説明

被覆された伝導体及び高温超伝導体層の製造に有用な多結晶質フィルム

【課題】高温超伝導体層又はフィルムの製造において、実用のための充分に高い電流容量を達成すること。
【解決手段】本発明は、基板、高温超伝導体層及び少なくとも1つのバッファー層を含む被覆された伝導体であって、前記バッファー層の少なくとも1つが高温超伝導体層を二軸配向するためのテンプレートであり、このテンプレートは公称化学式A2-x2+x7(ここで、BはZr、Hf、Sn、Pb及びTiから選択される少なくとも1種であり;AはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Y、Tm、Yb及びLuから選択される少なくとも1種であり;xは0以外である)を有する不定比材料から成る多結晶質フィルムから構成され、前記基板が組織化されている、前記の被覆された伝導体に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆された伝導体(以下、「被覆伝導体」と言う)、及び高温超伝導体層の製造に有用な多結晶質フィルムに関する。特に本発明は、上で成長する高温超伝導体層に所望の結晶配向(方位)を写すためのテンプレートとして好適な前記多結晶質フィルムに関する。さらに本発明は、基板、バッファー層及び高温超伝導体層を含む被覆伝導体に関し、前記多結晶質フィルムは高温超伝導体層の格子配向を誘導するためのテンプレートとして用いることができる。
【背景技術】
【0002】
高温超伝導体層又はフィルムの製造における1つの主要な関心は、実用的な用途のための充分に高い電流容量を達成することである。
【0003】
a,b方向において電気伝導度が高くてc方向において電気伝導度が低いという電気的異方性は、高温超伝導体(htsc)材料に固有の性質である。加えて、(配向の)ずれ(misalignment)角度が4°〜5°超の結晶粒界(多結晶体における結晶粒子同士の境界)は、弱結合として作用する。このずれ角度以上では、結晶粒界の臨界電流密度は、その角度の関数として急激に減少する。
【0004】
結果として、単結晶型の高温超伝導体材料はa,b方向に良好な電流容量を有するが、他方、多結晶質材料では急激な電流容量の低下が観察される。
【0005】
この低下の理由はa,b方向における多結晶質フィルムを構成する個々の粒子又は結晶のずれにあることがわかっている。a,b軸のずれの問題を解消するために、集中的に研究が行われている。
【0006】
成長させるべき高温超伝導体フィルムのものに近い結晶格子パラメーターを有する基板を用いて単結晶フィルムをエピタキシャル成長させるためのよく知られた技術がある。これらの技術の場合には、基板自体も単結晶質である。
【0007】
基板の結晶配向は、成長しているフィルムに写される。即ち、基板はフィルムの所望の配向を誘導するためのテンプレートとしての働きをする。
【0008】
しかしながら、好適な単結晶質基板は非常に高価であり、その表面積は限られたものに過ぎず、長尺の高温超伝導体フィルムを大規模生産することができず、結果としてこれらの技術の工業的重要性は低いものに過ぎない。
【0009】
単結晶フィルムと同様、多結晶質フィルムも、類似した格子パラメーターを有する材料の多結晶質テンプレート上で成長させた時にこのテンプレート材料の結晶配向を採り入れ(引き継ぎ)、かくして配向することができる。即ち、テンプレートの格子パラメーターが成長させるべきフィルムのものと充分類似していること、即ち成長させるべきフィルムの格子パラメーターに整合する(match)ことを条件として、粒子の配向が好適なものである多結晶質テンプレートを用いた時にその配向をテンプレート上で成長させる多結晶質フィルムに写すことができる。
【0010】
一般的に、高温超伝導体は典型的には液体窒素の温度より高い臨界温度(tc)を有するものと定義される。かかる高温超伝導体の例には、ビスマス−ストロンチウム−カルシウム−銅−酸化物類(BSCCO)、イットリウム−バリウム−銅−酸化物類(YBCO)及びタリウム−バリウム−カルシウム−銅−酸化物類(TBCCO類)に属する超伝導性セラミック酸化物がある。
【0011】
これらの超伝導体はすべて銅酸塩であり、ペロブスカイト構造で結晶化する。
【0012】
前記結晶構造は、電流流路を画定する酸化銅平面を有することを特徴とする。
【0013】
被覆伝導体を製造するに当たっては、YBCO系高温超伝導体材料、例えばY1Ba2Cu3O(YBCO−123)が今日一般的に用いられる。
【0014】
まとめると、改善された電流容量を有する高温超伝導体フィルムを成長させるためのテンプレートとして好適であるためには、多結晶質フィルムは、
1.良好なa,b整列(alignment)及び
2.高温超伝導体材料のものに整合する格子パラメーターを有する結晶構造
を有してなければならない。
【0015】
a,b方向における整列はまた、二軸配向組織(biaxial texture)とも称される。
【0016】
「良好なa,b整列」とは、異なる粒子のa軸及びb軸のそれぞれの間のずれ角度ができるだけ小さいことを意味する:特に、90°傾いた方位で成長した粒子、いわゆるa,b粒子が存在しないことが必要である。
【0017】
ずれ角度が非常に小さい多結晶質フィルムは、「シャープな」二軸配向組織を有すると言われる。
【0018】
被覆伝導体の製造に用いられるテンプレートとして好適なものとなるようにバッファー層を二軸配向組織化する(テキスチャー付けする)(texturing)ための技術は、一般的に知られている。特に、以下の2つの主要な技術が存在する。
【0019】
1.「イオンビームアシスト蒸着」(IBAD)においては、パルスレーザー堆積(PLD)又は蒸発のような真空蒸着技術によって多結晶質金属テープ上に酸化物層を付着させる。付着の際に、方位が望ましくない粒子をフィルムから除去するために、成長しているフィルムに特定の角度下で単一エネルギーArイオンビームを当てる。この技術により、特にイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)、MgO及びGd2Zr27のような材料が二軸配向組織化される。
【0020】
2.「基板傾斜成膜」(ISD)技術が知られている。この技術においてもまた、PLD又は蒸発のような真空蒸着技術によって多結晶質金属テープ上に酸化物層を付着させる。付着は、蒸発した金属種を衝突させる軌道が、基板に対して直角方向からある程度の角度を成すように行う。この技術は通常、MgOを二軸配向組織化するために適用される。
【0021】
これらの技術では配向されていない基板を使用することが可能であるが、これらには一般的に、生産速度が低かったり(配向)組織の品質が劣っていたりという問題がある。さらに、これらは生産条件が難しい特殊な装置を必要とする真空プロセスである。
【0022】
YBCO−123超伝導体フィルムを有する被覆伝導体に用いられるバッファー層についての特定的な例には、上記のようなイオンビームアシスト蒸着によって得られるイットリウム安定化ジルコニア(YSZ)がある。
【0023】
YBCO及びYSZは面心立方格子で結晶化する。ヨーロッパ特許公開第1178129号公報に報告されているように、立方格子の面のコーナーに位置する原子と面中心に位置する原子との間の距離は、YSZについては0.363nmであり、YBCO−123については0.381nmである。YSZにおける距離はYBCO−123のものにかなり近いと考えられるが、しかしながら、YSZとYBCO−123との間の格子寸法の差を埋めるためには、0.375nmの距離を有するY23の中間層が必要とされる。
【0024】
より接近した格子整合を有する第2の層の必要性を回避するために、ヨーロッパ特許公開第1178129号公報には、パイロクロア型構造の材料をバッファー層として用いることが示唆されており、この材料は一般式AZrO又はAHfO
(ここで、AはY、Yb、Tm、Er、Ho、Dy、Eu、Gd、Sm、Nd、Pr、Ce及びLaから選択される)
を有し、YBCOのように立方格子を有する。
【0025】
前記一般式において、AとZr又はHfの相対割合はそれぞれ1:1であり、立方晶系が維持されることを条件として、0.1:0.9〜0.9:0.1まで変化することができる。
【0026】
パイロクロア型構造を有する好適な材料の特定的な例としては、式A2Zr27及びA2Hf27
(ここで、Aは上で定義した通りである)
の化合物を挙げることができ、最も接近した原子の間の距離は、0.381nm(La2Zr27、La2Hf27)から0.366nm(Yb2Zr27、Yb2Hf27)まで小さくなる。
【0027】
YBCOと同じ0.381nmという距離のため、前記La化合物は成長しているYBCOフィルムに二軸配向組織を写す際のテンプレートとしての働きをするための最も有望な候補であると考えられる。
【0028】
その結果、ヨーロッパ特許公開第1178129号公報には、エピタキシャル成長のためには同一の格子パラメーターが好ましいと教示されている。
【0029】
ヨーロッパ特許公開第1178129号公報におけるYSZバッファー層についての場合のように、バッファー層の二軸配向組織化は、上述のような欠点があるイオンビームアシスト蒸着によって実施される。
【特許文献1】ヨーロッパ特許公開第1178129号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0030】
上記のことから鑑みて、優れた電流容量を達成するための良好な品質の二軸配向組織を有する超伝導体フィルムを成長させるために、好適にシャープな配向組織を有するバッファー層を得るためのさらなる改善が強く望まれている。
【0031】
さらに、シャープな二軸配向組織を有し従って高い電流容量を有する高温超伝導体フィルムを有する被覆伝導体を実用的な長尺で簡単に且つ効率良く得るための方法であって、このような長尺被覆伝導体を大規模に且つ経済上合理的な費用で製造することを可能にするものが求められている。
【0032】
特に、好適に配向組織化されたテンプレートを得るための方法であって、該テンプレートを得るために真空に基づく技術を必要としないものを得ることについての要望がある。
【課題を解決するための手段】
【0033】
本発明に従えば、これらの課題は、基板、高温超伝導体層及び少なくとも1つのバッファー層を含む被覆伝導体を提供することによって解決される。前記バッファー層の少なくとも1つは、高温超伝導体層を二軸配向するための組織を有するテンプレートであり、このテンプレートは表示化学式
【化1】

(ここで、
BはZr、Hf、Sn、Pb及びTiから選択される少なくとも1種であり、
AはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Y、Tm、Yb及びLuから選択される少なくとも1種であり、
xは0ではないものとする)
を有する材料から成る多結晶質フィルムから構成され、前記基板は、組織化されたものである。
【0034】
別の局面に従えば、本発明は、表示化学式
【化2】

(ここで、
BはZr、Hf、Sn、Pb及びTiから選択される少なくとも1種であり、
AはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Y、Tm、Yb及びLuから選択される少なくとも1種であり、
xは0ではないものとする)
を有する多結晶質フィルムであって、A:Bの割合比がフィルム厚さ方向において変化するものを提供する。
【0035】
さらなる局面に従えば、本発明は、表示化学式
【化3】

(ここで、A、B及びxは上で定義した通りである)
を有する多結晶質フィルムの格子パラメーターを、A:Bの割合比を変化させることによって調節する方法を提供する。
【0036】
さらに別の局面に従えば、本発明は、少なくとも基板、高温超伝導体層及び1つ以上のバッファー層を含む被覆伝導体であって、前記バッファー層の少なくとも1つがテンプレートとしての働きをし、該テンプレートが表示化学式
【化4】

(ここで、A、B及びxは上で定義した通りである)
の材料から成り、A:Bの割合比が該テンプレートの厚さ方向において変化する、前記の被覆伝導体に関する。
【0037】
本発明のさらに別の局面に従えば、前記テンプレートは、A:Bの割合比が異なり且つ/又はA原子及び/若しくはB原子が異なるものである少なくとも2つの層を有する多層スタック(積層物)である。
【0038】
さらに、本発明の多結晶質フィルムは、有機金属堆積(metal organic deposition)法によって得ることができる。
【0039】
本発明の意味の中で、用語
・「エピタクシー(エピタキシャル成長)」は、少なくとも本質的に同じ配向の基板又はテンプレート上でフィルム(好ましくは薄いフィルム)が配向成長することを意味する;
・「格子パラメーター」は、所定の結晶系(特に立方晶系)の単位セル(単位格子)の格子定数の長さ(a,b,c)を意味する;
・「格子不整合」は、2つの異なる結晶質材料(特に本発明の多結晶質フィルム及び高温超伝導フィルム、又は、多層多結晶質フィルムの場合には、多層スタック中の2つの隣り合う層)の対応する格子定数の偏差を意味する;
・「組織(テキスチャー)」は、多結晶質材料の結晶又は粒子の平均配向分布を意味する;組織の度合い(シャープさ)は、X線回折(ロッキングカーブ、πスキャン)により、粒子の配向分布関数を測定することによって測定され、この組織の度合いは多結晶質材料のX線極点図の半波高全幅値(FWHM)に相当し、FWHM値が小さければ小さいほど組織がシャープである;典型的にはYBCOについては(103)−極点図が測定される;
・「二軸配向組織」は、a,b平面内の多結晶質フィルムの個々の結晶又は粒子の配向を意味する;
・「組織シャープ化」は、フィルムがより厚く成長する時のフィルムの平均配向の増大を意味する。
【0040】
本発明は、基板やバッファー層のようなテンプレート上で成長させるフィルムにおいて、テンプレートの格子パラメーターと成長させるフィルムの格子パラメーターとの間に所定の格子不整合がある場合に、組織のシャープ化効果が得られるという観察に基づく。
【0041】
即ち、フィルムの格子パラメーターと前記テンプレートの対応する格子パラメーターとが僅かに異なる場合、即ちフィルムの格子パラメーターが前記テンプレートの対応する格子パラメーターより僅かに大きい場合又は僅かに小さい場合に、フィルムの二軸配向組織が改善され、テンプレートと成長させたフィルムとの間にかかる格子不整合がない場合や該不整合が大きすぎる場合と比較して、フィルムの配向がシャープ化される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
一般原則に従うと、適切な不整合は対応する格子パラメーターを基準として1%程度であるべきである。
【0043】
しかしながら、シャープ化効果を得るための格子不整合についての最適値は、例えば表面エネルギー及び生成エンタルピー、並びに被覆方法及び成長条件等の点で、基板及びフィルム材料に依存することがわかった。これらのパラメーターから見て、それぞれの材料の組合せについての最適値は、経験的に決定されるべきである。
【0044】
例えば、エピタキシャル成長においてテンプレート上にフィルムを塗布するために例えばゾル−ゲル技術のような浸漬被覆(dip-coating)を用いた場合には、基板とバッファーとの間の不整合が10%までであるのが好適であることがわかった。
【0045】
本発明に従えば、テンプレートを形成する多結晶質フィルムは、表示化学式
【化5】

(ここで、
AはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、HO、Er、Y、Tm、Yb及びLuから選択される少なくとも1種であり;
BはZr、Hf、Sn、Pb及びTiから選択される少なくとも1種であり;
xは0ではないものとする)
の材料のものである。
【0046】
本発明の多結晶質フィルムの材料は、既知のパイロクロア構造A227から誘導されるが、しかしこれはA及びBに関して非化学量論組成のもの(これは、材料中に存在するAの割合がBの割合とは異なることを意味する)である。
【0047】
本発明に従えば、テンプレートを形成する多結晶質フィルムの格子パラメーターは、xを変化させることによって調節される。
【0048】
格子パラメーターに対するxを変化させることの影響は、A原子及びB原子の寸法の違いに依存する。
【0049】
明らかなように、A原子及びB原子の寸法が同様であればあるほど、A原子及びB原子の存在割合を変化させることによる格子パラメーターへの影響が小さくなる。
【0050】
従って、大きい効果を達成するためには、A原子及びB原子は、原子寸法の違いが大きくなるように選択するのが好ましい。
【0051】
A原子の原子寸法は0.95Å〜1.2Åであり、B原子の原子寸法は0.6Å〜0.8Åである。
【0052】
典型的には、A:Bの原子寸法比は1.3〜1.9の範囲内にすべきである。A原子及びB原子(A;B)の好適な組合せについての特に好ましい例は、La/Zrである。
【0053】
本発明の材料は、立方晶系で結晶化したものであるのが好ましい。該材料は、パイロクロア、フッ化物、単斜晶型等のような構造を示すのがより一層好ましい。
【0054】
本発明に従えば、「単斜晶型構造」とは、2つの軸だけが等しく、第3の軸が異なる点で立方晶系とは異なる格子を意味する。
【0055】
好ましい具体例に従えば、相図内の好適な相の相フィールド(phase field)が大きければ大きいほど、望まれる相フィールドを超えることなくxを変えることによってA及びBの割合を変化させることができる可能性が大きくなるので、その相図において大きい立方相フィールドを有するA原子とB原子との組合せを用いる。
【0056】
本発明の目的のためには、材料の適切な非化学量論性は、−0.05〜+0.05の範囲外のxによって得ることができ;xが0.05超〜0.3未満又は−0.05未満〜−0.3超、即ちそれぞれ0.05<x<0.3又は−0.3<x<−0.05であるのが好ましい。
【0057】
本発明は、原子寸法が異なるA及びBを用い且つxが0以外となるように選択することによって、成長させるべきフィルムの二軸配向組織の所望のシャープ化効果を達成するのに最適な値に前記テンプレートの格子パラメーターを容易に且つ簡単に調節することを可能にする。
【0058】
さらに、本発明に従えば、フィルムの厚さ方向においてA:Bの割合比を変化させることによって、段階的な格子パラメーターを有するテンプレートを提供することができる。
【0059】
例えば、段階的な格子パラメーターを有するフィルムは、表示化学式
【化6】

の材料から成る少なくとも2つの層が互いの表面上に堆積して成る多層スタックであって、xの値が増加し又は減少することによってその層の格子パラメーターが下層の格子パラメーターより小さく又は大きくなる前記多層スタックであることができる。これにより、各層においてそれぞれの下層と比較して増大したシャープ化が達成されるように、隣り合う層の間の格子不整合を調整することができる。結果として、かかるフィルム上に二軸配向組織シャープ化が特に改善された段階的な格子パラメーターを有する超伝導体フィルムを成長させることができる。
【0060】
格子パラメーターの段階化はまた、フィルムの厚さ方向にかけて又は層ごとに用いるA原子及び/又はB原子を変えることによっても可能である。
【0061】
段階化のためにはさらに、割合比A:Bを変化させること並びにA原子及びB原子の少なくとも一方を変えることの両者の組合せを適用することができる。
【0062】
本発明に従えば、多結晶質フィルムの配向は、適切な組織を有する基板を用いることによって達成することができる。
【0063】
配向されたhtscフィルムを成長させるための精確なバッファー組織を有するバッファー層を得るための好適に組織化された基板は、よく知られている。
【0064】
例えば、基板を組織化するための好適な技術としては、「圧延アシスト二軸配向組織化基板」(RABiTS)法と称されるものがある。この方法は、所望の二軸配向組織での再結晶化のために、適切な結晶構造の金属を圧延し且つ熱処理することによって得られる適切に組織化された金属基板を使用する。この方法はよく知られており、比較的経済性のよい費用で長尺基板を基板を組織化するためにも用いることができる。
【0065】
かくして、本発明の多結晶質フィルムの精確なバッファー組織は、精確な組織を有する基板を用いて達成することができる。
【0066】
RABiTS法は、成長させるべきフィルムと同様の又は同じ結晶系を有する材料から作られた基板から出発する。
【0067】
YBCOhtsc層を有する被覆伝導体の製造においては、一般的に面心立方結晶格子を有する金属の基板を用いる。被覆伝導体のためのテンプレートとして好適であるためには、前記金属は、高い融点、低い酸化物形成傾向及び合理的な機械強度を有しているべきである。好適な材料の例には、ニッケル、銅及びそれらの合金、例えばNiWがある。
【0068】
本発明に従えば、立方相フィールドの限度内で2つの金属A及びBの化学量論比を変更すること並びにA及びBの原子寸法の適切な差異を選択することによって、立方相内でテンプレートとして用いられる多結晶質フィルムの材料の格子パラメーターを自在に調整することができる。それにより、多結晶質フィルムの格子パラメーターを、所望のシャープな二軸配向組織を有する高温超伝導体層を得るための所望の格子不整合に適合したものにすることができる。
【0069】
また、前記多結晶質フィルムの格子パラメーターを調整できれば、組織化された基板上に改善された二軸配向組織を有する多結晶質フィルムを成長させることも可能になり、それにより、高温超伝導体フィルムの組織シャープ化がもたらされる。
【0070】
この点については、段階的な格子パラメーターを有するバッファー層を用いることが特に有用であり得る。ここで、基板の隣の面の格子パラメーターは、基板との適切な不整合が得られるように選択することができ、その次の層の組織は、下の層の表面上に成長するそれぞれの層の組織のシャープ化が得られるように調節することができ、最後に、表面層の格子パラメーターは、高温超伝導体フィルムのシャープな二軸配向組織を得るために高温超伝導体フィルムの格子パラメーターとの適切な不整合が得られるように調節することができる。
【0071】
バッファー層の格子パラメーターは、一方で基板との適切な不整合が得られるように、他方で成長させるべきhtscフィルムとの適切な不整合が得られるように調整することができる。
【0072】
例えば、本発明に従えば、A=La且つB=Zrであり(LZOバッファー層)且つLa/Zr化学量論比が異なる多結晶質フィルムは、改善された小さいずれ角度、特に面外組織のXRD(X線回折)パターンについて3.5°のFWHM、面内組織XRDパターンのFWHMについては6°の小さいずれ角度で得ることができる。比較として、組織シャープ化効果を示さない標準的LZOバッファーは、面外組織FWHM−XRDパターンについては7.5°の、面内組織FWHMについては8°のずれ角度を示す。上のような小さいずれ角度を有する高温超伝導体層は、高い通電性能の点から及び超伝導性の点から、優れている。
【0073】
一般的に、本発明において用いられる多結晶質フィルムは、リバースロールコーティング(reverse roll-coating)、引っ張りウェブスロットコーティング(tensioned web-slot coating)、メニスカスロールコーティング(meniscus roll-coating)、ナイフオーバーロールコーティング(knife over-roll coating)、メータリングロールコーティング(metering roll-coating)、インクジェットプリンティング又は浸漬被覆法のような有機金属堆積(MOD)法技術によって得ることができる。この技術は当業者によく知られている。
【0074】
好ましい浸漬被覆法としては、いわゆるゾル−ゲルルートが挙げられる。
【0075】
例えば、
【化7】

から成る多結晶質フィルムは、ゾル−ゲルルートにより、溶液からゲル形成性金属−有機化合物を基板上に付着させることによって製造することができる。ここでは、有機溶剤中のA及びBについての好適な前駆体化合物の化学量論的混合物を用いることができる。得られたばかりのフィルムを、さらに乾燥させ、通常200℃〜500℃の範囲の温度において熱分解させる(有機物バーンアウト)。次いで、結晶化を行う。この際、所望の最終酸化物フィルムの溶融温度の半分を超えない温度が特に有用であることがわかった。酸化物フィルムの成長方法は、非晶質ガラスの結晶化と同様、固体状態成長法である。
【0076】
本発明のアプローチに従えば、テンプレートとして必要なバッファー層は、真空装置を必要としない単純な有機金属堆積(MOD)法によって得ることができ、さらに、この方法は長さについての制限なく多結晶質フィルムの連続付着に容易に適合できる。
【0077】
さらなる利点は、これらの技術により、基板の前面及び裏面の両方に1つのプロセスステップで必要な少なくとも1つのバッファー層を提供することができ、両面被覆伝導体の製造が可能ということである。
【0078】
htsc層の堆積のためには、任意の好適な方法を用いることができる。その例には、物理的気相成長技術、例えばパルスレーザー堆積(PLD)、スパッタリング蒸着及びMOD、例えばゾル−ゲルルートがある。
【0079】
RE123タイプのhtscフィルムのパルスレーザー堆積のためには通常、セラミックRE123ターゲットにパルスレーザービームを衝突させ、材料を化学量論的に蒸発させ、バッファー層上に付着させる(REは希土類元素である)。
【0080】
スパッタリングについては、高圧マグネトロンスパッタリング、反応性スパッタリング(例えばセラミックRE123ターゲットを用いるもの)のような様々なスパッタリング技術を用いることができる。
【0081】
蒸発については、いずれかの金属を熱で若しくは電子ビームで蒸発させ、又はセラミックRE123粉末を電子ビームで蒸発させる。
【0082】
ゾル−ゲルルートにおいては、トリフルオロ酢酸塩ルートと称される変性が用いられる。超伝導体を形成する金属(例えばY、Ba、Cu)のトリフルオロ酢酸塩をメタノール又は別の有機溶剤のような好適な溶剤中に溶解させる。湿式コーティング技術を用いて基板上にフィルムを得て、これをさらに乾燥させ、熱分解させ、結晶化させる。一般的に、よく知られたゾル−ゲルルートを用いることもできる。
【0083】
バッファー層上での超伝導体層の成長を支援するために、好適な中間層を用いることができる。かかる中間層は、所望の超伝導体層の初期成長を促進する働きをすることができるものである。好適な中間層は一般的に周知である。好ましい例はCeO2である。
【0084】
上記の層とは別に、被覆伝導体には、所望ならばバッファー層のようなさらなる層を含ませることができる。例えば、被覆伝導体には通常、酸素や基板から由来する金属イオンのような元素に対する拡散バリアーとして、少なくとも1つのバッファー層を含ませる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例によって本発明をさらに説明する。これらの実施例は、本発明の原理を例示することだけを目的としたものであり、本発明を限定するものではない。
【0086】
(A)本発明の被覆伝導体の好適な構造の例
【0087】
以下において、AはLaであり、BはZrである(LZ)。
【0088】
表中、左欄は被覆伝導体の構造を示し、バッファー層についてはxも示す。右欄では、それぞれの層を得るための好適な方法及び好適な層厚さを示す。
【0089】
LZOとして表わしたバッファー層として用いられる本発明の多結晶質フィルムは、以下のようなゾル−ゲル技術によって調製することができる。
【0090】
適量のLaアセチルアセトネート、Zrアセチルアセトネートを量り取り、それらをプロピオン酸中に(加熱し且つ撹拌しながら)溶解させることによって、LZO前駆体を調製する。
【0091】
次いで、この前駆体溶液から金属テープ基板上にLZOフィルムを浸漬被覆する(これは、該テープを前駆体溶液中に引き入れることによって連続態様で、又は短いサンプルを調製する場合には固定態様で、行う)。
【0092】
このフィルムをさらに乾燥させ、結晶化及びエピタキシャル成長のためにAr/5%H2ガス混合物(フォーミングガス)下で高温において(典型的には1000℃において1時間)焼鈍しする。
【0093】
CeO2フィルムは、ゾル−ゲル法又は電子ビーム蒸着のいずれかによって調製することができる。後者については、水冷るつぼから電子ビーム蒸着によってCe金属を蒸発させることができる。化学量論的CeO2を生成させるために、基板を650℃〜750℃に保ち、チャンバーのバックグラウンド圧を10-5〜10-2ミリバールの範囲にし、H2Oを所定分圧にして、雰囲気の酸化ポテンシャルを調製する。
【0094】
YBCOフィルムは、次の技術の内の1つを用いて形成させるのが好ましい:
・熱水液相エピタキシャル成長(hydro-thermal liquid phase epitaxy)(HLPE)
・電子ビーム蒸着(electron beam evaporation)(e−ビーム)
・有機金属気相成長法(metal organic chemical vapor deposition)(MOCVD)
・トリフルオロアセテート有機金属堆積法(trifluoroacetate metal organic deposition method)(TFA−MOD)。
【0095】
【表1】

【表2】

LZOは、La2+xZr2-x7である。
【0096】
(B)組織改善の例
【0097】
(1)面外組織における組織改善
【表3】

【0098】
(2)面外組織における組織改善
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板、高温超伝導体層及び少なくとも1つのバッファー層を含む被覆伝導体であって、
前記バッファー層の少なくとも1つが高温超伝導体層を二軸配向するためのテンプレートであり、このテンプレートが表示化学式
【化1】

(ここで、
BはZr、Hf、Sn、Pb及びTiから選択される少なくとも1種であり、
AはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Y、Tm、Yb及びLuから選択される少なくとも1種であり、
xは0ではないものとする)
を有する非化学量論材料から成る多結晶質フィルムから構成され、
前記基板が組織化されたものである
ことを特徴とする、前記被覆伝導体。
【請求項2】
前記多結晶質フィルムの厚さ方向においてA:Bの割合比が変化することを特徴とする、請求項1に記載の被覆伝導体。
【請求項3】
前記多結晶質フィルムの厚さ方向においてAの割合が増大又は減少することを特徴とする、請求項2に記載の被覆伝導体。
【請求項4】
前記テンプレートがA:B割合比が異なる2つ以上の層から成る多層スタックであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の被覆伝導体。
【請求項5】
前記多結晶質フィルムの厚さ方向においてA原子及びB原子の内の少なくとも一方のタイプを変えることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の被覆伝導体。
【請求項6】
表示式
【化2】

(ここで、
BはZr、Hf、Sn及びTiから選択される少なくとも1種であり、
AはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Y、Tm、Yb及びLuから選択される少なくとも1種であり、
xは0ではないものとする)
を有する非化学量論材料から成る多結晶質フィルム上で高温超伝導体層を成長させ、
xを変化させることによって前記多結晶質フィルムの非化学量論材料の格子パラメーターを成長させるべき超伝導体層の格子パラメーターに調節する
ことを特徴とする、高温超伝導体層を成長させる方法。
【請求項7】
xが−0.05〜+0.05の範囲外であることを特徴とする、請求項6に記載の高温超伝導体層を成長させる方法。
【請求項8】
xが0.05<x<0.3又は−0.3<x<−0.05の値を有することを特徴とする、請求項7に記載の高温超伝導体層を成長させる方法。
【請求項9】
前記多結晶質フィルム内のA:Bの割合比を前記多結晶質フィルムの厚さ方向において変化させることを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記多結晶質フィルムが2つ以上の層の群から成る多層スタックであり、隣り合う層のA:Bの割合比が互いに異なることを特徴とする、請求項6〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記の層群のずれ角度がボトム層からトップ層へと減少していくことを特徴とする、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上で成長させる高温超伝導体層を二軸配向するためのテンプレートとして好適な多結晶質フィルムであって、
該多結晶質フィルムが表示式
【化3】

(ここで、
AはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Y、Tm、Yb及びLuから選択される少なくとも1種であり;
BはZr、Hf、Sn、Pb及びTiから選択される少なくとも1種であり;
xは0ではないものとする)
の非化学量論材料から成り、該多結晶質フィルムが有機金属堆積法によって得られることを特徴とする、前記多結晶質フィルム。
【請求項13】
高温超伝導体層を二軸配向するためのテンプレートとして好適な多結晶質フィルムであって、
該多結晶質フィルムが表示式
【化4】

(ここで、
BはZr、Hf、Sn及びTiから選択される少なくとも1種であり;
AはLa、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Y、Tm、Yb及びLuから選択される少なくとも1種であり;
xは0ではないものとする)
の非化学量論材料から成り、A:Bの割合比が該多結晶質フィルムの厚さ方向において変化することを特徴とする、前記多結晶質フィルム。
【請求項14】
該多結晶質フィルムが2つ以上の層から成る多層スタックであり、隣り合う層のA:Bの割合比が異なることを特徴とする、請求項12又は13に記載の多結晶質フィルム。
【請求項15】
xが−0.05〜+0.05の範囲外の値であることを特徴とする、請求項12〜14のいずれかに記載の多結晶質フィルム。
【請求項16】
xがそれぞれ0.05<x<0.3及び−0.3<x<−0.05から選択される値であることを特徴とする、請求項15に記載の多結晶質フィルム。
【請求項17】
該多結晶質フィルムのずれ角度が基板のずれ角度より小さいことを特徴とする、請求項12〜16のいずれかに記載の多結晶質フィルム。
【請求項18】
該多結晶質フィルムが有機金属堆積法によって得られたことを特徴とする、請求項12〜17のいずれかに記載の多結晶質フィルム。
【請求項19】
被覆伝導体の製造における請求項12〜18のいずれかに記載の多結晶質フィルムの使用。

【公開番号】特開2007−307904(P2007−307904A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−130657(P2007−130657)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(500547371)ネクサンス (5)
【Fターム(参考)】