説明

表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液及び表面平坦性絶縁膜被覆基材

【課題】0.5μm以上の厚膜で、基板の変形にも追従できる柔軟性を有し、電子デバイス等の微細部品を実装できる膜表面の極めて高い平坦性を有する有機修飾シリケート絶縁膜を形成できる表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液、及び、表面平坦性絶縁膜被覆基材を提供する。
【解決手段】金属アルコキシド、ポリジメチルシロキサン、有機溶媒を含む塗布溶液であって、該塗布溶液中に>CF2におけるC-F結合が存在することを特徴とする表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液、及び、これを用いた表面平坦性絶縁膜被覆基材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面が平坦な有機修飾シリケートの電気絶縁膜に関し、特に、薄膜トランジスタ(TFT)、有機ELディスプレイ、電子ペーパー等電子デバイスの微細部品の実装に使用される表面平坦性絶縁膜被覆基材、及び、前記表面平坦性絶縁膜用の塗布溶液に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリカ(SiO2)膜は、無機酸化物であるため、耐熱性、電気絶縁性等に優れており、平坦な膜を得易いことから種々の分野で電気絶縁膜として使用されている。また、シリカ膜は、PVD(Physical Vapor Deposition)やCVD(Chemical Vapor Deposition)等の気相法、及びゾル・ゲル法等の液相法で作製されている。電界強度が大きくなるようなデバイスや電子部品配置では、より高い絶縁性が必要になり、シリカ膜をさらに厚くする必要がある。しかしながら、何れの作製方法においても、厚膜を形成するのが難しく、通常、1μm以上の膜厚ではクラックが発生する。これは、シリカのヤング率が高いので、成膜時に発生する基板材料との熱膨張率差による内部応力や膜自体の収縮によって発生する内部応力に対して膜が追従して応力を緩和できないからである。また、電子ペーパーに代表されるように、湾曲等に変形できるような電子デバイスにおいては、柔軟性の低いシリカ絶縁膜では前記変形に追従できず、不適である。
【0003】
このような問題の解決方法として、シリカのシロキサン骨格に有機基を導入した有機修飾シリケート膜があり、有機-無機ハイブリッド(無機-有機ハイブリッド)、オルモジル(Ormosils)、セラマー(Ceramers)等でも呼ばれる材料の膜である(非特許文献1、2)。シロキサン骨格にメチル基等の有機基を導入すると、シロキサン骨格の剛直性が緩和されてヤング率が低くなる。これによって、1μm以上の膜厚でもクラックを発生させることなく成膜できる。このような有機修飾シリケート膜は、一般に、ゾル・ゲル法で作製される。
【0004】
ポリジメチルシロキサン(X-[-Si(CH3)2-O]m-Si(CH3)2-X、ここで、Xは反応性官能基であり、mはポリジメチルシロキサンのユニット数である)を出発原料として、金属アルコキシド(M(OR)n、nはアルコキシ基の数であり通常Mの価数となる)の原料と共に反応させる。特に、質量平均分子量Mwが900以上になると、1μm以上の厚膜製作が容易になり、基板の変形にも追従できる柔軟性を有する絶縁膜となる。
【0005】
前記有機修飾シリケートに類似したものとしては、特許文献1で、耐熱絶縁電線の絶縁被覆層として、ポリジメチルシロキサン等の鎖状シリコーンオリゴマー、金属アルコキシド、及び無機充填剤から形成されるシリコーン樹脂組成物が開示されている。また、特許文献2では、薄膜太陽電池基板としてその集光効率を向上させる目的で、表面に凹凸構造を形成した絶縁膜を形成する方法として、ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドから形成する膜で起こる疎水相と親水相の相分離を利用した表面凹凸構造の形成が開示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平5-239359号公報
【特許文献2】特開2005-79405号公報
【非特許文献1】作花済夫著「ゾル-ゲル法の科学」アグネ承風社(1990)p.115-153
【非特許文献2】作花済夫著「ゾル-ゲル法の応用」アグネ承風社(1997)p.57-115
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の特許文献1では、有機溶媒を使用せず、収縮率が小さく、耐熱性絶縁電線の絶縁被覆層を形成することを目的としているので、無機充填剤を添加して適度な硬度を付与することが必須条件であり、無機充填剤が使用できない電子デバイスの微細部品実装の表面平坦性絶縁膜に適用することは示唆されていない。仮に、適用しようとしても、無機充填剤が、膜表面に現れて凹凸が形成され、電子デバイスの微細部品実装可能な平坦な表面が形成できない。また、特許文献2では、そもそもゾルの段階で疎水相と親水相に相分離を起こしており、成膜過程でさらに相分離を顕著にして表面に凹凸構造を形成させるものであるので、平坦な表面を形成させるのは困難である。溶媒の蒸発を速くするような熱処理で、凹凸の程度が小さくなることが記載されているが、相分離による組織が微細になるだけで、疎水相と親水相の共溶媒によって一見透明であるが、ゾルの段階から相分離が生じており、根本的に、電子デバイスの微細部品実装に適用できるような平坦性の高い表面の絶縁膜とはならない。
【0008】
ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドから形成される有機修飾シリケート膜は、ポリジメチルシロキサンの質量平均分子量Mwが900以上になると、厚膜化が可能で、基板の変形にも追従できる柔軟性を有しているが、前述のように電子デバイス等で微細部品を実装するような場合には、従来のゾルを塗布溶液とすると膜表面の凹凸が問題となる。膜厚0.5μm未満の薄膜では、前記のような問題となる凹凸は発生しないが、0.5μm以上の厚膜にすると、特許文献2にも記載されているように膜表面の凹凸が顕著になる。したがって、従来の塗布溶液及び製造方法では、電子デバイスの微細部品実装に利用するための絶縁厚膜にするために、高い耐電圧に耐えられように1μm以上の膜厚にすると、基板が平滑でも膜表面に大きな凹凸が生じ、部品実装できないと言う問題が生じる。最近はより小型化、薄型化が進むことより部品実装からの要求が厳しくなり、上記凹凸より微視的な凹凸においても問題が生じている。ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドと有機溶媒で構成されている塗布液では、前記のように極めて微視的に有機溶媒量が異なる部分が生じ、ここでの乾燥中の対流発生が最終的な表面荒さにも影響を与えている。
【0009】
本発明は、前記問題を解決するものであり、質量平均分子量Mwが900以上のポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドから形成される有機修飾シリケートの0.5μm以上の厚膜で、基板の変形にも追従できる柔軟性を有し、電子デバイス等の微細部品を実装できる膜表面の極めて高い平坦性を有する有機修飾シリケート絶縁膜を形成できる表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液、及び、表面平坦性絶縁膜被覆基材を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記問題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドからなる塗布液に、フッ素系界面活性剤を添加することによって、極めて平坦な膜を得られることを見いだした。
【0011】
金属アルコキシドと質量平均分子量が900〜10000であるポリジメチルシロキサンから形成される有機修飾シリケート膜であって、金属アルコシキド1モルに対するポリジメチルシロキサンのモル比が0.05以上1.5以下のときに、0.05μm以上の平坦な膜を得ることができるが、電子デバイスプロセスにおいてはより平坦性の高い膜が要求されている。
【0012】
塗布時の基板への濡れ性、溶液の流動性を改善することを期待して、表面張力を下げるため、上記塗布液に界面活性剤を添加することを検討した。しかし、従来の炭化水素系やシリコーン系界面活性剤では、添加量を増してもその明確な効果は得られなかった。塗布液に加えている有機溶媒種類や乾燥条件の検討から、膜の微視的な表面粗さは塗布液の表面張力からくる塗布液の基板への濡れ性、流動性だけではなく、塗布液中の溶媒の蒸発による微視的なムラの発生によるものであることに気づいた。
【0013】
分子量が大きく粘性の高いポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドからなる塗布液の全体の平均的な粘性を下げ、乾燥、熱処理を行うことで有機修飾シリケート膜を得るが、液を塗布後に乾燥時、溶媒が蒸発するときに局部的な蒸発による抜熱起こることによって温度差が発生し液膜内の対流が発生する。この局所の流れに沿って凹凸が発生し、それが乾燥、熱処理することによって表面粗さとなっているものであり、これを改善するには、溶剤の蒸発速度を制御し、微視的な対流を抑えることが重要である。
【0014】
ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドからなる塗布液の溶媒は有機溶剤であり、この有機溶剤の乾燥蒸発時に発生する対流を抑え、均一な状態で膜とする技術が必要となる。このためには、溶液中にフッ素系添加物としてパーフロロ基(パーフルオロアルケニル構造、パーフルオロアルキル基等)を持つ界面活性剤を加えることが効果的であること見いだした。
【0015】
フッ素系界面活性剤は、親水基、疎水基の他に上記フッ素系モノマーを含んだ重合体であり、これらを加えることで、塗布液の表面にフッ素系モノマーを含んだ部分が雰囲気に向かって並び、溶剤の局部的な蒸発を抑える機能を有する。また、添加するフッ素系界面活性剤は、溶媒の蒸発による不均一から生じる対流を抑える他に、一般の界面活性剤としても働くため、濡れ性改善にも働き、ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシド、有機溶媒からなる塗布液を塗布、乾燥、熱処理して得る有機修飾シリケート膜の平坦性を向上させるには最適なものである。
【0016】
フッ素系界面活性剤は、塗布液の主成分であるポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドからなる膜構造に組み込まれて関与するものではなく、塗布液の局部的な蒸発や対流を抑える機能、濡れ性を改善する機能を持つものである。そして、フッ素系界面活性剤の一部は、成膜時に膜中に残留するものである。
【0017】
膜の特性は、塗布液のポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドにより決まるものである。
【0018】
即ち、本発明は、以下の要旨とするものである。
【0019】
(1) 金属アルコキシド、ポリジメチルシロキサン、有機溶媒を含む塗布溶液であって、該塗布溶液中に>CF2におけるC-F結合が存在することを特徴とする表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液。
【0020】
(2) 前記>CF2におけるC-F結合がフッ素系界面活性剤由来のものであることを特徴とする(1)に記載の表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液。
【0021】
(3) 前記フッ素系界面活性剤がエチレンオキシド基を単独又は鎖状に含んでいることを特徴とする(2)に記載の表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液。
【0022】
(4) 前記フッ素系界面活性剤の添加量が、0.05〜10質量%であることを特徴とする(2)又は(3)のいずれかに記載の表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液。
【0023】
(5) 前記ポリジメチルシロキサンの質量平均分子量が900〜10000であることを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液。
【0024】
(6) 前記金属アルコキシドの金属元素が、3価又は4価の金属元素から選ばれる1種以上であることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載の表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液。
【0025】
(7) 基材表面に、金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンから形成される有機修飾シリケート膜を有し、該膜表面の平坦性Rqが15nm以下で、膜中に元素Fを含むことを特徴とする表面平坦性絶縁膜被覆基材。
【0026】
(8) 前記ポリジメチルシロキサンの質量平均分子量が900〜10000であることを特徴とする(7)に記載の表面平坦性絶縁膜被覆基材。
【0027】
(9) 前記膜中の金属アルコシキド由来の金属1モルに対するポリジメチルシロキサンのモル比が0.05以上1.5以下であることを特徴とする(7)又は(8)に記載の表面平坦性絶縁膜被覆基材。
【0028】
(10) 前記前記金属アルコキシドの金属元素が、3価又は4価の金属元素から選ばれる1種以上であることを特徴とする(7)〜(9)のいずれかに記載の表面平坦性絶縁膜被覆基材。
【0029】
(11) 前記膜の膜厚が1μm以上50μm以下であることを特徴とする(7)〜(10)のいずれかに記載の表面平坦性絶縁膜被覆基材。
【0030】
(12) (1)〜(6)のいずれかに記載の塗布溶液を基板表面に塗布し、乾燥及び加熱処理することを特徴とする表面平坦性絶縁膜被覆基板の製造方法。
【0031】
なお、本発明における>CF2の表記は、2本の結合手を持つCF2基のことを示している。
【0032】
また、エチレンオキシドとはCH2-CH2-O構造であり、鎖状のエチレンオキシドとはHO-(CH2-CH2-O)n-Hと一般的に示されるものである。
【発明の効果】
【0033】
本発明の表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液は、有機修飾シリケートからなる絶縁膜が形成でき、ポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドからなる塗布液の溶剤である有機溶媒の蒸発速度を制御するためにフッ素系界面活性剤添加することによって、塗布液の乾燥時の対流を抑えることが可能なため膜表面の凹凸が生じず、平坦性の高い表面を形成できる。また、本発明の表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液を使用した製造方法によれば、柔軟性を有するのでフレキシブル基材の変形にも剥離やクラック無く追従でき、膜表面が平坦であるので微細部品の実装も支障なくできる表面平坦性絶縁膜が得られる。即ち、前記表面平坦性絶縁膜を被覆した基材は、柔軟性、高耐電圧、耐熱性が要求される電気絶縁膜の被覆基材として、微細な電子デバイス部品を実装するために平坦性の極めて高い表面が必要な分野、例えば、薄膜トランジスタ(TFT)、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、電子ペーパー等の電子デバイスで使用される膜厚の厚い絶縁膜の被覆基材として好適に使用される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明で用いるポリジメチルシロキサンとは、Siに二つのメチル基が結合して、直鎖状にSi-Oのシロキサンが連続的に結合したものであり、一般式X-[-Si(CH3)2-O-]n-Si(CH3)2-Xで表される。ここで、Xは反応性官能基である。nは重合度であり、例えば、質量平均分子量Mw10000でメチル基は19〜20程度になる。反応性官能基(-X)は、例えば、シラノール基、カルビノール基、アミノ基、アルコキシ基、メルカプト基、エポキシ含有官能基等である。
【0035】
本発明に用いられるポリジメチルシロキサンの質量平均分子量Mwは、900以上である。900未満では、平坦な表面の膜が得られるが、1μm以上の厚膜を形成しようとすると、クラックが発生し成膜することができない。即ち、膜厚が小さいので、高耐電圧を必要とする絶縁厚膜には使用できない。1μm以上の厚膜を作製するには、Mw900以上のポリジメチルシロキサンを使用すると可能になる。一方、Mw10000を越えると、ポリジメチルシロキサンが粘調で、溶媒に溶解しなくなり、金属アルコキシドと混合できず、塗布溶液を調製できない。より好ましくは、Mwが950〜3000である。
【0036】
本発明で用いる金属アルコキシドは、一般式でM(OR’)nで表され、金属元素Mは、例えば、Mg、Ca、Y、Al、Si、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wから選ばれる1種以上のものが挙げられ、アルコキシ基OR’は、メトシキ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。特に、金属アルコキシドの金属元素が、ポリジメチルシロキサンを効果的に架橋するためには、3価又は4価の金属元素から選ばれる1種以上であることが好ましい。即ち、前記金属アルコキシドは、溶液中でポリジメチルシロキサンと均一に反応して相分離しない傾向が高い。Y、Al、Sn、Ti、Zr、Nb、Ta、Wの金属アルコキシドは、反応性が高いため、アルコキシ基の一部をβ-ジケトン、β-ケトエステル、アルカノールアミン、アルキルアルカノールアミン、有機酸等の化学改質剤で置換したアルコキシド誘導体を使用してもよい。
【0037】
本発明で添加されるフッ素系界面活性剤の含フッ素基は直鎖又は分鎖として、パーフルオロアルキル基[CnF2n+1基]、パーフルオロアルコキシル基[CnF2n+1O基]、ポリフルオロアルキル基[HmCnF2n-m+1基]、パーフルオロアルケニル基[CnF2n-1基]、ポリフルオロアルケニル基[HmCnF2n-m-1基]等が挙げられる。(但し、式中のmは1〜3の整数、nは3〜20の整数)
これらフッ素系部分と親水基、疎水基を重合した界面活性剤である。親水基部分にはエチレンオキシド基、アルキルアミンオキシド基、アミドアミンオキシド基等があり、これらが単独もしくは重合したものを含むものもある。界面活性剤に含まれるF濃度が高い方が対流抑制にはより効果的である。
【0038】
具体的なフッ素系界面活性剤の例を挙げると、パーフルオロブチルスルホン酸塩、パーフルオロアルキル基含有カルボン酸塩、パーフルオロアルキル基含有リン酸エステル、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物、パーフルオロアルキル基・親水基・親油性基含有オリゴマー等がある。
【0039】
前記金属アルコキシド、ポリジメチルシロキサンと有機溶媒を混合してなる塗布液に、フッ素系界面活性剤を0.05mass%以上添加することで、塗布後の有機溶媒の蒸発時に発生する微視的な対流を抑えることにより、成膜後の凹凸を極めて小さくすることができる。フッ素系界面活性剤は、10mass%程度まで加えても成膜までの熱処理によって分解し問題は無いが、経済的では無いため、5mass%程度までが工業的な範囲である。10mass%超えると塗布液のポリジメチルシロキサンと金属アルコキシドの比率を減少させることになり、自由に膜厚を設計することが難しくなる。
【0040】
フッ素系界面活性剤による平坦性得るための経済的かつ効果的な濃度は0.05〜5mass%の範囲である。この濃度であれば、十分に塗布後に界面活性剤のフッ素系モノマー部分が液膜表面側に向き、塗布液中の有機溶媒の蒸発を抑制し、液膜内の対流を十分抑えることができる。フッ素系界面活性剤の添加すべき最適な濃度は、塗布液のポリジメチルシロキサンの質量平均分子量や、金属アルコキシドとのモル比、有機溶媒の種類と量に影響を受ける。
【0041】
金属アルコキシドが加水分解されてポリジメチルシロキサンを架橋するまで、金属アルコキシド及び加水分解された金属アルコキシドと溶媒和するために、有機溶媒には水酸基が必要である。有機溶媒を例示すると、プロピルアルコール(CH3CH2CH2OH)、n-ブチルアルコール(CH3CH2CH2CH2OH)、イソブチルアルコール((CH3)2CHCH2OH)、s-ブチルアルコール(CH3CH2CH(CH3)OH)、n-ペンチルアルコール(CH3(CH2)4OH)、イソペンチルアルコール((CH3)2CHCH2CH2OH)、ネオペンチルアルコール((CH3)3CCH2OH)、n-ヘキシルアルコール(CH3(CH2)5OH)、n-ヘプチルアルコール(CH3(CH2)6OH)、n-オクチルアルコール(CH3(CH2)7OH)、n-ノニルアルコール(CH3(CH2)8OH)、イソノニルアルコール((CH3)2CH(CH2)6OH)、n-デシルアルコール(CH3(CH2)9OH)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(CH3(CH2)5O(CH2CH2O)2H)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(CH3(CH2)5OCH2CH2OH)、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル(CH3(CH2)3OCH2CH(CH3)OH)、3,5,5,-トリメチル-1-ヘキサノール(CH3C(CH3)2CH2CH(CH3)CH2CH2OH)、2-エチル-1-ヘキサノール(CH3(CH2)3CH(CH2CH3)CH2OH)、イソデカノール((CH3)2CH(CH2)7OH)等が挙げられる。
【0042】
モル比でポリジメチルシロキサン/金属アルコキシドが、60以上であると、溶液中に占めるポリジメチルシロキサンが多くなり過ぎるために、ポリジメチルシロキサンの疎水性によって、添加する水が溶液全体に速やかに均一に拡散せず、金属アルコキシドの加水分解が溶液全体で均一に起こらない。その結果、溶液中は無機成分の含有量の多い相と無機成分の含有量の少ない相が形成され、不均一な溶液となり塗布して成膜すると相分離を起こして凹凸の激しい表面になる。一方、ポリジメチルシロキサン/金属アルコキシドのモル比が、0.05未満になると、前記のような2相は形成されず、相分離は生じないが、塗布溶液として固形分濃度が低くなり、厚膜が形成し難くなる。本発明でのモル比は、より好ましい0.5〜1.5の範囲である。
【0043】
本発明の有機修飾シリケートでなる表面平坦性絶縁膜の膜厚は、前述のように、高い耐電圧を得るために1μm以上が必要である。一方、50μmを越えると、膜厚では耐電圧は十分であるが、必要以上の膜厚となるので、経済的ではない。
【0044】
本発明の絶縁膜では、表面の平坦性(表面粗さ)Rqが15nm以下である。Rqが15nmを超えると、絶縁膜上に微細部品、配線を施すために障害となる。表面の平坦性を表す二乗平均粗さRq(Rms)は、高さ方向の振幅平均を表すもので、基準長さ(L)間の平均線から測定曲線までの偏差の二乗を平均した値の平方根であり、次の式(1)で求められる。
【0045】
【数1】

【0046】
例えば、膜の上15μm×15μm□内を測定して、上記式(1)からRqを求めることができる。高さ方向の振幅平均を表すパラメータである算術平均粗さRaに比べて、前記二乗平均粗さRqの方が表面の凹凸(山谷の起伏)の程度の違いがより顕著に表すことができる指標である。したがって、微細な電子デバイス部品を実装するために、平坦性の極めて高い表面が必要な用途に適用するためには、Rqで表面の平坦性を判断して、上述のようにRqが15nm以下でないと使用できないことを見出した。
【0047】
本発明の絶縁膜では、600℃まで加熱した際の質量減が10%以下であることが好ましい。即ち、TFT、電子ペーパー等の電子デバイスの基板とした場合、微細部品を実装する色々なプロセスで加熱されることがあり、加熱下で基板から揮発が少ない方が好ましい。600℃まで加熱した際の質量減が10%を越えると、揮発分が多くなり、揮発ガスが製造阻害因子となる場合がある。
【0048】
加水分解は、出発原料中の全アルコキシ基のモル数に対して0.5〜2倍の水を添加して行うのが好ましい。0.5倍未満では、加水分解の進行が遅く、ゲル化に時間がかかる。一方、2倍を越えると、金属アルコキシド同士の縮合割合が多く成り、シロキサンポリマーを有効に架橋するする寄与が低下する場合がある。
【0049】
本発明の絶縁膜は、ゾル・ゲル法で作製でき、ゾル塗布液を塗布し、乾燥及び熱処理にというプロセスで作製できる。前記乾燥は、塗膜中の溶媒を除去するのが主要な目的であり、60℃以上250℃以下が好ましい。60℃未満で乾燥すると、乾燥に時間がかかり、膜中に溶媒を多量に残す場合がある。一方、250℃を越えると、急激な溶媒蒸発により、乾燥膜が壊れる場合がある。また、前記熱処理は、塗膜の硬化を進行させるのが主要な目的であり、250℃以上600℃以下が好ましい。250℃未満では、絶縁膜として実用的な強度が得られない場合がある。一方、600℃を越えると、シロキサンに結合した有機基の熱分解が起こり、膜の柔軟性が損なわれる場合がある。
【0050】
前記ゾルを基板へのコーティングするには、バーコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ディップコート法、スピンコート法、スリットコート法、カーテンコート法などで行うことができる。本発明の絶縁膜は、前述にようにウエットプロセスで成膜し、熱処理により膜硬化を行うと、成膜直後のウェットの状態では膜中に多数のシラノール(SiOH)基が存在しているが、熱処理により、金属アルコキシドが加水分解・縮合反応して形成される無機成分が、化学結合や水素結合を介してポリジメチルシロキサンを架橋する。
【0051】
本発明の表面平坦性絶縁膜の基材は、特に選ばないが、例えば、ステンレス鋼(SUS304、SUS430、SUS316等)、普通鋼、メッキ鋼、銅、アルミ、ニッケル、チタン、シリコン等の導電性基材が挙げられる。また、前記基材の形状は、特に選ばないが、例えば、板状、箔状等が挙げられる。
【実施例】
【0052】
次に、本願発明者等が実際に行った試験の内容及び結果について説明する。
【0053】
(実施例1)
ポリジメチルシロキサン(PDMS)としては、両末端基はシラノールであるものを使用し、金属アルコキシドとしては、チタニウムテトライソプロポキシドを使用した。表1に、作製条件として、ポリジメチルシロキサンの質量平均分子量Mw、金属アルコキシドBに対するポリジメチルシロキサンAのモル比A/B、有機溶媒の種類を示している。有機溶媒は1-ブタノールを使用し、塗布液の粘度が15cP程度になるように量を調整して加えた。
【0054】
塗布溶液は、金属アルコキシドの化学改質剤として3-オキソブタン酸エチルとチタニウムテトライソプロポキシドを2:1のモル比で混合し、前記混合物にポリジメチルシロキサンを加える。更に、前記混合物に有機溶媒を加えた後、加水分解させるためのH2Oを添加して作製した。ここで、添加したH2Oは、金属アルコキシド1モルに対して1.9モルである。
【0055】
表1のNo.1〜5までは、フッ素系界面活性剤としてはパーフルオロアルキル基を持ち、親水基としてアルキルアミンオキシド基(アルキルアミンオキシドの平均モル数は10である)を持つものを添加した。
【0056】
No.6は、同様にパーフルオロアルキル基のものであるが、親水基としてエチレンオキシド基(平均モル数22)を添加した。
【0057】
No.7〜11は、フッ素系界面活性剤としてパーフルオロアルケニル基を持ち、親水基として、エチレンオキシド基(平均モル数22)を添加した。
【0058】
一般的な界面活性剤としてNo.12では、炭化水素系界面活性剤であるポリオキシエチレンアルキルエーテル、No.13ではシリコーン系界面活性剤であるポリオキシエチレン・メチルポリシロキサン共重合体を添加した。
【0059】
前記手順で作製した塗布溶液を用いて、SUS430基板に3mm/secの引き上げ速度でディップコーティングを行った。コーティング後に150℃と200℃でそれぞれ10min乾燥し、350℃で1hr乾燥空気中で熱処理を行って、絶縁膜を作製した。前記絶縁膜の表面を電子顕微鏡で観察し、相分離による凹凸の有無及び膜表面状態を確認した。
【0060】
膜厚の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM:JEOL製JSM-6500F)にて断面方向から観察し、基板上の膜厚を測定した。
【0061】
表面粗さの測定は、原子間顕微鏡(AFM:Veeco製Nanoscope V)によって、15μm×15μmの視野での表面粗さRqを測定した。
【0062】
塗布液中へフッ素系界面活性剤の添加の確認は、赤外線吸収スペクトル(FT-IR:PERKIN ELMER製 FT-IR spectrometer 2000)を測定し、>CF2におけるC-F結合由来の1200cm-1付近のピークで確認した。
【0063】
また、膜中の元素Fの存在は二次イオン質量分析(SIMS:CEMECA製ims-4f)によって確認した。
【0064】
絶縁膜表面の平坦性が悪い場合に膜上に形成する微細部品、配線にどの程度、障害となるかを調査するために簡単なTFTを形成し確認を行った。
【0065】
絶縁膜形成後、その上にSiO2をCVDで0.3μmの厚さに成膜し、さらにゲート電極、ゲート絶縁層、ポリシリコン層を形成した。ポリシリコン層形成には350℃におけるアニール処理を行った。その後、ソース電極とドレイン電極を形成することにより50μm×5μmで100個のTFTを370mm×470mmのステンレス箔内に作製した。形成されたTFTの特性を調べ、表面の粗さによる短絡が無いものを◎、不良が2個以下の場合は○、不良が2個超の場合は×で示した。
【0066】
【表1】

【0067】
表1の比較例、実施例のいずれも相分離から生じる膜表面の凹凸は無く、SEMでは平坦な膜を確認できた。実施例であるNo.2、3、5、6、8、9、11は、Rqが15nm以下であり、比較例に比べ、フッ素系界面活性剤による添加で、それぞれ表面荒さは改善されることが確認できた。これらのフッ素系界面活性剤を添加したゾルはFT-IRの測定で1200cm-1付近に>CF2におけるC-F結合由来のピークが確認できた(図1)。
【0068】
比較例7と実施例8において、被膜表面から深さ方向に向かって二次イオン質量分析を行った結果を図に示す。表面近傍の汚染層部分は外乱が入って比較できないが、被膜と基板の界面ピークまでの間(0.1〜1.8μm)で、フッ素系界面活性剤を添加した被膜中のF濃度が高くなっていることが確認できる(図2)。
【0069】
また、No.12、13、17では、フッ素系以外の界面活性剤の比較例を挙げているが、15μm×15μm測定範囲のRqにおいては効果が見られていない。
【0070】
金属アルコキシドとしてTi以外の金属元素の結果として、Zr、Al、SiをNo.14〜20で示している。いずれの場合においても、フッ素系界面活性剤を添加したものは15μm×15μm測定範囲のRqにおいて被膜表面の平滑性改善の効果が見られる。
【0071】
フッ素系界面活性剤を添加して平滑性が改善され、Rqが15nm以下であるものに関してTFT特性の結果を見ると、Rqの値が15nmに近いものは、多少の短絡が存在する場合があるが10nm以下では短絡が見られず良好であった。一方、Rqが15nm超のものは、短絡不良が頻発していた。TFTプロセスに対して平滑な絶縁膜を提供することは極めて重要であり、フッ素系界面活性剤による効果が工業的に有効であることを示すことができた。
【0072】
このようにして得られた膜は耐熱性に優れており、600℃までのTG測定において10%以下の質量変化であった(図3)。
【0073】
また、これらPDMSと金属アルコキシドより作成されるゾルゲル膜の電子ペーパーに用いられる基板被膜としての適用可能性を確認するため、柔軟であり、絶縁性を維持できているか、比較例、実施例いずれにおいても、繰り返し曲げ後の絶縁抵抗達成率を以下の手法で測定した。
【0074】
20、32、50、75、165mmφの丸棒に絶縁膜付ステンレス箔を沿わせて繰り返し曲げを50回行い、曲げた部分の1mmφで16点について絶縁抵抗を測定した。このときのステンレス箔は100μm厚さ、膜の厚さは3μmのゾルゲル膜であり、60Vの絶縁抵抗値が109Ω・cm2以上の値を閾値として絶縁抵抗達成率を調べた。
【0075】
この結果、何れのサンプルでも、50mmφ以上の直径での曲げ試験では絶縁抵抗達成率が100%を示し、絶縁膜付ステンレス箔としてフレキシビリティを有し、繰り返し曲げ後であっても絶縁性を維持できている(図4)。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】実施例のF系界面活性剤添加ゾルのFT-IRチャートである。
【図2】二次イオン質量分析により測定した実施例8及び比較例7の被膜中のFイオン濃度を示す。
【図3】実施例で得られたゾルゲル膜のTG曲線(耐熱性)を示す。
【図4】実施例における繰り返し曲げ後の絶縁抵抗達成率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属アルコキシド、ポリジメチルシロキサン、有機溶媒を含む塗布溶液であって、該塗布溶液中に>CF2におけるC-F結合が存在することを特徴とする表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液。
【請求項2】
前記>CF2におけるC-F結合がフッ素系界面活性剤由来のものであることを特徴とする請求項1に記載の表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液。
【請求項3】
前記フッ素系界面活性剤がエチレンオキシド基を単独又は鎖状に含んでいることを特徴とする請求項2に記載の表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液。
【請求項4】
前記フッ素系界面活性剤の添加量が、0.05〜10質量%であることを特徴とする請求項2又は3に記載の表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液。
【請求項5】
前記ポリジメチルシロキサンの質量平均分子量が900〜10000であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液。
【請求項6】
前記金属アルコキシドの金属元素が、3価又は4価の金属元素から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の表面平坦性絶縁膜形成用塗布溶液。
【請求項7】
基材表面に、金属アルコキシドとポリジメチルシロキサンから形成される有機修飾シリケート膜を有し、該膜表面の平坦性Rqが15nm以下で、膜中に元素Fを含むことを特徴とする表面平坦性絶縁膜被覆基材。
【請求項8】
前記ポリジメチルシロキサンの質量平均分子量が900〜10000であることを特徴とする請求項7に記載の表面平坦性絶縁膜被覆基材。
【請求項9】
前記膜中の金属アルコシキド由来の金属1モルに対するポリジメチルシロキサンのモル比が0.05以上1.5以下であることを特徴とする請求項7又は8に記載の表面平坦性絶縁膜被覆基材。
【請求項10】
前記前記金属アルコキシドの金属元素が、3価又は4価の金属元素から選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項7〜9のいずれか1項に記載の表面平坦性絶縁膜被覆基材。
【請求項11】
前記膜の膜厚が1μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項7〜10のいずれか1項に記載の表面平坦性絶縁膜被覆基材。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の塗布溶液を基板表面に塗布し、乾燥及び加熱処理することを特徴とする表面平坦性絶縁膜被覆基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−92627(P2010−92627A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258960(P2008−258960)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(306032316)新日鉄マテリアルズ株式会社 (196)
【Fターム(参考)】