説明

衛星測位用受信装置

【課題】複数の搬送波周波数の測位信号を受信処理可能で、耐ノイズ性能が高く、IC化が容易で、小型化、省電力化、低コスト化を実現する衛星測位用受信装置を提供する。
【解決手段】アンテナ2は、異なる搬送波周波数の衛星測位用の測位信号として、例えば、GPSのL1信号とL5信号とを受信する。受信装置100は、受信した測位信号を2系統の受信処理系で受信処理する。受信装置100は、受信した異なる搬送波周波数の測位信号を、位相器112、132、ミキサ114、134および複素フィルタ116、136により1段で中間周波数に変換する。分周器160、162の分周比は、各受信処理系の搬送波周波数に応じて設定される。分周器150、160、162、164の分周比を変更することにより、GPSのL1およびL5以外にも、L1およびL2を受信処理することも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衛星測位システムに用いられる測位衛星からから送信される測位信号の受信処理を複数の受信処理系で行う衛星測位用受信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の現在位置や速度を求める測位システムとして、GPS(Global Positioning System)が実用化され、航空、船舶の航法用のみならず、カーナビゲーションシステムでも広く使われている。GPS以外にも、ロシアで開発・運用されているGLONASS(Global Orbiting Navigation Satellite System)や、欧州連合(EU)を中心とする国際協力により開発・運用されているGalileo等の測位システムが知られている。例えば、GPSとGalileoとでは、測位衛星が送信する測位信号のスペクトル拡散変調に用いる擬似雑音(PNコード)や搬送波周波数等の設定は異なるが、大まかな測位原理、測位演算は同じである。
【0003】
ここで、測位信号の受信処理を複数の受信処理系で行うことにより複数の測位システムを共用可能な衛星測位用受信装置(以下、単に受信装置ともいう。)として、GPSを構成する測位衛星(以下、GPS衛星)からの測位信号と、GLONASSを構成する測位衛星(以下、GLONASS衛星)からの測位信号とを受信可能なGPS/GLONASS共用受信装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この受信装置は、初段のイメージ除去ミキサにおいて、GPS衛星およびGLONASS衛星の測位信号の搬送波周波数の中間値を局部発振信号の周波数とすることにより、GPS衛星の測位信号とGLONASS衛星の測位信号とを分離するとともに、RF(無線周波数)信号からIF(中間周波数)信号へと周波数を変換し、2系統の受信処理系で異なる搬送波周波数の測位信号を受信処理している。
【特許文献1】特開平7−128423号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の受信装置では、搬送波周波数の異なるGPS衛星の測位信号とGLONASS衛星の測位信号とを初段のイメージ(影像)除去ミキサで分離し、イメージ除去ミキサで搬送波周波数から中間周波数に変換された両測位信号のIF信号を、さらに後段のミキサで周波数変換している。
【0005】
つまり、特許文献1の受信装置は、所謂ダブルスーパーへテロダインの構成となっている。ダブルスーパーへテロダイン構成の受信装置ではミキサにより2段階の周波数変換を行うので、1段目の変換処理で混入したノイズ成分は、2段目の変換処理で乗数的に増加する。その結果、ダブルスーパーへテロダイン構成の受信装置には、ノイズ性能が低いという問題がある。
【0006】
また、特許文献1のように、搬送波周波数の異なる測位信号に対し、搬送波周波数の中間値を局部発振信号の周波数として1段目の中間周波数に変換する方式では、測位信号同士の搬送波周波数の差が大きくなると、1段目の中間周波数が高くなる。例えば、GPSのL1信号の搬送波周波数(1575.42MHz)とL5信号の搬送波周波数(1176.45MHz)との中間値を局部発振信号の周波数として両測位信号を1段目の中間周波数に変換すると、中間周波数は約200MHzになる。
【0007】
このように200MHzの高周波数の信号に対し、例えば10MHz程度の帯域幅を設定して帯域制限するBPF(Band-pass filter)を回路で構成することは、入力周波数に対して帯域幅の比率が小さくなるので困難である。特に、ICでは回路のばらつきが大きくなるので、100MHzを超える高周波数の信号を帯域制限する場合、ばらつきを考慮し、帯域幅を広げてBPFを構成する必要が生じる。しかし、帯域幅を広げるとノイズが混入しやすくなる。それ故、特許文献1の方式で周波数の差が大きい測位信号を中間周波数に変換する場合、1段目のBPFをIC化することは困難である。
【0008】
また、特許文献1では、ミキサが3個必要である。さらに、特許文献1では、2段階で測位信号の周波数を変換しているので、各受信処理系に2個のBPF(Band-pass filter)が設置されている。その結果、回路が大型化するという問題がある。回路が大型化すると、消費電力の増加や製造コストの上昇といった問題が発生する。
【0009】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、複数の搬送波周波数の測位信号を受信処理可能で、耐ノイズ性能が高く、IC化が容易で、小型化、省電力化、低コスト化を実現する衛星測位用受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1から5に記載の発明では、発振信号生成手段により生成された基準発振信号を、分周手段により受信処理系毎に測位信号の搬送波周波数に応じて分周して局部発振信号を生成し、混合手段により局部発振信号と測位信号とをそれぞれ混合することにより測位信号を1段で中間周波数に周波数変換する。
【0011】
このように、複数の受信処理系において複数の搬送波周波数の測位信号を受信処理可能な受信装置において、搬送波周波数の測位信号を1段の周波数変換処理で中間周波数に変換するので、2段以上の変換処理で搬送波周波数の測位信号を中間周波数に変換する構成に比べ、耐ノイズ性能が向上する。
【0012】
また、受信処理系毎に測位信号の周波数に応じて基準発振信号を分周し局部発振信号の周波数を設定するので、1段目のミキサで、測位信号の搬送波周波数を極力低い中間周波数に変換できる。これにより、中間周波数に変換した受信信号を帯域制限するフィルタ部を外付けすることなく容易にIC化できる。
【0013】
さらに、1段の周波数変換処理で中間周波数に変換するので、回路を小型化し、その結果として省電力化および低コスト化を実現できる。
また、請求項1から5に記載の発明では、分周手段の分周比の設定により、搬送波周波数の異なる測位信号を受信処理したり、搬送波周波数の同じ測位信号を受信処理したり、あるいは、これらの組み合わせを選択できる。
【0014】
請求項2に記載の発明では、分周手段は、複数の受信処理系のうち少なくとも一つの受信処理系に対し、測位信号の搬送波周波数に応じて基準発振信号を分周する分周比を切り替える。
【0015】
これにより、例えば受信装置の用途に応じて分周比を予め切り替えておけば、同じ受信装置により、異なる組み合わせの搬送波周波数の測位信号を処理できる。また、受信処理系の数よりも多い種類の搬送波周波数の測位信号を処理できる。
【0016】
請求項3に記載の発明では、搬送波周波数の異なる測位信号を受信処理する。これにより、耐ノイズ性能が高く、容易にIC化でき、小型化、省電力化、低コスト化を実現する衛星測位用受信装置で、搬送波周波数の異なる測位信号を受信処理できる。
【0017】
請求項4に記載の発明では、複数のアンテナが受信した搬送波周波数の同じ測位信号をアンテナの数と同数の受信処理系で受信処理する。
複数のアンテナで同じ搬送波周波数の測位信号を受信すると、受信装置が受信する測位信号にアンテナの位置の違いにより位相差が生じる。そして、複数のアンテナが受信する同じ搬送波周波数の測位信号の位相差に基づき、受信装置を設置している移動体の姿勢を検出できる。
【0018】
請求項5に記載の発明では、搬送波周波数の同じ測位信号を処理する少なくとも二つの受信処理系において、少なくとも一つの受信処理系に設置された周波数フィルタの周波数帯域幅は他の受信処理系に設置された周波数フィルタの周波数帯域幅よりも広い。
【0019】
周波数フィルタの周波数帯域幅が広がると、受信信号にノイズが混入しやすくなるが、受信信号のピークは先鋭になる。その結果、受信信号の検出精度が向上するとともに、受信信号のマルチパスを低減することができる。
【0020】
一方、周波数フィルタの周波数帯域幅が狭くなると、受信信号のピークの先鋭度は鈍化するが、受信信号にノイズが混入しにくくなる。その結果、耐ノイズ性能は向上する。
このように、搬送波周波数の同じ測位信号を異なる周波数帯域幅の周波数フィルタで受信処理することにより、受信状態または要求性能に応じて、受信信号の検出精度または耐ノイズ性能のいずれかを選択できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図に基づいて説明する。
なお、本実施形態では、受信可能な測位信号として、GPSおよびGalileoの各衛星測位システムで用いられる以下の3周波5種類の測位信号を受信処理の対象とする。
【0022】
(1)GPS−L1およびGalileo−E1(共に1575.42MHz)
(2)GPS−L2(1227.6MHz)
(3)GPS−L5およびGalileo−E5a(共に1176.45MHz)
上記の(1)〜(3)の各測位信号の搬送波周波数は、何れもfo=1.023MHzの逓倍で構成されている。すなわち、上記(1)のGPS−L1およびGalileo−E1の測位信号(以下、これらを併せて単にL1とも表記する)の搬送波周波数は1540fo、上記(2)のGPS−L2の測位信号(以下、単にL2とも表記する)の搬送波周波数は1200fo、上記(3)のGPS−L5およびGalileo−E5aの測位信号(以下、これらを併せて単にL5とも表記する)の搬送波周波数は1150foで表される。
【0023】
GPSおよびGalileoでは、測位衛星が測位信号を送信する際、所定のPNコードを用いて測位信号にスペクトル拡散変調が施されている。測位衛星からの測位信号を受信した受信装置100(図1参照)は、受信した測位信号を無線周波数(RF)から中間周波数(IF)へと周波数変換する。そして、受信装置100で中間周波数に変換された測位信号に対し、信号処理部6(図1参照)は、測位信号を送信している測位衛星からの搬送波および当該測位衛星でスペクトル拡散変調に用いたPNコードを捕捉して、受信した測位信号を復調する。信号処理部6は、この復調した測位信号を用いて当該測位衛星までの擬似距離や各測位衛星の位置を算出したり、電階層遅延等の各種誤差を補正し、算出した各種データによる現在位置、速度、方位等の算出を行う。
【0024】
受信装置100が受信する測位システムは、例えば信号処理部6のROM等で設定されている。
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態による受信装置の構成を図1に示す。
【0025】
(受信装置100)
図1の受信装置100は、1チップまたは複数チップのICで構成されている。受信装置100は、アンテナ2が受信した搬送波周波数の異なる測位信号を2系統の受信処理系で中間周波数に変換し、デジタル信号として出力する。信号処理部6は、受信装置100が出力するデジタル化された測位信号を復調して測位演算を行う。受信装置100は、信号処理部6を含めてIC化されてもよい。
【0026】
受信装置100は、低雑音増幅器(LNA)102、RF増幅器110、130、位相器112、132、ミキサ114、134、複素フィルタ116、136、AGC(Automatic Gain Control)アンプ118、138、A/Dコンバータ120、140、分周器150、160、162、164、PD(Phase Detector)152、CP(Comparator)154、LPF(Low-pass filter)156、およびVCO(Voltage Controlled Oscillator)156等から構成されている。分周器160、162は特許請求の範囲に記載した「分周手段」に相当する。
【0027】
RF増幅器110、位相器112、ミキサ114、複素フィルタ116、AGCアンプ118、およびA/Dコンバータ120は一つの受信処理系を構成し、RF増幅器130、位相器132、ミキサ134、複素フィルタ136、AGCアンプ138、およびA/Dコンバータ140はもう一つの受信処理系を構成している。ミキサ114、134は、特許請求の範囲に記載した「混合手段」に相当する。
【0028】
また、PD152、CP154、LPF156および分周器150、164は、発振信号生成手段としてのVCO158が発振する基準発振信号の位相および周波数を分周器150、164の分周比に応じて固定する回路である。
【0029】
アンテナ2は、L1およびL2、またはL1およびL5に極を持ちL1およびL2、またはL1およびL5の測位信号を受信するデュアルバンドアンテナ、あるいはL1の周波数帯を1つの極としてL2とL5との両周波数帯の中間の周波数帯にもう1つの極を持つか、あるいはL1、L2、L5の各測位信号の周波数帯に極を持つトリプルバンドアンテナである。このアンテナ2により、GPS衛星およびGalileo衛星からの測位信号を受信する。
【0030】
アンテナ2で受信された各測位信号のRF信号は、LNA102によって低雑音で増幅される。LNA102は、L1およびL2、またはL1およびL5に極を持ちL1およびL2、またはL1およびL5を通過させるデュアルバンドか、あるいはL1を一つの極としてL2とL5との両周波数帯の中間の周波数帯にもう1つの極を持つトリプルバンドか、あるいは一つの極でL1、L2およびL5の周波数帯を増幅するワイドバンドでもよい。
【0031】
LNA102によって増幅された各測位信号のRF信号は、BPF(Band-pass filter)4によって帯域制限される。BPF4は、例えばSAW(Surface Acoustic Wave)フィルタ等で構成されている。BPF4は、L1およびL2またはL1およびL5の周波数帯を通過させるデュアルバンド、あるいはL1、L2、L5の各周波数帯を通過させるトリプルバンドで構成されている。
【0032】
BPF4により帯域制限された各測位信号のRF信号は、各受信処理系のRF増幅器110、130でそれぞれ増幅された後、位相器112、132により位相を90°ずらされ、ミキサ114、134により測位信号の搬送波周波数に応じた周波数の局部発振信号と混合されることによって、中間周波数に周波数変換される。
【0033】
以下、図1の第1実施形態の受信装置100でL1およびL5を受信処理する例について説明する。
ミキサ114、134でL1、L5の測位信号と混合される局部発振信号は、温度補償型の水晶発振器(Temperature Compensated Xtal Oscillator:TCXO)8が発振するリファレンスクロック(周波数:40fo)との比較周波数が十分に高くなるように設定されたVCO158が発振する基準発振信号(周波数:4632fo)を、分周器160、162でそれぞれ1/3(周波数:1544fo)、1/4(周波数:1158fo)の周波数に分周することで得られる。
【0034】
L1の測位信号は、ミキサ114において1544foの局部発振信号と混合されることにより、1540foの搬送波周波数から4foの中間周波数に周波数変換される。L5の測位信号は、ミキサ134において周波数が1158foの局部発振信号と混合されることにより、1150foの搬送波周波数から8foの中間周波数に周波数変換される。
【0035】
ミキサ114、134で中間周波数に変換された測位信号は、複素フィルタ116、136によりイメージを除去される。
複素フィルタ116、136でイメージ除去された測位信号は、AGCアンプ118、138により次のA/Dコンバータ120、140変換に必要な入力レベルまで増幅される。AGCアンプ118、138によって増幅された測位信号は、A/Dコンバータ120、140によってデジタル信号に変換され、信号処理部6に供給される。
【0036】
信号処理部6は、測位信号の拡散変調に用いられたPNコードと同一のPNコードを生成し、測位信号のスペクトル逆拡散を行う。信号処理部6は、逆拡散した測位信号の解析により、測位衛星と受信装置100との擬似距離や各測位衛星の位置の算出、電階層遅延等の各種誤差の補正、算出した各種データによる現在位置、速度、方位等の算出等の各種処理を実行する。
【0037】
上記第1実施形態では、測位信号の搬送波周波数に応じて受信処理系毎に分周器160、162の分周比を設定し、位相器112、132、ミキサ114、134および複素フィルタ116、136による1段の周波数変換処理で測位信号を中間周波数に変換している。これにより、2段以上の周波数変換処理を行う構成に比べ、耐ノイズ性能が向上する。
【0038】
さらに、測位信号の搬送周波数に応じて受信処理系毎に局部発振信号の周波数を設定するので、1段目のミキサ114、134で4foおよび8foという低い中間周波数に搬送周波数を変換できる。これにより、複素フィルタ116、136を容易にIC化できるので、受信装置100を1個または複数のチップでIC化できる。
【0039】
また、1段の周波数変換で搬送波周波数の測位信号を中間周波数に変換するので、受信装置100を小型化し、省電力化および低コスト化を実現できる。
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態による受信装置100の構成を図2に示す。図2の受信装置100において、分周器150、160、162、164の分周比の設定が異なる以外の回路構成は、図1の第1実施形態の受信装置100と実質的に同一である。
【0040】
第1実施形態に対し、図2の第2実施形態の受信装置100では、分周器160、162の分周比を切り替えることにより、L1とL2、またはL1とL5の三種類の搬送周波数の測位信号を受信処理する。
【0041】
(L1およびL2の受信処理)
図2の第2実施形態の受信装置100においてL1およびL2を受信処理する場合、ミキサ114、134で測位信号と混合される局部発振信号は、VCO158が発振する基準発振信号の周波数を10836foとし、分周器160、162でそれぞれ1/7(周波数:1548fo)、1/9(周波数:1204fo)の周波数に分周することで得ることができる。
【0042】
L1の測位信号は、ミキサ114において1548foの局部発振信号と混合されることにより、1540foの搬送波周波数から8foの中間周波数に周波数変換される。L2の測位信号は、ミキサ134において周波数が1204foの局部発振信号と混合されることにより、1200foの搬送波周波数から4foの中間周波数に周波数変換される。
【0043】
(L1およびL5の受信処理)
図2の第2実施形態の受信装置100においてL1およびL5を受信処理する場合、ミキサ114、134で測位信号と混合される局部発振信号は、VCO158が発振する基準発振信号の周波数を9288foとし、分周器160、162の分周比をそれぞれ1/6(周波数:1548fo)、1/8(周波数:1161fo)の周波数に分周することで得ることができる。
【0044】
L1の測位信号は、ミキサ114において周波数が1548foの局部発振信号と混合されることにより、1540foの搬送波周波数から8foの中間周波数に周波数変換される。L5の測位信号は、ミキサ134において周波数が1161foの局部発振信号と混合されることにより、1150foの搬送波周波数から11foの中間周波数に周波数変換される。
【0045】
ミキサ114、134で中間周波数に変換された測位信号は、複素フィルタ116、136によりイメージを除去される。このとき、分周器160、162の分周比を切り替えることによりL1とL2またはL1とL5の三種類の搬送波周波数の測位信号を受信する図2の構成では、L2またはL5の測位信号を中間周波数に変換するときに、L1の測位信号を同じ8foの中間周波数に変換するので、L1を受信処理する受信処理系の複素フィルタ116の帯域および中心周波数を変更することなく使用できる。
【0046】
一方、L2またはL5を受信処理する受信処理系では、L2とL5の中間周波数が4fo、11foと異なっている。ここで、L2の帯域幅は2MHzであり、L5の帯域幅は20MHzである。そこで、20MHzの帯域幅のL5を処理できるように複素フィルタ136の帯域幅を設定しておけば、複素フィルタ136の周波数特性を変更することなく、あるいは変更したとしても僅かな変更でL1およびL5を処理できる。これにより、L5用に複素フィルタ136の帯域幅を設定しておけば、L2を受信処理するときに極力減衰させることなくL2信号を通過させることができる。
【0047】
以上説明したように、第2実施形態では、分周器160、162の分周比を切り替えることにより、L1およびL2またはL1およびL5の三種類の搬送波周波数の測位信号を二つの受信処理系で受信処理できる。
【0048】
つまり、受信装置100の回路構成を変更することなく、異なる組み合わせの搬送周波数の測位信号を受信処理できる。また、受信処理系の数よりも多い種類の搬送周波数の測位信号を受信処理できる。
【0049】
[第3実施形態]
本発明の第3実施形態を図3に示す。図3の受信装置100においては、分周器160、162の分周比の設定値以外の回路構成は図2の第2実施形態と実質的に同一である。
【0050】
図3の受信装置100では、図2の第2実施形態のデュアルバンドのアンテナ2およびデュアルバンドのBPF4に代えて、シングルバンドのアンテナ10、20、シングルバンドのLNA12、22およびシングルバンドのBPF14、24を使用する。そして、IC内のLNA102は使用しない。
【0051】
アンテナ10、20、LNA12、22およびBPF14、24は、L1の周波数帯を1つの極とするシングルバンドである。この構成の第3実施形態では、2系統の受信処理系で同じ搬送波周波数のL1信号を受信処理する。LNA12、22は、アンテナ10、20自体に設置されているか、外付けでもよい。
【0052】
分周器160、162の分周比は1/3に設定されている。分周器162の分周比は、第1実施形態のようにL5を受信するときは1/4に設定される。
つまり、受信装置100は、回路構成を変更することなく、第2実施形態と同様にL1およびL2またはL1およびL5の三種類の搬送波周波数の測位信号を受信処理できるとともに、L1に関しては二つの受信処理系を備える構成である。
【0053】
(2系統でL1の受信処理)
二つの受信処理系で同じL1の測位信号を受信処理する場合、アンテナ10、20で受信された測位信号は、LNA12、BPF14とLNA22、BPF24との2系統でそれぞれ増幅され帯域制限される。
【0054】
ミキサ114、134でL1の測位信号と混合される局部発振信号は、図3の受信装置100においては、水晶発振器8が発振するリファレンスクロック(周波数:40fo)との比較周波数が十分に高くなるように設定されたVCO158が発振する基準発振信号(周波数:4644fo)を、分周器160、162でそれぞれ1/3(周波数:1548fo)の周波数に分周することで得られる。
【0055】
L1の測位信号は、ミキサ114、134において1548foの局部発振信号と混合されることにより、1540foの搬送波周波数から8foの中間周波数に周波数変換される。
【0056】
第3実施形態において、二つの受信処理系で同じL1の測位信号を受信処理する場合、L5の周波数帯域幅を有する受信処理系でL1の測位信号を処理するので、L5の広い周波数帯域幅を有する受信処理系で受信処理されたL1の測位信号に基づき、測位信号を高精度に検出できる。また、マルチパスによる測位誤差を低減することができる。
【0057】
(L1およびL5の受信処理)
また、第3実施形態において、L1、L5を受信処理する場合、VCO158が発振する基準発振信号(周波数:4644fo)を、分周器160、162でそれぞれ1/3(周波数:1548fo)、1/4(周波数:1161fo)の周波数に分周して局部発振信号を得ることができる。L5の測位信号は、ミキサ134において周波数が1161foの局部発振信号と混合されることにより、1150foの搬送波周波数から11foの中間周波数に周波数変換される。
【0058】
L1およびL5を受信処理する受信処理系では、L1の中間周波数が8fo、L5の中間周波数が11foと異なっている。ここで、L1の帯域幅は2MHzであり、L5の帯域幅は20MHzである。そこで、20MHzの帯域幅のL5を処理できるように複素フィルタ136の帯域幅を設定しておけば、複素フィルタ136の周波数特性を変更することなく、あるいは変更したとしても僅かな変更でL1およびL5を処理できる。
【0059】
以上説明した第3実施形態では、受信装置100の用途に応じて、L1の測位信号を二つの受信処理系で処理するか、あるいはL1およびL5の測位信号を処理するのかを選択すればよい。
【0060】
さらに、第3実施形態では、2個のアンテナ10、20から同じL1信号を受信し、二つの受信処理系で受信処理することにより、2個のアンテナ10、20の設置位置の違いから受信するL1信号に位相差が生じる。この受信信号の位相差から、車両の姿勢を検出することができる。
【0061】
[第4実施形態]
本発明の第4施形態を図4に示す。
図4に示す第4実施形態では、2個のアンテナでそれぞれL1信号を受信するのではなく、1個のアンテナ10から受信したL1信号を二つの受信処理系に分配し、二つの受信処理系で同じL1信号を受信処理する例である。
【0062】
第3実施形態に比べ、1個のアンテナ10でL1信号を受信するので、L1信号の位相差から車両の姿勢を検出することはできない。しかし、第3実施形態と同様に、L5の周波数帯域幅を有する受信処理系でL1の測位信号を処理するので、L5の周波数帯域幅を有する受信処理系で受信処理されたL1の測位信号に基づき、測位信号を高精度に検出できる。また、マルチパスによる測位誤差を低減することができる。
【0063】
第4実施形態において、L1、L5を受信処理する場合は、シングルバンドのBPFをデュアルバンドのBPFに代えればよい。
[他の実施形態]
上記実施形態では、二つの受信処理系で測位信号を受信処理する例について説明した。これに対し、受信処理系は二つに限らず三つ以上でもよい。この場合、二つの受信処理系で同じ搬送波周波数の測位信号を受信処理し、他の受信処理系でそれとは異なる搬送波周波数の測位信号を受信処理してもよい。
【0064】
3種類の搬送周波数の測位信号を受信装置100で受信処理する場合、高精度な測位結果が得られる搬送波測位を実施できる。
このように、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】第1実施形態の受信装置を示すブロック図。
【図2】第2実施形態の受信装置を示すブロック図。
【図3】第3実施形態の受信装置を示すブロック図。
【図4】第4実施形態の受信装置を示すブロック図。
【符号の説明】
【0066】
2、10、20:アンテナ、4、14、24:BPF、6:信号処理部、100:受信装置(衛星測位用受信装置)、114、134:ミキサ(混合手段)、116、136:複素フィルタ、158:VCO(発振信号生成手段)、160、162:分周器(分周手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
衛星測位システムで用いられる測位衛星から送信される測位信号の受信処理を複数の受信処理系で行う衛星測位用受信装置において、
所定周波数の基準発振信号を生成する発振信号生成手段と、
前記発振信号生成手段により生成された前記基準発振信号を、前記受信処理系毎に前記測位信号の搬送波周波数に応じて分周し局部発振信号を生成する分周手段と、
前記受信処理系毎に設けられ、前記局部発振信号と前記測位信号とをそれぞれ混合することにより前記測位信号を1段で中間周波数に変換する混合手段と、
を備えることを特徴とする衛星測位用受信装置。
【請求項2】
前記分周手段は、複数の前記受信処理系のうち少なくとも一つの前記受信処理系に対し、前記測位信号の前記搬送波周波数に応じて前記基準発振信号を分周する分周比を切り替えることを特徴とする請求項1に記載の衛星測位用受信装置。
【請求項3】
少なくとも二つの前記受信処理系で受信処理される前記測位信号の前記搬送波周波数は異なっており、
前記分周手段は、前記搬送波周波数の異なる前記測位信号を受信処理する前記受信処理系に対し分周比を変えて前記局部発振信号を生成することを特徴とする請求項1または2に記載の衛星測位用受信装置。
【請求項4】
複数のアンテナが受信した同じ前記搬送波周波数の前記測位信号を前記アンテナと同数の前記受信処理系が入力し、
前記分周手段は、前記搬送波周波数の同じ前記測位信号を受信処理する前記受信処理系に対し同じ周波数に分周した前記局部発振信号を生成することを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の衛星測位用受信装置。
【請求項5】
前記受信処理系に設置された周波数フィルタをさらに備え、
少なくとも二つの前記受信処理系は前記搬送波周波数の同じ前記測位信号を入力し、
前記分周手段は、前記搬送波周波数の同じ前記測位信号を受信処理する前記受信処理系に対し同じ周波数に分周した前記局部発振信号を生成し、
前記搬送波周波数の同じ前記測位信号を処理する前記受信処理系において、少なくとも一つの前記受信処理系に設置された前記周波数フィルタの周波数帯域幅は他の前記受信処理系に設置された前記周波数フィルタの周波数帯域幅よりも広いことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の衛星測位用受信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−92473(P2009−92473A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−262228(P2007−262228)
【出願日】平成19年10月5日(2007.10.5)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】