説明

表面を除染するための吸引可能ゲルおよびその使用

本発明は表面を除染するために使用し得る吸引可能ゲルに関し、かつこのゲルの使用にも関する。除染は、例えば放射能除染であってよい。
本発明のゲルは、コロイド溶液からなる。それは、ゲルの全重量に対して5から25wt%の無機粘度改良剤、ゲルの全重量に対して0.01から0.2wt%の界面活性剤、および特に好ましくは、ゲルの全重量に対して厳密に0.1wt%未満の量の界面活性剤、ゲル1リットル当たり0.5から7molの無機酸または塩基、および場合によりゲル1リットル当たり0.05から1molの、強酸媒質中で1.4Vを超える標準酸化還元電位E0を有する酸化剤またはこの酸化剤の還元型を含み、その残余は水である。それは除染されるべき表面に噴霧により適用することができ、乾燥後、乾燥残渣の形態で吸引またはブラッシングにより除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面を除染するために使用することができる吸引可能ゲルに関し、かつそのゲルの使用にも関する。
【0002】
除染は、例えば、放射能除染であってよい。
【0003】
ゲルは、金属表面、プラスチック表面、ガラス表面および/または多孔質表面(例えばコンクリート表面)などの処理すべき全ての種類の表面に使用することができる。
【背景技術】
【0004】
先行技術のゲルは乾燥しないかまたは数十時間後に乾燥するだけであり、2ないし3時間後に水ですすぐことにより全てを除去しなければならない。この場合、すすぎは壁に対するゲルの作用を中断すること、およびゲルの作用の持続時間を制御することも可能にする。
【0005】
すすぎは使用するゲル1kg当たり10lのオーダーの水の液体排出物を発生させる欠点を有する。これらの除染排液は、放射能除染が含まれているときには、核材料を処理するための既存の施設において処理されなければならない。したがって、そのためには、これらの排液の管理および施設の処理回路に対するそれらの影響のついての徹底的な検討が必要になる。さらに、すすがなければならないようなゲルは、溢れさせてはならない施設表面を処理するために使用することはできない。
【0006】
CEAおよびCOGEMAにより共同で出願され、2003年1月20日に公開された特許出願WO 03/008529は、処理、特に除染のための方法およびゲルを記載している。このゲルの組成は、除染されるべき表面にゲルが容易に適用され、それから2ないし3時間で完全に乾燥させた後、簡単なブラッシングまたは吸引により、ゲルが保持した放射能と共に除去されるように決定されている。このゲルは、ゲルの重量に対して5から15wt%のシリカ、0.5から4mol/lの1種類の無機酸または複数の無機酸の混合物、および場合により強酸媒質中で1.4Vを超える標準酸化還元電位E0を有する酸化剤またはこの酸化剤の還元型を0.05から1mol/l含むコロイド溶液からなる。上記文献に記載されている表面処理方法は、処理されるべき表面上にゲルを適用し、ゲルが乾燥するまでそれをこの表面に維持して、乾燥ゲル残渣を吸引またはブラッシングにより除去することを含む。
【特許文献1】WO 03/008529
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、後者の文献に記載されたゲルおよび方法をさらに改善することである。特に本発明者らは、前記文献に記載されたゲルがある程度多くの欠点を有することを認めた。すなわち、その粘度および乾燥速度は必ずしも良く制御されず、その噴霧は必ずしも容易ではなく、表面上におけるゲルの亀裂はうまく制御されず(大きすぎる乾燥ゲル残渣)、またある種の乾燥ゲル残渣は、支持体に強く付着して吸引またはブラッシングが困難である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の目的を、
ゲルの全重量に対して5から25wt%の無機粘度改良剤;
ゲルの全重量に対して0.01から0.2wt%の界面活性剤、特に好ましくは、ゲルの全重量に対して厳密に0.1wt%未満の量の界面活性剤;
ゲル1リットル当たり0.5から7molの無機酸または塩基;および
場合により、ゲル1リットル当たり0.05から1molの、強酸媒質中で1.4Vを超える標準酸化還元電位E0を有する酸化剤またはこの酸化剤の還元型;
を含み、その残余は水であることを特徴とする、コロイド溶液からなるゲルによって達成する。
【0009】
本発明のゲルは水性であり、酸性でも塩基性でもよく、酸化性でも還元性でもよい。このゲルは表面の放射能除染のために使用することができ、数時間、通常2から72時間、15℃と30℃の間の温度で、かつ20から70%の間の相対湿度で、完全に乾燥した後、支持体から剥離する優れた性能を有する固体の乾燥残渣となる。それ故、このゲルを「吸引可能ゲル」と称する。
【0010】
乾燥時間は、例えば、換気により、例えば、空気での換気によりさらに短縮できる。230m3/時間の換気により、乾燥時間は例えば48時間以内に短縮することができ、また900m3/時間の換気により乾燥時間は例えば24時間以内に短縮することができる。
【0011】
「粘度調節剤」という用語は、1種類の粘度調節剤または複数の粘度調節剤の混合物を意味するものと理解される。粘度調節剤は好ましくは無機物である。例えばアルミナまたはシリカであってよい。
【0012】
粘度調節剤が1種類のシリカまたは複数のシリカの混合物を主成分とするとき、このシリカは親水性でも疎水性でもよい。さらに、そのシリカは酸性でも塩基性でもよい。粘度調節剤は、例えば、Rhodiaにより販売されているTIXOSIL 73(商標)シリカであってよい。本発明によれば、平均20℃から30℃の温度および20から70%の相対湿度で2から72時間でゲルがより効率よく乾燥することをさらに確実にするために、シリカはゲルの5から25wt%の濃度であることが好ましい。
【0013】
使用することができる酸性シリカの中で、例えば、Cabotにより販売されている「Cab-O-Sil」M5、H5またはEH5(商標)ヒュームドシリカおよびDegussaによりAEROSIL(商標)の名称で販売されているヒュームドシリカを挙げることができる。ヒュームドシリカの中でも、最小の無機物添加で最大の粘度調節性能を提供するAEROSIL(商標)シリカが好ましい。
【0014】
使用されるシリカは、ケイ酸ナトリウム溶液を酸と混合することによる湿式法により得られる沈澱シリカと呼ばれるものでもよい。好ましい沈澱シリカはSIPERNAT 22 LSおよびFK 310(商標)の名称で販売されている。
【0015】
本発明の特に有利な一実施形態によれば、粘度調節剤は沈澱シリカとヒュームドシリカの混合物であってよい。それは、そのような混合がゲルの乾燥および得られる乾燥残渣の粒子サイズを改善するからである。ヒュームドおよび沈澱シリカの混合物は、ゲルの5から25wt%を占めるのが有利である。これにより、平均して20℃から30℃の温度および20から70%の相対湿度で2から72時間でゲルが乾燥することを確実にすることが可能になる。例えば、0.5wt%の沈澱シリカ例えばFK 310(商標)を8wt%のヒュームドシリカ例えばAEROSIL 380(商標)を含むゲルに添加すると、乾燥残渣の粒子サイズが増大し(下記実施例2)、乾燥後、ブラッシングまたは吸引による回収を容易にするミリメートルスケールのサイズの乾燥残渣が生ずる。
【0016】
粘度調節剤がアルミナ(Al2O3)を主成分とするとき、それは例えば高温加水分解により得ることができる。例として、Degussaにより販売されている製品ALUMINE C(商標)を挙げることができる。アルミナはゲルの10から25wt%を占めることが好ましい。特にこれらの濃度で、平均して20℃から30℃の温度および20から70%の相対湿度で2から72時間でゲルがさらに一層効果的に乾燥することを確実にすることが可能になる。
【0017】
本発明による「界面活性剤」という用語は、単一の界面活性剤または2種類以上の界面活性剤の混合物を意味するものと理解される。したがって本発明によれば、文献WO 03/008529中に記載されたゲルに、独自の方法により、非常に少量の界面活性剤または特別の界面活性物質を、ゲル1kg当たり2g未満、通常ゲルの全重量に対して0.01から0.2wt%の範囲で加える。好ましくは、本発明によるゲル中の界面活性剤の量は、ゲルの全重量に対して厳密に0.1wt%未満であり、より特別にはこの量はゲルの全重量に対して0.01から0.1wt%の範囲に及び、0.1wt%という値は含まれない。0.2wt%および0.1wt%という値は、本発明の文脈で界面活性剤に関する範囲から除外することが好都合である。
【0018】
本発明によれば、界面活性剤は、次の性質、すなわち湿潤性、乳化性、洗浄性の1つまたは複数を有する1種類の界面活性剤または複数の界面活性剤の混合物であってよい。このように、本発明によれば、使用される界面活性剤は、湿潤性界面活性剤、乳化性界面活性剤および洗浄性界面活性剤のファミリーから都合よく選択され得る。界面活性剤は、これらのファミリーの1つまたは複数に属する種々の界面活性剤の混合物であってよい。好ましくは、本発明のゲルの組成中で、特に非常に酸性または非常に塩基性であり得るゲルのpHで安定な1つまたは複数の界面活性剤が選択されるであろう。本発明がゲルに関していることを考えると、発泡しないかまたは殆ど発泡しない1つまたは複数の界面活性剤を使用することが勿論好ましい。
【0019】
本発明で使用することができる湿潤性界面活性剤の中で、例えば、アルコキシル化アルコール、アルキルアリールスルホン酸塩、エトキシル化アルキルフェノール、エチレンオキシド系またはプロピレンオキシド系のブロックポリマー(例えば、IFRALAN P8020(商標))、軽質エトキシル化アルコール(例えば、MIRAVON B12DF (Rhodia)(商標))、エーテルリン酸、または後者の混合物を挙げることができる。
【0020】
本発明で使用することができる乳化性界面活性剤の中で、例えば、重質エトキシル化酸、グリセロールエステル、重質エトキシル化アルコール(例えば、SIMULSOL 98 (SEPPIC)(商標))、イミダゾリン、四級化物(例えば、DEHYQUART SP (Sidobre Sinnova)(商標))、または後者の混合物を挙げることができる。
【0021】
本発明で使用することができる洗浄性界面活性剤の中で、例えば、アルカノールアミドまたはアミンオキシド(例えば、OXIDET DMC-LD (Kao Corporation)(商標))、または後者の混合物を挙げることができる。
【0022】
好ましい界面活性剤は、本出願(本発明の記述および実施例)中で商標を挙げたものである。
【0023】
上記の種々の界面活性剤の2種以上の混合物もまた使用することができる。
【0024】
特許出願WO 03/008529に挙げられており、表面を処理するためのゲルの使用に関連する利点に加えて、本発明の界面活性剤の添加は、予想外のこととして、ゲルの粘性回復を増大することを可能にし、ゲルが壁から滑り落ちるのを防止することに有利な効果をもたらす(ゲルの流動学的性質の改善:下記実施例1を参照されたい)。予想外であったが、この添加は、ゲルの乾燥速度のより良い制御、乾燥速度を加速したり遅延させたりすることも可能にする(下記実施例2を参照されたい)。それはまた、予想外であったが、乾燥中のゲル表面における亀裂現象の制御も可能にする。すなわち、亀裂がより均一になり、固体残渣のサイズの均一性が増大する結果になる(下記実施例3を参照されたい)。このことから、乾燥後、優先的に剥離して放射能を分散させる恐れがある大きすぎるサイズの残渣が生ずることを回避することが可能になる。最後に、界面活性剤の添加は、予想外のこととして、乾燥後に得られる固体ゲル残渣が支持体から剥離する能力を増大させることを可能にする(下記実施例4を参照されたい)。
【0025】
本発明の第1の実施形態において、ゲルは、1種類の無機酸または複数の無機酸の混合物を含んでいてよい。この場合、この酸またはこの混合物は、好ましくは、ゲル1リットル当たり1から4molの濃度で存在する。特にこれらの濃度は、平均して20℃から30℃の温度および20から70%の相対湿度で2から72時間でゲルを確実に乾燥させることを可能にして有利である。
【0026】
本発明によれば、無機酸は、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸またはそれらの混合物から選択することができる。
【0027】
この第1の実施形態において、粘度調節剤は好ましくは上で定義した1種類のシリカまたは複数のシリカの混合物である。
【0028】
本発明の第2の実施形態において、ゲルは1種類の無機塩基または複数の無機塩基の混合物を含んでいてよい。この場合、塩基は、平均して20℃から30℃の温度および20から70%の相対湿度で2から3時間でゲルを確実に乾燥させることに利するために、2mol/l(ゲル)未満、好ましくは0.5から2mol/l、より好ましくは1から2mol/lの濃度で存在することが好ましい。
【0029】
本発明によれば、塩基は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウムまたはそれらの混合物から選択することができる。
【0030】
この第2の実施形態によれば、粘度調節剤はアルミナであることが好ましい。
【0031】
最後に、本発明のゲルは、強酸媒質中1400mvを超える標準酸化還元電位を有する、すなわち、過マンガン酸塩の酸化力を超える酸化力を有する酸化剤を含むことができる。例として、そのような酸化剤はCe(IV)、Co(III)およびAg(II)であってよい。本発明によれば、ゲル中の酸化剤濃度は0.5から1mol/l(ゲル)が好ましい。
【0032】
酸化剤は(それらの中でセリウムIVが好ましい)、無機酸、例えば硝酸と、上で定義したゲルの急速な乾燥を可能にする中程度の濃度、すなわち3mol/l未満で組み合わせることが好ましい。セリウムは通常、電気的に発生させた硝酸セリウム(IV)Ce(NO3)4または硝酸第二セリウムアンモニウム(NH4)2Ce(NO3)6の形態で導入される。
【0033】
したがって、本発明の除染のための酸化性ゲルの代表的な例は、本発明の濃度の界面活性剤に加えて、0.1から0.5mol/lのCe(N03)4または(NH4)2Ce(N03)6、0.5から2mol/lの強酸、例えば硝酸、および5から15wt%のシリカを含むコロイド溶液からなる。
【0034】
本発明のゲルは、例えば、先行技術の水性除染溶液に、本発明のゲルを得るために、好ましくは大きい、例えば100m2/gを超える比表面積を有する無機粘度調節剤を、次に1種または2種以上の界面活性剤を加えることにより、周囲温で容易に調製することができる。
【0035】
一般に、ゲルは、除染されるべき表面に、流れないである距離で(例えば、1から5mの距離で)、または密に(1m未満、好ましくは50から80cmの距離)適用され得るように、1Pa・s以上の粘度および1秒未満の回復時間を有することが好ましい。
【0036】
本発明は、次の一連のステップ
(a)除染されるべき表面に本発明のゲルを適用するステップ;
(b)ゲルが乾燥固体残渣を形成するように、ゲルを前記表面上で20から30℃の温度および20から70%の相対湿度に2から72時間の間保つステップ;および
(c)このようにして除染された表面から乾燥固体残渣を除去するステップ
を含む少なくとも1サイクルを含むことを特徴とする、表面を除染するための方法にも関する。
【0037】
換言すれば、1サイクルはステップ(a)、(b)および(c)を含み、所望の除染が達成されるまで数サイクルを引き続き繰り返すことができる。
【0038】
汚染物が放射性であるとき、本発明の方法は放射能除染方法である。
【0039】
本発明によれば、ゲルは除染されるべき表面に、例えば、表面1m2当たりゲル100から2000g、好ましくは100から1000g/m2の量で適用することができる。これらは無用の廃棄物を生じない優れた除染を可能にする比率である。
【0040】
本発明によれば、ゲルは当業者に知られた任意の手段により除染されるべき表面に適用することができる。しかしながら、最も適当な現行の手段は、例えばスプレーガンを使用する噴霧による適用、または刷毛を使用する適用であるように思われる。
【0041】
噴霧により表面に適用するためには、本発明のゲル(コロイド溶液)は、例えば、低圧ポンプにより、例えば、7×105Pa未満の圧力を使用することにより輸送することができる。ゲル噴流の表面への吹付けは、例えば、扁平ジェットノズルまたは円形ジェットノズルにより実施できる。ポンプとノズルの間の距離は任意で、例えば1から50m、例えば25mであってもよい。
【0042】
本発明のゲルの組成に基づく、回復時間の十分短い粘度は、ゲルが噴霧されたときでさえ、壁に付着することを可能にする。
【0043】
本発明によれば、ゲルの乾燥時間は、本発明のゲルの組成および上記の乾燥条件に基づき、2から72時間である。
【0044】
本発明によれば、ゲルが乾燥しているとき、ゲルの乾燥固体残渣は、例えばブラッシングおよび/または吸引により、除染された表面から容易に除去することができる。
【0045】
本発明の方法は、除染されるべき表面を清掃する先行ステップを含んでよい。したがって、本発明の方法は、除染されるべき前記表面を清掃する付加的ステップに続く、清掃された施設の本発明の方法による除染を含むことができる。
【0046】
清掃は、例えば、付着していない固体の汚染を除去するために、除染されるべき表面を、例えば塵を吹き飛ばすかまたは吸引することにより予備清掃することからなってよい。
【0047】
次に、本発明の除染方法が、表面に付着している汚染を除去するために適用される。本発明のゲルは、表面に作用した後完全に乾燥して、吸引またはブラッシングにより壁から容易に剥離される。
【0048】
本発明の方法は、とりわけ、核施設例えば核施設の通気シャフトの除染に利点を見出しかつ関連する。
【0049】
本発明の方法は、既存施設の定期的保守の状況内ならびに核施設の清掃および/または解体中のいずれにおいても、特に金属表面の除染に適用され、金属表面が大きいときに有利である。
【0050】
問題の表面は必ずしも水平ではなくて、傾斜していてもよくまたは垂直であってさえ差支えない。この方法は、任意の種類の表面に、グリースにより、非常に付着性の、もしくは嵩高な酸化物層により、または他の放射性もしくは非放射性汚染物により汚染された特に金属表面に適用される。
【0051】
本発明のゲルは、例えば、タンク、通気シャフト、貯蔵プール、グローブボックス、その他を除染するために使用することができる。
【0052】
表面処理を、好ましくは本発明の、同じゲルまたは異なったゲルで、数回(数サイクル)引き続いて繰り返すことができることは明らかである。
【0053】
低濃度の界面活性剤により、ゲルの乾燥は改善され、均一な亀裂現象が生ずる。乾燥残渣のサイズは単分散であり、残渣の支持体から剥離される性能は先行技術のゲルに比較して向上する。さらに下記の実施例が示すように、本発明者らは、本発明による界面活性剤の存在は、ゲルを表面処理にとってより効果的することがあることを観察している。
【0054】
このように、水によるすすぎは必要なく、この方法はいかなる二次的排液を発生させない。乾燥後に得られる乾燥残渣は、好ましくはブラッシングまたは吸引により、しかし気体の噴射、例えば圧縮空気の噴射によっても、容易に除去することができる。
【0055】
本発明で、先行技術からの吸引可能ゲルの利点は保持され、改善される。すなわち、水を使用する従来のゲルすすぎ作業は回避され、後で処理しなければならない排液は最早生じない。これは、汚染を処理する全経路に関して簡略化する結果になる。
【0056】
上記の多くの利点に加えて、本発明者らは、本発明のゲルは、噴霧により、または刷毛を使用して除染されるべき表面により容易に適用することができ、次に2ないし3時間で完全に乾燥した後、簡単なブラッシングまたは吸引により、それらが保持していた放射能と共により容易に除去することができることを示した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
本発明の他の特徴および利点は、いうまでもなく例示の目的で示した、限定するものではない次の実施例を読めば、さらに明確になるであろう。
【0058】
(実施例)
(実施例1)
AEROSIL(8wt%)、0.1M HNO3および1.5M H3PO4を含む参照ゲルを調製した。
【0059】
この実施例において、ゲルの乾燥のための使用条件は次の通りであった:22℃および相対湿度40%。
【0060】
ゲルを低圧で噴霧することができるように、粘度の限度を高剪断(700s-1)で100mPa・sに設定した。壁を流れ落ちないゲルを得るためには、低剪断(10s-1)で1Pa・sを超える粘度が必要であった。
【0061】
このことは、図1に表したレオグラムにより図式的に表現することができる。
【0062】
ゲルの容易な使用を保証するゲルの粘度は、好ましくは、この図の空白区域になければならない。
【0063】
本発明による少量の界面活性剤添加は、先行技術の吸引可能ゲルの流動学的特性を最適化することを可能にする。
【0064】
図2は、1g/kgの有効物質を有する種々の界面活性剤(CRAFOL AP56、SYNTHIONIC P8020およびDEHYQUART 5P(商標))を含み、シリカを8%だけ有する種々の酸性ゲルに対して得られたレオグラムを表す。検討した種々のゲル組成をこの図に示す。
【0065】
比較の目的で、先行技術すなわち界面活性剤を含まない酸性ゲルのレオグラムも、この図中に示してある。
【0066】
界面活性剤のゲル配合物への導入は、驚いたことに、シリカの添加量を減少させても、決められた粘度基準を達成することを可能にすることが、この図で観察される。具体的に、界面活性剤を含むゲルの粘度は、高剪断で100mPa・s未満であり、低剪断で1Pa・sを超える。
【0067】
本発明によるシリカゲル中の界面活性剤の存在は、界面活性剤の電荷(1、0または-1)とは無関係に流動学的挙動をかなり改善する。したがって、電荷は界面活性剤を選択するために十分な基準ではない。
【0068】
この実施例において界面活性剤は酸媒質中で安定であるとして選択されたが、それでもなお、それらはこの実施例で使用された高度に酸性の条件で分解される傾向がある。
【0069】
したがって、ゲルの保存期間を決定するため、およびそれらを予め調製しておくことが可能か、それとも使用時に調製するのがよいかを知るために、ゲル中での界面活性剤の挙動を調べることが好ましい。
【0070】
ゲルのレオグラムを所定の老化時間(0から14日)で追跡する。図3は、時間D=0、D=2、D=7およびD=14日における界面活性剤(CRAFOL AP56(商標))を含むゲルの流動学的挙動を示す。この図において、本発明のゲルの粘度に対する老化の影響は、時間(s)の関数としての粘度(V)の変化として示されている。
【0071】
CRAFOL AP56(商標)の場合には、高剪断下および低剪断下の粘度がゲルの加齢とともに低下することが観察される。しかし、このことは、この種のゲルの少なくとも15日という期間中の使用を妨げない。
【0072】
最後に、ゲルの老化の研究を、先に記載された界面活性剤以外の界面活性剤に拡張した。
【0073】
下の表1は実験室配合試行中に選択された界面活性剤で実施した試行のまとめを示す。
【0074】
この表の値から、CRAFOL(商標)は特殊な場合ではないことが観察される。
【0075】
試験した界面活性剤中で、数例、特にDEHYQUART SPおよびSYNTHIONIC P8020(商標)が、良好な噴霧に要求される基準に合致する。
【0076】
【表1】

【0077】
(実施例2):ゲルの乾燥時間に対する界面活性剤の効果
この実施例においては、0.1%の量のSYNTHIONICまたはANTAROX(商標)の存在を、10wt%のAEROSIL 380(商標)を含む1.5 Mから3.5 Mのリン酸ゲル中で試験した。
【0078】
ゲル中で界面活性剤分子は、水分子との接触を最小化するように、ゲル/空気およびシリカ/溶液の界面に位置していた。したがって、ゲル表面は蒸発を遅延させるかまたはそれを促進することができる界面活性剤分子で覆われていた。
【0079】
ゲルの有効性に関して、図4は、酸ゲル、すなわちANTAROX(商標)を2g/kg含む酸ゲルおよびSYNTHIONIC(商標)を2g/kg含む酸ゲルにより処理したアルミニウム試料で得られた腐食動特性を示す。
【0080】
作業条件は次の通りである:22℃および相対湿度40%。
【0081】
実験結果は、SYNTHIONICまたはANTAROX(商標)の存在が、酸ゲルに対して乾燥時間をおよそ30分から1時間増大させることを示す。
【0082】
図4の腐食動特性は、本発明の、すなわち界面活性剤を含むゲルは、総体的に標準型酸ゲル同様に、ときにはそれよりも効果的であることを示している。
【0083】
(実施例3):界面活性剤の亀裂に対する効果
図5は、同一温度、湿度および時間条件で乾燥させた、本発明のゲル(左)と先行技術すなわち界面活性剤を含まないゲル(右)との視覚的比較を可能にする写真である。
【0084】
0.5Mセリウムおよび3M硝酸を含む酸化性ゲルフィルム(写真右側参照)をステンレス鋼製の試料上に調製した。
【0085】
1g/kgの湿潤性界面活性剤SYNTHIONIC P8020を上記ゲル組成物に添加した(左側の試料)。
【0086】
左の界面活性剤を含むゲルの表面に生じた亀裂の方が均一であった。固体残渣のサイズは単分散であった(1から2mm)(本発明)。
【0087】
これは、右(先行技術)で観察される、より付着性であるために回収がより困難な多分散性のサイズのより大きい固体残渣(5から7mm)の形成を回避した。
【0088】
(実施例4):乾燥ゲルの表面への付着に対する界面活性剤の効果
20%のTIXOSIL(商標)および1.5Mのリン酸を含む3種のゲル、第1は界面活性剤なし、第2は0.1%のDEHYQUART SP(商標)添加、第3は0.1%のSYNTHIONIC 8020(商標)添加、を22℃および湿度40%で、軟鋼上にフィルムの形態で800g/m2沈着させた。
【0089】
22℃、相対湿度40%および空気流速度0.1m/sで3時間乾燥後、乾燥残渣を重力効果で落下させるために試料を反転させた。
【0090】
界面活性剤無添加では乾燥残渣の5%だけが剥離し、DEHYQUART(商標)では15%、およびSYNTHIONIC(商標)では20%が剥離した。
【0091】
したがって、本発明によるゲルの界面活性剤は、固体残渣の剥離を確実に促進し、それは処理表面を清浄にするために、および乾燥ゲル残渣の回収を容易にするために、特に放射能除染において非常に重要である。
【0092】
(実施例5):ゲルの脱脂特性に対する界面活性剤の効果
100mlの1mol/l水酸化ナトリウムと混合した15gのアルミナを含む脱脂アルカリ性ゲルを調製した。
【0093】
脱脂試験は、ラノリンでコートしたシート上においてこの調製ゲルを使用して実施した。
【0094】
24時間後、界面活性剤無添加の乾燥ゲルを吸引したが、シートは脱脂されなかった。
【0095】
本発明による2g/lのノニオン界面活性剤REWOPAL X 1207 L(商標)タイプを添加した。脱脂の効果は、1時間後に8%、3時間後に43%になり、24時間後に74%のグリースが除去された。
【0096】
(実施例6):ゲルの放射能除染特性に対する界面活性剤の効果
2つのセリウム含有酸化性ゲルを調製して、ステンレス鋼の汚染室を除染する試験をした。
【0097】
第1のゲルは、AEROSIL(商標)タイプのシリカ、3M硝酸および0.33M硝酸第二セリウムアンモニウムを含んでいた。第2のものは、1g/lのSYNTHIONIC(商標)界面活性剤をさらに含む以外は第1のものと同じであった。
【0098】
2つのゲルを、2つの400cm2の放射能汚染表面、1つは床(2.2mGy/h)上および他方は壁(1mGy/h)上に刷毛を使用して適用した。
【0099】
ゲル単回処理および24時間乾燥後、界面活性剤含有ゲルは、界面活性剤無添加ゲルよりも容易に簡単なブラッシングにより除去された。
【0100】
界面活性剤含有ゲルでは、汚染は床上で0.4mGy/h、また壁上で0.2 mGy/hにすぎなかった。汚染は係数5.5で割られたが、界面活性剤無添加ゲルに対して除染係数は5にすぎなかった。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】剪断速度の関数としての本発明者らにより設定された本発明のゲルの最小および最大粘度(V)の値を示す図である。
【図2】界面活性剤を含まないゲル(先行技術)および本発明による界面活性剤を含むゲルのレオグラム:時間(s)の関数としての粘度(V)の変化を示す図である。
【図3】本発明のゲルの粘度に対する老化の影響:時間(s)の関数としての粘度(V)の変化を示す図である。
【図4】本発明による界面活性剤を含むまたは含まない酸性または塩基性ゲルにより処理されたアルミニウム試料で得られた腐食速度を示す図である。
【図5】本発明のゲル(左)および先行技術の、すなわち、界面活性剤を含まないゲル(右)の可視的比較を可能にする写真である。 これらの図において、「V」はPa・sによる粘度を表し、「t」は秒(s)による時間を表し、「Cor」はμmで測定された腐食を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルの全重量に対して5から25wt%の無機粘度改良剤;
ゲルの全重量に対して0.01から0.2wt%の界面活性剤;
ゲル1リットル当たり0.5から7molの無機酸または塩基;および
場合により、ゲル1リットル当たり0.05から1molの、強酸媒質中で1.4Vを超える標準酸化還元電位E0を有する酸化剤またはこの酸化剤の還元型
を含み、その残余は水であることを特徴とする、コロイド溶液からなるゲル。
【請求項2】
シリカを主成分とし、シリカがゲルの5から25wt%を占める、請求項1に記載のゲル。
【請求項3】
シリカがヒュームドシリカ、沈澱シリカ、またはヒュームドシリカと沈澱シリカとの混合物である、請求項1または2に記載のゲル。
【請求項4】
ヒュームドシリカと沈澱シリカとの混合物を主成分とし、ヒュームドシリカと沈澱シリカとの該混合物がゲルの5から25wt%を占める、請求項1から3のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項5】
ヒュームドシリカと沈澱シリカとの混合物を主成分とし、沈澱シリカがゲルの0.5wt%を占め、ヒュームドシリカがゲルの8wt%を占める、請求項1から4のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項6】
ゲルはアルミナを主成分とし、アルミナがゲルの10から25wt%を占める、請求項1に記載のゲル。
【請求項7】
ゲル1リットル当たり1から4molの濃度で存在する1種類の無機酸または複数の無機酸の混合物を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項8】
無機酸が、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸またはそれらの混合物から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項9】
ゲル1リットル当たり0.5から2molの濃度で存在する1種類の無機塩基または複数の無機塩基の混合物を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項10】
無機塩基が水酸化ナトリウム、水酸化カリウムまたはそれらの混合物から選択される、請求項9に記載のゲル。
【請求項11】
Ce(IV)、Co(III)またはAg(lI)から選択される強酸媒質中で1400mVを超える標準酸化還元電位E0を有する酸化剤の0.5から1mol/lを含む、請求項1から10のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項12】
界面活性剤に加えて、5から15wt%のシリカ、0.5から2mol/lの強酸、およびゲル1リットル当たり0.1から0.5molのCe(NO3)4または(NH4)2Ce(NO3)6を含む、請求項1に記載のゲル。
【請求項13】
界面活性剤がゲルの全重量に対して厳密に0.1wt%未満の量で、好ましくはゲルの全重量に対して0.1wt%という値は含めずに0.01から0.1wt%の範囲の量で存在する、請求項1から12のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項14】
界面活性剤が次の性質、すなわち湿潤性、乳化性、洗浄性の1つまたは複数を有する1種類の界面活性剤または複数の界面活性剤の混合物である、請求項1から13のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項15】
界面活性剤が、アルコキシル化アルコール、アルキルアリールスルホン酸塩、エトキシル化アルキルフェノール、エチレンオキシド系またはプロピレンオキシド系のブロックポリマー、軽質エトキシル化アルコール、エーテルリン酸、重質エトキシル化酸、グリセロールエステル、重質エトキシル化アルコール、イミダゾリン、四級化物、アルカノールアミド、アミンオキシドまたはそれらの混合物を含む群から選択される、請求項1から14のいずれか一項に記載のゲル。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか一項に記載のゲルの、表面の放射能除染のための使用。
【請求項17】
表面を除染する方法であって、次の一連のステップ:
(a)除染されるべき表面に請求項1から15のいずれか一項に記載のゲルを適用するステップ;
(b)前記表面上にゲルを、ゲルが前記表面上で乾燥固体残渣を形成するように、20から30℃の温度および20から70%の相対湿度で2から72時間保つステップ;および
(c)そのようにして除染された表面から乾燥固体残渣を除去するステップ
を含む少なくとも1サイクルを含むことを特徴とする方法。
【請求項18】
ゲルが、除染されるべき表面に、表面1m2当たりゲル100から2000gの量で適用される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
ゲルが、除染されるべき表面に、噴霧により、または刷毛を使用して適用される、請求項17または18に記載の方法。
【請求項20】
ゲルの乾燥固体残渣が除染された表面からブラッシングおよび/または吸引により除去される、請求項17から19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
除染されるべき前記表面を清掃する先行ステップを含む、請求項17から20のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
核施設、例えば核施設の通気シャフトの除染に関わる、請求項17から21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
除染が放射能除染である、請求項17から22のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−511653(P2009−511653A)
【公表日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−533994(P2008−533994)
【出願日】平成18年10月3日(2006.10.3)
【国際出願番号】PCT/EP2006/066976
【国際公開番号】WO2007/039598
【国際公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(590000514)コミツサリア タ レネルジー アトミーク (429)
【出願人】(591015050)アレヴァ・エンセ (20)
【Fターム(参考)】