説明

衝撃吸収部材およびその製造方法

【課題】荷重低減対象部位の荷重を簡単に小さくすることが可能な衝撃吸収部材およびその製造方法を提供することを課題とする。
【解決手段】衝撃吸収部材1は、長尺状であって短手方向断面形状が長手方向全長に亘り略同一の衝撃吸収体2と、衝撃吸収体2の荷重低減対象部位に配置される荷重低減孔3と、を備えてなる。荷重低減孔3が配置されているため、荷重低減対象部位の荷重を小さくすることができる。また、荷重低減孔3を配置するという比較的簡単な作業により、荷重低減対象部位の荷重を小さくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、衝突時の衝撃を吸収して車両の乗員や歩行者等を保護する衝撃吸収部材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1、特許文献2には、車両のバンパービームやルーフサイドインナパネルに取り付けられる長尺状の衝撃吸収部材が紹介されている。衝撃吸収部材は、衝突時のエネルギーを自身が変形することにより吸収する。このため、衝撃吸収部材をバンパービームに配置すると、衝突時に歩行者(自転車やバイクなどの運転者を含む。以下同じ。)に加わる衝撃を軽減することができる。また、衝撃吸収部材をルーフサイドインナパネルに配置すると、衝突時に車両の乗員に加わる衝撃を軽減することができる。
【特許文献1】特開2006−62635号公報
【特許文献2】特開2007−118931号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1、特許文献2に記載の長尺状の衝撃吸収部材は、例えば特許文献1の段落[0035]や特許文献2の段落[0039]に記載されているように、押出成形により作製されている。このため、特許文献1、特許文献2に記載の衝撃吸収部材の短手方向断面形状は、長手方向全長に亘って同一である。しかしながら、これらの文献に記載の衝撃吸収部材の荷重(詳しくは衝突対象物が衝撃吸収部材に衝突した場合に衝撃吸収部材から衝突対象物に加わる反力)分布は、長手方向全長に亘って均一ではない。
【0004】
例えば、衝撃吸収部材の長手方向中央部は、当該中央部の長手方向両側に隣接する部分により拘束されている。このため、変形しにくい。したがって、長手方向中央部の荷重は大きくなる。これに対して、衝撃吸収部材の長手方向両端部は、各々、長手方向に隣接する部分が片側にしか存在しない。すなわち、左端部に対しては右側にしか、右端部に対しては左側にしか、隣接する部分が存在しない。このため、変形しやすい。したがって、長手方向両端部の荷重は小さくなる。
【0005】
このように、特許文献1、特許文献2に記載の長尺状の衝撃吸収部材の場合、長手方向中央部の荷重が大きく、長手方向両端部の荷重が小さくなる。このため、歩行者や乗員が衝撃吸収部材の長手方向中央部に衝突した場合は、大きな反力を衝撃吸収部材から受けることになる。一方、歩行者や乗員が衝撃吸収部材の長手方向両端部に衝突した場合は、小さな反力を衝撃吸収部材から受けることになる。したがって、例えば、長手方向中央部の荷重を歩行者や乗員を保護するのに適した荷重値に設定すると、長手方向両端部の荷重が不足することになる。一方、長手方向両端部の荷重を歩行者や乗員を保護するのに適した荷重値に設定すると、長手方向中央部の荷重が過剰に大きくなってしまう。
【0006】
ここで、衝撃吸収部材の壁部の肉厚を部分的に調整することにより、長手方向の荷重分布の不均一を抑制することも考えられる。すなわち、衝撃吸収部材の長手方向両端部の壁部の肉厚を長手方向中央部の壁部の肉厚よりも大きくすることにより、長手方向の荷重分布の不均一を抑制することも考えられる。
【0007】
しかしながら、長尺状の衝撃吸収部材は、押出成形により作製される場合が多い。この場合、衝撃吸収部材の短手方向断面形状は、衝撃吸収部材の長手方向全長に亘り略同一になる。すなわち、壁部の肉厚も、衝撃吸収部材の長手方向全長に亘り略同一になる。したがって、壁部の肉厚の調整は、衝撃吸収部材の押出成形後に行うことになる。具体的には、押出成形後の衝撃吸収部材の長手方向中央部の壁部の肉厚を小さくするために、長手方向中央部の壁部を研削する必要がある。ところが、当該研削作業は煩雑である。
【0008】
本発明の衝撃吸収部材およびその製造方法は、上記課題に鑑みて完成されたものである。したがって、本発明は、例えば長手方向中央部など所望の荷重低減対象部位の荷重を、簡単に小さくすることが可能な衝撃吸収部材およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)上記課題を解決するため、本発明の衝撃吸収部材は、長尺状であって短手方向断面形状が長手方向全長に亘り略同一の衝撃吸収体と、該衝撃吸収体の荷重低減対象部位に配置される荷重低減孔と、を備えてなることを特徴とする(請求項1に対応)。
【0010】
ここで、「荷重低減対象部位」とは、衝撃吸収体において、荷重を小さくする必要がある部位をいう。例えば、他の部位と比較して荷重が大きい部位をいう。「荷重低減対象部位」には、衝撃吸収部材をバンパーに配置する場合は、バンパーフェイシアのヘッドライト取付部位近傍が挙げられる。その理由は、ヘッドライトを取り付けるため、ヘッドライト取付部位近傍の強度は予め高く設定されているからである。
【0011】
また、「荷重低減対象部位」には、衝撃吸収部材をバンパーに配置する場合であって、かつバンパーフェイシアに段差が設けられている場合は、当該段差近傍が挙げられる。その理由は、段差を構成する壁部のリブ効果により当該段差近傍の強度は高くなるからである。
【0012】
本発明の衝撃吸収部材の衝撃吸収体の荷重低減対象部位には、荷重低減孔が配置されている。このため、荷重低減対象部位の荷重を小さくすることができる。また、荷重低減孔を配置するという比較的簡単な作業により、荷重低減対象部位の荷重を小さくすることができる。
【0013】
特に好ましくは、荷重低減孔の孔縁から、荷重低減孔の開口の面展開方向に対して略垂直方向に、リブ等が立設されていない構成とする方がよい。その理由は、孔縁にリブ等を配置すると、却って荷重低減対象部位の荷重が大きくなりやすいからである。
【0014】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記荷重低減対象部位は、前記衝撃吸収体の長手方向中央部である構成とする方がよい(請求項2に対応)。前述したように、長手方向中央部の荷重は、長手方向両端部と比較して、大きくなる。このため、衝撃吸収体の荷重分布は、長手方向全長に亘って均一ではない。
【0015】
この点、本構成によると、荷重低減孔を配置することにより、長手方向中央部の荷重を小さくすることができる。このため、長手方向中央部の荷重と長手方向両端部の荷重との較差を小さくすることができる。したがって、衝撃吸収体の長手方向の荷重分布の不均一を、抑制することができる。
【0016】
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記衝撃吸収体は、アウター筒部と、衝突時の荷重入力方向に対して略垂直方向に面展開すると共に該アウター筒部の内面間を連結し衝突時に引張変形する複数のインナーリブと、を有し、前記荷重低減孔は、該アウター筒部に穿設されている構成とする方がよい(請求項3に対応)。
【0017】
本構成の衝撃吸収体によると、インナーリブが引張変形することにより、衝突時のエネルギーの一部が消費される。このため、衝突初期の荷重が急激に大きくなりにくい。したがって、衝突初期に大きな荷重が衝突対象物(例えば乗員や歩行者など)に加わるのを抑制することができる。また、インナーリブの引張変形は、衝突初期から終期に亘り、継続的に行われる。このため、衝突初期に立ち上がった荷重が、その後低下しにくい。したがって、効率よく衝突時のエネルギーを吸収することができる。
【0018】
また、本構成によると、荷重低減孔がインナーリブに配置されていない。このため、インナーリブが引張変形する際、荷重低減孔の孔縁を起点にインナーリブが破断するのを防止することができる。
【0019】
(4)好ましくは、上記(3)の構成において、前記アウター筒部は、荷重が入力される入力壁部と、該荷重を隣接部材に出力すると共に該入力壁部に対して略平行に配置される出力壁部と、該入力壁部と該出力壁部との間を連結する一対の連結壁部と、を有し、前記インナーリブは、該入力壁部および該出力壁部に対して略平行になるように、一対配置されており、一対の該インナーリブは、各々、一対の該連結壁部の内面間を連結しており、前記荷重低減孔は、該入力壁部および該出力壁部に穿設されている構成とする方がよい(請求項4に対応)。
【0020】
本構成の荷重低減孔は、入力壁部および出力壁部に穿設されている。これら入力壁部および出力壁部は、荷重入力方向に対して略垂直方向に面展開している。このため、本構成によると、より効果的に荷重低減対象部位の荷重を小さくすることができる。例えば、荷重低減孔の開口面積が小さくても、荷重低減対象部位の荷重を小さくすることができる。
【0021】
(5)好ましくは、上記(1)ないし(4)のいずれかの構成において、前記荷重低減孔の孔径は、前記衝撃吸収体の短手方向全長を100%とした場合、0%超過90%以下に設定されている構成とする方がよい(請求項5に対応)。
【0022】
ここで、孔径を90%以下にしたのは、90%超過の場合、衝撃吸収体の短手方向全長に対して荷重低減孔が過度に大きくなり、荷重が極端に小さくなってしまうからである。すなわち、荷重低減対象部位の荷重のセッティングが困難になるからである。
【0023】
より好ましくは、荷重低減孔の孔径を、衝撃吸収体の短手方向全長を100%とした場合、80%以下に設定する方がよい。こうすると、さらに荷重低減対象部位の荷重のセッティングが簡単になる。
【0024】
(6)好ましくは、上記(1)ないし(5)のいずれかの構成において、前記荷重低減孔は、複数配置されており、前記衝撃吸収体の前記長手方向に隣接する一対の該荷重低減孔の最も近接する部位同士の間隔は、0mm超過80mm以下に設定されている構成とする方がよい(請求項6に対応)。
ここで、隣接する荷重低減孔同士の間隔を80mm以下にしたのは、80mm超過の場合、間隔が過剰に大きくなり、荷重低減対象部位の荷重が小さくなりにくいからである。より好ましくは、衝撃吸収体の長手方向に隣接する一対の荷重低減孔同士の間隔を、50mm以下に設定する方がよい。こうすると、さらに荷重低減対象部位の荷重のセッティングが簡単になる。
【0025】
(7)また、上記課題を解決するため、本発明の衝撃吸収部材の製造方法は、最も強度が必要な部位に合わせた短手方向断面形状を有する衝撃吸収体を押出成形により作製する押出成形工程と、該衝撃吸収体の荷重低減対象部位に荷重低減孔を配置する孔配置工程と、を有することを特徴とする(請求項7に対応)。
【0026】
本発明の衝撃吸収部材の製造方法は、押出成形工程と孔配置工程とを有している。押出成形工程においては、押出成形により衝撃吸収体を作製する。このため、衝撃吸収体の短手方向断面形状は、長手方向全長に亘り略同一になる。ここで、短手方向断面形状は、衝撃吸収体長手方向において、最も強度が必要な部位に合わせて設定される。
【0027】
孔配置工程においては、荷重低減対象部位に荷重低減孔が配置される。すなわち、押出成形工程において作製される衝撃吸収体の短手方向断面形状は、上述したように、最も強度が必要な部位に合わせて設定されている。このため、当該部位と比較して強度を要しない部位にとっては、荷重が過度に大きくなってしまう。そこで、本工程においては、荷重低減対象部位に荷重低減孔を配置することにより、荷重を小さくしている。
【0028】
このように、本発明の衝撃吸収部材の製造方法によると、荷重低減対象部位の荷重を簡単に小さくすることができる。また、最初に衝撃吸収体の短手方向断面形状を最も強度が必要な部位に合わせて設定し、次に荷重低減対象部位に荷重低減孔を配置することにより、衝撃吸収体の長手方向全長に亘る荷重分布を、自在にセッティングすることができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によると、例えば長手方向中央部など所望の荷重低減対象部位の荷重を、簡単に小さくすることが可能な衝撃吸収部材およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の衝撃吸収部材およびその製造方法の実施の形態について説明する。
【0031】
<第一実施形態>
[衝撃吸収部材の配置]
まず、本実施形態の衝撃吸収部材の配置について説明する。図1に、本実施形態の衝撃吸収部材が配置された車両のフロントバンパー付近の透過斜視図を示す。なお、図1から図4において、方位(左右)は車両後方から前方を見た場合を基準に定義する。
【0032】
図1に示すように、車両9のフロントバンパー90は、バンパーフェイシア900とバンパービーム901とクラッシュボックス902とを備えている。衝撃吸収部材1は、バンパービーム901の前面に配置されている。なお、バンパービーム901は、本発明の隣接部材に含まれる。
【0033】
バンパービーム901は、アルミ合金製であって、長尺の四角筒状を呈している。バンパービーム901は、車幅方向(左右方向)に延設されている。
【0034】
クラッシュボックス902は、アルミ合金製であって、後方に向かって開口する箱状を呈している。クラッシュボックス902は、車幅方向に離間して、合計二つ配置されている。一対のクラッシュボックス902は、各々フロントサイドメンバ903の前端に、開口が伏せられた状態で、固定されている。一対のクラッシュボックス902の前壁には、バンパービーム901の左右両端部が、各々固定されている。
【0035】
バンパーフェイシア900は、オレフィン系樹脂製であって、長尺状を呈している。バンパーフェイシア900は、車幅方向に延在している。バンパーフェイシア900は、バンパービーム901および衝撃吸収部材1を前方から覆っている。
【0036】
[衝撃吸収部材の構成]
次に、本実施形態の衝撃吸収部材1の構成について説明する。図2に、図1のII−II断面図を示す。図2および前出図1に示すように、本実施形態の衝撃吸収部材1は、衝撃吸収体2と荷重低減孔3とを備えている。
【0037】
衝撃吸収体2は、バンパービーム901の前面に沿って、左右方向に延在している。衝撃吸収体2は、バンパービーム901の前面に、接着剤により固定されている。衝撃吸収体2は、アウター筒部20と、前後一対のインナーリブ21と、を備えている。
【0038】
アウター筒部20は、略八角形筒状を呈している。アウター筒部20は、入力壁部200と出力壁部201と一対の連結壁部202とを備えている。入力壁部200は、平板状であって、アウター筒部20の前縁に配置されている。出力壁部201は、平板状であって、アウター筒部20の後縁に配置されている。出力壁部201は、入力壁部200に対して略平行に配置されている。一対の連結壁部202のうち、上方の連結壁部202は、上方に膨出する弧板状であって、入力壁部200上縁と出力壁部201上縁とを連結している。一対の連結壁部202のうち、下方の連結壁部202は、下方に膨出する弧板状であって、入力壁部200下縁と出力壁部201下縁とを連結している。
【0039】
一対のインナーリブ21は、各々左右方向に延在する板状を呈している。一対のインナーリブ21は、各々、アウター筒部20の内部に配置されている。一対のインナーリブ21は、一対の連結壁部202内面間を連結している。一対のインナーリブ21は、入力壁部200および出力壁部201に対して、略平行に配置されている。
【0040】
荷重低減孔3は、真円形であって、アウター筒部20の入力壁部200および出力壁部201に穿設されている。荷重低減孔3は、入力壁部200において、上下二列(15個/列×2列)に配置されている。これら合計30個の荷重低減孔3は、入力壁部200の左右方向中央部を含んで、配置されている。同様に、荷重低減孔3は、出力壁部201において、上下二列(15個/列×2列)に配置されている。これら合計30個の荷重低減孔3は、出力壁部201の左右方向中央部を含んで、配置されている。
【0041】
[衝撃吸収部材の製造方法]
次に、本実施形態の衝撃吸収部材1の製造方法について説明する。本実施形態の衝撃吸収部材1の製造方法は、押出成形工程と孔配置工程とを有している。まず、押出成形工程について説明する。押出成形工程においては、まず、原料樹脂(商品名「UBEナイロン6」(宇部興産株式会社製、品番「1013IU50」))を押出成形機に投入し、長尺状の押出成形材を作製する。押出成形材の短手方向断面形状は、衝撃吸収体2の長手方向において、最も強度が必要である長手方向両端部に合わせてセッティングされている。続いて、押出成形材を所定の寸法に切断する。それから、切断した押出成形材を、バンパービーム901前面の形状に沿うように、所定の湾曲形状に成形加工する。このようにして、衝撃吸収体2が作製される。
【0042】
次に、孔配置工程について説明する。孔配置工程においては、衝撃吸収体2の入力壁部200および出力壁部201の長手方向中央部を含む所定部位に、荷重低減孔3を多数穿設する。このようにして、本実施形態の衝撃吸収部材1は製造される。
【0043】
[衝撃吸収部材の動き]
次に、本実施形態の衝撃吸収部材1の衝突時の動きについて説明する。車両9のバンパーフェイシア900左右方向中央部に歩行者が衝突する場合、図2中、白抜き矢印で示すように、前方から後方に向かって、荷重が入力される。入力された荷重は、バンパーフェイシア900を介して、衝撃吸収体2に伝達される。衝撃吸収体2は、バンパーフェイシア900とバンパービーム901との間で、前後方向から押しつぶされるように変形する。この際、衝撃吸収体2のアウター筒部20は、上下方向に膨出するように変形する。このため、インナーリブ21には、上下方向から張力が加わる。当該張力により、インナーリブ21は、引張変形する。
【0044】
衝撃吸収体2の入力壁部200および出力壁部201には、多数の荷重低減孔3が穿設されている。このため、荷重低減孔3が穿設されていない場合と比較して、入力壁部200および出力壁部201の強度は低い。したがって、入力壁部200および出力壁部201は、比較的簡単に変形する。このようにして、本実施形態の衝撃吸収部材1は、衝突時の衝撃を吸収している。なお、本発明の衝撃吸収部材の衝突時の変形過程については、後述する実施例で詳しく説明する。
【0045】
[作用効果]
次に、本実施形態の衝撃吸収部材1の作用効果について説明する。本実施形態の衝撃吸収部材1によると、インナーリブ21が引張変形することにより、衝突時のエネルギーの一部が消費される。このため、衝突初期の荷重が急激に大きくなりにくい。したがって、衝突初期に大きな荷重が衝突対象物(例えば乗員や歩行者など)に加わるのを抑制することができる。また、インナーリブ21の引張変形は、衝突初期から終期に亘り、継続的に行われる。このため、衝突初期に立ち上がった荷重が、その後低下しにくい。したがって、効率よく衝突時のエネルギーを吸収することができる。
【0046】
また、本実施形態の衝撃吸収部材1によると、衝撃吸収体2が「UBEナイロン6」製である。「UBEナイロン6」は、曲げ弾性率が1GPa以上、引張破断伸びが100%以上、引張降伏応力が15MPa以上であるため、衝撃吸収体2の材質として特に好適である。また、衝撃吸収体2は、押出成形により製造される。押出成形は、長尺物の製造に有利であるため、衝撃吸収体2の成形方法として特に好適である。
【0047】
また、荷重低減孔3が配置されていない衝撃吸収体2の場合、左右方向中央部の荷重は、左右両端部と比較して、大きくなる。このため、衝撃吸収体2の荷重分布は、左右方向全長に亘って均一ではない。
【0048】
この点、本実施形態の衝撃吸収部材1によると、衝撃吸収体2の左右方向中央部を含む区間に、荷重低減孔3が配置されている。このため、左右方向中央部の荷重を小さくすることができる。したがって、左右方向中央部の荷重と左右両端部の荷重との較差を小さくすることができる。すなわち、衝撃吸収体2の荷重分布の不均一を抑制することができる。また、穿孔という簡単な作業により、衝撃吸収体2の荷重分布を調整することができる。
【0049】
また、本実施形態の衝撃吸収部材1によると、荷重低減孔3がインナーリブ21に配置されていない。このため、インナーリブ21が引張変形する際、荷重低減孔3の孔縁を起点にインナーリブ21が破断するのを防止することができる。
【0050】
また、本実施形態の衝撃吸収部材1によると、荷重低減孔3が入力壁部200および出力壁部201に穿設されている。これら入力壁部200および出力壁部201は、荷重入力方向(前後方向)に対して略垂直方向(上下左右方向)に面展開している。このため、より効果的に左右方向中央部の荷重を小さくすることができる。
【0051】
また、本実施形態の衝撃吸収部材1によると、荷重低減孔3の孔径は、衝撃吸収体2の上下方向全長を100%とした場合、0%超過90%以下になるように設定されている。このため、衝撃吸収体2の左右方向中央部の荷重の調整が簡単である。
【0052】
また、本実施形態の衝撃吸収部材1によると、左右方向に隣接する一対の荷重低減孔3の最も近接する部位同士の間隔が、0mm超過80mm以下に設定されている。この点においても、衝撃吸収体2の左右方向中央部の荷重の調整が簡単である。
【0053】
また、本実施形態の衝撃吸収部材1の製造方法によると、衝撃吸収体2の長手方向(左右方向)中央部の荷重を簡単に小さくすることができる。また、最初に衝撃吸収体2の短手方向(上下前後方向)断面形状を最も強度が必要である長手方向両端部に合わせて設定し、次に衝撃吸収体2の長手方向中央部に荷重低減孔3を穿設しているため、衝撃吸収体2の長手方向全長に亘る荷重分布を、自在にセッティングすることができる。
【0054】
<第二実施形態>
本実施形態の衝撃吸収部材およびその製造方法と第一実施形態の衝撃吸収部材およびその製造方法との相違点は、衝撃吸収部材がバンパービームではなくルーフサイドレール部に配置されている点である。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0055】
図3に、本実施形態の衝撃吸収部材が配置されている車室内の斜視図を示す。なお、図1と対応する部位については同じ符号で示す。図3に示すように、車室内の天井には、樹脂製のルーフライニング8が配置されている。衝撃吸収部材1(図3中、ハッチングで示す。)は、ルーフライニング8内部の左右縁に、各々、前後に二列ずつ、収容されている。すなわち、衝撃吸収部材1は、ルーフライニング8内部に、合計四列配置されている。
【0056】
以下、ルーフライニング8内部右前の衝撃吸収部材1の、配置および構成について説明する。残りの三列の衝撃吸収部材1の配置および構成も、右前に配置された衝撃吸収部材1と同様である。したがって、ここでは説明を割愛する。
【0057】
図4に、図3のIV−IV断面図を示す。なお、図2と対応する部位については同じ符号で示す。図4に示すように、ルーフライニング8上方には、所定間隔だけ離間して、鋼製のルーフパネル80が配置されている。ルーフパネル80は、車両9の外郭を形成している。ルーフライニング8とルーフパネル80との間には、鋼製であって高剛性のルーフサイドレール部81が介装されている。ルーフサイドレール部81は、本発明の隣接部材に含まれる。衝撃吸収部材1は、当該ルーフサイドレール部81の下面に、接着剤により固定されている。
【0058】
本実施形態の衝撃吸収部材1およびその製造方法は、構成が共通する部分については、第一実施形態の衝撃吸収部材およびその製造方法と同様の作用効果を有する。また、本実施形態の衝撃吸収部材1によると、衝突時に乗員の頭部に加わる衝撃を吸収することができる。
【0059】
<その他>
以上、本発明の衝撃吸収部材およびその製造方法の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0060】
例えば、衝撃吸収体2の形状は特に限定しない。三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形状としてもよい。また、真円形、楕円形、半円形などとしてもよい。また、衝撃吸収体2の材質も特に限定しない。PA(ポリアミド)、PC(ポリカーボネート)、PC/PBT(ポリブチレンテレフタレート)アロイ、PC/PET(ポリエチレンテレフタレート)アロイ、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)等を使用することができる。また、衝撃吸収体2の成形方法も特に限定しない。射出成形、ブロー成形などを用いてもよい。
【0061】
また、荷重低減孔3の形状も特に限定しない。楕円形、半円形などとしてもよい。また、三角形、四角形、五角形、六角形などの多角形状としてもよい。また、荷重低減孔3の大きさ、配置数も特に限定しない。また、荷重低減孔3の配置方法も特に限定しない。穿設の他、衝撃吸収体2の成形と同時に荷重低減孔3を配置してもよい。
【0062】
また、衝撃吸収部材1の配置場所も特に限定しない。乗員保護の観点からは、車室内に表出する部材の裏側に配置すればよい。例えば、フロントピラー、センターピラー、フロントドアトリム、リヤドアトリム、インストルメントパネルなどの裏側に配置すればよい。また、歩行者保護の観点からは、歩行者が衝突しやすい部材の裏側に配置すればよい。例えば、リヤバンパー、サイドモールディングなどの裏側に配置すればよい。また、これら表出する部材の裏側のみならず、勿論、表側に配置してもよい。
【実施例】
【0063】
以下、本発明の衝撃吸収部材について行ったストライカー衝突実験について説明する。
【0064】
<サンプル>
[実施例サンプル]
まず、実施例サンプルについて説明する。図5に、ストライカー衝突実験の模式図を示す。図6に、実施例サンプルの斜視図を示す。図7に、実施例サンプルの上面図を示す。図8に、図7のVIII−VIII断面図を示す。なお、これらの図において、図2と対応する部位については同じ符号で示す。図5〜図8に示すように、実施例サンプル7と第一実施形態の衝撃吸収部材とは、荷重低減孔3の大きさ、配置数、配置区間の大きさ以外は、略一致している。
【0065】
図7に示すように、実施例サンプル7の左右方向全長L1は、600mmである。また、入力壁部200において、最も左側に配置される荷重低減孔3の中心から最も右側に配置される荷重低減孔3の中心までの区間、つまり孔配置区間の全長L2は、300mmである。また、入力壁部200において、孔配置区間の左右方向中央と衝撃吸収体2の左右方向中央とは、一致している。また、入力壁部200において、左右方向に隣り合う任意の一対の荷重低減孔3の中心同士の間隔、つまり荷重低減孔3の左右方向ピッチL3は、25mmである。また、入力壁部200において、前後方向に隣り合う二列の荷重低減孔3の中心同士の間隔、つまり荷重低減孔3の列間距離L4は、28mmである。また、入力壁部200における荷重低減孔3の孔径φは、13.5mmである。また、左右方向に隣り合う任意の一対の荷重低減孔3の孔縁同士(最も近接する部位同士)の間隔は、11.5mm(=L3−2×φ/2)である。
【0066】
なお、出力壁部201における荷重低減孔3の配置、大きさ等は、上記入力壁部200における配置、大きさ等と同様である。すなわち、入力壁部200の荷重低減孔3と出力壁部201の荷重低減孔3とは、上下方向に対向している。したがって、ここでは説明を割愛する。
【0067】
図8に示すように、一対のインナーリブ21の前後方向長さW1は、共に109mmである。また、連結壁部202における入力壁部200と上方のインナーリブ21との間の区間の長さW2は、40mmである。また、入力壁部200の前後方向長さW3は、60mmである。また、出力壁部201の前後方向長さW4は、40mmである。また、連結壁部202における上下一対のインナーリブ21間の区間の長さW5は、40mmである。
【0068】
また、上方のインナーリブ21の肉厚T1は、0.5mmである。また、下方のインナーリブ21の肉厚T2は、0.7mmである。また、連結壁部202における入力壁部200と上方のインナーリブ21との間の区間の肉厚T3は、3mmである。また、連結壁部202における出力壁部201と下方のインナーリブ21との間の区間の肉厚T4は、3.5mmである。また、入力壁部200の肉厚T5は、3.5mmである。また、出力壁部201の肉厚T6は、4mmである。また、連結壁部202における上下一対のインナーリブ21間の区間の肉厚T7は、3mmである。
【0069】
[比較例サンプル]
次いで、比較例サンプルについて説明する。比較例サンプルは、上記実施例サンプル7から荷重低減孔3を除去したものである。すなわち、実施例サンプル7の衝撃吸収体2のみを、比較例サンプルとした。
【0070】
<実験方法>
前出図5に示すように、ストライカー6は、剛体であって、直径Φ100mm、全長1mの円柱状を呈している。ストライカー6の質量は、26.5kgである。当該ストライカー6を、実施例サンプル7および比較例サンプルに対して、互いの長手方向同士が直交するように、衝突させた。ストライカー6の衝突速度は、16km/hとした。
【0071】
図9に、実施例サンプル7の左右方向中央部にストライカー6を衝突させた場合の様子を示す。図9(a)は衝突初期を、図9(b)は衝突中期を、図9(c)は衝突終期を、それぞれ示す。図9(a)〜(c)に示すように、実施例サンプル7は、上方のストライカー6と下方のテーブル5との間で、押しつぶされる。衝撃吸収体2のインナーリブ21は、衝突時の荷重により、前後方向に引張変形する。
【0072】
衝撃吸収体2の入力壁部200および出力壁部201の左右方向中央部を含む区間には、各々、荷重低減孔3が穿設されている。このため、入力壁部200は、比較的簡単に下方に没入変形する。また、一対の連結壁部202は、比較的簡単に前後方向に膨出変形する。
【0073】
<実験結果>
図10に、実施例サンプル7の所定の衝突位置(前出図5参照)における変位と荷重との関係を示す。ここで、変位とは、ストライカー6が衝突した場合の衝突位置の下方向の変位をいう。荷重とは、ストライカー6が衝突した場合の衝突位置に加わる荷重(=ストライカー6が衝突位置から受ける反力)をいう。
【0074】
図10に示すように、衝突位置に因らず、変位に対する荷重は、あまり変わらないことが判る。すなわち、衝突位置300mm(左右方向中央)から衝突位置150mmまでの孔配置区間L2(前出図7参照)の荷重と、衝突位置125mm、衝突位置100mm、衝突位置75mm、衝突位置50mmの荷重とは、大差ないことが判る。
【0075】
図11に、実施例サンプル7と比較例サンプルの衝突位置と最大荷重との関係を示す。図11に示すように、実施例サンプル7の方が比較例サンプルよりも最大荷重が小さいことが判る。また、衝突位置に因る最大荷重のばらつきは小さいことが判る。
【0076】
図12に、実施例サンプル7と比較例サンプルの衝突位置とエネルギー量との関係を示す。図12に示すように、実施例サンプル7の方が比較例サンプルよりも吸収するエネルギー量が小さいことが判る。また、衝突位置に因るエネルギー量のばらつきは小さいことが判る。これら図11、図12から、実施例サンプル7によると、比較例サンプルと比較して、衝撃吸収体2のいかなる部位にストライカー6が衝突しても、より均一な衝撃吸収性能を確保できることが判る。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】第一実施形態の衝撃吸収部材が配置された車両のフロントバンパー付近の透過斜視図である。
【図2】図1のII−II断面図である。
【図3】第二実施形態の衝撃吸収部材が配置されている車室内の斜視図である。
【図4】図3のIV−IV断面図である。
【図5】ストライカー衝突実験の模式図である。
【図6】実施例サンプルの斜視図である。
【図7】実施例サンプルの上面図である。
【図8】図7のVIII−VIII断面図である。
【図9】(a)は実施例サンプルの左右方向中央部にストライカーを衝突させた場合の衝突初期の模式図である。(b)は同じ場合の衝突中期の模式図である。(c)は同じ場合の衝突終期の模式図である。
【図10】実施例サンプルの所定の衝突位置における変位と荷重との関係を示すグラフである。
【図11】実施例サンプルと比較例サンプルの衝突位置と最大荷重との関係を示すグラフである。
【図12】実施例サンプルと比較例サンプルの衝突位置とエネルギー量との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0078】
1:衝撃吸収部材。
2:衝撃吸収体、20:アウター筒部、21:インナーリブ、200:入力壁部、201:出力壁部、202:連結壁部。
3:荷重低減孔。
5:テーブル。
6:ストライカー。
7:実施例サンプル。
8:ルーフライニング、80:ルーフパネル、81:ルーフサイドレール部(隣接部材)。
9:車両、90:フロントバンパー、900:バンパーフェイシア、901:バンパービーム(隣接部材)、902:クラッシュボックス、903:フロントサイドメンバ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺状であって短手方向断面形状が長手方向全長に亘り略同一の衝撃吸収体と、
該衝撃吸収体の荷重低減対象部位に配置される荷重低減孔と、
を備えてなる衝撃吸収部材。
【請求項2】
前記荷重低減対象部位は、前記衝撃吸収体の長手方向中央部である請求項1に記載の衝撃吸収部材。
【請求項3】
前記衝撃吸収体は、アウター筒部と、衝突時の荷重入力方向に対して略垂直方向に面展開すると共に該アウター筒部の内面間を連結し衝突時に引張変形する複数のインナーリブと、を有し、
前記荷重低減孔は、該アウター筒部に穿設されている請求項1または請求項2に記載の衝撃吸収部材。
【請求項4】
前記アウター筒部は、荷重が入力される入力壁部と、該荷重を隣接部材に出力すると共に該入力壁部に対して略平行に配置される出力壁部と、該入力壁部と該出力壁部との間を連結する一対の連結壁部と、を有し、
前記インナーリブは、該入力壁部および該出力壁部に対して略平行になるように、一対配置されており、
一対の該インナーリブは、各々、一対の該連結壁部の内面間を連結しており、
前記荷重低減孔は、該入力壁部および該出力壁部に穿設されている請求項3に記載の衝撃吸収部材。
【請求項5】
前記荷重低減孔の孔径は、前記衝撃吸収体の短手方向全長を100%とした場合、0%超過90%以下に設定されている請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
【請求項6】
前記荷重低減孔は、複数配置されており、
前記衝撃吸収体の前記長手方向に隣接する一対の該荷重低減孔の最も近接する部位同士の間隔は、0mm超過80mm以下に設定されている請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の衝撃吸収部材。
【請求項7】
最も強度が必要な部位に合わせた短手方向断面形状を有する衝撃吸収体を押出成形により作製する押出成形工程と、
該衝撃吸収体の荷重低減対象部位に荷重低減孔を配置する孔配置工程と、
を有する衝撃吸収部材の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2009−29303(P2009−29303A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−196404(P2007−196404)
【出願日】平成19年7月27日(2007.7.27)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】