説明

蒸着システム及び蒸着方法

【課題】蒸着装置内にモニタ基板を設置することなく蛍光発光特性の測定を行い、所望の発光特性の蛍光体を成膜することを可能とする蒸着システム及び蒸着方法を提供する。
【解決手段】蒸着システム1に、基板ホルダ7に保持された基板6と、蒸発源10,11と、真空容器5の側面に形成された観察窓と、蒸発源10,11から蒸発して真空容器5の内部に付着した蛍光体に励起光を照射する励起用光源19a〜19cと、発光光を受光して光電変換する受光センサ20a〜20cとを備えた蒸着装置2と、A/D変換装置3と、ネットワークを介してA/D変換装置3から受信したデジタルデータに基づき、真空容器5の内部に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が蒸着装置2の基板6において所定の発光特性を有する蛍光体層を得るための目標値となるように蒸着装置2の各構成部分を制御する制御装置4と、を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着システム及び蒸着方法に係り、特に、蛍光体材料を蒸着する蒸着システム及び蒸着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、被写体を透過した放射線を照射すると放射エネルギーを蓄積し、可視光線、赤外線などの電磁波(励起光)を照射すると蓄積された放射線エネルギーを輝尽発光光として放出する蛍光体が知られている。このような蛍光体は、輝尽性蛍光体と呼ばれ、医療診断などの分野で広く利用されている。例えば、医療分野では基板上に輝尽性蛍光体層を形成した放射線画像変換パネルが広く利用されている。
【0003】
放射線像変換パネルは、気相堆積法などにより基板上に輝尽性蛍光体層を形成することによって製造される。気相堆積法には真空蒸着法(以下、「蒸着法」という)やスパッタ法などがあり、例えば、蒸着法は、蛍光体又はその原料からなる蒸発源を抵抗加熱器や電子線の照射により加熱して蒸発源を蒸発、飛散させ、基板を回転させながらその表面に蒸発物を堆積させることにより、輝尽性蛍光体層を成膜するものである。
【0004】
このような蛍光体を蒸着する製品の製造方法においては、蛍光体の膜厚や蛍光発光特性の量的・質的な特性などが製品の特性に影響することから、これらを管理することが重要となる。
【0005】
そこで、特許文献1では、真空容器外に設置された光源からの励起光を回転分割ミラーで反射させて真空容器内のモニタ基板に付着した輝尽性蛍光体に照射し、その反射光を真空容器の窓から光検出器に入射させて光の反射率を測定することによって、輝尽性蛍光体の膜厚分布を測定し、この測定結果に基づいて膜厚分布が均一となるように蒸着条件などの制御を行う蒸着方法が提案されている。
【特許文献1】特開平10−317141号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載の発明では、輝尽性蛍光体層を形成する基板とは別に、蒸着装置の真空容器内にモニタ基板やミラーなどを設置する必要があった。このため、モニタ基板などの存在が蒸発源からの蒸発物の流れに影響して、輝尽性蛍光体の膜厚分布の制御が困難になるという問題があった。また、真空容器内にモニタ基板などを別途設置する必要性から、コストがかかり、真空容器内の設計に制約がでるという問題もあった。
【0007】
また、蛍光体を蒸着する製品の製造方法においては、蛍光体の膜厚のみならず、蛍光発光特性の量的・質的な特性などが所定の値となるように管理することも重要である。
【0008】
本発明は上述した実情に鑑みてなされたものであり、蒸着装置内において製品以外の蒸着基板を設置することなく簡易かつ自由度の高い蛍光発光特性の測定を行うことにより、所望の発光特性の蛍光体を成膜することを可能とする蒸着システム及び蒸着方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、蒸着システムであって、真空容器内で基板を保持する基板ホルダと、蛍光体材料を蒸発させて前記基板に蒸着させる一又は複数の蒸発源と、前記真空容器の側面に形成された観察窓と、前記蒸発源から蒸発して前記真空容器内に付着した蛍光体に前記観察窓から励起光を照射する励起用光源と、前記励起光により前記蛍光体から発生した発光光を前記観察窓から受光して電気信号に光電変換する受光センサと、を備えた蒸着装置と、前記基板に所定の発光特性を有する蛍光体層を形成するための目標値を決定し、前記受光センサから受信した電気信号に基づき、前記真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値が前記目標値となるように、前記蒸着装置の各構成部分を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする。
【0010】
請求項1に記載の発明によれば、蒸着中において、真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値が所定の目標値となるように蒸着装置の各構成部分を制御することによって、基板上に所定の発光特性を有する蛍光体を形成することができる。
【0011】
すなわち、真空容器内における基板以外の任意の場所に付着した蛍光体の発光特性と、基板上に形成される蛍光体層の発光特性には所定の相関関係がある。したがって、基板上に所望の発光特性を有する蛍光体層を形成するために、真空容器内に付着する蛍光体の発光特性の目標値を決定することが可能である。
【0012】
そして、真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値がこの目標値となるように蒸着装置を制御することによって、真空容器内に付着する蛍光体の発光特性の測定結果を蒸着装置の各構成部分の制御にリアルタイムでフィードバックして、所望の発光特性を有する蛍光体層を形成することが可能となる。
【0013】
これにより、真空容器内に製品としての基板以外のモニタ基板を別途配置することなく製品として得られる蛍光体層の発光特性を測定して制御にフィードバックすることが可能となる。
【0014】
また、本発明では測定にあたって真空容器内にモニタ基板、励起用光源及び受光センサなどを設置する必要がないことから、蒸発源から蒸発した蒸気流の流れに影響を及ぼすことはない。これにより、蒸着装置の真空容器内における設計の自由度も確保される。
【0015】
また、観察窓、励起用光源又は受光センサは任意の位置に設置できるので、測定の自由度が確保される。
【0016】
また、真空容器内に付着した蛍光体に励起光を照射して受光した発光光を光電変換して測定値を得ることから、蛍光体の膜厚のみならず、蛍光発光特性を量的・質的に管理することが可能となる。
【0017】
更に、受光センサの検知結果を制御にフィードバックしないまでも、真空容器内における任意の場所に付着した蛍光体の発光特性をモニタリングすることにより、製品として得られる蛍光体層の発光特性を知ることができる。
【0018】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の蒸着システムであって、前記制御装置は、前記基板に形成する蛍光体の発光特性に関する測定値と、前記真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値とを予め対応付けたLUTを有し、前記LUTの使用により選択した前記真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値に基づいて前記目標値を決定することを特徴とする。
【0019】
請求項2に記載の発明によれば、真空容器内における基板以外の任意の場所に付着した蛍光体の発光特性と、基板上に形成される蛍光体層の発光特性との相関関係を予め対応付けたLUTを使用して目標値を決定することによって、速やかな制御が可能となる。
【0020】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の蒸着システムであって、前記制御装置は、前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記目標値となったときに前記蒸発源による蒸着を停止することを特徴とする。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が目標値となったときに蒸着を停止することから、基板上に所定の発光特性を有する蛍光体を成膜することができる。
【0022】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の蒸着システムであって、前記蒸着装置は前記蒸発源から蒸発して前記基板に到達する蛍光体を遮蔽する蒸発源シャッタを備え、前記制御装置は、前記目標値に基づいてシャッタ開値を決定し、前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記シャッタ開値となったときに前記蒸発源シャッタを開くことを特徴とする。
【0023】
請求項4に記載の発明によれば、目標値を参照して蒸発源シャッタを開くシャッタ開値を予め決定し、真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値がシャッタ開値となったときに蒸発源シャッタを開くことから、蒸発開始直後における指向性の不安定な蒸気量・蒸気や蛍光体材料に含まれる不純物を蒸着させることはない。
【0024】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の蒸着システムであって、前記制御装置は複数の前記蒸発源を備え、前記目標値に基づいて前記複数の蒸発源ごとに蒸着停止値を決定し、前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記蒸着停止値となったときに、その蒸着停止値に対応する前記蒸発源の加熱を停止することを特徴とする。
【0025】
請求項5に記載の発明によれば、複数の蒸発源を切り替えて蒸着を行う蒸着装置において、それぞれの蒸発源につき目標値を参照して蒸着停止値を予め決定し、真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値がそれぞれの蒸着停止値となったときに蒸発源の加熱を停止することから、蒸発源における蛍光体材料の量が減って蒸気量・蒸着の指向性が不安定になる前であり、かつ、残存した蛍光体材料の成分の偏りが生じる前に蒸着を停止することができる。
【0026】
請求項6に記載の発明は、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の蒸着システムであって、前記制御装置は複数の前記蒸発源を備え、前記目標値に基づいて前記複数の蒸発源のうち所定の蒸発源についてそれぞれ蒸着切替値を決定し、前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記蒸着切替値となったときに、その蒸着切替値に対応する前記蒸発源の加熱を開始することを特徴とする。
【0027】
請求項6に記載の発明によれば、複数の蒸発源を切り替えて蒸着を行う蒸着装置において、目標値を参照すると共に他の蒸発源との相対関係を勘案してそれぞれの蒸発源の蒸着切替値を予め決定し、真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が蒸着切替値となったときに、蒸発源の加熱を開始することによって、他の蒸発源の加熱が停止する前に予熱などの準備を開始することができる。
【0028】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の蒸着システムであって、前記蛍光体の発光特性は、前記蛍光体の発光量であることを特徴とする。
【0029】
請求項7に記載の発明によれば、真空容器内に付着した蛍光体の発光量と基板上に形成される蛍光体層の発光量は相関関係があることから、真空容器内に付着した蛍光体の発光量の測定値を蒸着装置の制御にフィードバックすることによって、所望の発光量を有する蛍光体層を得ることができる。
【0030】
請求項8に記載の発明は、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の蒸着システムであって、前記受光センサは分光素子を備え、前記真空容器内に付着した蛍光体の波長特性を前記発光特性として測定することを特徴とする。
【0031】
請求項8に記載の発明によれば、分光素子によって発光光を波長ごとに空間分離して、受光センサで波長ごとの発光量の強度を測定することにより、蛍光体層の発光光のスペクトル分布を蒸着中に知ることが可能となる。
【0032】
請求項9に記載の発明は、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の蒸着システムであって、前記蛍光体は希土類付活アルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体であることを特徴とする。
【0033】
請求項9に記載の発明によれば、希土類付活アルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体を蒸着するにあたって、請求項1〜請求項8と同様の作用を得ることができる。
【0034】
請求項10に記載の発明は、蒸着方法であって、蒸着装置の真空容器内で基板ホルダに保持された基板に一又は複数の蒸発源から蛍光体材料を蒸発させて前記基板に蒸着させる蒸着工程と、前記蒸着工程において前記真空容器内に付着した蛍光体に前記真空容器の側面に形成された観察窓から励起用光源より励起光を照射する励起光照射工程と、前記励起光照射工程において前記蛍光体から発生した発光光を前記観察窓から受光センサで受光して電気信号に光電変換する光電変換工程と、前記基板に所定の発光特性を有する蛍光体層を形成するための目標値を決定し、前記受光センサから受信した電気信号に基づき、前記真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値が前記目標値となるように、制御装置が前記蒸着装置の各構成部分を制御する制御工程と、を有することを特徴とする。
【0035】
請求項10に記載の発明によれば、蒸着中において、真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が所定の目標値となるように蒸着装置の各構成部分を制御することによって、基板上に所定の発光特性を有する蛍光体を成膜することができる。
【0036】
すなわち、真空容器内における基板以外の任意の場所に付着した蛍光体の発光特性と、基板上に形成される蛍光体層の発光特性には所定の相関関係がある。したがって、基板上に所望の発光特性を有する蛍光体層を形成するために、真空容器内に付着する蛍光体の発光特性の目標値を決定することが可能である。
【0037】
そして、真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値がこの目標値となるように蒸着装置を制御することによって、真空容器内に付着する蛍光体の発光特性の測定結果を蒸着装置の各構成部分の制御にリアルタイムでフィードバックして、所望の発光特性を有する蛍光体層を形成することが可能となる。
【0038】
これにより、真空容器内に製品としての基板以外のモニタ基板を別途配置することなく製品として得られる蛍光体層の発光特性を測定して制御にフィードバックすることが可能となる。
【0039】
また、本発明では測定にあたって真空容器内にモニタ基板、励起用光源及び受光センサなどを設置する必要がないことから、蒸発源から蒸発した蒸気流の流れに影響を及ぼすことはない。これにより、蒸着装置の真空容器内における設計の自由度も確保される。
【0040】
また、観察窓、励起用光源又は受光センサは任意の位置に設置できるので、測定の自由度が確保される。
【0041】
また、真空容器内に付着した蛍光体に励起光を照射して受光した発光光を光電変換して測定値を得ることから、蛍光体の膜厚のみならず、蛍光発光特性を量的・質的に管理することが可能となる。
【0042】
更に、受光センサの検知結果を制御にフィードバックしないまでも、真空容器内における任意の場所に付着した蛍光体の発光特性をモニタリングすることにより、製品として得られる蛍光体層の発光特性を知ることができる。
【0043】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の蒸着方法であって、前記制御工程において、前記制御装置は、前記基板に形成する蛍光体の発光特性に関する測定値と、前記真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値とを予め対応付けたLUTを有し、前記LUTの使用により選択した前記真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値に基づいて前記目標値を決定することを特徴とする。
【0044】
請求項11に記載の発明によれば、真空容器内における基板以外の任意の場所に付着した蛍光体の発光特性と、基板上に形成される蛍光体層の発光特性との相関関係を予め対応付けたLUTを使用して目標値を決定することによって、速やかな制御が可能となる。
【0045】
請求項12に記載の発明は、請求項10又は請求項11に記載の蒸着方法であって、前記制御工程において前記制御装置は前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記目標値となったときに前記蒸発源による蒸着を停止することを特徴とする。
【0046】
請求項12に記載の発明によれば、真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が目標値となったときに蒸着を停止することから、基板上に所定の発光特性を有する蛍光体を成膜することができる。
【0047】
請求項13に記載の発明は、請求項10〜請求項12のいずれか一項に記載の蒸着方法であって、前記蒸着装置は前記蒸発源から蒸発して前記基板に到達する蛍光体を遮蔽する蒸発源シャッタを備え、前記制御工程において、前記制御装置は前記目標値に基づいてシャッタ開値を決定し、前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記シャッタ開値となったときに前記蒸発源シャッタを開くことを特徴とする。
【0048】
請求項13に記載の発明によれば、目標値を参照して蒸発源シャッタを開くシャッタ開値を予め決定し、真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値がシャッタ開値となったときに蒸発源シャッタを開くことから、蒸発開始直後における指向性の不安定な蒸気量・蒸気や蛍光体材料に含まれる不純物を蒸着させることはない。
【0049】
請求項14に記載の発明は、請求項10〜請求項13のいずれか一項に記載の蒸着方法であって、前記制御工程において前記制御装置は複数の前記蒸発源を備え、前記目標値に基づいて前記複数の蒸発源ごとに蒸着停止値を決定し、前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記蒸着停止値となったときに、その蒸着停止値に対応する前記蒸発源の加熱を停止することを特徴とする。
【0050】
請求項14に記載の発明によれば、複数の蒸発源を切り替えて蒸着を行う蒸着装置において、それぞれの蒸発源につき目標値を参照して蒸着停止値を予め決定し、真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値がそれぞれの蒸着停止値となったときに蒸発源の加熱を停止することから、蒸発源における蛍光体材料の量が減って蒸気量・蒸着の指向性が不安定になる前であり、かつ、残存した蛍光体材料の成分の偏りが生じる前に蒸着を停止することができる。
【0051】
請求項15に記載の発明は、請求項10〜請求項14のいずれか一項に記載の蒸着方法であって、前記制御工程において前記制御装置は複数の前記蒸発源を備え、前記目標値に基づいて前記複数の蒸発源のうち所定の蒸発源についてそれぞれ蒸着切替値を決定し、前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記蒸着切替値となったときに、その蒸着切替値に対応する前記蒸発源の加熱を開始することを特徴とする。
【0052】
請求項15に記載の発明によれば、複数の蒸発源を切り替えて蒸着を行う蒸着装置において、目標値を参照すると共に他の蒸発源との相対関係を勘案してそれぞれの蒸発源の蒸着切替値を予め決定し、真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が蒸着切替値となったときに、蒸発源の加熱を開始することによって、他の蒸発源の加熱が停止する前に予熱などの準備を開始することができる。
【0053】
請求項16に記載の発明は、請求項10〜請求項15のいずれか一項に記載の蒸着方法であって、前記蛍光体の発光特性は、前記蛍光体の発光量であることを特徴とする。
【0054】
請求項16に記載の発明によれば、真空容器内に付着した蛍光体の発光量と基板上に形成される蛍光体層の発光量は相関関係があることから、真空容器内に付着した蛍光体の発光量の測定値を蒸着装置の制御にフィードバックすることによって、所望の発光量を有する蛍光体層を得ることができる。
【0055】
請求項17に記載の発明は、請求項10〜請求項16のいずれか一項に記載の蒸着方法であって、前記受光センサは分光素子を備え、前記真空容器内に付着した蛍光体の波長特性を前記発光特性として測定することを特徴とする。
【0056】
請求項17に記載の発明によれば、分光素子によって発光光を波長ごとに空間分離して、受光センサで波長ごとの発光量の強度を測定することにより、蛍光体層の発光光のスペクトル分布を蒸着工程において知ることが可能となる。
【0057】
請求項18に記載の発明は、請求項10〜請求項17のいずれか一項に記載の蒸着方法であって、前記蛍光体は希土類付活アルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体であることを特徴とする。
【0058】
請求項18に記載の発明によれば、希土類付活アルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体を蒸着するにあたって、請求項10〜請求項17と同様の作用を得ることができる。
【発明の効果】
【0059】
請求項1に記載の発明によれば、蒸着中に真空容器内に付着した蛍光体の発光特性を測定して、基板上に形成される蛍光体層の真の発光特性に近似できる特性を蒸着装置の各構成部分の制御にリアルタイムでフィードバックすることによって、基板上に所望の発光特性を有する蛍光体を成膜することが可能となる。
【0060】
また、蛍光体の膜厚のみならず、蛍光体の発光光の特性を量的・質的に管理することによって、放射線画像変換パネルの輝尽性蛍光体層などの特に高精度の成膜が求められる製品において、従来の単純な蒸着経過時間や蒸気量(蒸着レート)による蒸着開始・終了や蒸発源の切替えの制御では得られなかった所望の発光特性を有する蛍光体を成膜することが可能となる。
【0061】
また、真空容器内に測定機器を別途設置する必要がないことから、測定機器が蒸発源から蒸発した蒸気流の流れに影響を及ぼすことはなく、蛍光体の膜厚分布の制御が容易となって基板上に所望の発光特性を有する蛍光体を成膜することが可能となる。また、コストの低減になると共に、蒸着装置の設備をシンプルかつ自由度のある構成とすることができる。
【0062】
更に、本発明では観察窓、励起用光源又は受光センサを任意の位置に設けることができ、蒸着装置内の多点計測を簡易に構成することができるため、蒸着前における蒸発源の加熱・溶融・気化状態の監視や、製品としての基板上の成膜状態を同時にモニタリングして蒸着制御を行うことができる。そのため、製造時のタクトタイムの短縮や材料ロスの低減を図ることが可能となる。
【0063】
請求項2に記載の発明によれば、LUTを使用して目標値を決定することによって、速やかな制御が可能となる。
【0064】
請求項3に記載の発明によれば、基板上に所定の発光特性を有する蛍光体を成膜することができる。
【0065】
請求項4に記載の発明によれば、蒸発開始直後における指向性の不安定な蒸気量・蒸気や蛍光体材料に含まれる不純物を蒸着させることなく、所定の発光特性を有する蛍光体を成膜することができる。
【0066】
請求項5に記載の発明によれば、蒸発源における蛍光体材料の量が減って蒸気量・蒸着の指向性が不安定になる前であり、かつ、残存した蛍光体材料の成分の偏りが生じる前に蒸着を停止して、所望の発光特性を有する蛍光体を成膜することができる。
【0067】
請求項6に記載の発明によれば、複数の蒸発源を切り替えて蒸着を行う蒸着装置において、他の蒸発源の加熱が停止する前に予熱などの準備を開始して、蒸着工程全体のタクトタイムを短縮することができる。
【0068】
請求項7に記載の発明によれば、真空容器内に付着した蛍光体の発光量の測定値を蒸着装置の制御にフィードバックすることによって、所望の発光量を有する蛍光体層を得ることができる。
【0069】
請求項8に記載の発明によれば、分光素子によって発光光を波長ごとに空間分離して、受光センサで波長ごとの発光量の強度を測定することにより、蛍光体層の発光光のスペクトル分布を蒸着中に知ることが可能となる。
【0070】
請求項9に記載の発明によれば、希土類付活アルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体を蒸着するにあたって、請求項1〜請求項8と同様の効果を得ることができる。
【0071】
請求項10に記載の発明によれば、蒸着中に真空容器内に付着した蛍光体の発光特性を測定して、基板上に形成される蛍光体層の真の発光特性に近似できる特性を蒸着装置の各構成部分の制御にリアルタイムでフィードバックすることによって、基板上に所望の発光特性を有する蛍光体を成膜することが可能となる。
【0072】
また、蛍光体の膜厚のみならず、蛍光体の発光光の特性を量的・質的に管理することによって、放射線画像変換パネルの輝尽性蛍光体層などの特に高精度の成膜が求められる製品において、従来の単純な蒸着経過時間や蒸気量(蒸着レート)による蒸着開始・終了や蒸発源の切替えの制御では得られなかった所望の発光特性を有する蛍光体を成膜することが可能となる。
【0073】
また、真空容器内に測定機器を別途設置する必要がないことから、測定機器が蒸発源から蒸発した蒸気流の流れに影響を及ぼすことはなく、蛍光体の膜厚分布の制御が容易となって基板上に所望の発光特性を有する蛍光体を成膜することが可能となる。また、コストの低減になると共に、蒸着装置の設備をシンプルかつ自由度のある構成とすることができる。
【0074】
更に、本発明では観察窓、励起用光源又は受光センサを任意の位置に設けることができ、蒸着装置内の多点計測を簡易に構成することができるため、蒸着前における蒸発源の加熱・溶融・気化状態の監視や、製品としての基板上の成膜状態を同時にモニタリングして蒸着制御を行うことができる。そのため、製造時のタクトタイムの短縮や材料ロスの低減を図ることが可能となる。
【0075】
請求項11に記載の発明によれば、LUTを使用して目標値を決定することによって、速やかな制御が可能となる。
【0076】
請求項12に記載の発明によれば、基板上に所定の発光特性を有する蛍光体を成膜することができる。
【0077】
請求項13に記載の発明によれば、蒸発開始直後における指向性の不安定な蒸気量・蒸気や蛍光体材料に含まれる不純物を蒸着させることなく、所定の発光特性を有する蛍光体を成膜することができる。
【0078】
請求項14に記載の発明によれば、蒸発源における蛍光体材料の量が減って蒸気量・蒸着の指向性が不安定になる前であり、かつ、残存した蛍光体材料の成分の偏りが生じる前に蒸着を停止して、所望の発光特性を有する蛍光体を成膜することができる。
【0079】
請求項15に記載の発明によれば、複数の蒸発源を切り替えて蒸着を行う蒸着装置において、他の蒸発源の加熱が停止する前に予熱などの準備を開始して、蒸着工程全体のタクトタイムを短縮することができる。
【0080】
請求項16に記載の発明によれば、真空容器内に付着した蛍光体の発光量の測定値を蒸着装置の制御にフィードバックすることによって、所望の発光量を有する蛍光体層を得ることができる。
【0081】
請求項17に記載の発明によれば、分光素子によって発光光を波長ごとに空間分離して、受光センサで波長ごとの発光量の強度を測定することにより、蛍光体層の発光光のスペクトル分布を蒸着中に知ることが可能となる。
【0082】
請求項18に記載の発明によれば、希土類付活アルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体を蒸着するにあたって、請求項10〜請求項17と同様の効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0083】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0084】
図1に示すように、本実施形態に係る蒸着システム1は、蒸着法により放射線画像変換パネルの輝尽性蛍光体層を形成する蒸着装置2を備えており、蒸着装置2には、A/D変換装置3及び制御装置4がネットワークなどのデータ通信手段を介して接続されている。
【0085】
蒸着装置2には、真空容器5が備えられている。真空容器5には、図示しない真空ポンプが接続されており、この真空ポンプが内部の排気を行うことにより、真空容器5の真空状態が保たれるようになっている。
【0086】
真空容器5の内部の上面付近には、基板6を保持する基板ホルダ7が備えられている。
【0087】
基板6はその表面に輝尽性蛍光体を蒸着させて輝尽性蛍光体層を形成するものであり、一般に各種のガラス、高分子材料、金属などが用いられる。本実施形態においては、特に樹脂などの高分子材料又はアルミニウムシート、鉄シート、銅シートなどの金属シートが好適に適用される。また、基板6の厚さは一般に80μm〜5000μmであり、取り扱い上の点から80μm〜3000μmであることが好ましい。
【0088】
基板ホルダ7には、指向性を持つ蒸気が平滑に蒸着されるように基板6を回転させる基板回転機構8が設けられている。基板回転機構8は、基板ホルダ7を支持すると共に基板ホルダ7を回転させる回転軸9と、真空容器5の外に配置されて回転軸9の駆動源となるモータ(図示略)とから構成されている。なお、基板ホルダ7及びこれに支持された基板6を回転させる構成はここに例示したものに限定されず、他の構成によって回転するものとしてもよい。
【0089】
なお、基板ホルダ7は基板6を一定温度に制御する加熱用ヒータなどの加熱手段(図示略)を備えることが好ましい。基板ホルダ7が加熱手段を備えることによって、基板6を加熱して基板6の表面に形成される輝尽性蛍光体層の膜質調整や結晶の組成調整を行うことが可能となる。また、基板6の表面の吸着物を離脱・除去し、基板6の表面と輝尽性蛍光体層との間に不純物層が発生することを防止することができる。なお、加熱手段はヒータに限定されず、ヒータに替えて温媒又は熱媒を循環させるための機構(図示略)を有していてもよいし、両者を併用することもできる。このような構成は、蒸着時に基板6の温度を50〜150℃といった比較的低温に保持して蒸着する場合に適している。
【0090】
また、真空容器5の内部の底面付近には、蒸発材料を蒸気として気化させる蒸発源10,11がそれぞれ配設されている。蒸発源10,11は、それぞれ1個又は複数個のるつぼから構成されており、本実施形態では、2つの蒸発源10,11を切り替えながら蒸着する構成をとっている。
【0091】
蒸発源10,11のるつぼは、タンタルやタングステンなどの高融点金属などによって形成されており、基板ホルダ7に支持される基板6に対向する側に図示しない開口を有し、基板6の表面に蒸着させる蒸発材料としての輝尽性蛍光体が収容されている。また、るつぼの周面にはヒータ(図示略)が巻きつけられており、例えば、ヒータが抵抗加熱によって発熱することによって加熱され、これにより、るつぼ内部の輝尽性蛍光体を溶融させて、真空容器5の内部に蒸気を発生させるようになっている。
【0092】
なお、蒸発源10,11を構成するるつぼはここに例示したものに限定されず、また、例えばるつぼ自体に直接電流を流して加熱し、るつぼ内の原料を溶融させる構成としてもよい。また、るつぼを形成する材料はここに例示したものに限定されず、例えば、高融点金属などを用いてもよい。また、蒸発源10,11を1個又は複数個の真空蒸着用ボートなどによって構成してもよい。
【0093】
ここで、本実施形態に使用される蒸発材料について説明する。本実施形態における蒸発材料は、蛍光体又はその原料を含むものであり、下記の一般式(1)で表される輝尽性蛍光体を使用することが好ましい。
【0094】
1X・aM2X'2・bM3X"3:eA ・・・一般式(1)
[式中、M1はLi、Na、K、Rb及びCsの各原子から選ばれる少なくとも1種のア
ルカリ金属原子であり、M2はBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Cu及びN
iの各原子から選ばれる少なくとも1種の二価金属原子であり、M3はSc、Y、La、
Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInの各原子から選ばれる少なくとも1種の三価金属原子であり、X、X'、X"はF、Cl、Br及びIの各原子から選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子であり、AはEu、Tb、In、Ce、Tm、Dy、Pr、Ho、Nd、Yb、Er、Gd、Lu、Sm、Y、Tl、Na、Ag、Cu及びMgの各原子から選ばれる少なくとも1種の金属原子であり、また、a、b、eはそれぞれ0≦a<0.5、0≦b<0.5、0<e<1.0の範囲の数値を表す。]
【0095】
上記一般式(1)で表される輝尽性蛍光体において、M1は、Li、Na、K、Rb及びCsなどの各原子から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属原子を表し、中でもRb及びCsの各原子から選ばれる少なくとも1種のアルカリ金属原子が好ましく、更に好ましくはCs原子である。
【0096】
2は、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cd、Cu及びNiなどの各原子から選ばれる少なくとも1種の二価の金属原子を表すが、中でも好ましく用いられるのは、Be、Mg、Ca、Sr及びBaなどの各原子から選ばれる二価の金属原子である。
【0097】
3は、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、
Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Al、Ga及びInなどの各原子から選ばれる少なくとも1種の三価の金属原子を表すが、中でも好ましく用いられるのはY、Ce、Sm、Eu、Al、La、Gd、Lu、Ga及びInなどの各原子から選ばれる三価の金属原子である。
【0098】
輝尽性蛍光体の輝尽発光輝度向上の観点から、X、X'及びX"はF、Cl、Br及びIの各原子から選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子を表すが、F、Cl及びBrから選ばれる少なくとも1種のハロゲン原子が好ましく、中でも好ましく用いられるのは、Br原子である。
【0099】
また、一般式(1)において、a値は0≦a<0.5、b値は0≦b<0.5、e値は0<e≦1.0の範囲の数値を示し、特にbは0≦b≦10-2 の範囲の数値を示すこと
が好ましい。
【0100】
また、この中でも特に、下記一般式(2)で表される蛍光体若しくはその原料を含むことが好ましい。
【0101】
CsBr:eEu ・・・一般式(2)
ここで、e値は0.0001<e≦1.0の範囲の数値を示す。
【0102】
蒸発源10,11の上方には、蒸発源10,11から基板6に至る空間を遮断する蒸発源シャッタ12,13がそれぞれ設けられている。
【0103】
蒸発源シャッタ12,13は蒸発源10,11の開口よりも広い表面積を有し、蒸発源10,11から蒸発する蒸気の蒸発領域を遮ることのできる幅寸法及び長さ寸法となるように形成されたシャッタ板を備えている。シャッタ板は、例えば、図示しない駆動源により、ガイドレール(図示略)に沿って、蒸気の蒸発領域を遮断して蒸気の上昇、拡散を妨げる被覆位置から、蒸気の上昇、拡散を妨げない退避位置まで移動して蒸発源シャッタ12,13を開閉することが可能となっている。このように蒸発源シャッタ12,13を設けることにより、輝尽性蛍光体の表面に付着した目的物以外の物質が蒸着の初期段階で蒸発して基板6に付着するのを防ぐことができる。なお、蒸発源シャッタ12,13の構成及びシャッタ板を移動させる機構はここに例示したものに限定されない。
【0104】
真空容器5の両側面であって蒸発源10,11のそれぞれの略対向する位置には、真空容器5の内部を観察するための蒸発源用観察窓14,15が設けられている。蒸発源用観察窓14,15は、蒸発源シャッタ12,13が閉じている状態でも真空容器5の内部に付着した蛍光体を観察できる位置に設けられている。また、真空容器5のいずれか一方の側面であって基板ホルダ7に略対向する位置には、基板用観察窓16が設けられている。
【0105】
図2に示すように、蒸発源用観察窓14,15及び基板用観察窓16は、真空容器5の側面に形成された開口部17に、蛍光体の励起光及び発光光を透過させるガラスなどの板状部材18を取付けることによって構成されている。
【0106】
また、蒸発源用観察窓14,15及び基板用観察窓16の近傍であって真空容器5の外側には、励起用光源19a〜19c,及び受光センサ20a〜20cがそれぞれ設けられている。
【0107】
励起用光源19a〜19cは、蒸発源用観察窓14,15又は基板用観察窓16を介して、真空容器5の内部に付着した蛍光体に励起光を照射するようになっている。本実施形態に係る励起用光源19a〜19cとしては、水銀キセノンランプに中心波長360nm/半値巾10nmの干渉フィルタを挿入した紫外線光源を使用している。上記一般式(2)で示される輝尽性蛍光体を使用する場合、紫外光の波長領域としては、360nm及び250nm付近で瞬時発光(蛍光)を発することができる。
【0108】
ここで、励起用光源19a〜19cは二波長以上の励起光を照射する光源とすることも可能である。例えば、上記一般式(2)で示される輝尽性蛍光体の場合、励起波長として250nm付近と360nm付近の二波長の領域に励起感度が存在する。したがって、この特性を利用して、250nm及び360nmの二波長を切り替えながら蛍光体に照射して、各々の励起光による発光強度や波長特性を測定する構成とすることもできる。励起用光源19a〜19cをこのような構成とすることにより、一般的に短波長(250nmなど)で励起した場合は蛍光体の結晶表面から比較的表層までの発光特性をモニタリングすることが可能となり、また、長波長(360nmなど)で励起した場合は結晶表面から比較的深層までの発光特性をモニタリングすることが可能となる。また、二種の励起波長によって時系列的にモニタリングすることで、蛍光体の結晶における厚み方向の構造変化をモニタリングすることが可能となる。なお、上記二波長以外にも、250nmや360nmを更に細分化した波長帯域に分割し、更に多くの波長を励起用光源19a〜19cから照射する構成としてもよい。
【0109】
受光センサ20a〜20cは、真空容器5の内部に付着した蛍光体に励起光を照射することによって蛍光体から放出された発光光を、蒸発源用観察窓14,15又は基板用観察窓16を介して受光するようになっている。
【0110】
本実施形態に係る受光センサ20a〜20cの前面には、440nm付近の波長を選択的に透過する光学フィルタ(図示略)が挿入されている。これにより、上記一般式(2)で示される輝尽性蛍光体に励起用光源19a〜19cから360nmの光を照射すると波長440nmを中心とした発光光を生じるため、計測対象とする発光光を選択的に透過させて、励起用光源19a〜19c(360nm)などの外乱光を除去して測定精度を向上させることができる。
【0111】
ここで、受光センサ20a〜20cに回折格子やプリズムなどの分光素子を設けることによって、発光光を分光し、蛍光体の発光波長を測定する構成としてもよい。すなわち、分光素子を用いて発光光を波長ごとに空間分離し、受光センサ20a〜20cで波長ごとの強度を測定することによって、その波長の違いから、基板6の表面に形成した結晶の組成的な特性やその偏りを測定することが可能となる。
【0112】
また、輝尽性蛍光体の発光特性を蛍光体から放射される光束の空間分布(発光光の空間分布)と組み合わせて測定してもよい。これにより、輝尽性蛍光体層を微細な柱状結晶が配列された構造に形成すると、輝尽性蛍光体層内の輝尽励起光及び発光光の指向性が向上して放射線画像変換パネルの感度や鮮鋭性を向上させることができるが、この輝尽光の指向性を蒸着工程においてモニタリングすることが可能になる。
【0113】
このような測定は、例えば、(1)受光センサ20a〜20cを一次元や二次元に走査する、(2)受光センサ20a〜20cを一次元や二次元に複数配置する、(3)受光センサ20a〜20cの前面に受光光束の見込み角を制限する可変絞りを設け、絞りの径を適宜変化させながら受光する、といった構成をとり、放射分布又は放射分布に代用できる測定値を得ることによって可能となる。
【0114】
また、受光センサ20a〜20cには光電変換素子としてフォトダイオード(図示略)が備えられており、蛍光体から放出された発光光を光電変換により電気信号に変換するようになっている。
【0115】
なお、本実施形態では、励起用光源19a〜19c及び受光センサ20a〜20cによる蛍光量の測定対象を蒸発源用観察窓14,15の内側に付着した蛍光体としているが、図3に示すように、測定対象を蒸発源用観察窓14,15に対向する真空容器5の内壁面に付着した蛍光体としてもよい。図3のような構成とすると、蒸発源用観察窓14,15から離れた内壁面に付着した蛍光体の発光特性を測定することが可能となる。更に、一つの観察窓に複数の励起用光源又は受光センサを配置して内壁面における多点を計測することや、一組の励起用光源及び受光センサであってもそれを走査することにより、内壁面の多点を計測することが可能である。
【0116】
また、励起用光源19a〜19c及び受光センサ20a〜20cによる蛍光量の測定対象は真空容器5の内部における複数箇所とすることが望ましい。例えば、本実施形態のように蒸発源10,11としてるつぼを使用する場合、るつぼの加熱によって蛍光体材料が蒸発して発生する蒸気流は、るつぼの形状、真空容器5の内部形状、蒸発源の温度、蒸着時間の経過による蒸着材料のるつぼ内の嵩(液面高さなど)の変化などにより変化する。すなわち、蒸気流は真空容器5の内部で指向性を持って拡散し、かつ、経時によりその指向性が変化することがある。したがって、真空容器5の内部における多点を計測する構成とすることにより、蒸気流の指向性とその変化を含めた測定が可能となる。特に、真空容器5の内部に複数の蒸発源を設けてそれぞれを切り替えながら蒸着を行う場合は、蒸発源を切替えるたびに蒸気流の指向性がダイナミックに変化するため、真空容器5の内部の複数箇所を測定する構成とすることが有用である。
【0117】
次に、蒸着システム1が備えるA/D変換装置3には、増幅器21及びA/Dコンバータ22が設けられている。増幅器21は蒸着装置2の受光センサ20a〜20cにおいて光電変換された電気信号を所定値に増幅してA/Dコンバータ22に送り、A/Dコンバータ22は所定値に増幅された電気信号をデジタルデータに変換するようになっている。
【0118】
次に、蒸着システム1が備える制御装置4は、例えばパーソナルコンピュータによって構成される。この制御装置4は、蒸着装置2又は蒸着装置2に付帯する種々の装置の制御を行うパーソナルコンピュータなどと兼用させることができる。
【0119】
制御装置4は制御部23を備えている。制御部23はCPU及びRAM(いずれも図示せず)から構成されており、CPUは記憶部24に記憶されている各種プログラムの中から指定されたプログラムをRAMに展開し、RAM上のプログラムとの協働により各種制御を実行するようになっている。
【0120】
また、制御部23には、記憶部24、操作部25、ディスプレイ26が電気的に接続されており、制御部23はこれらの各構成部分を駆動制御するほか、蒸着装置2の各構成部分を駆動制御するようになっている。
【0121】
記憶部24は、HDD(Hard Disk Drive)などから構成されており、蒸着装置2の受光センサ20a〜20cから、A/D変換装置3を介して制御装置4に入力されたデータを、受光センサ20a〜20cごとのデータとして記憶するようになっている。
【0122】
また、記憶部24は、「真空容器5の内部に付着した蛍光体に関する測定値A」及び「製品として完成した放射線画像変換パネルの輝尽性蛍光体層に関する測定値B」を予め対応付けて記憶している。
【0123】
ここで、「真空容器5の内部に付着した蛍光体に関する測定値A」とは、蒸着工程において、真空容器5の内部で製品としての基板6以外の部分に付着した蛍光体の発光特性についての測定値をいう。また、「製品として完成した放射線画像変換パネルの輝尽性蛍光体に関する測定値B」とは、蒸着法によって製造された放射線画像変換パネルの輝尽性蛍光体層の発光特性についての測定値をいう。
【0124】
ここで、蒸着装置2によって製造した放射線画像変換パネルの輝尽性蛍光体の発光特性と、蒸着工程において真空容器5の内部に付着した蛍光体の発光特性には、所定の相関関係がある。
【0125】
例えば、図4は、真空容器5の内部に付着した蛍光体の発光量(測定値A)と、製品として完成した放射線画像変換パネルの輝尽発光量(測定値B)との関係を示すグラフである。
【0126】
図4においては、蒸着工程において真空容器5の内部に付着した蛍光体に励起用光源19a〜19cと同様の光源から励起光を照射して、発生した発光量の測定値の相対値を「真空容器5の内部に付着する蛍光体の発光量(測定値A)」としている。また、蒸着工程が終了した放射線画像変換パネルを真空容器5から取り出し、X線を照射した後に輝尽励起光として700nm付近の波長の近赤外レーザを照射して発生した発光光を、蒸着装置2の受光センサ20a〜20cと同様の受光センサで受光した輝尽発光量の測定値の相対値を「放射線画像変換パネルの輝尽発光量(測定値B)」としている。
【0127】
図4より、例えば製品として得る放射線画像変換パネルの輝尽発光量(測定値B)を1.8としたい場合は、真空容器5の内部に付着する蛍光体の発光量(測定値A)を約1.6とするように蒸着装置を制御すればよいことがわかる。
【0128】
また、図5及び図6は、真空容器5の内部に付着した蛍光体の色度値(測定値A)と、製品として完成した放射線画像変換パネルの輝尽性蛍光体層のEu濃度(測定値B)との関係を示すグラフである。
【0129】
このうち、図5の測定値Aは、蒸着工程において真空容器5の内部に付着した蛍光体に励起用光源19a〜19cと同様の光源から励起光を照射して、発生した蛍光の分光スペクトルを測定し、その分光スペクトルのデータをX色度値(青:値小,赤:値大)に換算したものである。また、測定値Bは、蒸着工程が終了した放射線画像変換パネルにおける輝尽性蛍光体層のEu濃度の測定値である。
【0130】
図5より、例えば製品として得る放射線画像変換パネルのEu濃度(測定値B)を80ppmとしたい場合は、真空容器5の内部に付着する蛍光体のX色度値(測定値A)を約0.156とするように蒸着装置を制御すればよいことがわかる。
【0131】
また、図6の測定値Aは、蒸着工程において真空容器5の内部に付着した蛍光体に励起用光源19a〜19cと同様の光源から励起光を照射して、発生した蛍光の分光スペクトルを測定し、その分光スペクトルのデータをY色度値(青:値小,緑:値大)に換算したものである。また、測定値Bは図5と同様である。
【0132】
図6より、例えば製品として得る放射線画像変換パネルのEu濃度(測定値B)を80ppmとしたい場合は、真空容器5の内部に付着する蛍光体のY色度値(測定値A)を約0.04とするように蒸着装置を制御すればよいことがわかる。
【0133】
図4〜図6のように、蒸着時間ごとの発光量を数点測定して、相対値X,Yの対応を予めとっておけば、蒸着中に真空容器5の内部に付着した蛍光体の発光量を測定することにより、蒸着によって製造した放射線画像変換パネルを製品として使用する際の発光特性を検知することが可能となる。
【0134】
ここで、図4〜図6のグラフにおける直線の傾きは、蒸発源用観察窓14,15の位置や真空容器5の内部で測定対象とする蛍光体が付着した場所、励起用光源19a〜19cと測定対象とする内壁面や蒸発源用観察窓14,15との距離、励起光の入射角、発光光の受光センサ20a〜20cへの入射角や見込み角によって変化する。したがって、計測系の条件及び付着物の発光量の測定位置を決めて、予め測定を行うことにより測定値A及び測定値Bの関係を求めておくことができる。そして、「製品として完成した放射線画像変換パネルの輝尽性蛍光体に関する測定値B」をアドレスとして、「真空容器5の内部に付着した蛍光体に関する測定値A」をLUTにより選択できるようにしておくことができる。
【0135】
なお、輝尽性蛍光体の発光強度は輝尽性蛍光体の膜厚にも依存するため、所定の蒸着材料及び所定の蒸着条件の下で発光強度と膜厚との相関(検量線)を求めておくことによって、真空容器5の内部に付着する蛍光体の発光強度の測定値を簡易な膜厚モニタとして利用することも可能である。また、膜厚以外に、輝尽性蛍光体の結晶の構造や不純物の組成によって発光強度は変化するため、発光強度と波長特性とを組み合わせて測定することによって、蒸着工程における蛍光体結晶の組性をより正確にモニタリングすることが可能になる。
【0136】
操作部25は、カーソルキー、数字入力キー及び各種機能キーなどを備えたキーボードと、マウスなどのポインティングデバイスを備えて構成されており、キーボードで押下されたキーの押下信号とマウスによる操作信号とを、入力信号として制御部23に出力するようになっている。
【0137】
ディスプレイ26は、液晶パネルを利用した液晶ディスプレイ(LCD:Liquid Crystal Display)などによって構成されており、制御部23から入力される表示信号の指示に従って、ディスプレイ画面上に各種画面を表示するようになっている。
【0138】
制御部23は、操作部25からの入力信号などに基づき製品として得たい放射線画像変換パネルの輝尽発光量を決定すると、その輝尽発光量の「測定値B」をアドレスとして、「真空容器5の内部に付着した蛍光体に関する測定値A」をLUTにより選択して決定するようになっている。そして、真空容器5の内部に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値がいかなる値となったときに所定の特性の放射線画像変換パネルが製品として得られるかという「目標値」を決定するようになっている。すなわち、この「目標値」は制御部23により決定された「測定値A」に対応する値である。
【0139】
更に、制御部23は、蒸発源の加熱を開始する「蒸着切替値」、蒸発源シャッタを開く「シャッタ開値」及び蒸発源シャッタを閉めて蒸発源の加熱を停止する「蒸着停止値」を決定するようになっている。
【0140】
なお、制御部23により決定された「測定値A」をディスプレイ26に表示し、ユーザによる操作部25からの入力信号に従って、制御部23が上記の各値を決定する構成としてもよい。
【0141】
本実施形態においては、蒸発源10の加熱開始後に蒸発源シャッタ12を開くときの値を「シャッタ開値a」、蒸発源11の加熱を開始するときの値を「蒸着切替値」、蒸発源シャッタ12を閉めて蒸発源10の加熱を停止するときの値を「蒸着停止値a」、蒸発源シャッタ13を開くときの値を「シャッタ開値b」、蒸発源シャッタ13を閉めて蒸発源11の加熱を停止するときの値を「蒸着停止値b」としている。
すなわち、本実施形態において、「シャッタ開値a」は受光センサ20aにおいて測定される蛍光体の発光特性、「蒸着切替値」、「蒸着停止値a」及び「蒸着停止値b」は受光センサ20cにおいて測定される蛍光体の発光特性、「シャッタ開値b」は受光センサ20bにおいて測定される蛍光体の発光特性である。
【0142】
また、制御部23は、上記の各値に基づき、次のように蒸発源10,11のヒータ又は蒸発源シャッタ12,13を制御するようになっている。
【0143】
すなわち、制御部23は、蒸発源10の加熱後、受光センサ20aで測定された蛍光体の発光特性が「シャッタ開値a」に達したときに蒸発源シャッタ12を開くようになっている。また、受光センサ20cで測定された蛍光体の発光特性が「蒸着切替値」に達したときに蒸発源11の加熱を開始し、「蒸着停止値a」に達したときに蒸発源シャッタ12を閉めて蒸発源10の加熱を停止するようになっている。また、受光センサ20bで測定された蛍光体の発光特性が「シャッタ開値b」に達したときに蒸発源シャッタ13を開き、更に、受光センサ20cで測定された蛍光体の発光特性が「蒸着停止値b」に達したときに蒸発源シャッタ13を閉めて蒸発源11の加熱を停止するようになっている。
【0144】
なお、制御部23は、蒸着装置2の図示しない真空ポンプを制御することによる真空容器5の真空度の調整や、基板ホルダ7に備えられた図示しない加熱手段を制御することによる基板6の温度の調整や、蒸発源10,11の図示しないヒータを制御することによる蒸発源10,11の温度の調整を行うようになっている。また、蒸着装置2における輝尽性蛍光体の蒸着中に、図示しない蒸着量計測センサ又は流量センサにより、輝尽性蛍光体の蒸着量(蒸着レート)や真空容器5の内部における導入ガスの流量などを計測してその計測量を監視すると共に、記憶部24に記憶するようになっている。
【0145】
また、制御装置4において蒸着装置2を制御しないまでも、蒸着中に蛍光体の発光特性を測定することによって異常を検知し、アラームを発生させることによって、ユーザに蒸着装置2や製品としての輝尽性蛍光体層の異常を知らせるように構成することもできる。
【0146】
次に、蒸着システム1を用いた本発明に係る蒸着方法について、図7のフローチャートを用いて説明する。
【0147】
蒸着システム1を用いて基板6に輝尽性蛍光体層を形成するには、基板ホルダ7に基板6を取付ける。そして、蒸発源10,11のるつぼに蛍光体材料を充填する。
【0148】
また、蒸発源シャッタ12,13はシャッタ板を被覆位置に位置させることによって閉じておく。これにより、蒸着の初期段階において輝尽性蛍光体の表面に付着した目的物以外の物質が蒸発して基板6に付着することがないようにする。
【0149】
また、真空ポンプによって真空容器5の内部を真空排気する。この際、Arガス、Neガスなどの不活性ガスを導入してもよい。
【0150】
その後、蒸発源10の加熱を開始する(ステップS1)。
【0151】
そして、真空容器5が蒸着可能な真空度に達し、かつ、蒸発源10,11のるつぼ内部に収容された輝尽性蛍光体が蒸着に適した温度まで加熱されたら、基板回転機構8を駆動制御することにより基板ホルダ7をるつぼ7,7に対して水平方向に回転させる。
【0152】
蒸発源10のるつぼに充填された蛍光体材料は、るつぼの加熱によって融点に達すると蒸発を始める。
【0153】
励起用光源19a〜19cは、蒸発源10から蒸発して真空容器5の内部に付着した蛍光体に励起光を照射する。ここで、本実施形態では励起用光源19a〜19cを常時ONとしているが、間欠的に計測を行う場合は、励起用光源19a〜19cの寿命を延ばすために、計測するタイミングによってON・OFFの制御を行ってもよい。なお、励起用光源19a〜19cのON・OFFの制御を行う場合は、励起用光源19a〜19cの射出エネルギーが一定になる期間アイドリングすることや、照射光の一部を分岐して励起光量が一定となるようにフィードバック制御すること又は補正をかけることが好ましい。
【0154】
なお、励起用光源19a〜19cから二波長以上の励起光を照射することにより発光特性を測定してもよい。例えば、250nm及び360nmの二波長を切り替えながら蛍光体に照射して各々の励起光による発光強度や波長特性を測定することができる。また、二種の励起波長によって時系列的にモニタリングすることで、蛍光体の結晶における厚み方向の構造変化をモニタリングすることも可能である。また、上記二波長以外にも、250nmや360nmを更に細分化した波長帯域に分割し、更に多くの波長を照射することによって測定を行ってもよい。
【0155】
受光センサ20aが蛍光体の発光光を受光すると、制御部23は発光光の発光特性の測定値を観察することによって、発光特性が「シャッタ開値a」に達したか否かを判断する(ステップS2)。その結果、「シャッタ開値a」に達していない場合は引き続き受光センサ20aで測定された蛍光体の発光特性の観察を行う。一方、「シャッタ開値a」に達した場合はシャッタ板を退避位置に移動させることによって蒸発源シャッタ12を開く(ステップS3)。蒸発源シャッタ12を開くと、蒸発源10から蒸発した蛍光体は基板6に蒸着し始める。
【0156】
ここで、受光センサ20a〜20cにおいては、蛍光体の発光特性を、蛍光体から放射される光束の空間分布(蛍光発光の空間放射分布)と組み合わせて測定してもよい。このように、蛍光体の発光特性と組み合わせて蛍光体から放射される光束の空間分布を測定することによって、輝尽性蛍光体層の発光の指向性を蒸着工程においてモニタリングすることが可能となる。
【0157】
次に、励起用光源19cは、蒸発源10から蒸発して基板用観察窓16の付近に付着した蛍光体に励起光を照射する。蒸発源1による成膜が正常に進行すると、基板6に徐々に輝尽性蛍光体が堆積して、受光センサ20cで受光する発光光の発光特性は時間と共に変化する。そして、受光センサ20cが蛍光体の発光光を受光すると、制御部23は発光光の発光特性の測定値を観察することによって、発光特性が「蒸着切替値」に達したか否かを判断する(ステップS4)。その結果、「蒸着切替値」に達しない場合は引き続き受光センサ20cで測定された蛍光体の発光特性の観察を行う。一方、「蒸着切替値」に達した場合は蒸発源11の加熱を開始する(ステップS5)。蒸発源11のるつぼに充填された蛍光体材料は、るつぼの加熱によって融点に達すると蒸発を始める。
【0158】
一方、制御部23は引き続き受光センサ20cで受光された発光光の発光特性を観察して、「蒸着停止値a」に達したか否かを判断する(ステップS6)。その結果、「蒸着停止値a」に達していない場合は引き続き受光センサ20cで測定された蛍光体の発光特性の観察を行う。一方、「蒸着停止値a」に達した場合は蒸発源10の加熱を停止して蒸発源シャッタ12を閉じる(ステップS7)。
【0159】
次に、励起用光源19bは、蒸発源11から蒸発して蒸発源用観察窓15の付近に付着した蛍光体に励起光を照射する。そして、受光センサ20bが蛍光体の発光光を受光すると、制御部23は発光光の発光特性の測定値を観察することによって、発光特性が「シャッタ開値b」に達したか否かを判断する(ステップS8)。その結果、「シャッタ開値b」に達しない場合は引き続き受光センサ20bで測定された蛍光体の発光特性の観察を行う。一方、「シャッタ開値b」に達した場合は蒸発源シャッタ13を開く(ステップS9)。蒸発源シャッタ13を開くと、蒸発源11から蒸発した蛍光体は基板6に蒸着し始める。
【0160】
次に、励起用光源19cは、蒸発源11から蒸発して基板用観察窓16の付近に付着した蛍光体に励起光を照射する。そして、受光センサ20cが蛍光体の発光光を受光すると、制御部23は発光光の発光特性の測定値を観察することによって、発光特性が「蒸着停止値b」に達したか否かを判断する(ステップS10)。その結果、「蒸着停止値b」に達しない場合は、引き続き受光センサ20cで測定された蛍光体の発光特性の観察を行う。一方、「蒸着停止値b」に達した場合は蒸発源11の加熱を停止して蒸発源シャッタ12を閉じる(ステップS11)。
【0161】
これにより、本実施形態に係る蒸着システム1を使用した本発明の蒸着方法による蒸着工程は終了する。
【0162】
なお、本実施形態においては蒸発源10の加熱を停止する前に蒸発源11の加熱を開始して、蒸発源10及び蒸発源11の双方による蒸着を行う区間を設ける方法としたが、蒸発源10の加熱を停止した後に、蒸発源11の加熱を開始する方法とすることも可能である。
【0163】
以上のように本実施形態に係る蒸着システム及び蒸着方法によれば、蒸着中において、真空容器5の内部に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が所定の目標値となるように蒸着装置2の各構成部分を制御することによって、基板6に所定の発光特性を有する蛍光体層を形成することができる。
【0164】
すなわち、真空容器内における基板以外の任意の場所に付着した蛍光体の発光特性と、基板上に形成される蛍光体層の発光特性には所定の相関関係がある。したがって、基板上に所望の発光特性を有する蛍光体層を形成するために、真空容器内に付着する蛍光体の発光特性の目標値を決定することが可能である。
【0165】
そして、真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値がこの目標値となるように蒸着装置を制御することによって、真空容器内に付着する蛍光体の発光特性の測定結果を蒸着装置の各構成部分の制御にリアルタイムでフィードバックして、所望の発光特性を有する蛍光体層を形成することが可能となる。
【0166】
これにより、真空容器内に製品としての基板以外のモニタ基板を別途配置することなく製品として得られる蛍光体層の発光特性を測定して制御にフィードバックすることが可能となる。
【0167】
また、本発明では測定にあたって真空容器5の内部にモニタ基板、励起用光源及び受光センサなどを設置する必要がないことから、蒸発源から蒸発した蒸気流の流れに影響を及ぼすことはない。これにより、蒸着装置2の真空容器5の内部における設計の自由度も確保される。
【0168】
また、蒸発源用観察窓14,15、基板用観察窓16、励起用光源19a〜19c及び受光センサ20a〜20cは真空容器5の側面における任意の位置に設置できるので、測定の自由度が確保される。
【0169】
また、真空容器5の内部に付着した蛍光体に励起光を照射して受光した発光光を光電変換して測定値を得ることから、蛍光体の膜厚のみならず、蛍光発光特性を量的・質的に管理することが可能となる。
【0170】
更に、受光センサの検知結果を制御にフィードバックしないまでも、真空容器内における任意の場所に付着した蛍光体の発光特性をモニタリングすることにより、製品として得られる蛍光体層の発光特性を知ることができる。
【0171】
また、真空容器5の内部に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値がそれぞれの目標値となったときに蒸発源10又は蒸発源11による蒸着を停止することから、基板6に所定の発光特性を有する輝尽性蛍光体層を形成することができる。
【0172】
また、目標値を参照して蒸発源シャッタ12,13を開くシャッタ開値を予め決定し、真空容器5の内部に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値がシャッタ開値となったときに蒸発源シャッタ12又は蒸発源シャッタ13を開くことから、蒸発開始直後における指向性の不安定な蒸気量・蒸気や蛍光体材料に含まれる不純物を蒸着させることなく、所定の発光特性を有する輝尽性蛍光体層を形成することができる。
【0173】
また、蒸発源10,11を切り替えて蒸着を行う蒸着装置2において、それぞれの蒸発源10,11につき目標値を参照して蒸着停止値を予め決定し、真空容器5の内部に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値がそれぞれの蒸着停止値となったときに、蒸発源10,11の加熱を停止することから、蒸発源10,11における蛍光体材料の量が減って蒸気量・蒸着の指向性が不安定になる前であり、かつ、残存した蛍光体材料の成分の偏りが生じる前に蒸着を停止して、所望の発光特性を有する輝尽性蛍光体層を形成することができる。
【0174】
また、蒸発源10,11を切り替えて蒸着を行う蒸着装置2において、目標値を参照すると共に他の蒸発源との相対関係を勘案してそれぞれの蒸発源10,11の蒸着切替値を予め決定し、真空容器5の内部に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が蒸着切替値となったときに、蒸発源10又は蒸発源11の加熱を開始することによって、他の蒸発源の加熱が停止する前に予熱などの準備を開始して、蒸着工程全体のタクトタイムを短縮することができる。
【0175】
また、真空容器5の内部に付着した蛍光体の発光量と基板6に形成される蛍光体層の発光量は相関関係があることから、真空容器5の内部に付着した蛍光体の発光量の測定値を蒸着装置2の制御にフィードバックすることによって、所望の発光量を有する蛍光体層を得ることができる。
【0176】
また、分光素子を用いて発光光を波長ごとに空間分離し、受光センサ20a〜20cで波長ごとの強度を測定することによって、分光素子によって発光光を波長ごとに空間分離して、受光センサで波長ごとの発光量の強度を測定することにより、蛍光体層の発光光のスペクトル分布を蒸着工程において知ることが可能となる。
【0177】
以上のように本発明によれば、蒸着中に真空容器内に付着した蛍光体の発光特性を測定して、基板上に形成される蛍光体層の真の発光特性に近似できる特性を蒸着装置の各構成部分の制御にリアルタイムでフィードバックすることによって、基板上に所望の発光特性を有する蛍光体を成膜することが可能となる。
【0178】
また、蛍光体の膜厚のみならず、蛍光体の発光光の特性を量的・質的に管理することによって、放射線画像変換パネルの輝尽性蛍光体層などの特に高精度の成膜が求められる製品において、従来の単純な蒸着経過時間や蒸気量(蒸着レート)による蒸着開始・終了や蒸発源の切替えの制御では得られなかった所望の発光特性を有する蛍光体を成膜することが可能となる。
【0179】
また、真空容器内に測定機器を別途設置する必要がないことから、測定機器が蒸発源から蒸発した蒸気流の流れに影響を及ぼすことはなく、蛍光体の膜厚分布の制御が容易となって基板上に所望の発光特性を有する蛍光体を成膜することが可能となる。また、コストの低減になると共に、蒸着装置の設備をシンプルかつ自由度のある構成とすることができる。
【0180】
更に、本発明では観察窓、励起用光源又は受光センサを任意の位置に設けることができ、蒸着装置内の多点計測を簡易に構成することができるため、蒸着前における蒸発源の加熱・溶融・気化状態の監視や、製品としての基板上の成膜状態を同時にモニタリングして蒸着制御を行うことができる。そのため、製造時のタクトタイムの短縮や材料ロスの低減を図ることが可能となる。
【0181】
すなわち、目標値を参照して決定したシャッタ開値に基づく制御により、蒸発開始直後における指向性の不安定な蒸気量・蒸気や蛍光体材料に含まれる不純物を蒸着させることなく、所定の発光特性を有する蛍光体を成膜することができる。
【0182】
また、目標値を参照して決定した蒸着停止値に基づく制御により、蒸発源における蛍光体材料の量が減って蒸気量・蒸着の指向性が不安定になる前であり、かつ、残存した蛍光体材料の成分の偏りが生じる前に蒸着を停止して、所望の発光特性を有する蛍光体を成膜することができる。
【0183】
また、目標値を参照して決定した蒸着切替値に基づく制御により、複数の蒸発源を切り替えて蒸着を行う蒸着装置において、他の蒸発源の加熱が停止する前に予熱などの準備を開始して、蒸着工程全体のタクトタイムを短縮することができる。
【0184】
更に、波長ごとの発光量の強度を測定することや、蛍光体から放射される光束の空間分布を測定することによって、蛍光体層の発光の質的な特性や指向性を蒸着工程において知ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0185】
【図1】本発明の実施形態に係る蒸着システムの全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る蒸発源用観察窓の断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る蒸着装置の他の構成例である。
【図4】輝尽発光量と真空容器内に付着した蛍光体の発光量との相関関係を示すグラフである。
【図5】輝尽性蛍光体のEu濃度と真空容器内に付着した蛍光体の色度値との相関関係を示すグラフである。
【図6】輝尽性蛍光体のEu濃度と真空容器内に付着した蛍光体の色度値との相関関係を示す他のグラフである。
【図7】本発明の実施形態に係る蒸着システムを使用した蒸着方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0186】
1 蒸着システム
2 蒸着装置
3 A/D変換装置
4 制御装置
5 真空容器
6 基板
7 基板ホルダ
10,11 蒸発源
12,13 蒸発源シャッタ
14,15 蒸発源用観察窓
16 基板用観察窓
19a〜19c 励起用光源
20a〜20c 受光センサ
21 増幅器
22 A/Dコンバータ
23 制御部
24 記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内で基板を保持する基板ホルダと、蛍光体材料を蒸発させて前記基板に蒸着させる一又は複数の蒸発源と、前記真空容器の側面に形成された観察窓と、前記蒸発源から蒸発して前記真空容器内に付着した蛍光体に前記観察窓から励起光を照射する励起用光源と、前記励起光により前記蛍光体から発生した発光光を前記観察窓から受光して電気信号に光電変換する受光センサと、を備えた蒸着装置と、
前記基板に所定の発光特性を有する蛍光体層を形成するための目標値を決定し、前記受光センサから受信した電気信号に基づき、前記真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値が前記目標値となるように、前記蒸着装置の各構成部分を制御する制御装置と、
を備えることを特徴とする蒸着システム。
【請求項2】
前記制御装置は、前記基板に形成する蛍光体の発光特性に関する測定値と、前記真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値とを予め対応付けたLUTを有し、前記LUTの使用により選択した前記真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値に基づいて前記目標値を決定することを特徴とする請求項1に記載の蒸着システム。
【請求項3】
前記制御装置は、前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記目標値となったときに前記蒸発源による蒸着を停止することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の蒸着システム。
【請求項4】
前記蒸着装置は前記蒸発源から蒸発して前記基板に到達する蛍光体を遮蔽する蒸発源シャッタを備え、
前記制御装置は、前記目標値に基づいてシャッタ開値を決定し、前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記シャッタ開値となったときに前記蒸発源シャッタを開くことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の蒸着システム。
【請求項5】
前記制御装置は複数の前記蒸発源を備え、前記目標値に基づいて前記複数の蒸発源ごとに蒸着停止値を決定し、前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記蒸着停止値となったときに、その蒸着停止値に対応する前記蒸発源の加熱を停止することを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の蒸着システム。
【請求項6】
前記制御装置は複数の前記蒸発源を備え、前記目標値に基づいて前記複数の蒸発源のうち所定の蒸発源についてそれぞれ蒸着切替値を決定し、前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記蒸着切替値となったときに、その蒸着切替値に対応する前記蒸発源の加熱を開始することを特徴とする請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の蒸着システム。
【請求項7】
前記蛍光体の発光特性は、前記蛍光体の発光量であることを特徴とする請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の蒸着システム。
【請求項8】
前記受光センサは分光素子を備え、前記真空容器内に付着した蛍光体の波長特性を前記発光特性として測定することを特徴とする請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の蒸着システム。
【請求項9】
前記蛍光体は希土類付活アルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体であることを特徴とする請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の蒸着システム。
【請求項10】
蒸着装置の真空容器内で基板ホルダに保持された基板に一又は複数の蒸発源から蛍光体材料を蒸発させて前記基板に蒸着させる蒸着工程と、
前記蒸着工程において前記真空容器内に付着した蛍光体に前記真空容器の側面に形成された観察窓から励起用光源より励起光を照射する励起光照射工程と、
前記励起光照射工程において前記蛍光体から発生した発光光を前記観察窓から受光センサで受光して電気信号に光電変換する光電変換工程と、
前記基板に所定の発光特性を有する蛍光体層を形成するための目標値を決定し、前記受光センサから受信した電気信号に基づき、前記真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値が前記目標値となるように、制御装置が前記蒸着装置の各構成部分を制御する制御工程と、
を有することを特徴とする蒸着方法。
【請求項11】
前記制御工程において、前記制御装置は、前記基板に形成する蛍光体の発光特性に関する測定値と、前記真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値とを予め対応付けたLUTを有し、前記LUTの使用により選択した前記真空容器内に付着する蛍光体の発光特性に関する測定値に基づいて前記目標値を決定することを特徴とする請求項10に記載の蒸着方法。
【請求項12】
前記制御工程において、前記制御装置は前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記目標値となったときに前記蒸発源による蒸着を停止することを特徴とする請求項10又は請求項11に記載の蒸着方法。
【請求項13】
前記蒸着装置は前記蒸発源から蒸発して前記基板に到達する蛍光体を遮蔽する蒸発源シャッタを備え、
前記制御工程において、前記制御装置は前記目標値に基づいてシャッタ開値を決定し、前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記シャッタ開値となったときに前記蒸発源シャッタを開くことを特徴とする請求項10〜請求項12のいずれか一項に記載の蒸着方法。
【請求項14】
前記制御工程において前記制御装置は複数の前記蒸発源を備え、前記目標値に基づいて前記複数の蒸発源ごとに蒸着停止値を決定し、前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記蒸着停止値となったときに、その蒸着停止値に対応する前記蒸発源の加熱を停止することを特徴とする請求項10〜請求項13のいずれか一項に記載の蒸着方法。
【請求項15】
前記制御工程において前記制御装置は複数の前記蒸発源を備え、前記目標値に基づいて前記複数の蒸発源のうち所定の蒸発源についてそれぞれ蒸着切替値を決定し、前記真空容器内に付着した蛍光体の発光特性に関する測定値が前記蒸着切替値となったときに、その蒸着切替値に対応する前記蒸発源の加熱を開始することを特徴とする請求項10〜請求項14のいずれか一項に記載の蒸着方法。
【請求項16】
前記蛍光体の発光特性は、前記蛍光体の発光量であることを特徴とする請求項10〜請求項15のいずれか一項に記載の蒸着方法。
【請求項17】
前記受光センサは分光素子を備え、前記真空容器内に付着した蛍光体の波長特性を前記発光特性として測定することを特徴とする請求項10〜請求項16のいずれか一項に記載の蒸着方法。
【請求項18】
前記蛍光体は希土類付活アルカリ金属ハロゲン化物系輝尽性蛍光体であることを特徴とする請求項10〜請求項17のいずれか一項に記載の蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−249479(P2006−249479A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−65797(P2005−65797)
【出願日】平成17年3月9日(2005.3.9)
【出願人】(303000420)コニカミノルタエムジー株式会社 (2,950)
【Fターム(参考)】