説明

蛍光体

【課題】400nm〜700nmの可視光領域においてRGB3原色全てに対応するようにブロードな蛍光スペクトルを示すとともに、緩和時間の遅延を防止することが可能な蛍光体を提供する。
【解決手段】陽極11と陰極12との間に複数の陽イオン交換膜14と複数の陰イオン交換膜15とを交互に配列させて脱塩室17と濃縮室16を交互に形成した電気透析装置1に対して、脱塩室17aには硫酸亜鉛水溶液を、また脱塩室17bには水酸化ナトリウム水溶液を導入し、アルミニウム、ガリウム、インジウム、リチウム、ナトリウムのうち少なくとも1種以上の添加物を上記一の脱塩室17a内に導入し、陽極11と陰極12に電圧を印加することにより、脱塩室17aから亜鉛イオンを、また脱塩室17bから水酸イオンを、それぞれ濃縮室16へ移動させ、濃縮室16において生成される水酸化亜鉛に基づいて酸化亜鉛の微粒子を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蛍光ディスプレイ用蛍光体や無機EL素子として各種のディスプレイ等に適用可能な蛍光体に関し、特にブロードな可視発光スペクトルを与えることができ、しかも緩和時間の短縮化を実現可能な蛍光体、蛍光体の微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、ディスプレイ等を初めとした表示装置は、ますます重要性が増し、その需要の増加も著しくなっている。特に、通常の液晶で構成されるフラットパネルディスプレイ(Flat Panel Display:FPD)に加えて、プラズマディスプレイ(Plasma Display Panel:PDP)、更には有機ELディスプレイ、電界放出型ディスプレイ(Field Emission Display:FED)等、活発な研究開発が行われている。
【0003】
このような各種表示装置において、カラー表示を実現するためには、高輝度かつ安定な3原色の蛍光体が必要となり、400nm〜700nmの可視光領域においてRGB3原色全てに対応するようにブロードな蛍光スペクトルを示すものが望ましい。
【0004】
特にこの表示装置に適用される蛍光体として、酸化亜鉛(ZnO)が用いられるケースが多い。この酸化亜鉛は、上記可視光領域を含む380nm〜800nmの領域において発光を伴う蛍光体として知られている。
【0005】
酸化亜鉛蛍光体としては、例えば特許文献1に示すように、Znの有機金属キレート錯体からなる粉末を製造し、かかる工程で得た粉末を焼成することにより酸化亜鉛を得る工程を経ることにより、図7に示すように電子線励起による発光ピークを可視光領域において得ることが可能となる。この図7の例では、大気雰囲気における焼成温度が800℃以下では、微弱な緑色発光(1)、(2)が確認されるのみであるが、900℃では発光ピーク波長が約500nmの緑色発光(3)を確認できる。また、1000℃では発光ピーク波長が390nmである非常にシャープな紫外線発光(4)を示すことが分かる。
【0006】
しかしながら、この特許文献1の開示技術では、あくまで発光スペクトルの帯域幅が狭く、可視光領域全般に亘ってブロードな蛍光スペクトルを示すことができない。
【0007】
特許文献2に開示される酸化亜鉛蛍光体は、アルミニウム等の3族元素及びナトリウム等のアルカリ金属元素の2種以上の添加物を含むものであり、可視光のほぼ全域に亘る広い波長範囲をカバーするブロードな蛍光スペクトルを与えることが可能となる。しかしながら、この特許文献2の開示技術では、酸化亜鉛に対して上記2種以上の添加物を添加しなければならず、コスト面、また資源面から好ましい形態ではなく、望ましくは蛍光体をほぼ酸化亜鉛のみで構成する必要があった。また、この特許文献2の開示技術では、アルミニウム等の3族元素を添加する際には800℃以上で熱処理をする必要が生じるため、省エネルギーの観点から好ましくないという問題点がある。
【0008】
さらに、この特許文献2の開示技術では、800℃以上の熱処理過程で粒子が成長するため、粒径の大きい酸化亜鉛に対してアルミニウムやナトリウム等の元素が添加される。よって、吸収した光がこれら添加元素の準位へ励起され、かかる準位から発光することにもなるが、その分緩和時間が長くなり、この蛍光体を利用したデバイスとしての応答が遅くなる。
【特許文献1】特開2006−83246号公報
【特許文献2】WO2004/096949
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、あくまでカラー表示を実現する表示装置への適用を考慮に入れたときに、RGB3原色全てに対応するように400〜700nmの可視光領域にブロードな蛍光スペクトルを示すとともに、緩和時間の遅延を防止することが可能な蛍光体、蛍光体の微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明を適用した蛍光体は、上述した課題を解決するために、アルミニウム、ガリウム、インジウム、リチウム、ナトリウムのうち少なくとも1種以上の添加物を含む酸化亜鉛からなり、上記酸化亜鉛は、粒径が1〜50nmの微粒子の集合体として構成されていることを特徴とする。
【0011】
本発明を適用した蛍光体は、上述した課題を解決するために、陽極と陰極との間に複数の陽イオン交換膜と複数の陰イオン交換膜とを交互に配列させて脱塩室と濃縮室を交互に形成した電気透析装置に対して、上記濃縮室に対して陽イオン交換膜を介して隔たれた一の脱塩室には硫酸亜鉛水溶液を、また上記濃縮室に対して陰イオン交換膜を介して隔たれた他の脱塩室には水酸化ナトリウム水溶液を導入し、アルミニウム、ガリウム、インジウム、リチウム、ナトリウムのうち少なくとも1種以上の添加物を上記一の脱塩室内に導入し、上記陽極と陰極に電圧を印加することにより、上記一の脱塩室から亜鉛イオンを、また上記他の脱塩室から水酸イオンを、それぞれ濃縮室へ移動させ、上記濃縮室において生成された水酸化亜鉛に基づいて製造したことを特徴とする。
【0012】
本発明を適用した蛍光体の微粒子の製造方法は、陽極と陰極との間に複数の陽イオン交換膜と複数の陰イオン交換膜とを交互に配列させて脱塩室と濃縮室を交互に形成した電気透析装置に対して、上記濃縮室に対して陽イオン交換膜を介して隔たれた一の脱塩室には硫酸亜鉛水溶液を、また上記濃縮室に対して陰イオン交換膜を介して隔たれた他の脱塩室には水酸化ナトリウム水溶液を導入し、アルミニウム、ガリウム、インジウム、リチウム、ナトリウムのうち少なくとも1種以上の添加物を上記一の脱塩室内に導入し、上記陽極と陰極に電圧を印加することにより、上記一の脱塩室から亜鉛イオンを、また上記他の脱塩室から水酸イオンを、それぞれ濃縮室へ移動させ、
上記濃縮室において生成される水酸化亜鉛に基づいて酸化亜鉛の微粒子を製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明を適用した蛍光体は、アルミニウム、ガリウム、インジウム、リチウム、ナトリウムのうち少なくとも1種以上の添加物を含む酸化亜鉛からなり、上記酸化亜鉛は、粒径が1〜50nmの微粒子の集合体として構成されている。即ち、先ず1〜50nm程度のナノメータサイズからなる微粒子中に、これら添加物を効率よくドーピングすることができたものである。
【0014】
その結果、本発明を適用した蛍光体に紫外線又はそれよりも短波長の電磁波、又は電子線等を照射した場合に、これら添加物に基づいて形成された各エネルギー準位に励起子が励起される。次に、各エネルギー準位に励起された励起子が放出されて基底準位に戻る際に蛍光として発光とすることになるが、当該各エネルギー準位は、多段階に亘って形成されたブロードな幅を持ったものであることから、そこから放出される蛍光も同様にブロードな帯域幅を持つものとなる。また、RGBに対応する領域において発光ピークが現れる理由について以下説明をする。
【0015】
一般に505nmを中心とする緑の広い発光帯は過剰な亜鉛原子が酸化亜鉛に作る欠陥(不純物準位)に起因している。バルク結晶で発光帯が広くなる理由は欠陥の存在の仕方(単位格子中のどの部位か、どれだけの大きさか)に起因していると考えられる。このような欠陥は量子ドットのように結晶寸法を小さくすると1個の量子ドット中に存在する欠陥の確率は小さくなり、緑の発光帯は弱まるが、本発明では微細化した量子ドットに対しても欠陥を導入することに緑の発光帯を作り出すことが可能である。このような量子ドットでは欠陥の部位、すなわち、量子ドット表面から近い、遠いなどの条件も欠陥準位の発光エネルギーを決定する要因として加わるため、発光帯はさらに広がり、RGBのすべての発光帯をカバーできる。
【0016】
以上のような欠陥準位は導入する不純物の材料によって変えることが可能であり、また、導入しないことで本来の酸化亜鉛の発光である青にすることも可能である。
【0017】
また、本発明を適用した蛍光体は、さらに緩和時間をより短くすることも可能となる。本発明を適用した蛍光体では、微粒子のサイズを1〜50nmまでに限定している。その結果、最大50nm程度で構成することにより、この電子と正孔との間で取り得る空間的距離に一定の制約がかかる。即ち、この電子と正孔との間で取り得る距離は、この微粒子のサイズや体積に依拠し、最大でもこの微粒子の最大径からなる50nmとなる。このため、電子と正孔の距離がこの粒径に応じて強制的に縮小されることになる。
【0018】
その結果、基底状態に移る際には、電子が正孔と再結合することとなるが、電子と正孔の距離が縮小されることにより、電子が正孔まで戻る速度を上げることが可能となる。このため、本発明を適用した蛍光体では、緩和時間を短縮化させることが可能となる。
【0019】
更に本発明を適用した蛍光体は、従来の蛍光体と比較して紫外域における吸収特性も向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態として、ディスプレイ等に適用可能な蛍光体について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
本発明を適用した蛍光体は、アルミニウム、ガリウム、インジウム、リチウム、ナトリウムのうち少なくとも1種以上の添加物を含む酸化亜鉛からなる。
【0022】
本発明を適用した蛍光体に適用される酸化亜鉛は、粒径が1〜50nmの微粒子の集合体として構成されている。この酸化亜鉛の微粒子の粒径は、TEM(透過電子顕微鏡)による観察により測定した。
【0023】
図1にこの酸化亜鉛粒子の集合体として構成される蛍光体の蛍光特性を示す。この図1では、紫外線又はそれよりも短波長の電磁波、又は電子線によって励起した際の蛍光スペクトルを示すものであって、横軸にスペクトル波長を、縦軸に発光強度を示している。可視光の波長領域(400nm〜700nm)をほぼ全域に亘って発光スペクトルが表れており、いわゆる連続スペクトルとなっている。また、この図1に示す蛍光スペクトルにおいて、青紫色370〜450nm、緑色490〜570nm、赤色640〜770nmの領域にそれぞれ1つずつ発光ピークが現れる。特にカラー表示を実現する上では、それぞれRGBに対応した波長域を含むように、青紫色370〜450nm、緑色490〜570nm、赤色640〜770nmの領域において発光ピークが現れることが重要となる。このとき、青紫色370〜400nm、緑色530〜570nm、赤色650〜670nmの領域に発光ピークを有することがより望ましい。また、紫外線又はそれよりも短波長の電磁波、又は電子線によって励起した際に、青紫色410〜450nm、緑色530〜550nmの領域に発光ピークを有することがより望ましい。
【0024】
このように発光が、400〜700nmの間で連続スペクトルとなる理由としては、第1に酸化亜鉛内にアルミニウム、ガリウム、インジウム、リチウム、ナトリウムのうち少なくとも1種以上の添加物をドーピングしていることによるものである。このような添加物を微粒子内にドーピングすることにより、酸化亜鉛の持つ特有のエネルギー準位に加えて、かかる添加物によるエネルギー準位が形成されることになる。この添加物によるエネルギー準位は、かかる添加物を構成する元素の種類、元素量、さらには、これら元素を添加することにより微粒子内に形成される欠陥の存在により、非常に広いエネルギー準位の範囲に亘り幾層にも亘り形成されることになる。
【0025】
発光帯が広くなる理由は欠陥の存在の仕方に、言い換えれば単位格子中のどの部位に欠陥が生じ、それがどれだけの大きさかに起因していると考えられる。このような欠陥は量子ドットのように結晶寸法を小さくすると1個の量子ドット中に存在する欠陥の確率は小さくなり、緑の発光帯は弱まるが、本発明では微細化した量子ドットに対しても欠陥を導入することに緑の発光帯を作り出すことが可能である。このような量子ドットでは欠陥の部位、すなわち、量子ドット表面から近い、遠いなどの条件も欠陥準位の発光エネルギーを決定する要因として加わるため、非常に広い発光エネルギー準位が形成され、発光帯はさらに広がり、RGBのすべての発光帯をカバーできる。
【0026】
その結果、本発明を適用した蛍光体に紫外線又はそれよりも短波長の電磁波、又は電子線等を照射した場合に、これら添加物に基づいて形成された各エネルギー準位に励起子が励起される。次に、各エネルギー準位に励起された励起子が放出されて基底準位に戻る際に蛍光として発光とすることになるが、当該各エネルギー準位は、多段階に亘って形成されたブロードな幅を持ったものであることから、そこから放出される蛍光も同様にブロードな帯域幅を持つものとなる。
【0027】
また、RGBに対応する波長領域を含むように発光ピークが現れる理由について以下説明をする。
【0028】
一般に505nmを中心とする緑の広い発光帯は過剰な亜鉛原子が酸化亜鉛に作る欠陥(不純物準位)に起因している。バルク結晶で発光帯が広くなる理由は欠陥の存在の仕方、言い換えれば単位格子中のどの部位に欠陥が存在し、それがどれだけの大きさであるかに起因していると考えられる。このような欠陥は量子ドットのように結晶寸法を小さくすると1個の量子ドット中に存在する欠陥の確率は小さくなり、緑の発光帯は弱まるが、本発明では微細化した量子ドットに対しても欠陥を導入することに緑の発光帯を作り出すことが可能である。このような量子ドットでは欠陥の部位、すなわち、量子ドット表面から近い、遠いなどの条件も欠陥準位の発光エネルギーを決定する要因として加わるため、発光帯はさらに広がり、RGBのすべての発光帯をカバーできる。以上のような欠陥準位は導入する不純物の材料によって変えることが可能であり、また、導入しないことで本来の酸化亜鉛の発光である青にすることも可能である。
【0029】
また、本発明を適用した蛍光体は、さらに緩和時間をより短くすることも可能となる。図2は、従来における酸化亜鉛製の蛍光体の発光寿命、並びに本発明を適用した蛍光体の発光寿命をそれぞれ示している。横軸は各蛍光体の緩和時間を示しており、0は、電磁波の照射時を示している。縦軸は、蛍光体からの発光強度を示している。
【0030】
この図2の結果から、本発明を適用した蛍光体は、従来の蛍光体と比較して、発光時間が同じか、それよりも早いことが分かる。即ち、本発明を適用した蛍光体は、不純物元素としての添加物を添加しているにも関わらず、蛍光体からの発光時間をより短縮化させることができることが分かる。
【0031】
本発明を適用した蛍光体において、この緩和時間の短縮化を図ることができる第1の理由としては、先ず1〜50nm程度のナノメータサイズからなる微粒子中に、これら添加物を効率よくドーピングすることができたことが考えられる。
【0032】
一般に、蛍光体を構成する酸化亜鉛において、大きな微粒子に上述した添加元素を添加した場合には、緩和時間が遅延する。大きな微粒子内に不純物をドーピングした場合には、かかる不純物によるエネルギー準位まで励起された電子と、正孔との空間的な距離が広くなり、その距離が50nm以上にも亘って拡張される場合もある。微粒子のサイズが大きい場合には、電子と正孔との間でとり得る空間的距離の自由度が増加するため、電子と正孔との距離間隔がエネルギー的に最も安定となる、ボーア半径程度で落ち着くケースが増加するためである。
【0033】
また、このような40nm以上もの大きな微粒子内に不純物をドープした場合には、図3に示すように、可視光領域においてブロードな蛍光スペクトルを形成させることができる一方で、380nm程度の領域において大きなピークが形成されてしまう。その理由として、この不純物における大きな微粒子内の存在確率は、微粒子の体積に支配されるものであるためである。即ち、量子ドットサイズが小さくなると不純物を含まなくなり、本来の酸化亜鉛の発光である380nm領域の発光が強まるためである。
【0034】
また、このような大きな微粒子内に不純物をドープした場合には、蛍光スペクトルの広がりが小さくなるという問題点も生じる。その理由として、あくまで不純物のエネルギー準位、またその不純物の導入によって形成される欠陥そのもののエネルギー準位から放出される電子に基づく発光のみにより蛍光スペクトルが形成されてしまうためである。
【0035】
広い発光帯を作る不純物準位からの発光を起こす電子と正孔は不純物との相互作用によりその空間的分離が大きくなり、発光寿命が長くなる。このためたとえ効率が高くてもディスプレイなど速い応答速度を要求される用途には不適である。
【0036】
しかしながら、上述したように量子ドットにおいてはこの電子正孔の空間的距離が量子ドット寸法で制限されるため、発光寿命が短くなり、応答速度が向上する。
可視光領域から逸脱した、380nm付近に大きなピークが形成されてしまうと、RGBによるカラー表示を実現する上で、光の損失が大きくなり、高効率な蛍光体を提供することができなくなる。
【0037】
これに対して、本発明を適用した蛍光体では、微粒子のサイズを1〜50nmまでに限定している。その結果、最大50nm程度で構成することにより、この電子と正孔との間で取り得る空間的距離に一定の制約がかかる。即ち、この電子と正孔との間で取り得る距離は、この微粒子のサイズや体積に依拠し、最大でもこの微粒子の最大径からなる50nmとなる。このため、電子と正孔の距離がこの粒径に応じて強制的に縮小されることになる。
【0038】
その結果、基底状態に移る際には、電子が正孔と再結合することとなるが、電子と正孔の距離が縮小されることにより、電子が正孔まで戻る速度を上げることが可能となる。このため、本発明を適用した蛍光体では、緩和時間を短縮化させることが可能となる。
【0039】
更に本発明を適用した蛍光体は、従来の蛍光体と比較して紫外域における吸収特性が特に優れている。図4は、横軸を光子エネルギー、縦軸を吸収係数αとした場合における本発明例と比較例との関係を示している。実線は、本発明を適用した蛍光体の吸収特性を、また点線は従来の蛍光体の吸収特性、並びに何ら添加元素を添加しないバルク酸化亜鉛結晶の吸収特性を示している。
【0040】
光子エネルギーにおける3.5eV周辺がほぼ360nmの波長域であり、紫外域に入るが、特に本発明例は、比較例や、バルク酸化亜鉛結晶と比較して、紫外域における吸収量が特に優れていることが分かる。
【0041】
実際に本発明例としての酸化亜鉛の蛍光体をエチレングリコールに0.015重量%となるように分散させたとき、250〜340nmの光を照射したときの吸光度が1.6cm−1以上であった。
【0042】
また、実際に本発明例としての酸化亜鉛の蛍光体をエチレングリコールに0.015重量%となるように分散させたとき、波長340nm以下の紫外線を照射したときの吸光度が、同一体積、即ち酸化亜鉛を分散させたエチレングリコールの試験体の体積と同一である酸化亜鉛のバルクと比較して1.3倍以上であった。
【0043】
このような吸光度を向上させるメカニズムとしては、高速な不純物への緩和の存在は励起子の状態密度と不純物準位の状態密度との縮退を引き起こし、見かけ上、励起子吸収を大きくする。このような不純物準位への高速な緩和も量子ドットのような微細な構造に不純物準位を導入することで得られる効果である。即ち、不純物と励起子が生成される空間的配置が近いことがその要因である。
【0044】
本発明では、このような1〜50nmの径で構成される酸化亜鉛の微粒子内に、アルミニウム、ガリウム、インジウム、リチウム、ナトリウムのうち少なくとも1種以上の添加物をドーピングする方法に関しても技術的特徴を有する。
【0045】
以下、1〜50nmの径で構成される酸化亜鉛の微粒子内に上述した元素からなる添加物をドーピングする方法について、図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0046】
図5は、本発明を適用した蛍光体を製造するための電気透析装置1を示している。
【0047】
この電気透析装置1は、陽極11と陰極12との間に複数の陽イオン交換膜14a、14bと複数の陰イオン交換膜15a、15bとを交互に配列させて濃縮室16と脱塩室17a、17bを形成したものである。また陽極11と陰イオン交換膜15aとの間には電極室18aが形成され、更に陰極12と陽イオン交換膜14bとの間には、電極室18bが形成される。
陽イオン交換膜としては、例えば株式会社アストム製 CMX−SBを、また、陰イオン交換膜としては、例えば株式会社アストム製 AHAを用いるようにしてもよい。
【0048】
即ち、この電気透析装置1は、陽極11から陰極12へ向けて電極室18a、脱塩室17a、濃縮室16、脱塩室17b、電極室18bが形成されることになる。ちなみに、各室16〜18は、それぞれ開口部40mm×60mmを有し、厚さ5mmのポリプロピレン製スペーサを介して隔てられ、当該開口部においてそれぞれ陽イオン交換膜14や陰イオン交換膜15が形成されていてもよい。このとき、陽極11、陰極12は、それぞれ40mm×60mmの白金電極とされていてもよい。
【0049】
電極室18a、電極室18bには、それぞれ電極液が供給される。この電極液は、例えば0.28mol/LのNaSO水溶液で構成してもよい。電解液に用いる電解質は、水に可溶であればよく、電気透析効率を増加させるためにイオン当量導電率が高いことが好ましく、更に電解によりハロゲンガスを発生しない硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩が好ましい。
これらの具体例としては、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等が挙げられる。
【0050】
また、脱塩室17aには、0.25mol/LのZnSO水溶液が供給される。ちなみに硫酸塩以外にもハロゲン化物、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、チオ硫酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩及び酢酸塩が挙げられる。中でも電解によりハロゲンガスを発生しない硫酸亜鉛、硝酸亜鉛が好ましく、これらの金属塩は単独又は混合して供給するようにしてもよい。また脱塩室17bには0.5mol/LのNaOH水溶液が供給されるが、その他アルカリ金属の水酸化物及び4級アンモニウムの水酸化物を供給してもよくその具体例としては、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、ヒドラジン等が挙げられる。更に濃縮室16には、溶媒としてイオン液体を含有する液体が供給される。イオン液体は、イオンのみから構成され、100℃以下で液体であると定義される、一連の化合物であり、例えば、特開2003−243028号公報、特開2003−257476号公報、特開2005−264209号公報や特表2001−517205号公報に記載されているものである。イオン液体の例としては、ジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウム・ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム・ビス(トリフルオロメタンスルフォニル)イミド又は塩化ジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウムが挙げられる。イオン液体を含有する液体は、合成室に生成する水酸化亜鉛に対し貧溶媒であり、且つ導電性であれば、イオン液体のみからなる液体及びイオン液体と他の溶媒を混合した液体の何れであってもよい。
【0051】
イオン液体の含有量は、5〜100質量%、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは20〜100質量%である。
【0052】
また、この脱塩室17aには、更に上述したアルミニウム、ガリウム、インジウム、リチウム、ナトリウムのうち少なくとも1種以上の添加物を混入させる。このとき、これら元素を何れも溶液化したものを脱塩室17aに供給することが望ましく、例えばAlCl溶液、GaNO溶液、InCl溶液、LiNO溶液、NaCl溶液を脱塩室17aに供給するようにしてもよい。
【0053】
電気透析処理時の濃縮室16内の温度は、通常5〜50℃であり、好ましくは20〜25℃としている。
【0054】
このような系で構成される電気透析装置1に対して、陽極11、陰極12に電界を印加すると、図5に示すように、脱塩室17a中のZn2+イオンと、SO2−イオンがそれぞれ移動する。即ち、Zn2+イオンは、陰極12側に向けて、またSO2−イオンは、陽極11側に向けて移動していくことになる。Zn2+イオンは、陽イオン交換膜14aを通過して濃縮室16へ流入することになるが、この濃縮室16における陰極12側に配置されている陰イオン交換膜15bを通過することができず、結局この濃縮室16内において蓄積されることになる。またSO2−イオンは、陰イオン交換膜15aを通過して電極室18aへと流入し、電極室18a内において蓄積される。
【0055】
また、このような系で構成される電気透析装置1に対して、陽極11、陰極12に電界を印加すると、図5に示すように、脱塩室17b中のNaイオンと、OHイオンがそれぞれ移動する。即ち、Naイオンは、陰極12側に向けて、またOHイオンは、陽極11側に向けて移動していくことになる。OHイオンは、陰イオン交換膜15bを通過して濃縮室16へ流入することになるが、この濃縮室16における陽極11側に配置されている陽イオン交換膜14aを通過することができず、結局この濃縮室16内において蓄積されることになる。またNaイオンは、陽イオン交換膜14bを通過して電極室18bへと流入し、電極室18b内において蓄積される。
濃縮室16内には、脱塩室17aから移動してきたZn2+イオンと、脱塩室17bから移動してきたOHイオンが反応してZn(OH)が生成され、これが自発的に酸化して酸化亜鉛(ZnO)が生成されることになる。実際には濃縮室16内に生成された白色沈殿をろ過によって回収し、これをエチルアルコールにより洗浄することにより、本発明を適用した酸化亜鉛からなる蛍光体を抽出する。
【0056】
ちなみに、上述した電気透析において、脱塩室17aに供給されたAlCl溶液、GaNO溶液、InCl溶液、LiNO溶液、NaCl溶液から、Al3+イオン、Ga2+イオン、Inイオン、Liイオン、Naイオンがそれぞれ遊離し、陽イオン交換膜14aを通過して濃縮室16へ流入することになる。この濃縮室16内において酸化亜鉛が生成される過程において、Al3+イオン、Ga2+イオン、Inイオン、Liイオン、Naイオンが不純物として酸化亜鉛の内部にドーピングされることになる。
【0057】
その結果、粒径が1〜50nmの微粒子の集合体として構成されている酸化亜鉛内に、アルミニウム、ガリウム、インジウム、リチウム、ナトリウムのうち少なくとも1種以上の添加物を添加することが可能となる。
【0058】
なお、上述した実施の形態においては、陽極11、陰極12間に負荷すべき電圧を5Vとし、印加時間を3時間としているが、これに限定される趣旨ではない。
【0059】
このようなプロセスの下で生成された酸化亜鉛は、粒径が1〜50nmの微粒子の集合体として構成される。このとき、この生成された酸化亜鉛は、平均粒径が1〜30nmで構成されていることが好ましく、また平均粒径が1〜10nmで構成されていると更に好ましい。
【0060】
なお、上述した実施の形態においては、蛍光体を構成する微粒子を粒径、或いは平均粒径で定義したが、これに限定されるものではなく、比表面積で定義するようにしてもよい。表1は、本発明を適用した蛍光体の比表面積(m/g)を測定した結果を示している。本発明例1は、合成反応時に印加する電圧を5Vとしたものであり、本発明例2は、合成反応時に印加する電圧を10Vとしたものであり、本発明例3は、合成反応時に印加する電圧を15Vとしたものである。
【表1】

【0061】
この比表面積は、単位重量当りの微粒子の表面積であり、この比表面積が大きくなるにつれて粒径が小さくなり、また比表面積が小さくなるにつれて粒径が大きくなる。通常、この比表面積が大きくなるにつれて表面欠陥が上昇し、エネルギーのロスが大きくなるため、発光効率が低下してしまうことになる。このため、本発明において酸化亜鉛を構成する微粒子は、上述した表1の結果に基づいて、比表面積が40〜110m/gであることを構成要件とするようにしてもよい。
【0062】
また、本発明を適用した蛍光体は、例えば図6に示すような発光装置2に応用してもよい。この発光装置2では、本発明を適用した蛍光体21に対して360nm以下の波長からなる電磁波を照射することによって、その発光を励起する。蛍光体21は、ガラス基板22上に形成され、そのガラス基板22の背後に、波長360nm以下の紫外光を発光する紫外光源23を設置している。紫外光源23は、放電管、又は固体紫外線発光素子等が用いられる。
【0063】
また、本発明を適用した蛍光体を含む蛍光塗料として用いるようにしてもよいし、本発明を適用した蛍光体を含む発光素子用色変換部材として用いるようにしてもよい。更に、本発明を適用した蛍光体を用いた無機EL素子として構成するようにしてもよい。
【0064】
また、本発明を適用した蛍光体を、エチレングリコールに分散させたセンサ体として構成するようにしてもよい。蛍光体をエチレングリコール中に分散させることにより、紫外線の吸収感度を向上させることができるため、紫外線の検出センサとしての有用性を発揮させることも可能となるためである。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】酸化亜鉛粒子の集合体として構成される蛍光体の蛍光特性を示す図である。
【図2】従来における酸化亜鉛製の蛍光体の発光寿命、並びに本発明を適用した蛍光体の発光寿命を示す図である。
【図3】大きな微粒子内に不純物をドープした場合の蛍光スペクトルを示す図である。
【図4】横軸を光子エネルギー、縦軸を吸収係数αとした場合における本発明例と比較例との関係を示す図である。
【図5】本発明を適用した蛍光体を製造するための電気透析装置を示す図である。
【図6】本発明を適用した蛍光体を発光装置に応用した例を示す図である。
【図7】Znの有機金属キレート錯体からなる粉末を焼成することにより得た酸化亜鉛の電子線励起による発光ピークを示す図である。
【符号の説明】
【0066】
1 電気透析装置
2 発光装置
11 陽極
12 陰極
14 陽イオン交換膜
15 陰イオン交換膜
16 濃縮室
17 脱塩室
18 電極室
21 蛍光体
22 ガラス基板
23 紫外光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム、ガリウム、インジウム、リチウム、ナトリウムのうち少なくとも1種以上の添加物を含む酸化亜鉛からなり、
上記酸化亜鉛は、平均粒径が1〜30nmの微粒子の集合体として構成されていること
を特徴とする蛍光体。
【請求項2】
上記酸化亜鉛は、平均粒径が1〜10nmの微粒子の集合体として構成されていること
を特徴とする請求項1記載の蛍光体。
【請求項3】
上記酸化亜鉛は、紫外線又はそれよりも短波長の電磁波、又は電子線によって励起した際に、その発光が400〜700nmの間で連続スペクトルとなること
を特徴とする請求項1又は2記載の蛍光体。
【請求項4】
上記酸化亜鉛は、紫外線又はそれよりも短波長の電磁波、又は電子線によって励起した際に、青紫色370〜450nm、緑色490〜570nm、赤色640〜770nmの領域に発光ピークを有すること
を特徴とする請求項3記載の蛍光体。
【請求項5】
上記酸化亜鉛は、紫外線又はそれよりも短波長の電磁波、又は電子線によって励起した際に、青紫色370〜400nm、緑色530〜570nm、赤色650〜670nmの領域に発光ピークを有すること
を特徴とする請求項4記載の蛍光体。
【請求項6】
上記酸化亜鉛は、紫外線又はそれよりも短波長の電磁波、又は電子線によって励起した際に、青紫色410〜450nm、緑色530〜550nmの領域に発光ピークを有すること
を特徴とする請求項4記載の蛍光体。
【請求項7】
上記酸化亜鉛を構成する微粒子は、比表面積が40〜110m/gであること
を特徴とする請求項1〜6のうち何れか1項に記載の蛍光体。
【請求項8】
上記酸化亜鉛は、エチレングリコールに0.015重量%となるように分散させたとき、250〜340nmの光を照射したときの吸光度が1.6cm−1以上であること
を特徴とする請求項1〜7のうち何れか1項に記載の蛍光体。
【請求項9】
上記酸化亜鉛は、エチレングリコールに0.015重量%となるように分散させたとき、波長340nm以下の紫外線を照射したときの吸光度が、同一体積の酸化亜鉛のバルクと比較して1.3倍以上であること
を特徴とする請求項1〜8のうち何れか1項に記載の蛍光体。
【請求項10】
請求項1〜9のうち何れかに記載の蛍光体を用いた発光装置において、360nm以下の波長からなる電磁波、又は電子線を照射することにより、その発光を励起すること
を特徴とする発光装置。
【請求項11】
請求項1〜9のうち何れかに記載の蛍光体を含むこと
を特徴とする蛍光塗料。
【請求項12】
請求項1〜9のうち何れかに記載の蛍光体を用いたこと
を特徴とする発光素子用色変換部材。
【請求項13】
請求項1〜9のうち何れかに記載の蛍光体を用いたこと
を特徴とする無機EL素子。
【請求項14】
請求項1〜9のうち何れかに記載の蛍光体を、エチレングリコールに分散させたこと
を特徴とするセンサ体。
【請求項15】
陽極と陰極との間に複数の陽イオン交換膜と複数の陰イオン交換膜とを交互に配列させて脱塩室と濃縮室を交互に形成した電気透析装置に対して、上記濃縮室に対して陽イオン交換膜を介して隔たれた一の脱塩室には硫酸亜鉛水溶液を、また上記濃縮室に対して陰イオン交換膜を介して隔たれた他の脱塩室には水酸化ナトリウム水溶液を導入し、
アルミニウム、ガリウム、インジウム、リチウム、ナトリウムのうち少なくとも1種以上の添加物を上記一の脱塩室内に導入し、
上記陽極と陰極に電圧を印加することにより、上記一の脱塩室から亜鉛イオンを、また上記他の脱塩室から水酸イオンを、それぞれ濃縮室へ移動させ、
上記濃縮室において生成された水酸化亜鉛に基づいて製造したこと
を特徴とする蛍光体。
【請求項16】
請求項1〜9のうち何れか1項記載の蛍光体の微粒子の製造方法において、
陽極と陰極との間に複数の陽イオン交換膜と複数の陰イオン交換膜とを交互に配列させて脱塩室と濃縮室を交互に形成した電気透析装置に対して、上記濃縮室に対して陽イオン交換膜を介して隔たれた一の脱塩室には硫酸亜鉛水溶液を、また上記濃縮室に対して陰イオン交換膜を介して隔たれた他の脱塩室には水酸化ナトリウム水溶液を導入し、
アルミニウム、ガリウム、インジウム、リチウム、ナトリウムのうち少なくとも1種以上の添加物を上記一の脱塩室内に導入し、
上記陽極と陰極に電圧を印加することにより、上記一の脱塩室から亜鉛イオンを、また上記他の脱塩室から水酸イオンを、それぞれ濃縮室へ移動させ、
上記濃縮室において生成される水酸化亜鉛に基づいて酸化亜鉛の微粒子を製造すること
を特徴とする蛍光体の微粒子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2009−209265(P2009−209265A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−53706(P2008−53706)
【出願日】平成20年3月4日(2008.3.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、ナノフォトニクスを核とした人材育成・産学連携等の総合的展開、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000004374)日清紡ホールディングス株式会社 (370)
【Fターム(参考)】