えられる。また、上述の図4の正弦波制御方式実行ルーチンのステップS200の待機条件、具体的には、インバータ34の制御方式を矩形波制御方式から正弦波制御方式に切り替えたときにその切替から所定時間(例えば、数msecや数十msecなど)が経過していない条件は、矩形波制御方式から過変調制御方式を経由せずに正弦波制御方式に直接切り替えたときに、その直後に変調率Rmが所定値Rref1より大きいために正弦波制御方式から過変調制御方式に切り替わってしまうのを回避するために用いられるものである。したがって、インバータ34の制御方式を矩形波制御方式から正弦波制御方式に切り替えてから所定時間が経過してるときには、変調率Rmが所定値Rref1より大きいことを条件として過変調制御方式に切り替えればよい。
【0053】
以上説明した実施例の電気自動車20によれば、駆動輪26a,26bの回転数の減少時に、インバータ34の制御方式を矩形波制御方式から過変調制御方式に切り替える矩形波過変調切替条件が成立したときにおいて、駆動輪26a,26bの回転数減少率ΔNwが所定値Nrefより大きいときには過変調制御方式を経由せずに正弦波制御方式に直接切り替えるから、正弦波制御方式への切替が遅れるのを抑制することができ、モータ32に過電圧が作用したり過電流が流れたりするのを抑制することができる。
【0054】
実施例の電気自動車20では、正弦波制御方式でインバータ34を制御する際、d軸の電圧指令Vd*の二乗とq軸の電圧流指令Vq*の二乗との和の平方根を電圧指令大きさVrとして計算し、計算した電圧指令大きさVrを駆動電圧系電力ライン42の電圧VHで除して変調率Rmを計算し、計算した変調率Rmを所定値Rref1と比較することによって正弦波制御方式から過変調制御方式に切り替えるか否かを判定するものとしたが、上述の式(10),(11)によりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*になまし処理を施してなまし後電圧指令Vdmo*,Vqmo*を計算し、計算したd軸のなまし後電圧指令Vdmo*の二乗とq軸のなまし後電圧流指令Vqmo*の二乗との和の平方根を電圧指令大きさVrとして計算し、計算した電圧指令大きさVrを駆動電圧系電力ライン42の電圧VHで除して変調率Rmを計算し、計算した変調率Rmを所定値Rref1と比較することによって正弦波制御方式から過変調制御方式に切り替えるか否かを判定するものとしてもよい。
【0055】
実施例の電気自動車20では、過変調制御方式でインバータ34を制御する際、d軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*になまし処理を施してなまし後電圧指令Vdmo*,Vqmo*を計算して電圧指令大きさVrや電圧指令角度θvrの計算などに用いるものとしたが、d軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*をそのまま電圧指令大きさVrや電圧指令角度θvrの計算などに用いるものとしてもよい。
【0056】
実施例の電気自動車20では、過変調制御方式の実行間隔(例えば数msec毎)を正弦波制御方式の実行間隔(例えば数百μsec毎)より長い実行間隔としたが、略同一の実行間隔としてもよい。
【0057】
実施例の電気自動車20では、過変調制御方式でインバータ34を制御する際、リニア補正後電圧指令Vrmoと電圧指令角度θvrとを用いてd軸,q軸のリニア補正後電圧指令Vdmo2*,Vqmo2*を計算すると共に、計算したd軸,q軸のリニア補正後電圧指令Vdmo2*,Vqmo2*をモータ32の電気角θeを用いてモータ22の三相コイルのU相,V相,W相に印加すべき電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に座標変換(2相−3相変換するものとしたが、d軸,q軸のリニア補正後電圧指令Vdmo2*,Vqmo2*を計算せずに、リニア補正後電圧指令Vrmoと電圧指令角度θvrとモータ32の電気角θeとを用いてモータ22の三相コイルのU相,V相,W相に印加すべき電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に直接変換するものとしてもよい。
【0058】
実施例の電気自動車20では、矩形波制御方式でインバータ34を制御する際、モータ32の推定トルクTmestとトルク指令Tm*とを用いて上述の式(12)により電圧位相指令θp*を計算するものとしたが、モータ32の推定トルクTmestになまし処理を施して得られるなまし後推定トルクTmestmoとトルク指令Tm*とを用いて、式(12)の「Tmest」を「Tmestmo」に置き換えたものにより、電圧位相指令θp*を計算するものとしてもよい。
【0059】
実施例では、駆動輪26a,26bに接続された駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32を備える電気自動車20に適用するものしたが、例えば、図10の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、遊星歯車機構126を介して駆動軸22に接続されたエンジン122およびモータ124と、駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32と、を備えるハイブリッド自動車120に適用するものとしてもよい。また、図11の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、エンジン122のクランクシャフトに接続されたインナーロータ232と駆動輪26a,26bに連結された駆動軸22に接続されたアウターロータ234とを有しエンジン122からの動力の一部を駆動軸22に伝達すると共に残余の動力を電力に変換する対ロータ電動機230を備えるものとしてもよい。さらに、図12の変形例のハイブリッド自動車320に例示するように、駆動軸22に変速機330を介してモータ32を取り付けると共に、モータ32の回転軸にクラッチ329を介してエンジン122を接続する構成とし、エンジン122からの動力をモータ32の回転軸と変速機330とを介して駆動軸22に出力すると共にモータ32からの動力を変速機330を介して駆動軸22に出力するハイブリッド自動車320に適用するものとしてもよい。
【0060】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータ32が「モータ」に相当し、インバータ34が「インバータ」に相当し、バッテリ36が「バッテリ」に相当し、図4の正弦波制御方式実行ルーチンや図7の過変調制御方式実行ルーチン,図8の矩形波制御方式実行ルーチンを実行する電子制御ユニット50が「制御手段」に相当する。
【0061】
ここで、「モータ」としては、永久磁石が埋め込まれたロータと三相コイルが巻回されたステータとを備える同期発電電動機(いわゆる埋込磁石型同期発電電動機)として構成されたモータ32に限定されるものではなく、永久磁石が表面に取り付けられたロータと三相コイルが巻回されたステータとを備える同期発電電動機(いわゆる表面磁石型同期発電電動機)など、駆動輪に接続されたものであれば如何なるタイプのモータであっても構わない。「インバータ」としては、インバータ34に限定されるものではなく、モータを駆動するものであれば如何なるタイプのインバータであっても構わない。「バッテリ」としては、リチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ36に限定されるものではなく、ニッケル水素二次電池やニッケルカドミウム二次電池,鉛蓄電池など、如何なるタイプのバッテリであっても構わない。「制御手段」としては、駆動輪26a,26bの回転数の減少時に、インバータ34の制御方式を矩形波制御方式からパルス幅変調方式(過変調制御方式または正弦波制御方式)に切り替える条件が成立したときにおいて、駆動輪26a,26bの回転数減少率ΔNwが所定値Nrefより大きいときには過変調制御方式を経由せずに正弦波制御方式に直接切り替えるものに限定されるものではなく、モータからトルクを出力して走行するよう正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかでインバータを制御し、駆動輪の回転数の減少時に、インバータの制御方式を矩形波制御方式から過変調制御方式に切り替える切替条件が成立したとき、駆動輪の回転数の減少率が予め定められた所定値以下のときにはインバータの制御方式を過変調制御方式に切り替え、駆動輪の回転数の減少率が所定値より大きいときにはインバータの制御方式を正弦波制御方式に切り替えるものであれば如何なるものとしても構わない。
【0062】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0063】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、自動車の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0065】
20 電気自動車、22 駆動軸、24 デファレンシャルギヤ、26a,26b 駆動輪、32 モータ、32a 回転位置検出センサ、33U,33V 電流センサ、34 インバータ、36 バッテリ、37a 電圧センサ、37b 電流センサ、37c 温度センサ、40 昇圧コンバータ、42 駆動電圧系電力ライン、44 電池電圧系電力ライン、46,48 コンデンサ、46a,48a 電圧センサ、50 電子制御ユニット、52 CPU、54 ROM、56 RAM、60 イグニッションスイッチ、61 シフトレバー、62 シフトポジションセンサ、63 アクセルペダル、64 アクセルペダルポジションセンサ、65 ブレーキペダル、66 ブレーキペダルポジションセンサ、68 車速センサ、120,220,320 ハイブリッド自動車、122 エンジン、124 モータ、126 遊星歯車機構、230 対ロータ電動機、232 インナーロータ、234 アウターロータ、329 クラッチ、330 変速機、D11〜D16,D31,D32 ダイオード、L リアクトル、T11〜T16,T31,T32 トランジスタ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動輪に接続されたモータと、前記モータを駆動するインバータと、前記インバータを介して前記モータに電力を供給可能なバッテリと、前記モータからトルクを出力して走行するよう正弦波制御方式,過変調制御方式,矩形波制御方式のいずれかで前記インバータを制御する制御手段と、を備える自動車であって、
前記制御手段は、前記駆動輪の回転数の減少時に、前記インバータの制御方式を矩形波制御方式から過変調制御方式に切り替える切替条件が成立したとき、前記駆動輪の回転数の減少率が予め定められた所定値以下のときには前記インバータの制御方式を過変調制御方式に切り替え、前記駆動輪の回転数の減少率が前記所定値より大きいときには前記インバータの制御方式を正弦波制御方式に切り替える手段である、
ことを特徴とする自動車。
【請求項2】
請求項1記載の自動車であって、
前記制御手段は、前記インバータの制御方式を矩形波制御方式から正弦波制御方式に切り替えたときには、予め定められた所定時間が経過するまでは正弦波制御方式を継続する手段である、
自動車。
【請求項3】
請求項1または2記載の自動車であって、
正弦波制御方式は、d軸,q軸の電流と電流指令とを用いてd軸,q軸の電圧指令を設定して前記インバータを制御する方式であり、
過変調制御方式は、d軸,q軸の電流になまし処理を施して得られるd軸,q軸のなまし後電流とd軸,q軸の電流指令とを用いてd軸,q軸の電圧指令を設定して前記インバータを制御する方式である、
自動車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−93936(P2013−93936A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−233315(P2011−233315)
【出願日】平成23年10月24日(2011.10.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】