説明

表皮材付き製品の製造方法

【課題】簡単な装置によって、貫通孔の形成された表皮材付き製品を製造する方法を提案する。
【解決手段】出没可能な可動ピン13が嵌合した型10の上に基材2をセットすると共に、その基材2に形成された貫通孔4を可動ピン13に嵌合し、次いで加熱されて軟化した表皮材3を可動ピン13と基材2の上にセットし、その表皮材3の表面を圧縮空気によって加圧して、該表皮材3を基材2の表面に密着させて当該表皮材3を基材表面に接着すると共に、当該表皮材3を可動ピン13の表面に密着させ、次いで電熱線18を加熱させて表皮材3を切断し、しかる後、可動ピン13と、その可動ピン13に密着した表皮材部分103を下方に下げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂製の表皮材を基材の表面に接着して表皮材付き製品を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に、熱可塑性樹脂より成る装飾用の表皮材を貼着して成る表皮材付き製品は各種の技術分野において広く利用されている。例えば、車室内に取り付けられる各種の内装材、自動車のサイドドアの下方の車体部分の外面に固定されるサイドマッドガードや車体に固定されるバンパなどの自動車の外装材、電化製品の外装材、或いは建造物の室内に設けられる内装材などがその代表例である。このような表皮材付き製品には、ボルトを挿通するための貫通孔が形成され、その貫通孔に挿入したボルトをナットに螺着して該ボルトを締め付けることにより、表皮材付き製品を例えば車体などの被取付体に固定することができる。このような表皮材付き製品は、従来、次のようにして製造されるのが普通であった。
【0003】
先ず、基材を型の上にセットし、次いでその基材の表面に表皮材を接着する。このとき、基材に形成された貫通孔は、表皮材によって覆われているので、先端に刃物が取り付けられた押圧部材を、表皮材により覆われている基材の貫通孔に押し込み、その刃物によって表皮材をカットし、そのカットされた表皮材の端末を基材の裏面側に折り返して貫通孔周辺の基材裏面に接着する。このようにして、貫通孔の形成された表皮材付き製品が完成する。かかる製造方法の一例が特許文献1に記載されている。
【0004】
上述した従来の製造方法によっても、貫通孔の形成された表皮材付き製品を製造することができるが、この方法を実施するには、構造が複雑で高価な製造装置を用いる必要があるため、表皮材付き製品のコストが高くなる欠点を免れない。特に、押圧部材を基材の貫通孔に正しく挿入させるためには、製造装置に高い精度が要求され、かかる高精度な製造装置のコストはかなり高いものとならざるを得ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−79791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上述した従来の欠点を除去し、簡単な製造装置によって、貫通孔を備えた表皮材付き製品を低コストで製造することのできる製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するため、可動ピンが出没可能に嵌合した型の表面に基材をセットすると共に、該基材に形成された貫通孔を前記型の表面から突出した前記可動ピンに嵌合し、該可動ピンと基材の上にセットした加熱軟化させた熱可塑性樹脂製の表皮材を、該表皮材と基材との間の内側空間の圧力と該表皮材を境として前記内側空間とは反対側の外側空間の圧力との差によって、前記基材の表面から突出した可動ピンの表面と前記基材の表面とに密着させて、該表皮材を前記基材の表面に貼着し、次いで前記可動ピンに設けられていて前記基材に形成された貫通孔の周縁に沿って延びている電熱線を加熱することにより、前記表皮材を、前記基材に形成された貫通孔の周縁に沿って切断し、次いで前記可動ピンを、当該可動ピンの表面に密着した表皮材部分と共に、前記型の内部側に引き込ませ、しかる後、前記基材を該基材に貼着された表皮材と共に前記型から離脱することを特徴とする表皮材付き製品の製造方法を提案する(請求項1)。
【0008】
また、上記請求項1に記載の表皮材付き製品の製造方法において、前記可動ピンとして、外部に開放し、かつ前記型の内部の中空室に連通した吸引孔を有する可動ピンを用い、該吸引孔を通して前記型の内部の中空室を吸気することにより該中空室内の圧力を前記外側空間の圧力よりも低下させて、前記表皮材を前記可動ピンの表面に密着させるように構成すると有利である(請求項2)。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来は必ず必要とされた複雑な構造の押圧部材を用いずに、電熱線を備えた可動ピンによって、基材の貫通孔を覆った表皮材を簡単に除去できるので、表皮材付き製品を低コストで簡単に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】表皮材付き製品の部分断面斜視図である。
【図2】表皮材付き製品の製造方法を説明する部分断面概略図である。
【図3】表皮材付き製品の製造方法を説明する部分断面概略図である。
【図4】表皮材付き製品の製造方法を説明する部分断面概略図である。
【図5】表皮材付き製品の製造方法を説明する部分断面概略図である。
【図6】表皮材付き製品の製造方法を説明する部分断面概略図である。
【図7】表皮材付き製品の製造方法を説明する部分断面概略図である。
【図8】表皮材付き製品の製造方法を説明する部分断面概略図である。
【図9】図2の部分拡大断面図である。
【図10】図7の部分拡大断面図である。
【図11】可動ピンを引き込んだときの、図10と同様な断面図である。
【図12】表皮材付き製品を、貫通孔の形成された部分で切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に従って詳細に説明する。
【0012】
図1は、本発明に係る方法によって製造された表皮材付き製品の一例を示す部分断面斜視図である。ここに示した表皮材付き製品1は、例えば、自動車の外装材、車室内に配置される内装材、電化製品の外装材、建造物の室内に設けられる内装材などとして用いられるものである。図1に示した表皮材付き製品1は、基材2と、その基材2の表面に貼着された装飾用の表皮材3とから成る。基材2は、例えば樹脂、金属又は木材などの比較的剛性の大きな板材より成り、表皮材3は、基材2よりも軟質で該基材2よりも薄い可撓性材料により構成されている。図示した例では、表皮材3は薄いフィルムより成り、基材2はフィルムよりも剛性の高い厚さが2乃至3mm程度の熱可塑性樹脂製の板材により構成されている。
【0013】
上述の如き表皮材付き製品1には貫通孔4が形成されている。その貫通孔4に、図示していないボルトを挿通し、そのボルトを同じく図示していないナットに螺着して締め付けることによって、表皮材付き製品1を車体などの被取付体に固定することができる。
【0014】
図1に示した表皮材付き製品1は、図2乃至図8に示した製造装置によって次のようにして製造される。
【0015】
図2乃至図8に示した製造装置は、上下に昇降可能な上側ケース5と、その上側ケース5の上壁に固定されたヒータ6と、不動に固定支持された下側ケース7と、その下側ケース7の底壁上に昇降装置8を介して支持されたテーブル9と、そのテーブル9上に配置された型10とを有している。型10の内部は中空に形成され、その内部の中空室11は、当該中空室11の排気口12を介して、下側ケース7の内部に連通している。
【0016】
型10には、可動ピン13が出没可能に嵌合している。図9は可動ピン13の拡大断面図であり、この可動ピン13は、型10に形成された孔14に嵌合し、それ自体周知のように、エアシリンダ又はモータなどから成る図示していないアクチュエータによって、矢印A,B方向に昇降することができる。このように、型10に出没可能に嵌合した可動ピン13には、外部に開口した吸引孔15が形成され、その吸引孔15は、型10の内部の中空室11に連通している。なお、図2乃至図8には、可動ピン13に形成された吸引孔15の図示は省略してある。
【0017】
図2に示したように、上側ケース5を上昇させた状態で、型10の表面に基材2をセットする。このとき、図9にも示したように、基材2に形成された貫通孔4を型10の表面から突出した可動ピン13に嵌合する。ここに示した基材2は、前述のように、例えばポリプロピレン又はその他の熱可塑性樹脂より成り、図示していない射出成形機によって、既に型10の表面の形態にほぼ沿った形状に成形されている。
【0018】
上述のように、本例の製造方法においては、可動ピン13が出没可能に嵌合した型10の表面に、基材2をセットすると共に、その基材2に形成された貫通孔4を型10の表面から突出した可動ピン13に嵌合するのである。
【0019】
次に、図2に示すように、上側ケース5と下側ケース7の間に、図示していないクランプによって保持された薄いフィルムより成る熱可塑性樹脂製の表皮材3を配置する。その際、基材2を向いた側の表皮材3の面には、予め接着剤が塗布されている。このように表皮材3の下面に接着剤を塗布する代りに、基材2の表面に接着剤を塗布し、或いは基材2の表面と表皮材3の下面の両者に接着剤を塗布しておいてもよい。
【0020】
引き続き、上側ケース5を下降させて、図3に示すように上側ケース5と下側ケース7とによって表皮材3を挟持する。この状態で、図4に矢印C,Dで示すように、上側ケース5に形成された給排口16と、下側ケース7に形成された排気口17を通して、各ケース5,7の内部の空気を吸引し、両ケース5,7内の圧力を下げて真空状態にする。このように、下側ケース7内の空気を吸引することによって、型10の内部の中空室11の空気も、排気口12を通して吸引され、中空室11内の圧力が下げられ、該中空室11が真空状態にされる。
【0021】
次いで、図5に示すように、両ケース5,7の内部の空気を吸引し続けながら、ヒータ6を作動させて、表皮材3を加熱し、該表皮材3を軟化させる。しかる後、両ケース5,7の内部の空気を吸引し続けながら、図6に示すように、昇降装置8を作動させてテーブル9とその上に配置された型10を上昇させ、加熱軟化させた熱可塑性樹脂製の表皮材3を、基材2の表面から突出した可動ピン13と基材2の上にセットする。このとき、上側ケース5と下側ケース7の内部の空気が既に排出されているので、図6に示した状態での表皮材3と基材2との間の内側空間S1の圧力も低くなっている。
【0022】
次に、下側ケース7の空気を吸引しながら、上側ケース5内からの空気の吸引を停止し、その代わりに、図6に矢印Eで示したように、給排口16を通して、上側ケース5の内部に圧縮空気を送り込む。これにより表皮材3よりも外側の空間S2の圧力の方が、表皮材3と基材2との間の内側空間S1の圧力よりも高くなり、その圧力差によって、加熱軟化された表皮材2が、図7に示したように、可動ピン13の表面と基材2の表面とに密着し、その表皮材3の下面に塗布された接着剤によって、当該表皮材3が基材2の表面に接着される。表皮材3よりも外側の空間S2とは、図6から明らかなように、基材2上にセットされた表皮材3を境として、上述した内側空間S1とは反対側の外側空間S2を意味する。
【0023】
上述のように、本例の製造方法においては、可動ピン13と基材2の上にセットした加熱軟化させた熱可塑性樹脂製の表皮材3を、その表皮材3と基材2との間の内側空間S1の圧力と該表皮材3を境として内側空間S1とは反対側の外側空間S2の圧力との差によって、基材2の表面から突出した可動ピン13の表面と基材2の表面とに密着させて、当該表皮材3を、可動ピンと基材2の表面の形態に沿った形に成形すると共に、基材2の表面に接着剤によって貼着するのである。
【0024】
その際、本例の製造方法においては、可動ピンとして、外部に対して開放し、かつ型10の内部の中空室11に連通した吸引孔15を有する可動ピン13を用い、その吸引孔15を通して型10の内部の中空室11を吸気することにより、該中空室11内の圧力を上述の外側空間S2の圧力よりも低下させて、表皮材3を可動ピン13の表面に密着させるので、図10に示すように、表皮材3を、可動ピン13の表面に大きな圧力で密着させて、その可動ピン13の表面の形態に沿って正しく真空成形することができる。
【0025】
但し、吸気孔の形成されていない可動ピンを用い、専ら、表皮材3よりも外側の空間S2の圧力と表皮材3と基材2の間の内側空間S1の圧力との差だけで、表皮材3を可動ピン13の表面と基材2の表面に密着させて、その表皮材3を基材2の表面に接着することもできる。また、上述した方法以外の適宜な方法によって、表皮材3よりも外側の空間S2の圧力と表皮材3と基材2の間の内側空間S1の圧力とに差を生じさせることもできる。例えば、型10と基材2に多数の吸引孔を形成し、基材2の各吸引孔と型10の各吸引孔とをそれぞれ整合させ、型10の中空室11内の空気を排気口12から排出させることによって、外側空間S2の圧力と内側空間S1の圧力に差を生ぜしめて、表皮材3を基材2と可動ピン13の表面に密着させて真空成形することもできる。
【0026】
図7及び図10に示したように、表皮材3を可動ピン13の表面に密着させ、かつ表皮材3を基材2の表面に接着剤によって貼着した後、図10に示したように、可動ピン13に設けられた例えばニクロム線より成る電熱線18に電流を流して、その電熱線18を加熱する。この電熱線18は、図10から明らかなように、その一部が外部に露出した状態で可動ピン13に固定されていて、しかも基材2の貫通孔4に可動ピン13が嵌合した状態で、その基材2に形成された貫通孔4の上部周縁に沿って延びている。かかる電熱線18を加熱することにより、表皮材3を、基材2に形成された貫通孔4の上部周縁に沿って溶融させて切断することができる。
【0027】
上述のように表皮材3を切断した後、図8及び図11に示したように、可動ピン13を、その可動ピン13の表面に密着した表皮材部分103と共に、型10の内部の側に引き込ませる。しかる後、上側ケース5内への圧縮空気の供給と、下側ケース7からの吸気動作を停止し、図8に示したように上側ケース5を上昇させ、基材2をその基材2に貼着された表皮材3と共に型10から離脱し、基材2からはみ出た表皮材部分をトリミングする。このようにして、図1に示した表皮材付き製品1が完成する。
【0028】
図11に示したように、可動ピン13のまわりに密着した表皮材部分103は、その可動ピン13を型10の表面から上方に突出させた上で、その可動ピン13から手操作によって除去する。可動ピン13に接着剤を介して密着した表皮材部分103を除去しやすくするため、可動ピン13の表面に離型性の高い樹脂などをコートしておくことが好ましい。
【0029】
上述した製造方法によれば、従来は必ず必要とされていた複雑な構造の押圧部材を用いる必要はないので、表皮材付き製品を簡単かつ低コストで製造することができる。また、図12の(b)に示すように、従来の方法によって製造された表皮材付き製品は、その表皮材3の端末203が、基材2の裏面の側に折り返されて、その裏面に接着されている。このように表皮材3の端末203を巻き込むようにして、基材2の裏面に接着すると、その巻き込み時に表皮材3が延ばされる量がばらつくので、貫通孔4に密着した表皮材部分303の厚さTがばらつく。このため、その表皮材部分303の内側の径DSがばらつくことになり、その径DSが大きくなりすぎると、ここにボルトを挿通し難くなり、逆に径DSが小さくなりすぎると、ボルトと表皮材部分303との間に隙間ができるおそれがある。
【0030】
これに対し、本例の方法によって製造された表皮材付き製品1は、図12の(a)に示すように、表皮材3の端末が基材2の裏面に巻き込まれることはなく、貫通孔4の径DTは基材2自体で決まるので、その径DTが大きくばらつくことはない。このため、上述した従来の不具合が発生することはない。
【0031】
また、本例の製造方法によると、表皮材付き製品の製造時に、図9及び図10に示したように、基材2は、その貫通孔4が型10の表面から突出した可動ピン13に嵌合して型10に対して正しく位置決めされ、次いでかかる可動ピン13の表面を覆った表皮材部分103を切断するので、常に所定の正しい表皮材部分103を切断することができ、品質の安定した表皮材付き製品1を製造することができる。
【0032】
以上、本発明の好ましい実施形態を説明したが、本発明はこの実施形態に限定されず、各種改変して構成できるものである。
【符号の説明】
【0033】
1 表皮材付き製品
2 基材
3 表皮材
4 貫通孔
10 型
11 中空室
13 可動ピン
15 吸引孔
18 電熱線
103 表皮材部分
S1 内側空間
S2 外側空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動ピンが出没可能に嵌合した型の表面に基材をセットすると共に、該基材に形成された貫通孔を前記型の表面から突出した前記可動ピンに嵌合し、該可動ピンと基材の上にセットした加熱軟化させた熱可塑性樹脂製の表皮材を、該表皮材と基材との間の内側空間の圧力と該表皮材を境として前記内側空間とは反対側の外側空間の圧力との差によって、前記基材の表面から突出した可動ピンの表面と前記基材の表面とに密着させて、該表皮材を前記基材の表面に貼着し、次いで前記可動ピンに設けられていて前記基材に形成された貫通孔の周縁に沿って延びている電熱線を加熱することにより、前記表皮材を、前記基材に形成された貫通孔の周縁に沿って切断し、次いで前記可動ピンを、当該可動ピンの表面に密着した表皮材部分と共に、前記型の内部側に引き込ませ、しかる後、前記基材を該基材に貼着された表皮材と共に前記型から離脱することを特徴とする表皮材付き製品の製造方法。
【請求項2】
前記可動ピンとして、外部に開放し、かつ前記型の内部の中空室に連通した吸引孔を有する可動ピンを用い、該吸引孔を通して前記型の内部の中空室を吸気することにより該中空室内の圧力を前記外側空間の圧力よりも低下させて、前記表皮材を前記可動ピンの表面に密着させる請求項1に記載の表皮材付き製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−218249(P2012−218249A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−84913(P2011−84913)
【出願日】平成23年4月6日(2011.4.6)
【出願人】(000157083)トヨタ自動車東日本株式会社 (1,164)
【Fターム(参考)】