説明

被覆金属基材、活性エネルギー線硬化型塗料組成物、及び被覆金属基材の製造方法

【課題】金属基材への密着性、成形加工性、耐溶剤性等の種々の特性に優れ、特に、優れた成形加工性と耐摩耗性とが両立した被覆膜を有する被覆金属基材、その製造用として好適な活性エネルギー線硬化型塗料組成物、該活性エネルギー線硬化型塗料組成物を用いて得られる被覆金属基材及びその製造方法の提供。
【解決手段】特定の化学式で示される燐酸エステル化合物(A)、及び前記(A)と他の原子又は原子団とが結合してなる燐酸エステル誘導体(A)から選択される少なくとも1種と、塩を形成しうる基及び末端エチレン性二重結合基を有するポリウレタン樹脂(B)、及び前記(B)と他の原子又は原子団とが結合してなるポリウレタン樹脂誘導体(B**)から選択される少なくとも1種と、シリカ粒子(C)と、アルミナ粒子(D)とを含有する被覆膜で金属基材の表面の少なくとも一部が被覆された被覆金属基材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基材の表面の少なくとも一部が被覆膜で被覆された被覆金属基材、当該被覆金属基材の製造に好適に用いられる活性エネルギー線硬化型塗料組成物、該活性エネルギー線硬化型塗料組成物を用いて形成された被覆膜を有する被覆金属基材、及び前記活性エネルギー線硬化型塗料組成物を用いた被覆金属基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属基材、例えばアルミニウム、銅、鉄等の金属板やメッキ鋼板等の表面を改質するために、各種の塗料組成物を用いて金属基材の表面に被覆膜を形成する表面処理が行われている。表面処理の主な目的は、指紋跡付着防止性、成形加工性、耐食性等を向上させることである。
例えば、従来、上記のような金属基材の加工成形を行う場合は、金属基材表面に潤滑油を塗布して成形加工し、その後、脱脂する工程を経ていたが、加工成形のためだけに潤滑油を塗布し、加工後、脱脂するのは煩雑であり、潤滑油を塗油する工程及び脱脂する工程を簡略化したいという要望が強い。そのため、潤滑油に代わる潤滑性を付与し、さらには防錆性、他の塗料等の重ね塗りが可能な機能等の種々の機能を付与するために、金属基材表面に被覆膜を設けることが行われている。
【0003】
被覆膜の形成は、主に、有機樹脂(バインダー樹脂)を含有する塗料組成物を金属基材表面に塗装して有機塗膜を形成することによって行われている。
また、このような有機系の被覆膜を形成する前に、予め、金属基材表面に、耐食性や耐溶剤性等を向上させる目的で、クロメート処理、燐酸亜鉛処理等を行うことにより、無機系の下地処理層を形成し、その上に有機系の被覆膜を形成する2コート塗装が通常行われている。特にクロメート処理は、耐食性、金属表面と被覆膜との密着性の向上等に有効であるため、行われることが多かった。
しかし、クロメート処理剤やそれを用いて形成される下地処理層に含まれる6価クロムについては毒性があることが報告されている。そのため、クロメート処理剤に代わる毒性のない処理剤を用いた処理法が要望されているが、毒性がなく、クロメート処理剤に匹敵する密着性を確保できる処理剤の開発は困難で、いまだに十分な密着性が得られる金属表面用の処理剤は得られていない。
そこで、クロメート処理の有無に関わらず、金属基材に対して良好な密着性を有する被覆膜を形成できる塗料、すなわち金属基材表面に直接塗装する1コート塗装であっても良好な密着性を有する被覆膜を形成できる塗料が求められている。
【0004】
一方、従来の塗料・コーティング剤・インキ等の分野においては、塗装・印刷といった塗工に適した塗料粘度を得るために、バインダー樹脂を溶剤で希釈する溶剤型が主流である。しかし、有機溶剤を使用することは、安全衛生性や作業環境の面で問題がある。
有機溶剤を用いない無溶剤型塗料では、有機溶剤による問題は考慮しなくてよいが、常温では塗料粘度が高すぎ、塗工に適した塗料粘度を得るために塗料の加熱を必要とする場合がある。また、モノマーを添加して粘度を下げようとすると、添加する希釈モノマーに皮膚毒性、臭気等があるなど、溶剤型と同様に問題がある。特に、バインダー樹脂として、塗膜物性を改良するために高分子量のものを使用すると、塗料粘度が高くなりすぎるため、高分子量のバインダー樹脂を使用することは困難であり、従って、優れた塗膜物性を得ることが難しい。
【0005】
これらの問題を解決するため、近年、安全無害な水を溶剤として容易に塗料粘度を調整できる、塗料の水性化の研究開発が盛んに行われている。
例えば特許文献1〜4には、要求される塗膜物性を保持し、かつ安全性や環境問題等を全て解決する手段として、活性エネルギー線硬化性水性ポリウレタン樹脂組成物が提案されている。
これらの活性エネルギー線硬化性水性ポリウレタン樹脂組成物は何れも、分子内に活性エネルギー線硬化性エチレン性不飽和二重結合と塩を形成しうる基とを併せ有する水性ポリウレタン樹脂を含有するものであり、その塗膜は活性エネルギー線によって硬化し、アクリロイル基濃度が高く、架橋度が高いほど耐溶剤性は高くなる。
こうした活性エネルギー線硬化性水性ポリウレタン樹脂組成物は、プラスチックフィルム、木質建材、建材化粧紙等の有機材料、金属材料やガラス等の無機材料の何れに対しても密着性が優れ、耐溶剤性にも優れ、塗料、コーティング剤、インキ等の用途に用いられている。
しかし、これらの活性エネルギー線硬化性水性ポリウレタン樹脂組成物においては、水性化のために、樹脂に塩を形成しうる基や極性基を導入する必要があり、このため、極性溶媒に対する充分な耐溶剤性を得るのが困難になる傾向にある。耐溶剤性を得るためにバインダー樹脂の架橋度を極度に上げると、塗膜がもろくなってしまい、密着性及びそれに伴う加工性が低下する傾向がある。このような被覆膜を有する金属基材は、絞り加工などに耐える高度の加工性と密着性を必要とする用途には使用できない。
【0006】
また、特許文献5には、エマルジョンの安定性に優れ、基材への密着性も良い組成物として、重合性二重結合を有し、かつカルボキシル基、燐酸エステル基、カルボン酸塩基、燐酸エステル塩基等のアニオン性親水基を含有する活性エネルギー線硬化性乳化剤を含む活性エネルギー線硬化性エマルジョンが開示されている。
しかし、得られるエマルジョンタイプの組成物は塗膜形成時に均質化し難く、塗膜の表面平滑性、光沢といった塗膜表面の物性ばかりでなく、耐溶剤性、耐薬品性に劣る。
さらには、該エマルジョン組成物は非ニュートン流動を示すので、均質な水溶性タイプに比べ、塗料にした場合、ロール塗工等の塗工適性に劣る。
この、塗膜形成時に均質化しないという欠点は、数ミクロンの薄い硬化塗膜において顕著に現れ、このため、塗膜の耐溶剤性、基材への密着性、加工性に劣る結果となる。
【0007】
このような問題に対し、本出願人らは、特許文献6において、エチレン性不飽和二重結合を有する燐酸エステル化合物、エチレン性不飽和二重結合と、塩を形成しうる基とを合わせ有する水性ポリウレタン樹脂、及びコロイダルシリカを含有する活性エネルギー線硬化性水性塗料組成物を提案している。
【特許文献1】特開平8−259888号公報
【特許文献2】特開平9−31150号公報
【特許文献3】特開平10−251360号公報
【特許文献4】特開平10−251361号公報
【特許文献5】特開平10−298213号公報
【特許文献6】国際公開第03/008507号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記特許文献6記載の活性エネルギー線硬化性水性塗料組成物によれば、クロメート処理を行わなくとも、金属表面への密着性や成形加工性、耐食性、耐溶剤(薬品)性等の種々の機能性に優れた被覆膜を得ることができる。
しかしながら、このような組成物を用いて得られる被覆膜は、耐摩耗性が、それ以前のものに比べて比較的優れているものの、たとえば紙との接触等により傷や摩滅が生じるなど充分ではなく、さらなる向上が求められている。
したがって、本発明の課題は、金属基材への密着性、成形加工性、耐溶剤性等の種々の特性に優れ、特に、優れた成形加工性と耐摩耗性とが両立した被覆膜を有する被覆金属基材、該被覆金属基材の製造用として好適な活性エネルギー線硬化型塗料組成物、該活性エネルギー線硬化型塗料組成物を用いて形成された被覆膜を有する被覆金属基材、及び前記活性エネルギー線硬化型塗料組成物を用いた被覆金属基材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、特定の燐酸エステル化合物及び/又はその誘導体と、特定のポリウレタン樹脂及び/又はその誘導体と、シリカ粒子と、アルミナ粒子とを含有する被覆膜で金属基材の表面の少なくとも一部が被覆された被覆金属基材が上記課題を解決することを見出し、本発明に至った。
すなわち、本発明の第一の態様は、金属基材の表面の少なくとも一部が被覆膜で被覆された被覆金属基材であって、前記被覆膜が、
下記一般式(1)又は(2)で示される燐酸エステル化合物(A)、及び前記燐酸エステル化合物(A)と他の原子又は原子団とが結合してなる燐酸エステル誘導体(A)からなる群から選択される少なくとも1種と、
塩を形成しうる基及び末端エチレン性二重結合基を有するポリウレタン樹脂(B)、及び前記ポリウレタン樹脂(B)と他の原子又は原子団とが結合してなるポリウレタン樹脂誘導体(B**)からなる群から選択される少なくとも1種と、
シリカ粒子(C)と、
アルミナ粒子(D)とを含有することを特徴とする被覆金属基材である。
【0010】
【化1】

(式中、Rはメチル基又は水素原子を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、sは2〜12の整数を示し、mは0〜5の整数を示し、aは1〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示し、cは0〜2の整数を示し、かつa+b+c=3である。

【0011】
【化2】

(式中、Rはメチル基又は水素原子を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、tは2〜4の整数を示し、nは1〜10の整数を示し、aは1〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示し、cは0〜2の整数を示し、かつa+b+c=3である。

【0012】
本発明の第二の態様は、下記一般式(1)又は(2)で示される燐酸エステル化合物(A)と、塩を形成しうる基及び末端エチレン性二重結合基を有する水性ポリウレタン樹脂(B)と、コロイダルシリカ(C)と、アルミナ粒子(D)とを含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型塗料組成物である。
【0013】
【化3】

(式中、Rはメチル基又は水素原子を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、sは2〜12の整数を示し、mは0〜5の整数を示し、aは1〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示し、cは0〜2の整数を示し、かつa+b+c=3である。

【0014】
【化4】

(式中、Rはメチル基又は水素原子を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、tは2〜4の整数を示し、nは1〜10の整数を示し、aは1〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示し、cは0〜2の整数を示し、かつa+b+c=3である。

【0015】
本発明の第三の態様は、金属基材の表面の少なくとも一部に、前記第二の態様の活性エネルギー線硬化型塗料組成物を活性エネルギー線で硬化させてなる被覆膜を有することを特徴とする被覆金属基材である。
本発明の第四の態様は、前記第二の態様の活性エネルギー線硬化型塗料組成物を含む水性塗料を金属基材表面の少なくとも一部に塗装して塗膜を形成した後、該塗膜に活性エネルギー線を照射して被覆膜を形成することを特徴とする被覆金属基材の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によって、金属基材への密着性、成形加工性、耐溶剤性等の種々の特性に優れ、特に、優れた成形加工性と耐摩耗性とが両立した被覆膜を有する被覆金属基材、該被覆金属基材の製造用として好適な活性エネルギー線硬化型塗料組成物、該活性エネルギー線硬化型塗料組成物を用いて形成された被覆膜を有する被覆金属基材、及び前記活性エネルギー線硬化型塗料組成物を用いた被覆金属基材の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
≪被覆金属基材≫
本発明の被覆金属基材は、金属基材の表面の少なくとも一部が、燐酸エステル化合物(A)及び燐酸エステル誘導体(A)からなる群から選択される少なくとも1種(以下、これらをまとめて(A/A)成分ということがある。)と、ポリウレタン樹脂(B)及びポリウレタン樹脂誘導体(B**)からなる群から選択される少なくとも1種(以下、これらをまとめて(B/B**)成分ということがある。)と、シリカ粒子(C)と、アルミナ粒子(D)とを含有する被覆膜で被覆されたものである。
【0018】
<被覆膜>
被覆膜は、少なくとも、(A/A)成分、(B/B**)成分、シリカ粒子(C)及びアルミナ粒子(D)を含有する。
【0019】
[(A/A)成分](燐酸エステル化合物(A))
燐酸エステル化合物(A)は、上記一般式(1)又は(2)で示される化合物である。
これらは、少なくとも1つの(メタ)アクリロイル基を含む燐酸エステル化合物であり、分子末端に少なくとも1つのエチレン性不飽和二重結合を有している点で共通している。
【0020】
一般式(1)中、Rはメチル基又は水素原子である。
は水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、好ましくは水素原子である。
sは2〜12の整数であり、好ましくは2〜4である。
mは0〜5の整数であり、好ましくは1〜5であり、より好ましくは1〜3である。
aは1〜3の整数であり、bは0〜2の整数であり、cは0〜2の整数であり、a+b+c=3である。
aは、好ましくは1又は2である。
bは、好ましくは0である。
cは、好ましくは1又は2である。
【0021】
一般式(1)で示される化合物(以下、化合物(1)ということがある。)としては、例えば、燐酸と2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートを脱水縮合して得られる化合物、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレートにε−カプロラクトンを開環付加して得られる化合物と燐酸の脱水縮合物等を代表として挙げることができる。
【0022】
一般式(2)中、R、R、a、b、cは、一般式(1)中のR、R、a、b、cと同様である。
tは2〜4の整数である。
nは1〜20の整数であり、好ましくは3〜20である。
【0023】
一般式(2)で示される化合物(以下、化合物(2)ということがある。)としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート等のエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等の付加物と燐酸とを脱水縮合して得られる化合物を代表として挙げることができる。
【0024】
燐酸エステル化合物(A)は、塩基性化合物で中和されていることが好ましい。これにより、燐酸エステル化合物(A)が水に溶解又は均一に分散可能となっている。そのため、本発明の被覆金属基材を製造する場合に、当該燐酸エステル化合物(A)を水等の水性媒体に溶解又は分散させて水性塗料とした際に、白濁、沈殿等のない、保存安定性の良い水性塗料が得られる。
【0025】
(燐酸エステル誘導体(A))
燐酸エステル誘導体(A)は、前記燐酸エステル化合物(A)と他の原子又は原子団とが結合してなるものである。
ここで、本明細書及び特許請求の範囲において、「他の原子又は原子団」とは、当該化合物の分子内の原子又は原子団以外の原子又は原子団を意味する。
燐酸エステル化合物(A)が結合する他の原子又は原子団としては、当該被覆膜に含まれる他の成分(ポリウレタン樹脂(B)、シリカ粒子(C)、アルミナ粒子(D)等)、塗料中に含まれる溶剤、金属基材やその表面のめっきに由来する原子又は原子団等が挙げられる。
「燐酸エステル化合物(A)と他の原子又は原子団とが結合してなる」とは、燐酸エステル化合物(A)が、他の原子又は原子団に結合(共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合等)している状態にあることを意味し、当該燐酸エステル化合物(A)が結合した他の原子又は原子団は、燐酸エステル誘導体(A)には含まれない。
【0026】
燐酸エステル誘導体(A)としては、燐酸エステル化合物(A)の反応性活性部位の一部又は全部と他の原子又は原子団とが結合してなるものが挙げられる。
燐酸エステル化合物(A)の反応性活性部位には、少なくとも、末端エチレン性不飽和二重結合基と燐酸基由来の結合基とが含まれる。
末端エチレン性不飽和二重結合基は、上記一般式(1)又は(2)中の基HC=C(R)−におけるHC=C<を示す。
燐酸基由来の結合基は、上記一般式(1)又は(2)中の基−P(=O)(OR(OH)に由来する水酸基(−OH)及び燐酸エステル結合基(≧P−OR)を示す。
末端エチレン性不飽和二重結合基は、通常、二重結合が開裂し、−CH−C<となって、他の原子又は原子団(たとえば(B/B**)成分、シリカ粒子(C)、アルミナ粒子(D)の原子又は原子団等)に共有結合すると考えられる。
水酸基は、通常、−Oとなって、他の原子又は原子団(たとえば金属基材の金属原子)にイオン結合するか、又は他の原子又は原子団(たとえば金属酸化物)に水素結合すると考えられる。
燐酸エステル結合基は、通常、Rが、水性塗料としたときに用いられる水性媒体に由来する原子又は原子団(たとえば水に由来する水素原子、アルコールに由来する炭化水素基R)で置換されて、≧P−O−H、≧P−O−R等を形成すると考えられる。
【0027】
被覆膜中には、(A/A)成分(前記燐酸エステル化合物(A)及び燐酸エステル誘導体(A)からなる群から選択される少なくとも1種)が含まれる。
被覆膜は、燐酸エステル化合物(A)のみを含有してもよく、燐酸エステル誘導体(A)のみを含有してもよく、燐酸エステル化合物(A)及び燐酸エステル誘導体(A)の両方を含有してもよい。
本発明においては、特に、被覆膜の金属基材への密着性を考慮すると、少なくとも、燐酸エステル誘導体(A)を含有することが好ましい。
被覆膜中、(A/A)成分の含有量は、当該被覆膜の総質量に対して、1〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。上記範囲内であると、特に金属基材への密着性が向上する。
【0028】
燐酸エステル誘導体(A)は、通常、他の原子又は原子団の存在下で、燐酸エステル化合物(A)に対し、紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより形成される。
【0029】
[(B/B**)成分](ポリウレタン樹脂(B))
ポリウレタン樹脂(B)は、塩を形成しうる基及び末端エチレン性二重結合基を有するポリウレタン樹脂である。
ここで、本明細書及び特許請求の範囲において、「ポリウレタン樹脂」は、主鎖にウレタン結合(−NH−CO−O−)を有する樹脂であり、少なくとも、ポリイソシアネート成分及びポリオール成分を有する。
ポリウレタン樹脂における「成分」とは、当該樹脂を構成する繰り返し単位を意味し、ポリイソシアネート成分は、2個以上のイソシアネート基(−NCO)を有するポリイソシアネート化合物(B1)に由来するものであり、ポリオール成分は、2個以上の水酸基(−OH)を有するポリオール化合物(B2)に由来するものである。
「塩を形成しうる基」は、塩基と塩を形成して塩の基となる酸性の基、又は、酸と塩を形成して塩の基となる塩基性の基である。
「末端エチレン性二重結合基」は、当該基の末端に、炭素−炭素二重結合を有する基であり、たとえばHC=C<で表される基が挙げられる。末端エチレン性二重結合基としては、たとえばビニル基(HC=CH−)や、ビニル基の水素原子の一部又は全部が置換基(アルキル基等)で置換された基が挙げられる。
【0030】
ポリウレタン樹脂(B)は、塩を形成しうる基を有することにより、水に安定に溶解又は分散可能となっており、本発明の被覆金属基材を製造する際に、当該ポリウレタン樹脂(B)を水等の水性媒体に溶解又は分散させて水性塗料とし、本発明の被覆金属基材の製造に好適に用いることができる。また、末端エチレン性二重結合基を有することにより、活性エネルギー線照射によって当該被覆膜を形成可能となっている。すなわち、当該被覆膜を形成する際、活性エネルギー線を照射すると、末端エチレン性不飽和二重結合が重合して架橋構造を形成し、硬化被膜を形成する。
【0031】
ポリウレタン樹脂(B)は、例えば、ポリイソシアネート化合物(B1)と、ポリオール化合物(B2)と、塩を形成しうる基を有し、かつイソシアネート基との反応性を有する官能基を2個以上有する化合物(B3)(以下、化合物(B3)と略記する。)とを反応させることによって得ることができる。これらの化合物は、たとえば、水酸基1個と不飽和二重結合1個以上とを末端に有する活性エネルギー線硬化性化合物(B4)(以下、化合物(B4)と略記する。)、架橋剤(B5)等を用いて反応させることができる。
【0032】
「ポリイソシアネート化合物(B1)」
ポリイソシアネート化合物(B1)としては、例えば、
1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート;
前記脂肪族ジイソシアネートの三量体、低分子トリオールと前記脂肪族ジイソシアネートのアダクト体等の脂肪族ポリイソシアネート;
イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンー4,4’−ジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、イソプロピリデンシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネート;
前記脂環族ジイソシアネートの三量体、低分子トリオールと前記脂環族ジイソシアネートのアダクト体等の脂環族ポリイソシアネート;
キシリレンジイソシアネート等の芳香脂肪族ジイソシアネート;
キシリレンジイソシアネートの三量体、低分子トリオールと前記芳香脂肪族ジイソシアネートのアダクト体等の芳香脂肪族ポリイソシアネート;ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート;
トリフェニルメタントリイソシアネート、前記芳香族ジイソシアネートの三量体、低分子トリオールと前記芳香族ジイソシアネートのアダクト体等の芳香族ポリイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート等の3官能以上のポリイソシアネート;
コスモネートLL(三井化学(株)製:カルボジイミド化したジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートとジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネートとの混合物);
カルボジライトV−05(日清紡(株)製:カルボジイミド基を有する末端脂肪族ポリイソシアネート化合物)等のカルボジイミド基を有するポリイソシアネート化合物類等が挙げられる。
これらのポリイソシアネート化合物はいずれかを単独で用いてもよく、二種類以上を混合して用いることもできる。
本発明においては、これらの中でも、耐溶剤性に優れた硬化塗膜が得られることから、脂環族ジイソシアネートが好ましく、特にジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートが好ましい。
【0033】
「ポリオール化合物(B2)」
ポリオール化合物(B2)としては、例えば、グリコール類、高分子ポリオール等を使用することが出来る。
グリコール類としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、1,3−ブチレングリコール、1,4−ブチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、シクロヘキシルジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、ひまし油変性ジオール等を挙げることができる。
さらに、グリセリン、トリメチロールプロパン等のトリオール、ペンタエリスリトール等のテトラオール、ひまし油変性ポリオール等を挙げることができる。
【0034】
高分子ポリオールの分子量は数平均分子量(Mn)が500〜5000の範囲のものが好ましい。
高分子ポリオールとしてはポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール等を挙げることができる。
ポリエステルポリオールとしては、エチルグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル等のアルキルモノグリシジルエーテル類、あるいは、アルキルグリシジルエステル(製品名カージュラE10:シェルジャパン製)等から選ばれる1種以上のモノエポキシ化合物と、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ダイマー酸等の脂肪族二塩基酸、又は無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水トリメリット酸等の芳香族多塩基酸又はその無水物、又は無水ヒドロフタル酸、ジメチル−1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族多塩基酸又はその無水物等から選ばれる1種以上の多塩基酸あるいは酸無水物との付加反応及び/又は縮合反応によって得られるポリエステルポリオールが挙げられる。さらに、ポリオールと、ε−カプロラクトン、β−メチル−δ−バレロラクトンの開環重合によって得られるポリエステルポリオールが挙げられる。
ポリカーボネートポリオールとしては、1,6ヘキサンジオールを原料とするヘキサメチレン系ポリカーボネートポリオール、1,4−ブチレングリコールを用いてなるポリカーボネートジオール、ネオペンチルグリコールを用いてなるポリカーボネートジオール、3−メチル−1,5ペンタンジオールを用いてなるポリカーボネートジオール、1,9−ノナンジオールを用いてなるポリカーボネートジオールが挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール及びポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコールが挙げられる。
【0035】
「化合物(B3)」
化合物(B3)は、塩を形成しうる基を有し、かつイソシアネート基との反応性を有する官能基を2個以上有する化合物である。
本発明において、「塩を形成しうる基」とは、上述したように、塩基と塩を形成して塩の基となる酸性の基、又は、酸と塩を形成して塩の基となる塩基性の基である。
【0036】
塩基と塩を形成して塩の基となる酸性の基としては、カルボキシ基、燐酸基、スルホン酸基(−SOH)等が例示される。
リン酸基としては、下記式(g1)又は(g2)で表される基が挙げられる。
【0037】
【化5】

【0038】
上記式(g2)中、Rは炭化水素基を示す。該炭化水素基としては、アルキル基、アリール基等が挙げられる。
アルキル基は、炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等が挙げられる。
アリール基は、炭素数6〜10のアリール基が好ましく、具体的には、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0039】
塩を形成しうる基が、塩基と塩を形成して塩の基となる酸性の基である場合、塩を形成しうる基としては、金属原子との反応性に優れており、被覆膜の金属基材に対する密着性、塗料中のポリウレタン樹脂の水への親和性等に優れることから、カルボキシ基、燐酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される1種以上が好ましい。すなわち、ポリウレタン樹脂(B)の塩を形成しうる基が、カルボキシ基、燐酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
かかる塩を形成しうる基としては、1種単独で含有してもよく、2種以上を含有してもよい。
上記の中でも、とりわけ、カルボキシ基が、種々の点でバランスが取り易く好ましい。
【0040】
酸と塩を形成して塩の基となる塩基性の基としては、アミノ基(−NH)、2級アミノ基、3級アミノ基等が例示される。
ここで、2級アミノ基は、アミノ基の水素原子の1つが炭化水素基で置換されたN−置換アミノ基であり、下記式(g3)で表される。
3級アミノ基は、アミノ基の水素原子の2つが炭化水素基で置換されたN,N−ジ置換アミノ基であり、下記式(g4−1)または(g4−2)で表される。
【0041】
【化6】

【0042】
上記式(g3)、(g4−1)及び(g4−2)中、Rは、それぞれ独立に、炭化水素基を示す。該炭化水素基としては、上記式(g2)中のRの炭化水素基として挙げたものと同様のものが挙げられる。
式(g4−1)中の2つのRはそれぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0043】
塩を形成しうる基が、酸と塩を形成して塩の基となる塩基性の基である場合、塩を形成しうる基としては、3級アミノ基が好ましい。すなわち、ポリウレタン樹脂(B)の塩を形成しうる基が3級アミノ基であることが好ましい。
かかる塩を形成しうる基としては、1種単独で含有してもよく、2種以上を含有してもよい。
【0044】
イソシアネート基との反応性を有する官能基としては、水酸基、アミノ基等が挙げられる。
イソシアネート基との反応性を有する官能基を2個以上有する化合物としては、例えば、ジオール類、ジアミン類等が挙げられる。
【0045】
化合物(B3)として、具体的には、トリメチロールプロパンモノリン酸エステル;トリメチロールプロパンモノ硫酸エステル;二塩基酸成分の少なくとも一部がナトリウムスルホ琥珀酸、あるいはナトリウムスルホイソフタル酸であるポリエステルジオール;N−メチルジエタノールアミン;例えば、リシン、シスチン等のジアミノカルボン酸類;2,6−ジヒドロキシ安息香酸ならびに3,5ジヒドロキシ安息香酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシエチル)プロピオン酸、2,2−ビス(ヒドロキシプロピル)プロピオン酸、ビス(ヒドロキシメチル)酢酸、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブタン酸等のジヒドロキシアルキルアルカン酸;ビス(4−ヒドロキシフェニル)酢酸;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン酸;酒石酸;N,N−ジヒドロキシエチルグリシン;N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−カルボキシ−プロピオンアミド;あるいは、ジヒドロキシアルキルアルカン酸にε−カプロラクトン等のラクトン化合物を付加させたカルボキシル基含有ポリカプロラクトンジオール等が挙げられる。
【0046】
塩を形成しうる基の必要量、すなわち化合物(B3)の使用量は、配合成分の種類と組成比に応じて適宜決めることができる。
たとえば、化合物(B3)として、カルボキシ基等の、塩基と塩を形成して塩の基となる酸性の基を有する化合物を用いる場合、化合物(B3)は、得られるポリウレタン樹脂(B)の酸価が、20〜100KOHmg/gの範囲となる量を用いることが好ましく、20〜60KOHmg/gの範囲となる量を用いることがより好ましい。ポリウレタン樹脂(B)の酸価が上記範囲内であると、当該ポリウレタン樹脂(B)を水性媒体に溶解又は分散させて水性ポリウレタン樹脂の溶液又は分散液とした際の貯蔵安定性に優れる。
【0047】
「活性エネルギー線硬化性化合物(B4)」
活性エネルギー線硬化性化合物(B4)は、水酸基1個と不飽和二重結合1個以上とを末端に有するものである。
活性エネルギー線硬化性化合物(B4)の具体例としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のモノヒドロキシモノ(メタ)アクリレート;あるいは、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ライトエステルG−201P(共栄社化学製)の如きモノヒドロキシジ(メタ)アクリレート;ペンタエリスリトールトリアクリレート等のモノヒドロキシトリアクリレート;ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等のモノヒドロキシペンタアクリレート類や;グリセリンモノ(メタ)アクリレート等のジヒドロキシモノ(メタ)アクリレート;及びこれらにエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフランあるいはεカプロラクトンを付加重合した化合物等が挙げられる。
【0048】
「架橋剤(B5)」
架橋剤(B5)としては、例えば、エチレンジアミン、ピペラジン、N−アミノエチルピペラジン、ヘキサメチレンジアミン、ヒドラジン、ジエチルトリアミン、トリエチルテトラミン、又はテトラエチレンペンタミン等の脂肪族アミン、シクロヘキシレンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミノメチル等の脂環族アミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン、フェニレンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、2,6−ジアミノピリジン等の芳香族アミン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−ジアミノプロピルトリエトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、又は、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン等のアミノシランが挙げられる。
更にケチミン化合物としては、上記例示のジアミン、トリアミン等の1級アミンとイソブチルケトンとの間で脱水生成されたケチミン化合物が挙げられる。
【0049】
ポリウレタン樹脂(B)の代表的な製造方法を以下に示す。
まず、反応溶媒(イソシアネート基と反応しない有機溶媒)中で、ポリイソシアネート化合物(B1)と、ポリオール化合物(B2)と、化合物(B3)とを、ポリオール化合物(B2)の水酸基及び化合物(B3)の官能基の合計に対してイソシアネート基が過剰になるように配合し、これらを反応させることにより、イソシアネート基を末端に有し、かつ塩を形成しうる基を有するポリウレタン(以下、イソシアネート基末端ポリウレタンプレポリマーという。)を得る。
【0050】
水酸基とイソシアネート基の反応は、無溶媒で、又は反応溶媒中で、20〜120℃の範囲内に於いて行うことが出来る。
反応溶媒としては、イソシアネート基に対して不活性な有機溶剤が好ましく、このような有機溶剤として、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、ジオキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ベンゼン、トルエン、キシレン、モノグライム、ジグライム、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン等が挙げられる。これらは、単独あるいは混合して用いることができる。
又、この時、公知の重合禁止剤、反応触媒を適当量任意に添加することが出来る。
重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ターシャリーブチルハイドロキノン、メトキノン等が挙げられる。
反応触媒としては、例えば、ジラウリン酸ジブチル錫、オクチル酸第一錫、トリエチルアミン、N,N−ジメチルベンジルアミン、水酸化ナトリウム、ジエチル亜鉛テトラ(n−ブトキシ)チタン等のウレタン化触媒が挙げられる。
【0051】
次いで、このイソシアネート基末端ポリウレタンプレポリマーに、水酸基1個と不飽和二重結合1個以上とを末端に有する活性エネルギー線硬化性化合物(B4)を反応させて、分子鎖末端に不飽和二重結合を有し、かつ塩を形成しうる基を有するポリウレタン(以下、エチレン性不飽和二重結合含有ポリウレタンプレポリマーという。)を得る。
【0052】
このとき、活性エネルギー線硬化性化合物(B4)を反応する際、あるいは活性エネルギー線硬化性化合物(B4)を反応させた後のその他の反応時においても、ハイドロキノン、ターシャリーブチルハイドロキン、メトキノン等の重合禁止剤を用いることが望ましい。
【0053】
次いで、エチレン性不飽和二重結合含有ポリウレタンプレポリマーを、50℃以下で中和し、イオン化した中和溶液(プレポリマー中和溶液)を水中に分散することにより、当該ポリウレタンプレポリマーを水相に転相し、水・有機溶媒混合溶液を調製する。
【0054】
このとき、塩を形成しうる基の中和は、従来公知の方法により行うことができ、たとえば塩を形成しうる基が酸性の基であれば塩基性の化合物を添加し、塩を形成しうる基が塩基性の基であれば酸性の化合物を添加することにより中和できる。
具体例としては、例えば、塩を形成しうる基の例として挙げたカルボキシ基、燐酸基等の酸性の基を中和する塩基性の化合物としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン等のトリアルキルアミン類;ジメチルモノエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエタノールモノメチルアミン等のアルキルアルカノールアミン類;ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート等の塩基性ビニルモノマーを挙げることができる。
塩を形成しうる基の例として挙げた3級アミノ基等の塩基性の基を中和する酸性の化合物としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、コハク酸、酪酸、グルタル酸、乳酸、クエン酸等の有機酸類や、アクリル酸、メタクリル酸、桂皮酸等の不飽和二重結合を有する有機酸、スルホン酸、パラトルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の有機スルホン酸類、及び、硫酸、燐酸、亜リン酸等の無機酸等が挙げられる。また、水への親和性を向上する為に、3級アミノ基(上記式(g4−1)または(g4−2)で表される基)の全てあるいは一部を公知の4級化剤を用いることにより4級化してもよい。4級化された3級アミノ基としては、たとえば下記式(g5)で表される基が挙げられる。
−N(R)(R’) X (g5)
上記式(g5)中、Rは、式(g4−1)または(g4−2)中のRと同じである。R’は4級化剤に由来する基であり、R’としては、メチル基等が挙げられる。
としては、下記式(g6)で表されるイオン等が挙げられる。
CH−O−S(=O)−O (g6)
前記3級アミンを4級化する4級化剤としては、例えば、ジメチル硫酸、ジエチル硫酸等のジアルキル硫酸類や、メタンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸メチル等のアルキル又はアリールスルホン酸メチル類、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチルグリシジルエーテル、グリシジルメタクリレート等のエポキシ類などを使用できることができる。
【0055】
その後、必要に応じて、前記水・有機溶媒混合溶液に、水又は有機溶媒に溶解した架橋剤(B5)を30℃以下で添加する。このとき、該架橋剤(B5)はエチレン性不飽和二重結合含有ポリウレタンプレポリマーと反応して、エチレン性不飽和二重結合含有ポリウレタンプレポリマーを架橋又はポリマー鎖を延長させる。
ここで、架橋剤(B5)を用いて架橋又はポリマー鎖を延長させる別の方法として、架橋剤(B5)を予め水相に溶解し、次いで、当該水相中に、上記と同様にしてイオン化したプレポリマー中和溶液を分散することにより水・有機溶媒混合溶液を調製する方法が挙げられる。
このようにして得られた水・有機溶媒混合溶液中には、ポリウレタン樹脂(B)が溶解又は分散している。
【0056】
このようにして得られるポリウレタン樹脂(B)においては、ポリイソシアネート化合物(B1)に由来するポリイソシアネート成分と、ポリオール化合物(B2)に由来するポリオール成分とが含まれている。
本発明において、ポリウレタン樹脂(B)は、ポリオール成分中に、トリオール以上の成分、すなわち水酸基を3個以上有するポリオール化合物に由来する成分を、10〜40モル%有することが好ましい。これにより、ポリウレタン樹脂(B)のポリマー鎖の分岐の度合いを高めることができる。ポリマー鎖の分岐度合いが高まると、ポリウレタン樹脂(B)の凝集力が高められ、被覆膜の耐摩耗性が向上する。
水酸基を3個以上有するポリオール化合物としては、ひまし油、トリメチロールプロパン、トリメチロールプロパンEO付加物、トリメチロールエタン、グリセリン、ペンタエリストリオール等、又はこれら化合物とエステル結合したポリエステルポリオールを例示することができる。
【0057】
また、ポリオール成分中に、トリオール以上の成分を10〜40モル%有する場合、ポリウレタン樹脂(B)は、末端エチレン性不飽和二重結合を1.0〜6.0当量/kgの濃度で有することが好ましい。これにより、硬化性が向上し、被覆膜が、優れた耐摩耗性を示すものとなる。
エチレン性不飽和二重結合の濃度は、活性エネルギー線硬化性化合物(B4)に含まれるエチレン性不飽和二重結合の数によって調節でき、たとえば活性エネルギー線硬化性化合物(B4)のエチレン性不飽和二重結合の数を多くするほど、エチレン性不飽和二重結合の濃度を高くすることができる。
ポリウレタン樹脂(B)中の末端エチレン性不飽和二重結合の濃度を1.0当量/kg以上とするためには、活性エネルギー線硬化性化合物(B4)に含まれるエチレン性不飽和二重結合の数を、一分子あたり2個以上とすることが好ましい。
特に、活性エネルギー線硬化性化合物(B4)として、水酸基を有し、一分子あたり3個以上のエチレン性不飽和二重結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物1〜40質量%を、水に転相する前の段階で導入することにより、優れた耐摩耗性を示す被覆膜が得られる。
一分子あたり3個以上のエチレン性不飽和二重結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物(B6)としては、ジトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエルスリトールテトラアクリレート等のモノマー及び/又はオリゴマー、又は、これらのモノマー及び/又はオリゴマーのエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)付加物が挙げられる。
【0058】
また、ポリウレタン樹脂(B*)中に一分子あたり3個以上のエチレン性不飽和二重結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物(B6)1〜40質量%を、水に転相する前の段階で導入(ウレタン樹脂に内包)することにより、優れた耐摩耗性を示す被覆膜が得られる。
一分子あたり3個以上のエチレン性不飽和二重結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物(B6)としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、ジトリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエルスリトールトリアクリレート、ペンタエルスリトールテトラアクリレート、ジペンタエルスリトールヘキサアクリレート等のモノマー及び/又はオリゴマー、又は、これらのモノマー及び/又はオリゴマーのエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)付加物、または、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート、15官能ウレタンアクリレート(例えば、ニューフロンティアR−1150;第一工業製薬社製)等の多官能ウレタンアクリレート等の活性エネルギー線硬化型モノマー、オリゴマーが挙げられる。
【0059】
前記一分子あたり3個以上のエチレン性不飽和二重結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物(B6)を内包する水性ウレタン樹脂(B)の水への分散安定性を保持するために、ノニオン性のポリアルキレンエーテルの構造を公知の方法で導入してもよい。ポリアルキレンエーテルの活性エネルギー線硬化性水性ウレタン樹脂組成物として、1個の水酸基を含有するポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル類を用いた活性エネルギー線硬化性含水樹脂組成物(例えば、特許第2590682号公報参照)、ポリアルキレングリコールがペンダント状に側鎖に導入された活性エネルギー線硬化性含水樹脂組成物(例えば、特開2007−023177、特開2007−023178号公報参照)が提案されている。
【0060】
上記の効果は、特に、ポリウレタン樹脂(B)の数平均分子量(Mn)が1000以上である場合に特に顕著である。
したがって、ポリウレタン樹脂(B)は、ポリオール成分中にトリオール以上の成分を10〜40モル%有し、末端エチレン性不飽和二重結合を1.0〜6.0当量/kg有し、Mnが1000以上のポリウレタン樹脂であることが好ましい。
ポリウレタン樹脂(B)のMnは、より好ましくは1000〜500000であり、さらに好ましくは1000〜100000である。
【0061】
また、ポリウレタン樹脂(B)は、ポリイソシアネート成分の一部乃至は全部が、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート(以下、水添MDIという。)であることが好ましい。すなわち、ポリウレタン樹脂(B)が、ポリイソシアネート化合物(B1)として水添MDIを用いて製造されたものであることが好ましい。かかるポリウレタン樹脂は、特に、耐溶剤性に優れる点で好ましく用いられる。
全ポリイソシアネート化合物(B1)中に占める水添MDIの配合比率は、25質量%以上であることが好ましい。
【0062】
(ポリウレタン樹脂誘導体(B**))
ポリウレタン樹脂誘導体(B**)は、前記ポリウレタン樹脂(B)と他の原子又は原子団とが結合してなるものである。
ポリウレタン樹脂(B)が結合する他の原子又は原子団としては、当該被覆膜に含まれる他の成分(燐酸エステル化合物(A)、シリカ粒子(C)、アルミナ粒子(D)等)、金属基材やその表面のめっきに由来する原子又は原子団等が挙げられる。
「ポリウレタン樹脂(B)と他の原子又は原子団とが結合してなる」とは、ポリウレタン樹脂(B)が、他の原子又は原子団に結合(共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合等)している状態にあることを意味し、当該ポリウレタン樹脂(B)が結合した他の原子又は原子団は、ポリウレタン樹脂誘導体(B**)には含まれない。
【0063】
ポリウレタン樹脂誘導体(B**)としては、ポリウレタン樹脂(B)の反応性活性部位の一部又は全部と他の原子又は原子団とが結合してなるものが挙げられる。
ポリウレタン樹脂(B)の反応性活性部位には、少なくとも、前記塩を形成しうる基と末端エチレン性不飽和二重結合基とが含まれる。
末端エチレン性不飽和二重結合基は、通常、二重結合が開裂し、−CH−C<となって、他の原子又は原子団(たとえば(A/A)成分、シリカ粒子(C)、アルミナ粒子(D)の原子又は原子団等)に共有結合すると考えられる。
【0064】
塩を形成しうる基は、通常、イオン化して他の原子又は原子団(たとえば金属基材の金属原子)にイオン結合すると考えられる。
本発明においては、上述したように、ポリウレタン樹脂(B)における塩を形成しうる基が、カルボキシ基、燐酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される1種以上であることが好ましく、したがって、ポリウレタン樹脂誘導体(B**)においても、塩を形成しうる基が、カルボキシ基、燐酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。
この場合、ポリウレタン樹脂誘導体(B**)においては、これらの塩を形成しうる基の一部又は全部が金属原子と結合していることが好ましい。これらの塩を形成しうる基は、金属原子との反応性に優れており、通常、アニオン化し、金属基材等の金属原子にイオン結合すると考えられる。
【0065】
また、本発明においては、上述したように、ポリウレタン樹脂(B)における塩を形成しうる基が、3級アミノ基であることが好ましく、したがって、ポリウレタン樹脂誘導体(B**)においても、塩を形成しうる基が、3級アミノ基であることが好ましい。
この場合、ポリウレタン樹脂誘導体(B**)においては、塩を形成しうる基の一部又は全部が、金属原子と結合した他原子もしくは原子団、及び/又は金属酸化物と結合した他原子もしくは原子団と結合していることが好ましい。3級アミノ基は、通常、−N(R)等のカチオンとなって、金属基材等の金属原子や、シリカ、アルミナ等の金属酸化物に結合した他原子又は原子団にイオン結合すると考えられ、たとえばシリカに結合した他原子又は原子団としては、ケイ酸が挙げられる。
【0066】
被覆膜中には、(B/B**)成分(前記ポリウレタン樹脂(B)及びポリウレタン樹脂誘導体(B**)からなる群から選択される少なくとも1種)が含まれる。
被覆膜は、ポリウレタン樹脂(B)のみを含有してもよく、ポリウレタン樹脂誘導体(B**)のみを含有してもよく、ポリウレタン樹脂(B)及びポリウレタン樹脂誘導体(B**)の両方を含有してもよい。
本発明においては、特に、被覆膜の金属基材への密着性等を考慮すると、少なくとも、ポリウレタン樹脂誘導体(B**)を含有することが好ましい。
被覆膜中、(B/B**)成分の含有量は、当該被覆膜の総質量に対して、30〜90質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがより好ましい。上記範囲内であると、耐摩耗性が特に良好である。
【0067】
ポリウレタン樹脂誘導体(B**)は、通常、他の原子又は原子団の存在下で、ポリウレタン樹脂(B)に対し、紫外線等の活性エネルギー線を照射することにより形成される。
被覆膜中にポリウレタン樹脂誘導体(B**)が含まれているかどうかは、当該被覆膜について、赤外線分光測定装置等により分析することにより確認できる。
【0068】
[シリカ粒子(C)]
シリカ粒子(C)としては、特に、当該被覆膜の形成の際、シリカ粒子が水性塗料中においてコロイド(コロイダルシリカ)として安定に存在できる(コロイド粒子安定性に優れる)ことから、アルミニウム化合物で表面処理されたものが好ましい。かかるシリカ粒子(C)として、好ましい例示としては、スノーテックスC(日産化学工業(株)製)に含まれるシリカ粒子を挙げることが出来る。
シリカ粒子(C)の配合量は、耐溶剤性を高める点で、被覆膜の総質量に対して、3〜60質量%であることが好ましく、特に、脱脂液等の薬品に対する耐薬品性を考慮すると、5〜25質量%であることがより好ましい。
【0069】
[アルミナ粒子(D)]
アルミナ粒子(D)は、アルミナから構成される粒子である。
アルミナ粒子(D)の平均粒子径(d)は、特に制限はなく、一般的に市販されているアルミナ粒子が使用できる。一般的には、平均粒子径が約20〜40nmから数十μmのアルミナ粒子が市販されている。
本発明においては、特に、アルミナ粒子(D)の平均粒子径(d)と、当該アルミナ粒子(D)を含有する塗料組成物を用いて形成される被覆膜の厚さ(t)とが、d≦(2t/3)の関係を満たすと、優れた耐摩耗性が得られるため好ましい。平均粒径がd>(2t/3)の場合、アルミナ粒子の一部が被覆膜上に突出するおそれがある。被覆膜上に突出したアルミナ粒子は、摩耗時に被覆膜から欠落しやすく、また、欠落したアルミナ粒子が摩耗剤として作用して、アルミナ粒子を含有しない膜よりも摩耗しやすくなるおそれがある。
【0070】
アルミナ粒子(D)の形状は、耐摩耗性に良好な結果を与えることから、球状であることが好ましい。アルミナ粒子(D)がリーフ形状、不定形状の場合、被覆膜形成時に、膜表面からアルミナ粒子(D)の一部が突出することにより、摩耗時に被覆膜から欠落しやすく、また、欠落したアルミナ粒子が摩耗剤として作用して、アルミナ粒子を含有しない膜よりも摩耗しやすくなるおそれがある。
【0071】
被覆膜中のアルミナ粒子(D)の含有量は、当該被覆膜の総質量に対し、1〜20質量%であることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましい。1質量%以上であると、優れた耐摩耗性が得られる。また、20質量%以下であると、他の成分とのバランスが良好であり、本発明の効果に優れる。たとえばアルミナ粒子(D)の含有量が少ないほど、ポリウレタン樹脂(B)の割合が高くなり、架橋反応し得るエチレン性不飽和二重結合の塗料組成物中の濃度が充分に高くなるため、活性エネルギー線の照射により優れた表面硬度の膜が形成され、結果、耐摩耗性が良好となる。
【0072】
[その他]
被覆膜は、任意成分として、上記以外の成分を含有してもよい。
上記以外の成分としては、後述する本発明の第二の態様の活性エネルギー線硬化型塗料組成物において任意成分として挙げる成分、及びそれらの成分が他の原子又は原子団と結合してなるものが挙げられる。
他の原子又は原子団と結合してなる成分として、具体的には、たとえば、シランカップリング剤と、有機材料(たとえば燐酸エステル化合物(A)、ポリウレタン樹脂(B)等)又は無機材料(たとえばコロイダルシリカ(C)、アルミナ粒子(D)、金属基材等)とが結合してなるもの;水に溶解もしくは易分散する活性エネルギー線硬化型モノマー及び/又はオリゴマーが他の原子又は原子団(たとえば上述したポリウレタン樹脂(B)の反応性活性部位)に結合してなる反応生成物等が挙げられる。
【0073】
被覆膜は、目的に応じて、金属基材の少なくとも一部に形成されていればよい。すなわち、少なくとも、耐摩耗性や耐傷付性などを要求される部位に形成されていればよく、金属基材上の一部に形成されていてもよく、金属基材表面全体に形成されていてもよい。
【0074】
被覆膜の厚さは特に限定されず、目的に応じて決めればよい。例えば、耐指紋性、潤滑性を付与したい場合には、通常1〜3μm程度の膜厚が好ましく、アースをとるなど導電性の確保が必要な場合には、0.5〜1μm程度のやや薄い膜厚が好ましい。
なお、上述したように、アルミナ粒子(D)の平均粒子径(d)と、被覆膜の厚さ(t)とは、d≦(2t/3)の関係を満たすことが好ましい。
【0075】
被覆膜の付着量は、特に限定されず、目的とする被覆膜の厚さに応じて決めればよいが、0.2〜5.0g/mの範囲にあることが好ましく、0.5〜3.0g/mの範囲にあることがより好ましい。付着量が0.2g/m以上であると、被覆膜の厚さが、全体的に、十分な耐摩耗性、耐傷付性が得られるものとなる。5.0g/m以下であると、充分な耐摩耗性、耐傷付性が得られるとともに、材料コストが少なく、実用的である。
【0076】
被覆膜の付着量が0.2〜5.0g/mの範囲にある場合、被覆膜は、ボールオンディスク試験(直径10mmのSUS440C製のステンレス球を質量1kgで被験面に押下し、直径70mmの円周上を60rpmで摺動させる)において、摺動を受ける部位の被覆膜が、元の膜厚の1/4摩滅するまでの摺動周回数が500回以上であるか、又は、総摺動距離が100m以上であることが好ましい。
【0077】
また、被覆膜の付着量が0.2〜5.0g/mの範囲にある場合、被覆膜は、紙摩耗性評価試験(JIS−P−0001記載の上質紙を外周に貼付した直径50mm、幅12mmの摩耗輪を質量500gで被験面に押下し、ストロ−ク30mmで往復摺動させる)において、摺動を受ける部位の被覆膜が、元の膜厚の1/4摩滅するまでの摺動回数が3000往復以上であることが好ましい。
このような紙摩耗性評価試験は、たとえば、スガ試験機(株)製のスガ式摩耗試験機を用いて行うことができる。
【0078】
また、被覆膜の付着量が0.2〜5.0g/mの範囲にある場合、被覆膜は、スチールウール摩耗試験評価試験(スチールウール#0000を荷重0.98N/cmで被験面を押下し、ストローク50mmを往復速度40往復/分で往復摺動させる)において、摺動を受ける部位の被覆膜が、金属基材が露出するまでの摺動回数を20往復以上であることが好ましい。
このようなスチールウール摩耗性評価試験は、たとえば、太平理化工業(株)製ラビングテスターI型を用いて行うことができる。
【0079】
<金属基材>
本発明において、金属基材を構成する金属の種類は、特に限定されず、任意の金属基材が適用可能である。
具体的には、例えば、鉄、アルミニウム、チタン、亜鉛、銅、ニッケル等の金属;前記金属を2種以上混合した、もしくは前記金属に異種金属元素又は炭素、ケイ素などの非金属元素を添加した合金等が挙げられる。
異種金属元素としては、コバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素等が挙げられる。
鉄を含む合金としては、鋼、即ち鉄-炭素系合金で炭素濃度が0.02〜約2質量%のものが好ましく、鋼としては、その種類を特に限定せず、炭素だけを合金元素として含む普通鋼(炭素鋼)であっても、普通鋼に炭素以外の1種以上の元素を添加した合金鋼(特殊鋼)、たとえばステンレス鋼、クロムモリブデン鋼等のクロム含有鋼、ニッケル鋼、マンガン鋼等であっても良い。
本発明において、金属基材は、普通鋼、合金鋼、アルミニウム、アルミニウム系合金、チタン、及びチタン系合金のいずれか1種から構成される金属基材(M1)であることが好ましい。
【0080】
また、金属基材は、その表面の少なくとも一部がめっきで被覆されためっき金属基材であってもよい。
めっきの種類は、特に限定しないが、亜鉛、アルミニウム、コバルト、錫及びニッケルのいずれか1種の金属元素からなるめっき、又は、前記金属元素の少なくとも2種、若しくは前記金属元素の少なくとも1種と、前記金属元素以外の金属元素及び/又は非金属元素とを含有してなる合金めっきが好ましい。更には、これらのめっきに、少量の異種元素としてコバルト、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン、クロム、アルミニウム、マンガン、鉄、マグネシウム、鉛、アンチモン、錫、銅、カドミウム、ヒ素等の1種又は2種以上を含有したもの、シリカ、アルミナ、チタニア等の無機物を分散させたものであってもよい。
本発明において、めっきは、前記めっきと他の種類のめっき、例えば鉄めっき、鉄−燐めっき等と組み合わせた複層めっきであってもよい。
金属基材表面へのめっきの付着量は、特に限定されないが、めっきによる金属基材の耐食性や塗装密着性の改善、外観や装飾性の向上などの効果発現を考慮すると、1g/m〜500g/mの範囲内であることが好ましく、3g/m〜250g/mの範囲内であることがより好ましい。
【0081】
めっきの形成方法は、特に限定せず、例えば電気めっき、無電解めっき、溶融めっき、気相めっき等を用いることができる。
めっきを形成する際の処理方法は、連続式、バッチ式のいずれでもよく、例えば溶融めっきでは、連続式は主に薄板材、線材類に用いられ、バッチ式のめっきは、金属基材を、管材、圧延材、加工品、ボルト・ナット類、鋳鍛造品類等の最終的な形状に成形した後に溶融めっき浴に浸漬することによる(いわゆる後めっき)。
また、めっきが施された金属基材に対し、めっき後の処理として、溶融めっき後の外観均一処理であるゼロスパングル処理、めっき層の改質処理である焼鈍処理、表面状態や材質調整のための調質圧延等を行ってもよい。
【0082】
本発明においては、金属基材が、前記金属基材(M1)、又は、該金属基材(M1)の表面の少なくとも一部がめっきで被覆されためっき金属基材(M2)であることが好ましい。
【0083】
金属基材表面の粗さは、特に限定されず、目的に応じて決めればよいが、被覆膜の付着量を考慮して決定することが好ましい。
例えば、被覆膜の付着量が上述した0.2〜5.0g/mの範囲にある場合、金属基材は、少なくとも前記被覆膜で被覆される被覆部位において、3.0μm以下の算術平均粗さを有することが好ましく、特に、2.0μm以下が好ましい。
ここで、本発明における算術平均粗さとは、JIS−B0601(表面粗さの定義と表示)に定義されている算術平均粗さRaのことである。算術平均粗さRaは、被験表面を触針式ピックアップでトレ−スして表面形状を測定する装置(市販の表面粗さ測定機)を用いて容易に測定することができる。
【0084】
以下、被覆膜の付着量が0.2〜5.0g/mの範囲にある場合に金属基材の被覆部位の表面の算術平均粗さが3.0μm以下であることが好ましい理由を説明する。
本発明の被覆金属基材の代表的な製造方法は、後述するように、本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物を含む水性塗料を金属基材表面の少なくとも一部に塗装し、水を主体とする揮発分を蒸発、乾燥させた後、紫外線を照射して被覆膜を形成する方法である。
このような被覆金属基材の製造方法において、金属基材表面に塗布された塗料は、金属基材表面の微小起伏の凹部を埋めるため、凹部には凸部より多くの塗料が滞留する。
金属基材表面の粗さレベルが、塗料乾燥後に形成される塗膜(未硬化皮膜)の平均膜厚と大きく異ならない場合や、平均膜厚より大きい場合、塗料構成成分、塗料と金属表面の濡れ性、乾燥条件などにより程度の差はあるが、金属基材表面の凸部を覆う皮膜厚が特に薄くなったり、金属基材表面の凸部の少なくとも一部が露出して全体の皮膜被覆率が低くなる傾向がある。
特に、もとの金属基材表面の算術平均粗さが3.0μmを超えると、その基材の被覆膜の付着量が0.2〜5.0g/mの範囲では、もとの金属基材表面の凸部を覆う皮膜部位が極端に薄い膜となったり、場合によっては、金属基材表面の凸部の一部が皮膜に覆われず露出し、その部位の耐摩耗性、耐傷付性、さらに防錆性など他の必要特性が不十分になるおそれがある。
【0085】
本発明で用いる金属基材表面の算術平均粗さの制御には、どのような方法を用いてもよい。例えば、固体金属の圧延により圧延ロ−ル表面の凹凸(算術平均粗さが3.0μm以下)を金属基材に転写する方法、金属の鋳造時に金型表面の凹凸(算術平均粗さが3.0μm以下)を鋳造材に転写する方法、金属基材表面を酸、アルカリ液や電解液などにより化学的にエッチングする方法、ブラストやウォータージェットなどで機械的に研削し、算術平均粗さが3.0μm以下の凹凸を付与する方法等が挙げられる。
【0086】
金属基材の形状は、特に限定されず、目的に応じ種々の形状が使用可能であるが、板材、帯材、棒材、形材(例えばH鋼等の3次元の金属基材)、管材、線材が好ましい。
金属基材の製造方法も、特に限定されず、従来公知の製造方法が使用できる。例えば、製造の最終工程として冷延、熱延などの圧延、鋳造、鍛造、押出し、引き抜きなどを行う製造方法が挙げられる。
【0087】
本発明において、金属基材表面には、下地処理層が設けられていてもよい。すなわち、被覆膜が形成される前に、金属基材表面にリン酸塩処理やクロメート処理などの下地処理を施し、クロメート皮膜等の下地処理層を設けることにより、被覆膜の金属基材面に対する密着性や耐食性がさらに向上する。
ただし、本発明においては、安全性、環境影響等を考慮すると、金属基材が、クロメート処理が施されていない金属基材であることが好ましい。
【0088】
クロメート処理としては、電解型クロメート、反応型クロメート及び塗布型クロメートのいずれでもよい。
クロメート皮膜は、部分還元したクロム酸にシリカ、リン酸、親水性樹脂の中から1種あるいは2種以上を含有したクロメート液を塗布、乾燥したものが好ましい。
クロメート処理におけるクロメートの付着量としては、金属クロム換算で5〜150mg/mが好ましく、10〜50mg/mがより好ましい。5mg/m以上であると優れた密着性及び耐食性が得られる。付着量が150mg/mを越えると、摺動を受けた時や成形加工時にクロメート皮膜の凝集破壊が生じ、耐摩耗性や加工性が低下するおそれがある。
リン酸塩処理において、リン酸塩の付着量としては、リン酸塩として0.5〜3.5g/mの範囲が好ましい。
【0089】
金属基材表面には、さらに、目的に応じ、下地に酸洗処理、アルカリ処理、電解還元処理、コバルトフラッシュ処理、シランカップリング剤処理、無機シリケート処理などが施されていてもよい。
【0090】
本発明の被覆金属基材は、たとえば、上記各成分を含有する水性塗料を、金属基材表面の少なくとも一部に塗装し、硬化させる等により製造できる。
本発明の被覆金属基材の製造に用いられる水性塗料としては、下記本発明の第二の態様の活性エネルギー線硬化型塗料組成物が好適に用いられる。
本発明の被覆金属基材の製造には、下記本発明の第四の態様の被覆金属基材の製造方法が好適に用いられる。
【0091】
≪第二の態様≫
本発明の第二の態様の活性エネルギー線硬化型塗料組成物(以下、塗料組成物と略記することがある。)は、燐酸エステル化合物(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、コロイダルシリカ(C)及びアルミナ粒子(D)を含有する。
ここで、本明細書及び特許請求の範囲において、「活性エネルギー線」とは、紫外線、可視光、電子線、X線等のエネルギー線をいう。
本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物は、活性エネルギー線の照射により硬化する活性エネルギー硬化性を有するものであり、かかる活性エネルギー線硬化型塗料組成物を用いて形成された塗膜に活性エネルギーを照射することにより、当該塗膜が硬化して、被覆膜が形成される。
このようにして形成される被覆膜は、金属基材表面に対して優れた密着性を有する。これは、活性エネルギー線照射により、燐酸エステル化合物(A)の末端エチレン性不飽和二重結合及び水性ポリウレタン樹脂(B)の末端エチレン性不飽和二重結合が重合して架橋構造を形成するとともに、燐酸エステル化合物(A)に由来する燐酸エステル結合基(≧P−OR)が、金属基材表面に対して親和性あるいは化学的結合性を有しているためと考えられる。
【0092】
[燐酸エステル化合物(A)]
燐酸エステル化合物(A)としては、上記本発明の第一の態様の被覆金属基材において挙げた燐酸エステル化合物(A)と同様のものが挙げられる。
【0093】
燐酸エステル化合物(A)は、塩基性化合物で中和されていることが好ましい。これにより、燐酸エステル化合物(A)が水に溶解又は均一に分散し、白濁、沈殿等のない保存安定性の良い活性エネルギー硬化型塗料組成物が得られる。
【0094】
本発明の塗料組成物中、燐酸エステル化合物(A)の配合量は、当該塗料組成物の総固形分に対して、1〜30質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましい。上記範囲内であると、特に金属基材への密着性が向上する。
【0095】
[水性ポリウレタン樹脂(B)]
水性ポリウレタン樹脂(B)は、塩の基を形成しうる基及び末端エチレン性不飽和二重結合を有するポリウレタン樹脂が水性媒体に溶解又は分散してなるものである。
水性媒体(溶媒又は分散媒)としては、水を基本とするものであればよい。ここで、水を基本とするとは、水のみからなるか、又は、水と、水に溶解する、あるいは混和、縣濁して水と分離しない有機溶剤とを含有する溶剤を意味する。
水性ポリウレタン樹脂(B)は、塩の基を形成しうる基を有することにより、水性媒体に安定に溶解又は分散している。水性ポリウレタン樹脂(B)は、活性エネルギー線が照射されると、エチレン性不飽和二重結合が重合して架橋構造を形成し、硬化被膜を形成する。
【0096】
水性ポリウレタン樹脂(B)としては、上記本発明の第一の態様の被覆金属基材において挙げたポリウレタン樹脂(B)が水に溶解又は分散してなるものが挙げられる。
水性ポリウレタン樹脂(B)の好ましい態様は、水に溶解又は分散している以外は、上記ポリウレタン樹脂(B)と同様である。
水性ポリウレタン樹脂(B)は、例えば、上述したように、ポリウレタン樹脂(B)の製造において、当該ポリウレタン樹脂(B)を含有する水・有機溶媒混合溶液を調製した後、該水・有機溶媒混合溶液から有機溶媒の一部又は全部を減圧留去することによって得ることができる。
【0097】
本発明の塗料組成物中、水性ポリウレタン樹脂(B)の配合量は、当該塗料組成物の総固形分に対して、30〜90質量%であることが好ましく、40〜80質量%であることがより好ましい。上記範囲内であると、耐摩耗性が特に良好である。
【0098】
[コロイダルシリカ(C)]
本発明に用いられるコロイダルシリカ(C)は、負に帯電した無定型シリカ粒子が水中に分散してコロイド状をなしているものである。
コロイダルシリカ(C)は、粒子安定化のためにアミン等を加え、ゾル安定化されていてもよい。
コロイダルシリカ(C)としては、特に、コロイド粒子安定性に優れることから、アルミニウム化合物で表面処理されたコロイダルシリカが好ましい。かかるコロイダルシリカとして、好ましい例示としては、スノーテックスC(日産化学工業(株)製)を挙げることが出来る。
コロイダルシリカ(C)の配合量は、耐溶剤性を高める点で、活性エネルギー線硬化型塗料組成物の総固形分に対して、3〜60質量%であることが好ましく、特に、脱脂液等の薬品に対する耐薬品性を考慮すると、5〜25質量%であることがより好ましい。
【0099】
[アルミナ粒子(D)]
アルミナ粒子(D)としては、上記本発明の第一の態様の被覆金属基材において挙げたアルミナ粒子(D)と同様のものが挙げられる。
塗料組成物中のアルミナ粒子(D)の配合量は、当該塗料組成物の総固形分に対し、1〜20質量%であることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましい。1質量以上であると、優れた耐摩耗性が得られる。また、20質量%以下であると、他の成分とのバランスが良好であり、本発明の効果に優れる。たとえばアルミナ粒子(D)の含有量が少ないほど、水性ポリウレタン樹脂(B)の割合が高くなり、架橋反応し得るエチレン性不飽和二重結合の塗料組成物中の濃度が充分に高くなるため、活性エネルギー線の照射により優れた表面硬度の膜が形成され、結果、耐摩耗性が良好となる。
【0100】
[任意成分]
本発明の塗料組成物は、任意成分として、上記燐酸エステル化合物(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、コロイダルシリカ(C)及びアルミナ粒子(D)以外の成分を含有してもよい。
本発明の塗料組成物は、特に、シランカップリング剤を含有することが好ましい。これにより、高い耐煮沸性を得ることが出来る。
シランカップリング剤としては、分子中に、有機材料(たとえば燐酸エステル化合物(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)等)との親和性や反応性を有する官能基又は分子単位と、無機材料(たとえばコロイダルシリカ(C)、アルミナ粒子(D)、金属基材等)との親和性や反応性を有するアルコキシシラン基とを有するシランカップリング剤が好ましい。
かかるシランカップリング剤として、具体的には、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(βメトキシエトキシ)シラン等のようなビニルシラン、γ−(メタクリロルオキシプロピル)トリメトキシシラン、γ−(メタクリロルオキシプロピル)メチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリロイルシラン、β(3,4エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等のエポキシシラン、γ−アニリノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、n−デシルトリメトキシシラン,n−オクタデシルトリメトキシシラン等のアルキルシラン等を挙げることが出来る。
これらのシランカップリング剤は、いずれか1種を単独で用いてもよく、これらの中から2種以上を予め混合し、あるいは別々に添加することができる。例えば、アミノシランとエポキシシランを予め混合し、添加することができる。
シランカップリング剤としては、特に耐煮沸性に優れることから、(メタ)アクリロイルシランが好ましく、γ−(メタクリロルオキシプロピル)トリメトキシシランが最も好ましい。
シランカップリング剤の配合量は、任意に選ぶことが出来るが、耐煮沸性に優れることから、該塗料組成物の総固形分に対し、0.1〜20質量%程度が好ましい。
【0101】
本発明の塗料組成物には、水性ウレタン樹脂の活性エネルギー線による架橋反応を進め、耐摩耗性を更に向上するために、水に溶解もしくは易分散する活性エネルギー線硬化型モノマー、オリゴマーを必要に応じて添加することができる。
活性エネルギー線硬化型モノマーの具体例としては、EO付加トリメチロールプロパントリアクリレート及びPO付加トリメチロールプロパントリアクリレートのポリアルキレンエーテル変性の多官能アクリレート、ペンタエリストールトリアクリレートのOH基を有する多官能モノマー、ペンタエリストールトリアクリレートのOH基を有する多官能モノマーに無水酸を反応せしめた多塩基酸変性多官能アクリレート(例えば、東亞合成(株)製、アロニックスTO−756)のアミン中和物、或いはグリセリントリアクリレート等が挙げられる。
また、活性エネルギー線硬化型オリゴマーの代表例としては、日本合成(株)製の紫光UV101等の多官能オリゴマーが挙げられる。
これらの化合物は、好ましくは1〜40質量%が添加できるが、添加量が多くなると被覆膜が脆くなり耐摩耗性が劣化することになる。
【0102】
また、水性ウレタン樹脂の活性エネルギー線による架橋反応を進め、耐摩耗性を更に向上するために、一分子あたり3個以上のエチレン性不飽和二重結合を有する活性エネルギー線硬化型化合物(B6)1〜40質量%を、水性ウレタン樹脂(B)の水に転相する前の段階で導入することができる(ウレタン樹脂に内包)。
一分子あたり3個以上のエチレン性不飽和二重結合を有する活性エネルギー線硬化型化合物(B6)としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、グリセリントリアクリレート、ジトリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエルスリトールトリアクリレート、ペンタエルスリトールテトラアクリレート、ジペンタエルスリトールヘキサアクリレート等のモノマー及び/又はオリゴマー、又は、これらのモノマー及び/又はオリゴマーのエチレンオキシド(EO)及び/又はプロピレンオキシド(PO)付加物、または、イソシアヌル酸EO変性トリアクリレート、15官能のウレタンアクリレート(例えば、ニューフロンティアR−1150;第一工業製薬社製)等の多官能ウレタンアクリレート等の活性エネルギー線硬化型モノマー、オリゴマーが挙げられる。
前記、一分子あたり3個以上のエチレン性不飽和二重結合を有する活性エネルギー線硬化性化合物(B6)の水への分散安定性を保持するために、水性ウレタン樹脂(B)にノニオン性のポリアルキレンエーテルの構造を公知の方法で導入してもよい。ポリアルキレンエーテルの構造を活性エネルギー線硬化性水性ウレタン樹脂の導入した例は、1個の水酸基を含有するポリアルキレングリコールモノアルキルエーテル類を用いた活性エネルギー線硬化性含水樹脂組成物(例えば、特許第2590682号公報参照)、ポリアルキレングリコールがペンダント状に側鎖に導入された活性エネルギー線硬化性含水樹脂組成物(例えば、特開2007−023177号公報、特開2007−023178号公報参照)等が挙げられる。
【0103】
本発明の塗料組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記燐酸エステル化合物(A)以外の、一分子中に1つ以上のエチレン性不飽和二重結合を有する燐酸エステル化合物(A’)を含有してもよい。
燐酸エステル化合物(A’)としては、例えば、化合物(1)中の燐酸モノエステル化合物又は燐酸ジエステル化合物と、アルキルモノグリシジルエーテル類、アルキルグリシジルエステル乃至はポリエポキシ化合物との反応物;グリシジルメタクリレート等のエポキシ基と不飽和二重結合とを併せ有する化合物と、燐酸、燐酸モノエステル化合物又は燐酸ジエステル化合物等との反応物等を挙げることが出来る。
【0104】
本発明の塗料組成物は、さらに、必要に応じて、公知の添加剤、たとえば活性エネルギー線重合性モノマー、活性エネルギー線重合性オリゴマー、活性エネルギー線硬化用重合開始剤、樹脂組成物、アミノプラスト、希釈剤、界面活性剤、可塑剤、ワックス、加水分解防止剤、乳化剤、レベリング剤、消泡剤、抗酸化剤、抗菌剤、シリカ粉末等の無機粉末、染料、顔料等の着色料、防錆顔料、防錆剤等を含有してもよい。
特に、活性エネルギー線として紫外線を用いる場合は、光重合開始剤を配合することが好ましい。光重合開始剤の種類は公知の材料から任意に選ぶことができる。光重合開始剤の添加量も任意に選ぶことができ、例えば、該塗料組成物の総固形分に対し、0.2〜20質量%の範囲であることが好ましく、0.5〜10質量%がより好ましい。
なお、活性エネルギー線として電子線を用いて塗膜を硬化させる場合は、重合開始剤は特に必要としない。
【0105】
[活性エネルギー線硬化型塗料組成物の調製方法]
本態様の活性エネルギー線硬化型塗料組成物は、上記した燐酸エステル化合物(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、コロイダルシリカ(C)及びアルミナ粒子(D)を水性媒体に溶解又は分散させることにより調製できる。たとえば、水に溶解又は分散した、又は水希釈性を保持した水性ポリウレタン組成物(B)、コロイダルシリカ(C)及びアルミナ粒子(D)との混合物と、燐酸エステル化合物(A)とを、混合することにより調製することが好ましい。また、アルミナ粒子(D)は、水性媒体中での貯蔵安定性を考慮して、アニオン系の界面活性剤、ノニオン系の界面活性剤、水系分散剤あるいはワックス等にて予め水に分散して使用するとよい。
このとき、燐酸エステル化合物(A)は、白濁、沈殿のない保存安定性の良い活性エネルギー線硬化型塗料組成物を得るために、他の成分と混合する前に、塩基性化合物で中和することが好ましい。
【0106】
水性媒体(溶媒又は分散媒)としては、上述したように、水を基本とするものであればよく、水の他に、燐酸エステル化合物(A)、水性ポリウレタン樹脂(B)、コロイダルシリカ(C)及びアルミナ粒子(D)を溶解又は分散し得る範囲で、水性塗料に使用できる有機溶剤を含んでいてもよい。
有機溶剤としては、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;プロピルセルセロソルブ、ブチルセロソルブ、ブチルジグリコールエーテル等のグリコール誘導体、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等の含窒素水溶性溶剤が挙げられる。場合によっては、塗料の分散安定性を向上するために、ブタノール、ヘキサノール等の非水溶剤を加えても良い。
有機溶剤の含有量は、安全性、衛生性あるいは、環境汚染を少なくする意味から、水性媒体の総質量に対して5質量%以下が好ましい。
【0107】
また、上述したような添加剤を配合する場合、添加剤は、上記の塗料組成物の調製の際に添加することができるが、特開平8−259888号公報に開示されているように、水性ポリウレタン樹脂(B)を調製する際に、水に転相する前の段階で導入することもできる。この場合、添加剤が非水溶性化合物の場合であっても容易に混合することができるため好ましい。この場合、これらの添加剤の混合は、水酸基とイソシアネート基との反応が全て終了した後に行うことが好ましい。
【0108】
≪第三の態様≫
本発明の第三の態様は、金属基材の表面の少なくとも一部に、前記本発明の第二の態様の活性エネルギー線硬化型塗料組成物を活性エネルギー線で硬化させてなる被覆膜を有する被覆金属基材である。
前記本発明の第二の態様の活性エネルギー線硬化型塗料組成物を活性エネルギー線で硬化させてなる被覆膜は、上記本発明の第一の態様の被覆金属基材の被覆膜と同様、金属基材への密着性、成形加工性、耐溶剤性等の種々の特性に優れ、特に、優れた成形加工性と耐摩耗性とが両立したものである。
【0109】
被覆膜は、目的に応じて、金属基材の少なくとも一部に形成されていればよい。すなわち、少なくとも、耐摩耗性や耐傷付性などを要求される部位に形成されていればよく、金属基材上の一部に形成されていてもよく、金属基材表面全体に形成されていてもよい。
【0110】
被覆膜の厚さは特に限定されず、目的に応じて決めればよい。例えば、耐指紋性、潤滑性を付与したい場合には、通常1〜3μm程度の膜厚が好ましく、アースをとるなど導電性の確保が必要な場合には、0.5〜1μm程度のやや薄い膜厚が好ましい。
アルミナ粒子(D)の平均粒子径(d)と、被覆膜の厚さ(t)とは、上記本発明の第一の態様の被覆金属基材の被覆膜と同様、d≦(2t/3)の関係を満たすことが好ましい。
【0111】
被覆膜の付着量は、特に限定されず、目的とする被覆膜の厚さに応じて決めればよいが、0.2〜5.0g/mの範囲にあることが好ましく、0.5〜3.0g/mの範囲にあることがより好ましい。付着量が0.2g/m以上であると、被覆膜の厚さが、全体的に、十分な耐摩耗性、耐傷付性が得られるものとなる。5.0g/m以下であると、充分な耐摩耗性、耐傷付性が得られるとともに、材料コストが少なく、実用的である。
【0112】
被覆膜の付着量が0.2〜5.0g/mの範囲にある場合、被覆膜は、ボールオンディスク試験(直径10mmのSUS440C製のステンレス球を質量1kgで被験面に押下し、直径70mmの円周上を60rpmで摺動させる)において、摺動を受ける部位の被覆膜が、元の膜厚の1/4摩滅するまでの摺動周回数が500回以上であるか、又は、総摺動距離が100m以上であることが好ましい。
【0113】
また、被覆膜の付着量が0.2〜5.0g/mの範囲にある場合、被覆膜は、紙摩耗性評価試験(JIS−P−0001記載の上質紙を外周に貼付した直径50mm、幅12mmの摩耗輪を質量500gで被験面に押下し、ストロ−ク30mmで往復摺動させる)において、摺動を受ける部位の被覆膜が、元の膜厚の1/4摩滅するまでの摺動回数が3000往復以上であることが好ましい。
このような紙摩耗性評価試験は、たとえば、スガ試験機(株)製のスガ式摩耗試験機を用いて行うことができる。
【0114】
また、被覆膜の付着量が0.2〜5.0g/mの範囲にある場合、被覆膜は、スチールウール摩耗試験評価試験(スチールウール#0000を荷重0.98N/cmで被験面に押下し、ストローク50mmを往復速度40往復/分で往復摺動させる)において、摺動を受ける部位の被覆膜が、金属基材が露出するまでの摺動回数を20往復以上であることが好ましい。
このようなスチールウール摩耗性評価試験は、たとえば、太平理化工業(株)製ラビングテスターI型を用いて行うことができる。
【0115】
[金属基材]
本発明において、金属基材を構成する金属の種類は、特に限定されず、任意の金属基材が適用可能である。
具体的には、上記本発明の第一の態様の被覆金属基材において、金属基材として挙げたものと同様のものが挙げられる。
【0116】
本態様の被覆金属基材は、下記本発明の第四の態様の被覆金属基材の製造方法によって製造することができる。
【0117】
≪第四の態様≫
次に、本発明の第四の態様の被覆金属基材の製造方法について説明する。
本態様の被覆金属基材の製造方法は、前記本発明の第二の態様の活性エネルギー線硬化型塗料組成物を含む水性塗料を金属基材表面の少なくとも一部に塗装して塗膜を形成した後、該塗膜に活性エネルギー線を照射して被覆膜を形成することを特徴とする。
【0118】
被覆金属基材の製造方法には、通常、下記の工程の1つ以上が含まれる。
(1)金属基材表面の汚れを除去し、塗料組成物の濡れ性や密着性を向上するための工程、例えば、アルカリ脱脂、酸洗、サンドブラスト、ショットブラスト、水洗、湯洗、溶剤洗浄、研磨等の公知の工程、(2)塗料組成物の濡れ性や密着性をさらに向上するための前処理工程、例えば、クロメート処理、燐酸亜鉛処理、燐酸鉄処理、その他のリン酸塩処理、複合酸化被膜処理、NiやCo等の置換析出処理等の公知である処理、及びこれらの処理を組み合わせた処理工程、(3)塗料組成物を金属基材表面に塗布する、又は付着させる工程、(4)金属基材表面上の塗料組成物中の溶媒を揮発させて塗膜を形成する工程、(5)塗膜の硬化反応を促進するための加熱工程、(6)塗膜の硬化反応を促進するための活性エネルギー線の照射工程、(7)前記した(4)及び/又は(5)の工程を促進するために事前に金属基材を予熱する工程等。
【0119】
本発明の第二の態様の活性エネルギー線硬化型塗料組成物は、活性エネルギー線によって組成物の硬化反応が進むため、たとえば、前記(3)の工程、(4)の工程、及び(6)の工程を必須の工程とし、その他の工程を適宜組み合わせて実施することにより、金属基材の表面に被覆膜を形成できる。
これらの工程の順序は、特に制限されず、目的や処理薬剤の種類に応じて、適宜選択し、順序を決めればよい。
また、これらの工程は、従来公知の方法により行うことができ、例えば(3)の塗布工程は、例えばロールコーター、カーテンコーター、浸漬塗布、スプレー、刷毛塗り、静電塗装等の公知の方法によることができる。
(4)の溶媒揮発工程は、風乾、熱風加熱、誘導加熱、近赤外線・遠赤外線等のエネルギー線照射、超音波振動等の公知の方法によることができる。
(5)の工程は、例えば(4)の工程で使用した金属材料を加熱する方法によることができる。
【0120】
(6)の工程は、活性エネルギー線照射工程であり、活性エネルギー線硬化型塗料組成物の塗膜は、紫外線、可視光、電子線、X線等の活性エネルギー線を照射することによって硬化し、硬化塗膜(被覆膜)が形成される。塗膜の硬化は、活性エネルギー線を照射によって、該塗膜中の各成分の一部又は全部が他の原子又は原子団と反応して結合を形成するためと考えられる。このとき生じる反応としては、たとえば、水性ポリウレタン樹脂(B)の分子間の架橋;水性ポリウレタン樹脂(B)と燐酸エステル化合物(A)、コロイダルシリカ(C)、アルミナ粒子(D)、金属基材等との反応;燐酸エステル化合物(A)とコロイダルシリカ(C)、アルミナ粒子(D)、金属基材等との反応等が考えられる。
【0121】
活性エネルギー線としては、紫外線、可視光、電子線、X線等が挙げられ、その中でも紫外線又は電子線が好ましく、特に、設備費やランニングコストが比較的安価であることから、紫外線が好ましい。
活性エネルギー線の照射は、空気等の酸素を含む雰囲気中で、又は不活性ガス雰囲気中で行うことができる。
特に、活性エネルギー線が紫外線である場合は、耐摩耗性が更に向上することから、紫外線を、不活性ガス雰囲気下で前記塗膜に照射することが好ましい。不活性ガス雰囲気下で紫外線を照射することにより、大気中の酸素によるラジカルの消費が抑制され、エチレン性不飽和結合の架橋反応を促進することができる。その結果、被覆膜の架橋度が向上し、耐摩耗性が向上する。
不活性ガスとしては、窒素ガス、炭酸ガス、アルゴンガス、及びこれらの少なくとも1種を含むガス等が挙げられる。これらの不活性ガス中の酸素濃度は0〜10%が望ましい。
【0122】
塗膜に紫外線を照射して硬化させる場合は、光源として、例えば水銀灯、キセノンランプ等を用いることにより紫外線を照射できる。
塗膜に電子線を照射して硬化させる場合は、加速電圧20〜2000KeV、好ましくは150〜300KeVの電子線照射装置を用いて、少量の酸素を含むか、又は不活性ガス雰囲気中で、全照射量が5〜200kGy、好ましくは10〜100kGyとなるように照射することが好ましい。
【0123】
(7)の工程は、(4)、(5)で述べた、金属基材を加熱する方法によることができる。それぞれのプロセスの具体的な条件については、適宜選択すればよい。
【実施例】
【0124】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に述べる。以下において、特に断りのない限り、部は質量部、%は質量%を表す。また、以下の文中、粘度はガードナー粘度を表す。ガードナー粘度は、一般に樹脂合成時に使用するガードナー気泡粘度計を用いて測定される値であり、基準の粘度菅と気泡が上昇する速度を比較することにより粘度を表すものである。ガードナー粘度は、アルファベットで、U−V等と表記され、U−Vの表記は“基準粘度管U”と“V”との中間の粘度を意味する。
先ず、合成例1〜6により、前記水性ポリウレタン樹脂(B)の合成例を示し、具体的に説明する。
【0125】
合成例1[水性ポリウレタン樹脂aの合成]
還流冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた撹拌機付き反応器に、ポリオキシエチレングリコール(Mn=1000)234部、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸102部、ひまし油LM−R(豊国製油(株)製)113部、水添MDI(ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート)390部、メチルエチルケトン839部、ジブチル錫ラウリレート0.02部を入れて撹拌しながら70℃まで0.5時間で昇温し、70〜75℃で3時間反応させた。
これに、tert−ブチルハイドロキノン0.05部、ライトエステルG−201P(共栄社化学(株)製)161部、メチルエチルケトン384部を加え、窒素導入管を空気導入管に替えて、再び70〜75℃で、4時間毎にtert−ブチルハイドロキノン0.04部を加えながら10時間反応させて、ポリウレタン樹脂の溶液を得た。
この溶液に、トリエチルアミン70部、純水2609部を徐々に加え、30℃で2時間保持後、サーフィノールAK02(日信化学工業(株)製)0.5部を加えて50℃にてメチルエチルケトンを減圧留去して、透明液体の水性ポリウレタン樹脂aを得た。
該水性ポリウレタン樹脂aは、固形分濃度:29.3%、酸価:38.7KOHmg/g、粘度:U−V、ポリオール成分中のトリオール含有量:12モル%、末端エチレン性不飽和二重結合の濃度:1.4当量/kg、数平均分子量(Mn):3000であり、活性エネルギー線硬化性を有していた。
【0126】
合成例2[水性ポリウレタン樹脂bの合成]
還流冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた撹拌機付き反応器に、ポリオキシエチレングリコール(Mn=600)37部、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸69部、トリメチロールプロパン28部、水添MDI(ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート)315部、ヘキサメチレンジイソシアネート28部、メチルエチルケトン498部、ジブチル錫ラウリレート0.02部を入れて撹拌しながら70℃まで0.5時間で昇温し、70〜75℃で3時間反応させた。
これに、tert−ブチルハイドロキノン0.05部、アロニックスM−403(東亜合成(株)製)741部、メチルエチルケトン743部を加え、窒素導入管を空気導入管に替えて、再び70〜75℃で、4時間毎にtert−ブチルハイドロキノン0.04部を加えながら6時間反応させて、ポリウレタン樹脂の溶液を得た。
この溶液に、トリエチルアミン52部添加後、純水2922部及び無水ピペラジン21部からなる溶液を30分間かけて徐々に加え、40℃で1時間撹拌混合した。これに、サーフィノールAK02(日信化学工業(株)製)0.5部を加えて50℃にてメチルエチルケトンを減圧留去して、乳白色水分散体の水性ポリウレタン樹脂bを得た。
該水性ポリウレタン樹脂bは、固形分濃度:30.3%、酸価:29.1KOHmg/g、粘度:100cp、ポリオール成分中のトリオール含有量:36モル%、末端エチレン性不飽和二重結合の濃度:3.7当量/kg、Mn:2700であり、活性エネルギー線硬化性を有していた。
【0127】
合成例3[水性ポリウレタン樹脂cの合成]
還流冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた撹拌機付き反応器に、ポリオキシエチレングリコール(Mn=1000)249部、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸109部、ひまし油LM−R(豊国製油(株)製)54部、水添MDI(ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート)416部、メチルエチルケトン828部、ジブチル錫ラウリレート0.02部を入れて撹拌しながら70℃まで0.5時間で昇温し、70〜75℃で3時間反応させた。
これに、tert−ブチルハイドロキノン0.05部、ライトエステルG−201P(共栄社化学(株)製)172部、メチルエチルケトン394部を加え、窒素導入管を空気導入管に替えて、再び70〜75℃で、4時間毎にtert−ブチルハイドロキノン0.04部を加えながら9時間反応させて、ポリウレタン樹脂の溶液を得た。
この溶液に、トリエチルアミン74部、純水2598部を徐々に加え、30℃で2時間保持後、サーフィノールAK02(日信化学工業(株)製)0.5部を加えて50℃にてメチルエチルケトンを減圧留去して、透明液体の水性ポリウレタン樹脂cを得た。
該水性ポリウレタン樹脂cは、固形分濃度:30.1%、酸価:41.3KOHmg/g、粘度:S、ポリオール成分中のトリオール含有量:6モル%、末端エチレン性不飽和二重結合の濃度:1.4当量/kg、Mn:2000であり、活性エネルギー線硬化性を有していた。
【0128】
合成例4[水性ポリウレタン樹脂dの合成]
還流冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた撹拌機付き反応器に、ポリオキシエチレングリコール(Mn=1000)264部、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸127部、ひまし油LM−R(豊国製油(株)製)127部、水添MDI(ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート)415部、メチルエチルケトン918部、ジブチル錫ラウリレート0.02部を入れて撹拌しながら70℃まで0.5時間で昇温し、70〜75℃で3時間反応させた。
これに、tert−ブチルハイドロキノン0.05部、ヒドロキシエチルアクリレート82部、メチルエチルケトン303部を加え、窒素導入管を空気導入管に替えて、再び70〜75℃で、4時間毎にtert−ブチルハイドロキノン0.04部を加えながら10時間反応させて、ポリウレタン樹脂の溶液を得た。
この溶液に、トリエチルアミン76部、純水2591部を徐々に加え、30℃で2時間保持後、サーフィノールAK02(日信化学工業(株)製)0.5部を加えて50℃にてメチルエチルケトンを減圧留去して、透明液体の水性ポリウレタン樹脂dを得た。
該水性ポリウレタン樹脂dは、固形分濃度:29.7%、酸価:42.2KOHmg/g、粘度:V、ポリオール成分中のトリオール含有量:12モル%、末端エチレン性不飽和二重結合の濃度:0.7当量/kg、Mn:3000であり、活性エネルギー線硬化性を有していた。
【0129】
合成例5[水性ポリウレタン樹脂eの合成]
窒素導入管、冷却用コンデンサー、温度計、攪拌機を備えた1リットル4つ口丸底フラスコに、分子量1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)65部、トリメチロールプロパン17部、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸54部、溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)632部、水添MDI(ジシクロヘキシルメタン−4,4’ジイソシアネート)285部を仕込み、70〜75℃において2時間反応させた後、ウレタン化触媒としてオクチル酸第一スズを0.13部加えて更に3時間反応させた。反応溶液中のヒドロキシル基が全てNCOに置き換わった後に、窒素導入管を空気導入管に替えて、アロニックスM−305(東亜合成(株)製) 276部、MEK413部、メトキシキノン0.28部及びtert−ブチルハイドロキノン0.28部を添加した。再び70〜75℃に昇温し1時間反応させた後にオクチル酸第一スズ0.21部を加え8時間反応させてポリウレタン樹脂溶液を得た。この溶液に、トリメチロールプロパントリアクリレート77部投入し、更にトリエチルアミン41部加え中和した後に、純水2211部及び無水ピペラジン17部から成る溶液を30分かけて徐々に加え、40℃で1時間攪拌混合した。サーフィノールAK02(日信化学工業(株)製)2部を加えた後50℃にてメチルエチルケトンを減圧留去して、不揮発分:31.0%、固形分酸価29(KOHmg/g)、粘度:19cp、ポリオール成分中のトリオール含有量29モル%、不飽和基濃度が3.1当量/kg、数平均分子量4000の活性エネルギー線硬化型ポリウレタン樹脂の水性ポリウレタン樹脂(e)を得た。
【0130】
合成例6[水性ポリウレタン樹脂fの合成]
ポリアルキレンエーテルを水性ウレタン樹脂に導入するためにポリアルキレンエーテル鎖をペンダント状に有するジオール化合物1の調整例を示す。
窒素導入管、冷却用コンデンサー、温度計、攪拌機を備えた1リットル4つ口丸底フラスコに、あらかじめ50℃に加温して融解しておいたメトキシポリ(オキシエチレン/オキシプロピレン)−2−プロピルアミン(EO/PO=9/1モル比 分子量=1000),500g(0.5モル)を入れ攪拌した。ついで、内温を45〜50℃に保ちながら4−ヒドロキシブチルアクリレート 72g(0.5モル)を約30分で投入した。その後内温を30〜40℃に保ちながら5時間攪拌した。次に、水添MDI65.5g(0.25モル)を、内温を30〜40℃に保ちながら約30分かけて投入した。投入後内温を30〜40℃に保ちながら1時間攪拌した。赤外分光光度計でイソシアネート基のピークが無いことを確認して、取りだした。得られたジオール化合物は40℃でほとんど無色であり、室温でワックス状に固化した。高速液体クロマトグラフィー(東ソー 8020)でピ−クが1本で高純度品であることが確認できた。水酸基価の計算値44.0に対して水酸基価の実測値は44.2でほぼ一致し、水添MDIでの2量化の際、水酸基と水添MDIは反応していないことが確認された。
次に水性ウレタン樹脂fの合成例を示す。窒素導入管、冷却用コンデンサー、温度計、攪拌機を備えた1リットル4つ口丸底フラスコに、分子量1000のポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)81部、前述で得られたポリアルキレンエーテル鎖をペンダント状に有するジオール化合物1、31部、トリメチロールプロパン21部、2,2−ビス(ヒドロキシメチル)プロピオン酸38部、溶剤としてメチルエチルケトン(MEK)703部、水添MDI(ジシクロヘキシルメタン−4,4’ジイソシアネート)298部を仕込み、70〜75℃において2時間反応させた後、ウレタン化触媒としてオクチル酸第一スズを0.14部加えて更に3時間反応させた。反応溶液中のヒドロキシル基が全てNCOに置き換わった後に、窒素導入管を空気導入管に替えて、アロニックスM−305(東亜合成(株)製) 206部、MEK390部、メトキシキノン0.30部及びtert−ブチルハイドロキノン0.30部を添加した。再び70〜75℃に昇温し1時間反応させた後にオクチル酸第一スズ0.22部を加え8時間反応させてポリウレタン樹脂溶液を得た。この溶液に、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート81部投入し、更にトリエチルアミン28部加え中和した後に、純水2211部及び無水ピペラジン28部から成る溶液を30分かけて徐々に加え、40℃で1時間攪拌混合した。サーフィノールAK02(日信化学工業(株)製)2部を加えた後50℃にてメチルエチルケトンを減圧留去して、不揮発分:31.5%、固形分酸価19(KOHmg/g)、粘度:19cp、ポリオール成分中のトリオール含有量27モル%、不飽和基濃度が3.1当量/kg、数平均分子量6000の活性エネルギー線硬化型ポリウレタン樹脂の水性ポリウレタン樹脂(f)を得た
【0131】
配合例1〜14
合成例1〜6で得た水性ポリウレタン樹脂a〜fを用い、表1,2に従って、活性エネルギー線硬化型塗料組成物を調製した。
【0132】
【表1】

【0133】
【表2】

【0134】
表1,2中の数値は、%表示以外はすべて質量部を表す。
表1,2に記載した水性ポリウレタン樹脂a〜fは、合成例1〜6で得た水性ポリウレタン樹脂a〜fである。
また、これら以外の各配合成分は、それぞれ下記の通りである。
・カヤマーPM21:日本化薬(株)製、メタクリロイルオキシ基を有する燐酸エステル化合物[上記一般式(1)において、Rがメチル基であり、sが2であり、mが1又は2(平均1.5)であり、aが1又は2(平均1.5)であり、bが0であり、cが1又は2(平均1.5)であり、かつa+cが3である化合物の混合物。]を表す。
・イルガキュア184:チバ・スペシャリティケミカルズ製、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(光重合開始剤)を表す。
・スノーテックスC:日産化学(株)製、アルミニウム処理コロイダルシリカを表す。
・NUC−シリコンA−174:東レダウコーニング(株)製、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)を表す。
・Aquacer515:ビックケミー(株)製、水分散オレフィン系ワックスを表す。
・FZ−3153:東レダウコーニング(株)製、シリコーンエマルジョンを表す。
・Al−1:ビックケミー(株)製、NANOBOYK3600(粒径40nmの球状アルミナ粒子)を表す。
・Al−2:住友化学工業(株)製、スミコランダムAA−03(粒径0.3μmの球状アルミナ粒子)を表す。
・Al−3:住友化学工業(株)製、スミコランダムAA−07(粒径0.7μmの球状アルミナ粒子)を表す。
・Al−4:住友化学工業(株)製、スミコランダムAA−2(粒径2μmの球状アルミナ粒子)を表す。
【0135】
試験例1〜35
配合例1〜14で調製した活性エネルギー線硬化型塗料組成物を用いて、表3〜5に示す金属基材上に、下記に示す方法で被覆膜を作成した。
表3〜5中、金属基材M−1〜M−9はそれぞれ以下のものを示す。また、各金属基材表面の防錆油膜は、被覆膜を形成する前に、メチルエチルケトン(MEK)で除去した。
・M−1:クロメート処理を施していない電気亜鉛めっき鋼板(板厚:0.8mm、めっき厚:約2.8μm、算術平均粗さ:1.5μm)・M−2:電気亜鉛めっき鋼板(板厚:0.8mm、めっき厚:約6.0μm、算術平均粗さ:3.8μm)・M−3:Crを18質量%含有するフェライト系ステンレス鋼板(板厚:0.8mm、算術平均粗さ:1.2μm)・M−4:クロメート処理を施していない溶融亜鉛めっき鋼板(板厚:0.8mm、めっき厚:約7.0μm、算術平均粗さ:1.3μm)・M−5:Mgを4.5質量%含有するアルミニウム合金板(板厚:0.8mm、算術平均粗さ:1.4μm)・M−6:Crを18質量%及びNiを8質量%含有するオ−ステナイト系ステンレス鋼板(板厚:0.8mm、算術平均粗さ:1.0μm)・M−7:Crを13質量%含有するマルテンサイト系ステンレス鋼板(板厚:0.8mm、算術平均粗さ:1.1μm)・M−8:電気Zn-Ni合金めっき鋼板(板厚:0.8mm、めっき厚:約2.8μm、算術平均粗さ:1.8μm)・M−9:溶融Zn-11%Al-3%Mg-0.2%Si合金めっき鋼板(板厚:0.8mm、めっき厚:約6μm、算術平均粗さ:2.5μm)
【0136】
[被覆金属基材の作成方法]
活性エネルギー線硬化型塗料組成物を、固形分濃度が20%となるよう調整し、これを。DDR(ドローダウンロッド)#2又は#5を使用して、0.8mm板厚の各金属基板に、表3〜5に示す被覆膜の付着量(約1g/m又は2g/m)となるよう塗布して塗膜を形成し、該塗膜を、送風乾燥機で80℃−20分間乾燥し、窒素ガスパージ式UV照射装置にて、120W高圧水銀灯−コンベア速度10m/分(照射量:260mJ/cm)で硬化させることにより、金属基材表面に被覆膜が形成された被覆金属基材を作成した。
このとき、不活性ガスとしては窒素を用い、UV照射装置内の酸素濃度は5〜10%となるように調整した。
被覆膜の付着量(g/m)及び該被覆膜の厚さを表3〜5に示す。
【0137】
得られた被覆金属基材の被覆膜に対し、ボールオンディスク試験、紙摩耗性評価試験、スチールウール摩耗試験、耐溶剤性試験(機械ラビング試験)、密着性試験(碁盤目セロハン粘着テ−プ剥離試験)、加工性試験I(碁盤目エリクセン加工性試験)、及び加工性試験II(万力折り曲げ加工試験)を以下の手順で行った。その結果を表3〜5に示す。
なお、ボールオンディスク試験、紙摩耗性評価試験、及びスチールウール摩耗試験は耐摩耗性、耐溶剤性試験は耐溶剤性、密着性試験は金属基材に対する密着性、加工性試験I及びIIは成形加工性を評価するための試験である。
【0138】
[ボールオンディスク試験]
100×100mmの試験片を作成し、摩擦摩耗試験機FR−2100((株)レスカ製)を用い、直径10mmのSUS440C製のステンレス鋼球を、質量1kgで被験面(被覆膜)に押下し、直径70mmの円周上を60rpmで摺動させ、摺動を受ける部位の被覆膜が、元の膜厚の1/4摩滅するまでの摺動周回数を測定した。膜厚測定は、被膜中のケイ素原子の蛍光X線分析に依った。
【0139】
[紙摩耗性評価試験]
5×5cmの試験片を作成し、スガ摩耗試験機NUS−ISO 3(スガ試験機(株))の摩耗輪(直径50mm、幅12mm)の外周にJIS−P−0001記載の上質紙を巻き付け、該摩耗輪を、被験面(被覆膜)に質量500gで押下し、ストロ−ク30mmで往復摺動させた。このとき、摩耗輪が1回転する毎に上質紙を新しいものに交換し、常に新しい上質紙で摺動されるようにした。
判定は、摺動を受ける部位の被覆膜が、元の膜厚の1/4摩滅するまでの摺動回数を測定した。膜厚測定は、被膜中のケイ素原子の蛍光X線分析に依った。
【0140】
[スチールウール摩耗試験]
5×13cmの試験片を作成し、ラビングテスター:I型(太平理化工業(株)製)のヘッドに、スチールウール(#0000)を取り付け、0.98N/cmの荷重をかけて規定回数(5、10、20、50、100回)ラビング(摺動距離50mm、往復速度40往復/分)、金属基材が露出するまでのラビング回数を目視で判定した。
【0141】
[耐溶剤性試験(機械ラビング試験)]
5×13cmの試験片を作成し、ラビングテスター:I型(太平理化工業(株)製)のヘッドに、脱脂綿0.8gを4.5×3.5cmのガーゼで包む様に取り付け、溶剤(エタノール又はMEK)を含ませ、300gの荷重をかけて規定回数(10、20、50、60回)ラビングし、下地が露出しているか否かで判定した。
◎ :全く露出部分が無く、ラビング跡も目立たない。
○ :全く露出部分がないがラビング跡がある。
△ :痕跡程度下地に達している部分がある。
× :塗膜が剥がれ下地が露出している。
表3〜5中、耐エタノール性は、上記耐溶剤試験の溶剤に試薬1級エタノールを使用した試験であり、耐MEK性は、上記耐溶剤試験の溶剤に試薬1級メチルエチルケトンを使用した試験である。
【0142】
[密着性試験(碁盤目セロハン粘着テープ試験)]
100×100mmの試験片を作成し、該試験片の被覆膜側の中央部に、ナイフを用いて、1mm間隔で縦横それぞれ11本の、被覆膜を貫通する平行線を引き、1平方cmの中に枡目100個の碁盤目を設けた。次いで、碁盤目の上にセロハン粘着テープを圧着して急激に剥離し、碁盤目上に残存する碁盤目の数Xを求めた。
【0143】
[加工性試験I(煮沸−碁盤目エリクセン加工性試験(JIS−Z−2247))]
予め3時間煮沸した50×150mmの試験片の端から3cmの中央に、上記の碁盤目作成方法と同じ方法で被覆膜に碁盤目を作り、碁盤目中央に向けてエリクセン試験機にて5mm絞った(押し出した)。上記同様に碁盤目の部分をセロハン粘着テープで剥離して、碁盤目上に残存する碁盤目の数Xを求めた。
【0144】
[加工性試験II(万力折り曲げ加工試験)]
50×150mmの試験片を用意し、被覆膜側を外側にして試験片と同じ厚さのT設定板を用意し、間に0〜複数枚のT設定板を挟み込むようにして180度曲げ、万力で挟み圧し曲げた。挟み込む枚数0を0T、1枚を1T、2枚を2T、3枚を3Tとする。曲げ部を上記同様にセロハン粘着テープで剥離して、剥離しないものを報告した。
【0145】
【表3】

【0146】
【表4】

【0147】
【表5】

【0148】
表3〜5に試験結果を示す。アルミナ粒子(D)の配合量が異なる以外は同様の組成の配合例1−1,1−2,1−3,1−5、配合例2,3,4,11、または配合例13−1,13−2,13−3,14の塗料組成物を用いた試験例1−1,1−2,1−3,1−5、試験例2,3,4,13、または試験例23,24,25,27を比較した。
(1)アルミナ粒子(D)の配合量が総固形分の1〜20質量%の範囲内である試験例1−1,1−2、試験例2,3、試験例23,24は、いずれの試験結果も良好であり、特に耐摩耗性は、ボールオンディスク試験、紙摩耗性評価試験、及びスチールウール摩耗試験とも、非常に良好な結果であった。
(2)一方、アルミナ粒子(D)を30質量%配合した塗料組成物を用いた試験例1−3、試験例4、試験例25は、耐摩耗性、加工性が低くなっていた。また、アルミナ粒子(D)が配合されていない塗料組成物を用いた試験例1−5、試験例13、試験例27は、耐摩耗性が低くなっていた。
【0149】
試験例6と試験例7とを比較すると、いずれも同じ配合例6の塗料組成物を用いていたにもかかわらず、ボールオンディスク試験、紙摩耗性評価試験、及びスチールウール摩耗試験とも、試験例7の方が際だって良好な結果であった。これは、アルミナ粒子(D)として平均粒子径dが0.7μmのものを用いており、試験例6では膜厚tが1μmの被覆層を形成し、試験例7では膜厚tが2μmの被覆層を形成しており、試験例7はd≦(2t/3)を満たしていることによると考えられる。
同様に、試験例7と試験例8とを比較すると、同じ膜厚の被覆膜を形成したものの、アルミナ粒子(D)として平均粒子径dが2μmのものを用い、d≦(2t/3)を満たさない試験例8の方が耐摩耗性が低かった。
【0150】
燐酸エステル化合物(A)を配合しなかった配合例10の塗料組成物を用いた試験例12は、耐摩耗性、耐溶剤性、密着性、加工性のいずれの試験結果も非常に悪かった。
【0151】
水性ポリウレタン樹脂(B)の種類以外は同様の組成の配合例1−1,2,8,9の塗料組成物を用いた試験例1−1,2,10,11を比較すると、ポリオール成分中にトリオール以上の成分を10〜40モル%有し、かつ末端エチレン性不飽和二重結合を1.0〜6.0当量/kg有する水性ポリウレタン樹脂a,bを用いた試験例1−1,2は、いずれの試験結果も良好であり、特に耐摩耗性は、ボールオンディスク試験、紙摩耗性評価試験、及びスチールウール摩耗試験とも、非常に良好な結果であった。
一方、試験例10,11は、若干、耐摩耗性、耐溶剤性が低かった。
【0152】
試験例2と試験例9とを比較すると、同じ配合例2の塗料組成物を用いていたにもかかわらず、窒素ガス雰囲気中で紫外線照射による硬化(UV硬化)を行った試験例2の方が、ボールオンディスク試験の結果が良好であり、耐摩耗性が優れていた。
【0153】
配合例3、13−1の塗料組成物を用い、金属基材としてそれぞれM−1〜M−9を用いた試験例3,14〜21,23,28〜35を比較すると、3.0μm以下の算術平均粗さを有する金属基材を用いた試験例3,15〜21,29〜35は、いずれの試験結果も良好であり、特に耐摩耗性は、ボールオンディスク試験、紙摩耗性評価試験、及びスチールウール摩耗試験とも、非常に良好な結果であった。しかし、表面粗さが3.8μmのM−2を用いた試験例14,28は、若干、耐摩耗性が劣っていた。
【0154】
また、配合例3の塗料組成物を用い、金属基材表面が硬いM−3、M−6、M−7、M−8、M−9をそれぞれ用いた試験例15、18〜21は、それらより金属基材表面が柔らかいM−1を用いた試験例3に比べ、耐摩耗性が良好な結果であった。配合例13−1の塗料組成物を用い、金属基材表面が硬いM−3、M−6、M−7、M−8、M−9をそれぞれ用いた試験例29、32〜35は、それらより金属基材表面が柔らかいM−1を用いた試験例23と比べ、金属基材表面の硬さによる差異は確認できなかった。配合例13−1は水性ポリウレタン樹脂中にUV反応性オリゴマーを内包しており、それによる被覆膜は、配合例3による被覆膜に比べ硬くなるためと考えられる。
配合例3、13−1の塗料組成物を用い、金属基材としてそれぞれM−1を用いた試験例3、23を比較すると、水性ポリウレタン樹脂にUV反応性オリゴマーを内抱した水性ポリウレタン樹脂fを用いた試験例23の試験結果の方が良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0155】
本発明の被覆金属基材は、金属基材表面に対する密着性、成形加工性、耐溶剤性等の種々の特性に優れ、特に耐摩耗性に優れる被覆膜を有するものである。
また、本発明の被覆金属基材において、表面の被覆膜は、例えば、指紋跡付着防止用途、潤滑鋼板用途、プライマー用途、また上塗り塗装を不要とする塗膜用途等の各種の観点からの表面保護等の種々の目的において金属基材表面に設けることができる。そのため、本発明の被覆金属基材は、多様な用途に用いることができる。
本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物は、上記本発明の被覆金属基材の製造用として好適なものであり、金属基材表面に対する密着性、成形加工性、耐溶剤性等の種々の特性に優れ、特に耐摩耗性に優れる被覆膜を形成できる。そのため、2コート塗装にも1コート塗装にも使用でき、特に1コート塗装が可能であることから、作業時等において、有機溶剤の使用やクロメート処理を施す必要がなく、安全性、作業環境性が良好である。
したがって、本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物は、安全性が高く、作業環境を改善できる水性タイプの塗料として、塗料、コーティング剤、インキ、プライマーコーティング、アンカー剤等の用途に有用に用いることができる。
本発明の活性エネルギー線硬化型塗料組成物を用いる本発明の被覆金属基材の製造方法は、上記本発明の被覆金属基材の製造に好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の表面の少なくとも一部が被覆膜で被覆された被覆金属基材であって、前記被覆膜が、
下記一般式(1)又は(2)で示される燐酸エステル化合物(A)、及び前記燐酸エステル化合物(A)と他の原子又は原子団とが結合してなる燐酸エステル誘導体(A)からなる群から選択される少なくとも1種と、
塩を形成しうる基及び末端エチレン性二重結合基を有するポリウレタン樹脂(B)、及び前記ポリウレタン樹脂(B)と他の原子又は原子団とが結合してなるポリウレタン樹脂誘導体(B**)からなる群から選択される少なくとも1種と、
シリカ粒子(C)と、
アルミナ粒子(D)とを含有することを特徴とする被覆金属基材。
【化1】

(式中、Rはメチル基又は水素原子を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、sは2〜12の整数を示し、mは0〜5の整数を示し、aは1〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示し、cは0〜2の整数を示し、かつa+b+c=3である。

【化2】

(式中、Rはメチル基又は水素原子を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、tは2〜4の整数を示し、nは1〜10の整数を示し、aは1〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示し、cは0〜2の整数を示し、かつa+b+c=3である。

【請求項2】
前記燐酸エステル誘導体(A)が、前記燐酸エステル化合物(A)の反応性活性部位の一部又は全部と他の原子又は原子団とが結合してなるものであり、前記燐酸エステル化合物(A)の反応性活性部位が、少なくとも、末端エチレン性不飽和二重結合基と燐酸基由来の結合基とを含む請求項1に記載の被覆金属基材。
【請求項3】
前記ポリウレタン樹脂誘導体(B**)が、前記ポリウレタン樹脂(B)の反応性活性部位の一部又は全部と他の原子又は原子団とが結合してなるものであり、前記ポリウレタン樹脂(B)の反応性活性部位が、少なくとも、前記塩を形成しうる基と前記末端エチレン性二重結合とを含む請求項1又は2に記載の被覆金属基材。
【請求項4】
前記ポリウレタン樹脂(B)及び/又は前記ポリウレタン樹脂誘導体(B**)の塩を形成しうる基が、カルボキシ基、燐酸基及びスルホン酸基からなる群から選択される1種以上であり、前記ポリウレタン樹脂誘導体(B**)において、前記塩を形成しうる基の一部又は全部が金属原子と結合している請求項1〜3の何れかに記載の被覆金属基材。
【請求項5】
前記ポリウレタン樹脂(B)及び/又は前記ポリウレタン樹脂誘導体(B**)の塩を形成しうる基が3級アミノ基であり、前記ポリウレタン樹脂誘導体(B**)において、前記塩を形成しうる基の一部又は全部が、金属原子と結合した他原子もしくは原子団、及び/又は金属酸化物と結合した他原子もしくは原子団と結合している請求項1〜3の何れかに記載の被覆金属基材。
【請求項6】
前記ポリウレタン樹脂(B)及び/又は前記ポリウレタン樹脂誘導体(B**)が、ポリオール成分中にトリオール以上の成分を10〜40モル%有するポリウレタン樹脂である請求項1〜5の何れかに記載の被覆金属基材。
【請求項7】
前記ポリウレタン樹脂(B)及び/又は前記ポリウレタン樹脂誘導体(B**)のポリイソシアネート成分の一部乃至は全部がジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートである請求項1〜6の何れかに記載の被覆金属基材。
【請求項8】
前記アルミナ粒子(D)が球状である請求項1〜7の何れかに記載の被覆金属基材。
【請求項9】
前記アルミナ粒子(D)の含有量が、前記被覆膜の総固形分に対し、1〜20質量%である請求項1〜8の何れかに記載の被覆金属基材。
【請求項10】
前記シリカ粒子(C)が、アルミニウム化合物で表面処理されたものである請求項1〜9の何れかに記載の被覆金属基材。
【請求項11】
前記アルミナ粒子(D)の平均粒子径(d)と、前記被覆膜の厚さ(t)とが、d≦(2t/3)の関係を満たす請求項1〜10の何れかに記載の被覆金属基材。
【請求項12】
前記被覆膜の付着量が0.2〜5.0g/mである請求項1〜11の何れかに記載の被覆金属基材。
【請求項13】
前記金属基材の表面が、少なくとも前記被覆膜で被覆される被覆部位において、3.0μm以下の算術平均粗さを有する請求項12に記載の被覆金属基材。
【請求項14】
前記被覆膜のボールオンディスク試験(直径10mmのSUS440C製のステンレス球を質量1kgで被験面に押下し、直径70mmの円周上を60rpmで摺動させる)において、摺動を受ける部位の被覆膜が、元の膜厚の1/4摩滅するまでの摺動周回数が500回以上であるか、又は、総摺動距離が100m以上である請求項12又は13に記載の被覆金属基材。
【請求項15】
前記被覆膜の紙摩耗性評価試験(JIS−P−0001記載の上質紙を外周に貼付した直径50mm、幅12mmの摩耗輪を質量500gで被験面に押下し、ストロ−ク30mmで往復摺動させる)において、摺動を受ける部位の被覆膜が、元の膜厚の1/4摩滅するまでの摺動回数が3000往復以上である請求項12〜14の何れかに記載の被覆金属基材。
【請求項16】
前記被覆膜のスチール摩耗試験(5×13cmの試験片を作成し、スチールウール(#0000)を、0.98N/cmの荷重で被験面に押下し、ストロ−ク50mm、往復速度40往復/分で往復摺動させる)において、摺動を受ける部位の被覆膜が、金属基材が露出するまでの摺動回数が20往復以上である請求項12〜15の何れかに記載の被覆金属基材。
【請求項17】
前記金属基材が、普通鋼、添加元素含有鋼、合金鋼、アルミニウム、添加元素含有アルミニウム、アルミニウム系合金、チタン、添加元素含有チタン及びチタン系合金のいずれか1種から構成される金属基材(M1)、又は、該金属基材(M1)の表面の少なくとも一部がめっきで被覆されためっき金属基材(M2)である請求項1〜16の何れかに記載の被覆金属基材。
【請求項18】
前記めっきが、亜鉛、アルミニウム、コバルト、錫及びニッケルのいずれか1種の金属元素からなるめっき、又は、前記金属元素の少なくとも2種、若しくは前記金属元素の少なくとも1種と、前記金属元素以外の金属元素及び/又は非金属元素とを含有してなる合金めっきである請求項17に記載の被覆金属基材。
【請求項19】
前記金属基材が、クロメート処理が施されていない金属基材である請求項1〜18の何れかに記載の被覆金属基材。
【請求項20】
前記金属基材が、板材、帯材、棒材、形材、管材又は線材である請求項1〜19の何れかに記載の被覆金属基材。
【請求項21】
下記一般式(1)又は(2)で示される燐酸エステル化合物(A)と、塩を形成しうる基及び末端エチレン性二重結合基を有する水性ポリウレタン樹脂(B)と、コロイダルシリカ(C)と、アルミナ粒子(D)とを含有することを特徴とする活性エネルギー線硬化型塗料組成物。
【化3】

(式中、Rはメチル基又は水素原子を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、sは2〜12の整数を示し、mは0〜5の整数を示し、aは1〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示し、cは0〜2の整数を示し、かつa+b+c=3である。

【化4】

(式中、Rはメチル基又は水素原子を示し、Rは水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を示し、tは2〜4の整数を示し、nは1〜10の整数を示し、aは1〜3の整数を示し、bは0〜2の整数を示し、cは0〜2の整数を示し、かつa+b+c=3である。

【請求項22】
前記水性ポリウレタン樹脂(B)が、ポリオール成分中にトリオール以上の成分を10〜40モル%有し、末端エチレン性不飽和二重結合基を1.0〜6.0当量/kg有する数平均分子量1000以上の水性ポリウレタン樹脂である請求項21に記載の活性エネルギー線硬化型塗料組成物。
【請求項23】
前記水性ポリウレタン樹脂(B)が、末端エチレン性不飽和二重結合基を3以上含むオリゴマーを内包した数平均分子量1000以上の水性ポリウレタン樹脂である請求項21又は22に記載の活性エネルギー線硬化型塗料組成物。
【請求項24】
前記水性ポリウレタン樹脂(B)のポリイソシアネート成分の一部乃至は全部がジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネートである請求項21〜23に記載の活性エネルギー線硬化型塗料組成物。
【請求項25】
前記アルミナ粒子(D)が球状である請求項21〜24の何れかに記載の活性エネルギー線硬化型塗料組成物。
【請求項26】
前記アルミナ粒子(D)の含有量が、当該活性エネルギー線硬化型塗料組成物の総固形分に対し、1〜20質量%である請求項21〜25の何れかに記載の活性エネルギー線硬化型塗料組成物。
【請求項27】
前記コロイダルシリカ(C)が、アルミニウム化合物で表面処理されたものである請求項21〜26の何れかに記載の活性エネルギー線硬化型塗料組成物。
【請求項28】
金属基材の表面の少なくとも一部に、請求項21〜27の何れかに記載の活性エネルギー線硬化型塗料組成物を活性エネルギー線で硬化させてなる被覆膜を有することを特徴とする被覆金属基材。
【請求項29】
請求項21〜27の何れかに記載の活性エネルギー線硬化型塗料組成物を含む水性塗料を金属基材表面の少なくとも一部に塗装して塗膜を形成した後、該塗膜に活性エネルギー線を照射して被覆膜を形成することを特徴とする被覆金属基材の製造方法。
【請求項30】
前記活性エネルギー線が紫外線であり、該紫外線を、不活性ガス雰囲気下で前記塗膜に照射する請求項29に記載の被覆金属基材の製造方法。

【公開番号】特開2008−30474(P2008−30474A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−173900(P2007−173900)
【出願日】平成19年7月2日(2007.7.2)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】