説明

蒸着装置並びに蒸着方法

【課題】小形の蒸着マスク2でも大型の基板4を離間状態で相対移動させることで広範囲に蒸着マスクによる成膜パターンの蒸着膜を蒸着でき、蒸着マスクの温度上昇を十分に抑えて蒸着マスク2を一定の温度に保持ができるため、蒸着マスクの熱による歪みを防止でき、高精度の蒸着が行える画期的な蒸着装置を提供すること。
【解決手段】基板4と蒸着マスク2とを離間状態に配設し、この基板4と蒸発源1との間に、制限用開口部5を設けた飛散制限部を構成するマスクホルダー6を配設し、このマスクホルダー6に前記蒸着マスク2を接合させて付設し、このマスクホルダー6に蒸着マスク2の温度を保持する温度制御機構9を設け、基板4をこの蒸着マスク2に対して相対移動することにより蒸着マスク2より広い範囲に、精度の高い成膜パターンの蒸着膜を形成できる蒸着装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着マスクによる成膜パターンの蒸着膜を基板上に形成させる蒸着装置並びに蒸着方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセンス素子を用いた有機EL表示装置が、CRTやLCDに替る表示装置として注目されている。
【0003】
この有機EL表示装置などの有機ELデバイスは、基板に電極層と複数の有機層を積層した発光層とを積層形成し、更に封止層を被覆形成した構成であり、自発光で、LCDに比べて高速応答性に優れ、高視野角及び高コントラストを実現できるものである。
【0004】
このような有機ELデバイスは、一般に真空蒸着法により製造されており、真空チャンバー内で基板と蒸着マスクをアライメントして密着させ蒸着を行い、この蒸着マスクにより所望の成膜パターンの蒸着膜を基板に形成している。
【0005】
また、このような有機ELデバイスの製造においては、基板の大型化に伴い所望の成膜パターンを得るための蒸着マスクも大型化するが、この大型化のためには蒸着マスクに張力をかけた状態でマスクフレームに溶接固定して製作しなければならないため大型の蒸着マスクの製造は容易でなく、またこの張力が十分でないとマスクの大型化に伴いマスク中心に歪みが生じ蒸着マスクと基板の密着度が低下してしまうことや、これらを考慮するためにマスクフレームが大型となり、精度を得ようとするために肉厚化や重量の増大が顕著となる。また、マスクフレームには熱膨張によるマスク精度の低下を防ぐため、線膨張係数の小さなインバー材が使用されているが高価である。
【0006】
このように基板サイズの大型化に伴って蒸着マスクの大型化が求められているが、高精細なマスクの大型化は困難で、また製作できても前記歪みの問題によって実用上様々な問題を生じている。
【0007】
また、例えば、特表2010−511784号などに示されるように、基板と蒸着マスクとを離間配設し、蒸発源と指向性を持った蒸発粒子を発生させる開口部により有機発光層を高精度に成膜させる方法もあるが、前記蒸発源と指向性を発生させる前記開口部が一体構造をしており、開口部から蒸発粒子を発生させるには前記一体構造を高温に加熱する構成となっているため、蒸発源からの輻射熱を蒸着マスクで受けることになり、蒸着中のマスク温度を一定に保持する効果が無く、蒸着マスクの熱膨張による成膜パターンの位置精度の低下を防ぐことができない。
【0008】
即ち、蒸着マスクが高温となって熱膨張により伸長してしまうので、マスク開口部自体及びマスク開口部のピッチ間距離が伸長することとなり、蒸着マスクで形成される基板上の成膜パターン自体の精度や、成膜パターンの配列精度が低下してしまう。
【0009】
更に、基板と蒸着マスクとを離間配設して相対移動させる構成とすることで、小さな蒸着マスクでも広範囲に所望の成膜パターンを大型基板に蒸着させることができるが、基板と蒸着マスクとが離間しているため、この蒸着マスクの温度上昇は一層さけられず、蒸着マスクに前述のようにこの温度上昇による熱変形や歪みを生じて蒸着精度が著しく劣ってしまうこととなる。
【0010】
これまでのように基板と蒸着マスクとを密着重合させて蒸着する場合は、蒸着マスクへの輻射熱は基板へと逃げて放熱されることになる。
【0011】
しかし、基板と蒸着マスクとを離間状態のままで基板を相対移動させる構成とすると、前述のように蒸着マスクの温度上昇は著しくこの熱膨張による歪みを生じて成膜パターンの位置精度が著しく劣ってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特表2010−511784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、このような様々な問題を解決し、基板の大型化に伴って蒸着マスクを同等に大型化せず基板より小形の蒸着マスクでも、基板を離間状態で相対移動させることで広範囲に蒸着マスクによる成膜パターンの蒸着膜を蒸着でき、また、離間状態のまま相対移動させることで構造も簡易で効率良くスピーディーに蒸着でき、しかも蒸着マスクが離間状態のままでも制限用開口部を蒸発源と蒸着マスクとの間に設けることで、蒸発粒子の飛散方向を制限して隣り合う若しくは離れた位置の蒸発口部からの蒸着粒子を通過させず成膜パターンの重なりを防止すると共に、この制限用開口部を設けた飛散制限部を有するマスクホルダーに蒸着マスクを接触させて付設した構成とし、このマスクホルダー若しくは蒸着マスクの少なくとも一方に蒸着マスクの温度を保持する温度制御機構を設けることで、このマスクホルダーは飛散制限部としてだけでなく蒸発源からの輻射熱の入射を抑制し蒸着マスク温度上昇を抑制する温度保持機能を発揮して、蒸着マスクの温度を一定に保持させることができ、これにより蒸着マスクの熱による歪みを防止して、基板と蒸着マスクとを離間状態で相対移動させる構成でありながら、高精度の蒸着が行える蒸着装置並びに蒸着方法を提供することを目的としている。
【0014】
特に有機ELデバイスの製造にあたり、基板の大型化に対応でき、有機発光層の蒸着も精度良く行え、マスク接触による基板,蒸着マスク,蒸着膜の損傷も防止でき、基板より小さな蒸着マスクにより高精度の蒸着が実現できる有機ELデバイス製造用の蒸着装置並びに蒸着方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0016】
蒸発源1から蒸発した成膜材料を、蒸着マスク2のマスク開口部3を介して基板4上に堆積して、この蒸着マスク2により定められた成膜パターンの蒸着膜が基板4上に形成されるように構成した蒸着装置において、前記蒸発源1とこの蒸発源1に対向状態に配設する前記基板4との間に、前記蒸発源1から蒸発した前記成膜材料の蒸発粒子の飛散方向を制限する制限用開口部5を設けた飛散制限部を有するマスクホルダー6を配設し、このマスクホルダー6に前記基板4と離間状態に配設する前記蒸着マスク2を接合させて付設し、このマスクホルダー6若しくは蒸着マスク2の少なくとも一方に蒸着マスク2の温度を保持する温度制御機構9を備え、前記基板4を、前記蒸着マスク2を付設した前記マスクホルダー6及び前記蒸発源1に対して、前記蒸着マスク2との離間状態を保持したまま相対移動自在に構成して、この相対移動により前記蒸着マスク2より広い範囲にこの蒸着マスク2により定められる成膜パターンの蒸着膜が基板4上に形成されるように構成したことを特徴とする蒸着装置に係るものである。
【0017】
また、減圧雰囲気とする蒸着室7内に、前記成膜材料を収めた前記蒸発源1と、この蒸発源1の蒸発口部8から蒸発した前記成膜材料の蒸発粒子が通過する前記マスク開口部3を設けた前記蒸着マスク2とを配設し、前記蒸発口部8を複数並設し、前記蒸着マスク2と離間状態に位置合わせする基板4に、前記複数の蒸発口部8から飛散する蒸発粒子が前記マスク開口部3を通過して堆積し蒸着マスク2により定められる成膜パターンの蒸着膜が前記基板4に形成されるように構成し、この蒸発源1とこの蒸発源1と対向状態に配設する前記基板4との間に、隣り合う若しくは離れた位置の前記蒸発口部8からの蒸発粒子を通過させない前記制限用開口部5を設けた前記飛散制限部を有する前記マスクホルダー6を配設し、このマスクホルダー6に前記基板4と離間状態に配設する前記蒸着マスク2を接合させて付設し、このマスクホルダー6若しくは前記蒸着マスク2の少なくとも一方に蒸着マスク2の温度上昇を抑制し温度を一定に保持する前記温度制御機構9を設け、前記基板4を、前記蒸着マスク2を付設した前記マスクホルダー6及び前記蒸発源1に対してこの蒸着マスク2との離間状態を保持したまま相対移動させて、この相対移動方向に前記蒸着マスク2の前記成膜パターンの蒸着膜を連続させて前記基板4より小さい前記蒸着マスク2でも広範囲に蒸着膜が形成されるように構成したことを特徴とする請求項1記載の蒸着装置に係るものである。
【0018】
また、前記基板4の相対移動方向に対して直交する横方向に前記蒸発源1の前記蒸発口部8を複数並設すると共に、前記マスクホルダー6に設ける前記飛散制限部の前記制限用開口部5を前記横方向に沿って複数並設して、前記各蒸発口部8から蒸発する蒸発粒子が、対向する前記制限用開口部5のみを通過し更にこの制限用開口部5と対向する前記蒸着マスク2の前記マスク開口部3を介して前記基板4上に前記成膜パターンの蒸着膜が形成され、隣り合う若しくは離れた位置の前記蒸発口部8からの蒸発粒子は付着捕捉されるようにして前記制限用開口部5により前記蒸発粒子の飛散方向が制限されるように構成したことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0019】
また、前記マスクホルダー6の前記基板4側の端部に、前記蒸着マスク2を付設したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0020】
また、前記マスクホルダー6の前記基板4側の端部に、前記蒸着マスク2に張力を付与して張設したことを特徴とする請求項4記載の蒸着装置に係るものである。
【0021】
また、前記マスクホルダー6は、前記基板4の相対移動方向に張力を付与して前記蒸着マスク2を張設したことを特徴とする請求項5記載の蒸着装置に係るものである。
【0022】
また、前記蒸着マスク2は、前記基板4の相対移動方向と直交する横方向に複数枚に分割した構成とし、この分割した蒸着マスク2を前記マスクホルダー6に前記横方向に並設状態に付設したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0023】
また、前記蒸発源1の前記蒸発口部8を前記基板4の相対移動方向と直交する横方向に複数並設し、この一若しくは複数の蒸発口部8毎に夫々対向状態に前記制限用開口部5を設けた前記飛散制限部を有する前記マスクホルダー6の各制限用開口部5を覆うように、前記蒸着マスク2をマスクホルダー6の前記基板4側の端部に付設したことを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0024】
また、前記マスクホルダー6の前記制限用開口部5間に、前記基板4の相対移動方向に延在するリブ部24を設け、このリブ部24の前記基板4側先端面に、前記各制限用開口部5に設ける前記蒸着マスク2を支承し接合するマスク取付支承面23を設けたことを特徴とする請求項1〜8記載の蒸着装置に係るものである。
【0025】
また、前記マスクホルダー6は、前記基板4の相対移動方向に延在して、前記蒸着マスク2をマスクホルダー6に張設する際に蒸着マスク2に付与される張力によるマスクホルダー6の変形を防ぐため、張設する方向におけるマスクホルダー6の剛性を向上させるリブ部24を、前記制限用開口部5間に設けた構成としたことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0026】
また、前記温度制御機構9は、前記マスクホルダー6の前記制限用開口部5の周囲若しくはこの制限用開口部5間に、熱交換して温度制御される媒体を流通させる媒体路12若しくはヒートパイプ22を設けた構成としたことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0027】
また、前記温度制御機構9は、前記制限用開口部5の周囲若しくはこの制限用開口部5間に、媒体を流通させる前記媒体路12若しくは前記ヒートパイプ22を前記マスクホルダー6内に設けて構成し、前記基板4と前記蒸発源1との対向方向に複数段設けた構成としたことを特徴とする請求項11記載の蒸着装置に係るものである。
【0028】
また、前記温度制御機構9は、前記マスクホルダー6内に、前記蒸発源1側被温度制御部9Aと前記基板4側被温度制御部9Bとを備え、各被温度制御部9A,9Bに夫々独立に媒体を流通させる前記媒体路12若しくは夫々独立した前記ヒートパイプ22を内装した構成としたことを特徴とする請求項12記載の蒸着装置に係るものである。
【0029】
また、前記温度制御機構9は、前記媒体路12内部若しくは前記ヒートパイプ22内部で生じる温度勾配が、前記対向方向に設けた各々の段同士で異なる向きに生じさせるように、前記媒体路12若しくは前記ヒートパイプ22を配置して構成したことを特徴とする請求項11,12のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0030】
また、前記温度制御機構9は、前記媒体路12若しくは前記ヒートパイプ22を、前記リブ部24内に配設して構成したことを特徴とする請求項9〜14のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0031】
また、前記温度制御機構9は、前記リブ部24内に配設した前記媒体路12内部若しくは前記ヒートパイプ22内部で生じる温度勾配が、隣接する前記リブ部24間で互いに異なる向きに生じさせるように、前記媒体路12若しくは前記ヒートパイプ22を配置して構成したことを特徴とする請求項15記載の蒸着装置に係るものである。
【0032】
また、前記マスクホルダー6は、前記制限用開口部5の形状を、前記基板4側の開口面積より前記蒸発源1側の開口面積が小さい形状に形成したことを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0033】
また、前記マスクホルダー6の前記制限用開口部5間に、前記独立した前記蒸発源1側被温度制御部9Aと前記基板4側被温度制御部9Bを設けて、前記蒸発源1側被温度制御部9Aの前記媒体路12の媒体流量若しくは媒体との接触面積、又は前記ヒートパイプ22の数、若しくはヒートパイプ22の断面積を、前記基板4側被温度制御部9Bより増大させこの蒸発源1側被温度制御部9Aの温度制御能力を高めたことを特徴とする請求項13記載の蒸着装置に係るものである。
【0034】
また、前記蒸着マスク2の前記基板4側の表面に、前記マスク開口部3の周囲若しくはこのマスク開口部3間に、熱交換して温度制御される媒体を流通させる媒体路12若しくは前記ヒートパイプ22を配設して、前記蒸着マスク2に前記温度制御機構9を設けたことを特徴とする請求項1〜18のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0035】
また、前記蒸発源1の前記蒸発口部8は、前記基板4の相対移動方向に長くこれと直交する横方向に幅狭いスリット状としたことを特徴とする請求項1〜19のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0036】
また、前記基板4と前記蒸着マスク2とが離間状態で蒸着しこの蒸着マスク2による成膜パターンの蒸着膜が基板4に形成される際、この蒸着膜の側端傾斜部分である陰影SHは、前記基板4と前記蒸着マスク2とのギャップをG,前記蒸発口部8の前記横方向の開口幅をφx,この蒸発口部8と前記蒸着マスク2との距離をTSとすると、下記の式で表され、この陰影SHが隣接する蒸着膜との間隔PPに達しないように、前記蒸着口部8の前記開口幅φxを小さく設定して前記ギャップGを大きく設定できるように構成したことを特徴とする請求項20記載の蒸着装置に係るものである。
【数1】

【0037】
また、前記基板4の相対移動方向と直交する横方向に複数並設する前記蒸発口部8のすべて若しくはその一部は、一つの前記蒸発源1に設けた構成とし、前記成膜材料を加熱する蒸発粒子発生部26と、この蒸発粒子発生部26から発生した前記蒸発粒子が拡散し圧力を均一化する横長拡散部27とで前記蒸発源1を構成し、この横長拡散部27に前記蒸発口部8を前記横方向に複数並設形成したことを特徴とする請求項1〜21のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0038】
また、前記蒸発源1の前記蒸発口部8を前記基板4の相対移動方向と直交する横方向に複数並設し、各蒸発口部8を前記蒸発源1の前記基板4側に向けて突出する蒸発口部形成用突出部28の先端部に設け、この蒸発口部形成用突出部28の周囲若しくはこの蒸発口部形成用突出部28間に、前記蒸発源1の熱を遮断する熱遮断部19を配設したことを特徴とする請求項1〜22のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0039】
また、前記蒸着マスク2の前記マスク開口部3は、前記基板4の前記相対移動方向と直交する横方向に複数並設した構成とし、この各マスク開口部3は、前記相対移動方向に長いスリット状に形成若しくは開口部を前記相対移動方向に複数並設し、この相対移動方向のトータル開口長を前記制限用開口部5の中央部に比して前記横方向に離れる程長くなるように設定したことを特徴とする請求項1〜23のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0040】
また、前記基板4に蒸着される成膜パターンを決する前記蒸着マスク2のマスク開口部3の前記基板4の相対移動方向と直交する横方向における形成ピッチを、前記蒸着膜の成膜パターンのピッチよりも前記基板4と前記蒸着マスク2とのギャップGと、前記基板4と前記蒸発源1との距離のうち、少なくともいずれか一つの大小に応じた相違分だけ狭く設定し、前記蒸着マスク2のマスク開口部3の前記基板4の相対移動方向と直交する横方向における開口寸法を、前記蒸着膜の成膜パターンのパターン幅よりも、前記ギャップG、前記距離、前記蒸発源1の前記蒸発口部8の前記横方向における開口幅φxのうち、少なくともいずれか一つの大小に応じた相違分だけ広く設定したことを特徴とする請求項1〜24のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0041】
また、前記マスクホルダー6は、蒸着装置に対して着脱可能なように前記温度制御機構9と連結部25を介して接続されることを特徴とする請求項1〜25のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0042】
また、前記マスクホルダー6若しくはマスクホルダー6に付設した前記蒸着マスク2の少なくとも一方に付着した成膜材料を洗浄する洗浄機構を備えたことを特徴とする請求項1〜26のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0043】
また、前記マスクホルダー6若しくはマスクホルダー6に付設した前記蒸着マスク2の少なくとも一方に付着した成膜材料を回収する材料回収機構17を備えたことを特徴とする請求項1〜27のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0044】
また、前記基板4と前記蒸着マスク2との間に、第二の蒸着マスク10を配設したことを特徴とする請求項1〜28のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0045】
また、前記第二の蒸着マスク10の第二のマスク開口部11は、この第二の蒸着マスク10より前記蒸発源1側に位置する前記蒸着マスク2の前記マスク開口部3に比して、少なくとも前記基板4の前記相対移動方向と直交する横方向の開口パターンは同一パターンに設けると共に、開口部形成ピッチは前記基板4との距離の相違に対応して異なる形成ピッチとし、開口部幅は同一か幅狭くなるように設けたことを特徴とする請求項29記載の蒸着装置に係るものである。
【0046】
また、前記第二の蒸着マスク10は、これより前記蒸発源1側に位置する前記蒸着マスク2よりも線膨張係数が大である材料で形成したことを特徴とする請求項29,30のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0047】
また、前記成膜材料を、有機材料としたことを特徴とする請求項1〜31のいずれか1項に記載の蒸着装置に係るものである。
【0048】
また、前記請求項1〜32のいずれか1項に記載の蒸着装置を用いて、前記基板4上に前記蒸着マスク2により定められた成膜パターンの蒸着膜を形成することを特徴とする蒸着方法に係るものである。
【発明の効果】
【0049】
本発明は上述のように構成したから、基板の大型化に伴って蒸着マスクを同等に大型化せず基板より小形の蒸着マスクでも、基板を離間状態で相対移動させることで広範囲に蒸着マスクによる成膜パターンの蒸着膜を蒸着でき、また、離間状態のまま相対移動させることで構造も簡易で効率良くスピーディーに蒸着でき、しかも蒸着マスクが離間状態のままでも制限用開口部を蒸発源と蒸着マスクとの間に設けることで、蒸発粒子の飛散方向を制限して隣り合う若しくは離れた位置の蒸発口部からの蒸着粒子を通過させず成膜パターンの重なりを防止すると共に、この制限用開口部を設けた飛散制限部を有するマスクホルダーに蒸着マスクを接触させて付設した構成とし、このマスクホルダー若しくは蒸着マスクの少なくとも一方に蒸着マスクの温度を保持する温度制御機構を設けることで、このマスクホルダーは飛散制限部としてだけでなく蒸発源からの輻射熱の入射を抑制し蒸着マスクの温度上昇を抑制する温度保持機能を発揮して、蒸着マスクの温度を一定に保持させることができ、これにより蒸着マスクの熱による歪みを防止して、基板と蒸着マスクとを離間状態で相対移動させる構成でありながら、高精度の蒸着が行える蒸着装置並びに蒸着方法となる。
【0050】
特に有機ELデバイスの製造にあたり、基板の大型化に対応でき、有機発光層の蒸着も精度良く行え、マスク接触による基板,蒸着マスク,蒸着膜の損傷も防止でき、基板より小さな蒸着マスクにより高精度の蒸着が実現できる有機ELデバイス製造用の蒸着装置並びに蒸着方法となる。
【0051】
また、請求項2,3記載の発明においては、一層本発明の作用・効果が良好に発揮され、一層実用性に優れた蒸着装置となる。
【0052】
また、請求項4,5記載の発明においては、蒸着マスクを蒸発源から最も離れた基板側の端部でマスクホルダーに付設するので、蒸発源からの輻射熱の入射を更に抑制でき、また、蒸着マスクに付与した張力は、マスクホルダーの温度保持機能によって安定的に維持されるのである。
【0053】
また、請求項6記載の発明においては、蒸着マスクに対して基板の相対移動方向に張力を付与するので、蒸着マスクが撓むことがなくなり、撓みによって生じていた成膜誤差がなくなる。
【0054】
また、請求項7記載の発明においては、複数枚に分割した小さな蒸着マスクでも大型の基板に成膜できるので、蒸着マスクの作製が容易となる。
【0055】
また、請求項8記載の発明においては、各蒸発口部毎の膜厚分布特性に基づいてこの各蒸着領域毎で均一化を図るように、マスク開口部を個別に設定した蒸着マスクを並設したり、これら蒸着マスクを個別に取り替えたりできるように構成可能となるなど一層実用性に優れる。
【0056】
また、請求項9,10記載の発明においては、基板の相対移動方向に延在させて設けたリブ部によって、蒸着マスクの張力によるマスクホルダーの変形が防止できると共に、蒸着マスクの張力が維持でき、かつ、マスク取付支承面を設けたことで、蒸着マスクのマスクホルダーへの支承・接合が強固に行える。
【0057】
また、請求項11記載の発明においては、蒸着マスク若しくはこの蒸着マスクの熱を伝導する部位となるマスクホルダーに温度制御機構を容易に設けることができ、蒸着マスクを一定の温度に保持してこの蒸着マスクの熱膨張を抑制し、高精度の成膜パターンに蒸着できることが容易に実現できる。
【0058】
また、請求項12〜19記載の発明においては、蒸着マスクを一定の温度に保持する温度保持機能が一層高まることになり、また例えば蒸発粒子が多量に付着する蒸発源側のマスクホルダーの温度保持機能を高めることができる。
【0059】
即ち、例えばマスクホルダーに複数段設けた被温度制御部のうち、蒸発源側の被温度制御部で蒸発源由来の熱を吸収し、基板側(蒸着マスク側)の被温度制御部で更に熱を吸収して蒸着マスクの温度を一定に保つことができ、一層前記温度保持機能が高まることとなる。
【0060】
また更に請求項14記載の発明においては、例えば、下段側では、蒸発源からマスク側に向かう方向に温度勾配を生じさせ、上段側では、蒸着マスクから蒸発源側に向かう方向に温度勾配を生じさせた場合では、蒸発源からの高温の輻射熱がマスクホルダー下段に入射しても該下段部の温度上昇を一層抑制でき、上段側では、蒸着マスクから蒸発源側に向かう方向に温度勾配を生じさせて、蒸発源からの高温の輻射熱が蒸着マスクに入射しても該蒸着マスクの温度上昇を一層抑制できる。
【0061】
また、請求項15記載の発明においては、蒸発源からの高温の輻射熱がリブ部に入射しても該リブ部の温度上昇を抑制し、マスクホルダー端部に付設した蒸着マスクの熱膨張を抑制できる。
【0062】
また、請求項16記載の発明においては、蒸発源からの高温の輻射熱がリブ部やマスクホルダーに入射しても、マスクホルダー内での温度分布が均一化するので、マスクホルダーの温度上昇を一層抑制し、マスクホルダー端部に付設した蒸着マスクの熱膨張を一層抑制できる。
【0063】
また請求項17記載の発明においては、マスクホルダーの制限用開口部の形状を、基板側の開口面積より蒸発源側の開口面積が小さい形状としたので、蒸発源から蒸発した成膜材料の蒸発粒子を制限用開口部の蒸発源側でより多く捕捉することができることとなって、制限用開口部の基板側、即ち、蒸発マスクに付着する成膜材料を低減でき、蒸着マスクの交換サイクルを長時間化できると共に、マスクホルダーを交換した後の付着した成膜材料の回収がし易くなる。
【0064】
また、請求項19記載の発明においては、蒸着マスク自体を温度制御するため効率が良く、また例えば更に前記マスクホルダーにも温度制御機構を設けることで更に温度保持機能が向上し、また、基板と蒸着マスクとの離間部分(ギャップ)を利用して温度制御機構の一部を構成する媒体路やヒートパイプを設けることができるので、媒体路やヒートパイプのレイアウトの自由度を確保することができる。
【0065】
また、請求項20記載の発明においては、蒸発源の蒸発口部の開口幅を狭めることで、基板と蒸着マスクとのギャップにより生じる(このギャップの大きさ、蒸発源との距離によっても変化する)前記成膜パターンの陰影(蒸着膜の側端傾斜部分のはみ出し量)を一層抑制することができ、また蒸発口部の開口長を相対移動方向に長くすることで蒸発レートを高くすることができる。
【0066】
特に請求項21記載の発明においては、蒸発口部の開口幅を狭めることで、例えばRGBを順次成膜するような場合に、隣接する蒸着膜(隣接画素)に達する程の陰影が生じることを防止でき、またこのように蒸発口部の開口幅を狭めることで基板と蒸着マスクとのギャップを大きくとれることとなり、前述した制限用開口間のマスク取付支承面を広くとれたり、蒸着マスク自体に温度制御機構を設けたりすることができるなど一層優れた蒸着装置となる。
【0067】
また請求項22記載の発明においては、一つの蒸発源として複数の蒸発口部を並設する構成としたため、一つの蒸発源で蒸発粒子の発生量や噴出圧力などの調整や制御を行うことができ、特に蒸発源に横長拡散部を設け、これに複数の蒸発口部を並設することで圧力の均一化が図れ、並設された複数の蒸発口部間での圧力の均一化が図れることとなる。
【0068】
また、請求項23記載の発明においては、蒸発源に蒸発口部形成用突出部を例えば前記横長拡散部に(基板側に向けて)突設し、この各突出部の先端部に前記蒸発口部を設けた構成とすることで、蒸発口部以外の加熱範囲即ち蒸発源の高熱範囲からの輻射熱を、例えば冷却部材などの熱遮断部(蒸発源に設ける温度制御部として機能すること)によって遮断できるため、一層蒸着マスクの温度上昇を抑制して蒸着マスクの温度を一定に保持できることとなる。
【0069】
また、請求項24記載の発明においては、基板の相対移動によって蒸着マスクのマスク開口部の横方向の配列によって決する成膜パターンの蒸着膜を形成するが、この蒸着マスクのマスク開口部は、基板の相対移動方向には長いトータル開口長を、制限用開口部の中央部(例えば蒸発口部と対向する位置)から横方向に離れる程長く設定したから、横方向に離れる程蒸発レートが低くなるが、これに対応して開口長が長くなることで膜厚を均一にできる。
【0070】
また、請求項25記載の発明においては、基板上に蒸着される成膜パターンの成膜ピッチより、マスク開口部の前記横方向における形成ピッチを、基板と蒸着マスクとのギャップと、基板と蒸発源との距離のうち、少なくともいずれか一つの大小に応じた相違分だけ狭く設置し、成膜パターンのパターン幅よりも、マスク開口部の前記横方向における開口寸法を、前記ギャップ、前記距離、前記蒸発源の前記蒸発口部の前記横方向における開口幅のうち、少なくともいずれか一つの大小に応じた相違分だけ広く設定したことから、基板と蒸着マスクとが離間し、これらの間にギャップが存在しても、成膜パターンの位置がずれたり、成膜パターンの幅がずれたりすることがなくなり、成膜パターンの形成精度を高精度にすることができる。
【0071】
また、請求項26記載の発明においては、連結部を介して蒸着装置と接続したことで、例えば、マスクホルダーの交換時に温度制御機構との分離や再接続が容易に行える。
【0072】
また、請求項27記載の発明においては、洗浄装置を備えたことにより、マスクホルダー若しくは蒸着マスクに付着した成膜材料を、蒸着装置内で洗浄でき、マスクホルダーや蒸着マスクを再利用することが容易にできる。
【0073】
また、請求項28記載の発明においては、材料回収機構を備えたことにより、材料を回収して再利用ができ、例えば更に請求項17記載の発明のようにマスクホルダーの形状を蒸発源側を大きくして(制限用開口部内面に付着しにくくなるように蒸発源側端部を広くして)、例えば更に請求項18記載の発明のように蒸発源側の温度制御部の被温度保持機能を高めることで、このマスクホルダーの蒸発源側端部に材料が付着し回収が一層簡易となる。
【0074】
また、請求項29記載の発明においては、第二の蒸着マスクを設けることで前記蒸発源からの輻射熱の入射を抑制した上で第二の蒸着マスクの開口パターンで成膜できるので、第二の蒸着マスクの温度上昇を抑制しつつ一層高精度の蒸着が行える。
【0075】
また、請求項30記載の発明においては、一層確実に陰影を防止でき高精度の蒸着が行える第二の蒸着マスクを実現できる蒸着装置となる。
【0076】
また、請求項31記載の発明においては、蒸着マスクとこれに接触する制限用開口部を設けた飛散制限部を有するマスクホルダーと、これに設けた温度制御機構によって蒸着マスクの温度上昇を抑えて温度を一定に保持することができるので、この蒸着マスクと基板との間に設ける第二の蒸着マスクは、更に温度上昇しにくくなることから線膨張係数が大きい材料で形成できるため、例えば電鋳で形成できることになり一層高精細なマスク開口部を形成でき、これにより一層高精度の蒸着を行える蒸着装置となる。
【0077】
また、請求項32記載の発明においては、有機材料の蒸着装置となり一層実用性に優れる。また、請求項33記載の発明においては、前記作用・効果を発揮する優れた蒸着方法となる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本実施例の要部を断面した概略説明正面図である。
【図2】本実施例の要部を断面した説明正面図である。
【図3】本実施例の要部を断面した説明側面図である。
【図4】本実施例の要部の説明斜視図である。
【図5】本実施例の説明分解斜視図である。
【図6】本実施例の温度制御機構を示す図4のA−A線断面図である。
【図7】本実施例の温度制御機構を示す図4のB−B線断面図である。
【図8】本実施例の温度制御機構を示す図4のC−C線断面図である。
【図9】本実施例の温度制御機構を示す図4のD−D線断面図である。
【図10】本実施例の蒸着マスクにも設けた温度制御機構を示す説明平面図である。
【図11】本実施例の蒸着マスクにも設けた温度制御機構を示す説明正断面図である。
【図12】本実施例の蒸着マスクに設ける温度制御機構の別例を示す説明正面図である。
【図13】本実施例の要部の拡大説明正面図である。
【図14】本実施例の蒸発源の説明斜視図である。
【図15】本実施例の蒸着マスクの拡大説明平面図である。
【図16】本実施例の蒸着マスクの別例を示す拡大説明平面図である。
【図17】本実施例の蒸発源の蒸発口部の開口幅を狭めることで蒸着膜の陰影を抑制でき、またこれによりギャップを大きくとることができることを示す説明図である。
【図18】本実施例の蒸着マスクのマスク開口部の横方向の配列ピッチが成膜ピッチよりも少し狭くすることを示す説明図である。
【図19】本実施例の蒸着マスクのマスク開口部の横方向の開口寸法が成膜パターンのパターン幅よりも少し広くすることを示す説明図である。
【図20】本実施例の蒸着レートが中央部から横方向にずれる程低くなることを示す説明図である。
【図21】本実施例の膜厚分布が余弦則に基づく分布となりこれに応じてマスク開口部の形成長を中央部から横方向に離れる程長く補正設定することを示すグラフである。
【図22】本実施例のマスクホルダーの制限用開口部間のリブ部のマスク取付支承面を広くとることができることを示す説明図である。
【図23】第二実施例(第二の蒸着マスクを設けた実施例)の要部を断面した概略説明正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0079】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0080】
図1において、蒸発源1から蒸発した成膜材料は、飛散制限部として構成したマスクホルダー6の制限用開口部5を通過すると共に、蒸着マスク2のマスク開口部3を介して基板4上に堆積して、この蒸着マスク2により定められた成膜パターンの蒸着膜が基板4上に形成される。
【0081】
この際、前記基板4と前記蒸着マスク2とを離間状態に配設し、この基板4を、前記蒸着マスク2や前記蒸発源1に対してこの離間状態を保持したまま相対移動自在に構成して、この基板4を相対移動させることにより、蒸着マスク2自体よりも広い範囲にこの蒸着マスク2により定められる成膜パターンの蒸着膜が基板4上に形成される。
【0082】
また、この蒸着マスク2と蒸発源1との間に、蒸発源1から蒸発した成膜材料の蒸発粒子の飛散方向を制限する前記制限用開口部5を設けた飛散制限部を有するマスクホルダー6を設けて、制限用開口部5により隣り合う若しくは離れた位置の蒸発口部8からの蒸発粒子を通過させず蒸着マスク2と基板4とが離間状態にあっても成膜パターンの重なりを防止している。
【0083】
また更にこの飛散制限部を構成するマスクホルダー6に蒸着マスク2を接合させて付設した構成とし、このマスクホルダー6若しくは蒸着マスク2の少なくとも一方に蒸着マスク2の温度を保持する温度制御機構9を設けたから、前記蒸発源1からの熱の入射が抑えられマスクホルダー6や蒸着マスク2の温度上昇が抑制され、また、蒸着マスク2が基板4と離間状態であってもこのマスクホルダー6と接触していることで蒸着マスク2の熱はマスクホルダー6へ逃げ、しかもこのマスクホルダー6若しくは蒸着マスク2に温度制御機構9が設けられているから、蒸着マスク2を一定の温度に保持する温度保持機能が向上する。
【0084】
従って、この飛散制限部を有するマスクホルダー6は、蒸発粒子の飛散方向の制限機能と同時に温度保持機能をも果たし、蒸着マスク2の温度上昇を抑制でき蒸着マスク2を一定の温度に保持し、熱による蒸着マスク2の歪みも生じにくいこととなる。
【0085】
従って、基板4を、蒸着マスク2,この蒸着マスク2を付設したマスクホルダー6及び蒸発源1に対してこの蒸着マスク2との離間状態を保持したまま相対移動させることで、この相対移動方向に蒸着マスク2による前記成膜パターンの蒸着膜を連続させて基板4より小さい蒸着マスク2でも広範囲に蒸着膜が形成され、且つ隣り合う若しくは離れた位置の蒸発口部8からの入射による成膜パターンの重なりも、熱による歪みなども十分に抑制され高精度の蒸着が行える蒸着装置となる。
【実施例1】
【0086】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0087】
本実施例は、蒸発源1から蒸発した成膜材料(例えば、有機ELデバイス製造のための有機材料)を、蒸着マスク2のマスク開口部3を介して基板4上に堆積して、この蒸着マスク2により定められた成膜パターンの蒸着膜が基板4上に形成されるように構成した蒸着装置において、基板4と蒸着マスク2とを離間状態に配設し、この基板4を、蒸着マスク2,制限用開口部5を設けた飛散制限部として構成したマスクホルダー6及び蒸発源1に対して、蒸着マスク2との離間状態を保持したまま相対移動自在に構成して、この相対移動により蒸着マスク2より広い範囲にこの蒸着マスク2により定められる成膜パターンの蒸着膜が基板4上に形成されるように構成している。
【0088】
また、この蒸着マスク2と蒸発源1との間に、複数並設した蒸発源1の蒸発口部8から蒸発した成膜材料の蒸発粒子の飛散方向を制限する制限用開口部5を設けた飛散制限部を構成したマスクホルダー6を設け、飛散角度の大きい前記蒸発粒子を制限することで隣り合う若しくは離れた位置の蒸発口部8からの蒸発粒子を通過させないようにしている。
【0089】
即ち、複数の蒸発口部8からの蒸発粒子によって蒸着する構成として蒸発レートを確保しつつ大面積の基板4に蒸着できるようにすると共に、制限用開口部5により隣り合う若しくは離れた位置の蒸発口部8からの入射を防止して蒸着マスク2と基板4とが離間状態にあっても成膜パターンの重なりも防止されるように構成している。
【0090】
また更にこの飛散制限部を構成するマスターホルダー6に蒸着マスク2を接合させて付設した構成とし、このマスクホルダー6若しくは蒸着マスク2の少なくとも一方に蒸着マスク2の温度を保持するように制御する温度制御部9を設け、蒸着マスク2が基板4と離間状態であってもこのマスクホルダー6と接合していることで熱がマスクホルダー6へ伝導するように構成し、このマスクホルダー6は蒸発粒子の飛散方向の制限機能と同時に温度保持機能をも果たすようにして、蒸着マスク2の温度上昇を抑制し、蒸着マスク2の温度が一定に保持するように構成している。
【0091】
また、このように蒸着マスク2はマスクホルダー6に接合させた構成として熱を逃がすから、蒸着マスク2が基板4と重合接触していなく離間状態のまま蒸着する構成であっても、この蒸着マスク2の温度上昇は十分に抑制され、また前記マスターホルダー6や蒸着マスク2に直接設ける温度制御機構9による温度保持機能が一層高まり、蒸着マスク2を一定の温度に保持するように温度制御できるため、蒸着マスク2には、熱による歪みが生じにくく、成膜パターンの精度が保持されこの位置精度の高い蒸着が行える。
【0092】
従って、基板4を、蒸着マスク2を付設したマスクホルダー6(マスクユニット)及び蒸発源1に対してこの蒸着マスク2との離間状態を保持したまま相対移動させて、この相対移動方向に蒸着マスク2の前記成膜パターンの蒸着膜を連続させてこの基板4より小さい蒸着マスク2でも広範囲に蒸着膜が形成され、且つこの成膜パターンの位置精度が高い高精度の蒸着が行える優れた蒸着装置となる。
【0093】
更に説明すると、具体的には、減圧雰囲気とする蒸着室7内(例えば真空チャンバー7内)に、前記成膜材料(例えば有機ELデバイスの製造にあたっての有機材料)を収めた前記蒸発源1と、この蒸発源1の複数並設した蒸発口部8から蒸発する前記成膜材料の蒸発粒子が通過するマスク開口部3を設けた前記蒸着マスク2とを配設し、この蒸着マスク2と離間状態に位置合わせする基板4に、前記複数の蒸発口部8から飛散する蒸発粒子が前記マスク開口部3を通過して堆積し蒸着マスク2により定められる成膜パターンの蒸着膜がこの基板4上に形成されるように構成し、この基板4と蒸発源1との間に隣り合う若しくは離れた位置の蒸発口部8からの蒸発粒子を通過させないようにする制限用開口部5を設けた飛散制限部を構成するマスクホルダー6を配設し、このマスクホルダー6に基板4と離間状態に配設する前記蒸着マスク2を接合させて付設し、このマスクホルダー6に蒸発源1からの熱を吸収し、蒸着マスク2の温度を保持する前記温度抑制機構9を設けている。
【0094】
言い換えると、本実施例では、このように基板4と蒸着マスク2とを離間状態で相対移動させて蒸着するため、基板4の相対移動方向と直交する横方向に複数の蒸発口部8を設け、この蒸発口部8のうち隣り合う若しくは離れた位置の蒸発口部8からの入射による成膜パターンの重なりを各制限用開口部5により制限して(付着捕捉して)防止し、また、基板4と蒸着マスク2とが離間状態で蒸着しこの蒸着マスク2による成膜パターンの蒸着膜が基板4に形成される際、この蒸着膜の両側端傾斜部分として陰影SHが生じるが、この陰影SHは、基板4と蒸着マスク2とのギャップG、蒸発口部8との距離TSなどの諸条件に応じて変化する。本実施例では各蒸発口部8を開口幅φxを幅狭くしてこの陰影SH(はみ出し量)を抑え、また蒸発口部8の開口長は相対移動方向には長くして蒸発レートを高めている。
【0095】
具体的には、図17に示すように、蒸着膜の両側端部の傾斜部分である陰影SHは、基板4と蒸着マスク2とのギャップをG,蒸発口部8の前記横方向の開口幅をφx,この蒸発口部8と蒸着マスク2との距離をTSとすると、下記の式で表され、この陰影SHが隣接する蒸着膜との間隔PPに達しないように、蒸着口部8の開口幅φxを小さく設定してギャップGを大きく設定できるように構成している。
【0096】
【数2】

【0097】
本実施例では、例えば有機EL表示装置の製造において、発光層であるRGBを順次蒸着するが、この場合RGB夫々において蒸着マスク2を用いて成膜する。例えば、画素Rを蒸着する場合は、画素GBは蒸着マスク2で隠されることになるが、本実施例のように基板4と蒸着マスク2とが離間している場合は、蒸着膜の両端傾斜部分の陰影SHが生じるが、この陰影SHが隣接画素には届かないように設定する必要(SH<PPとする)がある。
【0098】
この陰影SHは、基板4と蒸着マスク2とのギャップG、蒸発口部8と蒸着マスク2までの距離TS、蒸発口部8の開口幅φxの条件に応じて変化する。図17に示すように、陰影SHは前記の式で表され、隣接する蒸着膜との間隔PPに達しないように、蒸発口部8の開口幅φxを小さく設定してギャップGを大きく設定できるようにしている。
【0099】
具体的には、陰影SH0.03mm以下に設定し、TSを100〜300mmとし、φxを0.5〜3mmで設定すると、ギャップGが1mm以上確保できる。
【0100】
例えば、TSを100mmでφxを3mmとすると、Gは1mmとなり、また、TSを100mmでφxを0.6mmまで小さくすると、Gを5mm確保することができる。また、TSを300mmとし、φxを3mm、Gを1mmとすると、SHを0.01mmまで小さくすることができ、より高精細な成膜パターンに対応できるようにしてもよい。
【0101】
このように、基板4と蒸着マスク2とのギャップGが1mm以上有することを利用して、後述するように蒸着マスク2自体に媒体路12やヒートパイプ22を設けることが可能になり、後述するようにマスクフレーム6のリブ部24にマスク取付支承面23を広く形成できたり、後述する第二の蒸着マスク10を配設することも可能になる。
【0102】
また本実施例では、蒸発源1と基板4との距離を大きくすると装置の大型化を招くし、材料効率も悪いし、また蒸着レートも低くなるから、前述のように横方向に多数の蒸発口部8を並設し、夫々に蒸着マスク2を対向させ一つの蒸発口部8での蒸着範囲を狭くして、入射角が大きくならないようにすると共に、複数の蒸発口部8による蒸着であっても制限用開口部5で成膜パターンの重なりも防止し、蒸発源1との距離もそれ程大きくしなくてよい構成としている。
【0103】
また、このように入射角が大きくならないことにより、蒸発口部8と対向する位置から左右に離れる程蒸着レートが低くなることによる膜厚の減少を防止している。また、入射角が大きいと、基板4と蒸着マスク2とのギャップGの変動に対して成膜パターンの変化による蒸着位置の変化量が大きくなってしまう、即ち基板4の平面度や蒸着マスク2の平面度の誤差が熱の歪みなどによって生じると、このギャップGが変動し、これによる誤差が大きくなるため、入射角が大きくならないようにすることでこの蒸着位置の誤差による変化量を抑えて精度の高い蒸着が行えるようにしている。
【0104】
また本実施例では、更に前述のように陰影SHについては、各蒸発口部8を幅狭なスリット状開口部として横方向の開口幅φxを小さくし、隣接する蒸着膜(隣接画素)に達する程の陰影SHが生じないようにしている。
【0105】
また本実施例では、前述のように幅狭な蒸発口部8を横方向に並設し、これに対向して夫々に対応するマスク開口部3を設けた蒸着マスク2を配設し、この蒸着マスク2と蒸発源1との間に前記制限用開口部5を設けて、これに対向する蒸発口部8からの蒸発粒子だけを通過して隣り合う若しくは離れた位置の蒸発口部8からの蒸発粒子を通過させずに付着捕捉し、成膜パターンの重なりを防止しているが、本実施例では、このように各蒸発口部8に対して、夫々一若しくは複数の蒸発口部8毎に制限用開口部5を対応させ、この制限用開口部5毎に対応するように蒸着マスク2を付設している。
【0106】
更に具体的に説明すると、本実施例では、真空チャンバー7内に蒸発源1、蒸着マスク2を付設したマスクホルダー6(マスクユニット)そして基板4を配設し、減圧用ポンプ13によりこのチャンバー7内を減圧し、アライメント機構14により基板4とマスクホルダー6に付設した蒸着マスク2との位置合わせをし、基板4をこの蒸着マスク2に対して相対移動(水平搬送)することで蒸着する構成としている。
【0107】
この基板4と蒸着マスク2とを位置合わせするアライメント機構14は、例えば基板4と蒸着マスク2とに夫々設けたアライメントマークをカメラで捉えて画像判断し、これが合致するように移動調整機構でX,Y,θ方向に微調整して位置合わせするように構成し、また大型であっても基板4の歪みを生じないようにその中央部を平坦面で吸着する基板吸着部を移動させて大型の基板4を水平搬送する相対移動用の搬送機構15を備えた構成としている。勿論、どちらかを移動させてもよいし、上下関係も逆でも縦形配置としてもよい。
【0108】
従って、本実施例では、大型基板4でも容易に搬送可能なインライン方式としたもので、横方向では基板4と略合致するが移動方向には幅狭い小型の蒸着マスク2に対して、大型の基板4を離間状態でアライメントした後、この離間状態のまま基板4を搬送機構15により水平搬送させて蒸着する構成としている。
【0109】
従って、基板サイズがG6,G8と大型となっても蒸着マスク2は大判としなくてもよいため、それだけ製作が困難とならず、また基板4と接触しないため、パーティクルの問題や基板4、蒸着マスク2あるいは蒸着膜の損傷の問題も生じにくく高品質な成膜を得ることができる。
【0110】
また本実施例では、複数の蒸発源1を並設して各蒸発口部8を並設してもよいが、一つの横長な蒸発源1に複数の蒸発口部8を並設した構成とし、この横方向に多数並設する蒸発口部8は、一つの前記蒸発源1に設けた構成とし、前記成膜材料を加熱する蒸発粒子発生部26と、この蒸発粒子発生部26から発生した前記蒸発粒子が拡散させて圧力を均一化する横長拡散部27とで前記蒸発源1を構成し、この横長拡散部27に前記蒸発口部8を前記横方向に複数並設形成している。更に説明すると、例えば自動るつぼ交換機構18により交換自在な蒸発粒子発生部26(るつぼ26)に成膜材料を収納し、このるつぼ26で加熱されて蒸発した蒸発粒子を一旦停留させて圧力を均一化する横長形の前記横長拡張部27を設け、この横長拡張部27の上部に相対移動方向に長くこれと直交する横方向に前述のように幅狭いスリット状開口部を多数横方向に沿って並設して前記蒸発口部8を多数並設している。
【0111】
そしてこの蒸発口部8を複数並設した横方向に、前記制限用開口部5も複数並設して、前記各蒸発口部8から蒸発する蒸発粒子が、対向する前記制限用開口部5のみを通過し更にこの制限用開口部5と対向する前記蒸着マスク2の前記マスク開口部3を介して前記基板4上に前記成膜パターンの蒸着膜が形成されるようにし、隣り合う若しくは離れた前記蒸発口部8からの蒸発粒子はこの飛散制限部として構成したマスクホルダー6に付着捕捉されるようにして前記制限用開口部5により前記蒸発粒子の飛散方向が制限されるように構成している。
【0112】
従って、蒸発源1に横長拡散部27を設け、これに複数の蒸着口部8を並設することで圧力の均一化が図れ一層膜厚の均一化が図れることとなる。
【0113】
更に説明すると、一つの制限用開口部5に対してその中央位置(の下方)に配されるように一つの蒸発口部8を対向配設させてもよいし、一つの制限用開口部5に対してこの制限用開口部5の中央を境に二つの蒸発口部8を対向配設させる構成としてもよいが、本実施例では、前述のように横並びの蒸発口部8の一つ一つに対して制限用開口部5を一つ一つ対応させるように並設した構成とし、隣り合う左右いずれの蒸発口部8からの蒸発粒子も夫々それらに対応する制限用開口部5は通過するが、隣りの制限用開口部5は通過できず付着捕捉されるようにしている。即ちこの制限用開口部5の並設間隔、開口径、開口深さを設定して、一つの蒸発口部8からの蒸発粒子はその対向する制限用開口部5だけを通過し、左右に隣り合う蒸発口部8からの蒸発粒子はこの制限用開口部5を通過しないように構成し、成膜パターンの重なりを確実に防止している。
【0114】
また本実施例の前記蒸着マスク2の前記マスク開口部3は、図15,16に示すように前記基板4の前記相対移動方向と直交する横方向に多数並設した構成とし、この各マスク開口部3は、前記相対移動方向に長いスリット状に形成若しくは開口部を前記相対移動方向に複数並設して、この相対移動方向のトータル開口長を横方向の開口長より長く形成している。
【0115】
即ち、蒸着マスク2の各列のマスク開口部3は、相対移動方向に長いスリット状開口部としてもよいし、蒸着マスク2の剛性を高めるため、このマスク開口部3は相対移動方向に長いスリット孔あるいは小孔などの小開口部をこの方向に点在させてトータル開口長(総合開口面積)を広く確保してもよい。
【0116】
図18に示すように、基板4に蒸着される成膜パターンを決する蒸着マスク2のマスク開口部3の前記基板4の相対移動方向と直交する横方向の形成ピッチを、前記蒸着膜の成膜パターンのピッチよりも、基板4と蒸着マスク2とのギャップGの大小及び蒸発源1と蒸着マスク2までの距離TSの大小に応じた相違分だけ狭く設定している。
【0117】
具体的には、図18に示すように、蒸発源開口中心に対向するマスク位置からのマスク開口中心までの距離MPxは、蒸発源開口中心に対向する基板4位置からの成膜パターン中心までの距離Pxにα/(1+α)乗じた分(このときα=TS/G)小さくなる。
【0118】
従って、例えばTSを100mm、Gを1mmとすると、αは100となり、α/(1+α)は約0.99となる。よって、例えばPxを10mmとすると、MPxは9.9mmとなり、MPxはPxより小さい値となる。
【0119】
即ち、基板4と蒸着マスク2とが離間しているため、基板4と蒸着マスク2とのギャップGの大小及び蒸発源1と蒸着マスク2までの距離TSの大小に応じて、蒸着マスク2のマスク開口部3を通過して基板4上に堆積する蒸着膜の位置は横方向にずれるが、このずれ量を考慮して、蒸着マスク2の開口ピッチを、成膜パターンピッチより狭く設定することで、成膜パターン位置精度の高い蒸着膜を形成できることとなる。
【0120】
また、同様に、図19に示すように蒸着マスク開口幅Mxは、蒸発口部8の開口幅φxがマスク開口幅より大きい場合、基板4と蒸着マスク2とのギャップGの大小及び蒸発源1と蒸着マスク2までの距離TSの大小に応じた相違分だけ、広くなる。具体的には、マスク開口幅Mxは(φx+αP/(1+α))で表される(このときα=TS/G)。
【0121】
例えば、蒸着パターン幅Pを0.1mm、TSを100mm、φxを1mmとした場合、マスク開口幅Mxは、Gが3mmでは約0.126mm、Gが5mmでは約0.143mmとなり、蒸着パターン幅より広くなる。
【0122】
更に、本実施例では、図15、図16に示すように、蒸着マスク2の開口スリットが中央部から横方向に離れるほど長くなるように設定して、中央部から離れる程蒸着レートが低くなっても膜厚分布が均一になるように設定している。
【0123】
例えば、図20,図21に示すように、前記基板1の相対移動方向と直交する横方向(X軸方向)のある位置xにおける蒸発粒子の飛散角度をθとすると、xの位置では余弦則(cosθ)に累乗係数nを乗じた近似分布となり、前記基板1の相対移動方向(Y軸方向)の膜厚分布をも勘案し、前記蒸着マスク2のマスク開口部3の形成長が中央部を境に左右対称に長く変化していくように設定している。
【0124】
具体的には、蒸発源口部の寸法が、例えば蒸発源開口幅φxが1mm、蒸発源スリット長φyが60mmとし、基板4の相対移動方向と直交する横方向の膜厚分布がcosθの20乗に近似した分布になるとすると、図21に示した膜厚分布となる。蒸発粒子の蒸着マスク2への入射角が大きくなると、前述した誤差の影響が大きくなるので、膜厚が中心の8割まで薄くなる位置まで成膜に使用すると、−30〜+30の60mmが1ノズルで成膜する成膜有効範囲である。蒸発源開口中心に対向するマスク位置での基板4の相対移動方向の形成長を100mmとすると、成膜有効範囲の両端である−30、+30の位置での蒸着マスク開口長は約146mmとなり、図21に示すように中心から両端に離れるほど左右対称に開口長が長くなる。
【0125】
また、本実施例の制限用開口部5は蒸発口部8側の開口面積が小さく蒸着マスク2側へ行く程広がる形状、言い換えると蒸発口部8側程開口面積が小さい逆角錐台状として、この制限用開口部5の蒸発口部8側の端面に(マスクホルダー6の端面)に蒸発粒子が付着し制限用開口部5の内面にはできるだけ付着しないようにして、このマスクホルダー6に付着した蒸発粒子(成膜材料)の剥離回収が容易となるように構成している。
【0126】
また、この各制限用開口部5と蒸発口部8とを近づけすぎると付着する蒸発粒子が蒸着の妨げとなるおそれがあるし、離れている場合には、隣り合う蒸発口部8からの蒸発粒子が制限用開口部5内面に付着する量が増え前述のように回収が容易でなくなる。そのため図13に示すように、制限用開口部5と蒸発口部8とは距離をおいて制限機能を高めると共に、隣の蒸発口部8からの蒸発粒子が制限用開口部5内面にまで入射せずマスクホルダー6の端部面に付着するように、各蒸発口部8と各制限用開口部5との各間に衝立部21を設けてもよい。
【0127】
また、本実施例では、この制限用開口部5を設けた飛散制限部を構成するマスクホルダー6に前記蒸着マスク2を接触させて付設すると共に、この飛散制限部6若しくは蒸着マスク2の少なくとも一方にこの蒸着マスク2の温度を保持する温度制御機構9を備えて、このマスクホルダー6は飛散制限部としてだけでなく蒸発源1からの熱の入射を抑制し蒸着マスク2の熱を伝導しまた更に熱を吸収する温度保持機能を発揮して、蒸着マスク2の温度を一定に保持させることができ、蒸着マスク2の熱による歪みを防止して、基板4と蒸着マスク2とを離間状態で相対移動させる構成でありながら、高精度の蒸着が行えるように構成している。
【0128】
即ち、前記蒸発源1からの熱の入射が抑えられマスクホルダー6や蒸着マスク2の温度上昇が抑制され、また、蒸着マスク2が基板4と離間状態であってもこのマスクホルダー6と接触していることで蒸着マスク2の熱はマスクホルダー6へ伝導し、しかもこのマスクホルダー6若しくは蒸着マスク2に温度制御機構9が設けられているから、蒸着マスク2を一定の温度に保持する温度保持機能が向上するように構成している。
【0129】
従って、この飛散制限部を構成するマスクホルダー6は、蒸発粒子の飛散方向の制限機能と同時に温度保持機能をも果たし、蒸着マスク2の温度上昇を抑制でき蒸着マスク2を一定の温度に保持し、熱による蒸着マスク2の歪みも生じにくいこととなり、成膜パターンの位置精度の高い蒸着膜を蒸着できることとなる。
【0130】
具体的には本実施例では、前述した形状の前記制限用開口部5を間隔を置いて並設したブロック状基体部の両端部を平坦面に形成して、前記制限用開口部5の開口端周辺部を平坦面とした形状にマスクホルダー6を形成し、この基板4側の端部の平坦面に蒸着マスク2を付設し、反対側の蒸発源1側の端部の平坦面を蒸発粒子が付着する付着面としている。このマスクホルダー6のブロック状基体部の上下に夫々独立した媒体を流通させこれを熱交換して温度制御する媒体路12若しくは更にヒートパイプ22を夫々制限用開口部5の周囲並びに制限用開口部5間に設けて、熱を吸収し温度上昇を抑制し蒸着マスク2の温度を一定に保持するように温度制御する温度制御機構9をこのマスクホルダー6内に設けた構成としている。
【0131】
更に具体的に説明すると、先ずこのマスクホルダー6に蒸着マスク2を接触させて付設する構成について説明すると、本実施例では、マスクホルダー6をマスクフレームとして前記制限用開口部5を覆うようにして前述のようにこのマスクホルダー6の基板4側の端部の平坦面、即ち、前記飛散制限部6の前記制限用開口部5間及び周囲の基板4側端部の平坦面としてマスク取付支承面23を形成し、このマスク取付支承面23に前記蒸着マスク2の周辺部などを支承し接合する構成とし、また蒸着マスク2の平面度を上げ熱による歪みも生じないようにマスク開口部3の長さ方向である相対移動方向に張力を与えてこのマスク取付支承面23に蒸着マスク2を重合してスポット溶接などし固定して張設した構成としている。
【0132】
本実施例では、図22に示すようにマスクホルダー6の端部面の周辺部に十分に広い平坦面を形成して前記マスク取付支承面23を設けると共に、制限用開口部5間も平坦面を形成してこの制限用開口部5間にもマスク取付支承面23を設けている。蒸着マスク2のマスク開口部3の間隔(配列ピッチ)は、前記RGB画素の各色の蒸着膜間隔(各画素を構成する蒸着膜とその間の間隔)があるから、例えば各制限用開口部5に対向する蒸着マスク2の端部で隣り合うマスク開口部3同士の間隔もこのようにある程度の余裕があるから、このマスク開口部3間に位置する制限用開口部5間にもこの余裕間隔を利用して後述するリブ部24を設け、この先端面を平坦面としてこの制限用開口部5間にも前記マスク取付支承面23を形成した構成としている。
【0133】
更に説明すると、このマスクホルダー6は、前記基板4の相対移動方向に張力を付与して前記蒸着マスク2を張設することによるこの張力以上の剛性を有する構成としているが、前述のように前記基板4の相対移動方向を長さ方向とし前記蒸着マスク2を支承する前記リブ部24を、前記制限用開口部5間に設けた構成としてこの方向の剛性を高め、この制限用開口部5間の前記リブ部24の前記基板4側先端面にも蒸着マスク2を支承し接合するマスク取付支承面23を設けた構成としている。
【0134】
即ち、本実施例では、マスクホルダー6に基板4の相対移動方向に延在するリブ部24を設け、このリブ部24は、蒸着マスク2と接触させて付設するマスク取付支承面23を有することで、蒸着マスク2の温度保持機能を高めている。このマスク取付支承面23は、基板4と蒸着マスク2が離間していることで、広く確保できる。
【0135】
例えば、図22に示すように基板4と蒸着マスク2が密着している構成でのマスク取付支承面23は、RGB画素蒸着のための蒸着膜間隔PPと蒸着パターン幅Pを用いて、2P+3PPで表される。本実施例では、この図22に示すように、ギャップGを有することで、蒸発源1と対向する基板4中心から見て、蒸着パターンの最端の位置と蒸着マスク2のマスク開口部3の最端の位置との差Aが生じる。AはG(Px+P/2−φx/2)/(TS+G)で表され、マスク取付支承面23は、基板4と蒸着マスク2が密着している場合と比較して2A分広くなる。
【0136】
更に具体的に説明すると、例えば蒸着パターン幅Pを0.1mm、蒸着膜間隔PPを0.05mmとした場合、基板4と蒸着マスク2が密着している場合のマスク取付支承面23は0.35mmとなる。しかし、本実施例の基板4と蒸着マスク2が離間状態にある場合では、例えば、TSを200mm、φxを1mm、Pxを30mmとすると、マスク取付支承面23はGが1mmでは約0.64mm、Gが5mmでは約1.79mmとなり、蒸着マスク2を重合してスポット溶接する面積を十分確保できる。
【0137】
従って、このマスクホルダー6はマスクフレームとしての剛性が高まることで、蒸着マスク2に十分な張力を付与して張設することもできる。
【0138】
即ち、前述のようにマスク取付支承面23を設けてこれに蒸着マスク2を重合して張設するため、特にこのように張力を付与し張設する場合には、付設強度(支承接合による重合固定強度)が強固にして安定し、極めて実用性に優れる。
【0139】
また、本実施例の蒸着マスク2は、基板4の相対移動方向と直交する横方向に複数枚に分割した構成とし、この分割した蒸着マスク2を前記マスクホルダー6にこの横方向に並設状態に付設した構成としてもよい。この場合、蒸着マスク2の端部同士を突き合わせるようにして並設するが、前記マスクホルダー6のリブ部24の先端面のマスク取付支承面23上で夫々溶接して蒸発粒子が通過しないように密閉すると共に、蒸着マスク2の熱を伝導させるように構成している。
【0140】
従って、小さな蒸着マスク2でも大型化に対応でき、また例えば各蒸発口部8毎の膜厚分布特性に基づいてこの各領域毎に膜厚の均一化を図るように、マスク開口部3を個別に設定した蒸着マスク2を並設したり、これら蒸着マスク2を個別に取り替えたりできるように構成可能となるなど一層実用性に優れる。
【0141】
次に、温度制御機構9について更に説明すると、本実施例では、蒸着マスク2が飛散制限部を構成するマスクホルダー6によって遮熱されると共に、蒸着マスク2への熱はこれが接触しているこのマスクホルダー6へと伝導し、またこのマスクホルダー6には前記媒体路12やヒートパイプ22などで構成される温度制御機構9で熱が吸収されるから、蒸着マスク2と基板4とが離間していても蒸着マスク2の温度上昇は十分に抑えられ、蒸着マスク2の温度を一定に保持でき、熱による歪みが生じにくくなり、成膜パターンの位置精度が高い蒸着が行える。
【0142】
この温度制御機構9は、前述のように前記制限用開口部5の周囲若しくはこの制限用開口部5間に、媒体を流通させる前記媒体路12若しくは前記ヒートパイプ22を前記マスクホルダー6内に、前記基板4と前記蒸発源1との対向方向に複数段設けた構成としている。即ち、例えばこのマスクホルダー6内に設けた媒体路12を流通する媒体から熱を奪って温度制御する熱交換部20(20A,20B,20D)を設け、マスクホルダー6内を流通する媒体で蒸発源1からの熱を吸収し、この媒体からこの熱交換部20で熱を奪って温度制御し、蒸着マスク2の温度が一定となるように制御するように複数段独立してマスクホルダー6内に設けている。
【0143】
更に説明すると本実施例では、マスクホルダー6内に、前記蒸発源1側被温度制御部9Aと前記基板4側被温度制御部9Bとを備え、各被温度制御部9A,9Bに夫々独立に媒体を流通させる前記媒体路12(12A,12B)若しくは夫々独立した前記ヒートパイプ22を、マスクホルダー6内、具体的には、図6に示す環状部6A及びリブ部24に内装した構成とし、更にこの蒸発源1側被温度制御部9Aの前記媒体路12Aの媒体流量若しくは媒体との接触面積、又は前記ヒートパイプ22の数若しくはヒートパイプ22の断面積を前記基板4側被温度制御部9Bの媒体路12Bより増大させこの蒸発源1側被温度制御部9Aの温度制御機能を高めている。
【0144】
即ち、マスクホルダー6に複数段設けた被温度制御部9A,9Bのうち、蒸発源1側の被温度制御部9Aで蒸発源由来の熱を吸収し、基板4側(蒸着マスク2側)の被温度制御部9Bで更に熱を吸収して蒸着マスク2の温度を一定に保つことができ、一層温度保持機能が高められる。
【0145】
また、マスクホルダー6を前述のような形状、即ち、制限用開口部5間の容量が蒸発源1側程大きい形状とすることで、基板4側の被温度制御部9Bよりも蒸発源1側の被温度制御部9Aの媒体路12Aの媒体接触面積を大きくして熱吸収能力を高め、この蒸発源1側で蒸発粒子を付着させると共にこの蒸発源1に近く(輻射熱が大きく)またこの付着量の多い蒸発源1側で熱を十分に吸収し、そして基板4側の被温度制御部9Bで更に熱を吸収して温度制御し、蒸着マスク2の温度が一定となるように保持する温度保持機能を向上させている。
【0146】
この温度制御機構9(9A,9B)は、前述のように水冷式の場合は冷却水を流通させる媒体路12(12A,12B)をマスクホルダー6内にめぐらせて熱交換部20(20A,20B)で冷却するように構成し、またヒートパイプ22を同様にめぐらせてその端部を冷却するように構成してもよいが、本実施例では蒸発源1側の被温度制御部9Aについては双方を施している。
【0147】
また、特に図1及び図7に示すように、前記媒体路12には、水冷式の場合に、蒸発源1側被温度制御部9Aの媒体路12Aに冷却水を導入する媒体流入路12A1と、同媒体路12Aから冷却水を排出する媒体流出路12A2を、媒体路12A内に二段に形成してあって、これら媒体流入路12A1と媒体流出路12A2は、蒸発源1側被温度制御部9Aの熱交換部20Aに、連結部25Aを介して接続され、同様に、基板4側被温度制御部9Bの媒体路12Bの媒体流入路12B1と媒体流出路12B2も媒体路12B内に二段に形成してあって、基板4側被温度制御部9Bの熱交換部20Bに、連結部25Bを介して接続されている。
【0148】
そして、例えば水冷式の場合は、各熱交換部20A,20Bから一定温度に制御された冷却水を、各媒体流入路12A1,12B1からマスクホルダー6の各媒体路12A,12Bへ流入させ、各媒体路12A,12Bで蒸発源1からの輻射熱により温度上昇した冷却水を各媒体流出路12A2,12B2から排出して、前記熱交換部20A,20Bへ再度循環させることでマスクホルダー6の温度を制御し、蒸着マスク2の温度が一定になるように保持する温度保持機能を有している。
【0149】
このようにして、蒸発源1と基板4との対向方向に、マスクホルダー6内に二段の独立した前記被温度制御部9A,9Bから成る温度制御機構9を設け、この独立した各被温度制限部9A,9Bの各媒体路12A,12Bの媒体から熱を奪う前記各熱交換部20A,20Bと接続する各媒体路12A,12Bの各媒体流入路12A1,12B1と媒体流出路12A2,12B2に連結部25A,25Bを設け、例えば水冷式の場合は、冷却水を流通させる媒体路12A,12Bにこの連結部25A,25Bを着脱自在に連結する構成とし、各々の連結部25A,25Bには不図示のチェック弁が内在され、マスクホルダー6を取り外す際に、各連結部25A,25Bから冷却水が漏れないようになっている。また本実施例では、蒸発源1側の被温度制御部9Aには更に前述のようにヒートパイプ22をも内装した構成とし、図6に示すように、このヒートパイプ22を冷却するパイプ端部とこの冷却装置22Aとが着脱自在となるようにしている。これは、蒸着マスク2やマスクホルダー6には成膜中に蒸発粒子が次々に付着し、長時間使用すると成膜パターンに影響を及ぼす虞があるため、真空チャンバー7に不図示のゲート弁を介して交換用チャンバー16を並設し、真空チャンバー7から蒸着マスク2を付設したマスクホルダー6を取出自在に構成できるようにするためである。また、前記交換用チャンバー16には、蒸着マスク2付のマスクホルダー6の洗浄機構を備え、付着した成膜材料を除去し廃棄するか、若しくは蒸着マスク2及びマスクホルダー6に付着した成膜材料を剥離させ、材料回収機構17で前記成膜材料を回収し再利用すると共に、成膜材料剥離後の蒸着マスク2付マスクホルダー6の表面に残った成膜材料やパーティクルを除去するために洗浄するようにしてもよい。洗浄後の蒸着マスク2付のマスクホルダー6は蒸着装置に戻して使用してもよいし、新たな蒸着マスク2付マスクホルダー6に交換し、先のマスクホルダー6は次の交換に備えるためにストックしておくようにしてもよい。
【0150】
また、本実施例にあっては、上記したマスクホルダー6内の二段の独立した前記被温度制御部9A,9Bにおける各媒体路12A,12Bの各媒体流入路12A1,12B1および媒体流出路12A2,12B2や、被温度制限部9Aのヒートパイプ22を、図6乃至図9に示すようにリブ部24内に内装する場合に、リブ部24に冷却水を導入するリブ部流入口241,241,241および、リブ部24から冷却水を排出するリブ部流出口242,242,242を設ける位置や、被温度制限部9Aのヒートパイプ22の向きを、連結部25A(25B)側から見て、奇数番目のリブ部24A,24A,24Aと偶数番目のリブ部24B,24B,24Bとで変えることで、連結部25A(25B)側から見たときのリブ部24における温度勾配の向きが、例えば図6にて矢印Tで示すように交互に形成されるようになる。これによって、マスクホルダー6における温度分布が一層均一化されるので、熱によるマスクホルダー6の歪みが生じにくくなり、マスクホルダー6に接合した蒸着マスク2の熱による変形も抑制されるため、このことによっても、成膜パターンの位置精度が高められる。
【0151】
また、上記したマスクホルダー6内の二段の独立した前記被温度制御部9A,9Bにおける各媒体路12A,12Bにおける上記した温度勾配の形成にあたり、蒸発源1側被温度制御部9Aの媒体路12Aでは、蒸発源1側から基板4側に向かう温度勾配になるように、媒体流入路12A1と媒体流出路12A2の配置を図7乃至図9に示した配置とは逆にすることもでき、これによって、蒸発源1からの高温の輻射熱に晒されるマスクホルダー6の蒸発源1に近接した部位における温度上昇を効果的に抑制できる。
【0152】
このようにして、マスクホルダー6における温度勾配や温度分布は、種々の目的に応じて夫々にかなうように変更することができるものである。
【0153】
また、前記蒸着マスク2の前記基板4側の表面に、前記マスク開口部3の周囲若しくはこのマスク開口部3間に、前記媒体路12として媒体流通管12Cを配設してもよいし、前記ヒートパイプ22Cを配設してもよい。
【0154】
また、前記蒸着マスク2にもこれと接する蒸着マスク2に沿う温度制御部9Cを設けて蒸着マスク2にも前記温度制御機構9を設けた構成としても良く、この場合は、蒸着マスク2自体を温度制御するため効率が良く、更に温度保持機能が向上し、また、基板4と蒸着マスク2との離間部分のギャップを利用して設けることができる。
【0155】
また、マスクホルダー6は金属やセラミックなどの無機材料あるいはこれにコーティングしたものを採用し、熱吸収効率及び強度が向上するように構成している。
【0156】
また、本実施例では、横方向に並設する、各蒸発口部8を、前記蒸発源1の前記横長拡張部27に突出形成した蒸発口部形成用突出部28の先端部に設け、この蒸発口部形成用突出部28の周囲若しくはこの蒸発口部形成用突出部28間に、蒸発源1の熱を遮断する熱遮断部19を配設している。
【0157】
従って、蒸発源1の横長拡散部27に突設した前記各蒸発口形成用突出部28の先端部に前記蒸発口部8を設けた構成とすることで、蒸発レートや材料使用効率が高まり、この突出部28の先端部に蒸発口部8を設けることで、蒸発口部8以外の加熱範囲即ち蒸発源1の高熱部分からの輻射熱を、前述のように熱遮断部19によって遮断できるため、一層蒸着マスク2の冷却効率を高めることができる優れた蒸着装置となる。
【0158】
この熱遮断部19は、熱を遮蔽するものであればよいが、本実施例では冷却板を採用し、前記マスクホルダー6と同様に媒体を供給する媒体路を内装し、これを冷却する熱交換部20Dを設けて、蒸発源1に設ける被温度制御部9Dとして機能させて、熱遮蔽効果を高めている。
【0159】
また本実施例の蒸発源1は、前述のように横長拡張部27に各蒸発口部8を形成する蒸発口部形成用突出部28を突設し、この上端面に夫々蒸発口部8を設けているが、横長拡張部27に横方向には幅広いが相対移動方向には狭い偏平突出部を設けてこの上端面に蒸発口部8を多数並設してもよい。
【0160】
尚、蒸着マスク2は、相対移動方向と直交する方向に長い短冊状に形成したものが作成できれば、上述したように分割して形成しなくてもよい。
【実施例2】
【0161】
また、第二実施例では、図23に示すように前記基板4と前記蒸着マスク2との間に、第二の蒸着マスク10を配設している。
【0162】
この第二の蒸着マスク10の第二のマスク開口部11は、前記成膜パターンを最終的に決する配列とし、この第二の蒸着マスク10より前記蒸発源1側に位置する前記蒸着マスク2の前記マスク開口部3に比して、少なくとも前記基板4の前記相対移動方向と直交する横方向の開口パターンは同一パターンに設けると共に、開口部形成ピッチは前記基板4との距離の相違に対応して異なる形成ピッチとし、また第二の蒸着マスク10の妨げとならないように第一の蒸着マスク2の各開口部幅は同一か幅広くなるように設けている。
【0163】
相対移動方向の配列については、前述のように蒸発レートを確保するためスリット状としたり、点在させた縦列状としたりするもので、必ずしも同一開口形状とする必要はないが、少なくとも横方向の開口パターンは同一パターンとしている。しかし、開口部形成ピッチは前記基板4との距離の相違に対応して異なる形成ピッチとし、開口部幅は同一か幅狭くなるように設けている。
【0164】
従って、本実施例では、第二の蒸着マスク10を設けることで第一となる前記蒸着マスク2による陰影SHを極力抑制でき、またこの第二の蒸着マスク10の温度を一定に保持でき、一層高精度の蒸着が行えることができる。
【0165】
即ち、第一の蒸着マスク2自体やこの蒸着マスク2を付設するマスクホルダー6に設けた蒸着マスク2の温度を双方とも一定に保持できる上に、この第一の蒸着マスク2と基板4との間に更に設けるこの第二の蒸着マスク10で最終的に決定される成膜パターンの蒸着膜を形成することになるからこの第二の蒸着マスク10は一層温度上昇しにくくなる。従って、この第二の蒸着マスク10は第一の蒸着マスク2に比して線膨張係数が大きい材料で形成できることになり、従って、例えば電鋳で形成できることになり一層高精細なマスク開口部11を形成できまた張力も比較的小さくてよいなど一層高精度の蒸着を行えることとなる。
【0166】
尚、第二の蒸着マスク10を基板4に密着させて成膜すると、第二の蒸着マスク10の開口パターン通りに精度よく成膜できることは言うまでもない。
【0167】
また、本実施例では、この第一の蒸着マスク2自体にも温度制御機構9を設けることで一層この蒸着マスク2の温度上昇を抑えることができ、従って、本実施例では更に第二の蒸着マスク10の温度上昇も更に十分に抑えることができる。
【0168】
また、この温度制御機構9の蒸着マスク沿設温度制御部9Cの媒体路12を前記蒸着マスク2の前記マスク開口部3間に配設している。
【0169】
従って、前記基板4と前記蒸着マスク2が離間状態のまま蒸着する構成であり、この離間スペースを利用できる。また、マスク開口部3の周囲にヒートパイプ22を配設した構成としてもよい。
【0170】
尚、本発明は、実施例1,2に限られるものではなく、各構成要件の具体的構成は適宜設計し得るものである。
【符号の説明】
【0171】
G ギャップ
SH 陰影
φx 開口幅
TS 蒸着マスク2との距離
PP 蒸着膜との間隔
1 蒸発源
2 蒸着マスク
3 マスク開口部
4 基板
5 制限用開口部
6 マスクホルダー
7 蒸着室
8 蒸発口部
9 冷却機構
9A (蒸発源1側)被温度制御部
9B (基板4側)被温度制御部
10 第二の蒸着マスク
11 マスク開口部
12 媒体路
12A・12B 媒体路
17 材料回収機構
19 熱遮断部
22 ヒートパイプ
23 マスク取付支承面
24 リブ部
26 蒸発粒子発生部
27 横長拡張部
28 蒸発口部形成用突出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発源から蒸発した成膜材料を、蒸着マスクのマスク開口部を介して基板上に堆積して、この蒸着マスクにより定められた成膜パターンの蒸着膜が基板上に形成されるように構成した蒸着装置において、前記蒸発源とこの蒸発源に対向状態に配設する前記基板との間に、前記蒸発源から蒸発した前記成膜材料の蒸発粒子の飛散方向を制限する制限用開口部を設けた飛散制限部を有するマスクホルダーを配設し、このマスクホルダーに前記基板と離間状態に配設する前記蒸着マスクを接合させて付設し、このマスクホルダー若しくは蒸着マスクの少なくとも一方に蒸着マスクの温度を保持する温度制御機構を備え、前記基板を、前記蒸着マスクを付設した前記マスクホルダー及び前記蒸発源に対して、前記蒸着マスクとの離間状態を保持したまま相対移動自在に構成して、この相対移動により前記蒸着マスクより広い範囲にこの蒸着マスクにより定められる成膜パターンの蒸着膜が基板上に形成されるように構成したことを特徴とする蒸着装置。
【請求項2】
減圧雰囲気とする蒸着室内に、前記成膜材料を収めた前記蒸発源と、この蒸発源の蒸発口部から蒸発した前記成膜材料の蒸発粒子が通過する前記マスク開口部を設けた前記蒸着マスクとを配設し、前記蒸発口部を複数並設し、前記蒸着マスクと離間状態に位置合わせする基板に、前記複数の蒸発口部から飛散する蒸発粒子が前記マスク開口部を通過して堆積し蒸着マスクにより定められる成膜パターンの蒸着膜が前記基板に形成されるように構成し、この蒸発源とこの蒸発源と対向状態に配設する前記基板との間に、隣り合う若しくは離れた位置の前記蒸発口部からの蒸発粒子を通過させない前記制限用開口部を設けた前記飛散制限部を有する前記マスクホルダーを配設し、このマスクホルダーに前記基板と離間状態に配設する前記蒸着マスクを接合させて付設し、このマスクホルダー若しくは前記蒸着マスクの少なくとも一方に蒸着マスクの温度上昇を抑制し温度を一定に保持する前記温度制御機構を設け、前記基板を、前記蒸着マスクを付設した前記マスクホルダー及び前記蒸発源に対してこの蒸着マスクとの離間状態を保持したまま相対移動させて、この相対移動方向に前記蒸着マスクの前記成膜パターンの蒸着膜を連続させて前記基板より小さい前記蒸着マスクでも広範囲に蒸着膜が形成されるように構成したことを特徴とする請求項1記載の蒸着装置。
【請求項3】
前記基板の相対移動方向に対して直交する横方向に前記蒸発源の前記蒸発口部を複数並設すると共に、前記マスクホルダーに設ける前記飛散制限部の前記制限用開口部を前記横方向に沿って複数並設して、前記各蒸発口部から蒸発する蒸発粒子が、対向する前記制限用開口部のみを通過し更にこの制限用開口部と対向する前記蒸着マスクの前記マスク開口部を介して前記基板上に前記成膜パターンの蒸着膜が形成され、隣り合う若しくは離れた位置の前記蒸発口部からの蒸発粒子は付着捕捉されるようにして前記制限用開口部により前記蒸発粒子の飛散方向が制限されるように構成したことを特徴とする請求項1,2のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項4】
前記マスクホルダーの前記基板側の端部に、前記蒸着マスクを付設したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項5】
前記マスクホルダーの前記基板側の端部に、前記蒸着マスクに張力を付与して張設したことを特徴とする請求項4記載の蒸着装置。
【請求項6】
前記マスクホルダーは、前記基板の相対移動方向に張力を付与して前記蒸着マスクを張設したことを特徴とする請求項5記載の蒸着装置。
【請求項7】
前記蒸着マスクは、前記基板の相対移動方向と直交する横方向に複数枚に分割した構成とし、この分割した蒸着マスクを前記マスクホルダーに前記横方向に並設状態に付設したことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項8】
前記蒸発源の前記蒸発口部を前記基板の相対移動方向と直交する横方向に複数並設し、この一若しくは複数の蒸発口部毎に夫々対向状態に前記制限用開口部を設けた前記飛散制限部を有する前記マスクホルダーの各制限用開口部を覆うように、前記蒸着マスクをマスクホルダーの前記基板側の端部に付設したことを特徴とする請求項4〜7のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項9】
前記マスクホルダーの前記制限用開口部間に、前記基板の相対移動方向に延在するリブ部を設け、このリブ部の前記基板側先端面に、前記各制限用開口部に設ける前記蒸着マスクを支承し接合するマスク取付支承面を設けたことを特徴とする請求項1〜8記載の蒸着装置。
【請求項10】
前記マスクホルダーは、前記基板の相対移動方向に延在して、前記蒸着マスクをマスクホルダーに張設する際に蒸着マスクに付与される張力によるマスクホルダーの変形を防ぐため、張設する方向におけるマスクホルダーの剛性を向上させるリブ部を、前記制限用開口部間に設けた構成としたことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項11】
前記温度制御機構は、前記マスクホルダーの前記制限用開口部の周囲若しくはこの制限用開口部間に、熱交換して温度制御される媒体を流通させる媒体路若しくはヒートパイプを設けた構成としたことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項12】
前記温度制御機構は、前記制限用開口部の周囲若しくはこの制限用開口部間に、媒体を流通させる前記媒体路若しくは前記ヒートパイプを前記マスクホルダー内に設けて構成し、前記基板と前記蒸発源との対向方向に複数段設けた構成としたことを特徴とする請求項11記載の蒸着装置。
【請求項13】
前記温度制御機構は、前記マスクホルダー内に、前記蒸発源側被温度制御部と前記基板側被温度制御部とを備え、各被温度制御部に夫々独立に媒体を流通させる前記媒体路若しくは夫々独立した前記ヒートパイプを内装した構成としたことを特徴とする請求項12記載の蒸着装置。
【請求項14】
前記温度制御機構は、前記媒体路内部若しくは前記ヒートパイプ内部で生じる温度勾配が、前記対向方向に設けた各々の段同士で異なる向きに生じさせるように、前記媒体路若しくは前記ヒートパイプを配置して構成したことを特徴とする請求項11,12のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項15】
前記温度制御機構は、前記媒体路若しくは前記ヒートパイプを、前記リブ部内に配設して構成したことを特徴とする請求項9〜14のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項16】
前記温度制御機構は、前記リブ部内に配設した前記媒体路内部若しくは前記ヒートパイプ内部で生じる温度勾配が、隣接する前記リブ部間で互いに異なる向きに生じさせるように、前記媒体路若しくは前記ヒートパイプを配置して構成したことを特徴とする請求項15記載の蒸着装置。
【請求項17】
前記マスクホルダーは、前記制限用開口部の形状を、前記基板側の開口面積より前記蒸発源側の開口面積が小さい形状に形成したことを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項18】
前記マスクホルダーの前記制限用開口部間に、前記独立した前記蒸発源側被温度制御部と前記基板側被温度制御部を設けて、前記蒸発源側被温度制御部の前記媒体路の媒体流量若しくは媒体との接触面積、又は前記ヒートパイプの数、若しくはヒートパイプの断面積を、前記基板側被温度制御部より増大させこの蒸発源側被温度制御部の温度制御能力を高めたことを特徴とする請求項13記載の蒸着装置。
【請求項19】
前記蒸着マスクの前記基板側の表面に、前記マスク開口部の周囲若しくはこのマスク開口部間に、熱交換して温度制御される媒体を流通させる媒体路若しくは前記ヒートパイプを配設して、前記蒸着マスクに前記温度制御機構を設けたことを特徴とする請求項1〜18のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項20】
前記蒸発源の前記蒸発口部は、前記基板の相対移動方向に長くこれと直交する横方向に幅狭いスリット状としたことを特徴とする請求項1〜19のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項21】
前記基板と前記蒸着マスクとが離間状態で蒸着しこの蒸着マスクによる成膜パターンの蒸着膜が基板に形成される際、この蒸着膜の側端傾斜部分である陰影SHは、前記基板と前記蒸着マスクとのギャップをG,前記蒸発口部の前記横方向の開口幅をφx,この蒸発口部と前記蒸着マスクとの距離をTSとすると、下記の式で表され、この陰影SHが隣接する蒸着膜との間隔PPに達しないように、前記蒸着口部8の前記開口幅φxを小さく設定して前記ギャップGを大きく設定できるように構成したことを特徴とする請求項20記載の蒸着装置。
【数1】

【請求項22】
前記基板の相対移動方向と直交する横方向に複数並設する前記蒸発口部のすべて若しくはその一部は、一つの前記蒸発源に設けた構成とし、前記成膜材料を加熱する蒸発粒子発生部と、この蒸発粒子発生部から発生した前記蒸発粒子が拡散し圧力を均一化する横長拡散部とで前記蒸発源を構成し、この横長拡散部に前記蒸発口部を前記横方向に複数並設形成したことを特徴とする請求項1〜21のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項23】
前記蒸発源の前記蒸発口部を前記基板の相対移動方向と直交する横方向に複数並設し、各蒸発口部を前記蒸発源の前記基板側に向けて突出する蒸発口部形成用突出部の先端部に設け、この蒸発口部形成用突出部の周囲若しくはこの蒸発口部形成用突出部間に、前記蒸発源の熱を遮断する熱遮断部を配設したことを特徴とする請求項1〜22のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項24】
前記蒸着マスクの前記マスク開口部は、前記基板の前記相対移動方向と直交する横方向に複数並設した構成とし、この各マスク開口部は、前記相対移動方向に長いスリット状に形成若しくは開口部を前記相対移動方向に複数並設し、この相対移動方向のトータル開口長を前記制限用開口部の中央部に比して前記横方向に離れる程長くなるように設定したことを特徴とする請求項1〜23のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項25】
前記基板に蒸着される成膜パターンを決する前記蒸着マスクのマスク開口部の前記基板の相対移動方向と直交する横方向における形成ピッチを、前記蒸着膜の成膜パターンのピッチよりも前記基板と前記蒸着マスクとのギャップGと、前記基板と前記蒸発源との距離のうち、少なくともいずれか一つの大小に応じた相違分だけ狭く設定し、前記蒸着マスクのマスク開口部の前記基板の相対移動方向と直交する横方向における開口寸法を、前記蒸着膜の成膜パターンのパターン幅よりも、前記ギャップG、前記距離、前記蒸発源の前記蒸発口部の前記横方向における開口幅φxのうち、少なくともいずれか一つの大小に応じた相違分だけ広く設定したことを特徴とする請求項1〜24のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項26】
前記マスクホルダーは、蒸着装置に対して着脱可能なように前記温度制御機構と連結部を介して接続されることを特徴とする請求項1〜25のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項27】
前記マスクホルダー若しくはマスクホルダーに付設した前記蒸着マスクの少なくとも一方に付着した成膜材料を洗浄する洗浄機構を備えたことを特徴とする請求項1〜26のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項28】
前記マスクホルダー若しくはマスクホルダーに付設した前記蒸着マスクの少なくとも一方に付着した成膜材料を回収する材料回収機構を備えたことを特徴とする請求項1〜27のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項29】
前記基板と前記蒸着マスクとの間に、第二の蒸着マスクを配設したことを特徴とする請求項1〜28のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項30】
前記第二の蒸着マスクの第二のマスク開口部は、この第二の蒸着マスクより前記蒸発源側に位置する前記蒸着マスクの前記マスク開口部に比して、少なくとも前記基板の前記相対移動方向と直交する横方向の開口パターンは同一パターンに設けると共に、開口部形成ピッチは前記基板との距離の相違に対応して異なる形成ピッチとし、開口部幅は同一か幅狭くなるように設けたことを特徴とする請求項29記載の蒸着装置。
【請求項31】
前記第二の蒸着マスクは、これより前記蒸発源側に位置する前記蒸着マスクよりも線膨張係数が大である材料で形成したことを特徴とする請求項29,30のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項32】
前記成膜材料を、有機材料としたことを特徴とする請求項1〜31のいずれか1項に記載の蒸着装置。
【請求項33】
前記請求項1〜32のいずれか1項に記載の蒸着装置を用いて、前記基板上に前記蒸着マスクにより定められた成膜パターンの蒸着膜を形成することを特徴とする蒸着方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate


【公開番号】特開2012−167309(P2012−167309A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−27900(P2011−27900)
【出願日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【出願人】(591065413)キヤノントッキ株式会社 (57)
【Fターム(参考)】