説明

螺旋状高分子

【課題】有機溶剤を用いてデバイス作製可能なトランジスタに応用可能な螺旋状高分子を提供する。
【解決手段】重合部位と側鎖に非共役部位と共役部位を有し、前記非共役部位が前記重合部位と前記共役部位に挟まれた構造を少なくとも一部に含む螺旋状高分子。さらに、非共役部位がアルキル鎖103であり、共役部位が芳香環であり、重合部位がアセチレン骨格であり、側鎖に非共役部位を有している有機分子が重合した構造からなるブロックを少なくとも一部に含む又は側鎖に共役部位を有している有機分子が重合した構造からなるブロックを少なくとも一部に含む螺旋状高分子である。本螺旋状高分子の共重合部位又は重合部位の少なくともいずれかが、電極と接するように配置されていることを特徴とするデバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な螺旋状高分子に関する。特に、トランジスタに応用可能な螺旋状高分子に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、電子回路の微細化が進む中で直径がナノメートルオーダーのナノワイヤが注目されている。ナノワイヤは非常に微細な繊維形状をしているため、集積性や導電の異方性が高く、一次元的な伝導を示すなどの特徴がある。
【0003】
このようなナノワイヤを電界効果トランジスタへの応用が検討されている(特許文献1)。特許文献1には、シリコンナノワイヤにおいて、絶縁被覆層を備えた導電性コア部の更に外側に導電被覆層を付与した構造が報告されている。
【0004】
一方、シリコンナノワイヤのような無機材料ではなく、有機材料を用いることも検討されている。有機材料で作製されたデバイスは、シリコン等の無機材料で作製されたデバイスよりも柔軟性が高く、デバイス自体を曲げることができるメリットがある。
【特許文献1】米国特許7051945号公報
【特許文献2】特開2005−11901号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
有機材料では、低分子有機化合物を用いてトランジスタを作製することが知られている(特許文献2)。特許文献2は、低分子有機化合物に金属を配位させて作成した有機金属ナノワイヤについて開示がある。具体的には、側鎖に非共役系のデンドリマーをつけて、デンドリマー側鎖の末端に金属イオンを修飾することで有機金属ナノワイヤに絶縁被覆層と導電性被覆層を付与した系を実現している。
【0006】
しかし、先行例の有機金属ナノワイヤは、有機溶剤中に溶解するとナノワイヤ形状を保てないため、溶液を用いたデバイス作製ができない。
【0007】
つまり、有機溶剤中でもワイヤ形状を維持でき、トランジスタに用いることができる新規有機材料が求めたれていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、本発明は、重合部位と側鎖に非共役部位と共役部位を有し、前記非共役部位が前記重合部位と前記共役部位に挟まれた構造を少なくとも一部に含む螺旋状高分子を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
螺旋状であるため有機溶剤中でワイヤ形状を維持でき、かつトランジスタに用いることができる新規有機材料を提供することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の螺旋状高分子について具体的に説明する。
【0011】
本発明の螺旋状高分子は、重合部位と側鎖に非共役部位と共役部位を有し、前記非共役部位が前記重合部位と前記共役部位に挟まれた構造を少なくとも一部に含む螺旋状高分子である。
【0012】
(螺旋状高分子)
本発明の螺旋状高分子の主鎖骨格は特に限定されるものはなく、ポリシランのような共役系高分子でも良いし、ポリペプチドのような非共役系高分子でも良い。その中で、本明細書の実施例においては、螺旋状高分子として光学活性能などが盛んに研究されている置換ポリアセチレンについて説明する。主鎖骨格が共役系高分子の場合、導電経路は主鎖及び周期的に配列した共役系側鎖が担う。一方、主鎖骨格が非共役系高分子の場合、導電経路は周期的に配列した主鎖に直結する共役系側鎖が担う。
【0013】
(コアシェルシェルブロックの分子構造)
螺旋状高分子の原料となる有機分子は、側鎖の非共役部位が重合部位と共役部位に挟まれていればよい。
【0014】
図1から3に螺旋状高分子の一例として螺旋状置換ポリアセチレンの立体構造の模式図を示す。螺旋状高分子の原料となる有機分子は、置換アセチレンになる。図1は、立体構造の模式図になり、高分子主鎖101とベンゼン環102、104、105とアルキル基103からなる。図2及び3では、重合部位が重合して形成された導電性コア部106、非共役部位から構成される絶縁被覆部107、共役部位から構成される導電性被覆部108が示されている。つまり、有機分子が重合することにより、図1から図3に示した螺旋状置換ポリアセチレンが形成される。また、その形状は直線ワイヤ状であり、原子間の相互作用が働くため、有機溶剤中でも形状を維持できると推測される。
【0015】
(有機分子)
有機分子は、置換アセチレン、ジクロロシラン誘導体等がある。
【0016】
(重合部位)
重合部位は、他の有機分子と重合が可能な部位である。また、導電性を示すため、共役系の部分を含むものである。例えば、アセチレン骨格やベンゼン環等であり、その一方だけでもよく、同時に複数の共役系の部分を含んでいてもよい。
【0017】
重合部位と非共役部位との関係は、重合部位に非共役部位が直接共有結合しても良いし、非共役部位との間に官能基を介していても良い。官能基としては特に限定されるものは無く、芳香族でも良いし、脂肪族でも良い。
【0018】
例えば、フェニル基、ナフチル基、チエニル基、カルバゾリル基、フルオレニル基等の共役官能基やカルボキシル基、アミノ基、アミド基等の非共役官能基により置換されていればよい。より詳しく例示すると、フェニルアセチレン、エチニルナフタレン、エチニルチオフェン、エチニルカルバゾール、プロピオール酸エステル、プロパルギルアミド等が挙げられる。
【0019】
(非共役部位)
非共役部位は、特に限定されるものは無く、少なくとも一つのアルキル基を含んでいれば良い。
【0020】
本発明における非共役部位の条件としては最外殻と主鎖の間に絶縁性の非共役鎖であるアルキル基を有していることが必要である。
【0021】
非共役部位しては例えば、アルキレン、アルキレンオキシド、フルオロアルキレン、脂環式炭化水素、飽和複素環等が挙げられる。更に詳しく例示すると、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキシレン、オクチレン、テトラデシレン、トリメチレンオキシド、テトラメチレンオキシド、トリエチレンオキシド、テトラエチレンオキシド、ヘキサエチレンオキシド、テトラフルオロエチレン、シクロヘキシル、ピペリジン等が挙げられる。また、これらの非共役部位は置換されても良く、例えばクロロヘキシル基、メチルシクロヘキシル環等が挙げられる。また、エチルヘキシレンのような分岐を有する置換基でも良く、各々の分岐に共役部位を置換しても良い。
【0022】
(共役部位)
共役部位は、無置換の芳香環、ヘテロ芳香環が好ましい。その他に、フェニル環、ナフチル環、アントラセン環のような縮合芳香環でも良いし、フルオレン環のような非縮合芳香環でも、チオフェン環、ピリジン環、カルバゾール環、オキサゾール環のようなヘテロ芳香環でも良い。共役部位としては更に詳しく例示すると、フェニル基、ナフチル基、チエニル基、カルバゾリル基、フルオレニル基等が挙げられる。共役部位の条件としては最外殻の芳香環に絶縁性の非共役部位が置換してないことが必須であり、無置換であることが望ましい。
【0023】
(螺旋状高分子の製造方法)
螺旋状高分子の製造方法は特に限定されるものは無いが、例えば置換ポリアセチレンは一置換アセチレンの重合触媒であるロジウム錯体、例えばロジウム(ノルボルナジエン)塩化物二量体を用いることで製造できる。これらの重合溶媒としてはクロロホルム、テトラヒドロフラン、トルエンのような非極性溶媒だけでなく、ジメチルホルムアミドのような極性溶媒が使用できる。これらの溶媒は単独もしくは混合して用いることができる。
【0024】
また、一置換アセチレンのリビング重合触媒系であるロジウム錯体/トリフェニルビニルリチウム/トリフェニルホスフィンの三元触媒系を用いると分子量を制御したポリアセチレンが製造できる。
【0025】
また、異なる置換ポリアセチレンを逐次的に投入することで各々の繰返し構造がブロック的に結合したブロックポリマーを製造できる。得られた重合体は立体規則的な繰返し構造をしており、主鎖が螺旋状の構造をしている。本明細書では主鎖が立体的な螺旋構造をなしている高分子を螺旋状高分子、そのブロックポリマーを螺旋状ブロック高分子と定義する。置換ポリアセチレンの場合は特に螺旋状ポリアセチレン、螺旋状ブロックポリアセチレンと定義する。螺旋状高分子の長さは少なくとも10ユニット以上あれば良いが、好ましくは50ユニット以上、10000ユニット以下である。
【0026】
さらに詳細に説明する。
【0027】
図2及び3の106は、螺旋状構造から構成される導電性コア部である。また、その外側に位置する非共役部位103は絶縁性のため、絶縁性被覆部107を構成している。また、更にその外側に位置する共役部位は隣接する共役部位間(104と105との間)の距離が主に0.4nm〜0.5nmの範囲内であり、共役部位で構成される被覆部は導電性を有するため、導電性被覆部108を構成している。このようにコアシェルシェル構造をとることにより、最外殻の被覆部に導電性を示す部位を形成することが可能になるため、他の外部電極との接触が容易になる。また、外部電極から最外殻の電界を制御することができ、その電界により導電性コア部106のキヤリア制御が可能になる。これにより、ソース、ドレイン、ゲートからなる3端子デバイスが形成できる。非共役部からなる絶縁被覆部107は絶縁性のため、重合部位からなる導電性コア部に誘起されたキャリアは、図2及び3に示すy方向には移動せず、z方向のみに移動する。図3に示すように重合部位からなる導電性コア部は絶縁性被覆部107に囲まれているため、重合部位と共役部位との分子鎖間でのキャリアの授受は極めて困難である。そのため、注入されたキャリアはz方向に一次元的に移動する。
【0028】
螺旋状高分子では、主鎖の螺旋状ポリアセチレンの周りを非共役部位が取り囲むような構造になるため、非共役部位が絶縁被覆層となり、さらにその周りを共役部位が取り囲み導電層となる。ポリアセチレンの側鎖のアルキル鎖は外側へ伸びることが知られており、絶縁被覆層の厚みはアルキル鎖の長さにより制御することが可能である。また、その外側の共役部位も主鎖の螺旋構造の周期性のためほぼ等間隔で並ぶため、共役部位間(104と105間)のホッピングを介した導電機構により、絶縁層に比べ高い導電性が予想される。特に、アルキル鎖が炭素数4以上であるときが、絶縁性が向上するため好ましい。
【0029】
螺旋状高分子は、有機溶媒に対する溶解性があるため、様々な形態で新規な有機エレクトロニクスデバイスに応用できる。デバイスでは、一分子中に絶縁被覆性の非共役部位の層と外部電極との接続が容易な導電性の共役部位の層が主鎖の螺旋状のポリ置換アセチレン構造と共有結合で結びつき、連続的な三層構造となっているため、外殻の導電性層に電界を加えることでポリ置換アセチレン構造に一定の電界を加えることができ、安定した電界強度でポリ置換アセチレン構造にキャリアを誘起することができる利点がある。誘起されたキャリアは絶縁性の非共役部位を導入しているため、主鎖中を一次元的に移動するため、分子間での電子とホールの再結合は抑制される効果がある。
【0030】
また、ロジウム錯体などを用いた置換ポリアセチレンのポリマー重合では分子中の極性構造や系内の水などの影響を受けにくいため、分子構造の設計が容易であり、電子あるいはホール輸送、光機能やセンサ機能等を有する側鎖を含有させることで様々な機能を発現させることができる特徴がある。また、導電性コアの直径は0.5nm〜2nmであり、共役部位、非共役部位を含めても2nm〜10nmである。また、置換ポリアセチレンは結晶性が良いことが報告されているため、集積性の高いデバイスとなることが期待できる。
【0031】
(計算に基づく検証)
以下に計算機実験により本発明の有効性を検証した結果を示す。
【0032】
図4には、本発明の螺旋状高分子を説明するための構造モデルの一例としてポリ((1−フェニル−n−ペンチルオキシ)フェニルアセチレンの分子計算を示す。図4(1)には、主鎖が螺旋状ポリアセチレン101であり、その主鎖より3方向にフェニル基102を配置している。本計算においてはこの主鎖101及び主鎖に直結しているフェニル基102を含めて重合部位106と定義する。さらに、フェニル基に酸素401を介してアルキル基を配置させている。この部分は絶縁性をもち、ここでは、非共役部位とよぶことにする。さらにアルキル基の末端にフェニル基を結合させる。この部分を共役部位とよぶ。共役部位は、基本的にベンゼンが積層した構造となっており、ベンゼン分子結晶が有機半導体であることを考慮すると、この共役部位は電気伝導性を持つ。
【0033】
図4(2)、(3)には、図4(1)に示す構造が主鎖の螺旋に従い、50ユニット分積層した場合の構造を示す。この構造は、分子動力学計算により、300Kで200psecの計算を行い得られた結果である。螺旋状ポリアセチレンにおいて側鎖は3方向に配置しており、図4(2)に示すように共役部位の最近接のベンゼン環は直接結合しているユニットのベンゼン環ではなく、ベンゼン環とベンゼン環のように上下に配置しているものである。ただし、その上下の配置は分子計算結果により完全に上下に揃っているわけではなく、角度をもって配列している。そのため、長周期で見ると側鎖も螺旋構造を形成しており、その周期は主鎖の螺旋構造の周期0.3〜0.4nmよりもかなり長く、5nmから10nm程度である。図4(3)の数字は側鎖の螺旋構造のつながりを示す。すなわち、431の側鎖螺旋1と432の側鎖螺旋2および433の側鎖螺旋3は、側鎖の導電的な繋がりがなく、側鎖螺旋1と繋がっているのは434及び437の側鎖螺旋1で、431と434、434と437の間隔が側鎖螺旋の周期である。
【0034】
ここで、2つのベンゼン環がどの程度近づいているかが、電気伝導性を左右すると考えられるので、図3における上下方向に近接した2つのベンゼン環104とベンゼン環105において、ベンゼン環に属する炭素原子と、ベンゼン環に属する炭素原子とを考え、炭素−炭素間距離が最も短くなる距離をベンゼン環対毎に求めた結果を図5に示す。図2及び図3に示すとおり、中央の螺旋より側鎖が3方向にのびているので、図4(3)にしめす側鎖螺旋431から434、437と続く側鎖螺旋1、側鎖螺旋432から435、438と続く側鎖螺旋2、側鎖螺旋433から435、439と続く側鎖螺旋3のそれぞれにまとめて表示している。
【0035】
図5において、最短炭素−炭素原子間距離は主に0.4nmから0.5nmの範囲にある事がわかる。ベンゼン分子結晶では、隣接したベンゼン環対の最短炭素−炭素原子距離は0.36nmであり、この値より若干大きいものの、大きく離れた値でないため、ベンゼン分子結晶と同様に導電性被覆層において上下方向にスタックしたベンゼンにおける電気伝導性は存在すると考えることができる。
【0036】
本実施態様の一例は、ゲート電圧制御用の導電性被覆層の化学種としてベンゼン環を考えたが、ナフタレンやアントラセンなどのポリアセン系やチオフェン、ピロールなども用いることができる。また、絶縁被覆層のアルキル基も直鎖状のもの以外に分岐したものや、炭化水素系以外にフルオロカーボンなども用いることができる。
【0037】
(共重合体)
本発明の螺旋状高分子は、側鎖に非共役部位及び共役部位を有し、非共役部位が重合部位と共役部位に挟まれている有機分子が重合した構造が分子中の一部に含まれている螺旋状高分子であれば良く、他の構造との共重合体でもよい。ホモポリマーで用いることもできるが、側鎖に非共役部位を有する有機分子を重合した繰返し構造との共重合体でもよいし、側鎖に共役部位を有する有機分子を重合した繰返し構造との共重合体や、側鎖に共役部位を有する有機分子を重合した繰返し構造および側鎖に非共役部位を有する有機分子を重合した繰返し構造との共重合体でもよい。
【0038】
共重合体としてはブロックポリマーが望ましく、その構造としては導電性コア部、絶縁被覆層、導電性被覆層を有する絶縁−導電性被覆ブロックを中心としてその両脇に導電性コア部と絶縁被覆層を有する絶縁被覆ブロックもしくは導電性コア部のみの導電性ブロックが配置されていることが望ましい。このような構造は両端のブロックをソース、ドレイン電極とし、中心の絶縁−導電性被覆ブロックをゲート電極として用いるのに好ましい。各ブロックの長さは少なくとも10ユニット以上あれば良いが、好ましくは50ユニット以上、10000ユニット以下である。
【0039】
更に、ポリマーの末端に導電性コア部のみの導電性ブロックを有し、中心に導電性コア部と絶縁被覆層、導電性被覆層を有する絶縁−導電性被覆ブロックを有する構造が好ましい。このような構造で両端のブロックをソース、ドレイン電極と接触させた場合、絶縁被覆層がある場合と比べて電極からのキャリア注入効率が向上する。
【0040】
1.絶縁−導電性被覆共重合体
図6に本発明の螺旋状高分子の一例の概念図を示す。図6(1)は分子構造の模式図であり、図6(2)は螺旋構造からなる分子形状のイメージ図、図6(3)は絶縁−導電性被覆共重合体の断面図の模式図である。ここで、導電性コア部106は、高分子主鎖101及び高分子主鎖に直結した共役部位102からなる。絶縁被覆層107は、側鎖の非共役部103からなる。導電性被覆層108は、側鎖の共役部104からなる。
【0041】
2.絶縁−導電性被覆ブロックと絶縁被覆ブロックの共重合体
図7に絶縁−導電性被覆ブロックと絶縁被覆ブロックとの共重合体の一例の概念図を示す。図7(1)は螺旋構造からなる分子形状のイメージ図、図7(2)は絶縁被覆ブロックの断面図、図7(3)は絶縁−導電性被覆ブロックの断面図の模式図である。図7(1)は、絶縁−導電性被覆ブロック702を挟むように絶縁被覆ブロック701を有する共重合体を示す。電極等との接続を考慮し、一方のみ絶縁被覆ブロック701から構成される共重合体でもよい。
【0042】
3.絶縁−導電性被覆ブロックと導電性コアブロックの共重合体
図8に絶縁−導電性被覆ブロックと導電性ブロックとの共重合体の一例の概念図を示す。図8(1)は螺旋構造からなる分子形状のイメージ図、図8(2)は導電性ブロックの断面図、図8(3)は絶縁−導電性被覆ブロックの断面図の模式図である。ここで、導電性コア部(重合部位)106は高分子主鎖101からなる。絶縁被覆層107は側鎖の非共役部からなる。導電性被覆層108は側鎖の共役部からなる。
【0043】
図8(1)は、絶縁−導電性被覆ブロック702を導電性コアブロック801で挟む構造を示している。
【0044】
4.絶縁−導電性被覆ブロックと絶縁被覆ブロックと導電性コアブロックとの共重合体
図9に絶縁−導電性被覆ブロックと絶縁被覆ブロック及び導電性コアブロックとの共重合体の一例の概念図を示す。図9(1)は螺旋構造からなる分子形状のイメージ図、図9(2)は導電性ブロックの断面図、図9(3)は絶縁被覆ブロックの断面図、図9(4)は絶縁−導電性被覆ブロックの断面図の模式図である。
【0045】
図9(1)は、左から導電性コアブロック801、絶縁被覆ブロック701、絶縁−導電性被覆ブロック702の順に並んだ構造をとっている。
【0046】
この並びは、任意に変更ができ、絶縁−導電性被覆ブロック、絶縁被覆ブロック、導電性コアブロックの順に並んだ構造をとることも可能である。
【0047】
このような置換ポリアセチレンは電子デバイスに利用できる。図10から図12に示す。
【0048】
図10(1)(2)には、絶縁基板1002上に絶縁−導電性被覆共重合体からなる螺旋状高分子を配置したデバイスについて述べる。図10(1)が側面図で、図10(2)が上面図である。
【0049】
螺旋状高分子1006の両端にそれぞれ独立した電極1003、1004を接触するように配置し、螺旋状高分子1006の両端から離れた位置で絶縁薄膜1001を介して電極1004を接触させる。電極1003から螺旋状高分子1006に注入されたキャリアは、絶縁被覆層と導電性コア部および導電性被覆層の導電性の違いから導電性コア部あるいは導電性被覆層の中を一次元的に電極1004へと移動する。このとき電極1005に電界を印加することで螺旋状高分子1006にキャリアが誘起され、電極1003、1004間の電流値が増大する。また、このような素子では分子中のゲート電極に接した部分ののみ電圧を印加することができ、電界効果による電流値のオンオフがより効率よく行なえる利点がある。
【0050】
図11には、絶縁−導電性被覆ブロックと絶縁被覆ブロックとの共重合体から構成される螺旋状高分子を用いたデバイスについて述べる。図11(1)が側面図で、図11(2)が上面図である。
【0051】
ブロックとブロックの両端にそれぞれ独立した電極1003,1004を接触するように配置している。電極からブロックに注入されたキャリアは、絶縁被覆層と導電性コア部106の導電性の違いから導電性コア部106の中を一次元的に移動し、反対側のブロックを介して電極へと移動する。このとき電極に電界を印加することでブロックにキャリアが誘起され、電極間の電流値が増大する。また、このような素子では分子中のゲート電極に接した部分ののみ電圧を印加することができ、電界効果による電流値のオンオフがより効率よく行なえる利点がある。
【0052】
同様に、図12絶縁−導電性被覆ブロックと絶縁被覆ブロックと導電性コアブロックとの共重合体空構成される螺旋状高分子を用いたデバイスについて述べる。図12(1)が側面図で、図12(2)が上面図である。
【0053】
図12(1)では、導電性コア部(重合部位)が直接電極と接触していることにより、より抵抗の少ない状態で、電気的な接続を取ることができる。また、導電性コア部106には、結合しやすい官能基を用いたりすることにより、電極1003との接合を適格にできる。例えば、チオール基と金電極の結合などが想定される。または、絶縁被覆層701に電極材料と結合しにくい官能基を導入することもできる。これらは、重合部位や非共役部位に予め導入して分子設計されている。
【0054】
螺旋状高分子の両末端を電極に接触させるように配置するためにはスピンコートのように分散させることで確率的に形成させる方法もあるが、電極方向に螺旋状高分子を配向させることが好ましい。
【0055】
配向方法として特に限定されるものは無いが、例えば磁場や電場などの外力を利用する方法や、LB方のように水面上に展開して圧力により配向させる方法。溶液の蒸発に際しての流動配向を利用する方法などが考えられる。またあらかじめ基板にラビング処理などの配向処理を行い、その上で螺旋状高分子を配向もしくは結晶化させることも考えられる。
【0056】
電極材料として特に限定されるものは無いが、アルミニウム、金、白金、シリコンのような金属やITOなどの金属酸化物、ポリチオフェンなどの有機電極材料などを用いることができる。電極間距離は特に制限されるものは無いが、螺旋状高分子の大きさと同程度であればよい。好ましくは10nmから10μm、より好ましくは20nmから1μmである。
【0057】
側鎖に非共役部位及び共役部位を有し、非共役部位が重合部位と共役部位に挟まれている有機分子が重合した立体規則的な繰返し構造からなる螺旋状高分子ブロックと側鎖に非共役部位を有している有機分子が重合した立体規則的な繰返し構造からなる螺旋状高分子ブロック構造を含む共重合高分子ではソース、ドレイン電極およびゲート電極との接続部を分離することができ、ゲート電極からの電界強度変調により、導電性コア部の電界キャリア誘起の効率向上が期待できるためFET素子として用いることができる。このような分子は一次元分子素子に電界誘起トランジスタとしての機能を付与することでナノサイズの分子デバイスとしても新規な一次元分子デバイスとしても使用することができる。
【実施例】
【0058】
以下に本発明における螺旋状高分子の作製方法及び螺旋状高分子と電極とのデバイス構造の作製方法について説明する。
【0059】
(実施例1)
減圧及び窒素置換後密閉した試験管にロジウム(ノルボルナジエン)塩化物二量体0.05mmolとトリエチルアミン5mmolとトルエン15mlを入れ、30℃で30分間攪拌する。
【0060】
得られたロジウム錯体のトルエン溶液に4−(4‘−フェニルブトキシ)フェニルアセチレン5mmolとトルエン10mlの混合溶液を注入することにより重合反応を開始させる。反応は30度で2時間行い、得られるポリマーをメタノールで洗浄、濾過した後、24時間真空乾燥することで目的のポリアセチレンブロックポリマー、ポリ(4−(4‘−フェニルブトキシ)フェニルアセチレン)が得られる。
【0061】
【化1】

【0062】
(実施例2)
減圧及び窒素置換後密閉した試験管にロジウム(ノルボルナジエン)塩化物二量体0.005mmolとトルエン1mlを入れ、0℃で15分攪拌した後、0.1mol/lの1,1,2−トリフェニルビニルリチウムのトルエン溶液0.2mlを注入し、続いて0.1mol/Lのトリフェニルホスフィンのトルエン溶液0.3mlを注入して30分間攪拌する。
【0063】
上記方法で得られたロジウム錯体のトルエン溶液に4−ヘキシルオキシフェニルアセチレン10mmolとトルエン8.5mlの混合溶液を注入することにより重合反応を開始させる。反応は30度で30分行い、重合が充分進行した後にN−3−ナフチルプロピルプロパルギルアミド10mmolとトルエン10mlを注入し、更に30度で一時間重合反応を行う。重合が充分進行した後にもう一度N−3−ナフチルプロピルプロパルギルアミド10mmolとトルエン10mlを注入し、更に30度で一時間重合反応を行う。重合が充分進行した後に4−ブトキシフェニルアセチレン10mmolとトルエン10mlを注入し、更に30度で1時間重合反応を行う。得られるポリマーをメタノールで洗浄、濾過した後、24時間真空乾燥することで目的のポリアセチレンブロックポリマー、ポリ((4−ヘキシルオキシフェニルアセチレン)−co−(N−(3−ナフチルプロピル)プロパルギルアミド)−co−((4−ブトキシフェニルアセチレン))が得られる。
【0064】
【化2】

【0065】
【化3】

【0066】
(実施例3)
減圧及び窒素置換後密閉した試験管にロジウム(ノルボルナジエン)塩化物二量体0.005mmolとトルエン1mlを入れ、0℃で15分攪拌した後、0.1mol/lの1,1,2−トリフェニルビニルリチウムのトルエン溶液0.2mlを注入し、続いて0.1mol/Lのトリフェニルホスフィンのトルエン溶液0.3mlを注入して30分間攪拌する。
【0067】
上記方法で得られたロジウム錯体のトルエン溶液にフェニルアセチレン6mmolとトルエン4.5mlの混合溶液を注入することにより重合反応を開始させる。反応は30度で30分行い、重合が充分進行した後に4−ブチルフェニルアセチレン10mmolとトルエン10mlの混合溶液を注入することにより重合反応を開始させる。反応は30度で30分行い、重合が充分進行した後に4−(4‘−フェニルブトキシ)フェニルアセチレン10mmolとトルエン10mlを注入し、更に30度で一時間重合反応を行う。重合が充分進行した後にもう一度4−(4‘−フェニルブトキシ)フェニルアセチレン10mmolとトルエン10mlを注入し、更に30度で一時間重合反応を行う。重合が充分進行した後に4−ブチルフェニルアセチレン10mmolとトルエン10mlを注入し、更に30度で1時間重合反応を行う。重合が充分進行した後にフェニルアセチレン6mmolとトルエン6mlを注入し、更に30度で1時間重合反応を行う。
【0068】
得られるポリマーをメタノールで洗浄、濾過した後、24時間真空乾燥することで目的のポリアセチレンブロックポリマー、ポリ(フェニルアセチレン−co−(4−ブチルフェニルアセチレン)−co−(4−(4‘−フェニルブトキシ)フェニルアセチレン)−co−((4−ブチルフェニルアセチレン)−co−フェニルアセチレン)が得られる。
【0069】
【化4】

【0070】
【化5】

【0071】
(実施例4)
フェニルアセチレンを3−チエニルアセチレンとした以外は実施例3と同様に操作し、ポリアセチレンブロックポリマー、ポリ((3−チエニルアセチレン)−co−(4−ブチルフェニルアセチレン)−co−(4−(4‘−フェニルブトキシ)フェニルアセチレン)−co−((4−ブチルフェニルアセチレン)−co−(3−チエニルアセチレン))が得られる。
【0072】
【化6】

【0073】
(実施例5)
フェニルアセチレンを3−チエニルアセチレン、4−ブチルフェニルアセチレンを4−メチル−1−ナフチルアセチレンとした以外は実施例3と同様に操作し、ポリアセチレンブロックポリマー、ポリ((3−チエニルアセチレン)−co−(4−メチル−1−ナフチルアセチレン)−co−(4−(4‘−フェニルブトキシ)フェニルアセチレン)−co−(4−メチル−1−ナフチルアセチレン)−co−(3−チエニルアセチレン))が得られる。
【0074】
【化7】

【0075】
(実施例6)
フェニルアセチレンを3−チエニルアセチレン、4−ブチルフェニルアセチレンを4−メチル−1−ナフチルアセチレン、4−(4‘−フェニルブトキシ)フェニルアセチレンを1−エチニル−4−(4’−フェニルブトキシ)ナフタレンとした以外は実施例3と同様に操作し、ポリアセチレンブロックポリマー、ポリ((3−チエニルアセチレン)−co−(4−メチル−1−ナフチルアセチレン)−co−(1−エチニル−4−(4’−フェニルブトキシ)ナフタレン)−co−(4−メチル−1−ナフチルアセチレン)−co−(3−チエニルアセチレン))が得られる。
【0076】
【化8】

【0077】
(実施例7)
フェニルアセチレンを1−エチニルナフタレン、4−ブチルフェニルアセチレンを2−エチニル−5−ヘキシルチオフェンとした以外は実施例3と同様に操作し、ポリアセチレンブロックポリマー、ポリ((1−エチニルナフタレン)−co−(2−エチニル−5−ヘキシルチオフェン)−co−(4−(4‘−フェニルブトキシ)フェニルアセチレン)−co−(2−エチニル−5−ヘキシルチオフェン)−co−(1−エチニルナフタレン))が得られる。
【0078】
【化9】

【0079】
【化10】

【0080】
(実施例8)
フェニルアセチレンを1−エチニルナフタレン、4−ブチルフェニルアセチレンを2−エチニル−5−ヘキシルチオフェン、4−(4‘−フェニルブトキシ)フェニルアセチレンを5−エチニル−2−(3’−(2’’−チエニル)プロピルオキシ)ピリジンとした以外は実施例3と同様に操作し、ポリアセチレンブロックポリマー、ポリ((1−エチニルナフタレン)−co−(2−エチニル−5−ヘキシルチオフェン)−co−(5−エチニル−2−(3’−(2’’−チエニル)プロピルオキシ)ピリジン)−co−(2−エチニル−5−ヘキシルチオフェン)−co−(1−エチニルナフタレン))が得られる。
【0081】
【化11】

【0082】
(実施例9)
(デバイス構造作成方法)
本実施例によるデバイスは、図12(1)に示されるように表面に膜厚100nmの熱酸化膜1001を有したハイドープのSi基板上1002に形成される。1003、1004、1005は電子ビーム露光を用いたリソグラフィーにより形成した金電極で、1003と1004間の距離は300nmであり、1003と1005、1004と1005の間の距離は100nm、1005の幅は100nmである。本電極間に上記実施例3により得られたポリマー10mgをクロロホルム10mlに溶解させ、1.0重量%の溶液を作成する。この溶液をシリコン基板上にパターニングした金電極上にスピンコート法で塗布することでポリマー層106を形成する。本実施例で用いるポリマー分子の平均長さはおよそ350nmであり、多数のポリマー分子が電極1003と1004の両方に接触することになり、電極1003と1004の間での分子間のホッピング伝導が抑制される。本デバイスでは電極1005がゲート電極として動作し、1005への電圧印加により電極1003と1004の間に流れる電流を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】螺旋状高分子の一例を示す図
【図2】螺旋状高分子の一例を示す断面図
【図3】螺旋状高分子の一例を示す直上図
【図4】螺旋状高分子の分子位置を計算した結果を示す図
【図5】炭素間距離を計算した結果を示す図
【図6】絶縁−導電性被覆共重合体を示す図
【図7】絶縁−導電性被覆ブロックと絶縁被覆ブロックの共重合体を示す図
【図8】絶縁−導電性被覆ブロックと導電性コアブロックの共重合体を示す図
【図9】絶縁−導電性被覆ブロックと絶縁被覆ブロックと導電性コアブロックとの共重合体を示す図
【図10】絶縁−導電性被覆共重合体を用いるデバイスの一例を示す図
【図11】絶縁−導電性被覆ブロックと絶縁被覆ブロックの共重合体を用いるデバイスの一例を示す図
【図12】絶縁−導電性被覆ブロックと絶縁被覆ブロックと導電性コアブロックとの共重合体を用いるデバイスの一例を示す図
【符号の説明】
【0084】
101 高分子主鎖
102 ベンゼン環
103 アルキル基
104 ベンゼン環
105 ベンゼン環
106 導電性コア部
107 絶縁被覆部
108 導電性被覆部
401 酸素
431 側鎖螺旋1
432 側鎖螺旋2
433 側鎖螺旋3
434 側鎖螺旋1
435 側鎖螺旋2
436 側鎖螺旋3
437 側鎖螺旋1
438 側鎖螺旋2
439 側鎖螺旋3
701 絶縁被覆ブロック
702 絶縁−導電性被覆ブロック
801 導電性コアブロック
1001 絶縁薄膜
1002 基板
1003 電極
1004 電極
1005 電極
1006 螺旋状高分子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状高分子であって、
重合部位と非共役部位と共役部位を有し、
前記非共役部位が前記重合部位と前記共役部位に挟まれた構造を少なくとも一部に含むことを特徴とする螺旋状高分子。
【請求項2】
前記非共役部位がアルキル鎖であることを特徴とする請求項1記載の螺旋状高分子。
【請求項3】
前記共役部位が芳香環であることを特徴とする請求項1又は2記載の螺旋状高分子。
【請求項4】
側鎖に非共役部位を有している有機分子が重合した構造からなるブロックを少なくとも一部に含むことを特徴とする請求項1から3のいずれか記載の螺旋状高分子。
【請求項5】
側鎖に共役部位を有している有機分子が重合した構造からなるブロックを少なくとも一部に含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか記載の螺旋状高分子。
【請求項6】
デバイスであって、
重合部位と非共役部位と共役部位を有し、前記非共役部位が前記重合部位と前記共役部位に挟まれた構造を少なくとも一部に含む螺旋状高分子と、
前記共役部位又は前記重合部位の少なくともいずれかが、電極と接するように配置されていることを特徴とするデバイス。
【請求項7】
前記螺旋状高分子と前記電極とがトランジスタを構成していることを特徴とする請求項6記載のデバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2010−6876(P2010−6876A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−165073(P2008−165073)
【出願日】平成20年6月24日(2008.6.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】