説明

衝撃吸収部材の製造方法

【課題】 中空の外殻構造体の形状に拘わらず、衝撃を吸収するための多孔質体を、当該外殻構造体の内部の所定位置に充填することが可能な衝撃吸収部材の製造方法を提供する。
【解決手段】 中空の外殻構造体23の内部に衝撃を吸収するための多孔質体21が充填されてなる衝撃吸収部材20を製造する方法であり、外殻構造体の外形形状に合致した内面形状を有する液圧成形型31内に、多孔質体11を内部に配置した中空形状をなす素材10を配置し、素材の内部に液圧を付与する液媒体を注入して外殻構造体を液圧成形する工程を含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空の外殻構造体の内部に衝撃を吸収するための多孔質体を充填して構成される衝撃吸収部材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば自動車の衝突安全性を確保するために、ルーフボー、センターピラー、フロントバンパー、およびサイドシルなどの車体構造部材には、衝突時の衝撃エネルギーを効率よく吸収して、衝撃を和らげることが求められている。
【0003】
上記の車体構造部材において、衝撃エネルギーの吸収効率を向上させるべく、多くの研究がなされており、種々の技術が提案されている。
【0004】
かかる技術として、中空の外殻構造体の内部に衝撃を吸収するための多孔質体を充填して構成される衝撃吸収部材を、車体構造部材に適用する技術がある。例えば、特許文献1には、フレーム部の内部に発泡アルミニウムを充填して構成される衝撃吸収サイドメンバが開示されている。これは、一定の反力を示しつつ圧縮変形するという発泡アルミニウムの性質を利用したものであり、これによって衝撃エネルギーの吸収性能を高めている。
【0005】
ところで、車体構造部材には種々の形状があり、中空の外殻構造体の形状が、いずれの端部からも内部の所定位置に多孔質体を充填できない形状である場合がある。例えば、中空の外殻構造体の両端部における断面形状が両端部以外の部位における断面形状よりも小さい場合や、中空の外殻構造体の全体が湾曲している場合などである。衝撃吸収部材を車体構造部材に広く適用するために、中空の外殻構造体の形状に拘わらず、当該外殻構造体の内部の所定位置に多孔質体を充填することが可能な衝撃吸収部材の製造方法が要請されている。
【特許文献1】特開平8−164869号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、中空の外殻構造体の形状に拘わらず、衝撃を吸収するための多孔質体を、当該外殻構造体の内部の所定位置に充填することが可能な衝撃吸収部材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための請求項1に記載の発明は、中空の外殻構造体の内部に衝撃を吸収するための多孔質体が充填されてなる衝撃吸収部材を製造する方法において、
前記外殻構造体の外形形状に合致した内面形状を有する液圧成形型内に、前記多孔質体を内部に配置した中空形状をなす素材を配置し、前記素材の内部に液圧を付与する液媒体を注入して外殻構造体を液圧成形する工程を含んでいることを特徴とする衝撃吸収部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、多孔質体を配置し易い形状を有する素材を使用し、当該素材に多孔質体を配置した後に液圧成形して中空の外殻構造体を成形することから、中空の外殻構造体の形状に拘わらず、衝撃を吸収するための多孔質体を、当該外殻構造体の内部の所定位置に充填することが可能となる。したがって、中空の外殻構造体が多孔質体を充填できないような形状、例えば、両端の断面形状が多孔質体を配置したほぼ中央部の断面形状より小さかったり、全体が湾曲したりしているような形状を有する場合であっても、当該外殻構造体の内部の所定位置に多孔質体を充填してなる衝撃吸収部材を製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
(第1の実施形態)
図1(A)(B)は、本発明に係る衝撃吸収部材20の製造方法を具現化した液圧成形装置30を示す概略断面図であり、図1(A)は液圧成形前の状態を示し、図1(B)は液圧成形後の状態を示している。図2(A)は、液圧成形前における、多孔質体11を内部に配置した中空形状をなす素材10を示す図、図2(B)は、図2(A)の2B−2B線に沿う断面図である。図3(A)は、液圧成形後における、製品としての衝撃吸収部材20を示す図、図3(B)は、図3(A)の3B−3B線に沿う断面図である。なお、図3に関して、衝撃エネルギーは、図において上方から下方に向けて入力される。つまり、衝撃エネルギー入力方向は、図3において図中下向きである。なお、液圧成形前の多孔質体および貫通穴をそれぞれ符号「11」「12」により表し、液圧成形後の多孔質体および貫通穴を符号「21」「22」により表す。
【0011】
図3(A)に示すように、製品としての衝撃吸収部材20は、当該衝撃吸収部材20の外殻を構成する中空の外殻構造体23と、衝撃を吸収するための多孔質体21とを含み、外殻構造体23の内部に多孔質体21が充填されて構成されている。
【0012】
衝撃吸収部材20は、図1(A)(B)に示される液圧成形装置30を用いて製造される。概説すれば、衝撃吸収部材20は、外殻構造体23の外形形状に合致した内面形状を有する液圧成形型31内に、多孔質体11を内部に配置した中空形状をなす素材10を配置し、素材10の内部に液圧を付与する液媒体を注入して外殻構造体23を液圧成形する工程を経て製造されている。素材10を外殻構造体23に液圧成形した後には、多孔質体21は外殻構造体23の内部の所定位置に充填されている。
【0013】
かかる製造方法によれば、多孔質体11を配置し易い形状を有する素材10を使用し、当該素材10に多孔質体11を配置した後に液圧成形して中空の外殻構造体23を成形することから、中空の外殻構造体23の形状に拘わらず、衝撃を吸収するための多孔質体21を、当該外殻構造体23の内部の所定位置に充填することが可能となる。したがって、中空の外殻構造体23が多孔質体を充填できないような形状、例えば、両端23aの断面形状が多孔質体21を配置したほぼ中央部の断面形状より小さかったり、全体が湾曲したりしているような形状を有する場合であっても、当該外殻構造体23の内部の所定位置に多孔質体21を充填してなる衝撃吸収部材20を製造することが可能となる。
【0014】
なお、本発明に係る製造方法は、液圧成形された外殻構造体23がいずれの端部23aからも多孔質体21を当該外殻構造体23の内部の所定位置に充填できない形状を有している場合に、特に好適に適用できる。但し、本発明は、液圧成形された外殻構造体23がいずれかの端部23aから多孔質体21を当該外殻構造体23の内部の所定位置に充填できる形状を有している場合にも、適用できるものである。
【0015】
図1(A)(B)を参照して、液圧成形装置30は、周知のように、中空形状をなす素材10が配置される液圧成形型31と、液圧を付与する液媒体(例えば、水)を素材10の内部に注入する注入ユニット34と、図示しない液圧発生装置と、を有している。前記液圧成形型31は、下金型32と、当該下金型32に対して相対的に接近離反移動自在な上金型33とを有している。上下の金型33、32は、外殻構造体23の外形形状に合致した内面形状を有している。上下の金型33、32を型締めすると、外殻構造体23の外形形状に対応したキャビティが形成される。前記注入ユニット34は、素材10の両端のそれぞれに配置されている。各注入ユニット34は、流体圧シリンダなどから構成される軸押しシリンダ35と、軸押しシリンダ35の先端に取り付けられるポンチ36とを有している。ポンチ36には、液媒体を注入する通路が形成され、素材端部10aに挿入される。ポンチ36は、素材端部10aに挿入されて素材端部10aをシールし、液媒体ひいては液圧が漏れることを防止する。
【0016】
図2(A)(B)を参照して、本実施形態では、中空形状をなす素材10として、円筒形状の管材10が使用されている。管材10内部の中空部には、管材10の長手方向に沿う略中央に位置して、多孔質体11が配置されている。管材10は、直管形状が好ましい。管材10のいずれの端部10aからも、多孔質体11を、圧入などの一般的な手法により、管材10の内部における所望の位置に容易に挿入配置することができるからである。
【0017】
なお、素材10は、多孔質体11を内部に配置するための中空部を有し、かつ、液圧成形が可能な限りにおいて、その材質や軸直交断面の形状は特に限定されない。素材10の材質として、例えば、鋼やアルミニウムなどが例示される。素材10の軸直交断面の形状として、図2(B)に示される円形状のほか、例えば、矩形形状でもよい。したがって、素材10としては、円筒形状の管材10のほか、四角柱形状の管材も好適に使用できる。さらに、素材10としては、管材10のほかに、重ね合わせ板材を用いることもできる。重ね合わせ板材とは、プレス加工などによって予備成形した複数の板材を重ね合わせて、当該複数の板材をスポット溶接などにより一体的に接合した板材を言う。
【0018】
図3(A)(B)を参照して、液圧成形された外殻構造体23は、矩形形状の軸直交断面を有している。図示する外殻構造体23は、いずれの端部23aからも多孔質体21を当該外殻構造体23の内部の所定位置に充填できない形状を有している。すなわち、外殻構造体23の形状は、両端部23aにおける断面形状が略中央部位における断面形状よりも小さく、全体が湾曲した形状となっている。この形態の外殻構造体23にあっては、略中央部位が強度的に弱いため、この略中央部位に多孔質体21を充填してある。外殻構造体23の全体積に占める多孔質体21の見かけ体積は、特に制限されず、用途や要求される衝撃吸収能力などに応じて任意に選択できる。
【0019】
なお、外殻構造体23は、閉断面構造を有していることが好ましい。外殻構造体23の軸直交断面の形状は特に限定されないが、図3(B)に示される矩形形状のほか、例えば、円形状が例示される。外殻構造体23は、素材10を液圧成形して得られるものであるので、複雑な形状であっても比較的容易に成形することができる。したがって、外殻構造体23の軸直交断面の形状は、常に合同である必要はなく、切断する箇所により異なる形状であってもよい。
【0020】
前記多孔質体11は、特に制限されないが、圧縮応力が負荷された際に略一定の反力(一定の反力またはその近傍の反力)を維持しつつ崩壊しうる多孔質体11であることが好ましい。衝撃吸収特性に優れる衝撃吸収部材20が得られるためである。ここで「多孔質体」には、オープンセル構造体と、クローズドセル構造体とがあるが、本発明で用いる多孔質体は、オープンセル構造体であることが望ましい。オープンセル構造体である多孔質体によれば、液圧成形過程において、液媒体を通過させることができ、また、液圧によって圧縮されることがないからである。
【0021】
多孔質体11としては、例えば、発泡アルミニウム、発泡マグネシウム、発泡鉄のような発泡金属、および、ステンレスやアルミニウムを用いた金属繊維焼結体などが例示される。これらの中でも、発泡アルミニウムが好ましい。発泡アルミニウムは、衝撃を吸収して圧潰する際の降伏強度が小さく、かつ圧潰時のプラトー状態における反力が比較的大きいことから、衝突時の反力が小さく初期衝撃吸収に優れており、大きい衝撃エネルギー吸収量が要求される衝撃吸収部材20に適しているためである。
【0022】
多孔質体11を発泡アルミニウムから構成する場合、発泡アルミニウムの見かけ密度は、特に制限されないが、好ましくは、0.2g/cm3〜0.5g/cm3である。見かけ密度が0.2g/cm3未満であると、吸収し得るエネルギー量が低下する場合があり、見かけ密度が0.5g/cm3を超えると、衝撃吸収部材20全体の質量が増大する場合があるからである。よって、発泡アルミニウムの見かけ密度を上記範囲内の値とすることにより、衝撃吸収性能を低下させることなく衝撃吸収部材20の軽量化が図られる。
【0023】
図2(B)および図3(B)に示すように、第1の実施形態にあっては、前記多孔質体11は、長手方向に沿って貫通するとともに液媒体が流通する貫通穴12が形成されている。ここに、「貫通穴12」とは、多孔質体11の一部が除去されることにより形成される空間をいう。多孔質体11はその性質上、本来的に微細な空隙部を多数有するが、かかる空隙部は、本発明の衝撃吸収部材20における「貫通穴12」には含まれない。
【0024】
多孔質体11に貫通穴12を設けることによって、液圧の通りが良好となる。さらに、貫通穴12を設けることによって、衝撃吸収部材20の単位質量あたりの衝撃吸収性能が向上し、その結果、衝撃吸収部材20の軽量化とそれに伴うコストの低減が図られる。
【0025】
多孔質体11の長手方向に対して直交する方向に沿う貫通穴12の断面形状は、特に限定されないが、液媒体を流通させ得る限りにおいて適宜の形状を選択できる。図2(B)には、図中上端部および下端部を円弧面とした略長方形の断面形状を有する貫通穴12が示されている。貫通穴12の断面形状は、図示した形状のほか、例えば、矩形形状、円形状、多角形形状が例示される。
【0026】
貫通穴12は、1個に限られず、複数個形成してもよい。貫通穴12を複数個形成する場合には、多孔質体11の中心に対して対称位置に各貫通穴12を形成することが好ましく、貫通穴12の大きさについてもそれぞれが同一であることが好ましい。かかる態様により、潰れモードが軸中心に対して対称となる結果、優れた衝撃吸収性能が得られる。
【0027】
貫通穴22の位置は、衝撃吸収性能に優れる点で、好ましくは、貫通穴22の中心軸が外殻構造体23の中心軸上に存在するような位置に形成される。
【0028】
図3(B)を参照して、液圧成形後の断面において、衝撃エネルギー入力方向を縦方向としたときの多孔質体21の貫通穴22のアスペクト比は、外殻構造体23のアスペクト比より大きいことが好ましい。曲げ荷重が作用した場合に、曲げ荷重における単位質量当たりのエネルギー吸収量を効率的に向上させることができるからである。アスペクト比は高さ/幅の比(縦横比)の値をいい、図示例では、貫通穴22のアスペクト比はh/b、外殻構造体23のアスペクト比はH/Bである。
【0029】
液圧成形後の断面において、多孔質体21の貫通穴22の衝撃エネルギー入力方向の寸法hは、該方向に直交する方向の寸法bよりも大きいことが好ましい。曲げ荷重が作用した場合に、曲げ荷重における単位質量当たりのエネルギー吸収量を効率的に向上させることができるからである。
【0030】
液圧成形後の断面において、衝撃エネルギー入力方向に沿って貫通穴22の両側に存在する多孔質体21の厚さt1、t2は、3mm〜5mmであることが好ましい。換言すれば、液圧成形後の貫通穴22の存在によって定まる多孔質体21の厚さが上記の範囲となるように、液圧成形前の貫通穴12の大きさや形状を設定する。これにより、衝撃エネルギー入力方向に沿って貫通穴22の図中上部および下部における多孔質体21のセルが十分に確保され、その結果、衝撃吸収性能を低下させることなく、衝撃吸収部材20の軽量化が図られる。
【0031】
液圧成形後において、多孔質体21の貫通穴22の体積は、多孔質体21の見かけ体積の25%〜47%であることが好ましい。多孔質体21の全体積に占める貫通穴22の割合が25%未満では、貫通穴22を設けることによる軽量化の効果が充分に得られない場合がある。一方、貫通穴22の占める割合が47%を超えると、軽量化という観点では効果が得られるものの、衝撃エネルギー入力時に当該エネルギーを充分に吸収することができず、座屈変形してしまう虞があるからである。多孔質体21の貫通穴22の体積を上記の範囲とすることにより、曲げ荷重が作用した場合に、曲げ荷重における単位質量当たりのエネルギー吸収量をさらに効率的に向上させることができる。
【0032】
次に、第1の実施形態に係る衝撃吸収部材20を製造する手順について説明する。
【0033】
まず、図2(A)に示すように、円筒直管形状の管材10の内部に、多孔質体11を、管材10の長手方向に沿う略中央に位置させて配置する。図2(B)に示すように、多孔質体11は、管材10の内径形状に合致する円柱形状に加工され、中心軸線上には貫通穴12が予め形成されている。多孔質体11は、見かけ密度が0.2g/cm3〜0.5g/cm3の発泡アルミニウムから構成され、オープンセル構造体である。管材10は直管形状あるため、管材10のいずれの端部からも、多孔質体11を、圧入などの一般的な手法により、管材10の内部における所望の位置に容易に挿入配置することができる。
【0034】
次いで、図1(A)に示すように、上下の型を相対的に開き、前記管材10を上下の金型33、32内に配置する。その後、図1(B)に示すように、上下の金型33、32を型締めし、管材10のそれぞれの端部10aにポンチ36を挿入してシールしながら液媒体を注入する。これにより、管材10は、その内部に液圧が付与され、外殻構造体23の形状に液圧成型される。液圧成形過程においては、各軸押しシリンダ35により管材10が両側から中央部に向けて押圧され、略中央部位に向けて管材10材料が供給される。
【0035】
注入された液媒体は、オープンセル構造体の発泡アルミニウム内も通過するが、貫通穴12を通って自由に流通する。このため、液圧の通りが良好となり、液圧充填時間が短縮され、生産性が向上する。
【0036】
液圧成型が完了すると、図3(A)に示すように、外殻構造体23の形状は、両端部23aにおける断面形状が略中央部位における断面形状よりも小さく、全体が湾曲した形状となっている。図3(B)に示すように、液圧成形された外殻構造体23は矩形形状の軸直交断面を有し、多孔質体21も断面矩形形状に変形して、外殻構造体23の内面に密着している。管材10のうち多孔質体11を設置した部位が圧縮され多孔質体11が変形する場合であっても、貫通穴12が変形することによって、多孔質体11の圧縮が抑制される。さらに、多孔質体11はオープンセル構造体であるため、液圧によって多孔質体11が圧縮されることもない。このため、セル構造が維持され、衝撃吸収性能の低下が防止される。
【0037】
成形された衝撃吸収部材20は、その両端の断面形状が多孔質体21を配置したほぼ中央部の断面形状より小さく、全体が湾曲している。このように中空の外殻構造体23が多孔質体21を後から充填できないような形状を有する場合であっても、当該外殻構造体23の内部の所定位置に多孔質体21を充填してなる衝撃吸収部材20を製造することが可能となる。
【0038】
また、成形された衝撃吸収部材20は、その両端の断面形状が多孔質体21を配置したほぼ中央部の断面形状より小さく、全体が湾曲しているため、多孔質体21を接着剤などで固定することなく、外殻構造体23の内部のほぼ中央部に固定することができる。したがって、強度的に不利になる中央部を多孔質体21で補強した衝撃吸収部材20となる。接着剤などで多孔質体21を固定する必要がないので、コストの低減を図ることができる。
【0039】
液圧成形後の断面において、多孔質体21の貫通穴22のアスペクト比h/bは、外殻構造体23のアスペクト比H/Bより大きく(図3(B)を参照)、曲げ荷重が作用した場合に、曲げ荷重における単位質量当たりのエネルギー吸収量を効率的に向上させることができる。
【0040】
液圧成形後の断面において、多孔質体21の貫通穴22の衝撃エネルギー入力方向の寸法hは、該方向に直交する方向の寸法bよりも大きく(図3(B)を参照)、曲げ荷重が作用した場合に、曲げ荷重における単位質量当たりのエネルギー吸収量を効率的に向上させることができる。
【0041】
液圧成形後の断面において、衝撃エネルギー入力方向に沿って貫通穴22の両側に存在する多孔質体21の厚さt1、t2は、3mm〜5mmとなり、多孔質体21のセルが十分に確保され、衝撃吸収性能を低下させることなく、衝撃吸収部材20の軽量化が図られる。
【0042】
液圧成形後において、多孔質体21の貫通穴22の体積は、多孔質体21の見かけ体積の25%〜47%であり、軽量化を図りつつ衝撃エネルギーを充分に吸収することができる。
【0043】
多孔質体11は、見かけ密度0.2g/cm3〜0.5g/cm3の発泡アルミニウムから構成したので、衝撃吸収性能を低下させることなく衝撃吸収部材20の軽量化が図られる。
【0044】
上記のように製造された衝撃吸収部材20は、従来よりも軽量化および低コスト化が図られたにもかかわらず、優れた衝撃吸収性能、特に、曲げ衝撃に対する吸収性能に優れている。これより、衝撃吸収部材20は、曲げ衝撃に対してその衝撃を吸収するための曲げ衝撃吸収部材20として好適に用いることができる。
【0045】
図4は、衝撃吸収部材20を車体構造部材に適用した例を示す斜視図である。
【0046】
上述したように衝撃吸収部材20は優れた衝撃吸収性能を示すことから、当該衝撃吸収部材20は、車体構造部材に好適に適用することができる。車体構造部材の具体例として、車体のルーフを横切るルーフボー41や、センターピラー42を挙げることができる。
【0047】
チューブ状のルーフボー41は、ルーフ形状に合致するように湾曲しており、両端部の断面が中央部の断面に比べて小さくなるように、断面形状が変化している。例えばルーフ上に積雪した場合など、ルーフに荷重が発生したときには、両端部に比べて断面が大きいルーフボー41のほぼ中央部が強度的に不利となる。しかしながら、当該中央部を多孔質体21によって補強することによって、十分に高強度なルーフを提供することが可能となる。センターピラー42のほぼ中央部も強度的に不利であるが、当該中央部を多孔質体21によって補強することによって、高強度なセンターピラー42を提供することが可能となる。このセンターピラー42も適宜湾曲して断面形状が変化しているが、上述した製造方法を用いて製造可能である。また、断面形状が変化しているがために、接着剤を使用することなく多孔質体21を固定することが可能である。
【0048】
なお、衝撃吸収部材20は、ルーフボー41やセンターピラー42以外の車体構造部材、例えば、フロントサイドメンバ、リヤサイドメンバ、クロスメンバ、およびサイドシルなどにも適用できる。さらに、衝撃吸収部材20は、車体構造部材のほか、衝撃の吸収が要求される部材に広く適用できることは言うまでもない。
【0049】
次に、衝撃吸収部材20に対して行った落錘実験について説明する。
【0050】
図5は、落錘実験の方法を示す模式図、図6は、落錘実験の結果を示す図である。
【0051】
衝撃吸収部材20を一対の剛体支持51により支え、衝撃吸収部材20の上面におけるほぼ中央部に質量500kgのストライカー52を高さ5mの位置から落下させ、そのときの反力とストロークとから衝撃吸収部材20が吸収したエネルギーを求める落錘実験を行った。
【0052】
衝撃吸収部材20は、外殻構造体23と、該外殻構造体23の中空部のほぼ中央部に充填される発泡アルミニウム21とを備えており、発泡アルミニウム21には貫通穴22を形成した。衝撃吸収部材20のほぼ中央部において、外殻構造体23の幅寸法Bは90mmとし、高さ寸法Hは60mmとした(図3(B)を参照)。外殻構造体23は、引張強さ590Mpaの鋼板からなり、板厚をt1.2とした。発泡アルミニウム21の貫通穴22の幅寸法bは45mmとし、高さ寸法hは50mmとした(図3(B)を参照)。つまり、発泡アルミニウム21の全体積に占める貫通穴22の割合が44.6%である形状とした。一方、発泡アルミニウムを充填せず外殻構造体23のみからなる部材を製作した。この部材の板厚は、t1.4、t1.6、t1.8の3種である。
【0053】
各試験片を、剛体支持51により支え、質量500kgのストライカー52を高さ5mの位置から落下させて試験片の中央に衝突させ、曲げ衝撃吸収性能を測定した。
【0054】
上記の衝撃吸収性能試験の、100mm変形時の試験結果を図6に示す。ここで、図6の直線aは、発泡アルミニウムが充填されていない部材において、部材の板厚を変化させた場合の部材総質量の変化に対するエネルギー吸収量の変化を示している。
【0055】
図6の点bは、発泡アルミニウムが充填された衝撃吸収部材20の結果を示している。これからわかるように、衝撃吸収部材20の総質量は約3.3kgであるにもかかわらず、総質量4.32kgの発泡アルミニウム未充填部材と同程度のエネルギー吸収特性を示した。したがって、衝撃吸収部材20は、発泡アルミニウム未充填部材と比較して、約23%の軽量化効果を有することが示された。
【0056】
(第2の実施形態)
図7(A)(B)は、多孔質体11を内部に配置した中空形状をなす素材10を製作する工程の説明に供する図である。
【0057】
第2の実施形態は、液圧成形される素材10の内部で発泡金属を発泡させて多孔質体11を得るようにした点で、予め成形した多孔質体11を素材10に内部に配置する第1の実施形態と相違する。
【0058】
概説すれば、第2の実施形態では、多孔質体11を構成する発泡金属の発泡前の材料を素材10の内部に流し込み、発泡前の材料を素材10の内部において発泡させることによって、多孔質体11を内部に配置した中空形状をなす素材10を製作する工程をさらに含んでいる。
【0059】
発泡前の材料を素材10の内部において発泡させる際には、中空パイプ60を多孔質体11に鋳込む工程をさらに含んでいる。そして、鋳込まれた中空パイプ60によって、多孔質体11の長手方向に沿って貫通するとともに液媒体が流通する貫通穴12を構成するようにしている。
【0060】
詳述すると、図7(A)に示すように、素材として直管形状の管材10をほぼ垂直に立て、その下方から受け台61を挿入する。さらに、管材10内にアルミ製の中空パイプ60を挿入し、受け台61に立てかけた状態とする。そして、図7(B)に示すように、管材10の内部であり、中空パイプ60の外側に、発泡金属である発泡アルミニウムの発泡前の材料62を流し込む。
【0061】
その後、発泡前の材料62を管材10の内部において発泡させることによって、多孔質体11を内部に配置した中空形状をなす管材10が製作される。このとき、中空パイプ60が発泡アルミニウムに鋳込まれ、当該中空パイプ60によって、多孔質体11には、長手方向に沿って貫通するとともに液媒体が流通する貫通穴12が形成される。
【0062】
このようにして製作した、多孔質体11を内部に配置した中空形状をなす管材10は、第1の実施形態と同様に、液圧成形される。
【0063】
第2の実施形態では、管材10内で発泡アルミニウムを鋳込むため、発泡アルミニウムを鋳込む金型が不要になるという効果が得られる。また、中空パイプ60を同時に鋳込むため、発泡金属に貫通穴12を形成するための機械加工が不要となる。機械加工が不要となるので、加工工程を短縮でき、生産性がさらに高くなり、コストの低減をより一層図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】図1(A)(B)は、本発明に係る衝撃吸収部材の製造方法を具現化した液圧成形装置を示す概略断面図であり、図1(A)は液圧成形前の状態を示し、図1(B)は液圧成形後の状態を示している。
【図2】図2(A)は、液圧成形前における、多孔質体を内部に配置した中空形状をなす素材を示す図、図2(B)は、図2(A)の2B−2B線に沿う断面図である。
【図3】図3(A)は、液圧成形後における、製品としての衝撃吸収部材を示す図、図3(B)は、図3(A)の3B−3B線に沿う断面図である。
【図4】衝撃吸収部材を車体構造部材に適用した例を示す斜視図である。
【図5】落錘実験の方法を示す模式図である。
【図6】落錘実験の結果を示す図である。
【図7】図7(A)(B)は、多孔質体を内部に配置した中空形状をなす素材を製作する工程の説明に供する図である。
【符号の説明】
【0065】
10 管材(素材)、
11 液圧成形前の多孔質体、
12 液圧成形前の貫通穴、
20 衝撃吸収部材、
21 液圧成形後の多孔質体、
22 液圧成形後の貫通穴、
23 中空の外殻構造体、
31 液圧成形型、
60 中空パイプ、
61 受け台、
62 発泡前の材料、
h/b 液圧成形後の断面における、多孔質体の貫通穴のアスペクト比、
H/B 液圧成形後の断面における、外殻構造体のアスペクト比、
h 液圧成形後の断面における、多孔質体の貫通穴の衝撃エネルギー入力方向の寸法、
b 液圧成形後の断面における、多孔質体の貫通穴の衝撃エネルギー入力方向に直交する方向の寸法、
t1、t2 液圧成形後の断面における、衝撃エネルギー入力方向に沿って貫通穴の両側に存在する多孔質体の厚さ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空の外殻構造体の内部に衝撃を吸収するための多孔質体が充填されてなる衝撃吸収部材を製造する方法において、
前記外殻構造体の外形形状に合致した内面形状を有する液圧成形型内に、前記多孔質体を内部に配置した中空形状をなす素材を配置し、前記素材の内部に液圧を付与する液媒体を注入して外殻構造体を液圧成形する工程を含んでいることを特徴とする衝撃吸収部材の製造方法。
【請求項2】
液圧成形された前記外殻構造体は、いずれの端部からも前記多孔質体を当該外殻構造体の内部の所定位置に充填できない形状を有していることを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収部材の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質体は、長手方向に沿って貫通するとともに前記液媒体が流通する貫通穴が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収部材の製造方法。
【請求項4】
液圧成形後の断面において、衝撃エネルギー入力方向を縦方向としたときの前記多孔質体の前記貫通穴のアスペクト比は、前記外殻構造体のアスペクト比より大きいことを特徴とする請求項3に記載の衝撃吸収部材の製造方法。
【請求項5】
液圧成形後の断面において、前記多孔質体の前記貫通穴の衝撃エネルギー入力方向の寸法は、該方向に直交する方向の寸法よりも大きいことを特徴とする請求項3または請求項4に記載の衝撃吸収部材の製造方法。
【請求項6】
液圧成形後の断面において、衝撃エネルギー入力方向に沿って前記貫通穴の両側に存在する前記多孔質体の厚さは、3mm〜5mmであることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1つに記載の衝撃吸収部材の製造方法。
【請求項7】
液圧成形後において、前記多孔質体の前記貫通穴の体積は、前記多孔質体の見かけ体積の25%〜47%であることを特徴とする請求項3〜6のいずれか1つに記載の衝撃吸収部材の製造方法。
【請求項8】
前記多孔質体は、見かけ密度0.2g/cm3〜0.5g/cm3の発泡アルミニウムから構成されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つに記載の衝撃吸収部材の製造方法。
【請求項9】
前記多孔質体を構成する発泡金属の発泡前の材料を前記素材の内部に流し込み、前記発泡前の材料を前記素材の内部において発泡させることによって、前記多孔質体を内部に配置した中空形状をなす前記素材を製作する工程をさらに含んでいることを特徴とする請求項1に記載の衝撃吸収部材の製造方法。
【請求項10】
前記発泡前の材料を前記素材の内部において発泡させる際に、中空パイプを前記多孔質体に鋳込む工程をさらに含み、
前記中空パイプによって、前記多孔質体の長手方向に沿って貫通するとともに前記液媒体が流通する貫通穴が構成されていることを特徴とする請求項9に記載の衝撃吸収部材の製造方法。
【請求項11】
前記多孔質体は、オープンセル構造体であることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つに記載の衝撃吸収部材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−21619(P2006−21619A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200882(P2004−200882)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】