説明

蛍光体及び発光ダイオード

【課題】構造が簡単で、耐熱性、耐光性及び耐候性に優れ、従来の樹脂の劣化による発光ダイオード等のデバイスの発光強度劣化や短寿命化を抑制できる蛍光体及びそれを用いた発光ダイオードを提供する。
【解決手段】発光ダイオード20は、カソードリード端子1とアノードリード端子2とを備えたステム3と、アノードリード端子2に接続された青色発光ダイオードチップ4と、青色発光ダイオードチップ4とカソードリード端子1を接続する金属線5と、ステム3とともに青色発光ダイオードチップを気密封止するように固定され、青色発光ダイオードチップの上方に窓部6が形成された収納容器7と、収納容器7の窓部6に取り付けられた結晶化ガラス化からなる蛍光体8とを具備している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体及びそれを用いた発光ダイオードに関するものである。
【背景技術】
【0002】
1993年に発表された青色の発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)により光の3原色RGB(R:赤色、G:緑色、B:青色)のLEDが揃い、これらのLEDを並べて用いることによって白色光を得ることが提案されている。しかし、三色のLEDの発光出力が異なるため、各色個別の駆動回路が必要であり、制御性に問題があった。また、各色の発光ダイオードの色劣化速度が異なるため、白色光の長期安定性に問題があった。
【0003】
これを解決するために、青色LEDチップと、青色LEDチップから発せられた青色光線によって黄色発光するYAG蛍光体を組合せたLEDが開発された(例えば、特許文献1:特開2000−208815号公報参照。)。これは、1種類のLEDで白色光が得られるため、低コストで、白色光の長期安定性にも優れる。また、この白色LEDは、従来の照明装置等の光源に比べ、長寿命、高効率、高安定性、低消費電力、高応答速度、環境負荷物質を含まない等の利点を有しているため、現在、ほとんどの携帯電話やデジタルカメラ等の液晶バックライトにはこの形態の白色LEDが使用されている。今後はこの白色LEDは、白熱電球や蛍光灯に替わる次世代の光源として照明用途への応用が期待されている。
【特許文献1】特開2000−208815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載の白色LEDは、青色の光を発光する発光素子の上に、粉末状の蛍光体と樹脂からなる複合体(コーティング部材)が設けられた構造を有し、発光素子から発せられた青色の励起光を粉末状の蛍光体に当てることによって、蛍光体から発せられた黄色の蛍光と、樹脂を透過した青色の励起光とが混色して、粉末状の蛍光体と樹脂とからなる複合体(コーティング部材)が白色光を発するが、長期使用時に、この樹脂がLEDチップの発熱、あるいはそれから発せられる光によって、徐々に劣化して変色あるいは変形し、これが白色発光ダイオードの発光強度や寿命を低下させる原因となっている。
【0005】
また、粉末状の蛍光体と樹脂とからなる複合体(コーティング部材)がLEDチップを覆うように固定されるため、その樹脂の塗布条件によっては粉末状の蛍光体と樹脂とからなる複合体(コーティング部材)の厚みにばらつきが生じやすく、それが発光色の配光性を低下させる原因となっている。また、特許文献1に記載の白色LEDは、蛍光体を固定するための樹脂や、LEDチップ及びコーティング部材全体を保護するための樹脂からなるモールド部材が必要となり、複雑な構造を有する。
【0006】
本発明は、構造が簡単で、耐熱性、耐光性及び耐候性に優れ、従来の樹脂の劣化による発光ダイオード等のデバイスの発光強度劣化や短寿命化を抑制できる蛍光体及びそれを用いた発光ダイオードを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の蛍光体は、可視光線からなる励起光を入射すると、該励起光の色相に対して補色の蛍光を発し、かつ該励起光を一部透過する結晶化ガラスからなり、前記結晶化ガラスは、析出結晶の平均粒子径が15μm以上であることを特徴とする。
【0008】
このような構成によれば、可視光線からなる励起光を蛍光体に入射すると、それ自身から白色光を発するので、構造が簡単で、且つ、耐熱性、耐光性及び耐候性に優れ、従来の樹脂の劣化による発光ダイオード等のデバイスの発光強度劣化や短寿命化を抑制できる。すなわち、蛍光体が、それ自身を透過した透過励起光と蛍光との混色により、白色光を発光する。また蛍光体が有機物質である樹脂を含まず、耐熱性、耐光性及び耐候性に優れた結晶化ガラスからなり、これを発光ダイオード等のデバイスに使用した場合、樹脂を使用せずにデバイスを構成できるため、従来の発光ダイオードにおいて見られるようなLEDチップの発熱、あるいはそれから発せられる光による樹脂の着色や変形による劣化がない。その結果、発光ダイオード等のデバイスの発光強度が劣化し難く寿命が長くなる。また、高温の厳しい環境下においても、例えば150℃の高温下で600時間保持しても、発光ダイオードの発光特性が変化し難くなる。また、太陽光等からの紫外線に曝されても、樹脂を含まないため樹脂による着色や劣化がない。また、厳しい長期間の高温高湿環境下(2000時間、温度85℃、湿度85%)においても、発光ダイオードの発光特性が変化し難くなる。
【0009】
しかも、結晶化ガラスは、析出結晶の平均粒子径が15μm以上であるため、それを用いた発光ダイオードの発光効率が高い。すなわち、平均粒子径が15μmよりも小さいと、蛍光体から発せられる蛍光強度が低くなるとともに蛍光体を透過する励起光強度も低くなるからである。平均粒子径の好ましい範囲は15.5〜200μm、より好ましい範囲は16〜100μm、さらに好ましい範囲は21〜50μmである。
【0010】
また、本発明の蛍光体は、結晶化ガラスからなるため、用途に応じて、任意形状、例えば、板形状、球形状、非球面レンズ形状、ロッド形状、円筒形状、円板形状、ファイバー形状等に容易に成形して使用することが可能となる。
【0011】
本発明の蛍光体は、結晶化ガラスが板形状を有していると、従来の白色発光ダイオードにおける粉末状の蛍光体と樹脂からなる複合体の代替材料として使用できる。
【0012】
また、本発明の蛍光体は、大面積の板状体であれば、その板状体の下面に青色LEDを複数個設置することによって、発光機能と拡散機能を兼ね備えた大面積面発光デバイスの構成部材として利用することが可能である。
【0013】
また、本発明の蛍光体は、青色発光ダイオードチップ上に固定せずにカバーガラスとして用いるだけで白色光を発し、シンプルな構造の白色発光ダイオードを構成することも可能である。
【0014】
また、本発明の蛍光体は、板形状を有していると、厚みを一定にすることが容易となり、均質な白色光を得ることができる。また、厚みを変化させるだけで、励起光強度と蛍光強度とのバランスを自由に変化させることができるため、所望の色度あるいは色温度の白色光が得られる。
【0015】
上記した構成において、蛍光体の肉厚が0.1mm〜2mmであると、色温度の高い白色光から低い白色光までの所望の白色光が得られるため好ましい。肉厚が0.1mmよりも薄いと、励起光に対する蛍光強度が小さく、全体として青みが強く白色光が得られ難い。肉厚が2mmよりも厚いと、逆に励起光に対して蛍光強度が強く、黄色味が強く白色が得られにくい。より好ましい肉厚は、0.1〜1mmであり、さらに好ましくは0.3mm〜0.7mmである。
【0016】
本発明の蛍光体において、可視光線からなる励起光は、中心波長が430〜490nmの光線であり、蛍光は、中心波長が530〜590nmの光線であると、白色光を得やすい。
【0017】
また、上記した構成において、結晶化ガラスが、120MPa以上の曲げ強度を有していることが好ましい。このようにすれば蛍光体を大型化しても割れることがなく、また、加工プロセスにおける割れの問題も生じ難い。
【0018】
また、上記した構成において、結晶化ガラスが、2.00W/m/K以上の熱伝導率を有していることが好ましい。このようにすれば、蛍光体が放熱性に優れ、励起用青色LEDチップと接した状態で使用する場合、LEDチップからの熱を放出しやすい。
【0019】
本発明の蛍光体は、結晶化ガラスが、Ce3+を含有し、ガーネット結晶を析出してなると、ガーネット結晶中に含まれるCe3+が発光中心となり、青色の励起光を吸収し、黄色の蛍光を発するようになり、青色の励起光の一部が透過し、透過励起光と蛍光の混色により白色光を発する蛍光体となる。しかも、析出結晶の平均粒子径が15μm以上であるため、それを用いた発光ダイオードの発光効率が高い。
【0020】
また、本発明の蛍光体は、結晶化ガラスが、非晶質ガラスを熱処理することによってガーネット結晶を析出してなると、ガーネット結晶が結晶化ガラスのマトリックスガラス中に泡を巻き込むことなく分散して存在する。そのため、蛍光や透過励起光の一部があらゆる方向に散乱して、蛍光体自身が散乱板の役目も果たし、白色光が広角度に広がる。また、マトリックスガラス中又はマトリックスガラスと析出結晶の界面には、二種以上の異なる材料の複合体中又は異なる材料の界面に見られるような泡がないため、蛍光や透過励起光のうち、析出結晶によって散乱しない蛍光や透過励起光が透過しやすく、そのため発光効率が高くなる。
【0021】
尚、ガーネット結晶とは、一般的にはA12で表される結晶(A=Mg、Mn、Fe、Ca、Y、Gd等:B=Al、Cr、Fe、Ga、Sc等:C=Al、Si、Ga、Ge等)であり、上記したガーネット結晶として、特に、YAG結晶(YAl12結晶)又はYAG結晶固溶体であると、所望の黄色の蛍光を発するため好ましい。YAG結晶固溶体としては、Yの一部をGd、Sc、Ca及びMgからなる群から選択された少なくとも1種の元素で、及び/又はAlの一部をGa、Si、Ge及びScからなる群から選択された少なくとも1種の元素で置換したYAG結晶固溶体であってもよい。
【0022】
発光中心となるCeは、結晶化ガラス中に0.01〜5モル%含有することが好ましい。Ceの含有量が0.01モル%よりも少ないと、発光中心成分としての役割を果たし難く、蛍光強度が充分でない。また、5モル%よりも多いと、濃度消光により発光効率が低くなるため好ましくない。Ceの好ましい範囲は0.01〜4モル%であり、より好ましくは0.3〜3モル%である。
【0023】
本発明の蛍光体は、例えば、モル%で、SiO+B 10〜60%、Al+GeO+Ga 15〜50%、Y+Gd 5〜30%、LiO 0〜25%、Ce 0.01〜5%含有する結晶化ガラスからなることが好ましい。
【0024】
また、本発明の蛍光体は、モル%で、SiO 10〜50%、Al 15〜45%、Y 5〜30%、GeO 0〜15%、Gd 0〜20%、LiO 0〜15%、CaO+MgO+Sc 0〜30%、Ce 0.01〜5%含有してなる結晶化ガラスからなることがより好ましい。
【0025】
次に、本発明の結晶化ガラスの組成を限定した理由を次に示す。
【0026】
SiOとBは、ガラスの網目形成酸化物で、母ガラス作成時にともに失透を抑制する成分であり、SiOとBの含有量は合量で10〜60モル%であることが好ましい。SiOとBの合量が10モル%よりも少ないとガラス化せず、60モル%よりも多いと所望の結晶が析出しにくくなる。SiOとBの合量の好ましい範囲は、30〜47モル%である。SiOの含有量は10〜50モル%であることが好ましい。SiOが10モル%よりも少ないとガラス化しにくく、50モル%よりも多いと所望の結晶が析出しにくくなる。
【0027】
AlとGaとGeOも、ガーネット結晶の構成成分であるとともに、化学的耐久性を向上させる成分であり、AlとGaとGeOの含有量は合量で15〜50モル%であることが好ましい。AlとGaとGeOの含有量が合量で15モル%よりも少ないと、ガーネット結晶が析出しにくく、また、化学的耐久性が低下する。また50モル%よりも多いと、ガラス化しにくくなるとともにガーネット結晶が析出しにくくなるため好ましくない。AlとGaとGeOの合量の好ましい範囲は、20〜40モル%である。Alの含有量は15〜45モル%であることが好ましい。Al含有量が15モル%よりも少ないと、ガーネット結晶が析出しにくく、また、化学的耐久性が低下しやすい。また45モル%よりも多いと、ガラス化しにくくなるとともに、異種結晶が析出するため好ましくない。また、GeOはガーネット結晶中に一部固溶し、結晶析出量を増加させる効果を有する。GeOの含有量は0〜15モル%であることが好ましい。
【0028】
とGdは、ガーネット結晶の構成成分であるとともに、Ceの均一分散能を向上させ、濃度消光を抑制する成分であり、YとGdの含有量は合量で5〜30モル%であることが好ましい。YとGdの含有量が合量で5モル%よりも少ないと、ガーネット結晶が析出しにくく、30モル%よりも多いと、ガラス化しにくくなるため好ましくない。YとGdの合量の好ましい範囲は、10〜25モル%である。Y含有量は5〜30モル%であることが好ましい。Yの含有量が5モル%よりも少ないと、ガーネット結晶が析出しにくく、30モル%よりも多いと、ガラス化しにくくなると共に、異種結晶が析出するため好ましくない。また、Gdは蛍光波長を長波長化する効果や、母ガラスを作成する際ガラス化範囲を広げる効果も有する。Gdの含有量は0〜20モル%であることが好ましい。Gdが20モル%よりも多い場合はガーネット結晶が析出しにくくなる。
【0029】
LiOは、結晶サイズを粗大化させず、また析出結晶量を減少させずに網目修飾酸化物としてガラスの粘性を調整する成分であり、LiOの含有量は0〜25モル%であることが好ましい。LiOが25モル%よりも多いとガラス成型時に多量の失透が発生しガラス化しにくく、結晶化のための熱処理を行なっても失透が消失せず好ましくない。特にLiOが2モル%よりも多いと、ガーネット結晶が析出しやすくなるため好ましい。LiOの好ましい範囲は、2〜16モル%であり、さらに好ましい範囲は、2.5〜4.8モル%である。またLiOが4モル%よりも少ない場合、及びLiOが4モル%以上であってもSiOとBの合量が40.5モル%以上である場合には、ガラス成形時に全く失透が見られないためより好ましい。尚、LiOが4モル%よりも多く且つSiOとBの合量が40.5モル%よりも少ない場合には、ガラス成形時に少量の失透が見られることがあるが、この失透は結晶化のための熱処理によって消失し、緻密なガーネット結晶が析出するため特に問題はない。
【0030】
ZrOとTiOは、発光効率が低下するため、実質的に含有しないほうが良い。
【0031】
CaO、MgO、Scはガーネット結晶中に固溶し、Ceの発光波長を調整することができる成分である。CaO、MgO、Scは合量で0〜30モル%含有することが好ましい。30モル%よりも多いと失透する。
【0032】
上記した成分以外にも、NaO、CaO、MgO、KO等を単独又は合量で15モル%まで添加できる。
【0033】
また、本発明の発光ダイオードは、上記構成の蛍光体を用いてなるため、可視光線からなる励起光を入射すると、透過励起光と蛍光との混色により白色光を発し、蛍光体が有機物質である樹脂を含まず、耐熱性、耐光性及び耐候性に優れた結晶化ガラスからなり、しかも樹脂を使用せずに固定できるため、従来の発光ダイオードにおいて見られるようなLEDチップの発熱、あるいはそれから発せられる光による樹脂の着色や変形による劣化がない。その結果、発光強度が劣化し難く、白色光の色の長期安定性に優れ、寿命が長くなる。
【0034】
また、本発明の結晶化ガラスは、Ce3+を含有し、ガーネット結晶を析出してなるため、ガーネット結晶中に含まれるCe3+が発光中心となり、青色の励起光を吸収し、黄色の蛍光を発し、青色の励起光の一部が透過し、透過励起光と蛍光の混色により白色光を発する蛍光体となる。
【0035】
また、本発明の結晶化ガラスは、非晶質ガラスを熱処理することによってガーネット結晶を析出してなり、ガーネット結晶が結晶化ガラスのマトリックスガラス中に泡を巻き込むことなく分散して存在している。そのため、本発明の結晶化ガラスを蛍光体として使用した場合には、蛍光や透過励起光の一部があらゆる方向に散乱して、蛍光体自身が散乱板の役目も果たし、白色光が広角度に広がる。また、マトリックスガラス中又はマトリックスガラスと析出結晶の界面には、二種以上の異なる材料の複合体中又は異なる材料の界面に見られるような泡がないため、蛍光や透過励起光のうち、析出結晶によって散乱しない蛍光や透過励起光が透過しやすく、そのため発光効率が高くなる。
【0036】
また、本発明の結晶化ガラスは、上記した組成となるように溶融し、ロール成形、鋳込み成形体からの切り出し、スロットダウン成形、オーバーフロー成形、ダウンドロー成形、ダンナー成形、リドロー成形等の一般的なガラス板の成形方法によって任意形状、例えば、板形状、球形状、非球面レンズ形状、ロッド形状、円筒形状、円板形状、ファイバー形状等の結晶性ガラスを作製することができる。次いで、結晶性ガラスを、1150〜1600℃、好ましくは1200〜1500℃で0.5〜20時間熱処理すると、YAG結晶又はYAG結晶固溶体を析出させることができるため好ましい。また、結晶化後に、所望の形状に加工してもよい。
【発明の効果】
【0037】
以上のように本発明の蛍光体によれば、可視光線からなる励起光を入射すると、それ自身から白色光を発し、それを発光ダイオード等のデバイスに用いた場合、樹脂を使用せずにデバイスを構成できるため、耐熱性、耐光性及び耐候性に優れ、従来の樹脂の劣化によるデバイスの発光強度劣化や短寿命化を防止できる。しかも、結晶化ガラスは、析出結晶の平均粒子径が15μm以上であるため、それを用いた発光ダイオードの発光効率が高い。また、用途に応じて、任意形状、例えば、板形状、球形状、非球面レンズ形状、ロッド形状、円筒形状、円板形状、ファイバー形状等に容易に成形して使用することが可能となる。
【0038】
また、本発明の発光ダイオードによれば、可視光線からなる励起光を入射すると、蛍光体が透過励起光と蛍光との混色による白色光を発する。また蛍光体は、有機物質である樹脂を含まず、耐熱性や、耐光性及び耐候性に優れた結晶化ガラスからなり、しかも樹脂を使用せずに固定できるため、従来の発光ダイオードにみられたようなLEDチップの発熱、あるいはそれから発せられる光による樹脂の着色や劣化が無い。その結果、発光強度が劣化し難く、白色光の色の長期安定性に優れ、寿命が長くなる。
【0039】
また、本発明の結晶化ガラスによれば、Ce3+を含有し、ガーネット結晶を析出してなるため、ガーネット結晶中に含まれるCe3+が発光中心となり、青色の励起光を吸収し、黄色の蛍光を発し、青色の励起光の一部が透過し、透過励起光と蛍光の混色により白色光を発する蛍光体となる。しかも、析出結晶の平均粒子径が15μm以上であるため、それを用いた発光ダイオードの発光効率が高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
実施の形態に係る発光ダイオード20は、例えば、図1に示すように、カソードリード端子1とアノードリード端子2とを備えたステム3と、アノードリード端子2に接続された青色発光ダイオードチップ4と、青色発光ダイオードチップ4とカソードリード端子1を接続する金属線5と、ステム3とともに青色発光ダイオードチップを気密封止するように固定され、青色発光ダイオードチップの上方に窓部6が形成された収納容器7と、収納容器7の窓部6に取り付けられた蛍光体8とを具備している。そのため、この窓部6は、カバーガラスとしての機能だけでなく、蛍光体としての機能も果たすことができ、すなわち、青色発光ダイオードチップ4から発せられた青色の励起光9が、蛍光体8に入射され、励起光9の一部が蛍光体8によって吸収されて波長変換され、発光ダイオード20から外部に黄色の蛍光9aとなって発せられる。また、励起光9の一部も蛍光体8を透過し、透過励起光9bとなって発光ダイオード20から外部に発せられる。黄色の蛍光9aと青色の透過励起光9bとが混色して、白色光10となる。
【0041】
また、蛍光体8は、金属製の収納容器7に接着剤11によって固定されるが、接着剤11が樹脂製接着剤であっても、励起光9が直接接着剤11に当たらないため、劣化しにくく、たとえ蛍光体8が発熱して接着剤11が変色しても、蛍光9aや透過励起光9bに悪影響を与えることはない。また接着剤11が低融点ガラスからなると、蛍光体8が発熱しても接着剤11が劣化することがないため好ましい。また、ステム3と収納容器7を、樹脂製又は低融点ガラスからなるシール材12で気密封止できるが、特に低融点ガラスからなるシール材12によって気密封止してなると、シール材12の劣化が少なく信頼性が高くなるため好ましい。また、蛍光体8は、0.1〜2mmの肉厚であると、励起光が透過しやすく、色温度の高い白色光から低い白色光までの所望の白色光が得られるため好ましい。肉厚の好ましい範囲は0.2〜1mmである。また、蛍光体8の端部は、欠けにくいように面取りしてあることが好ましい。
【実施例1】
【0042】
以下、実施例について説明する。
【0043】
表1は本発明の実施例1〜7を、表2は実施例8〜14を、表3は実施例15〜22を示したものである。また、図1は、本発明の発光ダイオードを示す説明図である。図2は、実施例5の発光スペクトルを示したものである。図3は、実施例5について、肉厚を0.2mm〜1.0mmまで変化させたときの透過光の色度を示す図である。
【表1】

【表2】

【表3】

【0044】
実施例の結晶化ガラスは以下のようにして作製した。
【0045】
まず、表1〜3に示した組成となるように調合したガラス原料を白金坩堝に入れ、1650℃にて3時間溶融した後、融液をカーボン板上に流し出すことによって結晶性ガラスを得た。次いでこれらの結晶性ガラスを表1〜3中に示す結晶化温度で0.5〜20時間熱処理することによって実施例1〜22の結晶化ガラスを得た。
【0046】
析出結晶の平均粒子径は、以下のようにして求めた。
【0047】
まず、結晶化ガラスの鏡面研磨面をSEM観察して得られた画像データを三谷商事(株)製解析ソフト「WinROOF」を用いて二値化し、個々の結晶粒子毎に断面積を算出し、それらを真円と仮定してそれぞれの直径を求めた。得られた全ての直径からヒストグラムを作成し、度数の最も多い粒子径範囲の中心粒子径を平均粒子径とした。
【0048】
析出結晶種は、粉末X線回折法により同定し、表1〜3において、析出結晶としてYAG結晶が析出したものについては“YAG”とし、YAG結晶固溶体が析出したものについては“YAGs.s.”とした。表1〜3からわかるように、実施例1〜7、10〜12ではYAG結晶が析出し、実施例8〜9、13〜22ではYAG結晶固溶体が析出していた。
【0049】
発光特性については、図2に示すように、中心波長が430〜490nmにある透過励起光および、中心波長が530〜590nmにある、結晶化ガラス蛍光体からの蛍光が観察される場合は“○”とした。
【0050】
また、図3に示すように、結晶化ガラスの肉厚を0.2〜1.0mmまで変化させ、それを透過して発する光の色度を積分球内で測定し、解析ソフトによって計算したところ、肉厚が薄い場合には、青味がかった白色光(x値及びy値が小さい)を発するが、肉厚が大きくなるにつれて、黄色味がかった白色光(x値及びy値が大きい)を発するようになる。このように、結晶化ガラスの肉厚を変化させることによって所望の白色光が得られることがわかった。
【0051】
表1〜3に示すように、実施例1〜22は、いずれも平均粒子径が15μm以上で、Ce3+を含有するYAG結晶又はYAG結晶固溶体を析出し、発光特性に優れていた。
【0052】
また、実施例5について、150℃で600時間熱処理した際、熱処理前の発光強度に対する熱処理後の発光強度が97%以上であり、耐熱性に優れていた。また、実施例13について、温度85℃、湿度85%の環境下で2000時間処理する前の発光強度に対する処理後の発光強度が93%以上であり、耐候性に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0053】
以上説明したように、本発明の蛍光体は、青色LEDと組み合わせることにより、すなわち可視光線からなる励起光を入射すると、それ自身から白色光を発するので、構造が簡単で、且つ、耐熱性、耐光性及び耐候性に優れ、樹脂の劣化による発光ダイオード等のデバイスの発光強度劣化や短寿命化を抑制できるため、照明装置、車載用、表示板、液晶用バックライト等に使用される白色発光ダイオードにおける粉末状の蛍光体と樹脂からなる複合体(コーティング部材)の代替材料として、あるいは発光機能と拡散機能を兼ね備えた大面積面発光デバイスの構成部材として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の発光ダイオードを示す説明図である。
【図2】実施例5の透過光スペクトルを示すグラフである。
【図3】実施例5について、肉厚を0.2mm〜1.0mmまで変化させたときの透過光の色度を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 カソードリード端子
2 アノードリード端子
3 ステム
4 青色発光ダイオードチップ
5 金属線
6 窓部
7 収納容器
8 蛍光体
9 励起光
9a 蛍光
9b 透過励起光
10 白色光
11 接着剤
12 シール材
20 発光ダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光線からなる励起光を入射すると、該励起光の色相に対して補色の蛍光を発し、かつ該励起光を一部透過する結晶化ガラスからなり、前記結晶化ガラスは、析出結晶の平均粒子径が15μm以上であることを特徴とする蛍光体。
【請求項2】
前記結晶化ガラスが板形状を有することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体。
【請求項3】
肉厚が0.1mm〜2mmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光体。
【請求項4】
前記可視光線からなる励起光は、中心波長が430〜490nmの光線であり、前記蛍光は、中心波長が530〜590nmの光線であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項5】
前記結晶化ガラスは、Ce3+を含有したガーネット結晶を析出してなることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項6】
前記ガーネット結晶がYAG結晶又はYAG結晶固溶体であることを特徴とする請求項5に記載の蛍光体。
【請求項7】
前記結晶化ガラスは、Ceを0.01〜5モル%含有することを特徴とする請求項5又は6に記載の蛍光体。
【請求項8】
前記結晶化ガラスは、モル%で、SiO+B 10〜60%、Al+GeO+Ga 15〜50%、Y+Gd 5〜30%、LiO 0〜25%、Ce 0.01〜5%含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項9】
前記結晶化ガラスは、モル%で、SiO 10〜50%、Al 15〜45%、Y 5〜30%、GeO 0〜15%、Gd 0〜20%、LiO 0〜15%、CaO+MgO+Sc 0〜30%、Ce 0.01〜5%含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の蛍光体。
【請求項10】
前記結晶化ガラスは、TiO及びZrOを本質的に含有しないことを特徴とする請求項8又は9に記載の蛍光体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の蛍光体を用いてなることを特徴とする発光ダイオード。
【請求項12】
カソードリード端子とアノードリード端子とを備えたステムと、アノードリード端子に接続された発光ダイオードチップと、発光ダイオードチップとカソードリード端子を接続する金属線と、ステムとともに発光ダイオードチップを気密封止するように固定され、発光ダイオードチップの上方に窓部が形成された収納容器と、収納容器の窓部に取り付けられた請求項1〜10のいずれかに記載の蛍光体とを具備してなることを特徴とする発光ダイオード。
【請求項13】
Ce3+を含有したガーネット結晶を析出し、前記ガーネット結晶の平均粒子径が15μm以上であることを特徴とする結晶化ガラス。
【請求項14】
前記ガーネット結晶がYAG結晶又はYAG結晶固溶体であることを特徴とする請求項13に記載の結晶化ガラス。
【請求項15】
Ceを0.01〜5モル%含有することを特徴とする請求項13又は14に記載の結晶化ガラス。
【請求項16】
モル%で、SiO+B 10〜60%、Al+GeO+Ga 15〜50%、Y+Gd 5〜30%、LiO 0〜25%、Ce 0.01〜5%含有してなることを特徴とする請求項13〜15のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項17】
モル%で、SiO 10〜50%、Al 15〜45%、Y 5〜30%、GeO 0〜15%、Gd 0〜20%、LiO 0〜15%、CaO+MgO+Sc 0〜30%、Ce 0.01〜5%含有することを特徴とする請求の範囲13〜16のいずれかに記載の結晶化ガラス。
【請求項18】
TiO及びZrOを本質的に含有しないことを特徴とする請求項16又は17に記載の結晶化ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−31196(P2007−31196A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215833(P2005−215833)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】