説明

血液ポンプ

【要 約】
【課 題】 コンパクトで、かつ溶血量や凝血が少ない血液ポンプを実現する。
【解決手段】 タービン形再生ポンプ2と、らせん状の流路を有する円筒状のディストリビュータ8とを組み合わせ、モータと磁気継手を備える駆動ユニット1と取り外し可能に接続して血液ポンプの周辺を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工心肺等の医療目的に使用する血液ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
心臓手術の際には、人工心肺装置が使用される。手術中、血液は人工心肺装置を経由して循環し、大静脈から抜き出した血液をガス交換し、温度調節して大腿動脈から体内に戻すことが行われる。したがって人工心肺装置は、心臓に代わる血液ポンプ、ガス交換を行う人工肺、体温調節のための熱交換器などで構成される。
人工心肺装置における課題のひとつとして、回路に充填するプライミング液の容量の問題がある。すなわち、プライミング液の容量を少なくすることができれば、患者の血液が希釈される度合いが小さいので術後の回復が良好である。このため、血液管路を含めた人工心肺装置の容積を小さくしてプライミング液の容量を減少させることが重要であり、人工心肺装置、あるいは血液ポンプのコンパクト化が重要な技術課題となっている。
【0003】
この他、心臓手術の際の補助用、その他の医療目的にも血液ポンプが使用される。
血液ポンプとして従来一般的に使用されてきたのは、遠心形ポンプである。その一例として、特許文献1に記載のターボ式血液ポンプを図11に示す。91はハウジングで、内部に血液を通過させ、流動させるポンプ室92を有する。ハウジング91には、ポンプ室92の上部に連通する流入ポート93と、ポンプ室92の側部に連通する流出ポート94とが設けられている。ポンプ室92内にはインペラ95が配置され、96はその回転軸、97は上部軸受、98は下部軸受である。一方、ハウジング91の下部には、磁石による磁力を介してインペラ95を駆動する駆動軸99が配置されている。
【0004】
また、特許文献2には、熱交換器を組み込んだ筒型の人工肺に、血液ポンプを直列に一体化して組み込み、さらに脱着式の駆動ユニットを直列に一体化して構成した人工心肺装置が記載されている。ここで使用されている血液ポンプは、波動ポンプ(揺動式容積移動形連続流血液ポンプ)である。
特許文献1に記載のような遠心ポンプの場合、ポンプに対する流入ポート、流出ポートの向きが限定されてしまい、コンパクトな組み立てができないという問題点があり、このため、従来の人工心肺装置といえば手術室とは別室に設置しなければならないような大型の装置であり、必要とするプライミング液の容量も多かった。こうした問題点を解消すべく、特許文献2に記載の発明では、熱交換器を組み込んだ人工肺と血液ポンプ、さらに着脱式の駆動ユニットなどを直列に一体化することを目的とし、コンパクトで術野に持ち込むことができ、プライミング液の容量を大幅に減少させることが可能な小型の人工心肺装置の実現を目指している。
【0005】
図12はその特許文献2に記載の波動ポンプの構造を示す断面図である。図の右側は駆動ユニット1、左側はポンプ2で、両者は図のAA線で分割でき、ポンプ2から人工肺4までは1回の使用毎に使い捨てられる。駆動ユニット1はコイル16、ステータ17でモータを構成し、中央の駆動軸18を回転させる。駆動軸18の中心には斜め方向の傾斜軸19が嵌まっており、駆動軸13の回転により、自身は回転しないが「すりこぎ運動」(歳差運動、みそすり運動ともいう)を行う。
【0006】
一方、ポンプ2は半径方向断面で見て外側が扇状に開いたポンプ室211を有し、ポンプ室211内にドーナッツ状の円板が挿入されており、これを可動子213と呼んでいる。可動子213の中央部分には皿状の支持板212が取り付けられており、駆動ユニット1と組み合わせた状態で、前記の回転駆動軸13の先端に嵌合する。これにより、回転駆動軸18のすりこぎ運動に従って可動子213がポンプ室211内で順次傾斜し、内部の流体を移送する。22は流入ポート、33は流出ポートである。
【特許文献1】特開2007−222670号公報
【特許文献2】特開2004−154425号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
血液ポンプとして、所定の圧力で所定の流量が得られるということが先ず必要であるが、使用の際に赤血球の破壊や、内部の凝血が少ないことも重要である。これまでの血液ポンプは一般に回転数が高いため、溶血を起こしやすいという欠点が指摘されており、より低い回転数で所要の圧力や流量の得られる血液ポンプが望まれていた。
本発明は、溶血や凝血が少なく、かつコンパクトな血液ポンプを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の本発明は、コアリング付きの羽根車と、この羽根車を収納する第1のケーシングと、羽根車に向き合う第2のケーシングとからなる再生ポンプであって、この第2のケーシングが一周に満たない不完全な円周状で半円形断面の溝を有し、その一端の中心寄り位置に流入ポート、他の一端の外径寄り位置に流出ポートが開口していることを特徴とする血液ポンプである。
【0009】
請求項2に記載の本発明は、前記コアリング付きの羽根車が、その内部に配置された磁石と、駆動手段に配置された磁石とで構成される磁気継手を介して駆動されるようになっている請求項1に記載の血液ポンプである。
請求項3に記載の本発明は、前記第2のケーシングの流出ポート側に、前記流出ポートに接続する開口を有し、その反対側にはほぼ全周にわたって開口したらせん状の流路が接続されている請求項1または2に記載の血液ポンプである。
【0010】
請求項4に記載の本発明は、前記羽根車の軸受が、羽根車の両面の中心位置に取り付けたピボット状の軸端部と、両側の第1および第2のケーシングの中心位置に設けた受け部とからなる請求項2または3に記載の血液ポンプである。
請求項5に記載の本発明は、前記羽根車が、その中心付近に、羽根車の両面を貫通する複数個の孔を設けたものである請求項2ないし4のいずれかに記載の血液ポンプである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、小型軽量でプライミング液の必要量も少なく、内部の凝血や溶血も少ない血液ポンプが実現し、心停止などの急患の救命に大きく寄与するという、すぐれた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の救急救命装置を図面により説明する。図1は実施例の血液ポンプならびにその周辺部分を示す断面図で、1は駆動ユニット、11はモータ、12はその回転軸に取り付けられたヨーク、13はモータ11が取り付けられるベースプレート、14はベースプレートのポンプ側に設けられた係止爪、15はヨーク12に埋め込まれた磁石である。ポンプ2の詳細は追って説明するが、25は羽根車で、これにも磁石253が埋め込まれている。羽根車25を収容するポンプ2のケーシングは第1のケーシング23と第2のケーシング24とに分割されているが、これは組み立てのためであり、使用状態では2つのケーシング23、24は一体に接合されている。ポンプ2は第1のケーシング23と前記の係止爪14とによってベースプレート13に直接固定される。したがって、係止爪14を開くことにより、ポンプ2は、ベースプレート13と第1のケーシング23との間で駆動ユニット1から取り外すことができる。
【0013】
図1においてポンプ2から左の部分にはたとえば人工肺などが接続される。これらの部分には、使用により内部に患者の血液が流れるので、1回の使用毎に使い捨てとしなければならないから、射出成形による樹脂製等で、軽量、小型かつ安価であることが望ましい。
モータ11の回転軸は直接ポンプ2には届いていないが、相対する磁石15、253で構成される磁気継手によって回転が伝えられる。したがってヨーク12、ベースプレート13、ケーシング23、24等は磁力線の妨げにならないという意味でも、チタン、樹脂など、非磁性体であることが望ましい。回転軸がケーシングを貫通していないので、ポンプ2内の血液が駆動ユニット1側に洩れだすことはなく、また血液中に潤滑油等の異物が混入する可能性もない。なお、磁力を使用してポンプを駆動すること自体は、さきに示した特許文献1にも記載されている公知事項である。
【0014】
5は血液の流入管である。脱血カニューレ(Kanule, 挿入管)から送り込まれた血液は流入管5を介してポンプ2に入り、ディストリビュータ8により円周方向に均等に配分されて人工肺に入り、図1には示されていない流出ポートから送血カニューレに送り込まれ患者の体内に戻る。
図2は実施例の再生形ポンプ2の羽根車25を一部切断して示す斜視図で、251は羽根、252はコアリングであるが、このようなコアリング付き再生ポンプは、例えば『機械工学便覧』(日本機械学会編)等の文献により公知である。
【0015】
253は前記した磁石、254は羽根車25の中心付近に設けられた羽根車の両面を貫通する複数個の孔、255は羽根車25の両面の中心位置に設けたピボット状の軸端部、この場合は球体である。これらについては追って説明する。
図3は、羽根車に向き合う第2のケーシング24の平面図である。一周に満たない不完全な円周状で半円形断面の溝241を有し、その一端の中心寄り位置に流入ポート244、他の一端の外径寄り位置に流出ポート245が開口している。242はコアリングに対応するコアリング用溝、243は追って説明する受け部、この場合は球面状のくぼみである。このくぼみは第1のケーシング23にも同様に設けてある。
【0016】
図4はポンプ2のポンプ作用を説明する説明図である。矢印Aのごとく第2のケーシング24の流入ポート244からポンプ2内に流入した血液は回転する羽根251に当たり、遠心力によって矢印Bのように回転軸に対して外側に流され、矢印Cのように流出ポート245から流出する。このとき一部の血液は矢印aのように羽根車25の裏側と第1のケーシング23との隙間にも流入するが、矢印bに示すように羽根車25中心寄りにある前記の孔254を通って矢印cのように羽根車25の表側に戻り、全体の流れに合流するので、血液が隙間に滞留して凝血を起こすということがない。
【0017】
図5はディストリビュータ8をポンプ側から見た斜視図、図6はその反対側(たとえば人工肺側)から見た斜視図である。ディストリビュータは薄切り円筒状で、大きさ(径)はポンプ2の前記流出ポート245に対応する。ポンプ側には流出ポート245に接続する開口を有し、反対側にはほぼ全周にわたって開口したらせん状の1本の流路81を設けてある。これにより、たとえば人工肺に対しては全周からほぼ均等に血液が流出するので、円筒状の人工肺のすべてのエレメントにまんべんなく分配することができる。
【0018】
図7は羽根車と両側のケーシングとの間の軸受構造を示す部分断面図で、25は羽根車、255は羽根車25の表面の中央位置に取り付けられたピボット状の軸端部、243は第2のケーシング24の中央部分に設けられた受け部である。第1のケーシング23の側にも同様の受け部がある。すなわち羽根車25の軸受は、羽根車の両面の中心位置に設けたピボット状の軸端部255と、両側の第1および第2のケーシングの中心位置に設けた受け部とで構成される。この例では軸端部255は球体、受け部243はこれに対応する球面状のくぼみである。球体とくぼみとの間にはほとんどすきまがないので、血液が侵入して凝固することはない。軸端部としてはこのように小さい球体を取り付けるほか、軸そのものの先端を尖らせたり尖ったものを取り付けてもよく、また、受け部はこれに対応する形状とすればよい。球体の場合は鋼球、あるいはセラミックボールなどの硬いもの、受け部は潤滑性のよいもの、たとえばルビー、水晶などの宝石類や金属、樹脂等が望ましい。
【0019】
受け部243は、ケーシングの面から盛り上がった形状が望ましい。図7において、羽根車25とケーシングとの隙間dに対して、受け部243の盛り上がり寸法eが必要であり、これにより前記図4における血液流が矢印aから矢印bへとなめらかに変換され、滞留が生じないので血液の凝固、溶血が発生しない。
血液ポンプとしては、流量で毎分5〜6リットル、圧力(差圧)で水銀柱500mm程度が必要とされる。図8は本発明実施例の6枚羽根ポンプの性能試験結果を示すグラフである。前記の性能に対しては毎分1800回転が必要であるが、圧力が50ないし100mm程度であれば毎分800回転で十分である。図9は同じく本発明実施例の12枚羽根ポンプの場合で、前記の性能に対しては毎分1600回転が必要であるが、圧力が50ないし100mm程度であれば同じく毎分800回転で十分であることがわかる。これに対して、図10は特許文献2に記載の波動ポンプの性能試験結果を示すグラフである。50ないし100mmの圧力を発揮するのにも毎分1200回転が必要であり、前記の本来必要な性能に対しては毎分2400回転が必要である。このように、本発明で使用するタービン形再生ポンプであれば、波動ポンプの2/3程度の回転数で所要の性能を発揮できるので溶血が少なく、障害なく救急処置を行うことができる。
【0020】
【表1】

【0021】
表1は流量毎分5リットル、圧力100mmの条件下におけるポンプ毎の溶血量を比較したもので、溶血指数NIHはフリーヘモグロビンの量、すなわち赤血球の破壊量を示し、小さい方が好ましい。実施例1は本発明実施例のタービン形ポンプ6枚羽根、実施例2は同じく本発明実施例のタービン形ポンプ12枚羽根、比較例は前記した特許文献2に記載の波動ポンプ、従来例は特許文献1に記載のような従来の心肺装置に使用されている遠心ポンプである。NIHの数値はポンプの構造と回転量とに対応しているものと認められる。実施例の中で12枚羽根の方がNIHの数値が低く、溶血性においてすぐれているのは、同じ回転数だと12枚羽根の方が流量が大きいので、その分回転数を低くすることができるためと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明実施例の血液ポンプならびに周辺部分を示す断面図である。
【図2】本発明実施例のタービン形ポンプの羽根車を一部切断して示す斜視図である。
【図3】本発明実施例の第2のケーシングの平面図である。
【図4】実施例のポンプのポンプ作用を説明する説明図である。
【図5】実施例のディストリビュータをポンプ側から見た斜視図である。
【図6】実施例のディストリビュータを人工肺側から見た斜視図である。
【図7】実施例の羽根車の軸受構造を示す部分断面図である。
【図8】本発明実施例のポンプの性能試験結果を示すグラフである。
【図9】同じく本発明実施例のポンプの性能試験結果を示すグラフである。
【図10】従来の技術におけるポンプの性能試験結果を示すグラフである。
【図11】従来の技術の遠心形ポンプを示す断面図である。
【図12】従来の技術の波動ポンプの構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 駆動ユニット
2 ポンプ
5a 流入管
8 ディストリビュータ
11 モータ
12 ヨーク
13 ベースプレート
14 係止爪
15、253 磁石
16 コイル
17 ステータ
18、99 駆動軸
19 傾斜軸
22、93、244 流入ポート
23 第1のケーシング
24 第2のケーシング
25 羽根車
33、94、245 流出ポート
81 流路
91 ハウジング
92、211 ポンプ室
95 インペラ
96 回転軸
97 上部軸受
98 下部軸受
212 支持板
213 可動子
241 溝
242 コアリング用溝
243 受け部(くぼみ)
251 羽根
252 コアリング
254 孔
255 軸端部(球体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアリング付きの羽根車と、この羽根車を収納する第1のケーシングと、羽根車に向き合う第2のケーシングとからなる再生ポンプであって、この第2のケーシングが一周に満たない不完全な円周状で半円形断面の溝を有し、その一端の中心寄り位置に流入ポート、他の一端の外径寄り位置に流出ポートが開口していることを特徴とする血液ポンプ。
【請求項2】
前記コアリング付きの羽根車が、その内部に配置された磁石と、駆動手段側に配置された磁石とで構成される磁気継手を介して駆動されるようになっている請求項1に記載の血液ポンプ。
【請求項3】
前記第2のケーシングの流出ポート側に、前記流出ポートに接続する開口を有し、その反対側にはほぼ全周にわたって開口したらせん状の流路が接続されている請求項1または2に記載の血液ポンプ。
【請求項4】
前記羽根車の軸受が、羽根車の両面の中心位置に設けられたピボット状の軸端部と、両側の第1および第2のケーシングの中心位置に設けた受け部とからなる請求項2または3に記載の血液ポンプ。
【請求項5】
前記羽根車が、その中心付近に、羽根車の両面を貫通する複数個の孔を設けたものである請求項2ないし4のいずれかに記載の血液ポンプ。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−206069(P2011−206069A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194915(P2008−194915)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(507284075)iMed Japan株式会社 (2)
【Fターム(参考)】