説明

薄膜一次防錆被覆層を有する表面導電性に優れた亜鉛系めっき鋼板とその製造方法

【課題】耐食性と表面導電性を兼ね備えた性能を発現する亜鉛系めっき鋼板を提供すること。
【解決手段】JIS B 0651で定義される触針式表面粗さ測定機で得られる、JIS B 0601で定義される亜鉛めっき層表面の算術平均粗さRaが0.3μm以上2.0μm以下、最大山高さRpが4.0μm以上20.0μm以下である亜鉛系めっき鋼板において、Rpの80%以上の山部の評価長さ20μmの範囲を電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(山)が、触針式表面粗度測定機で得られる平均線を中心として±20%の高さの部分の評価長さ20μmの範囲の電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(平均)に対して70%以上とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パソコン、音響、テレビ等の家電製品、複写機、プリンター、ファクシミリ等のOA製品等に用いられる亜鉛系表面処理鋼板であって、家電製品やOA製品組み立て後の鋼板部材のアース性、電磁波シールド性確保に必須となる鋼板表面の導電性に優れ、耐食性も兼ね備えた表面処理鋼板にかかわるものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、亜鉛めっき鋼板表面にクロメート処理を施した表面処理鋼板は、広範囲な分野の工業製品に大量に使われてきた。この亜鉛めっき鋼板は、通常の大気環境下で使用される際に発生する亜鉛めっき層の白錆発生を抑制する能力が高く、さらには電子基板と鋼製部材との導電性確保が容易でアース性、磁気シールド性に優れる特徴を有していた。白錆発生抑制能が高いのは、クロメート皮膜が持つ亜鉛めっきに対する不働態化能と傷部に対する自己補修能が高いためと考えられている。また、導電性が良好なのは、クロメート処理層が薄く均一であるために導通端子との接触抵抗が低く抑えられているためである。
【0003】
近年、素材に対する環境負荷物質、有害物質低減の要求が大きくなり、クロメート皮膜に使用されている6価クロムの使用制限の動きが進んでいる。6価クロムは、発ガン性が指摘される毒性物質であり、表面処理鋼板製造工程での排出規制や鋼板使用時の溶出に伴う健康被害が懸念される。
【0004】
そこで本発明者らは、クロメートを全く使わない処理皮膜の開発を行ってきた(例えば、特許文献1参照)。特許文献1は、亜鉛めっき鋼板の表面に、防錆コーティング層を塗布する技術であり、耐食性の向上を図るために、リン酸やインヒビター成分を適宜添加したものである。この処理鋼板は、絶縁性の樹脂層を塗布するがゆえに耐食性には優れるものの表面導電性には劣るという欠点を有していた。従って、この特許文献1の防錆鋼板は、家電製品やOA製品等のアース性を重視する機器への適用については、十分な特性を有しているとはいえないのが現状であった。
【0005】
ここでアース性とは、電子部品から発生した電磁波や機器外部から来る電磁波により生じた鋼板表面の電位を、接地電位と同じくすることであり、このアース性が不足すると電子機器の誤動作や故障、雑音等の不具合が生じることになる。
【0006】
これまでの電子機器は、このアース性を確保するために鋼製の外箱・シャーシ等とビス止めを用いる例が一般的であった。この場合、ネジ穴部は鋼板の端面が露出するために、クロメート処理層の如何にかかわらず金属−金属接触による導通が容易に得られた。しかし、近年の電子機器の小型化や高性能化に伴い複雑な部品形状が増えて、ネジ留めが減少し、接合が鋼板表面同士の接触やかしめ接合、板バネによる接触となる例が増大した。この場合、めっき鋼板表面の接触抵抗が小さいことが重要であり、前述した絶縁性の樹脂皮膜を塗布した系ではアース性が不足することとなる。
【0007】
このアース性を向上させる従来の技術として、特許文献2では、めっき層の表面にアース性を有する中間層を形成し、さらにその表層に有機樹脂層を形成するが、その有機樹脂層の被覆率を80%以上とし、かつ鋼板の表面粗さを算術平均粗さRaで1.0〜2.0μm、ろ波中心線うねりWcaで0.8μm以下に規定している。
【0008】
また、特許文献3は、めっきを施す原板の表面粗度を放電加工した調質圧延ロールの表面粗さRaとPPIを規定することで得ており、その結果得られた亜鉛めっき鋼板は耐食性を損なわずに導電性を確保する技術を開示している。
【0009】
さらに、特許文献4は、めっきを施す原板自身の表面粗さを、山カウント数とRaとで規定することで耐食性と導電性の両立を図っている。
【0010】
しかしながら特許文献2から4はいずれも導電性の向上効果は認められるものの安定的に性能が発現することが無く、製造ラインによっては導電性が確保できない場合があり、より安定的に導電性を確保する技術の開発が望まれていた。
【0011】
【特許文献1】特開2000−319787号公報
【特許文献2】特開2004−277876号公報
【特許文献3】特開2005−238535号公報
【特許文献4】特開2002−363766号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
クロメートフリー皮膜を塗布した亜鉛めっき鋼板は、コイル状の鋼板を連続的にめっき処理とクロメートフリー処理とを施して製造される。めっき方法は電気めっき法と溶融めっき法があり、前者は、Znイオンを含む水溶液中で電気化学的に亜鉛を析出させる技術であり、後者は、鋼板を溶融状態の金属亜鉛浴に浸漬させて成膜する技術である。めっきの表面形状は、電気めっき法の場合は、めっきの均一成膜性が高いので原板の表面形状が維持されるが、溶融めっき法ではレベリング性が高く、めっき後の調質圧延ロール形状の転写による形状付与が成されるのが一般である。めっきが施された鋼板は、その後後処理セクションで樹脂系や無機系のクロメートフリー皮膜、あるいはクロメート皮膜が塗布され焼き付け乾燥される。その後、コイルに巻き取られて製品となる。
【0013】
このような製造工程で製造される亜鉛系めっき鋼板は、製造の工程で多数の金属ロールと接触することになるが、ロールによっては鋼板表面に比較的高い圧下力を付与することが多い。亜鉛めっきが施され、後処理セクションで塗装されるまでの間は、めっき表面に金属ロールが圧下されるとめっき表面の形状が変化する可能性が高い。亜鉛めっき金属は、マイクロビッカース硬度が約50程度と軟質であるために、めっきの凸形状部は金属ロールにより圧潰されて平滑になることが多い。このような変形は、ミクロな領域で生じることから、JIS B 0651で定義される触針式表面粗度測定機による計測では形状変化を十分に認識することが不可能なことが多い。さらにこのような圧潰形状になると、原板やめっき後の調質圧延で付与した粗度が変化してしまい、その薄膜一次防錆被覆層の表面被覆状態も変化することで十分な導電性を発現できなくなる。
【0014】
すなわち、連続めっき設備で亜鉛めっきと後処理を行う現行の製造工程において生じる、めっき表面凸部の圧潰による導電性の低下を回避することが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
発明者らは、クロメートフリー処理を施した亜鉛系めっき鋼板の導電性と耐食性を両立すべく鋭意検討した結果、亜鉛系めっき層表面の粗度を単にJIS B 0601で規定された粗度パラメータをJIS B 0651に規定される装置を用いて測定することで管理するのではなく、めっき凸部のミクロな領域の粗度を規定することで導電性と耐食性の両立が可能となることを見出した。さらには、凸部の粗度がある値以上にある部分の存在割合が、ある一定値以上になることも重要であることを見出した。本発明は、上記の知見に基づいて成されたものである。
【0016】
すなわち、本発明の要旨は次のとおりである。
(1)JIS B 0651で定義される触針式表面粗さ測定機で得られる、JIS B 0601で定義される亜鉛めっき層表面の算術平均粗さRaが0.3μm以上2.0μm以下、最大山高さRpが4.0μm以上20.0μm以下である亜鉛系めっき鋼板において、Rpの80%以上の山部の評価長さ20μmの範囲を電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(山)が、触針式表面粗度測定機で得られる平均線を中心として±20%の高さの部分の評価長さ20μmの範囲の電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(平均)に対して70%以上であることを特徴とする、薄膜一次防錆被覆層付与後の表面導電性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【0017】
(2)触針式表面粗さ測定機で得られるJIS B 0601で定義されるRpの80%以上の山部の評価長さ20μmの範囲を電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(山)が、触針式表面粗度測定機で得られる平均線を中心として±20%の高さの部分の評価長さ20μmの範囲の電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(平均)の70%未満である部分の面積が亜鉛めっき表面積全体に対して5%以下であることを特徴とする、上記(1)に記載の薄膜一次防錆被覆層付与後の表面導電性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【0018】
(3)触針式表面粗さ測定機で得られるJIS B 0601で定義されるRpの80%以上の山部の評価長さ20μmの範囲を電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(山)が0.03μm以上1.0μm以下であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の薄膜一次防錆被覆層付与後の表面導電性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【0019】
(4)薄膜一次防錆被覆層として、平均膜厚さが0.2μm以上5.0μm以下であることを特徴とする上記(1)から(3)までのいずれか一つに記載の薄膜一次防錆被覆層付与後の表面導電性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【0020】
(5)鋼板に亜鉛系めっきを施し、次いで薄膜一次防錆皮膜層を形成して製造される亜鉛系めっき鋼板であり、JIS B 0651で定義される触針式表面粗さ測定機で得られる、JIS B 0601で定義される亜鉛めっき層表面の算術平均粗さRaが0.3μm以上2.0μm以下、最大山高さRpが4.0μm以上20.0μm以下である亜鉛系めっき鋼板であって、Rpの80%以上の山部の評価長さ20μmの範囲を電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(山)が、触針式表面粗度測定機で得られる平均線を中心として±20%の高さの部分の評価長さ20μmの範囲の電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(平均)に対して70%以上である、薄膜一次防錆被覆層付与後の表面導電性に優れた亜鉛系めっき鋼板を製造する方法であって、鋼板に亜鉛めっき層を形成してから薄膜一次防錆被覆層を形成するまでの間、搬送される鋼板に接触するピンチロールによりめっき表面に加わるロール1mm長さあたりの圧下力F(N/mm2)とJIS Z 2244で測定されるめっき層のマイクロビッカース硬度MHvとの間に下記の式(1)を満足する関係が成立するよう、圧下力を制御することを特徴とする、薄膜一次防錆被覆層付与後の表面導電性に優れた亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
F<9.8065MHv ×(R2−(R−h×10-320.5 式(1)
ここで、Rはロール半径(mm)、hはめっき鋼板のRpの値(μm)とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、薄膜一次防錆被覆層の膜厚を厚くしても導電性が発現することから、耐食性との両立が達成される。さらに、厚膜にすることが可能であれば、耐食性のみではなく、プレス加工性や耐疵付性、耐アブレージョン性などの特性も向上する。さらに、本発明のめっき粗度を指標とした製造管理を行えば、種々のめっきラインでの製造においても安定的に導電性と耐食性とがバランスした亜鉛系めっき鋼板を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の詳細とその限定理由を説明する。
本発明者らは、連続めっき設備で製造された亜鉛系めっき鋼板のめっき表面形状を詳細に観察した。電気亜鉛めっきラインで製造した電気亜鉛めっき鋼板の表面走査電子顕微鏡写真の例を図1に示す。めっき層は、調質圧延で付与された原板の凹凸に沿ってめっき層が形成され、そのめっき層表面は電気亜鉛めっき層自身の微細な結晶形態に起因する微細形状を有することを見出した。ところが、原板の凸部に形成されためっき層表面の微細な結晶形態に起因する形状は、圧潰により平滑化している部分があることを見出した。図中の暗いコントラストで示される矢印部である。この圧潰された部分の粗度は、JIS B 0651で定義される触針式表面粗さ測定機では計測不能であった。すなわち、触針式表面粗さ測定機は、金属針を測定探子としているが、針先端部の曲率半径Rは5μm程度であり、図1のめっき結晶に起因する微細な結晶形態を検出することが出来なかった。そこで、この微細な結晶形態を計測する手法を鋭意検討した結果、走査電子顕微鏡型の三次元粗さ解析装置を用いればよいことが判明した。
【0023】
図2(a)〜図2(c)は、エリオニクス株式会社製フィールドエミッション電子線三次元粗さ解析装置(ERA−8900FE)を用いて測定した結果である。本装置は、4チャンネルの二次電子線検出器を装備し、表面の凹凸を定量化することが可能な装置である。その結果、粗さ解析の分解能は、高さ方向が1nm、平面方向が1.2nmと極めて高分解能であり、図1のめっき結晶の微細な形状を十分に測定可能であった。
【0024】
図2(a)の写真は、4チャンネルの和信号の合成像であり、図中の暗いコントラストの部分(図中(1)のエリア)は、原板の凸部になっている領域で、めっき層が圧潰されて平滑化している。一方その周囲の部分は原板の凹部のエリアでめっき層の微細な結晶形態が維持されている。それぞれのエリアでの微細な形状を図2(b)と図2(c)に示した。
【0025】
さらに、このデジタル画像データをもとに、局部的な領域での表面形状を定量化するために、評価長さ20μmの領域でのRaの値を求めた。圧潰されている図2(a)の(1)のエリアのRaは0.02μmで、それ以外の部分のRaは0.06μmであった。すなわち、評価長さが20μmという極めて狭い範囲での粗度を測定することで、凸部で圧潰されている部分とそれ以外のめっき微細結晶が残っている部分でRaが3倍近く異なり、粗度の差を明確に示すことが可能であった。
【0026】
次に、このような原板凸部の微細な形状が薄膜一次防錆皮膜の表面被覆状態に及ぼす影響について詳細に検討した。原板凸部のめっき微細結晶が圧潰されていないめっき鋼板と圧潰されているめっき鋼板にそれぞれ水系ポリオレフィン樹脂塗料を1.2μm塗布し、その断面構造を走査電子顕微鏡で観察した。その結果を図3(a)と図3(b)に示す。図3(a)の圧潰されていないめっき鋼板の樹脂被覆層は、原板凸部で薄くなり、さらにその部分のめっき層表面の微細結晶の凸部では樹脂被覆層が完全に被覆していない状況が観察された。一方、図3(b)の原板凸部の圧潰されているめっきは、樹脂被覆層が薄くなりながらも完全に被覆していることがわかった。すなわち原板凸部のめっき層表面の微細結晶形態が存在すると、樹脂層の被覆性を低下させてめっき層を部分的に露出させる作用があることが判った。この露出部は、通電点となることから、鋼板同士の接触や、導電端子との接触で導電性が確保されることがわかった。一方、原板凸部のめっき層の微細形状が圧潰された部分は、絶縁性の樹脂皮膜が被覆しているために導電性が発現しないこともわかった。すなわち、電気亜鉛めっき鋼板の導電性を向上させるためには、原板の凹凸形状を制御するだけでは不十分であり、凸部のめっき層表面の微細結晶構造を残存させることが重要であることを見出した。
【0027】
本発明は、このような技術的な知見に基づいてなされたものであり、原板凸部のめっき層表面微細形状の残存度を規定する指標として、凸部以外の部分の評価長さ20μmのRaの値を基準として、原板凸部のRaの値が70%以上であれば圧潰が生じていない、もしくは若干の圧潰はあるが導電性への影響は無いと判断した。
【0028】
次に、本発明の数値を限定した理由について述べる。
まず、通常の接触式粗度計で示されるめっき鋼板の表面粗度は、JIS B 0601で定義される算術平均粗さRaで0.3μm以上2.0μm以下とする。Raが0.3μmより小さいと薄膜一次防錆被覆層の表面被覆性が良好となり、耐食性の観点からは望ましいが導電性の観点からは好ましくなく、導電性と耐食性を両立する薄膜一次防錆被覆層厚さの設定が困難となる。一方、Raが2.0μmを超えると薄膜一次防錆皮膜の被覆性が極めて悪くなり、導電性は極めて良好となるが耐食性が悪化し、両者の両立する膜厚範囲が設定できなくなる。従ってRaは0.3μm以上2.0μm以下とした。最大山高さRpもRaと同様な理由により4.0μm以上20.0μm以下とした。
【0029】
亜鉛系めっき鋼板のめっき付着量は、5g/m2より小さいと鋼板に対する犠牲防食作用が不十分となり短期に赤錆が発生してしまい好ましくなく、300g/m2以上は耐食性向上の効果が飽和し、めっきコストの増大やパウダリング状めっき剥離があり好ましくない。
【0030】
原板凸部のめっき微細結晶の形状を定義するため、Rpの80%以上の山部に注目しその部分の評価長さ20μmの範囲でのRaを定義した。Rpが80%未満の部分は金属ロールとの接触が生じなく、また、評価長さ20μmより小さくすると測定の誤差が無視できなくなり20μmより大きいと原板凸部をはみ出して凹部を含んでしまう事がある為好ましくない。
【0031】
凸部以外の部分は平均線近傍の上下20%の部分を代表値とした。その部分のRaの値を基準値とし、原板凸部(山部)のRaがその70%以上の値であれば、金属ロールによる圧潰が無いかほとんど軽微であり、導電性と耐食性に影響を与えないことが判った。一方、その部分のRaの値が70%未満になると金属ロールによる圧潰が顕著であると判断した。
【0032】
山部のRaは、細かすぎると薄膜一次防錆被覆層で完全に被覆されてしまい表面導電性を発現することが無く、その下限を0.03μmとした。一方、Raが大きすぎると皮膜の被覆率が下がり表面導電性は向上するが耐食性が悪化するので、その上限は1.0μmとした。
【0033】
さらに、たとえ原板凸部で圧潰された部分(Raが70%未満)が存在しても、その部分の面積割合が亜鉛めっき表面積全体の5%以下であれば導電性と耐食性が両立した本発明材が得られることが判った。その面積が5%より大きくなると、圧潰部の特性が支配的となり導電性の低下が無視できない値となった。
【0034】
原板凸部の微細結晶形状を残存させるためには、種々の操業条件の最適化が要求されるが、もっとも重要であるのは、めっき後薄膜一次防錆被覆層が施されるまでの間に金属ロールによる強い圧下が成されないようにすることである。ロールが捲きつけロールであれば圧下力は小さく圧潰は生じないが、ロールと鋼板が線接触で接するピンチロールの場合には、圧下力の上限制御が必要となる。その際に、めっき層のビッカース硬度によって圧潰が生じないための上限が異なってくるが、めっき層の硬度は、電解条件や浴中の不純物濃度によって容易に変化することから、一律に金属ロールの圧下力を規定することは有効でない。本発明者らは、ロール圧下力の上限許容値を詳細に検討した結果、圧下力の上限を規定する関係式を見出した。すなわち、ロール1mm長さあたりの圧下力F(N/mm2)とJIS Z 2244で測定されるめっき層のマイクロビッカース硬度MHvとするとき、次式であらわせる。
F<9.8065MHv ×(R2−(R−h×10-320.5 式(1)
ここで、Rはロール半径(mm)、hはめっき鋼板のRpの値(μm)とする。
【0035】
Fが式(1)の右辺の値より大きくなると、めっき層は圧潰してしまい好ましくない。右辺の値より小さければ、本発明で規定する凸部の形状を維持することが可能となる。式(1)において、純亜鉛めっきの標準的なMHvを50、ピンチロールの半径を100mm、めっき鋼板のRpを10μmとすると、右辺は693となる。一方、標準的なピンチロールの圧下力は、1000〜3000(N/mm2)程度であるので、通常の操業条件では圧下力が右辺より大きな値となってしまい圧潰が生じてしまう。そこで、本発明で見出した式(1)を満たすようなロール圧下力に制御することが必要となる。
【0036】
薄膜一次防錆皮膜は、導電性と耐食性を両立させる膜厚に設定することが重要であり、JIS B 0651によるRaが小さい原板ほど最適な膜厚は薄くすることが可能である。その値は特定することは出来ないが、Raが0.3μmの時には最低でも0.2μmが必要で、一方Raが2.0μmの時には最大でも5.0μmあればよい。従って下限上限膜厚をそれぞれ0.2μmと5.0μmとした。但し、その最適値は、原板形状、凸部の微細結晶の粗度Ra、Rp、塗料種等の複数の因子の影響を受けるため色々な場合がある。
【0037】
薄膜一次防錆層の種類は、水性の各種樹脂、例えばアクリル系、オレフィン系、ウレタン系、スチレン系、フェノール系、ポリエステル系等いずれでもよく、また溶剤系のエポキシ系などでも良い。あるいは、無機系のシリカ系、水ガラス系、金属塩系(Zr、Ti、Ce、Mo、Mn酸化物系)でもよい。さらには有機無機複合のシランカップリング剤系でも良い。皮膜には、耐食性向上、耐黒変性向上を目的として、リン酸、インヒビター成分、Co、Ni等の金属を添加しても良い。
【0038】
薄膜一次防錆皮膜のみの一層処理で十分な性能を発現するが、さらに下地処理としてクロメートフリー下地処理を施すと、耐食性、塗膜密着性等の皮膜性能が一段と向上し望ましい。クロメートフリー下地処理剤としては、酸化Zr、酸化Ti、酸化Si、酸化Ce、りん酸塩、シランカップリング剤などを選択可能である。付着量は0.001g/m2以下では十分な性能を得ることが出来ず、0.5g/m2を超えると効果が飽和し密着力が返って減少するなどの弊害が顕在化する。
【実施例】
【0039】
次に、実施例をもとに本発明をより詳細に説明する。
電気亜鉛めっき鋼板は、次の条件で作製した。原板は、板厚0.8mmの冷延鋼板を用いた。この原板の表面粗度は、連続焼鈍後のスキンパスミルで使用する圧延ロールのロール粗度を変えることで調整した。ロール粗度は、放電ダル法で付与した。この原板を電気亜鉛めっき設備を用いて電気亜鉛めっきを行った。電気亜鉛めっきは、酸性の硫酸亜鉛浴で電流密度は50〜100A/dm2、ラインスピードは毎分50〜120mであった。
【0040】
溶融亜鉛めっき鋼板は、次の条件で作製した。原板は、板厚0.8mmの冷延鋼板を用いた。この原板を溶融亜鉛めっき設備を用いて溶融亜鉛めっきした。亜鉛浴は、Zn−0.2重量%Alで浴温460℃であった。水素-窒素還元雰囲気で800℃まで還元処理した原板を板温480℃まで冷却した後浴に浸漬した。浸漬後2秒後に取り出し、窒素ガスでワイピングしてめっき付着量を制御した。ラインスピードは毎分100mであった。めっき後インラインの調質圧延機で表面に粗度を付与した。
【0041】
めっき表面形状の測定は、JIS B 0651に従った。用いた装置は、触針式表面粗さ測定機の東京精密株式会社製サーフコム1400Aである。また微小領域の粗度は、エリオニクス株式会社製フィールドエミッション電子線三次元粗さ解析装置(ERA−8900FE)を用いて測定した。
【0042】
めっき後塗装セクションまでの金属ロールの圧下力を開放から3000N/mmまで変化させて原板凸部の圧潰状態を変化させた。薄膜一次防錆皮膜は、ロールコーターで膜厚0.1から6μmとなるように塗布し、乾燥炉で板温が150℃となるよう焼き付けた。樹脂系被覆用には、純水にポリオレフィン樹脂(「ハイテックS-7024」東邦化学株式会社製)を樹脂固形分濃度が20重量%となるように添加し、さらにリン酸アンモニウムをリン酸イオン濃度で1g/Lとなるように溶かし、水分散性シリカ(「スノーテックスN」日産化学株式会社製)を25g/L添加し、一次防錆被覆剤を得た。一方、無機樹脂系被覆用には、日本パーカライジング株式会社製「CT−E300N」を用いた。無機系被覆用には、純水にジルコンフッ化水素酸を50重量%、シランカップリング剤を50重量%添加し、リン酸でpHを3.0に調整した一次防錆被覆剤を用いた。
【0043】
得られた試験片の耐食性は、JIS Z 2371の塩水噴霧試験法で72時間腐食させ、表面の白錆発生面積率で判断した。白錆発生が1%以下は◎、5%以下は○で合格とし、5%より多い場合は×で不合格とした。導電性の測定は、三菱化学株式会社製LORESTA EP型で行った。接触子はESPタイプ(4探針式)で接触子先端は直径2mmで端子間距離は5mmとした。接触子荷重1.5N/本、試験電流100mAで、20回異なる位置で測定し表面抵抗が1mΩ以下で通電する回数から判断した。20回通電した場合は◎、10回以上19回通電した場合は○で合格とし、9回以下の場合は×で不合格とした。
【0044】
表1にめっき層表面性状、微小領域めっき層表面性状、表2にめっき付着量、薄膜一次防錆被覆層についての水準表を示す。実施例1〜39が本発明材で、比較例1〜10が比較例である。
【0045】
表3にSST72時間後の耐食性評価結果と表面導電性評価結果をまとめた。実施例1〜39はいずれの水準においても耐食性、導電性共に良好で両者の性能が両立しており、一方、比較例1〜10は、耐食性か導電性のどちらかが不良で両者の性能が両立していない。
【0046】
【表1】

【0047】
【表2】

【0048】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の亜鉛系めっき鋼板は、導電性と耐食性に優れた表面処理鋼板として利用することが出来る。特に表面導電性が要求される、複写機、ファクシミリ等のOA機器の機体やパソコンケース、AV機器などアースを必要とする用途への適用が出来る。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】電気亜鉛めっき鋼板の表面走査電子顕微鏡像である。
【図2(a)】電子線三次元粗さ解析装置による4チャンネルの和信号の合成像である。
【図2(b)】図2(a)の(1)部の三次元解析像である。
【図2(c)】図2(a)の(1)部の周囲部の三次元解析像である。
【図3(a)】原板凸部のめっき微細結晶が圧潰されていない薄膜一次防錆被覆した電気亜鉛めっき鋼板の断面走査電子顕微鏡像である。
【図3(b)】原板凸部のめっき微細結晶が圧潰されている薄膜一次防錆被覆した電気亜鉛めっき鋼板の断面走査電子顕微鏡像である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS B 0651で定義される触針式表面粗さ測定機で得られる、JIS B 0601で定義される亜鉛めっき層表面の算術平均粗さRaが0.3μm以上2.0μm以下、最大山高さRpが4.0μm以上20.0μm以下である亜鉛系めっき鋼板において、Rpの80%以上の山部の評価長さ20μmの範囲を電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(山)が、触針式表面粗度測定機で得られる平均線を中心として±20%の高さの部分の評価長さ20μmの範囲の電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(平均)に対して70%以上であることを特徴とする、薄膜一次防錆被覆層付与後の表面導電性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【請求項2】
触針式表面粗さ測定機で得られるJIS B 0601で定義されるRpの80%以上の山部の評価長さ20μmの範囲を電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(山)が、触針式表面粗度測定機で得られる平均線を中心として±20%の高さの部分の評価長さ20μmの範囲の電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(平均)の70%未満である部分の面積が亜鉛めっき表面積全体に対して5%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の薄膜一次防錆被覆層付与後の表面導電性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【請求項3】
触針式表面粗さ測定機で得られるJIS B 0601で定義されるRpの80%以上の山部の評価長さ20μmの範囲を電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(山)が0.03μm以上1.0μm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜一次防錆被覆層付与後の表面導電性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【請求項4】
薄膜一次防錆被覆層の平均膜厚さが0.2μm以上5.0μm以下であることを特徴とする請求項1から3までのいずれか1項に記載の薄膜一次防錆被覆層付与後の表面導電性に優れた亜鉛系めっき鋼板。
【請求項5】
鋼板に亜鉛系めっきを施し、次いで薄膜一次防錆皮膜層を形成して製造される亜鉛系めっき鋼板であり、JIS B 0651で定義される触針式表面粗さ測定機で得られる、JIS B 0601で定義される亜鉛めっき層表面の算術平均粗さRaが0.3μm以上2.0μm以下、最大山高さRpが4.0μm以上20.0μm以下である亜鉛系めっき鋼板であって、Rpの80%以上の山部の評価長さ20μmの範囲を電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(山)が、触針式表面粗度測定機で得られる平均線を中心として±20%の高さの部分の評価長さ20μmの範囲の電子線三次元粗さ解析装置で測定して得られる算術平均粗さRa(平均)に対して70%以上である、薄膜一次防錆被覆層付与後の表面導電性に優れた亜鉛系めっき鋼板を製造する方法であって、鋼板に亜鉛めっき層を形成してから薄膜一次防錆被覆層を形成するまでの間、搬送される鋼板に接触するピンチロールによりめっき表面に加わるロール1mm長さあたりの圧下力F(N/mm2)とJIS Z 2244で測定されるめっき層のマイクロビッカース硬度MHvとの間に下記の式(1)を満足する関係が成立するよう、圧下力を制御することを特徴とする、薄膜一次防錆被覆層付与後の表面導電性に優れた亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
F<9.8065MHv ×(R2−(R−h×10-320.5 式(1)
ここで、Rはロール半径(mm)、hはめっき鋼板のRpの値(μm)とする。

【図1】
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【図2(a)】
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【図2(b)】
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【図2(c)】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【公開番号】特開2008−38188(P2008−38188A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−212293(P2006−212293)
【出願日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】