説明

薬液受け部材、薬液回収装置及び薬液回収方法

【課題】使用済みの薬液について、再生に有用な薬液と洗浄液が混入して再生に適さない薬液とを、効率よく、かつ簡易な装置構成により分別して回収することができる薬液回収装置及び薬液回収方法を提供する。
【解決手段】薬液が流入する薬液流入口と、薬液流入口から流入した薬液の所定量を貯留することができる薬液貯留部と、薬液貯留部の所定量を超えた薬液を排出する薬液排出口と、を有する薬液受け部材1と、薬液貯留部に貯留した回収薬液を吸引する薬液回収ポンプ23と、薬液回収ポンプで吸引した回収薬液を収容する回収タンク24と、薬液排出口から排出される廃棄薬液を収容する廃棄タンク25と、を有する薬液回収装置21。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液処理による使用済みの薬液を回収する際に、洗浄液を含有しない回収薬液と洗浄液を含有する廃棄薬液との分別に適した薬液受け部材、これを用いた薬液回収装置及び薬液回収方法に係り、特に、使用済みの薬液が半導体の製造プロセスの研磨工程で用いられた半導体研磨用スラリー(以下、研磨用スラリーと略称する)である場合に特に適した薬液受け部材、薬液回収装置及び薬液回収方法に関する。
【0002】
上記半導体の製造プロセスには、ウェーハ、液晶、マスク向けのガラスなどの基本素材やそれらの素材の製造装置部材を作る工程、それらの素材を加工して素子やパターンを作るデバイス製造工程が含まれる。
【背景技術】
【0003】
近年、コンピューターの高速化に伴って、コンピューターに用いられる半導体集積回路(IC)には、一段と高い集積度が求められるようになってきている。このようなICの高集積化に適合していくには、配線パターンの微細化と共に多層積層構造の採用が不可欠となっている。
【0004】
多層積層構造を採用するには、基材となるウェーハそのものや多層積層構造の各層の凹凸をこれまで以上に小さくして、膜形成時の段差部での被覆性(ステップカバレッジ)の悪化やリソグラフィ工程におけるフォトレジストの塗布膜厚変動などの不具合を避ける必要がある。
【0005】
このような多層積層構造における各層の凹凸をなくするため、基材であるウェーハやこのウェーハ上に形成される各層表面を研磨用スラリーを用いて研磨することが行なわれている。
【0006】
また、タングステンWを用いてCVD法(化学蒸着法)によりコンタクトホールやビアホールを形成する際や、ダマシン構造にメッキ法により銅Cuを埋め込む際には、表面に形成されるタングステン被膜や銅被膜を、ホール部分やダマシン構造部分のみ残して表面に形成されたタングステン被膜や銅被膜を周りの絶縁膜と同一平面となるまで研磨するが、この場合にも研磨用スラリーを用いた研磨が行われる。
【0007】
一般に、半導体製造プロセスにおける研磨工程では、スピンドルに貼り付けたウェーハの表面を、回転テーブル表面の研磨パッドに接触させ、接触部に研磨用スラリーを供給しながら回転テーブルを回転させることによって研磨が行なわれる。
【0008】
この研磨工程で用いられる研磨用スラリーは、煙霧質シリカのような研磨材を超純水に分散させ、目的によって、過酸化水素のような酸化剤、鉄塩、有機酸等の成分を溶解させた特殊な組成のものが用いられる。そして、研磨工程が終わると、研磨されたウェーハは超純水で洗浄され、ウェーハや研磨装置に付着していた使用済みの研磨用スラリーは、洗浄液とともに流され、回収タンクに収容される。
【0009】
回収タンクに集められた使用済みの研磨用スラリーは、過剰の水をセラミックフィルターで除いて濃度が調整され、イオン成分がイオン交換樹脂等により除去され、元の組成に対して不足した成分が補充され、さらに粒度調整用フィルターを通して除去研磨屑等の過大な粒子が除去されて研磨用スラリーとして再使用される(例えば、特許文献1参照。)。
【0010】
しかしながら、超純水での洗浄により、ごく薄められた研磨用スラリーを再生するには洗浄に用いた分の超純水を除去しなければならず、コスト的には見合わないばかりか手間も余計にかかっていた。
【0011】
そこで、最近の研磨用スラリーの再生方法は、研磨に使用された後の研磨用スラリーのみを貯留槽に回収して再生工程に付し、研磨パッド上に残った研磨用スラリーは、洗浄水により除去され、これは廃液槽に貯留して、その後廃棄することにより行われていた。すなわち、未使用の研磨用スラリーと濃度が近く再生が容易なものだけを回収し、多量の洗浄水と混合したものは廃棄して、作業効率や全体のコストを重視するようになってきた。
【0012】
ここで、再生される研磨用スラリーと廃棄される研磨用スラリーとは、研磨工程と洗浄工程との間でそれぞれ送液する貯留槽を変更して分別するが、その変更するタイミングは、早すぎれば再生に有用な研磨用スラリーを廃棄することとなり再生効率が下がってしまい、遅すぎれば再生用の研磨用スラリーの中に洗浄水が混入し希釈されて全体の濃度が低くなってしまう。そして、この問題を解決して研磨用スラリーをより効率的に回収することができるものとして、使用済み研磨用スラリーの導電率又はpHを測定して、その測定値に基づいて再生用の研磨用スラリーと廃棄用の研磨用スラリーとを分別する研磨用スラリーの回収方法及び回収装置が、本出願人により既に出願され、知られていた(例えば、特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平11−010540号公報
【特許文献2】特開2007−319974号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
上述した従来の研磨用スラリーの再生方法は、再生される研磨用スラリーと廃棄される研磨用スラリーとを分別するのに、回収の際に実際に流れている研磨用スラリーの性状を測定することで切り替えのタイミングを決定しているため、余計な洗浄水を含有せずに若干の補正液による調整のみで効率よく再生することができる研磨用スラリーを効率的に回収することを可能としたものである。
【0014】
しかしながら、このような回収方法を行う場合でも、再生用又は廃棄用の研磨用スラリーを送出するタンクの切り替えをパイプで送出し、そのパイプの途中に配置したバルブで行っているため、パイプの長さやバルブを設ける位置によっては切り替えのタイミングの調整に時間がかかる場合があった。また、バルブのトラブルが生じた場合等には、再生用の研磨用スラリー中に廃棄用の研磨用スラリーが多量に混入する可能性もあった。
【0015】
そこで、上記のような問題点に鑑み、本願発明は、使用済みの薬液について、再生に有用な薬液と洗浄液が混入して再生に適さない薬液とを、効率よく、かつ簡易な装置構成により分別して回収することができる薬液回収装置及び薬液回収方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、かかる問題点を解消すべく鋭意研究を進めた結果、使用済みの薬液を回収する際に、薬液を所定量貯留することができる薬液貯留部を有する薬液受け部材を再生用及び廃棄用の薬液の分別に用いることで、容易な操作で効率良く、かつ、簡易な装置構成で、使用済み薬液の再生を行うことができることを見出し、本発明を完成したものである。
【0017】
すなわち、本発明の薬液受け部材は、薬液が流入する薬液流入口と、薬液流入口から流入した薬液の所定量を貯留することができる薬液貯留部と、薬液貯留部の所定量を超えた薬液を排出する薬液排出口と、を有することを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の薬液回収装置は、薬液が流入する薬液流入口と、薬液流入口から流入した薬液の所定量を貯留することができる薬液貯留部と、薬液貯留部の所定量を超えた薬液を排出する薬液排出口と、を有する薬液受け部材と、薬液貯留部に貯留した回収薬液を吸引する薬液回収ポンプと、薬液回収ポンプで吸引した回収薬液を収容する回収タンクと、薬液排出口から排出される廃棄薬液を収容する廃棄タンクと、を有することを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明の薬液回収方法は、薬液が流入する薬液流入口と、薬液流入口から流入した薬液の所定量を貯留することができる薬液貯留部と、薬液貯留部の所定量を超えた薬液を排出する薬液排出口と、を有する薬液受け部材に、使用済みの薬液を流入させ、薬液受け部材に、洗浄液を含有しない回収薬液が流入している場合には、薬液貯留部に貯留した回収薬液を薬液回収ポンプで吸引して回収し、薬液受け部材に、洗浄液を含有する廃棄薬液が流入している場合には、薬液回収ポンプの吸引動作を停止して、薬液排出口から廃棄薬液を回収することを特徴とするものである。
【0020】
まず、本発明の薬液受け部材について説明する。
本発明の薬液受け部材は、上記説明したとおり、薬液を流入する薬液流入口と、薬液流入口から流入した薬液を所定量貯留することができる薬液貯留部と、薬液貯留部の所定量を超えた薬液を排出する薬液排出口と、を有するものである。
【0021】
この薬液受け部材において、使用済みの薬液が薬液受け部材の流入口から流入されると、薬液は薬液受け部材の内部を通って、主に内壁を伝って、下方に移動する。このとき、薬液受け部材は、薬液の所定量を貯留することができる薬液貯留部を有しているため、薬液は単に薬液受け部材の内部を通過するだけではなく、薬液貯留部に一旦保持される。
【0022】
そして、さらに薬液が流入して、その薬液貯留部の容量を超えた薬液が流入すると薬液貯留部から薬液が溢れ出し、薬液流入口とは別に設けられた薬液排出口から排出されるように構成されている。すなわち、この薬液受け部材は、薬液貯留部の容量を超えた薬液を自動的に排出することができるようになっている。
【0023】
このとき、薬液排出口は、鉛直方向において、薬液流入口と同じ高さであるか又はそれよりも低い位置に設けられるものである。このようにすることで、薬液の貯留量を薬液受け部材の構造によって制御することができる。もし、薬液排出口が薬液流入口より高いと薬液が薬液貯留部を満たしても排出されず、薬液の排出制御が不可能となってしまう。
【0024】
次に、このような薬液受け部材を用いた薬液回収装置及び薬液回収方法について説明する。
【0025】
本発明の薬液回収装置は、上記説明した本発明の薬液受け部材と、この薬液受け部材の薬液貯留部に貯留した回収薬液を吸引する薬液回収ポンプと、薬液回収ポンプで吸引した回収薬液を収容する回収タンクと、薬液排出口から排出される廃棄薬液を収容する廃棄タンクと、を有するものである。
【0026】
ここで、本発明の薬液回収ポンプは、薬液受け部材における薬液貯留部に貯留した回収薬液を吸引するものであり、その種類は特に問わないが、薬液を全て吸引してしまった際に、空気を吸引してもその性能に影響のない自給式のものであることが好ましく、ピエゾポンプであることが特に好ましい。なお、ピエゾポンプは電圧、周波数、波形等の電気信号を調節して圧電素子を動作させる軽量、小型のポンプであり、応答性能も良好である。
【0027】
また、本発明の回収タンクは薬液回収ポンプで吸引した回収薬液を収容することができ、廃棄タンクは廃棄薬液を収容することができるものであればよく、それぞれ、回収薬液、廃棄薬液を汚染することなく安定して収容することができるものであれば、その材質、形状等は、特に限定されるものではない。
【0028】
そして、本発明の薬液回収方法は、薬液が流入する薬液流入口と、薬液流入口から流入した薬液の所定量を貯留することができる薬液貯留部と、薬液貯留部の所定量を超えた薬液を排出する薬液排出口と、を有する薬液受け部材に、使用済みの薬液を流入させ、薬液受け部材に、洗浄液を含有しない回収薬液が流入している場合には、薬液貯留部に貯留した回収薬液を薬液回収ポンプで吸引して回収し、薬液受け部材に、洗浄液を含有する廃棄薬液が流入している場合には、薬液回収ポンプの吸引動作を停止して、薬液排出口から廃棄薬液を回収するものである。
【0029】
ここで、上記説明したような部材、装置及び方法に適用することができる薬液の種類は、特に限定されるものではないが、その薬液の使用方法については、特定の使用条件が求められる。
【0030】
この使用条件とは、まず、薬液の使用による操作と薬液の洗浄による操作とが明確に分けられていることが必要である。このように操作が明確な場合において、回収する薬液も洗浄液が含有しないものと、洗浄液が含有するものとを明確に区別できるのである。そして、本発明の回収方法の特徴は、この洗浄液の使用の有無により、回収薬液と廃棄薬液とが、その時間当たりの流量において大きく異なることを利用し、回収薬液と廃棄薬液とを簡便な操作により分別している点にある。
【0031】
すなわち、回収薬液においては、使用済みの薬液がそのまま薬液受け部材に流入してくるものであるが、廃棄薬液においては、薬液の供給量よりも多量の洗浄液を供給して洗浄操作を行うことから、このとき薬液受け部材に流入する廃棄薬液の流量は、回収薬液の流量に比べて明らかに多く、両者でその流量が大きく異なっているのである。
【0032】
本発明では、薬液貯留部に貯留している薬液を薬液回収ポンプで吸引するが、このとき、薬液貯留部の貯留できる容量と薬液回収ポンプで吸引する量とを調整することで、回収薬液を漏れなく再生操作に回すことができる。例えば、薬液を連続的に供給している場合に、薬液貯留部にもほぼ同量の使用済みの薬液が流入してくることとなるが、このとき、薬液回収ポンプの吸引量をこの薬液の供給量又は流入量と、同じか又はやや多くすることで回収薬液を廃棄することなく回収タンクへ回収することができる。
【0033】
そして、薬液での処理が終了し、処理対象物等に付着し残存する薬液を洗浄する際には、薬液の供給を停止し、代わりに洗浄液を供給することにより薬液を洗い流す。このとき洗い流される薬液は、洗浄液を含有するものである。したがって、これを回収して再生するためには多量に含有している洗浄液を薬液から除去しなければならず、手間やコストが余計にかかってしまう。そこで、このように洗浄液を含有する薬液は、廃棄薬液として再生することなく廃棄処分とする。
【0034】
このように洗浄を行い、薬液受け部材に廃棄薬液が流入してきたとき、薬液回収ポンプを停止し、廃棄薬液を回収薬液と混合しないようにする。そして、薬液回収ポンプを停止したことに加え、上述したように、通常、薬液の供給量と比べ洗浄液の供給量は多いため、薬液貯留部は廃棄薬液によりすぐに満たされ、自動的に溢れ出して廃棄薬液の大部分は薬液排出口から排出され廃棄タンクに収容されるようになっている。
【0035】
ここで、薬液の洗浄において用いられる洗浄液の供給量は、薬液を洗い流すためには多いほうが好ましく、例えば、薬液の供給量に対して3倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましい。しかし、無駄に多量の洗浄液を用いると廃棄薬液が多量になり、その処分に手間やコストがかかってしまうため、8〜12倍程度であることが特に好ましい。
【0036】
そして、この薬液による処理と洗浄操作はそれぞれ繰り返し行うこともできる。すなわち、1回目の薬液処理、洗浄処理を行った後、2回目の薬液処理、洗浄処理が行われ、さらに3回目、4回目と繰り返し行うものである。
【0037】
このような場合、本発明の薬液回収装置及び薬液回収方法においては、さらに薬液貯留部に貯留している廃棄薬液を吸引する廃棄ポンプを有するようにすることが好ましい。この廃棄ポンプも薬液回収ポンプと同様、特に限定されるものではないが、自給式であることが好ましく、ピエゾポンプであることが特に好ましい。
【0038】
そして、この廃棄ポンプは、薬液受け部材に廃棄薬液の流入が停止した後、回収薬液が流入するまでの間に、薬液貯留部に貯留した廃棄薬液を吸引するものである。このように廃棄ポンプで廃棄薬液を吸引して、薬液貯留部を空にしておくことで、次の薬液処理において用いられ、再生に好適な薬液を廃棄薬液で汚染することなく回収することができる。
【0039】
以上のように、本発明の回収装置及び回収方法によれば、バルブの切り替えや複雑な装置を用いることなく、回収薬液と廃棄薬液とを効率良く、かつ、簡便な操作で分別することができる。また、この回収装置及び回収方法は、本発明の薬液受け部材を用いることを特徴とするものであり、この薬液受け部材を既存の装置に適用する場合でも、従来のように配管を新たに設けたりする大掛かりな装置の改造は必要とせず、使用済み薬液の流入口にこの薬液受け部材を設置し、薬液回収ポンプ、廃棄ポンプを設置すれば良いだけである。
【0040】
なお、本発明において、回収の対象となる薬液は、特に限定されるものではないが、研磨用スラリーであることが特に好ましい。以下、好ましい研磨用スラリーについて説明する。
【0041】
典型的な研磨用スラリーは、特開平10−265766号公報、特開平11−116948号公報等に開示されたようなものである。具体的には、例えば、0.02μm以上の粒度分布(メジアン径)体積基準が約0.15μmの煙霧質シリカ微粒子と、過酸化水素のような酸化剤、硝酸第二鉄、有機酸、アミノ酸等の成分を水に分散又は溶解させたものである。
【0042】
以下に、未使用の研磨用スラリーについて、その組成の一例を示した。
比重 1.03
pH 2.0〜2.2
平均粒子径[μm] 0.14〜0.15
W濃度[ppm] <10
Fe濃度[ppm] 60
Ti濃度[ppm] <0.1
B濃度[ppm] <0.2
Na濃度[ppm] <0.1
Mg濃度[ppm] 0.6
Al濃度[ppm] 0.1
K 濃度[ppm] <0.1
Ca濃度[ppm] 0.1
Mn濃度[ppm] 0.1
Cr濃度[ppm] 0.1
Mn濃度[ppm] 0.1
Ni濃度[ppm] <0.1
Cu濃度[ppm] <0.5
Zn濃度[ppm] <0.1
Pb濃度[ppm] <1
Co濃度[ppm] <0.1
Zr濃度[ppm] <0.1
Cr濃度[ppm] <10
TOC濃度[ppm] 160〜230
【0043】
上記のような組成を有する研磨用スラリーは、半導体研磨工程で使用されることにより、被研磨体の組成に応じて特定の金属イオンが含有されることとなるが、研磨用スラリーとしての組成はそのまま有して薬液受け部材から回収タンクに収容される。そして、研磨工程が終わったところで、洗浄工程において、研磨パッド上に残った研磨用スラリーや研磨クズ等が超純水からなる洗浄液で洗浄され、これは廃棄タンクに収容される。
【0044】
すなわち、半導体研磨工程における、研磨の際に回収タンクに収容される使用済みの研磨用スラリーと、洗浄工程において廃棄タンクに収容される使用済みの研磨用スラリーとは、洗浄水が多量に混入しているか否かで決定的に異なるものである。
【0045】
洗浄水が混入した研磨用スラリーは、それを再生しようとしたときには、まず、多量の水を除去する操作をしなければならないため、再生に手間がかかっていた。また、この段階で含まれる研磨用スラリーの量は処理する廃液の量に対して少量で、再生したとしても効率が悪いものであった。
【0046】
そこで、本発明の薬液再生方法を適用することで、洗浄水が混入して希釈されていない研磨用スラリーか、混入が少量である研磨用スラリーを、最大限利用することが可能となる。そして、このように回収された再生用の研磨用スラリーは、後述するような再生操作に付すことによって、研磨用スラリーとして再利用することができる。
【発明の効果】
【0047】
本発明の薬液受け部材によれば、使用済みの薬液をその流量により回収用と廃棄用とに容易に分離することができる。
そして、本発明の薬液回収方法及び薬液回収装置によれば、このような特定の構造を有する薬液受け部材により、使用済みの再生等に有用な薬液と洗浄液の多量に混入した薬液とを、容易な操作で効率良く、かつ、簡易な装置構成で、分別して回収することができる。
【0048】
この装置は、従来の自動弁や分岐配管を用いた場合のようなデッドスペースを無くすことができるため、配管等に付着した他の種類の薬液や廃棄薬液との汚染の問題を小さくして、効率よく薬液を回収することができる。そして、このように回収された薬液は、その後の再生等の操作を効率よく行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
次に、本願発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
(第1の実施形態)
図1は本発明の一実施形態である薬液受け部材の平面図、図2は図1の薬液受け部材のA−A断面図であり、図3は、図1の薬液受け部材を適用した薬液回収装置の概略構成を示した図である。
【0050】
まず、図1及び図2に示した薬液受け部材1は、流れてきた薬液をその内部に流入する薬液流入口2と、流入された薬液を貯留することができる薬液貯留部3と、薬液貯留部3に収容可能な容量を超えたときに薬液が外部に排出される薬液排出口4と、から構成されている。
【0051】
また、薬液回収装置21は、上記説明した薬液受け部材1を適用したものであり、薬液受け部材1と、使用済み薬液を集めるための回収容器22と、薬液受け部材1の薬液貯留部3に貯留した回収薬液を吸引する薬液回収ポンプ23と、薬液回収ポンプ23が吸引した回収薬液を収容する回収タンク24と、薬液受け部材1の薬液排出口4から排出された廃棄薬液を収容する廃棄タンク25と、から構成されている。
【0052】
なお、本実施形態では、半導体ウェーハを研磨する際に用いる研磨用スラリーの回収に適用する場合について説明するため、プラテン31と、シリコンウェーハ32と、ヘッド33と、を図示した。
【0053】
半導体の研磨工程が開始されると、プラテン31上に研磨用スラリーが供給され、シリコンウェーハ32を研磨するが、このとき半導体研磨はプラテン31及びシリコンウェーハ32を固定しているヘッド33をそれぞれ回転させながら行っているため、研磨用スラリーは、主にプラテン31の遠心力により、その外側に飛ばされる。このプラテン31の周囲には、使用済みの研磨用スラリー及び洗浄後の研磨用スラリーを受ける回収容器22が配置されており、飛ばされた研磨用スラリーはこの回収容器22に収容される。
【0054】
研磨を行っている間は、研磨用スラリーが連続的に供給され、そして流れ落ちてきた研磨用スラリーは回収容器22に収容される。回収容器22は、収容した研磨用スラリーが薬液受け部材1に集まるように、その底部が傾斜して形成されている。よって、流れ落ちてきた回収薬液である研磨用スラリーは、薬液受け部材1の薬液流入口2から内部へと次々に流れ込み、薬液貯留部3に溜まっていく。薬液貯留部3に溜まり始めた薬液は、薬液回収ポンプ23により吸引され、回収タンク24に収容される。このとき、薬液は薬液排出口4からは排出されることはない。
【0055】
そして、半導体ウェーハ32の研磨が終了すると、研磨用スラリーの供給も止め、次に、プラテン31、ヘッド33及び半導体ウェーハ32を洗浄するために超純水を供給することにより洗浄し、付着した薬液を洗い流す。このとき、薬液と洗浄液である超純水が混合して薬液濃度は薄くなり再生に適さない廃棄薬液となる。この廃棄薬液は、上記の回収薬液と同様に、回収容器22に流れ落ちて、薬液受け部材1に集められる。
【0056】
このとき、薬液受け部材1に廃棄薬液が流れ込んでくる前に薬液回収ポンプの吸引を停止し、廃棄薬液が回収薬液に混ざらないようにする。吸引されることのない廃棄薬液は薬液貯留部3に溜まっていき、ついには溢れ出す。溢れ出した廃棄薬液は、薬液排出口4から排出され、廃棄タンク25に収容される。このとき、薬液排出口4は薬液流入口2よりも鉛直方向において低い位置に形成されているから、薬液貯留部の容量がいっぱいになった時に、廃棄薬液は、必ず薬液排出口4から排出される。
【0057】
このようにして、回収薬液と廃棄薬液とは、特定の構造を有する薬液受け部材を用いて、薬液回収ポンプの動作を切り替えるという簡単な操作により、効率良く分別することができる。
【0058】
なお、薬液受け部材1の薬液貯留部の容量は、薬液回収ポンプの吸引能力を考慮して、回収薬液が廃棄タンク25に収容されないように適宜設定すればよい。その容量は、例えば、50〜400mLとすることが好ましく、100〜200mLとすることがより好ましい。これは、半導体研磨の場合には、研磨用スラリーの供給量が100〜200mL/分で、薬液回収ポンプの吸引量もこれと同程度とすることが典型的な例として考えられるためである。
【0059】
また、このとき薬液回収ポンプとして用いることができるポンプは、特に限定されないが、薬液を全て吸引した場合には空気を吸引することが考えられるため、気体を吸引しても問題の無い自給式のポンプが好ましい。また、ここでは特に圧電振動子を振動させることにより液体を吸引することができるピエゾ構造を有するポンプであることが特に好ましい。
【0060】
この薬液回収ポンプは、1つ用いればよいが、2つ以上を用いるようにしても良い。2つ以上用いる場合には、並列に用いると片方のポンプに不具合が生じた場合でも、装置を止めることなく続けて動作を行うことができる。また、直列に用いた場合には、例えば、削りクズ等の粒子により片方のポンプが詰まった場合に、他方のポンプの働きにより詰まりを解消するように動作させることができる。
【0061】
また、この薬液回収ポンプは、回収薬液と廃棄薬液の流入具合によってその動作を止めて、回収タンク24に廃棄薬液が混入しないようにするものであるが、その動作を停止するタイミングは、洗浄操作を開始して廃棄薬液が薬液受け部材1に流入されるまでの所定の時間が経過した後とすることが好ましい。
【0062】
しかしながら、このような操作により動作の停止を行った場合には、廃棄薬液が通常よりも早く流れ込んで回収薬液を汚染する可能性や、遅く流れ込んで回収薬液の回収量を多くする可能性があっても、全く対応できないこととなってしまう。
【0063】
そこで、薬液受け部材1に流入する薬液の性状を判定するセンサーを組み込んでおき、このセンサーの検知結果から薬液回収ポンプの動作を停止させるか否か判断させることが好ましい。このとき用いることができるセンサーとしては、例えば、導電率計、pH計、粘度計、屈折率計、濁度計等が挙げられる。
【0064】
使用済みの研磨用スラリーの導電率、pH、粘度、屈折率、濁度等の測定は、研磨用スラリーの性状の変化をみるのに特に有効であって、研磨用スラリーに洗浄水がどの程度の割合で混入しているかを、その測定値を算出することで容易に判定することができる。
【0065】
すなわち、研磨用スラリー中への洗浄水の混入度合いによって導電率、pH、粘度、屈折率、濁度等に有意な影響を与えるため、洗浄水が混入していないか又は混入が少量であって、再生を簡便に行うことができる研磨用スラリーと、洗浄水が多量に混入しており、再生に手間のかかる研磨用スラリーとを、これらの測定値により容易に判別することができるのである。
【0066】
例えば、研磨用スラリーと超純水との混合液について、スラリー濃度と導電率との関係は、スラリー濃度が100%、すなわち、半導体研磨に使用する前の未使用の研磨用スラリーの導電率は200mS/m程度を示し、これに洗浄水である超純水が混入して研磨用スラリーの濃度(割合)が下がると共に導電率も低下し、この関係は直線性を有するものである。すなわち、導電率の変化を観察することで、研磨用スラリーの濃度変化を見ることができ、測定時の研磨用スラリーの濃度を確認することができる。
【0067】
このように再生に適した研磨用スラリーと、再生に手間のかかる研磨用スラリーとを容易に判別することが可能となり、再生に適した研磨用スラリーは、次いで、再生工程に付するための回収タンクに、再生に手間のかかる研磨用スラリーは、そのまま廃棄される廃棄タンクに、それぞれ分別して回収される。
【0068】
ここで、回収タンク及び廃棄タンクに分別の基準とする所定値としては、研磨用スラリーの導電率が100〜200mS/mであることが好ましく、170〜200mS/mであることが特に好ましい。また、洗浄水の混入を厳格に排除しようとする場合には200mS/m以上を所定値として設定してもよい。この実施形態において、この設定した所定値以上の場合に薬液回収ポンプの動作を継続して回収タンクに送液するようにし、所定値未満の場合に薬液回収ポンプを停止し廃棄タンクに収容されるように構成するものである。
【0069】
また、pHを測定する場合においても、上記の導電率の変わりにpHを測定するように構成すればよく、このときpHの変化は水が混入することにより酸性の研磨用スラリーが希釈され、そのpHは上昇することとなる。ここで、回収タンクと廃棄タンクとに分別する基準とする所定値としては、研磨用スラリーのpHが2.3〜2.6であることが好ましく、2.3以下としてもよい。pHの場合には、この所定値以下の場合に薬液回収ポンプの動作を継続して回収タンクに送液するようにし、所定値を超えた場合に薬液回収ポンプを停止して廃棄タンクに収容するように構成するものである。
【0070】
また、粘度を測定する場合においても、上記導電率の変わりに粘度を測定するように構成すればよく、このとき粘度の変化は水が混入することにより研磨用スラリーが希釈され、その粘度は低下することとなる。分別する基準値としては、研磨スラリーの粘度が2〜3cpであることが好ましい。
【0071】
また、屈折率を測定する場合においても、上記導電率の変わりに屈折率を測定するように構成すればよく、このとき屈折率の変化は水が混入することにより研磨用スラリーは希釈され、その屈折率は低下することとなる。分別する基準値としては、研磨スラリーの屈折率が1.4〜1.45であることが好ましい。
【0072】
また、濁度を測定する場合においても、上記導電率の変わりに濁度を測定するように構成すればよく、このとき濁度の変化は水が混入することにより研磨用スラリーは希釈され、その濁度は低下することとなる。分別する基準値としては、研磨スラリーの濁度が300〜600NTUであることが好ましく、600NTU以上としてもよい。
【0073】
さらに、上記説明では、薬液を1種類用いた場合を説明しているが、薬液を2種類以上用いてそれぞれ処理を行う場合には、薬液の種類ごとに薬液回収ポンプ及び回収タンクを設けるようにすればよい。
【0074】
なお、ここで廃棄タンクに収容された研磨用スラリーは通常廃棄される。しかし、手間をかけても回収量を優先する場合には、セラミックフィルターにより濃縮してから再生操作に付し、研磨用スラリーとして再利用することもできる。
【0075】
(第2の実施形態)
次に、図4を参照しながら、本発明の第2の実施形態について説明する。図4は、図1の薬液受け部材を適用した他の薬液回収装置の概略構成を示した図である。
【0076】
図4に示した薬液回収装置41は、上記説明した薬液受け部材1を適用したものであり、薬液受け部材1と、使用済み薬液を集めるための回収容器22と、薬液受け部材1の薬液貯留部3に貯留した回収薬液を吸引する薬液回収ポンプ23と、薬液回収ポンプ23が吸引した回収薬液を収容する回収タンク24と、薬液受け部材1の薬液排出口4から排出された廃棄薬液を収容する廃棄タンク25と、薬液受け部材1の薬液貯留部3に貯留した回収薬液を吸引する廃棄ポンプ42と、から構成されている。
【0077】
ここで示した薬液回収装置41は、廃棄ポンプ42を設けて、薬液受け部材1の薬液貯留部3に貯留した廃棄薬液をこの廃棄ポンプ42により吸引し、吸引した廃棄薬液を廃棄タンク25に送出し、収容するようにした以外は、第1の実施形態で説明した薬液回収装置と同一の構成を有するものである。以下、第1の実施形態と同一の構成については説明を省略し、相違点のみについて説明する。
【0078】
第1の実施形態においては、回収薬液と廃棄薬液とを容易に分別回収することができた。しかし、通常、半導体の研磨工程は一回の操作で終了するものではなく、研磨−洗浄の各工程を何回も繰り返し行うことで大量の被研磨物を処理するのである。
【0079】
したがって、第1の実施形態で洗浄操作が終了し、廃棄薬液を廃棄タンク25に収容したときの薬液受け部材1の状態は、その薬液貯留部3に廃棄薬液が貯留したものである。これをそのまま次の研磨操作に入ってしまうと、次に流入してくる回収薬液がその薬液貯留部3の廃棄薬液により汚染されることとなってしまう。第1の実施形態ではこのように汚染されたとしても薬液貯留部3の薬液を保持することができる容量のみであるため、その汚染度合いは低いものであるが、少しでもこのような汚染を生じさせないようにすることが好ましい。
【0080】
そこで、本実施形態においては、上記した廃棄薬液による汚染の問題を解消するために、薬液回収ポンプと同様に薬液貯留部3に貯留する薬液を吸引することができる廃棄ポンプ42を設けたものである。
【0081】
この廃棄ポンプは、研磨−洗浄工程が終了し、薬液受け部材1に廃棄薬液の流入が停止した後、次の研磨工程が開始して回収薬液が流入してくるまでの間に、薬液貯留部3に貯留した廃棄薬液を吸引するものである。そして、ここで吸引された廃棄薬液は、廃棄タンク25に収容するようにすればよい。
【0082】
廃棄ポンプを新たに設け、このように廃棄薬液を吸引することで、次に流れてくる回収薬液を廃棄薬液で汚染させることなく回収することができる。
【0083】
(第3の実施形態)
次に、図5を参照しながら、第3の実施形態について説明する。図5は、図1の薬液受け部材を適用したさらに他の薬液回収装置の概略構成を示した図である。
【0084】
図5に示した薬液回収装置51は、上記説明した薬液受け部材1を適用したものであり、薬液受け部材1と、使用済み薬液を集めるための回収容器22と、薬液受け部材1の薬液貯留部3に貯留した回収薬液を吸引する薬液回収ポンプ23と、薬液回収ポンプ23が吸引した回収薬液を収容する回収タンク24と、薬液受け部材1の薬液排出口4から排出された廃棄薬液を収容する廃棄タンク25と、薬液受け部材1の薬液貯留部3に貯留した洗浄液を吸引する洗浄液回収ポンプ52と、から構成されている。
【0085】
ここで示した薬液回収装置51は、洗浄液回収ポンプ52を設けて、薬液受け部材1の薬液貯留部3に貯留した洗浄液をこの洗浄液回収ポンプ52により吸引し、吸引した洗浄液を洗浄液タンク53に送出し、収容するようにした以外は、第1の実施形態で説明した薬液回収装置と同一の構成を有するものである。以下、第1の実施形態と同一の構成については説明を省略し、相違点のみについて説明する。
【0086】
第1の実施形態では、回収薬液と廃棄薬液とは、その洗浄液を含有しているか否かによって分別し、洗浄液が含有しているものは全て廃棄タンクへ収容するように構成されていた。しかしながら、洗浄操作を開始して薬液受け部材1に流入してくる薬液は洗浄液と薬液が混合したものであるが、洗浄操作が進むにつれて、薬液濃度がどんどん低下していく。
【0087】
したがって、洗浄操作初期の段階では廃棄すべき薬液であるが、薬液の洗浄がほぼ行われてから流入してくるものは薬液がごく低濃度含むか薬液を含まない洗浄液のいずれかとなり、このように洗浄液濃度が高いものについては、これを回収して再度洗浄液として利用することも可能なため、これを全て廃棄するのは無駄である。
【0088】
そこで、本実施形態においては、薬液回収ポンプと同様に薬液貯留部3に貯留する洗浄液を吸引することができる洗浄液回収ポンプ52を設けたものである。
【0089】
この洗浄液回収ポンプは、洗浄操作が始まって廃棄薬液が薬液受け部材1に流入してきてから所定の時間経過後又は流入してくる洗浄液の性状を確認しながら、動作を開始させればよく、薬液が十分に洗浄され、大部分が洗浄液で回収して再利用が容易なものが薬液受け部材1に流入してくるタイミングで行えばよい。そして、ここで吸引された洗浄液は、洗浄液回収タンク53に収容するようにすればよい。
【0090】
そして、この洗浄液回収ポンプは、薬液回収ポンプ及び廃棄ポンプと同様に、その種類は特に限定されるものではないが、薬液回収ポンプや廃棄ポンプとは異なり、単位時間当たりに供給される量が多く、これを効率よく回収するために、ポンプは特に限定しない。また、その吸引量が600〜3000mL/分であることが好ましく、1600〜2400mL/分が特に好ましい。
【0091】
洗浄液回収ポンプを新たに設け、このように再利用可能な洗浄液を回収することで、薬液のみならず洗浄液をも再利用して、コストを低減することができる。
【0092】
(第4の実施形態)
次に、図6〜9を参照しながら、第4の実施形態について説明する。ここでは、第1の実施形態で用いた薬液受け部材のバリエーションについて説明する。
【0093】
図6は、第1の実施形態で用いた薬液受け部材1とは異なる薬液受け部材の断面図を示したものである。
【0094】
ここで、図6の薬液受け部材11は、薬液流入口12と、薬液貯留部13と、薬液排出口14と、から構成されており、その基本構成は薬液受け部材1と同一であるが、薬液排出口14が薬液流入口12と同じ高さに設けられている点で異なる。
【0095】
このように、薬液排出口14を薬液受け部材1と比べて鉛直方向に高い位置に設けることにより、薬液貯留部13の容量を大きくすることができる。例えば、外形が同一の薬液受け部材であっても、このように薬液排出口の高さを変えたり、それ以外にも薬液排出口の径を変えたりすることにより、薬液貯留部の容量を容易に変更することができる。
【0096】
したがって、その薬液の供給量や洗浄液の供給量を考慮して、薬液受け部材の形状を適宜変更することができる。なお、本願の図面においては、外径及び薬液排出口が円筒形状に形成するようにしているが、当然ながら、これに限定されるものではなく、薬液流入口、薬液貯留部、薬液排出部が設けられていれば、どのような形状をとることもできる。
【0097】
また、図7に示したような薬液受け用蓋を用いることもできる。ここで示した薬液受け用蓋5は、円板状の蓋であって、複数個の開口5aが設けられたものである。そして、この薬液受け用蓋5は、薬液受け部材の薬液流入口に嵌め込んで使用するものであり、図8に、薬液受け部材1の薬液流入口2に薬液受け用蓋5を嵌め込んだ状態の側断面図を示した。
【0098】
この薬液受け用蓋5を用いることで薬液受け部材に流入する薬液は、開口5aから薬液受け部材の内部に流入するようになるが、流入口が多少制限されるため粗大な半導体の削りカス等を流入しない頻度が向上する。また、開口5aに薬液回収ポンプ及び/又は廃棄ポンプで薬液を吸引することができるノズルを差し込んで、容易に固定することもできる。
【0099】
さらに、図9に示したように、薬液受け部材1の薬液流入口2の直近に液溜まり部6を、この液溜まり部6に溜まった使用済み薬液の性状を測定することができるセンサー7を設けて、このセンサーにより測定した値により回収薬液とするか廃棄薬液とするか判断を行うようにすることができる。ここでセンサーは、第1の実施形態で説明したように、導電率計、pH計、粘度計、屈折率計又は濁度計を用いることができる。
【0100】
(第5の実施形態)
次に、本発明の回収方法において、回収した回収薬液を再生操作に付す場合について説明する。図10は、本発明の薬液回収装置により回収した研磨用スラリーを、再度研磨の際に使用することができるように再生装置を用いた再生サイクルを示した図である。
【0101】
この実施形態における薬液再生装置60は、上記第1の実施形態で説明した薬液回収装置21により回収して得られた研磨スラリーを、紫外線照射装置61、孔径5μmのプレフィルター62、イオン交換樹脂装置又はキレート形成処理装置63、組成調整タンク64及び粒度調整フィルター65を、流路に沿って、順に通液するように設置して構成したものである。なお、これは当然のことながら第2、第3の実施形態で説明したものや、それ以外の薬液回収装置で回収されたものにも適用可能である。
【0102】
この実施形態では、薬液回収装置により回収された研磨スラリー等は、まず、紫外線照射装置61において紫外線照射により過酸化水素が分解され、次いで、プレフィルター62に送られ、ここを通過する過程で研磨クズ等の粒子状不純物が除去される。
【0103】
次に、この研磨用スラリーは、イオン交換樹脂装置又はキレート形成処理装置63に送られ、ここで金属イオンと有機イオンが除去され、さらに組成調整タンク64で未使用の研磨用スラリーと同組成、同pHとなる量の補正液が添加され、最後に、粒度調整フィルター65で過大な粒径の挟雑物が除去されて、再生研磨用スラリーとして再び研磨装置に供給される。
【0104】
以上は、使用済みの研磨用スラリーを、粗大粒子除去後に、金属イオンを除去するように構成した例であるが、本発明は、かかる構成例に限定されるものではない。例えば、次のように、薬液回収装置21 → 紫外線照射装置61 →イオン交換樹脂装置又はキレート形成処理装置63 → プレフィルター62 → 組成調整タンク64 → 粒度調整フィルター65と構成することもできる。
【0105】
このように紫外線照射装置61を設けると、処理中の研磨用スラリーに含まれる酸化剤が分解除去され、後段のろ過膜等が酸化剤により劣化するのを抑制することができる。また、このとき、紫外線照射装置の後段に特定口径のフィルターを設けると、紫外線照射と過酸化水素によりコロイド粒子化したタングステンをフィルターで除去することができ、キレート形成処理装置の負荷を軽減することもできる。
【実施例】
【0106】
次に、本発明を具体化した実施例について説明する。
(実施例1)
本実施例では、半導体用のシリコンウェーハを平坦化する工程で使用した研磨用スラリーの回収を、図4に示した薬液回収装置により以下のように行い、研磨用スラリーの回収性能を評価した。
【0107】
まず、半導体研磨装置(MAT社製、商品名:ARW−8C1MS)を用いて、回転テーブル上に研磨用スラリーを200mL/分で供給しながら、その3秒後にプラテン、ヘッドの回転を開始し、研磨用スラリーの供給開始から60秒経過するまでシリコンウェーハ表面の研磨を行った後、操作を全て停止した。
【0108】
その後、回転テーブル上に超純水を2L/分で10秒供給して回転テーブルを洗浄しつつ、ドレッシングを20秒間行った。
【0109】
上記シリコンウェーハの研磨と同時に、使用済みの研磨用スラリーは薬液受けに流入し、薬液貯留部に一時的に保持される。その5秒後に薬液回収ポンプ(ピエゾポンプ;日東工器社製、商品名:バイモルポンプ)により400mL/分の流速で吸引し、再生用の研磨用スラリーを60秒間吸引して回収タンクに貯留した。
【0110】
また、超純水洗浄時には、薬液回収ポンプを停止した直後に廃棄ポンプ(ピエゾポンプ;日東工器社製、商品名:バイモルポンプ)を起動させて400mL/分の流速で洗浄水を吸引し、廃棄タンクに収容した。廃棄ポンプが起動する前に排液受けに流入した洗浄水は、排液受けに保持された研磨スラリーと混合され、排液受けの保持容量を超えた分は、排液口1より排出された。
【0111】
回収タンクに収容した再生用の研磨用スラリーは、濁度計(セントラル科学株式会社製、商品名:Turb 2100P型)を用いて測定した濁度を、未使用の研磨用スラリーの濁度(500NTU)と比較することで評価した。また、廃棄タンクに収容した洗浄水が多量に混合した研磨用スラリーも、同様に濁度計を用いて測定した濁度を見ることで研磨用スラリーの濃度を評価した。これらの結果を表1に示した。
【0112】
この結果から、回収タンクに収容した研磨用スラリーは、未使用の研磨用スラリーとほぼ同等の性状を有するスラリーであり、廃棄タンクに収容した洗浄水が混入した研磨用スラリーは、濃度が極端に薄められてしまい、そのまま再生操作に回すことができないものであった。
【0113】
(比較例1)
次に比較例として、図11の従来の薬液回収装置を用いて、実施例と同様に研磨用スラリーを用いたシリコンウェーハの研磨を行い、回転テーブル上を超純水で洗浄した。なお、図11は、研磨工程で飛び散った使用済みの研磨用スラリーを回収する回収容器72により、やはり一点に研磨用スラリーが集められ、この集められた研磨用スラリーは、そのまま配管を流れ、回収薬液の場合にはポンプ73により吸引して回収タンク74に収容させ、廃棄薬液の場合にはポンプ75により吸引して廃棄タンク76に収容するようにしている。
【0114】
シリコンウェーハを研磨した使用済みの研磨用スラリーは回収容器72に保持され、研磨装置が起動してから5秒後にポンプ73を60秒間起動させて使用済みスラリーを回収タンク74に回収し、研磨装置が停止した5秒後にポンプ73を停止した。
【0115】
そして、超純水による洗浄の開始20秒後にポンプ75を起動させ、回収容器72に流入した洗浄水で希釈された薬液を、廃棄タンク76に回収した。
【0116】
回収タンク74に収容した使用済みの研磨用スラリーは、実施例と同様にその濁度によって評価した。また、廃棄タンク76に収容した洗浄水が多量に混合した研磨用スラリーも、同様に濁度計を用いて測定した濁度を見ることで評価した。これらの結果を実施例と併せて表1に示した。
【0117】
【表1】

【0118】
表1に示したように、回収タンクに回収した研磨用スラリーの濁度は、実施例と比較例とを対比すると、実施例で回収した研磨用スラリーが87.4%高い値を示した。
【0119】
また、廃棄タンクに回収した研磨用スラリーは、実施例と比較例とを対比すると、実施例で回収した研磨用スラリーが90%低い濁度値を示した。
【0120】
(実施例2)
図9に示した薬液受け部材を用いた以外は実施例1と同様の操作を行い、薬液受け部材に流入する濁度を濁度計により測定しながら薬液の回収操作を行った。このとき回収と廃棄とは、濁度が400NTUであるときに薬液回収ポンプと廃棄ポンプとを切り替えるようにした。このとき用いた濁度計としては実施例1と同一のものを用いた。
この操作を5回繰り返して行い、そのときの研磨用スラリー及び純水の回収量を表2、図12及び図13に示した。
【0121】
(比較例2)
図11の薬液回収装置において、研磨スラリーの回収容器72から配管に流れ込む部分に実施例2と同様に濁度計を設けて比較例1と同様の操作により薬液の回収操作を行った。このとき回収と廃棄との基準は実施例2と同一とし、薬液回収ポンプと廃棄ポンプとを切り替えるようにした。
この操作を5回繰り返して行い、そのときの研磨用スラリー及び純水の回収量を表2、図12及び図13に示した。
【0122】
【表2】

【0123】
上記の結果から、本発明を用いることにより、研磨用スラリーを高い濃度、すなわち未使用の研磨用スラリーの性状に近い状態で回収することが可能であることがわかった。また、洗浄水も余分な研磨用スラリーの混入を最小限に抑えて回収することが可能であることがわかった。
【0124】
したがって、本発明によれば、再生に適した薬液の回収を簡単な操作で、かつ、簡易な装置構成で、効率よく行うことができる。そして、本発明により回収されたシステムは、半導体デバイス製造工程で用いられる薬液の分別回収を、使用前に近い性状のまま薬液を回収することができ、分別排液回収やリサイクル、リユースなど幅広く使用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0125】
【図1】本発明の一実施形態である薬液受け部材の平面図である。
【図2】図1に示した薬液受け部材のA−A断面図である。
【図3】本発明の一実施形態である薬液回収装置の構成を示した図である。
【図4】本発明の他の実施形態である薬液回収装置の構成を示した図である。
【図5】本発明のさらに他の実施形態である薬液回収装置の構成を示した図である。
【図6】本発明の他の実施形態である薬液受け部材の側断面図である。
【図7】図1の薬液受け部材に用いる薬液受け用蓋を示した平面図である。
【図8】図1の薬液受け部材に図6の薬液受け用蓋を適用したときの側断面図である。
【図9】図1の薬液受け部材にセンサーを設けたときの側断面図である。
【図10】回収した研磨用スラリーの再生装置を用いた再生サイクルの構成を示した図である。
【図11】比較例で用いた従来の薬液回収装置の概略構成を示した図である。
【図12】実施例2及び比較例2における研磨用スラリーの回収量を示した図である。
【図13】実施例2及び比較例2における純水の回収量を示した図である。
【符号の説明】
【0126】
1,11…薬液受け部材、2,12…薬液流入口、3,13…薬液貯留部、4,14…薬液排出口、5…薬液受け用蓋、5a…開口、21…薬液回収装置、22…収容容器、23…薬液回収ポンプ、24…回収タンク、25…廃棄タンク、41…薬液回収装置、42…廃棄ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液が流入する薬液流入口と、
前記薬液流入口から流入した薬液の所定量を貯留することができる薬液貯留部と、
前記薬液貯留部の所定量を超えた薬液を排出する薬液排出口と、
を有することを特徴とする薬液受け部材。
【請求項2】
薬液が流入する薬液流入口と、前記薬液流入口から流入した薬液の所定量を貯留することができる薬液貯留部と、前記薬液貯留部の所定量を超えた薬液を排出する薬液排出口と、を有する薬液受け部材と、
前記薬液貯留部に貯留した回収薬液を吸引する薬液回収ポンプと、
前記薬液回収ポンプで吸引した回収薬液を収容する回収タンクと、
前記薬液排出口から排出される廃棄薬液を収容する廃棄タンクと、
を有することを特徴とする薬液回収装置。
【請求項3】
前記薬液貯留部に貯留した廃棄薬液を吸引する廃棄ポンプを有することを特徴とする請求項2記載の薬液回収装置。
【請求項4】
前記薬液が2種類以上用いられる場合において、前記薬液回収ポンプ及び前記薬液回収タンクを薬液の種類ごとに設けることを特徴とする請求項2又は3記載の薬液回収装置。
【請求項5】
前記薬液回収ポンプ及び/又は前記廃棄ポンプが、自給式ポンプであることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項記載の薬液回収装置。
【請求項6】
前記薬液受け部材に流入する薬液の性状を測定する測定手段と、
該測定手段によって得られた測定結果に基づいて前記薬液回収ポンプを動作させるか否かを判断する制御手段と、
を有することを特徴とする請求項2乃至5のいずれか1項記載の薬液回収装置。
【請求項7】
前記薬液が半導体研磨用スラリーであり、前記測定手段がpH計、導電率計、粘度計、屈折率計又は濁度計であることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項記載の薬液回収装置。
【請求項8】
薬液が流入する薬液流入口と、前記薬液流入口から流入した薬液の所定量を貯留することができる薬液貯留部と、前記薬液貯留部の所定量を超えた薬液を排出する薬液排出口と、を有する薬液受け部材に、使用済みの薬液を流入させ、
前記薬液受け部材に、洗浄液を含有しない回収薬液が流入している場合には、前記薬液貯留部に貯留した回収薬液を薬液回収ポンプで吸引して回収し、
前記薬液受け部材に、洗浄液を含有する廃棄薬液が流入している場合には、前記薬液回収ポンプの吸引動作を停止して、前記薬液排出口から廃棄薬液を回収することを特徴とする薬液回収方法。
【請求項9】
前記回収薬液と前記廃棄薬液とが、前記薬液受け部材に交互に流入する場合において、前記薬液貯留部に、前記廃棄薬液の流入が停止した後、前記回収薬液が流入するまでの間に、前記薬液貯留部に貯留した廃棄薬液を廃棄ポンプで吸引することを特徴とする請求項8記載の薬液回収方法。
【請求項10】
前記薬液が半導体研磨用スラリーであって、前記洗浄液が超純水であることを特徴とする請求項8又は9記載の薬液回収方法。
【請求項11】
前記薬液受け部材に流入する薬液のpH、導電率、粘度、屈折率又は濁度を測定し、その測定結果に基づいて前記回収薬液と前記廃棄薬液とを判別することを特徴とする請求項8乃至10のいずれか1項記載の薬液回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−285819(P2009−285819A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143828(P2008−143828)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】