説明

被覆された物品

第1の銀含有金属窒化物被覆を有する、ヒト体内組織と接触した状態で使用するための金属製生物医学的物品、好ましくは、整形外科用インプラント、器具または道具、およびそれらを作製するための方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトまたは動物体内組織と接触して使用するための金属製生物医学的物品、特に、補綴インプラント、器具および道具に関する。
【背景技術】
【0002】
金属物品は、しばしば、広範な用途のために、ヒトまたは動物体内組織と接触した状態で使用される。しかし、特に、そのような物品をヒトまたは動物の身体にインプラントする場合、それらが、長期間継続して非腐食性であり、そして身体に金属イオンを浸出させないように配慮しなければならない。
【0003】
整形外科用インプラント(例えば、置換股関節)は、従来、メタルオンポリマー型配列を用いるが、磨耗誘起骨溶解という欠点をもたらし、これには、ポリエチレン粉が関連し、改善された最新のポリエチレンでさえも関連する。メタルオンメタル型補綴は、これらの欠点のない代替物を提示し、潜在的に、脱臼抵抗性の顕著な増加およびより長い耐用寿命を提供しており、活動的な若年層への技術を切り開いている。しかし、整形外科用インプラント、特に、連接型整形外科用インプラントにかかるストレスのため、磨耗を抑制するための被覆を使用することが有益である。
【0004】
さらに、メタルオンメタル型整形外科用インプラントを使用すると、血中において検出可能なレベルで所望されない磨耗粉を生じ得る。例えば、コバルト/クロムでは、正常な健康被験体と比較して、患者の血中において、これらの潜在的に発癌性の金属イオンが10倍増加することが示されている。
【0005】
連接型整形外科用インプラント用の被覆は、さらなる多くの厳しい要件を満たさなければならず、例えば、それは、硬質であり、低い表面摩擦を有し、そしてまた、長期間の潜在的に高い衝撃力に耐えるのに十分に強靭でなければならない。十分に強靭ではない(即ち、脆過ぎる)または十分に耐久性ではない被覆は、短い耐用寿命を有し得るかまたは脱離さえ起こし得、破滅的であり得る。そのような被覆が抗微生物特性を有する場合、さらに有利である。
【0006】
イオン形態の銀は抗微生物特性を有することが、一般的に認められている。また、銀の極めて微細な粒子、例えば、ナノ粒子は、それらが容易に酸化して、抗微生物効果を提供するイオン化合物、酸化銀を形成することができるような表面積対容積を有する。しかし、より大きな銀構造は、非効率的な抗微生物剤となる傾向がある。従って、抗微生物効果を提供するために、単に、銀を被覆として使用すればよいというものではない。いずれにせよ、かなりの量のストレスがかかる用途、例えば、連接型整形外科用インプラントでは、銀は、被覆として使用するには柔軟過ぎる。
【0007】
米国特許第6,361,567号明細書は、銀をダイヤモンド様炭素被覆に組み入れることに関与する医学的インプラントの表面に抗微生物被覆を形成するプロセスを開示している。しかし、ダイヤモンド様炭素は極めて硬質であり、そして低い摩擦を有する一方、それは、しばしば、脆い材料である。従って、それは、特に、連接された補綴インプラントでは、被覆としての使用に理想的ではない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、第1の銀含有金属窒化物被覆を有する、ヒトまたは動物体内組織との接触に使用するための金属製生物医学的物品に関する。
【0009】
そのような銀金属窒化物被覆は、硬質であり、摩擦係数が低く、そして広範な生物医学的用途において使用するのに十分に強靭であり、そしてまた、抗微生物効果を提供することを見出した。
【0010】
本発明の被覆された物品は、ヒトまたは動物の体内のためのインプラント、器具および道具、特に、整形外科用インプラント(例えば、補綴股関節、膝関節、肩関節、足関節、脊髄補綴またはそれらの一部ならびに例えば、インプラント手術中に利用される器具および道具)としての使用に特に適切である。
【0011】
被覆された物品は、連接型整形外科用インプラント(例えば、補綴股関節またはそれらの一部)としての使用に特に適切である。本発明の被覆は磨耗耐性であり、金属イオンの浸出を最小限にし、そして自己潤滑性であるため、それらは、メタルオンメタル型連接型補綴インプラントの欠点を克服する。従って、それらは、関節置換術における有意な改善を可能にし、耐用寿命を延長し、そして術後合併症を低減する。
【0012】
本発明の物品の銀金属窒化物被覆は、銀が金属窒化物材料に不溶性であることが見出されているという事実からそれらの魅力的な特性のいくつかを引き出すと考えられる。銀はナノ粒子を形成すること、および被覆の構造は、本来円柱状であると考えられる。銀は、被覆された物品の表面上で小さな、しばしば、ナノ粒子の形態で存在するため、本発明に従う物品の抗微生物特性が生じると考えられる。さらに加えて、銀粒子が磨耗するかまたは表面から溶解するため、銀粒子が被覆された物品の表面に移動することによって、抗微生物能が回復すると考えられる。
【0013】
負荷下での股関節の運動の自然な作用により、被覆されていないメタルオンメタル型股関節の場合よりかなり低い割合であるが、必然的に、いくつかの磨耗粉が生じる。被覆自体から生じる抗微生物効果に加えて、この磨耗粉もまた、重要な抗微生物効果を有することが予想される。銀粒子の抗微生物効力は、サイズおよび形状の両方の影響を受けることが公知でありそして報告されている。従って、磨耗粉に存在する銀粒子のサイズおよび形状は、抗微生物作用に対して有意な効果を有する。
【0014】
被覆中の銀の濃度もまた、被覆のナノ/マイクロ構造に影響を及ぼすと考えられる:低いAg濃度では、銀は、支持体表面に対してほぼ垂直に成長する窒化物のカラムの間のナノ粒子として存在する。より高いAg濃度では、窒化物粒が成長する時に、銀がそれらを封入し、粒界で連続的なAgを有するナノ結晶窒化物を生じる。
【0015】
従って、被覆のナノ/マイクロ構造は、磨耗粉中のAgの濃度を制御するだけではなく、磨耗粉中の銀粒子のサイズおよび形状、ひいては抗微生物効果に大いに関係することが予想される。
【0016】
金属製物品は、広範な材料、例えば、チタンおよびその合金、ジルコニウムおよびその合金、コバルト/クロム系合金またはステンレス鋼から作製してもよい。
【0017】
好適な金属窒化物被覆は、(A)Q−Agの形態であって、ここで、Qは、N、CN、BN、CBN、NO、CNO、BNO、CBNOから選択され、そして、A、BおよびCは、独立して、Ti、Al、Cr、Ta、Y、W、Pt、Au、Cu、Si、NbおよびBから選択され、そしてここで、0.25<x+y+z<4.0である。好ましくは、Qは、N、CN、BN、NOから選択され、そしてA、BおよびCは、独立して、Ti、Cr、SiおよびAlから選択される。より好ましくは、Qは、N、CN、NOから選択され、そしてA、BおよびCは、独立して、TiおよびCrから選択される。CrN−AgおよびCrNO−Agが、現時点で最も好適である。
【0018】
被覆中に銀が存在すると、その硬度が減少し、そして自己潤滑性表面が提供され得ることを見出した。従って、被覆の機械的特性を調整するために、銀の量を選択することができ、そして0.1〜99%、0.5〜35%、またはなお1.0〜25%の範囲のレベルが、良好な均衡の特性を提供することを見出した。
【0019】
本発明の被覆は、当業者に公知の広範な技術によって、金属製物品上で形成させてもよい。物理蒸着(PVD)および/または化学蒸着(CVD)法を使用する被覆の蒸着が、特に好ましい。電子ビームプラズマPVDが、現時点で最も好適なプロセスである。適切なPVDプロセスとして、電子ビーム蒸発、マグネトロンスパッタリングおよびアーク蒸発が挙げられる。
【0020】
それ故、別の態様では、本発明は、表面上に銀含有金属窒化物を蒸着することによって、ヒトまたは動物体内組織と接触した状態で使用するための金属製生物医学的物品を被覆する方法に関する。
【0021】
本発明の金属製物品は、望ましくは、それらの表面上に2つ以上の被覆を有してもよい。特に、異なる量の銀を有する2つの銀含有金属窒化物被覆を有することが特に有利であることを見出し、特にここで、最も外側の被覆は、下側の被覆より多量の銀を含有する。そのような配列は、表面で強力な抗微生物効果を提供し、そして連接型整形外科用インプラントのインプラント後の初期段階中に特に有利である良好な自己潤滑および自己適合性特性を提供する。
【0022】
被覆は、例えば、連続的または段階的に調整することによって層組成の漸進的変化を生じさせ、銀または他の元素含有量が表面に向かって増大または減少している勾配被覆であることもまた可能である。例えば、銀含有量が被覆表面に向かって増加している被覆が、特に有利であり得る。
【0023】
1つまたは複数の被覆の厚さは、用途に応じて広範に変動し得るが、典型的に、1.0〜100マイクロメートル、好ましくは、2.0〜50マイクロメートル、より好ましくは、5.0〜20マイクロメートルの範囲内にある。
【0024】
他の層および被覆が存在してもよく、例えば、腐食耐性を改善し、従って、金属イオンの浸出を減少するための内部層であって、純粋な金属窒化物、例えば、窒化クロム、または純粋な金属、例えば、クロムであってもよい。
【0025】
これより、本発明を、添付の図面を参照して例により示す:
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】次の異なる3種の微生物:黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、および表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)と直接接触したCrN−Ag被覆によって生じる阻害ゾーンの平均面積を示すチャートである。
【図2】CrN−Ag被覆の磨耗率、k、および摩擦係数を示すチャートである。
【図3】CrN−Ag被覆への50gm負荷におけるKnoop表面微小硬度を示すチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
実験的手順
実験を、以下の手順に従って行う。
【0028】
20および30mm径の鏡面研磨および硬化したAISI M2鋼試験ディスクを、被覆しようとする物品として使用した。最初に、物品をアルカリ溶液中で超音波洗浄し、次いで、Tecvac IP90ツイン電子ビーム蒸着チャンバに入れる。被覆蒸着サイクルは、以下の5つの連続工程からなる:
1)ポンピングおよびふく射加熱装置による加熱
2)任意のダイオード不活性物質(好ましくは、アルゴン)グロー放電におけるスパッタクリーニング
3)加工物(物品)を加工温度まで加熱するための熱イオン源によって支援された任意の不活性物質(好ましくは、アルゴン)グロー放電におけるプラズマ加熱
4)銀金属窒化物蒸着
5)任意のグロー放電支援を伴わない任意の不活性気体、窒素または不活性気体と窒素との混合物における冷却。
【0029】
ポンピングおよび加熱
スイッチが入ったふく射加熱装置により、チャンバを5×10−3Pa未満の圧力にまでポンピングするが、ここで、物品の温度は280℃を超えるべきである。
【0030】
スパッタクリーニング
ダイオード構成での任意の不活性気体(好ましくは、アルゴン)放電を5〜15分間(好ましくは、5分間)使用して、処理しようとする物品をスパッタクリーニング工程に供する。D.C.電源装置を使用して、物品を負にバイアスするが、R.F.またはマイクロ波電源装置を使用してもよい。チャンバに、1.0〜5.0Pa(典型的に、2.0Pa)のアルゴン圧まで再充填(back filled)し、そしてバイアス電圧は、−600V〜−2000V(典型的に、−1000V)の範囲である。
【0031】
プラズマ加熱
不活性気体(典型的に、アルゴン)圧は、0.1〜1.0Paの間(好ましくは、0.3Pa)に設定する。プラズマ加熱中の加工物のバイアスは、−600V〜−2000Vの間(典型的に、−1000V)に設定する。負にバイアスされたタングステンフィラメントを、第3の電極として使用して、電子をグロー放電に放射する。高電流低電圧電源装置を使用して、電極が熱イオン的にグロー放電に放射されるように、フィラメントを加熱する。放電におけるイオン化レベルを増大するために、かなりのエネルギーにより、電子がフィラメントから放出するように、フィラメントもまた、D.C.高電流低電圧電源装置を使用して、負にバイアスする。フィラメント加熱装置の電流は、要求されるイオン化のレベルに依存して、40Aから150Aまで変動してもよい。フィラメントのバイアスは、−50V〜−200Vの間(典型的に、−100V)で変動してもよい。場合により、ふく射加熱装置を利用して、通常、280℃〜500℃の間、典型的に、350℃の処理温度に到達させる。
【0032】
銀金属窒化物蒸着
不活性気体(典型的に、アルゴン)圧は、0.1〜1.0Paの間(典型的に、0.3Pa)に設定する。蒸着中の加工物のバイアスを、−25〜−100Vの間に減少させる。負にバイアスされたフィラメントを、蒸着プロセス中にも継続して利用する。その加熱装置の電流は、要求されるイオン化のレベルに依存して、40A〜150Aまで変動してもよい。フィラメントのバイアスは、依然として、プラズマ加熱段階のために選択されるバイアスと同じである。
【0033】
銀、別の金属または金属の組み合わせおよび他の非金属元素、例えば、チタン、クロム、ケイ素、アルミニウムおよびそれらの組み合わせおよび反応性気体、窒素または窒素+反応性気体(例えば、CN、BN、CBN、NO、CNO、BNOもしくはCBNO)の任意の組み合わせを使用して、銀金属窒化物を成長させる。好適な金属は、クロムであるが、金属および非金属元素の任意の組み合わせを使用することもできる。
【0034】
銀金属窒化物薄フィルムを、電子ビームプラズマ物理蒸着を使用して、成長させる。フィルムは、多くの層からなる。最初に、金属、例えば、チタンまたはクロム(典型的に、クロム)結合層を、電子ビーム蒸発によって、物品上に蒸着させる。結合層の付着をさらに増強するために、供給源材料を入れたるつぼを、+25〜+100Vの間で正にバイアスする。結合層の蒸着速度を、発光分光分析によって制御する。選択された波長をモニターし、そして所定の計数レベルを維持する。この結合層の蒸着時間は、3から15分間まで変動してもよく、典型的に、5分間である。
【0035】
次の層は、第1の金属窒化物層であり;反応性気体、窒素または窒素+他の反応性気体の組み合わせを、10〜200ml/分(典型的に、60ml/分)の流速でチャンバに進入させる。反応性気体を添加すると、チャンバ圧が増加するため、新たな圧力が、電子ビーム銃により蒸発された金属のレベルによって制御され、そして選択された値で維持される。この層の蒸着時間は、5から100分間まで変動し得る。
【0036】
次の層は、選択された金属対銀で銀を粒度調整(grading−in)することを要する。蒸着する銀の量を、電子ビーム蒸発によって制御して;選択された金属対銀比を得、電子ビームの電流を徐々に変更する。金属対銀比を、発光分光分析によってモニターする。各金属は、選択された、異なる波長を有するため、各特定の金属の選択された波長における計数の数を、銀の選択された波長における計数の数で割ることによって、比を計算する。この粒度調整のための蒸着時間は、1から10分間まで変動してもよく、典型的に、5分間である。銀を選択された比に粒度調整する一方、金属蒸発のレベルを変更することによって、チャンバ圧を選択された値で維持する。次の層は、最終的上部層であり、そして銀金属窒化物層である。それは、粒度調整層段階において選択されたチャンバ圧および金属対銀比を使用して、蒸着される。この層の蒸着時間は、5から1200分間まで変動してもよく、好ましくは、120分間である。
【0037】
金属対銀の比は、最終層の蒸着を通して、変更することができる。これは、粒度調整層プロセスを反復することによって達成される。比は、層の蒸着を通して、不定の倍数に変更することができる。
【0038】
冷却
被覆蒸着後、再充填気体(任意の不活性気体、窒素または不活性気体と窒素との混合物)を、圧力10Paまでチャンバに進入させる。物品温度が200℃未満である場合、大気圧に到達するまで、再充填気体をチャンバにさらに進入させる。
【実施例】
【0039】
実施例1:CrN−Ag蒸着:金属対銀比の効果
CrN−Agを、異なる9つの相対的OESピーク高のクロム対銀比(2.0、1.75、1.5、1.25、1.0、0.75、0.5、0.25、0.1)で、AISI M2鋼試験ディスク上に蒸着させた。純粋なCrNおよび純粋な銀被覆もまた、比較のために蒸着させた。鏡面研磨および硬化したAISI M2鋼試験ディスクを、アルカリ溶液中で超音波洗浄し、そしてTecvac IP90蒸着チャンバ内に入れた。5.0×10−3Pa未満の最終圧力および330℃を超える加工物温度に達した後、チャンバにアルゴンを2.0Paの圧力まで再充填して、スパッタクリーニング工程を行った。試験ディスクを−1000Vでバイアスし、そして5分間、スパッタクリーニングした。プラズマ加熱を5分間、0.3Paのチャンバ圧で実施し、加工物のバイアスを同じ値に維持した。タングステンフィラメントを−100Vでバイアスし、そしてフィラメント加熱装置の電流を55Aまで増加させた。
【0040】
次の段階は、銀金属窒化物フィルムの蒸着であった。これは、いくつかの工程に分けられる:最初に、バイアスされた加工物を、−50Vにまで低下させ、フィラメント加熱装置の電流を71Aまで増加させ、そしてるつぼのバイアスを50Vに設定した。
【0041】
昇華し始めるまで、電子ビームによって、クロムスラグを加熱した。発光分光分析装置は、プラズマ内のクロムを表したが、クロム計数の数字の数値は、そのソフトウェアによって示される。電子ビームの電流を増加させて、昇華の速度を増加させ、ひいてはプラズマ内のクロムの量を上昇させ、クロムのレベルを、約8000の一定のOES計数に設定し、そして5分間、保持して、適切な厚さの金属結合層の蒸着を確実にした。5分間のクロム蒸着後、チャンバに、60ml/分の流速で窒素を再充填した。窒素を導入すると、チャンバ圧が増加した。10分間のCrN蒸着後、2回目の電子ビームによって、銀スラグを加熱し、そして5分間、必要なクロム(金属)対銀比に、緩徐に粒度調整した。比および全圧を、被覆サイクルの残りの間、維持した。最後に、上記のように処理したディスクを冷却した。このプロセスを、すべての選択された比について反復し、11組の試験ディスク(純粋なCrNおよび純粋な銀を含む)を得た。
【0042】
銀金属窒化物被覆の抗微生物挙動に対する銀濃度の効果を、図1に示す。この図は、阻害ゾーンの結果を示す:異なる3種の微生物、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)(MRSA)、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)および表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)を使用する直接接触試験。チャート上の値は、試験片を評価した時に測定した阻害ゾーンの平均であり、純粋なCrNおよび純粋な銀の両方とも、抗微生物効果を及ぼさないことが明らかに認められ得る。銀を金属窒化物に添加する効果は、少なくとも1つの微生物に対する濃度のほとんどについて、いくらかの抗微生物挙動を生じる。
【0043】
銀金属窒化物の磨耗および摩擦挙動に対する銀濃度の効果を、図2に示す。図は、銀の原子パーセントが磨耗係数を増加する場合;kは、少なくとも1桁の大きさだけ減少し、銀%で最小7.29にまで減少することを示す。銀の原子百分率が増加する場合、さらに磨耗係数は増加し、次いで、銀%で34.38を超えるレベルで低下する。純粋な銀は、純粋なCrNより低い磨耗率を示すが、しかし、CrN−Agよりわずかに高く、銀%で7.29、34.38および35.93である。これらの結果は、銀を金属窒化物に添加すると、磨耗係数が、1桁の大きさまで減少することを示し、これは、被覆が磨耗すると、銀が固体の潤滑剤として作用し、自己潤滑性表面を生じることを示唆する。銀のレベルが銀%で最大3.28にまで増加する場合、摩擦の係数もまた増加し、銀のレベルが増加する場合、さらに、摩擦係数が低下する。
【0044】
銀を窒化クロムに添加すると、表面の硬度が減少するが、これを図3に例示する。この図は、銀の原子百分率が増加する場合の表面微小硬度に対する効果を示す。それは、10%未満の銀レベルでは、被覆は、純粋なCrNと比較して相対的に硬質のままであることを示す。しかし、銀のレベルが10%を超えて増加する場合、表面の硬度は、支持体のバルク硬度に近いレベルまで低下する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の銀含有金属窒化物被覆を有する、ヒトまたは動物体内組織と接触した状態で使用するための金属製生物医学的物品。
【請求項2】
金属窒化物被覆は(A)Q−Agの形態であって、ここで、Qは、N、CN、BN、CBN、NO、CNO、BNO、CBNOから選択され、そしてここで、A、BおよびCは、独立して、Ti、Al、Cr、Ta、Y、W、Pt、Au、Cu、Si、NbおよびBから選択され、そしてここで、0.25<x+y+z<4.0である、請求項1に記載の金属製生物医学的物品。
【請求項3】
チタン、チタン合金、ジルコニウム、ジルコニウム合金、コバルト/クロム系合金、ステンレス鋼またはそれらの混合物を含む、請求項1または請求項2に記載の金属製生物医学的物品。
【請求項4】
インプラント、器具または道具である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属製生物医学的物品。
【請求項5】
整形外科用インプラントである、請求項4の記載の金属製生物医学的物品。
【請求項6】
インプラントは連接型整形外科用インプラントである、請求項5に記載の金属製生物医学的物品。
【請求項7】
銀含有金属窒化物被覆は、PVDおよび/またはCVD法によって蒸着されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属製生物医学的物品。
【請求項8】
銀含有金属窒化物被覆は0.1〜99wt%の銀を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属製生物医学的物品。
【請求項9】
銀含有金属窒化物被覆は0.5〜35wt%の銀を含む、請求項8に記載の金属製生物医学的物品。
【請求項10】
銀含有金属窒化物被覆は1〜25wt%の銀を含む、請求項9に記載の金属製生物医学的物品。
【請求項11】
第2の被覆を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の金属製生物医学的物品。
【請求項12】
第2の被覆は、コンポーネントの外表面上の第2の銀含有金属窒化物被覆であり、そして第1の銀含有金属窒化物被覆より多量の銀を含有する、請求項11に記載の金属製生物医学的物品。
【請求項13】
第1の被覆は、銀含有量が表面に向かって増大または減少している勾配被覆である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の金属製生物医学的物品。
【請求項14】
表面上に銀含有金属窒化物被覆を蒸着することによって、ヒトまたは動物体内組織と接触した状態で使用するための金属製生物医学的物品を被覆する方法。
【請求項15】
銀含有金属窒化物被覆は、PVDおよび/またはCVD法によって蒸着される、請求項14に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2011−510725(P2011−510725A)
【公表日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−544787(P2010−544787)
【出願日】平成21年1月20日(2009.1.20)
【国際出願番号】PCT/GB2009/050037
【国際公開番号】WO2009/095705
【国際公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(510209144)テクバック・リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】TECVAC LIMITED
【Fターム(参考)】