説明

蒸着方法

【課題】蒸着源、蒸着装置及び蒸着方法の技術分野に関し、特に、同軸型真空アーク蒸着源に関する。
【解決手段】本発明の蒸着源5では、絶縁部材10の側面20と、トリガ電極12の表面22と、蒸着材料14aの側面24とが、面一になるように構成されている。トリガ電極12と蒸着材料14aとの間に電圧を印加して、トリガ放電を発生させると、蒸着材料14aの側面24から荷電微粒子31や巨大粒子33が放射状に放出されるが、蒸着材料の側面24に沿う方向に放出される荷電微粒子31や巨大粒子33の数は非常に少ない。このため、蒸着材料の側面24と面一に配置された絶縁部材の側面20には、巨大粒子33がほとんど付着しないので、付着した巨大粒子33が再蒸発して基板4の表面に付着する量を少なくすることができ、従来に比して膜質の良好な薄膜を成膜することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸着源、蒸着装置及び蒸着方法に係り、特に、同軸型真空アーク蒸着源と、その蒸着源を用いた蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜は、従来より、半導体装置や液晶表示装置等の種々の分野に用いられており、スパッタリング装置や蒸着装置等の薄膜形成装置によって、金属薄膜や磁性薄膜等の多種の薄膜が形成されている。
それらのうち、同軸型真空アーク蒸着源を用いた蒸着装置は、高真空雰囲気で薄膜を形成できることから、近年注目されている技術である。
【0003】
従来の蒸着装置の一例を図7の符号101に示す。この蒸着装置101は、真空槽102と、真空槽102の内部上面に取り付けられた基板ホルダー103と、基板ホルダー103に対向して設けられた蒸着源105とを有している。
【0004】
蒸着源105は、真空槽102の底部に気密に取り付けられたフランジ115と、フランジ115に固定された円筒形形状の絶縁部材110と、絶縁部材110に挿入された円柱形形状のカソード電極114bとを有している。カソード電極114bの先端には、導電性材料が円柱形形状に成形されて成る蒸着材料114aが固定されており、カソード電極114bと蒸着材料114aは、先端部分から蒸着材料114aだけが突き出されるように、絶縁部材110内に挿入されている。
【0005】
絶縁部材110の先端部分の外周には、リング形状のトリガ電極112が設けられており、蒸着材料114aを中心として、絶縁部材110やトリガ電極112の周囲には、トリガ電極112とは非接触の状態で、円筒形形状のアノード電極113が配置されている。
【0006】
真空槽102の外部には、トリガ電源117とアーク電源118とが設けられており、トリガ電源117の一端はトリガ電極112に接続され、他端はカソード電極114bに接続されている。また、アーク電源118の一端はアノード電極113に、他端はカソード電極114bにそれぞれ接続されている。
【0007】
上記のような構成の蒸着装置101を用いて、基板表面に薄膜を形成する場合には、まず、真空槽102内に基板104を搬入して、基板ホルダー103に保持させて蒸着源105と対向配置させておき、真空槽102内を高真空雰囲気にしておく。
【0008】
次いで、アーク電源118により、アノード電極113に対して、カソード電極114bに負の電圧を印加した状態で、トリガ電源117により、トリガ電極112にパルス状の電圧を印加すると、トリガ電極112と蒸着材料114aとの間でトリガ放電が発生し、それによって、アノード電極113と蒸着材料114aとの間にアーク放電が誘起される。
【0009】
そのアーク放電により、蒸着材料114aが蒸発すると、図7(b)の符号131に示すような正電荷を有する荷電微粒子が、蒸着材料114aの側面121からアノード電極113に向けて大量に放出される。
【0010】
蒸着材料114aとカソード電極114bとは直線状に配置されているため、アーク放電によって生じたアーク電流iは、蒸着材料114a及びカソード電極114b内を直線的に流れ、アノード電極113内に磁場を形成する。
【0011】
その磁場は、正電荷を有する粒子に対し、アノード電極113の開口部方向に押しやる力Fを及ぼすので、アノード電極113に向けて放出された荷電微粒子131は、飛行方向が開口部側に曲げられ、真空槽102内に放出され、開口部には基板104が対面して配置されており、真空槽内に放出された微小粒子131は、基板104表面に到達すると、薄膜を成長させる。
【0012】
蒸着材料114aの側面121からは、荷電微粒子131の他、電荷を有さない中性粒子132や、正電荷を有していても電荷量に比べて質量が大きい巨大粒子133もアノード電極113に向けて放出されるが、それらの粒子132、133には、力Fが加わらないか、加わっても影響が小さいため、そのまま直進し、アノード電極113の内周面に衝突し、大部分はそこに付着し、真空槽102内には放出されない。さらに、一部の巨大粒子135、136は、蒸着材料114aの先端面から、アノード電極113の開口部へ向けて放出されるが、アノード電極113の上方には防着板119が設けられており、アノード電極113の開口部へ向けて放出された巨大粒子135、136は、防着板119に付着し、真空槽内102内には放出されない。
【0013】
従って、基板104表面には、巨大粒子133は到達しにくく、質量が小さい荷電微粒子131が到達できるので、その結果、基板104の表面に、緻密な薄膜を形成できるようになっている。
【0014】
しかしながら、上記した蒸着装置101では、図8(a)に示すように、大部分の巨大粒子1331はアノード電極113に向けて放出されるものの、一部の巨大粒子1332は絶縁部材110の沿面110aに付着する。すると、放電時に絶縁部材110の沿面110aから付着した粒子が飛散し、ダストとして基板104の表面に到達してしまうことにより、薄膜の膜質が悪くなってしまう。
【0015】
また、絶縁部材110の沿面110aに巨大粒子133が大量に付着すると、トリガ電極112と蒸着材料114aとの間のインピーダンスが低下して、トリガ電極112と蒸着材料114aとの間に、トリガ放電を発生させる電圧を印加することができなくなってしまい、トリガ放電が生じなくなってしまう(以下で絶縁劣化と称する)。これに対し、沿面110aに、全く導電粒子が付着していない状態では、放電電圧を高くしないとトリガ放電が生じなくなってしまう。
【0016】
さらに、アノード電極113に向けて巨大粒子133が放出されると、図8(b)に示すように大部分の巨大粒子1333はアノード電極113の内周面に付着するが、一部の巨大粒子1334はアノード電極113表面で反跳して基板104方向へ飛び、基板104に付着してしまうため、薄膜の膜質が劣化してしまう。
【0017】
また、放電の瞬間にカソードターゲット材が蒸発してアノード電極113とカソード電極114との間の空間の圧力が高くなると、荷電微粒子131同士の衝突頻度が高くなるため基板104に到達し得る荷電微粒子131の量が少なくなり、成膜レートが低下してしまうという問題もある。
また、カソード材料の表面に異物が付着していると、放電の際にその異物が基板方向に飛来し、膜中に不純物として混入し、膜質が劣化してしまう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、同軸型真空アーク蒸着源を用いて形成する薄膜の品質を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、請求項1記載の発明は、筒状のアノード電極と、前記アノード電極内に配置された蒸着材料と、前記蒸着材料の近傍に、前記蒸着材料と非接触の状態で配置されたトリガ電極とを有し、前記蒸着材料と前記アノード電極との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極に電圧を印加すると、該トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電が発生し、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記蒸着材料の構成物質が、前記アノード電極の開口から放出されるように構成された蒸着源であって、前記アノード電極内には、中心軸線が前記アノード電極の中心軸線と同一方向に向くように、筒状の絶縁部材が設けられ、前記蒸着材料は、その先端の側面が前記絶縁部材の側面と面一になるように前記絶縁部材に取り付けられ、前記蒸着材料の近傍の前記絶縁部材の側面には、凹部が設けられ、前記凹部内には、前記トリガ電極が設けられ、前記トリガ電極の表面と、前記蒸着材料の側面と、前記トリガ電極及び前記蒸着材料の間にある前記絶縁部材の側面とが、面一になるようにされたことを特徴とする。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の蒸着源であって、前記蒸着材料と、前記絶縁部材の直径は、前記蒸着材料の先端に向かうにつれて大きくなるか又は小さくなるように構成されたことを特徴とする。
請求項3記載の発明は、請求項1又は請求項2記載の蒸着源であって、前記凹部は、前記絶縁部材の周囲に形成された溝であることを特徴とする。
請求項4記載の発明は、アノード電極と、前記アノード電極の近傍に配置された蒸着材料と、前記蒸着材料の近傍に配置されたトリガ電極とを有し、前記蒸着材料と前記アノード電極との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極に電圧を印加すると、該トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電が発生し、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記蒸着材料の構成物質が、前記アノード電極の開口から放出されるように構成された蒸着源であって、前記アノード電極は、網状に形成され、前記蒸着材料と、前記トリガ電極との周囲を取り囲むように配置されたことを特徴とする。
請求項5記載の発明は、アノード電極と、前記アノード電極近傍に配置された蒸着材料と、前記蒸着材料の近傍に配置されたトリガ電極とを有し、前記蒸着材料と前記アノード電極との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極に電圧を印加すると、該トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電が発生し、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記蒸着材料の構成物質が、前記アノード電極の開口から放出されるように構成された蒸着源であって、前記アノード電極は、螺旋状に形成され、前記蒸着材料と、前記トリガ電極との周囲に、前記アノード電極が巻き回されたことを特徴とする。
請求項6記載の発明は、請求項4又は請求項5記載の蒸着源であって、前記アノード電極の周囲を取り囲むように配置された筒状の防着材を更に有することを特徴とする。
請求項7記載の発明は、蒸着装置であって、真空槽を有し、該真空槽に、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の蒸着源が設けられたことを特徴とする。
請求項8記載の発明は、真空槽と、前記真空槽内の底部に配置され、筒状のアノード電極と、前記アノード電極内に配置された蒸着材料と、前記蒸着材料の近傍に設けられたトリガ電極とを有し、前記蒸着材料と前記アノード電極との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極に電圧を印加すると、該トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電が発生し、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記蒸着材料の構成物質が、前記アノード電極の開口から放出されるように構成されてなる蒸着源と、前記蒸着源と対向して配置された基板ホルダーと、前記真空槽内にガスを導入するガス導入手段と、前記蒸着源の上方に配置され、移動可能な遮蔽板とを有する蒸着装置を用いて、基板表面に前記蒸着材料の構成物質を付着させる蒸着方法であって、前記ガス導入手段よりガスを前記真空槽内に導入して前記真空槽内の圧力を高くして、所定回数トリガ放電とアーク放電とを行なう工程と、前記真空槽内を真空状態にし、真空状態を維持した状態で前記基板ホルダに基板を保持させ、前記遮蔽板を前記蒸着源と前記基板との間に配置しておく工程と、トリガ放電とアーク放電とを行ない、前記遮蔽板を前記蒸着源と前記基板との間から撤去して、前記基板表面に前記蒸着物質の構成物質を付着させる工程とを有することを特徴とする。
請求項9記載の発明は、真空槽と、前記真空槽内の底部に配置され、筒状のアノード電極と、前記アノード電極内に配置された蒸着材料と、前記蒸着材料の近傍に設けられたトリガ電極とを有し、前記蒸着材料と前記アノード電極との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極に電圧を印加すると、該トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電が発生し、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記蒸着材料の構成物質が、前記アノード電極の開口から放出されるように構成されてなる蒸着源と、前記蒸着源と対向して配置された基板ホルダーと、前記真空槽内にガスを導入するガス導入手段と、前記蒸着源の上方に配置され、移動可能な遮蔽板とを有する蒸着装置を用いて、所定の成膜圧力内で前記トリガ放電と前記アーク放電を生じさせ、前記基板ホルダーに保持された基板表面に前記蒸着材料の構成物質を付着させる蒸着方法であって、前記基板表面に前記蒸着材料の構成物質を付着させる前に、前記ガス導入手段よりガスを前記真空槽内に導入して前記真空槽内の圧力を前記成膜圧力よりも高い放電安定化圧力にして、所定回数トリガ放電とアーク放電を複数回生じさせ、前記トリガ放電の電圧を低下させる放電安定化工程と、前記真空槽内を前記放電安定化圧力よりも低い圧力にし、前記トリガ放電と前記アーク放電を生じさせ前記蒸着材料をクリーニングするクリーニング工程と、を有する蒸着方法である。
請求項10記載の発明は、請求項9記載の蒸着方法であって、前記クリーニング工程中は、前記遮蔽板を前記蒸着源の前記開口と前記基板ホルダーの間に位置させておくことを特徴とする。
請求項11記載の発明は、請求項10記載の蒸着方法であって、前記クリーニング工程中は、前記基板ホルダーに前記基板を保持させておくことを特徴とする。
【0020】
本発明の蒸着源は上述のように構成されており、絶縁部材の側面と、トリガ電極の表面と、蒸着材料の側面とが、面一になるように構成されている。
トリガ電極と蒸着材料との間に電圧を印加して、トリガ放電を発生させると、蒸着材料の側面から荷電微粒子や巨大粒子が放射状に放出されるが、蒸着材料の側面に沿う方向に放出される荷電微粒子や巨大粒子の数は非常に少ない。
【0021】
このため、蒸着材料の側面と同一平面上にある絶縁部材の側面に飛来し、付着する導電粒子の数は非常に少なく、絶縁部材に付着した巨大粒子が再蒸発して基板表面に付着する量を少なくすることができ、従来に比して膜質の良好な薄膜を成膜することができる。
【0022】
また、絶縁部材の側面に付着する巨大粒子の量を減らすことにより、絶縁劣化によりトリガ放電が生じなくなるまでの時間を長くすることができる。我々が行ったトリガ電極の寿命実験では、従来の蒸着源がFeを蒸着材料として10000回でトリガ電極と蒸着材間が短絡したが、本発明の蒸着源では同じFeの蒸着材で70000回以上の寿命が確認されている。
【0023】
なお、本発明の蒸着源では、アノード電極を網状に形成して、蒸着材料と、トリガ電極との周囲を取り囲むように配置してもよい。
このように構成することにより、放電時にアノード電極の側面に向けて巨大粒子が飛来しても、大部分の巨大粒子は、網状のアノード電極に設けられた多数の孔からアノード電極の外部へと放出される。従って、アノード電極の内壁に衝突して反跳し、基板に向けて飛来する巨大粒子の量は従来に比して非常に少なくなるので、膜質の良好な薄膜を成膜する事ができる。
【0024】
さらに、蒸着材料の蒸発時に蒸着材料の構成物質の蒸気が発生しても、アノード電極で囲まれた空間の圧力が過度に上昇しない。従って、蒸着材料の構成粒子同士の衝突頻度が低下し、基板方向へ飛行する粒子数が増大するので、成膜レートを向上させることができる。
【0025】
また、本発明の蒸着源において、筒状の防着材を、アノード電極の周囲を取り囲むように配置してもよい。このように構成することにより、アノード電極の外部へ飛来した巨大粒子は防着材の内壁に付着し、防着材の外部にある真空槽の内壁には付着しないため、真空槽内が汚染されないようにすることができる。
さらに、本発明の蒸着装置によれば、上述した本発明の蒸着源を有しているので、膜質の良い薄膜を基板表面に成膜することができる。
【0026】
また、本発明の蒸着方法によれば、ガス導入手段よりガスを真空槽内に導入して真空槽内の圧力を高くして、放電が発生しやすい状態にして、所定回数トリガ放電とアーク放電とを行なっている。
【0027】
予めトリガ放電とアーク放電とを所定回数行なうことにより、蒸着材料から導電粒子が放出され、その一部は絶縁部材の表面に付着して、トリガ電極と蒸着材料との間の絶縁耐圧が低下するので、真空槽内の圧力が低圧の場合にも確実にトリガ放電を生じさせることができる。
【0028】
次いで、真空槽内を真空状態にし、真空状態を維持した状態で基板ホルダに基板を保持させ、遮蔽板を蒸着源と基板との間に配置してトリガ放電とアーク放電とを行なうと、蒸着材料の表面に異物が付着していても、その異物を飛ばして、蒸着材料表面をクリーニングすることができる。このとき、蒸着材料表面から異物が飛んでも、異物は遮蔽板に付着して、基板表面には到達できないので、基板表面が異物によって汚染されないようにすることができる。
【0029】
その後、遮蔽板を蒸着源と基板との間から撤去し、トリガ放電とアーク放電をして、蒸着材料の構成物質を放出させることにより、表面がクリーニングされた蒸着材料から蒸着材料を放出させることができるので、膜質の良好な薄膜を成膜することができる。
【発明の効果】
【0030】
薄膜成膜中に巨大粒子が基板表面に到達しないので、緻密な薄膜を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1(a)の符号1は本発明の蒸着装置であり、チャンバー2を有している。チャンバー2内部には、基板ホルダー3と、同軸型真空アーク方式の蒸着源5とが配置されている。
【0032】
この蒸着源5は、真空槽2の底部に気密に取り付けられたフランジ15と、フランジ15に固定された略円筒形状の絶縁部材10と、絶縁部材10に挿入された円柱形形状のカソード電極14bと、絶縁部材10の周囲に設けられたアノード電極13とを有している。
【0033】
カソード電極14bは円柱形形状に成形され、他方、絶縁部材10は円筒形形状に成形されており、カソード電極14bは、絶縁部材10内に挿入されている。
絶縁部材10の先端近傍の側面には、リング状の溝が形成されており、この溝に、リング状に形成されたトリガ電極12がはめ込まれて固定されている。
【0034】
また、カソード電極14bの先端には、円柱状の蒸着材料14aが固定されている。そして図1(b)に示すように、蒸着材料14aの側面24と、絶縁部材10の側面20と、トリガ電極12の表面22とは、面一になるようにされている。
【0035】
アノード電極13は円筒形形状に成形されており、上述したカソード電極14b、蒸着材料14a、絶縁部材10、トリガ電極12は、アノード電極13とは非接触の状態で、その内部に配置されている。
【0036】
チャンバー2の外部には、トリガ電源17とアーク電源18とが設けられており、各電源17、18の正電位側の端子は、それぞれトリガ電極12とアノード電極13に接続され、負電位側の端子は、ともにカソード電極14bに接続されている。
【0037】
基板ホルダー3は、チャンバー2内で、アノード電極13の開口部と平行に対向して配置されており、上記構成の蒸着装置1を用いて薄膜を形成するには、まず薄膜形成対象である基板4をチャンバー2内に搬入し、基板ホルダー3に保持させる。
【0038】
次に、不図示の真空排気系によって、チャンバー2内を10-8Pa程度の高真空雰囲気にした後、アーク電源18を起動し、アノード電極13に対して、蒸着材料14に負電圧を印加する。
【0039】
その状態でトリガ電源17を起動し、トリガ電極12に正のパルス電圧を印加すると、蒸着材料14aの側面24とトリガ電極12の側面22との間でトリガ放電(沿面放電)が発生し、蒸着材料の側面24から蒸着材料14aの構成物質が蒸発し、蒸気が発生する。
【0040】
その蒸気によってアノード電極13内の圧力が上昇し、アノード電極13と蒸着材料14aの間の絶縁耐圧が低下すると、蒸着材料14aとアノード電極13との間でアーク放電が発生する。
【0041】
アーク放電により、蒸着材料14aが蒸発すると、正電荷を有する荷電微粒子が、蒸着材料14aの側面24からアノード電極13に向けて大量に放出される。
蒸着材料14aとカソード電極14bとは直線状に配置されているため、アーク放電によってアーク電流が蒸着材料14a及びカソード電極14b内を直線的に流れ、アノード電極13内に磁場を形成する。
【0042】
その磁場は、正電荷を有する粒子に対し、アノード電極13の開口部方向に押しやる力を及ぼすので、アノード電極13に向けて放出された荷電微粒子31は、飛行方向が開口部側に曲げられ、チャンバー2内に放出され、開口部に対向配置された基板4の表面に到達すると、薄膜を成長させる。
【0043】
蒸着材料14aの側面24からは、荷電微粒子31の他、電荷を有さない中性粒子や、正電荷を有していても電荷量に比べて質量が大きい巨大粒子33もアノード電極13に向けて放出されるが、それらの巨大粒子32、33は、アノード電極13内の磁場による力をほとんど受けないため、そのまま直進し、アノード電極13の内周面に衝突し、大部分はそこに付着する。
【0044】
又、巨大粒子の一部はアノード電極13の開口部に向けて飛行するが、開口部の上方には防着板19が設けられており、巨大粒子は防着板19に付着するため、いずれにしてもチャンバー2内には放出されない。
【0045】
従って、基板4表面には、巨大粒子33は到達しにくくなり、質量が小さい荷電微粒子31が到達できるので、その結果、基板4表面に、結晶性の優れた薄膜を形成できる。
【0046】
上述したように、トリガ放電及びアーク放電の発生時には、蒸着材料の表面からは荷電微粒子や巨大粒子が大量に放出されるが、蒸着材料の側面に沿う方向に放出される荷電微粒子や巨大粒子の数は非常に少ないため、絶縁部材の側面に付着する巨大粒子も又非常に少ない。
【0047】
従って、絶縁部材の側面に付着した巨大粒子が再蒸発し、基板表面に付着する量を少なくすることができるため、従来に比して膜質の良好な薄膜を成膜する事ができる。
さらに、絶縁部材10に付着する巨大粒子の量を減らすことにより、絶縁劣化が生じるまでの時間を長くすることができる。
【0048】
なお、本実施形態では、蒸着材料14aを円柱状に、トリガ電極12をリング状にし、絶縁部材10を円筒状にして、それぞれの直径が一定になるように構成したが、本発明はこれに限らず、例えば、図2(a)に示すように、蒸着材料14a及び絶縁部材10の直径が、先端に向かうにつれて大きくなるように構成してもよいし、又、図2(b)に示すように、蒸着材料14a及び絶縁部材10の直径が、蒸着材料の先端に向かうにつれて小さくなるように構成してもよい。
【0049】
また、絶縁部材10の周囲に、リング状の溝が形成され、その溝中に、リング状のトリガ電極が埋め込まれるものとしているが、本発明はこれに限らず、絶縁部材10の側面の一部に凹部を設け、その凹部内にトリガ電極を設ける構成にしても良い。
【0050】
以下で、本発明の他の実施形態について説明する。図3(a)の符号41に、本発明の他の実施形態の蒸着装置の一例を示す。
この蒸着装置41は、チャンバー42と、基板ホルダー43と、蒸着源45とを有しているが、このうちチャンバー42、基板ホルダー43は、それぞれ図1(a)のチャンバー2、基板ホルダー3と同じ構成であるため、説明を省略する。
【0051】
図3(a)に示す蒸着源45は、真空槽42の底部に気密に取り付けられたフランジ55と、フランジ55に固定された略円筒形状の絶縁部材50と、絶縁部材50に挿入された円柱形形状のカソード電極54bと、絶縁部材50の周囲に設けられたアノード電極53とを有している。
【0052】
このうちカソード電極54bは円柱形形状に成形され、他方、絶縁部材50は円筒形形状に成形されており、カソード電極54bは、絶縁部材50内に挿入されている。絶縁部材50の先端近傍の周囲には、リング状に形成されたトリガ電極52が固着されている。
【0053】
また、カソード電極54bの先端には、円柱状の蒸着材料54aが固着されており、先端部分が絶縁部材50の先端から突き出されている。
アノード電極53は網状であって、網状のアノード電極53が図3(b)、(c)に示すように円筒形形状に成形されており、上述したカソード電極54b、蒸着材料54a、絶縁部材50、トリガ電極52の周囲を取り囲むように配置されている。
アノード電極53の周囲には、筒状の防着材60が配置され、開口部の上方には防着板59が配置されている。
【0054】
また、チャンバー42の外部には、トリガ電源57とアーク電源58とが設けられており、各電源57、58の正電位側の端子は、それぞれトリガ電極52とアノード電極53に接続され、負電位側の端子は、ともにカソード電極54bに接続されている。
【0055】
基板ホルダー73は、チャンバー42内で、アノード電極53の開口部と平行に対向して配置されており、上記構成の蒸着装置41を用いて薄膜を形成する場合には、まず薄膜形成対象である基板44をチャンバー42内に搬入し、基板ホルダー43に保持させる。
【0056】
次に、不図示の真空排気系によって、チャンバー42内を10-8Pa程度の高真空雰囲気にした後、アーク電源58を起動し、アノード電極53に対して、蒸着材料54aに負電圧を印加する。
【0057】
その状態でトリガ電源57を起動し、トリガ電極52に正のパルス電圧を印加すると、蒸着材料54aの側面とトリガ電極52との間でトリガ放電(沿面放電)が発生し、側面から蒸着材料54aの蒸気が発生する。
【0058】
その蒸気によってアノード電極53内の圧力が上昇し、アノード電極53と蒸着材料54aの間の絶縁耐圧が低下すると、蒸着材料54aとアノード電極53との間でアーク放電が発生する。
【0059】
アーク放電により、蒸着材料54aが蒸発すると、正電荷を有する荷電微粒子が、蒸着材料54aの側面からアノード電極53に向けて大量に放出される。
アノード電極53に向けて放出された荷電微粒子は、アーク電流によって生じる磁場により、飛行方向が開口部側に曲げられ、チャンバー42内に放出され、開口部に対向配置された基板44の表面に到達すると、薄膜を成長させる。
【0060】
このとき、図4(a)に示すように、蒸着材料54aの側面から放出された巨大粒子の大部分は、網状のアノード電極53の側面にある多数の孔を通ってアノード電極53の外部へと放出されるので、アノード電極53の側壁に衝突して反跳する巨大粒子は、従来に比して少なくなる。
【0061】
従って、アノード電極53の側壁に衝突して反跳し、基板方向に飛行し、基板表面に付着する巨大粒子の数を少なくすることができるので、従来に比して膜質が良好な薄膜を得ることができる。
【0062】
更に、アノード電極53の周囲には防着材60が設けられているので、アノード電極53の外部へ巨大粒子が放出されると、防着材60の内壁に付着し、巨大粒子がチャンバー42の内壁に付着して汚染されないようにすることができる。
【0063】
なお、図3(a)の蒸着装置41では、図3(b)、(c)に示すように側面が網状にされたアノード電極53を用いたが、本発明はこれに限らず、例えば図4(b)、(c)に示すように、螺旋状に形成されたアノード電極63を用いてもよい。
【0064】
以下で、本発明のその他の実施形態について説明する。
図5の符号71に、本発明のその他の実施形態の蒸着方法に用いる蒸着装置を示す。
【0065】
この蒸着装置71は、チャンバー72と、チャンバー72の内部底面に取り付けられた蒸着源75と、蒸着源75と対向配置された基板ホルダー73とを有している。図5には、チャンバー72の底部の一部のみを示しており、チャンバー72の側部や上部の壁は図示していない。
【0066】
この蒸着源75は、フランジ85と、柱状の絶縁部材80cと、金属からなるカソード取付台84bと、柱状の蒸着材料84aと、円筒状の絶縁管80aと、リング状のトリガ電極82と、円筒状のアノード電極83と、トリガ配線82aと、カソード配線84cと、ガス導入系90と、遮蔽板94と、駆動機構96とを有している。
【0067】
フランジ85は、チャンバー72の底部に気密に取り付けられており、フランジ85上には、絶縁部材80cが配置されている。絶縁部材80c上には、カソード取付台84bの底面が固定されており、カソード取付台84bの先端には、蒸着材料84aが固定されている。
【0068】
その蒸着材料84aの周囲には、円筒状の絶縁管80aが配置されており、蒸着材料84aの先端は絶縁管80aから露出するようにされている。絶縁管80aの周囲にはリング状の溝が形成されており、その溝に、リング状のトリガ電極82が固定されている。
【0069】
カソード取付台84bの底面にはカソード配線84cの一端が接続されており、カソード配線84cの他端は絶縁部材80cに設けられた孔を通してチャンバー72の外部に引き出されている。
【0070】
トリガ電極82にはトリガ配線82aの一端が接続されており、トリガ配線82aの他端は絶縁部材80cに設けられた孔を通ってチャンバー72の外部に引き出されている。
【0071】
蒸着材料84a、絶縁管80a、トリガ電極82、絶縁部材80cの周囲には、アノード電極83が配置されている。
チャンバー72の外部には、トリガ電源87と、アーク電源88とが設けられており、トリガ電源87の正極は、絶縁部材80cから引き出されたトリガ電極82aに接続されており、負極は、絶縁部材80cから引き出されたカソード配線84cに接続されており、トリガ電極82aとカソード配線84cとの間に電圧が印加できるように構成されている。
【0072】
他方、アーク電源88の正極は、フランジ85に接続されており、負極はカソード配線84cに接続されている。フランジ85は、アノード電極83とともに導電体からなり、アノード電極83はフランジ85に直接取り付けられているので、アーク電源88を起動すると、アノード電極83とカソード配線84cとの間に、電圧を印加することができるように構成されている。
【0073】
上述したガス導入系90は、ガス導入継手92と、仕切バルブ91dと、マスフロコントローラ91cと、仕切バルブ91bと、圧力調整器91aと、ガスボンベ93とを有しており、これらがこの順で接続され、ガス導入継手92はフランジ85を貫通しており、ガスボンベ93の元栓を開いた状態で仕切バルブ91b、91dを開くと、ガスボンベ93中のガスをチャンバー72内に導入することができるようにされている。
【0074】
そして、圧力調整器91aは、ガスボンベ93内のガスの吐出圧力を調整することができるようにされており、マスフロコントローラ91cは、チャンバー72内に導入されるガスの流量を調整することができるようにされている。
【0075】
駆動機構96は、フランジ85を貫通して設けられた円筒状の回転導入機構95bと、シャフト95aと、ロータリアクチュエータ95eとを有している。回転導入機構95bは、内部に不図示の駆動軸を有しており、シャフト95aと、ロータリアクチュエータ95eとは、駆動軸の上部と底部とにそれぞれ取り付けられている。ロータリアクチュエータ95eには、ガス導入管95cとガス排気管95dとが接続されており、ガス導入管95cから圧搾空気が導入されると、回転導入機構95b内の駆動軸を所定角度回転させ、駆動軸に接続されたシャフト95aを所定角度回転させることができるようにされている。
【0076】
シャフト95aの先端には、遮蔽板94が取り付けられており、シャフト95aが所定角度回転すると、遮蔽板94を水平面内で所定角度回転させることができ、遮蔽板94を、アノード電極83の上方位置に配置することも、上方位置から撤去することもできるようにされている。
【0077】
上記構成の蒸着装置71を用いて薄膜を形成するには、予めチャンバー72内を、不図示の真空排気系で真空排気して真空状態にし、ガスボンベ93の元栓を開栓し、圧力調整器91aで吐出圧力を適正な値に調整する。次いで仕切バルブ91b、91dを開放し、マスフロコントローラ91cにより流量を調整して、ガスボンベ93中のガスをガス導入継手92からチャンバー72内に導入する。
【0078】
ガスが導入されると、チャンバー72内の内部圧力が上昇する。内部圧力が所定圧力まで上昇したらアーク電源88を起動し、カソード配線84cに負極性の電圧を印加するとともに、トリガ電源87を起動して、トリガ電極82とカソード配線84cとの間にパルス状の電圧を印加する。ここでは所定圧力を、0.001Torr程度とする。
【0079】
パルス状の電圧をトリガ電極82とカソード配線84cとの間に印加することにより、トリガ放電が発生する。チャンバー72内の圧力が高いと、放電が生じ易くなるため、低電圧を印加してもトリガ放電は確実に発生する。こうして発生したトリガ放電により、カソード配線84cとアノード電極83との間にアーク放電が生じる。
【0080】
その後所定回数(20〜30回)、パルス状の電圧をトリガ電極82とカソード配線84cとの間に印加して、トリガ放電及びアーク放電を行なう。
所定回数トリガ放電及びアーク放電をすることにより、絶縁管80aの上面に蒸着材料84aから放出された導電粒子が付着して、トリガ電極82と蒸着材料84aとの間の絶縁耐圧が低下する。従って、低圧条件で、低電圧を印加してもトリガ放電を生じさせることができる。
【0081】
トリガ放電及びアーク放電が所定回数終了したら、マスフロコントローラ91cにより、ガス流量を徐々に減じて、仕切バルブ91b、91dを閉じ、ガス導入継手92からのガス導入を中止する。
【0082】
不図示の真空排気系により終始チャンバー72内は真空排気されているので、ガス導入管からガスの導入が停止されると、チャンバー72内の圧力は低下する。ここではチャンバー内の圧力は約10-6Torr〜10-7Torr程度まで低下するものとする。
【0083】
かかる真空状態を維持しながら薄膜形成対象である基板74をチャンバー72内に搬入し、基板ホルダー73に保持させておくとともに、ガス導入管95cから圧搾空気をロータリアクチュエータ95eに導入し、駆動機構96のシャフト95aを所定角度回転させ、遮蔽板94を、アノード電極83の開口部の上方に位置させておく。
【0084】
この状態で、トリガ電源87から、パルス状の電圧をトリガ電極82に印加すると、トリガ放電が生じ、トリガ放電によってアーク放電が生じる。
アーク放電により、蒸着材料84aが蒸発すると、正電荷を有する荷電微粒子が、蒸着材料84aの側面からアノード電極83に向けて大量に放出され、アーク電流によって生じる磁場により、飛行方向がアノード電極83の開口部側に曲げられる。また、放電により、蒸着材料84aの表面に付着していた異物を蒸着材料84aの表面から飛ばすことにより、蒸着材料84aの表面をクリーニングすることができる。
【0085】
クリーニングをしている間は、遮蔽板94は、アノード電極83の開口部の上方に位置しており、蒸着材料84aが蒸発してもその蒸気は基板には達しないので、異物が蒸気とともに基板74の表面に到達して、基板表面が汚染されないようにすることができる。
【0086】
クリーニングが終了したと推定される時点で、ガス導入管95cから圧搾空気をロータリアクチュエータ95eに導入し、駆動機構96のシャフト95aを所定角度回転させることにより、遮蔽板94を、アノード電極83の開口部の上方から撤去させる。すると、アノード電極83の開口部に対向配置された基板44の表面に到達するので、基板表面に薄膜が成長する。こうして成長された薄膜は、クリーニングされた蒸着材料84aで成膜されているので、薄膜の膜質は、従来に比して良くなる。
【0087】
なお、図6に示すように、蒸着装置71を用いた上述の蒸着方法では、遮蔽板94を駆動機構96により水平面内で回転させることで、アノード電極83の上方に配置したり、上方から撤去したりしているが、本発明はこれに限らず、遮蔽板94を所定距離平行移動することで、アノード電極83の上方に配置された遮蔽板94を、アノード電極83の上方から撤去するような構成にしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】(a):本発明の一実施形態の蒸着装置を説明する断面図 (b):本発明の一実施形態の蒸着源を説明する断面図
【図2】(a):本発明の一実施形態の他の蒸着源を説明する断面図 (b):本発明の一実施形態のその他の蒸着源を説明する断面図
【図3】(a):本発明の他の実施形態の蒸着装置を説明する断面図 (b):本発明の他の実施形態のアノード電極を説明する平面図 (c):本発明の他の実施形態のアノード電極を説明する側面図
【図4】(a):本発明の他の実施形態の蒸着源を説明する断面図 (b):本発明の他の実施形態における他のアノード電極を説明する平面図 (c):本発明の他の実施形態における他のアノード電極を説明する側面図
【図5】本発明のその他の実施形態の蒸着装置を説明する第1の断面図
【図6】本発明のその他の実施形態の蒸着装置を説明する第2の断面図
【図7】(a):従来の蒸着装置の構成を説明する断面図 (b):従来の蒸着源の動作を説明する断面図
【図8】(a):従来の問題点を説明する第1の断面図 (b):従来の問題点を説明する第2の断面図
【符号の説明】
【0089】
1、41、71……蒸着装置 2、42、72……チャンバー 5、45、75……蒸着源 10、50、80……絶縁部材 12、42、82……トリガ電極 13、43、83……アノード電極 14a、54a、84a……蒸着材料 14b、54b、84c……カソード電極 60……防着材
92……ガス導入継手 94……遮蔽板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のアノード電極と、
前記アノード電極内に配置された蒸着材料と、
前記蒸着材料の近傍に、前記蒸着材料と非接触の状態で配置されたトリガ電極とを有し、
前記蒸着材料と前記アノード電極との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極に電圧を印加すると、該トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電が発生し、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記蒸着材料の構成物質が、前記アノード電極の開口から放出されるように構成された蒸着源であって、
前記アノード電極内には、中心軸線が前記アノード電極の中心軸線と同一方向に向くように、筒状の絶縁部材が設けられ、
前記蒸着材料は、その先端の側面が前記絶縁部材の側面と面一になるように前記絶縁部材に取り付けられ、
前記蒸着材料の近傍の前記絶縁部材の側面には、凹部が設けられ、
前記凹部内には、前記トリガ電極が設けられ、
前記トリガ電極の表面と、前記蒸着材料の側面と、前記トリガ電極及び前記蒸着材料の間にある前記絶縁部材の側面とが、面一になるようにされたことを特徴とする蒸着源。
【請求項2】
前記蒸着材料と、前記絶縁部材の直径は、前記蒸着材料の先端に向かうにつれて大きくなるか又は小さくなるように構成されたことを特徴とする請求項1記載の蒸着源。
【請求項3】
前記凹部は、前記絶縁部材の周囲に形成された溝であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の蒸着源。
【請求項4】
アノード電極と、
前記アノード電極の近傍に配置された蒸着材料と、
前記蒸着材料の近傍に配置されたトリガ電極とを有し、
前記蒸着材料と前記アノード電極との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極に電圧を印加すると、該トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電が発生し、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記蒸着材料の構成物質が、前記アノード電極の開口から放出されるように構成された蒸着源であって、
前記アノード電極は、網状に形成され、前記蒸着材料と、前記トリガ電極との周囲を取り囲むように配置されたことを特徴とする蒸着源。
【請求項5】
アノード電極と、
前記アノード電極近傍に配置された蒸着材料と、
前記蒸着材料の近傍に配置されたトリガ電極とを有し、
前記蒸着材料と前記アノード電極との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極に電圧を印加すると、該トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電が発生し、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記蒸着材料の構成物質が、前記アノード電極の開口から放出されるように構成された蒸着源であって、
前記アノード電極は、螺旋状に形成され、
前記蒸着材料と、前記トリガ電極との周囲に、前記アノード電極が巻き回されたことを特徴とする蒸着源。
【請求項6】
前記アノード電極の周囲を取り囲むように配置された筒状の防着材を更に有することを特徴とする請求項4又は請求項5記載の蒸着源。
【請求項7】
真空槽を有し、該真空槽に、請求項1乃至請求項6のいずれか1項記載の蒸着源が設けられたことを特徴とする蒸着装置。
【請求項8】
真空槽と、
前記真空槽内の底部に配置され、筒状のアノード電極と、前記アノード電極内に配置された蒸着材料と、前記蒸着材料の近傍に設けられたトリガ電極とを有し、前記蒸着材料と前記アノード電極との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極に電圧を印加すると、該トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電が発生し、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記蒸着材料の構成物質が、前記アノード電極の開口から放出されるように構成されてなる蒸着源と、
前記蒸着源と対向して配置された基板ホルダーと、
前記真空槽内にガスを導入するガス導入手段と、
前記蒸着源の上方に配置され、移動可能な遮蔽板とを有する蒸着装置を用いて、基板表面に前記蒸着材料の構成物質を付着させる蒸着方法であって、
前記ガス導入手段よりガスを前記真空槽内に導入して前記真空槽内の圧力を高くして、所定回数トリガ放電とアーク放電とを行なう工程と、
前記真空槽内を真空状態にし、真空状態を維持した状態で前記基板ホルダに基板を保持させ、前記遮蔽板を前記蒸着源と前記基板との間に配置しておく工程と、
トリガ放電とアーク放電とを行ない、前記遮蔽板を前記蒸着源と前記基板との間から撤去して、前記基板表面に前記蒸着物質の構成物質を付着させる工程とを有することを特徴とする蒸着方法。
【請求項9】
真空槽と、
前記真空槽内の底部に配置され、筒状のアノード電極と、前記アノード電極内に配置された蒸着材料と、前記蒸着材料の近傍に設けられたトリガ電極とを有し、前記蒸着材料と前記アノード電極との間に電圧を印加した状態で、前記トリガ電極に電圧を印加すると、該トリガ電極と前記蒸着材料との間にトリガ放電が発生し、前記アノード電極と前記蒸着材料との間にアーク放電が誘起され、前記蒸着材料の構成物質が、前記アノード電極の開口から放出されるように構成されてなる蒸着源と、
前記蒸着源と対向して配置された基板ホルダーと、
前記真空槽内にガスを導入するガス導入手段と、
前記蒸着源の上方に配置され、移動可能な遮蔽板とを有する蒸着装置を用いて、所定の成膜圧力内で前記トリガ放電と前記アーク放電を生じさせ、前記基板ホルダーに保持された基板表面に前記蒸着材料の構成物質を付着させる蒸着方法であって、
前記基板表面に前記蒸着材料の構成物質を付着させる前に、
前記ガス導入手段よりガスを前記真空槽内に導入して前記真空槽内の圧力を前記成膜圧力よりも高い放電安定化圧力にして、所定回数トリガ放電とアーク放電を複数回生じさせ、前記トリガ放電の電圧を低下させる放電安定化工程と、
前記真空槽内を前記放電安定化圧力よりも低い圧力にし、前記トリガ放電と前記アーク放電を生じさせ前記蒸着材料をクリーニングするクリーニング工程と、
を有する蒸着方法。
【請求項10】
前記クリーニング工程中は、前記遮蔽板を前記蒸着源の前記開口と前記基板ホルダーの間に位置させておく請求項9記載の蒸着方法。
【請求項11】
前記クリーニング工程中は、前記基板ホルダーに前記基板を保持させておく請求項10記載の蒸着方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−1915(P2009−1915A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−242699(P2008−242699)
【出願日】平成20年9月22日(2008.9.22)
【分割の表示】特願平11−108680の分割
【原出願日】平成11年4月16日(1999.4.16)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】