説明

薄膜形成装置

【課題】 超電導特性が長手方向で均一な酸化物超電導線材を製造することができる製造装置の提供。
【解決手段】 長尺基材12を収容する処理容器11と、該処理容器内に配置され前記長尺基材を囲んで保温する開口付きヒータボックス13と、該ヒータボックスの開口に隣接して設けられたターゲットホルダ16と、該ターゲットホルダに保持されるターゲット15にレーザ光18を照射するレーザ光発光手段17とを備え、前記レーザ光を前記ターゲットの表面に照射し、該ターゲットから叩き出され若しくは蒸発した蒸着粒子を前記ヒータボックス内の長尺基材表面に堆積させることを特徴とする薄膜形成装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜形成装置に関し、更に詳しくは、レーザ光をターゲットに照射して、このターゲットの蒸着粒子を叩き出し若しくは蒸発させ、この蒸着粒子を基材上に堆積させることにより、酸化物超電導体薄膜等の薄膜を形成する際に好適に用いられ、特に、長尺基材を用いた長尺の酸化物超電導線材の生産性の効率化及び特性改善を図ることが可能な薄膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導体を導電体として使用するためには、テープ状などの長尺基材上に、結晶配向性の良好な酸化物超電導体の薄膜を形成する必要があるが、一般には、金属テープ自体が多結晶体でその結晶構造も酸化物超電導体と大きく異なるために、金属テープ上に直接、結晶配向性の良好な酸化物超電導体の薄膜を形成させることは難しい。そこで、ハステロイテープなどの金属テープからなる長尺基材の上に、結晶配向性に優れたイットリア安定化ジルコニア(YSZ)などの多結晶中間薄膜を形成し、この多結晶中間薄膜上に、臨界温度が約90Kで、液体窒素(77K)での磁場特性がBi系の酸化物超電導体より優れ、安定性にも優れたYBaCu系の酸化物超電導体の薄膜を成膜する試みが行なわれており、この酸化物超電導体の薄膜を成膜するには、レーザ蒸着法による薄膜の形成方法が採用されている。
【0003】
ところで、従来のレーザ蒸着法による薄膜の形成方法では、レーザ光をターゲットの表面上の同一経路に沿って往復移動させることにより走査するため、長時間成膜を行うと、レーザ光に偏心が生じることとなり、その結果、ターゲットから叩き出された蒸着粒子の飛行する方向が偏ってしまい、蒸着粒子を多結晶中間薄膜上に均一に堆積させることができず、得られる薄膜の厚みや膜質や結晶配向性にバラツキが生じてしまい、臨界電流密度等の超電導特性が低下してしまう等の問題があった。そこで、本出願人は、帯状の基材表面に蒸着粒子を均一に堆積させることができるレーザ蒸着法による薄膜の形成方法として、帯状の基材を前記蒸着粒子の堆積領域内を複数回通過させて、この通過毎に前記帯状の基材上に前記蒸着粒子を堆積させ、前記帯状の基材上に複数層からなる薄膜を成膜する方法を提案している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2004−263227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述した特許文献1に記載された従来技術では、帯状の基材を蒸着粒子の堆積領域内を複数回通過させるための手段として、帯状の基材を巻回する巻回部材を複数個同軸的に配列してなる一対の巻回部材群を処理容器内に対向配置し、これら一対の巻回部材群に巻回された基材を周回させて蒸着粒子の堆積領域内にて複数列として薄膜形成を行っている。この従来方法によれば、効率よく基材表面に複数層からなる薄膜を成膜することができるが、この従来技術では、基材を周回させる際に基材から輻射熱が逃げやすく、基材の温度が不均一になり、成膜される酸化物超電導線材の臨界電流(Ic)などの超電導特性が不均一になるという問題がある。
【0005】
なお、基材の温度制御に関して、特許文献1に記載された従来技術では、ヒータを内蔵した基台を一対の巻回部材群の間に配置し、巻回部材群に巻回された基材を加熱できるように構成しているが、このような局部加熱方式によって基材を加熱する場合、基材の移動速度が速ければ、蒸着粒子の堆積領域内に入るまでに基材を適温に加熱することが困難になり、一方、基材の移動速度が遅い場合には前記基台による局部加熱領域を離れた基材の温度が降下しやすくなり、温度降下した基材が再度局部加熱領域に入って加熱されると、基材の温度変化が大きくなるために、基材上に成膜された酸化物超電導体薄膜等の薄膜がダメージを受けることが考えられる。従って、この従来技術を用いて高品質の酸化物超電導線材を製造するためには、基材の移動速度や加熱温度を精密に制御する必要があり、この制御が難しい問題がある。
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされ、超電導特性が長手方向で均一な酸化物超電導線材を製造することができる製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、長尺基材を収容する処理容器と、該処理容器内に配置され前記長尺基材を囲んで保温する開口付きヒータボックスと、該ヒータボックスの開口に隣接して設けられたターゲットホルダと、該ターゲットホルダに保持されるターゲットにレーザ光を照射するレーザ光発光手段とを備え、前記レーザ光を前記ターゲットの表面に照射し、該ターゲットから叩き出され若しくは蒸発した蒸着粒子を前記ヒータボックス内の長尺基材表面に堆積させることを特徴とする薄膜形成装置を提供する。
【0008】
本発明の薄膜形成装置において、前記ターゲットホルダが前記ヒータボックスの開口に対して平行な面に沿って移動可能に設けられ、かつターゲットホルダのターゲット周縁にその移動範囲を移動中に前記開口から発する輻射熱の逃げを抑制する延出部が設けられていることが好ましい。
【0009】
本発明の薄膜形成装置において、前記ターゲットは、酸化物超電導体材料であり、前記薄膜は酸化物超電導体薄膜であることが好ましい。
【0010】
本発明の薄膜形成装置において、前記ヒータボックス内に、前記長尺基材を巻回する巻回部材を複数個同軸的に配列してなる巻回部材群を少なくとも一対、対向配置してなり、これら一対の巻回部材群に巻回された前記長尺基材が、これらの巻回部材群を周回することにより、前記蒸着粒子の堆積領域内にて複数列とされることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、処理容器内に長尺基材を囲んで保温するヒータボックスを設け、ヒータボックス内で適温に加熱された長尺基材の表面にターゲットからの蒸着粒子を堆積させる構成としたので、酸化物超電導体薄膜の成膜不良が少なくなり、長手方向の超電導特性が均一な酸化物超電導線材を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
図1〜図4は、本発明の薄膜形成装置の第1実施形態を示す図であり、図1は薄膜形成装置10の構成図、図2はこの薄膜形成装置10の要部斜視図、図3及び図4はこの薄膜形成装置10の要部側面図である。なお、本実施形態では、図6に示すように、テープ形状の長尺基材12上に酸化物超電導体からなる超電導層31を形成してなる酸化物超電導線材28を製造する場合を例示している。
【0013】
本実施形態の薄膜形成装置10は、長尺基材12を収容する処理容器11と、該処理容器11内に配置され長尺基材12を囲んで保温する開口付きのヒータボックス13と、該ヒータボックス13の開口14に隣接して設けられたターゲットホルダ16と、該ターゲットホルダ16に保持されるターゲット15にレーザ光18を照射するレーザ光発光手段17とを備えて構成され、レーザ光18をターゲット15の表面に照射し、該ターゲット15から叩き出され若しくは蒸発した蒸着粒子の噴流(以下、プルーム19と記す。)をヒータボックス13内の長尺基材12の表面に堆積させることを特徴としている。
【0014】
前記処理容器11内には、長尺基材12が巻回された送出リール20と、超電導層31の成膜を終えた酸化物超電導線材28を収納する巻取リール21が設けられている。これらの送出リール20と巻取リール21との間に設けられたヒータボックス13内には、長尺基材12を巻回するリールなどの巻回部材を複数個同軸的に配列してなる一対の巻回部材群22,23が対向配置され、これら一対の巻回部材群22,23に巻回された長尺基材12が、これらの巻回部材群22,23を周回することにより、蒸着粒子の堆積領域内にて複数列とされる構成になっている。
【0015】
これらの巻回部材群22,23を収容しているヒータボックス13は、内壁面に複数個のヒータ25が設けられ、これらのヒータ25に通電することで、巻回部材群22,23及び巻回部材群22,23に周回可能に巻回されている長尺基材12を均一に加熱・保温できるようになっている。また、ヒータボックス13の底面部には、ターゲット15の表面で生じたプルーム19をヒータボックス13内に導入するための開口14が穿設されている。
【0016】
この開口14の近傍には、ターゲット15を固定したターゲットホルダ16が、ヒータボックス13の開口14に対して平行な面に沿って移動可能に設けられている。さらに、このターゲットホルダ16は、ターゲットの中心を軸として回転可能に設けることが好ましい。このように、ターゲット15を移動可能及び回転可能に設けたことにより、長時間の成膜を継続して実施しても、ターゲット15の表面がほぼ均一に削られ、ターゲット15表面の形状乱れによってプルーム19の方向が変わる不具合を防止でき、長尺基材12の長手方向に均一な膜厚の超電導層31を形成することができる。
【0017】
ターゲットホルダ16に取り付けられたターゲット15は、形成しようとする超電導層31と同等または近似した組成、あるいは、成膜中に逃避しやすい成分を多く含有させた複合酸化物の焼結体あるいは酸化物超電導体などの板材からなっている。従って、酸化物超電導体のターゲット15は、YBaCu、YBaCu、YBaCuなる組成、(Bi,Pb)CaSrCuなる組成、あるいはTlBaCaCu、TlBaCaCu、TlBaCaCuなる組成などに代表される臨界温度の高い超電導層31と同一の組成か近似した組成のものを用いることが好ましい。
【0018】
このターゲット15にレーザ光18を照射するレーザ光発光手段17としては、ターゲット15から蒸着粒子を叩き出すことができるレーザ光18を発生するものであれば、Ar−F(193nm)、Kr−F(248nm)などのエキシマレーザ、YAGレーザ、CO2レーザなどのいずれのものを用いても良い。レーザ光発光手段17から照射されるレーザ光18は、処理容器11の適当な位置に設けられている図示していない透明窓から該容器内に入り、ターゲット15の表面に照射される。レーザ光発光手段17と前記透明窓の間には、必要に応じて図示していない反射ミラーや集光レンズ等の光学系が設けられる。
【0019】
レーザの照射出力の調整は、レーザ光発光手段17に電力を供給する増幅装置(図示略)の出力を調整することにより行うことができる。また、レーザの照射周波数は、1秒間当たりに間欠的に発振されるレーザのパルスの数を示すものであり、この調整は、レーザ光発光手段17に電力を一定の周波数をもって間欠的に供給するか、レーザ光18が通過する経路のどこかに、回転セクタ等の機械的シャッタを設け、この機械的シャッタを一定の周波数をもって作動させることにより、調整することができる。
【0020】
次に、前述したように構成された本実施形態の薄膜形成装置10を用い、長尺基材12の表面に酸化物超電導体からなる超電導層31を成膜し、酸化物超電導線材28を製造する方法を説明する。
【0021】
この長尺基材12は、ハステロイ等の金属テープ状の基材29上にイオンビームアシストスパッタリング法等によってGdZr、CeO、YSZなどからなる1層又は2層以上の多結晶中間薄膜30を形成してなるものである。
【0022】
基材29の構成材料としては、ステンレス鋼、銅、または、ハステロイなどのニッケル合金などの各種金属材料から適宜選択される長尺の金属テープを用いることができる。この基材29の厚みは、0.01〜0.5mm、好ましくは0.02〜0.15mmとされる。基材29の厚みが0.5mm以上では、後述する超電導層31の膜厚に比べて厚く、オーバーオール(酸化物超電導導体全断面積)あたりの臨界電流密度としては低下してしまう。一方、基材29の厚みが0.01mm未満では、基材29の強度が低下し、電導導層31の補強効果を消失してしまう。
【0023】
多結晶中間薄膜30は、立方晶系の結晶構造を有する結晶の集合した微細な結晶粒が多数相互に結晶粒界を介して接合一体化されてなるものであり、各結晶粒の結晶軸のc軸は基材1の上面(成膜面)に対してほぼ直角に向けられ、各結晶粒の結晶軸のa軸どうしおよびb軸どうしは、互いに同一方向に向けられて面内配向されている。多結晶中間薄膜30の厚みは、0.1〜1.0μmとされる。多結晶中間薄膜30の厚みを1.0μmを超えて厚くしてももはや効果の増大は期待できず、経済的にも不利となる。一方、多結晶中間薄膜30の厚みが0.1μm未満であると、薄すぎて超電導層3を十分支持できない恐れがある。この多結晶中間薄膜30の構成材料としてはGdZr、CeO、YSZの他に、MgO、SrTiO3等を用いることができる。
【0024】
成膜後に得られる酸化物超電導体からなる超電導層31は、YBaCu、YBaCu、YBaCuなる組成、(Bi,Pb)CaSrCuなる組成、あるいはTlBaCaCu、TlBaCaCu、TlBaCaCuなる組成などに代表される臨界温度の高い酸化物超電導体からなるものである。この超電導層31の厚みは、0.5〜5μm程度で、かつ均一な厚みとなっている。また、超電導層31の膜質は均一となっており、超電導層31の結晶のc軸とa軸とb軸も多結晶中間薄膜30の結晶に整合するようにエピタキシャル成長して結晶化しており、結晶配向性が優れたものとなっている。
【0025】
図1に示す薄膜形成装置10を用いて長尺基材12の上に超電導層31を成膜するには、送出リール20に巻回されている長尺基材12を引き出しながら、ヒータボックス13内に導入し、その内部に収容されている一対の巻回部材群22,23に順次巻回し、その後先端側をヒータボックス13から導出し、巻取リール21に巻き取り可能に固定する。これによって、一対の巻回部材群22,23に巻回された長尺基材12がこれらの巻回部材群22,23を周回し、プルーム19が導入される開口14に複数列並んで移動するようになる。また、この開口14に隣接したターゲットホルダ16にターゲット15を取り付ける。その後、排気装置24を駆動し、処理容器11内を減圧する。この際、必要に応じて処理容器11内に酸素ガスを導入して容器内を酸素雰囲気としても良い。
【0026】
長尺基材12を前述したようにセットした後、ターゲット15にレーザ光18を照射して成膜を開始するよりも前の適当な時に、ヒータボックス13の内壁に設けられたヒータ25に通電してヒータボックス13内の長尺基板12と一対の巻回部材群22,23を全体的に加熱し、一定温度に保温しておくことが好ましい。ヒータボックス13内の長尺基材12の温度制御は、ヒータボックス13内の適所に複数の温度センサを設置しておき、ヒータボックス13内の長尺基材12の温度が均一になるように複数のヒータ25を個別にON/OFFすることなどによって行うことが好ましい。
【0027】
次に、送出リール20から長尺基材12を送り出しつつ、レーザ光発光手段17からレーザ光18を発生させ、透明窓を通してレーザ光18を処理容器11内に導入し、ターゲット15に照射する。この時、レーザ光18の照射位置をターゲット15の表面上で移動させる走査を行いながらレーザ光18をターゲット15に照射してもよい。また、ターゲット15は、図示していないターゲット移動機構によって、開口4に対して平行な面に沿って往復移動させている。さらに、このターゲット15をその中心軸を中心に回転させてもよい。このターゲット15の回転運動によりレーザ光18は円状の軌跡を描くので、ターゲット15表面は円状に削られ、また、前記往復運動によりレーザ光18はターゲット15の径方向に動くので、ターゲット15の円周側から中心側にかけても削られるので、異なる場所のターゲット15の蒸着粒子が叩き出されるか蒸発する。
【0028】
ターゲット15から叩き出され若しくは蒸発した蒸着粒子は、その放射方向の断面積が拡大したプルーム19となり、ヒータボックス13に穿設された開口14からヒータボックス13内に導入される。この開口14近傍には、一対の巻回部材群22,23に巻回された長尺基材12がこれらの巻回部材群22,23を周回することによって複数列並んで移動している。ヒータボックス13内にプルーム19を導入することで、開口14近傍を複数列並んで移動している長尺基材12の表面に、蒸着粒子が堆積し、長尺基材12がこれらの巻回部材群22,23を周回する間に、酸化物超電導体からなる超電導層31が成膜される。
【0029】
このレーザ光18の照射エネルギーは200〜400mJの範囲であることが好ましい。レーザ光18の照射エネルギーが200mJ未満であると、ターゲット15に与える熱エネルギーが小さすぎてターゲット15の蒸着粒子を十分に叩き出し若しくは蒸発させることができず、超電導層31の成膜速度が低下してしまい効率的でないからであり、また、レーザ光18の出力が400mJを越えると、ターゲット15に与えるエネルギーが大きすぎてターゲット15に割れ等が生じる虞があるからである。
【0030】
さらに、レーザ光18の照射周波数は10〜200Hzの範囲であることが好ましい。レーザ光18の照射周波数が10Hz未満であると、照射出力を400mJとしても、ターゲット15に与えるエネルギーが小さすぎて、ターゲット15の蒸着粒子を十分に叩き出すことができず、超電導層31の成膜速度が低下してしまい効率的でないからであり、また、レーザ光18の照射周波数が200Hzを越えると、照射出力を200mJとしても、ターゲット15に与えるエネルギーが大きすぎてターゲット15に割れ等が生じる虞があるからである。
【0031】
このように、長尺基材12が巻回部材群22,23を周回する間に、プルーム19内を複数回通過することになる。長尺基材12がプルーム19内を通過する毎に、酸化物超電導体からなる薄膜が順次成膜されるので、その結果、多結晶中間薄膜30上に各層の厚みが略一定となるような積層構造の超電導層31が成膜され、図6に示す酸化物超電導線材28が得られる。超電導層31の成膜後、得られた酸化物超電導線材28は、ヒータボックス13から導出され、巻取リール21に巻き取られる。
【0032】
本実施形態の薄膜形成装置10は、処理容器11内に長尺基材12を囲んで保温するヒータボックス13を設け、ヒータボックス13内で適温に加熱された長尺基材12の表面にターゲット15からの蒸着粒子を堆積させる構成としたので、超電導層31の成膜不良が少なくなり、長手方向の超電導特性が均一な酸化物超電導線材28を製造することができる。
【0033】
図5は、本発明の薄膜形成装置の第2実施形態を示す図である。本実施形態の薄膜形成装置は、図1〜図4に示す前述した第1実施形態の薄膜形成装置10と同様の構成要素を備えて構成され、ターゲット15周縁にその移動範囲を移動中に開口14から発する輻射熱の逃げを抑制する延出部27が設けられたターゲットホルダ26を備えていることを特徴としている。
【0034】
前述した第1実施形態の薄膜形成装置10では、ターゲットホルダ16に延出部26が設けられておらず、ターゲットホルダ16の移動がターゲット15の周縁に達すると、図4に示すように、開口14とターゲット15の隙間からヒータボックス13内の熱が輻射熱の形でヒータボックス13内部から外部に逃げ、ヒータボックス13内の長尺基材12の温度分布が不均一になるおそれがある。
【0035】
本実施形態の薄膜形成装置では、ターゲット15周縁にその移動範囲を移動中に開口14から発する輻射熱の逃げを抑制する延出部27を設けたターゲットホルダ26を備えた構成としたので、図4に示すようにターゲット15の周縁が開口14の中心部に移動した場合でも、延出部27によって開口14とターゲット15の隙間から輻射熱が外部に逃げるのを防ぐことができ、ヒータボックス13内の長尺基材12の温度をより均一に保つことができる。
【0036】
本実施形態の薄膜形成装置は、前述した第1実施形態の薄膜形成装置10と同様の効果が得られ、さらに延出部27を設けたターゲットホルダ26を備えた構成としたので、ヒータボックス13内の長尺基材12の温度をより均一に保つことができ、前述した第1実施形態の薄膜形成装置10よりも、長手方向の超電導特性がさらに均一な酸化物超電導線材28を製造することができる。
【0037】
なお、前述した各実施形態は本発明の例示に過ぎず、本発明はこれらの各実施形態に限定されるものではなく、各種の変更や修正が可能である。
例えば、前述した各実施形態では、薄膜として酸化物超電導体からなる超電導層31を成膜する装置を例示しているが、本発明の薄膜形成装置は、他のレーザ蒸着が可能な材料、例えば、各種のセラミックス材料や金属材料などの成膜用に適用することができる。
また、長尺基材12はテープ状に限定されず、断面円形の線材等であっても良い。
【実施例】
【0038】
図1に示す構成の薄膜形成装置により、テープ状の長尺基材の表面にYBaCuからなる超電導層を成膜した。この成膜時、ヒータボックス内の長尺基材の表面温度を測定したところ、全体的に温度が均一化されて周期的な変化は小さく、その温度差は5℃以内に抑えられていた。長尺基材の表面に厚さ1μmの超電導層を成膜し、得られた酸化物超電導線材の臨界電流(Ic)を線材の長手方向に沿って複数箇所で測定した。測定された臨界電流値は、Ic=190〜200Aの範囲であり、長手方向のばらつきは小さかった。このように、本発明の薄膜形成装置によれば、長手方向に均一な超電導特性を有する高品質の酸化物超電導線材を製造することができた。
【0039】
一方、特許文献1に記載されている従来技術の薄膜形成装置として、前記薄膜形成装置のヒータボックスを取り外し、巻回部材群22,23の間にヒータを内蔵した基台を配置して長尺基材を加熱する構成とした薄膜形成装置により、長尺基材の表面に厚さ1μmの超電導層を成膜した。この成膜時、長尺基材の表面温度を測定したところ、長尺基材の表面温度の変動が周期的に現れ、その温度差は40℃にも及んでいた。得られた酸化物超電導線材の臨界電流(Ic)を線材の長手方向に沿って複数箇所で測定した結果、測定された臨界電流値は、Ic=90〜200Aとばらつきが大きかった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の薄膜形成装置の第1実施形態を示す構成図である。
【図2】同じ薄膜形成装置の要部斜視図である。
【図3】同じ薄膜形成装置の要部構成図である。
【図4】開口とターゲットの隙間から輻射熱が逃げる場合を説明する薄膜形成装置の要部側面図である。
【図5】本発明の薄膜形成装置の第2実施形態を示す要部構成図である。
【図6】本発明の薄膜形成装置により製造される酸化物超電導線材を例示する断面図である。
【符号の説明】
【0041】
10…薄膜形成装置、11…処理容器、12…長尺基材、13…ヒータボックス、14…開口、15…ターゲット、16,26…ターゲットホルダ、17…レーザ光発光手段、18…レーザ光、19…プルーム、20…送出リール、21…巻取リール、22,23…巻回部材群、24…排気装置、25…ヒータ、27…延出部、28…酸化物超電導線材、29…基材、30…多結晶中間薄膜、31…超電導層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺基材を収容する処理容器と、該処理容器内に配置され前記長尺基材を囲んで保温する開口付きヒータボックスと、該ヒータボックスの開口に隣接して設けられたターゲットホルダと、該ターゲットホルダに保持されるターゲットにレーザ光を照射するレーザ光発光手段とを備え、前記レーザ光を前記ターゲットの表面に照射し、該ターゲットから叩き出され若しくは蒸発した蒸着粒子を前記ヒータボックス内の長尺基材表面に堆積させることを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項2】
前記ターゲットホルダが前記ヒータボックスの開口に対して平行な面に沿って移動可能に設けられ、かつターゲットホルダのターゲット周縁にその移動範囲を移動中に前記開口から発する輻射熱の逃げを抑制する延出部が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成装置。
【請求項3】
前記ターゲットは、酸化物超電導体材料であり、前記薄膜は酸化物超電導体薄膜であることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜形成装置。
【請求項4】
前記ヒータボックス内に、前記長尺基材を巻回する巻回部材を複数個同軸的に配列してなる巻回部材群を少なくとも一対、対向配置してなり、これら一対の巻回部材群に巻回された前記長尺基材が、これらの巻回部材群を周回することにより、前記蒸着粒子の堆積領域内にて複数列とされることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−233266(P2006−233266A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−48575(P2005−48575)
【出願日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】