説明

良好な機械的特性を有する伝導性ポリオレフィン

【課題】改良された機械的特性を有する伝導性重合体を提供する。
【解決手段】単壁炭素ナノチューブ(SWNT)または多壁炭素ナノチューブ(MWNT)で補強されていて良好な電気的および機械的特性を示す重合体材料。また、前記補強された重合体材料を製造する方法およびそれらを電気逸散性材料として用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノチューブ(nanotubes)の取り込みによって補強されていて伝導性を示す重合体、これらの製造方法およびこれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維、例えば炭素繊維などを重合体に混合するとそのような混合物の機械的特性が有意に向上し得ることは長年に渡って知られている(非特許文献1、2および3を参照)。金属、ガラスまたはアスベストなどの如き材料の長繊維を重合体に混合することでそれを補強する方法が特許文献1に開示されている。炭素繊維の利点は、相対的に高い機械的強度を示すにも拘らず非常に軽量である点にある。それらは特に非常に高い剛性を示す。
【0003】
また、重合体マトリックス(polymer matrices)の導電性を向上させる目的でカーボンブラックをその中に分散させることも長年に渡って知られている。しかしながら、所望効果の達成に要するカーボンブラック充填材量は非常に多量で、10から25重量%の桁であることから、その複合材料の機械的および加工特性が低くなってしまう。
【0004】
より最近になって、バックミンスターフレレン(Buckminsterfullerene)(C60)が発見されて以来、C60の構造に関係した構造を有する炭素管(これらは小さい寸法を有することからしばしば「炭素ナノチューブ」と呼ばれる)の存在が確認され、それらは炭素繊維のそれに類似した様式で使用される可能性を有している。特に、炭素ナノチューブの構造が理由でそれのアスペクト比(長さ/直径、L/D)を長繊維のそれに匹敵させることが可能である。炭素ナノチューブのアスペクト比を典型的にほぼ500以上にすることができる。従って、炭素ナノチューブのアスペクト比は一般に通常の短繊維、例えばガラス短繊維および炭素短繊維などのそれよりもずっと大きい。加うるに、このチューブは通常の炭素繊維よりも潜在的に軽くすることが可能であると同時に最も慣用の炭素繊維よりも強くかつ堅くすることができる(非特許文献4を参照)。
【0005】
炭素ナノチューブの電子特性は、これらの直径、ヘリシティ(helicity)および層の数(単壁に対して多壁)に応じて、導体の特性と半導体の特性の間である。従って、それらを電気絶縁性重合体に添加してそれの伝導性を高めることができる。炭素ナノチューブを含有させた導電性重合体組成物が特許文献2に開示されている。加うるに、炭素ナノチューブは高い機械的強度を有し、それが示す曲げ係数値(bending modulus values)は1000−5000GPaであることが示されている。その上、低い歪みを示すことに付随して純粋に脆性の破損を防止する新規な高効率のフラクチャーミクロメカニズム(fracture micromechanisms)に関連してそれらが記述された。このように、近年、炭素ナノチューブは数多くの用途で用いることが予想されてきた(非特許文献5、6、7および8を参照)。
【0006】
しかしながら、過去において、炭素ナノチューブをポリオレフィンに混合してポリオレフィン複合体を製造しようとするとナノチューブが絡み合う結果としてナノチューブの配向のランダム化が起こることで問題が生じていた(非特許文献9、10、11および12を参照)。絡み合いが起こると特にナノチューブ自身がこれを取り巻いている重合体マトリックスの中にむらなく分布し難くなることからナノチューブ/重合体混合物の均一性が低下してしまう可能性がある。均一さが不足すると前記混合物のある地点、例えばナノチューブの濃度が相対的に低い地点および重合体の濃度が高い地点などに弱い点が導入されることから、それによって、そのような混合物の機械的強度と導電性が低下してしまう。
その上、ナノチューブの配向のランダム化が起こるとそのような混合物の機械的強度もまた低下してしまう。その理由は、(例えば)そのような混合物に入っているナノチューブの全部が縦軸に配向してその方向に整列すると達成される所定方向の歪みに対する抵抗が最大限になるからである。更に、混合物がそのような理想的な配向から逸脱すると、その混合物がその方向に示す歪みに対する抵抗が低くなる。しかしながら、ナノチューブの配向を機械的特性の向上に充分な度合にまで制御するのは今までは不可能であった。
【0007】
【特許文献1】GB 1179569A
【特許文献2】WO 97/15934
【非特許文献1】Polymer Composites、1987年4月、第8巻、No.2、74−81
【非特許文献2】J.Composite Materials、第3巻、1969年10月、732−734
【非特許文献3】Polymer Engineering and Science、1971年1月、第11巻、No.1、51−56
【非特許文献4】P.Calvert、「Potential application of nanotubes」、Carbon Nanotubes、T.W.Ebbeson編集、297、CRC、Boca Raton、フロリダ、1997
【非特許文献5】P.Calvert、「Potential application of nanotubes」、Carbon Nanotubes、T.W.Ebbeson編集、297、CRC、Boca Raton、フロリダ、1997
【非特許文献6】T.W.Ebbeson、「Carbon Nanotubes」、Annu.Rev.Mater.Sci.、24、235、1994
【非特許文献7】Robert F.Service、「Super strong nanotubes show they are smart too」、Science、281、940、1998
【非特許文献8】B.I.YakobsonおよびR.E.Smalley、「Une technologie pour le troisieme millenaire:les nanotubes」、La Recherche、307、50、1998
【非特許文献9】1998年9月のProceedings of Polymer ’98(Brighton 英国)のポスター39の317頁のM.S.P.Shaffer、X.Fan、A.H.Windle、「Dispersion of carbon nanotubes:polymeric analogies」
【非特許文献10】P.M.Ajayan、「Aligned carbon nanotubes in thin polymer films」、Adv.Mater.、7、489、1995
【非特許文献11】H.D.Wagner、O.Lourie、Y.FeldmanおよびR.Tenne、「Stress−induced fragmentation of multi−wall carbon nanotubes in a polymer matrix」、Appl.Phys.Lett.、72(2)、188、1998
【非特許文献12】K.Yase、N.Tanigaki、M.Kyotani、M.Yomura、K.Uchida、S.Oshima、Y.KurikiおよびF.Ikazaki、Mat.Res.Soc.Symp.Proc.、359巻、81、1995
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電気的特性と機械的特性の良好な均衡を示すばかりでなく良好な加工能力を有する複合
体が求められている。
【0009】
本発明の1つの目的は、良好な導電性を示す複合材料を製造することにある。
【0010】
本発明の1つの目的は、また、良好な機械的特性、特に良好な引張り特性を示す複合材料を製造することにある。
【0011】
本発明のさらなる目的は、加工が容易な複合材料を製造することにある。
【0012】
本発明の更に別の目的は、良好な熱伝導性を示す複合材料を製造することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
従って、本発明は、単壁(single−wall)炭素ナノチューブ(SWNT)または多壁炭素ナノチューブ(MWNT)で補強されていて溶融状態における混合で調製された重合体材料を提供し、これは、前記炭素ナノチューブが触媒粒子も支持体粒子も含有しないことを特徴とする。
【0014】
ある程度精製されたは、本説明の全体に渡って、触媒粒子(存在する場合)および支持体粒子(存在する場合)は炭素ナノチューブから取り除かれているが熱分解性炭素成分は保持されたままであることを意味する。触媒粒子も支持体粒子も含有しない炭素ナノチューブを調製することができ、その場合には精製を行う必要はない。
【0015】
本発明は、また、前記補強重合体材料を製造する方法も開示し、この方法は、
a)重合体マトリックスを準備し、
b)ある程度精製された炭素ナノチューブを準備し、
c)混合を溶融状態で行うことで前記ある程度精製された炭素ナノチューブを前記重合体マトリックスの中に分散させ、
d)場合により、段階c)の重合体/ナノチューブの混合物を溶融状態または固体状態で引き伸ばすことで配向させる、
段階を含んで成る。
【0016】
本発明は、更に、電気特性と機械的特性の良好な均衡を示す補強重合体材料を製造する目的で前記ある程度精製されたナノチューブを用いることも開示する。
【0017】
本発明では重合体に特に制限はない。好適な態様における重合体は好適にはポリオレフィン、例えばエチレンもしくはプロピレンのホモ重合体もしくは共重合体、またはこれらの混合物などである。そのようなポリオレフィンが炭素原子数が3以上のオレフィンの重合体、例えばポリプロピレンなどの場合、そのようなポリオレフィンはアタクティック、アイソタクティックまたはシンジオタクティックであってもよい。本発明で使用可能な他の重合体にはポリエステル、例えばPETおよびPEEKSなど、ポリアミド、PVCおよびポリスチレンが含まれる。
【0018】
炭素ナノチューブの製造は本技術分野で公知の如何なる方法を用いて行われてもよい。炭化水素を触媒作用で分解させることでそれらを製造することができ、このような技術は触媒作用炭素蒸着(Catalytic Carbon Vapour Deposition)(CCVD)と呼ばれる。このような方法ではSWNTとMWNTの両方がもたらされ、副生成物は煤と金属1種または2種以上を封じ込んでいるナノ粒子(nanoparticles)である。他の炭素ナノチューブ製造方法には、アーク放電方法、炭化水素のプラズマ分解、または選択した重合体を選択した酸化条件下で熱分解させる方法が含まれる。その出発炭化水素はアセチレン、エチレン、ブタン、プロパン、エタン、メタ
ン、または炭素を含有する他の如何なる気体状もしくは揮発性化合物であってもよい。触媒を存在させる場合、それは純粋なままであるか、或はそれを支持体の上に分散させる。支持体を存在させると当該触媒が示す選択性が大きく向上しはするが、それによって炭素ナノチューブが支持体粒子で汚染されることに加えて、熱分解によって煤と非晶質炭素が多量に生じてしまう。従って、高純度の炭素ナノチューブを得るには精製段階が必要になる。この精製は下記の2段階を含んで成る:
1)典型的には、支持体の性質に応じて適切な作用剤を用いて支持体粒子の溶解を実施し、そして
2)熱分解炭素成分(典型的には酸化または還元方法が基になった)を除去する。
前記2番目の段階は前記ナノチューブを前記マトリックスの中に分散させるにとって不利であり得る、と言うのは、その結果としてナノチューブが酸化をある程度受けることで、それらの極性が変化、従って非極性重合体、例えばポリエチレンおよびポリプロピレンなどと混ざり合う能力が変化してしまうからである。従って、ナノチューブが前記重合体マトリックスの中で示す分散性およびそれらの結合(linking)特性を向上させるにはナノチューブの予備処理および表面組成を制御することが必須であるが、これは一般に例えばJ.Chen他、Science、282、95−98、1998、Y.Chen他、J.Mater.Res.、13、2423−2431、1998、M.A.Hamon他、Adv.Mater.、11、834−840、1999、A.Hiroki他、J.Phys.Chem.B、103、8116−8121、1999などに記述されているようにナノチューブの「官能化」で達成される。この官能化は、例えばそれをアルキルアミンと反応させることなどで実施可能である。その結果としてナノチューブがポリプロピレンマトリックスの中で示す分離の度合がより良好になることでそれが重合体マトリックスの中で示す分散が助長される。このような官能化をナノチューブおよび重合体マトリックスの両方に関して実施すると、それによってそれらの共有結合が助長されることで、その充填コンパウンド(filled compound)の電気特性と機械的特性が向上する。
【0019】
典型的には、導電性粒子を充填材として当該重合体に混合することで重合体の導電性を得た。そのような導電性粒子にはカーボンブラック、炭素繊維、金属粒子、または導電性材料で被覆されている粒子の中の少なくとも1種が含まれ得る。
【0020】
そのような複合材料の導電性は当該重合体に入れる充填材粒子の濃度に依存する。充填材濃度が低いと充填材の粒子がクラスターを形成し、粒子は互いに接しているがクラスターは個々別々で互いに分離している。前記複合体がそのような濃度範囲およびそのように形態を有する時、それは電気絶縁性材料と見なされる。しかしながら、導電性は一般に充填材の濃度を高くするにつれて高くなる。充填材の濃度を更に高くして行くと、個々のクラスターが互いに接触し始めて、重合体マトリックスの中に導電性体を形成するようになる。粒子の濃度を高くして行くと、そのような複合体の電気抵抗が突然に降下してこの材料が導電性を示すようになるが、その時の範囲は非常に狭い。そのような濃度範囲は「パーコレーション閾値(percolation threshold)」として知られる。充填材濃度を更にいくらか高くして行き、その濃度がパーコレーション閾値を超えると、結果として、電気抵抗が更に低下する。
【0021】
パーコレーション閾値の時の濃度値は充填材粒子の種類および形状に依存する。細長い充填材粒子の場合、パーコレーション閾値の時の濃度値は、当該粒子のアスペクト比[即ち、特徴的な最小寸法に対する最大寸法の比率として定義される形状係数(shape factor):繊維の場合の形状比はL/D、即ち直径に対する長さの比率である]が高くなるにつれて小さくなる。カーボンブラック粒子の場合、粒子が球形になればなるほどパーコレーション閾値が高くなる。それとは対照的に、高度に構造化した(highly structured)カーボンブラック粒子、即ち複雑な形状を有する粒子、通常
は球が互いの中に入り込むことで形成された粒子は、パーコレーション閾値がずっと低い複合体を与える。
【0022】
本発明で用いる如き炭素ナノチューブは、アスペクト比が非常に高く、少なくとも100、好適には少なくとも500、より好適には少なくとも1000であることを特徴とする。このナノチューブは単壁炭素ナノチューブ(SWNT)または多壁炭素ナノチューブ(MWNT)のいずれであってもよい。SWNTは幅が5nm以下の中空中心部を含有していて典型的には1から50ミクロンの範囲の長さを有する。MWNTは幅が200nm以下、好適には100nm以下、より好適には50nm以下の中空中心部を含有していて典型的には1から200ミクロン、好適には1から100ミクロン、より好適には1から50ミクロンの範囲の長さを有する。ナノチューブは、アスペクト比が高いことから、低から中程度の充填率で良好な伝導特性を与え得るが、但しそれが重合体マトリックスの中で充分な分散を達成し得ることを条件とする。従来技術では、ナノチューブとナノファイバー(nanofibers)の間の定義が重なり合っていたことから、ナノチューブは一般に長さおよび直径の両方の点で前記範囲の小さい方の末端であると見なされている。
【0023】
官能化処理によってナノチューブを長さ方向に破壊することができる。
【0024】
炭素ナノチューブは、更に、1000から5000GPaの範囲の非常に高い曲げ係数を示しかつ非常に効率の良いフラクチャーミクロメカニズムを示すことで低い歪み下で純粋に脆性の破損を起こさないことを特徴とする。
【0025】
本発明では、必要ならば、即ち炭素ナノチューブの中に支持体粒子および触媒粒子が残存している場合には、そのようなナノチューブに精製をある程度受けさせる。典型的には、それらを適切な作用剤、例えばフッ化水素酸などで洗浄することで触媒および触媒支持体を除去する。場合により、典型的にはKMnOを用いた酸化処理を実施してさらなる精製を行うことで、それらから熱分解炭素を除去してもよい。非晶質炭素が酸化を受ける速度の方が炭素ナノチューブが酸化を受ける速度よりも速いことから、ナノチューブの組成が変化する度合は最小限である。
【0026】
次に、そのナノチューブを重合体マトリックスの中に分散させるが、このような分散は、炭素ナノチューブを重合体マトリックスの中に完全に分散させることを可能にする如何なる方法を用いて行われてもよい。当該重合体と充填材を溶媒に溶解させて徹底的に混合した後に溶媒を蒸発させる溶液方法を挙げることができる。別法として、ブラベンダー内部ミキサーまたは2軸押出し加工機または高せん断装置のいずれかを用いて当該充填材の分散を達成することも可能である。好適には、混合を溶融状態で行うことでナノチューブを分散させる。
【0027】
ナノチューブを重合体マトリックスの中に最適に分散させた後、それらの縦軸が互いにより整列する(整列させない場合に比べて)ように当該重合体の中のナノチューブを配向させることにより、前記充填材が充填されている重合体の特性を更に向上させることができる。「配向」は、炭素ナノチューブが絡み合っていない度合および/または炭素ナノチューブが整列している度合を意味することを意図する。本発明の方法を用いるとナノチューブが配向するばかりでなくまた個々の重合体分子もある程度の配向を起こす。ナノチューブが配向すると結果として生じる混合物の均一性がより高くなりかつ絡み合う度合が低くなり、その結果として、そのような混合物の機械的特性が有意に向上する。特に、本混合物は公知の混合物と比較して優れた引張り係数(tensile modulus)と引張り強さ(tenacity)を達成し得るが、それでも比較的高いじん性と良好な電気特性を保持している。そのような配向は前記重合体/ナノチューブ混合物を固体状態または溶融状態で引き伸ばすことで実施可能である。そのように整列したナノチューブを含
有する複合体が示す機械的特性は連続炭素繊維を含有する複合体が示すそれに類似してはいるが、それらの方がずっと良好な加工能力を有することから、高品質の複雑な形状の複合体を高い生産率で生産することが可能になる。
【0028】
所定量の重合体に添加する炭素ナノチューブの量には特に制限はない。当該重合体に添加する炭素ナノチューブの量は典型的に50重量%未満である。ナノチューブを好適には30重量%以下、より好適には20重量%以下の量で添加する。添加するナノチューブの量を5重量%以下にするのが最も好適である。ナノチューブの量が非常に少量であっても重合体の特性に有益な影響を与えることができることから、当該重合体の意図した使用に応じて、使用量を非常に少なくすることができる。しかしながら、大部分の用途で添加するナノチューブの量は好適には0.1重量%以上、より好適には1重量%以上である。
【0029】
重合体に典型的に導入される如何なる添加剤も本補強重合体に含有可能であるが、得られる本重合体の向上した機械的特性をそのような添加剤が邪魔しないことを条件とする。従って、顔料、抗酸化剤、紫外線保護剤、滑剤、抗酸用化合物、過酸化物、グラフト化剤および核形成剤などの如き添加剤を含有させてもよい。また、ナノチューブ/重合体組成物にカーボンブラックを添加することも可能である。
【0030】
本発明に従う補強複合体は、導電性または静電気逸散が要求される用途、例えば自動車用途の電気逸散性部品、伝導性ビデオディスク、伝導性織物、ワイヤーおよびケーブル用スタンド遮蔽物(stand shield)、ケーブル被覆材、病院のタイル、コンピューターのテープまたは鉱山用ベルト(mine belting)などで使用可能である。
【0031】
ここに、以下の実施例を用いて本発明の態様を記述する。
【実施例】
【0032】
本発明に従う実施例で用いる炭素ナノチューブは、特許出願番号01870150.8の方法に従い、CCVDを用いて製造したものであった。それらは、内径が約4nmで外径が約13nmで長さが10ミクロンの多壁炭素ナノチューブであり、これらはグラファイト層を平均で約13層含有していた。グラファイト粒子および非晶質炭素を適切な場所に残存させながら触媒および触媒支持体を除去する目的でそれらをフッ化水素酸で洗浄した。
【0033】
使用した重合体は、標準試験ISO 1133の方法に従って2.16kgの荷重下230℃の温度で測定した時に35のメルトフローインデックスMI2を示すアイソタクティックポリプロピレンであった。
【0034】
この重合体マトリックスに添加する炭素ナノチューブの量を重合体重量を基準にした重量%で表した。
【0035】
また、下記の添加剤も添加した:抗酸化剤を1500ppm[Irganox(商標)1010を1部およびIrgafos(商標)168を2部]、ステアリン酸カルシウムを500ppmおよびグリセロールのモノステアレートを400ppm。
【0036】
ブラベンダー内部ミキサーを用いて前記アイソタクティックポリプロピレンの粉末とナノチューブと添加剤を溶融状態で混合した。
【0037】
下記のようにして射出成形引張り試験片(tensile bars)を作成した。MiniMax成形機の混合室を220℃の温度に加熱して、その中に前記混合した材料を
1.6g導入した。この混合物を窒素雰囲気下で220℃に1分間保持した後、軸ローター(axial rotor)を60rpmで2分間回転させることで、ナノチューブとポリプロピレンを更に混合した。
【0038】
Rheometrics ScientificのMiniMat引張り試験機を用いて、その射出成形試験片の引張り特性を室温で試験した。試験条件は下記の通りであった:温度を23℃に維持し、ゲージ長を10mmにしそしてクロスヘッド速度を10mm/分にした。
【0039】
下記の特徴を有する点接触4点探針装置(point contact four−point probe device)を用いて電気測定を実施した。探針の半径は100ミクロンであり、探針と探針の間隔は1mmであり、重量は40mgであり、電流強度は0.01から50マイクロAであり、そして最大電圧は100Vであった。
【0040】
比較の目的で、前記アイソタクティックポリプロピレンを充填材なしにErachem
Comilogが名称Ensaco(商標)250Gの下で販売しているいろいろな量の導電性カーボンブラックと一緒に使用した。2軸押出し加工機を用い、この上に記述した抗酸化剤を5000ppm用いて混合を実施した。
【0041】
ポリエチレン(PE)が示す挙動はポリプロピレン(PP)のそれと同じであると予測する。
【0042】
いろいろな性質の充填材をいろいろな量で充填したポリプロピレンが示した電気的および機械的特性を表Iおよび図2と3に示す。また、商業的高密度ポリエチレン(HDPE)を用いて得た電気抵抗の度合も図2に示す。比較の目的で、炭素ナノ繊維を充填したポリプロピレンを図2に含める。この炭素ナノ繊維はApplied Sciences,Inc.が名称Pyrograph−III(商標)の下で販売している炭素ナノ繊維である。気相成長炭素繊維(vapour−grown carbon fibre)(VGCF)方法を用いてそれらの調製を行い、それらの断面は20から200nmに及んで多様であった。それらに精製そして官能化を受けさせた。それをジクロロメタンに入れて35℃の温度で5日間還流させた後に550℃で空気中酸化させることで精製を実施した(Lizano K.、Bonilla−Rios J.、Barrera E.V.、J.Appl.Polymer Sci.、80、1162−1172、2001)。
【0043】
【表1】

【0044】
表Iおよび図2と3から分かるであろうように、炭素ナノチューブをポリプロピレンに充填すると4重量%の如き少ない量でもその充填ポリプロピレンが示した導電率はカーボンブラックを12から18重量%用いた時に得た導電率に類似している。その結果として、ナノチューブを充填したポリプロピレンが示した機械的特性も、導電性と同様に、カーボンブラックを充填したポリプロピレンが示したそれよりもずっと優れている。
【0045】
ある製品が示す弾性はそれが示す応力−歪み曲線の下の面積に関係している。15から20Ω・cmの範囲の類似した電気体積抵抗値を示すようにそれぞれ炭素ナノチューブを4重量%およびカーボンブラックを12重量%充填した2種類のポリプロピレン複合体を弾性に関して比較した。その結果を図4に示す。カーボンブラックを充填したPPおよび炭素ナノチューブを充填したPPのそれぞれが示した応力−歪み曲線の下の面積は2.6・10Nm/mおよび4・10Nm/mであり、このように、炭素ナノチューブを充填したポリプロピレンが示した弾性の方が向上していることが明らかに分かる。
【0046】
次に、この上に記述したいろいろな炭素ナノチューブ充填サンプルおよびカーボンブラック充填サンプルに引き伸ばしを受けさせて配向した充填複合体を製造した。前記サンプルに引き伸ばしを110℃の温度で遅い歪み速度(ゲージ長を10mmにして10%/分)で受けさせることで1番目の配向を実施し、延伸比(SR)が3になるように伸びを限定したが、ここで、延伸比を(L−L)/L比[ここで、LおよびLは、それぞれ、サンプルに延伸段階を受けさせた後および受けさせる前の長さである]として定義する。次に、これらのサンプルを室温に戻した。引張り試験測定を室温で実施した。
【0047】
表IIに示す結果から分かるであろうように、前記サンプルに配向を受けさせると機械的特性が更に向上する。
【0048】
【表2】

【0049】
また、充分な精製を受けさせておいた炭素ナノチューブを充填したポリプロピレンを用いて測定を実施した。フッ化水素酸を用いた1番目の精製段階に続いてKMnOを用いた酸化段階を実施した。この2番目の精製段階であらゆる熱分解炭素を除去した。そのような充分な精製を受けさせておいた炭素ナノチューブを充填したポリプロピレンが示した伝導測定値は、ある程度の精製を受けさせておいた炭素ナノチューブを用いた時に得たそれよりもずっと低い。更に、充分な精製を受けさせておいた炭素ナノチューブが当該重合体の中で示す分散性の方が劣っており、低下した機械的特性を有することも分かる。KMnOによる処理によってナノチューブの表面に酸化された官能、従って極性官能が作り出されると考えている。それによって、それらが疎水性重合体マトリックスの中で示す分散性が制限される結果としてパーコレーション閾値が高くなってしまう。
【0050】
前記充分な精製を受けさせておいた炭素ナノチューブと重合体マトリックスの相溶性は、アルキルアミンを用いた酸/塩基型反応を用いて炭素ナノチューブに官能化を受けさせておくと向上し得る。前記アミンが前記ナノチューブのカルボキシル官能と反応することで、非極性構造物と相互作用し得る突き出した(pending)アルキル鎖が作り出される。充分な精製を受けさせておいたナノチューブに硝酸による再酸化を受けさせた後、それをオクチルアミンと反応させたが、このような官能化反応後にナノチューブと化学的に結合している窒素が存在することをX線光電子分光測定で確認した。その電気的結果を図5に示しかつ電気的および機械的結果を表IIIに示すが、それらは全部、他の実施例の場合と同じポリプロピレンが示した結果である。
【0051】
【表3】

【0052】
充分な精製を受けさせておいたナノチューブにこの上に記述した官能化を受けさせておくとそれを充填した複合体が示す電気的および機械的挙動が向上することが図5および表IIIから分かる。他の種類の官能化を用いてさらなる向上を得ることも可能であると考えている。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】図1に、PPマトリックスに分散させたある程度精製された多壁炭素ナノチューブの透過電子顕微鏡検査を示す。充填材の量はそれぞれ4重量%(a)および10重量%(b)である。
【図2】図2に、それぞれ炭素ナノチューブ、炭素ナノファイバーおよびカーボンブラックを充填したポリプロピレンおよびカーボンブラックを充填したポリエチレンが示した電気体積抵抗(Ω・cmで表す)を充填材量(重合体の重量を基準にした充填材の重量%で表す)の関数として示す。
【図3】図3に、純粋なポリプロピレンおよびそれぞれ炭素ナノチューブおよびカーボンブラックを充填したポリプロピレンが示した弾性係数(MPaで表す)を電気体積抵抗(Ω・cmで表す)の関数として示す。
【図4】図4に、それぞれ炭素ナノチューブを4重量%充填したポリプロピレンおよびカーボンブラックを12重量%充填したポリプロピレンが示した応力(kPaで表す)を歪み(%で表す)の関数として示す。
【図5】図5に、ある程度精製されたナノチューブ、充分な精製を受けさせておいたナノチューブおよび本実施例に記述した特定の官能化処理と充分な精製を受けさせておいたナノチューブが示した抵抗(Ω・cmで表す)を炭素ナノチューブ量(重量%で表す)の関数として表すグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単壁炭素ナノチューブ(SWNT)または多壁炭素ナノチューブ(MWNT)で補強されていて溶融状態における混合で調製された補強重合体材料であって、前記炭素ナノチューブが支持体粒子も触媒粒子も含有せず、この補強された重合体材料が向上した電気特性と機械的特性を同時に示すことを特徴とする補強重合体材料。
【請求項2】
前記重合体材料がポリオレフィンである請求項1記載の補強重合体材料。
【請求項3】
前記ポリオレフィンがプロピレンのアタクティック、アイソタクティックもしくはシンジオタクティックホモ重合体もしくは共重合体である請求項2記載の補強重合体材料。
【請求項4】
前記炭素ナノチューブが少なくとも100のアスペクト比を示す請求項1〜3のいずれか1項記載の補強重合体材料。
【請求項5】
ある程度精製された炭素ナノチューブの添加量が前記重合体の重量を基準にして0.1から20重量%である請求項1〜4のいずれか1項記載の補強重合体材料。
【請求項6】
更に配向している請求項1〜5のいずれか1項記載の補強重合体材料。
【請求項7】
請求項1から6記載の補強重合体材料を製造する方法であって、
a)重合体マトリックスを準備し、
b)ある程度精製された炭素ナノチューブを準備し、
c)混合を溶融状態で行うことで前記ある程度精製された炭素ナノチューブを前記重合体マトリックスの中に分散させ、
d)場合により、段階c)の重合体/ナノチューブの混合物を溶融状態または固体状態で引き伸ばすことで配向させる、
段階を含んで成る方法。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか1項記載の補強重合体材料を製造する目的である程度精製されたナノチューブを用いる使用であって、前記重合体材料が電気特性と機械的特性の向上した均衡を示す使用。
【請求項9】
向上した導電性と機械的特性を示す補強重合体材料を製造する目的で充分な精製と官能化を受けたナノチューブを用いる使用。
【請求項10】
自動車、織物または他の用途用の電気逸散性材料であって、請求項1から6のいずれか1項記載の補強重合体材料を用いて作られた電気逸散性材料。
【請求項11】
ワイヤーおよびケーブル用の遮蔽物であって、請求項1から6のいずれか1項記載の補強重合体材料を用いて作られた遮蔽物。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図1】
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【公開番号】特開2009−120836(P2009−120836A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−290973(P2008−290973)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【分割の表示】特願2003−577278(P2003−577278)の分割
【原出願日】平成15年3月10日(2003.3.10)
【出願人】(504469606)トータル・ペトロケミカルズ・リサーチ・フエリユイ (180)
【Fターム(参考)】