説明

茶生葉の香気成分捕集方法と製茶蒸機用茶生葉香気成分捕集装置

【課題】飲む時の茶の香りではなく、本発明者は、茶畑で森林浴をしているような香りや茶畑の香りを採取することを考え、茶生葉のフレッシュな青臭を与えるみどりの香りの成分である青葉アルコールに注目した。茶生葉の香気成分には低沸点の香気が多く、青葉アルコールも例外ではなく、製茶することでほぼなくなってしまう。製茶中に香り成分の多くが揮散するため、茶は極めて繊細な香りとなる。本発明は、青葉アルコールを多く含んだ茶生葉本来の香気を回収することを課題としている。
【解決手段】本発明の第1手段は、製茶蒸機の処理茶葉排出口側の蒸気排出口から排出される蒸気を回収し、冷却して茶生葉の香気成分を捕集することを特徴とする茶生葉の香気成分捕集方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製茶工場で使用している製茶蒸機から茶生葉の香気成分を捕集する方法と装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では一般的に茶の効能が広く知られるようになっており、また、茶の香りが精神的にもよく、癒しの効果があり、茶の香気成分のニーズは高まっている。しかし、香気成分に用いられる茶の精油の抽出は、材料となる茶自体が高価であり、しかもその抽出量が微量(粉茶300キログラムから47グラム抽出)であるため製品化しにくく、天然の茶の香りを使った商品は市場にほとんど出回っていない。また、茶生葉から水蒸気蒸留法によって得られる精油の量は、0.02%以下といわれており、とても微量である。
【0003】
茶の香気成分には、焼海苔臭の含硫化合物(ジメチルスルフィドとメチルメルカブタン)、青臭に丸みを持たせるC5のアルデヒド(ペンタナール、3−メチルブタナール、2−メチルブタナール)、フレッシュな青臭を与えるみどりの香りの成分(青葉アルコールとそのエステル化合物)、殺青をすぐ行う緑茶には、含有比が低いが茶の代表的な香気成分(テルペンアルコール(リナロールとそのオキサイド)とゲラニオール)、緑茶らしい微量で強い香りを感じさせるヨノン系化合物等がある。
【0004】
従来、製茶工場では、茶生葉コンテナで茶生葉を一時貯留し、一定量ずつ製茶蒸機にて蒸気に当てて蒸熱処理を行ない、酸化酵素を不活性化してから、製茶粗揉機、製茶揉捻機、製茶中揉機・・・のように揉乾処理を行ない、荒茶を製造している。製茶機械および製茶工場は基本的に換気よく設計されており、特に強制排気等は行なっていない。そのため、製茶時には、茶の香りが製茶工場内にとどまらず、製茶工場周辺にも充満している。製茶工場へ行くと、その中でも製茶蒸機の周りが、一番、茶の香りがする。また、製茶工場では飲食するための荒茶を製造することを目的としており、それ以外の副産物を製造していることはなかった。
【0005】
製茶工場で生産した荒茶を仕上げ加工する仕上加工工場の火入乾燥機から放出される排気を熱交換器等を通して、茶香気成分を含有した水溶液を回収する茶香気成分含有水溶液の製造方法が特許文献1で提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−330698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
製茶時には、製茶工場内及び周辺は、水分を含んだ熱風や製茶蒸機の蒸気により茶の香りを含んだ湿度の高い空気で充満する。現在は、製茶工場は民家から少し離れたところに建設されていることが多く、製茶工場の近所も茶の関係者のため、製茶工場からの排気は問題となっていないが、将来的には製茶工場の排気が問題になる可能性がある。
【0008】
特許文献1の方法で排気を回収する火入乾燥機で乾燥する茶葉は、投入時で6〜7%(D.B.)程度の水分しか持っておらず、この排気から回収される水溶液は微量に過ぎない。また、この火入乾燥機から回収される香気は、製茶時に熱が加えられた香りがするものであり、一般的に飲む時の茶の香りは、後火製法によるもので、加熱することでアミノ酸と糖類が反応して、香気という香ばしい香りが生成されるものである。そして、火入乾燥機は製茶工場ではなく仕上加工工場に設置されており、火入乾燥機からの排気の回収等、明確にされておらず、実現性が低い。
【0009】
上記のような飲む時の茶の香りではなく、本発明者は、茶畑で森林浴をしているような香りや茶畑の香りを採取することを考え、茶生葉のフレッシュな青臭を与えるみどりの香りの成分である青葉アルコールに注目した。茶生葉の香気成分には低沸点の香気が多く、青葉アルコールも例外ではなく、製茶することでほぼなくなってしまう。製茶中に香り成分の多くが揮散するため、茶は極めて繊細な香りとなる。本発明は、青葉アルコールを多く含んだ茶生葉本来の香気を回収することを課題としている。
【0010】
さらに、本発明は、製茶工場内で生成されるものの中で、従来は利用されずに廃棄していた蒸気に着目し、この蒸気を回収して香気成分を捕集するための装置を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1手段は、製茶蒸機の処理茶葉排出口側の蒸気排出口から排出される蒸気を回収し、冷却して茶生葉の香気成分を捕集することを特徴とする茶生葉の香気成分捕集方法。本発明の第2手段は、上記第1手段において、捕集する茶生葉の香気成分は青葉アルコールを多量に含んでいることを特徴とする茶生葉の香気成分捕集方法。
【0012】
本発明の第3手段は、製茶蒸機の処理茶葉排出口側の蒸気排出口上に、蒸気排出口に向けて開口を備えた蒸気回収フードと、フィルタと、蒸気排出口より排出された蒸気を吸引するための吸引ファンと、前記蒸気を冷却して、凝縮水を得る蒸気冷却手段と、これらを連結するダクトと、前記凝縮水の回収手段と、より構成することを特徴とする製茶蒸機用茶生葉香気成分捕集装置。本発明の第4手段は、上記第3手段において、製茶蒸機への茶生葉の供給が開始した信号を受け、所定時間経過後、吸引ファンを開始することを特徴とする製茶蒸機用茶生葉香気成分捕集装置。本発明の第5手段は、上記第3または4手段において、製茶蒸機への茶生葉の供給が終了した信号を受け、吸引ファンを停止することを特徴とする製茶蒸機用茶生葉香気成分捕集装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明の請求項1、2により、従来は廃棄していた蒸気を利用することで、茶生葉の香気成分を得ることができ、製茶工場としては荒茶以外の商品を販売することができる。また、製茶工場周辺への臭いを軽減することができる。製茶蒸機の蒸気を利用することで、青葉アルコールやその他の低沸点の香気成分を多く含んだ、茶生葉特有のフレッシュな香りを多量に得ることができるため、色々な用途に利用可能である。この茶生葉の香気成分により、茶畑の中にいるような気分や茶畑で森林浴をしているような気分になることができる。
【0014】
請求項3の装置により、水分を多く含む蒸気を回収することで多量の茶生葉の香気成分を得ることができる。装置構成は、簡単で、コストも抑えられる。請求項4または5の装置により、電源を作業者がいちいち操作しなくても、製茶蒸機に連動して、自動的に茶生葉の香気成分を捕集することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は製茶蒸機と製茶蒸機用茶生葉香気成分捕集装置の全体説明図である。
【図2】図2は製茶用茶生葉香気成分捕集装置の説明図である。
【図3】図3は回収手段の説明図である。
【図4】図4は茶生葉の供給による吸引ファンの起動と停止を示す図である。
【図5】図5は実施例5の冷却器を示す図である。
【図6】図6は凝縮水の回収手段の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に本発明の装置を示す。製茶工場では、茶生葉Aを荷受け、茶生葉コンテナ(図示しない)で一時貯留し、順次搬送装置(図示しない)により製茶蒸機1へ搬送して、蒸熱処理を行なう。この時、製茶蒸機1へは茶生葉Aを一定量ずつ投入しなければ、蒸ムラが起こるため、茶生葉供給装置6を用いて、一定量ずつ製茶蒸機1の茶生葉投入口2へ投入している。製茶蒸機1は、一般的に回転胴型蒸機と送帯型蒸機があるが、製茶蒸機であればどちらでもよい。ボイラ(図示しない)にて生成された蒸気を、蒸気供給管4により製茶蒸機1の蒸気供給口5へ供給する。製茶蒸機1内では、供給された茶生葉Aに蒸気がさらされ、蒸熱処理を行ない、酸化酵素を不活性化させている。通常、60〜120秒間くらい蒸熱処理を行ない、茶生葉1kgあたり、300〜400g程度の蒸気を製茶蒸機1へ供給している。蒸熱処理が終了した茶葉Bは、製茶蒸機1の茶葉排出口3より搬送装置7上に排出され、次の製茶装置(図示しない)へ運ばれ、製茶が行われる。茶生葉Aに当たり、不要になった蒸気Cは蒸気排出口8から製茶蒸機1の外へ排出される。この蒸気Cには、茶生葉Aの香気成分がうつっている。
【実施例1】
【0017】
製茶蒸機1の蒸気排出口8上に蒸気Cを回収できるように、蒸気回収フード11を設け、蒸気回収フード11内の蒸気Cを効率よく回収するため、吸引ファン12を設ける。この蒸気回収フード11に集められた蒸気Cはダクト15を通り、蒸気冷却手段である冷却器13へ運ばれる。ダクト15内にはフィルタ16を設け、蒸気C内に含まれる異物を除去する。冷却器13では、蒸気Cを冷やすことができれば、水冷でも空冷でもどちらでも良い。冷やされた蒸気は、凝縮水Dとなり、配管17を通って、回収手段である回収タンク14へ回収される。回収タンク14には、回収タンク14内の凝縮水Dを循環させるポンプ20を設ける。この配管22経路にフィルタ18、19を設け、凝縮水D内の異物を除去する。
【0018】
この凝縮水Dには、茶生葉の香気成分の中でも、低沸点の香気成分が含まれており、青葉アルコールなどのフレッシュな香りが含まれている。この凝縮水Dの香りは、茶畑の香りと同様である。
【0019】
回収タンク14内に回収された凝縮水Dは、一定量を超えると採取管27を通り、運搬用のタンク28へ入れられる。清掃時などは、バルブ23、24を開放し、排水管25を用いて、排水溝26へ排水する。清掃が終了したときには、バルブ23、24を必ず閉鎖しておく。図6のように回収タンク14内に回収された凝縮水Dを、バルブ36の開閉により容器37へ入れるようにしてもよい。
【実施例2】
【0020】
茶生葉Aが茶生葉流量計6から製茶蒸機1の茶生葉投入口2へ投入される付近に透過型のセンサ30が設置されている。このセンサ30では茶生葉Aが存在するか否かをチェックしている。図4のように、このセンサ30が茶生葉Aの存在を感知すると、茶生葉流量計6から製茶蒸機1への茶生葉Aの投入が行われていることを示している。この時、吸引ファン12を起動する。
【実施例3】
【0021】
吸引ファン12の起動に関しては、センサ30が茶生葉Aの存在を感知してすぐに起動してもよいが、センサ30が茶生葉Aの存在を感知し始めてから所定時間後に吸引ファン12を起動するように設定しておくと、より効率的である。製茶蒸機1では通常、茶生葉Aを投入し始める前から蒸気を供給し始め、蒸気が安定的に供給され、その他の準備が整ってから、茶生葉の供給を始める。そのため、茶生葉の供給と吸引ファン12が連動することにより、不要な蒸気や空気は回収せずに、効率よく、香気成分を含んだ蒸気を回収することができる。更に、実験を行うと、香りの成分は不明だが、茶葉の蒸葉はじめの香りは不快な香りがする。そこで、茶生葉Aの存在を感知し始めてから数分後に吸引ファン12を起動するように設定しておくと、その不快な香りを回収しなくて済む。
【実施例4】
【0022】
図4のように、センサ30が茶生葉Aの存在を感知しなくなると、茶生葉流量計6から製茶蒸機1への茶生葉Aの供給が終了すること示しているため、吸引ファン12を停止する。このように自動的に吸引ファン12が停止することで、茶生葉の香気成分を含まない蒸気や空気を回収しなくても良い。
【実施例5】
【0023】
冷却器13の一例を図5に示す。本実施例の冷却器13は、冷却器13の外壁31の中をパイプ32が通っており、パイプ32の内側を蒸気C、パイプ32の外側かつ外壁31の内側を水33が通っている(冷却媒体は空気でもよいが、本実施例では水である)。
【実施例6】
【0024】
冷却器13の他の例を説明する。本実施例の冷却器13は、冷却器13の中のパイプの内部を冷却媒体が通っており、その周囲を蒸気が通ることで、冷却を行う。
【0025】
茶生葉の香気成分を捕集する流れについて説明する。茶生葉Aを茶生葉供給装置6へ投入し、あらかじめボイラ(図示しない)より蒸気を供給している製茶蒸機1への投入が始まると、センサ30が茶生葉Aの存在を感知し、所定時間(例えば、0秒、60秒、120秒、180秒、210秒など)経過後に、吸引ファン12を起動する。茶生葉Aは茶生葉投入口2より投入され、製茶蒸機1内にて蒸気で蒸熱処理され、茶葉排出口3へ排出され、次の製茶機械(図示しない)へ搬送装置7により運ばれる。茶生葉Aを蒸熱処理した蒸気Cには、茶生葉の香気成分がうつっている。この蒸気Cは、蒸気排出口8より放出され、蒸気回収フード11内にたまり、吸引ファン12により吸引され、ダクト15を通り、フィルタ16で異物を除去してから、冷却器13で冷却され、凝縮水Dになる。この凝縮水Dに茶生葉の香気成分が含まれている。凝縮水Dは、配管17を通って、回収タンク14へ入れられる。必要に応じて、フィルタ18、19などにより濾過し、タンク28へ移し変え、運搬する。茶生葉Aが製茶蒸機1へ投入されている間(センサ30が茶生葉Aを感知している間)は、これを継続する。茶生葉Aの製茶蒸機1への投入が終了すると、センサ30が茶生葉Aを感知しなくなり、吸引ファン12を停止する。
【0026】
これらの装置により捕集された茶生葉香気成分を様々な製品、例えば、スプレー、シャンプー、化粧水、芳香剤、入浴剤、トリートメントジェル等へ利用することができる。
【符号の説明】
【0027】
1 製茶蒸機
2 茶生葉投入口
3 茶葉排出口
4 蒸気供給管
5 蒸気供給口
6 茶生葉供給装置
7 搬送装置
8 蒸気排出口
11 蒸気回収フード
12 吸引ファン
13 冷却器
14 回収タンク
15 ダクト
16 フィルタ
17 配管
18 フィルタ
19 フィルタ
20 ポンプ
21 配管
22 配管
23 バルブ
24 バルブ
25 排水管
26 排水溝
27 採取管
28 タンク
29 配管
30 センサ
31 外壁
32 パイプ
33 水
34 給水管
35 配水管
36 バルブ
37 容器
A 茶生葉
B 茶葉
C 蒸気
D 凝縮水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製茶蒸機の処理茶葉排出側の蒸気排出口から排出される蒸気を回収し、冷却して茶生葉の香気成分を捕集することを特徴とする茶生葉の香気成分捕集方法。
【請求項2】
捕集する茶生葉の香気成分は青葉アルコールを多量に含んでいることを特徴とする請求項1記載の茶生葉の香気成分捕集方法。
【請求項3】
製茶蒸機の処理茶葉排出側の蒸気排出口上に、蒸気排出口に向けて開口を備えた蒸気回収フードと、フィルタと、蒸気排出口より排出された蒸気を吸引するための吸引ファンと、前記蒸気を冷却して、凝縮水を得る蒸気冷却手段と、これらを連結するダクトと、前記凝縮水の回収手段と、より構成することを特徴とする製茶蒸機用茶生葉香気成分捕集装置。
【請求項4】
製茶蒸機への茶生葉の供給が開始された信号を受け、所定時間経過後、吸引ファンを開始することを特徴とする請求項3記載の製茶蒸機用茶生葉香気成分捕集装置。
【請求項5】
製茶蒸機への茶生葉の供給が終了した信号を受け、吸引ファンを停止することを特徴とする請求項3または4記載の製茶蒸機用茶生葉香気成分捕集装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−250738(P2011−250738A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126823(P2010−126823)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(000145116)株式会社寺田製作所 (90)
【出願人】(301052157)株式会社アクト・フォ (1)
【Fターム(参考)】