説明

装置及びその使用

少なくとも1つの膜親和性領域を含む少なくとも1つの支持固体表面、その膜親和性領域に少なくとも部分的に固定されている被覆層であって、(i)界面活性剤膜、(ii)脂質模倣ポリマー、(iii)界面活性剤若しくは乳剤系、又は(iv)液晶、からなる被覆層、及びその被覆層に含まれている、結合している、連結している、又はその被覆層と会合している物質、を含む装置をここに開示する。この装置を使用する方法及びこの装置の使用も開示する。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面の及び/又はトポグラフィックな基板を含んでなる脂質二重層の装置に関する。本装置は、拡大縮小可能であり、そして例えば、膜タンパク質のような膜会合構造物の固定化、操作、分離及び分画に使用するためのものである。様々な目的のために、例えば、分画及び/又は例えば、MALDI−TOF質量分析法による分析のために、生体物質及び化学物質をこの脂質二重層の装置に導入することができる。本発明は、表面プラズモン共鳴の記録の際にも使用することができる。本発明は、結合相互作用、拡散、反応の基礎検討を含むその他の適用範囲も有し、更にケミカルコンピュータ及び移植可能な装置の製造の際にも使用されるであろう。
【背景技術】
【0002】
生体分子の分離及び分画のための分析装置は、多くの場合、クロマトグラフィー又はゲル電気泳動に基づく。これらは、分離媒体及び可動媒体の使用に依存し、前記可動媒体は、目的の分析物が(それらの異なる分子構造のため)異なる移動速度を得るように、相間で異なって分配するような方法において選択される。従って、分析物の物理化学的構造(すなわち、電荷、疎水性、サイズなど)に依存して、異なる分析プラットフォームが使用され得る。ある種類の分子は、分析科学の数百年以上の経過後でさえ、なお、分離、定量及び分析が困難である。最も顕著に、イオンチャネル、GPCR(G蛋白結合受容体)及びその他の受容体のような膜会合タンパク質は、この種類に属する。これらは、医薬品開発における最も重要な目標の幾つかを示し、心臓、胃腸管及び脳のような生体系において非常に重要な役割を果たす。それらの特定化を可能ならしめる新規な装置は、大いに価値のあるものであろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
天然形の膜タンパク質は、脂質二重膜の中に包埋されている。その複雑な複合構造が、全タンパク質機能を規定する。従って、この脂質二重膜は、単にマトリックスであるばかりでなく、機能的脂質−タンパク質凝集体の必須要素でもある。本発明者らは、複雑な脂質二重膜の装置を製造するための方法を以前に開発した。これらは、二重膜のユニークな液晶特性及びそれらの機械特性に基づく。本発明者らは、それらが膜タンパク質発現、ナノ流体工学及び反応装置のような多数の用途に有用であることを証明した。この技術の限界は主に、その手動式で労働集約的な製造、更に比較的小さな規模であることであった(Microscopic Networks of Containers and Nanotubes, 国際公開第WO02/26616号公報又はPCT/SE国際公開第01/02116号公報)。
【課題を解決するための手段】
【0004】
特定の表面上に脂質膜装置を作製するための拡大縮小可能な方法及び装置を開示する。本方法は、明確な幾何学的配置、トポグラフィー、材料及び化学作用を有する表面に、完全に又は部分的に表面に固定された平面又は三次元の(例えば、管状又は球状の)膜を形成することに基づく。脂質二重膜(例えば、小胞又は平面二重層の形態のもの)によって完全に被覆されているか、それらが広がって又は会合して、予め決定された特定のパターンを形成する基板を作ることができる。膜会合タンパク質、又は二重膜と周囲の媒体との間に分配するその他の材料を、様々な戦略によってこのシステムに導入することができる。前記表面は、後続の操作及び分析の様々な手段、例えば電気泳動のために前記脂質表面構造に電場をかけるための電極、又は前記二重層の装置又はその他の材料へのミクロ流体工学適用のためのチャネルといった、追加の構造を有することもできる。加えて、前記表面は、分画サンプルの回収のための部分を備えていてもよく、又はMALDI−TOF分析を行うのための専用ドメインを含有することができる。
【0005】
異なる用途のための装置の使用も開示する。
より具体的には、本発明は、
少なくとも1つの膜親和性(membraneophilic)領域を含む少なくとも1つの支持固体表面;
その膜親和性領域に少なくとも部分的に固定されている被覆層であって、(i)界面活性剤膜、(ii)脂質模倣ポリマー、(iii)界面活性剤又は乳剤系、(iv)液晶、又はその組み合わせ、から成る被覆層;及び
その被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質
を含んでなる装置に関する。
【0006】
これに関連して、膜親和性表面という表現は、膜が付着する全ての表面を包含することを意図しており、これは、その表面と膜と間の引力を生じさせる全ての表面と説明することもできる。前記膜は、下記でさらに論じるように、例えば、脂質二重膜、脂質小胞、タンパク質小胞(proteovesicles)、脂質ナノチューブ、脂質単層、細胞断片、細胞小器官及びそれらの組み合わせの何れかより成る群から選択することができる。
【0007】
好ましくは、本装置は、少なくとも2つの支持固体表面を含む。
各々の支持固体表面は、1、2又は数個の膜親和性領域を含むことができる。各々の膜親和性領域は、同様の又は異なる被覆層により被覆することができる。
【0008】
前記被覆層に、1つ又はそれ以上の物質が会合している。好ましくは、これらの物質は、前記被覆層(例えば、膜タンパク質を有する二重層界面活性剤膜、又は脂質二重膜、脂質小胞、タンパク質小胞、脂質ナノチューブ、脂質単層、細胞断片、細胞小器官及びそれらの組み合わせの何れかより成る群から選択される膜)に、その被覆層の中の脂質部分を介して結合又は連結している。
【0009】
膜親和性領域という表現は、膜に会合する表面上の領域又は前記表面の一部を意味する。従って、前記表面の膜会合領域又はその一部と呼ぶこともある。
【0010】
前記被覆層、好ましくは界面活性剤膜、及びそれと会合している物質は、例えばその被覆層中の脂質部分に連結している又は会合している物質の、例えば化学的な操作、分画、分離又は同定を目的とした、化学的又は物理的な調節若しくは操作を可能にする特異的な特性を有する。前記物理的又は化学的な修飾又は操作は、次の作用のうちの少なくとも1つから成り得る:膜の一部の分解、脂質部分に連結している又は会合している物質の一部の分解、膜の崩壊。
【0011】
支持固体表面上の膜親和性領域に加えて、本装置は、水溶液中の固体粒子により構成される更なる膜親和性領域を含むこともできる。前記固体粒子は、膜親和性を有し、そして(a)膜、(b)脂質模倣ポリマー、又は(c)界面活性剤又は乳剤系、により被覆されている。前記固体粒子は、固定されている。
【0012】
本装置は、前記支持固体表面と前記被覆層の間に捕捉された水層を更に含むことができる。
本装置は、前記被覆層を覆う水溶液も含むこともある。
更に、本装置は、ゲル又はポリマー構造から成る層を含むことがある。この層を用いて、例えば、pH勾配を導入すること、又は例えば抗体のような分子又は官能基を取り付けるための第二の固定マトリックスを提供することができる。この層は、前記被覆層の上及び/又は下に配置することができる。
【0013】
本装置は、前記支持固体表面上に金属薄膜を更に含むことができる。この金属薄膜は、好ましくは、前記支持固体表面上に直接配置される。この金属薄膜の目的は、蛍光測定時のバックグラウンド蛍光又は自己蛍光を低減することである。
【0014】
本装置の支持固体表面は、少なくとも1つの膜非親和性(membraneophobic)領域も含むことがある。膜非親和性領域とは、前記表面の膜を寄せ付けない領域又はその部分を意味する。
本発明に従って使用することができる膜親和性領域は、任意の形状又は幾何学的配置の任意の膜親和性表面又は化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にした表面で構成又は形成され得る。
【0015】
前記化学的な調節又は操作は、例えば、酸、塩基、酸化剤又はその他の適する方法による処理により実施することができる。
前記物理的な調節若しくは操作は、例えば、プラズマ処理又はその他の適する方法により行うことができる。
【0016】
上述の膜親和性領域は、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にした、二酸化ケイ素(SiO)、ガラス、マイカ又はポリマー変性表面から、成る群より選択される物質から成る表面で形成することができる。好ましくは、前記表面は、プラズマ処理により処理されている。これにより、脂質二重膜を前記膜親和性領域に接着させることができる。
【0017】
上述の膜親和性領域は、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にした、例えば、酸化アルミニウム(Al)、別の金属酸化物又は金から成る群より選択される物質のような、金属酸化物及び金属から成る群より選択される物質から成る表面で形成することもできる。好ましくは、前記表面は、プラズマにより処理されている。これにより、無傷の脂質小胞を前記膜親和性領域に接着させ、固定された状態を保つことができる。
【0018】
本装置の被覆層を、膜により構成することもできる。この膜は、脂質二重膜、脂質小胞、タンパク質小胞、すなわち、再構成された膜タンパク質を含有する小胞、脂質ナノチューブ、脂質単層(例えば、自己組み立て単層、SAM、細胞断片、細胞小器官及びこれらの組み合わせの何れか)から成る群より選択することができる。この膜は、脂質膜の少なくとも1つのコンテナに制御可能な様式で連結している少なくとも1つの脂質ナノチューブの網状構造として形成することができる。
【0019】
1つの膜親和性領域は、様々な部分を有する被覆層で被覆することもできる。この膜親和性領域は、異なる脂質又は脂質/脂質混合物で被覆することができ、この場合、その膜親和性領域のある特定部分上の脂質又は脂質/脂質混合物は、1つのタイプの脂質又は脂質/脂質混合物で、一方その膜親和性領域の別の部分上の脂質又は脂質/脂質混合物は、別のタイプの脂質又は脂質/脂質混合物であり得る。前記脂質/脂質混合物は、同じ表面上に共存する、異なるタイプの脂質又は異なる位相状態の脂質を含有することができる。前記膜が、脂質二重膜である場合、それは、マイクロピペット又は光学ピンセットを使用して多層小胞を堆積させることにより、脂質材料を充填したピペットを表面を横切るように平行移動させることによるピペット書き込み(pipette-writing)法を用いて脂質を堆積させることにより、小さな小胞の融合を利用して脂質を堆積させることにより、流体チャネル及びフローセルを通した脂質二重膜の堆積により、又は溶解脂質の直接注入により、前記膜親和性表面上に導入することができた。支持固体表面への脂質二重膜の吸着は、様々な手段により、例えばその支持固体表面の接着電位により、制御することができる。前記接着電位は静電位であってもよく、次の相互作用:ファン・デル・ワールス相互作用、疎水性相互作用、静電相互作用、π−π相互作用、水素結合相互作用及び共有結合相互作用の何れかにより制御され得る。あるいは、前記接着電位は、動電位であり、次の相互作用:電気湿潤及び電気的な力の何れかにより制御される。磁気的な力もこの目的に用いることができる。
【0020】
前記被覆層が、脂質二重膜、脂質小胞、タンパク質小胞、脂質ナノチューブ、脂質単層、細胞断片、細胞小器官及びこれらの組み合わせの何れかより成る群から選択される膜により構成される場合、その被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質は、その被覆層中又は被覆層上の脂質部分に結合、連結、又は会合している。
【0021】
特に、前記被覆層が、脂質二重膜、脂質小胞、タンパク質小胞、脂質ナノチューブ、脂質単層、細胞断片、細胞小器官及びこれらの組み合わせの何れかより成る群から選択される膜により構成される場合、二価カチオンを使用して、その支持固体表面への被覆層の固定化を強化することができる。このような二価カチオンの一例は、カルシウムイオンである。
【0022】
本発明の装置の被覆層は、無傷細胞又は無傷細胞小器官によって構成することもできる。
更に、前記被覆層は、脂質模倣ポリマーによって構成することができる。このようなポリマーの一例は、ジブロックポリマーである。
【0023】
更に、前記被覆層は、界面活性剤又は乳剤系によって構成することもできる。この界面活性剤又は乳剤系は、ミセル形成性の系、油、スポンジ相及びリオトロピック脂質、例えば天然源からの抽出物又は合成脂質、から成る群より選択される。
【0024】
前記被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質は、表在性及び内在性膜タンパク質、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型タンパク質、リン脂質、スフィンゴ脂質、薬剤、両親媒性物質、親油性物質、ステロール、糖、オリゴヌクレオチド及びポリマーから成る群より選択することができる。前記物質は、ビオチン−アビジンの相互作用のような非共有結合相互作用により前記被覆層に連結することができるあらゆる分子であり得る。
【0025】
前記物質は、更にビーズに連結させることができる。それらのビーズは、様々な特性を有することができ、例えば、磁気ビーズは磁場との関連で使用することができ、荷電ビーズは電場との関連で使用することができ、及び大きな又は嵩高いビーズは流体力学的な流れのために使用することができる。磁気ビーズの使用により、磁場に基づく分離、すなわち磁気泳動法が可能となる。
【0026】
前記物質を輸送マーカーに連結させることもできる。前記物質は、エレクトロ・インジェクション、電気的融合、光学的融合、熱により誘導される融合、電磁放射線により誘導される融合、化学物質により誘導される融合及び界面活性剤の不安定化から成る群より選択される技術により、前記被覆層又は前記被覆層を形成する物質に導入することができる。これは、その被覆層の形成中に行うことができる。
【0027】
更に、本発明の装置は、その被覆層に電場をかけるための少なくとも1つの電極を含むことができる。これにより、電気泳動、電気浸透、誘電泳動、等速電気泳動又は等電点電気泳動が可能となる。
本発明の装置は、その被覆層に磁場をかけるための少なくとも1つの磁石を含むこともできる。
【0028】
本発明の装置は、その被覆層を覆う水溶液の流れを作るための少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口連結部を含むこともできる。
更に、本発明の装置は、その被覆層周囲の追加の膜、タンパク質−脂質混合物、洗浄溶液、染色溶液、消化溶液及びその他の溶液又は懸濁液の交換のための、少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口連結部を含むこともできる。
【0029】
更に、本装置は、分画サンプルの回収のための部分又はサンプルの濃縮及び単離を行うための専用ドメインを含むことがある。
本装置は、その装置との材料の出し入れ輸送のための少なくとも1つの流体チャネルを含むこともできる。
【0030】
少なくとも1つの電極、少なくとも1つの磁石及び/又は流体の流れを作るための少なくとも1つの入口及び出口連結部、更にその被覆層周囲の追加の膜、タンパク質−脂質混合物、洗浄溶液、染色溶液、消化溶液及び他の溶液又は懸濁液の交換のための少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口連結部を含み、そして分画サンプルの回収のための部分又はサンプルの濃縮及び単離を行うための専用ドメイン、及び/又はその装置との材料の出し入れ輸送のための少なくとも1つの流体チャネルも場合によっては含む、本発明の装置の構築は、その被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質の分離、単離及び/又は濃縮に本装置を適応させることが可能となる。従って、前記被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質は、化学的又は物理的な調節若しくは操作を可能にするその特異的な特性に依存して選択される。
【0031】
更に、本装置は、その支持固体表面に被覆層を固着させるための、テザー(tethers)のような分子を含むことがある。これらの分子は、前記被覆層と支持固体表面の間の連結子又はスペーサーとして機能する。それらは、被覆層又は支持固体表面の何れかの一部であり得る。
【0032】
本装置の支持固体表面は、平面であってもよく、このとき、その膜親和性表面領域は、例えば島(islands)、レーン(lanes)、曲がりくねった(serpentine)形状から成る、固有の二次元幾何形状を有する。
【0033】
本装置の支持固体表面は、三次元構造のものであってもよい。このとき、その膜親和性領域は、凹構造の中に配置、例えば、井戸(well)又は水路(channel)に配置することができる。これらの膜親和性領域は、高くした構造、例えば、柱(pillars)、通路(lanes)、ピラミッド形状、階段ピラミッド形状、曲がりくねった(serpentine)形状、蛇行ボーダー(meander-boarder)形状の全体の上又は1つ若しくは幾つかの部分の上に、例えば頂部のみに、配置することもできる。支持固体表面が三次元である場合、その被覆層は、二次元であってもよいし、三次元であってもよい。三次元であることが多いが、場合によっては、例えば表面を増やすために波形にすることがあり、このときは、勿論、三次元である。
【0034】
前記膜親和性領域は、非限定的な例として、SU−8、テフロン(登録商標)、プラスチック、ゴム、ポリマー及び脂質膜のような耐光性物質で形成することができる。プラスチック、ポリマー又は脂質膜で形成することもできる。
【0035】
前記支持固体表面は、2つの異なる表面領域(1つの膜親和性と1つの膜非親和性)でパターン化することができる。
【0036】
前記支持固体表面は、多重化パターン又は並列パターンで配置されている、1つ又はそれ以上の膜親和性領域と1つ又はそれ以上の膜非親和性領域を含むこともできる。前記パターンは、同一の膜親和性又は膜非親和性表面領域の幾何構造を含むことができる。前記パターンは、異なる膜親和性又は膜非親和性表面領域の幾何構造を含むこともできる。
【0037】
最後に、本発明の装置の水層は、ポリマーを含むことがある。このとき、それらは、いわゆるポリマークッションとして機能し得る。
本発明の装置の好ましい実施形態を、図16及び17に示すとともに、より詳細に下記でも論じる。
【0038】
本発明は、本発明の装置における被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質の分離又は同定方法にも関しており、この方法は、(i)本装置を、前記物質の一部の制御された消化分解を行う少なくとも1つの消化剤と接触させ、その後、その物質が、実質的に可動な画分と、依然としてその被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している固定画分とになる第一段階;及び(ii)その実質的に可動な画分を輸送して、検出又は分析する第二段階を含んでなる。これを異なる消化性化合物で1回又は数回繰り返してもよい。この方法は、(iii)その被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質の残存固定画分を保持するその被覆層の構造を崩壊させる少なくとも1つの崩壊剤と本装置を接触させ、その後、その物質が、実質的に可動性であるその基本的要素からなる第三段階;及び(iv)その被覆層から放出される、その被覆層に含まれていた、結合していた、連結していた、又は会合していた物質の残存画分を輸送して、検出又は分析する第四段階をさらに含むこともできる。この方法は、下記及び添付のクレームにおいて、さらに論じる。
【0039】
本発明は、本発明の装置における被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質を分離又は同定する方法にも関しており、この方法は、(i)可溶性物質を含有する水溶液と本装置を接触させる第一段階;(ii)その水溶液中の可溶性物質の分画を行う、少なくとも1つの消化剤又は分解剤と本装置を接触させる第二段階;及び(iii)それらの可溶性物質の画分を検出又は分析する第三段階を含んでなる。この方法も、下記及び添付のクレームにおいて、さらに論じる。
【0040】
更に、本発明は、上記で論じた装置及び/又は方法の使用に関する。本装置及び方法は、とりわけ、
本発明の装置における被覆層に含まれている、結合している、連結している又は会合している、又はそのようなことができる物質の分離のために、
本発明の装置における被覆層に含まれている、結合している、連結している又は会合している、又はそのようなことができる物質の回収のために、
本発明の装置における被覆層に含まれている、結合している、連結している又は会合している、又はそのようなことができる物質の同定のために、
例えばペプチド、糖、脂質又はDNAの分離を行う分離カラムへの組み込みのために、
検出又は分析システムへの組み込みのために、
脱塩カラム及び濃縮カラムへの連結のために、
結合相互作用の検討のために、
拡散の検討のために、
化学反応の検討のために、
タンパク質−薬剤相互作用の検討のために、
ケミカルコンピュータを製造する際に、
移植可能な装置を製造する際に、
本発明の装置の膜親和性領域上で生体細胞を成長させるために、いわゆるマランゴニ対流及び他の膜特性と併用で、
例えば、本発明の装置の膜親和性又は膜非親和性領域に付着している、又はナノメートルからマイクロメートルの直径を有するビーズに付着している抗体と併用で、及び/又は
高分子の集束又は濃縮のために、又は高分子凝集体の形成のために、
適している。
【0041】
膜タンパク質の分析及び検討のために上述の方法、技術及びプロトコルと併用される装置の場合、数ある中でも、次の用途が可能である:
・できるだけ多くのアミノ酸配列に対応するタンパク質配列中のできるだけ多くのペプチドを検出及び同定する最適化プロトコルを含む、いわゆる配列カバー率の検討をはじめとする、タンパク質の同定及び特性付け。翻訳後修飾の検討もこの文脈にあてはまる。
・様々な細胞サンプルからの膜タンパク質のマッピング、つまり、膜プロテオームプロファイリング。広範な存在度レベルを有する非常に複雑なサンプルを消化し、分析する。MS分析前に、生成ペプチドを1つの次元(例えば、逆相HPLC)又は2つの次元(例えば、イオン交換HPLC(SCX−強カチオン交換)、その後、逆相HPLC)で分離する。これにより、低存在度タンパク質の検討及び新薬ターゲットの発見が可能となる。
・膜タンパク質の機能検討、例として、ターゲット検索及び受容体の脱オーファン化、例えばG蛋白結合受容体(GPCR)の脱オーファン化である。ターゲット検索の場合、その目的は、リガンド結合検討を用いて、どのリガンドがどのタンパク質に結合するかを特定することである。受容体の脱オーファン化の場合、その目的は、受容体及びそれらの推定リガンドの機能を解明することである。機能が不明であり、それ故、オーファン受容体という名前の受容体が多く存在する。
・疾病状態及び/又は薬剤療法状態時のタンパク質発現レベルのアップ・アンド・ダウンレギュレーションの調査、いわゆる発現プロファイリング。このような検討は、様々なサンプルの比較及びそれらサンプル間の違いの評価を含む。
【0042】
伝統的な方法を用いた場合と比較して改善されたデーター出力は、その他の技術と比較される上述の方法、技術及びプロトコルを併用する記載の装置で得られ、下記の通りである:
・多数の化学反応及び/又は洗浄段階を実行して、このチップでの最適化プロトコルを実現することができる。このような段階は、サンプルを希釈せずに実行することができる。
・同じサンプルを使用して、膜タンパク質の膜外及び膜貫通部分をターゲットにし、様々な段階で回収することができる。
・単一サンプルを種々の酵素に付して、逐次的に及び/又は同時に、同サンプルの様々な部分を消化することができる。
・逐次的消化などと共にこのチップにおける容積に対する高い表面積比率は、最少のサンプルロスで高濃度の生成ペプチドを導き、それが、より高い感度を可能にする。これは、サンプル中の配列カバー率の検討及び低存在度タンパク質の検出を促進する。
・細胞からの種々の細胞内画分を1つのチップで同時に取り扱うことができる。
・リガンド結合、架橋及び/又は消化により、ターゲットのペプチド結合部位を得ることができる。リガンドと結合しているタンパク質と結合していなタンパク質とでは、リガンドが酵素の分解を立体的に妨害する又は結合により構造変化をもたらすことで、酵素的消化後に、異なるペプチドマップを生成する。
【0043】
本発明のチップ装置と上述の方法、技術及びプロトコルを併用することで、得られる更なる幾つかの一般的な利点は、以下の通りである:
・サンプルが表面に拘束される。つまり、分析の間、サンプルが固定マトリックス内に保持され、これにより、標識、化学的な調節、消化などの多数の段階が可能となる。
・MS、蛍光、電気化学、SPR、QCMなどをはじめとする、チップ実装及びチップ非実装の検出技術の蓄積と併用することができる。
・既存のチップベースのプラットフォーム及び従来の分析ツールに本チップを組み込むことが可能。
・サンプル処理の自動化が容易である。
【0044】
同時に、上述の方法、技術及びプロトコルと併用される本発明の装置における脂質マトリックスの使用の利点は、下記の通りである:
・膜タンパク質のような膜結合成分が、それらの天然脂質二重層環境内に保持される。
・膜結合成分の構造及び機能が、維持される。
・本発明は、膜タンパク質をそれらの天然二分子膜環境内に保つことができるので、タンパク質のような膜結合成分を含有する膜小胞の調製、輸送、堆積及び処理に、界面活性剤を使用する必要がない。界面活性剤は不都合な効果、例えばタンパク質の変性効果を有することがあるので、これは有利である。本発明に関連してほんの少数の又はすべての段階で界面活性剤を使用して、例えば、分析前により純粋な膜タンパク質調製物を得ることも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
脂質二重膜は、ある特定の形状及び幾何学的配置に適応させることができる。平衡状態時に見られる自然な形状は、トポロジー(位相幾何学的配置)、位相及び幾何学的配置に制限される。本発明者らは、曲げ率、伸縮率、自然弯曲などのようなある重要なシステムパラメータの関数として形状を解くためにヘルフリッチ(Helfrich)の式を参照する。脂質二重膜は、サーモトロピック液晶であり、その遷移温度より上では二次元流体として挙動する。液晶媒体は、膜タンパク質並びに他の両親媒性及び親油性分子のようなある特定の分子のための溶媒として非常に興味深い。しかし、この流体の制御には限界があるため、技術的応用のために液晶媒体を使用して装置を製造することは難しい。二重膜は、界面流体物(interfacial fluids)である。それ故、それらは、常に、境界に存在するか、又は境界を画定する。種々の方法を用いて、膜をエネルギー的に好ましくない構造に押しやることができる。従って、その結果として生じる構造は、動力学的に拘束されており、非常に高いエッジエネルギーとしての特徴を有することがある。脂質二重膜に関していえば、本発明者らは、本発明を特定の脂質二重膜構造の何れかに限定するものではない。従って、それは、Langmuir−Blodgettタイプの平面二重層又は球形の小胞であってもよく、又は管状構造であってもよいし、他のタイプの構造であってもよい。本発明者らは、本発明をいずれの特定のタイプの脂質相にも限定しない。
【0046】
エネルギー的に歪んだ幾何学的配置の一例が、ナノチューブ又は細いテザーによって結合されている脂質膜小胞である(Karlsson et al. Nature, 409, 150-152(2001))。これらの構造は、それらの小胞が表面に固定されているときにのみ、長期間にわたって存在することができる。それらの小胞がその表面から解放されると、その系は直ちに崩壊して1つの単一球形になる。
【0047】
一態様では、本発明は、表面上の脂質二重層構造の形状を制御する方法を提供する。具体的には、本発明者らは、本質的に平面の基板上にある特定の特徴、例えば、化学的な又はトポグラフィックな特徴を有する表面を設計する方法を開発した。このような特徴は、脂質二重膜(又は、そのような膜集成体を形成する構成成分)と相互作用することにより、制御された終点トポグラフィー及び幾何学的配置を有する複合構造を形成する。根本的な考え方は、得られる二重層構造が、技術的な問題を解決するために有用な形態を有するように、例えば表面上での二重膜の広がり又は形成を、制御することである。1つのそうした非限定的な問題は、膜タンパク質を分離及び分析する能力を有すること、更に、タンパク質を、例えばタンパク質−薬剤相互作用で動的に、機能的なプローブにする能力を有することであろう。
【0048】
本発明者らは、種々の表面及びそれらの調製に注目して開始している。全てのタイプの膜及び膜材料を捕捉するように設計した膜親和性領域を、任意の形状又は幾何学的構成の何れかの膜親和性表面で、又は化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にした表面で、形成することができる。これらの表面は、特に膜タンパク質の分離及び操作のために、幾つかの有用な幾何学的配置を有する二重膜構造を主として保持するエリアを生成するために使用されるであろう。最も単純なケースでは、二重膜で表面を完全に被覆することが望ましい。次のケースでは、脂質二重膜によって被覆された表面上に線又は平面を規定することが望ましい。
【0049】
この膜被覆エリアは、少なくとも1つの平面方向で(すなわち、正常な伸展ではない状態で)存在し、好ましくは、二重膜によって被覆されていないエリアにより包囲されていなければならない。従って、これら2つのエリアは、異なる表面特性又はそれらを分ける物理的境界線を有さなければならない。最も単純なシナリオでは、二重膜へのこの吸着差を、前記表面への膜の接着を制御することによって制御する。脂質が帯電しており、親水性であるケースでは、膜で被覆される表面も帯電し、親水性であり得る。この目的に用いることができる、ファン・デル・ワールス相互作用、疎水性相互作用、静電相互作用、π−π相互作用、水素結合相互作用及び共有結合相互作用での、相互作用ポテンシャルを制御するために用いることができる、多数の化学的及び物理的パラメータがある。相互作用が、本質的に静的である場合もあり、これに対して動的である場合もある。動的相互作用の例は、エレクトロウェッティング(electrowetting)、磁気力及び電気力である。
【0050】
脂質二重層は、種々の方法を用いて表面に吸着させることができる。例えば、二酸化ケイ素での小さな単層小胞の崩壊からの連続の二重層の形成、及びLangmuir−Blodgettフィルムの形成に関する報告がある(Reimhult et al. J. Chem. Phys. 117, 7401-7404 (2002), Steltze et al. J. Phys. Chem. 97, 2974-2981(1993))。本発明に従って、設計構造に脂質を堆積させるための幾つかの技術を提案する(図7参照)。1つの技術は、例えばピペット移動(pipette-transfer)法を用いる、多層小胞の制御堆積を含む。これらの小胞は、過剰な膜材料を含有し、たった1つの直径10μmの多層小胞が、1000平方マクロメートルの脂質膜を含有することができる。この過剰な膜を、下記に説明するような好適な条件下で、表面に供与することができる。
【0051】
単純なケースでは、疎水性相互作用を用いて基板への膜の接着を制御することができる。水性環境での脂質二重膜会合に好都合である領域を平面基板に設ける。従って、この一般的なケースでは、a)固体支持体、b)界面液晶材料(例えば、脂質二重層薄膜)及びc)液体、最も一般的には水、を有する層状構造からなる系を作ることとなる。この平面基板は、脂質膜が広がることを好む領域と、膜の会合及び広がりを好まない領域とを有する。このような表面の例は、それぞれ、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にしたプラズマ処理の金又はAl表面、及びプラズマ処理の耐光性SU−8により被覆された表面である。表面のこれらの組み合わせは、大豆脂質膜及びホスファチジルコリンのような中性脂質膜、更に殆どの真核細胞のような細胞膜に対してよく作用する。化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にした、Al又は金によって完全に被覆された基板を製造することもでき、従って、それを用いて、小胞又は連続の二重層薄膜の形態の膜で完全に被覆された対応する表面を作ることができる。表面上に二重膜のパターンを作るために用いることができる、多数の他の特異的又は非特異的表面相互作用がある。自己組立て単層を含む表面調製物、及びエッチング、蒸着、スピンコーティング等のような様々なツールをこの目的のために用いることができる。マイクロ及びナノ加工の技術分野において公知のような種々の機構で、表面を作ることができる。化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により、表面を膜親和性にすることができる。このような技術によって製造される種々の表面の例を下記に示し、そうした表面を製造するためのさらなる加工処理法は、実施例セクションで示す。
【0052】
一部の目的及び用途のための表面は、膜親和性のみを有している(図1)、例えば、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした金又はAl表面がある。これらの膜親和性表面は、無傷小胞(例えば、小さな単層小胞であるSUV)又は連続の脂質二重膜のどちらかで被覆することができる。この技術から幾つかの用途を実現することができる。膜タンパク質をこれらの脂質系に再構成することができ、そしてマイクロアレイ又はプレートリーダーのような技術を、例えば蛍光ベースの検出技術と併用して、イオンチャネル又はG蛋白結合の受容体タンパク質(GPCR)のような標的タンパク質へのリガンドの結合を検討することができる。これは、例えば、脂質二重膜系(無傷小胞の形態又は連続の脂質二重膜の形態の何れか)中の目的のイオンチャネル、及び脂質二重膜の内側にレポータープローブを有することにより、実施することができる。このプローブは、リガンドが結合したときにそのチャネルが特異的に通過できるようにするイオンの濃度変化を報告する。従って、薬剤候補の可能性があるリガンドは、この技術を用いて、例えば蛍光の増加により、スクリーニングすることができる。結合するとイオンチャネルは開口し、そしてそれに対して特異的なイオンは、脂質二重膜を通って侵入することができる。それにより、レポータープローブが蛍光を発し、シグナルを観察することができる。
【0053】
この目的に用いることができるもう1つの技術は、表面プラズモン共鳴(SPR)検出に基づくものであり、この技術は、チップ表面に付着する質量の変化検出する。リガンドは、脂質マトリックス内の膜タンパク質に結合し、それにより、チップ上の質量の増加が観察される。膜親和性表面は、無傷小胞又は連続の脂質二重膜の形態の何れかで脂質二重膜マトリックス内のリボソームの付着にも用いることができる。これは、例えば、膜タンパク質の無細胞の合成に使用することができる。リボソームによる翻訳に必要なアミノ酸及びそのコーディング遺伝子、更にその他の材料又は物質を、膜マトリックス内に固定されたリボソームに付加させることができる。コーディング遺伝子を目的の膜タンパク質に翻訳し、その後、それを膜マトリックスに挿入する(水ベースの環境では膜タンパク質を合成できないので、非常に重要なことである)。目的の高濃度の膜タンパク質が得られたら、それらのタンパク質を更なる分析のために回収することができる。新たに合成されたイオンチャネル、GPCR及び他のタンパク質の機能性の検討なども、それらの膜タンパク質が合成されたチップ上で直接行うことができる。
【0054】
表面上の脂質マトリックス内のリボソームを使用して行うことができる別な検討は、ゲノムとプロテオームとをカップリングさせて、どの遺伝子がどのタンパク質をコードするかを調査することである。未知の機能を有するかもしれないタンパク質にゲノムを翻訳し、十分な高濃度が達成されたとき、機能性の検討を行うことができる。また、それらのタンパク質を、例えば質量分析を用いて同定及び分析するために回収することができる。これは、多数の方法で行うことができる。例えば、(例えば、トリプシンのような酵素を含有する)消化溶液をその溶液に添加して、脂質二重膜の外側に突き出ている膜タンパク質の部分を分解し、従って、それらの膜タンパク質からペプチド断片を作ることができる。この消化溶液は、膜マトリックスを崩壊させ、タンパク質を変性するために、界面活性剤又は有機改質剤を含有することもあり、それによってその消化剤から膜貫通ペプチド断片を作ることもできる。それらのペプチド断片は、回収され、例えばマトリックス支援のレーザー脱離イオン化−飛行時間型(MALDI−TOF)質量分析により分析される(図15及び更なる詳細については次の本文のパラグラフを参照されたい)。
【0055】
その他の目的及び用途のために、マイクロ及びナノ加工技術を用いて表面を構造化して、膜親和性と膜非親和性の両方を有する表面を作ることができる。従って、線、平面、又は特定の表面トポグラフィー又は異なる表面特性の組み合わせを有する平面を作ることができる。例えば、接着を促進するエリアを、脂質の広がりを支持しない他のエリアによって包囲することができる。種々の表面パターンの例を図1に示す。図1d及び1eは、それぞれ、膜親和性ドメイン及び膜非親和性ドメインを有する平面の表面の計画図を示す。図1dでは、2つの膜親和性の島が、単一の膜親和性レーンによって連結されており、図1eでは、2つの膜親和性の島が、3本の膜親和性レーンによって連結されている。図1f及び1gは、膜親和性領域が脂質二重膜によって被覆されている、図1d及び図1eの対応するイメージをそれぞれ示す。
【0056】
図1h及び図1iは、膜親和性ドメイン及び膜非親和性ドメインをそれぞれ有する平面の表面、並びに表面トポグラフィーの計画図を示す。凹状トポグラフィーを有するこのような構造は、マイクロ加工方法によって製造することができる。これは、膜親和性支持体上に広がる脂質二重膜と併用するためのものであり、再び、図1j及び1kは、脂質薄膜成長又は接着後の対応するイメージを示す。図1lは、膜親和性/膜非親和性ドメインを有し、そしてその膜親和性ドメインが高くした構造の上面に配置されている表面トポグラフィーを有する、表面の一例を示す。高くしたトポグラフィーを有するこのような構造は、マイクロ加工方法によって製造することができる。このような特定の例では、2つの高くした円柱が、単一レーンによって連結されている。図1mは、膜親和性ドメイン及び膜非親和性ドメインをそれぞれ有し、そしてその親水性ドメインが高くした構造の上面に配置されている表面トポグラフィーを有する、表面の一例を示す。この特定の例では、2つの高くした円柱が、3本のレーンで連結されている。図1lにおける疎水性表面ではない親水性表面を被覆する平面支持膜を図1nに示し、図1mにおける膜非親和性表面ではない膜親和性表面を被覆する平面支持膜を図1oに示す。これら浮遊の(suspended)平面膜が、3本のレーンの間に入り込んでいることが注目される。わかるように、この技術を用いると、支持基板からの距離が異なる表面に、その表面トポグラフィーのために、本質的に平面の膜を堆積することができる。これらの構造の高さ、すなわち、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にされたAl表面の上部のSU8層の厚さは、ナノメートルからミリメートルまでの違いで変動することができる。
【0057】
図1pは、図1d、1h及び1lと同様の表面の上の小胞−管型膜構造を示す。これらは、(参照特許)に記載されている手順に従って製造したナノチューブの小胞網状構造である。従って、この方法は、本質的に平面の膜の堆積に限定されるものではない。特定パターンの形成には幾つかの自由度があり、それは、用いられるマイクロ加工法及び表面堆積の方法/表面化学によって最終的には限定されている。
【0058】
すべての表面は、小さな小胞を固定するのに用いることができる。表面を調整するのに用いることができる他の特異的又は非特異的相互作用が多数ある。これは、本文中、上記で暗に示したが、例えば、脂質によって被覆されることとなるエリアがストレプトアビジン部分を含有し、その脂質がビオチン部分を含有する化学的にパターン化された表面を参照することができる。その他の例としては、レシチン被覆エリアが挙げられ、その脂質膜は、糖(又はそのレシチン被覆エリアに結合するような糖残基を有するタンパク質)を保持することができる。その他の戦略としては、特別な目的の表面を作るためのSAM(自己組立て単層)の使用が挙げられる。このように、脂質二重層の化学的及び物理的多様性を想定して、本発明者らは、総称概念の一般化を強調するために、膜親和性及び膜非親和性という語を用いている。最も重要な論点は、これらの方法により、膜タンパク質分離のような技術的用途のために最適化された構造を生成するために、特定の設計及び機構サイズの脂質膜被覆の表面を差別的に形成することができる。また、この方法が、異なる形態の脂質二重層形成性の界面活性剤、すなわち平面の膜、小胞などに限定されるものではなく、ミセル形成性の系、油、スポンジ相及びリオトロピック脂質等を含む、その他の界面活性剤又は乳剤系を包含し得ることを言及することは重要である。また、場合によっては、異なる位相状態の脂質の局所組成が同じ表面上に共存するマイクロチップを製造することができる。
【0059】
差別的な膜親和性及び膜非親和性を有するパターン化された表面は、細胞培養のためのプラットフォームとして使用することもできる。このような集団又は単一細胞は、異なるスポットで成長させることができる。連結レーンは、例えば、細胞間のシナプス結合が発生し得る部位となり得る。
【0060】
膜親和性領域及び膜非親和性領域を有する三次元のグレースケール基板を含む、異なる基板の7つの非限定的な例を、脂質二重膜によって被覆された膜親和性領域を有する対応する基板とともに、図2a〜2mに示す。これらは、これらの装置の設計に大きな自由度があることを例証するために示す。これらの構造は、拡大縮小可能であり、長さスケールの基準がこれらの図には与えられていない。しかし、最小機構サイズ、すなわち形成することができる最小のレーンは、ほぼ5nmであり、製造することができる最大は、巨視的寸法である。図2aは、膜非親和性基板上の膜親和性蛇行ボーダー型のパターンを示し、図2bは、二重膜によって被覆された図2aにおける表面を示す。図2cは、膜非親和性基板上の膜親和性の曲がりくねった型のパターンを示し、図2dは、二重膜によって被覆された同基板を示す。図2eは、3次元の膜非親和性のピラミッド形基板の上面の膜親和性パターンを示し、図2fは、二重膜によって被覆された同基板を示す。図2gは、3次元の膜非親和性の階段状ピラミッド形基板の上面の膜親和性パターンを示し、図2hは、二重膜によって被覆された同基板を示す。図2iは、3次元の膜非親和性の曲がりくねった形状基板の上面の膜親和性パターンを表示するものであり、図2jは、二重膜によって被覆された同基板を示す。図2kは、膜非親和性基板上の膜親和性の回状曲がりくねった迷路型のパターンを示し、2lは、二重膜によって被覆された同基板を示す。図2mは、膜非親和性基板上の膜親和性の四角形曲がりくねった迷路型のパターンを示し、2nは、二重膜によって被覆された同基板を示す。これらは、すべて、非限定的な例である。
【0061】
更に、単一チップ表面上に幾つかの構造を配置して、並列又は多重化装置を作ることができる。同じチップ上に多数の同じ構造設計を存在させてもよいし、幾つかの異なる基板設計を存在させてもよい。図3は、多数の基板機構を有する種々のチップの非限定的な例を示す。図3aは、膜非親和性基板上の単一レーンにより連結した2つの円形スポットからなる16個の同一の膜親和性パターンのアレイを示す。図3bは、膜非親和性基板上の3本のレーンにより連結した2つの円形スポットからなる16個の同一の膜親和性パターンのアレイを示す。図3cは、膜非親和性基板上の曲がりくねったパターンで配列された単一レーンによって連結した2つの円形スポットからなる16個の同一の膜親和性パターンのアレイを示す。図3dは、膜非親和性基板上の迷路パターンで配置された単一レーンにより連結した2つの円形スポットからなる16個の同一膜親和性パターンのアレイを示す。
【0062】
図3eは、膜非親和性基板上の、i)曲がりくねったパターンで配列された単一レーンにより連結した2つの円形スポット、及びii)3本のレーンにより連結した2つの円形スポットからなる、2つの異なるタイプの16個の膜親和性パターンのアレイを示す。図3fは、膜非親和性基板上の、i)迷路パターンで配列された単一レーンにより連結した2つの円形スポット、及びii)3本のレーンにより連結した2つの円形スポットからなる、2つの異なるタイプの16個の膜親和性パターンのアレイを示す。これらのチップは、下記で説明するような特定の機能性を保持するために、電極又はマイクロ流体チャネルのような補助機構をさらに有することができる。上記で説明したマイクロチップは、脂質薄膜に溶解されている材料又は脂質薄膜それ自体の操作を可能ならしめる追加の構造及び特性のような特異的な機構を有することができる。1つのこのような機構は電極であり、これらの電極は、例えば、脂質薄膜又は脂質薄膜に含有されている材料を電気化学的に変化させるため、又は電場を作るために使用することができ、前記電場は、例えば、電気泳動、電気浸透及び誘電泳動のようなエレクトロマイグレーション法によって材料を輸送するために用いることができる。チップは、1つ又は幾つかの電極を有することができ、それらの電極は、チップ表面に組み込まれていてもよく、又はこれらの電極は、マイクロチップ上の一定の位置に配置されるプローブであってもよい。電極を使用して、膜タンパク質のような膜又は膜会合材料のエレクロロマイグレーションを行うことができる。
【0063】
膜非親和性領域及び膜親和性領域並びに補助電極を有する種々のチップを、図4A〜Kに示す。図4aは、中心の終点及び周辺部の出発点を有するらせん状レーンを保持する6個の構造を示す。電場をかけるために、電極が2つのスポットに連結されている。図4bは、3本のレーンにより連結している2つのスポットからなる6個の同一の膜親和性領域を有するチップを表示するものである。電場をかけるために、電極が2つのスポットに連結されている。図4cは、7本のレーンに連結している2つのスポットからなる6個の同一の膜親和性領域を有するチップを示す。電場をかけるために、電極が2つのスポットに連結されている。図4dは、レーンの二叉に分岐するネットワークに連結した2つのスポットからなる膜親和性領域を有する1個のパターンを有するチップである。電場をかけるために、電極が2つのスポットの外部に連結されている。電場をかけるために、このネットワークの各々の分岐点でも電極が連結されている。図4eは、レーンの二叉に分岐するネットワークに連結する2つのスポットからなる膜親和性領域を有する1個のパターンを有するチップを表示するものである。電場をかけるために、電極が2つのスポットの外部に連結される。電場をかけるために、このネットワークの各々の分岐点でも電極が連結されている。図4fは、2個の埋込電極に連結している円形の膜親和性領域である。図4gは、2個の外部電極に隣接して配置された円形の膜親和性領域を示す。図4hは、1個の中央電極及び6個の周辺部電極を有する円形の膜親和性領域を保持するチップを表示するものである。図4iは、四極電極配列で配置された円形の膜親和性領域を示し、図4jは、八極電極配列で配置された円形の膜親和性領域を有するチップを示す。図4kは、二次元又はそれ以上の次元で分離を行うことができるように、どのように外部電極が電場を切り替えるのに使用できるかを示す。
【0064】
これらの電極は、チップ構造上に組み込まれていてもよいし、外部にあってもよく、そして集束された又は均一な場を作ることができ、更に例えば特定のレーンの交差点にタンパク質を移動させるように命令する(切り替える)ために使用することができる。
【0065】
本チップを種々の設計のマイクロ流体チャネルと組み合わせることもできる。これらのチャネルは、基板と直接一体化されていてもよいし(単一層装置)、又は膜親和性パターン及び膜非親和性パターンをそれぞれ含有する基板に結合した別の層の一部であってもよい(多層化装置)。これらのチャネルは、膜タンパク質、又は染料、薬剤若しくはその他の薬剤のような種々の試薬を管理するために使用することができ、これら試薬は、局所的(チップ上又は脂質薄膜上のある特定の位置)又は全体的のどちらかの、脂質二重膜又は二重膜に含有されている膜タンパク質を含む材料の化学的又は物理的特性に影響する、すなわち単一又は多数の装置においてチップ全体又は脂質薄膜全体に影響を及ぼす。マイクロ流体チャネルは、膜脂質又は小胞の輸送により膜親和性エリア上にその膜薄膜を造るために使用することもできる。マイクロ流体チップの1つの非限定的な設計を、図5aに示す。このチップは、3本の膜被覆レーンに連結する2つのスポットからなる膜親和性凹領域を有する。2本の外部レーン及び2つのスポットがマイクロ流体チャネルに連結しており、そして次にそれらのチャネルがレザーバ(reservoirs)に連結している。この例では、圧力(P)によってそのマイクロ流体送出量が制御される。一般に、これらのチャネルは、異なる寸法及び幾何学的配置を有することができ、チップ上に組み込まれていてもよいし、外部から供給されてもよい。一態様では、これらのチャネルはPDMS、PMMA、PC、又は他のゴム若しくはプラスチック材料中に造られる。コンテナを有するチップを製造することもできる。これらのコンテナは、マイクロ流体チャネルに連結することができ、又は試薬、薬剤、タンパク質などのための保管装置として別途使用することができる。
【0066】
上記及び実験セクションで更に詳述する種々の技術によって提供される別々の膜親和性領域及び膜非親和性領域を有し、上記の特定の特性を有する、パターン化された基板は、化学的又は物理的堆積方法を用いて、小胞を含む適切な脂質二重層薄膜又は他の適切な界面活性剤薄膜で被覆する必要がある。一般に、これらの基板は、水溶液又は水ベースの溶液、例えば生理緩衝液中で使用される。以下、本発明者らは、表面に脂質を導入及び堆積させるための幾つかの異なる技術をたどる。先ず、本発明者らは、SU−8によって囲まれ、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした、プラズマ処理の金又はAlからなる2つの異なるパターン化されたモデル表面上での大豆多層リポソームの脂質広がり性を説明する(図6)。図6aは、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にしたプラズマ処理した金の表面上での大豆脂質の広がりを時間に対して示すプロットである。脂質スポットの初期面積は、0.1×10μmであり、4.8秒後、その脂質面積は、1.8×10μmを占める。この脂質は、初めは多層リポソームとして表面に堆積させた。
【0067】
図6bは、顕微鏡によって観察された、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にしたプラズマ処理した金の表面上での大豆脂質の広がりを表示するものである。左の画像の時点は、リポソームを堆積させた後のt=0.4秒であり、第二の画像は、リポソームを堆積させた後のt=5.2秒を表す。これらの写真は、図6aで提示したグラフの最初の点と最後の点に対応する。図6cには、プラズマ処理のSU−8表面上での大豆脂質の広がりを時間に対して示すプロットを示す。スポットの初期面積は、327μmであった。13分後、その脂質材料は、広がりを示さない。脂質面積の見かけの減少は、光退色効果に起因する。この脂質は、初めは多層リポソームとして表面に堆積させた。図6dにおける蛍光顕微鏡画像は、プラズマ処理のSU−8表面上での大豆リポソームの広がりを13分の間隔で示したものである。これらの写真は、図6cの最初の点(左側の画像)及び最後の点(右側の画像)に対応する。パターン化された表面の膜親和性領域に脂質二重膜材料を導入及び堆積させることができる方法は幾つかある。一態様において、脂質膜材料は、マイクロピペット又は他の輸送ツールを使用して膜親和性領域に多層又は単層小胞を堆積させることにより、チップ基板に供給することができる。基板の平行移動には、走査ステージ、例えば電動式、コンピュータ制御走査ステージ、を用いることができる。
【0068】
マイクロピペットの動作をロボットによって制御することもできる。その手順の概略を図7aに示す。例えば「Karlsson et al. Langmuir, 17, 6754-6758 (2001)」に記載されているプロトコルによって製造された多層リポソームを、ガラスマイクロピペットのオリフィスに部分的に又は完全に注入する(例えば、「Sott et al. Langmuir, 19, 3904-3910 (2003)」を参照されたい)。好ましくは、そのマイクロピペットは、高い格付け(high-graduation)のマイクロマニュピュレーター(日本、東京のNarishige MWH−3は、このようなマイクロマニュピュレーターの非限定的な一例である)のようなマイクロポジショナーによって制御する。その後、多層小胞を基板の膜親和性領域と接触させる。リポソームは、表面に接触すると、膜親和性膜上に広がり始め、それが脂質膜によって部分的に又は完全に被覆されるまで広がる。脂質薄膜の特有な構造は、使用されるリポソームの個々のタイプに依存し、単層である場合もあり、多層である場合もあり、異なる脂質組成を有することもある。多くの場合、この脂質堆積法を用いると、脂質膜は、Langmuir−Blodgettフィルムのような完全な脂質二重膜にはならない。多層リポソームからの脂質薄膜のクリープ(creeping)及び広がり(spreading)挙動は、最初の球形のリポソームの形を維持するために必要なエネルギーを上回る、その膜材料が有する膜親和性表面に対する高い結合親和性に起因する。あるいは、図7bに示されるように、光学ピンセットを使用して多層リポソームを膜親和性領域に堆積させてもよい。光学ピンセットにより水溶液中の多層リポソームを捕捉し、それらをターゲットエリアに移動させることができる。光学ピンセットにより単層小胞を捕捉することもできる、但し、それらの小胞に周囲の溶液より高い屈折率の材料が充填されていることが必要となる。
【0069】
膜親和性領域への脂質膜の堆積は、脂質材料を充填したピペットの表面を横切るように平行移動させることによるピペット書き込み法を用いて達成することもできる。この技術は、小胞のナノチューブ網状構造の形成のために、「Sott et al. Langmuir, 19, 3904-3910 (2003)」に記載されており、多層又は単層リポソームから脂質材料を平行移動させるために用いることができる。その手順の概要を図7cに示す。この場合、上の例の場合と同様に、少なくとも3つの異なる結果の構造を得ることができる:a)浮遊の(suspended)管状構造を有する小胞、b)表面に固定された管状構造を有する小胞、及びc)別のタイプの二重膜。上記で説明した方法は、好ましくは、違った形で被覆された基板上に二次元の脂質膜薄膜を作るために用いられるが、表面上の小胞のナノチューブ網状構造を固定及び保持するために利用することもできる。このような網状構造を形成するための方法は公知であり、それらは、特定の表面での特定の脂質膜のクリープ又は広がりの特性が不十分であるか、他の反応のためには不十分であるとき、特に成功することがある。膜タンパク質の拡散がナノチューブ全体にわたって観察されること(Davidson et al. J. Am. Chem. Soc. 125, 374-378 (2003))は、言及する価値がある。吸着性が非常に高い上述のようなナノチューブの小胞網状構造からの二重層装置の形成は、脂質二重層薄膜の被覆装置に到達するためのもう1つの非常に魅力的な手段である。
【0070】
基板の膜親和性領域は、図7dに示されるような小さな表面吸着小胞の融合を利用する脂質の堆積により、脂質膜薄膜によって被覆することもできる。これらの小胞を、例えば水溶液中の基板に添加してもよい。基板の表面への沈降後、それらは、パターン化された膜親和性領域に優先的に結合し、この場合、それらはあまりにも高い吸着ポテンシャルで固定されるのではじける(表面張力が溶解張力より高い)。過剰な無傷小胞は洗い流すことができる。
【0071】
脂質二重膜の堆積は、図7eに示されるようなマイクロ流体チャネルによる管理によって達成することもできる。例えば、マイクロ流体チャネルによって単層及び多層小胞を違った形で被覆された基板に与えることができる。また、違った形でパターン化された基板上のある特定の位置に多層及び単層小胞を方向づけることができる。
【0072】
更に別な代案として、パターン化された基板上の膜親和性領域上への脂質二重膜の形成は、図7gに概略的に示しているように、溶解された脂質の直接注入によって達成することができる。この手順は、リポソームを形成するための直接注入方法に類似しているであろう。有機溶媒中のリン脂質の懸濁液が、水溶液に入れられた基板に、単に注入されることとなる。この方法を用いると、大小のリポソームが溶液中で形成し、その後、膜親和性エリア上に付着し、広がる。あるいは、脂質は、パターン化された構造上で単層構造に集合し(SMA)、その後、第二の脂質層を形成して、脂質二重膜を作ることができる。無傷小胞をそれらの表面に取り付けることもできる。
【0073】
図8は、異なるサイズ及び機構の親和性及び膜非親和性領域を有する幾つかの異なるマイクロ加工構造のDIC顕微鏡写真及び蛍光画像を示す。これらの装置の構造的機構は、相互連結レーンの最適な機能サイズ及び形状を見つけるために、及び加工プロトコルの解像限界を探査するために変化させることができる。これらの画像におけるパターンは、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした金表面又はAl表面(この顕微鏡写真中、薄いグレーとして見えるもの)上のSU8(この顕微鏡写真中、濃いグレーとして見えるもの)からなる。化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした金表面又はAl表面が、膜親和性表面に相当し、SU8が、膜非親和性表面に相当する。図8aは、薄い金レーンによって連結した金の2つの円形スポットからなる単純な構造を示す。この相互連結レーンの幅は、0.5〜10マイクロメートルの範囲で変えられる。このケースでは、レーンは、1マイクロメートル幅であった。図8bは、2マイクロメートル幅のレーンを有する、図8aの場合と同様のパターンを示す。これらの画像は、基板表面上のパターンの反復スペーシングにより、これらの加工方法の並行能力も示している。
【0074】
図8cは、単一基板上の多数の異なるマイクロ加工パターンを示す。このケースでは、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした2つの円形金スポットを相互連結する、1〜10マイクロメートルの範囲の様々な距離によって離された、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした金の2本のレーンを製造した。再び、これらのレーンの幅も様々であり得る。これらの特定の構造は、1マイクロメートル幅のレーンを有している。図8dは、図8cにおける構造のうちの1つの拡大図を示す。この画像は、この加工プロトコルにより明瞭なレーン及び高アスペクト比の構造を作ることができることを示している。化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした、Al表面の上のSU−8層の厚さに相当する、これらのパターンの深さは、ナノメートルからミリメートルの範囲であり得るが、この深さは、一般には1マイクロメートルである。図8eは、蛇行構造、すなわち、レーンが90℃の折り返しを有し、それによって2セットの平行ラインを形成している構造を示す。これらのタイプの構造は、多数の電極セットと併用することができ、それによって、二次元で電気泳動分離を行うことが可能となる。
【0075】
図8fは、図8eにおける構造の拡大図を示す。図8gは、異なる分岐又は合流構造を示す。図8hは、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした金パターンに限定された脂質の被覆を図解する蛍光画像を示す。この脂質は、大豆脂質から製造した多層リポソームの沈降によって表面に堆積させた。多層リポソームは、脱水/再水和法を使用して調製し、その広がりをより制御可能に可視化できるように蛍光膜染料、DiOをドープした。図8kは、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした膜親和性Al被覆パターン(画像中、薄いグレーとして見えるもの)とSU−8被覆膜非親和性領域(画像中、濃いグレーに見えるもの)とを有するチップを示す。Alによって被覆された円形スポットは、直径50マイクロメートルであり、Alの相互連結レーンは、幅約2マイクロメートル及び長さ約50マイクロメートルである。図8lは、図8kに示したマイクロ加工構造のうちの1つの上に、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にしたAl被覆パターンに限定された脂質の被覆を図解する蛍光画像を示す。脂質膜を蛍光膜染料で染色して、その広がりを可視化した。このケースでは、小さな単層小胞(SUV)の懸濁液を使用して脂質の被覆を実施した。
【0076】
膜親和性エリア上に二重膜を形成した後、脂質、膜タンパク質(表在性及び内在性)、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型タンパク質又はその脂質二重膜に例えばビオチン−アビジンの相互作用によって連結している他のタンパク質を含む、膜マトリックスへの様々な成分の堆積及び導入を、幾つかの異なる技術によって行うことができる。
【0077】
電気注入は、図9aに示すように、マイクロピペットを使用する、膜被覆表面に近い外部供給源(例えば、脂質懸濁液、リポソーム製品など)からの余剰又は過剰の膜材料堆積を含む。この余剰膜材料は、輸送マーカーを含有し、図9bに示すように、2つの膜の両端への1つ又は幾つかの電気パルスを引き続きかけることによって膜被覆エリアに組み込むことができる。この電気刺激は、膜の融合を誘発及び誘導し、そして一方の炭素繊維微小電極と、マイクロピペットの内側にある白金線との使用により作られ、これらは、両方とも、パルス発生器に連結している。融合後、輸送マーカーは、円形スポットの一方にある(図9c)。
【0078】
別な技術は、例えば光学ピンセット及びマイクロピペット法を含む様々な技術による膜被覆エリアの隣への輸送マーカーを含有する余剰の膜材料の堆積(図9d)を含む。その後、パルス発生器に連結された2つの炭素繊維電極を使用する2つの膜の両端への1つ又は幾つかの電極パルスによってそれら2つの膜を融合させる(図9e)。この技術は、電気融合と呼ばれる。図9aの場合のように、融合後、輸送マーカーは、円形スポットの一方にある(図9Bc)。
【0079】
膜融合は、電磁放射線によって誘発又は促進することもでき、これは、光学融合を意味する。このケースでは、図9Ca〜cに示されているように、膜を不安定化し、融合を誘導するために、2つの膜区画の間の接触ゾーンに光(通常はUV線)を当てる。
【0080】
同様に、膜の融合は、図9Da〜cに示されているように、界面活性剤、カルシウムイオン及びその他の二価金属イオンのような様々な化学物質、更にポリマー、ナイスタチン/エルゴステロール、特殊な膜融合性(fusogenic)脂質類似体(例えば、カチオン性脂質又はミリスタチン酸塩を含む)及び膜融合を誘導することが証明されている特定のペプチドの添加によって、促進することもできる。
【0081】
あるいは、膜親和性表面への脂質の広がり又は小さな小胞の融合を利用する脂質の堆積は、脂質調製物中に輸送マーカーを含めることができ、従って、図9Ea〜cに示すように、パターン化した表面全体にわたって、輸送マーカーを有する脂質表面を生成することができる。
【0082】
膜タンパク質のような膜及び膜成分は、図7Ea〜eと同様に、図9Fa〜cに示されているように、マイクロ流体工学の利用により、脂質マトリックスに導入することもできる。異なる構造又は同じ構造の複数の部分を横切るように、例えば小さな膜融合性小胞を含有する溶液の流れをフラッシュすることができる。膜タンパク質のような膜成分を含有する膜融合性小胞は、予め形成された脂質二重層マトリックスと組み合わせることができる。その結果、例えば膜タンパク質の注入を非常に局部的にし、チップ表面の特定部位にその目標を定めることができる。
【0083】
上で論じたように、本発明の脂質膜装置は、膜マトリックスに包埋された膜タンパク質の分離に使用することができる。膜に含まれている膜タンパク質の分離を達成するための1つの明白な方法は、電場の利用によるものである。電場は膜タンパク質に直接影響を及ぼすことができるか、又は脂質マトリックス内の他の成分、例えば、タンパク質に会合する特殊化した脂質に影響を及ぼすことができる。本発明者らは、膜タンパク質を含む分子又は粒子状材料の何れかであり得る膜会合材料をMAMと呼ぶ。本発明者らは、膜材料をMMと呼び、これは脂質又は液晶相の何れかであり、そして会合している分子又は材料を含有する膜パッチをMPと呼ぶ。理論では、膜材料中に含有される化学種の電気泳動は、その化学種の電荷対摩擦抵抗比の関数である。従って、MAM、MP及びMMはいずれも、各構成要素が保持する正味の電荷及びサイズに依存して個々に又は集合的に移動させることができる。このことは、より詳細に下記にて説明する。また、その脂質構造が管状構造であるか、二次元シートであるか、そしてこれらの構造の表面電荷に依存して、様々な程度に、電気浸透送達又は輸送は有効的であり得る。従って、電気移動法は、例えばMMに溶解した膜タンパク質の移動速度の差異を改良するのに用いることができ、そして移動時間の分析からこれらのタンパク質を分画及び同定するための方法として用いることができる。一定のタンパク質の移動速度は、幾つかのパラメータ、例えば、幾つか挙げると、MAMのサイズ、MAMの電荷及び脂質相互作用、の複合関数であり得ることが明確にされるであろう。
【0084】
しかし、第二のケースでは、膜タンパク質の分離は、熱の変動及び拡散のみに基づくことができる。これは、その装置の長さの規模が十分に小さくて、熱移動による変位が比較的大きくなるとき、特に有効であり得る。異なる膜タンパク質は、そのタンパク質のサイズ及び周囲の脂質二重層マトリックスとの相互作用の程度に依存して、異なる拡散速度を有する。例えば、ナノメートルからマイクロメートルの寸法の放射状アームを有する脂質被覆装置を、拡散に基づくMAMの分離に使用することができる。図10は、4つの放射状レーンに連結している単一レーンからなる櫛構造パターンにおけるDiO標識の脂質膜の光退色後の蛍光回復(FRAP)実験の一例を示す。これらのレーンの幅は、5μmであり、放射状レーンの長さは、25μmである。1mol%のDiOをドープした小さな単層大豆リポソームの形態での脂質堆積後、この櫛構造のレーンを、水銀ランプから生じ、フィルターで選別された、強い励起光(488nm)によって退色させた。光退色後、その回復のスナップショットを、低速度撮影のシリーズの写真で記録した。図10における各々の写真の時間間隔は、4分である。
【0085】
これらの写真は、DiO分子が脂質二重層中に拡散移動するのに伴い、蛍光の一様で対称的な回復を図示している。そのパターンは、数分以内に再び完全に蛍光で満たされる。異なる横方向拡散係数を有する幾つかの異なる脂質膜会合化学種が、このような櫛様構造内の脂質二重層マトリックス内に存在する場合、これらの化学種の分画を実現することができる。以前に説明されている技術の1つによってそこに加えられた、分画すべき種々の化学種が、櫛様構造の片側に位置する場合、それらは、異なる速度でレーンに拡散し、これにより、その櫛構造に一つずつ異なるレーンを満たすであろう。この結果、膜会合化学種が分画されることとなり、この場合、最も速く拡散する化学種が、最初の放出点から最も離れた1つの放射状アームに位置し、次の放射状アームは、2つの最も速い化学種の混合物からなるなどと続く。パターン化された脂質膜における熱移動又は横方向の拡散に単に基づくこのような分画メカニズムは、互いに分離することが別な方法では難しい膜タンパク質を精製するための未完成だが単純な方法となる。注目に値するのは、このような分画は、放射状アームの数、長さ及び幅、レーンの長さ及び幅、放射アーム間の距離間隔のような、パラメータを変えることにより、櫛構造の設計を最適化し、調整することができる。
【0086】
これらのチップ構造に実装することができる別な分離メカニズムは、例えば、マイクロ流体工学の利用により脂質マトリックスを横切るように流体の流れを作ることに基づく。膜会合化学種は、それらの構造及び二重層との相互作用に依存して、脂質マトリックスを横切る流れに対して異なる抵抗を経験する。膜タンパク質が、脂質二重膜上の溶液に露出した大きな突き出した部分を有する場合、それは流体移動による影響を受け、従って、流体力学的抵抗力、すなわちストークス抵抗力を経験するであろう。その突き出した部分のサイズ及び形状、脂質相互作用及び流体の流速に依存して、異なる膜会合化学種は、異なる抵抗力を経験し、従って、脂質マトリックス内で分離されることができる。
【0087】
膜会合化学種の速度は、それがリガンド、抗体又は変性ビーズなどに付着すると、変更される。従って、この化学種は、例えば特定のターゲット分子の結合に基づく輸送速度の変化によって、同定/検出することができる。用いられる分離方法のタイプ(電/磁場、拡散、流れ等)に依存して、速度は増加又は減少することもある。1つ又は幾つかの異なるターゲット分子を含有する脂質膜装置を横切って薬剤候補をフラッシュし、同時にそれらの速度変化を記録するこれらのタイプの調査は、創薬用途に適用することができる。このように、速度の変化は、ターゲット分子と薬剤候補の間の結合の証拠である。
【0088】
例えば、電場と同じような原理の分離を用いて、これらの装置の構造を横断して磁場を誘導することもできる。例えば、ターゲットの膜タンパク質の抗体を使用して、目的の膜タンパク質に磁気ビーズを連結させることができる。このような磁気ビーズは市販されており、また、多数の膜タンパク質に特異的な抗体に容易に連結させることができる。このように、脂質マトリックスの内部に位置する膜タンパク質は、例えば、特異的抗体で変性された磁気ビーズを含有する溶液で、その脂質装置構造の上の溶液を単にフラッシュすることにより、磁気ビーズに取り付けることができる(図11)。磁気ビーズが脂質マトリックス内のターゲット膜タンパク質に付着した後、その系を横断して磁場をかけて、その二重層中の残りの膜タンパク質には影響を及ぼさずにターゲットタンパク質の移動を誘導することができる(図11d)。これは、脂質マトリックス内の種々の膜タンパク質の反復抽出及びそれらの画分の回収により、幾つかの膜タンパク質の分離に用いることができる。低コピー数で存在するその他の膜タンパク質の精製を促進するために、豊富にあり、それ故、容易に抽出することができる膜タンパク質を抽出することに用いることもできる。
【0089】
異なる分離法を一緒に用いる場合、同時に又は段階的に、同じ又は異なる次元で用いることができる。これは、用いる分離がどのタイプ(拡散ベース、電場ベース、磁場ベース等)であるか、サンプルのサイズ、及びサンプルがどのタイプ(粗製抽出物、膜画分、精製タンパク質等)であるか、のような因子と共に、装置の構造の設計に影響を及ぼすであろう。場合によっては、分離は、1つの次元で行うことができ、異なる画分をレーンに、又は第一分離レーンとは反対方向に分岐している三角形に集めることができる。これは、第一の分離として同じ分離メカニズム又は反対方向の別の分離メカニズムを利用することにより行うことができる。分岐三角形の使用は、分析前に小さなスポット又はレーンに画分を集めるために用いることもできる(図12)。分離法の併用の一例は、電場と流体流の同時使用である。電気泳動理論から、電気浸透流(又は電場から作られた流体流)を幾つかの荷電化学種の電気移動とは反対の方向に向ける。この事例では、膜の中の異なる化学種が、異なる技術により異なる影響を受けることとなり、これが、異なる電荷の化学種のより最適化された分離につながる。
【0090】
チップは、そのチップの異なる部分又は同じ構造の異なる部分でもpH勾配のような化学的勾配を有するように集積させることもできる。通常の、ゲルベースの分離方法は、
1つの次元での電場、その後、例えばpH勾配と併用での第二次元での分離など、2つの次元でのタンパク質の分離に基づくことが多い。タンパク質が、その等電点(pI)を生じる中性電荷に到達すると、そのタンパク質は、電場での移動を停止する。膜タンパク質に伴う問題は、この等電点での沈殿である。しかし、脂質二重層の保護された疎水性内部にあるとき、これは、同程度には起こらない。チップ構造は、pH勾配と組み合わせて、2−Dゲル分離に通常適用されるものと同じ原理を用いて、膜タンパク質の分離を助長することができる。これらのpH勾配は、脂質マトリックス上にpH勾配を作ることができるゲルとチップ構造を組み合わせて生成することができる。また、マイクロ流体工学をチップ構造と組み合わせて、様々なpHの種々の溶液でチップ構造の一部をフラッシュすることができる(図13)。このように、タンパク質は、そのタンパク質の電荷が中性になる(これは、上記に説明したように、その等電点において生じる)まで電場内で移動する。
【0091】
図14は、パターン化された構造上に脂質マトリックスが作られた後での試薬、抗体及びリガンドなどの付加を図示している。この例では、脂質マトリックスは、2mol%ビオチン X DHPE脂質をドープした、大豆からの極性脂質抽出物からなるものであった。この脂質マトリックスは、30〜60分間、そのチップ構造に上記組成の押出脂質調製物を加えることによって形成した。この脂質調製物は、その表面に付着し、その表面上に広がる、直径100nmの小さな単層リポソーム(SUV)からなるものであった。脂質マトリックスの形成後、リポソームの作製調製の場合と同じ緩衝液で3〜5回、そのフローセルをフラッシュすることにより、余剰の脂質懸濁液を洗い流した。洗浄後、ベータ−フィコエリスリンの溶液(前記と同じ緩衝液中、0.2mg/mL)をそのチップ構造に加え、30分後、前記と同じプロトコルを用いて余剰のベータ−フィコエリスリンを洗い流した。また、2〜3回、そのフローセルから溶液を短時間完全に抜いて、SU8表面の特異的結合をしていない材料を除去した。図14は、脂質マトリクスを形成した後での、リガンド、抗体及び他の試薬の結合の追加を図示する、本装置構造のうちの1つについての得られた蛍光画像を示す。これは、例えば、様々な膜タンパク質を含有する脂質マトリックスの異なるパッチを特異的抗体のような試薬でフラッシュして特定のターゲットタンパク質を見つけることができる、マイクロアレイプロトコルを用いる薬剤スクリーニングのような用途のために、特に興味深い。また、このタイプのアプローチを脂質マトリックス内の膜タンパク質分離後のポストラベル法として用いて、特定のタンパク質を見つけることができるスポットを特定することができる。最後に、上述したように、例えばMALDI−TOF法を用いるさらなる処理及び同定のために、特定の消化試薬を脂質マトリックス上の溶液に添加して、膜タンパク質から断片を切断することができる。
【0092】
膜会合化学種のための分離床としての脂質二重層網状構造の使用により、一緒に又は別々に作用して分離を誘導することができる幾つかの異なる分離メカニズムを生じさせることもできる。これらのタイプの網状構造は、リポソームのタイプ(多層、単層)及び表面の相互作用の性質などに依存した、多数の方法で製造することができる。膜タンパク質のような幾つかの膜会合化学種は、それらが平面脂質二重層中に優先的に存在するような方法で曲率変化を受けやすい。また幾つかの膜タンパク質は、好ましくは、脂質ラフトのような特定の脂質又は脂質複合体を有する。このようなラフトは、様々な膜曲率の領域に対して異なる親和性を示すこともある。これにより、網状構造中の管状領域に膜会合化学種を抽出することによって分離を行うことができ、従って、管状領域で見出される高い膜曲率の領域に存在しない傾向のその他の化学種と分離することができる。このタイプの分離戦略は、脂質網状構造が生体細胞に直接結合することにより適用できることもある。このアプローチによる膜タンパク質の抽出は、細胞膜から様々な膜タンパク質を区別するに繋げることができる。
【0093】
脂質ナノチューブによる化学種の輸送は、異なる膜張力の系を横切るように脂質の流れを作ることにより、以前に達成されている。脂質は、低張力領域から高張力領域へと流れる。ことによると、膜タンパク質のような膜会合化学種は、脂質マトリックス(内在性又は表在性タンパク質)との相互作用の差異及びサイズ(周囲の溶液からの異なる流体力学的抵抗)等により、脂質ナノチューブの脂質マトリックス内で分離することができる。脂質の流れにより、脂質ナノチューブ中の膜会合化学種は、脂質マトリックス及び周囲の溶液からの異なる抵抗を経験し、これによりこれらの化学種の分離につながる可能性がある。
【0094】
固有の脂質マトリックスの中に包埋されたタンパク質をチップ上に注入することができるので、互いに会合している膜タンパク質複合体を分離することができる。これは、膜タンパク質複合体の機能性を保持するために不可欠である場所の検討ばかりでなく、どのタンパク質が互いに会合しているかを同定できるようにする検討にとっても重要である。これは、二段階分離を実施できるようにする構造を設計することによって、例えば分岐構造又は蛇行性の構造により、達成することができる。先ず、膜タンパク質複合体を1つの段階又は1つの次元で、1つのユニットとして分離する。次いで、その複合体を異なるタンパク質サブユニットに分裂させることができる環境に曝す。この分裂は、尿素での処理によって達成することができる。チップは、脂質二重膜の周囲の外部流体の交換を、例えば尿素を添加して、そのタンパク質複合体を分裂させるようにする、マイクロ流体システム又はフローセルタイプのシステムを一体化することができる。その後、その溶液を元の溶液に交換して戻すか、又はpH若しくはイオン強度に関して化学的な環境を変えて、その結果、第二の次元の分離を行い、そのタンパク質複合体の異なるサブユニットを分離することができる。また、異なる化学的な環境又は分離レーンに沿って勾配を有する、異なるレーンは、これら2つ又は多数の分離段階において使用することができる。
【0095】
図15は、MALDI−TOF MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型質量分析)に関連したチップの構造の組み込み及び使用に関する略図を示す。これらの構造は、マイクロメートルからミリメートルの範囲のサイズで拡大縮小が可能であるので、これらの構造は、チップ構造をMALDI−TOF質量分析検出と一体化する場合の評価プロトコル、サンプルサイズ、サンプル濃度及び検出限界等に依存して、大きな単一の装置又は多数の並列装置からなる場合もある。図15Aは、膜会合化学種がその装置構造の脂質二重層マトリックスの注入部位にとどめられている、単一装置を示す。例えば電場、拡散等を用いてこれらの化学種を分離した後、種々の手段によって分離を停止及び「凍結させる」ことができ、そしてその構造をMALDI−TOF法によって分析することができる。図15Bは、膜会合化学種の分離を同時に行うことができる、同じ又は異なる設計の1つ又は幾つかの装置からなり得る複数並列装置を示す。これらの並列装置を連結させて、低存在度の膜会合化学種を濃縮し、その後MALDI−TOF法を用いて検出することもできる。この概略画像は、いくつかの注入部位と、分離後検出を行うことができる1つの部位に濃縮された膜会合化学種を図示している。
【0096】
図15Cに図示されている、よりいっそう単純なアプローチは、膜タンパク質のような膜会合化学種のためのマトリックスとして働く、チップ構造への無傷小胞又は脂質二重膜の吸着を含む。これらの膜タンパク質は、図9にて説明の技術を用いてそのチップ構造に固定することができる。その脂質マトリックス上の溶液を、幾つかの消化酵素又は酵素、例えばトリプシンを含有する溶液に変えることにより、脂質二重層から外側に突き出ている膜タンパク質の部分及び脂質タンパク質の親水性部分をペプチド断片に分解することができる。次いで、それらのペプチド断片を回収し、MALDI−TOF法によって調べることができる。このタイプのプロトコルは、マイクロ流体システムを用いて実行することもできる。脂質マトリックス内での分離を行った後、マイクロ流体チャネルからの集中の流れを用いることにより、設計構造の様々な部分を消化溶液に曝すことができ、放出されるペプチド断片をMALDI−TOF質量分析同定のために個別に回収することができる。
【0097】
その表面の機能、膜親和性又は膜非親和性であること、及びその装置が行うアプリケーションのタイプに依存して、その装置のタイプ及び外観も変わり得る。図16は、チャンバー、チャネル又はコンテナのそれぞれからなる装置の非限定的な例を示す。MALDI−TOFアプリケーションのような幾つかの用途のための装置は、そのチャンバー内部の露出表面積のすべてが膜親和性になるように変性され、その結果、無傷小胞又は支持脂質二重層のどちらかの形態で脂質を吸着するチャンバーからなり得る(図16)。その他の用途では、チャンバー内部の表面を、膜非親和性エリアに埋め込まれた膜親和性構造で構成することもできる。幾つかの用途のために、その上蓋又は底基板の一方のみを膜親和性エリアと膜非親和性エリアの両方で構成することができ、他方、反対側の表面は、膜親和性又は膜非親和性のどちらかを有する平面の表面とすることができる。
【0098】
大きな表面積が必要とされる用途では、幾つかの変性により表面積対容積比を増加させることができる。この装置は、その表面積を最適化するためにチャネル構造からなる(図17)。このようなチャネル構造は、様々な材料で作られ、膜親和性表面で変性することができる。その容積及び表面積の要求に依存して、チャネルの幅はマイクロメートルからメートルまでの範囲で、高さはマイクロメートルからメートルまでの範囲で様々に変えることができる。そのチャネル構造、チャンバー又はコンテナの中の露出表面積は、膜親和性及び/又は膜非親和性の特徴を有する表面の修飾前に、マイクロ加工プロトコルにより、その表面の上に構造(チャネル、柱、グローブ(groves)等)を作るように構成することもできる。表面積を増加させるために、膜親和性表面で変性した粒子をそのチャンバー、コンテナ又はチャネル構造に加えることもできる。このような粒子のサイズは、その用途に依存して、ナノメートルからメートルの範囲であり得る。その他の用途では、装置に添加される粒子を膜非親和性表面で変性することもできる。
【0099】
対照サンプルと共に並列又は複数の試験を実施する場合、同じプラットフォームで並列実験を行うと便利である。従って、粒子を満たしたチャンバー、チャネル構造又は他の装置タイプからなる幾つかの並列装置を、単一装置構造に組み込むことができる(図16及び図17)。
【0100】
本装置の用途では、入口チャネル及び出口チャネルによる溶液の添加及び抽出に頼ることがある。このような溶液は、脂質で膜親和性表面を被覆するための脂質調製物、MALDI−TOF法組み込みのようなタンパク質用途のための脂質/タンパク質調製物、過剰な脂質/タンパク質調製物を除去するための洗浄溶液、それらの調製物中のタンパク質又は脂質のための染色溶液、又はチャンバー、チャネル構造又はコンテナ中でタンパク質を消化する用途のための消化溶液(例えば、トリプシン、ペプチダーゼ、プロテイナーゼKのような消化酵素を含有するもの)を含む。このような溶液は、好ましくは、入口チャネルから添加される(図16及び図17)。これらの溶液及びタンパク質が消化されたペプチド溶液の抽出は、好ましくは、出口チャネルによって行われる。溶液のこのタイプの添加又は抽出は、そのチャンバー、チャネル構造又はコンテナへの出し入れで単一又は多数のマイクロ流体チャネルを含めることにより助けられる。膜タンパク質の消化は、図18に図示されているような二段階プロセスで行うことができる。第一段階において、消化剤は、その溶液中に突き出ている部分の膜タンパク質だけを分解することができ、疎水性部分(膜タンパク質の膜貫通領域)は無傷で残す。それらの膜タンパク質の突き出ている部分からなるペプチド断片を、更なる処理及び/又は検出/同定のために回収する。この第一段階を、異なる消化剤濃度、異なる消化時間又は異なる消化剤改質剤を用いて、又は幾つかの異なる酵素を逐次的に用いて、数回繰り返してもよい。第二段階では、界面活性剤、有機溶媒、又は膜を崩壊させる他の化学物質と共に消化剤を添加する。この消化剤は、前記膜タンパク質の残部をペプチド断片に分解する。これらの脂質及び疎水性ペプチド断片を界面活性剤の添加によって安定させる。それらの膜タンパク質からなるペプチド断片を、更なる加工及び/又は検出/同定のために回収する。
【0101】
実施例4における図19は、赤血球からの膜タンパク質のオンチップ(on-chip)・トリプシン消化から得られたペプチド断片の質量分析トレース(MALDI−TOF法MS)を示すものである。これらのペプチド断片は、第一段階プロセスからのものであり、それらが、包埋されている膜の外側に突き出している部分のみから生じたものであることを意味する。最高強度レベルのピークを選別し、MALDI−TOF法MS/MSを実施し、その結果、表1に示されているペプチドが同定された。
【0102】
本装置は、幾つかのチャンバー又はチャネル構造を同時に稼動させることができるので、幾つかの異なる動作が可能となる。サンプルが、全てのチャンバー又はチャネルにおいて同じであり、サンプルに対して行われる処理及び消化が、全ての並列チャンバー又はチャネルにおいて同一である場合がある。同じ処理及び消化プロトコルを維持しながら、サンプルがチャンバー及びチャネル間で異なる場合もある。また、サンプルは、全てのチャンバー及びチャネルにおいて同じであるが、処理及び消化プロトコルが、チャンバー及びチャネル間で異なる場合もある。異なるサンプルも、異なるチャンバー及びチャネルにおける異なる処理及び消化プロトコルも有するが、なお同じ装置を用いることも可能である。
【0103】
幾つかのタイプの能動輸送を脂質二重層中で実施する用途には、電場を作るための電極の組み込みが必要である。このような電極は、入口/出口チャネルを通して挿入することができ、又は例えば薄い金属薄膜の堆積により、膜親和性表面の1つに組み込むことができる。これらの電極は、幾らかの導電性金属、例えば白金、からなる。能動輸送は、磁場によって行うこともでき、この場合、例えば、抗体結合により脂質二重層中のターゲットタンパク質に付着した磁気ビーズは、磁場をかけることによって溶液中で引っ張られる。
【0104】
膜タンパク質の分析及び検討のための上述の方法、技術及びプロトコルと併用される装置の場合、次の用途が可能である。先ず第一に、いわゆる配列カバー率の検討を含む、タンパク質(好ましくは、膜タンパク質)の同定及び特性付けであり、これはタンパク質配列中のできるだけ多くのペプチド、対応してのできる限りのアミノ酸配列を検出及び同定する最適化プロトコルを含む。第二に、翻訳後修飾の検討も同じ情況にあてはまる。第三に、様々な細胞サンプルからの膜タンパク質のマッピング、つまり、膜プロテオームプロファイリングである。広い範囲の存在度レベルを有する非常に複雑なサンプルを消化し、分析する。MS分析前に、生成したペプチドを1つの次元(例えば、逆相HPLC)又は2つの次元(例えば、イオン交換HPLC(SCX−強カチオン交換)、その後、逆相HPLC)で分離する。これにより、低存在度タンパク質の検討及び新薬ターゲットの発見が可能となる。第四に、膜タンパク質の機能検討、例えば、ターゲット検索及び受容体脱オーファン化、例えばG蛋白結合受容体(GPCR)脱オーファン化である。ターゲット検索の場合、その目的は、リガンド結合検討を用いて、どのタンパク質にどのリガンドが結合するかを特定することである。受容体脱オーファン化の場合、その目的は、受容体及びそれらの推定リガンドの機能を解明することである。機能が不明であり、それ故、オーファン受容体という名前の受容体が多く存在する。最後に、疾病状態及び/又は薬剤療法状態の間のタンパク質発現レベルのアップ・アンド・ダウンレギュレーションの調査、いわゆる発現プロファイリングがある。このような検討は、様々なサンプルの比較及びそれらサンプル間の違いを評価することを含む。
【0105】
上述の方法、技術及びプロトコルを併用する本記載の装置から得られた、他の技術と比較して改善されたデータ出力は、多数の化学反応及び/又は洗浄段階が本チップでの最適化プロトコルを確実にするために実現することができるという事実に基づいている。このような段階は、サンプルを希釈せずに実行することもできる。また、同じサンプルを使用して、膜タンパク質の膜外及び膜貫通部分をターゲットにして、種々の段階で回収することができる。これは、単一サンプルを種々の酵素に付して、逐次的に及び/又は同時に、同じサンプルの様々な部分を消化することができることを意味する。逐次的消化等と共に高い表面積対容積比を有する本チップの形式は、最少のサンプルロスで高濃度の生成ペプチドを導き、それが、より高い感度を可能にする。これは、配列カバー率の検討及びサンプル中の低存在度タンパク質の検出を促進する。また、細胞からの種々の細胞内画分を1つのチップで同時に取り扱うことができる。最後に、リガンド結合/架橋/消化により、ターゲットペプチド結合部位を得る可能性がある。リガンドが結合のタンパク質及び非結合のタンパク質は、リガンドが酵素の分解を立体的に妨害するか又は結合により構造変化をもたらすかして、酵素的消化の後に異なるペプチドマップを生ずるであろう。
【0106】
更に、上述の方法、技術及びプロトコルを併用する本発明のチップ装置の一般的な利点は、先ず第一に、サンプルが表面に拘束され、すなわち、分析の間、サンプルが固定マトリックス内に保持され、その結果、標識、化学的な調節、消化などの多数の段階が可能となることである。本チップ装置は、MS、蛍光、電気化学、SPR、QCM等を含む、チップ実装及びチップ非実装の検出技術の蓄積と併用することができる。既存のチップベースのプラットフォーム及び従来の分析ツールに本チップを組み込む可能性もある。最後に、サンプル処理の自動化が容易である。
【0107】
同様の論点で、上述の方法、技術及びプロトコルを併用する装置における脂質マトリックスの使用の利点は、膜タンパク質のような膜結合成分が、それらの天然脂質二重層の環境内に保持されることである。これは、膜結合成分の構造及び機能が維持されることを意味する。膜結合成分、例えばタンパク質を含有する膜小胞の調製、輸送、堆積及び処理に、界面活性剤を使用する必要がない。界面活性剤は不都合な効果、例えばタンパク質の変性効果を有することがあるので、これは有利である。
【0108】
図20は、本チップ装置の機構及びその機能の幾つかの一般的な説明を示すものである。このチップは、多数の供給源(細胞膜、細胞内膜画分、プロテオリポソーム等)から膜材料を捕捉する方法を提供する。このチップ形式は、分析及び検討すべきサンプルの処理及び取り扱い中に流体及び材料をそのチップに添加し、そのチップから抽出する方法を提供する。これは、そのチップ構造のどこかに位置する流体ポート(port)によって行うことができる。
【0109】
この図は、幾つかの段階でペプチドを分解し、チップから溶出することができ、これにより、異なるプロトコル及びプロテアーゼを逐次的に用いることによりタンパク質の種々の構造をターゲットにできるという意味で、本チップ装置がどのように作動するのか説明している。第一段階では、例えば、膜外(水溶性)部分をターゲットにし、これらの部分を分析するためのペプチドを特異的に作ることができる。そして次の段階では、異なるプロトコル及び異なるプロテーゼを用いることにより膜貫通部分をターゲットにすることができる。消化によって生じたペプチドを第二分画において回収し、分析することができる。
【0110】
このタイプのアプローチは、一般に、例えば、配列カバー率の検討及び膜タンパク質の分析に用いると有利である。
上述のように、配列カバー率の検討のために多数の異なるプロトコルを実行することができる。図21は、異なるプロテアーゼを使用する逐次的消化の概念を示す。
【0111】
図21において図により説明されているように、タンパク質の消化は、1つ又は幾つかの異なるプロテアーゼにより逐次的に行うことができる。第一の消化後、ペプチドを分析のために回収することができる。後続の消化段階は、異なるプロトコル及び異なるプロテアーゼを用いて幾つかの異なる方法で行うことができる。第二段階は、例えば、図21に従って行うことができ、この場合、プロテアーゼ2、3、4、5の何れかを使用して膜を崩壊及び消化するか、膜は無傷で残し、プロテアーゼ2、3、4、5の何れかを使用してタンパク質を消化する。同様のプロトコルを後続の段階で実行することができる。プロテアーゼ(1〜5)を何れかの順番、何れかの組み合わせで、ターゲットタンパク質の逐次的消化を行うことができる。また、同じプロテアーゼを異なる濃度で逐次的に使用することができる。時間又は温度のような他のパラメーターを修正又は変更することによって逐次的消化を行うことも可能である。消化前又は消化後、それらのタンパク質又はペプチドに化学的又は酵素的修飾段階を受けさせてもよい。この例は、いわゆる翻訳後修飾を検討する場合の、ジスルフィド結合の還元及びアルキル化、グリコシル化部位でのオリゴ糖の酵素的消化/除去、リン酸化部位の調査などである。
(実施例)
【実施例1】
【0112】
膜非親和性エリア及び膜親和性エリアを有するマイクロチップの加工
(材料)
130〜170μmの厚さを有する直径28mmのカバーガラスは、Menzel−Glaser(Braunschweig, Germany)から購入した。電子ビームレジスト、フォトレジスト及び現像液は、AZ Electronic Materials(Somerville, NJ, USA)から入手し、プライマーは、Shipley(Marlborough, MA, USA)から入手した。この製造に使用した他のすべての化学物質は、VLSIグレードのものであり、別様に述べていない限りMerckから入手した。マスク製造に使用した100nmのクロムで被覆された100mm、低反射ブランク石英マスクは、Nanofilm(Westlake Village, CA)から入手した。蒸着に使用した材料は、Nordic High Vacuum(Kullavik, Sweden)から購入した。
【0113】
(基板調製)
カバーガラスをアセトン中で20分間、超音波処理し、80℃のRCA1溶液(H(25%)、NH(30%)及びMilli−Qの1:1:5溶液)中で10分間洗浄し、緩衝酸化物エッチング溶液(NHF(30%)とHF(49%)の6:1溶液)に2分間、浸漬し、QDRでMilli−Q水中ですすぎ、N下でブロー乾燥させた。
【0114】
(Au上へのSiOパターンの加工)
基板をAVAC HVC−600薄膜形成装置に挿入し、1.5nmのチタン、13.6nmの金、1.5nmのチタン、そして最後に60nmの二酸化ケイ素からなる薄膜を、電子ビーム蒸着法により基板上に蒸着した。それらの基板に先ず接着促進剤(HMDS)を、次にAZ5214−Eイメージ反転物質を6000rpmで45秒間スピンコートし、露光前にホットプレート上で90℃にて2分間焼成し、Carl Suss MJB−3マスクアライナーを用いて、パターン化された暗視野クロムマスクを通して波長365nmで120mJ/cmの線量に露光した。露光後にそれらの基板をホットプレート上で125℃にて30秒間焼成し、その後、720mJ/cmの線量にフラッド露光した。そのパターンを、AZ351現像液とDI水の1:5混合物中で60秒間現像し、QDRですすぎ、N下でブロー乾燥させた。明視野パターンが得られた。露光された二酸化ケイ素をPlasmatherm RIE m−95 反応性イオンエッチング装置でエッチングした(180秒、100W、25mTorr、CF:32cm/秒、H:8cm/秒、O:1cm/秒)。二酸化ケイ素が完全にエッチングされて除去されたことを確認するために、プロフィロメーター測定、二点抵抗測定及び金湿式エッチングテストを行った。Shiphley1165リムーバーを使用してそれらの基板から残存レジストをストリッピングし、QDRで、アセトン、2−プロパノール及びDI水ですすぎ、N下でブロー乾燥させた。TePla300PC Microwave Plasma systemを使用してそれらの基板を最終的にデサムして(desummed:60秒、250W、Oの250cm/秒)、Micropositプライマーから生じた二酸化ケイ素を用いて残存シロキサンを除去した。
【0115】
このプロセスは、AZ−5214Eイメージ反転レジストに最適であるが、基本的にはNovolacベースのイメージ反転又はネガ型レジストの何れかにも適応できる。
エッチングは、幾つかのレジストを用い、湿式エッチング系、例えば緩衝酸化物エッチング溶液(49%フッ化水素酸及び30%フッ化アルミニウムの1:6混合物)を使用して、行うこともできる。それらの表面を化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にすることができる。
【0116】
(AU又はAl上のSU−8 2002におけるパターンの加工)
基板をAVAC HVC−600薄膜形成装置に挿入し、薄膜(50nmのAlか又は1.5nmのTi+13.5nmのAuの何れか)を電気ビーム蒸着法によってそれらの基板に蒸着した。それらの基板に4000rpmで30秒間、MicoChem SU−8 2002 ネガ型フォトレジストをスピンコートし、露光前にホットプレート上で95℃にて2分間焼成し、Carl Suss MJB−3 マスクアライナーを用いて、パターン化された明視野クロムマスクを通して波長365nmで120mJ/cmの線量に露光した。露光後にそれらの基板をホットプレート上で95℃にて60秒間焼成した。そのパターンを、MicroChemのSU−8現像液中で60秒間現像し、2−プロパノール中で簡単にすすぎ、N下でブロー乾燥させた。これにより、Au又はAl上のSu−8 2002の暗視野パターンが生じた。TePla 300PC Microwave Plasma systemを使用してそれらの基板を最終的にデサム(60秒、250W、Oの250cm/秒)した。それらの表面を化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にすることができる。
【実施例2】
【0117】
膜親和性エリア及び膜非親和性エリアを有するマイクロチップの膜親和性エリアのリポソームでの優先被覆
(材料及び方法)
(小胞調製)
小胞は、原液としてのクロロホルムに溶解した大豆レシチン(SBL)(100mg/mL)から調製し、DiO(一般的には、脂質濃度に対して1mol%)で染色した。Criado及びKeller(Criado, M., Keller, B.U. FEBS Lett. 224, 172-176(1987))によって説明されたものに修正を加えた脱水/再水和法(Karlssonn, M et al. Anal. Chem. 72, 5857-5862(2000))を用いて、単層リポソームを調製した。一言で言えば、5μLの脂質分散物の液滴(1mg/mL)をカバーガラス上に置き、減圧デシケーターの中で25分間、脱水した。その脂質薄膜が乾いたら、それを緩衝溶液(Trizma塩基の5mM、KPOの30mM、KHPOの30mM、MgSOの1mM、EDTAの0.5mM、pH7.8)で再水和した。数分後、リポソームが形成された。ガラスピペットを使用することにより、脂質懸濁液の小サンプルを緩衝溶液の液滴に写し、それを試験する表面の上に置いた。
【0118】
(顕微鏡検査法及び蛍光)
Leica PL Fluotar 40x対物レンズを使用する倒立顕微鏡(Leica DM IRB, Wetzlar, Germany)の台に、カバーガラスを直接置いた。落射蛍光照明には、488nmのArレーザーライン(2025−05、Spectra−Physics)を使用した。密着性を壊し、レーザー光を散乱させるために、その光線路に透明回転盤を置いた。多色ミラー(Leica)及び対物レンズによって光を送って、フルオロフォア(fluorophores)を励起させた。蛍光を3チップ方式カラーCCDカメラ(Hamamatsu, Kista, Sweden)により集め、デジタルビデオ(DVCAM, DSR-11, Sony, Japan)により記録した。Adobe Premiereグラフィックソフトウェア及びMatlabを使用してデジタル画像を編集した。
【0119】
(化学物質及び材料)
Trizma塩基、グリセロール及びリン酸カリウムは、Sigma−Aldric Sweden ABから入手した。大豆レシチン(SBL、極性脂質抽出物)は、Avanti Polar Lipids,Inc.(700 Industrial Park Drive, Alabaster, AL 35007)から入手した。クロロホルム、EDTA(Titriplex III)、硫酸マグネシウム、リン酸二水素カリウム、塩化カリウム、塩化ナトリウム及び塩化マグネシウムは、Merck(Darmstadt, Germany)からのものであった。脱イオン水(Millipore Corp., Bedford, MA)を用いて緩衝液を調製した。DiO(3,39−ジオクタデシルオキサカルボシアニン過塩素酸塩)は、Molecular Probes(Leiden, The Netherlands)から入手した。極性脂質抽出物は、ホスファチジルコリン(45.7%)、ホスファチジルエタノールアミン(22.1%)、ホスファチジルイノシトール(18.4%)、ホスファチジン酸(6.9%)及びその他(6.9%)の混合物からなるものであった。
【0120】
多数の異なる表面をテストした:プラズマ処理の二酸化ケイ素、SU−8、プラズマ処理のSU−8、ホウケイ酸ガラス、プラズマ処理の金、白金、プラズマ処理の白金、Al、プラズマ処理のAl(すべての表面を化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした)。実験は、次の方法で行った。テストされる表面の上に、緩衝液の液滴を移し、その後、その液滴にリポソーム溶液を注入した。数分後、リポソームは表面に達し、それに接着し、その表面の特性に依存する速度で広がった。異なる表面での実験から、本発明者らは、膜親和性と膜非親和性の組み合わせを見だした。化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした金のプラズマ処理表面が、最高の脂質の広がりを示した(図8i)。広がらない表面は、プラズマ処理のSU−8表面であった(図8j)。本発明者らは、膜親和性領域と膜非親和性領域を組み合わせて、脂質被覆面積が異なる構造を作成した。後続の図は、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした、金で被覆された部分の表面が、SU8被覆領域と比較して本質的に高い脂質材料接着力をもたらすことを明らかにしている。それらの写真のパターン化されたエリアは、金で被覆されたエリアに対応する。蛍光画像は、リポソームを緩衝液に添加した約20分後に収集された。
【実施例3】
【0121】
分離メカニズムとしての膜会合化学種の拡散
パターン化された脂質二重層中での拡散移動の一例を、図10に示す。先ず、脂質を小さな単層小胞(SVU)の融合によって膜親和性表面に堆積させた。このSUVは、蛍光可視化のために1mol%DiOをドープした大豆脂質(総脂質濃度:240μL、大豆脂質の原液の100mg/(mL・クロロホルム)を約5時間、蒸発によって乾燥させ、2mLの緩衝溶液(20mMのNaCl、10mMのTrizma、pH9.5を含む)中で再び水和させた)からなるものであった。膜親和性表面へSUVを接着及び融合した後(待ち時間は、通常、30〜60分)、構成された表面の上の緩衝溶液を数回交換することにより、周囲の流体中の余剰脂質材料を除去した。その緩衝溶液を、浸透圧不均衡を生じさせるカルシウムイオン及びより高いイオン強度を含有する緩衝液(100mMのNaCl、5mMのTrizma、2mMのCaCl2、pH8.6)に換えること、そして短い間隔で完全に装置のフローセルから緩衝液を排出させることによって、小胞の融合を促進した。
【0122】
FRAP(光退色後の蛍光回復)実験を行い、この実験では、パターン化された構造のDiO標識の脂質二重層マトリックスを含有する部分を、高強度の励起光を数分間使用して光退色させて、連続の脂質二重層の形成を確認した。光退色の後、その励起光の強度をフィルターの使用により低下させ、それらのパターン化された脂質構造のスナップショットを幾つかの時点で撮ることにより蛍光回復を記録した。回復は早く、そしてレーンの長さ及びパターンの複雑さに依存して、設計の異なるパターン間で回復は異なった。この実施例は、単一レーンからの4つの放射状アームからなる櫛構造での蛍光の回復を示すものである。このパターンのレーンの幅は、5μmであり、分離レーンの長さは、100μmであり、放射状アームの長さは、25μmである。この構造のスナップショットは、30秒間隔で撮った。これらのスナップショットは、脂質二重層マトリックス内のDiO分子の横方向への拡散移動を示している。
【実施例4】
【0123】
脂質装置と質量分析の一体化
本脂質装置技術と質量分析の一体化により、装置中の脂質マトリックスと会合しているタンパク質を同定することができる。これを例証するために、赤血球膜(RBCM)タンパク質を使用して次の実験を行った。先ず、それらの細胞を、pH7.4のリン酸緩衝食塩水(PBS)で洗浄した。コレステロールを、PBS中のβ−シクロデキストリン(6mM)で抽出し、除去した。2mMのEDTA、pH8.3、1mMのDTT及びプロテアーゼ阻害剤で細胞を溶解し、広範囲に洗浄した。その後、そのRBCMを高塩分の溶液(1MのKCl、1mMのDTT、pH7.8)及び高pH溶液(0.1MのNaCO、1mMのDTT、pH11.3)で処理して、非内在性膜タンパク質をできる限り除去した。RBCMを、20mMのNaCl、Trizmaの10mM、pH8.0中に、0.8mg/mLに希釈し、合計15分の継続時間(5秒のパルス、その後の5秒の休止の間隔で)で超音波処理して、膜を小胞に縮小した。その小胞溶液を200nm孔径のPVDF膜フィルターに通して、超音波処理装置のtipから形成されるチタン粒子を除去した。脂質装置は、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした底面に、Al被覆チップ(薄層形成装置(AVAC HVC−600)において蒸着により堆積させた、50nm厚の層)を取り付けた。更に、細胞の望ましい高さ(100〜500μm)を提供するためのテフロン(登録商標)スペーサーと、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした、Alで被覆された上蓋を取り付けた。
【0124】
この装置にRBCMの小胞懸濁液を充填し、小胞を1.5時間、その表面に付着させた。その後、少なくとも2mLの洗浄緩衝液(20mMのNaCl、Trisの10mM、pH8.0)を用いて余剰小胞を洗い流した。その後、少なくとも2mLのカルシウム緩衝液(2mMのCaCl、20mMのNaCl、10mMのTris、pH8.0)でチャンバーを洗浄して、表面への小胞の付着を増進させた。その後、洗浄緩衝液を用いてカルシウム緩衝液を洗い流した。この手順により、装置内の化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした全てのAl表面に、付着した高密度に充填された小胞の層が得られた。トリプシンを含有する溶液(20mMのNaCl、Trisの10mM、pH8.0中の0.02mg/mL)をそのチャンバーに充填し、37℃にて特定の時間(3〜5時間)インキュベートした。得られたペプチド溶液を、総容量200〜400μLの量でその装置から回収した。消化溶液中のペプチドを濃縮し、脱塩し、以下のようにMALDIプレート上に溶出した:消化物のアリコートを、C18変性シリコンビーズを含有する膜に通した。3つの膜を使用し、各々が75μLの消化物を受け取り、結合したペプチドを0.1%のTFA(1つの膜につき50μL)で洗浄した。それらのペプチドを70%のACN(1つの膜につき2μL)で溶出し、MALDIプレートの単一スポット上にプールした。そのスポット中のペプチドを、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化−飛行時間型(MALDI−TOF法)質量分析で分析した。この実験からの質量スペクトルを図19に示す。MS/MSモードでMALDI TOF法を用いて、11のユニークなペプチドが同定された。これらを表1に列挙する。これらのペプチドの配列を、SWISSPROTのようなタンパク質データベースに含まれているものと比較することにより、それらのペプチドの起源が、膜内在性タンパク質AE1(陰イオン交換体1、受入番号P02730)であることが判明した。
【実施例5】
【0125】
赤血球(赤血球膜調製物)のプロファイリング
赤血球膜調製物を用いて、プロファイリング検討に関して評価し、結果を得た。要するに、RBCMと示した、上記と同様の調製物をこの実験で使用した。小胞懸濁液を濾過する最終段階は省いた。LC−MS/MS分析はフィルターからのポリマー汚染物に対して高感度であることが証明されたからである(この場合、ナノスプレー源を装備した7−Tesla(フーリエ変換リニアトラップ四重極型(Linear Trap Quadrupole-Fourier Transform))LTQ−FT質量分析装置(Thermo Electron)を使用した)。また、異なる緩衝液を用いた。高いイオン強度は、表面への膜材料の吸着を増加させるように思われたので、この場合は、10mMのTrizma、300mMのNaCl、pH8を用いた。
【0126】
この場合のチップ装置は、2つのガラス基板(面積:68x109mm、厚さ:0.6〜0.8mm、Menzel Glaser)から成り、これら両方の基板は、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした、3.5nmのクロム及び7.5nmの金で変性されたものであった。これら2つの基板を、厚さ約70μmの両面テープ(1524 医療用転写用接着材、3M)によって互いに結合させた。このテープにより、それら2つの基板間の距離も設定される。それらのガラス基板のうちの一方には、その基板を貫通する2つの穴−1つの入口と1つの出口を空けておいた。Nanoport(Upchurch Scientific)をその穴の上に追加して、液体入口/出口の接触を可能にしておいた。この場合、アダプターを備えた注射器をそのNanoportに連結することができ、液体がそのチップ装置を通り抜けるようにさせることができた。
【0127】
以下は、幾つかの段階で1つの酵素を用いる典型的な消化実験、すなわち逐次的消化プロトコルを説明する。
要するに、チップ(容量約500μL)に小胞懸濁液(チップ超音波処理した(tipsonicated)RBC)を充填し、約1時間、放置した。この小胞調製物は、濾過しなかった。チップ超音波処理(tipsonication)プロセス中にサンプルに放出された可能性のあるチタン及びガラス粒子を除去するために、その小胞懸濁液を2mLアリコートに分けてエッペンドルフ管に入れ、10000rpmで10分間遠心分離した。
【0128】
過剰な小胞を、緩衝液(10mMのTrizma、20mMのNaCl、pH8)約2mLで洗い流した。付着小胞を、カルシウム含有緩衝液約2mL(2mMのCaClを有する上記と同じもの)で処理して、それらを適切に表面に結合させた。最後に、15分後、通常の緩衝液(カルシウム不含)約1.5mLをそのチップに添加した。いずれの溶液も使用前に濾過しなかった。使用前にすべての緩衝液試験管及びピペット先端をMQですすいだ。
【0129】
そのチップにトリプシン(上記と同じ緩衝液中の0.005mg/mL、つまり約500μL)を添加し、そのチップを37℃にて30分間インキュベートした。その溶液(約200μL)は、インキュベーション前に再循環させた。
【0130】
その後、この段階において生じたペプチドを、一方のポートへ緩衝液を添加し、そして他方のポートから連続的にその溶液を抽出すること(チップ容積と同じ、約500μLを抽出した)により、チップから溶出させた。その後、その抽出されたペプチド溶液を、37℃にて一晩(18時間)インキュベートして、トリプシンによる完全な消化を確実なものにした。最終的に、これらのサンプルを直接冷凍した。
トリプシン(同じ緩衝液中の0.005mg/mL)をチップに再び添加し、そのチップを37℃にて2時間インキュベートした。
【0131】
その後、この段階でおいて生じたペプチドを、一方のポートへ緩衝液を添加しそして他方のポートから連続的にその溶液を抽出すること(チップ容積と同じ、約500μLを抽出した)により、チップから溶出させた。その後、その抽出されたペプチド溶液を再び37℃にて一晩(16時間)インキュベートして、トリプシンによる完全な消化を確実なものにした。最終的に、これらのサンプルを直接冷凍した。
トリプシン(同じ緩衝液中の0.005mg/mL)をチップに再び添加し、そのチップを37℃にて一晩(16時間)インキュベートした。
【0132】
その後、それらの生成ペプチドを、ナノフローLC−MS/MSシステムを用いて分析した。具体的には、液体クロマトグラフィーは、3μmの粒子Reprosil−Pur C18−AQ(Dr. Maisch, Ammerbuch, Germany)を社内で充填した200x0.055mmの逆相カラムと共に、Agilent1100バイナリポンプを使用した。カラムを通る流量は、スプリットにより約100nl/分に減少した。これらのペプチドの分離には、0.2%のHCOOH中10〜50%のCHCN溶液で40分の勾配を用いた。
【0133】
そのナノフローLC−MS/MSは、社内で改良したナノスプレー源を装備した7−Tesla(フーリエ変換リニアトラップ四重極型)LTQ−FT質量分析装置(Thermo Electron)を用いて行った。この分光分析装置を、MS/MSモードに自動的に切り替わるデータ依存モードで操作した。MSスペクトルは、FTICRで収集し、その一方で、MS/MSスペクトルは、LTQトラップで収集した。FTICRの各々のスキャンについて、6つの最も強い二価又は三価のイオンを、そのリニアトラップで衝突誘導性解離により逐次分画した。MASCOT(Matrix Science, London)によりHUMANデータベースに対して、全てのタンデム質量スペクトルを調査した。
【0134】
膜調製物中に存在する膜タンパク質の同定に関するデータを、最適化及び補完するために、多数の様々なプロトコルを適用した。
【0135】
これまでに、データをコンパイルして、すべてのチップ及び赤血球膜調製物についての分析実行において、310のタンパク質が検出及び同定された。この同定は、MS/MSデータ調査中に発見された1496のユニークなペプチドに基づく。2つより多くのペプチドを同定する必要がある場合、104のタンパク質をその調製物に割り当てることができる。単一のペプチドに基づき(期待値0.05未満で)検出及び同定されたタンパク質をリストに加える場合、別途147のタンパク質を割り当てることができる。最後に、0.05より高い期待値を有する1つのペプチドに基づき同定されたタンパク質を含める場合、追加の59のタンパク質をそのリストに加えることができる。より詳細な考察及び結果と文献データの比較で、文献に記載されている膜タンパク質の約70%が、本検討中に同定された。
【実施例6】
【0136】
RBCM調製物(赤血球)中の陰イオン交換タンパク質、バンド3の配列カバー率の検討
配列カバー率の検討の目的は、特定のタンパク質中のアミノ酸をできるだけ多く検出することである。高い配列カバー率は、ペプチドがそのタンパク質の大部分から作られていることを意味する。高い配列カバー率は、様々なプロテアーゼを同時に又は逐次的に使用して多数の部位でターゲットタンパク質を分解し、LC−MS/MS分析に適する多数のペプチドを生じさせることによって、得ることができる。
【0137】
配列カバー率の検討のためのプロトコルの構築には、幾つかの別法がある。例えば、非特異的酵素を使用してサンプルを消化するが完了まで進まない、いわゆる制限タンパク質分解を適用することができる。非特異的酵素は、多数の潜在的分解部位を有し、消化が完了に近づくと比較的短い断片が生成される。一方で、制限消化は、低い酵素濃度及び/又は短い消化時間を用いてサンプルを消化することで、より大きなペプチド断片を導くことができる。このような、より大きなペプチド断片は、配列がオーバーラップすることがあり、それにより、より高い配列カバー率を助長する。もう1つの方法は、より特異的な酵素の使用及びそれらの幾つかの同時又は逐次的使用である。これにより、非特異的プロテアーゼと同様に、場合によってはオーバーラップ配列を生じさせることがある種々の方法で、タンパク質を切断する。特異的プロテアーゼと非特異的プロテアーゼの併用も、勿論、この態様において可能である。
【0138】
以下のパラグラフでは、配列カバー率の検討を目的としたプロトコルを説明する。一言で言えば、異なるプロトコル及びプロテアーゼを用いる逐次的消化である。
【0139】
再び、この場合のチップ装置は、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にした、3.5nmのクロム及び7.5nmの金で変性した、2つのガラス基板からなるものであった。これら2つの基板を両面テープ(1524 医療用転写用接着材、3M、厚さ約70μm)によって互いに結合さた。このテープにより、それら2つの基板間の距離も設定される。それらのガラス基板のうちの一方には、2つの穴−1つの入口と1つの出口を空けておいた。Nanoport(Upchurch Scientific)をその穴の上に添えて、液体入口出口の接触を可能にしておいた。この場合、アダプターを備えた注射器をそのNanoportに連結することができ、液体がそのチップ装置を通り抜けるようにさせることができた。
【0140】
要するに、チップ(容量約500μL)に小胞懸濁液(チップ超音波処理した(tipsonicated)RBC)を充填し、約1時間、放置した。この小胞調製物は、濾過しなかった。チップ超音波処理(tipsonication)プロセス中に作られたチタン及びガラス粒子を除去するために、その小胞懸濁液を2mLアリコートに分けてエッペンドルフ管に入れ、10000rpmで10分間遠心分離した。
【0141】
過剰な小胞を、緩衝液(10mMのTrizma、20mMのNaCl、pH8)約2mLで洗い流した。付着小胞を、カルシウム含有緩衝液約2mL(2mMのCaClを有する上記と同じもの)で処理して、それらを適切に表面に結合させた。最後に、15分後、通常の緩衝液(カルシウム不含)約1.5mLをそのチップに添加した。注記:いずれの溶液も使用前に濾過しなかった。使用前にすべての緩衝液試験管及びピペット先端をMQですすいだ。
【0142】
そのチップにトリプシン(上記と同じ緩衝液中の0.005mg/mL、つまり約500μL)を添加し、そのチップを37℃にて2時間インキュベートした。その溶液(約200μL)は、インキュベーション前に再循環させた。
【0143】
その後、この段階において生じたペプチドを、一方のポートへ緩衝液を添加し、そして他方のポートから連続的にその溶液を抽出すること(約500μLを抽出した)により、チップから溶出させた。その後、その抽出されたペプチド溶液を、37℃にて一晩(20時間)インキュベートして、トリプシンによる完全な消化を確実なものにした。最終的に、これらのサンプルを酸性化せずに直接冷凍した。
【0144】
ペプシンプロトコルに従って、第二消化段階を行った。簡単に言うと、10%のギ酸及び5%のアセトニトリルを含むMQ水に(実験直前に)溶解したペプシン(0.001mg/mL)を、チップに添加(約500μL添加)し、チップを通した溶液の添加及び抽出によって簡単に再循環させた後、37℃で一晩インキュベートした。ペプチドは、吸引によってチップから抽出した。冷凍する前に、約300μLのサンプルに300μLのアセトニトリルを添加することによりペプシンを不活性化した。
【0145】
纏めると、この分析からの結果は、第一トリプシン段階によってバンド3の陰イオン交換タンパク質の30%の配列カバー率が得られたことを示した。後続のペプシン消化段階により67%の配列カバー率が得られた。総合すると、配列カバー率は、約69%であると算出される。これは、トリプシン断片と比較したとき、ペプチド配列の明白なオーバーラップがペプシン段階において見られることを示している。しかし、ペプシン消化段階は、そのペプシン段階の前にトリプシンでの第一消化段階があることによって促進されていると思われる。
【0146】
下の図は、バンド3の陰イオン交換タンパク質の配列カバー率の検討からの追加結果を示すものである。第一パネルは、トリプシンでの消化によって得られた断片を示す。第二パネルは、ペプシン消化によって見出された断片を加えたときの合計結果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0147】
下記の説明は、図面のためのものであり、それらの図面は以下のことを図示している。
【図1−1】図1は、支持及び浮遊二重層平面及び封入膜の形成のためのチップ構造の略図である。 a)構造を有しない膜親和性表面の一例である。この図面以降では、膜親和性エリアをラスタ表現で描いている。 b)図1aに、膜親和性表面に付着する小胞(球形脂質膜構造)を示す。
【図1−2】c)図1aに、膜親和性表面を被覆する平面支持膜を示す。 d)単一レーンが2つの島を連結している、膜親和性/膜非親和性ドメインを有する平面の表面の一例である。レーン及びアイランドは、同じ材料又は異なる材料からなる場合もあり、そして異なるサイズのものである場合もある。
【図1−3】e)3本のレーンが2つの島を連結している、膜親和性/膜非親和性ドメインを有する平面の表面の一例である。 f)図1dにおける膜非親和性表面ではなく膜親和性表面を被覆する平面支持膜である。
【図1−4】g)図1eにおける膜非親和性表面ではなく膜親和性表面を被覆する平面支持膜である。 h)膜親和性/膜非親和性ドメインを有し、更に膜親和性ドメインがウエルに配置される、及び単一レーンによって連結する2つの凹状島からなる表面トポグラフィーを有する表面の一例である。
【図1−5】i)膜親和性/膜非親和性ドメインを有し、更に膜親和性ドメインがウエルに配置される、及び3本のレーンによって連結する2つの凹状島からなる表面トポグラフィーを有する表面の一例である。 j)図1hにおける膜非親和性表面ではなく膜親和性表面を被覆する平面支持膜である。
【図1−6】k)図1iにおける膜非親和性表面ではなく膜親和性表面を被覆する平面支持膜である。 l)膜親和性/膜非親和性ドメインを有し、更に膜親和性ドメインが高くした構造の頂上面に配置される表面トポグラフィーを有する表面の一例である。この特定の例では、高くした2つの円柱が、単一レーンによって連結されている。
【図1−7】m)膜親和性/膜非親和性ドメインを有し、更に膜親和性ドメインが高くした構造の頂上面に配置される表面トポグラフィーを有する表面の一例である。この特定の例では、高くした2つの円柱が、3本のレーンによって連結されている。 n)図1lにおける膜非親和性表面ではなく膜親和性表面を被覆する平面支持膜である。
【図1−8】o)図1mにおける膜非親和性表面ではなく膜親和性表面を被覆する平面支持膜である。浮遊平面膜が3本のレーンの間に入り込んでいることに注目されたい。
【図1−9】p)表面上の浮遊管型膜構造である。ナノチューブが表面に固定されている、ナノチューブの小胞網状構造である。 a.レーンによって連結された2つのスポットを示す概略図である。膜親和性表面は、その表面の残りの部分と同じ平面にある。 b.小胞のナノチューブ網状構造が、膜親和性表面に付着している。差し込み図は、連結レーン上の、表面に付着のナノチューブを示す。
【図1−10】c.レーンによって連結された2つのスポットを示す概略図である。膜親和性表面は、その表面の残りの部分の平面より下にある。 d.小胞のナノチューブ網状構造が、膜親和性表面に付着している。差し込み図は、連結レーン上の、表面に付着のナノチューブを示す。
【図1−11】e.レーンによって連結された2つのスポットを示す概略図である。膜親和性表面は、その表面の残りの部分の平面より上にある。 f.小胞のナノチューブ網状構造が、膜親和性表面に付着している。差し込み図は、連結レーン上の、表面に付着のナノチューブを示す。
【図2−1】図2は、膜非親和性及び膜非親和性領域を有する三次元のグレースケール基板を含む、異なる、非限定的な基板の10例を示す図である。 a)膜非親和性基板上の膜親和性蛇行ボーダー型のパターンである。 b)二重膜によって被覆された図2aにおける表面である。
【図2−2】c)膜非親和性基板上の膜親和性曲がりくねった(serpentine)型のパターンである。 d)二重膜によって被覆された図2cにおける表面である。
【図2−3】e)三次元の膜非親和性のピラミッド形基板の上面上の膜親和性のパターンである。 f)二重膜によって被覆された図2eにおける表面である。
【図2−4】g)三次元の膜非親和性の階段ピラミッド形基板の上面上の膜親和性パターンである。 h)二重膜によって被覆された図2gにおける表面である。
【図2−5】i)三次元の膜非親和性の曲がりくねった形状の基板の上面上の膜親和性パターンである。 j)二重膜によって被覆された図2iにおける表面である。
【図2−6】k)膜非親和性の基板上の膜親和性回状曲がりくねった迷路型のパターンである。 l)二重膜によって被覆された図2kにおける表面である。
【図2−7】m)膜非親和性の表面上の膜親和性四角形曲がりくねった迷路型のパターンである。 n)二重膜によって被覆された図2mにおける表面である。
【図3−1】図3は、種々の多重化及び並列の装置の図である。 a)膜非親和性の基板上の単一レーンにより連結した2つの円形スポットからなる16個の同一膜親和性パターンのアレイを示す図である。ここでは膜親和性領域が黒色で描かれている。
【図3−2】b)膜非親和性の基板上の3本のレーンにより連結した2つの円形スポットからなる16個の同一膜親和性パターンのアレイを示す図である。
【図3−3】c)膜非親和性の基板上の曲がりくねったパターンで配列された単一レーンにより連結した2つの円形スポットからなる16個の同一膜親和性パターンのアレイを示す図である。
【図3−4】d)膜非親和性の基板上の迷路パターンで配列された単一レーンにより連結した2つの円形スポットからなる16個の同一膜親和性パターンのアレイを示す図である。
【図3−5】e)膜非親和性の基板上の、i)曲がりくねったパターンで配列された単一レーンにより連結した2つの円形スポット、及びii)3本のレーンにより連結した2つの円形スポットからなる、2つの異なるタイプの16個の膜親和性パターンのアレイを示す図である。
【図3−6】f)膜非親和性の基板上の、i)迷路パターンで配列された単一レーンにより連結した2つの円形スポット、及びii)3本のレーンにより連結した2つの円形スポットからなる、2つの異なるタイプの16個の膜親和性パターンのアレイを示す図である。
【図4−1】図4は、脂質二重膜を有する機構と追加の構造とを有する、種々のマイクロチップの例を示す図である。 a)回状迷路パターンで配列された1本のレーンで連結した2つのスポットからなる6個の同一の膜親和性領域を有するチップである。電場をかけるために、電極がそれら2つのスポットに連結されている。 b)3本のレーンで連結した2つのスポットからなる6個の同一の膜親和性領域を有するチップである。電場をかけるために、電極がそれら2つのスポットに連結されている。
【図4−2】c)7本のレーンで連結した2つのスポットからなる6個の同一の膜親和性領域を有するチップである。電場をかけるために、電極がそれら2つのスポットに連結されている。 d)レーンの二叉に分岐する網状構造に連結した2つのスポットからなる膜親和性領域を有する1個のパターンを有するチップである。電場をかけるために、電極がそれら2つのスポットの外部に連結されている。電場をかけるために、小さな黒い円形の点として描かれている電極が、この網状構造の各々の分岐点でも連結されている。
【図4−3】e)レーンの二叉に分岐する網状構造に連結した2つのスポットからなる膜親和性領域を有する1個のパターンを有するチップである。電場をかけるために、電極がそれら2つのスポットの外部に連結されている。電場をかけるために、小さな黒い円形の点として描かれている電極が、この網状構造の各々の分岐点でも連結されている。 f)2個の埋込電極に連結された円形の膜親和性領域である。 g)2個の外部電極に隣接して配置された円形の膜親和性領域である。
【図4−4】h)1個の中央電極及び6個の周辺部電極を有する円形の膜親和性領域である。 i)四極電極配列で配置された円形の膜親和性領域である。 j)八極電極配列で配置された円形の膜親和性領域である。
【図4−5】k)4個の外部電極と迷路の出発点及び終点にそれぞれ連結された2つの追加電極を有する、膜親和性迷路パターンである。
【図5】図5は、脂質二重膜を保持する機構及び追加の構造を有する種々のマイクロチップの例を示す図である。 a)3本のレーンで連結した2つのスポットからなる膜親和性凹領域を有するチップである。2本の外部レーン及び2つのスポットが、マイクロ流体チャネルに連結しており、そしてそれらのチャネルが次にレザーバ(reservoirs)に連結している。この例では、圧力(P)によってそのマイクロ流体送出量が制御される。
【図6−1】図6は、種々の純基板上の脂質の広がりを示す図である。 a)化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にしたプラズマ処理の金基板上での大豆脂質の広がりを時間に対して示すプロットである。脂質スポットの初期面積は、0.1×10μmであり、4.8秒後、その脂質面積は、1.8×10μmを占める。この脂質は、初めは多層リポソームとして表面に堆積させた。 b)顕微鏡によって観察された、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作によって膜親和性にしたプラズマ処理の金基板上での大豆脂質の広がりである。左の画像の時点は、リポソームを堆積させた後、t=0.4秒であり、第二の画像は、リポソームを堆積させた後、t=5.2秒を表す。これらの写真は、図6aに示したグラフにおける最初の点と最後の点に対応する。
【図6−2】c)プラズマ処理のSU−8表面上での大豆脂質の広がりを時間に対して示すプロットである。スポットの初期面積は、327μmであった。13分後、その脂質材料は、広がりを示さない。脂質面積の見かけの減少は、光退色効果に起因する。この脂質は、初めは多層リポロームとして表面に堆積させた。 d)プラズマ処理のSU−8表面上での大豆リポソームの広がりを13分間隔で示す蛍光顕微鏡像である。これらの写真は、図6cにおける最初の点(左側の画像)及び最後の点(右側の画像)に対応する。
【図7−1】図7は、本装置に脂質を堆積させるための種々の技術及び脂質構造の形成方法を示す概略図である。 A)マイクロピペットを使用する多層小胞の堆積を示す。 a)膜親和性領域及び周囲の膜非親和性領域を含むチップ構造を示す概略図である。 b)マイクロマニピュレータ制御マイクロピペットを使用して、多層小胞をその表面に平行移動させる。低い負の(吸引)圧力をかけることにより、マイクロピペットの先端により小胞を保持する。マイクロピペットに小さな正の圧力をかけることにより、その小胞を膜親和性表面に押し出し、それによってその膜親和性表面に接着する。 c)その多層小胞が、その膜親和性表面上に広がる。その設計構造の膜親和性表面は、最終的に、脂質二重層マトリックスによって完全に被覆される。
【図7−2】B)光学ピンセットを使用する多層小胞の堆積を示す。 a)膜親和性領域及び周囲の膜非親和性領域を含むチップ構造を示す概略図である。高光度灯の集束ビームにより捕捉された多層小胞も示す。この高強度集束光は、周囲の溶液とは異なる屈折率を有する材料を捕捉する、1つの光学ピンセットとして働く。 b)その光学ピンセットの焦点を移動して、膜親和性表面上にその多層小胞を配置する。灯を消して、その多層小胞を開放する。 c)その多層小胞が、その膜親和性表面上に広がる。その設計構造の膜親和性表面は、最終的に、脂質二重層マトリックスによって完全に被覆される。
【図7−3】C)脂質材料を充填したピペットを表面を横切るように平行移動させることによるピペット書き込み法を用いる脂質の堆積を示す。 a)膜親和性領域及び周囲の膜非親和性領域を含むチップ構造を示す概略図である。 b)マイクロマニピュレータ制御マイクロピペットに脂質材料を充填し、表面に平行移動する。低い正の圧力をかけることにより、そのピペットの先端からその脂質材料の一部を押し出す。次に、その脂質材料(例えば、単層又は多層小胞)の一部を膜親和性表面に接着させ、それによりそのマイクロピペットをはずし、その脂質材料の一部を、その表面上に残す。次に、そのマイクロピペットの先端を膜親和性パターンの別の設計構造に平行移動させ、そこで新たな一部を押し出す。 c)その多層小胞が、その膜親和性表面上に広がる。その設計構造の膜親和性表面は、最終的に、脂質二重層マトリックスによって完全に被覆される。
【図7−4】D)小さな小胞の融合を利用する脂質の堆積を示す。 a)膜親和性領域及び周囲の膜非親和性領域を含むチップ構造を示す概略図である。 b)小さな小胞(単層又は多層)を含有する溶液をチップの上の溶液に入れる。小さな小胞は、その表面に沈降し、その膜親和性表面に接着する。脂質濃度、脂質組成、pH、イオン強度、緩衝液組成のような化学パラメーター、及び温度及びその膜親和性表面の組成のような物理パラメーターに依存して、それらの小胞は、無傷でままである場合もあり、その膜親和性表面上に自発的に連続の脂質二重層構造を形成する場合もある。表面に接着した小胞を連続の脂質二重膜に変えるために、種々の洗浄プロトコルを用いることができる。 c)その設計構造の膜親和性表面は、最終的に、脂質二重層マトリックスによって完全に被覆される。
【図7−5】E)マイクロ流体チャネルによる脂質二重膜の堆積を示す。 a)膜親和性領域及び周囲の膜非親和性領域を含むチップ構造を示す概略図である。このチップは、マイクロ流体チャネルと一体化することもでき、この場合、チャネルの流れをチップの一部に、又は個々の設計膜親和性構造の部分にさえも、高度に集中させることができる。 b)小さな小胞(単層又は多層)を含有する溶液を、マイクロ流体チャネルの使用により、設計膜親和性構造の一部を横切るようにフラッシュする。それらの小さな小胞は、その表面に沈降し、その膜親和性表面に接着する。図7Dbにおいて説明したように、それらの小さな小胞を、小胞としてとどまるように、又は連続の脂質二重膜を形成するように操作することができる。マイクロ流体チャネル構造に関連して、洗浄プロトコルを用いることができる。 c)その設計構造の膜親和性表面の一部が、最終的に、脂質二重層マトリックスによって完全に被覆される。 d)小さな小胞(単層又は多層)を含有する別の溶液を、マイクロ流体チャネルの使用により、その設計膜親和性構造の別の部分を横切るようにフラッシュする。それらの小さな小胞は、その表面に沈降し、その膜親和性表面に接着する。図7Dbにおいて説明したように、それらの小さな小胞を、小胞としてとどまるように、又は連続の脂質二重膜を形成するように操作することができる。マイクロ流体チャネル構造に関連して、洗浄プロトコルを用いることができる。 e)その設計構造の膜親和性表面の別の部分は、最終的に、脂質二重層マトリックスによって完全に被覆される。これにより、様々な構造上に又は単一構造の中のどちらかに設計の膜親和性表面上に、不均一の脂質マトリックスを形成することができる。
【図7−6】F)溶解脂質の直接注入による脂質二重膜の形成を示す。 a)膜親和性領域及び周囲の膜非親和性領域を含むチップ構造を示す概略図である。 b)適する溶媒を使用して、脂質を溶液に注入する。これらの脂質を、自発的に小さな小胞(単層又は多層)を形成するようにすることができる。 c)それらの小さな小胞は、その表面に沈降し、その膜親和性表面に接着する。図7Dbにおいて説明したように、それらの小さな小胞を、小胞としてとどまるように、又は連続の脂質二重膜を形成するように操作することができる。 d)その設計構造の膜親和性表面は、最終的に、脂質二重層マトリックスによって完全に被覆される。
【図7−7】G)ナノチューブの小胞網状構造からの二重層装置の形成を示す。。 a)膜親和性領域及び周囲の膜非親和性領域を含むチップ構造を示す概略図である。 b)膜材料を充填したマイクロピペットを表面の近くに配置し、少量を膜親和性領域、例えば1つのスポットに押し出す。 c)その膜材料はその表面上に広がるが、脂質ナノチューブによってマイクロピペット中の膜材料に依然としてつながっている。その後、そのマイクロピペットを別の膜親和性スポットのすぐ隣に配置する。 d)膜材料の新たな割当分をその膜親和性スポットに押し出す。 e)その膜材料は、膜親和性表面及び脂質ナノチューブの上に広がり、この脂質ナノチューブは、前記2つの膜部分を連結し、また下にある膜親和性レーンに付着している。
【図8−1】図8は、膜親和性領域(化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にした、プラズマ処理の金又はプラズマ処理のAl表面)及び膜非親和性領域(プラズマ処理のSU−8表面)からなる、表面特性の違いを有する、異なるサイズ及び機構のマイクロ加工チップ構造の顕微鏡写真である。 a)化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にした膜親和性プラズマ処理の金パターン(画像中、薄いグレーとして見えるもの)とプラズマ処理のSU−8膜非親和性領域(画像中、濃いグレーとして見えるもの)とを有するチップである。金により被覆された円形スポットは、直径15マイクロメートルであり、金の相互連結レーンは、厚さ約1マイクロメートル、長さ約75マイクロメートルである。 b)図8aと同じタイプの構造であるが、2マイクロメートル幅のレーンを有している。
【図8−2】c)化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にした膜親和性プラズマ処理の金パターン(画像中、薄いグレーとして見えるもの)とプラズマ処理のSU−8膜非親和性領域(画像中、濃いグレーとして見えるもの)とを有するチップである。レーン間の間隔距離を変えた2本のレーンにより相互連結された円形スポット(直径15マイクロメートル)からなる別のパターン例を示す。 d)c)における構造の1つの引き伸ばし写真である。レーンは、約1マイクロメートル幅であり、互いに2マイクロメートル離れている。 e)化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にした膜親和性プラズマ処理の金パターン(画像中、薄いグレーとして見えるもの)とプラズマ処理のSU−8膜非親和性領域(画像中、濃いグレーとして見えるもの)とを有するチップで、90度の折り返しを有する蛇行構造の例である。この場合、レーンの幅は、2マイクロメートルである。
【図8−3】f)図8eにおける構造の1つを、拡大図で示す。 g)化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にした膜親和性のプラズマ処理の金パターン(画像中、薄いグレーとして見えるもの)及びプラズマ処理のSU−8膜非親和性領域(画像中、濃いグレーとして見えるもの)を有するチップで、2マイクロメートル幅のレーンを有する分枝又は合流構造である。これらの構造を用いて、例えば、異なるレーンに沿って移動する物質を濃縮又は希釈することができる。サンプルを濃縮する場合、サンプル投入は、円形スポットに行い、その後、異なるスポットから輸送されたサンプルが各枝でまとめられる。 h)マイクロ加工構造の1つとして示す、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にした金パターンに限定された脂質の被覆を図解する蛍光画像である。その脂質膜を、蛍光膜染料で染色して、その広がりを可視化した。
【図8−4】i)化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にした、プラズマ処理した金の膜親和性パターンとプラズマ処理のSU−8により規定された膜非親和性表面とを有するチップを示す。この蛍光顕微鏡写真は、緩衝溶液に添加した蛍光標識大豆リポソームが、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にした、プラズマ処理した金の膜親和性パターンに主として接着することを示している。 j)化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にした、プラズマ処理した金の膜親和性パターン及びプラズマ処理のSU−8により規定された膜非親和性表面とを有するチップを示す。この蛍光顕微鏡写真は、緩衝溶液に添加した蛍光標識大豆リポソームが、プラズマ処理した金の膜親和性パターンに主として接着することを示している。 k)化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にした膜親和性プラズマ処理のAlパターン(画像中、薄いグレーとして見えるもの)及びプラズマ処理のSU−8の膜非親和性領域(画像中、濃いグレーとして見えるもの)を有するチップを示す。Alの円形スポットは、直径50マイクロメートルであり、Alの相互連結レーンは、厚さ約2マイクロメートル、長さ約50マイクロメートルである。 l)図8kに示されているマイクロ加工構造の1つに関する、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作により膜親和性にしたAlパターンに限定された脂質の被覆を図解する蛍光画像を示す。その脂質膜を蛍光膜染料で染色して、その広がりを可視化した。蛍光を反転させて像を透明にした。濃い紫色は、染色された脂質を示す。
【図9−1】図9は、パターン化された表面の膜被覆部分に生体サンプル又は合成サンプルを導入するための種々の方法を示す図である。以下の実施例の出発点は、膜親和性エリア及び膜非親和性エリアからなるチップ構造である。この膜親和性エリアは、脂質二重膜で被覆されている。この二重層構造は、平面である必要がなく、球形、管形、管球形のような三次元の幾何学的配置を有することもある。脂質二重膜材料に包埋された膜タンパク質は、その後、様々な技術により、注入部位に注入又はその他の方法で導入される。 A)電気注入による膜及び膜成分の導入を示す。 a)膜親和性領域(予備成形された脂質マトリックスにより被覆されている)と周囲の膜非親和性領域とを含むチップ構造を示す概略図である。脂質二重層マトリックスに包埋された膜タンパク質をマイクロピペットの先端からチップ上の注入部位に押し出す。 b)そのピペットの先端とその注入部位の反対側にある電極の間に電場をかけることにより、2つの膜レザーバが1つに結合する。 c)これは、膜タンパク質を注入領域に移動させ、それにより、連結レーンでの分離を行うことができる。
【図9−2】B)電気融合による膜及び膜成分の導入を示す。 a)膜親和性領域(予備形成された脂質マトリックスにより被覆されている)と周囲の膜非親和性領域とを含むチップ構造を示す概略図である。脂質二重膜マトリックス内の膜タンパク質を、例えばマイクロピペットによって、チップ上の膜被覆表面のすぐ隣に押し出す。 b)その後、2つの電極を使用して、膜の一部を膜被覆注入部位と結合させる。 c)膜タンパク質は、前のように注入部位に移動し、分離を行うことができる。
【図9−3】C)光融合による膜及び膜成分の導入を示す。 a)膜親和性領域(予備形成された脂質マトリックスにより被覆されている)と周囲の膜非親和性領域とを含むチップ構造を示す概略図である。先ず、膜タンパク質を含有する脂質マトリックスを注入部位に、例えばマイクロピペットを用いて押し出す。 b)次に、2つの膜部分(チップ上の、その膜タンパク質を含有する押し出された部分と膜で被覆された注入部位)の間の境界線上に高強度の光を集束させる。 c)その後、光融合を遂行して2つの膜を1つに融合させ、それによって前記膜タンパク質が前記注入部位に移動する。
【図9−4】D)界面活性剤不安定化による膜及び膜成分の導入を示す。 a)膜親和性領域(予備形成された脂質マトリックスにより被覆されている)と周囲の膜非親和性領域とを含むチップ構造を示す概略図である。上記のように、先ず、膜タンパク質を含有する脂質マトリックスを注入部位に、例えばマイクロピペットを用いて押し出す。 b)2つの膜部分(チップ上の、その膜タンパク質を含有する押し出された部分と膜で被覆された注入部位)の間の融合を、例えば溶液中の低濃度の界面活性剤又は膜融合を促進する他の化学物質を有することによって、遂行する。 c)融合後、膜タンパク質はその注入部位に移動することができる。
【図9−5】E)予混合脂質マトリックスの使用による膜及び膜成分の導入を示す。 a)膜親和性領域及び周囲の膜非親和性領域を含むチップ構造を示す概略図である。この方法の出発点は、裸の膜親和性表面を有する、すなわち膜被覆を有さないことである。 b)次に、膜タンパク質を含有する膜材料(予混合された脂質マトリックス)を、膜被覆表面を形成するための手順におけるように、膜親和性表面に沿って広げる。 c)膜タンパク質は、直ちに膜被覆表面全体にわたって位置するようになる。
【図9−6】F)小さな小胞とマイクロ流体の併用による膜及び膜成分の導入を示す。 a)膜親和性領域(これは、予備形成された脂質マトリックスによって被覆されている又はされていない場合がある)及び膜非親和性領域を含有するチップ構造を示す概略図である。このチップもマイクロ流体チャネルと一体化することができ、この場合、チャネルの流れをチップに一部分に、又は個々に設計の膜親和性構造の部分にさえも、高度に集中させることができる。 b)このマイクロ流体チャネルの使用により、小さな小胞(単層又は多層)を含有する溶液をその設計構造の一部を横切るようにフラッシュする。それらの小胞は、脂質二重層マトリックスを予備形成するために、電場の利用による融合、いわゆる電気融合、又は自発的に脂質二重膜に融合する、いわゆる膜融合性(fusogenic)小胞を使用することにより融合させることができる。 c)膜及び膜成分(例えば、膜タンパク質)をそのチップ上に注入した。この技術を用いて、膜及び膜成分を設計構造の特定の注入部位に注入することができる。この技術がうまくいくために、脂質マトリックスを予備形成する必要はない。小さな小胞を含有する膜及び膜成分は、それら自体が膜親和性表面に直接付着している場合もある。膜及び膜成分は、図7Eに記載と同様にこの技術を用いることによって、異なる構造に又は同じ構造の異なる部分にさえも注入することができる。
【図10】図10は、脂質装置構造による分離メカニズムとして拡散の概念を説明する画像である。櫛様パターンを有する構造をこの実験に使用し、蛍光プローブ(DiO)がその脂質二重膜の疎水性の内部に組み込まれている連続の脂質二重膜で、その構造を被覆した。レーンは、5マイクロメートルの幅を有し、放射状レーンの長さは、25マイクロメートルであった。この櫛構造パターンの一部を光退色させ、その後、光退色後の蛍光回復(FRAP)を行った。それらの画像をカラー反転させる。画像と画像の間隔は、4分である。 a)光退色後の第一画像では、画像の光退色エリアの左端及び右端での回復が注目される。 b)光退色後の第二画像(第一画像の4分後)では、蛍光は、DiO分子が第一櫛形構造レーンに拡散し、更に光退色エリアの中央のほうに続いていったことを示している。 c)光退色後の第三画像(第二画像の4分後、第一画像の8分後)では、DiO分子が、櫛構造レーンの中央に入っている。
【図11】図11は、膜タンパク質に連結した磁気ビーズを使用して、脂質二重層マトリックス内の膜タンパク質の分離/抽出を達成することを示す概略画像である。 a)2つの異なる膜タンパク質(ここでは、A及びBで示す)が1つの装置構造の注入部位にある、出発状況の概略画像である。 b)特定の膜タンパク質の特定の結合部位と連結する磁気ビーズを含有する溶液を、その装置構造を横切るようにフラッシュすることにより、それらの磁気ビーズがターゲット膜タンパク質に付着する。 c)マグネチックビーズが、膜タンパク質Aに付着した。 d)その装置構造を横断して磁場をかけることにより、膜タンパク質Aがその磁場に沿って移動し、膜タンパク質Bから分離する。
【図12】図12は、2マイクロメートルの幅を有するレーンによって相互連結された、15マイクロメートルの直径を有する2つのスポットを含む構造を示す顕微鏡写真である。このレーンは、レーンから三角形構造が出ているように設計されている。連結レーンに沿って行われる第一分離に対して垂直に、2次元の分離メカニズムを用いることにより、レーン沿いの画分をこのように三角形の先端に集めて、集中させることができる。
【図13】図13は、pH勾配のような化学的な勾配と併用での膜会合化学種の分離を示す概略図である。pH勾配は、本チップ構造の上に適切な材料の組織化ゲルを導入することにより、又は本チップとマイクロ流体工学の併用(この場合、異なるpHを有する幾つかの溶液をその装置構造を横切るようにフラッシュすることができる)により、作ることができる。
【図14】図14は、ビオチン標識脂質により脂質マトリックスに連結されたストレプトアビジン標識のβフィコエリトリンの蛍光画像である。この画像の中の装置構造は、幅2マイクロメートルの単一レーンによって連結された2つの円形スポット(直径15マイクロメートル)からなる。これは、脂質マトリックスを形成した後にリガンド、抗体及び他の試薬の結合を付加させることができることの説明にもなる。これは、例えばマイクロアレイプロトコルを用いる薬剤スクリーニングのような用途に対して、特に興味深く、この場合、様々な膜タンパク質ターゲットを含有する脂質マトリックスの種々のパッチを、特異的ターゲットタンパク質を見つけるために、特異的抗体のような試薬でフラッシュすることができる。また、このタイプのアプローチは、特異的タンパク質を見つけることができるスポットを特定するために、脂質マトリックス内の膜タンパク質の分離後に、後標識手順として用いることができる。
【図15−1】図15は、MALDI−TOF法(マトリックス支援レーザー脱離イオン化−飛行時間型)質量分析に関連した本チップの組み込み及び使用に関する略図である。本チップをMALDI−TOF法と一体化する場合、評価プロトコル、サンプルサイズ、サンプル濃度及び検出限界等に依存して、それらの構造は、マイクロメートルからミリメートルまでサイズの拡大縮小が可能であり、従って、大きな単一の装置又は多数の並列装置からなる。 A)単一装置を示す。 a)膜会合化学種が、その装置構造の脂質二重層マトリックスの注入部位に限定されている、単一装置を示す。 b)膜会合化学種、例えば、膜タンパク質を、例えば電場、拡散等を用いて分離する。 c)これらの化学種の分離後、分離物を冷凍し、その構造をMALDI−TOF法によって分析することができる。
【図15−2】B)複数並列装置を示す。 a)膜会合化学種の分離を同時に行うことができる、同じ又は異なる設計の1つ又は幾つかの装置からなる、複数の並列装置を示す概略図である。 b)単一スポットに合流する並列分離レーンを示す概略図である。この概略画像は、幾つかの注入部位を図示するものである。 c)膜タンパク質を、図9において説明した技術により、注入部位の脂質二重層マトリックスに注入する。 d)電場又は拡散等の技術を用いて、膜タンパク質を分離する。MALDI−TOF法を用いる検出前に、これらの平行レーンを使用して低存在度の膜会合化学種を濃縮することができる。 e)分離後、それらの膜会合化学種を、検出を行うことができる一部位に集めた。
【図15−3】C)MALDI−TOF−MS(マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析)又はESI−MS−MS(エレクトロスプレーイオン化質量分析−質量分析)又は類似のものと一体化する原理を示す。 a)膜非親和性表面によって囲まれた膜親和性表面を含むチップを示す概略図である。 b)(膜タンパク質を伴う又は伴わない)小さな小胞を含有する溶液を、チップの上に配置する。それらの小胞が、膜タンパク質を含有しない場合、図10で説明した技術を用いて膜タンパク質を脂質二重層マトリックスに注入しなければならない。それらの小胞が、膜タンパク質を含有する場合、一体化を同時に行うことができる。小さな小胞がその表面に沈降し、膜親和性表面に接着する。図7Dbにおいて説明したように、それらの小さな小胞を、小胞としてとどまるように又は連続の脂質二重膜を形成するように操作することができる。 c)膜タンパク質をその表面(無傷の小胞中、又は連続の脂質二重膜中の何れか)上の脂質二重層マトリックスに取り付ける。 d)膜タンパク質を含有する脂質マトリックスの上の溶液を、消化剤、例えばプロテアーゼK又はトリプシンを含有する溶液に変える。 e)その消化溶液は、その溶液に曝され、そして脂質二重層マトリックスの上に突き出ている部分の膜タンパク質を分解する。 f)曝された部分は、ペプチド断片に分解される。それらの断片をピペット又はマイクロ流体チャネルによって収集することができる。その後、液体クロマトグラフィー(LC)又はキャピラリー電気泳動(CE)のような技術での分離段階を伴うか又は伴わないで、ESI−MS−MS法又は類似の方法に直接その溶液を組み込むことができる。
【図15−4】g)ペプチド断片及び適切なマトリックスを含有する溶液を、MALDI−TOFプレート上に配置する。 h)次に、MALDI−TOF質量分析法を、ペプチド断片の同定及びその後の膜タンパク質の同定のために用いる。 i)膜親和性領域及び周囲の膜非親和性領域を含有するチップ構造を示す概略図である。このチップもマイクロ流体チャネルと一体化することができ、この場合、チップの一部に、又は個々に設計の膜非親和性構造の部分に、チャネルの流れを高度に集中させることができる。 j)様々な技術を用いて膜タンパク質を分離し、その設計構造の特定の部分で濃縮する。その後、様々な消化酵素、例えばプロテイナーゼKを含有する流れの標的をその設計構造の様々な部分に向ける。ペプチド断片を脂質二重層マトリックスから放出させて、個々に回収する。 k)その後、それらの様々なペプチド断片を含有する回収溶液を、MALDI−TOFプレートに配置し、図15Hにおいて説明したようなMALDI−TOF−MS法を用いて分析する。
【図16】図16は、本装置の非限定的な態様を図解する略図である。 a)同時に使用できる非限定的な数のチャンバー(この特定のケースでは、9個のチャンバー)を有する装置の上面概略図を示す。各々のチャンバーは、材料添加、溶液交換及び材料抽出のための1つの入口及び1つの出口を有する。 b)チャンバー構造の1つの拡大図を示す。 c)その表面が膜親和性を有することができ、それを膜タンパク質を有する連続の脂質二重層で被覆できることを図解する、そのチャンバー構造の壁の拡大図である。 d)その表面が膜親和性を有することができ、それを脂質二重膜に包埋された膜タンパク質を有する高密度に充填された小胞の層で被覆できることを図解する、そのチャンバー構造の壁の拡大図である。 e)脂質二重膜に包埋された膜タンパク質の拡大図である。
【図17】図17は、上の装置の別な非限定的な設計の略図である。 a)同時に使用できる(この非限定的な例では)9個のチャネル構造を有する装置の上面概略図を示す。各々のチャンバーは、材料添加、溶液交換及び材料抽出のための1つの入口及び1つの出口を有する。 b)チャネル構造の1つの拡大図を示す。 c)その表面が膜親和性を有することができ、それを膜タンパク質を有する連続の脂質二重層で被覆できることを図解する、そのチャネル構造の壁の拡大図である。 d)その表面が膜親和性を有することができ、それを脂質二重膜に包埋された膜タンパク質を有する高密度に充填された小胞の層で被覆できることを図解する、そのチャネル構造の壁の拡大図である。 e)脂質二重膜に包埋された膜タンパク質の拡大図である。
【図18】図18は、上の装置の例で実施される膜タンパク質の可能な2段階オンチップ設計を図解する略図である。 a)連続の脂質二重膜の形態又は膜親和性表面に付着する小胞の形態のどちらかで、脂質二重層マトリックスに包埋された膜タンパク質の拡大図を示す。トリプシン又は別の消化剤をその膜の上の溶液に添加し、それにより、膜から外に突き出している部分の膜タンパク質を消化することができる。 b)形成されたペプチド断片を、更なる加工及び/又は検出/同定のために回収する。 c)これは、消化剤によって分解できない部分を有する膜タンパク質を残している。 d)膜を崩壊させるために、界面活性剤、有機溶媒又は他の化学物質を添加し、更に多くの消化剤も添加する。 e)膜を崩壊させ、そして脂質は、界面活性剤によりミセルを形成するか又は安定化する。消化剤は、その膜タンパク質の残存部分をペプチド断片に分解し、例えば、疎水性部分は、界面活性剤によって安定化する。形成されたペプチド断片を、更なる加工及び/又は検出/同定のために回収する。
【図19−1】図19は、赤血球中の膜タンパク質のオンチップ・トリプシン消化から得られたペプチド断片の質量分析トレースを示す。最高強度レベルを有するピークを選別し、MS/MSモードでMALDI−TOF法を行った。結果を表1に示す。
【図19−2】表1は、MS/MSモードのMALDI−TOF法により推定されたペプチド配列である。AE1−膜タンパク質(陰イオン交換体タンパク質)を同定した。
【図20】図20Aは、本発明による装置を示す。活性表面である膜親和性表面が、2つの支持体を被覆する。スペーサー及び流体ポート(付随する入口及び出口の穴を有する)がフローセルを形成する。サンプル膜を膜親和性の表面に付着させて、余剰の材料を洗い流す。 図20Bは、膜タンパク質の酵素的消化を概略的に図解し、この場合、膜は無傷のままである。膜タンパク質は、膜親和性表面に付着する脂質二重膜マトリックス内に存在する。膜タンパク質の膜外部分をペプチドに分解する消化剤を、その装置(フローセル)に充填する。その後、それらのペプチドを回収し、例えば質量分析により、分析する。 図20Cは、膜タンパク質の消化を概略的に図解し、この場合、膜の崩壊が同時に起こる。一般に、この段階は、膜外部分が分解される段階の後に続く。その装置(フローセル)に崩壊剤及び分解剤(場合によっては、省くこともある)を充填して、ペプチドを放出させる(そして、より小さな断片にさらに消化分解することが可能)。その後、それらのペプチドを回収し、質量分析により分析する。
【図21】図21は、任意の数及び任意の組み合わせの消化サイクルを用いて、逐次的消化の概念を概略的に説明する。任意の数及び任意の組み合わせの種々の消化剤又は処理剤、例えば酵素、化合物、任意の波長の電磁放射線、任意の周波数の音、又はある特定の温度又は圧力への暴露(ここでは、異なる色の丸によって図解して例示する)。この例は、異なる分解パターンを得るために逐次的に(又は同時に)用いることができるプロテアーゼでの酵素的消化を示す。このケースでは、第一段階の消化をプロテアーゼ1で行い、膜を無傷のまま残す。第二段階の消化は、他の4つのプロテアーゼの何れかによって行い、膜は無傷のまま残すか、崩壊させる。膜を無傷のまま残すために、4つの異なる分解パターンが生じることになる。新しい分解部位が、膜崩壊中に曝されるので、膜の崩壊に伴って実行される消化について4つの分解パターンの別なセットが生じることになる。その後、更なる消化段階をこのプロトコルに加えてもよい。
【図22】図22は、配列カバー率の検討を目的とする逐次的消化の原理を示す一例を図解する。 上の画像:赤血球膜調製物中のバンド3の陰イオン交換体タンパク質である、RBCMのスネークプロットである(予測される膜貫通型のサイトゾル及び細胞外部分を有するアミノ酸配列の二次元の図)。ミドリの点は、トリプシン消化から生じるペプチドを図示している。 下の画像:トリプシンの逐次的消化、その後のペプシン消化の結果を示すスネークプロットである。追加の青色の点は、ペプシン消化から生ずるペプチドを図示している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの膜親和性(membraneophilic)領域を含む少なくとも1つの支持固体表面;
その膜親和性領域に少なくとも部分的に固定されている被覆層であって、(i)界面活性剤の膜、(ii)脂質模倣ポリマー、(iii)界面活性剤又は乳剤系、(iv)液晶又はその組み合わせ、から成る被覆層;及び
その被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質;
を含んでなる装置。
【請求項2】
水溶液中の固体粒子(この固体粒子は、膜親和性を有し、(a)膜、(b)脂質模倣ポリマー、(c)界面活性剤又は乳剤系、(d)液晶又はその組み合わせにより被覆されており、そして固定されている)により構成される膜親和性領域を更に含んでなる、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記支持固体表面と前記被覆層の間に捕捉された水層を更に含んでなる、請求項1又は請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記被覆層を覆う液体又は水溶液を更に含んでなる、請求項1〜3の何れか一項に記載の装置。
【請求項5】
ゲル又はポリマー構造から成る層を更に含んでなる、請求項1〜4の何れか一項に記載の装置。
【請求項6】
前記支持固体表面上に金属薄膜を更に含んでなる、請求項1〜5の何れか一項に記載の装置。
【請求項7】
前記支持固体表面が、少なくとも1つの膜非親和性(membraneophobic)領域を更に含んでなる、請求項1〜6の何れか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記膜親和性領域が、二酸化ケイ素、ガラス、マイカ若しくはポリマー、又はそれらの組み合わせの何れかでできた表面である、請求項1〜7の何れか一項に記載の装置。
【請求項9】
前記表面が、プラズマで処理される、請求項8に記載の装置。
【請求項10】
前記膜親和性領域が、金属酸化物若しくは金属、又はそれらの組み合わせの何れかでできた表面である、請求項1〜7の何れか一項に記載の装置。
【請求項11】
前記表面が、プラズマで処理される、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
前記表面を形成する物質が、酸化アルミニウム及び金又はそれらの任意の組み合わせから選択される、請求項10又は請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記被覆層が、界面活性剤膜により構成される、請求項1〜12の何れか一項に記載の装置。
【請求項14】
前記界面活性剤の膜が、脂質二重膜、細胞膜、脂質小胞、タンパク質小胞(proteovesicles)、脂質ナノチューブ、脂質単層、細胞断片、細胞小器官及びそれらの組み合わせの何れかから成る群より選択される、請求項13に記載の装置。
【請求項15】
前記界面活性剤の膜が、脂質、糖及び/又はタンパク質により前記膜親和性領域に少なくとも部分的に固定されている、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記膜が、脂質膜の少なくとも1つのコンテナに連結した少なくとも1つの脂質ナノチューブの網状構造として形成される、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
前記膜親和性領域が、異なる脂質又は脂質/脂質混合物で被覆される(つまり、前記膜親和性領域のある特定部分上の脂質又は脂質/脂質混合物が、1つのタイプの脂質又は脂質/脂質混合物で、一方その膜親和性領域の別の部分上の脂質又は脂質/脂質混合物が、異なるタイプの脂質又は脂質/脂質混合物であり得る)、請求項14〜16の何れか一項に記載の装置。
【請求項18】
前記脂質/脂質混合物が、同じ表面上に共存する、異なるタイプの脂質又は異なる位相状態の脂質を含有し得る、請求項17に記載の装置。
【請求項19】
前記膜が、マイクロピペット又は光学ピンセットを使用して単層又は多層小胞を堆積させることにより前記膜親和性表面上に導入された脂質二重膜である、請求項14〜18の何れか一項に記載の装置。
【請求項20】
前記膜が、脂質材料を充填したピペットを表面を横切るように平行移動させることによるピペット書き込み(pipette-writing)法を用いて、脂質を堆積させることにより前記膜親和性表面上に導入された脂質二重膜である、請求項14〜18の何れか一項に記載の装置。
【請求項21】
前記膜が、小さな小胞の融合を利用して脂質を堆積させることにより、前記膜親和性表面上に導入された脂質二重膜である、請求項14〜18の何れか一項に記載の装置。
【請求項22】
前記膜が、流体チャネル及びフローセルを通した脂質二重膜の堆積により、前記膜親和性表面上に導入された脂質二重膜である、請求項14〜18の何れか一項に記載の装置。
【請求項23】
前記膜が、溶解脂質の直接注入による脂質二重膜の形成により、前記膜親和性表面上に導入された脂質二重膜である、請求項14〜18の何れか一項に記載の装置。
【請求項24】
前記支持固体表面への前記脂質二重膜の吸着が、その支持固体表面の接着電位により制御される、請求項14〜23の何れか一項に記載の装置。
【請求項25】
前記接着電位が、静電位であり、そして次の相互作用:ファン・デル・ワールス相互作用、疎水性相互作用、静電相互作用、π−π相互作用、水素結合相互作用及び共有結合相互作用の何れかにより制御される、請求項24に記載の装置。
【請求項26】
前記接着電位が、動電位であり、そして次の相互作用:エレクトロウェッティング(electrowetting)、電気力及び磁気力の何れかにより制御される、請求項24に記載の装置。
【請求項27】
前記被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質が、その被覆層中又は被覆層上の脂質部分に結合している、連結している、又は会合している、請求項13〜26の何れか一項に記載の装置。
【請求項28】
二価カチオンが、前記支持固体表面への前記被覆層の固定化を強化するために使用される、請求項14〜27の何れか一項に記載の装置。
【請求項29】
前記二価カチオンが、カルシウムイオンである、請求項28に記載の装置。
【請求項30】
前記被覆層が、無傷細胞により構成される、請求項1〜12の何れか一項に記載の装置。
【請求項31】
前記被覆層が、脂質模倣ポリマーにより構成される、請求項1〜12の何れか一項に記載の装置。
【請求項32】
前記脂質模倣ポリマーが、ジブロックポリマーである、請求項31に記載の装置。
【請求項33】
前記被覆層が、界面活性剤又は乳剤系により構成される、請求項1〜12の何れか一項に記載の装置。
【請求項34】
前記界面活性剤又は乳剤系が、ミセル形成性の系、油、スポンジ相及びリオトロピック脂質から成る群より選択される、請求項33に記載の装置。
【請求項35】
前記被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質が、表在性及び内在性膜タンパク質、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型タンパク質、リン脂質、スフィンゴ脂質、薬剤、両親媒性物質、親油性物質、ステロール、糖、オリゴヌクレオチド、ポリマー及びDNAから成る群より選択される、請求項1〜34の何れか一項に記載の装置。
【請求項36】
前記被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質が、非共有結合の相互作用によりその被覆層に連結することができる分子である、請求項1〜35の何れか一項に記載の装置。
【請求項37】
前記被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質が、ビーズに連結している、請求項1〜36の何れか一項に記載の装置。
【請求項38】
前記ビーズが、磁気ビーズである、請求項37に記載の装置。
【請求項39】
前記ビーズが、荷電ビーズである、請求項37に記載の装置。
【請求項40】
前記被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質が、輸送マーカーに連結している、請求項1〜39の何れか一項に記載の装置。
【請求項41】
前記被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質が、エレクトロ・インジェクション、電気的融合、光学的融合、熱により誘導される融合、電磁放射線により誘導される融合、化学物質により誘導される融合及び界面活性剤の不安定化から成る群より選択される技術により、その被覆層又はその被覆層を形成する物質に導入される、請求項1〜40の何れか一項に記載の装置。
【請求項42】
前記被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質が、その被覆層の形成中にその被覆層を形成する物質に導入される、請求項1〜41の何れか一項に記載の装置。
【請求項43】
前記被覆層に電場をかけるための少なくとも1つの電極を更に含んでなる、請求項1〜42の何れか一項に記載の装置。
【請求項44】
前記被覆層に磁場をかけるための少なくとも1つの磁石を更に含んでなる、請求項1〜43の何れか一項に記載の装置。
【請求項45】
前記被覆層を覆う液体又は水溶液の流れを作るための少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口連結部を更に含んでなる、請求項4〜44の何れか一項に記載の装置。
【請求項46】
前記被覆層の周囲に、追加の膜、タンパク質−脂質混合物、洗浄溶液、染色溶液、消化溶液及びその他の溶液又は懸濁液の交換のための少なくとも1つの入口及び少なくとも1つの出口連結部を更に含んでなる、請求項1〜45の何れか一項に記載の装置。
【請求項47】
分画サンプルの回収のための部分又はサンプルの濃縮及び単離を行うための専用ドメインを更に含んでなる、請求項1〜46の何れか一項に記載の装置。
【請求項48】
装置との材料の出し入れ輸送のための少なくとも1つの流体チャネルを更に含んでなる、請求項1〜47の何れか一項に記載の装置。
【請求項49】
前記被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質の分離、単離及び/又は濃縮のための、請求項43〜48の何れか一項に記載の装置。
【請求項50】
前記被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質が、化学的又は物理的な調節若しくは操作を可能にする特異的な特性を有する、請求項49に記載の装置。
【請求項51】
前記支持固体表面に前記被覆層を固着させるための分子を更に含んでなる、請求項1〜50の何れか一項に記載の装置。
【請求項52】
前記固着させるための分子が、テザー(tethers)である、請求項51に記載の装置。
【請求項53】
前記支持固体表面が、平面であり、前記膜親和性表面領域が、特異的二次元幾何形状を有する、請求項1〜52の何れか一項に記載の装置。
【請求項54】
前記支持固体表面が、三次元構造を有する、請求項1〜52の何れか一項に記載の装置。
【請求項55】
前記三次元構造が、柱(pillars)で構成される、請求項54に記載の装置。
【請求項56】
前記膜親和性領域が、凹構造で配置される、請求項54又は55に記載の装置。
【請求項57】
前記膜親和性領域が、高くした構造の頂部に配置される、請求項54又は55に記載の装置。
【請求項58】
前記膜親和性領域が、耐光性物質、プラスチック、ポリマー又は脂質膜から形成される、請求項7〜57の何れか一項に記載の装置。
【請求項59】
前記支持固体表面が、2つの異なる表面領域(1つの膜親和性表面領域と1つの膜非親和性表面領域)でパターン形成される、請求項7〜58の何れか一項に記載の装置。
【請求項60】
多重化パターン又は並列パターンで配置されている、1つ以上の膜親和性領域と1つ以上の膜非親和性領域を含んでなる、請求項7〜58の何れか一項に記載の装置。
【請求項61】
前記パターンが、同一の膜親和性又は膜非親和性表面領域の幾何構造を含んでなる、請求項60に記載の装置。
【請求項62】
前記パターンが、異なる膜親和性又は膜非親和性表面領域の幾何構造を含んでなる、請求項60に記載の装置。
【請求項63】
前記水層が、ポリマーを含む、請求項3〜62の何れか一項に記載の装置。
【請求項64】
方法が、(i)請求項1〜63の何れか一項に記載の装置を、前記物質の一部の制御された分解を行う少なくとも1つの消化剤又は分解剤と接触させ、その後、その物質が、実質的に可動な画分と、依然としてその被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している固定画分とになる第一段階;及び(ii)その実質的に可動な画分を検出又は分析する第二段階を含んでなる、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置において、被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質の分離又は同定する方法。
【請求項65】
前記消化剤が、酵素である、請求項64に記載の方法。
【請求項66】
前記消化剤が、トリプシンである、請求項65に記載の方法。
【請求項67】
異なる消化又は分解剤の混合物が使用される、請求項64又は65に記載の方法。
【請求項68】
異なる消化又は分解剤が逐次的に使用される、請求項64又は65に記載の方法。
【請求項69】
異なる消化又は分解剤が同時に使用される、請求項64又は65に記載の方法。
【請求項70】
前記異なる消化又は分解剤が、1つの装置の異なるレーンで使用される、請求項69に記載の方法。
【請求項71】
(iii)被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質の残存固定画分を保持する前記被覆層の構造を崩壊させる少なくとも1つの崩壊剤と前記装置を接触させ、その後、その物質が、実質的に可動性であるその基本的要素から成る第三段階;及び(iv)前記被覆層から放出される、その被覆層に含まれていた、結合していた、連結していた、又は会合していた物質の残存画分を検出又は分析する第四段階を更に含んでなる、請求項64〜70の何れか一項に記載の方法。
【請求項72】
前記崩壊剤が、界面活性剤又は有機溶媒である、請求項71に記載の方法。
【請求項73】
前記装置を消化又は分解剤と接触させると同時に、崩壊剤と接触させる、請求項71又は請求項72に記載の方法。
【請求項74】
前記装置を崩壊剤と接触させた後、次の段階での検出又は分析することができるように、前記被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質を、より小さな部分に更に分解する消化又は分解剤と接触させる、請求項71又は請求項72に記載の方法。
【請求項75】
前記物質のより小さな部分が、タンパク質断片又はペプチドである、請求項74に記載の方法。
【請求項76】
検出又は分析段階(工程(ii)及び/又は工程(iv))の一方又は両方が、分離段階に先行して実施される、請求項64〜75の何れか一項に記載の方法。
【請求項77】
前記分離が、キャピラリー電気泳動法(CE)、液体クロマトグラフィー法(LC)、ゲルクロマトグラフィー法及びゲル電気泳動法から選択される、請求項76に記載の方法。
【請求項78】
前記検出又は分析が、質量分析法により実施される、請求項64〜77の何れか一項に記載の方法。
【請求項79】
前記質量分析法が、MALDI MS法及びエレクトロスプレーイオン化法(ESI MS−MS)から選択される、請求項78に記載の方法。
【請求項80】
用いられるMALDI MS法が、MALDI−TOF法及びMALDI−TOF−TOF法から選択される、請求項79に記載の方法。
【請求項81】
前記検出又は分析が、表面プラズモン共鳴法(SPR)によって行われる、請求項64〜77の何れか一項に記載の方法。
【請求項82】
前記検出又は分析が、水晶発振子マイクロバランス法(QCM)によって行われる、請求項64〜77の何れか一項に記載の方法。
【請求項83】
前記検出又は分析が、蛍光ベースの技術によって行われる、請求項64〜77の何れか一項に記載の方法。
【請求項84】
(i)請求項1〜63の何れか一項に記載の装置を、可溶性物質を含有する水溶液と接触させる第一段階;
(ii)その装置を、その水溶液中の可溶性物質の分画を行う少なくとも1つの消化剤又は分解剤と接触させる第二段階;及び
(iii)その可溶性物質の画分を検出又は分析する第三段階、
を含んでなる、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置で水溶液中の可溶性物質を分離又は同定するための方法。
【請求項85】
前記被覆層の存在により、可溶性物質が基板に付着しないことを確保し、これにより、サンプル損失を防止する、請求項84に記載の方法。
【請求項86】
検出又は分析段階(iii)が、分離段階の前に行われる、請求項84又は請求項85に記載の方法。
【請求項87】
前記分離が、キャピラリー電気泳動法(CE)、液体クロマトグラフィー法(LC)、ゲルクロマトグラフィー法及びゲル電気泳動法から選択される、請求項86に記載の方法。
【請求項88】
前記検出又は分析が、質量分析法により行われる、請求項84〜87の何れか一項に記載の方法。
【請求項89】
前記質量分析法が、MALDI MS法及びエレクトロスプレーイオン化法(ESI MS−MS)から選択される、請求項88に記載の方法。
【請求項90】
用いられるMALDI MS法が、MALDI−TOF法及びMALDI−TOF−TOF法から選択される、請求項89に記載の方法。
【請求項91】
前記検出又は分析が、表面プラズモン共鳴法(SPR)によって行われる、請求項84〜87の何れか一項に記載の方法。
【請求項92】
前記検出又は分析が、水晶発振子マイクロバランス法(QCM)によって行われる、請求項84〜87の何れか一項に記載の方法。
【請求項93】
前記検出又は分析が、蛍光ベースの技術によって行われる、請求項84〜87の何れか一項に記載の方法。
【請求項94】
異なる化学的又は物理的な調節若しくは操作段階又は異なる検出若しくは分析段階が、同じサンプルに対して同時に行われる、請求項84〜93の何れか一項に記載の方法。
【請求項95】
異なる化学的又は物理的な調節若しくは操作段階又は異なる検出若しくは分析段階が、異なるサンプルに対して同時に行われる、請求項84〜93の何れか一項に記載の方法。
【請求項96】
請求項1〜63の何れか一項に記載の装置における被覆層に含まれている、結合している、連結している又は会合している、又はそのようなことができる物質を分離するための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜83の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項97】
請求項1〜63の何れか一項に記載の装置における被覆層に含まれている、結合している、連結している又は会合している、又はそのようなことができる物質を回収するための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜83の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項98】
請求項1〜63の何れか一項に記載の装置における被覆層に含まれている、結合している、連結している又は会合している、又はそのようなことができる物質を同定するための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜83の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項99】
液体又は水溶液中の可溶性物質を分離するための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項84〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項100】
液体又は水溶液中の可溶性物質を回収するための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項84〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項101】
水溶液中の可溶性物質を同定するための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項84〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項102】
前記物質が、表在性及び内在性膜タンパク質、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカー型タンパク質、リン脂質、スフィンゴ脂質、薬剤、両親媒性物質、親油性物質、ステロール、糖、オリゴヌクレオチド、DNA及びポリマーから成る群より選択される、請求項96〜101の何れか一項に記載の使用。
【請求項103】
分離カラムに組み込むための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項104】
前記分離カラムが、キャピラリー電気泳動法(CE)のカラム、液体クロマトグラフィー法(LC)のカラム、ゲルクロマトグラフィー法のカラム又はゲル電気泳動法のカラムである、請求項103に記載の使用。
【請求項105】
検出又は分析システムに組み込むための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項106】
前記検出又は分析システムが、質量分析法である、請求項105に記載の使用。
【請求項107】
前記質量分析システムが、MALDI MS法又はエレクトロスプレーイオン化法(ESI MS−MS)である、請求項106に記載の使用。
【請求項108】
前記MALDI MS法が、MALDI−TOF法及びMALDI−TOF−TOF法から選択される、請求項107に記載の使用。
【請求項109】
前記検出又は分析システムが、表面プラズモン共鳴(SPR)システムである、請求項105に記載の使用。
【請求項110】
前記検出又は分析システムが、水晶発振子マイクロバランス(QCM)システムである、請求項105に記載の使用。
【請求項111】
前記検出又は分析システムが、蛍光ベースのシステムである、請求項105に記載の使用。
【請求項112】
脱塩及び濃縮のカラムに連結するための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項113】
結合相互作用の検討のための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項114】
タンパク質−薬剤の相互作用の検討のための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項115】
リガンド結合の検討のための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項116】
架橋プロトコルを用いるリガンド結合相互作用の検討のための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項117】
前記架橋の後に消化又は分解が続く、請求項116に記載の使用。
【請求項118】
拡散の検討のための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項119】
化学反応の検討のための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項120】
ケミカルコンピュータの製造における、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項121】
移植可能装置の製造における、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項122】
いわゆるマランゴニ対流及び他の膜特性と併用での、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項123】
請求項1〜63の何れか一項に記載の装置の膜親和性領域上で生体細胞を成長させるための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95のいずれかに記載の方法の使用。
【請求項124】
抗体と連結しての、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項125】
前記抗体が、請求項1〜62の何れか一項に記載の装置の膜親和性領域に付着する、請求項124に記載の使用。
【請求項126】
高分子の集束若しくは濃縮のため、又は高分子凝集体の形成のための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項127】
配列カバー率の検討による膜結合物質の分析のための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項128】
翻訳後修飾の検討による膜結合物質の分析のための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項129】
膜プロテオームプロファイリングによる膜結合物質の分析のための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項130】
低存在度タンパク質の検討による膜結合物質の分析のための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項131】
創薬ターゲットの検討による膜結合物質の分析のための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項132】
ターゲット探索検討による膜結合物質の分析のための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項133】
受容体の脱オーファン化による膜結合物質の分析のための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項134】
発現プロファイリング及びアップ・アンド・ダウンレギュレーションによる膜結合物質の分析のための、請求項1〜63の何れか一項に記載の装置又は請求項64〜95の何れか一項に記載の方法の使用。
【請求項135】
前記膜結合物質が、膜タンパク質である、請求項127〜134の何れか一項に記載の使用。
【請求項136】
前記膜結合物質が、オリゴ糖である、請求項127〜134の何れか一項に記載の使用。
【請求項137】
前記被覆層に含まれている、結合している、連結している、又は会合している物質が、化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作に付される、請求項49又は50に記載の装置の使用。
【請求項138】
前記化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作が、ジスルフィド結合の還元及びアルキル化である、請求項137に記載の使用。
【請求項139】
前記化学的及び/又は物理的な調節若しくは操作が、オリゴ糖のグリコシル化部位での酵素的消化又は除去である、請求項137に記載の使用。
【請求項140】
翻訳後修飾の検討における、請求項137〜139の何れか一項に記載の使用。
【請求項141】
リン酸化部位の検討における、請求項137〜139の何れか一項に記載の使用。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図1−4】
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【図1−5】
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【図1−6】
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【図1−7】
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【図1−8】
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【図1−9】
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【図1−10】
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【図1−11】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【図2−6】
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【図2−7】
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【図3−1】
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【図3−2】
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【図3−3】
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【図3−4】
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【図3−5】
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【図3−6】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図4−4】
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【図4−5】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7−1】
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【図7−2】
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【図7−3】
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【図7−4】
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【図7−5】
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【図7−6】
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【図7−7】
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【図8−1】
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【図8−2】
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【図8−3】
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【図8−4】
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【図9−1】
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【図9−2】
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【図9−3】
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【図9−4】
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【図9−5】
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【図9−6】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【図15−3】
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【図15−4】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19−1】
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【図19−2】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公表番号】特表2008−525797(P2008−525797A)
【公表日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−548160(P2007−548160)
【出願日】平成17年12月23日(2005.12.23)
【国際出願番号】PCT/SE2005/002022
【国際公開番号】WO2006/068619
【国際公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【出願人】(507213226)ナノキシス アーベー (1)
【Fターム(参考)】