説明

色素増感型太陽電池用透明導電積層体及びその製造方法、並びに色素増感型太陽電池

【課題】
色素増感型太陽電池における変換効率をより高めるために酸化亜鉛膜の緻密度を高めた色素増感型太陽電池用透明導電性積層体、そしてその製造方法、さらにはこれを用いた色素増感型太陽電池、を提供する。
【解決手段】
基材となる高分子樹脂フィルム、プラスチックボード、若しくはガラス板の表面に少なくとも透明導電層と色素複合酸化亜鉛層と、を積層してなる、色素増感型太陽電池用透明導電積層体であって、前記透明導電層が乾式めっき法により積層されてなり、前記色素複合酸化亜鉛層が湿式めっき法により積層された多孔質酸化亜鉛層に色素を吸着させてなること、を特徴とする色素増感型太陽電池用透明導電性フィルムとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は色素増感型太陽電池用透明導電積層体及びその製造方法、並びに色素増感型太陽電池に関するものであり、具体的には光電変換効率を向上させることを可能とする色素増感型太陽電池透明導電膜及びその製造方法、並びに色素増感型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化に対する関心が急速に広まっている昨今において、日常生活に必要な電力をクリーンに得る手段としての太陽光発電に注目が集まっている。この太陽光発電には太陽電池を用いるが、この太陽電池は太陽光のみがあれば作動するので燃料が不要であり、かつ無尽蔵なクリーンエネルギーとしてより一層優れたものの開発・実用化が強く望まれている。
【0003】
この太陽光発電に用いる太陽電池では、従来透明導電性ガラスが用いられている。この透明導電性ガラスは太陽光を透過しかつ電気をも通す、という性質を兼ね備えたものであるため、この性質を利用して太陽電池の透明電極として用いられているのである。
【0004】
この太陽電池の研究・開発が進むにつれ、より一層の普及のために取扱の容易性、薄型・軽量化を望む市場の強い意向もあり、基材として用いる透明導電性ガラスの基材を、何らかの衝撃が少し加わってしまっただけでも容易に割れてしまいやすいためその取扱には細心の注意が必要であるガラスから、簡単には破損しないことにより、はるかに取扱性に優れたものと言る透明樹脂フィルムに置き換えたもの、いわゆる透明導電性フィルムを用いることが多くなってきている。
【0005】
この太陽電池に関し簡単に説明すると、太陽電池の種類は使用される半導体材料によって、現在主にシリコン系、化合物半導体系、有機半導体系、色素増感型、などに分類される。中でもシリコン系は比較的古くから開発されており現在でも主流であるが、変換効率の向上には限界がある、資源枯渇が懸念されている、という課題が存在している。また化合物半導体系太陽電池は高変換効率が大いに期待できるが、材料コストが高いという課題が存在している。そして有機半導体系太陽電池は、開発当初こそ低コスト材料として有望視されていたが、変換効率向上の目処が立たず、その開発は停滞気味である。
【0006】
このような状況にあって、最近では色素増感型太陽電池の開発に注目が集まっている。これは色素増感型太陽電池がその他の種類の太陽電池に比して、その素子構造が簡単で、かつ特段の製造設備がなくとも製造できる可能性があるにもかかわらず、その変換効率を簡単に高めることが大いに期待されたからであり、実際すでに実用化されているアモルファスシリコン太陽電池に匹敵する程に、小面積であっても高変換効率が得られたことよりも大いに注目を集める存在となっている。
【0007】
この色素増感型太陽電池の基本的な構造と動作原理は次の通りである。まず負極として、透明導電膜を付けた基板にチタニア粒子をペースト状にして塗布しこれを焼結しチタニア層としたものを用いる。チタニア層は多数の空孔を有するが、この空孔内面にカルボキシル基等のアンカーを有したルテニウムビピリジル錯体を担持すると、色素はチタニア表面に担持される。一方正極としては例えば基板上の透明導電膜に白金をスパッタリングしたもの等を用いる。そして両極間に電解液を充填するが、この電解液としてはアセトニトリル等の溶媒を用い、これに溶質としてヨウ素とヨウ素イオンを溶解する。
【0008】
このような構成を有する色素増感型太陽電池は次のようにして動作する。即ち負極に光を照射するとチタニア層に担持された色素が光を吸収し、その励起状態からチタニアの電導帯に電子が注入されることで電荷が分離する。次いで放出された電子はチタニア層を介して負極を伝わり、やがて対極たる正極に至り、そこから電解液中に放出され、電解液中の三ヨウ化物イオンはヨウ化物イオンに還元される。電子を放出して酸化体となった色素は、ヨウ化物イオンから電子を受け取ることで再生され、ヨウ化物イオンは三ヨウ化物イオンに酸化される。この工程を繰り返すことにより電気が流れるようになる。
【0009】
そしてこのように動作する太陽電池の最小の基本単位を「セル」と言い、このセルを多数直列又は並列に接続することによって、実際に使うのに便利な電圧を取り出せるようにパッケージに収めたものを「モジュール」と言う。そして実際の太陽光発電は複数のモジュールを直列あるいは並列に配列し、架台に設置することにより実行されるのである。
【0010】
そこで色素増感型太陽電池において用いられる基体につき高分子樹脂フィルムを用いることで、重量に関する問題を少しでも回避し、かつガラスではなくフィルムを用いることで取扱性を少しでも良いものとすることを可能とすべく、例えば特許文献1に開示された発明が提案されている。
【特許文献1】特開2004−006235号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上記した特許文献1では、従来の色素増感型太陽電池であればチタニアを用いることよりその製造過程において加熱処理が必須となるため透明基板が耐熱性を有するものでなければならなかったところ、この発明によれば熱処理を行うことなく多種の透明基板を選択できることができるようになる、という特徴を有するものである。しかしかかる手法を実行したところ、充分なエネルギー変換効率(以下単に「変換効率」とも言う。)を得るに至らず、問題であった。
【0012】
これは、熱処理を回避するために用いられる酸化亜鉛膜がさほど緻密でないためである、と考えられる。即ち、本来であれば充分な量のチタニアを用いたいところ、熱処理による問題回避のためにこれに置き換える意味で酸化亜鉛を用いるのであるが、この酸化亜鉛膜が緻密であればあるほど変換効率が高くなるはずである。
【0013】
しかし特許文献1に記載の発明であれば、所望の基板に対し電気化学析出法(以下単に「電析」とも言う。)により直接酸化亜鉛を析出させるため、酸化亜鉛の初期核形成密度が充分に高いものとはならず、その結果得られる酸化亜鉛膜の緻密度を高めることができず、その結果変換効率が不十分なものしか得られない、という状況が生じていることが考えられる。即ち変換効率を向上させるためにはさらなる酸化亜鉛膜の緻密化が必要であるものと考えられるのである。
【0014】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は色素増感型太陽電池における変換効率をより高めるために酸化亜鉛膜の緻密度を高めた色素増感型太陽電池用透明導電性積層体、及びその製造方法、そしてこれを用いた色素増感型太陽電池、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本願発明の請求項1に記載の発明は、基材となる高分子樹脂フィルム、プラスチックボード、若しくはガラス板の表面に少なくとも透明導電層と色素複合酸化亜鉛層と、を積層してなる、色素増感型太陽電池用透明導電積層体であって、前記透明導電層が乾式めっき法により積層されてなり、前記色素複合酸化亜鉛層が湿式めっき法により積層された多孔質酸化亜鉛層に色素を吸着させてなること、を特徴とする。
【0016】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体において、前記透明導電層と前記色素複合酸化亜鉛層との間に、湿式めっき法により酸化亜鉛層が積層されてなること、を特徴とする。
【0017】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体であって、前記透明導電層が、酸化亜鉛に金属、若しくは該金属を酸化したものをドーピングしたものを用いてなること、を特徴とする。
【0018】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体であって、前記金属が、ガリウム、インジウム、アルミニウム、スズ、アンチモン、又はホウ素の何れか若しくは複数であること、を特徴とする。
【0019】
本願発明の請求項5に記載の発明は、請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体であって、前記乾式めっき法が、スパッタリング法、真空蒸着法、又はイオンプレーティング法の何れかであって、前記湿式めっき法が、電気化学析出法であること、を特徴とする。
【0020】
本願発明の請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体であって、前記酸化亜鉛層、若しくは色素複合酸化亜鉛層における酸化亜鉛の粒子径サイズが600nm以下であること、を特徴とする。
【0021】
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体であって、前記多孔質酸化亜鉛層における実表面積÷投影面積による値で示される比表面積(ラフネスファクタ−)が10以上であること、を特徴とする。
【0022】
本願発明の請求項8に記載の発明は、請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体であって、特定式により算出された前記湿式めっき法による酸化亜鉛層の緻密度が85%以上であること、を特徴とする。
【0023】
本願発明の請求項9に記載の発明は、基材となる高分子樹脂フィルム、プラスチックボード若しくはガラス板の表面に、乾式めっき法により透明導電層を積層してなる透明導電層積層工程と、前記酸化亜鉛層表面に対し湿式めっき法により多孔質酸化亜鉛層を積層した後に色素を吸着させてなる色素複合酸化亜鉛積層工程と、を備えてなること、を特徴とする。
【0024】
本願発明の請求項10に記載の発明は、請求項9に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法であって、前記透明導電層積層工程と、前記色素複合酸化亜鉛積層工程との間に、前記透明導電層表面に対し湿式めっき法により酸化亜鉛層を積層してなる酸化亜鉛積層工程を実行してなること、を特徴とする。
【0025】
本願発明の請求項11に記載の発明は、請求項9又は請求項10に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法であって、前記透明導電層が、酸化亜鉛に金属、若しくは該金属を酸化したものをドーピングしたものを用いてなること、を特徴とする。
【0026】
本願発明の請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法であって、前記金属が、ガリウム、インジウム、アルミニウム、スズ、アンチモン、又はホウ素の何れか若しくは複数であること、を特徴とする。
【0027】
本願発明の請求項13に記載の発明は、請求項9ないし請求項12の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法であって、前記乾式めっき法が、スパッタリング法、真空蒸着法、又はイオンプレーティング法の何れかであって、前記湿式めっき法が、電気化学析出法であること、を特徴とする。
【0028】
本願発明の請求項14に記載の発明は、請求項9ないし請求項13の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法であって、前記酸化亜鉛層、若しくは色素複合酸化亜鉛層における酸化亜鉛の粒子径サイズが600nm以下であること、を特徴とする。
【0029】
本願発明の請求項15に記載の発明は、請求項9ないし請求項14の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法であって、前記多孔質酸化亜鉛層における実表面積÷投影面積による値で示される比表面積(ラフネスファクタ−)が10以上であること、を特徴とする。
【0030】
本願発明の請求項16に記載の発明は、請求項9ないし請求項15の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法であって、特定式により算出された前記湿式めっき法による酸化亜鉛層の緻密度が85%以上であること、を特徴とする。
【0031】
本願発明の請求項17に記載の色素増感型太陽電池に関する発明は、請求項1ないし請求項8の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体、又は請求項9ないし請求項16の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法により得られた色素増感型太陽電池用透明導電積層体、を用いてなること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
以上のように、本願発明にかかる色素増感型太陽電池用透明導電積層体及びその製造方法によれば、かかる透明導電膜の構成は基材/透明導電層/酸化亜鉛層というものであり、かつ透明導電層を乾式めっき法によって、酸化亜鉛層を湿式めっき法によって積層していることより、酸化亜鉛層が従来のものに比してより緻密なものとすることが可能となる。そして透明導電層が酸化亜鉛に金属、若しくは該金属の酸化物をドーピングしたもの、さらに言えば金属としてガリウム、インジウム、アルミニウム、スズ、アンチモン、又はホウ素の何れか若しくは複数を用いることで、酸化亜鉛層の緻密性をより一層確実に向上させることが容易に可能となる。そして乾式めっき法としてはスパッタリング法、真空蒸着法、又はイオンプレーティング法の何れか、湿式めっき法としてはカソード電気析出法、を用いることで、やはり酸化亜鉛層の緻密性を向上させることができる。そしてその緻密性を85%以上であるものとすることで、かかるフィルムを色素増感型太陽電池に用いれば、得られる色素増感型太陽電池のエネルギー変換効率はより高いものすることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0034】
(実施の形態1)
本願発明にかかる色素増感型太陽電池用透明導電積層体(以下単に「透明導電積層体」とも言う。)及びその製造方法について第1の実施の形態として説明する。
【0035】
この第1の実施の形態にかかる透明導電積層体は、基材となる高分子樹脂フィルム、プラスチックボード若しくはガラスの表面に少なくとも透明導電層と酸化亜鉛層と色素複合酸化亜鉛層と、を積層してなる構成を有している。そして透明導電層は乾式めっき法により、酸化亜鉛層は湿式めっき法により積層されてなり、色素複合酸化亜鉛層は湿式めっき法により積層された酸化亜鉛に色素を吸着させてなることで得られるものとする。
【0036】
そしてかかる透明導電積層体は、基材となる高分子樹脂フィルム、プラスチックボード若しくはガラスの表面に、乾式めっき法により透明導電層を積層してなる透明導電層積層工程と、前記透明導電層表面に対し湿式めっき法により酸化亜鉛層を積層してなる酸化亜鉛積層工程と、この酸化亜鉛層表面に対し湿式めっき法により酸化亜鉛を積層した後に色素を吸着させてなる色素複合酸化亜鉛積層工程と、を備えた製造方法を実行することにより得られるものとする。
【0037】
また、以下本実施の形態においては透明導電積層体の基材として透明な高分子樹脂フィルムを用いることとし、また得られる透明導電積層体を透明導電性フィルムと言うこととするが、プラスチックボードやガラス板を基材として用いる場合であっても以下の説明と同様であることを予め述べておく。
【0038】
ここで本実施の形態において、主として酸化亜鉛を用いることに関し簡単に述べておく。本実施の形態にかかる透明導電性フィルムは色素増感型太陽電池に用いることを想定している。しかし従来の色素増感型太陽電池では主にチタニアを用いてなるものであるところ、本実施の形態ではこれに代えて酸化亜鉛を用いることを想定している。これは従来チタニアを用いることを想定した場合、そのための透明導電性フィルムを製造する過程において加熱処理が必須となるため、透明導電性フィルムの基材として用いる高分子樹脂フィルムは必然的に耐熱性の高いフィルムを選択せざるを得ず、即ち選択肢が非常に狭いものとならざるを得ないものであった。しかしこのような高熱を要する加熱処理を回避するために、換言すればそこまでの高熱を要しない加熱処理によって透明導電性フィルムを得る、という観点より、酸化亜鉛をチタニアに代えて用いることを選択したものである。つまり酸化亜鉛を用いることで基材フィルムにも従来ほどには高い耐熱性を要求されることがなくなるので、選択肢を広くすることができるのである。
【0039】
以下、本実施の形態にかかる透明導電性フィルムにつき、順次説明をする。
まず最初に基材となる高分子樹脂フィルムであるが、これは本実施の形態においては特段制限するものではなく、従来公知の基材フィルムであって構わない。但し当然のことではあるが、本実施の形態にかかる透明導電性フィルムはその名の通り透明でなければならず、そのため基材となる高分子樹脂フィルムも光電変換反応に必要な波長の光を透過させるものでなければならない。そのような透明基材フィルムであれば良いのであって、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルムなどを用いることが考えられる。本実施の形態ではPENフィルムを用いることとする。尚、基材フィルムの厚みは25μm以上300μm以下であることが好ましく、本実施の形態におけるPENフィルムの厚みは125μmであるものとする。
【0040】
この基材フィルムの表面に透明導電層積層工程を実施することにより透明導電層を設けるのであるが、この透明導電層は、酸化亜鉛に金属又は該金属の酸化物をドーピングしたものを用いてなる。またドーピングする金属又は該金属の酸化物として、ガリウム、インジウム、アルミニウム、スズ、アンチモン、又はホウ素の何れか若しくは複数から選択することが本願発明において大変好適であり、本実施の形態においては酸化亜鉛に酸化ガリウムをドーピングしたもの(以下「GZO」とする。)による層とする。尚ドーピングする酸化ガリウムの割合としては、酸化亜鉛に対し1重量%以上10重量%以下の酸化ガリウムであると好適であり、本実施の形態においては4重量%の酸化ガリウムがドーピングされているものとする。
【0041】
本実施の形態においてこのGZO層はいわゆる乾式めっき法によりPENフィルムの表面に積層されるものとし、また本実施の形態における透明導電層積層工程としては乾式めっき法を実行することとする。乾式めっき法としては、具体的には例えばスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、等の従来公知の手法を用いれば良く、本実施の形態においては従来公知のスパッタリング法によるものとする。
【0042】
本実施の形態における透明導電層の厚みは10nm以上700nm以下であることが好ましく、本実施の形態におけるGZO層の厚みは400nmであるものとする。10nm未満であると導電性を充分に発揮することができず、700nmを超えると、本実施の形態にかかる透明導電性フィルムの可撓性を充分に確保できないからである。
【0043】
このように酸化亜鉛に酸化ガリウムを4重量%の割合でドーピングした状態であるGZO層を厚みが400nmのPENフィルムの表面にスパッタリング法によって積層することにより、GZOフィルム基板を得る。
【0044】
尚ここでは特段の制限を設けるものではないが、本実施の形態においては上記のように透明基材の表面に透明導電層を積層するに先だって、透明基材表面の平坦性をより優れたものにするためや、積層物との層間密着性を向上させるために、透明基材フィルムの表面にアンダーコート層を積層してあっても構わない。また基材として透明高分子樹脂フィルム以外のプラスチックボードやガラス板を用いる場合であっても、アンダーコート層を設ける事が有用である場合もある。この場合、アンダーコート層としては従来公知のアクリル樹脂、アクリル系樹脂やエポキシ樹脂、等を塗布法等の手法により設ければ良い。
【0045】
次に、透明導電層として積層されたGZO層の表面に酸化亜鉛積層工程により酸化亜鉛層を設ける。そこで次に酸化亜鉛層及び酸化亜鉛積層工程につき説明する。
【0046】
この酸化亜鉛積層工程としては湿式めっき法を用いれば良く、本実施の形態では電析によるものとし、電析の中でも特にカソード電析と呼ばれる手法により実行されるものとする。このカソード電析とは簡単に説明すると以下の通りである。まず溶液中の2本の電極に外部から電気を与えて浴中の電気化学反応を進める、電解と称される過程を実行する。そしてこの電解を使って作用する極(以下、作用極とする)の作用極基板に何らかの物質を析出・堆積させることを電析と称し、カソード側に析出・堆積させることをカソード電析と称するのである。
【0047】
そして本実施の形態におけるカソード電積に用いるカソードとして、前述の透明導電層であるGZO層が積層された積層体を用いる。そしてその表面にカソード電析により酸化亜鉛層を設ける。酸化亜鉛積層工程は結果として緻密な酸化亜鉛層を積層することを目的としており、そのためにこの工程を1回だけ実行しても良く、複数回繰り返して実行しても良い。
【0048】
またカソード電析に関してさらに述べておくと、積層物は基板(カソード)の表面に対して均一に積層されることが理想である。均一に積層されるように強制的に積層物を積層対象表面に積層させることができれば特に成膜方法は制限されないが、実際には電極自体を運動させるか、電解液を均一に運動をさせるか、あるいは両者を実行することにより、基板表面に対して均一な積層を行う。本実施の形態においては適宜好適な手段を用いれば良く、ここで特段の制限をするものではないが、このような手段を例示すれば次のものがあげられる。即ち、電極自体を運動させるものとしては、回転ディスク電極型電解装置(以下、単に回転電極型電解装置とも言う)、回転シリンダー電極型電解装置、振動電極型電解装置、スイング電極型電解装置、定速電極送り型電解装置等があげられる。また電解液を均一に運動をさせるものとしては、フロー型電解装置、ウオールジェット型電解装置、直線運動くし型撹拌器付き電解装置等をあげることができる。これらの多くは電気化学分析において、広く用いられるものである。
【0049】
回転ディスク電極型電解装置は、平板なディスク状電極が面内回転運動(面に対する垂線の軸周りに回転)することにより、電極面に対する垂直な電解液の流れを作り出して電極近傍の拡散層厚さを制限する装置である。
【0050】
回転シリンダー電極型電解装置は、円柱状の電極の側面が電極であり、中心軸周りに回転することで電極面に対する相対的な電解液の平行流れを作り出し、電極近傍の拡散層厚さを制御する装置である。
【0051】
振動電極型電解装置は、電極を一定の周波数、振幅で振動させ、強制的な物質輸送を作り出す装置で、このとき、電極の運動は電極面に対して垂直でも平行でも構わない。また、垂直な運動では電極近傍の拡散層厚さは周期的に変化するが、一定周波数、一定振幅であるため電解液中の平均的な物質輸送速度は一定に制御できる。
【0052】
スイング電極型電解装置は、振動電極と同一の概念であるが、より低周波数(100Hz以下)で大きい振幅での運動を利用する装置で、電極は平面である必要はなく、曲面でも構わない。定速電極送り型電解装置は、電極を往復させるのではなく、一定速度で電極面に平行に連続的に電極を送ることで均一な電解液の相対的平行流れを作り出し、電極近傍の拡散層厚さを制御する装置で、特に導電性プラスチックフィルム基板のロールを連続的に送り出す連続生産に向くものである。
【0053】
フロー型電解装置は、固定した平板な電極に平行な一定速度の電解液の流れをポンプ等によって作り出し、電極近傍の拡散層厚さを一定に制御する装置である。ウオールジェット型電解装置は、固定した平板な電極に垂直な方向にポンプで駆動されるノズルから電解液を吹き付けることで電極近傍の拡散層厚さを一定に制御する装置で、乱流を生じないためには流速とノズルから電極面への距離を制御し、電極のサイズをノズル径よりも小さくすることが必要である。
【0054】
直線運動くし型撹拌器付き電解装置は、電極基板表面に近接し、これと平行な方向に直線往復運動するくし型の撹拌器を用いることで電極近傍の電解液の平行流れを制御する装置で、拡散層厚さは周期的に変化するが、くし型撹拌器を一定の周波数、振幅で運動させることで平均的物質輸送速度を一定に制御できる点は、振動電極型電解装置やスイング電極型電解装置と同様である。尚、くし型撹拌器の大きさは電極よりも大きく、そのストローク内に電極が収まるサイズとすることが望ましい。
【0055】
以上のどの装置においても、カソード電析を行う際に用いられる亜鉛塩がハロゲン化亜鉛の場合、単位時間当たりに電極表面に供給されるテンプレート化合物分子のモル量(フラックス)が単位時間当たりに電極表面に供給される酸素分子のモル量(フラックス)の1/1000から1/10であることが好ましい。また、単位時間当たりに電極表面に供給される亜鉛イオンのモル量(フラックス)は、電極表面で還元される酸素分子のモル量(フラックス)の2倍以上であることが好ましい。テンプレート化合物、酸素分子、亜鉛イオンの供給量がこのような割合になる条件に濃度比及び均一かつ強制的な物質輸送を制御することにより、テンプレート化合物のアルカリ洗浄による除去及び増感色素の再吸着処理を可能とする多孔質酸化亜鉛層を得ることができるからである。
【0056】
尚、本実施の形態ではカソード電析によるものとしたが必ずしもこれに限定されるものではなく、その他、化学析出による手法により酸化亜鉛層を積層することとしても構わないが、ここではこれ以上の詳述は省略する。
【0057】
酸化亜鉛粒子が緻密な状態で存在する酸化亜鉛層を形成したら、次にその表面に色素複合酸化亜鉛積層工程により色素複合酸化亜鉛層を積層する。この工程も前記同様、電析を実行よれば良いものとするが、ここでは酸化亜鉛層は酸化亜鉛粒子が緻密な状態で存在する必要はなく、逆に疎な状態で存在していれば良いので、1回カソード電析を行えばそれで良い。
【0058】
ここで、さらに説明を続ける前に、以下の説明において用いられるテンプレート化合物につき説明しておく。
【0059】
テンプレート化合物とは、前述のようにカソード電析により形成された疎な状態の酸化亜鉛層、即ち多孔質酸化亜鉛層の内部に吸着される化合物を言う。より具体的には、多孔質酸化亜鉛層における酸化亜鉛粒子同士の隙間の部分に吸着される化合物を言う。そしてテンプレート化合物は、化学吸着により酸化亜鉛のバルク内部に存在するのではなく、亜鉛イオンと錯体を形成して多孔質酸化亜鉛層の内部表面に吸着される化合物であれば良い。
【0060】
さらに詳しく述べると、テンプレート化合物とは、個々の酸化亜鉛結晶の表面に対し化学吸着性を示す官能基を有する種々の化合物を利用することができるものを言うのである。本実施の形態におけるテンプレート化合物は、まず電析に用いる亜鉛塩水溶液に溶解性を有し、また溶液中で亜鉛イオン等と結合してもその溶解性を失わず、さらに電析反応によって形成される酸化亜鉛の表面に対し作用しかかる酸化亜鉛と複合化する性質を有していることが必要となる。そしてそのようなテンプレート化合物の多くは、まず電気化学的に還元性を有し、さらにもとの酸化状態では亜鉛塩と化合することなく亜鉛塩水溶液などの溶液に対し均一性を与える一方で、テンプレート化合物が還元されるとテンプレート化合物の持つ求核性が増すために電析反応によって多孔質酸化亜鉛層を成長させる過程で亜鉛イオンと錯体を形成し、そして形成された亜鉛イオンが多孔質酸化亜鉛層を構成する酸化亜鉛結晶同士の隙間に入り込み酸化亜鉛結晶の表面に吸着されるために酸化亜鉛結晶が一定以上に成長することを抑制する、という作用を発揮するのである。
【0061】
このようなテンプレート化合物としては、例えばカルボキシル基、スルホン酸基あるいはリン酸基などのアンカー基を有し、電気化学的に還元性を有する芳香族化合物などのπ−電子を有するものが好適である。電気化学的に還元性を有する芳香族化合物などのπ−電子を有するものとしてさらに具体的に例示すれば、例えばキサンテン系色素のエオシンY、フルオレセイン、エリスロシンB、フロキシンB、ローズベンガル、フルオレクソン、マーキュロクロム、ジブロモフルオレセイン、ピロガロールレッドなど、クマリン系色素のクマリン343など、トリフェニルメタン系色素のブロモフェノールブルー、ブロモチモールブルー、フェノールフタレインなどがある。また、これら以外にシアニン系色素、メロシアニン系色素、ポルフィリン、フタロシアニン、ペリレンテトラカルボン酸誘導体、インジゴ色素、オキソノール色素や天然色素のアントシアニン、クチナシ色素、ウコン色素、ベニバナ色素、カロテノイド色素、コチニール色素、パプリカ色素、Ru、Osなどのポリピリジン錯体などをあげることができる。そしてこれらの大半は色素であることを付言しておく。
【0062】
さて、多孔質酸化亜鉛層を形成するカソード電析は、多孔質酸化亜鉛層を形成することを所望する基板の存在下、具体的には本実施の形態の場合はPENフィルム/GZO層/酸化亜鉛層、という構成を有する基板の存在下、亜鉛塩を含む電解浴中で行う。亜鉛塩は、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛などのハロゲン化亜鉛、硝酸亜鉛、過塩素酸亜鉛などを用いることができ、ハロゲン化亜鉛の場合は酸素を供給する(バブリング)のであるが、酸素のバブルが電極に接触すると色素は酸化していまい脱着不能となるので、電極にバブルが接触しないようにする工夫が必要である。亜鉛塩を用いる場合の対極としては、亜鉛、金、白金、銀などがあげられる。前述したように、このようなカソード電析を実行することにより酸化亜鉛結晶による規則的な薄膜構造が得られる。そしてこれを得るために、また酸化チタンのような熱処理が不要なこととなり、基板として用いる物質の選択性が広まる。
【0063】
多孔質酸化亜鉛層は、テンプレート化合物を前記の電解浴に予め混合しておいたのちにカソード電析を実行し、さらに多孔質酸化亜鉛層の内部表面に吸着されたテンプレート化合物を脱着する手段を講じることにより得られる。これにより、多孔質酸化亜鉛層の表面からテンプレート化合物が脱着され、その結果多孔質酸化亜鉛層には多数の空隙が形成され、極めてポーラスなものとなり、また比表面積が増大する。
【0064】
テンプレート化合物の脱着手段は次の通りである。テンプレート化合物がカルボキシル基、スルホン酸基あるいはリン酸基などのアンカー基を有する化合物であれば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの塩基の水溶液を用いて洗浄することで行る。しかしこれに限定されるものではなく、テンプレート化合物の種類に応じて適宜行えば良い。尚アルカリによる洗浄は、pH10〜13で行うことが好ましい。
【0065】
このように色素複合酸化亜鉛層は、上記で得られた多孔質酸化亜鉛層に色素を吸着させることにより得ることができる。空隙に富む多孔質酸化亜鉛層は、色素を吸着させて得られる色素増感太陽電池の光電極用材料を作製するための中間的な基体となるものである。テンプレート化合物を脱着後、該テンプレート化合物と同じ化合物の色素を吸着させた場合、初回に吸着させた際より色素分子の光増感機能が向上する。これは、カソード電析後の膜には酸化亜鉛表面をものレイヤー状に完全に覆う以上の過剰なテンプレート化合物の色素が導入され、一部には色素のマルチレイヤーが形成されているためと考えられるからである。
【0066】
そしてマルチレイヤー状に導入された色素分子は酸化亜鉛に直接結合していないため、増感剤として機能することはできない。その状態の分子をアルカリ処理によって一旦洗い出し、再吸着処理を行うことで、理想的な色素のものレイヤーが形成される。これは増感剤として機能するのに必要なだけの色素が膜に導入されることが光電極特性向上の要因と考えられる。
【0067】
また、前記空隙に様々な色素を選択して吸着させることも可能となる。そのため、この色素複合酸化亜鉛層を色素増感太陽電池の光電極材料に用いることにより、非常に高い光電流値を示す様々な態様の太陽電池の製造が可能となるのである。また、1つの基体としての多孔質酸化亜鉛層に対して異なる種類の色素を吸着させることが可能となる。異なる種類の色素は、多孔質酸化亜鉛層の同一領域内において混合して吸着させることができる。また、多孔質酸化亜鉛層の異なる領域に対して、異なる色素を吸着させることもできる。即ち、多孔質酸化亜鉛層の第1の領域に第1の色素を吸着させ、その第2の領域に第2の色素を吸着させることもできる。ここに、第1及び第2の色素はそれぞれ複数の色素の混合体であっても良い。
【0068】
以上まとめると、本実施の形態にかかる透明導電性フィルムは、PENフィルムの表面にスパッタリング法によりGZO層を形成し、その表面にまずカソード電析により酸化亜鉛層を設け、さらにその表面に再びカソード電析により多孔質酸化亜鉛層を設け、そして多孔質
酸化亜鉛層に色素分子を吸着させることにより得られる。
【0069】
ここで、酸化亜鉛層及び多孔質酸化亜鉛層を形成する酸化亜鉛粒子につき簡単に触れておく。
【0070】
本実施の形態では、その粒子径サイズは600nm以下であることが望ましい。これはサイズの粒子径となると、本実施の形態で必要な酸化亜鉛層における酸化亜鉛粒子同士の緻密性を得ることが困難となるからである。また同時に粒子径が大きすぎると多孔質酸化亜鉛層において必要な「孔」の大きさまでもが大きくなり、実際に色素吸着が好適に行われないからである。また粒子径のサイズは走査型電子顕微鏡(SEM)などにより測定することができるものであり、本実施の形態でもSEMによりそのサイズを測定し利用することとする。
【0071】
また多孔質酸化亜鉛層におけるラフネスファクタ−が10以上であるように形成することも本実施の形態では重要であると言る。即ち、多孔質酸化亜鉛層における実際の表面積を投影面積で割ることにより得られる値である比表面積、即ちラフネスファクタ−と称される値が10以上となる、ということは、色素が吸着するスペースが本実施の形態において必要なスペースを備えている、ということを意味するからである。
【0072】
さて、本実施の形態において基材の表面にスパッタリング法によりGZO層を形成しているが、次にこの点につき説明する。
【0073】
まずそのようにする理由は、さらにGZO層の表面に積層される酸化亜鉛層を緻密なものにするためである。その詳細なメカニズム等については省略するが、発明者はスパッタリング法等の乾式めっき法により形成してなる透明導電層の表面に湿式めっき法により酸化亜鉛層を積層した場合が最も酸化亜鉛層の緻密度が高いものとなることを見いだしたのであり、そのため本実施の形態において各層を形成するに際して上述の通りとしたのである。
【0074】
酸化亜鉛層が緻密なものであることが好適である理由について簡単に触れておく。これは酸化亜鉛層は色素複合酸化亜鉛層より運び出される電子を受け入れ、これを発電に供するように作用するのであるが、その際に色素複合酸化亜鉛層が大量に電子を発生させたとしてもそれを受け入れて流していくことができなければ、結局発電効率の低下を招くこととなるのである。即ち酸化亜鉛層部分がボトルネックとなってしまわないようにするためには酸化亜鉛層に存在する酸化亜鉛は疎な状態であってはならず、即ち緻密な状態で存在していることが非常に望ましい。そしてかかる酸化亜鉛層を緻密なものとするために、本願発明ではその下層に位置する透明導電層を従来の酸化珪素や酸化インジウム等を用いるのではなく、酸化亜鉛を主としたGZO層としているのである。つまり下地となる層も酸化亜鉛を主としたものであれば、その表面に形成される酸化亜鉛層も緻密なものとしやすくなることが想像され、また下地となるGZO層をスパッタリング法等の乾式めっき法で形成するとその表面の酸化亜鉛層の緻密度を高いものとすることができるようになることを発明者は見いだしたのである。
【0075】
ここでこの緻密度につき説明をする。
まず以下の通り定める。
q 電解析出中に通過した電気量(Ccm−2
x 酸化亜鉛の膜厚(cm)
ρreal ファラデー効率100%を想定した場合の理論密度(gcm−3
ρ 酸化亜鉛としての最大密度である真密度(=5.676gcm−3
mZnO 電解析出により析出した酸化亜鉛の質量(gcm−2
n 電子数(=2)
F ファラデー定数(=96485Cmol−1
MZnO 酸化亜鉛分子量(=81.39gmol−1
【0076】
ファラデー効率100%、即ち電解析出中に通過した電気量qに相当する電子全てが反応に関与した場合に得られる薄膜の膜厚がxであったときのZnO密度をρrealとして、その値とZnOの真密度との比を計算することで、薄膜の緻密度を求めた。
【0077】
ファラデー効率100%を想定することで、通過電気量qに得ることができるZnOの密度の最大値ρrealを求められる。その値と、ZnOとしての最大密度である真密度ρ0との比をとるということは、電解析出で得られたZnO薄膜の密度を最大に見積もった場合、真密度から見てどれだけ密であるかを知ることにつながる。その密度の比を式(3)に示す。(3)により得られる値が本願発明にて述べる緻密度である。
ちなみにその緻密度を用いて式(4)のように空隙率を計算することもできる。
【0078】
ファラデー効率100%である場合に得られるZnOの質量をmZnOとおくと、
【数1】

(1)
mZnOを膜厚xで割ることによって、この場合の理論密度ρrealが求まる。
【数2】

(2)
したがって、ρrealを真密度ρで割ると、緻密度が求まる。
【数3】

(3)
また空隙率は次のように求まる。
【数4】

(4)
【0079】
空隙率を計算する別の方法としては、ファラデー効率を一定と見なし、(1)式におけるMZnOを見積もり、式(6)のように空隙率を求める方法もある。
【数5】

(5)
【数6】

(6)
【0080】
そして本実施の形態にかかる透明導電性フィルムにおいて、上記酸化亜鉛層の緻密度は85%以上であるものとする。これ以上の緻密度を有した酸化亜鉛層を備える透明導電性フィルムを用いれば、変換効率をより良いものとすることができることを発明者が見いだしたからである。
【0081】
このように、基材膜の表面にスパッタリング法等の乾式めっき法により透明導電層を設けることにより、その表面にカソード電気析出法等の湿式めっき法により酸化亜鉛層を設けた場合にかかる酸化亜鉛層が非常に緻密度の高いものとなる。そしてさらにその表面に色素複合酸化亜鉛層を設けてなる色素増感型太陽電池用透明導電性フィルムとし、これを色素増感型太陽電池に用いると変換効率を従来のものよりも高いものとすることができるようになるのである。
【0082】
尚、以上の説明において熱処理の観点から酸化亜鉛を用いることを想定したことについてはすでに述べた通りであるが、例えば基材として非常に耐熱性に優れたものを用いる、又は加工方法を工夫することにより基材への加熱処理における影響を軽減できる、等の加工方法の工夫を施す、等の対策を施すことにより、酸化亜鉛以外の層構成材料、例えば酸化鉛、酸化インジウム、酸化スズ、チタン酸バリウム、酸化タングステン、酸化チタン等の金属酸化物であっても、本願発明と同等のことを実施可能であることを述べておく。
【0083】
また以下詳述は省略するが、本実施の形態においては基材となる高分子樹脂フィルムと色素複合酸化亜鉛層との間に酸化亜鉛層を設けることとしたが高分子樹脂フィルムの表面に直接色素複合酸化亜鉛層を設ける形態としても構わないことを最後に付言しておく。
【実施例】
【0084】
次に、本発明を実施例をあげて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
<共通部分=アンダーコート層を積層した積層体>
基材フィルム/アンダーコート層
(基材フィルム)
厚み200μmのPENフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製;PENフィルム「Q65FA」)を用いた。
(アンダーコート層)
PENフィルム上にアンダーコート層としてアクリル系シランカップリング剤(信越化学工業株式会社製;KBM503)をバーコーターで塗布し、次いで150℃で1分間乾燥することにより、膜厚20nmとなるようにこれを積層した。
【0086】
(実施例1)
(透明導電層=GZO層)
マグネトロン直流スパッタ装置のターゲットとしてGZOをセットし、真空チャンバーにアンダーコート層を形成した積層体をセットした。そしてチャンバー内を1×10−3Paまで排気した後、アルゴンガスを60cc/minの条件でチャンバー内に導入し、0.2Paとなるように調整した。その後、GZOターゲットに電圧を印加して、アンダーコート層上に厚みが400nmでシート抵抗10Ω/Sq.のGZO膜を積層した。
【0087】
(酸化亜鉛層)
作用極として透明導電性フィルムのGZO膜(=GZOフィルム基板)を用い、対極としてPt線、参照電極(SCE)として飽和カロメル電極を、それぞれ用いてなる3電極系で1室型セルを使用した。尚、GZOフィルム基板は、5wt%ビスタ溶液、純粋、アセトン、2−プロパノール、の順番に15分間超音波洗浄を行った。硝酸溶液に2分間浸し、表面処理を施してから使用した。
薄膜形成、即ち酸化亜鉛層の形成は、浴温を70℃に固定した状態で、電解時間は40分で電位−0.8V〜−1.1V(vs.SCE)の範囲で定電位電解を行うことにより実行した。また、電解前には酸素を溶液中に30分間バブリングし、電解中もバブリングし続けた。
【0088】
(色素複合酸化亜鉛層)
アンカー基を有するテンプレート化合物としてエオシンY(以下、EYとも称す。)を用いた。EYがその内部表面に吸着される多孔質酸化亜鉛層(以下、酸化亜鉛/EY層(初回吸着)と言う。)を形成するための水溶液として、75μMエオシンY水溶液に、ZnC12を5mM、KClを0.1Mとなるように調整した水溶液を用いた。
作用極は前述の酸化亜鉛層が積層された基板(=酸化亜鉛層基板)を、対極はPt線、参照電極(SCE)は飽和カロメル電極を、それぞれ用いてなる3電極系で1室型セルを使用した。
酸化亜鉛/EY薄膜(初回吸着)の形成は、浴温を70℃に固定した状態で、電解時間を60分とし、電位−0.8V〜−1.1V(vs.SCE)の範囲で定電位電解を行うことにより実行した。
【0089】
上記定電位電解を30分実行した後に得られた酸化亜鉛/EY複合層(初回吸着)を乾燥させることなくpH10.5のKOHに浸漬することにより、酸化亜鉛/EY複合層(初回吸着)からEYを脱着して多孔質酸化亜鉛層を得た。
上記で得られた多孔質酸化亜鉛層を120℃で30分乾燥処理した後、これを0.5mMのD149と、1mMのコール酸と、t−BuOH/CH3CN(v/v=1/1)と、による溶液を入れた浴槽の浴温を100℃に固定した状態で、室温下で60分間浸漬させることにより、色素を多孔質酸化亜鉛層に再度吸着させた。このようにすることで、多孔質酸化亜鉛層にEYを再吸着させた酸化亜鉛/EY薄膜(再吸着)を得た。
【0090】
(実施例2)
(透明導電層=GZO層)
マグネトロン直流スパッタ装置のターゲットとしてGZOをセットし、真空チャンバーに上記アンダーコート層を形成した積層体をセットした。そしてチャンバー内を1×10−3Paまで排気した後、アルゴンガスを60cc/minの条件でチャンバー内に導入し、0.2Paとなるように調整した。その後、GZOターゲットに電圧を印加して、アンダーコート層上に厚みが200nmでシート抵抗30Ω/Sq.のGZO膜を積層した。
【0091】
(酸化亜鉛層)
実施例1と同様にして得た。
【0092】
(色素複合酸化亜鉛層)
実施例1と同様にして得た。
【0093】
(比較例1)
(透明導電層・ITO(10%酸化スズ、90%酸化インジウム)層)
マグネトロン直流スパッタ装置のターゲットとしてITOをセットし、真空チャンバーに上記アンダーコート層を形成した積層体をセットした。そしてチャンバー内を1×10−3Paまで排気した後、アルゴンガスを54cc/min、酸素を6cc/minの条件でチャンバー内に導入し、0.2Paとなるように調整した。その後、ITOターゲットに電圧を印加して、アンダーコート層上に厚みが300nmでシート抵抗10Ω/Sq.のITO膜を積層した。
【0094】
(酸化亜鉛層)
実施例1と同様にして得た。
【0095】
(色素複合酸化亜鉛層)
実施例1と同様にして得た。
【0096】
表1に、上記実施例1〜2及び比較例1における酸化亜鉛層の緻密度を算出した結果を示す。それと同時に、実施例1〜2及び比較例1により得られたものを色素増感型太陽電池に用いた場合のエネルギー変換効率η(%)を示す。尚ηの算出方法は従来公知の手法により算出されたものである。
【0097】
【表1】








【0098】
表1からわかるように、本願発明にかかる透明導電性フィルムでは酸化亜鉛層の緻密度が85%を超えた高いもの、即ち非常に緻密な状態であることがわかる。そしてそれを色素増感型太陽電池に用いれば変換効率が好適なものとなることがわかる。
【0099】
具体的に実施例1及び比較例1により得られる透明導電性フィルムにおける酸化亜鉛層をSEMにより観察、測定すると、比較例による透明導電性フィルムでは図2に示すように酸化亜鉛層は緻密でないものであるのに対し、本願発明にかかる透明導電性フィルムでは図1に示すように酸化亜鉛層は緻密なものとなっており、またその粒子径サイズは600nm以下であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】実施例1における酸化亜鉛層のSEM像を示した図面代用写真である。
【図2】比較例1における酸化亜鉛層のSEM像を示した図面代用写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材となる高分子樹脂フィルム、プラスチックボード、若しくはガラス板の表面に少なくとも透明導電層と色素複合酸化亜鉛層と、を積層してなる、色素増感型太陽電池用透明導電積層体であって、
前記透明導電層が乾式めっき法により積層されてなり、
前記色素複合酸化亜鉛層が湿式めっき法により積層された多孔質酸化亜鉛層に色素を吸着させてなること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体。
【請求項2】
請求項1に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体において、
前記透明導電層と前記色素複合酸化亜鉛層との間に、湿式めっき法により酸化亜鉛層が積層されてなること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体であって、
前記透明導電層が、酸化亜鉛に金属、若しくは該金属を酸化したものをドーピングしたものを用いてなること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体。
【請求項4】
請求項3に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体であって、
前記金属が、ガリウム、インジウム、アルミニウム、スズ、アンチモン、又はホウ素の何れか若しくは複数であること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体であって、
前記乾式めっき法が、スパッタリング法、真空蒸着法、又はイオンプレーティング法の何れかであって、
前記湿式めっき法が、電気化学析出法であること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体であって、
前記酸化亜鉛層、若しくは色素複合酸化亜鉛層における酸化亜鉛の粒子径サイズが600nm以下であること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体であって、
前記多孔質酸化亜鉛層における実表面積÷投影面積による値で示される比表面積(ラフネスファクタ−)が10以上であること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体であって、
下記緻密度算出方法により算出された前記湿式めっき法による酸化亜鉛層の緻密度が85%以上であること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体。
(緻密度算出方法)
q 電解析出中に通過した電気量(Ccm−2
x 酸化亜鉛の膜厚(cm)
ρreal ファラデー効率100%を想定した場合の理論密度(gcm−3
ρ0 酸化亜鉛としての最大密度である真密度(=5.676gcm−3
mZnO 電解析出により析出した酸化亜鉛の質量(gcm−2
n 電子数(=2)
F ファラデー定数(=96485Cmol−1
MZnO 酸化亜鉛分子量(=81.39gmol−1
(式1)

(式2)

(式3)

式3による値が緻密度である。
【請求項9】
基材となる高分子樹脂フィルム、プラスチックボード若しくはガラス板の表面に、
乾式めっき法により透明導電層を積層してなる透明導電層積層工程と、
前記酸化亜鉛層表面に対し湿式めっき法により多孔質酸化亜鉛層を積層した後に色素を吸着させてなる色素複合酸化亜鉛積層工程と、
を備えてなること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法であって、
前記透明導電層積層工程と、前記色素複合酸化亜鉛積層工程との間に、
前記透明導電層表面に対し湿式めっき法により酸化亜鉛層を積層してなる酸化亜鉛積層工程を実行してなること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法であって、
前記透明導電層が、酸化亜鉛に金属、若しくは該金属を酸化したものをドーピングしたものを用いてなること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法であって、
前記金属が、ガリウム、インジウム、アルミニウム、スズ、アンチモン、又はホウ素の何れか若しくは複数であること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法。
【請求項13】
請求項9ないし請求項12の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法であって、
前記乾式めっき法が、スパッタリング法、真空蒸着法、又はイオンプレーティング法の何れかであって、
前記湿式めっき法が、電気化学析出法であること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法。
【請求項14】
請求項9ないし請求項13の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法であって、
前記酸化亜鉛層、若しくは色素複合酸化亜鉛層における酸化亜鉛の粒子径サイズが600nm以下であること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法。
【請求項15】
請求項9ないし請求項14の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法であって、
前記多孔質酸化亜鉛層における実表面積÷投影面積による値で示される比表面積(ラフネスファクタ−)が10以上であること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法。
【請求項16】
請求項9ないし請求項15の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法であって、
下記緻密度算出方法により算出された前記湿式めっき法による酸化亜鉛層の緻密度が85%以上であること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法。
(緻密度算出方法)
q 電解析出中に通過した電気量(Ccm−2
x 酸化亜鉛の膜厚(cm)
ρreal ファラデー効率100%を想定した場合の理論密度(gcm−3
ρ0 酸化亜鉛としての最大密度である真密度(=5.676gcm−3
mZnO 電解析出により析出した酸化亜鉛の質量(gcm−2
n 電子数(=2)
F ファラデー定数(=96485Cmol−1
MZnO 酸化亜鉛分子量(=81.39gmol−1
(式1)

(式2)

(式3)

式3による値が緻密度である。
【請求項17】
請求項1ないし請求項8の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体、又は請求項9ないし請求項16の何れか1項に記載の色素増感型太陽電池用透明導電積層体の製造方法により得られた色素増感型太陽電池用透明導電積層体、を用いてなること、
を特徴とする、色素増感型太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−108613(P2010−108613A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−276501(P2008−276501)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】