説明

薄膜付基板の支持部材、薄膜付基板の収納容器、マスクブランク収納体、転写マスク収納体、及び薄膜付基板の輸送方法

【課題】パーティクルなどによる発塵を十分抑制することが出来る薄膜付基板の支持部材を提供する。また、このような支持部材を備え、薄膜付基板を高い清浄度に保ちながら保管できる薄膜付基板の収納に好適な収納容器を提供する。
【解決手段】マスクブランク等の薄膜付基板1を支持するための支持手段を備える支持部材2,5であって、支持手段の少なくとも薄膜付基板1と接触する部位の表面を、算術平均表面粗さ(Ra)で0.1μm以下である平滑面とした。支持手段の少なくとも薄膜付基板1と接触する部位の表面は例えば樹脂材料で構成する。薄膜付基板1を固定状態に支持する支持部材を備える収納容器において、上記支持部材2、5を用いて薄膜付基板1を支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子デバイスの製造に使用される転写マスクやこの転写マスクの製造に用いられるマスクブランク等の薄膜付基板の支持部材、この支持部材を備える薄膜付基板の収納容器、この収納容器にマスクブランク或いは転写マスクが収納された収納体、及び薄膜付基板の輸送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子デバイス、特に半導体素子や液晶モニター用のカラーフィルター或いはTFT素子等は、IT技術の急速な発達に伴い、一層の微細化が要求されている。このような微細加工技術を支える技術の一つが、転写マスクと呼ばれるフォトマスクを用いたリソグラフィー技術である。このリソグラフィー技術においては、露光用光源の電磁波を転写マスクを通じてレジスト膜付きシリコンウエハー等に露光することにより、シリコンウエハー上に微細なパターンを形成している。この転写マスクは通常、透光性基板上に例えば遮光性膜などを形成したマスクブランクにリソグラフィー技術を用いて原版となるパターンを形成して製造される。ところで、マスクブランクの表面にパーティクル等の異物があると、形成されるパターンの欠陥の原因となるので、マスクブランクの表面には異物等が付着しないように清浄に保管される必要がある。
【0003】
このようなマスクブランクを収納保管し運搬するための容器としては、従来では例えば下記特許文献1に記載されているようなマスク運搬用ケースが知られている。
すなわち、従来のマスクブランクを収納保管する容器は、キャリアなどと呼ばれている内ケースにマスクブランクを数枚乃至数十枚並べて保持させ、このマスクブランクを保持した内ケースを外箱(ケース本体)内に収容し、さらに外箱上に蓋を被せて、マスクブランクを収納する構造となっていた。そして、外箱と蓋との接合部上には粘着テープを貼付することにより、ケースを密封するとともに、外気や異物等の進入を防ぐようにしていた。
【0004】
【特許文献1】特開2001−154341号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の電子デバイスの高性能化に伴って、転写マスクに形成されるパターンも一段と微細化が要求されており、このような微細化パターンを形成するためにもマスクブランクの清浄度は極めて高いものでないと許容できなくなってきている。従って、マスクブランクに異物等が付着するのを出来るだけ抑制することにより、特にマスクブランクの保管中は出来るだけ高い清浄度に維持する必要がある。
マスクブランク等の取扱い中、保管中に発塵を出来るだけ防止するため、従来は主に基板に着目したアプローチが色々となされていた。例えば、マスクブランク上にレジスト膜を塗布成膜すると、マスクブランク主表面だけでなく、その周縁の端面にもレジスト膜が形成されるので、マスクパターン形成に不要な外周側のレジスト膜を除去することにより、レジスト膜に起因する発塵の抑制を図っている。マスクブランクの端面にレジスト膜があると、マスクブランクの取扱い中や、収納容器への出し入れ時に、他の部材との接触、擦れ等により発塵が起こりやすいためである。
【0006】
また、上記特許文献1で知られているマスクブランク等の薄膜付基板を収納する収納容器の材質として何らかの化学成分等が放出され難いプラスチック等を用いることにより、マスクブランク等を清浄な雰囲気で保管することも行われていた。
しかしながら、本発明者の研究によると、従来知られているような発塵を抑制する手段を適用したとしても、十分ではないことが判明した。つまり、従来の発塵抑制手段によると、その効果は認められるものの、近年の電子デバイスの高性能化に伴う微細化パターンを形成するためにマスクブランクに要求される清浄度は極めて高いものであり、従来の発塵抑制手段だけではこのような高い清浄度を保つためには不十分であることが分った。
【0007】
従って、本発明は、上記従来の問題点を解消し、パーティクルなどによる発塵を十分抑制することが出来る薄膜付基板の支持部材を提供することを第1の目的とする。また、このような支持部材を備え、薄膜付基板を高い清浄度に保ちながら保管できる薄膜付基板の収納に好適な収納容器、及びこの収納容器にマスクブランク或いは転写マスクが収納された収納体を提供することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来は、発塵の原因は主に基板側にあるとの認識から種々の検討がなされていたが、発塵が起こる原因の1つは、例えば2つの部材が接触することにより発生する現象であると考えられるので、基板だけでなく基板と接触する部材についても検討する必要があるとの認識から本発明者は検討を行った。
マスクブランク等の収納容器は、容器内に収納されたマスクブランク等ががたつかないように、マスクブランク等を固定状態に支持するための例えばリテーナなどとも呼ばれている支持部材を通常備えている。本発明者は、このマスクブランク等の薄膜付基板と直接接触する支持部材に着目して検討を行ったところ、この支持部材の薄膜付基板と接触する部位の表面粗さが、発塵と因果関係があることを突き止めた。
そこで、本発明者は、上記課題を解決すべく、上記解明事実に基づき更に鋭意研究を行った結果、以下の本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成を有するものである。
(構成1)薄膜付基板を支持するための支持手段を備える支持部材であって、前記支持手段の少なくとも前記薄膜付基板と接触する部位の表面を、算術平均表面粗さ(Ra)で0.1μm以下である平滑面としたことを特徴とする薄膜付基板の支持部材である。
(構成2)前記薄膜付基板の少なくとも前記支持手段と接触する部位の基板表面は鏡面であることを特徴とする構成1に記載の薄膜付基板の支持部材である。
(構成3)前記薄膜付基板は、主面と該主面の周縁に形成された端面とを有し、該端面は、薄膜付基板の側面部と、該側面部と前記主面との間に介在する面取斜面部とを含み、前記支持手段を前記面取斜面部に当接させて薄膜付基板を支持することを特徴とする構成1又は2に記載の薄膜付基板の支持部材である。
(構成4)前記支持手段の少なくとも前記薄膜付基板と接触する部位の表面を樹脂材料で構成することを特徴とする構成1乃至3の何れかに記載の薄膜付基板の支持部材である。
【0010】
(構成5)薄膜付基板を固定状態に支持する支持部材を備える薄膜付基板の収納容器であって、構成1乃至4の何れかに記載の支持部材を用いて薄膜付基板を支持することを特徴とする薄膜付基板の収納容器である。
(構成6)表面にマスクパターンが形成されて転写マスクとされるマスクブランクを内部に収納するマスクブランク収納体であって、基板上にマスクパターンを形成するための薄膜を備えるマスクブランクが構成5に記載の収納容器に収納されていることを特徴とするマスクブランク収納体である。
(構成7)表面にマスクパターンが形成された転写マスクを内部に収納する転写マスク収納体であって、転写マスクが構成5に記載の収納容器に収納されていることを特徴とする転写マスク収納体である。
(構成8)構成5に記載の収納容器内部に薄膜付基板を収納して輸送することを特徴とする薄膜付基板の輸送方法である。
【0011】
以下、本発明を更に詳述する。
本発明の薄膜付基板の支持部材は、構成1にあるように、薄膜付基板を支持するための支持手段を備える支持部材であって、前記支持手段の少なくとも前記薄膜付基板と接触する部位の表面を、算術平均表面粗さ(Ra)で0.1μm以下である平滑面としたことを特徴としている。
このように、支持手段の少なくとも前記薄膜付基板と接触する部位の表面を、所定の平滑面とすることにより、薄膜付基板とこれを支持する支持手段との接触による発塵を好適に抑制することが出来る。
【0012】
ここで、薄膜付基板は、例えばガラス基板等の透光性基板上に遮光性膜等の薄膜を有するマスクブランクである。マスクブランクとしては、透光性基板上に遮光性膜(例えばクロム薄膜)を有する所謂バイナリマスク用のマスクブランクに限られず、たとえば位相シフトマスクの製造に用いられるマスクブランクは、透光性基板上に位相シフト膜、或いは位相シフト膜と遮光性膜を有する。また、極紫外線露光用の反射型マスクの製造に用いられるマスクブランクは、基板上に露光光反射膜と露光光吸収膜を有する。
【0013】
また、薄膜付基板は、上記のようなマスクブランクの表面に更にレジスト膜を有するものであってもよい。レジスト膜を有する場合、発塵を引き起こす可能性が高いが、本発明の支持部材によれば、薄膜付基板がレジスト膜を備えている場合にあっても発塵を抑制することが出来るので特に好適である。
また、薄膜付基板は、上記のようなマスクブランクを用い、リソグラフィー技術により基板上の薄膜にマスクパターンを形成して得られる転写マスクであってもよい。
【0014】
なお、本発明の支持部材は、支持手段の少なくとも前記薄膜付基板と接触する部位の表面を、算術平均表面粗さ(Ra)で0.1μm以下である平滑面としているが、本発明においてRaというときは、日本工業規格(JIS)B0601に準拠して算出される算術平均表面粗さのことである。また、本発明の支持部材における算術平均表面粗さ(Ra)は、例えば接触式表面粗さ測定装置で測定したときに得られる表面形状の値を用いて算出することができる。
【0015】
また、構成2にあるように、薄膜付基板の少なくとも前記支持手段と接触する部位の基板表面は鏡面である。
薄膜付基板は、板状の基板上に薄膜を有する構成であり、上下2つの主面と該主面の周縁に形成された、即ち上下2つの主面の間に介在する端面とを有する。このような構成にあって、薄膜付基板の少なくとも前記支持手段と接触する部位は、通常、薄膜付基板の端面である。薄膜付基板の主面は、たとえばマスクブランクにおいてはマスクパターンが形成される領域であり、基板の取扱い中或いは保管中に他の部材との接触を出来るだけ避けることが望ましく、この点で薄膜付基板の端面はマスクパターンの形成には関与しないので基板を安全に支持することが出来るからである。
【0016】
本発明の支持部材は、薄膜付基板の少なくとも前記支持手段と接触する部位の基板表面は鏡面であるような薄膜付基板を支持するのに好適なものである。マスクブランクの基板として用いられるガラス基板の端面は、一般に算術平均表面粗さ(Ra)で1nm以下の鏡面となるように研磨されている。このように端面は極めて平滑な面に仕上がっているため、端面の上に薄膜が形成されている場合にも、その薄膜表面は平滑な面であると云える。なお、算術平均表面粗さ(Ra)については前述したとおりである。
また、上記薄膜付基板の端面は、薄膜付基板の側面部と、該側面部と前記主面との間に介在する面取斜面部とを含む。本発明の薄膜付基板の支持部材は、構成3にあるように、前記支持手段を前記面取斜面部に当接させて薄膜付基板を支持するものであることが好ましい。薄膜付基板との接触領域を出来るだけ少なくして、且つ薄膜付基板を安全に支持することが出来るからである。なお、マスクブランクの基板として用いられるガラス基板の場合、その端面の面取斜面部は、一般に算術平均表面粗さ(Ra)で1nm以下の鏡面となるように研磨仕上げされている。ここでいう算術平均表面粗さ(Ra)についても前述したとおりである。
【0017】
本発明の薄膜付基板の支持部材は、構成4にあるように、前記支持手段の少なくとも前記薄膜付基板と接触する部位の表面を、成形性、軽量性、コスト等の観点からは、樹脂材料で構成することが好ましい。この場合、前記支持手段の少なくとも前記薄膜付基板と接触する部位の表面を樹脂材料で構成し、他の部位は樹脂以外の材料で構成してもよいが、成形性、軽量性、コスト等の観点からは、全体を樹脂材料で構成することが好ましい。本発明に用いる樹脂材料としては、例えばポリブチレンテレフタレート(略称:PBT)を好ましく挙げられる。PBTは、樹脂材料の中では比較的硬い材質である上に、支持手段の少なくとも前記薄膜付基板と接触する部位の表面が算術平均表面粗さ(Ra)で0.1μm以下である平滑面が樹脂成形によって得られやすいからである。勿論、本発明の支持部材に用いる樹脂材料としてPBTに限定されるわけではなく、他の樹脂材料を用いても構わない。なお、樹脂材料で構成した場合、適当な表面処理を施すことによっても、支持手段の少なくとも前記薄膜付基板と接触する部位の表面を所定の表面粗さの平滑面とすることが可能である。
【0018】
本発明の薄膜付基板の収納容器は、構成5にあるように、薄膜付基板を固定状態に支持する支持部材を備える薄膜付基板の収納容器であって、上述の構成1乃至4の何れかの支持部材を用いて薄膜付基板を支持することを特徴としている。
このように、本発明に係る支持部材を備えた収納容器によれば、収納容器内部での発塵を好適に抑制することが出来、薄膜付基板を安全に保管することが出来る。
なお、このような収納容器の構造としては、内部に薄膜付基板を1枚乃至は複数枚収納でき、さらに望ましくは閉蓋した状態で外気が容器内部に直接的には入り込み難いような構造のものであれば、どのような構造のものであっても構わない。また、本発明に係る収納容器の材質としては、特に制約されないが、成形性、軽量性、コスト等の観点からは、全体を樹脂材料で構成することが好ましい。この場合、収納容器に備える本発明の支持部材と同じ樹脂材料を用いてもよいし、異なる樹脂材料を用いてもよい。
【0019】
収納容器を構成する樹脂材料としては、例えばポリプロピレン、アクリル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチルサルファイト等の樹脂から適宜選択される。
なお、本発明に係る支持部材は、たとえば収納容器と同じ材質で一体成形により形成してもよいし、収納容器とは別に製造して、収納容器の内部に取り付けるようにしてもよい。
【0020】
構成6にあるように、マスクブランクが上述の本発明に係る収納容器に収納されているマスクブランク収納体によれば、収納体内部での発塵が好適に抑制され、マスクブランク表面の異物付着を防止して、マスクブランクを保管中高い清浄度が保たれる。特にマスクブランク表面にレジスト膜を備えたマスクブランク収納体として好適である。
また、構成7にあるように、転写マスクが上述の本発明に係る収納容器に収納されている転写マスク収納体によれば、収納体内部での発塵が好適に抑制され、転写マスク表面の異物付着を防止して、転写マスクを保管中高い清浄度が保たれる。
【0021】
また、構成8にあるように、上述の本発明に係る収納容器内部に薄膜付基板を収納して輸送することにより、振動等があっても収納容器内部で発塵が助長されることなく、薄膜付基板を安全に保管できるので、遠隔地等への薄膜付基板の輸送に対する高い信頼性を保障することが出来る。
なお、以上では、薄膜付基板を例えばマスクブランクや転写マスクを例に挙げて説明したが、これ以外にも、例えば磁気ディスクのようなディスク状基板の上に磁性膜を備えた磁性薄膜付基板にも本発明は適用することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、パーティクルなどによる発塵を十分抑制することが出来る薄膜付基板の支持部材を提供することができる。
また、このような支持部材を備え、薄膜付基板を高い清浄度に保ちながら保管できる薄膜付基板の収納に好適な収納容器を提供することができる。
また、このような収納容器にマスクブランク或いは転写マスクが高い清浄度が保たれて収納されている収納体を提供することができる。さらには、収納容器に薄膜付基板を収納して輸送することにより、薄膜付基板を安全に保管でき、遠隔地等への薄膜付基板の輸送に対する高い信頼性を保障することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。
図1乃至図4は本発明に係る薄膜付基板の収納容器の一実施の形態を示すもので、図1は収納容器の蓋を示す斜視図、図2は薄膜付基板を中ケースに収納する状態を示す斜視図、図3は収納容器の容器本体(外ケース)を示す斜視図、図4は収納容器に薄膜付基板を収納した状態の縦方向の断面図である。
本実施の形態では、上記薄膜付基板としてマスクブランクを例に説明する。勿論、転写マスク等の収納容器としても利用できる。
本実施の形態の収納容器は、主面が正方形のガラス基板の一主面上にクロム膜等の遮光性薄膜を成膜し、その上にレジスト膜を形成したマスクブランク1を中ケース(支持部材)2に収納し、この中ケース2を容器本体3に収納し、この容器本体3の開口部側に蓋4を被せる構造である(図4)。
なお、上記中ケース2を使用せずに、マスクブランク1を容器本体3に直接溝等を設けて収納する形態とすることもできる。但し、本実施形態のように中ケース2を使用すると、数枚乃至数十枚のマスクブランクをまとめて中ケース2に入れた状態で取り扱えるので便利である。
【0024】
本実施形態の中ケース2は、開口部側(上方)から底面側(下方)に向けて複数の溝(支持手段)21,22を一方の互いに対向する内側面に所定間隔をおいて一対をなして形成し、その溝21,22の底面側の底部と中ケース2の底面にはそれぞれ開口窓23,24と開口部27が設けられ、さらに中ケース2の底面側には基板支持部(支持手段)26が形成され、この基板支持部26でマスクブランク1の下方端面13を支持している(図2、図4)。そして、この中ケース2を容器本体3に収納して固定するための凹面部28,29がそれぞれ中ケース2の他方の互いに対向する外側面に底面側から開口部側の途中まで形成されている(図2)。なお、中ケース2の開口部側の上端面25から前記基板支持部26までの高さ寸法は、収納するマスクブランク1の高さ寸法の主要部分に相当し、マスクブランク1を中ケース2に収納したとき、マスクブランク1の上方部分が中ケース2の上端面25からとび出る構造となっている(図4)。数枚のマスクブランク1を中ケース2の一対の溝21,22に沿って入れると、これらのマスクブランク1は所定間隔をおいて互いに平行に林立する。本実施形態では垂直方向に林立するが、傾斜方向にしてもよい。
【0025】
本実施形態の容器本体3は、前述した中ケース2の凹面部28,29と当接するに適合した突出部31,32を、互いに対向する内側面に形成し、その突出部31,32の底部は容器本体3底面とも接合している(図3)。また、一方の対向する外側面の開口部側には凸部33,34が形成されている。そして、容器本体3の開口縁35のやや下方の位置に続く外周面36と上記凸部33,34の凸面とは略同一面に形成されている。
本実施形態の蓋4は、その一方の対向する下方縁(容器本体へ差し込む開口部側の縁であって、図1では上方へ向いている)47から延びた係合片41,42に凹部43,44を形成している。これにより、蓋4を容器本体3に被せたときに、上記凹部43,44が前記容器本体3の凸部33,34とそれぞれ係合することで、蓋4と容器本体3とが固定される(図4)。また、中ケース2の開口部側上端面25と当接して中ケース2を垂直方向において支持固定するストッパー45,46を一方の内側面に互いに対向させて形成している(図1)。なお、蓋4の凹部43,44と容器本体3の凸部33,34を設けないで、蓋4を容器本体3にそのまま被せる構成としてもよい。
【0026】
以上の中ケース2、容器本体3及び蓋4の材質は、例えばポリプロピレン、アクリル、ポリエチレン、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチルサルファイト等の樹脂から適宜選択される。これらの中でも、ポリカーボネート或いはポリエステルが好ましい。また、容器本体3及び蓋4の材質としてはポリカーボネートが好ましく、中ケース2の材質としてはポリエステルが好ましい。ただし、本実施形態に係る中ケース2に関しては、前述したように、0.1μm以下の平滑面が樹脂成形によって得られやすいという観点から、PBTを用いてもよい。また、中ケース2や後述するリテーナ5の樹脂材料としてポリエチレンオキシド(PEO)を用いてもよい。
なお、マスクブランクの保管中にチャージが溜まると、マスク製造過程において放電破壊を起こし、パターン欠陥となる場合があるので、たとえば容器本体3の構成樹脂にカーボン等を混ぜ込んで導電性を付与することが好ましい。
【0027】
次に、本発明に係るリテーナ(支持部材)5は、図5に示すように、断面円形で直線状に延在した軸51と、その軸51の側面から断面において直交する方向に引き出した複数対の連結部52,53と、その連結部52,53の先端に断面円形に形成した複数対の当接部54,55とを備えている。複数対の連結部52,53と当接部54,55は、前述した中ケース2の溝21,22の所定間隔と対応した間隔で配列されている。そして、当接部54,55には、当接面(支持手段)56,57をそれぞれ互いに直交する方向に形成している。
このようなリテーナ5を2本用意して、蓋4の内側に設けた軸保持具6,7にそれぞれ挿入する(図4)。尚、上記軸保持具6,7は蓋4の内側の一方の内側面に互いに対向させて設けており、上記リテーナ5の軸51を挿入して、その軸51をその中心軸の回りに回転自在に保持している。
【0028】
複数のマスクブランク1を収納した中ケース2を容器本体3に入れて、容器本体3の上から蓋4を被せることにより、リテーナ5の当接部54,55の当接面56,57がマスクブランク1の上方角部において上部端面11及び側部端面12にそれぞれ当接し、マスクブランク1を固定状態に支持している。このリテーナ5の材質としては、樹脂材料の中でも、0.1μm以下の平滑面が樹脂成形によって得られやすいという点で例えばPBTであることが好ましい。マスクブランク1の端面と接触する当接面56,57の表面はRaで0.1μm以下の平滑面としている。
また、本実施の形態では、前述のように中ケース2の底面側に形成された基板支持部26によりマスクブランク1の下方端面13を支持しており、この基板支持部26についても、マスクブランク1の端面と接触する部位の表面をRaで0.1μm以下の平滑面としている。
さらに、本実施形態では、前述のように中ケース2の開口部側(上方)から底面側(下方)に向けて形成された溝21,22によりマスクブランク1の側部端面12を支持しており、これら溝21,22についても、マスクブランク1の端面と接触する部位の表面をRaで0.1μm以下の平滑面としている。
なお、本実施形態のように、リテーナ5の当接面56,57の表面、基板支持部26の表面、溝21,22の表面の何れについてもRaで0.1μm以下の平滑面とすることが好ましいが、上記の各表面のうち何れか一つ又は2つのみ、上記平滑面としてもよい。
【0029】
図6は、本発明に係る薄膜付基板の収納容器の他の実施の形態を示す一部切り欠き正面図である。
本実施の形態に係る収納容器100は、容器本体(外ケース)101と、該容器本体101の内部に装着される中ケース(支持部材)102と、容器本体101に被せる蓋103とから構成されている。容器本体101は、上部開口の周縁部にフランジ状の嵌合部101aを備え、この嵌合部101aは、蓋103が被せられたとき、蓋103の周縁部に形成された嵌合部103aと嵌合し、嵌合部同士を別部材のフック104で係止することにより、容器本体101と蓋103が一体的に固定される。また、容器本体101の一外側面には脚部101bが設けられており、本実施の形態の収納容器100を図1の状態から横に倒して脚部101bが下に来るようにしても収納容器100を安定して置けるようになっている(つまり横置き)。この状態では、マスクブランク1は水平姿勢となるため、例えばロボットで基板の出し入れが可能である。
【0030】
また、蓋103の上部下面にはリテーナ(支持部材)105が設けられており、容器本体101に蓋103を被せると、リテーナ105の当接面(支持手段)105aがマスクブランク1の上端角部の端面(面取斜面部)に当接してマスクブランク1を固定状態に支持する。このリテーナ105の材質は、例えばPBTであり、マスクブランク1の端面と接触する当接面105aの表面はRaで0.1μm以下の平滑面としている。
また、中ケース102の内側面には基板保持溝(支持手段)102bが形成され、底面には基板の下端を支持する支持片(支持手段)102aが設けられている。ここでは、この基板保持溝102b、支持片102aについても、マスクブランク1の端面と接触する部位の表面をRaで0.1μm以下の平滑面としている。なお、リテーナ105の当接面105a、基板保持溝102bの表面、支持片102aの表面の何れについてもRaで0.1μm以下の平滑面とすることが好ましいが、上記の各表面のうち何れか一つ又は2つのみ、上記平滑面としてもよい。
以下、具体的な実施例を説明する。なお、ここでは、図6に示す収納容器100を用いた場合の実施例を説明するが、前述した図1〜図5に示す収納容器10についても同様の効果が得られる。
【実施例】
【0031】
石英基板(6インチ×6インチ)上にスパッタ法でハーフトーン膜及び遮光性膜を形成し、その上にスピンコート法でレジスト膜を形成してレジスト膜付きマスクブランク1を製造した。このとき、ハーフトーン膜としてMoSi系金属膜を用い、遮光性膜としてはCr金属膜を用い、レジスト膜としてはポジ型の化学増幅型レジスト膜を用いた。
このようにして製造したマスクブランク1を前述の図6に示す実施形態の収納容器100に収納した。なお、蓋103と容器本体101の材質をポリカーボネート、中ケース102の材質をPBT、リテーナ105の材質をPBTとした3つの収納容器(実施例1、実施例2、実施例3)と、リテーナ105の材質をPBTの代わりにポリエチレンとした収納容器(比較例1)とのそれぞれにマスクブランク1を収納した。収納作業はクリーンルーム内で行った。
【0032】
なお、上記各収納容器において、リテーナ105のマスクブランク1の端面と接触する部位の表面粗さを、接触式表面粗さ計FormTalysurf S4F(テーラーホプソン社製)を用いて測定したところ、Raは、実施例1では0.05μm、実施例2では0.05μm、実施例3では0.10μm、比較例1では0.13μmであった。なお、比較例1の中ケース102の表面粗さRaは0.13μmであった。また、製造したマスクブランクの基板端面は鏡面に研磨されており、表面粗さは原子間力顕微鏡(AFM)の測定値でRaが0.5nmであった。
このマスクブランクを収納した収納容器(マスクブランク収納体)の振動試験を行なった。振動試験は、米軍規格MIL(MilitarySpecificationsand Military Standards)のMIL-STD-810Dに準拠した。なお、この際の振動条件は一般車両環境を想定して設定した。
【0033】
そして、振動試験後、収納容器を上記と同様のクリーンルーム内で開封し、取り出したマスクブランクについて、欠陥検査装置を用いて主面上の付着異物による欠陥個数を測定した。尚、評価は振動試験前の欠陥個数を予め測定しておき、これに対する振動試験後の欠陥個数の増加個数で行なった。その結果、実施例1,2,3の何れの収納容器も、増加欠陥個数は0(ゼロ)であったのに対し、比較例1の収納容器は、増加欠陥個数は4であった。なお、比較例1では、リテーナ105及び中ケース102と接触したマスクブランクの面取斜面部にPBTの樹脂痕が確認されたが、実施例ではそのような樹脂痕は確認されなかった。
【0034】
また、比較例2として、中ケース102及びリテーナ105の両方の材質をPBTとし、中ケース102及びリテーナ105の表面粗さRaを0.13μmとした収納容器にマスクブランク1を収納したところ、増加欠陥数は6であった。
さらに、実施例4として、中ケース102及びリテーナ105の両方の材質をポリエチレンとし、リテーナ105の表面粗さRaを0.10μmとした収納容器にマスクブランク1を収納し、上述の実施例と同じ振動試験を行なったところ、増加欠陥数は0(ゼロ)であった。
また、実施例5として、中ケース102及びリテーナ105の両方の材質をPBTとし、中ケース102及びリテーナ105の表面粗さRaを0.05μmとした収納容器にマスクブランク1を収納し、上述の実施例と同じ振動試験を行なったところ、増加欠陥数は0(ゼロ)であった。
【0035】
さらに、実施例6として、中ケース102及びリテーナ105の両方の材質をPBTとし、リテーナ105の表面粗さRaを0.05μm、中ケース102の表面粗さRaを0.10μmとした収納容器にマスクブランク1を収納し、上述の実施例と同じ振動試験を行なったところ、増加欠陥数は0(ゼロ)であった。
また、実施例7として、中ケース102及びリテーナ105の両方の材質をPBTとし、リテーナ105の表面粗さRaを0.05μm、中ケース102の表面粗さRaを0.13μmとした収納容器にマスクブランク1を収納し、上述の実施例と同じ振動試験を行なったところ、増加欠陥数は0(ゼロ)であった。
なお、中ケース102及びリテーナ105の表面粗さは、中ケース102及びリテーナ105を成形するときの型の表面粗さを変えることで変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】収納容器の蓋を示す斜視図である。
【図2】マスクブランクを中ケースに収納する状態を示す斜視図である。
【図3】収納容器の容器本体(外ケース)を示す斜視図である。
【図4】収納容器にマスクブランクを収納した状態の縦方向の断面図である。
【図5】支持部材の斜視図である。
【図6】本発明の収納容器の他の実施の形態を示す一部切り欠き正面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 マスクブランク(薄膜付基板)
2 中ケース(支持部材)
3 容器本体
4 蓋
5 リテーナ(支持部材)
6,7 軸保持具
11 上部端面
12 側部端面
13 下方端面
21,22 溝(支持手段)
23,24 開口窓
25 上端面
26 基板支持部(支持手段)
27 開口部
28,29 凹面部
31,32 突出部
33,34 凸部
35 開口縁
36 外周面
41,42 係合片
43,44 凹部
45,46 ストッパー
47 下方縁
51 軸
52,53 連結部
54,55 当接部
56,57 当接面(支持手段)
100 収納容器
101 容器本体(外ケース)
101a 嵌合部
101b 脚部
102 中ケース(支持部材)
102a 支持片(支持手段)
102b 基板保持溝(支持手段)
103 蓋
104 フック
105 リテーナ(支持部材)
105a 当接面(支持手段)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
薄膜付基板を支持するための支持手段を備える支持部材であって、
前記支持手段の少なくとも前記薄膜付基板と接触する部位の表面を、算術平均表面粗さ(Ra)で0.1μm以下である平滑面とした
ことを特徴とする薄膜付基板の支持部材。
【請求項2】
前記薄膜付基板の少なくとも前記支持手段と接触する部位の基板表面は鏡面である
ことを特徴とする請求項1に記載の薄膜付基板の支持部材。
【請求項3】
前記薄膜付基板は、主面と該主面の周縁に形成された端面とを有し、該端面は、薄膜付基板の側面部と、該側面部と前記主面との間に介在する面取斜面部とを含み、前記支持手段を前記面取斜面部に当接させて薄膜付基板を支持する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜付基板の支持部材。
【請求項4】
前記支持手段の少なくとも前記薄膜付基板と接触する部位の表面を樹脂材料で構成する
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の薄膜付基板の支持部材。
【請求項5】
薄膜付基板を固定状態に支持する支持部材を備える薄膜付基板の収納容器であって、
請求項1乃至4の何れかに記載の支持部材を用いて薄膜付基板を支持する
ことを特徴とする薄膜付基板の収納容器。
【請求項6】
表面にマスクパターンが形成されて転写マスクとされるマスクブランクを内部に収納するマスクブランク収納体であって、基板上にマスクパターンを形成するための薄膜を備えるマスクブランクが請求項5に記載の収納容器に収納されている
ことを特徴とするマスクブランク収納体。
【請求項7】
表面にマスクパターンが形成された転写マスクを内部に収納する転写マスク収納体であって、転写マスクが請求項5に記載の収納容器に収納されている
ことを特徴とする転写マスク収納体。
【請求項8】
請求項5に記載の収納容器内部に薄膜付基板を収納して輸送する
ことを特徴とする薄膜付基板の輸送方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−124034(P2006−124034A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−284102(P2005−284102)
【出願日】平成17年9月29日(2005.9.29)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】