説明

表示素子及び表示システム

【課題】色毎で発光素子への駆動電圧或いは駆動電流が異なる表示素子において、大規模な駆動回路を用いずに、駆動基板上の配線抵抗と容量から生じる充放電時間差を縮め、表示画像以外の色付きが観られない良好な表示を得る。
【解決手段】表示素子1は、RGBの発色を示す発光素子を有する複数の画素が、同一面上に複数配置される。各画素には、対応するR画像信号配線2、G画像信号配線3、B画像信号配線4が接続される。各画像信号配線は、対応する画素の色毎に抵抗が異なるよう配線される。R画像信号配線2の配線幅W1、G画像信号配線3の配線幅W2、及びB画像信号配線4の配線幅W3は、それぞれ異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は表示素子に係り、特に有機エレクトロルミネッセンス(以下、「EL」と略す)素子より成る表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
表示素子で用いる発光素子として、発光ダイオード(Light Emitting Diode)(以下、「LED」と略す)が近年注目されている。発光素子の駆動方法については、電流駆動または電圧駆動の方法が提案されている。以下、発光素子として電流駆動型有機EL素子を例にとり、従来の発光駆動について述べる。
【0003】
有機EL素子は、有機LED(OLED:Organic Light Emitting Diode)とも呼ばれ、高輝度発光が可能な面状の自発光が得られるものである。このEL素子は、一対の電極(陽極及び陰極)間に発光層となる有機層をその機能に応じて積層し、その有機層の機能積層数を増やすことにより(非特許文献1、2参照)、低電圧で高効率な発光を可能としている。有機EL素子の基本となる素子構成は、陽極及び陰極間に有機層から成るEL発光層及び正孔輸送層を備え、陽極/正孔輸送層/EL発光層/陰極の積層構造からなりたっている。この素子構成を基本として、EL発光層と陰極との間に有機層から成る電子輸送層を加え、陽極/正孔輸送層/EL発光層/電子輸送層/陰極の積層構造とすることで、高効率が図られてきた。更に、EL発光層を通過するキャリアを阻止するためにEL発光層と電子輸送層の間にブロッキング層が設けられたり、低電圧でキャリアの注入が可能となるように陰極と電子輸送層の間に電子注入層としての金属薄膜が設けられたりしている。こうすることで、発光効率の改善が試みられてきた。
【0004】
このような発光素子として有機EL素子を用いた表示素子では、発光層内への正孔と電子の注入により発光輝度が制御される。この表示素子の駆動方法としては、薄膜トランジスタ(以下、「TFT(Thin Film Transistor)」と略す)で構成されたアクティブ・マトリクス型定電圧駆動または定電流駆動などが知られている(例えば、特許文献1参照)。これらの駆動により自発光することから、有機EL素子は高密度化され、表示素子として用いられようとしている。また、赤(R)、緑(G)、青(B)の各色を発光する有機EL素子を用いることにより、フルカラーの薄膜ディスプレイも実現できる。
【0005】
上記の表示素子で用いる画像信号線は、通常、図25に示されるように、R画素に接続された画像信号線76、G画素に接続された画像信号線77、B画素に接続された画像信号線78が、同じ幅、同じ厚さ、同じ材料でパターニングされている。
【特許文献1】特開2001−147659号公報
【特許文献2】特開2003−255884号公報
【非特許文献1】C.W.Tang、他1名、"Organic electroluminescent diodes"、 Applied Physics Letters、米国、第51巻、1987年、p.913−915
【非特許文献2】C.W.Tang、他2名、"Electroluminescent of doped organic thin films"、Journal of Applied Physics、米国、第65巻、1989年、p.3610−3616
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来例の定電圧駆動型の表示素子の場合、発光素子を電極間やTFTを介して定電圧により発光させるためには、画像信号源から画素回路までの画像信号線の抵抗により減少した電流での寄生容量の電荷の充電または放電時間が必要となる。この寄生容量への電荷が充電または放電完了しない状態で走査信号線が非選択状態になった場合には、有機EL発光素子の発光は所定の輝度に達しない状態で発光する。このときの充放電時間は、画像信号電圧が小さいときは短く、画像信号電圧が大きいときは長くかかる。従って、定電圧駆動発光素子の発光電圧が低くて高輝度なほど、画像信号電圧が小さく充放電時間は短くて済む。逆に発光素子の発光電圧が高くならないと所定の輝度が得られない場合には、画像信号電圧が大きくなり充放電時間は長くなる。
【0007】
この表示素子をRGBの各色に対応する複数の発光素子より成るカラー・マトリクス表示素子に適用する場合を考える。この場合、Bの発光素子の発光電圧が低くてRの発光電圧が高い場合は、ホワイトバランス比にも依るが、Rの画像信号電圧が高くなり、Bの画像信号電圧が低くなる場合が多い。このため、図26で示されるように、表示素子1に黒色の帯(黒帯)83と白色の帯(白帯)81とのストライプを表示した場合には、白帯81の上部は画像信号電圧が低く充放電時間の短い青色80が先に表示され始める(青にじみ表示)。これに対し黒帯83の上部には、画像信号電圧が低く充放電時間の長い赤色82が残って表示されることになる(赤にじみ表示)。
【0008】
また、従来例の定電圧駆動型の表示素子の場合、発光素子を電極間やTFTを介して定電流により発光させるためには、画像信号線の抵抗による補償電圧の上昇までの寄生容量の充電または放電時間が必要となる。この容量への電荷が充電または放電完了しない状態で保持信号線が非選択状態になった場合には、有機EL発光素子の発光は所定の輝度に達しない状態で発光する。このときの充放電時間は、画像信号電流が大きいときは短く、画像信号電圧が小さいときは長くかかる。従って、定電流駆動発光素子の電流効率が低く発光電流が大きくならないと所定の輝度が得られない場合には、画像信号電流は大きくなり充放電時間が短くて済む。逆に定電流駆動発光素子が高電流効率で発光電流が小さくても高輝度なほど画像信号電流が小さくなるため、充放電時間は長くなる。
【0009】
この表示素子をRGBの各色に対応する複数の発光素子より成るカラー・マトリクス表示素子に適用する場合を考える。この場合、Bの発光素子の発光電流が大きくてRの発光電流が小さい場合は、ホワイトバランス比にも依るが、Rの画像信号電流が少なくなり、Bの画像信号電流は多くなる場合が多い。このため、前述した図26で示されるように、表示素子1に黒帯83と白帯81のストライプを表示した場合には、白帯81の上部は画像信号電流が大きく充放電時間の短い青色80が先に表示され始める。これに対し黒帯83の上部には、画像信号電流が小さく充放電時間の長い赤色82が残って表示されることになる。この対策として、充放電時間を短くするために大電流で発光する低効率な発光素子を全色に用いることが考えられる。しかし、この場合には、消費電力の点で不利となる。
【0010】
上記に関連して、特許文献2では、配線の抵抗分で発生する電圧降下による輝度の変動を駆動回路で補償制御する手段を備えた駆動制御装置が開示されている。しかし、この装置では、これらの制御を行なうためには、大規模な駆動回路を用意する必要があった。
【0011】
本発明は、色毎で発光素子への駆動電圧或いは駆動電流が異なる表示素子において、大規模な駆動回路を用いずに、駆動基板上の配線抵抗と容量から生じる充放電時間差を縮め、表示画像以外の色付きが観られない良好な表示を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するため、本発明に係る表示素子は、異なる発色を示す発光素子を有する画素が、同一面上に複数配置された表示素子において、前記複数の画素に接続された複数の画像信号配線を有し、前記複数の画像信号配線は、対応する前記画素の色毎に抵抗が異なるよう配線されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る表示素子は、異なる発色を示す発光素子を有する画素が、同一面上に複数配置された表示素子において、前記複数の画素に接続された複数の画像信号配線を有し、前記複数の画像信号配線は、対応する前記画素の色毎に容量が異なるように配線されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、色毎で発光素子への駆動電圧、或いは駆動電流が異なる表示素子において、大規模な駆動回路を用いずに、駆動基板上の配線抵抗と容量から生じる充放電時間差を縮めることが可能となる。これにより、電流駆動表示素子で表示画像以外の色付きが観られない良好な表示が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
本実施の形態は、有機EL素子を定電圧駆動する際に駆動基板上の配線抵抗と容量から生じる充放電時間、即ち有機EL素子の画像信号電圧印加に対しての各色発光素子の所望輝度に達する時間の差から生じる画像の課題を軽減するものである。また、本実施の形態は、有機EL素子を定電流駆動する際に駆動基板上の配線抵抗と容量から生じる充放電時間、即ち有機EL素子の画像信号電圧印加に対しての各色発光素子の所望輝度に達する時間の差から生じる画像の課題を軽減するものである。
【0017】
このため、本実施の形態では、異なる発色を示す発光素子よりなる画素が接続された画像信号配線の抵抗または容量を異ならせることを主眼としている。具体的には、発色別に画像信号配線の抵抗を異ならせるために、異なった材料で配線したり、異なった配線幅で配線したり、異なった厚さで配線したりする手段を用いる。また、発色別に画像信号配線の容量を異ならせるために、走査配線との配線交点を異なった配線幅で配線したり、走査配線との間に異なった厚さの絶縁層を配線したり、走査配線との間に異なった材料の絶縁層を配線したりする手段を用いる。
【0018】
こうすることで、大規模な駆動回路を用いずに表示素子の製造材料で上記の課題に対処することができる。すなわち、発光電圧が低く充放電時間の短い有機EL発光素子と発光電圧が高く充放電時間の長い有機EL発光素子を一枚のパネル上で混在させても、画像信号電圧源から配線の抵抗を介して寄生する容量および保持容量への充放電時間差が表示へ酷く作用しない。また、発光電流が大きく充放電時間の短い有機EL発光素子と発光電流が小さく充放電時間の長い有機EL発光素子を一枚のパネル上で混在させても、画像信号電流源から配線の抵抗を介して寄生する容量への充放電時間差が表示へ酷く作用しない。
【0019】
従って、色毎で発光素子への駆動電圧、或いは駆動電流が異なる表示素子において、大規模な駆動回路を用いずに、駆動基板上の配線抵抗と容量から生じる充放電時間差を縮めることが可能となる。これにより、電流駆動表示素子で表示画像以外の色付きが観られない良好な表示が可能となる。
【0020】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0021】
まず、本発明の第1の実施例について図面を用いて詳細に説明する。本実施例は、有機EL素子を定電圧駆動する構成の表示素子に適用したものである。
【0022】
図24に示す表示システムは、定電圧駆動型の表示素子1、垂直シフトレジスタ103、水平シフトレジスタ92、駆動電圧ラッチ91、電圧電流変換部94、および表示コントローラ108を有している。表示コントローラ108は、コントローラ99の制御の元で外部より供給される画像データ101をタイミングジェネレータ98に同期して記憶部100に取り込む。垂直シフトレジスタ103は、表示コントローラ108からのスタートパルス93及びシフトクロック102に同期して、表示素子1の各走査信号線107を順次選択走査していく。水平シフトレジスタ92は、表示コントローラ108からのスタートパルス95及びシフトクロック97に同期して、ラッチ信号を生成する。駆動電圧ラッチ91は、そのラッチ信号により、表示コントローラ108からの画像データ100に対応する駆動電圧信号96をラッチする。電圧電流変換部94は、ラッチされた駆動電圧値を電流に変換し、垂直シフトレジスタ103と同期して走査ライン毎に画像信号配線104〜106を介して表示素子1の各画素に供給する。表示素子1では、供給された駆動電圧に対応する容量を保持し、これに応じた駆動電流を有機EL素子に供給して発光させる。
【0023】
図17は、上記の定電圧駆動を行なう画素内の定電圧駆動回路の例を示す。図18は、図17に示す駆動回路の動作タイミングを説明するタイミングチャートである。
【0024】
まず、画像信号線32を通して画像信号電圧が印加される。その後に走査信号線33が選択され、PチャネルのTFT34がON状態となる。これにより、容量30には、画像信号線32に印加された画像信号電圧レベルが保持される。この時点で、NチャネルのTFT36は、有機EL発光素子37に今回の設定電圧に対応した電流を流す。その後に走査信号線33が非選択状態にされ、PチャネルのTFT34がOFF状態となる。その後も、NチャネルのTFT36は、容量30に設定されたゲート電圧に対応した電流を有機EL発光素子37に流し続ける。上記の一連の動作で、有機EL発光素子37は発光する。
【0025】
図21及び図22は、上記の有機EL素子において、積層された有機薄膜を陽極および陰極で狭持した素子構成を示す図である。図21及び図22において、51はガラス基板、52はITO(Indium Tin Oxide)などの透明な陽極、53は正孔輸送層、54は発光層、55は電子輸送層、56は陰極、57は電源、58は正孔、59は電子である。図22に示すように、陽極52及び陰極56間に接続された電源57により、陽極52側に正電圧、陰極56側に負電圧を印加する。これにより、正孔輸送層53を通った正孔58と電子輸送層55を通った電子59が発光層54内で励起子を形成し、再結合により発光する。
【0026】
ここで、画素に用いられる有機EL素子の発光層には、例えば3重項状態から燐光を発する図23(a)〜(c)に示される構造式を有する材料が、R、G、Bの各発光材料として用いられる。同図(a)〜(c)に示す発光材料は、電荷を運ぶ電荷輸送基(カルバゾール)と、燐光基(イリジウム錯体)とが鎖状に繋がった構造の燐光性高分子(分子量:12000〜16000)を用いたものである。なお、燐光材料としては、イリジウム錯体に限らず、他の材料でもよい。また、発光材料は、本発明では燐光材料に限らず、従来から用いられている蛍光材料を用いてもよい。
【0027】
上記構成の有機EL素子を用いた発光素子よりなる画素は、前述した図24の表示素子1に示されるように列方向に画像信号線104、行方向に走査配線107が接続され、マトリックス状に配置されている。なお、R画像信号線104はRの画素に、G画像信号線105はGの画素に、B画像信号線106はBの画素に夫々接続されている。
【0028】
このような基板では、前述した図17に示すように各画素までの画像信号配線に抵抗35と容量31が寄生する。この抵抗35は線端で約100kΩであり、容量31は線端で約30pFである。また、保持容量30は5pFである。これらの抵抗と容量により電圧の立ち上がりと立ち下がりに遅延が生じる。上述の容量と配線抵抗により画像信号電圧の印加から電圧源から1番離れた画素の輝度の立ち上がり波形を観てみると、図9乃至11のようになっている。
【0029】
図9はR画像信号線、図10はG画像信号線、そして、図11はB画像信号線の立ち上がり波形である。ここで、Bの発光素子の画像信号線電圧>Gの発光素子の画像信号線電圧>Rの発光素子の画像信号線電圧であり、所定輝度までの立ち上がり時間は、この順になっている。この計算式より画像信号電圧が高い方がt=C×V÷i(t:充電時間、C:容量、V:電圧、i:電流)の関係より長い時間が必要となる。なお、図9乃至11のグラフの縦軸は光応答を測定するフォトマルチプライアの電圧出力となっている。
【0030】
図15は、上記の光応答をより定量的に計算した結果を示してある。ここで、電圧は、略有機EL素子+駆動TFTのゲート電圧にかかる電圧である。目標輝度を得るためには同図に示す同並びの電圧値までデータ配線を充電する必要がある。また、輝度は駆動電流に対する目標輝度であり、電流と輝度の交点で示される値は目標輝度相当の電圧までデータ配線を充電する時間である。例えば、10Vの大画像信号電圧で1000cd/mを得るための100kΩのデータ配線には0.1mAが流れ充放電時間は33.12μSである。なお、本実施例では、図15に示すデータ配線充放電時間をデータ線容量が30pFと仮定して計算している。RGBの発光画素よりなる表示素子1では、ホワイトバランスを考慮した必要輝度が、Rで50cd/m、Gで100cd/m、Bで25cd/mである。この時、R画像信号線の「有機EL素子+駆動TFTのゲートにかかる電圧」は6V、G画像信号線の「有機EL素子+駆動TFTのゲートにかかる電圧」は5V、B画像信号線の「有機EL素子+駆動TFTのゲートにかかる電圧」は4Vがかかっていた。
【0031】
本実施例では、画素の色毎に、対応する画像信号線を異なる配線幅で配線している。即ち、図1に示すようにR画像信号線2の配線幅W1は3.3μm幅で、G画像信号線3の配線幅W2は4.2μm幅で、B画像信号線4の配線幅W3は5μm幅でパターニングした(W1<W2<W3)。なお、走査信号線14、15、16の交点は5μm幅のままである。このとき、R画像信号線には60μA、G画像信号線にも166μA、B画像信号線にも159μAが流れていた。配線の抵抗と容量の違いで色毎の駆動電流と配線時定数の関係が調整され、RGBの立ち上がり波形は3色ともに略図10に示すような波形に一致した。この結果、図26に示すような色毎による発光ずれは観察されなくなった。
【実施例2】
【0032】
次に、本発明の第2の実施例について図面を用いて詳細に説明する。本実施例も、第1の実施例と同様に、有機EL素子を定電圧駆動する構成の表示素子に適用したものである。なお、第1の実施例と同様の構成要素については、その説明を簡略又は省略する。
【0033】
本実施例では、画素の色毎に、対応する画像信号線を異なる厚さで配線している。即ち、図2に示すようにR画像信号線5の厚さd1は330nm厚で、G画像信号線6の厚さd2は420nm厚で、Bの画像信号線7の厚さd3は500nm厚でパターニングした(d1<d2<d3)。これにより、配線の抵抗の違いで色毎の駆動電圧と配線時定数の関係が調整され、RGBの立ち上がり波形は3色ともに略図10に示すような波形に一致した。この結果、図26に示すような色毎による発光ずれは観察されなくなった。
【実施例3】
【0034】
次に、本発明の第3の実施例について図面を用いて詳細に説明する。本実施例も、第1の実施例と同様に、有機EL素子を定電圧駆動する構成の表示素子に適用したものである。なお、第1の実施例と同様の構成要素については、その説明を簡略又は省略する。
【0035】
本実施例では、画素の色毎に、対応する画像信号線を異なる材料で配線している。即ち、図3に示すようにR画像信号線8はCr材料で、G画像信号線9はMo材料で、B画像信号線10はAl材料でパターニングした。それぞれの配線材料の抵抗率は図7に示す通りであり、Crは12.7μΩ・cm、Moは5μΩ・cm、Alは2.5μΩ・cmである。
【0036】
これらの色毎の配線材料の違いにより、色毎の駆動電圧と配線時定数の関係が調整され、RGBの立ち上がり波形は3色ともに略図10に示すような波形に一致した。この結果、図26に示すような色毎による発光ずれは観察されなくなった。
【実施例4】
【0037】
次に、本発明の第4の実施例について図面を用いて詳細に説明する。本実施例は、有機EL素子を定電流駆動する構成の表示素子に適用したものである。なお、有機EL素子の素子構成については前述した図21及び図22と同様であり、発光材料については図23と同様であり、表示素子の全体構成については図24と同様であるため、その説明を省略する。
【0038】
図19は、定電流駆動を行なう画素内定電流駆動回路の例を示す。この回路は、例えば前述した特許文献1で開示されたようなアクティブ・マトリクス型で電流駆動を行なう有機EL表示素子で用いられる。図20は、図19に示す回路の駆動タイミングを説明するタイミングチャートである。
【0039】
まず、走査信号線43が選択され、NチャネルのTFT45がON状態となる。それから、画像信号線42を通して有機EL発光素子37の駆動電流が印加され有効状態とされる。その後に保持信号線44が選択され、PチャネルのTFT47をONする。これにより、PチャネルのTFT46は駆動電流を自身のチャネルに流して変換された電圧レベルをゲートに発生させ、容量40はTFT46のゲートに生じた電圧レベルを保持する。この時点で、PチャネルのTFT48は、有機EL発光素子37に今回の設定電流を流す。次に、保持信号線44が非選択されTFT47がOFFとなると、PチャネルのTFT48は有機EL発光素子37に、保持容量40の電圧レベルに対応した定電流を流す。上記の一連の動作で有機EL発光素子37は発光する。
【0040】
上記の発光素子よりなる画素は、前述した図24の表示素子1に示されるように列方向に画像信号線104、行方向に走査配線107が接続され、マトリックス状に配置されている。なお、R画像信号線104はRの画素に、G画像信号線105はGの画素に、B画像信号線106はBの画素に夫々接続されている。
【0041】
このような基板では、前述した図19に示すように各画素までの画像信号配線に容量41が寄生する。この容量41は約10〜20pFであり、略配線の長さに比例する値である。この容量41と配線抵抗により画像信号電流の印加から電流源から1番離れた画素の輝度の立ち上がり波形を観てみると、図12乃至14のようになっている。
【0042】
図14はB画像信号線、図13はG画像信号線、そして、図12はR画像信号線の立ち上がり波形である。ここで、Bの発光素子の駆動電流>Gの発光素子の駆動電流>Rの発光素子の駆動電流であり、所定輝度までの立ち上がり時間はこの順になっている。駆動電流は少ない方がt=C×V÷i(t:充電時間、C:容量、V:電圧、i:電流)の関係より長い時間が必要となる。なお、図12及至14のグラフの縦軸は光応答を測定するフォトマルチプライアの電圧出力となっている。
【0043】
図16は、上記の応答をより定量的に計算した結果を示してある。ここで、電圧は有機EL素子にかかる電圧であり、電流と電圧の交点で示される値は目標輝度相当の電圧までデータ配線を充電する時間である。例えば、80.8nAの大駆動電流で1000cd/mを得るため電圧は3Vでありそのときののデータ配線充放電時間は0.371mSである。なお、本実施例では、図16に示すデータ配線充放電時間をデータ線容量が10pFと仮定して計算している。
【0044】
RGBの発光画素よりなる表示素子1では、ホワイトバランスを考慮した必要輝度が、Rで50cd/m、Gで100cd/m、Bで25cd/mである。この時Rには161.6nA、Gには323.2nA、Bには1028nAが画像信号線104乃至106に流れていた。また、そのときの電圧は、夫々、2.1V、2.4V、2.7Vであった。
【0045】
本実施例では、画素の色毎に、対応する画像信号線における走査信号線との配線交点の配線幅が異なるように配線している。即ち、図4に示すようにR画像信号線11と走査のための走査信号線(ゲート線)14との交点の配線幅W4は5μm幅でパターニングした。また、G画像信号線12と走査のための走査信号線14との交点の配線幅W5は2.9μm幅でパターニングした。さらに、B画像信号線13と走査信号線14との交点の配線幅W6は1μm幅でパターニングした(W4>W5>W6)。
【0046】
これにより、配線の容量の違いで色毎の駆動電流と配線時定数の関係が調整され、RGBの立ち上がり波形は3色ともに略13に示すような波形に一致した。この結果、図26に示すような色毎による発光ずれは観察されなくなった。
【実施例5】
【0047】
次に、本発明の第5の実施例について図面を用いて詳細に説明する。本実施例も、第1の実施例と同様に、有機EL素子を定電流駆動する構成の表示素子に適用したものである。なお、第1の実施例と同様の構成要素については、その説明を簡略又は省略する。
【0048】
本実施例では、画素の色毎に、対応する画像信号線における走査信号線との間の絶縁膜の厚さが異なるように配線している。即ち、図5に示すようにR画像信号線17と走査のための走査信号線(ゲート線)(非図示)との間の絶縁膜20の厚さd4は500nm厚でパターニングした。また、G画像信号線18と走査信号線との間の絶縁膜21の厚さd5は290nm厚でパターニングした。さらに、B画像信号線19と走査信号線との間の絶縁膜22の厚さd6は100nm厚でパターニングした(d4>d5>d6)。
【0049】
これにより、配線の容量の違いで色毎の駆動電流と配線時定数の関係が調整され、RGBの立ち上がり波形は3色ともに略図13に示すような波形に一致した。この結果、図26に示すような色毎による発光ずれは観察されなくなった。
【実施例6】
【0050】
以下、本発明の第6の実施例について図面を用いて詳細に説明する。本実施例も、第1の実施例と同様に、有機EL素子を定電流駆動する構成の表示素子に適用したものである。なお、第1の実施例と同様の構成要素については、その説明を簡略又は省略する。
【0051】
本実施例では、画素の色毎に、対応する画像信号線における走査信号線との間の絶縁膜の材料が異なるように配線している。即ち、図6に示すようにR画像信号線23と走査のための走査信号線(ゲート線)(非図示)との間の絶縁膜26の材料は、SiOを用いてパターニングした。また、G画像信号線24と走査信号線との間の絶縁膜27の材料は、Siを用いてパターニングした。さらに、B画像信号線25と走査信号線との間の絶縁膜28の材料は、Taを用いてパターニングした。
【0052】
それぞれの配線材料の比誘電率は、図8に示す通りであり、SiOは4.0、Siは9.0、Taは25.0である。これらの絶縁膜材料の比誘電率の違いにより、色毎の駆動電流と配線時定数の関係が調整され、RGBの立ち上がり波形は3色ともに略図13に示すような波形に一致した。この結果、図26に示すような色毎による発光ずれは観察されなくなった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、有機EL素子を用いた表示素子の用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の第1の実施例に係る表示素子の画像信号配線を示す平面図である。
【図2】本発明の第2の実施例に係る表示素子の画像信号配線を示す側面図である。
【図3】本発明の第3の実施例に係る表示素子の画像信号配線を示す平面図である。
【図4】本発明の第4の実施例に係る表示素子の画像信号配線を示す平面図である。
【図5】本発明の第5の実施例に係る表示素子の画像信号配線を示す側面図である。
【図6】本発明の第6の実施例に係る表示素子の画像信号配線を示す側面図である。
【図7】第3の実施例において、配線材料と抵抗率を表す図である。
【図8】第6の実施例において、配線材料と比誘電率を表す図である。
【図9】第1〜第3の実施例において、抵抗および容量を含む配線で接続された画素の画像信号に対する光応答波形を示すグラフである。
【図10】第1〜第3の実施例において、抵抗および容量を含む配線で接続された画素の画像信号に対する光応答波形を示すグラフである。
【図11】第1〜第3の実施例において、抵抗および容量を含む配線で接続された画素の画像信号に対する光応答波形を示すグラフである。
【図12】第4〜第6の実施例において、容量を含む配線で接続された画素の画像信号に対する光応答波形を示すグラフである。
【図13】第4〜第6の実施例において、容量を含む配線で接続された画素の画像信号に対する光応答波形を示すグラフである。
【図14】第4〜第6の実施例において、容量を含む配線で接続された画素の画像信号に対する光応答波形を示すグラフである。
【図15】第1〜第3の実施例において、配線用抵抗と容量の充電にかかる時間を表す図である。
【図16】第4〜第6の実施例において、本実施例の容量の充電にかかる時間を表す図である。
【図17】第1〜第3の実施例の表示素子で用いる画素内定電圧駆動回路の構成を示す回路図である。
【図18】図17の画素内駆動回路の動作を示すタイミングチャートである。
【図19】第4〜第6の実施例の表示素子で用いる画素内定電流駆動回路の構成を示す回路図である。
【図20】図19の画素内駆動回路の動作を示すタイミングチャートである。
【図21】第1〜第6の実施例の表示素子で用いる有機ELの素子構成を示す図である。
【図22】第1〜第6の実施例の表示素子で用いる有機ELの発光原理を示す図である。
【図23】(a)〜(c)は、第1〜第6の実施例の表示素子で用いる発光材料の分子構造を示す図である。
【図24】第1〜第6の実施例の表示素子を用いた表示システムの全体構成を示すブロック図である。
【図25】従来例の表示素子の画像信号配線を示す平面図である。
【図26】従来例の表示の様子を示す図である。
【符号の説明】
【0055】
1 表示素子
2、5、8、11、17、23 R画像信号線
3、6、9、12、18、24 G画像信号線
4、7、10、13、19、25 B画像信号線
14〜16 走査信号線
20〜22、26〜28 絶縁膜
30、31 容量
32 画像信号線
33 走査信号線
34 PチャネルTFT
35、36 NチャネルTFT
37 有機EL発光素子
40、41 容量
42 画像信号線
43 走査信号線
44、46〜48 PチャネルTFT
45 NチャネルTFT
51 ガラス基板
52 陽極
53 正孔輸送層
54 発光層
55 電子輸送層
56 陰極
57 電源
58 正孔
59 電子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる発色を示す発光素子を有する画素が、同一面上に複数配置された表示素子において、
前記複数の画素に接続された複数の画像信号配線を有し、
前記複数の画像信号配線は、対応する前記画素の色毎に抵抗が異なるよう配線されることを特徴とする表示素子。
【請求項2】
前記複数の画像信号配線は、対応する前記画素の色毎に異なる材料で配線されることを特徴とする請求項1に記載の表示素子。
【請求項3】
前記複数の画像信号配線は、対応する前記画素の色毎に異なる配線幅で配線されることを特徴とする請求項1に記載の表示素子。
【請求項4】
前記複数の画像信号配線は、対応する前記画素の色毎に異なる厚さで配線されることを特徴とする請求項1に記載の表示素子。
【請求項5】
前記画素は、前記発光素子の発色が互いに異なる第1の画素、第2の画素、第3の画素を有し、
前記複数の画像信号配線は、前記第1の画素に接続される第1の画像信号配線と、前記第2の画素に接続される第2の画像信号配線と、前記第3の画素に接続される第3の画像信号配線とを有し、
前記第1の画像信号配線、前記第2の画像信号配線、及び前記第3の画像信号配線は、それぞれ抵抗が異なるよう配線されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の表示素子。
【請求項6】
異なる発色を示す発光素子を有する画素が、同一面上に複数配置された表示素子において、
前記複数の画素に接続された複数の画像信号配線を有し、
前記複数の画像信号配線は、対応する前記画素の色毎に容量が異なるように配線されることを特徴とする表示素子。
【請求項7】
前記複数の画素に接続される複数の走査配線をさらに有し、
前記複数の画像信号配線は、対応する前記画素の色毎に前記走査配線との配線交点が異なる配線幅で配線されることを特徴とする請求項6に記載の表示素子。
【請求項8】
前記複数の画素に接続される複数の走査配線をさらに有し、
前記複数の画像信号配線は、対応する前記画素の色毎に前記走査配線との間の絶縁層の厚さが異なるように配線されることを特徴とする請求項6に記載の表示素子。
【請求項9】
前記複数の画素に接続される複数の走査配線をさらに有し、
前記複数の画像信号配線は、対応する前記画素の色毎に前記走査配線との間の絶縁層の材料が異なるように配線されることを特徴とする請求項6に記載の表示素子。
【請求項10】
前記画素は、前記発光素子の発色が互いに異なる第1の画素、第2の画素、第3の画素を有し、
前記複数の画像信号配線は、前記第1の画素に接続される第1の画像信号配線と、前記第2の画素に接続される第2の画像信号配線と、前記第3の画素に接続される第3の画像信号配線とを有し、
前記第1の画像信号配線、前記第2の画像信号配線、及び前記第3の画像信号配線は、それぞれ容量が異なるよう配線されることを特徴とする請求項6乃至9のいずれか1項に記載の表示素子。
【請求項11】
前記表示素子は、有機エレクトロルミネッセンス素子であることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の表示素子。
【請求項12】
前記有機エレクトロルミネッセンス素子は、燐光材料、または/および蛍光材料を用いたものであることを特徴とする請求項11に記載の表示素子。
【請求項13】
請求項1乃至12のいずれか1項に記載の表示素子を用いたことを特徴とする表示システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図15】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【公開番号】特開2008−10744(P2008−10744A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−181667(P2006−181667)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】