説明

補正値の設定方法、補正値設定システム、及び、プログラム

【課題】テストパターンの限られた種類の濃度から、多くの種類の補正値を精度良く設定する。
【解決手段】次の(A)〜(F)の処理を行う。(A)複数の指令階調値に基づいて、濃度が異なる複数の領域を有するテストパターンを印刷する。(B)複数の領域のそれぞれについて、及び、非印刷領域について濃度の測定値を取得する。(C)最低指令階調値で印刷された領域について目標濃度を設定する。(D)最低指令階調値用の補正値を設定するに際し、最低指令階調値で印刷された領域の測定値と目標濃度との大小関係に応じて、参照すべき測定値の組を特定する。(E)特定された測定値の組を参照して、最低指令階調値用の補正値を設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補正値の設定方法、補正値設定システム、及び、プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットプリンタ等の印刷装置においては、その印刷装置で印刷されたテストパターンの濃度を測定することで測定値を取得し、取得した測定値によってインクの吐出調整が行われている(例えば、特許文献1を参照。)。
【特許文献1】特開平2−54676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
この種の印刷装置において、画質のさらなる向上は常に求められる。そして、近年の高画質化の要求に応えるために、インクの吐出調整を行うための補正値を、複数の指令階調値について定めることが考えられる。このため、代表的な指令階調値で、濃度が異なる複数の領域を有するテストパターンを印刷し、各領域の濃度の測定値から補正値を定めることが考えられる。ここで、代表的な指令階調値の種類を多くすれば、補正の精度を高めることができ、画質の向上が図れる。しかし、指令階調値を増やすほど、対応する領域を印刷する必要があり、印刷に時間を要したり、処理に時間が掛かったりしてしまう。
【0004】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、テストパターンの限られた種類の濃度領域から、多くの種類の補正値を精度良く得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための主たる発明は、
(A)複数の指令階調値に基づいて、濃度が異なる複数の領域を有するテストパターンを媒体に印刷すること、
(B)前記複数の領域のそれぞれについて、及び、前記媒体における非印刷領域について濃度を測定し、濃度の測定値を取得すること、
(C)前記複数の指令階調値中の最低指令階調値で印刷された領域について、目標濃度を設定すること、
(D)前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも大きい場合に、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記非印刷領域の前記測定値の組を特定し、
前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも小さい場合に、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記最低指令階調値よりも高い指令階調値で印刷された他の領域の前記測定値の組を特定すること、
(E)特定された前記測定値の組を参照して、前記最低指令階調値用の補正値を設定すること、
(F)を行う補正値の設定方法である。
【0006】
本発明の他の特徴については、本明細書及び添付図面の記載によって明らかにする。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本明細書及び添付図面の記載により、少なくとも、以下の事項が明らかとなる。
【0008】
すなわち、(A)複数の指令階調値に基づいて、濃度が異なる複数の領域を有するテストパターンを媒体に印刷すること、(B)前記複数の領域のそれぞれについて、及び、前記媒体における非印刷領域について濃度を測定し、濃度の測定値を取得すること、(C)前記複数の指令階調値中の最低指令階調値で印刷された領域について、目標濃度を設定すること、(D)前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも大きい場合に、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記非印刷領域の前記測定値の組を特定し、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも小さい場合に、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記最低指令階調値よりも高い指令階調値で印刷された他の領域の前記測定値の組を特定すること、(E)特定された前記測定値の組を参照して、前記最低指令階調値用の補正値を設定すること、(F)を行う補正値の設定方法を実現できることが明らかとなる。
このような補正値の設定方法によれば、最低指令階調値用の補正値を設定する場合に、媒体における非印刷領域について濃度の測定値が参照されるので、テストパターンで印刷された限られた種類の濃度から多くの種類の補正値が得られ、最低指令階調値用の補正値の精度を高めることができる。
【0009】
かかる補正値の設定方法であって、前記複数の指令階調値中の中間指令階調値で印刷された領域について、目標濃度を設定すること、前記中間指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも大きい場合に、前記中間指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記中間指令階調値よりも低い指令階調値で印刷された他の領域の前記測定値の組を特定し、前記中間指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも小さい場合に、前記中間指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記中間指令階調値よりも高い指令階調値で印刷された他の領域の前記測定値の組を特定すること、特定された前記測定値の組を参照して、前記中間指令階調値用の補正値を設定すること、を行うことが好ましい。
このような補正値の設定方法によれば、中間指令階調値用の補正値を設定する場合に、測定値と目標濃度の大小関係に応じて、参照すべき測定値の組が特定される。このため、中間指令階調値用の補正値の精度を高めることができる。
【0010】
かかる補正値の設定方法であって、前記複数の指令階調値中の最高指令階調値で印刷された領域について、目標濃度を設定すること、前記最高指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記目標濃度の大小関係に関わらず、前記最高指令階調値で印刷された領域の前記測定値と他の指令階調値で印刷された他の領域の前記測定値の組を特定すること、特定された前記測定値の組を参照して、前記最高指令階調値用の補正値を設定すること、を行うことが好ましい。
このような補正値の設定方法によれば、最高指令階調値用の補正値を設定する場合に、測定値と目標濃度の大小関係に関わらず、参照すべき測定値の組が特定される。このため、限られた種類の濃度から多くの種類の補正値が得られる。
【0011】
かかる補正値の設定方法であって、前記テストパターンの印刷では、同じ種類のインクを吐出させる複数のノズルによって構成されるノズル群を有する印刷ヘッドであって、前記ノズル群を吐出可能なインクの種類に応じた複数有する印刷ヘッドを、移動方向に移動させつつ前記ノズルからインクを前記媒体に向けて吐出させる動作と、前記移動方向とは交差する搬送方向に前記媒体を搬送する動作とを、繰り返し行わせることが好ましい。
このような補正値の設定方法によれば、吐出させるインクの種類毎に画像濃度の補正ができる。
【0012】
かかる補正値の設定方法であって、前記テストパターンの印刷では、異なるノズル群で印刷される複数のサブパターンであって、前記最低指令階調値で印刷される最低濃度領域、前記複数の指令階調値中の中間指令階調値で印刷される中間濃度領域、及び、前記複数の指令階調値中の最高指令階調値で印刷される最高濃度領域をそれぞれ有する複数のサブパターンが、前記移動方向へ配置されたテストパターンを印刷することが好ましい。
このような補正値の設定方法によれば、テストパターンの印刷を速やかに行うことができ、処理の効率化が図れる。
【0013】
かかる補正値の設定方法であって、前記テストパターンの印刷では、前記移動方向に沿った罫線であって、対応するサブパターンの範囲を検出する際に用いられる罫線を、前記対応するサブパターンにおける搬送方向の一端と他端のそれぞれに印刷し、前記濃度の測定値の取得では、前記搬送方向の一端に印刷された或る罫線と前記搬送方向の他端に印刷された他の罫線とに挟まれた前記非印刷領域について濃度を測定し、濃度の測定値を取得することが好ましい。
このような補正値の設定方法によれば、罫線を印刷することで生じる非印刷領域、すなわちサブパターンが印刷できない領域を、有効に使用できる。
【0014】
かかる補正値の設定方法であって、前記濃度の測定値の取得では、前記テストパターンの濃度、及び、前記非印刷領域の濃度を、前記搬送方向に並ぶ複数の列領域のそれぞれについて測定し、前記列領域毎に前記濃度の測定値を取得することが好ましい。
このような補正値の設定方法によれば、濃度の測定値が列領域のそれぞれについても得られるので、搬送方向における濃度ばらつきに対応した補正値を設定することができる。
【0015】
かかる補正値の設定方法であって、前記目標濃度の設定では、同じ指令階調値で印刷された領域に属する複数の前記列領域について前記測定値を参照し、参照した各測定値の平均値を前記目標濃度として設定することが好ましい。
このような補正値の設定方法によれば、設定される補正値をより適したものにできる。
【0016】
また、次の補正値設定システムが実現できることも明らかにされる。
すなわち、(A)補正値の設定対象となる印刷装置を用いて媒体に印刷されたテストパターンの濃度を測定するスキャナであって、(A1)前記テストパターンが有する、複数の指令階調値で印刷された濃度が異なる複数の領域のそれぞれ、及び、前記媒体における非印刷領域について、濃度を測定すること、を行うスキャナと、(B)コントローラであって、(B1)前記スキャナからの前記濃度の測定値を取得すること、(B2)前記複数の指令階調値中の最低指令階調値で印刷された領域について、目標濃度を設定すること、(B3)前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも大きい場合に、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記非印刷領域の前記測定値の組を特定し、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも小さい場合に、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記最低指令階調値よりも高い指令階調値で印刷された他の領域の前記測定値の組を特定すること、(B4)特定された前記測定値の組を参照して、前記最低指令階調値用の補正値を設定すること、を行うコントローラと、(C)を有する補正値設定システムが実現できることも明らかにされる。
【0017】
また、次のプログラムが実現できることも明らかにされる。
すなわち、対象となる印刷装置に補正値を設定する補正値設定システムに用いられるプログラムであって、複数の指令階調値に基づいて、濃度が異なる複数の領域を有するテストパターンを前記印刷装置に印刷させること、前記複数の領域のそれぞれ、及び、前記媒体における非印刷領域についてスキャナに濃度を測定させること、濃度の測定値を前記スキャナから取得すること、前記複数の指令階調値中の最低指令階調値で印刷された領域について、目標濃度を設定すること、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも大きい場合に、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記非印刷領域の前記測定値の組を特定し、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも小さい場合に、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記最低指令階調値よりも高い指令階調値で印刷された他の領域の前記測定値の組を特定すること、特定された前記測定値の組を参照して、前記最低指令階調値用の補正値を設定することをコントローラに行わせるためのプログラムが実現できることも明らかにされる。
【0018】
===印刷システム10===
補正値設定システムの説明に先立って印刷システム10の説明をする。この印刷システム10は、用紙に画像を印刷するためのものであり、図1に示すように、印刷装置としてのインクジェットプリンタ100(以下、単にプリンタ100ともいう。)と、ホストコンピュータ200とを有する。
【0019】
<プリンタ100>
プリンタ100は、用紙搬送機構110と、キャリッジ移動機構120と、ヘッドユニット130と、検出器群140と、プリンタ側コントローラ150とを有する。
【0020】
用紙搬送機構110は、媒体を搬送方向に搬送する媒体搬送部に相当する。この搬送方向は、次に説明するキャリッジ移動方向と交差する方向である。図2及び図3に示すように、用紙搬送機構110は、用紙ストッカSSよりも上方の所定位置に配置された給紙ローラ111と、用紙Sを裏面側から支えるプラテン112と、プラテン112よりも搬送方向上流側に配置された搬送ローラ113と、プラテン112よりも搬送方向下流側に配置された排紙ローラ114と、搬送ローラ113や排紙ローラ114の駆動源となる搬送モータ115とを有する。この用紙搬送機構110では、給紙ローラ111によって、用紙ストッカSSに保持された用紙Sが1枚ずつ送られる。そして、搬送ローラ113によって用紙Sがプラテン112側に送られ、排紙ローラ114によって印刷後の用紙Sが搬送方向に送られる。
【0021】
キャリッジ移動機構120は、キャリッジCRをキャリッジ移動方向に移動させるためのものである。このキャリッジCRは、インクカートリッジICやヘッドユニット130が取り付けられる部材である。そして、キャリッジ移動方向には、一側から他側への移動方向と、他側から一側への移動方向が含まれている。ここで、ヘッドユニット130はヘッド131(印刷ヘッドに相当する。図4を参照。)を有する。このため、キャリッジ移動機構120はヘッド移動部に相当し、キャリッジ移動方向は印刷ヘッドの移動方向に相当する。キャリッジ移動機構120は、タイミングベルト121と、キャリッジモータ122と、ガイド軸123と、駆動プーリー124と、アイドラプーリー125を有する。タイミングベルト121は、キャリッジCRに接続されるとともに、駆動プーリー124とアイドラプーリー125との間に架け渡されている。キャリッジモータ122は、駆動プーリー124を回転させる駆動源である。ガイド軸123は、キャリッジCRをキャリッジ移動方向へ案内するための部材である。このキャリッジ移動機構120では、キャリッジモータ122を動作させることで、キャリッジCRをキャリッジ移動方向へ移動させることができる。
【0022】
ヘッドユニット130が有するヘッド131は、インクを用紙Sに向けて吐出させるものである。キャリッジCRへの取付状態において、ヘッド131はプラテン112に対向している。図4に示すように、ヘッド131におけるプラテン112との対向面(ノズル面)には、インクを吐出させるためのノズルNzが設けられている。このノズルNzは、吐出させるインクの種類毎にグループ分けされており、各グループによってノズル列が構成されている。すなわち、ノズル列は、同じ種類のインクを吐出させる複数のノズルNzによって構成されるノズル群に相当する。例示したヘッド131は、ブラックインクノズル列Nkと、イエローインクノズル列Nyと、シアンインクノズル列Ncと、マゼンタインクノズル列Nmと、ライトシアンインクノズル列Nlcと、ライトマゼンタインクノズル列Nlmとを有する。各ノズル列は、n個(例えば、n=90)のノズルNzを備えている。1つのノズル列に属する複数のノズルNzは、搬送方向に沿って一定の間隔(ノズルピッチ:k・D)で設けられる。ここで、Dは、搬送方向における最小のドットピッチ、つまり、用紙Sに形成されるドットの最高解像度での間隔である。また、kは、最小のドットピッチDとノズルピッチとの関係を表す係数であり、1以上の整数に定められる。例えば、ノズルピッチが180dpi(1/180インチ間隔)であって、搬送方向のドットピッチが720dpi(1/720インチ)である場合、k=4である。また、各ノズルNzからは、量が異なるインク(滴状のインク)を吐出できる。
【0023】
検出器群140は、プリンタ100の状況を監視するためのものである。図2及び図3に示すように、この検出器群140には、リニア式エンコーダ141、ロータリー式エンコーダ142、紙検出器143、及び、紙幅検出器144が含まれている。
【0024】
プリンタ側コントローラ150は、プリンタ100の制御を行うものであり、CPU151と、メモリ152と、制御ユニット153と、インタフェース部154とを有する。CPU151は、プリンタ100の全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリ152は、CPU151のプログラムを記憶する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM、ROM等の記憶素子によって構成される。そして、CPU151は、メモリ152に記憶されているコンピュータプログラムに従い、制御ユニット153を介して各制御対象部を制御する。従って、制御ユニット153は、CPU151からの指令に基づいて各種の信号を出力する。また、メモリ152の一部領域は、補正値記憶部155として用いられる。補正値記憶部155には、印刷される画像の濃度を列領域毎に補正する際に用いられる補正値(後述する。)が記憶される。
【0025】
<ホストコンピュータ200>
ホストコンピュータ200は、ホスト側コントローラ210と、記録再生装置220と、表示装置230と、入力装置240とを有する。これらの中で、ホスト側コントローラ210は、CPU211と、メモリ212と、第1インタフェース部213と、第2インタフェース部214とを有する。CPU211は、コンピュータの全体的な制御を行うための演算処理装置である。メモリ212は、CPU211が使用するコンピュータプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものである。そして、CPU211は、メモリ212に格納されているコンピュータプログラムに従って各種の制御を行う。第1インタフェース部213はプリンタ100との間でデータの受け渡しを行い、第2インタフェース部214はプリンタ100以外の外部機器(例えばスキャナ)との間でデータの受け渡しを行う。
【0026】
ホスト側コントローラ210のメモリ212に記憶されるコンピュータプログラムとしては、例えば図5に示すように、アプリケーションプログラム215、プリンタドライバ216、及び、ビデオドライバ217がある。アプリケーションプログラム215は、ホストコンピュータ200に所望の動作を行わせるものである。プリンタドライバ216は、プリンタ100を制御するためのものであり、例えばアプリケーションプログラム215からの画像データに基づいて印刷データを生成し、プリンタ100へ送信する。ビデオドライバ217は、アプリケーションプログラム215やプリンタドライバ216からの表示データを表示装置230に表示させるためのものである。
【0027】
ここで、プリンタドライバ216から送信される印刷データについて説明する。この印刷データは、プリンタ100が解釈できる形式のデータであって、各種のコマンドデータと、ドット形成データとを有する。コマンドデータとは、プリンタ100に特定の動作の実行を指示するためのデータである。このコマンドデータには、例えば、給紙を指示する給紙データ、搬送量を示す搬送量データ、排紙を指示する排紙データがある。また、ドット形成データは、用紙Sの上に形成されるドットに関するデータ(ドットの色や大きさ等のデータ)である。このドット形成データは、単位領域毎に定められた複数のドット階調値によって構成される。単位領域とは、用紙S等の媒体上に仮想的に定められた矩形状の領域を指し、印刷解像度に応じて大きさや形が定められる。例えば、印刷解像度が720dpi(キャリッジ移動方向)×720dpi(搬送方向)の場合、単位領域は、約35.28μm×35.28μm(≒1/720インチ×1/720インチ)の大きさの正方形状の領域になる。ドット階調値は、単位領域に形成されるドットの大きさを示す。この印刷システム10において、ドット階調値は2ビットデータで構成される。このため、1つの単位領域に対して4階調でドットの形成が制御できる。
【0028】
===印刷動作===
<ホストコンピュータ200側の動作>
印刷動作は、例えばユーザーがアプリケーションプログラム215における印刷コマンドを実行することで行われる。アプリケーションプログラム215の印刷コマンドが実行されると、ホスト側コントローラ210は、印刷対象となる画像データを生成する。この画像データは、プリンタドライバ216を実行するホスト側コントローラ210によって、印刷データに変換される。印刷データへの変換は、解像度変換処理、色変換処理、ハーフトーン処理、及び、ラスタライズ処理によってなされる。従って、プリンタドライバ216は、これらの処理を行うためのコードを有する。
【0029】
解像度変換処理は、画像データの解像度を印刷解像度に変換する処理である。なお、印刷解像度とは用紙Sに印刷する際の解像度である。色変換処理は、RGB画像データの各RGB画素データを、CMYK色空間により表される多段階(例えば256段階)の階調値を有するCMYK画素データに変換する処理である。この色変換処理は、RGBの階調値とCMYKの階調値とを対応づけたテーブル(色変換ルックアップテーブルLUT)を参照することでなされる。このプリンタ100は、シアン(C)、ライトシアン(LC)、マゼンタ(M)、ライトマゼンタ(LM)、イエロー(Y)、及び、ブラック(K)の6色のインクを用いて印刷を行う。このため、色変換処理では、これらの色のそれぞれについてデータが生成される。なお、補正値記憶部155に記憶された補正値は、色変換処理で用いられる(後述する)。
【0030】
ハーフトーン処理は、多段階の階調値を有するCMYK画素データを、プリンタ100で表現可能な、少段階の階調値を有するドット階調値に変換する処理である。具体的には、単位領域毎に、「ドットの非形成」、「小ドットの形成」、「中ドットの形成」、「大ドットの形成」の4つの階調値のうち、何れかの階調値が定められる。これらのドットの生成率は、階調値に応じて定められる。例えば、図6に示すように、階調値grが指定された単位領域では、大ドットの形成確率が1d、中ドットの形成確率が2d、小ドットの形成確率が3dとなる。このようなハーフトーン処理には、例えば、ディザ法、γ補正法、誤差拡散法等が用いられる。ラスタライズ処理は、ハーフトーン処理で得られたドット階調値を、プリンタ100に転送すべきデータ順に変更する処理である。これにより、それぞれの色についてドット形成データが生成される。このドット形成データは、前述したコマンドデータとともに印刷データを構成し、プリンタ100へ送信される。
【0031】
<プリンタ100側の動作>
プリンタ100側では、受信した印刷データに基づき、プリンタ側コントローラ150が種々の処理を行う。なお、以下に説明されるプリンタ100側での各処理は、プリンタ側コントローラ150が、メモリ152に記憶されたコンピュータプログラム実行することでなされる。従って、このコンピュータプログラムは、各処理を実行するためのコードを有する。
【0032】
プリンタ側コントローラ150は、図7に示すように、印刷データ中の印刷命令を受信すると(S010)、給紙動作(S020)、ドット形成動作(S030)、搬送動作(S040)、排紙判断(S050)、排紙動作(S060)、及び、印刷終了判断(S070)を行う。給紙動作は、印刷対象となる用紙Sを移動させ、印刷開始位置(所謂頭出し位置)に位置決めする動作である。この給紙動作において、プリンタ側コントローラ150は、搬送モータ115を駆動して給紙ローラ111や搬送ローラ113を回転させる。ドット形成動作は、用紙Sにドットを形成するための動作である。このドット形成動作において、プリンタ側コントローラ150は、キャリッジモータ122を駆動したり、ヘッド131に対して制御信号を出力したりする。搬送動作は、用紙Sを搬送方向へ移動させる動作である。この搬送動作において、プリンタ側コントローラ150は、搬送モータ115を駆動して搬送ローラ113や排紙ローラ114を回転させる。この搬送動作により、先程のドット形成動作によって形成されたドットとは異なる位置にドットを形成することができる。排紙判断は、印刷対象となっている用紙Sに対する排出の要否を判断する動作である。排紙動作は、用紙Sを排出させる処理であり、先程の排紙判断で「排紙する」と判断されたことを条件に行われる。この排紙処理において、プリンタ側コントローラ150は、搬送モータ115を駆動して搬送ローラ113や排紙ローラ114を回転させる。印刷終了判断は、印刷を続行するか否かの判断である。
【0033】
用紙Sへの画像の印刷は、ドット形成動作(S030)と搬送動作(S040)とを繰り返し行うことでなされる。そして、ドット形成処理では、キャリッジ移動方向に沿って移動するヘッド131(ノズルNz)からインクを断続的に吐出させる。すなわち、プリンタ側コントローラ150は、キャリッジモータ122を駆動してキャリッジCRを移動させつつ、印刷データに含まれるドット形成データ(ドット階調値)に基づいてノズルNzからインクを吐出させる。そして、ノズルNzから吐出されたインクが用紙Sに着弾すると、用紙Sの上にはドットが形成される。そして、ヘッド131の移動中にインクが断続的に吐出されるため、ドットは、用紙Sの表面において、キャリッジ移動方向に沿って並んだ状態で形成される。つまり、用紙Sの表面には、キャリッジ移動方向に沿った複数のドットからなるドット列(以下、ラスタラインともいう。)が形成される。そして、ドット形成動作と搬送動作とが繰り返し行われるので、ラスタラインは、搬送方向について複数形成される。以上より、用紙Sに印刷された画像は、搬送方向に隣接した複数のラスタラインによって構成されているといえる。
【0034】
<インターレース印刷>
このプリンタ100では、ヘッド131を移動させつつノズルNzからインクを吐出させることで、画像を印刷している。ところで、ノズルNz等の各部には、加工や組み立てによってばらつきが生じてしまう。このばらつきにより、インクの飛行軌跡や吐出量等の特性(以下、吐出特性ともいう。)もばらついてしまう。このような吐出特性のばらつきを緩和するために、インターレース方式による印刷(以下、インターレース印刷ともいう。)が行われている。インターレース印刷とは、1回のパスで記録されるラスタライン同士の間に、記録されないラスタラインが挟まれるような印刷を意味する。なお、パスとは、1回のドット形成動作を意味し、パスnとはn回目のドット形成動作を意味する。
【0035】
図8に示すインターレース印刷の例では、先端処理部、通常処理部、及び、後端処理部からなる3つの処理部がある。通常処理部は、処理の基準となる通常処理だけでラスタラインが形成される部分である。そして、先端処理部は、通常処理部よりも用紙Sの先端側に定められる部分であって、先端処理と通常処理によってラスタラインが形成される部分である。先端処理では、通常処理では形成できないラスタラインを形成すべく、インクを吐出させるノズルNzや搬送量が定められている。また、後端処理部は、通常処理部よりも用紙Sの後端側に定められる部分であって、通常処理と後端処理でラスタラインが形成される部分である。この後端処理でも、通常処理では形成できないラスタラインを形成すべく、インクを吐出させるノズルNzや搬送量が定められる。そして、通常処理部は、先端処理部と後端処理部に挟まれた中間部分ということもできる。このため、通常処理部は中間処理部に相当し、通常処理は中間処理に相当する。
【0036】
なお、図8の例では、便宜上、ヘッド131が有する複数のノズル列のうちの一つのノズル列のみを示している。そして、1つのノズル列が有するノズルNzの数も少なくしている。また、図8の例では、ヘッド131(ノズル列)が用紙Sに対して移動しているように描かれているが、ヘッド131と用紙Sとの相対的な位置関係を描いたものである。すなわち、実際のプリンタ100では、用紙Sが搬送方向へ移動される。また、各ノズルNzから断続的に吐出されるインクによって、多数のドットが、キャリッジ移動方向に沿って並んだ状態で形成される。この場合において、ドット階調値によっては、ドットが非形成となる場合もある。加えて、黒丸で示されたノズルNzはインクを吐出可能なノズルNzであり、白丸で示されたノズルNzはインクを吐出させないノズルNzである。
【0037】
このインターレース印刷において、最初の5回のパスが先端処理に相当し、最後の5回のパスが後端処理に相当する。そして、途中のパスが通常処理に相当する。通常処理において、各ノズルNzは、用紙Sが搬送方向に一定の搬送量で搬送される毎に、その直前のパスで記録されたラスタラインのすぐ上のラスタラインを記録している。このように搬送量を一定にして記録を行うためには、次の条件を満たすことが求められる。すなわち、(1)インクを吐出可能なノズル数N(整数)は係数kと互いに素の関係にあること、(2)搬送量FはN・D(D:搬送方向の最高解像度での間隔)に設定されることの条件を満たすことが求められる。ここでは、これらの条件を満たすように、N=7、k=4、F=7・Dに定められている(D=720dpi)。そして、通常処理にて形成されるラスタライン群に関し、各ラスタラインを担当するノズルNzの組み合わせには周期性がある。すなわち、同じノズルNzの組み合わせで形成されるラスタラインが、所定ライン数毎に現れる。一方、先端処理では、通常処理の搬送量(7・D)よりも少ない搬送量(1・D又は2・D)で用紙Sが搬送されている。この先端処理では、インクを吐出するノズルNzが一定していない。また、後端処理でも、先端処理と同様に、通常処理の搬送量(7・D)よりも少ない搬送量(1・D又は2・D)で用紙Sが搬送される。なお、先端処理及び後端処理において、ノズルNzの組み合わせは規則性が見出し難くなっている。
【0038】
===補正値===
<印刷画像の濃度ムラ>
このプリンタ100では、前述したように、ドット形成動作と搬送動作とを繰り返して行うことで画像を印刷している。そして、インターレース印刷を行うことで、ノズルNz毎の吐出特性を緩和し、画像の品質を高めている。しかし、近年の高画質化に対する要求は高く、インターレース印刷で得られた画像に対しても、さらなる品質の向上が求められている。ここで、品質低下の原因となる印刷画像の濃度ムラ(バンディング)について説明する。この濃度ムラは、キャリッジ移動方向に対して平行な縞状(便宜上、横縞状ともいう。)に見えている。つまり、用紙Sの搬送方向に生じている濃度ムラである。
【0039】
図9Aの例では、吐出特性が理想的であるため、ノズルNzから吐出されたインクは、用紙S上に仮想的に定められた単位領域に対して位置精度良く着弾する。つまり、単位領域の中心とドットの中心とが揃っている。そして、ラスタラインは、キャリッジ移動方向に並ぶ複数のドットによって構成されている。この例では、印刷された画像について列領域を単位として画像濃度を比較した場合、各列領域での画像濃度は揃っている。ここで、列領域とは、ノズルNzの移動方向(キャリッジ移動方向)に並ぶ複数の単位領域によって構成される領域をいう。例えば印刷解像度が720dpi×720dpiの場合、列領域は、搬送方向に35.28μm(≒1/720インチ)の幅の帯状の領域になる。そして、搬送方向に隣接した複数のラスタラインによって画像が構成されているため、列領域も用紙Sの搬送方向(キャリッジ移動方向と交差する方向)に複数定められる。便宜上、以下の説明では、列領域で分割された個々の画像のことを画像片ともいう。ここで、ラスタラインはインクの着弾によって得られたドットの列である。一方、画像片は印刷された画像を列領域単位で切り出したものである。この点において、ラスタラインと画像片とは相違している。
【0040】
図9Bの例では、第n+1番目の列領域に対応するラスタラインが、吐出特性の影響により、正規の位置よりも第n+2番目の列領域側(図9Bにおいて下側)に寄った位置に形成されている。これに伴い、各画像片の濃度にばらつきが生じている。例えば、第n+1番目の列領域に対応する画像片の濃度は、標準的な列領域(例えば、第n列領域や第n+3列領域)に対応する画像片の濃度よりも淡くなる。また、第n+2番目の列領域に対応する画像片の濃度は、標準的な列領域に対応する画像片の濃度よりも濃くなる。
【0041】
そして、図10に示すように、画像片の濃度のばらつきは、巨視的には横縞状の濃度ムラとして視認される。すなわち、隣り合うラスタライン同士の間隔が相対的に広い部分の画像片は巨視的に薄く見え、ラスタライン同士の間隔が相対的に狭い画像片は巨視的に濃く見えてしまう。この濃度ムラは、印刷画像の画質を低下させる原因となる。なお、この濃度ムラの発生原因は、他のインク色に関しても当てはまることである。そして、前述した6色のインクの中で1色でもばらつきの傾向があれば、多色印刷の画像中には濃度ムラが現れてしまう。
【0042】
<補正値の概要>
このような列領域毎の濃度ムラを補正するため、このプリンタ100では、ラスタラインが形成される列領域毎に補正値が記憶され、印刷画像の濃度を列領域毎に補正することがなされている。例えば、基準よりも濃く視認される傾向がある列領域については、その列領域の画像片が淡く形成されるように設定された補正値が記憶される。一方、基準よりも淡く視認される傾向がある列領域については、その列領域の画像片が濃く形成されるように設定された補正値が記憶される。この補正値は、例えば、プリンタドライバ216に基づく処理で参照される。例えば、ホストコンピュータ200のCPU211は、色変換処理において、多階調のCMYK画素データを補正値に基づいて補正する。そして、補正後のCMYK画素データについてハーフトーン処理を行う。要するに、補正値に基づいて階調値が補正される。これにより、各画像片における濃度ばらつきを抑制するように、インクの吐出量が調整される。なお、図9Bの例において、第n+2番目の列領域に対応する画像片が濃くなる理由は、隣接するラスタライン同士の間隔が正規の間隔よりも狭いためである。具体的には、本来、第n+1番目の列領域内における搬送方向の中央に形成されるべき第n+1番目のラスタラインが、第n+2番目の列領域側に寄っているために、対応する画像片が濃くなっている。このため、画像片を基準に考えると、隣接する列領域に形成されるラスタラインをも考慮する必要がある。
【0043】
列領域毎の補正値は、スキャナ300(図11を参照。)による濃度の測定値に基づいて設定される。例えば、プリンタ製造工場の検査工程において、まず、プリンタ100にテストパターンCP(図16を参照。)を印刷させ、印刷されたテストパターンCPの濃度をスキャナ300で読み取らせる。そして、各画像片に対応する測定値(読み取り濃度)に基づき、列領域毎に補正値を取得する。取得した補正値は、プリンタ側コントローラ150の補正値記憶部155に記憶される。補正値が記憶されたプリンタ100はユーザーの下で使用される。その際、プリンタ100に接続されたホストコンピュータ200(具体的にはプリンタドライバ216を実行しているホスト側コントローラ210)は、補正値記憶部155から読み出した補正値を用い、多階調の画素データを列領域毎に補正する。さらに、ホスト側コントローラ210は、補正された階調値に基づいて印刷データを生成する。この印刷データはプリンタ100に送信される。その結果、プリンタ100で印刷される画像は、横縞状の濃度ムラが低減された高い画質となる。
【0044】
ところで、このプリンタ100は6色のインクを吐出する。そして、これらのインクは、それぞれ対応するノズル列(ブラックインクノズル列Nk〜ライトマゼンタインクノズル列Nlm)から吐出される。このため、補正値を取得するための補正用パターンHP(図16を参照。)もノズル列毎に印刷する必要がある。これは、吐出特性がノズルNz毎に異なるからである。従って、それぞれのプリンタ100で印刷されるテストパターンCPは、6つの補正用パターンHPを有する。ここで、これら6つの補正用パターンHPは、用紙Sの幅方向(キャリッジ移動方向)に横並びに印刷されることが好ましい。仮に、或るノズル列で印刷される補正用パターンHPと他のノズル列で印刷される補正用パターンHPとが、搬送方向における異なる位置に印刷された場合、或る補正用パターンHPが有するN番目の列領域と他の補正用パターンHPが有するN番目の列領域の印刷条件は、厳密には同じではなくなる。この印刷条件の違いが或るノズル列と他のノズル列における補正値のずれの原因となる。また、搬送方向の異なる位置に複数の補正用パターンHPを印刷することになるので、印刷に時間が掛かってしまうという問題もある。前述したように、補正値の設定は工程内で行われる。このため、補正用パターンHPの印刷に時間が掛かってしまうと、製造効率が悪くなってしまう。本実施形態において、それぞれのテストパターンCPは、異なる3種類の指令階調値、言い換えれば、中間調に属する3種類の濃度領域を有する。具体的には、指令階調値77に対応する濃度30%の帯状パターン、指令階調値128に対応する濃度50%の帯状パターン、及び、指令階調値179に対応する濃度70%の帯状パターンを有する(後述する。)。
【0045】
<補正値設定方法の概略>
この場合、複数の濃度領域の測定値を用いて補正値を設定しようとすると、特定の指令階調値用の補正値しか得られない。前述の例では、濃度50%に対応する指令階調値用の補正値(複数の指令階調値における、中間指令階調値用の補正値)しか得られない。簡単に説明すると、或る列領域における目標濃度がその列領域における濃度50%の測定値よりも低い場合には、濃度50%の測定値と濃度30%の測定値から、濃度50%に対応する指令階調値用の補正値が求められる。反対に、或る列領域における目標濃度がその列領域における濃度50%の測定値よりも高い場合には、濃度50%の測定値と濃度70%の測定値とから、濃度50%に対応する指令階調値用の補正値が求められる。
【0046】
しかしながら、1つの指令階調値用の補正値だけでは十分な補正効果が得られ難い。十分な補正効果を得るためには、複数の指令階調値用の補正値を設定することが望ましい。このような事情に鑑み、この実施形態では、複数の濃度について補正値を設定する場合に、次の方法を採っている。
【0047】
まず、複数の指令階調値中の最低指令階調値については、次の方法を採っている。すなわち、(1)複数の指令階調値に基づいて、濃度が異なる複数の領域を有するテストパターンCPを用紙Sに印刷すること、(2)複数の領域のそれぞれについて、及び、用紙Sにおける非印刷領域について濃度を測定し、濃度の測定値を取得すること、(3)複数の指令階調値中の最低指令階調値で印刷された領域について、目標濃度を設定すること、(4)最低指令階調値で印刷された領域の測定値が目標濃度よりも大きい場合に、最低指令階調値で印刷された領域の測定値と非印刷領域の測定値の組を特定し、最低指令階調値で印刷された領域の測定値が目標濃度よりも小さい場合に、最低指令階調値で印刷された領域の測定値と最低指令階調値よりも高い指令階調値で印刷された他の領域の測定値の組を特定すること、(5)特定された測定値の組を参照して、最低指令階調値用の補正値を設定することを行う。
【0048】
また、複数の指令階調値中の中間指令階調値については、次の方法を採っている。すなわち、(1)複数の指令階調値に基づいて、濃度が異なる複数の領域を有するテストパターンCPを用紙Sに印刷すること、(2)複数の領域のそれぞれについて、及び、用紙Sにおける非印刷領域について濃度を測定し、濃度の測定値を取得すること、(3)複数の指令階調値中の中間指令階調値で印刷された領域について、目標濃度を設定すること、(4)中間指令階調値で印刷された領域の前記測定値が目標濃度よりも大きい場合に、中間指令階調値で印刷された領域の測定値と中間指令階調値よりも低い指令階調値で印刷された他の領域の測定値の組を特定し、中間指令階調値で印刷された領域の測定値が目標濃度よりも小さい場合に、中間指令階調値で印刷された領域の測定値と中間指令階調値よりも高い指令階調値で印刷された他の領域の測定値の組を特定すること、(5)特定された測定値の組を参照して、中間指令階調値用の補正値を設定することを行う。
【0049】
さらに、複数の指令階調値中の最高指令階調値については、次の方法を採っている。すなわち、(1)複数の指令階調値に基づいて、濃度が異なる複数の領域を有するテストパターンCPを用紙Sに印刷すること、(2)複数の領域のそれぞれについて、及び、用紙Sにおける非印刷領域について濃度を測定し、濃度の測定値を取得すること、(3)複数の指令階調値中の最高指令階調値で印刷された領域について、目標濃度を設定すること、(4)最高指令階調値で印刷された領域の測定値と目標濃度の大小関係に関わらず、最高指令階調値で印刷された領域の測定値と他の指令階調値で印刷された他の領域の測定値の組を特定すること、(5)特定された測定値の組を参照して、最高指令階調値用の補正値を設定することを行う。
【0050】
このような設定方法を採ることで、最低指令階調値に対しては、測定値の組み合わせに関し、最低指令階調値で印刷された領域の測定値が目標濃度よりも大きい場合に、最低指令階調値で印刷された領域の測定値と非印刷領域の測定値の組が特定される。一方、最低指令階調値で印刷された領域の測定値が目標濃度よりも小さい場合には、最低指令階調値で印刷された領域の測定値と最低指令階調値よりも高い指令階調値で印刷された他の領域の測定値の組が特定される。このように、非印刷領域の測定値を用いているので、測定値の組み合わせに関し、目標濃度と測定値との大小関係に応じて適した組み合わせを特定できる。また、中間指令階調値については、測定値の組み合わせに関し、目標濃度と測定値との大小関係に応じて適した組み合わせが特定できる。さらに、最高指令階調値については、目標濃度と測定値の大小関係に関わらず、所定の組み合わせが特定される。これにより、テストパターンCPにおける濃度のそれぞれについて補正値を設定できる。その結果、印刷画像の画質を向上させることができる。
【0051】
===補正値設定システム20===
補正値の設定について説明するにあたり、まず補正値の設定に用いられる補正値設定システム20を説明する。図11に示すように、補正値設定システム20は、スキャナ300と工程用ホストコンピュータ200´とを有する。
【0052】
<スキャナ300>
スキャナ300は、スキャナ側コントローラ310と、読み取り機構320と、移動機構330とを有する。スキャナ側コントローラ310は、CPU311と、メモリ312と、インタフェース部313とを有する。CPU311はスキャナ300の全体的な制御を行う。このCPU311には、読み取り機構320や移動機構330が通信可能に接続されている。メモリ312は、コンピュータプログラムを記憶するための領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM、ROM等によって構成される。インタフェース部313は、工程用ホストコンピュータ200´との間に介在してデータの受け渡しを行う。この実施形態において、スキャナ300が有するインタフェース部313は、工程用ホストコンピュータ200´が有する第2インタフェース部214に接続されている。
【0053】
図12A,図12Bに示すように、読み取り機構320は、原稿台ガラス321、原稿台カバー322、及び、読み取りキャリッジ323を有する。読み取りキャリッジ323は、原稿台ガラス321を介して原稿(テストパターンCPが印刷された用紙S)の読み取り対象面に対向し、原稿台ガラス321に沿って所定方向に移動される。この読み取りキャリッジ323では、CCDイメージセンサ324によって画像の濃度を測定する。このCCDイメージセンサ324は、読み取りキャリッジ323の移動方向とは交差する方向(この実施形態では直交する方向)に沿って、読み取り幅に対応する複数個配置されたCCDを有する。そして、露光ランプ325からの光を原稿に反射させ、この反射光を複数のミラー326によって導く。そして、レンズ327で集光して各CCDへ入力する。これにより、画像の濃度を示す濃度データが得られる。すなわち、画像の濃度が測定される。
【0054】
移動機構330は、読み取りキャリッジ323を移動させるためのものである。この移動機構330は、支持レール331と、規制レール332と、駆動モータ333と、駆動プーリー334と、アイドラプーリー335と、タイミングベルト336とを有する。支持レール331は、読み取りキャリッジ323を移動可能な状態で支持する。規制レール332は、読み取りキャリッジ323の移動方向を規制する。駆動プーリー334は、駆動モータ333の回転軸に取り付けられる。アイドラプーリー335は、駆動プーリー334とは反対側の端部に配置される。タイミングベルト336は、駆動プーリー334とアイドラプーリー335とに架け渡されるとともに、その一部が読み取りキャリッジ323に固定されている。
【0055】
このような構成のスキャナ300では、読み取りキャリッジ323を原稿台ガラス321(つまり、原稿の読み取り面)に沿って移動させ、CCDイメージセンサ324から出力される電圧を所定の周期で取得する。これにより、1周期の間に読み取りキャリッジ323が移動した距離分の原稿について濃度を測定することができる。
【0056】
<工程用ホストコンピュータ200´>
工程用ホストコンピュータ200´は、印刷システム10が有するホストコンピュータ200と同様に構成される。このため、同じ部分には同じ符号を付し、説明は省略する。工程用ホストコンピュータ200´とホストコンピュータ200の大きな違いは、インストールされているコンピュータプログラムにある。すなわち、工程用ホストコンピュータ200´には、アプリケーションプログラムとして、工程用プログラムがインストールされている。この工程用プログラムは、例えば、補正値の設定対象となるプリンタ100にテストパターンCPを印刷させるための機能、スキャナ300を制御してテストパターンCPにおける濃度の測定値を得るための機能、及び、濃度の測定値から列領域毎の補正値を設定するための機能を工程用ホストコンピュータ200´に実現させるものである。なお、これらの機能については後で説明する。
【0057】
この工程用ホストコンピュータ200´には、プリンタ100を制御するためのプリンタドライバやスキャナ300を制御するためのスキャナドライバもインストールされている。また、図13に示すように、工程用ホストコンピュータ200´のメモリ212は、その一部の領域が濃度データ(測定値)を記憶するためのデータテーブルとして用いられている。また、工程用ホストコンピュータ200´は、得られた補正値を、対象となるプリンタ100の補正値記憶部155に記憶させる。そして、図14に示すように、補正値記憶部155には、先端処理部の補正値を記憶する領域、通常処理部の補正値を記憶する領域、及び、後端処理部の補正値を記憶する領域が設けられている。また、プリンタ100のメモリ152には、補正値記憶部155の他に、先端処理部の列領域数を記憶する領域、通常処理部の列領域数を記憶する領域、及び、後端処理部の列領域数を記憶する領域も設けられている。
【0058】
===プリンタ製造工場での処理===
<テストパターンCPの印刷>
次に、プリンタ製造工場で行われる処理について説明する。なお、以下に説明する補正値設定処理は、工程用ホストコンピュータ200´にインストールされたコンピュータプログラム、すなわち、補正値設定用プログラム、スキャナドライバ、及び、プリンタドライバによって実現される。従って、これらのコンピュータプログラムは、補正値設定処理を行うためのコードを有する。
【0059】
補正値設定処理に先立って、工場の作業者は、補正値の設定対象となるプリンタ100を工程用ホストコンピュータ200´に接続する。工程用ホストコンピュータ200´にインストールされている補正値設定用プログラムは、補正値の設定処理及び関連する処理をCPU212に行わせる。この処理としては、例えば、テストパターンCPをプリンタ100に印刷させるための処理、スキャナ300から取得した濃度データに対し、画像処理や解析等を行わせる処理、設定した補正値をプリンタ100の補正値記憶部155に記憶させるための処理が含まれる。
【0060】
プリンタ100が接続された後、図15Aに示すように、テストパターンCPの印刷が行われる(S100)。この印刷ステップは作業者の指示によって行われる。この印刷ステップにおいて、工程用ホストコンピュータ200´のCPU212は、テストパターンCP用の印刷データを生成する。CPU212が生成した印刷データはプリンタ100へ送信される。そして、工程用ホストコンピュータ200´からの印刷データに基づき、プリンタ100は、用紙SにテストパターンCPを印刷する。この印刷動作は、前述した処理に則って行われる(図7を参照。)。簡単に説明すると、ドット形成動作(S030)と搬送動作(S040)とを、印刷データに応じて繰り返して行うことにより行われる。すなわち、ドット形成動作では、ヘッド131をキャリッジ移動方向へ移動させながら用紙Sに向けてインクを吐出させる。そして、搬送動作では、用紙Sを搬送方向に搬送する。この段階において、補正値記憶部155には、補正値が記憶されていない。このため、印刷されるテストパターンCPは、ノズルNz毎の吐出特性が反映されたものとなる。
【0061】
<テストパターンCP>
次に、印刷されたテストパターンCPについて説明する。なお、テストパターンCPは、複数の補正用パターンHPによって構成されている。1つの補正用パターンHPは、同じ種類のインクを吐出可能なノズル列(ノズル群)で描かれた部分であり、サブパターンに相当する。この補正用パターンHPは、濃度のばらつきの評価を行うために用いられる。前述したように、このプリンタ100のヘッド131は、ブラックインクノズル列Nk、イエローインクノズル列Ny、シアンインクノズル列Nc、マゼンタインクノズル列Nm、ライトシアンインクノズル列Nlc、及び、ライトマゼンタインクノズル列Nlmからなる6つのノズル列を有する。従って、図16に示すように、テストパターンCPは、それぞれのノズル列に対応する6つの補正用パターンHP(Y)〜HP(K)を有する。そして、これらの補正用パターンHP(Y)〜HP(K)は、キャリッジ移動方向に並んだ状態で配置(印刷)されている。
【0062】
図16及び図17に示すように、各補正用パターンHP(Y)〜HP(K)は、複数種類の帯状パターンBD(30)〜BD(70)と、上罫線ULと、下罫線DLと、左罫線LLと、右罫線RLによって構成されている。帯状パターンBD(30)〜BD(70)は、異なる指令階調値で印刷された領域に相当し、搬送方向に長い帯状をしている。従って、テストパターンCPは、異なる指令階調値で印刷された複数の帯状パターンBD(30)〜BD(70)の組(つまり領域の組)を、ノズル列に対応する複数有しているといえる。
【0063】
例えば、イエローインクノズル列Nyで印刷された補正用パターン(Y)は、濃度30%に対応する指令階調値77で印刷された帯状パターンBD(Y30)と、濃度50%に対応する指令階調値128で印刷された帯状パターンBD(Y50)と、濃度70%に対応する指令階調値179で印刷された帯状パターンBD(Y70)とを有している。便宜上、以下の説明では、担当するノズル列を特定せずに補正用パターンHPの説明をする場合、単に補正用パターンHPと示す。同様に、担当するノズル列を特定せずに各帯状パターンの説明をする場合、濃度30%のものについては帯状パターンBD(30)、濃度50%のものについては帯状パターンBD(50)、濃度70%のものについては帯状パターンBD(70)のように示す。
【0064】
これらの帯状パターンBD(30)〜BD(70)は、キャリッジ移動方向に並んだ状態で配置されている。そして、右側に位置する程に大きい指令階調値で印刷されている。そして、濃度30%(指令階調値77)で印刷された帯状パターンBD(30)は、最低濃度領域に相当し、濃度50%(指令階調値128)で印刷された帯状パターンBD(50)は、中間濃度領域に相当する。また、濃度70%(指令階調値179)で印刷された帯状パターンBD(70)は、最高濃度領域に相当する。また、これらの帯状パターンBD(30)〜BD(70)は、互いに隣接した状態で印刷されている。
【0065】
また、各補正用パターンHPのそれぞれに対応して、搬送方向の上流側の端部には上罫線ULがキャリッジ移動方向に沿って印刷され、搬送方向の下流側の端部には下罫線DLがキャリッジ移動方向に沿って印刷されている。これらの上罫線UL及び下罫線DLは、対応する補正用パターンHPの範囲を検出する等のために印刷される。これらの上罫線UL及び下罫線DLが印刷されることにより、これらの上罫線UL及び下罫線DLで挟まれた領域が生じる。この領域には帯状パターンBD(30)〜BD(70)を印刷できないが、この補正値設定システム20では、対になる上罫線UL及び下罫線DLで挟まれた非印刷領域を、用紙Sの地色の濃度を測定するための領域として用いている。これにより、用紙Sの限られた面積を有効に活用している。便宜上、以下の説明では、帯状パターンBD(30)に隣接する非印刷領域のことを非印刷領域BD(0)ともいう。
【0066】
なお、この実施形態では、工程内においてそれぞれのノズル列から同じ色のインク(以下、工程用インクともいう。)を吐出させる。この工程用インクは、例えば、ライトマゼンタに着色されている。用紙Sに印刷される各補正用パターンHP(Y)〜HP(K)は、同じ色で印刷されていても、ノズル列を構成する各ノズルNzの特性によって、濃度にムラが生じる。この濃度ムラを軽減するように補正値を設定することで、ユーザーの下で多色印刷する際の濃度ムラを軽減できる。また、以下の説明では、便宜上、濃度30%に対応する指令階調値77を符号Sa、濃度50%に対応する指令階調値128を符号Sb、及び、濃度70%に対応する指令階調値179を符号Scのようにも表す。
【0067】
前述したように、画像の印刷時においては、先端処理、通常処理及び後端処理が行われる。そして、各補正用パターンHPも先端処理、通常処理及び後端処理によって印刷される。すなわち、各補正用パターンHPは、先端処理部、通常処理部(中間処理部に相当する。)、及び、後端処理部を有する。なお、ユーザーの下で行われる画像の印刷において、通常処理部を構成するラスタラインは、例えばA4サイズの場合、数千本程度となる。しかし、通常処理部の各ラスタラインを担当するノズルNzの組み合わせには周期性があるため、全てを印刷する必要はない。そこで、本実施形態では、各補正用パターンHPにおける通常処理部の搬送方向の長さを、複数周期に対応するラスタラインが含まれる程度にしている。例えば、8周期分に対応する長さにしている。また、この補正用パターンHPでは、図17に示すように、上罫線ULを帯状パターンBD(30)〜BD(70)における1番目の列領域によって形成している。同様に、下罫線DLについては帯状パターンBD(30)〜BD(70)における最終番目の列領域によって形成している。
【0068】
<スキャナ300の初期設定>
テストパターンCPが印刷されたならば、補正値を設定してプリンタ100に記憶させる処理が行われる(S200)。以下、この処理について説明する。図15Bに示すように、この処理では、まずスキャナ300の初期設定が行われる(S210)。この初期設定では、例えば、スキャナ300の読み取り解像度や原稿の種類等の必要項目が設定される。ここで、スキャナ300の読み取り解像度は、印刷解像度よりも高いことが求められる。好ましくは、印刷解像度の整数倍に定められる。この実施形態では、テストパターンCPの印刷解像度が720dpiであるため、スキャナ300の読み取り解像度は、その4倍の2880dpiに定められる。また、原稿の種類は反射原稿、イメージタイプは8bitのグレースケール、保存形式はビットマップである。
【0069】
<テストパターンCPの読み取り>
スキャナ300の初期設定が行われたならば、テストパターンCPの読み取りが行われる(S215)。このステップにおいて、スキャナ300は、スキャナ側コントローラ310が読み取り機構320及び移動機構330を制御し、用紙Sの全体の濃度データを取得する。ここでは、非印刷領域BD(0)、及び、帯状パターンBD(30)〜BD(70)について、その長手方向に沿って濃度データを取得する。そして、スキャナ300は、取得した濃度データを工程用ホストコンピュータ200´へ出力する。なお、このようにして取得された濃度データは、画素(ここでは、読み取り解像度で規定される大きさの領域)毎に濃度を表すデータとなり、画像を構成する。このため、以下の説明では、スキャナ300によって取得されたデータを、画像データともいう。そして、この画像データを構成する画素毎の濃度データを画素濃度データともいう。この画素濃度データは、濃度を示す階調値によって構成される。
【0070】
スキャナ300からの画像データを受け取ると、工程用ホストコンピュータ200´が有するホスト側コントローラ210は、受け取った画像データから、各補正用パターンHPに対応する所定範囲の画像データを切り出す。この所定範囲は、各補正用パターンHPよりも一回り大きい矩形状の範囲として定められる。本実施形態では、6種類の補正用パターンHPのそれぞれに対応して6つの画像データが切り出される。例えば、イエローインクを吐出するノズル列で描かれた補正用パターンHP(Y)については、図16に符号Xaで示す範囲の画像データが切り出される。
【0071】
<補正用パターンHP毎の傾き補正>
次に、ホスト側コントローラ210は、画像データに含まれる補正用パターンHPの傾きを検出し(S220)、この傾きに応じた回転処理を画像データに対して行う(S225)。例えば、ホスト側コントローラ210は、上罫線ULの画像濃度を、用紙Sの幅方向の位置を異ならせて複数箇所で取得し、これらの画像濃度に基づいて補正用パターンHPの傾きを検出する。そして、検出した傾きに基づいて、画像データの回転処理を行う。
【0072】
<補正用パターンHPのトリミング>
次に、ホスト側コントローラ210は、それぞれの補正用パターンHPの画像データから横罫線(上罫線UL,下罫線DL)を検出し(S230)、トリミングを行う(S235)。まず、ホスト側コントローラ210は、回転処理された画像データの中から所定範囲の画素について画素濃度データを取得する。そして、画像濃度に基づいて上罫線ULを認識し、この上罫線ULよりも上の部分をトリミングよって除去する。同様に、画像濃度に基づいて下罫線DLを認識し、この下罫線DLよりも下の部分をトリミングによって除去する。
【0073】
<解像度変換>
トリミングを行ったならば、ホスト側コントローラ210は、トリミングされた画像データの解像度を変換する(S240)。この処理では、画像データにおけるY軸方向(搬送方向,列領域の配列方向)の画素数が、補正用パターンHPを構成するラスタラインの数と同じになるように、画像データの解像度が変換される。仮に、解像度720dpiで印刷された補正用パターンHPが解像度2880dpiで読み取られたとする。この場合、理想的には、画像データにおけるY軸方向の画素数は、補正用パターンHPを構成するラスタラインの数の4倍となる。しかし、実際には印刷時や読み取り時における誤差等の影響により、ラスタラインの数と画素数とが整合しない場合がある。解像度変換は、このような不整合を解消すべく、画像データに対して行われる。この解像度変換処理では、補正用パターンHPを構成するラスタラインの数とトリミング後の画像データのY軸方向の画素数の比率に基づいて、変換倍率を算出する。そして、算出した倍率で解像度変換処理を行う。解像度変換にはバイキュービック法など種々の方法を用いることができる。その結果、Y軸方向に並ぶ画素の数と列領域の数とが等しくなり、X軸方向に並ぶ画素の列と列領域とが一対一に対応する。
【0074】
<列領域毎の濃度取得>
次に、ホスト側コントローラ210は、補正用パターンHPにおける列領域毎の濃度を取得する(S245)。列領域毎の濃度を取得するにあたり、ホスト側コントローラ210は、基準となる縦罫線(この例では左罫線LL)の重心位置を取得し、この罫線の重心位置を基準にして各帯状パターンBD(30)〜BD(70)を構成する画素を特定する。また、非印刷領域BD(0)の範囲を特定する。そして、特定した画素について画素濃度データを取得し、非印刷領域BD(0)の範囲について用紙Sの地色の濃度データを取得する。例えば、濃度30%で印刷された帯状パターンBD(30)については、図17に示すように、符号W1で示す両端部分を除いた中央範囲W2に属する各画素について、画素濃度データを取得する。そして、取得した各画素濃度データから得られた平均値を、1番目の列領域に対する濃度30%の測定値とする。他の列領域、他の帯状パターンBD(50),BD(70)、及び、非印刷領域BD(0)についても、同様にして測定値が取得される。そして、取得された測定値については、ホスト側コントローラ210が有するメモリ212のデータテーブル(図13を参照。)に記憶される。すなわち、測定値は、ノズル列の種類、パターンの印刷濃度(指令階調値)、列領域の番号によって特定される領域に記憶される。なお、図13における濃度0〜濃度3は非印刷領域BD(0),各帯状パターンBD(30)〜BD(70)の測定値を意味している。例えば、濃度0は非印刷領域BD(指令階調値0,用紙Sの地色)の測定値であり、濃度1は濃度30%(指令階調値Sa)の測定値であり、濃度2は濃度50%(指令階調値Sb)の測定値であり、濃度3は濃度70%(指令階調値Sc)の測定値である。そして、このデータテーブルに記憶された測定値を縦軸に定め、列領域の位置を横軸に定めてプロットすると、例えば図18のグラフが得られる。
【0075】
<補正値設定の詳細>
列領域毎の測定値を取得したならば、ホスト側コントローラ210は、列領域毎に補正値を設定する(S250)。前述したように、1つの帯状パターンは、同じ指令階調値によって印刷されている。しかし、得られた列領域毎の測定値にはばらつきが生じている。このばらつきが印刷画像における濃度ムラの原因となっている。この濃度ムラをなくすためには、各帯状パターンBDに関し、列領域毎の測定値をできるだけ揃えることが求められる。このような観点から、補正値は、列領域毎の測定値に基づき、列領域毎に設定される。前述したように、テストパターンCPは、ノズル列の種類毎に印刷された複数の補正用パターンHP(Y)〜HP(K)を有し、各補正用パターンHP(Y)〜HP(K)は、異なる指令階調値で印刷された帯状パターンBD(30)〜BD(70)を有する。そして、それぞれの帯状パターンBD(30)〜BD(70)は、複数の列領域を有する。すなわち、列領域は、帯状パターンBD(所定の指令階調値で印刷された領域)内に、搬送方向に並んだ状態で複数定められている。従って、補正値は、異なる色毎、異なる指令階調値毎(濃度毎)、及び、列領域毎に設定される。以下、補正値の設定について詳しく説明する。
【0076】
<濃度30%(指令階調値77)用の補正値の設定>
まず、濃度30%(指令階調値77(=Sa))用の補正値の設定について説明する。指令階調値Saは、補正値の設定対象となる複数の指令階調値中の最低指令階調値に相当する。まず、ホスト側コントローラ210は、補正値の設定対象となる指令階調値Saについて目標濃度を定める。本実施形態では、設定対象となる指令階調値Saの目標濃度として、帯状パターンBD(30)が有する各列領域の測定値の平均値が設定される。すなわち、1番目の列領域から最終番目の列領域までの各測定値を加算し、その加算値を列領域の数で除算した値が目標濃度として設定される。図18の例では、符号Catで示す値が目標濃度として設定される。そして、ある列領域の補正値は、目標濃度との差に応じて定められる。このようにして列領域毎の補正値を設定することで、それぞれの補正値はより適したものとなる。これは、各列領域の画像濃度が、目標濃度としての平均濃度に揃えられるためである。この点に関しては、他の濃度(濃度50%,濃度70%)についても同様である。
【0077】
次に、ホスト側コントローラ210は、補正値の設定対象となる指令階調値に対応する濃度よりも低い低側濃度の測定値と、対応する濃度よりも高い高側濃度の測定値とを選択する。この実施形態では、補正値の設定対象が指令階調値Saであるため、低側濃度としては、対応する濃度30%よりも低い濃度0%が選択され、非印刷領域BD(0)の測定値が取得される。一方、高側濃度としては、対応する濃度30%よりも高い濃度50%が選択され、帯状パターンBD(50)の測定値が取得される。
【0078】
なお、低側濃度や高側濃度において、測定値の取得対象となる列領域は、補正値の設定対象の列領域と同じ位置のものとされる。例えば、帯状パターンBD(30)における10番目の列領域について補正値を設定する場合には、非印刷領域BD(0)における10番目の列領域の測定値と、帯状パターンBD(50)における10番目の列領域の測定値とが取得される。
【0079】
ここで、非印刷領域BD(0)に関し、1番目の列領域に対応する部分には上罫線ULが印刷されている。同様に、最終番目の列領域に対応する部分には下罫線DLが印刷されている。このため、この補正値設定システム20では、1番目の列領域に対応する部分、及び、最終番目の列領域に対応する部分に対しては、補正をしないようにしている。
【0080】
低側濃度及び高側濃度の測定値を取得したならば、ホスト側コントローラ210は、補正値の設定対象となる濃度30%の列領域に対応する測定値と、目標濃度Catの大小関係に応じて、参照すべき測定値の組を特定する。ここでは、目標濃度が、設定対象となる列領域の測定値と他の濃度の測定値の範囲に入るよう、参照すべき測定値の組を特定する。すなわち、設定対象となる列領域の測定値が目標濃度よりも高い場合には、設定対象となる列領域の測定値と低側濃度の測定値の組を、参照すべき測定値の組として特定する。反対に、設定対象となる列領域の測定値が目標濃度よりも低い場合には、設定対象となる列領域の測定値と高側濃度の測定値の組を、参照すべき測定値の組として特定する。
【0081】
例えば、図18のグラフ中、符号LAnで示す或る列領域において、濃度0%における列領域の測定結果がB1、濃度30%における列領域の測定結果がX1、濃度50%における列領域の測定結果がY1、濃度70%における列領域の測定結果がZ1である。ここで、濃度30%の測定結果X1は、グラフにおいて目標濃度Catよりも下側にプロットされている。そして、このグラフの縦軸は、上側ほど低濃度、下側ほど高濃度となっている。従って、濃度30%における列領域LAnの測定結果X1は、目標濃度Catよりも高い。このため、ホスト側コントローラ210は、濃度30%の列領域に対応する測定値と、濃度0%の列領域に対応する測定値とを、参照すべき測定値の組として特定する。また、符号LAmで示す或る列領域にて、濃度0%における列領域の測定結果がB2、濃度30%における列領域の測定結果がX2、濃度50%における列領域の測定結果がY2、濃度70%における列領域の測定結果がZ2である。この場合、濃度30%における列領域LAmの濃度は、目標濃度Catよりも低い。このため、ホスト側コントローラ210は、濃度30%の列領域に対応する測定値と、濃度50%の列領域に対応する測定値とを、参照すべき測定値の組として特定する。
【0082】
参照すべき測定値の組を特定したならば、ホスト側コントローラ210は、対象となる列領域の補正値を設定する。補正値の設定は、測定値と指令階調値に基づく一次補間によって行う。列領域LAnの場合には、図19に示すように、濃度30%の列領域LAnの測定結果X1と濃度0%の列領域LAnの測定結果B1の組が用いられる。そして、測定結果X1における指令階調値Sa及び測定値Ca1と、測定結果B1における指令階調値[0]及び測定値Cd1とに基づいて、補正値が設定される。具体的には、ホスト側コントローラ210は、次式(1)に示す一次補間を行って、目標濃度に対応する指令階調値Sat1を算出し、次式(2)に示す演算を行って補正値Ha1を設定する。
Sat1=Sa×{(Cat−Cd1)/(Ca1−Cd1)} …(1)
Ha1=(Sat1−Sa)/Sa …(2)
【0083】
列領域LAmの場合には、図20に示すように、30%の列領域LAmの測定結果X2と50%の列領域LAmの測定結果Y2の組が用いられる。そして、測定結果X2における指令階調値Sa及び測定値Ca2と、測定結果Y2における指令階調値Sb及び測定値Cb2とに基づいて、補正値が設定される。具体的には、ホスト側コントローラ210は、次式(3)に示す一次補間を行って、目標濃度に対応する指令階調値Sat2を算出し、次式(4)に示す演算を行って補正値Ha2を設定する。
Sat2=Sa+
(Sb−Sa)×{(Cat−Ca2)/(Cb2−Ca2)} …(3)
Ha2=(Sat2−Sa)/Sa …(4)
【0084】
ホスト側コントローラ210は、上記の演算を列領域毎に行って、指令階調値Sa(濃度30%)用の補正値Haを、それぞれの列領域ついて設定する。このようにして設定された補正値Haについては、一旦ホスト側コントローラ210のメモリ212(例えば、ワークメモリ)に記憶される。その後、プリンタ100が有する補正値記憶部155に記憶される。ここで、式(2)で求めた補正値Ha1や式(4)で求めた補正値Ha2は、係数1.00に対する差分で表される。本実施形態では、ユーザーの下での処理を簡素化するため、補正値記憶部155には係数1.00を加味した補正値を記憶させる。例えば、補正値Ha1が値[−0.03]であった場合、記憶させる補正値は値[0.97]となる。
【0085】
このように、最低指令階調値で印刷された濃度30%の帯状パターンBD(30)については、その列領域の測定値が目標濃度Catよりも高かった場合、濃度30%の列領域の測定値と濃度0%の列領域の測定値の組を用いて補正値が設定される。また、濃度30%の列領域の測定値が目標濃度Catよりも低かった場合、濃度30%の列領域の測定値と濃度50%の列領域の測定値の組を用いて補正値が設定される。このようにすると、一方の測定値と他方の測定値で定められる範囲内に、目標濃度Catが属する。従って、濃度30%の列領域の補正値を設定するに際し、この列領域の測定値と目標濃度Catの大小関係に応じて、適した方の組が用いられる。その結果、設定される補正値をより適したものにできる。図19の例では、測定結果B1と測定結果X1とを通る直線の傾きと、測定結果X1と測定結果Y1とを通る直線の傾きとが異なっているが、対応する側の直線で一次補間できる。加えて、濃度0%について、非印刷領域BD(0)の測定値、言い換えれば用紙Sの地色の濃度を用いているので、その分精度良く補正値を設定することができる。
【0086】
また、本実施形態では、補正値の設定に際し、特定された測定値の組と、対応する指令階調値とを参照して、目標濃度に対応する指令階調値を求めている。そして、求めた指令階調値を用いて濃度30%に対応する最低指令階調値用の補正値を設定している。このように、指令階調値と測定値及び目標濃度とによる相関関係を用いているので、一次補間等の単純な演算で補正値が設定できる。その結果、処理の高速化が図れる。なお、この点については、他の濃度、すなわち濃度50%(指令階調値128)や濃度70%(指令階調値179)においても同様である。
【0087】
<濃度50%(指令階調値128)用の補正値の設定>
次に、濃度50%(指令階調値128(=Sb))用の補正値の設定について説明する。指令階調値Sbは、補正値の設定対象となる複数の指令階調値中の中間指令階調値に相当する。この場合も、ホスト側コントローラ210は、補正値の設定対象となる濃度(つまり、指令階調値Sbに対応する濃度)について目標濃度を定める。目標濃度は濃度30%の場合と同様な手順でなされる。
【0088】
まず、帯状パターンBD(50)が有する各列領域の測定値の平均値(図18における号Cbtの値)が目標濃度として設定される。
【0089】
次に、ホスト側コントローラ210は、補正値の設定対象となる濃度よりも低い低側濃度の測定値と、この濃度よりも高い高側濃度の測定値とを選択する。この実施形態では、補正値の設定対象が指令階調値Sbであるため、低側濃度としては、濃度30%の帯状パターンBD(30)を構成する列領域の測定値が選択される。同様に、高側濃度としては、濃度70%の帯状パターンBD(70)を構成する列領域の測定値が選択される。
【0090】
低側濃度及び高側濃度の測定値を選択したならば、ホスト側コントローラ210は、補正値の設定対象となる濃度50%の列領域に対応する測定値と、目標濃度Cbtの大小関係に応じて、参照すべき測定値の組を特定する。ここでは、目標濃度Cbtが、設定対象となる列領域の測定値と他の濃度の測定値の範囲に入るよう、参照すべき測定値の組を特定する。すなわち、設定対象となる列領域の測定値が目標濃度Cbtよりも高い場合には、濃度50%の測定値と濃度30%の測定値の組を、参照すべき測定値の組として特定する。反対に、設定対象となる列領域の測定値が目標濃度Cbtよりも低い場合には、濃度50%の測定値と濃度70%の測定値の組を、参照すべき測定値の組として特定する。この点は、濃度30%の場合と同様である。
【0091】
参照すべき測定値の組を特定したならば、ホスト側コントローラ210は、対象となる列領域の補正値Hb(Hb1,Hb2)を設定する。補正値Hbの設定は、測定値と指令階調値に基づく一次補間によって行われる。例えば、列領域LAnの場合には、図19に示すように、50%の列領域LAnの測定結果Y1と30%の列領域LAnの測定結果X1の組が用いられる。そして、測定結果Y1における指令階調値Sb及び測定値Cb1と、測定結果X1における指令階調値Sa及び測定値Ca1とに基づいて、補正値Hb1が設定される。なお、この演算は濃度30%の場合と同様である。このため、説明は省略する。
【0092】
このように、中間濃度である濃度50%の補正値Hbの設定に際しては、その列領域の測定値が目標濃度Cbtよりも高い場合、及び、目標濃度Cbtよりも低い場合の何れにおいても、帯状パターンBD(30)〜BD(70)の測定値が用いられる。このため、補正値を精度良く設定することができる。
【0093】
<濃度70%(指令階調値179)における補正値の設定>
次に、濃度70%(指令階調値179(=Sc))用の補正値の設定について説明する。この指令階調値Scは、補正値の設定対象となる複数の指令階調値中の最高指令階調値に相当する。この場合も、補正値の設定対象となる濃度(つまり、指令階調値Scに対応する濃度)について目標濃度を定める。目標濃度の設定方法は、指令階調値Sb,Saでの方法と同様である。図18の例では、符号Cctで示す値が目標濃度として設定される。
【0094】
次に、ホスト側コントローラ210は、一次補間に用いる測定値の組を特定する。ここで、補正値の設定対象となる濃度が70%であり、補正用パターンHPにおける最高濃度となっている。このため、濃度70%よりも高い濃度の測定値は存在しない。そこで、ホスト側コントローラ210は、2番目に高い濃度の測定値を特定する。その結果、濃度70%の列領域の測定値と濃度50%の列領域の測定値が、一次補間に用いる測定値の組として特定される。すなわち、これらの測定値は、濃度70%における測定値と目標濃度Cctの大小関係に関わらず特定される。
【0095】
参照すべき測定値の組を特定したならば、ホスト側コントローラ210は、対象となる列領域の補正値を設定する。補正値の設定は、前述したように、測定値と指令階調値に基づく一次補間によって行う。そして、列領域LAnの場合には、図19や図20に示すように、濃度70%の列領域LAnの測定結果Z1の組と濃度50%の列領域LAnの測定結果Y1が用いられる。ここで、列領域LAnでは、図19に示すように、目標濃度Cctが濃度70%の測定値よりも低い。この場合、ホスト側コントローラ210は、次式(5)に示す一次補間を行って、目標濃度Cctに対応する指令階調値Sct1を算出し、次式(6)に示す演算を行って補正値Hc1を設定する。
Sct1=Sb+
(Sc−Sb)×{(Cct−Cb1)/(Cc1−Cb1)} …(5)
Hc1=(Sct1−Sc)/Sc …(6)
【0096】
列領域LAmの場合には、図20に示すように、目標濃度Cctが濃度70%の測定値よりも高い。この場合、ホスト側コントローラ210は、次式(7)に示す一次補間を行って、目標濃度Cctに対応する指令階調値Sct2を算出し、次式(8)に示す演算を行って補正値Hc2を設定する。
Sct2=Sc+
(Sc−Sb)×{(Cct−Cc2)/(Cc2−Cb2)} …(7)
Hc2=(Sct2−Sc)/Sc …(8)
【0097】
ホスト側コントローラ210は、上記の演算を列領域毎に行って、濃度70%(指令階調値Sc)に対する補正値Hcを、それぞれの列領域ついて設定する。このようにして設定された補正値Hcについては、補正値Hb,Haと同様な手順で、プリンタ100が有する補正値記憶部155に記憶される。
【0098】
このように、最高指令階調値に対応する濃度70%の帯状パターンBD(70)については、その列領域の測定値が目標濃度Cctよりも高かった場合、濃度70%の列領域の測定値と濃度50%の列領域の測定値の組を用いて補正値Hcが設定される。そして、濃度70%の列領域の測定値が目標濃度Cctよりも低かった場合も、濃度70%の列領域の測定値と濃度50%の列領域の測定値の組を用いて補正値Hcが設定される。すなわち、濃度70%の列領域の補正値Hcを設定するに際し、この列領域の測定値と目標濃度Cctの大小関係に関わらず、最高濃度の測定値と2番目に高い濃度の測定値の組が用いられる。すなわち、1組の測定値で濃度70%用の補正値Hcが設定される。
【0099】
<補正値の記憶>
補正値を設定したならば、ホスト側コントローラ210は、設定した補正値をプリンタ側コントローラ150のメモリ152(補正値記憶部155,図14を参照。)へ記憶させる(S255)。この場合、ホスト側コントローラ210は、プリンタ100と通信をして、補正値を記憶できる状態にする。そして、ホスト側コントローラ210は、そのメモリ212に記憶されている補正値を転送し、プリンタ側コントローラ150のメモリ212へ記憶させる。図14に示すように、補正値記憶部155には、先端処理用補正値の記憶領域、通常処理用補正値の記憶領域、後端処理用補正値の記憶領域が設けられている。また、これらの記憶領域は、列領域に対応して複数設けられている。なお、通常処理部の記憶領域は、繰り返し周期の1つ分に対応する数となっている。そして、この補正値設定システム20では、帯状パターンBD(30)〜BD(70)の測定値に基づいて設定された最低指令階調値Sa用の補正値、中間指令階調値Sb用の補正値、及び、最高指令階調値Sc用の補正値が記憶される。
【0100】
===ユーザーによる印刷===
前述した手順により、補正値記憶部155に補正値が記憶されたプリンタ100は、他の検査が行われ、工場から出荷される。このプリンタ100を購入したユーザーは、例えば図1に示すように、所有するホストコンピュータ200にプリンタ100を接続する。そして、電源が投入されると、プリンタ100は、ホストコンピュータ200から印刷データが送られてくるのを待つ。ホストコンピュータ200から印刷データが送られると、印刷動作を行う。ここでの印刷動作は前述した通りである。すなわち、ホストコンピュータ200は、色変換処理にて補正値を参照し、その列領域における画像の濃度(指令階調値)を、対応する補正値によって補正する。そして、ホストコンピュータ200は、補正された画像濃度でハーフトーン処理等を行い、印刷データを得る。プリンタ100は、この印刷データに基づいて印刷を行う。
【0101】
ホストコンピュータ200での濃度補正により、濃く視認されやすい列領域に対しては、その列領域に対応する単位領域の画素データ(CMYKデータ)の階調値が低くなるように補正される。逆に、淡く視認されやすい列領域に対しては、その列領域に対応する単位領域の画素データの階調値が高くなるように補正される。このようにして生成された印刷データをプリンタ100へ出力することにより、プリンタ100による印刷画像は、各列領域に対応する画像片の濃度が補正されて、画像全体の濃度ムラが抑制される。
【0102】
===その他の実施形態===
上記の各実施形態は、主としてプリンタ100を有する補正値設定システム20について記載されているが、その中には、補正値設定方法や補正値設定装置の開示も含まれている。また、上記の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に、本発明にはその等価物が含まれることはい言うまでもない。特に、以下に述べる実施形態であっても、本発明に含まれるものである。
【0103】
<テストパターンCPについて>
前述した各実施形態では、ノズル列毎の補正用パターンHPに関し、最低指令階調値(濃度30%)、中間指令階調値(濃度50%)、及び、最高指令階調値(濃度70%)で印刷された異なる濃度の帯状パターンを3種類有していた。各補正用パターンHPが有する帯状パターンに関し、これらの3種類に限定されるものではなく、適宜定めることができる。
【0104】
例えば、濃度20%、濃度40%、濃度60%、及び、濃度80%の各濃度に対応する指令階調値で印刷された4種類の帯状パターンであってもよい。この場合、濃度20%の領域が最低指令階調値で印刷された領域に、濃度40%と濃度60%が中間指令階調値で印刷された領域に、濃度80%が最高指令階調値で印刷された領域にそれぞれ対応する。
【0105】
また、濃度30%から濃度70%の範囲で濃度を10%ずつ変化させた5種類の帯状パターンBDを印刷してもよい。
【0106】
なお、これらのテストパターンCPでは、互いに隣り合わない濃度に対応する測定値の組を選択することもできる。この点に関し、前述した各実施形態のように、テストパターンCPにおいて隣り合う濃度に対応する測定値の組を選択することで、設定される補正値をより適したものにできると考えられる。これは、補正値の設定対象となる濃度に近い濃度を選択した方が、特性を忠実に反映していると考えられるからである。
【0107】
<印刷システム10について>
印刷システム10に関し、前述の実施形態では、印刷装置としてのプリンタ100と、印刷制御装置としてのコンピュータとが別々に構成されているものについて説明したが、この構成に限定されない。印刷システム10は、印刷装置と印刷制御装置とが一体になっているものであっても良い。また、スキャナ300が一体になっているプリンタ・スキャナ複合装置であってもよい。この複合装置であれば、ユーザーの下で補正値を再度設定することも容易である。すなわち、補正値設定システム20を簡単に構築できる。
【0108】
<補正値の再設定について>
以上は、工程内における補正値の設定について説明した。すなわち、製造時における補正値の設定について説明した。この点に関し、出荷後において補正値を再設定するようにしてもよい。
【0109】
<インクについて>
前述の実施形態は、6色のインクをヘッド131から吐出させるものであった。しかし、吐出させるインクの種類は、これら6色に限定されるものではない。色の種類が異なっていてもよいし、色数が増えてもよい。例えば、レッドインク、バイオレットインク、グレーインクが含まれていてもよい。
【0110】
<印刷方式について>
前述した実施形態では、印刷方式としてインターレース方式を例示したが、これに限定されるものではない。例えば、オーバーラップ方式であっても良い。このオーバーラップ方式とは、1つのラスタラインを異なる複数のノズルNzで形成する印刷方式である。
【0111】
<他の応用例について>
また、前述の実施形態では、プリンタ100が説明されていたが、これに限られるものではない。例えば、カラーフィルタ製造装置、染色装置、微細加工装置、半導体製造装置、表面加工装置、三次元造形機、液体気化装置、有機EL製造装置(特に高分子EL製造装置)、ディスプレイ製造装置、成膜装置、DNAチップ製造装置などのインクジェット技術を応用した各種の記録装置に、本実施形態と同様の技術を適用しても良い。また、これらの方法や製造方法も応用範囲の範疇である。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】印刷システムの構成を説明するブロック図である。
【図2】プリンタの構造を説明する斜視図である。
【図3】プリンタの構造を説明する側面図である。
【図4】ヘッドが有するノズル列を説明する図である。
【図5】ホストコンピュータのメモリに記憶されるコンピュータプログラムを説明する概念図である。
【図6】ハーフトーン処理を模式的に説明する図である。
【図7】プリンタ側での印刷動作を説明するフローチャートである。
【図8】インターレース印刷の例を説明する図である。
【図9】図9Aは、理想的な吐出特性で形成されたドット群を説明する図である。図9Bは、吐出特性のばらつきの影響を説明する図である。
【図10】濃度ムラを説明するための概念図である。
【図11】補正値設定システムの構成を説明するブロック図である。
【図12】図12Aは、スキャナの構造を説明する正面図である。図12Bは、スキャナの構造を説明する平面図である。
【図13】工程用ホストコンピュータに設けられる、測定値のデータテーブルの概念図である。
【図14】プリンタのメモリに設けられる、補正値記憶部の概念図である。
【図15】図15Aは、プリンタの製造後の検査工程で行われる補正値設定処理を説明するフローチャートである。図15Bは、補正値設定処理における補正値の設定及び記憶ステップを説明するフローチャートである。
【図16】テストパターンの説明図である。
【図17】補正用パターンの一部分を示す説明図である。
【図18】各帯状パターンの測定値を列領域毎に示した図である。
【図19】或る列領域における補正値の設定について説明する図である。
【図20】他の列領域における補正値の設定について説明する図である。
【符号の説明】
【0113】
10 印刷システム,20 補正値設定システム,
100 プリンタ,110 用紙搬送機構,111 給紙ローラ,
112 プラテン,113 搬送ローラ,114 排紙ローラ,
115 搬送モータ,120 キャリッジ移動機構,121 タイミングベルト,
122 キャリッジモータ,123 ガイド軸,124 駆動プーリー,
125 アイドラプーリー,130 ヘッドユニット,131 ヘッド,
140 検出器群,141 リニア式エンコーダ,
142 ロータリー式エンコーダ,143 紙検出器,144 紙幅検出器,
150 プリンタ側コントローラ,151 CPU,152 メモリ,
153 制御ユニット,154 インタフェース部,155 補正値記憶部,
200 ホストコンピュータ,200´ 工程用ホストコンピュータ,
210 ホスト側コントローラ,211 CPU,212 メモリ,
213 第1インタフェース部,214 第2インタフェース部,
220 記録再生装置,230 表示装置,240 入力装置,
300 スキャナ,310 スキャナ側コントローラ,
311 CPU,312 メモリ,313 インタフェース部,
320 読み取り機構,321 原稿台ガラス,322 原稿台カバー,
323 読み取りキャリッジ,324 CCDイメージセンサ,
325 露光ランプ,326 ミラー,327 レンズ,330 移動機構,
331 支持レール,332 規制レール,333 駆動モータ,
334 駆動プーリー,335 アイドラプーリー,336 タイミングベルト,
SS 用紙ストッカ,S 用紙,IC インクカートリッジ,Nz ノズル,
Nk ブラックインクノズル列,Ny イエローインクノズル列,
Nc シアンインクノズル列,Nm マゼンタインクノズル列,
Nlc ライトシアンインクノズル列,Nlm ライトマゼンタインクノズル列,
CP テストパターン,HP 補正用パターン,BD 帯状パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)複数の指令階調値に基づいて、濃度が異なる複数の領域を有するテストパターンを媒体に印刷すること、
(B)前記複数の領域のそれぞれについて、及び、前記媒体における非印刷領域について濃度を測定し、濃度の測定値を取得すること、
(C)前記複数の指令階調値中の最低指令階調値で印刷された領域について、目標濃度を設定すること、
(D)前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも大きい場合に、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記非印刷領域の前記測定値の組を特定し、
前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも小さい場合に、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記最低指令階調値よりも高い指令階調値で印刷された他の領域の前記測定値の組を特定すること、
(E)特定された前記測定値の組を参照して、前記最低指令階調値用の補正値を設定すること、
(F)を行う補正値の設定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の補正値の設定方法であって、
前記複数の指令階調値中の中間指令階調値で印刷された領域について、目標濃度を設定すること、
前記中間指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも大きい場合に、前記中間指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記中間指令階調値よりも低い指令階調値で印刷された他の領域の前記測定値の組を特定し、
前記中間指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも小さい場合に、前記中間指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記中間指令階調値よりも高い指令階調値で印刷された他の領域の前記測定値の組を特定すること、
特定された前記測定値の組を参照して、前記中間指令階調値用の補正値を設定すること、
を行う補正値の設定方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の補正値の設定方法であって、
前記複数の指令階調値中の最高指令階調値で印刷された領域について、目標濃度を設定すること、
前記最高指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記目標濃度の大小関係に関わらず、前記最高指令階調値で印刷された領域の前記測定値と他の指令階調値で印刷された他の領域の前記測定値の組を特定すること、
特定された前記測定値の組を参照して、前記最高指令階調値用の補正値を設定すること、
を行う補正値の設定方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3の何れかに記載の補正値の設定方法であって、
前記テストパターンの印刷では、
同じ種類のインクを吐出させる複数のノズルによって構成されるノズル群を有する印刷ヘッドであって、前記ノズル群を吐出可能なインクの種類に応じた複数有する印刷ヘッドを、移動方向に移動させつつ前記ノズルからインクを前記媒体に向けて吐出させる動作と、前記移動方向とは交差する搬送方向に前記媒体を搬送する動作とを、繰り返し行わせる、補正値の設定方法。
【請求項5】
請求項4に記載の補正値の設定方法であって、
前記テストパターンの印刷では、
異なるノズル群で印刷される複数のサブパターンであって、前記最低指令階調値で印刷される最低濃度領域、前記複数の指令階調値中の中間指令階調値で印刷される中間濃度領域、及び、前記複数の指令階調値中の最高指令階調値で印刷される最高濃度領域をそれぞれ有する複数のサブパターンが、前記移動方向へ配置されたテストパターンを印刷する、補正値の設定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の補正値の設定方法であって、
前記テストパターンの印刷では、
前記移動方向に沿った罫線であって、対応するサブパターンの範囲を検出する際に用いられる罫線を、前記対応するサブパターンにおける搬送方向の一端と他端のそれぞれに印刷し、
前記濃度の測定値の取得では、
前記搬送方向の一端に印刷された或る罫線と前記搬送方向の他端に印刷された他の罫線とに挟まれた前記非印刷領域について濃度を測定し、濃度の測定値を取得する、補正値の設定方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6の何れかに記載の補正値の設定方法であって、
前記濃度の測定値の取得では、
前記テストパターンの濃度、及び、前記非印刷領域の濃度を、前記搬送方向に並ぶ複数の列領域のそれぞれについて測定し、前記列領域毎に前記濃度の測定値を取得する、補正値の設定方法。
【請求項8】
請求項7に記載の補正値の設定方法であって、
前記目標濃度の設定では、
同じ指令階調値で印刷された領域に属する複数の前記列領域について前記測定値を参照し、参照した各測定値の平均値を前記目標濃度として設定する、補正値の設定方法。
【請求項9】
(A)補正値の設定対象となる印刷装置を用いて媒体に印刷されたテストパターンの濃度を測定するスキャナであって、
(A1)前記テストパターンが有する、複数の指令階調値で印刷された濃度が異なる複数の領域のそれぞれ、及び、前記媒体における非印刷領域について、濃度を測定すること、
を行うスキャナと、
(B)コントローラであって、
(B1)前記スキャナからの前記濃度の測定値を取得すること、
(B2)前記複数の指令階調値中の最低指令階調値で印刷された領域について、目標濃度を設定すること、
(B3)前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも大きい場合に、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記非印刷領域の前記測定値の組を特定し、
前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも小さい場合に、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記最低指令階調値よりも高い指令階調値で印刷された他の領域の前記測定値の組を特定すること、
(B4)特定された前記測定値の組を参照して、前記最低指令階調値用の補正値を設定すること、
を行うコントローラと、
(C)を有する補正値設定システム。
【請求項10】
対象となる印刷装置に補正値を設定する補正値設定システムに用いられるプログラムであって、
複数の指令階調値に基づいて、濃度が異なる複数の領域を有するテストパターンを前記印刷装置に印刷させること、
前記複数の領域のそれぞれ、及び、前記媒体における非印刷領域についてスキャナに濃度を測定させること、
濃度の測定値を前記スキャナから取得すること、
前記複数の指令階調値中の最低指令階調値で印刷された領域について、目標濃度を設定すること、
前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも大きい場合に、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記非印刷領域の前記測定値の組を特定し、
前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値が前記目標濃度よりも小さい場合に、前記最低指令階調値で印刷された領域の前記測定値と前記最低指令階調値よりも高い指令階調値で印刷された他の領域の前記測定値の組を特定すること、
特定された前記測定値の組を参照して、前記最低指令階調値用の補正値を設定すること、
をコントローラに行わせるためのプログラム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate


【公開番号】特開2008−93851(P2008−93851A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−275288(P2006−275288)
【出願日】平成18年10月6日(2006.10.6)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】