説明

表面被覆切削工具

【課題】 高熱発生を伴う高速断続重切削において、硬質被覆層がすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具を提供する。
【解決手段】工具基体の表面に、硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具において、下部層はTi化合物層で構成され、また、上部層は、一層平均層厚0.8〜1.5μmの酸化アルミニウム層と一層平均層厚0.4〜0.6μmのジルコニウム含有酸化アルミニウム層との交互積層構造として構成され、さらに、上記ジルコニウム含有酸化アルミニウム層におけるジルコニウム含有割合は、層厚方向に沿って組成が変化し、かつ、層厚方向の中間領域で、最大値13〜16原子%を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、硬質被覆層の上部層を、酸化アルミニウム層とジルコニウム含有酸化アルミニウム層の交互積層構造として構成し、さらに、該ジルコニウム含有酸化アルミニウム層におけるZr含有割合を層厚方向に組成変化させることにより、鋼や鋳鉄の高熱発生を伴う高速断続重切削加工において、熱塑性変形の発生を抑制することにより、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮する表面被覆切削工具(以下、被覆工具という)に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一般に、炭化タングステン(以下、WCで示す)基超硬合金または炭窒化チタン(以下、TiCNで示す)基サーメットで構成された基体(以下、これらを総称して工具基体という)の表面に、硬質被覆層として、
(a)下部層が、Tiの炭化物(以下、TiCで示す)層、窒化物(以下、同じくTiNで示す)層、炭窒化物(以下、TiCNで示す)層、炭酸化物(以下、TiCOで示す)層、および炭窒酸化物(以下、TiCNOで示す)層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層、
(b)上部層が、化学蒸着した状態でα型またはκ型の結晶構造の酸化アルミニウム(以下、Alで示す)と酸化ジルコニウム(以下、ZrOで示す)の2相混合酸化物組織を有し、かつ、0.1〜10重量%のZrOがAl素地に分散した2相混合酸化物層(以下、単に「従来2相混合酸化物層」という)、
を蒸着形成してなる被覆工具が、例えば各種の鋼や鋳鉄などの切削加工に用いられることは良く知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−38504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の切削加工の省エネ化および省力化に対する要求は強く、これに伴い、切削条件はより高速化、高効率化が求められているところ、上記従来被覆工具は、鋼や鋳鉄等の通常条件の切削加工では特段の問題は生じないが、これを、高熱発生を伴うとともに、切刃に対して大きな衝撃的・機械的負荷が繰り返し作用する高速断続重切削条件で用いた場合には、硬質被覆層の耐熱性が不足し、その結果、熱塑性変形、偏摩耗が発生し、これが原因で耐摩耗性が劣化し、比較的短時間で使用寿命に至るのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
そこで、本発明者等は、上述のような観点から、高熱発生を伴うとともに、切刃に対して大きな衝撃的・機械的負荷が繰り返し作用する高速断続重切削条件で用いた場合にも、耐熱塑性変形性を改善し、すぐれた耐摩耗性を発揮する被覆工具を得るべく、鋭意研究を行なった結果、次のような知見を得た。
【0006】
まず、上記従来被覆工具のジルコニウムを含有する酸化アルミニウム層(以下、Zr含有Al23層で示す)は、すぐれた耐熱性、高温強度を有するがことから、酸化アルミニウム層(以下、Al23層で示す)とZr含有Al23層とを交互に積層して硬質被覆層の上部層を構成し、このような上部層を有する被覆工具を高速断続重切削加工に供したところ、Zr含有Al23層の存在によって、上部層の耐熱性、高温強度は向上するものの、その半面、Al23層単層の場合に比して、上部層の高温硬さが低下し、さらに、Al23層とZr含有Al23層との密着強度が十分でないため、層間剥離を生じやすくなるため、高熱発生、切刃に対する衝撃的・機械的負荷により、熱塑性変形や偏摩耗を発生し、耐摩耗性の向上を期待できないことがわかった。
【0007】
そこで、本発明者等は更に研究を進めたところ、上記Zr含有Al23層を均一組成の層として構成するのではなく、層厚方向に沿って、Zr含有割合がなだらかに変化する不均一組成の層となるように構成し、さらに、各Zr含有Al23層の中間領域(例えば、Zr含有Al23層の層厚をt(但し、tは0.3〜0.5μm)とした場合に、t/3の層厚に相当する中間領域)においてZr含有割合が最大値を示すような組成とし、かつ、Zr含有割合の前記最大値が13〜 原子%となる不均一組成のZr含有Al23層(以下、組成変化Zr含有Al23層という)を構成し、Al23層と組成変化Zr含有Al23層とを交互に積層して上部層を形成したところ、この上部層は、高温硬さの低下が生じないばかりか、組成変化Zr含有Al23層に含有されるZrが耐熱性を向上するとともに、Al23粒子を微細化かつ平滑化し、耐熱塑性変形性を向上し、偏摩耗の発生を抑え、さらに、Al23層と組成変化Zr含有Al23層との層間密着強度も向上することを見出した。
【0008】
したがって、硬質被覆層として、Ti化合物からなる下部層と、Al23層と組成変化Zr含有Al23層との交互積層からなる上部層を被覆した被覆工具は、鋼や鋳鉄の高速断続重切削においても、熱塑性変形、偏摩耗を発生せず、その結果、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮し、同時に、工具寿命の延命化が図られることを見出したのである。
【0009】
この発明は、上記知見にもとづいてなされたものであって、
「 炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、1〜15μmの層厚を有する下部層と、3〜15μmの層厚を有する上部層とで構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具において、
上記下部層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1種または2種以上からなるTi化合物層で構成され、
また、上記上部層は、一層平均層厚0.8〜1.5μmのAl23層と一層平均層厚0.4〜0.6μmのZr含有Al23層との交互積層構造として構成され、
さらに、上記Zr含有Al23層中のZr含有割合は、層厚方向の中間領域において、Zr含有割合が最大となるような組成変化を示し、かつ、該Zr含有割合の最大値は13〜16原子%であることを特徴とする表面被覆切削工具。」
である。
【0010】
本発明の被覆工具の硬質被覆層について、以下に詳細に説明する。
【0011】
(a)下部層を構成するTi化合物層:
Tiの炭化物(TiC)層、窒化物(TiN)層、炭窒化物(TiCN)層、炭酸化物(TiCO)層および炭窒酸化物(TiCNO)層のうちの1層または2層以上からなるTi化合物層は、例えば、通常の化学蒸着条件によって蒸着形成することができ、そして、Ti化合物層からなる下部層は、工具基体及び上部層のいずれにも強固に密着し、硬質被覆層の工具基体に対する密着性向上に寄与するとともに、それ自体が高温強度を有し、これの存在によって硬質被覆層が高温強度を具備するようになる。
ただ、下部層全体の層厚が1μm未満では、前記作用を十分に発揮させることができず、一方その層厚が15μmを越えると、高熱発生を伴い、かつ、切刃に対して大きな衝撃的・機械的負荷が繰り返し作用する高速断続重切削で熱塑性変形を起し易くなり、これが偏摩耗の原因となることから、下部層全体としての層厚を1〜15μmと定めた。
【0012】
(b)上部層の交互積層を構成するAl23層:
上部層の交互積層構造を構成するAl23層は、既に良く知られているように、通常の化学蒸着法で蒸着形成することができる。
例えば、通常の化学蒸着装置により、
反応ガス組成:容量%で、AlCl:6〜10%、CO:10〜15%、HCl:3〜5%、H2S:0.05〜0.2%、H2:残り、
反応雰囲気温度:900〜1020℃、
反応雰囲気圧力:3〜5kPa、
の条件で蒸着することによってα型Al23層を形成することができる。
上記α型Al23層は、すぐれた高温硬さと耐熱性を備え、高速断続重切削加工において耐摩耗性を担保するための層として機能する。
ただ、交互積層構造を構成するα型Al23層の一層平均層厚が0.8μm未満であると、上部層に十分な高温硬さと耐熱性を付与することができず、一方、一層平均層厚が1.5μmを超えると、粗大結晶粒の成長により靭性が低下しチッピングが発生しやすくなるので、Al23層の一層平均層厚は0.8〜1.5μmと定めた。
Al23層としては、α型Al23層ばかりでなく、κ型やθ型のAl23層であっても何ら支障はない。
【0013】
(c)上部層の交互積層を構成する組成変化Zr含有Al23層:
組成変化Zr含有Al23層は、蒸着初期に、
反応ガス組成:容量%で、AlCl:2〜5%、ZrCl:0.5〜0.9%、CO:10〜15%、HCl:3〜5%、H2S:0.05〜0.08%、AlI:0.5〜1.0%、H2:残り、
反応雰囲気温度:950〜1020℃、
反応雰囲気圧力:7〜10kPa、
の条件で蒸着を開始し、
次いで、蒸着の進行に伴って、反応ガス中に占めるZrClガス成分の含有割合を高めていき、ZrCl:1.2〜1.4%を含有する反応ガスにより、Zr含有割合が最大となる中間領域を蒸着形成し、
次いで、蒸着後期には、ZrClガス成分の含有割合を次第に減少させ、ZrCl:0.5〜0.9%を含有する反応ガス中で蒸着を終了させ、組成変化Zr含有Al23層を形成することによって、組成変化Zr含有Al23層を蒸着形成することができる。
そして、前記(b)による所定の一層平均層厚のAl23層の形成と、前記(c)による所定の一層平均層厚の組成変化Zr含有Al23層の形成を交互に行い、所定の層厚の交互積層構造からなる上部層を形成する。
【0014】
組成変化Zr含有Al23層における層厚方向位置におけるZr含有割合は、上記のとおり、蒸着時の反応ガス中のZrClの含有率によって影響されるが、 組成変化Zr含有Al23層における中間領域(例えば、0.3μmの層厚の組成変化Zr含有Al23層にあっては、その厚さの1/3、即ち、層厚方向中央部の0.1μmの厚さの領域)のZr含有割合は、Alとの合量に占める割合(Zr×100/(Al+Zr))で13〜16原子%であることが必要である。組成変化Zr含有Al23層における中間領域における最大Zr含有割合が13原子%未満であると、Zr含有による上部層のAl23粒子の微細化が図られないため、高温強度の向上効果が少ないばかりか、耐熱性の向上効果も少なく、一方、組成変化Zr含有Al23層における中間領域における最大Zr含有割合が16原子%を超えると、交互積層を構成するAl23層との密着強度の低下がみられ、さらに、Al23結晶粒界への粗大なZr化合物の析出が生じ、粒界強度が低下してくることから、耐チッピング性が低下するようになる。したがって、Al23層における中間領域における最大Zr含有割合を13〜16原子%と定めた。
【0015】
交互積層構造を構成する組成変化Zr含有Al23層の一層平均層厚が0.4μm未満であると、耐熱塑性変形性向上効果が十分でなく、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することができず、一方、一層平均層厚が0.6μmを超えると、交互積層構造からなる上部層において、層間剥離が生じやすくなり、耐チッピング性が劣化するので、組成変化Zr含有Al23層の一層平均層厚は0.4〜0.6μmと定めた。
【0016】
(d)交互積層構造からなる上部層
所定の一層平均層厚のAl23層と、所定の一層平均層厚の組成変化Zr含有Al23層との交互積層構造として上部層は形成されるが、上部層全体としての層厚が3μm未満では、長期の使用にわたってすぐれた耐摩耗性を発揮することができず、一方、層厚が15μmを超えると、チッピング等が発生しやすくなることから、上部層全体としての層厚を3〜15μmと定めた。
【発明の効果】
【0017】
本発明の被覆工具は、硬質被覆層の下部層をTi化合物層から構成し、また、その上部層を、Al23層と組成変化Zr含有Al23層との交互積層構造として構成していることにより、上部層が、すぐれた高温硬さ、耐熱性とともに、すぐれた耐熱塑性変形性を備え、さらに、結晶粒微細化により高温強度も備えるので、これを、高熱発生を伴い、かつ、切刃に対して大きな衝撃的・機械的負荷が繰り返し作用する鋼や鋳鉄の高速断続重切削加工に用いた場合にも、偏摩耗の発生もなく、長期の使用にわたって、すぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
つぎに、本発明の被覆工具を実施例により具体的に説明する。
【実施例】
【0019】
原料粉末として、いずれも1〜3μmの平均粒径を有するWC粉末、TiC粉末、ZrC粉末、VC粉末、TaC粉末、NbC粉末、Cr3 2 粉末、TiN粉末、およびCo粉末を用意し、これら原料粉末を、表1に示される配合組成に配合し、さらにワックスを加えてアセトン中で24時間ボールミル混合し、減圧乾燥した後、98MPaの圧力で所定形状の圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を5Paの真空中、1370〜1470℃の範囲内の所定の温度に1時間保持の条件で真空焼結し、焼結後、切刃部にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO・CNMG120408に規定するスローアウエイチップ形状をもったWC基超硬合金製の工具基体A〜Fをそれぞれ製造した。
【0020】
また、原料粉末として、いずれも0.5〜2μmの平均粒径を有するTiCN(質量比でTiC/TiN=50/50)粉末、Mo2 C粉末、ZrC粉末、NbC粉末、TaC粉末、WC粉末、Co粉末、およびNi粉末を用意し、これら原料粉末を、表2に示される配合組成に配合し、ボールミルで24時間湿式混合し、乾燥した後、98MPaの圧力で圧粉体にプレス成形し、この圧粉体を1.3kPaの窒素雰囲気中、温度:1540℃に1時間保持の条件で焼結し、焼結後、切刃部分にR:0.07mmのホーニング加工を施すことによりISO規格・CNMG120412のチップ形状をもったTiCN基サーメット製の工具基体a〜fを形成した。
【0021】
これらの工具基体A〜Fおよび工具基体a〜fの表面に、通常の化学蒸着装置を用い、表3(表3中のl−TiCNは特開平6−8010号公報に記載される縦長成長結晶組織をもつTiCN層の形成条件を示すものであり、これ以外は通常の粒状結晶組織の形成条件を示すものである)に示される条件にて、表5に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成した。
【0022】
ついで、表3に示される条件で、表5に示される一層平均目標層厚でAl層を蒸着するとともに、表4に示される条件で、表5に示される一層平均目標層厚で組成変化Zr含有Al層を蒸着し、
さらに、上記Al層と上記組成変化Zr含有Al層との蒸着を交互に繰り返し行い、交互積層構造からなる上部層を、表5に示される目標層厚になるように蒸着形成し、本発明被覆工具1〜13をそれぞれ製造した。
【0023】
また、比較の目的で、工具基体A〜Fおよび工具基体a〜fの表面に、表3に示される条件にて、表6に示される目標層厚のTi化合物層を硬質被覆層の下部層として蒸着形成した(本発明被覆工具1〜13の下部層形成と同条件)後、本発明範囲から外れる条件でこれらの上部層を蒸着形成することにより、比較被覆工具1〜13を製造した。
【0024】
本発明被覆工具1〜13の組成変化Zr含有Al層について、Zrの最大含有割合(原子%)を、層厚方向でのオージェライン分析により測定した。
その結果を、表6に示す。
また、上部層として組成変化Zr含有Al層あるいは均一組成Zr含有Al層を蒸着形成した比較被覆工具について、同様に、Zrの(最大)含有割合(原子%)を、層厚方向でのオージェライン分析により測定した。
その結果を表7に示す。
【0025】
また、本発明被覆工具1〜13および比較被覆工具1〜13の硬質被覆層の構成層の厚さを、走査型電子顕微鏡を用いて測定(縦断面測定)したところ、いずれも目標層厚と実質的に同じ平均層厚(5点測定の平均値)を示した。
【0026】
つぎに、上記の各種の被覆工具をいずれも工具鋼製バイトの先端部に固定治具にてネジ止めした状態で、本発明被覆工具1〜13および従来被覆工具1〜13のそれぞれについて、次の切削条件A、Bで断続重切削試験を行った。
[切削条件A]
被削材:JIS・SNCM439の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒
切削速度: 350 m/min、
切り込み: 4.0 mm、
送り: 0.3 mm/rev.、
切削時間: 18 分、
の条件での合金鋼の湿式高速断続高切り込み切削試験(通常の切削速度および切り込みは、それぞれ、250m/min、1.5mm)、
[切削条件B]
被削材:JIS・FC300の長さ方向等間隔4本縦溝入り丸棒
切削速度: 400 m/min、
切り込み: 1.5 mm、
送り: 0.5 mm/rev.、
切削時間: 22 分、
の条件での鋳鉄の乾式高速断続高送り切削試験(通常の切削速度および送りは、それぞれ、350m/min、0.3mm/rev.)、
を行い、いずれの切削試験でも切刃の逃げ面摩耗幅を測定した。この測定結果を表6に示した。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
【表4】

【0031】
【表5】

【0032】
【表6】

【0033】
【表7】

【0034】
表5〜7に示される結果から、本発明被覆超硬切削工具1〜13は、硬質被覆層の上部層が、Al2 3層と組成変化Zr含有Al2 3層の交互積層構造として構成され、上部層が、すぐれた高温硬さ、耐熱性とともに、すぐれた耐熱塑性変形性を備え、さらに、結晶粒微細化による高温強度も備えるので、これを、高熱発生を伴い、かつ、切刃に対して大きな衝撃的・機械的負荷が繰り返し作用する鋼や鋳鉄の高速断続重切削加工に用いた場合にも、偏摩耗の発生もなく、長期の使用にわたって、すぐれた耐摩耗性を発揮するものである。
これに対して、硬質被覆層の上部層が本発明範囲外の組成変化Zr含有Al2 3層、均一組成Zr含有Al2 3 層、Al2 3 層のみ等で構成されている比較被覆工具1〜13は、耐熱塑性変形性に劣り、偏摩耗の発生等により摩耗性が劣るものであった。
【産業上の利用可能性】
【0035】
上述のように、この発明の被覆工具は、すぐれた高温硬さ、耐熱性とともに、すぐれた耐熱塑性変形性、高温強度を備えるので、通常の条件での鋼や鋳鉄の連続切削および断続切削は勿論のこと、きわめて苛酷な切削条件である高速断続重切削においても、偏摩耗等の発生もなく、長期に亘ってすぐれた耐摩耗性を発揮するものであり、切削加工の省エネ化および省力化に十分満足に対応できるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化タングステン基超硬合金または炭窒化チタン基サーメットで構成された工具基体の表面に、1〜15μmの層厚を有する下部層と、3〜15μmの層厚を有する上部層とで構成された硬質被覆層を蒸着形成してなる表面被覆切削工具において、
上記下部層は、Tiの炭化物層、窒化物層、炭窒化物層、炭酸化物層および炭窒酸化物層のうちの1種または2種以上からなるTi化合物層で構成され、
また、上記上部層は、一層平均層厚0.8〜1.5μmの酸化アルミニウム層と一層平均層厚0.4〜0.6μmのジルコニウム含有酸化アルミニウム層との交互積層構造として構成され、
さらに、上記ジルコニウム含有酸化アルミニウム層中のジルコニウム含有割合は、層厚方向の中間領域において、ジルコニウム含有割合が最大となるような組成変化を示し、かつ、該ジルコニウム含有割合の最大値は13〜16原子%であることを特徴とする表面被覆切削工具。

【公開番号】特開2010−274331(P2010−274331A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−125987(P2009−125987)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】