説明

被膜形成装置及び被膜形成方法

【課題】凸凹が大きい立体的形状を含むような基材も含め、大気圧状態でも短時間で均一に被膜を形成することができる被膜形成装置及び被膜形成方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る被膜形成装置1及び被膜形成方法は、希釈ガス供給管2の内部に設けられた導電体の細棒部材が希釈ガス供給管2の内部を優れた共振系とするため、リング状共振器6からスリット61を介して360°方向から照射されたマイクロ波により希釈ガス供給管2の内部に表面波プラズマを形成し、プラズマ化された希釈ガスが混合器7に導入され、原料ガスと混合されることにより、大気圧状態であっても原料ガスのプラズマ化が効率よく行われる。そして、プラズマ化された原料ガスを基材Sに噴射することにより、基材Sを均一に処理することができ、被膜形成が効率よくかつ安定して行われることになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被膜形成装置及び被膜形成方法に関する。さらに詳しくは、所定の基材に対して、大気圧ないしは大気圧近傍の圧力において、原料ガスをプラズマ化し、ガスバリア性の高い被膜等の機能性被膜を形成させることが可能な被膜形成装置及び被膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製品(フィルム、シート)のガスバリア性を改善する手段として、無機物薄膜や炭素膜をコーティング(被覆)する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照。)。また、例えば、酸化ケイ素被膜(SiOx)及びダイアモンド状炭素被膜(Diamond−Like Carbon:DLC。非晶質水素化炭素薄膜とも呼ばれる。)のコーティング技術は、プラスチック成形品のガスバリア性や表面保護特性を改善する技術として知られている。かかる酸化ケイ素被膜やダイアモンド状炭素被膜のコーティングは、プラスチックが一般的な大気圧付近での熱プラズマでは分解、変形してしまうため、真空(数Paから数10Pa)中での低温プラズマによる化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)コーティングが必要とされる。例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)では、その熱変形温度は80℃程度であり、熱プラズマでは分解ないし変形してしまうため、低温プラズマによるCVDコーティングが必要である。
【0003】
一方、100Pa以下の真空を含むプロセスは、高性能な真空ポンプが必要である等、真空設備、電力、真空に要する時間等の排気処理にともなう費用、処理時間の面で、大気圧下での処理や、1000Pa(約1/100気圧)以上の圧力での簡便なロータリーポンプを用いて短時間で到達できる圧力で処理する場合に比較して著しく不利となっていた。さらに、真空でのプラズマによるCVDコーティング技術では、プラズマ密度が小さいためその成膜速度は遅く、所望の厚さを得るためには長時間が必要となり、高価な電子部品、機能材料にしか適用することができなかった。
【0004】
また、従来大気圧下でコーティングする方法としては、プラズマトーチを使用する方法が知られており、アーク放電、高周波印加によってガスを高温でプラズマ化して噴出させることにより基材表面を被覆する方法が知られているが(例えば、特許文献2及び特許文献3を参照。)、かかる方法は、数百℃以上の高温であるため、耐熱性の低い高分子材料から構成される基材に適さなかった。また、大気圧下にてプラスチックにもコーティング可能な低温プラズマを発生するための、大気圧下で非平衡プラズマ(電子温度は高いが、イオンは低温に保たれている)を形成する技術の提案がされている。(例えば、特許文献4を参照。)これらの技術は、安定的にグロー放電を維持するために、アーク放電やストリーマ放電を生じないように、雰囲気ガスを不活性ガスとし、数キロHz以上の高周波電界をかけることによって、大気圧下、非平衡状態の低温プラズマを発生させ、反応ガスをプラズマ化して、CVD処理を行うものである。そのため平板状の電極を対向させてその間にプラズマを発生させる方法が一般的であった。
【0005】
さらに、平板状の電極の間でプラズマを発生させ、そのプラズマ化したガスをそのガスの流速を利用して電極間から吹き出させるリモート式プラズマCVD装置及びCVDを実施する方法も提案されている(例えば、特許文献5を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−53117号公報
【特許文献2】特開2002−50584公報
【特許文献3】特開2006−131306号公報
【特許文献4】特開平11−12735号公報
【特許文献5】特開2010−209281号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した特許文献4に開示されるような技術は、安定的にグロー放電を維持するために、アーク放電やストリーマ放電を生じないように、雰囲気ガスを不活性ガスとし、数キロHz以上の高周波電界をかけることによって、大気圧下、非平衡状態の低温プラズマを発生させ、反応ガスをプラズマ化してCVD処理を行うものであるため、平板状の電極を対向させてその間にプラズマを発生させる方法が一般的であり、設備が複雑となっており、エネルギー消費量も大きかった。加えて、基板の凹凸の大きい立体的な部材への被覆は電極間の間隙が数mmしかとれないために不可能であるといった問題もあった。また、前記した特許文献5に開示されるような技術は、プラズマガスが数ミリの間隔の電極から噴出する構成であるため、基材を移動しないと基材の表面を広く被覆することができず、工業部品、包装材料等の製品全体を基材の搬送制御を行わずに全面を均一に被覆することは困難であった。
【0008】
本発明は、前記の課題に鑑みてなされたものであり、凸凹が大きい立体的形状を含むような基材も含め、大気圧状態でも短時間で均一に被膜を形成することができる被膜形成装置及び被膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の課題を解決するために、本発明に係る被膜形成装置は、基材の表面に被膜を形成する装置であって、筒状の誘電体からなる供給管本体の内部に導電体からなる細棒部材を配置してなる、希釈ガスを供給する希釈ガス供給管と、前記希釈ガス供給管が配置されるマイクロ波照射室と、前記マイクロ波照射室の周囲に配置され、前記マイクロ波照射室に対向する面に設けられたスリットアンテナから前記マイクロ波照射室の内部にマイクロ波を導入するリング状共振器を含み、前記マイクロ波照射室の内部にマイクロ波を導入するマイクロ波導入手段と、開放された前記マイクロ波照射室の底部と繋がって配設される、マイクロ波を遮蔽する導電体の遮蔽壁に囲まれ、被膜形成対象の基材が配置される処理室と、原料ガスを供給する原料ガス供給管及び前記希釈ガス供給管と空気的に連通されて前記希釈ガスと前記原料ガスが混合される空間となり、前記基材側にガス噴出口が形成された混合器と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明に係る被膜形成装置は、前記した本発明において、前記細棒部材は、先端が尖っていることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る被膜形成方法は、基材の表面に被膜を形成する方法であって、マイクロ波照射室に筒状の誘電体からなる供給管本体の内部に導電体からなる細棒部材を配置してなる、希釈ガスを供給する希釈ガス供給管を配置し、開放された前記マイクロ波照射室の底部と繋がって配設される、マイクロ波を遮蔽する導電体の遮蔽壁に囲まれた処理室に被膜形成対象となる基材を配置し、前記マイクロ波照射室の周囲に配置され、前記マイクロ波照射室に対向する面に設けられたスリットアンテナから前記マイクロ波照射室の内部にリング状共振器によりマイクロ波を導入することにより、前記細棒部材を放電させて前記希釈ガス供給管の内部にプラズマを発生させ、供給される希釈ガスを前記希釈ガス供給管の内部でプラズマ化し、前記プラズマの発生を前記マイクロ波の導入により維持して、前記プラズマ化された希釈ガスを原料ガスと混合して、プラズマ化された原料ガスを含む混合ガスとし、前記プラズマ化された原料ガスを含む混合ガスを前記基材に噴出して被膜を形成することを特徴とする。
【0012】
本発明に係る被膜形成方法は、前記した本発明において、前記混合が、内部に前記希釈ガスと前記原料ガスを混合する空間を有する混合器でなされ、前記被膜形成対象の基材と、前記混合器に形成される、前記混合ガスを前記基材に噴出するガス噴出口の距離が20〜150mmであることを特徴とする。
【0013】
本発明に係る被膜形成方法は、前記した本発明において、前記原料ガスは、炭化水素からなるガスであり、前記希釈ガスは、不活性ガス及び/または窒素であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る被膜形成装置及び被膜形成方法は、大気圧状態でもマイクロ波照射室に均一なプラズマ(表面波プラズマ)が生成され、原料ガスを効率よくプラズマ化することができるので、基材の被膜形成が高密度プラズマによって短時間で均一に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る被膜形成装置の一態様を示した概略図である。
【図2】本発明に係る被膜形成装置を構成する希釈ガス供給管の一態様を示した概略図である。
【図3】本発明に係る被膜形成装置を構成する希釈ガス供給管の一態様を示した概略図である。
【図4】細棒部材の先端の断面形状を示した概略図である。
【図5】本発明に係る被膜形成装置を構成する混合器周辺の概略図である。
【図6】図5のV−V断面図である。
【図7】のこぎり波の形状に出力制御したマイクロ波を示す説明図である。
【図8】本発明に係る被膜形成装置の他の態様を示した概略図である。
【図9】本発明に係る被膜形成装置を構成する希釈ガス供給管の他の態様を示した概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る被膜形成装置の構成を図面に基づいて説明する。
【0017】
(I)被膜形成装置1の構成:
図1は、本発明に係る被膜形成装置1の一態様を示した概略図である。本発明に係る被膜形成装置1は、例えば、所定の基材Sの表面にDLC等の被膜を形成するために用いられ、天面に配設される蓋面34及び側壁32,33が導電体であるアルミニウム等の金属材料により構成され、全体が略円筒状に形成されたチャンバー3を備えており、かかるチャンバー3の内部35にマイクロ波照射室Mが形成される。
【0018】
また、かかるチャンバー3の底部は、導電体であるアルミニウム等の金属材料で構成されている台座31が配設され側壁32,33等を支える一方、底部となる台座31の中央は開放されており、かかる開放された空間36が繋がって、被膜形成対象の基材Sが配置される処理室8が配設されている。かかる処理室8は、マイクロ波照射室Mのマイクロ波が空間36を介して導入可能とされるが、導入されるマイクロ波を外部に漏らさないように、マイクロ波を遮蔽する導電体の遮蔽壁81に囲まれており、マイクロ波の外部への漏洩をなくして形成されるマイクロ波遮蔽エリアとなる。処理室8の遮蔽壁81も、アルミニウム等の金属材料により構成されるようにすればよい。
【0019】
処理室8には、基材固定部82が配設されており、被膜形成対象である基材Sを載置固定するようにする。基材固定部82は、フッ素樹脂、セラミックス等の誘電体から構成されるようにすればよい。
【0020】
また、処理室8には、内部のガスを排気するガス排気管50を備え、ガス排気管50に繋がれた図示しない真空ポンプ等の排気手段により、真空排気されることになる。なお、処理室8は、かかる図示しない吸引ポンプにより、減圧に維持することができ、必要に応じて処理室8を所定の圧力(本発明にあっては、1000〜100000Pa(約1/100〜1気圧(大気圧))での実施を想定)まで減圧できるようになっている。
【0021】
チャンバー3を構成する蓋面34の略中央には、希釈ガス供給管固定部4が配設されている。例えば、フッ素樹脂、セラミックス等の誘電体から構成される希釈ガス供給管固定部4は、円筒状部材からなる固定部本体41の天面に天面部42を形成してなり、チャンバー3の蓋面34の上部から固定部本体41を挿入し、天面部42が蓋面34の上部に現れるようにして蓋面34に固定されている。希釈ガス供給管固定部4は、図1に示すように、希釈ガス供給管2(後記する図2等参照)を保持し、チャンバー3の軸芯上に配置された状態で、希釈ガス供給管2を固定保持する。
【0022】
また、蓋面34にはパージ管55が接続されており、流量制御弁56を介して図示しないガス供給源(ボンベ)と繋がっており、マイクロ波照射室Mに所定のガス(原料ガスと、アルゴン、ヘリウム、ネオン等の不活性ガスや、窒素、酸素、水素、二酸化炭素(炭酸ガス)、空気等)をパージすることができる。また、本発明にあって、プラズマはマイクロ波照射室Mにおける希釈ガス供給管2の内部以外で発生することはあまり好ましくないが、パージによりかかる希釈ガス供給管2の内部以外でのプラズマの発生を抑制することができる。なお、パージ管55には、マイクロ波閉じ込め用の図示しないシールドが配設されている。
【0023】
このような構成でチャンバー3の内部35(マイクロ波照射室M)には、希釈ガス供給管固定部4から、図2及び図3に示す構造の希釈ガス供給管2が挿入されている。
【0024】
図2及び図3は、本発明に係る被膜形成装置1を構成する希釈ガス供給管2の一態様を示した概略図を示す。図2に示すように、希釈ガス供給管2は、円筒状の誘電体からなる供給管本体21と、かかる供給管本体21の内部に現れる、導電体からなる細棒部材22から構成されている。希釈ガス供給管2は、本実施形態にあっては、中空の支持部212の先端に接合されており、マイクロ波照射室Mに保持された希釈ガス供給管固定部4の天面部42から挿入されて、希釈ガス供給管固定部4に保持固定されることになる。希釈ガス供給管2は、供給通路53に形成された流量制御弁54を介して図示しないガス供給源(ボンベ)と繋がっており、原料ガスを希釈する希釈ガス(後記)が、支持部212の中空部を通って希釈ガス供給管2の内部に供給される。
【0025】
誘電体からなる供給管本体21の内部に現れるように設けられた導電体の細棒部材22は、希釈ガス供給管2(供給管本体21)の内部を優れた共振系として、電界強度を高めかつ供給管本体21の軸方向に沿っての電界強度分布を安定化することになる。すなわち、導電体の細棒部材22は、マイクロ波を引きつける効果があり、マイクロ波が照射されることによって、大気圧状態であっても、誘電体(供給管本体21)を通過したマイクロ波が供給管本体21の内部に存在する細棒部材22によって放電・着火され、希釈ガス供給管2の内部でプラズマが生成することになる。すなわち、導電性の細棒部材22の先端へのマイクロ波集中によって分子の電離が生じ、これが種となって、供給管本体21の内部でプラズマが発生することになる。
【0026】
希釈ガス供給管2は、図2及び図3に示すように、筒状の誘電体からなる供給管本体21の内部に導電体からなる細棒部材22を配置し、細棒部材22を、供給管本体21の胴部からその内部を横切るように配設して構成される。また、希釈ガス供給管2(供給管本体21)の先端211は開口され、本実施形態では、後記する図5及び図6に示す混合器7に繋がれ、混合器7の内部(混合空間75。図6参照)に希釈ガスを供給する。図2は、供給管本体21の内部に細棒部材22の先端が現れない態様を、図3は、供給管本体21の内部に細棒部材22の先端が現れている態様をそれぞれ示している。図2及び図3の態様にあっては、細棒部材22を、供給管本体21の胴部からその内部を軸方向に対して略直交するように差し込んで配設することが好ましい。
【0027】
細棒部材22が形成される位置は、一概に規定することはできないが、スリットアンテナ61の位置する高さに対して、−20mm〜+20mmの範囲内とすればよい。また、細棒部材22は、かかる範囲の位置に20mm以上の距離をおいて2個以上取り付けてもよい。
【0028】
供給管本体21の軸方向長さ(マイクロ波照射室Mに現れる長さ)は、例えば、150〜300mm程度とすればよく、180〜250mm程度とすることが好ましい。また、供給管本体21の長さは、例えば、最下部の細棒部材22の位置よりもさらに10〜50mm長くすることが好ましい。
【0029】
希釈ガス供給管2を構成する供給管本体21は、内径を5〜15mm、外径を7〜18mm、厚さを1.5〜3mmとすればよく、内径を6〜10mm、外径を9〜16mm、厚さを2〜3mmとすることが好ましい。また、細棒部材22は、外径を0.5〜2mmとすればよく、1〜1.5mmとすることが好ましい。細棒部材22の供給管本体21の内部に現れる長さは、概ね、供給管本体21の内径の1/2倍〜1倍(内径と同じ長さ)程度に収まるようにすることが好ましい。
【0030】
供給管本体21を構成する材料としては、誘電体、すなわち電気絶縁性に優れた絶縁体であり、耐熱性に優れた非金属材料であることが好ましく、例えば、フッ素樹脂、ポリイミド等の樹脂材料や、アルミナ、ジルコニア等のセラミックス等の非金属材料が挙げられる。供給管本体21は、これを構成する材料の種類に応じて、射出成形法、押出成形法、圧縮成形法、焼成法、切削加工法等の公知の方法により成形することができる。
【0031】
導電体からなる細棒部材22を構成する材料としては、金属材料であることが好ましく、例えば、タングステン、ステンレス鋼、白金等の金属材料が挙げられる。細棒部材22は、これを構成する材料の種類に応じて、焼成法、切削加工法等の公知の方法により成形することができる。
【0032】
なお、希釈ガス供給管2の内部で生成されたプラズマは、希釈ガスの導入にともなって、希釈ガスをプラズマ化して希釈ガス供給管2(供給管本体21)から混合器7(後記する図5及び図6を参照。)に移動するが、この移動中もマイクロ波による表面波プラズマ励起により、活性が維持されつつ、混合器7に供給される原料ガスと混合され、プラズマ化された混合ガスを形成する。よって、大気圧状態でも混合器7の内部で原料ガスのプラズマ化が効率よく行われ、また、マイクロ波照射によって混合ガスの活性も高く保たれる。
【0033】
このような電界強度分布を安定化する機能を効率よく発現させるために、細棒部材22は、チャンバー3を構成するシールドされた蓋面34や側壁32,33等に電気的に接続され、アース(設置)されることが好ましい。
【0034】
また、図4は、細棒部材22の先端(図3に示すように、供給管本体21の内部に現れる側の先端のこと。以下同じ。)の断面形状を示した概略図である。図4(a)に示すように、細棒部材22の形状としては、供給管本体21の内部に現れる側の先端を水平(フラット)な断面とするのが一般的であるが、図4(b)に示すように、先端を尖らせるように形成してもよい。細棒部材22は、供給管本体21の内部に現れる側の先端を尖らせることにより、マイクロ波がより集中して放電を起こしやすくなり、確実にプラズマの着火をさせることができる。なお、図3や後記する図9に示す構成のような細棒部材22の先端にあっては、エッジ(角)222にアールを付けるようにしてもよい。
【0035】
本発明に係る被膜形成装置1を構成するチャンバー3の側壁32には、原料ガス供給管51が配設されている。原料ガス供給管51は、流量制御弁52を介して図示しないガス供給源(ボンベ)と繋がっており、所定の原料ガス(後記)を供給することができる。なお、原料ガス供給管51には、マイクロ波閉じ込め用の図示しないシールドが配設されている。
【0036】
そして、希釈ガス供給管2(供給管本体21)の開口された先端211には、混合器7が配設されており、かかる混合器7は、原料ガスを供給する原料ガス供給管51の先端にも繋がっている。図5は、混合器7周辺の概略図であり、図6は、図5のV−V断面図である。混合器7は、本実施形態にあっては、略円筒形状の中空部材であり、その上面に希釈ガス導入口71が形成され、かかる希釈ガス導入口71を供給管本体21の先端211が覆うように接続されることにより、供給管本体21の内部と混合器7の内部が空気的に連通されて接続されている。なお、本実施形態にあっては、希釈ガス導入口71は、混合器7の内部(混合空間75)に向かって広がるいわゆるラッパ口形状に形成されている。
【0037】
また、本実施形態にあっては、混合器7の内部には、円筒状の内壁72が形成されており、かかる内壁72に複数の原料ガス導入口73が形成されている。原料ガス供給管51から供給された原料ガスは、まず、混合器7の側壁70と内壁72に囲まれたリング状の原料ガス導入室74に導入された後、内壁72に形成された原料ガス導入口73を通過して、希釈ガスが導入される混合空間75に導入される。よって、原料ガス供給管51の内部と混合器7の内部(混合空間75)が空気的に連通されて接続されていることに加えて、混合器7を介して供給管本体21の内部と原料ガス供給管51の内部が空気的に連通されており、希釈ガス及び原料ガスが混合器7に供給されると、混合器7の内部(混合空間75)は、希釈ガス及び原料ガスが混合される空間となり、両者が好適に混合されることになる。
【0038】
また、図6に示すように、混合器7の下側(被膜形成対象となる基材S側)には、混合された希釈ガスと原料ガス(混合ガス)を基材Sに噴出できるよう、混合器7の内部(混合空間75)と空気的に連通してガス噴出口76が形成されている。ガス噴出口76から基材Sに対する混合ガスの噴出は、ガス流れに任せて混合ガスをガス噴出口76から自然に噴出させてもよく、また、混合器7に図示しない噴出手段を設け、混合ガスをガス噴出口76から強制的に噴出させるようにしてもよい。
【0039】
一方、チャンバー3の内部35ないしはマイクロ波照射室Mの周囲には、マイクロ波導入手段として、リング状共振器6が設けられている。このリング状共振器6は、断面略矩形状の導波管を無端円環状に形成したものである。
【0040】
また、このリング状共振器6のマイクロ波照射室M側(マイクロ波照射室Mに配置される希釈ガス供給管側)の面と側壁32,33には、半径方向に延在する複数個のスリットアンテナ61(細長い溝)が周方向に離間して形成されており、マイクロ波は、かかるスリットアンテナ61(スロットアンテナとも呼ばれる。また、単にスリット(あるいはスロット)とも呼ばれる。以下、単に「スリット61」とする場合もある。)からマイクロ波照射室Mに導入されることになる。本発明に係る被膜形成装置1では、このようにリング状共振器6からスリット61を介して周方向からマイクロ波が導入されることになるので、円筒状の立体プラズマを表面波プラズマによって形成し、大気圧状態でマイクロ波照射室にプラズマを維持しやすくする。なお、このリング状共振器6の外周面には、伝搬導波管62を介してマイクロ波発振器63が接続されており、かかるマイクロ波発振器63からマイクロ波を供給するようになっている。
【0041】
リング状共振器6に形成されるスリット61の形状は、細長い矩形状とすることができ、また、スリット61の形成される向きは、リング状共振器6の周方向と平行に形成される横スリット(水平スリット)、リング状共振器6の周方向と直交するように形成される縦スリット(垂直スリット)が一般的であるが、特に方向性を持たずランダムな方向となるように形成するようにしてもよい。なお、スリット61が形成される位置としては、リング状共振器6の周囲に等間隔で形成すれば、マイクロ波がマイクロ波照射室Mに均一に導入されることとなり好ましい。
【0042】
(II)基材Sへの被膜形成方法の一例:
次に、前記した被膜形成装置1を用いた、基材Sへの被膜形成の処理方法の一例を説明する。
【0043】
まず、処理室8に配設された基材固定部82に被膜形成対象である基材Sを載置する。また、チャンバー3の蓋面34に配設された希釈ガス供給管固定部4に、希釈ガス供給管2を固定し、蓋面34をチャンバー3に取り付ける。
【0044】
本発明において、被膜形成対象となる基材Sとしては、特に制限はなく、例えば、構成材料として、非金属材料、金属材料、高分子材料等からなる所定の基材Sについて対応可能である。なお、本発明にあっては、使用されるプラズマは低温プラズマであり、200℃以下であるため、熱に弱いポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)や、ポリプロピレン(PP)等から構成される高分子基板であっても数秒間は熱変形しないため、好適に対応可能である。また、基材Sの形状も任意であり、例えば、ボトル等のキャップ、カップ等の任意の立体的形状の基材Sについて対応可能である。
【0045】
ガス排気管50に繋がれた図示しない吸引ポンプで、処理室8及びチャンバー3の内部35(マイクロ波照射室M)を、例えば1000〜100000Pa(約1/100〜1気圧)の間の所定の圧力に維持し、希釈ガスが、流量制御弁54を介して図示しないガス供給源(ボンベ)から供給通路53及び支持部212の中空部を通って希釈ガス供給管2の内部に供給される。希釈ガスは、原料ガスと、アルゴン、ヘリウム、ネオン等の不活性ガスや、窒素、酸素、水素等のガスを使用することができ、不活性ガスあるいは窒素のそれぞれを単独で使用したり、両者を組み合わせて使用することが好ましい。
【0046】
また、原料ガスが、流量制御弁52を介して図示しないガス供給源(ボンベ)から原料ガス供給管51を通って混合器7の内部に導入される。具体的には、原料ガス供給管51から原料ガス導入室74に導入された後、内壁72に形成された原料ガス導入口73を通過して、混合空間75に導入される。
【0047】
原料ガス供給管51から供給される原料ガスとしては、プラズマ処理の目的に応じて種々のそれ自体公知のガスが使用される。原料ガスとしては、揮発性の高いものである必要があり、DLC等の炭素膜や炭化物膜の形成には、アセチレン、エチレン、メタン、エタン等の炭化水素(炭化水素類)が使用される。また、シリコン膜の形成には四塩化ケイ素、シラン、有機シラン化合物、有機シロキサン化合物等が使用される。チタン、ジルコニウム、錫、アルミニウム、イットリウム、モリブデン、タングステン、ガリウム、タンタル、ニオブ、鉄、ニッケル、クロム、ホウ素等のハロゲン化物(塩化物)や有機金属化合物が使用される。さらに、酸化物膜の形成には酸素ガス、窒化物膜の形成には窒素ガスやアンモニアガスが使用される。これらの原料ガスは、形成させる薄膜の化学的組成に応じて、2種以上のものを適宜組み合わせて用いることができる。特に、炭化水素を原料としたDLCでは、良好なガスバリア被膜、密着性の高い被膜が期待できる。
【0048】
また、基材Sの表面改質のために、炭酸ガスを用いて基材表面に架橋構造を導入したり、あるいははフッ素ガスを用いて基材Sの表面にポリテトラフルオロエチレンと同様の特性、例えば非粘着性、低摩擦係数、耐熱性、耐薬品性を付与したりすることができる。
【0049】
原料ガスの供給量は、処理すべき基材Sの表面積や、原料ガスの種類によっても相違するが、例えば、PETを基材Sとして被膜を形成する場合にあっては、標準状態のガス容積に換算して10〜300cc/分程度とすればよく、20〜50cc/分の流量で供給することが好ましい。同様に、希釈ガスの供給量は、200〜100000cc/分程度とすればよく、2000〜5000cc/分の流量で供給することが好ましい。原料ガスと希釈ガスの混合比は、被膜形成対象となる基材Sの種類や形状等、原料ガス及び希釈ガスの種類、形成する被膜の厚さ等により適宜決定することができるが、概ね原料ガス/希釈ガス=1/2〜3/1000の範囲内となるように混合すればよいが、特にこの範囲には限定されない。なお、本発明にあっては、希釈ガスは、原料ガスのプラズマ化の媒体とされるとともに、原料ガスのロス等を防止する添加ガスとして用いられるが、かかるロスや、希釈ガス供給管2の内部の汚れや詰まり等を考慮しない場合にあっては、希釈ガスに原料ガスを含ませたり、添加ガスである希釈ガスとして原料ガスを供給するようにしてもよい。
【0050】
好ましくは、希釈ガスが希釈ガス供給管2の内部に到達したときに、マイクロ波発振器63から、高周波として例えば2.45GHzのマイクロ波を発振させる。マイクロ波発振器63から供給されたマイクロ波は、伝搬導波管62を伝搬し、リング状共振器6の内部に供給され、スリット61を通過して、マイクロ波照射室Mに導入されプラズマを発生させる。すなわち、このリング状共振器6の内部を進行波として伝搬するマイクロ波は、リング状共振器6に形成された複数のスリット61からチャンバー3の内部35のマイクロ波照射室Mに導入・放出されることになる。
【0051】
ここで、リング状共振器6の内部を伝搬されるマイクロ波は、定在波ではなく無端環状のリング状共振器6の内部を回転する進行波であるため、スリット61から放出される電磁界は、リング状共振器6の周方向に均一になる。リング状共振器6からスリット61を介して360°方向から照射されたマイクロ波は、円筒状の立体プラズマを表面波プラズマによって形成するため、大気圧状態であってもプラズマを維持しやすくなり、マイクロ波照射室Mには、極めて均一なプラズマ(表面波プラズマ)が生成されることになる。
【0052】
また、希釈ガス供給管2に配設された導電体の細棒部材22が電極となり、マイクロ波が放電することによって火花が生じて、この圧力範囲においてプラズマの着火が容易に生じ、発生したプラズマはマイクロ波によって励起が維持され、プラズマ活性が維持される。プラズマ化された希釈ガスは希釈ガス供給管2から混合器7内部の混合空間75に導入され、原料ガス供給管51から導入された原料ガスと合流し、混合器7内部の混合空間75で原料ガスと希釈ガスが混合されて、混合ガスとなる。
【0053】
プラズマ化された希釈ガスが原料ガスと混合されるため、また、混合器7はマイクロ波を透過する誘電体から構成されているので、原料ガスを含んだ混合ガスもプラズマ化された状態が維持される。一方、混合ガスによるチャンバー3の側壁32,33、希釈ガス供給管2の内壁への被膜形成も少ない。
【0054】
混合空間75で原料ガスと希釈ガスが混合された混合ガスは、ガス噴出口76から下方向に噴出され、処理室8に載置される基材Sに噴射され、基材Sの表面を被覆することになる。ここで、マイクロ波照射室Mの底部である台座31は開放され、空間36が形成されているため、照射されたマイクロ波は空間36を通じて、処理室8に載置された基材Sの表面にも達する。よって、表面波プラズマとしてエネルギー伝達されてプラズマ化された混合ガスの活性(プラズマ活性)も基材Sの表面の近傍で維持されるため、基材Sの表面を均一に処理することになり、成膜が効率よくかつ安定して行われることになる。加えて、基材の凹凸が大きい場合も被膜を形成することが可能である。
【0055】
混合器7に形成されるガス噴出口76と、被膜形成対象である基材Sとの距離(直線最短距離)は、基材Sの形状や材質、必要とされる被膜の厚さ等により適宜決定すればよいが、0を超えて150mmの範囲内とすればよく、20〜150mmとすることが好ましい。距離をかかる範囲とすることにより、基材Sの表面に均一な厚さの被膜が効率よくかつ確実に形成されることになる。ガス噴出口76と被膜形成対象である基材Sとの距離は、30〜150mmとすることがさらに好ましく、30〜100mmとすることが特に好ましい。
【0056】
また、基材Sに噴出される混合ガス(プラズマ化された混合ガス)の広がりの目安としては、例えば、混合器7の噴出口76からの距離が50mmの場合には、直径が概ね20〜100mm程度となることが好ましく、また、距離が100mmの場合には、直径が概ね20〜50mm程度となることが好ましく、距離が150mmの場合には、直径が概ね50〜200mm程度となることが好ましい。
【0057】
マイクロ波発振器63からリング状共振器6に供給されるマイクロ波の周波数は、例えば、300MHz〜100GHzの範囲内の任意の周波数を選択することができるが、工業的に使用が許可されている周波数が2.45GHz、5.8GHz、22.125GHz等のものを用いることが好ましい。
【0058】
また、マイクロ波は、マイクロ波の出力を、0〜100%まで、のこぎり波の形状で変動させるようにしてもよい。図7は、のこぎり波の形状に出力制御したマイクロ波を示す説明図であり、(a)はマイクロ波の定常出力、(b)はのこぎり波の出力制御信号、(c)はのこぎり波の形状に出力制御したマイクロ波、をそれぞれ示す。出力が傾斜して上昇し、最高点から出力0に戻ることを繰り返すのこぎり状の波形(のこぎり波の形状)からなるマイクロ波のパルス状の出力は、ON/OFFのマイクロ波出力を繰り返すことによって、プラズマの発生/消滅が繰り返されることになる。これにより、のこぎり波の形状に出力制御したマイクロ波は、連続出力のマイクロ波と比較して、プラズマ温度の上昇が抑制され、かつプラズマの活性は適度に維持される。この結果、プラズマガスの温度の高温化が抑制され、より長時間の表面処理が可能となる結果、例えば、基材Sの表面をよりエッチングすることができ、また、成膜される被膜の厚さを厚くすることができる。
【0059】
マイクロ波の出力をパルス状ののこぎり波形状とすることにより、プラズマ中の活性種(酸素イオン、酸素ラジカル、炭化水素イオン、炭化水素ラジカル、炭素イオン、水素ラジカル等)は、マイクロ波出力が瞬時に零になることによって、基材Sの表面に引き寄せられてエッチング、被膜形成を行うが、そのままではエネルギーを失い空間中での粒子化を生じる。そこで、零レベルの出力から傾斜して出力を増加させ再びプラズマの活性状態を維持することを繰り返すことによって、大気圧領域(0.01〜1気圧)のプラズマ状態であっても比較的低いプラズマガス温度(数百度K程度)に維持しつつ再結合粒子を生じにくい状態で内面処理することができる。なお、のこぎり波のパルス周波数は、500〜5000Hzとすることが好ましい。ここで、マイクロ波の出力をパルス状ののこぎり波形状とするには、例えば、マイクロ波発振器63の内部のマグネトロン管の出力調整器に、関数発生器等によって生成されたのこぎり波形状のパルス信号を接続してパルス変調することにより、簡便に実施することができる。
【0060】
なお、マイクロ波の出力は、被膜形成対象となる基材Sの表面積、形成させる薄膜の厚さ及び原料ガスの種類等により適宜決定することができるが、例えば、基材Sとしてポリエチレンテレフタレート(PET)を使用した場合には、50〜5000(0.05k〜5.0k)Wの電力となるようにすればよく、100〜3000(0.1k〜3.0k)Wの電力となるように供給するのが好ましい。同様に、プラズマ処理の時間も、基材Sの形状、表面積、形成させる薄膜の厚さ及び原料ガスの種類等によって適宜決定することができる。
【0061】
(III)本発明の効果
以上説明したように、本実施形態に係る被膜形成装置1及び被膜形成方法は、大気圧状態でもマイクロ波照射室Mに均一なプラズマ(表面波プラズマ)が生成され、原料ガスを効率よくプラズマ化することができるので、基材Sの被膜形成が高密度プラズマによって短時間で均一に実施することができる。
【0062】
すなわち、誘電体からなる供給管本体21の内部に設けられた導電体の細棒部材22は、希釈ガス供給管2の内部を優れた共振系とするため、リング状共振器6からスリット61を介して360°方向から照射されたマイクロ波により希釈ガス供給管2の内部に表面波プラズマが形成され、かかるプラズマが希釈ガスによって混合器7に導入され、原料ガスと混合されることにより、大気圧状態であっても原料ガスのプラズマ化が効率よく行われる。また、被膜形成対象である基材Sが配置される処理室8の内部でもプラズマの維持が良好になされ、プラズマ化された原料ガスを基材Sに噴射することにより、基材Sを均一に処理することができ、被膜形成が効率よくかつ安定して行われることになる。本発明は、低温度プラズマを利用した溶射ガンと同様な利用が可能であり、基材Sとして建築内装部材、大型構造物、装置への被膜形成が可能であるので、用途は広い。また、包装材料用キャップ等の立体形状への被膜形成が可能であり、高分子材料等の低温での処理が要求される材料のバリア被膜の形成が容易である。
【0063】
なお、以上説明した態様は、本発明の一態様を示したものであって、本発明は、前記し
た実施形態に限定されるものではなく、本発明の構成を備え、目的及び効果を達成できる
範囲内での変形や改良が、本発明の内容に含まれるものであることはいうまでもない。ま
た、本発明を実施する際における具体的な構造及び形状等は、本発明の目的及び効果を達
成できる範囲内において、他の構造や形状等としても問題はない。本発明は前記した各実
施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形や改良は、本
発明に含まれるものである。
【0064】
例えば、被膜形成装置1を構成する処理室8については、図8に示したように、処理室8を構成する遮蔽壁81を開閉可能な遮蔽扉とするとともに、基材固定部82に載せられた基材82がコンベアー83等により移動されるようにして、処理室8に送り込まれるようにして、被膜形成時に遮蔽壁81(遮蔽扉)を図8に示すように閉めて、被膜形成を行い、被膜形成が終了したら遮蔽壁81(遮蔽扉)を開けて、次の基材を送り込むことを繰り返し行うことにより、複数の基材Sに対して連続的に被膜を形成することができる。なお、図8に示した被膜形成装置1にあっては、排気が処理室8の下方向から行われることになる。
【0065】
また、前記した実施形態では、被膜形成装置1を構成する希釈ガス供給管2が、図2に示すように、細棒部材22を、供給管本体21の内部を横切るように配設して、希釈ガス供給管2を形成するような態様を示した。一方、希釈ガス供給管2は、筒状の供給管本体21の内部に細棒部材22を配置するものであれば特に制限はなく、例えば、図9に示すように、筒状の誘電体からなる供給管本体21の内部に導電体からなる細棒部材22を配置し、細棒部材22が、供給管本体21の内部を長手方向に延びるように配設して、希釈ガス供給管2を形成するようにしてもよい。
なお、以下の説明においては、前記した実施形態と同様の構造及び同一部材には同一符号を付して、その詳細な説明は省略又は簡略化する。
【0066】
図9は、本発明に係る被膜形成装置1を構成する希釈ガス供給管2の他の態様を示した概略図である。図9に示したガス供給管2は、細棒部材22を、供給管本体21の付け根部分からその内部を長手方向に延び、その先端が供給管本体21の内部に現れるように配設する。細棒部材22の軸方向長さ(マイクロ波照射室Mに現れる長さ)としては、一概に規定することはできないが、例えば、150〜250mm程度とすればよく、200〜300mm程度とすることが好ましい。また、供給管本体21の軸方向長さは、前記した実施形態と同様に、例えば200〜250mm程度とすればよく、180〜250mm程度とすることが好ましい。また、細棒部材22の軸方向長さと比較して50〜100mm長くすることが好ましい。
【0067】
細棒部材22は、前記した図2で示した態様と同様、図4(b)に示すように、先端が尖っていることが好ましく、また、接地(アース)されることが好ましい。細棒部材22を接地(アース)するには、例えば、中空の支持部212を導電体で構成するようにして、かかる支持部212を介して、細棒部材22とチャンバー3を構成する蓋面34等との導通を図るようにすればよい。また、支持部212の先端部分は、支持部212の中空部分の通路と供給管本体21との連通を損なわないように、導電体からなる細棒部材支持部221を設け、この細棒部材支持部221に細棒部材22を支持させるようにすればよい。支持部212は、チャンバー3を構成するシールドされた蓋面34や側壁32,33との導通が得られるものであれば任意の金属材料で構成するようにすればよいが、細棒部材22を構成する金属材料と共通する金属材料を採用することが好ましい。
【0068】
また、チャンバーの内部35に形成されるマイクロ波照射室Mとしては、チャンバー3の内部35に配置される希釈ガス供給管2を、マイクロ波が透過可能な材料からなる、壁面がチャンバー3の側壁32,33と略並行になるような筒状部材で軸方向に囲うようにして、かかる部材の内部をマイクロ波照射室Mとするようにしてもよい。例えば、筒状部材として、図示しない石英管で希釈ガス供給管2の周りを軸方向に囲うようにして、かかる石英管の内部をマイクロ波照射室Mとするようにしてもよい。
【0069】
なお、前記した実施形態にあっては、図5及び図6にあるように、混合器7が、希釈ガスを供給する希釈ガス供給管2の先端211及び原料ガスを供給する原料ガス供給管51の先端に繋がって配設される態様を示して説明した。一方、混合器7は、その内部(混合空間75)が原料ガス供給管51及び希釈ガス供給管2と空気的に連通されて希釈ガスと原料ガスが混合される空間となればよく、例えば、希釈ガス供給管2の先端211や原料ガス供給管51の先端が混合器7と繋がれず、希釈ガス供給管2の先端211から供給された希釈ガスが、適当な隙間を介して希釈ガス導入口71から混合空間75に導入される等の構成を用いてもよい。
その他、本発明の実施の際の具体的な構造及び形状等は、本発明の目的を達成できる範
囲で他の構造等としてもよい。
【実施例】
【0070】
以下、実施例等に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例に何ら限定されるものではない。
【0071】
図1に示した構成の被膜形成装置を用いて、原料ガスをアセチレン(CHCH)ガス、希釈ガスを窒素(N)ガスとして、被膜形成対象の基材としてPETシートを用いて、基材表面にDLC(非晶質水素化炭素薄膜)を形成した場合におけるDLC被膜の厚さを、下記の方法を用いて実施して比較・評価した。
【0072】
(基本操作)
まず、被膜形成対象となる下記仕様の基材(PETシート)を基材固定部に載置固定して、処理室に基材を配置した。次に、下記仕様のマイクロ波照射室(チャンバーの内部)及び処理室の圧力を大気圧に維持しつつ、希釈ガスである窒素(N)ガスを、希釈ガス供給源(ボンベ)から流量制御弁を介して、マイクロ波照射室の内部に配設された下記仕様の希釈ガス供給管から混合器に供給し、また、原料ガスであるアセチレン(CHCH)ガスを、原料ガス供給源(ボンベ)から原料ガス供給管を介して混合器に供給し希釈ガスと原料ガスを下記仕様の混合器の内部(混合空間)で混合し、混合ガスとした。(このとき必要に応じて、パージガスの窒素ガスをガス供給源(ボンベ)から流量制御弁を介してマイクロ波照射室に導入し、マイクロ波照射室の酸素を追い出すようにパージした。)。
【0073】
また、希釈ガスである窒素(N)ガスが希釈ガス供給管の内部に到達したら、マイクロ波発振器から、周波数が2.45GHz、出力が1kWのマイクロ波を発振させた。そして、マイクロ波発振器から供給されたマイクロ波を、伝搬導波管を伝搬し、リング状共振器の内径が200mmであるリング状共振器の内部に供給され、リング状共振器に等間隔に形成された5ヶ所の横スリット(水平スリット)、2ヶ所の縦スリット(垂直スリット)を通過して、マイクロ波照射室に導入・放出され、プラズマを発生させた(マイクロ波については連続波の出力とした。)。なお、プラズマ励起時間(プラズマ処理の時間)は1秒間とし、プラズマ噴射ガスの広がりは、混合器の噴出口からの距離が50mmで直径20mm、距離が100mmで直径40mm、距離が150mmで直径 60mmとなるようにした。ガス流量は、原料ガス流量(アセチレンガス)を5L/分または10L/分(実施例により異なる)、希釈ガス(窒素)流量を線速度で40L/分とした。
【0074】
(マイクロ波照射室の仕様)
マイクロ波照射室の内径 : 200mm(=リング状共振器の内径)
マイクロ波照射室の高さ : 200mm(20cm)
【0075】
(混合器の仕様)
混合器の内径 : 15mm
混合器の外径 : 30mm
混合器の高さ : 20mm
【0076】
(基材の仕様)
構成材料 : ポリエチレンテレフタレート(PET)
形状 : 透明シート状
サイズ : 20mm×20mm×1mmt
【0077】
(希釈ガス供給管の仕様)
希釈ガス供給管は、図2に示す構成のものを用いた。具体的には、供給管本体の形状は、図2に示されるような、構成材料をフッ素樹脂(テフロン(登録商標))とした外径16mm、内径10mm、厚さ3mm、長さ180mmの円筒形状であり、先端が混合器に接続されている。かかる供給管本体に、タングステンからなる直径1mmの細棒部材を、供給管本体の胴部からその内部を略直交するように差し込んで配設して、ガス供給管を形成した(図2に示すように、細棒部材の先端は供給管本体の内部に現れないようにした。)。なお、細棒部材は非接地(アースしない)状態とした。
【0078】
そして、混合器に形成されるガス噴出口と基材との距離l(ガス噴出口と基材の最短距離)、及び原料ガスであるアセチレン(C)ガスの流量を表1のようにしたものを実施例1〜実施例7として、前記の操作を用いて混合器のガス噴出口から基材に混合ガスを噴出した。このようにして原料ガスをアセチレンガスとしたDLC(非晶質水素化炭素薄膜)を基材であるPETシートの表面に形成させた場合における、DLC被膜の厚さを段差膜厚計より測定し、比較・評価した。結果をあわせて表1に示す。
【0079】
(結果)
【表1】

【0080】
表1に示すように、実施例1〜実施例7のいずれかについても、DLC被膜を形成することができた。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、所定の基材表面にDLC(非晶質水素化炭素薄膜)等の機能性被膜を形成させる手段として有利に使用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 …… 被膜形成装置
2 …… 希釈ガス供給管
21 … 供給管本体
211 … 先端
212 … 支持部
22 … 細棒部材
221 … 細棒部材支持部
222 … エッジ(角)
3 …… チャンバー
31 … 台座
32,33 … 側壁
34 … 蓋面
35 … チャンバーの内部
36 … 空間
4 …… 希釈ガス供給管固定部
41 … 固定部本体
42 … 天面部
50 … ガス排気管
51 … 原料ガス供給管
52,54,56 … 流量制御弁
53 … 供給通路
55 … パージ管
6 …… リング状共振器
61 … スリットアンテナ(スリット)
62 … 伝搬導波管
63 … マイクロ波発振器
7 …… 混合器
70 … 側壁
71 … 希釈ガス導入口
72 … 内壁
73 … 原料ガス導入口
74 … 原料ガス導入室
75 … 混合空間
76 … ガス噴出口
8 …… 処理室
81 … 遮蔽壁
82 … 基材固定部
83 … コンベアー
S …… 基材(被膜形成対象)
M …… マイクロ波照射室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に被膜を形成する装置であって、
筒状の誘電体からなる供給管本体の内部に導電体からなる細棒部材を配置してなる、希釈ガスを供給する希釈ガス供給管と、
前記希釈ガス供給管が配置されるマイクロ波照射室と、
前記マイクロ波照射室の周囲に配置され、前記マイクロ波照射室に対向する面に設けられたスリットアンテナから前記マイクロ波照射室の内部にマイクロ波を導入するリング状共振器を含み、前記マイクロ波照射室の内部にマイクロ波を導入するマイクロ波導入手段と、
開放された前記マイクロ波照射室の底部と繋がって配設される、マイクロ波を遮蔽する導電体の遮蔽壁に囲まれ、被膜形成対象の基材が配置される処理室と、
原料ガスを供給する原料ガス供給管及び前記希釈ガス供給管と空気的に連通されて前記希釈ガスと前記原料ガスが混合される空間となり、前記基材側にガス噴出口が形成された混合器と、を含むことを特徴とする被膜形成装置。
【請求項2】
前記細棒部材は、先端が尖っていることを特徴とする請求項1に記載の被膜形成装置。
【請求項3】
基材の表面に被膜を形成する方法であって、
マイクロ波照射室に筒状の誘電体からなる供給管本体の内部に導電体からなる細棒部材を配置してなる、希釈ガスを供給する希釈ガス供給管を配置し、
開放された前記マイクロ波照射室の底部と繋がって配設される、マイクロ波を遮蔽する導電体の遮蔽壁に囲まれた処理室に被膜形成対象となる基材を配置し、
前記マイクロ波照射室の周囲に配置され、前記マイクロ波照射室に対向する面に設けられたスリットアンテナから前記マイクロ波照射室の内部にリング状共振器によりマイクロ波を導入することにより、前記細棒部材を放電させて前記希釈ガス供給管の内部にプラズマを発生させ、供給される希釈ガスを前記希釈ガス供給管の内部でプラズマ化し、
前記プラズマの発生を前記マイクロ波の導入により維持して、
前記プラズマ化された希釈ガスを原料ガスと混合して、プラズマ化された原料ガスを含む混合ガスとし、
前記プラズマ化された原料ガスを含む混合ガスを前記基材に噴出して被膜を形成することを特徴とする被膜形成方法。
【請求項4】
前記混合が、内部に前記希釈ガスと前記原料ガスを混合する空間を有する混合器でなされ、
前記被膜形成対象の基材と、前記混合器に形成される、前記混合ガスを前記基材に噴出するガス噴出口の距離が20〜150mmであることを特徴とする請求項3に記載の被膜形成方法。
【請求項5】
前記原料ガスは、炭化水素からなるガスであり、前記希釈ガスは、不活性ガス及び/または窒素であることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の被膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−188701(P2012−188701A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53450(P2011−53450)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】