説明

臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置

【課題】長時間の連続運転における検出感度低下の影響を無効化する、X線検出を用いる臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明は、臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置に関し、X線を発生させるX線源と、プラスチック試料を保持する試料保持装置と、プラスチック試料を透過したX線を検出するX線検出器と、規定した濃度の臭素を含有する臭素含有物と、プラスチック試料と臭素含有物とから検出した透過X線の強度をデータ解析し、プラスチック試料中に含まれる臭素系難燃剤量を判別するデータ処理装置と、データ処理装置からの信号に基づいて臭素含有物の規定した濃度より高い臭素濃度を有するプラスチック試料を分別する分別機構とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭素系難燃剤を含むプラスチックの分別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品などに使用されているプラスチックなどの樹脂には、難燃剤を含有する難燃性樹脂が一部に使用されている。その難燃剤含有量は通常1〜30重量%であり、その難燃剤としては主に臭素系難燃剤が利用されている。
【0003】
一方、家電リサイクル法を遵守するためには、プラスチック片のリサイクル技術が必要であり、リサイクル樹脂の性能を確保・管理するためには、難燃剤含有樹脂と難燃剤非含有樹脂との選別技術が重要技術となっている。また、リサイクル樹脂の家電製品への有効活用を進めるなかで、欧州のRoHS指令(電気電子機器に含まれる特定有害物質の使用制限に関する指令)に代表される有害物質規制における臭素系難燃剤の含有量規制を遵守するためにも、廃プラスチック片のリサイクル工程において、リサイクル樹脂への臭素系難燃剤の混入を防止する必要がある。
【0004】
プラスチックや金属の分別装置としては、一般的に、分離対象物をコンベアなど運搬手段により搬送し、分離対象物に蛍光X線(X線)照射し、検査位置に配置された検出器のデータを順次周期的にサンプリングし、そのデータに応答して排出機構を起動し、異なる区分収納箱に排出する分離方法をもつ分別装置が提案されている(たとえば、特許文献1および2参照)。
【0005】
これら分離方法をもつ分別装置では、X線管球による連続X線照射を用いて、分離対象物の含有元素から発生する蛍光X線を半導体検出器で検出し、波長やエネルギーを解析したり、または分離対象物の材質の違いによるX線吸収特性の異なりを利用したデータを用いたりするX線照射工程、検出工程およびデータ解析工程を備えた構成となっている。
【特許文献1】特開2004−219366号公報
【特許文献2】特開平5−131176号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような蛍光X線を備えた分別装置にあっては、膨大な量の廃プラスチック樹脂片を選別する際に、たとえば臭素(Br)を検出するには、樹脂片を膨大な回数測定する必要があるので、測定が煩雑となる。また、測定回数を減らして簡易にするためには、連続X線照射と大面積で低コストであるX線ラインセンサなどの検知器列やX線イメージングインテンシファイアなど大面積検知器を用いて、分離対象物の材質の違いによるX線吸収特性の差異を測定することが考えられる。
【0007】
しかし、このような大面積に対し連続でX線を照射し続け、かつ、連続で特性X線または透過X線を検知する検知器において、長時間の運転を継続する場合には、X線源の劣化ないし検知器の劣化による感度低下が起こり、Br含有量の誤判定が起こり、選別すべき樹脂片を通過させてしまう問題がある。
【0008】
また、その対策として、濃度基準となる樹脂片を周期的に測定しつつ、逐次検知器の感度を補正する方法が考えられるが、濃度基準となる樹脂片を他の分離対象の樹脂片群と混ざらないよう、別の移動手段に載置して、また別に回収する機構がそれぞれ必要となりコストが高くなるという問題点がある。また、上記対策法では、検知器劣化によりBr含有量の誤判定が発生しはじめるタイミングが、濃度基準樹脂片測定による感度補正のタイミングより早い場合には、選別すべき樹脂片を検知せずに通過させてしまう問題点がある。
【0009】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたものであり、長時間の連続運転における検出感度低下の影響を無効化できる、X線検出を用いた臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置は、X線を発生させるX線源と、プラスチック試料を保持する試料保持装置と、プラスチック試料を透過したX線を検出するX線検出器と、規定した濃度の臭素を含有する臭素含有物と、プラスチック試料と臭素含有物とから検出した透過X線の強度をデータ解析し、プラスチック試料中に含まれる臭素系難燃剤量を判別するデータ処理装置と、データ処理装置からの信号に基づいて臭素含有物の規定した濃度より高い臭素濃度を有するプラスチック試料を分別する分別機構とを有することを特徴とする。
【0011】
本発明の分別装置は、上記試料保持装置はコンベアであり、上記プラスチック試料はこのコンベアの移動方向に沿って移動する態様を含む。
【0012】
また、本発明は、上記分別装置において、コンベアに上記臭素含有物とを配置し、X線検出器の検出する範囲内における臭素含有物を配置した部分の透過X線強度と検出する範囲内における最大の透過X線強度とをデータ解析し、プラスチック試料中における臭素系難燃剤の含有量を判別するデータ処理装置と、データ処理装置からの信号に基づいて上記臭素含有物の規定した濃度より臭素濃度を有するプラスチックを分別する分別機構とを有する態様を含む。
【0013】
上記分別装置においては、コンベアと、このコンベアの移動方向とに対し平行な線上に上記臭素含有物を配置する部分を設けた態様を含む。
【0014】
また、上記分別装置において、コンベア上に、さらに、非臭素含有試料を配置し、上記コンベアと、このコンベアの移動方向とに対し平行な線上に上記臭素含有物を配置する部分と非臭素含有試料を配置する部分とを周期的に交互に設け、移動する上記コンベアが1サイクルする間に上記臭素含有物を配置する部分の少なくとも1箇所はX線検出器の検出範囲に含まれるように、上記臭素含有物を配置する部分と非臭素含有試料を配置する部分とのコンベア移動方向の長さが調整された態様とすることができる。
【0015】
さらに、本発明は、上記コンベアと、上記コンベアの移動方向とに対し平行な線上に上記臭素含有物を配置する部分がM個(Mは整数)設けられ、臭素含有物を配置する部分のコンベア移動方向の長さがコンベア1サイクルの長さの1/Mであり、かつ、M個の臭素含有物を配置する部分の長さが、コンベアの移動方向に対して垂直な方向に重ならないよう配置した態様を含む。
【0016】
また、本発明には、X線検出器の検出範囲に、複数の臭素含有物を配置し、複数の臭素含有物は、その規定した濃度が少なくとも2種以上とする態様が含まれる。
【0017】
複数の臭素含有物を配置する場合、複数の上記臭素含有物は、X線検出器の検出範囲内に常設され、プラスチック試料と複数の臭素含有物との透過X線のデータを解析し、このデータに基づき検量線を求め、該検量線に基づいて上記プラスチック試料中における臭素系難燃剤の含有量を定量するデータ処理装置と、上記データ処理装置からの信号に基づいて、上記プラスチック試料を臭素難燃剤の含有量に応じて分別する分別機構とを有する態様を含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る臭素系難燃剤含有プラスチックの分別方法および分別装置においては、X線検出範囲内に臭素濃度を規定した箇所を故意に設け、分別対象物からのX線強度と規定量の臭素からのX線強度とを同時に測定し相対値評価をするため、X線源の劣化や検出器の劣化に伴う全体の感度劣化の影響を無効化できる。このため、定期的に臭素濃度を規定した濃度基準試料を測定する測定器劣化判定法と比較し、より長期に渡り保修が不要な臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。なお、以下の実施の形態の説明では、図面を用いて説明しているが、本願の図面において同一の参照符号を付したものは、同一部分または相当部分を示している。
【0020】
<分別装置>
本発明の分別装置は、X線を発生させるX線源と、プラスチック試料を保持する試料保持装置と、プラスチック試料を透過したX線を検出するX線検出器とを有する。これらの構成により、後述の解析方法が可能となり、臭素系難燃剤における臭素濃度を定量し、分別することができる。
【0021】
<検出原理1>
図1は、本発明に係る臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置のX線検出器の検出範囲の構成を示す側面図である。図1においては、複数のプラスチック試料を用いた場合の態様を示す。図1に示されるX線管球1(X線源)から発生したX線12が、樹脂保持板3(試料保持装置)に配置された複数個のプラスチック試料である樹脂片4(Br含有樹脂片4aまたはBr非含有樹脂片4bからなる)のそれぞれに照射され、透過X線PがX線検出器5で検出される。なお、本発明における「Br含有樹脂片」とは「Br濃度が閾値以上である樹脂片」を意味し、「Br非含有樹脂片」とは「Br濃度が閾値未満である樹脂片」を意味する。図1において、X線検出範囲内の一箇所に分別(分離)する規定した濃度(閾値濃度)に相当するBrを含有する濃度既知物質(閾値臭素濃度規定物質2a)を配置しておく。図1において各プラスチック試料は、X線検出器内の(xn,ym)(n、mは整数)で定められる座標上に配置され、x1上に閾値臭素濃度規定物質2aを配置し、x3上にBr含有樹脂片4aを配置し、他のx座標x2およびx4〜x上にBr非含有樹脂片4bを配置している。図1においては、x座標のみの配置を示す。図1において、樹脂保持板3、樹脂片4は、X線検出器5の検出面に対して平行に設置されている。なお、閾値濃度とは、種々の臭素含有量規制等に基づいて決定される値や、その値に基づき使用者が決める値とする。
【0022】
上記X線検出器5として、ライン内や面内のX強度分布の測定が可能な、例えば、X線ラインセンサ、X線イメージングインテンシファイア、X線CCDカメラ、X線シンチレータ、位置感度型比例計数管などの、エネルギー分解能を有さないX線検出器を用いる。これらのX線検出器を用いると、Br含有樹脂片4aの箇所は透過X線強度が弱くなるのでBr含有樹脂片4a位置を特定できる。また、これらの検出器を用いるとライン内や面内のX強度分布を可視画像化することが可能である。可視化された画像ではBr含有樹脂片4aがBr非含有樹脂片4bよりも輝度が小さく表示される。
【0023】
図2は、図1のプラスチック試料の配置を例にした場合のX線検出強度とBr含有量との関係のグラフである。図2において、Br含有樹脂片の透過X線強度のプロット6(●)、Br非含有樹脂片の透過X線強度のプロット7(○)、および閾値臭素濃度規定物質の透過X線強度のプロット8について以下に説明する。Br非含有樹脂片は、種々の閾値未満のBr含有量を有するものである。図2において、Br含有樹脂片4aの下に位置するx座標x3におけるX線強度は閾値臭素濃度規定物質2aの下に位置するx座標x1におけるX線強度よりも低く、Br非含有樹脂片4bの下に位置するその他のx座標x2およびx4〜x上におけるX線強度は、閾値臭素濃度規定物質2aの下に位置する座標xにおけるX線強度よりも高くなる。この検出された透過X線強度から、臭素含有量が閾値濃度より高いか低いかがわかり、Br含有樹脂片とBr非含有樹脂片とを区別することができる。
【0024】
図3は、X線CCDカメラ等の面内X線強度分布が測定可能な検出器を用いた場合のX線検出範囲の上観図である。図3において、X線検出範囲内は(xn,ym)(n、mは整数)で定められる座標で分割され、例として座標(x1,y1)に分別する閾値臭素濃度規定物質2aを配置しておく。それ以外の座標には、Br含有樹脂片4aとBr非含有樹脂片4bとがランダムに配置される。
【0025】
図4は、図3の構成の各座標における透過X線強度とBr含有量との関係を示すグラフである。各プロットは図2と同様の表記である。図4においても、図2と同様に、Br含有樹脂片4aの下に位置する座標(x2,y4)等におけるX線強度は、閾値臭素濃度規定物質2aの下に位置する座標(x1,y1)におけるX線強度よりも低い。また、Br非含有樹脂片4bの下に位置する座標(x1,y2)等におけるX線強度は閾値臭素濃度規定物質2aの下に位置する座標(x1,y1)におけるX線強度よりも高くなる。この検出された透過X線強度から、臭素含有量が閾値濃度より高いか低いかがわかり、Br含有樹脂片とBr非含有樹脂片とを区別することができる。
【0026】
<検出原理2>
図5は、図1において、X線検出範囲内の一部に、樹脂片4を配置しない部分を設けた構成の側面図である。例として、樹脂片4を配置しない部位をx座標xkに配置した。この樹脂片4を配置しない部分(非配置部分)には、樹脂片4以外の試料等も配置しない。図5において、x座標xkにて検出される透過X線強度は、X線管球1から発生されるX線強度そのままのものであり、検出範囲において最も高い強度となる。
【0027】
図6は、図5の構成における各座標の透過X線強度とBr含有量の関係を表したグラフである。図6からわかるように、樹脂片4を配置しない部分(x座標xk)のX線強度をBr含有量ゼロとし、閾値臭素濃度規定物質2aを配置したx座標x1の透過X線強度とのプロットから検量線を作成することができる。この検量線に基づき樹脂片4それぞれのBr含有量を正確に定量することができる。また、この場合、閾値臭素濃度規定物質2aの臭素濃度を実際の閾値濃度と一致させるように補正する必要が無くなる。上記検出原理1と同様に、X線CCDカメラ等の面内X線強度分布が測定可能な検出器を用いた場合も、同じ効果が得られる。
【0028】
<検出原理3>
図7は、図1において、X線検出範囲内の一部に、閾値臭素濃度規定物質2aとは濃度の異なる閾値濃度に設定された閾値臭素濃度規定物質2bを配置した構成の側面図である。例として、二つめの臭素濃度規定箇所2bを座標xnに配置し、閾値臭素濃度規定物質2a<閾値臭素濃度規定物質2bの濃度関係とした。したがって座標xnで検出される透過X線強度は、座標x1で検出される透過X線強度より小さくなる。
【0029】
図8は、図7の構成における各座標の透過X線強度とBr含有量の関係を表したグラフである。図8からわかるように、臭素濃度の異なる閾値臭素濃度規定物質を配置した2点の透過X線強度とのプロットから検量線を作成し樹脂片4それぞれのBr含有量を定量することができる。また、この場合、それぞれの閾値臭素濃度規定物質2aと2bとの臭素濃度を、実際の閾値濃度と一致させるように補正する必要が無くなる。また、上記検出原理1と同様に、X線CCDカメラ等の面内X線強度分布が測定可能な検出器を用いた場合も、同様の効果が得られる。この原理からわかるように、臭素濃度の異なる閾値臭素濃度規定物質を配置する箇所を複数設けることで、より高精度な臭素含有量の定量が可能となる。
【0030】
上記検出原理2や3にしたがって高精度な臭素含有量の定量から、“臭素含有および臭素非含有”という2水準のみならず、複数の濃度による分別といった3水準以上の臭素含有量範囲に識別することができる。
【0031】
<検出原理4>
上記検出原理1〜3において、プラスチック試料(樹脂片4)に含まれるBr含有量の検出原理および識別方法を説明したが、これらはすべて、一度の測定サイクル内で常に濃度標準となる量のBr含有樹脂片を濃度未知の樹脂片と同時に検出することで、いずれのサイクルにおいても詳細なBr含有量を判定し続けるものである。これらの原理を用い、何度も測定サイクルを繰り返すことで次に説明する更なる効果が得られる。
【0032】
図9は、上記のように測定を繰り返し複数回行なった場合における、Br含有樹脂片4a、Br非含有樹脂片4b、および閾値臭素濃度規定物質2aそれぞれを透過するX線強度測定値の経時変動を表すグラフである。測定の繰り返しにより、X線管球1の劣化に伴う照射X線強度の低下、あるいは、X線検出器5の劣化に伴う検出X線強度の低下が生じ、すなわち検出系全体の劣化により透過X線の検出感度が低下することがわかる。
【0033】
一方、図18は、従来の同一測定サイクル内に閾値臭素濃度規定物質2aを配置しない場合、すなわち閾値臭素濃度規定物質2aによる透過X線強度データがない場合の透過X線強度の測定値を示すグラフである。この場合一般に、予め測定しておいた濃度既知Br含有樹脂片の透過X線強度測定値11が比較値として用いられる。図18においては、検出系全体の透過X線の検出感度が低下した場合、ある測定の時点でBr非含有樹脂片4aの透過X線強度が、予め測定した閾値相当の透過X線強度を下回り、この測定時点以降、臭素含有の有無にかかわらず、すべての樹脂片をBr含有樹脂片と判定する誤判定が発生する。これに対し、図9に示す本発明のように、各測定において閾値臭素濃度規定物質の透過X線強度のプロット8を取得すれば、系全体の透過X線検出強度低下が生じても、前述のような誤判定が発生しないことがわかる。
【0034】
このように、上記検出原理1〜3のいずれにおいても、繰り返しの測定を行なう場合、本検出原理による効果と同様、常に閾値濃度規定物質を検出範囲内に含むことで、検出系が劣化した場合でも臭素含有有無の誤判定は発生しないという効果がある。
【0035】
<実施の形態1>
図10は、本発明の実施の形態1に係るX線検出装置および臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置の構成を示す側面図である。図11は、本発明の実施の形態1に係るX線検出装置および臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置のコンベア上の構成を示す上観図である。
【0036】
図10と図11において、試料保持装置であるコンベア3に、プラスチック試料である樹脂片4(Br含有樹脂片4aとBr非含有樹脂片4bからなる)が供給装置13により順次載置される。プラスチック試料はコンベアの移動方向Aに沿って移動し、X線検出装置の設置された箇所を通過するように運ばれる。X線検出装置は、X線管球1から発生するX線12が樹脂片4を透過し、X線検出器5が検出する構成となっている。コンベア3は、X線検出器5の上の一部を通過する線上に、閾値臭素濃度規定物質2aが配置されており、閾値臭素濃度規定物質2aを透過するX線もまたX線検出器5に検出される構成となっている。図11の破線は、X線検出器の検出範囲を示す。X線検出器5には、例えばX線ラインセンサ、X線イメージングインテンシファイア、X線CCDカメラ、X線シンチレータ、位置感度型比例計数管などを用いることができる。
【0037】
上記プラスチック試料(樹脂片4)は、検出効率の点から上記供給装置13よりコンベア上に載置される際に、鉛直方向に樹脂片が重ならないように配置することが好ましく、たとえば、コンベアの移動速度とプラスチック試料(樹脂片4)の供給速度、位置を制御することにより樹脂片が重ならないよう配置することができる。
【0038】
閾値臭素濃度規定物質2aは、予め規定濃度を有すると測定された樹脂片をコンベアに貼り付けたり、臭素を含む揮発性液体溶液や水溶液等を規定濃度に相当する臭素量となるようにコンベア上の一部に塗布して乾燥した後に、臭素を含まないことを予め確認したシール材などを用いてシーリングすることにより配置すればよい。
【0039】
X線検出器5において検出された各座標のX線強度は、データ処理装置14で、上記検出原理1、2または4において述べたように、検出された透過X線強度からプラスチック試料中のBr含有量を判定する解析を行ない、樹脂片4のそれぞれの分別の要否を、データ信号として分別機構15へ送る。分別機構15は上記データ信号に基づいてエアブローや真空による吸引ノズルなどで、臭素含有量ごとに分けるために設置された収納箱16へ樹脂片を収納したり、移動してきたコンベアから落下する樹脂片を次のコンベアに載置させる構成となっている。
【0040】
本実施の形態1と上記検出原理1、2または4を組み合わせて用いることで、連続運転における系全体のX線検出感度低下による臭素含有量の誤判定を防止し、かつ高精度な臭素含有量判定を継続し、Br含有樹脂片4aとBr非含有樹脂片4bとを正確に分離し続けることができる長期メンテナンスフリーの分別装置が得られる。
【0041】
また、上記検出原理3にしたがって、プラスチック試料を臭素含有量に応じて3水準以上に分別し樹脂片を回収することができる。例えば、閾値近傍の濃度を別途回収することで、後のより高精度な別の分別手段へ回すことも可能となる。より高精度の分別手段とは、たとえば、コンベアの回転速度を低くし、検出X線精度を高めた本発明の分別装置であってもよいし、通常の蛍光X線分光分析装置のように長時間を要する手段であってもよい。
【0042】
<実施の形態2>
図12は、本発明の実施の形態2に係るX線検出装置および臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置のコンベア上の構成を示す上観図である。
【0043】
本実施の形態の構成は、閾値臭素濃度規定物質2aおよび2b複数を配置する態様であり、図12に示すように、閾値臭素濃度規定物質2aを配置する部分のサイズを、樹脂片4のサイズの平均と同様とし、特に長さをコンベア移動方向Aにおける樹脂片4の長さと同様の長さとする。そして、閾値臭素濃度規定物質2aを、X線検出器5の検出範囲の移動方向Aの長さd1と同じ距離d2をおいて周期的に繰り返し配置する以外、実施の形態1と同様の構成である。また、コンベア上において、閾値臭素濃度規定物質2は、コンベアと、コンベアの移動方向Aとに対し平行な線上に配置する部分を設けられることが好ましい。
【0044】
実施の形態1の構成において、コンベアを移動させて連続測定を行なう場合に、次のような問題が生じる。すなわち、樹脂片4がコンベア上にランダムに載置される場合、1回の透過X線強度の積算サイクルにおける積算開始時間から積算終了時間までの間にプラスチック試料はコンベアの移動方向Aにそって移動するため、積算開始時から終了時までに上記X線検出器の検出範囲の各座標では、プラスチック試料を透過したX線とプラスチック試料を透過しないX線(プラスチック試料が配置されていない部分の透過X線)とが積算される。これに対し、閾値臭素濃度規定物質2aを透過するX線を検出する座標に該当する検出器の検出範囲では、積算開始時から終了時まで常に閾値臭素濃度規定物質2aを透過したX線を検出し続けることとなる。すなわち、同一サイクル内において臭素濃度規定物質2aの積算強度とプラスチック試料の積算強度とは対象物が実際に通過していた時間が異なることによる誤差が生じることになるので、データ処理装置14における解析内にこの検出積算時間等の差異を補正するアルゴリズムを含める必要が生じる。このアルゴリズムは、コンベア3の移動速度、平均的な樹脂片4のサイズ、X線検出の積算時間などのパラメータに応じ順次最適化する微調整が必要となる。
【0045】
本実施の形態と上記検出原理1、2または4を組み合わせて用いることで、これらの問題を排除しながら、連続運転における系全体のX線検出感度低下による臭素含有量誤判定を防止し、かつ高精度な臭素含有量判定能力を継続して有する、Br含有樹脂片4aとBr非含有樹脂片4bとを分離し続けることができる長期メンテナンスフリーの分別装置が得られる。
【0046】
また、上記検出原理3により、プラスチック試料を臭素含有量に応じて3水準以上に分別し樹脂片を回収することができる。実施の形態1と同様に、例えば、閾値近傍の濃度を別途回収することで、後の別のより高精度の分別装置へ回すことも可能となる。
【0047】
<実施の形態3>
図13は、本発明の実施の形態3に係るX線検出装置および臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置において、駆動部から引き剥がし延ばしたコンベア3の構成を最も単純化して示す上観図である。すなわち、図13は、コンベア3の試料保持部の1周分の表面概略を表す。
【0048】
本実施の形態の構成は、図13に示すように、コンベアを移動方向に沿ってM個の線分に別け、各線分上に配置される閾値臭素濃度規定物質2aがコンベア3の移動方向および移動方向と垂直方向とにおいて重ならず、かつ、コンベア3が1周するうちに、X線検出器5の検出範囲の全領域を、少なくとも一度は閾値臭素濃度規定物質2aが通過するように閾値臭素濃度規定物質2aを配置する以外、実施の形態1と同様の構成である。ここで、プラスチック試料の供給器13はプラスチック試料(樹脂片4)が閾値臭素濃度規定物質2a上に載置されないように、たとえばセンサー等により上記規定物質を感知し、それに応じて樹脂片4を供給する機能を持つ。
【0049】
なお、本実施の形態3は、図14に示すように、閾値臭素濃度規定物質2aの配置の仕方は、複数周期にしてもよいし、図15に示すように、ランダムに配置しても、コンベア3が一周するうちに閾値臭素濃度規定物質2aが少なくとも1回X線検出器5の検出範囲を通過すればよい。なお、図14は、図13に示す閾値臭素濃度規定物質2aの配置が2周期繰り返された配置を示す図であり、図15は、図13に示す閾値臭素濃度規定物質2aの配置が1周期の間でランダムに設けられた場合の配置を示す図である。
【0050】
この構成と上記検出原理1、2または4による解析手段を用いることで、連続運転における系全体のX線検出感度低下をX線検出器5の座標単位でモニターすることがで、座標単位での検出感度低下を補正しながら、臭素含有量の誤判定を防止し、高精度な臭素含有量判定を継続して行なうことができ、その結果、Br含有樹脂片4aとBr非含有樹脂片4bとを正確に分別し続けることがでる、長期メンテナンスフリーの分別装置が得られる。
【0051】
また、上記検出原理3による解析手段を適用することで、プラスチック試料を臭素含有量に応じて3水準以上に分別し、回収することができる。また、実施の形態1と同様、例えば、閾値近傍の濃度を別途回収することで、後の別のより高精度の分別装置へ回すことも可能となる。
【0052】
<実施の形態4>
図16は、本発明の実施の形態4に係るX線検出装置および臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置のコンベア上の構成を示す上観図である。
【0053】
本実施の形態の構成は、閾値臭素濃度規定物質2aに加え、閾値臭素濃度規定物質2aとは異なる規定濃度(閾値濃度)の臭素を含む閾値臭素濃度規定物質2bを配置する以外、実施の形態1と同様の構成である。閾値臭素濃度規定物質2bを配置する部分は、上記もう一方の閾値臭素濃度規定物質2aが配置された部分と重複しない限り、コンベア上特に限定されるものではなく、たとえば、図16に示すようにコンベア外縁沿に、コンベア移動方向Aと平行に設けることができる。
【0054】
このような構成と上記検出原理3または4による解析手段を用いることで、連続運転における系全体のX線検出感度低下による臭素含有量誤判定を防止し、かつ、単一の閾値濃度を有する濃度規定物質を配置した場合よりも高精度な臭素含有量の判定を継続することができ、Br含有樹脂片4aとBr非含有樹脂片4bとを正確に分離し続けることができる長期メンテナンスフリーの分別装置が得られる。
【0055】
また、上記検出原理2または3と組み合わせることにより、プラスチック試料を、臭素含有量に応じて3水準以上に分別し、回収することができる。また実施の形態1と同様、例えば、閾値近傍の濃度を別途回収することで、後の別のより高精度の分別装置へ回すことも可能となる。
【0056】
<実施の形態5>
図17は、本発明の実施の形態5に係るX線検出装置および臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置のコンベア上の構成を示す上観図である。
【0057】
本実施の形態の構成においては、閾値臭素濃度規定物質2aと2bのそれぞれを配置する部分のサイズを、図17に示すように、樹脂片4のサイズの平均と同様とし、特に長さをコンベア移動方向Aにおける樹脂片4の長さと同様の長さとする。そして、X線検出領域の移動方向の長さd1と同じ距離d2の周期で複数配置する以外、実施の形態5と同様の構成である。なお、同一の各隣接する閾値臭素濃度規定物質間の距離がd2である限り、異種の規定物質のコンベア移動方向Aと垂直方向の位置は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0058】
本実施の形態の構成を用いることで、上記実施の形態2と同様に、濃度規定物質からの透過X線の積算条件と、コンベア上のプラスチック試料の有無による透過X線の積算条件との相違による問題を排除しながら、連続運転における系全体のX線検出感度低下による臭素含有量誤判定を防止し、かつ高精度な臭素含有量判定を継続することが可能である。そして、Br含有樹脂片4aとBr非含有樹脂片4bとを正確に分離し続けることができる長期メンテナンスフリーの分別装置が得られる。
【0059】
また、上記検出原理2または3により、プラスチック試料を、臭素含有量に応じて3水準以上に分別し、回収することができる。また、上記実施の形態1と同様に、例えば、閾値近傍の濃度を別途回収することで、後の別のより高精度の分別装置へ回すことも可能となる。
【0060】
以上のように本発明の実施の形態について説明を行なったが、上述の各実施の形態の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0061】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の分別装置によれば、臭素系難燃剤含有プラスチックに限らず、目的とする物質であって閾値濃度を有する物質を用いることにより、該物質に含まれる濃度が未知の不純物を、不純物の含有濃度にしたがって分別することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明におけるX線検出装置の構成の一例を示す側面図である。
【図2】本発明におけるX線検出強度と臭素含有量との関係を示すグラフである。
【図3】本発明におけるX線検出器と樹脂片と閾値臭素濃度規定物質との位置関係を示す上観図である。
【図4】本発明におけるX線検出強度と臭素含有量との関係を示すグラフである。
【図5】本発明におけるX線検出装置の構成の別の一例を示す側面図である。
【図6】本発明における別の一例におけるX線検出強度と臭素含有量との関係を示すグラフである。
【図7】本発明における別の一例におけるX線検出装置の構成を示す側面図である。
【図8】本発明における別の一例におけるX線検出強度と臭素含有量との関係を示すグラフである。
【図9】本発明におけるX線検出強度の経時変化を示すグラフである。
【図10】実施の形態1に係る分別装置の構成を示す側面図である。
【図11】実施の形態1に係る分別装置のコンベアと検出器と閾値臭素濃度規定物質との位置関係構成を示す上観図である。
【図12】実施の形態2に係る分別装置のコンベアと検出器と閾値臭素濃度規定物質との位置関係構成を示す上観図である。
【図13】実施の形態3に係る分別装置のコンベアと検出器と閾値臭素濃度規定物質との位置関係の構成を示す上観図である。
【図14】実施の形態3に係る分別装置のコンベアと検出器と閾値臭素濃度規定物質との位置関係の構成を示す上観図である。
【図15】実施の形態3に係る分別装置のコンベアと検出器と閾値臭素濃度規定物質との位置関係の構成を示す上観図である。
【図16】実施の形態4に係る分別装置のコンベアと検出器と閾値臭素濃度規定物質との位置関係の構成を示す上観図である。
【図17】実施の形態5に係る分別装置のコンベアと検出器と閾値臭素濃度規定物質との位置関係の構成を示す上観図である。
【図18】従来技術におけるX線検出強度の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0064】
1 X線管球、2a,2b 閾値臭素濃度規定物質、3 コンベア、4 樹脂片、4a Br含有樹脂片、4b Br非含有樹脂片、5 X線検出器、6 Br含有樹脂片の透過X線強度プロット、7 Br非含有樹脂片の透過X線強度プロット、8 閾値臭素濃度規定物質の透過X線強度プロット、9 コンベアのみ透過したX線強度プロット、10 閾値臭素濃度規定物質2bの透過X線強度プロット、11 予め測定した閾値臭素濃度規定物質の透過X線強度、12 照射X線、13 供給器、14 データ処理装置、15 分別装置、16 回収部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線を発生させるX線源と、
プラスチック試料を保持する試料保持装置と、
前記プラスチック試料を透過したX線を検出するX線検出器と、
規定した濃度の臭素を含有する臭素含有物と、
前記プラスチック試料と前記臭素含有物とから検出した透過X線の強度をデータ解析し、前記プラスチック試料中に含まれる臭素系難燃剤量を判別するデータ処理装置と、
前記データ処理装置からの信号に基づいて前記臭素含有物の規定した濃度より高い臭素濃度を有するプラスチック試料を分別する分別機構とを有する臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置。
【請求項2】
前記試料保持装置はコンベアであり、前記プラスチック試料は前記コンベアの移動方向に沿って移動する請求項1に記載の臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置。
【請求項3】
前記コンベアに前記臭素含有物を配置し、
前記X線を検出する範囲内における前記臭素含有物を配置した部分の透過X線強度と前記検出する範囲内における最大の透過X線強度とをデータ解析し、前記プラスチック試料中における臭素系難燃剤の含有量を判別するデータ処理装置と、
前記データ処理装置からの信号に基づいて前記臭素含有物の規定した濃度より高い臭素濃度を有するプラスチックを分別する分別機構とを有する請求項2に記載の臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置。
【請求項4】
前記コンベアと、前記コンベアの移動方向とに対し平行な線上に前記臭素含有物を配置する部分を設けた請求項2または3に記載の臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置。
【請求項5】
前記コンベア上に、さらに、非臭素含有試料を配置し、
前記コンベアと、前記コンベアの移動方向とに対し平行な線上に前記臭素含有物を配置する部分と非臭素含有試料を配置する部分とを周期的に交互に設け、
移動する前記コンベアが1サイクルする間に前記臭素含有物を配置する部分の少なくとも1箇所は前記X線を検出する範囲内に含まれるように、前記臭素含有物を配置する部分と前記非臭素含有試料を配置する部分との前記コンベア移動方向の長さが調整された請求項2または3に記載の臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置。
【請求項6】
前記コンベアと、前記コンベアの移動方向とに対し平行な線上に前記臭素含有物を配置する部分がM個(Mは整数)設けられ、
前記臭素含有物を配置する部分の前記コンベア移動方向の長さが前記コンベア1サイクルの長さの1/Mであり、かつ、
前記m個の前記臭素含有物を配置する部分の長さが、前記コンベアの移動方向に対して垂直な方向に重ならないよう配置した請求項2または3に記載の臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置。
【請求項7】
前記X線を検出する範囲内に、複数の前記臭素含有物を配置し、
複数の前記臭素含有物は、その規定した濃度が少なくとも2種以上である請求項1または2に記載の臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置。
【請求項8】
複数の前記臭素含有物は、前記X線の検出範囲内に常設され、
前記プラスチック試料と複数の前記臭素含有物との透過X線のデータを解析し、前記データに基づき検量線を求め、該検量線に基づいて前記プラスチック試料中における臭素系難燃剤の含有量を定量するデータ処理装置と、
前記データ処理装置からの信号に基づいて、前記プラスチック試料を臭素難燃剤の含有量に応じて分別する分別機構とを有する請求項7に記載の臭素系難燃剤含有プラスチックの分別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2009−198387(P2009−198387A)
【公開日】平成21年9月3日(2009.9.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−41789(P2008−41789)
【出願日】平成20年2月22日(2008.2.22)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】