説明

薄膜層堆積方法及び得られる製品

本発明は、少なくとも1種の酸化物をベースとする少なくとも1層の透明でかつ導電性の薄膜層により第一面が被覆された基材を得る方法であって、下記工程:
前記少なくとも1層の薄膜層を前記基材上に堆積させること、
少なくとも1つの寸法が10cmを超えない前記少なくとも1層の薄膜層の領域に焦点が合わされた、波長が500〜2000nmである放射線を用いて前記少なくとも1層の薄膜層を照射する熱処理工程に前記少なくとも1層の薄膜層を付し、ここで、前記放射線を前記少なくとも1層の薄膜層に対面して配置されている少なくとも1つの放射線デバイスにより送達させ、所望の表面を処理するように前記放射線デバイスと前記基材とを相対的に移動させ、前記少なくとも1層の薄膜層の抵抗率が前記熱処理の間に低減される、熱処理工程に付すこと、
を含む方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無機薄膜層の分野に関し、特に、基材上に堆積される無機薄膜層の分野に関する。本発明は、より詳細には、抵抗率を低減するために、透明導電性薄膜層を熱処理する方法、及び、この方法を用いて得られる特定の製品に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの薄膜層は、基材、特に、平らな又は若干凸状のガラスから作られた基材上に堆積されており、それにより、得られる材料に特定の特性:光学特性、たとえば、所定の波長範囲の放射線の反射及び吸収、特定の導電特性、又は、クリーニングの容易さもしくは材料の自己クリーニング性能に関する特性が付与される。
【0003】
一般に半導体酸化物をベースとする特定の層は、透明であるが、導電性であるという特徴を有する。これらの層は、しばしば「透明導電性酸化物」を表す略語「TCO」によって参照される。その厚さは一般に数ナノメートルから数百ナノメートルであり、それが「薄膜」と呼ばれる理由である。本明細書において、用語「少なくとも1種の酸化物をベースとする透明性かつ導電性の層」及び用語「TCOをベースとする層」は同様に使用されるであろう。
【0004】
言及されうる例は、インジウム及びスズの混合酸化物(「ITO」と呼ばれる)をベースとする薄膜層、インジウム及び亜鉛の混合酸化物(「IZO」と呼ばれる)をベースとする薄膜層、ガリウム又はアルミニウムによりドープされた酸化亜鉛をベースとする薄膜層、ニオブによりドープされた酸化チタンをベースとする薄膜層、スズ酸カドミウム又はスズ酸亜鉛をベースとする薄膜層、フッ素及び/又はアンチモンによりドープされた酸化スズをベースとする薄膜層である。これらの種々の層は透明性及び導電性の特性を必要とする多くの装置:液晶スクリーン(LCD)、ソーラーコレクタもしくは光電池コレクタ、エレクトロクロミックデバイスもしくはエレクトロルミネッセンスデバイスなどにおいて使用されている。
【0005】
光電池において、入射線の効果の下で電気エネルギーを生じる光起電性材料を含む光起電力システムは後面基材及び前面基材の間に配置され、この前面基材は入射線が光起電性材料に到達する前にその入射線が通る第一の基材である。
【0006】
光電池において、前面基材は、入射線の主到着方向が上面を通過するものと考えると、通常、光起電性材料と対面する主面の下方に透明電極コーティングを含み、その透明電極コーティングはその下方に配置された光起電性材料と電気接触している。
【0007】
ケイ素(たとえば、アモルファスもしくは単結晶シリコン)をベースとする光起電性材料の場合には、このように、この前面電極コーティングは、一般に、負端子(又はホールコレクタ)を構成する。もちろん、太陽電池はまた、後面基材上に電極コーティングを含み、その電極コーティングは太陽電池の正端子(又は電子コレクタ)を構成するが、一般に、後面基材の電極コーティングは透明ではない。テルル化カドミウムをベースとする光起電性材料では、前面電極コーティングは一般に、太陽電池の正端子を構成する。
【0008】
それゆえ、このようなTCOをベースとする層は、たとえば、前面電極コーティングとして使用されうる。
【0009】
TCOをベースとする層の種類又はその用途が何であれ、その導電性を最大化し、そしてそれゆえ、その抵抗率を最小化することが一般に望まれる。
【0010】
低い抵抗率の層を提供することの利点は、所定の抵抗のための層の厚さを低減することができること、又は、同一の層の厚さで比較して、抵抗を低減できることである。
【0011】
特に、光電池用途において、所望の低い抵抗(通常、8〜10Ω)を得るために、TCOコーティングは約500〜1000nmという比較的に厚い物理的厚さで、そして時にはさらに厚い厚さで堆積されなければならず、そのことは薄膜層中に堆積される際にこれらの材料のコスト面で高価になる。
【0012】
TCOコーティングの別の主な欠点は、選択された材料について、その物理的厚さは、常に、導電性と透明性との間での妥協となる点にある。というのは、厚さは導電性と相関があるが、透明性とは逆相関があるからである。現在、特に光電池の分野において、高い透明性がしばしば要求されている。というのは、できるだけ多くの光線が電池に到達することができることが重要であるからである。特に、当該光電池の量子効率が最大となる波長範囲で層ができるだけ少なく吸収することが重要である。量子効率QEは、既知の様式において、所定の波長の入射光子が電子−ホール対に変換される確率の表現(0〜1)であることが思い出されるであろう。最大吸収波長λm、すなわち、量子効率が最大である波長は、テルル化カドミウムでは約640nm、アモルファスシリコンでは540nm、そして単結晶シリコンでは約710nmである。
【0013】
一定の抵抗のための層の厚さのいかなる低減も、それゆえ、経済的理由又は光透過性の理由のいずれからも有利である。
【0014】
薄膜層を、特にガラス基材上に堆積させるための工業規模で一般的に使用される1つの方法は、「マグネトロン」法として知られる、磁場強化カソードスパッタリング法である。この方法においては、堆積しようとする化学元素を含むターゲットの近傍で強力な真空中でプラズマを形成する。ターゲットに衝突することにより、プラズマの活性種が上記の化学元素から取り出され、それが基材上に堆積されて、所望の薄膜層を形成する。この方法は、層が、ターゲットから取り出された元素とプラズマ中に含まれるガスとの間の化学反応により生じる材料からなるときに、「反応性」と呼ばれる。この方法の主な利点は異なるターゲットの下に基材を連続的に通過させることにより、同一のラインで非常に複雑な積み重ね層を堆積させることができることにあり、このことは一般に単一のデバイス中で行われる。
【0015】
マグネトロン法の工業的使用の際に、基材は室温のままであるか、又は、特に、基材の進行速度が高いときに(そのことは経済的理由で一般に望ましい)、中程度の温度上昇(80℃未満)を経験する。しかしながら、有利に思えることが上記の層の場合に欠点を構成する。というのは、関与する低温では、一般に、十分に低い抵抗率を得ることができないからである。それで、所望の抵抗率を得るために熱処理が必要であることが判っている。
【0016】
なし得る熱処理は、堆積の間又は堆積の後のいずれかにおいてマグネトロンラインの出口で基材を加熱することからなる。最も一般的には、少なくとも200℃又は300℃の温度が必要である。
【0017】
しかしながら、工業マグネトロンライン中で(堆積の間に)基材を加熱することは困難であることが判っている。特に、放射を必要とする真空中での熱移動は制御が困難であり、数メートル幅の大きな基材の場合には高コストを伴うからである。厚さの薄いガラス基材の場合には、このタイプの処理はしばしば破損のリスクが高い。
【0018】
たとえば、基材を炉又はストーブ中に配置すること及び赤外線ランプなどの従来の加熱デバイスにより伝達される赤外線に基材を付すことなどにより、堆積後に、被覆された基材を加熱することも欠点を呈す。というのは、これらの種々の方法は基材と薄膜層との間に区別無く加熱に寄与するからである。基材を150℃よりも高い温度に加熱すると、一般に、大きな基材(数メートル幅)の場合には破壊を生じさせる傾向がある。というのは、基材の全幅にわたって同一の温度を確保することが不可能だからである。基材の加熱は、また、全体のプロセスを遅くする。というのは、基材を切断し又は貯蔵しようとすること(そのことは一般に基材を互いに積層することにより行われる)ができるようになるまで、基材を完全に冷却するために待つ必要があるからである。さらに、うまく制御された冷却が、ガラス内部の応力発生及びそれによる破損の可能性を回避するために不可欠である。このようなうまく制御された冷却は非常に高価であるから、アニールは、一般に、ガラス内部の熱応力を十分に除去するように制御されず、そのことにより、ライン上での破損の数が増加する。さらに、アニールは、亀裂が直線的に伝播する傾向が低いので、ガラスを切断するのが困難になるという欠点を有する。
【0019】
板ガラス(グレージング)を曲げ加工し及び/又は焼き戻しする際に基材の加熱を行う。というのは、ガラスは軟化温度を超えて加熱されるからである(一般に、600℃を超え、又は、さらには700℃を超える温度で数分間)。それゆえ、焼き戻し又は曲げ加工により、TCOをベースとする層の抵抗率を大きく低減することができる。しかし、すべての板ガラスをこのような処理に付すのは高価である。さらに、焼き戻しされた板ガラスはもはや切断できず、そして薄膜層の特定の積層物はガラスの焼き戻しの間にさらされる高温に耐えられない。
【0020】
本願出願人により出願された特許出願WO2008/096089は、層に対して/単位面積当たりに極端な高出力を供給することからなる急速アニール法を記載している。その層は熱が基材内部に拡散する時間なしに、極端に急速に加熱される。このため、有意に基材を加熱することなく、薄膜層を熱処理することができ、それにより、熱衝撃に関連する破損のリスクが制限される。TCOタイプの層では、考えられる方法は炎、プラズマトーチ又は波長が10.6μmであるCO2レーザーを用いる方法である。これらの方法により、ガラスを焼き戻すこと又は高温で堆積を行うことでしか以前には達成することができなかった抵抗率を達成することができる。火炎技術は、一般に、一時的な曲げを伴い、そのことが処理の均一性に影響を及ぼす傾向がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
本発明の目的は、可視範囲及び近赤外範囲での高い透光度を維持しながら、さらにより低い抵抗率を達成することができ、上記の問題を取り除くことができる、改良された方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
このために、本発明は、少なくとも1種の酸化物をベースとする少なくとも1層の透明でかつ導電性の薄膜層により第一面が被覆された基材を得る方法であって、下記工程:
前記少なくとも1層の薄膜層を前記基材上に堆積させること、
少なくとも1つの寸法が10cmを超えない前記少なくとも1層の薄膜層の領域に焦点が合わされた、波長が500〜2000nmである放射線を用いて前記少なくとも1層の薄膜層を照射する熱処理工程に前記少なくとも1層の薄膜層を付し、ここで、前記放射線を前記少なくとも1層の薄膜層に対面して配置されている少なくとも1つの放射線デバイスにより送達させ、所望の表面を処理するように前記放射線デバイスと前記基材とを相対的に移動させ、前記少なくとも1層の薄膜層の抵抗率が前記熱処理の間に低減される、熱処理工程に付すこと、
を含む方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、本発明により処理された、アルミニウムでドープした酸化亜鉛の薄膜層の走査型電子顕微鏡画像である。
【図2】図2は、堆積の際に300℃に加熱した基材上に堆積させたアルミニウムでドープした酸化亜鉛の薄膜層の走査型電子顕微鏡画像である。
【図3】図3は、伝統的なアニール法によりアニール処理されたアルミニウムでドープした酸化亜鉛の薄膜層の走査型電子顕微鏡画像である。
【0024】
これらの図面を比較すると、本発明に係る処理により、グレインの1つの寸法が100nm〜200nmであり、複数の基本グレインに細分化されているグレインを見ることができる非常に特有のモルホロジーを得ることができることが判る。
【発明を実施するための形態】
【0025】
この波長の選択により、本発明による処理の効率を非常に大きく改良し、そして上記の出願WO2008/096089中に記載されるCO2レーザー処理により得られる抵抗率よりもずっと低い抵抗率を有する層を得ることが可能であることを発見した。
【0026】
本発明に係る方法により、好ましくは、透明でかつ導電性の層の抵抗率又はシート抵抗が、熱処理前に測定される抵抗率又はシート抵抗と比較して、少なくとも60%、又は70%、さらには75%低減される。
【0027】
このため、本発明に係る方法により、非常に低い抵抗率を達成することができ、特に、アルミニウム及び/又はガリウムによりドープされた酸化亜鉛の層では、7×10-4Ω・cm以下、特に、6×10-4Ω・cm以下、又は、さらには4×10-4又は3×10-4Ω・cm以下を達成することができる。このように、700nm又は600nm以下、さらには400nm又は300nm以下の厚さで、シート抵抗が10Ω以下である層を得ることが可能である。
【0028】
また、本発明に係る処理により、絶対値で少なくとも5%又はさらには10%だけ、被覆された基材の光透過率を増加させることができる。光透過率は透過スペクトルに基づいて標準ISO9050:2003により計算され、3.2mmのガラス厚さに標準化される。それゆえ、TCOをベースとする層により被覆されたガラス基材は80%、特に83%を超える光透過率を達成することができる。
【0029】
それゆえ、光吸収率は大きく低減され、好ましくは、層厚100nmでは、アルミニウム及び/又はガリウムによりドープされた酸化亜鉛の層の吸収率が1.2%未満、特に1.0%未満のレベルにまで低減される。層の光吸収率は、100%から被覆された基材の光透過率、基材側(層とは反対面の側)の光反射率、及び未被覆の基材の光吸収率を引いた値に等しいものと定義される。また、未被覆の基材の光吸収率は、100%から未被覆の基材の光透過率及び光反射率を引いた値に対応する。本明細書全体をとおして、光透過率及び光吸収率はそれぞれ透過スペクトル及び反射スペクトルに基づいて標準ISO9050:2003により計算される。
【0030】
それゆえ、本発明に係る方法により、低い抵抗率又はシート抵抗及び低い光吸収率(及びそれゆえ高い光透過率)の両方を有する層、特に、アルミニウム又はガリウムによりドープされた酸化亜鉛の層を得ることが可能である。このように、たとえば、アルミニウム又はガリウムによりドープされた酸化亜鉛の層により被覆されたガラス基材であって、上記の層の厚さが600nm以下であり、シート抵抗が10Ω以下であり、被覆された基材の光透過率が80%以上である、ガラス基材を得ることが可能である。アルミニウム又はガリウムによりドープされた酸化亜鉛の層により被覆されたガラス基材であって、上記の層の厚さが400nm以下であり、シート抵抗が10Ω以下であり、被覆された基材の光透過率が83%以上である、ガラス基材を得ることが可能である。アルミニウム及び/又はガリウムによりドープされた酸化亜鉛の薄膜層は、好ましくは、熱処理の後に、抵抗率が7×10-4Ω・cm以下であり、特に、6×10-4Ω・cm以下であり、100nmの層厚では吸収率が1.2%以下であり、特に1%以下である(すなわち、500nmの厚さの層では5又は6%以下である)。
【0031】
本発明に係る方法は、概して、溶融材料からの冷却による結晶化の機構を用いない。というのは、このことにより、一方で、溶融するために極端に高い温度に薄膜層を加熱することが必要になるためであり、他方で、層の厚さ及び/又は屈折率を変化させ、それゆえ、その特性を変化させる傾向があるためである。これにより、眼で見て知覚できる不均一性を生じることにより、特に視覚的外観を変化させるであろう。
【0032】
本発明に係る方法は、全体として基材を有意に加熱することなく、薄膜層(又は積層の場合には複数の薄膜層)のみを加熱するという利点がある。このため、ガラスを切断し又は保管する前に基材の遅くかつ制御された冷却を行う必要がもはやなくなる。この方法では、また、既存の連続製造ラインに加熱デバイスを組み込み、より詳細には、マグネトロンラインの真空堆積チャンバーの出口と、積層によりガラスを保管するためのデバイスとの間にある空間に組み込むことができる。また、特定の場合には、本発明に係る処理を、実際に真空堆積チャンバーの内部で行うこともできる。
【0033】
本発明に係る処理は好ましくは、熱処理の間に、上記の基材の上記の第一面とは反対面の温度が100℃を超えないようなものである。焦点を合わせた、特にレーザー照射からの放射線の使用では、基材の第一面とは反対面(すなわち、未被覆の面)上で100℃未満、そしてしばしば50℃未満の温度を得るという利点がある。この特に有利な特徴は、熱交換係数が非常に高く、通常、400W/(m2.s)を超えるという事実によるものである。放射線の表面出力密度は好ましくはさらに10kW/cm2以上である。
【0034】
この非常に高いエネルギー密度により、層上で極端に急速に(一般に、1秒以下の時間で)所望の温度に到達させることができ、そして結果的に、それに見合って処理の時間を限定することが可能であり、発生した熱が基材内部に拡散する時間がない。このため、薄膜層の各ポイントは好ましくは、一般に1秒以下、又は、さらには0.5秒以下の時間、本発明に係る処理を受ける(特に、300℃以上の温度に加熱される)。逆に、従来的に使用されている(放射線の焦点を合わせるデバイスを有しない)赤外線ランプでは、このような高出力/単位面積を達成することができず、所望の温度に到達させるために処理時間をより長くしなければならず(しばしば数秒)、放射線の波長を薄膜層のみが吸収し、基材が吸収しないように調節したとしても、熱の拡散により基材がその後必然的に高温に加熱される。
【0035】
本発明に係る方法に関係する非常に高い熱交換係数のために、薄膜層から0.5mmに位置するガラス部品は、一般に、100℃を超える温度を経験しない。基材の第一面とは反対側の面の温度は好ましくは処理の間に50℃を超えず、特に30℃を超えない。
【0036】
供給されるエネルギーの本質的な部分はそれゆえ、薄膜層により「使用」され、それにより、その抵抗率特性を改良する。
【0037】
本発明の別の利点は、その方法により、1層の薄膜層又は積層の薄膜層が同等の焼き戻しを経験するという点にある。特定の積層物の薄膜層はガラスが焼き戻しされるときに光学特性(色座標、光もしくはエネルギー透過率)が変性されるということが起こる。本発明に係る方法により、焼き戻しされていないガラス(それゆえ、焼き戻しされたガラスに特異的な応力プロファイルをガラス中に有せず、そのため、切断することができる)を得ることができるが、それが焼き戻しされたのと同一の光学特性を実質的に有することができる。
【0038】
基材は好ましくはガラス又は有機ポリマー材料からできている。基材は好ましくは透明であり、無色であるか又は有色であり、たとえば、ブルー、グレー又はブロンズである。ガラスは好ましくはシリカ−ソーダ−ライムタイプであるが、それはボロシリケート又はアルミノボロシリケートタイプのガラスからできていてもよい。好ましい有機ポリマー材料はポリカーボネート又はポリメチルメタクリレートである。基材は、有利には、少なくとも1つの方向で1m以上、又は2m以上、さらには3m以上である。基材の厚さは、一般に、0.5mm〜19mmで様々であり、好ましくは0.7mm〜9mmであり、本発明に係る方法は、厚さが4mm以下又はさらには2mm以下である最も薄い基材に特に有利である。基材は平らであるか又は凸状である。特に光電池用途では、ガラス基材が優れた平坦性、特に、1mの長さにわたって、最も高いピークと最も深い溝との高さの差異が0.8mm以下である優れた平坦性を有することが好ましい。その波むらは好ましくは振幅が小さく、30cmの長さにわたって、最も高いピークと最も深い溝との高さの差異が0.3mm以下である。
【0039】
特に光電池の分野における用途では、基材が特に透明又は極透明であるガラス、すなわち、光もしくはエネルギー透過率が90%以上、特に90.5%以上又は91%以上、さらには、91.5%以上であるガラスからできていることが好ましい。しばしば「TL」と略される光透過率は標準ISO9050:2003により算出され、3.2mmのガラス厚さに標準化される。「TE」と略されるエネルギー透過率も標準ISO9050:2003により算出され、3.2mmのガラス厚さに標準化される。このようなガラスは、一般に、最終ガラス中の鉄酸化物含有分が0.02%以下、特に0.01%以下であるような低い鉄含有分の主材料により得られる。この透過率をさらに最適化するために、ガラスのレドックス(FeOとして表現される第一鉄の含有質量及びFe23として表現される鉄の合計含有質量の比率)が20%以下、好ましくは10%以下、さらには0であることが好ましい。このようなレドックス又は透過率は、特に、アンチモンもしくはセリウム酸化物を用いて鉄を酸化することにより、又は、ガラスに酸化タングステンを0.1〜2%の質量割合及び/又は酸化カリウムを1.5〜10%の質量割合で添加することにより得ることができ、FR−A−2 921 356及びFR−A−2 921 357により教示されるとおりである。国際出願WO2009/115725において教示されるとおり、ファイニング工程の後にガラス浴に酸化性ガスをバブリングすることも可能である。
【0040】
光電池用途では、ガラス基材の寸法は通常、以下のとおりである:1.6〜6mm、特に、2.9〜4mmの厚さで、0.6×1.2m2又は1.1×1.3m2、又は、2.2×2.6m2である。
【0041】
ガラス基材は好ましくはフロートタイプのものであり、すなわち、溶融スズ浴(「フロート」浴)上に溶融ガラスを注ぐことからなる方法により得ることができるものである。この場合において、処理される層は基材の「スズ」面又は「雰囲気」面上で同様に良好に堆積されうる。基材の「スズ」面及び「雰囲気」面は、それぞれ、フロート浴中にある雰囲気と接触している基材の面及び溶融スズと接触している基材の面を指す。スズ面の表層はガラス構造中に拡散している少量のスズを含む。ガラス基材は、特にガラスの表面上にパターンをインプリントすることができる技術である、2つのロールの間でロール加工することによっても得ることができる。特定のパターンは下記に説明するとおり、有利であることができる。
【0042】
光電池の効率を最大化するという観点で、基材は有利には、TCOをベースとする薄膜層とは反対面上に反射防止コーティングで被覆される。このコーティングは1層の層(たとえば、低い屈折率を有する多孔性シリカをベースとする)又は複数の層を含むことができ、後者の場合には、低屈折率の誘電体材料と高屈折率の誘電体材料をベースとする交互の層で、低屈折率層で終わる積層体が好ましい。これは、出願WO01/94989又はWO2007/077373に記載されるとおりの積層体であることができる。反射防止コーティングは、また、WO2005/110937に教示されるとおり、最後の層として、自己清浄化性でかつ汚れ防止性である光触媒酸化チタンをベースとする層を含むことができる。このようにして、長時間にわたって持続される低反射性を得ることができる。
【0043】
光電池の効率を最適化することをなおも望みながら、WO03/046617、WO2006/134300、WO2006/134301又はWO2007/015017に記載されるとおり、基材の表面をテクスチャ処理することができ、たとえば、パターン(特に、ピラミッドパターン)を持たせることができる。これらのテクスチャ処理は一般にロール加工によりガラスを成形することにより得られる。
【0044】
TCOをベースとする層は好ましくは、インジウム及びスズの混合酸化物、インジウム及び亜鉛の混合酸化物、ガリウム及び/又はアルミニウム及び/又はチタン及び/又はインジウムでドープされた酸化亜鉛、ニオブ及び/又はタンタルでドープされた酸化チタン、スズ酸カドミウム又はスズ酸亜鉛、フッ素及び/又はアンチモンでドープされた酸化スズから選ばれる少なくとも1種の酸化物をベースとし又はそれから構成される。合計質量に対するドーピング酸化物の質量に対応するドーピングレベルは、一般に10%未満又はさらには5%未満である。アルミニウムでドープされた酸化亜鉛の場合には、ドーピングレベル(すなわち、合計質量に対する酸化アルミニウムの質量)は好ましくは3%未満である。酸化ガリウムの場合には、ドーピングレベルはより高くてよく、通常、5〜6%である。
【0045】
TCOをベースとする層は好ましくは、ガリウム及び/又はアルミニウム及び/又はチタン及び/又はインジウムでドープされた酸化亜鉛、特に、アルミニウムでドープされた酸化亜鉛、ガリウムでドープされた酸化亜鉛、チタンでドープされた酸化亜鉛、インジウムでドープされた酸化亜鉛、2種以上のこれらの原子、たとえば、ガリウム及びアルミニウム又はアルミニウム及びインジウムで共ドープされた酸化亜鉛をベースとし又はそれから構成される。このことは、これらの層がカソードスパッタリング法、特に、磁場強化法(マグネトロン法)により良好な製造条件下に得ることができるからである。
【0046】
TCOをベースとする層の厚さは好ましくは2〜1000nmであり、特に50〜800nm又は150〜600nmである。
【0047】
本発明に係るTCOをベースとする層は基材上に堆積された1層のみの薄膜層であることができる。それは、また、一般に酸化物、窒化物又は金属から選ばれる薄膜層を含む薄膜層の積層体中に含まれてもよい。処理される薄膜層が薄膜層の積層体中に含まれる場合に、本発明に係る方法は積層体の1層以上の薄膜層の結晶化特性を改良することができる。
【0048】
TCOをベースとする層は、アルカリ金属のマイグレーションに対するバリアとして作用する少なくとも1層の下層及び/又は酸化に対するバリアとして作用する少なくとも1層の上層を含む薄膜層の積層体中に含まれることができる。このタイプの積層体は、たとえば、出願WO2007/018951中に記載されている。
【0049】
アルカリ金属のマイグレーションに対するバリアとして作用する下層としては、ケイ素又はアルミニウムの窒化物、酸化物又は酸窒化物あるいはそれらの混合物などの誘電体材料を挙げることができる。この下層は、特に、光電池の操作の間の電界の影響下でアルカリ金属イオンがマイグレーションを起こすという有害作用を回避する。
【0050】
透明でかつ導電性の薄膜層は好ましくは上層により被覆されない。というのは、処理の際の加熱の速度ではアニール又は焼き戻しと比較して非常に少量の酸素のマイグレーションしか伴わないからである。このことは、導電層が電極として作用し、それゆえ、他の機能層と直接的に接触しなければならない場合(たとえば、光電池又はOLED用途でこの場合がある)により有利であり、アニール又は焼き戻しの場合に、酸化に対する保護を行う上層が処理の際に必要とされ次いで除去されるべき場合により有利である。本発明に係る方法のために、この上層無しで済ませることが可能である。さらに、特定の場合には、上層の存在が処理の有効性を低減することが観測された。
【0051】
代わりとして又は追加的に、透明でかつ導電性の薄膜層は下層上に堆積されなくてよい。というのは、処理の間の加熱の速度ではアニール又は焼き戻しと比較して、ガラスからのアルカリ金属イオンのマイグレーションが非常に少量しか伴わないからである。
【0052】
好ましい実施形態によると、透明でかつ導電性の薄膜層は炭素をベースとする薄膜層により熱処理工程前に被覆される。炭素は好ましくはグラファイト又はアモルファスタイプのものであり、又は、これらの2つの相の混合物を含み、及び/又は、少なくとも50%、又は、さらには100%のsp2炭素を含む。炭素をベースとする薄膜層は好ましくは炭素からなるが、金属によりドープされ又は部分的に水素化されていてよい。炭素層の厚さは好ましくは5nm未満であり、特に2nm未満そしてさらには1nm未満である。炭素は可視及び赤外範囲に高い吸収能を有するので、炭素層により、処理される層でのレーザー光線吸収を有意に増加させることができ、それゆえ、本発明に係る処理の効率を上げることができる。特に、炭素層の非存在下と同一の抵抗率低減を、レーザー下の通過速度をずっと速くして、通常、50%又は75%速くして得ることができる。代わりとして、同一の通過速度では、さらにより低い抵抗率を得ることができる。炭素、とりわけ、それが主としてsp2混成で、特にグラファイト又はアモルファスタイプのものである場合には、さらには、厚さが薄い場合には、処理の際に、おそらくは二酸化炭素への酸化により除去され、処理後の残留吸収は最小になる。
【0053】
炭素をベースとする薄膜層は、様々な技術により、特に、電場強化カソードスパッタリングにより、グラファイトターゲットを用いて、アルゴン雰囲気中で得ることができる。他の堆積方法としては、化学蒸着(CVD)、アーク堆積、蒸着、ゾルゲルタイプの方法が挙げられる。
【0054】
小さい領域、概して少なくとも1つの寸法が10cmを超えない領域でエネルギーを集中させることができるかぎり、複数の放射線デバイスを用いてよい。好ましくは、エネルギー密度及び熱交換係数をさらに増加するために、放射線が焦点合わせされる領域の少なくとも1つの寸法は5cmを超えず、特に1cmを超えず、さらに5mm又は1mm、さらには0.5mmを超えない。本明細書の残りでより詳細に説明するとおり、他の寸法も同程度であってよく(たとえば、「ポイント」レーザー光線の場合)、又は、ずっと大きくてもよい(たとえば、線形レーザー光線の場合)。
【0055】
放射線の波長は500〜2000nmであり、好ましくは700〜1300nmである。
【0056】
1つの又は各々の放射線デバイスは好ましくはレーザーである。処理される層に集中される放射線はこの場合にはレーザー線である。
【0057】
連続波又はパルスモードで約1μmの波長の放射線を発光するネオジムでドープしたYAGレーザー(イットリウムアルミニウムガーネットY2Al152)は非常に適切であり、特に、基材がこの範囲の波長を吸収せず又はほとんど吸収しない場合に非常に適切であり、それは鉄酸化物の質量割合が0.1%以下である透明ガラスの場合である。
【0058】
しかしながら、たとえば、約808nm、880nm、915又は940nm又は980nmの波長で発光するレーザーダイオードを使用することが好ましい。線形配列のダイオードの形態では、非常に高い出力を得ることが可能であり、それにより、20kW/cm2を超え、又はさらには30kW/cm2を超える出力密度を処理される層の上に得ることが可能である。ガラスは、ネオジムでドープしたYAGレーザーの発光波長におけるよりも、これらの波長において吸収する量が少なく、それにより、方法の選択性がさらに高められる。
【0059】
実施容易性を高めるために、本発明の関係で使用されるレーザーはファイバー輸送され、すなわち、レーザー光線は光ファイバー中に送り出され、その後、焦点合わせヘッドによって処理される表面付近に送達される。レーザーは、また、増幅媒体自体が光ファイバーである点でファイバーレーザーであることができる。
【0060】
レーザー光線はポイントビームであってよく、その場合には、基材平面内でレーザー光線を移動させるための装置を提供することが必要である。
【0061】
しかしながら、基材の幅のすべて又は一部を同時に照射する線形レーザー光線を発光する放射線デバイスを使用することが好ましい。この形態では、一般に嵩張りかつ保全が困難である高価な移動装置の使用を回避するので好ましい。線形レーザー光線は、特に、焦点オプティックスと組み合わせた線形配列の高出力レーザーダイオードを用いて得ることができる。ラインの太さは好ましくは0.004〜1mmである。ラインの長さは、通常、5mm〜1mmである。ラインのプロファイルは特に、ガウス曲線又はトップハット型である。
【0062】
基材の幅のすべて又は一部を同時に照射するレーザーラインは単一のライン(この場合には、基材の全体幅を照射する)からなっても、又は、場合により分離されている複数のラインからなってもよい。複数のラインを使用する場合には、層の全表面を処理するようにラインが配置されることが好ましい。1つのライン又は各々のラインは好ましくは基材の通過方向に対して垂直に配置されており、又は、斜めに配置されている。種々のラインが基材を同時に処理してよく、又は、時刻をずらした様式で処理してもよい。重要なことは処理されるべき表面の全体が処理されることである。
【0063】
所望の表面のすべてを処理するために、一方で、層で被覆された基材と、もう一方で、放射線デバイス、特に1つのレーザーライン又は各々のレーザーラインとの間の相対的な移動を提供することも好ましい。このため、基材を移動させることができ、特に、固定された放射線デバイス(特に、固定されたレーザーライン)の前で直線進行にて、一般にレーザーラインの下方であるが、可能にはレーザーラインの上方で移動させることができる。この実施形態は連続処理のために特に有用である。代わりとして、基材を固定し、放射線デバイス(特にレーザー)を移動可能とすることができる。好ましくは基材と放射線デバイス(特にレーザー)とのそれぞれの速度の差異は1メートル/分以上、又は4メートル/分以上、さらには8メートル/分以上であり、このことは高速処理速度を確保するためである。
【0064】
基材を特に直線的に移動させる場合には、任意の機械コンベヤ手段、たとえば、ベルト、ローラ、直線運動プレートを用いて基材を移動させることができる。コンベヤ装置により、移動速度をモニターし又は調節することが可能である。もし基材が可とう性有機ポリマー材料からできているならば、移動は連続ローラの形態でのフィルムフィード装置を用いて行うことができる。
【0065】
レーザーは、また、基材からのその距離を調節するように移動され得る。これは、基材が凸状である場合に特に有用であるが、その場合に限られない。実際、処理されるコーティングが焦点面から1mm以下の距離にあるように、レーザー光線が、処理されるコーティング上に焦点合わせされることが好ましい。基材と焦点平面との間の距離に関して、基材又はレーザーの移動が十分に正確でないならば、レーザーと基材との間の距離を調節することができることが好ましくは好都合である。この調節は自動であってよく、特に、処理の上流での距離の測定に基づいて調節されることができる。
【0066】
レーザーラインを移動する場合には、基材の上方又は下方にあるレーザーを移動させるための装置を提供することが必要である。処理の時間はレーザーラインの移動速度により調節される。
【0067】
基材の表面が適切に照射されうるかぎり、基材及びレーザーのすべての相対位置がもちろん可能である。基材は最も一般的には、水平に配置されるが、それは垂直に又は任意の可能な傾きで配置されることもできる。基材が水平に配置される場合には、レーザーは一般に基材の上面を照射するように配置される。レーザーは基材の下面に照射してもよい。この場合、基材を支持する装置が必要であり、場合により、基材が移動する場合には、照射される領域に放射線を通過させることができるように基材を輸送する装置が必要である。たとえば、コンベヤローラを用いる場合がその場合であり、ローラは分離されているので、2つの連続ローラの間にある領域にレーザーを配置することが可能である。
【0068】
基材の両面を処理する場合には、基材の両側にある複数のレーザーを使用することが可能であり、基材は水平位置もしくは垂直位置又は任意の傾きであってもよい。
【0069】
代わりに又は追加的に、放射線は焦点デバイスと組み合わされた赤外線ランプにより送達されうる。焦点デバイスは、たとえば、少なくとも1つのレンズ又は少なくとも1つのミラー、たとえば、放物面鏡を含むことができる。この焦点合わせにより、ランプのエネルギーを基材の狭められた領域に集中させ、それにより、高エネルギー密度を達成することができる。
【0070】
放射線デバイス、たとえば、線形レーザーは,磁場強化カソードスパッタリング(マグネトロン法)のためのライン、又は、化学蒸着(CVD)、特に、プラズマ強化化学蒸着(PECVD)(真空もしくは大気圧(APPECVD)における)のためのラインなどの層堆積ラインに組み込まれることができる。ラインは、一般に、基材を取り扱うためのデバイス、堆積ユニット、光学検査デバイス及び積み重ねデバイスを含む。基材は、たとえば、コンベヤローラ上で、各デバイス又は各ユニットの前に連続的に進む。
【0071】
放射線デバイス、たとえば、線形レーザーは好ましくは層堆積ユニットの直後に位置し、たとえば、堆積ユニットの出口に位置する。被覆された基材は、このため、層堆積ユニットの出口で層の堆積後に、光学検査デバイスの前又は光学検査デバイスの後に、基材を積み重ねるためのデバイスの前に、オンラインで処理されることができる。
【0072】
放射線デバイスはまた、堆積ユニットに組み込まれていてもよい。たとえば、デバイス(特に、レーザー)はカソードスパッタリング堆積ユニットの区画の1つ、特に、真空が高度な、特に、10-6〜10-2mbarの圧力の区画中に導入されうる。レーザーは、また、堆積ユニットの外に配置されてもよいが、該ユニットの内部で基材を処理するようになっている。このためには、使用される放射線の波長で透明であるウインドウを提供することで十分であり、それをとおしてレーザー光線が層を処理する。これにより、同一のユニット内で別の層を続いて堆積させる前に層を処理することが可能である。
【0073】
放射線デバイスが堆積ユニットの外側にあっても又は堆積ユニットに組み込まれていても、これらの「オンライン」法は堆積工程と熱処理との間にガラス基材を積み重ねる必要がある逐次法よりも好ましい。
【0074】
逐次法は、しかしながら、堆積を行う場所と異なる場所、たとえば、ガラス変性を行う場所で本発明に係る熱処理が行われる場合に有利であることがある。それゆえ、放射線デバイスは、層堆積ライン以外のラインに取り込まれることができる。放射線デバイスは、たとえば、複層ガラス(特に二重ガラス又は三重ガラス)を製造するためのライン、又は、合わせガラスを製造するためのラインに組み込まれることができる。これらの種々の場合には、本発明に係る熱処理は、好ましくは、複層合わせガラスを製造する前に行う。また、放射線デバイスは、たとえば、電極として使用される導電性薄膜層の抵抗率を低減するために、光電池を製造するためのラインに組み込まれることができる。
【0075】
薄膜層は任意のタイプの方法により基材上に堆積されてよく、特に、主としてアモルファス層又はナノ結晶化層を生じる方法、たとえば、カソードスパッタリング法、特に磁場強化カソードスパッタリング法(マグネトロン法)、プラズマ強化化学蒸着法(PECVD)、真空蒸着法又はゾルゲル法によって堆積されうる。ただし、得られる薄膜層は、好ましくは「乾燥」層であり、ゾルゲル法などにより得られる「湿潤」層とは対照的に水性もしくは有機溶媒を含まない。
【0076】
ゾルゲル法により得られる層の場合には、溶液中の前駆体(ゾル)を基材上に堆積し、乾燥しそしてアニールして、いかなる微少量の溶剤をも除去しなければならない。この場合には、加熱により提供されるエネルギーは層の結晶化特性に影響を及ぼすことなくこの溶剤を除去するために主として使用され、そして結果的に、基材をも加熱することを回避するために十分に短い時間でその特性を改良することはより困難である。
【0077】
薄膜層は好ましくはカソードスパッタリング、特に、磁場強化カソードスパッタリング(マグネトロン法)により堆積される。
【0078】
より単純化するために、層の熱処理は好ましくは空気中及び/又は大気圧で行う。しかしながら、たとえば、続いて行う堆積の前に、実際に真空堆積チャンバー内で層を熱処理することが可能である。
【0079】
熱処理は、好ましくは、薄膜層の各ポイントが少なくとも300℃の温度に加熱され、一方、その第一面とは反対側の基材の面の各ポイントで100℃以下の温度を維持するようにし、それにより、薄膜層の連続性を維持しながら、薄膜層の溶融工程を用いずに、薄膜層の結晶化ファクターを増加させる。それゆえ、TCOをベースとする層は処理の後に連続のままである。
【0080】
本発明の関係では、「連続薄膜層」とは、層が基材の実質的にすべてを被覆している、又は積層体の場合には、下層の実質的にすべてを被覆していることを意味することを意図する。本発明に係る処理により薄膜層の連続性(及びそれゆえのその有利な特性)が保存されることは重要である。
【0081】
用語「層のポイント」とは、所定の時間にて処理にさらされる層の領域を意味することを意図する。本発明によると、すべての層(及びそれゆえのすべてのポイント)は少なくとも300℃の温度に加熱されるが、層のすべてのポイントが同時に処理される必要はない。層は全体で同時に処理されてもよく、層の各ポイントは少なくとも300℃の温度に同時に加熱されてもよい。別法として、層は、層の種々のポイント又はポイントのセットが少なくとも300℃に逐次に加熱されるように処理され、この第二の形態は工業規模での連続実施の場合に、より頻繁に使用される。
【0082】
本発明に係る方法は、同様にうまく水平又は垂直に配置された基材上に行うことができる。その方法は、また、両面に薄膜層を備えた基材上で行うこともでき、面の少なくとも1つの層又は各面は本発明により処理される。基材の両面に配置されている薄膜層を本発明により処理する場合には、各面の第二の薄膜層を同時に又は逐次的に、特に処理される層の種類が同一又は異なる場合には、同一又は異なる技術によって処理することができる。それゆえに、本発明に係る処理を基材の両面で同時に行う場合は、まさに本発明の範囲に含まれる。
【0083】
熱処理工程の後に、本発明に係る方法は、加熱焼き戻し工程をも含んでよく、その効果はTCOをベースとする層の抵抗率をさらに低減することである。
【0084】
本発明は、また、本発明に係る方法により得ることができる材料にも関係する。
【0085】
詳細には、本発明に係る方法では、堆積のとき、たとえば、基材上で300℃を超える温度に加熱されるカソードスパッタリングによる堆積のときの熱処理のみで、非常に低い抵抗率のTCOをベースとする層を得ることが可能になる。
【0086】
本発明に係る材料は、インジウム及び亜鉛もしくはスズの混合酸化物をベースとする、アルミニウムもしくはガリウムによりドープされた酸化亜鉛をベースとする、ニオブによりドープされた酸化チタンをベースとする、スズ酸カドミウム及び/もしくはスズ酸亜鉛をベースとする、又はフッ素及び/もしくはアンチモンによりドープされた酸化スズをベースとする少なくとも1層の透明導電性薄膜層により被覆された基材からなる。
【0087】
特に、これまでの既知の方法によって得ることができなかった特に有利な材料は、アルミニウム及び/又はガリウムによりドープされた酸化亜鉛をベースとする少なくとも1層の層により被覆された焼き戻しされていないガラス又は有機プラスチック材料でできた基材からなる。この材料は層が6×10-4Ω・cm以下の抵抗率を有し、100nm厚さの層で1.2%以下の吸収率、100〜200nmの寸法のグレインを有し、そのグレインは複数の基本グレインに細分化され、特に、少なくとも2、3又は4つの基本グレインに細分化されている表面モルホロジーを有するという特徴を有する。このようなモルホロジーは、走査型電子顕微鏡により、特に拡大倍率×100000で見ることができる。用語「グレイン」は、結晶の寸法、又はX線回折において干渉性であるドメインと判断されない。
【0088】
層の光吸収率は、100%から被覆された基材の光透過率、基材面(層とは反対側の面)での光透過率、及び未被覆の基材の光吸収率を引いた値に等しいと定義される。また、未被覆の基材の光吸収率は、100%から未被覆の基材の光透過率及び光反射率を引いた値に対応する。明細書全体をとおして、光透過率及び光反射率は標準ISO9050:2003により、それぞれ透過及び反射スペクトルに基づいて算出される。
【0089】
層のシート抵抗は4点法又はファンデルポー(van der Pauw)法を用いて既知の様式で測定されうる。層の厚さは特に表面形状測定装置により決定されうる。層の抵抗率は、その後、シート抵抗と厚さとを乗じることにより算出される。
【0090】
従来技術のアニーリング処理では、最大で7.5×10-4Ω・cmの抵抗率、すなわち、750nmの厚さで10Ωのシート抵抗を得ることができた。グレインは100〜200nmの寸法を有するが、細分化されていない。
【0091】
少なくとも300℃に加熱された基材上にカソードスパッタリングすることによる堆積では、2.5〜5×10-4Ω・cmの抵抗率値を得ることができる。得られるグレインは150nmを超える大きな寸法を有するが、細分化されていない。
【0092】
本発明に係る処理により得られるユニークなモルホロジーは特に驚くべきものである。グレインの細分化は電荷キャリアの易動度を低減し、それにより抵抗率を増加させる作用があるものと考えられる。しかしながら、それとは逆のことが起こっている。
【0093】
本発明に係る材料は、非常に明確に本明細書全体に記載された特性(基材のタイプ、層及び任意に存在する下層及び上層の種類、厚さ)のいずれか1つを、本明細書中に記載された他の特性と別に又はそれと組み合わせて有することができる。特に、本発明に係る方法に関連して記載される、得られる材料の種々の特性は、また、本発明に係る材料に非常に明確に当てはまる。
【0094】
本発明に係る基材(得られたもの)は単一、複層もしくは合わせガラス、ミラー、ガラス壁カバーにおいて使用されうる。
【0095】
ガスの層により分離されたガラスの少なくとも2枚のシートを含む複層ガラス(グレージング)の場合には、ガスの層と接触している表面上に薄膜層が配置されていることが好ましい。しかしながら、ガラスの外面上(それゆえ、建物の外側と接触して)に薄膜層を配置することは、特に、傾いている三重ガラス又は二重ガラス(たとえば、家根又はベランダに組み込まれたもの)の場合には有利である。というのは、これらの層の低い放射率により、夜間にガラスの表面の過度の冷却を回避することができ、結果的に、結露(ミスト及び/又は氷)の発生を回避することができるからである。
【0096】
本発明に係る基材(得られたもの)は、光電池又は光起電性ガラス(グレージング)又はソーラーパネルにおいて好ましくは使用され、本発明により処理された薄膜層は、たとえば、黄銅鉱(特に、CIS−CuInSe2のタイプ)をベースとし、又は、アモルファス及び/又は多結晶シリコンをベースとし、又は、CdTeをベースとする積層体におけるZnO:Al又はGaをベースとする電極である。
【0097】
光電池又は光起電性ガラス(グレージング)において、本発明に係る基材は好ましくは前面基材である。基材は、一般に、透明電極コーティングとして使用される導電性透明層が光起電性材料に対面する主面の下にあるように配向されている。入射線の主な到着方向が上面をとおることを考慮して、この電極コーティングは下方に配置された光起電性材料と電気接触している。
【0098】
この前面電極コーティングは、このように、用いる技術によって、一般に、太陽電池の負端子(又はホールコレクタ)又は正端子(電子コレクタ)を構成している。もちろん、太陽電池は、また、後面基材上にも電極コーティングを含み、太陽電池のそれぞれ正端子又は負端子を構成しているが、後面基材の電極コーティングは一般に透明でない。
【0099】
本発明に係る基材はまた、LCD(液晶ディスプレイ)、OLED(有機発光ダイオード)又はFED(電界発光ディスプレイ)タイプのディスプレイスクリーンにおいても使用でき、本発明により処理された薄膜層は、たとえば、ITOの導電性層である。基材はまた、エレクトロクロミックガラスにおいても使用でき、本発明により処理される薄膜層は、たとえば、出願FR−A−2 833 107において教示されるとおりの透明導電性層である。
【0100】
それゆえ、本発明はまた、本発明に係る基材を少なくとも1つ含む、光起電性ガラス又は光電池、ソーラーパネル、LCD(液晶ディスプレイ)、OLED(有機発光ダイオード)又はFED(電界発光ディスプレイ)タイプのディスプレイスクリーン、エレクトロクロミックガラスにも関する。
【0101】
図1〜3を比較すると、本発明に係る処理により、グレインの1つの寸法が100nm〜200nmであり、複数の基本グレインに細分化されているグレインを見ることができる非常に特有のモルホロジーを得ることができることが判る。
【実施例】
【0102】
以下の非限定的な実施形態を用いて本発明を例示する。
例1(比較例):
本例は出願WO2008/096089の例12に対応する。厚さが190nmであるアルミニウムでドープした酸化亜鉛をベースとする透明導電層を、マグネトロン法によりガラス基材上に堆積させる。
【0103】
波長が10.6μmであるCO2レーザー発光線を用いて上記の層を照射する。基材の通過方向に垂直の方向にレーザーの高速移動を可能にする装置上にレーザーを取り付け、それにより、層の全表面を処理に付す。層の表面上のスポットの幅は約0.3〜0.5mmである。
【0104】
下記の表1は処理の前及び後のシート抵抗及び光透過率の値を示している。
【表1】

【0105】
得られた抵抗率は、処理により57%減少し、7.7×10-4Ω・cmに到達した。
【0106】
例2〜5
本発明に係るこれらの例において、アルミニウムでドープした酸化亜鉛タイプのTCO層を堆積させる。Saint-Gobain Glass France により品名SGG Diamant(登録商標)で販売されている超透明ガラスからできている3mmの厚さである基材上にマグネトロンカソードスパッタリングによりこれらの層を堆積させる。堆積はアルゴン雰囲気下にてアルミニウムでドープした酸化亜鉛ターゲットにより既知の様式で行う(非反応性スパッタリング)。
【0107】
被覆された基材を、その後、450Wの出力の線形レーザーにより熱処理する。レーザーを固定し、被覆された基材をレーザーの下に3〜9メートル/分の範囲の速度で進行させる。レーザーの波長は808nmである。また、980nmで発光するレーザーを用いて試験を行う。線形レーザーは、レーザーダイオードの線形配列を用いて得られる。処理の際に、層とは反対の基材の面の温度は50℃を超えない。
【0108】
下記の表2は各例に対して以下のことを示す。
nmでの層の厚さ;
ドーピングレベル(質量基準でのAl23の含有分);
レーザーの下での基材の進行速度(メートル/分);
処理の前及び後でのシート抵抗、Rsで示し、Ωで表す;
処理により得られる抵抗率、Ω・cmで表す;
被覆された基材の光透過率、TLで示し、標準ISO9050:2003により算出され、%で表す;
層の光吸収率、ALで示し、%で表す。
【0109】
【表2】

【0110】
これらの例は、本発明に係る処理により、WO2008/096089の既知の方法により得られるものよりも有意に低い(しばしば2倍近く)抵抗率を得ることができることを示している。抵抗率及びシート抵抗は初期値に対して約70%低下する。光透過率は、また、より高く、そのことは光電池用途に特に有利である。
【0111】
例6
本発明に係るこの例においては、酸化インジウムスズ(ITO)の層をガラスシート上にマグネトロンカソードスパッタリングにより堆積させる。層の厚さは500nmである。
【0112】
熱処理は例2〜5により行ったのと同様である。
処理の前のシート抵抗は15Ωであり、処理後に、それは約4〜5Ωに低下する。
【0113】
例7〜11
例2〜6の被覆された基材を、今度は、厚さが約1又は2nmであるマグネトロンカソードスパッタリングにより得られる炭素の薄膜層により被覆する。スパッタリングはアルゴンプラズマ中のグラファイトターゲットにより行う。
【0114】
シート抵抗の減少は例2〜6に対して約70〜75%であるが、基材のレーザーの下での通過速度を約50〜60%速くする。
【0115】
熱処理の後に、炭素層はもはや見えず、炭素はおそらく二酸化炭素ガスへと酸化されたのであろう。
【0116】
それゆえ、炭素層は、非常に評価できる生産性向上を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種の酸化物をベースとする少なくとも1層の透明でかつ導電性の薄膜層により第一面が被覆された基材を得る方法であって、下記工程:
前記少なくとも1層の薄膜層を前記基材上に堆積させること、
少なくとも1つの寸法が10cmを超えない前記少なくとも1層の薄膜層の領域に焦点が合わされた、波長が500〜2000nmである放射線を用いて前記少なくとも1層の薄膜層を照射する熱処理工程に前記少なくとも1層の薄膜層を付し、ここで、前記放射線を前記少なくとも1層の薄膜層に対面して配置されている少なくとも1つの放射線デバイスにより送達させ、所望の表面を処理するように前記放射線デバイスと前記基材とを相対的に移動させ、前記少なくとも1層の薄膜層の抵抗率が前記熱処理の間に低減される、熱処理工程に付すこと、
を含む方法。
【請求項2】
前記透明でかつ導電性の薄膜層の抵抗率又はそのシート抵抗が、熱処理前に測定された抵抗率又はシート抵抗に対して少なくとも60%、または少なくとも70%、さらには少なくとも75%低減される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記基材が、ガラスまたは有機ポリマー材料からできている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1層の薄膜層が、インジウム及びスズの混合酸化物、インジウム及び亜鉛の混合酸化物、ガリウム及び/またはアルミニウム及び/またはチタン及び/またはインジウムによりドープされた酸化亜鉛、ニオブ及び/またはタンタルによりドープされた酸化チタン、スズ酸カドミウムまたはスズ酸亜鉛、フッ素及び/またはアンチモンによりドープされた酸化スズから選ばれる少なくとも1種の酸化物をベースとする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1層の薄膜層は、前記熱処理後に、抵抗率が7×10-4Ω・cm以下、特に、6×10-4Ω・cm以下であり、吸収率が層の厚さ100nmで1.2%以下、特に1%以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1層の薄膜層は、熱処理工程の前に、炭素、特にグラファイトまたはアモルファスタイプの炭素をベースとする薄膜層により被覆される、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記第一面とは反対側の前記基材の面の温度が、前記熱処理の際に100℃を超えない、または50℃を超えない、特に30℃を超えない、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記放射線の表面出力密度が10kW/cm2以上である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記放射線が焦点合わせされる領域の少なくとも1つの寸法が5cmを超えず、特に、1cm、さらには5mmを超えず、または1mm、さらには0.5mmを超えない、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記放射線デバイス又は前記放射線デバイスの各々はレーザーである、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記放射線デバイスが、前記基材の幅のすべてまたは一部を同時に照射する線形レーザー光線を放出する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1層の薄膜層が、磁場強化カソードスパッタリングにより堆積される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法によって得ることができる、少なくとも1種の酸化物をベースとする少なくとも1層の透明でかつ導電性の薄膜層により被覆された基材。
【請求項14】
アルミニウム及び/またはガリウムによりドープされた酸化亜鉛をベースとする少なくとも1層の薄膜層により被覆された、焼き戻しされていないガラスまたは有機プラスチック材料からできた基材であって、該薄膜層が、6×10-4Ω・cm以下の抵抗率を有し、100nmの層の厚さで1.2%以下の吸収率を有し、並びに100〜200nmの寸法のグレインであって複数の基本グレインに細分化されている表面モルホロジーを有するグレインを有する、請求項13に記載の基材。
【請求項15】
請求項13または14に記載の基材を少なくとも1つ含む、光起電性ガラスもしくは光電池、ソーラーパネル、LCD(液晶ディスプレイ)、OLED(有機発光ダイオード)、もしくはFED(電界発光ディスプレイ)のタイプのディスプレイスクリーン、またはエレクトロクロミックガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−528779(P2012−528779A)
【公表日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513664(P2012−513664)
【出願日】平成22年6月4日(2010.6.4)
【国際出願番号】PCT/FR2010/051097
【国際公開番号】WO2010/139908
【国際公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【出願人】(500374146)サン−ゴバン グラス フランス (388)
【Fターム(参考)】