説明

表面検査装置

【課題】本発明は、生産ラインにおいて疵無部の地合信号を正確に求め、判定閾値を正確に、且つ、効率よく設定することが可能な表面検査装置を提供することを目的とする。
【解決手段】走行する金属鋼帯の表面の疵を検出する表面検査装置であって
閾値演算部2は、前記画像信号から前記単位エリア毎の濃度ヒストグラムを求める濃度ヒストグラム演算部2aと、濃度ヒストグラムのピーク位置を求め、当該ピーク位置を平均値とした場合の正規分布関数を想定し、当該ピーク位置近傍の濃度ヒストグラム度数から、想定した正規分布関数の標準偏差値を求める標準偏差演算部2bと、標準偏差値に対応する判定閾値を設定する閾値設定部3とを備え、標準偏差値に地合信号成分以外の疵信号成分が極力含まれないようにして判定閾値を求めるようにしたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、フィルム、紙、半導体等の生産ラインにおいて使用される表面の疵の検査装置に関し、特に、金属鋼帯等の品種によって、または、同一品種であっても部位により表面性状が変化する場合の表面検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に金属鋼帯の生産ライン等において用いられる表面検査装置は、金属鋼帯表面に光を照射し、CCDカメラ等で表面からの反射光を受光して、反射光の状態の変化から疵を検出する光学式が採用されている。
【0003】
反射光は、電気信号に変換し、疵部からの信号と無疵部からの信号の相違を識別して疵を判定する。
【0004】
すなわち、無疵部の信号レベルに対して所定の余裕代を見込んだレベルを判定閾値とし、この判定閾値を超えた部分の信号を疵部と識別するようにしている。
【0005】
しかしながら、金属鋼帯等の場合、光の反射状態が金属表面の性状、材質によって変化、しかも、金属鋼帯の幅方向、長さ方向の部位によって変化するため、疵無部の信号レベルが変化する。
【0006】
一方、疵部は、軽度の疵まで検査する要求が強いので、疵の判定閾値は極力疵無部のレベルに近づける必要があるが、近づけすぎると誤判定が増える。
【0007】
即ち、表面の疵判定性能は、この疵無部をどのように定義するかによって決定されることから、この判定閾値の定義に関して種々の技術が開示されてきている。
【0008】
従来の判定閾値の決定方法を図7に示す。従来、疵無部を定義するために、金属鋼帯の生産ラインからサンプルをカットして(s11)、カットされた疵無部のカットサンプルの地合(疵無部表面は地合と称する)信号を測定して(s12)、判定閾値を求めていた。
【0009】
このカットサンプルは、表面検査装置が対象とする金属鋼帯の品種や材質毎に、また、地合が変化すると思われる部位、例えば、幅方向や長さ方向について採取され、その地合信号のデータを保存していた(s13)。
【0010】
そして測定した地合信号のデータから、所定の余裕代を見込んで判定閾値を決定する(s14)。この時、余裕代は検査基準や製品の歩留まりなどを考慮して、その生産ラインの品質管理者が経験的に決定している。
【0011】
ここで、光学方式の場合、検出した電気信号を画像信号とし、疵無部の画像信号(地合信号と称す)の信号レベルの標準偏差値を求め、求めた標準偏差値に対して一定の倍率を乗算した値を地合信号レベルの平均値に加算、もしくは、減算して判定閾値としている(例えば、特許文献1参照。)。
【0012】
図8において、夫々の横軸は、8ビット、255階調の信号レベルを示し、縦軸は地合信号を判定する予め設定された単位エリア(単位フレームとも称す)の信号レベル毎の発生頻度を示したもので、図8に示すように疵信号が含まれると濃度ヒストグラムの平均値や、標準偏差値が変化する。
【0013】
ここで、カットサンプルは、生産ラインの限られた部分でしか採取できないため、実際の生産ラインにおいては、図9に示すように設定する判定閾値が最適であるかを検証して決定するようにしている。
【0014】
生産ラインでは、測定対象の金属鋼帯の地合信号レベルを測定し(s21)、所定の単位エリア毎の地合信号レベルの濃度ヒストグラムを求め(s22)、この濃度ヒストグラムの平均値(Sa)と標準偏差値(σ)とを求めるようにしている(s23)。
【0015】
そして、上述したように、求めた標準偏差値を平均値に加算もしくは減算、または、所定の計数を乗じて判定閾値とし、この判定閾値を設定して表面検査装置の性能を評価するようにしている。
【0016】
このような方法では、地合信号に疵信号の成分が含入されているか否かが不明で、疵部信号成分が含まれていると図8に示したように、標準偏差値がばらつくため、精度の良い判定閾値が得られない問題がある。
【0017】
また、このような疵無部のサンプルカットや、カットサンプルから求めた標準偏差値から判定閾値を設定して性能を検証する方法では、多大な労力を必要とする問題がある。
【特許文献1】特開平8−189905号公報(図1、第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
以上述べたような、従来の表面検査装置では、変化する地合信号の疵無部の標準偏差値を正確に求めることが出来ない問題がある。
【0019】
このような方法では、地合信号に疵信号成分が含入されているか否かが不明で、疵部信号成分が含まれていると図8に示すように、標準偏差値がばらつくため、精度の良い判定閾値が得られない問題がある。
【0020】
また、このような疵無部のサンプルカットや、カットサンプルから求めた標準偏差値から判定しきい値を設定し、表面検査装置の性能を検証する方法では、多大な労力を必要とする問題がある。
【0021】
本発明は、このような従来の問題点を解決するために成されたもので、生産ラインにおいて疵無部の地合信号を正確に求め、判定閾値を正確に、且つ、効率よく設定することが可能な表面検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために、本発明の表面検査装置は、走行する金属鋼帯の表面に光を照射し、この表面からの反射光を受光して当該金属鋼帯表面の画像信号を生成する光学検出部と、前記金属鋼帯の単位長信号と前記画像信号とから、前記金属鋼帯表面の単位エリア毎の地合信号を測定して、当該金属鋼帯表面の疵の判定閾値を生成する閾値演算部と、前記画像信号と前記判定閾値とを比較して、前記単位エリア毎の疵の有無を判定する疵判定部とから成り、前記閾値演算部は、前記画像信号から前記単位エリア毎の濃度ヒストグラムを求める濃度ヒストグラム演算部と、前記濃度ヒストグラムのピーク位置を求め、当該ピーク位置を平均値とした場合の正規分布関数を想定し、当該ピーク位置近傍の濃度ヒストグラム度数から、想定した前記正規分布関数の標準偏差値を求める標準偏差演算部と、前記標準偏差値に対応する前記判定閾値を設定する閾値設定部とを備え、前記標準偏差値に前記地合信号成分以外の疵信号成分が極力含まれないようにして前記判定閾値を求めるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したように、本発明によれば、生産ラインにおいて疵無部の地合信号を正確に求め、判定閾値を正確に、且つ、効率よく設定することが可能な表面検査装置を提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の実施例について、図1乃至図7を参照して説明する。図1(a)は、本発明の表面検査装置の構成を示す。図1(b)、(c)は、例えば、金属鋼帯6が、冷間圧延ラインで生成される薄鋼板の場合の地合信号レベルの様子をしたもので、一般に薄鋼板の地合信号レベルは、その圧延プロセスの特性から、長さ方向(図1(b))、幅方向(図1(c))の夫々の端部で大きく、夫々の中央部で低い傾向を示す。
【0025】
本発明の表面検査装置は、走行する金属鋼帯6の表面に光を照射する光源部1aと、この表面からの反射光を受光して金属鋼帯6の表面の画像信号を生成する受光部1bとから成る光学検出部1と、走行する金属鋼帯6の単位長信号と受光部1bで撮像した画像信号とから、金属鋼帯6の表面の単位エリア(f1w〜fnd)毎の地合信号を測定して、金属鋼帯6の表面の疵の判定閾値を生成する閾値演算部2と、画像信号と判定閾値とを比較して、単位エリア毎の疵の有無を判定する疵判定部3とから構成される。
【0026】
そして、図2に示すように、閾値演算部2は、画像信号から単位エリア毎の濃度ヒストグラムを求める濃度ヒストグラム演算部2aと、濃度ヒストグラム演算部2aで求めた濃度ヒストグラムのピーク位置を求め、このピーク位置を平均値とした場合の正規分布関数を想定し、このピーク位置近傍の濃度ヒストグラム度数から、想定した正規分布関数(以後、想定正規分布関数と称す)に対して標準偏差値を求める標準偏差演算部2bと、標準偏差値に対応する判定閾値を設定する閾値設定部2cとを備える。
【0027】
閾値演算部2は、さらに、金属鋼帯6の品種毎の判定閾値を記憶する閾値データ記憶部2dを備え、閾値設定部2cに対して、金属鋼帯6の検査対象品種が設定された時、閾値データ記憶部2dから、予め登録された品種に対応する判定閾値を抽出して、疵判定部3に設定する。
【0028】
さらに、金属鋼帯6の先端部及び後端部を検出する検査端信号検出器4と、金属鋼帯の単位長さ信号を検出する単位即長信号検出器5とを備える。
【0029】
次に閾値演算部2の各部の詳細について説明する。濃度ヒストグラム演算部2aは、光学検出器1から送信される画像信号に対して、予め設定する単位エリア毎の画像信号を金属鋼帯の走行方向に交互に切替えバッファリングするバッファメモリ2a2、2a3と、このバッファリングメモリ2a2、2a3に画像信号を交互に切替えて書き込むスイッチ2a1、また、交互に切替えて読み出すスイッチ2a4と、バッファリングされた画像信号からその濃度ヒストグラムを求める演算部2a5とから成る。
【0030】
金属鋼帯6の検査幅が広く、幅方向に複数の単位エリアが設定される場合、閾値演算部2は、要求される処理速度から、並列に設けることが必要になるが、夫々の単位エリアでの処理は同じなので、ここでは、いつの単位エリアについて説明する。
【0031】
次に、標準偏差演算部2bの詳細について、図3乃至図6を参照してその処理動作を説明する。図3(a)に示すような単位エリアの表面の1走査の画像信号の様子を図3(b)に示す。
【0032】
例えば、この画像信号は8ビット(0〜255)の諧調で、その平均レベルが±128諧調の範囲の信号となる。この画像信号をこの単位エリア全域について求めると、図3(d)に示すような濃度ヒストグラムが得られる。
【0033】
この単位エリアに図3(a)に示すような疵信号がある場合、疵部と疵無し部との2つのピーク値を持つ濃度ヒストグラムとなる。
【0034】
そこで、図4(c)に示すように、本発明による標準偏差演算部2bでは、濃度ヒストグラム演算部2a5で求めた濃度ヒストグラムH(s)に対して、下記に示すような演算式で、濃度ヒストグラムの標準偏差値σnを求める。
【0035】
σn=±Δs/√(−2・lnh)
ここで、濃度ヒストグラムH(s)のピーク位置pを、想定した正規分布関数の平均値と見なし、この想定正規分布関数G(s)のピーク位置pの濃度ヒストグラム値に対してn%の濃度ヒストグラムhの位置をサンプリングして、この想定正規分布関数G(s)の濃度ヒストグラムhと対応する信号レベルをΔsとからその標準偏差値σnを求めたものである。
【0036】
ここで、hは、疵部が濃度ヒストグラムとして混在しにくい、ピーク位置の近傍、例えば、ピーク位置に対して50%以上の値(例えば、70%、80%、90%)を抽出し、そのピーク位置pからのずれ量(Δs)を読み取って、標準偏差値σnを求めるようにする。
【0037】
すると、図5に示すように、平均位置で求めた正規分布関数に対して、ピーク位置に対しても求めた想定正規分布関数G(s)は、標準偏差値が小さくなる。
【0038】
そして、図6に示すような手順で、想定正規分布関数G(s)から標準偏差値σnを金属鋼帯の全面に渡り求め(s1〜s4)、さらに、品種別に求め閾値データ記憶部2dに記憶しておく。
【0039】
次に、閾値設定部2cについて説明する。閾値設定部2cでは、品種別に記憶された標準偏差値σnに対して、例えば、次に示すような予め検証された演算式から判定閾値Vrを求める。
【0040】
±Vr=(p±σn)×α
ここで、pは、濃度ヒストグラムのピーク位置の信号レベル、αは余裕代で、1〜3の範囲で設定する。また、判定閾値Vrは、正負の信号に対して独立に設けるようにしても良い。
【0041】
このようにして求められた判定閾値Vrは、図1で説明したように、金属鋼帯の全面に渡って、単位アリア毎に、少なくとも両端部と中央部とで、また長さ方向にも個別に設定される。
【0042】
また、金属鋼帯の検査対象品種が設定された時、閾値データ記憶部2dから、予め登録された品種に対応する判定閾値を抽出して、疵判定部3に設定するようにしているので、疵部のデータを除いた標準偏差値を地合信号レベルとして求めることで、金属鋼帯の全面、全品種に対して、判定閾値を正確に、且つ、効率よく設定することが可能な表面検査装置を提供することが出来る。
【0043】
尚、本発明は上述したような実施例に何ら限定されるものでなく、判定閾値は、幅方向に個別に設定するか一様にするか、また、単位エリアサイズは固定するか、金属鋼帯の部位で変えるか固定するかなどは、検査基準に従って変更しても良く、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】本発明の表面検査装置の構成図。
【図2】本発明の閾値演算部の構成図。
【図3】本発明のカットサンプルでの標準偏差演算部の測定例。
【図4】本発明の標準偏差演算部の処理動作の説明図。
【図5】本発明のカットサンプルでの標準偏差演算部の測定例。
【図6】本発明の標準偏差演算部の処理動作を説明するフロー図。
【図7】従来の地合信号を求める方法の説明図。
【図8】従来の標準偏差値の求め方の説明図。
【図9】従来の地合信号の測定と閾値の設定処理フロー図。
【符号の説明】
【0045】
1 光学検出器
1a 光源部
1b 受光部
2 閾値演算部
2a 濃度ヒストグラム演算部
2a1、2a4 スイッチ
2a2、2a3 バッファメモリ
2a5 演算部
2b 標準偏差演算部
2c 閾値設定部
2d 閾値データ記憶部
2b 標準偏差演算部
3 疵判定部
4 検査端信号検出器
5 単位測長信号検出器
6 金属鋼帯

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する金属鋼帯の表面に光を照射し、この表面からの反射光を受光して当該金属鋼帯表面の画像信号を生成する光学検出部と、
前記金属鋼帯の単位長信号と前記画像信号とから、前記金属鋼帯表面の単位エリア毎の地合信号を測定して、当該金属鋼帯表面の疵の判定閾値を生成する閾値演算部と、
前記画像信号と前記判定閾値とを比較して、前記単位エリア毎の疵の有無を判定する疵判定部と
から成り、
前記閾値演算部は、前記画像信号から前記単位エリア毎の濃度ヒストグラムを求める濃度ヒストグラム演算部と、
前記濃度ヒストグラムのピーク位置を求め、当該ピーク位置を平均値とした場合の正規分布関数を想定し、当該ピーク位置近傍の濃度ヒストグラム度数から、想定した前記正規分布関数の標準偏差値を求める標準偏差演算部と、
前記標準偏差値に対応する前記判定閾値を設定する閾値設定部と
を備え、
前記標準偏差値に前記地合信号成分以外の疵信号成分が極力含まれないようにして前記判定閾値を求めるようにしたことを特徴とする表面検査装置。
【請求項2】
前記閾値演算部は、前記画像信号から、少なくとも前記金属鋼帯の両端部及び中央部に独立の前記単位エリアを設定し、前記金属鋼帯の長さ方向、及び幅方向の全面において前記判定閾値を求めるようにした請求項1に記載の表面検査装置。
【請求項3】
前記閾値演算部は、さらに、前記金属鋼帯の品種毎の前記判定閾値を記憶する閾値データ記憶部を備え、
前記閾値設定部に対して、前記金属鋼帯の検査対象品種が設定された時、前記閾値データ記憶部から、予め登録された品種に対応する前記判定閾値を抽出して、前記疵判定部に設定するようにした請求項1または請求項2に記載の表面検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−85096(P2010−85096A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250845(P2008−250845)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】