説明

自己組織的多孔質化薄膜型電気化学リアクター

【課題】エンジン排ガス中に過剰の酸素が存在する場合でも、低温作動かつ少ない消費電力で高効率に窒素酸化物を浄化できる電気化学リアクターを提供する。
【解決手段】自己組織的に多孔質化する基材上に配置する薄層型のセル、もしくは自己組織的に多孔化する選択浄化層を有する薄層型のセルを、該基材上に隣接させて形成することで、セル抵抗の低抵抗化を実現し、高効率かつ浄化温度域を低下せしめることが可能な、軽量かつ高比表面積反応場を有することで特徴付けられる電気化学リアクター。
【効果】素子の軽量コンパクト化と500℃以下の低温での作動を可能とする電気化学素子を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素を含む燃焼排ガスから窒素酸化物を効率的に浄化する電気化学リアクターに関するものであり、更に詳しくは、イオン伝導性固体電解質を挟む両面に混合伝導性を有する酸化電極もしくは電子伝導性を有する集電電極及びその両方が塗布された、窒素酸化物の浄化を行う電気化学リアクターに関するものである。
【0002】
本発明は、排ガス中の窒素酸化物を浄化する際に、排ガス中に共存する酸素分子が電気化学リアクターの反応表面に吸着して反応性が低下することに対し、従来技術に比べて大幅に少ない消費電力で浄化反応が可能であり、かつ従来技術では作動が極めて困難である相対的に低温の500℃以下の低温度領域においても、高効率かつ連続的に、被処理物質を処理することを可能とする新しい電気化学リアクターを提供するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、ガソリンエンジンから発生する窒素酸化物は、三元触媒で無害化されているが、リーンバーンエンジン、ディーゼルエンジンのように、排ガス中に数%以上の酸素が存在する場合、三元触媒表面への酸素被毒によって触媒活性が低下することが問題となっている。
【0004】
一方、イットリア安定化ジルコニア等の酸素イオン導電性酸化物の焼結体を用いた固体電解質型リアクターシステムが提案されている(特許文献2)。このシステムは、酸素イオン伝導性を有する固体電解質基板を挟んだ両面に電極を付与し、これに電界を印加する方法のものである。
【0005】
この固体電解質リアクターシステムに電界を印加すると、排ガス中に含まれる窒素酸化物が、カソード電極部に存在するカソード電極−電解質−気相の三相界面においてカソード電極からの電子供与により還元され、酸素イオンと窒素に分解される。
【0006】
この分解された酸素イオンは、固体電解質を介して拡散し、アノード電極上にて酸素として放出される。上記固体電解質型電気化学素子では、このように作動中、カソード電極部における固体電解質表面は、常に酸素が枯渇した状態であり、排ガス中の窒素酸化物の浄化は連続的に行われる。
【0007】
しかし、実際のディーゼル排ガスでは、窒素酸化物に対して酸素の濃度差が数十〜千倍程度高い。そのため、窒素酸化物の効率的な浄化には、優先的に窒素酸化物を分解させる必要がある。この問題については、既出特許(特許文献1)において、電気化学素子の電極表面に、酸化ニッケルとイットリア安定化ジルコニア等の混合物層を形成することで浄化性能が向上することが示されている。
【0008】
しかしながら、一般的に、ディーゼルエンジンの排ガス中には数%以上の酸素が存在するため、共存している酸素が優先的にカソード電極部においてイオン化されて固体電解質中を流れる。そのため、窒素酸化物を分解するには、ある程度以上の電流を流す必要がある。上記の固体電解質型電気化学素子の電流効率は、最大でも10%程度である。
【0009】
これは、排ガス中の窒素酸化物と酸素の濃度比が数十〜千倍であることを考慮すれば、非常に高い窒素酸化物選択性であるが、90%程度の電流が余剰酸素のポンピングに使用されている事実は、大きな消費電力の必要性を意味するため、実用化には大きな障害となる。
【0010】
更に、従来型の固体電解質型電気化学素子の固体電解質は、ディーゼルエンジン排ガスのガス温度域では有効に作動せず、効果的な浄化特性を得るためには、イオン伝導性が十分に高く発現する500℃以上の温度において作動させなければならないという問題がある。このため、実際の電気化学素子の作動には、ヒーター等を用いてイオン伝導性の高い温度域まで素子を加熱する必要がある等、更に大きなエネルギーを要する。
【0011】
加えて、大量の排ガスを浄化するためには、素子の大型化が必要である。しかし、イットリア安定化ジルコニア等の酸素イオン導電性材料は、比較的比重が大きく、既出特許(特許文献1)のような平板型の固体電解質型電気化学素子において、酸素イオン導電性材料を基板とした電気化学素子を大型化すると、浄化装置全体の重量が大きくなり、自動車等の移動体へ装備することが困難となる。
【0012】
【特許文献1】特開2003−33646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、排ガス中に過剰の酸素が共存する状況でも、電気化学素子反応電極において、窒素酸化物の浄化に必要な電力を低減させることを可能とするとともに、素子の軽量コンパクト化を図ることを可能とする新しい電気化学素子を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、セルを自己組織的多孔質層を形成した多孔質基材に隣接して配置することにより所期の目的を達成し得ることを見出し、更に研究を重ねて、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は、排ガス中に過剰の酸素が共存する状況でも、電気化学素子反応電極において、窒素酸化物の浄化に必要な電力を低減させること、ならびに軽量コンパクト化を図ることを技術的課題とするものである。
【0015】
すなわち、本発明は、燃焼排ガス中の窒素酸化物に対する選択性を向上させることにより、少ない消費電力での高効率な窒素酸化物の浄化を達成し、電流を多く流すことが困難な、より低い温度域でも作動が可能な電気化学素子を提供すること、ならびにセルの薄層化による軽量コンパクトな電気化学素子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)被処理物に対して電気化学反応を行うための電気化学素子であり、イオン伝導体及び電極より構成される基本セル構造を有し、電極上に化学反応部を構成した電気化学リアクターであって、前記セル構造を薄膜化して形成し、多孔質基材に隣接するように配置したことを特徴とする電気化学リアクター。
(2)基本セル構造が、少なくとも窒素酸化物の吸着能を有する窒素酸化物吸着性複合材及び/又は窒素酸化物吸着物質、第1の電極、酸素イオン伝導性を有する固体電解質、及び第2の電極を有する、前記(1)に記載の電気化学リアクター。
(3)前記多孔質基材が、ゼオライト、アルミナ、シリカ、窒化アルミ、SiC、又は酸素イオン伝導性を有する固体電解質材料を含む、前記(1)に記載の電気化学リアクター。
(4)前記セル構造を薄膜化して固体電解質の膜厚が、少なくとも100ミクロンより薄い膜厚となるように形成されている、前記(1)に記載の電気化学リアクター。
(5)前記多孔質基材が、自己組織的に多孔質化可能な基材である、前記(3)に記載の電気化学リアクター。
(6)前記自己組織的に多孔質化可能な基材が、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化銅、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、アルミニウムから選ばれた少なくとも1種を含む材料からなる、前記(5)に記載の電気化学リアクター。
(7)被処理物が、内燃機関の排ガスである、前記(1)に記載の電気化学リアクター。
(8)作動温度域が500℃より低温である、前記(1)に記載の電気化学リアクター。
(9)電気化学反応を行う素子の電極に隣接して配置された多孔質基材が、自己組織的に多孔質化可能な基材を多孔質化させた微構造を有する、前記(1)に記載の電気化学リアクター。
(10)固体電解質として、酸素イオン伝導体以外に、プロトン伝導体及び混合導電体を用いている、前記(1)に記載の電気化学リアクター。
(11)前記自己組織的に多孔質化させた微構造が、電気化学的な制御により形成された、請求項9に記載の電気化学リアクター。
【0017】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明の電気化学素子は、図1に示すように、窒素酸化物を選択還元する化学反応部、電極層、酸素イオン伝導性を有する固体電解質層及び電極に隣接して配置された多孔質基材で構成される。
【0018】
窒素酸化物の浄化に関する一般的なメカニズムは、まず、電気化学素子への通電により、電極層からの電子供与を生起させ、それにより窒素酸化物をイオン化する。窒素原子は、その場で分子となり放出される。生成した酸素イオンは、酸素イオン伝導性を有する固体電解質層内を拡散して反対側の電極層にて酸素分子として排出される。この反応が連続して起こることにより、窒素酸化物を窒素と酸素へ分解浄化する。
【0019】
しかしながら、一般的に、ディーゼルエンジンの排ガス中には数%以上の酸素が存在するため、共存している酸素が優先的にカソード電極部においてイオン化されて固体電解質中を流れるため、窒素酸化物を分解するには、ある程度以上の電流を流す必要がある。上記の固体電解質型電気化学素子の電流効率は、最大でも10%程度である。
【0020】
これは、排ガス中の窒素酸化物と酸素の濃度比が数十〜千倍であることを考慮すれば、非常に高い窒素酸化物選択性であるが、90%程度の電流が余剰酸素のポンピングに使用されている事実は、大きな消費電力の必要性を意味するため、実用化には大きな障害となる。
【0021】
更に、図2に示すような平板型の固体電解質型電気化学素子(特許文献1)において、移動体への応用を考慮した場合には、素子構造の強度を維持するために、厚みのある固体電解質基板を用いることが必要である。これは、窒素酸化物を分解するのに必要な単位体積あたりの反応場面積が小さくなることを意味しており、実用化には排ガス浄化に必要な装置が大型・大重量化してしまうという問題がある。
【0022】
そこで、本発明者らは、単位体積あたりの反応場面積を増大可能な素子構成を検討した。その結果、自己組織的に多孔質化する基材上に薄層化したセルを配置することにより高比表面積化を達成し、同時に素子の低抵抗化によって、窒素酸化物分解効率を維持しながら、セルの低温作動化とエネルギー効率の向上に成功した。
【0023】
本発明は、被処理物に対して電気化学反応を行うための電気化学素子であり、イオン伝導体及び電極より構成される基本セル構造を有し、電極上に化学反応部を構成した電気化学リアクターであって、前記セル構造を薄膜化して形成し、多孔質基材に隣接するように配置したことを特徴とするものである。本発明の電気化学リアクターは、好適には、例えば、基本セル構造が、少なくとも窒素酸化物の吸着能を有する窒素酸化物吸着性複合材及び/又は窒素酸化物吸着物質、第1の電極、酸素イオン伝導性を有する固体電解質、及び第2の電極を有する。また、本発明では、前記多孔質基材は、好適には、例えば、ゼオライト、アルミナ、シリカ、窒化アルミ、SiC、又は酸素イオン伝導性を有する固体電解質材料からなる。
【0024】
本発明では、前記セル構造を薄膜化して固体電解質の膜厚が、少なくとも100ミクロン以下となるように形成されていることが好ましい。また、本発明では、前記多孔質基材は、自己組織的に多孔質化可能な基材であることが、好ましい。
【0025】
前記自己組織的に多孔質化可能な基材は、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化銅、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、アルミニウムから選ばれた少なくとも1種を含むこと、が好適である。本発明の電気化学リアクターは、作動温度域が500℃より低温であること、電気化学反応を行う素子の電極に隣接して配置された多孔質基材が、自己組織的に多孔質化可能な基材を多孔質化させた微構造を有すること、固体電解質として、酸素イオン伝導体以外に、プロトン伝導体及び混合導電体を用いていること、が好適である。
【0026】
本発明の電気化学素子では、多孔質基材もしくは多孔質形成材上に薄層型のセルを形成、望ましくは積層化することにより、単位体積あたりの反応面積が増大し、素子の小型化が可能となる。また、多孔質材を、比較的比重の重い酸素イオン導電性の金属酸化物から、ゼオライト、アルミナ、シリカ、SiC、窒化アルミ等にすることで、素子の大幅な軽量化が可能となる。ここで、多孔質形成材とは、電気化学的に還元可能な金属酸化物単独(酸化ニッケル、酸化鉄、酸化銅、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、アルミニウム等)、又はこれに骨格となる上記多孔質形成材及び固体電解質を混合した複合材を意味する。
【0027】
セルの薄層化による酸素イオン抵抗の低下により、同一の窒素酸化物浄化量を、より低温にて得ることが可能となる。ただし、セリア系の酸素イオン導電体を用いた場合、還元性雰囲気下において電子伝導性が発現することから、過剰な薄層化により電子伝導による漏れ電流を生じ、窒素酸化物の浄化効率が低下する。
【0028】
酸素濃度2%程度の低酸素分圧下では、膜厚20ミクロン以上、200ミクロン以下にするか、理想的には、1ミクロン以下の酸素イオン導電性のジルコニアなどのブロック層を形成することが望ましい。更に、多孔質形成材の酸化・還元を制御することにより、ガス透過性能を制御することが可能となる。
【0029】
従来の平板型の固体電解質型電気化学素子は、素子構造の強度を維持するために、厚みのある固体電解質板を用いることを必要とした。そのために、窒素酸化物の分解に必要な単位面積あたりの反応面積が小さくなり、これを自動車等の移動体へ応用する場合、排ガス浄化に必要な装置は、大型・大重量化してしまうという問題があった。
【0030】
これに対して、本発明では、自己組織的に多孔質化する基材上に薄膜化したセルを配置、望ましくは積層化することで、高比表面積化を達成し、同時に素子の低抵抗化によって、窒素酸化物分解率を維持し、セルの低温作動とエネルギー効率の向上化が実現可能となった。本発明において、セル構造を薄膜化して形成し、多孔質基材に隣接するように配置したとは、多孔質基材上に薄膜化したセルを積層乃至設置したことを意味する。
【0031】
本発明の電気化学素子は、例えば、図1a)に示されるように、基材の上に基本セル構造の電極、固体電解質及び電極を有し、多孔質形成層(兼選択分解層)を電極と固体電解質の間に配置したものが例示される。また、他の態様として、図1b)に示されるように、多孔質基材の上に隣接して基本セル構造の電極、固体電解質、選択分解層及び電極を配置したものが例示される。更に、図1c)に示されるように、多孔質基材に隣接して、基本セル構造の電極、固体電解質、選択分解層及び電極を形成するとともに、これを多段に積層配置したものが例示される。
【0032】
本発明において、自己組織的に多孔質化可能な基材を多孔質化させた微構造とは、前述の多孔質化可能な基材のうち、金属酸化物については、多孔質化可能な金属酸化物単独、もしくは数種の多孔質化可能な金属酸化物複合体、もしくは酸素イオン導電体と混合して作成したバルク体を還元させることで、多孔質化可能な金属酸化物の一部又は全部を、ナノメートルサイズ程度の金属微粒子化させ、これに伴う体積減少から空孔を形成せしめたバルク体、アルミにおいては、アルミを陽極酸化して10〜400nmの貫通孔を形成し多孔質化したものを意味する。本発明で用いられるイオン伝導体の具体例としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア、スカンジア安定化ジルコニア、サマリウム又はガドリニウム添加セリア、ランタン−ストロンチウム−カルシウム−マンガン又は鉄酸化物等のペロブスカイト酸化物、ランタンシリケート、Nd9.33(SiOが例示される。
【0033】
プロトン伝導体としては、Nafion、AlPO、B及びRO(Rはアルカリ金属、Na、K)を主成分とするAlPO−B−ROガラス、多孔質のSiO−P系ガラス、Y添加BaZrO、Y添加SrZrO、Y添加SrTiOが例示され、混合導電体としては、ストロンチウム添加ランタンマンガナイト、ランタン−ストロンチウム−コバルト−鉄酸化物(La−Sr−Co−Fe系ペロブスカイト型酸化物)、La−Sr−Mn−Fe系ペロブスカイト型酸化物やBa−Sr−Mn−Fe系ペロブスカイト型酸化物が例示される。また、薄膜化したセルとは、アノード及びカソードの電極と電解質の厚みを併せて200ミクロン以下、望ましくは電解質の厚みを30ミクロン程度以下としたものとして定義される。
【発明の効果】
【0034】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)素子の作動温度を500℃以下に低温化できる電気化学リアクターを提供することができる。
(2)従来技術に比べて少ない消費電力で高効率かつ連続的に窒素酸化物を浄化処理できる電気化学リアクターを提供できる。
(3)薄膜化による軽量コンパクトな電気化学素子を提供できる。
(4)排ガス中に過剰の酸素が共存する場合においても、酸素分子が電気化学リアクターの反応表面に吸着して反応性が低下することを抑制した薄膜型電気化学リアクターを提供できる。
(5)多孔質化可能な層での細孔径の制御によりガス透過性能をコントロールできる電気化学リアクターを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。尚、図1a)、b)及びc)は、本発明の一実施形態に係る電気化学素子の模式図である。以下、被処理物質として窒素酸化物とした場合について具体的に説明する。
【実施例1】
【0036】
図1a)と同様の構造を有する素子を、下記の方法により作製した。直径20mm、厚さ0.5mmのイットリア安定化ジルコニア(8mol%Y)基板上に、白金とイットリア安定化ジルコニアの混合物を、電極としてスクリーン印刷して、1400℃で1時間焼成し、その上に多孔質形成層兼、選択分解層として、窒素酸化物の選択還元触媒層のイットリア安定化ジルコニア(8mol%Y)と酸化ニッケルを混合したペーストをスクリーン印刷にて形成した。
【0037】
これを1400℃で2時間焼成した後、酸素イオン伝導性を有するイットリア安定化ジルコニア(8mol%Y)に10%のポリビニルブチラール樹脂を添加して作製したシート状の成形体を固体電解質として貼り付けた後、1450℃で2時間焼成した。焼成後の電解質の膜厚は約30ミクロンであった。その後、白金とイットリア安定化ジルコニアの混合物を、電極としてスクリーン印刷して、1400℃で1時間焼成した試料の両電極に白金線を接続し、直流電源へと接続した。
【0038】
(比較例1)
図2と同様の構造を有する素子構造改善前の素子を、下記の方法により作製した。酸素イオン伝導性を有する固体電解質は、イットリア安定化ジルコニア(8mol%Y)を用い、直径20mm、厚さ0.5mmの成形体を用いた。電極に、白金とイットリア安定化ジルコニアの混合物ペーストを前記成形体の両面にスクリーン印刷にて印刷した。その後、窒素酸化物の選択還元触媒層の選択分解層として、イットリア安定化ジルコニア(8mol%Y)と酸化ニッケルを混合したペーストを用いて、前述の成形体の電極上面へスクリーン印刷にて印刷した。
【0039】
更に、YSZペーストを用いて、成形体の窒素酸化物浄化層上部に被覆層をスクリーン印刷にて形成した。その成形体を1450℃で2時間焼成した物の両電極に白金線を接続し、直流電源へと接続した。
【実施例2】
【0040】
図1b)と同様の構造を有する素子を、下記の方法により作製した。基材として、酸素イオン伝導性を有する固体電解質のGd添加セリア(10mol%−Ga)を用い、直径20mm、厚さ0.5mmの多孔質基材を作製した。電極を、白金とGd添加セリアの混合物を前記の基材の片面にスクリーン印刷にて印刷後、1400℃で1時間の焼成を施した。その上に、窒素酸化物の選択還元触媒層の選択分解層として、Gd添加セリアと酸化ニッケルを混合したペーストをスクリーン印刷にて形成した。
【0041】
これを1400℃で2時間焼成した後、Gd添加セリア粉末に10%のポリビニルブチラール樹脂を添加して作製したシート状の成形体を固体電解質として貼り付けた後、1450℃で2時間焼成した。その後、白金とイットリア安定化ジルコニアの混合物を、電極としてスクリーン印刷して、1400℃で1時間焼成した試料の両電極に白金線を接続し、直流電源へと接続した。
【0042】
(比較例2)
図2と同様の構造を有する素子構造改善前の素子を、下記の方法により作製した。酸素イオン伝導性を有する固体電解質は、Gd添加セリア(10mol%−Ga)を用い、直径20mm、厚さ0.5mmの成形体に作製した。電極に、白金とGd添加セリアの混合物ペーストを前記成形体の両面にスクリーン印刷にて印刷した。
【0043】
その後、窒素酸化物の選択還元触媒層の選択分解層として、Gd添加セリア(10mol%−Ga)と酸化ニッケルを混合したペーストを用いて、前述の成形体の電極上面へスクリーン印刷にて印刷した。更に、セリアのペーストを用いて成形体の窒素酸化物の浄化層上部に被覆層をスクリーン印刷にて形成した。その成形体を1400℃で2時間焼成した物の両電極に白金線を接続し、直流電源へと接続した。
【0044】
(実験実施結果)
表1に示す測定条件にて実施例1及び比較例1のサンプルを用いて、作動電圧2.5Vにて窒素酸化物浄化性能の試験を行った。各電気化学素子の窒素酸化物浄化率の温度依存性を図4に示す。薄膜化セルを用いた場合、窒素酸化物浄化の開始温度を約100℃程度も低温化することが可能となった。
【0045】
更に、従来型のセルと比較して、セルの総厚が約1/10であることから、単位体積あたりの有効反応場面積を10倍程度に向上することが可能である。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示す測定条件にて実施例2及び比較例2のサンプルを用いて、作動温度が300℃、測定電圧3Vおいて、酸素イオン導電性測定を行った。各電気化学素子に流れる電流値は、それぞれ39.8mAと24.2mAであった。酸素イオン伝導体の厚みがそれぞれ、150ミクロンと500ミクロンであるため、セルの薄層化によって、本来約3倍の電流が流れるはずであるが、電流値は1.5倍程度であった。
【0048】
これは、図5に示すように、自己組織的多孔質層を形成する細孔が小さいため、ガス拡散が抑制されたことによるものと考えられる。しかしながら、膜厚15ミクロン程度の自己組織的多孔化層を有する薄層化セルによって、より低温で多くの酸素イオン電流が得られるので、セル特性の向上に有効である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
以上詳述したように、本発明は、自己組織的多孔質化薄膜型電気化学リアクターに係るものであり、本発明によれば、被処理物の化学反応を妨害する酸素が過剰に存在する状況でも、従来と比較して作動温度を大幅に低温化でき、素子の小型化が可能となり、更に、少ない消費電力で高効率かつ連続的に被処理物質を処理でき、多孔質化可能な層での細孔径の制御によりガス透過性能をコントロールできる電気化学リアクターを提供できる。本発明により、排ガス中に過剰の酸素が共存する場合においても、酸素分子が電気化学リアクターの反応表面に吸着して反応性が低下することを抑制した薄膜型電気化学リアクターを提供できる。本発明は、素子の作動温度を500℃以下に低温化でき、素子の小型化を可能とする、電気化学リアクターを提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】電気化学素子の構成を示す。
【図2】従来の電気化学素子の構成を示す。
【図3】評価装置の模式図を示す。
【図4】窒素酸化物浄化率の温度依存性を示す。
【図5】自己組織的多孔化層(多孔化後)を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理物に対して電気化学反応を行うための電気化学素子であり、イオン伝導体及び電極より構成される基本セル構造を有し、電極上に化学反応部を構成した電気化学リアクターであって、前記セル構造を薄膜化して形成し、多孔質基材に隣接するように配置したことを特徴とする電気化学リアクター。
【請求項2】
基本セル構造が、少なくとも窒素酸化物の吸着能を有する窒素酸化物吸着性複合材及び/又は窒素酸化物吸着物質、第1の電極、酸素イオン伝導性を有する固体電解質、及び第2の電極を有する、請求項1に記載の電気化学リアクター。
【請求項3】
前記多孔質基材が、ゼオライト、アルミナ、シリカ、窒化アルミ、SiC、又は酸素イオン伝導性を有する固体電解質材料を含む、請求項1に記載の電気化学リアクター。
【請求項4】
前記セル構造を薄膜化して固体電解質の膜厚が、少なくとも100ミクロンより薄い膜厚となるように形成されている、請求項1に記載の電気化学リアクター。
【請求項5】
前記多孔質基材が、自己組織的に多孔質化可能な基材である、請求項3に記載の電気化学リアクター。
【請求項6】
前記自己組織的に多孔質化可能な基材が、酸化ニッケル、酸化鉄、酸化銅、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、アルミニウムから選ばれた少なくとも1種を含む材料からなる、請求項5に記載の電気化学リアクター。
【請求項7】
被処理物が、内燃機関の排ガスである、請求項1に記載の電気化学リアクター。
【請求項8】
作動温度域が500℃より低温である、請求項1に記載の電気化学リアクター。
【請求項9】
電気化学反応を行う素子の電極に隣接して配置された多孔質基材が、自己組織的に多孔質化可能な基材を多孔質化させた微構造を有する、請求項1に記載の電気化学リアクター。
【請求項10】
固体電解質として、酸素イオン伝導体以外に、プロトン伝導体及び混合導電体を用いている、請求項1に記載の電気化学リアクター。
【請求項11】
前記自己組織的に多孔質化させた微構造が、電気化学的な制御により形成された、請求項9に記載の電気化学リアクター。

【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−307493(P2008−307493A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159591(P2007−159591)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】