説明

蛍光性錯体を用いた有機エレクトロルミネッセンス素子および表示システム

【課題】発光が強く、耐久性が高い有機エレクトロルミネッセンス素子および表示システムの提供。
【解決手段】希土類原子と特定の配位子とからなる希土類錯体を含む有機エレクトロルミネッセンス素子および表示システム。ここで特定の配位子は複数の配位座が希土類原子に非対称に配位するために吸収スペクトルが長波長シフトしてエネルギー移動効率がよく、また溶解性およびアモルファス性が高いため、優れた特性を有する有機エレクトロルミネッセンス素子または表示システムが達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の蛍光錯体を用いた、寿命が長く、明るい有機エレクトロルミネッセンス素子に関するものである。また、本発明は、特定の錯体を用いた表示システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、エレクトロルミネッセンス素子の開発が盛んに進められている。発光材料としてリン光材料を用いた場合、素子の発光効率が飛躍的に向上することから、種々のリン光材料が開発され、エレクトロルミネッセンス素子に応用されている。中でも希土類錯体であるユーロピウム錯体は、発光スペクトルがシャープで色純度が高く、またこれを発光層のドーパントとして用いた場合、ホスト材料の種類に発光スペクトルが左右されないことから、大きな注目を集めており、例えば、特許文献1および2に報告されている。
【0003】
これらの特許文献に示されたユーロピウム錯体は、配位子としてβジケトンとフェナントロリンを有するものであるが、その発光強度、ドーパントとしての分散特性は本発明者らの知る限り改良の余地があった。また、βジケトンのみを配位子として有するユーロピウム錯体をエレクトロルミネッセンス素子に用いる例が報告されているが、この素子も十分な発光強度を実現するには改良の余地があった(特許文献2)。
【0004】
このようにエレクトロルミネッセンス素子として改良の余地があった原因は、用いられる蛍光性錯体の溶解性、およびアモルファス性が十分でなかったことであると考えられる。すなわち、これらの特性が低い場合、エレクトロルミネッセンス素子を構成する際に、より薄い薄膜を形成させようとしても、膜厚よりも大きな結晶が形成されてしまうために層構造が破壊されてしまうためである。
【0005】
一方、一般的なエレクトロルミネッセンス素子は各種の用途、特に、平面状で軽量な発光体が要求される用途への応用が検討されている。例えば、自動車のフロントガラスに有機エレクトロルミネッセンス素子を貼り付け、種々の表示を行う方法が提案されている。また、建物内に設置される非常灯などにもエレクトロルミネッセンス素子の適用が可能である。しかしながら、エレクトロルミネッセンス素子は特に大面積になると高価であり、また陰極の劣化があるため十分な寿命を実現することが困難である。また消費電力が大きく、発熱もあるため、その用途は限られる。さらには、上記のような用途に対しては、必ずしも動画表示が要求されないため、無駄が多い。
【0006】
このような用途では、エレクトロルミネッセンス素子とせず、蛍光膜を適当な物体に塗布し、それに光源からの光を照射するだけで十分な場合もある。しかし、従来の無機蛍光体を発光薄膜として用いた場合、光散乱によって視認性が変化するなどの問題が生じ、目的を達成することができないことが多い。また一般の有機蛍光体を用いた場合、透明性は実現できるが着色するため、やはり視認性が劣り、目的を十分に達成することができないことがある。これらの目的を達成するためには、膜形成物質に対する十分な溶解性、アモルファス性、透明性、および耐久性を有する蛍光性錯体が必要である。
【0007】
例えばクラウンエーテルを配位させた希土類錯体も知られている(特許文献1)。しかし、従来知られていたこのような錯体は、エーテル基を構成する酸素が配位基であるが、配位能が比較的低いために錯体としての安定性に改良の余地があり、また引用文献1に記載されたクラウンエーテルを配位子として有する錯体は、錯体を樹脂等に溶解させたときに近傍に存在するC−HまたはO−H結合に対する遮蔽効果にも改良の余地があった。
【特許文献1】特開平11−260563号公報
【特許文献2】特開平10−158639号公報
【非特許文献1】Journal of the Chemical Society, Abstract, 4685-7, 1956.
【非特許文献2】Journal of Organic Chemistry, 30(1), 101-5, 1965.
【非特許文献3】Tetrahedron 1991, V47(3) p403-10
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような問題点に鑑み、溶解度が高い蛍光性錯体を用いることで、優れた特性を示す有機エレクトロルミネッセンス素子および表示素子を実現することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による第1の有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも陽極、有機発光層、および陰極を構成要素として具備してなるものであって、当該有機発光層がドーパントとホスト材料とを含んでなり、前記ドーパントが下記式(1)または(2)で示される希土類錯体であり、かつ前記ホスト材料が、芳香族アミン誘導体、カルバゾール誘導体、、チオフェンオリゴマーおよびポリマー、ならびに亜鉛錯体からなる群から選択される少なくとも1種から構成されることを特徴とするものである。
【化1】

式中、R〜RおよびR11〜R13は、水素原子、重水素原子、置換または非置換の、炭素数が20以下の直鎖または分岐構造を有するアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換のフェニル基、置換または非置換のビフェニル基、置換または非置換のナフチル基、および置換または非置換のヘテロ環基からなる群から選ばれるものであり、pは2〜20の整数であるが、式(1)においてはR〜Rのすべてが、式(2)においてはR〜Rのすべてが、同一である場合を除く。
【0010】
本発明による第2の有機エレクトロルミネッセンス素子は、少なくとも陽極、有機発光層、および陰極を構成要素として具備してなるものであって、当該有機発光層がドーパントとホスト材料とを含んでなり、前記ドーパントが希土類原子と配位子とからなり、前記配位子の少なくとも一つが、下記式(3)で示される環状複座配位子である希土類錯体であり、かつ前記ホスト材料が、芳香族アミン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェンオリゴマーおよびポリマー、ならびに亜鉛錯体からなる群から選択される少なくとも1種から構成されることを特徴とするものである。
【化2】

式中、Xは、P、SおよびCからなる群から選ばれる原子であり、分子中のそれぞれのXは複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
Rは、結合するXがPである場合には、置換または非置換の、炭素数が20以下の直鎖または分岐構造を有するアルキル基およびアルコキシ基、置換または非置換のフェニル基、置換または非置換のビフェニル基、置換または非置換のナフチル基、ならびに置換または非置換のヘテロ環基からなる群から選ばれる置換基であり、C原子である場合には存在せず、S原子である場合には存在しないか、S原子と二重結合を介して結合する酸素であり、分子中のRは複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
Yは、水素、炭素数20以下のアルキル基またはアルコキシ基であり、分子中のそれぞれのYは同一であっても異なっていてもよく、また、Yは分子中の他のYとの間で酸素を含んでいてもよい炭素鎖により相互に結合して架橋環構造を形成していてもよく、
Zは、−O−、−NY−、−S−、および−Se−からなる群から選ばれる2価基であり、ここでYは置換または非置換の、炭素数が20以下の直鎖または分岐構造を有するアルキル基およびアルコキシ基、置換または非置換のフェニル基、置換または非置換のビフェニル基、置換または非置換のナフチル基、ならびに置換または非置換のヘテロ環基からなる群から選ばれる置換基であり、また、Yは分子中の他のYまたはYとの間で酸素を含んでいてもよい炭素鎖により相互に結合して架橋環構造を形成していてもよく、分子中のそれぞれのZは複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
m1およびm3はそれぞれ0を含む整数であり、
m1+m3は2〜12の整数であり、
m2はm1+m3以上の整数であり、
式中の−X(=O)R−、−CY−、および−Z−はランダムに配列され、互いに環状に結合されている。
【0011】
本発明による第1の表示システムは、下記式(1)または(2)で示される希土類錯体およびポリマーからなる透明蛍光膜と、前記透明蛍光膜に紫外光または近紫外光を照射することができる光源とを具備してなることを特徴とするものである。
【化3】

式中、R〜RおよびR11〜R13は、水素原子、重水素原子、置換または非置換の、炭素数が20以下の直鎖または分岐構造を有するアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換のフェニル基、置換または非置換のビフェニル基、置換または非置換のナフチル基、および置換または非置換のヘテロ環基からなる群から選ばれるものであり、pは2以上の整数であるが、式(1)においてはR〜Rのすべてが、式(2)においてはR〜Rのすべてが、同一である場合を除く。
【0012】
本発明による第2の表示システムは、希土類原子と配位子とからなり、前記配位子の少なくとも一つが、下記式(3)で示される環状複座配位子である希土類錯体およびポリマーからなる透明蛍光膜と、前記透明蛍光膜に紫外光または近紫外光を照射することができる光源とを具備してなることを特徴とするものである。
【化4】

式中、Xは、P、SおよびCからなる群から選ばれる原子であり、分子中のそれぞれのXは複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
Rは、結合するXがPである場合には、置換または非置換の、炭素数が20以下の直鎖または分岐構造を有するアルキル基およびアルコキシ基、置換または非置換のフェニル基、置換または非置換のビフェニル基、置換または非置換のナフチル基、ならびに置換または非置換のヘテロ環基からなる群から選ばれる置換基であり、C原子である場合には存在せず、S原子である場合には存在しないか、S原子と二重結合を介して結合する酸素であり、分子中のRは複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
Yは、水素、炭素数20以下のアルキル基またはアルコキシ基であり、分子中のそれぞれのYは同一であっても異なっていてもよく、また、Yは分子中の他のYとの間で酸素を含んでいてもよい炭素鎖により相互に結合して架橋環構造を形成していてもよく、
Zは、−O−、−NY−、−S−、および−Se−からなる群から選ばれる2価基であり、ここでYは置換または非置換の、炭素数が20以下の直鎖または分岐構造を有するアルキル基およびアルコキシ基、置換または非置換のフェニル基、置換または非置換のビフェニル基、置換または非置換のナフチル基、ならびに置換または非置換のヘテロ環基からなる群から選ばれる置換基であり、また、Yは分子中の他のYまたはYとの間で酸素を含んでいてもよい炭素鎖により相互に結合して架橋環構造を形成していてもよく、分子中のそれぞれのZは複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
m1およびm3はそれぞれ0を含む整数であり、
m1+m3は2〜12の整数であり、
m2はm1+m3以上の整数であり、
式中の−X(=O)R−、−CY−、および−Z−はランダムに配列され、互いに環状に結合されている。
【発明の効果】
【0013】
本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子および表示システムは、特定の蛍光性錯体を含んでなる。このような蛍光性錯体は、有機エレクトロルミネッセンス素子においてはホスト材料、表示素子においてはポリマー材料に対する溶解性または相容性が高く、またアモルファス性も高いために、蛍光性錯体を含む薄い薄膜を均一に形成することができる。この結果、有機エレクトロルミネッセンス素子中において蛍光性錯体の結晶化による層構造の欠陥がなくなり、強く発光強度と長い寿命が達成され、表示素子においては強い発光を示す透明な蛍光膜を多種多様な用途に応じて簡便に形成させることができ、種々の表示システムが実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
希土類錯体
本発明に蛍光性錯体として用いられる希土類錯体は、希土類原子と、それに配位する特定の配位子とを含んでなる。本発明に用いることのできる希土類錯体のひとつは、下記式(1)または(2)で示されるものである。
【化5】

式中、Lnは希土類原子であり、R〜RおよびR11〜R13は、水素原子、重水素原子、置換または非置換の、炭素数が20以下の直鎖または分岐構造を有するアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換のフェニル基、置換または非置換のビフェニル基、置換または非置換のナフチル基、および置換または非置換のヘテロ環基からなる群から選ばれるものであり、pは2以上の整数であるが、式(1)においてはR〜Rのすべてが、式(2)においてはR〜Rのすべてが、同一である場合を除く。
【0015】
ここで、Lnは希土類原子であり、用途に応じて発光強度や発光波長の適当なものを選択することができるが、ユーロピウムまたはテルビウムが好ましく、ユーロピウムが特に好ましい。
【0016】
また、(1)においてはR〜Rのすべてが、式(2)においてはR〜Rのすべてが、同一ではない必要がある。この条件によって錯体が非対称性となり、ポリマー材料またはホスト材料に対する溶解性またはアモルファス性が十分なものとなる。
【0017】
また、式(2)におけるpは2〜20の整数である。ここで、pは単一の希土類原子に配位させるために、7以下であることが好ましい。また、pが奇数の場合にはポリマー材料またはホスト材料に対する溶解性が向上する蛍光があるので、奇数であることが好ましい。。
【0018】
本発明に用いることのできる希土類錯体のもうひとつは、希土類原子と配位子とからなり、前記配位子の少なくとも一つが、下記式(3)で示される環状複座配位子である希土類錯体である。
【化6】

式中、Xは、P、SおよびCからなる群から選ばれる原子であり、分子中のそれぞれのXは複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
Rは、結合するXがPである場合には、置換または非置換の、炭素数が20以下の直鎖または分岐構造を有するアルキル基およびアルコキシ基、置換または非置換のフェニル基、置換または非置換のビフェニル基、置換または非置換のナフチル基、ならびに置換または非置換のヘテロ環基からなる群から選ばれる置換基であり、C原子である場合には存在せず、S原子である場合には存在しないか、S原子と二重結合を介して結合する酸素であり、分子中のRは複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
Yは、水素、炭素数20以下のアルキル基またはアルコキシ基であり、分子中のそれぞれのYは同一であっても異なっていてもよく、また、Yは分子中の他のYとの間で酸素を含んでいてもよい炭素鎖により相互に結合して架橋環構造を形成していてもよく、
Zは、−O−、−NY−、−S−、および−Se−からなる群から選ばれる2価基であり、ここでYは置換または非置換の、炭素数が20以下の直鎖または分岐構造を有するアルキル基およびアルコキシ基、置換または非置換のフェニル基、置換または非置換のビフェニル基、置換または非置換のナフチル基、ならびに置換または非置換のヘテロ環基からなる群から選ばれる置換基であり、また、Yは分子中の他のYまたはYとの間で酸素を含んでいてもよい炭素鎖により相互に結合して架橋環構造を形成していてもよく、分子中のそれぞれのZは複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
m1およびm3はそれぞれ0を含む整数であり、
m1+m3は2〜12の整数、好ましくは2〜8の整数であり、
m2はm1+m3以上の整数であり、
式中の−X(=O)R−、−CY−、および−Z−はランダムに配列され、互いに環状に結合されている。
【0019】
式(3)で示される環状複座配位子は、P=O、S=O、O=S=O、およびC=Oなどの、孤立電子対を有するO原子を有する原子団、ならびに孤立電子対を有するN原子、およびSe原子が、希土類原子に配位することにより、錯体を形成するものである。ここで、本発明において用いられる希土類錯体は、複数の配位基により形成される環が大きすぎないことが好ましい。このような観点から、下記式(3A)〜(3C)のいずれかの構造を有するものが好ましい。
【化7】

式中、XおよびRの定義は前記したとおりであり、n1〜n6はそれぞれ0以上の整数であり、好ましくは1〜3、好ましくは1である。
【0020】
これらの配位子は、希土類錯体の中心金属となる希土類原子の種類に応じて選択されるが、配位子の分子量は一般に2000以下、好ましくは1000以下である。従来、希土類錯体の配位子として、分子量が非常に大きいデンドリマーを用いることが知られており、そのようなデンドリマーなどを希土類錯体の配位子に用いることにより、中心希土類イオンの遮蔽効果を高めることもできる。しかし、デンドリマーの分子量は数千に達し、その巨大な構造のために有効な蛍光層を得ることができないことが多く、本発明のような効果を十分に達成できない。
【0021】
これらの環状複座配位子は、必要に応じて、相互に化学結合を介して結節されていてもよい。すなわち、環状複座配位子同士が分子鎖により連結された2量体や3量体、さらには重合体になっていてもよい。具体的には、上記一般式におけるRやYから延長されたアルキレン基、エーテル結合、またはエステル結合等を介して結合されていてもよい。
【0022】
式(3A)〜(3C)の環状複座配位子は、X=Oの酸素原子がルイス塩基性であるため、ルイス酸性である希土類イオンと配位結合を形成することができるものである。
【0023】
このような環状複座配位子が希土類原子に配位する場合、環が希土類原子を取り囲むような構造となる。このとき、希土類原子の中心と、複数の配位基により構成される面とが一致しないことが好ましい。環状複座配位子の配位基が4つ以上の場合、環状複座配位子の構造(コンフォーメンション)によって、すべての配位基が単一平面上に位置するとは限らないが、それぞれの配位基の位置の重心点から求められる配位子平面から、希土類原子が飛び出した構造が好ましい。言い換えれば、希土類原子の中心に対して、それぞれの配位子が対称の位置に存在しないことが好ましい。このような構造は、それぞれの配位子により画成される空間が小さい場合、言い換えると配位子が構成する環が小さい場合に生じやすい。このため、環状複座配位子の環は大きすぎないことが好ましい。
【0024】
本発明において用いられる希土類錯体は、このような構造を有することで、配位子場に非対称性が生じている。このため希土類錯体の吸収効率が増大し、結果的に発光効率が高いものになっている。
【0025】
この発光効率は、複数種類の配位子を組み合わせて希土類原子に配位させることでさらに増大する傾向にある。例えば、それぞれ前記した構造を有する環状複座配位子を2種類以上組み合わせたり、前記した構造を有する環状複座配位子と、それ以外の配位子を組み合わせることができる。前記した構造を有する環状複座配位子とは異なる配位子としては、従来知られている任意の配位化合物を用いることができるが、例えばホスフィンオキシド系化合物、カルボニル系化合物、ピリジン系化合物、スルホキシド系化合物、およびスルホン系化合物などが挙げられる。このような配位子の組み合わせにより、希土類錯体の樹脂等に対する溶解性または分散性が改良されたり、配位子場の非対称化により発光効率が増大する傾向にある。
【0026】
前記した環状複座配位子は任意の方法で調整することができる。例えば、ヘテロクラウンのリン原子(三価)を、ホスフィンの酸化に用いる手法にて酸化することによって得ることができる。酸化反応としては、例えば非特許文献1または2に記載の方法を用いることができる。また、非特許文献3に示されるような環化反応によっても得ることができる。
【0027】
本発明による希土類錯体は前記した配位子を希土類原子に配位させたものである。用いることができる希土類原子としては、任意のものを選ぶことができるが、発光効率や赤色の演色性の観点から特にユーロピウムであることが好ましい。本発明に用いられる希土類錯体は、このような希土類原子を含む塩、例えば塩化物、硝酸塩、水酸化物等を、前記した配位子と溶媒中で、必要に応じて加熱し、反応させることにより調製することができる。溶媒としては、一般に、水、アルコール類、エステル系溶媒などを用いる。
【0028】
環状複座配位子を含む希土類錯体は、環状複座配位子の効果により、ポリマー材料などに対する溶解性が非常に高く、本発明において顕著な効果を奏する要因となっている。
【0029】
これらの式(1)〜(3)で示される希土類錯体の溶解性は、表1に示される通りである。
【化8】

【表1】

これに対して、配位子が対称に配位する希土類錯体は非常に溶解性が低く、実質的に溶解しない。具体的には、上記のR1〜R4がすべてフェニル基である場合には、溶解度が0.01μmol/g以下である。
【0030】
有機エレクトロルミネッセンス素子
本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子は、上記の希土類錯体を、ドーパントとして含んでなり、かつホスト材料が、芳香族アミン誘導体、カルバゾール誘導体、ならびにチオフェンオリゴマーおよびポリマーからなる群から選択される少なくとも1種から構成されるものである。そして、式(3)の希土類錯体に対しては、さらに亜鉛錯体をホスト材料とすることもできる。
【0031】
本発明においてホスト材料として用いられる芳香族アミン誘導体は、用途に応じて任意に選択することができるが、下記式(4)で示されるものが好ましい。
【化9】

式中、Ar〜Arは、フェニル基、ビフェニル基、複素芳香族基からなる群から選択される置換基であり、Aは、置換又は非置換の、フェニレン基、ビフェニレン基、およびチオフェニレン基からなる群から選択される2価基である。
【0032】
ここで、式(4)において、Ar〜Arは、同一であっても異なっていてもよいが、ArとArとの組み合わせが、ArとArとの組み合わせと異なることが好ましい。これは、そのような芳香族アミン誘導体の構造が非対称であるとアモルファス性が大きくなり、結晶化しにくいためである。
【0033】
また、カルバゾール誘導体としては、下記式(5)で示されるポリマーが好ましい。
【化10】

式中、R21、およびR22は、直鎖又は分岐鎖の、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、およびニトロ基からなる群から選択される置換基であり、qは2以上の整数である。ここでqは任意に選択できるが、通常、カルバゾール誘導体の分子量が数千のものが好適に用いられる。
【0034】
さらに、チオフェンオリゴマーまたはポリマーとしては下記式(6)に示されるものが好ましい。
【化11】

式中、rは重合度を示す2以上の整数である。ここでrはより大きいものが好ましく、分子量が1,000以上になるように選択されるが、通常、分子量が100,000程度までのものが用いられる。
【0035】
ホスト材料がチオフェンオリゴマーまたはポリマーである場合、ホスト材料はさらにスルホン酸ポリマーを含むことが好ましい。特に下記式(7)のスルホン酸ポリマーが好ましいが、式(6)のチオフェンポリマーと式(7)のスルホン酸ポリマーとの混合物は、PEDOT−PSSとしてよく知られており、また安価であるので好ましい。
【化12】

式中、r0は重合度を示す2以上の整数である。ここでr
はより大きいものが好ましく、分子量が1,000以上になるように選択されるが、通常、分子量が100,000程度までのものが用いられる。
【0036】
さらに、希土類錯体が式(3)の環状複座配位子を有する場合には、ホスト材料として亜鉛錯体を用いることができる。このような亜鉛錯体はホスト材料として知られているものから任意に選択できるが、例えば下記式(10)のものが挙げられる。
【化13】

【0037】
本発明において用いられる希土類錯体は、その構造の非対称性、すなわち複数のホスフィンオキシドなどの配位座が非対称に配意することにより、紫外線領域(300〜380nm)の吸収スペクトルが近紫外(380〜405nm)、青紫色領域まで長波長シフトするため、この領域に発光スペクトルを有するホール輸送材料をホスト材料とした場合、エネルギー移動が効率良く進行し、その結果明るく長寿命である有機エレクトロルミネッセンス素子が得られる。
【0038】
さらに本発明のホスト材料とドーパントおエネルギー準位の関係は、ホスト材料のLUMO準位がドーパント材料のLUMO準位より低く、かつホスト材料のHOMO準位がドーパント材料のHOMO準位より低いことが効率的なエネルギー移動の観点からより望ましい。
【0039】
本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の構成は、例えば図1〜5に示すものである。即ち図1の有機エレクトロルミネッセンス素子は、ガラス基板1、ITOなどからなる陽極2、ホール輸送層3、発光層4、および陰極5から構成される。図2の有機エレクトロルミネッセンス素子は、ガラス基板1、陽極2、ホール輸送層3、発光層4、電子輸送層6、および陰極5から構成される。図3の有機エレクトロルミネッセンス素子は、ガラス基板1、陽極2、発光層4、ホールブロッキング層7、電子輸送層6、陰極5から構成される。図4の有機エレクトロルミネッセンス素子は、ガラス基板1、陽極2、発光層4、電子輸送層6、および陰極5から構成される。図5の有機エレクトロルミネッセンス素子は、ガラス基板1、陽極2、ホール注入層8、ホール輸送層3、発光層4、ホールブロッキング層9、電子輸送層6、電子注入層10、および陰極5から構成される。
【0040】
本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の陽極は、金、ヨウ化銅、酸化鈴、酸化インジウム鈴(ITO)を用いることができる。また、陰極材料としては、ナトリウム、リチウム、マグネシウム、カルシウム等の周期律表の1族や2族の金属、ガリウム、インジウム等の周期律表の3族の金属がある。ホール輸送材料としては、アリールアミン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェンオリゴマーまたはポリマー、銅フタロシアニンがある。このホール輸送層材料は、発光層のホスト材料とし、ここにドーパントとして希土類錯体を分散して発光層とすることができる。
【0041】
発光層は、本発明の希土類錯体の他、これらを前述のホール輸送材料のドーパントとすることができる。
【0042】
また発光層は、Alオキシン錯体としてのAlqの他、ペリレン系化合物、ナフタレン系化合物、クマリン系化合物、オキサジアゾール系化合物、アルダジン系化合物、ビスベンゾキサゾリン系化合物、ビススチリル系化合物、ピラジン系化合物、CPD系化合物、In オキシン錯体、Zn錯体、Feオキシン錯体、Gaイミン錯体を用いることができる。またホールボロッキング層に使用される材料は、イオン化ポテンシャルが大きく。ホール移動度の小さい材料である必要があり、トリアゾール化合物及びその誘導体がある。また電子輸送層材料としては、Alq3を含む金属キレート化合物、ベンズオキサドール、ベンゾチアゾール、トリス(8−ヒドロキシキノリノール)ビスマス、ペリレン系化合物等がある。
【0043】
表示システム
上記のような希土類錯体とポリマーとからなる透明蛍光膜を透明なガラス、プラスチックなどの透明な物体の表面、または内部等に、あるいは非透明な物体、例えば壁面や床などに設置し、その透明蛍光膜に紫外光または近紫外光を照射することができる励起光源を設置することにより、非励起時は無色透明で視認性がなく、励起時は強発光できる表示システムを構築することができる。
【0044】
ここで、本発明に用いられる希土類錯体は、前記したようにポリマー材料等に溶解性または分散性が高いものであるが、ポリマー材料として特定のものを用いることにより、さらにその効果を強く発現させることができる。用いるポリマーとしては、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものが好ましい。これらのポリマー材料を用いると、希土類錯体の溶解性が高いという効果の他に、さらに表示素子として用いたときにそしの耐久性なども改良される傾向にある。
【0045】
ポリマー材料としてフッ素系ポリマーを用いる場合には、下記式(8A)または(8B)で示されるものが好ましい。
【化14】

式中、Xはハロゲン原子、好ましくはフッ素または塩素であり、Ra1〜Ra3はそれぞれ独立に アルキル基であり、x1〜x3およびy1〜y6はそれぞれ重合度を表す数であって、x1+x2+x3およびy1+y2+y3+y4+y5+y6はそれぞれ0では無く、各繰り返し単位はランダムに配列していてもよい。
【0046】
また、ポリマー材料としてシリコン系ポリマーを用いる場合には、下記式(9A)〜(9C)で示されるものが好ましい。
【化15】

式中、zは1以上の整数である。
【0047】
本発明における表示システムは、前記の希土類錯体とポリマーとの組み合わせである蛍光体または発光体を含むものであり、その蛍光体を各種の用途に応じて設置し、励起光源からの光により発光させて、各種の表示をするものである。
【0048】
例えば、本発明による一実施態様として、乗用車のフロントガラスに各色の希土類錯体またはこれらの混合物をポリマーに溶解してなる透明蛍光体薄膜を形成し、それと乖離した場所に励起光源であるLED素子を設置することにより、図6に示すような速度表示システムを実現することができる。図6(a)は表示素子による表示状態の一例を示し、図6(b)は表示システムを含む自動車の断面図である。自動車のフロントガラス63には、透明蛍光体薄膜64が設置されており、これは自動車の速度を検出する速度計(図示せず)から出力される情報により、励起光源62の発光が変化する。その発光変化は図6(a)に例示されるようなものであり、速度変化がフロントガラス上に表示される。透明蛍光体薄膜64が非発光時には、無色透明であるため、薄膜の存在感は認知されることがなく、励起時には、透明性を保ちシースルーの状態で強発光することが可能であることから、視界を遮ることがなく、かつ運転者は下を向く必要がなく視認性に優れた速度計を見ることができる。そのため、スピードの出しすぎによる事故を防止することができる。
【0049】
さらには、図7に示すように、高速領域ほど発光パターンを大きくしたり、高速領域では警戒色である赤色などで鮮明に発光するシステムとすることにより、より速度超過の防止効果が高まる。運転者に警告する意味においては、高速領域では点滅させることが望ましい。
【0050】
図6および7に例示した表示システムは、絶対速度を表示するのみならず、制限速度等の道路情報をチャッチし、その指定される運転条件からの逸脱を表示するものとすることもできる。
【0051】
また本発明は、自動車のナビゲーションシステムに応用することができる。現在のカーナビゲーションシステムは、停車時にその画面で位置や方向を確認する必要があり改良の余地がある。しかし、本発明による表示システムを活用し、ナビゲーションシステムから出力される情報をフロントガラスに設置された蛍光体により表示するようにしたカーナビシステムを覚醒すれば、外の景色と方向指示が一体となるため、視点を移す必要がなくしかも分かり易い。すなわち、本発明による表示素子に、GPSなどを含むナビゲーションシステムを組み合わせ、その情報を自動車のフロントガラスに設置された、図8に示すような蛍光体により表示させる。図8は、車の進行すべき方向を矢印により表示する場合の表示の例である。予め入力した目的地に達する経路の選択がナビゲーションシステムによりなされ、例えば左折する場合、図8(b)のように表示される。さらに図8(c)および(d)のように、その距離に応じて発光色を変化させることにより、運転者の理解を一層高める効果を有する。なお、このような場合、蛍光体は透明物体の表面に設置するほか、内部に設置することも可能であり、例えば2枚のガラスを蛍光体をはさんで貼り合わせることもできる。また、蛍光体をガラス表面に設置し、蛍光体の耐久性を改良するために保護層を表面に設けることもできる。
【0052】
さらに、図9に示すように、自動車の窓や車体に蛍光体を設置し、必要に応じて運転者が周りの運転者に対して特定のメッセージを送るシステムとすることができる。例えば市街電車が走る市内で、その優先関係に不慣れな場合、一時的に車体の一部にそのメッセージの表示が可能である。
【0053】
また、本発明による表示システムの一実施態様は、図10に示すように、例えば高齢者の住宅100の窓や外壁に緊急事態を告知する蛍光体101を設置し、非常事態が発生した場合、自動または手動で光源102からの励起光により蛍光体が外部に対して光でメッセージを送り、救援を求めるシステムとすることができる。
【0054】
また、本発明による表示システムの一実施態様は、図11に示すように、日常は視認性がなく、火災などの非常時に発光する蛍光体111および励起光源112を床面110、壁面、ドアなどに設置しておくものである。すなわち、火災などの非常時には制御回路113からの情報により、その退避経路を示す表示システムとなる。このとき、制御回路113に情報を入力するために、煙感知器、熱感知器、スプリンクラーなどの火災検知器の作動状況から出火元や火災状況などを特定し、安全な退避経路を選択する避難経路選択システム114を組み合わせ、最適な避難経路を発光表示させることがより望ましい。
【0055】
また、本発明による表示システムの一実施態様は、図12に示すように、通路などにおかれた障害物120の辺縁部に蛍光体121を設置したり、あるいは間口の低い通路の辺縁部に蛍光体122を設置しておき、制御回路を含む人感センサー123で人の障害物への接近を検知した場合に、光源123が蛍光体に光を照射し、障害物の辺縁部を発光させることにより注意を促すものである。
【0056】
さらに図13(a)の断面図に示すように、禁煙室の壁面130に煙感知器131と該透明蛍光薄膜からなる禁煙メッセージを表示する蛍光体(表示板)132と、励起光源133を設置することにより、喫煙するとその煙が煙感知器により検知され、禁煙マークが壁から明滅する(図13(b))表示システムが可能となる。禁煙場所での喫煙の抑止効果が期待できる。
【0057】
本発明による表示システムは、非発光時には無色透明で視認性がなく、発光時には鮮明に強発光することができる表示システムであり、乗り物や住宅の透明部分(ガラス窓)、廊下や物などの部分に透明蛍光薄膜を設置し、必要な時に必要な光のメッセージを送ることにより、従来実現困難であった安全、利便性を実現することが可能となる。
【0058】
本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子を例を用いて説明すると以下の通りである。
実施例1
ガラス基板上にITOがスパッタリング等により積層されて陽極が形成され、その上に式(E1)および(E2)の化合物をモル比1:20とし、厚さ50nmとなるように真空蒸着した。この上に陰極としてマグネシウムを50nmの厚さに蒸着し、有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【化16】

【0059】
12Vの電圧を電極間に印加することにより、150cd/mの輝度が得られ、かつ連続点灯試験において輝度が半減するのに要する時間は30000hと良好であった。
【0060】
実施例2
式(E3)に示すドーパントを用いる他は実施例1と全く同様の構成の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【化17】

【0061】
12Vの電圧を電極間に印加することにより、200cd/mの輝度が得られ、かつ連続点灯試験において輝度が半減するのに要する時間は50000hと良好であった。
実施例3
【0062】
ホスト材料として式(5)に示される化合物を用いる他は実施例2と全く同様の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
12Vの電圧を電極間に印加することにより、180cd/mの輝度が得られ、かつ連続点灯試験において輝度が半減するのに要する時間は40000hと良好であった。
実施例4
【0063】
ホスト材料として式(5)に示す化合物を用いる他は実施例1と全く同様の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
12Vの電圧を電極間に印加することにより、170cd/mの輝度が得られ、かつ連続点灯試験において輝度が半減するのに要する時間は30000hと良好であった。
【0064】
実施例5
ホスト材料として式(E4)に示す化合物を用いる他は実施例1と全く同様の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
【化18】

【0065】
12Vの電圧を電極間に印加することにより、220cd/mの輝度が得られ、かつ連続点灯試験において輝度が半減するのに要する時間は60000hと良好であった。
【0066】
実施例6
下記式(E5)に示すユーロピウム錯体を本文中に示す方法で合成した。
さらにガラス基板の上にITOを200nmスパッタリングによって積層し、当該ガラス基板をアセトン及び2−プロパノールを用いて順次洗浄した。その後、真空蒸着法を用いて蛍光層として、発光物質としての(E6)と、ドーパントとしての(E5)を蒸着速度比5:1で50nmの厚さに積層した。さらにその上に、ホールブロッキング層として(E7)に示すトリアゾール化合物を15nmの厚さに積層し、さらに順次電子輸送層として30nmの厚さのAlq、陰極として厚さ150nmのマグネシウムを積層し、図1に示す有機エレクトロルミネッセンス素子を作成した。当該有機エレクトロルミネッセンス素子に12Vの電圧を印加した場合の輝度は150cd/mを越えた。次に15Vの電圧を加えた状態で輝度半減に要する時間は60000hであった。
【化19】

【0067】
実施例7
ホスト材料として(E4)を用いる他は実施例1と全く同様の有機エレクトロルミネッセンス素子を作成した。
当該有機エレクトロルミネッセンス素子に12Vの電圧を印加した場合の輝度は160cd/mを越えた。次に15Vの電圧を加えた状態で輝度半減に要する時間は40000hであった。
【0068】
実施例8
実施例6のITO付きガラス基板上に、ポリビニルカルバゾール(5)の1wt%ベンゼン溶液をスピンコートで成膜した。この上部に、ユーロピウム錯体(E5)(10mg/1ml)とポリビニルカルバゾール(5)(10mg/1ml)をベンゼンに溶解した溶液を同様にスピンコートし、十分に乾燥した。次に電子輸送層として、式(E8)に示す化合物を60nm、陰極としてAl−Liを200nm真空蒸着法によって蒸着させ、図1に示す有機エレクトロルミネッセンス素子を試作した。
当該有機エレクトロルミネッセンス素子に12Vの電圧を印加した場合の輝度は160cd/mを越えた。次に15Vの電圧を加えた状態で輝度半減に要する時間は35000hであった。
【化20】

【0069】
実施例9
実施例6のITO付きガラス基板上に、スピンコート法にて式(6)のチオフェンポリマーと式(7)のスルホン酸ポリマーとの混合物であるPEDOT−PSSの膜を成膜した他は実施例6と全く同様の有機エレクトロルミネッセンス素子を試作した。
当該有機エレクトロルミネッセンス素子に12Vの電圧を印加した場合の輝度は180cd/mを越えた。次に15Vの電圧を加えた状態で輝度半減に要する時間は30000hであった。
【0070】
実施例10
発光物質として式(10)の亜鉛錯体を用いる他は実施例1と全く同様の有機エレクトロルミネッセンス素子を作成した。
当該有機エレクトロルミネッセンス素子に12Vの電圧を印加した場合の輝度は200cd/mを越えた。次に15Vの電圧を加えた状態で輝度半減に要する時間は25000hであった。
【0071】
比較例1
ユーロピウム錯体として式(E9)に示す化合物を用いる他は実施例1と全く同様の有機エレクトロルミネッセンス素子を作製した。
12Vの電圧を電極間に印加することにより、100cd/mの輝度が得られ、かつ連続点灯試験において輝度が半減するのに要する時間は4000hと不十分であった。
【化21】

【0072】
実施例11
ガラス基板の上にITOを200nmスパッタリングによって積層し、当該ガラス基板をアセトン及び2−プロパノールを用いて順次洗浄した。その後、真空蒸着法を用いて(E10)を60nm堆積し、その上に蛍光層として(E5)(発光層)を60nmの厚さに積層し、さらにAl−Li を2000A積層した(図2)。当該有機エレクトロルミネッセンス素子に12Vの電圧を印加した場合の輝度は130cd/mを越えた。次に15Vの電圧を加えた状態で輝度半減に要する時間は30000hであった。
【化22】

【0073】
実施例12
図4に示す有機エレクトロルミネッセンス素子を試作した。陰極としてはAl、電子注入層としてLiO、電子輸送層としてAlq、ホールブロッキング層として式(E13)の化合物、(E11)の化合物と(E5)の化合物をレッドの発光層として、(E11)の化合物と(E12)の化合物をグリーン発光層として、(E11)の化合物と(E14)の化合物をブルー発光層として、それぞれの共蒸着膜として形成させ、ホール輸送層として(E2)、ホール注入層として銅フタロシアニン、陽極としてITOを用いた。当該有機エレクトロルミネッセンス素子に12Vの電圧を印加した場合の初期輝度は150cd/m以上であり、次に15Vの電圧を加えた状態で輝度半減に要する時間は30000hであった
【化23】

【0074】
本発明による表示システムについて例を用いて説明すると以下の通りである。
実施例13
赤色蛍光体として式(E1)に示すユーロピウム錯体、式(E15)に示すテルビウム錯体を合成した。
【化24】

【0075】
これらの錯体を下記の割合で式(8B)に示すポリマーとともにキシレンに溶解し、インクを作成した。
赤色発光透明蛍光薄膜・・・(E1)2 wt%
橙色発光透明蛍光薄膜・・・(E1)2 wt%、(E15)8wt%
黄色発光透明蛍光薄膜・・・(E1)2 wt%、(E15)16wt%
薄緑色発光透明蛍光薄膜・・・(E1)2 wt%、(E15)32wt%
緑色発光透明蛍光薄膜・・・(E15)8wt%
これらのインクをガラス基板上にパターン印刷し、それぞれにUV−LEDの光を照射すると、所望の色の非常に強い発光が得られた。1000h経過後も明るさの変化は観測されなかった。
【0076】
実施例14
赤色蛍光体として式(E3)に示すユーロピウム錯体、式(E16)に示すテルビウム錯体を用いる他は、実施例13と全く同様に透明蛍光薄膜を作成し、それぞれの色の非常に強い発光を確認した。1000h経過後も明るさの低下は観測されなかった。
【化25】

【0077】
実施例15
赤色蛍光体として式(E5)に示すユーロピウム錯体、式(E16)に示すテルビウム錯体を用いる他は、実施例14と全く同様に透明蛍光薄膜を作成し、それぞれの色の色の非常に強い発光を確認した。1000h経過後も明るさの低下は観測されなかった。
【0078】
実施例16
ポリマーとして式(8A)に示されるものを用い、かつ溶媒として酢酸エチルを用いる他は実施例13と全く同様に透明蛍光薄膜を作成し、それぞれの色の非常に強い発光を確認した。1000h経過後も明るさの低下は観測されなかった。1000h経過後も明るさの低下は観測されなかった。
【0079】
実施例17
ポリマーとして式(9A)(9B)(9C)の重合体を用い、実施例13と同様の濃度で各蛍光体をこの溶液に溶解して印刷、重合することにより、各色の透明蛍光薄膜を作成し、各色の発光を確認した。それぞれの色の発光は非常に強いものであった。1000h経過後も明るさの低下は観測されなかった。
【0080】
実施例18
実施例13の透明蛍光薄膜上に、3フッ化クロロエチレン樹脂薄膜をコーティングし、温度85℃、湿度85%の条件(加速劣化試験)に300h晒したところ、初期の光束に対する試験後の光束は約95%であり、十分な耐久性を有することが分かった。さらに1000h経過後も明るさの低下は観測されなかった。
【0081】
比較例2
ユーロピウム錯体として式(E9)に示す化合物を用いる他は実施例13と全く同様のインクを調製し、評価したが、実施例13と比較して発光強度が十分でなく、また明るさの低下も著しかった。
【図面の簡単な説明】
【0082】
【図1】本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の一実施態様の断面図。
【図2】本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の一実施態様の断面図。
【図3】本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の一実施態様の断面図。
【図4】本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の一実施態様の断面図。
【図5】本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子の一実施態様の断面図。
【図6】本発明による表示システムの一実施態様を示す模式図。
【図7】本発明による表示システムの一実施態様を示す模式図。
【図8】本発明による表示システムの一実施態様を示す模式図。
【図9】本発明による表示システムの一実施態様を示す模式図。
【図10】本発明による表示システムの一実施態様を示す模式図。
【図11】本発明による表示システムの一実施態様を示す模式図。
【図12】本発明による表示システムの一実施態様を示す模式図。
【図13】本発明による表示システムの一実施態様を示す模式図。
【符号の説明】
【0083】
1 ガラス基板
2 陽極
3 ホール輸送層
4 発光層
5 陰極
6 電子輸送層
7 ホールブロッキング層
8 ホール注入層
9 ホールブロッキング層
10 電子注入層
61 透明蛍光体薄膜
62 励起光源
63 フロントガラス
64 ハンドル
100 住宅
101 蛍光体
102 光源
110 床面
111 蛍光体
112 励起光源
113 制御回路
114 避難経路選択システム
120 障害物
121、122 蛍光体
123、124 人感センサー
125、126 光源
130 壁面
131 煙感知器
132 蛍光体
133 励起光源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも陽極、有機発光層、および陰極を構成要素として具備してなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、当該有機発光層がドーパントとホスト材料とを含んでなり、前記ドーパントが下記式(1)または(2)で示される希土類錯体であり、かつ前記ホスト材料が芳香族アミン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェンオリゴマーおよびポリマー、ならびに亜鉛錯体からなる群から選択される少なくとも1種から構成されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化1】

式中、Lnは希土類原子であり、R〜RおよびR11〜R13は、水素原子、重水素原子、置換または非置換の、炭素数が20以下の直鎖または分岐構造を有するアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換のフェニル基、置換または非置換のビフェニル基、置換または非置換のナフチル基、および置換または非置換のヘテロ環基からなる群から選ばれるものであり、pは2〜20の整数であるが、式(1)においてはR〜Rのすべてが、式(2)においてはR〜Rのすべてが、同一である場合を除く。
【請求項2】
式(2)中のpが奇数である、請求項1に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項3】
少なくとも陽極、有機発光層、および陰極を構成要素として具備してなる有機エレクトロルミネッセンス素子であって、当該有機発光層がドーパントとホスト材料とを含んでなり、前記ドーパントが希土類原子と配位子とからなり、前記配位子の少なくとも一つが、下記式(3)で示される環状複座配位子である希土類錯体であり、かつ前記ホスト材料が、芳香族アミン誘導体、カルバゾール誘導体、チオフェンオリゴマーおよびポリマー、ならびに亜鉛錯体からなる群から選択される少なくとも1種から構成されることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化2】

式中、Xは、P、SおよびCからなる群から選ばれる原子であり、分子中のそれぞれのXは複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
Rは、結合するXがPである場合には、置換または非置換の、炭素数が20以下の直鎖または分岐構造を有するアルキル基およびアルコキシ基、置換または非置換のフェニル基、置換または非置換のビフェニル基、置換または非置換のナフチル基、ならびに置換または非置換のヘテロ環基からなる群から選ばれる置換基であり、C原子である場合には存在せず、S原子である場合には存在しないか、S原子と二重結合を介して結合する酸素であり、分子中のRは複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
Yは、水素、炭素数20以下のアルキル基またはアルコキシ基であり、分子中のそれぞれのYは同一であっても異なっていてもよく、また、Yは分子中の他のYとの間で酸素を含んでいてもよい炭素鎖により相互に結合して架橋環構造を形成していてもよく、
Zは、−O−、−NY−、−S−、および−Se−からなる群から選ばれる2価基であり、ここでYは置換または非置換の、炭素数が20以下の直鎖または分岐構造を有するアルキル基およびアルコキシ基、置換または非置換のフェニル基、置換または非置換のビフェニル基、置換または非置換のナフチル基、ならびに置換または非置換のヘテロ環基からなる群から選ばれる置換基であり、また、Yは分子中の他のYまたはYとの間で酸素を含んでいてもよい炭素鎖により相互に結合して架橋環構造を形成していてもよく、分子中のそれぞれのZは複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
m1およびm3はそれぞれ0を含む整数であり、
m1+m3は2〜12の整数であり、
m2はm1+m3以上の整数であり、
式中の−X(=O)R−、−CY−、および−Z−はランダムに配列され、互いに環状に結合されている。
【請求項4】
前記環状複座配位子が、下記式(3A)〜(3C)のいずれかの構造を有する、請求項3に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化3】

式中、XおよびRの定義は前記したとおりであり、n1〜n6はそれぞれ0以上の整数である。
【請求項5】
前記希土類原子がユーロピウムである、請求項1〜4のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項6】
前記芳香族アミン誘導体が、下記式(4)で示されるものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載のエレクトロルミネッセンス素子。
【化4】

式中、Ar〜Arは、フェニル基、ビフェニル基、複素芳香族基からなる群から選択される置換基であり、Aは、置換又は非置換の、フェニレン基、ビフェニレン基、およびチオフェニレン基からなる群から選択される2価基である。
【請求項7】
式(4)中において、ArとArとの組み合わせが、ArとArとの組み合わせと異なる、請求項6に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【請求項8】
前記カルバゾール誘導体が、下記式(5)で示されるポリマーである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化5】

式中、R21、およびR22は、直鎖又は分岐鎖の、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、およびニトロ基からなる群から選択される置換基であり、qは2以上の整数である。
【請求項9】
前記チオフェンオリゴマーまたはポリマーが、下記式(6)に示される構造を有するものである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化6】

式中、rは重合度を示す2以上の整数である。
【請求項10】
ホスト材料が、さらに下記式(7)で示されるスルホン酸ポリマーを含む、請求項10に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子。
【化7】

式中、r0は重合度を示す2以上の整数である。
【請求項11】
下記式(1)または(2)で示される希土類錯体およびポリマーからなる透明蛍光膜と、前記透明蛍光膜に紫外光または近紫外光を照射することができる光源とを具備してなることを特徴とする表示システム。
【化8】

式中、Lnは希土類原子であり、R〜RおよびR11〜R13は、水素原子、重水素原子、置換または非置換の、炭素数が20以下の直鎖または分岐構造を有するアルキル基またはアルコキシ基、置換または非置換のフェニル基、置換または非置換のビフェニル基、置換または非置換のナフチル基、および置換または非置換のヘテロ環基からなる群から選ばれるものであり、pは2〜20の整数であるが、式(1)においてはR〜Rのすべてが、式(2)においてはR〜Rのすべてが、同一である場合を除く。
【請求項12】
式(2)中のpが奇数である、請求項12に記載の表示システム。
【請求項13】
希土類原子と配位子とからなり、前記配位子の少なくとも一つが、下記式(3)で示される環状複座配位子である希土類錯体およびポリマーからなる透明蛍光膜と、それと前記透明蛍光膜に紫外光または近紫外光を照射することができる光源とを具備してなることを特徴とする表示システム。
【化9】

式中、Xは、P、SおよびCからなる群から選ばれる原子であり、分子中のそれぞれのXは複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
Rは、結合するXがPである場合には、置換または非置換の、炭素数が20以下の直鎖または分岐構造を有するアルキル基およびアルコキシ基、置換または非置換のフェニル基、置換または非置換のビフェニル基、置換または非置換のナフチル基、ならびに置換または非置換のヘテロ環基からなる群から選ばれる置換基であり、C原子である場合には存在せず、S原子である場合には存在しないか、S原子と二重結合を介して結合する酸素であり、分子中のRは複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
Yは、水素、炭素数20以下のアルキル基またはアルコキシ基であり、分子中のそれぞれのYは同一であっても異なっていてもよく、また、Yは分子中の他のYとの間で酸素を含んでいてもよい炭素鎖により相互に結合して架橋環構造を形成していてもよく、
Zは、−O−、−NY−、−S−、および−Se−からなる群から選ばれる2価基であり、ここでYは置換または非置換の、炭素数が20以下の直鎖または分岐構造を有するアルキル基およびアルコキシ基、置換または非置換のフェニル基、置換または非置換のビフェニル基、置換または非置換のナフチル基、ならびに置換または非置換のヘテロ環基からなる群から選ばれる置換基であり、また、Yは分子中の他のYまたはYとの間で酸素を含んでいてもよい炭素鎖により相互に結合して架橋環構造を形成していてもよく、分子中のそれぞれのZは複数存在する場合にはそれぞれ同一であっても異なっていてもよく、
m1およびm3はそれぞれ0を含む整数であり、
m1+m3は2〜12の整数であり、
m2はm1+m3以上の整数であり、
式中の−X(=O)R−、−CY−、および−Z−はランダムに配列され、互いに環状に結合されている。
【請求項14】
前記環状複座配位子が、以下の式(3A)〜(3C)のいずれかの構造を有する、請求項13に記載の表示システム。
【化10】

式中、XおよびRの定義は前記したとおりであり、n1〜n6はそれぞれ0以上の整数である。
【請求項15】
前記希土類原子がユーロピウムである、請求項11〜14のいずれか1項に記載の表示システム。
【請求項16】
前記ポリマーが、フッ素系ポリマー、シリコン系ポリマー、およびそれらの混合物からなる群から選択されるものである、請求項11〜15のいずれか1項に記載の表示システム。
【請求項17】
前記ポリマーが下記式(8A)または(8B)で示されるフッ素系ポリマーである、請求項16に記載の表示システム。
【化11】

式中、Xはハロゲン原子であり、Ra1〜Ra3はそれぞれ独立にアルキル基であり、x1〜x3およびy1〜y6はそれぞれ重合度を表す数であって、x1+x2+x3およびy1+y2+y3+y4+y5+y6はそれぞれ0では無く、各繰り返し単位はランダムに配列していてもよい。
【請求項18】
前記ポリマーが下記式(9A)〜(9C)で示されるシリコン系ポリマーである、請求項16に記載の表示システム。
【化12】

式中、zは1以上の整数である。
【請求項19】
前記透明蛍光膜の表面が、防湿性を有する層に被覆されている、請求項11〜18のいずれか1項に記載の表示システム。
【請求項20】
前記光源の光強度、照射範囲、波長の少なくとも1つを経時で変化させ、それにより透明蛍光膜の発光パターン、発光色、発光強度の少なくとも1つを経時で変化させる制御回路をさらに具備してなる、請求項11〜19のいずれか1項に記載の表示システム。
【請求項21】
自動車の速度を測定する速度計をさらに具備してなる、請求項11〜20のいずれか1項に記載の表示システムであって、前記光源が速度計により測定された速度に応じて光照射される部位を変化させるものであり、かつ前記透明蛍光膜が前記自動車のフロントガラス上に設置されており、前記自動車の速度に応じて前記透明蛍光膜により表示される情報の変化により自動車の速度を表示する表示システム。
【請求項22】
建物内に設置された火災検知器をさらに具備してなる、請求項12〜22のいずれか1項に記載の表示システムであって、前記火災検知器により得られた情報を元に、安全な避難経路を前記透明蛍光膜により建物内に表示する表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2008−159604(P2008−159604A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−343072(P2006−343072)
【出願日】平成18年12月20日(2006.12.20)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】