説明

表示装置

【課題】
表示装置のガラスによる電極の劣化を防止したガラス基板を用い、表示装置の量産性を向上させる。
【解決手段】
少なくとも、二枚の基板と、該二枚の基板の間に設けられた発光部を有する平面型画像表示装置であって、前記二枚の基板のうち少なくとも一枚の基板が酸化物換算でSiO2 を主成分とし、La,Y,Gd,Yb,Luより選ばれた少なくとも一種を1〜10重量%、R2O(RはLi,K,Cs,Rbのうちから選ばれた1種以上)を5〜25重量%、Al23を8〜20重量%含有し、該ガラス材の350℃での表面電気抵抗が1×108(Ω/□)より大きいことを特徴とする平面型画像表示装置にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示装置とその製造方法に係り、特に電子源を有する平面パネル型の表示装置に好適なものである。
【背景技術】
【0002】
高輝度及び高精細に優れた表示装置として従来からのカラー陰極線管に代えて液晶表示装置やプラズマ表示装置等が実用化されている。また、特に高輝度化が可能なものとして電子放出型表示装置や低消費電力化を特徴とする有機EL表示装置等、種々の型式のパネル型表示装置が実用化され、もしくは実用化準備段階にある。
【0003】
電子放出型表示装置に関するものとしては特許文献1,特許文献2,特許文献3等を挙げることができる。この種の表示装置は、第1のガラス基板の内面に複数の電子源を形成した背面パネルと、第1のガラス基板の電子源形成面と対向する第2のガラス基板の内面に陽極(アノード)及び蛍光体が形成された前面パネルとを所定の間隔をもって対向配置し、背面パネルを構成する第1のガラス基板と前面パネルを構成する第2のガラス基板との外周内縁部にガラスを好適とする封止枠を介在して貼り合され、密閉容器(この場合、真空容器とも称する)を構成する。
【0004】
【特許文献1】特開平9−283059号公報
【特許文献2】特開2000−21335号公報
【特許文献3】特開平8−22782号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子源はガラス基板上に形成されている。そのため、製造工程での熱処理によりガラス材から拡散したナトリウムが電子源の電極を劣化させることがある。したがって、パネルガラスと電極間には拡散防止層を形成している。そのため、製品の量産性が低くなり、またコストがかかるという問題点があった。
【0006】
また、表示装置に用いられているガラス基板には、電気的特性のほかに、製造工程での熱処理に対する耐熱性や他部材との熱膨張係数のマッチングなどの熱的特性も要求されている。
【0007】
本発明の目的は、表示装置のガラスによる電極の劣化を防止したガラス基板を用い、表示装置の量産性を向上させることにある。また、電子源の劣化を抑制し、高い信頼性と高輝度を実現する表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の特徴は、表示パネルを構成する二枚のガラス基板
(パネルガラス)間に発光部を設けた平面型画像表示装置において、前記ガラス基板に、高温での電気抵抗が大きなガラス材を用いたことであり、より具体的には、少なくとも、二枚の基板と、該二枚の基板の間に設けられた発光部を有する平面型画像表示装置であって、前記二枚の基板のうち少なくとも一枚の基板が酸化物換算でSiO2 が45〜65重量%、B23が0〜15重量%、Al23が8〜20重量%、R2O(RはLi,K,Cs,Rbのうちから選ばれた1種以上) が5〜25重量%、R′O(R′はアルカリ土類金属)が0〜15重量%、Ln23(LnはLa,Y,Gd,Yb,Luより選ばれた少なくとも一種)が1〜10重量%の組成のガラス材であり、該ガラス材の350℃での表面電気抵抗が1×109(Ω/□)より大きいことを特徴とする表示装置である。
【発明の効果】
【0009】
上記本発明によれば、拡散防止層がなく、表示装置の量産性を向上させ、コストを低減できる。また、電子源の劣化を防止し、表示装置の信頼性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の最良の実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明にかかる表示装置の全体構造例を説明する図である。この表示装置は、第1のガラス基板SUB1に薄膜電子源を形成した背面パネルと、第2のガラス基板SUB2に蛍光体およびアノードを形成した前面パネルとを封止枠FRで一体化して密閉容器を形成した電子放出型表示装置である。図1(a)は前面パネル(第1のガラス基板)側から見た平面図を、図1(b)は図1(a)のA−A′線に沿って切断された断面図をそれぞれ示している。
【0012】
この表示装置は、背面パネルと前面パネルを所定の間隔で対向させて構成される。背面パネルは、その内面に多数の電子放出源(陰極、以下カソードとも称する)が形成された第1のガラス基板SUB1を有し、前面パネルは、第1のガラス基板SUB1のカソード形成面と対向する内面にブラックマトリクス膜で互いに区画された複数色の蛍光体とアノード(陽極)が形成された透光性の第2のガラス基板SUB2を有する。
【0013】
第1のガラス基板SUB1と第2のガラス基板SUB2とは間隔保持部材(スペーサ
SPC)を介して所定の間隔で対向配置される。第1のガラス基板SUB1と第2のガラス基板SUB2の内周縁部に接着層(シールフリットガラス)FTを塗布し、封止ガラス枠FRを介挿して焼成し、固定して密閉容器を形成する。この密閉容器の内部を図示しない排気管を通して真空排気される。なお、ARは表示領域を示す。
【0014】
図2に背面パネルの電極部の模式図を示す。ガラス基板(SUB1)には信号線駆動回路に接続する信号線(データ線)を構成する下部電極(LE),電子放出電極となる上部電極(UE),走査線駆動回路に接続する走査線を構成し、上部電極(UE)とコンタクトするバス電極(BE),下部電極(LE)と上部電極(UE)およびバス電極(BE)の間に形成された絶縁層(IN2),バス電極(BE)上に形成された絶縁層(IN1)が形成されている。下部電極(LE)にはAlやAl合金、例えばAl−Nd合金などが、上部電極(UE)にはIr,Pt,Auなどの積層膜が用いられるが、これらに限られるものではない。絶縁層(IN2)には下部電極(LE)を酸化処理した酸化物、例えばAl23などが用いられる。バス電極にはAl−Nd合金やWなどが用いられる。絶縁層(IN1)にはSiO,SiO2 ,リン珪酸ガラス,ホウ珪酸ガラスなどのガラス類、
Si34,Al23,ポリイミドなどを形成することができる。
【0015】
パネル製造工程での熱処理により、ガラス基板(SUB1)に含まれるアルカリ金属成分、特にNa成分が下部電極(LE)及び又はバス電極(BE)に移動して電気的絶縁物を生成することにより、下部電極(LE)及び又はバス電極(BE)の導電率を低下させ、電子放出特性の効率低下をもたらす。
【0016】
本発明のガラス材は、実質的にNa成分を含有しないために、熱処理に伴うNaの移動、及びそれに伴う電子放出源の特性劣化を抑制することが可能となる。
【0017】
次に、本発明のガラス材について説明する。実際の画像表示装置用大型ガラス基板は、例えばフロート法などで作製される。以下では、ガラス材の各種特性を評価する試作ガラス材の作製方法について説明する。
【0018】
(ガラス材の試作)
所定量の原料粉末を白金製のるつぼに秤量して入れ、混合した後、電気炉中で1600℃〜1700℃で溶解した。原料が十分に溶解した後、白金製の撹拌羽をガラス融液に挿入し、約40分撹拌した。その後、撹拌羽を取り出し、20分静置した後、約400℃に加熱された黒鉛製の治具にガラス融液を流し込んで急冷することによりガラスブロックを得た。その後、各ガラスのガラス転移温度付近までガラスブロックを再加熱し、1〜2℃/分の冷却速度で徐冷することにより歪とりを行った。
【0019】
(ガラス組成)
本発明のガラス材の成分は以下のとおりである。すなわち、SiO2 を主成分とし、
La,Sc,Y,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,
Er,Tm,Yb,Luより選ばれた少なくとも一種を含有する。
【0020】
また、上記の各成分の比率は次の(1)又は(2)に示すとおりである。すなわち、
(1)酸化物換算でSiO2が45〜65重量%、B23が0〜15重量%、Al23が8〜20重量%、R2O (RはLi,K,Cs,Rbのうちから選ばれた1種以上)が5〜25重量%、R′O(R′はアルカリ土類金属)が0〜15重量%、Ln23(LnはLa、Y、Gd,Yb,Luより選ばれた少なくとも一種)が1〜10重量%
(2)酸化物換算で、SiO2:50〜65重量%,B23:0〜10重量%,Al23:10〜20重量%,R2O(R(RはLi,K,Cs,Rbのうちから選ばれた1種以上):10〜20重量%,R′O(R′はアルカリ土類金属):5〜15重量%,Ln23(Lnは、La,Y,Gd,Yb,Luより選ばれた少なくとも一種):1〜10重量%。
【0021】
上記本発明のガラス材には、着色成分を添加してもよい。着色成分を含有したガラスを用いることにより、従来、ガラスの前面に形成していた着色フイルタを用いることなく表示画像のコントラストを際立たせることが可能となる。以下、各構成分について説明する。
【0022】
(1)SiO2
SiO2 の含有量が45重量%未満では機械的強度,化学的安定性が損なわれるため、好ましくなかった。また、SiO2 含有量が65重量%を超えると溶融性が低下し脈理が多く発生した。以上のことから、SiO2 の含有量は45〜65重量%であることが好ましく、さらに50〜65重量%であればより好ましい。
【0023】
(2)B23
酸化硼素はガラスの高温粘性を低下させて溶融性を向上させるとともに、電気抵抗を増加させる効果があるが、過剰な添加はガラスの耐熱温度や熱膨張係数の低下をもたらす。このガラス材にB23を含有させると、溶融時の流動性や高温電気抵抗に優れたガラスが得られた。しかし、その含有量が15重量%を超えると、熱膨張係数が小さくなった。このため、B23の含有量は15重量%以下であることが好ましい。さらに10重量%以下であればより好ましい。
【0024】
(3)アルカリ金属酸化物
アルカリ金属はガラスの電気的特性,耐熱温度や熱膨張係数などの熱的特性を大きく左右する因子であり、特にNaはガラス材の電気抵抗を小さくする効果がある。
【0025】
本発明のガラス材は、アルカリ金属のうち、実質的にNaを含まないため、Naイオンの拡散に伴う電子源や電極の劣化や短絡を防止することが可能となる。
【0026】
Naを除いたアルカリ金属としてはLi,K,Cs,Rbなどが挙げられる。本発明のガラスには、これらから選ばれた少なくとも1種以上が含有される。
【0027】
2O(Rはアルカリ金属)で表記されるアルカリ金属酸化物(Li2O,K2O,Cs2O,Rb2O )の含有量の合計が25重量%を超えると、化学的安定性が低下した。但し、アルカリ金属酸化物の添加はガラス材の熱膨張係数を大きくする働きがあるため、5重量%以上含有することが好ましい。そのため、アルカリ金属酸化物の含有量は、5〜25重量%であることが好ましく、さらに10〜20重量%であればより好ましい。
【0028】
(4)アルカリ土類酸化物
アルカリ土類金属酸化物はガラスの耐熱温度の向上,熱膨張係数の増加,溶融性の向上などに効果があるが、過剰な添加は機械的特性の低下を招く。
【0029】
R′O(R′はアルカリ土類金属)で表記されるアルカリ土類金属酸化物はアルカリ金属酸化物と同様にガラス材の熱膨張係数を大きくする働きがあるが、その添加量の合計が15重量%を超えると、機械的特性が低下した。そのため、アルカリ土類金属酸化物の含有量は15重量%以下が好ましく、さらに5重量%以上15重量%以下であればより好ましい。
【0030】
また、アルカリ金属酸化物とアルカリ土類金属酸化物は、ガラスを低融点化させる意味では同様の効果が見られたが、その合計量が5重量%未満では流動性が悪く、脈理が多く発生した。また、40重量%を超えると、化学的安定性が低下した。このことから、アルカリ金属酸化物,アルカリ土類金属酸化物の含有量の合計は、5重量%以上,40重量%未満であることが好ましい。
【0031】
(5)Al23
Al23はガラスの機械的強度や化学的安定性を増加させるのに効果的であり、8重量%以上ではその効果が顕著であった。但し、含有量が20重量%を超えると、ガラスの流動性が低下し、好ましくなかった。従って、Al23の含有量は、8重量%以上,20重量%以下であることが好ましく、さらに10〜20重量%であればより好ましい
(6)希土類酸化物
希土類酸化物の含有量は、10重量%を超えると未溶解部やガラスの不均一化などによりガラス材が失透し、機械的特性が低下し、好ましくなかった。また、1重量%未満では機械的強度向上の効果が小さかった。従って、希土類酸化物の含有量は1〜10重量%であることが好ましい。
(7)その他(ZnO,ZrO2
また、上記の酸化物のほかに、ZnO,ZrO2 なども添加することができる。ZnOを添加すると、ガラスの溶解が促進するとともに、ガラスの耐久性を向上させる効果がある。特に、0.5 重量%以上含有させるとその効果がより顕著になって好ましい。しかし、10重量%を超えるとガラスの失透性が増し、均質性の高いガラスが得られなくなる。
【0032】
ZrO2 を添加すると、ガラスの耐久性を向上させる効果がある。特に0.5 〜5重量%の範囲で含有させるとその効果がより顕著になって好ましい。しかし5重量%を超えて含有させるとガラス溶融が困難になるとともに、ガラスの失透性が増大する。
【0033】
(試作ガラス材の評価)
電気抵抗はJIS C 2141に準拠して測定を行った。マイクロビッカース硬さ
(Hv)は、印加荷重500g,荷重印加時間15秒の条件で10ヶ所測定し、その平均値とした。なお測定は荷重印加後20分経過してから行った。試験片の形は4mm×4mm×15mmとした。クラック発生率の測定は、前記マイクロビッカース硬さ測定と同様の条件で、印加荷重のみを変化させて測定を行った。なお、測定は荷重印加後30秒以内に行った。
【0034】
(ガラスの特性)
(1)電気的特性(高温抵抗)
本発明のガラス材は実質的にNa成分を含まない。このため、製造時の熱処理工程などにてNaの拡散を防止することが可能となり、電気的特性として高い電気抵抗を保つことが可能となる。これに対して、プラズマディスプレイ装置などに用いられている従来のガラス材では、Na成分を酸化物換算で〜5重量%程度含有するため、製造工程での熱処理によりNa成分が下部電極(LE)及び又はバス電極(BE)に移動して電気的絶縁物を形成し、電子放出特性の劣化をもたらす。350℃での電気抵抗が108(Ω/□) より大きなガラス材の場合、製造工程での熱処理による電極の劣化が発生せず、電子放出特性に悪影響を及ぼさないことが判明した。そのため、ガラス材の高温電気抵抗としては350℃にて108(Ω/□)より大きいことが好ましく、より好ましくは109(Ω/□)より大きいことである。
【0035】
(2)クラック発生率
現行CRT,PDPに用いられているガラス材では、印加荷重50gでクラック発生率100%であるのに対して、本発明のガラス材は印加荷重1000gにてクラック発生率50%と現行CRT,PDPに比べて極めてクラックが入りにくいことがわかる。また、現行LCDに用いられているガラス材は印加荷重500gにてクラック発生率50%と現行のPDP用ガラス材より良好なクラック発生特性を示しているが、本発明のガラス材より劣る。
【0036】
本発明のガラス材は、現行CRT,PDP用ガラス材と同程度の熱膨張係数を有しており、50%クラック発生荷重は現行CRT,PDP用ガラス材に比べて、極めて高い値を示している。なお、現行CRT,PDP用ガラス材に比べて良好なクラック特性を示したLCD用ガラス材は熱膨張係数が50×10-7/℃以下とPDPやFEDなどにくらべて小さく、平面型画像表示装置用のガラス材に要求される熱膨張特性にはマッチングしない。
【0037】
(3)密度
本発明の表示パネルおよび平面型画像表示装置では、そのガラス基板を構成するガラス材を薄くすることができるため、ガラス材の重量、ひいては表示パネルや平面型画像表示装置の重量を低減することができる。その反面、ガラス材の密度が大きくなっては、ガラス基板の薄板化による重量減少効果が低減するため、ガラス材の密度は2.7g/cm3以下であることが好ましく、さらに2.6g/cm3以下であればより好ましい。
【0038】
(4)耐熱温度(転移点)
本発明のガラス材の転移点は450℃以上であることが好ましく、さらに600℃以上であればより好ましい。これは、表示パネルの製造過程で、接合工程や真空排気工程などの高温に加熱する熱処理を施しており、ガラス材の転移点が各表示パネルの製造工程で実施又は想定されている熱処理工程の最高温度より低い場合、ガラス基板中に残留応力が発生し、表示パネルの不具合や破損を招くためである。
【0039】
(5)熱膨張係数
本発明のガラス材の熱膨張係数は封止ガラス材などの他の部材の熱膨張係数との関係から、70〜110×10-7/℃であると好ましく、さらに80〜90×10-7/℃であるとより好ましい。これは、熱膨張係数がこれより大きい又は小さいと、熱膨張係数差に起因して接合部付近に残留応力が発生し、パネルの不具合や破損をもたらすためである。
【0040】
(6)ヤング率,比ヤング率
本発明のガラス材のヤング率,比弾性率(ヤング率を密度で除した値)は、各々70
GPa,25GPa/(g/cm3) 以上であることが好ましい。これは、ヤング率,比弾性率の値がこれより小さくなると、ガラス基板の撓み量が現行材より大きくなり、ハンドリング性の低下に伴い、製造工程での不具合や歩留まりの悪化を招くためである。
【0041】
(7)耐水性
耐水性をみると、本発明のガラス材は実質的にNaを含有していないため、化学強化ガラスのように電子放出源に悪影響を及ぼすNaの溶出量がない。同様に、耐熱性試験においても、化学強化ガラスでは電子放出源の悪影響を及ぼすNaが表面層に多く検出されたが、本発明のガラス材では、検出されていない。
【0042】
以上のように、化学強化したガラス基板では電子放出源の悪影響を及ぼすNaの移動が生じやすく、不安定であったのに対し、本発明のガラス基板では、熱的,化学的な安定性が良好であった。
【0043】
(8)表面粗さ
次に、表面粗さを見ると、本発明のガラス材では、表面粗さRa=0.1〜0.3nmと、良好な平滑性が得られた。また、耐水性試験後の表面粗さもRa=0.2〜0.4nmと高い平滑性を示した。一方、化学強化ガラスでは、Ra=0.9nm 、耐水試験後では
Ra=1.5 と大きな値となった。さらに、希土類酸化物を添加していないガラス材とくらべても良好な結果が得られた。このように、本発明のガラス材は化学的安定性に優れているため、ガラス材の上に透明導電膜や反射防止膜などを形成した場合でも、これらの膜の経時安定性に優れている。
【0044】
(表面処理の効果)
また、本発明のガラス材は、加工による微小傷を取り除くために、その外周の端面や面取り面が、弗酸,弗硝酸,弗硫酸,バッファード弗酸等でエッチング処理されていることが好ましい。この処理がなされると、少なくとも30%程度の曲げ強度の向上を図ることができる。特に、ガラス成分として希土類酸化物を含有したガラスに対してエッチングを行うと、非常に高い強度を得ることができる。
【0045】
(表面強化ガラスとの比較)
本発明のガラス材は、ガラス基板として十分な強度を確保している。従って、従来のガラス材の強化法である化学強化のような表面強化処理が不要である。すなわち、ガラス表面に残留応力を生じさせた圧縮強化層がないことを特徴としている。表面の圧縮強化層の有無は、例えばレーザ光線を表面から照射し、反射光をプリズムを用いて分光する方法により測定できる。本発明のガラス材を上記方法で測定すると、ガラス材内部と表面での残留応力差がほとんどない、すなわち表面応力層がないことが確認された。
【0046】
本発明のガラス材の表面部には圧縮強化層が存在せず、ガラス内部の応力分布が実質的に均一であることを特徴とする。この結果、本発明のガラスの表面に化学強化ガラスの圧縮強化層深さと同程度の深さのキズが入ったとしても、化学強化ガラスのように全体が粉々に破損することはない。
【0047】
また、化学強化ガラスでは、表面に圧縮強化相を、内部にはバランスをとるための引張り相を形成しているため、所定の強度を有するためには、その強度に応じて厚さが制限されるという問題点があるが、これに対し、本発明のガラス材は表面応力層を存在させる必要が無いため、化学強化ガラスの場合のような厚さの制約がなく、より薄いガラスを作製することが可能である。従来のガラス基板は機械的強度を確保するため、厚さが2.8mm 程度必要であるが、本発明のガラスでは、特別な強化処理を施すことなく、ガラス材を強化しているため、ガラス基板の厚さも従来材より薄くすることが可能となり、平面型画像表示装置の薄型軽量化が可能となる。
【0048】
(ガラス基板の構成)
(1)ガラス基板の厚さ
本発明のガラス材では、従来のガラス基板材に比べ、ガラス材の密度を大きく変化させることはなく、ガラス基板の厚さを現行材より薄くすることが可能なため、平面型画像表示装置の薄型軽量化が期待できる。さらに、平面型画像表示装置の軽量化を図ることにより、装置の運搬,設置の手間,コストの軽減が期待できる。さらには、平面型画像表示装置を壁などに直接設置することが可能となる。
【0049】
特に、プラズマ表示装置の場合、モニター部(画像表示部)の重量のうち、ガラス材が占める割合は約35%であるが、ガラス基板を薄くすることにより、この割合を低下させるともに、装置の重量を低下させることができる。
【0050】
ガラス基板の厚さを薄くした場合、2.0mm では、ガラス基板(2枚)の重量を約30%低減することが可能となり、1.5mm の場合では約46%とさらに大幅に低減することができる。そのため、ガラス基板の厚さとしては、2.0mm以下が好ましく、さらに1.5mm以下であればより好ましい。
【0051】
(2)前面フィルタ
本発明のガラス材は強化機構の関係上、ガラス一枚当たりの厚さの薄いものを作製可能なので、特に強度の必要な用途向けには、二枚以上のガラスを樹脂フィルムを介して積層することでさらに強度を高めることが可能である。このような積層ガラスを前面フィルタに用いることにより、平面型画像表示装置の信頼性をさらに向上することができる。但し、積層枚数に比例してガラス材の合計重量が増加するため、重量が過大にならぬよう、積層ガラス材の合計厚さは1枚材と同等以下であることが望ましい。
【0052】
また、この積層ガラス材の場合、ガラス積層の際に、樹脂層内に金属,セラミックス,カーボンファイバー,グラスファイバー等のワイアを配置して、さらに強度を高めることが可能である。
【0053】
さらに、前記ガラス材内にワイアを配置する方法として、ガラス内部に金属,セラミックス等のワイアを配置することもできる。この場合はガラス材原料が高温で溶融状態にあるときに、耐熱性の金属,セラミックス等のワイアを挿入し冷却,固化することでワイア入りのガラス板とすることができる。前記透明ガラス内にワイアを配置することで、重量物の衝突によるガラス破片の落下・飛散の防止が期待でき、特に屋外に設置する平面型表示装置に好適である。
【0054】
本発明のガラス材は、種々の元素を含有することにより、ガラス材を着色させることができる。着色元素としては、希土類元素のほかに、鉄,コバルト,ニッケル,クロム,マンガン,バナジウム,セレン,銅,金,銀などがあげられる。これらを用途に応じて適量添加してガラス材に着色を施すことにより、平面型表示装置のコントラスト向上を図ることが可能となる。
【0055】
前面フィルタガラスを除いた構造の場合、表示パネルの前面基板に電気的特性を調整する層や光学的特性を調整する層、および、万が一、ガラス基板が破損した場合に備えて、破損によるガラスの飛散を防止する飛散防止層などを形成するが、本発明のガラス材は、上記のようにアルカリ成分のうち、特に移動しやすいNaを含まないため、化学的に安定であり、ガラス材の表面にこれらの層を形成した場合でも、当該層の剥離や性能劣化などが起こり難いと言う利点を有する。
【0056】
(3)長期耐候性
次に、ガラス基板の長期耐候性を模擬する目的で、高温・耐湿試験を行った。本発明のガラス材と従来の化学強化ガラス材を比較例とし、同じ85℃,湿度85%の環境下に置いて変化を観察した。比較例の化学強化ガラスは試験開始後500時間の時点で表面の白化が観察されたが、本発明材は特に変化は見られなかった。
【0057】
表面の白化はガラス材内のアルカリ元素が周囲の湿気などによってガラス表面に移動し析出することで発生すると考えられる。表示側のガラス基板を構成するガラス材で白化が生じると、表示される画像の品質劣化をもたらす。化学強化ガラスではガラス材内のアルカリ元素がガラス材表面に移動しやすいことから、この白化が起こりやすいと考えられる。一方、本発明のガラス材では、ガラス材内のアルカリ元素のなかで最も移動しやすい
Na成分を含有していないため白化が起こり難く、分耐候性が高い。
【0058】
表示装置を屋外に設置した場合、長期間の屋外放置によって当然、その表面に汚れが付着し、結果として画像表示性能が低下することが懸念される。ガラス基板の表面に光触媒層を形成することで、光のエネルギーによりガラス表面に付着した汚れが分解され、降水時の洗浄効果も相まって、表面の清浄さを維持しやすくなり、結果として画像表示性能の低下を抑制することができる。
【0059】
このとき、従来の化学強化ガラスを使用していると、ガラス材内部からのアルカリ元素の移動により、光触媒層が剥離しやすい。一方、本発明のガラス材ではガラス材内のアルカリ元素のなかで最も移動しやすいNa成分を含有していないため、化学強化ガラス材に比べて、アルカリ溶出量を大幅に低減することが可能であり、光触媒層が剥離しにくく化学強化ガラスに比べ5倍以上の長期間の維持管理が容易である。
【実施例】
【0060】
表1に示す成分について、ガラス材の作成,評価を行った。表1に併せて各ガラスの特性を示す。
【0061】
【表1】

【0062】
転移点はガラス基板の耐熱性を評価する特性であり、これが所定の値を満たさないと、熱処理工程でのガラス基板の変形,われなどの原因となる。本発明のガラス材の転移点は600℃以上であることが好ましい。さらに650℃以上であればより好ましい。これは、表示パネルの製造過程で、接合工程や真空排気工程などの高温に加熱する熱処理を施しており、ガラス材の転移点が各表示パネルの製造工程で実施又は想定されている熱処理工程の最高温度より低い場合、ガラス基板中に残留応力が発生し、表示パネルの不具合や破損を招くためである。
【0063】
熱膨張係数は枠材,スペーサ,フリットなど表示装置を形成する他の構成部材との間の熱処理に伴う寸法変化量差を評価する特性であり、これが所定の範囲を満たさないと、熱処理工程での構成部材の変形,われなどの原因となる。本発明のガラス材の熱膨張係数は封止ガラス材など他の部材の熱膨張係数との関係から、75〜110×10-7/℃であると好ましく、さらに80〜90×10-7/℃であるとより好ましい。これは、熱膨張係数がこれより大きい又は小さいと、熱膨張係数差に起因して接合部付近に残留応力が発生し、パネルの不具合や破損をもたらすためである。
【0064】
ヤング率は所定の荷重が作用した場合のガラス基板の変形量を表す特性であり、この値が所定の値以下であるとガラス基板に大きな変形を生じ、電子源と蛍光体間での位置ずれによる画像表示性能の劣化やガラス基板のわれを生じる。本発明のガラス材のヤング率,比弾性率(ヤング率を密度で除した値)は、各々70GPa,25GPa/(g/cm3 )以上であることが好ましい。これは、ヤング率,比弾性率の値がこれより小さくなると、ガラス基板の撓み量が現行材より大きくなり、ハンドリング性の低下に伴い、製造工程での不具合や歩留まりの悪化を招くためである。
【0065】
50%クラック発生荷重はガラス基板の傷のつきにくさを示す特性である。この値が高いほどガラス基板には傷がつきにくく、割れにくいことを示している。本発明は、クラック発生率が50%になる荷重が5000mN以上であることが好ましい。本発明では、従来のガラス基板に比べ、クラックが入りにくいため、ガラス基板の厚さを現行材より薄くすることが可能となる。このため、平面型画像表示装置の薄型軽量化が期待できる。さらに、平面型画像表示装置の軽量化を図ることにより、装置の運搬,設置の手間,コストの軽減が期待できる。さらには、平面型画像表示装置を壁などに直接設置することが可能となる。特に、現行のプラズマ・ディスプレイ装置の場合、モニター部(画像表示部)の重量のうち、ガラス材が占める割合は約35%であるが、ガラス基板を薄くすることにより、この割合を低下させるともに、装置の重量を低下させることができる。
【0066】
ガラス基板の厚さを薄くした場合、2.0mmでは約29%の重量減、1.5mmでは約46%の重量減となり、ガラス基板の重量を大幅に低減することが可能となる。そのため、ガラス基板の厚さとしては、2.0mm以下が好ましく、さらに1.5mm以下であればより好ましい。
【0067】
現行CRT,PDPに用いられているガラス材では、印加荷重数十gでクラック発生率100%であるのに対して、本発明のガラス材は印加荷重1000gにてクラック発生率50%程度と現行CRT,PDPに比べて極めてクラックが入りにくく、傷がつきにくい。そのため、搬送,製造工程での傷つきに伴う歩留まりを改善することが可能であり、コスト低減に有効である。
【0068】
本発明の平面型画像表示装置では、クラックが入りにくいガラス材を用いることにより、ガラス基板を薄くすることができる。そのため、ガラス材の重量、ひいては平面型画像表示装置の重量を低減することが可能であり、運搬コストの低減,設置方法の自由度を拡大することができる。反面、ガラス材の密度が大きくなっては、薄板化の効果が低減するため、ガラス材の密度は2.7g/cm3以下であることが好ましく、さらに2.6g/cm3以下であればより好ましい。
【0069】
また、万が一、ガラス基板が破損した場合に備えて、破損によるガラスの飛散を防止する飛散防止層などを形成することができるが、本発明のガラス材は、上記のように電気抵抗が大きいため、導電キャリアであるアルカリ成分のうち最も動きやすいNaを含まないため化学的に安定であり、ガラス材の表面にこれらの層を形成した場合でも、当該層の剥離や性能劣化などが起こり難いと言う利点を有する。
【0070】
上記の通り、本発明のガラスは、比較例に比して表示装置に適していることがわかる。
【0071】
本発明のガラス材は強化機構の関係上、ガラス一枚当たりの厚さの薄いものを作製可能なので、特に強度の必要な用途向けには、一枚または二枚以上のガラスを樹脂フィルムを介して積層したガラス材を前面フィルタとして表示面側に設置することにより、表示装置の信頼性をさらに向上することができる。但し、積層ガラスの場合、積層枚数に比例してガラス材の合計重量が増加するため、重量が過大にならぬよう、積層ガラス材の合計厚さは1枚材と同等以下であることが望ましい。
【0072】
また、この積層ガラス材の場合、ガラス積層の際に、樹脂層内に金属,セラミックス,カーボンファイバー,グラスファイバー等のワイアを配置して、さらに強度を高めることが可能である。
【0073】
さらに、前記ガラス材内にワイアを配置する方法として、ガラス内部に金属,セラミックス等のワイアを配置することもできる。この場合はガラス材原料が高温で溶融状態にあるときに、耐熱性の金属,セラミックス等のワイアを挿入し冷却,固化することでワイア入りのガラス板とすることができる。前記透明ガラス内にワイアを配置することで、重量物の衝突によるガラス破片の落下・飛散の防止が期待でき、特に屋外に設置する平面型表示装置に好適である。
【0074】
本発明のガラス材は、種々の元素を含有することにより、ガラス材を着色させることができる。着色元素としては、希土類元素のほかに、鉄,コバルト,ニッケル,クロム,マンガン,バナジウム,セレン,銅,金,銀などがあげられる。これらを用途に応じて適量添加してガラス材に着色を施すことにより、平面型表示装置のコントラスト向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】表示装置の全体構造例。
【図2】背面パネルの模式図。
【符号の説明】
【0076】
SUB ガラス基板
FR 封止枠
SPC スペーサ
LE 下部電極
UE 上部電極
BE バス電極
IN 絶縁層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、二枚の基板と、該二枚の基板の間に設けられた発光部を有する平面型画像表示装置であって、前記二枚の基板のうち少なくとも一枚の基板が酸化物換算でSiO2 を主成分とし、La,Y,Gd,Yb,Luより選ばれた少なくとも一種を1〜10重量%、R2O(RはLi,K,Cs,Rbのうちから選ばれた1種以上)を5〜25重量%、Al23を8〜20重量%含有し、該ガラス材の350℃での表面電気抵抗が1×108(Ω/□)より大きいことを特徴とする平面型画像表示装置。
【請求項2】
請求項1に記載された平面型表示装置であって、
前記ガラスは酸化物換算でB23を15重量%以下、R′O(R′はアルカリ土類金属)を15重量%以下含有することを特徴とする平面型表示装置。
【請求項3】
請求項1に記載された平面型表示装置であって、
前記ガラスは酸化物換算でSiO2 を45〜65重量含有することを特徴とする平面型表示装置。
【請求項4】
請求項1に記載された平面型表示装置であって、
前記ガラス材は着色成分を含有することを特徴とする平面型表示装置。
【請求項5】
請求項1に記載された平面型表示装置であって、
前記発光部は、背面基板上に形成された複数の電子源と、前面基板上に形成され、前記電子源に対応して配列された蛍光体とを有することを特徴とする平面型表示装置。
【請求項6】
請求項1に記載された平面型表示装置であって、
前記各基板間に間隙を保持し、内部を真空封止する枠ガラスを有し、前記枠ガラスは前記各基板と封着材を介し固定されており、前記枠ガラスは、酸化物換算でSiO2 を主成分とし、La,Y,Gd,Yb,Luより選ばれた少なくとも一種を1〜10重量%、
2O(RはLi,K,Cs,Rbのうちから選ばれた1種以上)を5〜25重量%、
Al23を8〜20重量%含有するガラスよりなることを特徴とする平面表示装置。
【請求項7】
請求項1に記載された平面型表示装置であって、
前記各基板間に間隙を保持するスペーサを有し、前記スペーサは、酸化物換算でSiO2を主成分とし、La,Y,Gd,Yb,Luより選ばれた少なくとも一種を1〜10重量%、R2O(RはLi,K,Cs,Rbのうちから選ばれた1種以上)を5〜25重量%、Al23を8〜20重量%含有するガラスよりなることを特徴とする平面表示装置。
【請求項8】
請求項1に記載された平面型表示装置であって、前記基板のガラス材は飛散防止層を有することを特徴とする平面型表示装置。
【請求項9】
表示パネルと、該表示パネルの表示面側に設置されたフィルタガラスとを有する平面型画像表示装置であって、前記表示パネルは二枚の基板と、該二枚の基板の間に設けられた発光部とを有し、前記フィルタガラスはSiO2 を主成分とし、La,Y,Gd,Ybの少なくともいずれかを酸化物換算で1〜10重量%含有するガラス材であることを特徴とする平面型画像表示装置。
【請求項10】
前記フィルタガラスは接着層により二枚以上のガラス材を積層した積層材であることを特徴とする請求項9に記載の平面型画像表示装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−201654(P2008−201654A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−43131(P2007−43131)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【出願人】(502356528)株式会社 日立ディスプレイズ (2,552)
【Fターム(参考)】