説明

製造装置および製造方法

【課題】簡便な方法で、良好な強誘電体膜を所定の厚さで形成する。
【解決手段】誘電体膜を有する基板を製造する製造装置であって、複合酸化物を含む原材料体が塗布された基板を、大気圧以上の圧力に加圧した、体積比20%以上の酸素を含む雰囲気中で熱処理して結晶化させる熱処理装置を備える製造装置および製造方法を提供する。当該製造装置は、光制御デバイスとして用いられる強誘電体膜を有する基板を製造してもよい。熱処理装置は、原材料が塗布された基板を雰囲気中に保持するチャンバと、熱処理中における予め定められた期間の間、チャンバ内の雰囲気の圧力を予め定められた圧力に調整する圧力調整部と、を有してもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製造装置および製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高い誘電率、高い圧電性、および強誘電性を持つチタン酸ジルコン酸鉛(PbZrTiO系の複合酸化物、以下、PZT)が知られている。また、PZTにLa(ランタン)を加えることにより、透光性のチタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PbLaZrTiO系の複合酸化物、以下、PLZT)が作製できることも知られている。PZTおよびPLZTといった強誘電体材料を薄膜化する場合は、鉛(Pb)の蒸発による結晶欠陥、ならびに酸素欠損による分極疲労現象および分極特性の劣化が生じ、デバイスとしての特性を劣化させて信頼性を損ねる問題があった。
【0003】
そこで分極疲労等を抑制する目的で、PZTと電極の間に酸化イリジウム等の酸化物電極をバッファ層として挿入する手法が提案されている(非特許文献1)。また、FeRAM等の電子素子に用いるキャパシタを作製するために、複合酸化物を含む原材料を2気圧以上加圧して、体積比10%以下の酸素を含む雰囲気中で熱処理する強誘電体薄膜作製プロセスが提案されている(特許文献1)。
特許文献1 特開2004−207304号公報
特許文献2 特開昭63−202910号公報
特許文献3 特開2004−131812号公報
特許文献4 特開2006−154145号公報
非特許文献1 Takashi Mihara, et. al., "Polarization Fatigue Characteristics of Sol-Gel Ferroelectric Pb(Zr0.4Ti0.6)O3 Thin-Film Capacitors", Japanese Journal of Applied Physics, Japan, July 1994, Vol.33, Part1 No.7A, pp.3996-4002
非特許文献2 Taisuke Furukawa, et. al., "Fatigueless Ferroelectric Capacitors with Ruthenium Bottom and Top Electrodes Formed by Metalorganic Chemical Vapor Deposition", Japanese Journal of Applied Physics, Japan, March 2005, Vol.44, No.12, pp.L378-L380
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、実際にデバイスを使用する段階において、PZTに印加されるべき電圧がバッファ層に分圧されてしまい、PZTは、十分な電圧を印加されない状態に陥る問題が生じていた。また、特許文献1のプロセスにおいては、低酸素濃度の雰囲気中において、高温で熱処理して結晶化させるので、強誘電体膜中の酸素欠損が発生しうる。このため、特許文献1のプロセスにおいては、クラックの発生およびモフォロジの劣化を抑制しつつ、良好な強誘電性を示す強誘電体薄膜を作製することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様においては、誘電体膜を有する基板を製造する製造装置であって、複合酸化物を含む原材料体が塗布された基板を、大気圧以上の圧力に加圧した、体積比20%以上の酸素を含む雰囲気中で熱処理して結晶化させる熱処理装置を備える製造装置および製造方法を提供する。
【0006】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではない。また、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施形態に係る製造装置100のシステム構成例を基板10と共に示す。
【図2】本実施形態に係る製造装置100の動作フローを示す。
【図3】本実施形態に係る基板10に強誘電体膜を成膜する行程の概略を示す。
【図4】本実施形態に係る製造装置100で作製したPZT膜のAFM像を示す。
【図5】本実施形態に係る製造装置100で作製したPLZT膜のX線回折パターンを示す。
【図6】本実施形態に係る製造装置100で単結晶基板上に作製したPLZT膜のX線特性を示す。
【図7】本実施形態に係る製造装置100で作製したPZT膜のP−Eヒステリシス特性を示す。
【図8】本実施形態に係る製造装置100で作製したPZT膜およびPLZT膜の分極疲労特性を示す。
【図9】本実施形態に係る製造装置100で作製したPLZT膜の電気光学特性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0009】
図1は、本実施形態に係る製造装置100のシステム構成例を基板10と共に示す。製造装置100は、誘電体膜を有する基板10を製造する。ここで誘電体膜は、PZTおよびPLZT等の強誘電体膜であってよく、これに代えて、チタン酸ビスマスランタン系(BiLaTiO系、以下、BLT)、チタン酸ビスマス系(BiTiO系、以下、BIT)、およびタンタル酸ストロンチウムビスマス系(SrBiTaO系、以下、SBT)の複合酸化物であってよい。
【0010】
製造装置100は、光制御デバイスとして用いられる強誘電体膜を有する基板10を製造してもよく、これに代えて、キャパシタ、または圧電アクチュエータ等の圧電材料として用いられる誘電体膜を有する基板10を製造してもよい。製造装置100は、熱処理装置110と、塗布装置160と、電極生成装置170と、アニール装置180とを備える。
【0011】
熱処理装置110は、複合酸化物を含む原材料体が塗布された基板10を、大気圧以上の圧力に加圧した、体積比20%以上の酸素を含む雰囲気中で熱処理して結晶化させる。熱処理装置110は、RTP(Rapid Thermal Process)と呼ばれるランプ加熱方式で、基板10をアニールするラピッドサーマルアニール装置でよい。熱処理装置110は、チャンバ120と、圧力調整部130と、ガス供給部140と、ガス排出部150とを有する。
【0012】
チャンバ120は、原材料が塗布された基板10を上記の雰囲気中に保持する。チャンバ120は、ステージ122と、ランプ124と、ガス導入口126と、排気口128とを含む。ステージ122は、基板10を保持する。ランプ124は、ハロゲンランプ等の加熱用ランプでよく、これに代えて、レーザまたはLEDといった加熱用光源であってよい。
【0013】
チャンバ120は、少なくとも1つ以上のガス導入口126と、内部を排気する排気口128を有する。ガス導入口126は、配管および圧力調整部130を介してガス供給部140に接続される。同様に排気口128は、配管および圧力調整部130を介してガス排出部150に接続される。
【0014】
圧力調整部130は、熱処理中における予め定められた期間の間、チャンバ120内の雰囲気の圧力を予め定められた圧力に調整する。圧力調整部130は、チャンバ120内の圧力測定値に応じて、チャンバ120に供給するガスの流量および/またはチャンバ120から排気するガスの流量を調節して、チャンバ120内を所定の雰囲気に保持してよい。圧力調整部130は、圧力センサ132と、圧力制御部134とを有する。
【0015】
圧力センサ132は、チャンバ120内の気圧を測定する。圧力センサ132は、気体の圧力を感圧素子等で電気信号に変換するデバイスでよい。圧力センサ132は、チャンバ120内に配置されてよく、これに代えて、チャンバ120に接続されたチャンバ120内と同一雰囲気の配管内に配置されてよい。
【0016】
圧力制御部134は、圧力センサ132により測定した気圧に応じて、チャンバ120から排出する雰囲気の量を調整する。一例として、圧力制御部134は、チャンバ120と、ガス排出部150とを接続する配管に圧力調節弁を配置して、圧力調節弁の開閉を調節することにより、チャンバ120内の圧力を調整してよい。
【0017】
より具体的には、例えば、圧力制御部134は、圧力センサ132により測定した気圧が目標とする気圧よりも低い場合、圧力調節弁を閉めてガスの排出量を減少させてよい。また、圧力センサ132により測定した気圧が目標とする気圧よりも高い場合、圧力調節弁を開けてガスの排出量を増加させてよい。ここで、圧力調節弁は、圧力センサ132と同一筐体に含まれてもよい。
【0018】
また、圧力制御部134は、圧力センサにより測定した気圧に応じて、チャンバ120に導入する雰囲気の量を更に調整してよい。圧力制御部134は、チャンバ120と、ガス供給部140とを接続する配管に圧力調節弁を配置して、圧力調節弁の開閉を制御することにより、チャンバ120内の雰囲気の量を調整してよい。
【0019】
より具体的には、例えば、圧力制御部134は、圧力センサ132により測定した気圧が目標とする気圧よりも低い場合、圧力調節弁を開けてガスの供給量を増加させてよい。また、圧力センサ132により測定した気圧が目標とする気圧よりも高い場合、圧力調節弁を閉めてガスの供給量を減少させてよい。ここで、圧力調節弁は、圧力センサ132と同一筐体に含まれてもよい。
【0020】
また、圧力制御部134は、ガス供給部140のガスの供給圧力を制御して、チャンバ120内の雰囲気の量を調整してよい。圧力制御部134は、複数のガス供給部140が製造装置100に備わっている場合、複数のガス供給部140の供給流量をそれぞれ制御して、チャンバ120内の雰囲気の量を調整してよい。
【0021】
ガス供給部140は、チャンバ120へ導入するガスを供給する。ガス供給部140は、例えば、酸素ガス、窒素ガス、および/またはアルゴンガス等でよい。ガス供給部140は、製造過程で用いるガスの種類に応じて、複数備わってよい。ガス供給部140は、供給するガスの流量を調節できてよく、圧力制御部134から送信される制御信号に応じて、ガスの流量を調節してよい。ガス排出部150は、チャンバ120内のガスを排出する。ガス排出部150は、ロータリーポンプ、拡散ポンプ、またはターボ分子ポンプ等の真空ポンプであってよく、これらの真空ポンプの組み合わせであってよい。
【0022】
塗布装置160は、複合酸化物を含む原材料体を基板10に塗布する。ここで原材料体は、Pb、Ba、および、Biのうちの少なくとも1つを含むゾルゲル原料であってよい。塗布装置160は、スピンコート法によって塗布するスピンコータでよく、これに代えて、スプレーコート法で塗布するスプレーコータでもよい。
【0023】
電極生成装置170は、原材料の塗布および結晶化の繰り返しにより成膜された誘電体膜上に電極を生成する。電極生成装置170は、高速度の原子またはイオンを固体表面に衝突させ、固体を構成する原子が空間に放出されて、基板10上に堆積して薄膜形成させるスパッタ装置でよい。これに代えて、電極生成装置170は、金属または酸化物などを蒸発させて、基板10の表面に付着させる蒸着装置であってよい。
【0024】
アニール装置180は、基板10に塗布された原材料体を、乾燥および熱分解処理する。アニール装置180は、ホットプレート、ベーキングオーブン、炉、またはランプアニーラであってよい。また、アニール装置180は、電極が生成された誘電体膜を有する基板10をアニールしてよい。
【0025】
以上の構成例の製造装置100は、基板10の雰囲気を制御しつつ、急速に加熱処理する。これによって、製造装置100は、複合酸化物を含む原材料体が塗布された基板10を、所定のガス濃度、所定のガス圧力の条件で、ラピッドサーマルアニール処理することができる。製造装置100が強誘電体薄膜を製造する製造フローの一例を、以下に説明する。
【0026】
図2は、本実施形態に係る製造装置100の動作フローを示す。製造装置100は、まず基板10にシード層を形成する(S200)。シード層は、基板10にシード層の材料を塗布装置160によって塗布して、アニール装置180によって乾燥および熱分解処理することによって形成される。シード層は、基板10と、強誘電体膜との間に形成され、両者の格子整合の違いを緩和するバッファ層の役割で用いられてよい。
【0027】
製造装置100は、シード層の材料として、例えばPbTiOゾルゲル材料を用いて、PbTiO薄膜を形成してよい。アニール装置180は、一例として、100℃で基板10に塗布した材料を乾燥させてよい。また、アニール装置180は、一例として、300℃で基板10に塗布した材料の熱分解処理を実行してよい。
【0028】
次に、製造装置100は、強誘電体薄膜を形成するにあたり、所定の膜厚が得られるまで、誘電体膜の作製ループであるステップS210からステップS250を繰り返す。製造装置100は、塗布装置160によって、形成する強誘電体薄膜に応じたゾルゲル材料を、基板10に塗布する(S220)。製造装置100は、アニール装置180によって、塗布した材料の乾燥および熱分解処理を、シード層とほぼ同じ条件で処理する(S230)。
【0029】
製造装置100は、熱処理装置110によって、基板10を高温で熱処理して、塗布した材料を結晶化させる(S240)。ここで熱処理装置110は、チャンバ120内の雰囲気の圧力を予め定められた圧力に調整した状態で、チャンバ120内の温度を強誘電体薄膜が結晶化する温度まで上昇させてよい。例えば、熱処理装置110は、PZT薄膜を形成する場合、PZT薄膜の結晶化温度程度である600〜700℃まで上昇させて、PZT薄膜を結晶化させてよい。
【0030】
ここで熱処理装置110は、体積比20%以上、100%以下の酸素を含む雰囲気中で熱処理して結晶化させてよい。これに代えて、熱処理装置110は、大気と同様の体積比21%程度の酸素を含む雰囲気中で熱処理して結晶化させてもよい。熱処理装置110は、ガス供給部140から酸素を供給して、チャンバ120内の酸素雰囲気を圧力調整部130によって制御してよい。
【0031】
熱処理装置110は、チャンバ120内の雰囲気の圧力を予め定められた圧力に調整した状態で、チャンバ120内の温度を、強誘電体薄膜が結晶化する温度まで1秒当たり1〜15℃の昇温速度で上昇させてよい。一例として、熱処理装置110は、チャンバ120内の温度を、強誘電体薄膜が結晶化する温度まで1秒当たり2〜10℃の昇温速度で上昇させてもよい。この場合、熱処理装置110は、チャンバ120内の圧力を、圧力調整部130によって制御させつつ加熱処理してよい。
【0032】
この場合、圧力調整部130は、予め定められた期間の間、チャンバ120内の雰囲気の圧力を、0.1MPaから0.3MPaの間において予め定められた圧力に調整してよい。一例として、圧力調整部130は、チャンバ120内の雰囲気の圧力を、0.1MPaから0.2MPaの間において予め定められた圧力に調整してよい。ここで熱処理装置110は、加熱処理の期間または加熱処理から加熱後の常温に戻るまでの期間を、予め定められた期間として設定してよい。
【0033】
以上のように、熱処理装置110は、ラピッドサーマルアニールによって基板10の温度を急速に上げ、さらに、チャンバ120内の圧力を一定の加圧状態にすることにより、蒸気圧の高い材料であるPbの飛散を防止させる。また、熱処理装置110は、1秒当たり2〜10℃の昇温速度といった短時間処理によって、結晶化した強誘電体薄膜中の例えばPbといった材料物質、および酸素の欠損を減少させる。
【0034】
また、熱処理装置110は、体積比20%以上の酸素を含む雰囲気中で熱処理することによって、熱処理によって強誘電体薄膜に酸素欠損が生じても、酸素雰囲気中の酸素で補償させることができる。これらによって、熱処理装置110は、良好な結晶性および良好なモフォロジの強誘電体薄膜の結晶を成膜することができる。
【0035】
塗布装置160、アニール装置180、および熱処理装置110は、熱処理装置110によって結晶化された誘電体膜を有する基板上に原材料を塗布して、上記の雰囲気中で熱処理して結晶化させる処理を、複数回繰り返してよい。製造装置100は、所定の膜厚の強誘電体薄膜を、結晶化させる処理を繰り返して形成する。
【0036】
製造装置100は、電極生成装置170を用いて、所定の膜厚の強誘電体薄膜上に電極を形成してよい(S260)。電極生成装置170は、真空蒸着法またはスパッタ法にて、所定の金属電極および/または酸化物電極を形成してよい。製造装置100は、電極形成後に熱処理装置110を用いて、一定圧力の酸素雰囲気中で、ラピッドサーマルアニール処理してよい(S270)。この場合、熱処理装置110は、圧力、酸素雰囲気、加熱温度、および温度上昇スピード等の諸条件を、予め設定した適切な値に設定してよい。
【0037】
図3は、本実施形態に係る基板10に強誘電体膜を成膜する行程の概略を示す。基板10は、単結晶基板または金属電極を有する基板であってよい。例えば、基板10は、MgO、SrTiO、およびAl(サファイア)等の単結晶基板であってよく、これに代えて、Pt/TiO/SiO/Si等といったSi基板上に金属膜を成膜した基板等であってよい。
【0038】
まず、製造装置100は、基板10上にシード層300を成膜させる(行程1)。シード層300は、PbTiO等の薄膜でよい。一例として、製造装置100は、PbTiOゾルゲル材料を基板10上に塗布してから加熱処理して、シード層300を形成する。シード層300は、基板10と、次の行程で形成する強誘電体薄膜との格子整合の違いを緩和して、強誘電体薄膜の結晶性を良好にさせる。
【0039】
次に、製造装置100は、シード層300上に強誘電体薄膜層310を成膜させる(行程2)。一例として、強誘電体薄膜層310がPZTの場合、製造装置100は、基板10上にPZTゾルゲル材料を塗布して、乾燥および熱分解処理する。強誘電体薄膜層310は、乾燥および熱分解処理された後に、熱処理装置110によって結晶化される。
【0040】
製造装置100は、行程2を繰り返して所定の膜厚の強誘電体薄膜層310が得た後に、強誘電体薄膜層310上に電極層320を生成する(行程3)。電極層320は、フォトリソグラフィによって意図した形状に形成されてよい。製造装置100は、電極生成装置170によって電極層320を生成した後に、再びラピッドサーマルアニール処理を実行する。
【0041】
製造装置100は、以上の動作フローで、行程1から行程3までを実行して、誘電体膜を有する基板10を製造する。本実施例の製造装置100によれば、一定圧力中の酸素雰囲気中で、強誘電体膜の結晶化を実行させることができ、良好な結晶性および良好な表面モフォロジの酸化物薄膜結晶を得ることができる。このような良好な薄膜結晶が得られる理由として、以下の点が挙げられる。
【0042】
本実施例の製造装置100は、大気圧以上の圧力に加圧して、体積比20%以上の酸素雰囲気中で熱処理する。したがって、Pb、BiまたはBa等といった原材料体の蒸発を加圧によって抑えつつ、高温アニールによって生じうる酸素欠損も高濃度酸素雰囲気によって避けることができる。
【0043】
一方、酸素欠損を避ける目的で、製造装置100は、加圧条件の下で比較的低温のアニールを実行することもできる。しかしながら、PZT等の強誘電体材料は、結晶化温度に比べて低い温度で結晶化させた場合、パイクロア相と呼ばれる常誘電体層が薄膜中に形成され、強誘電体としての特性を劣化させることは知られている。したがって、製造装置100は、加圧酸素雰囲気中で、結晶化温度程度の高温条件で結晶化させることで適切な薄膜結晶を得ることができる。
【0044】
また、製造装置100は、高温の熱処理過程において、チャンバ120内を所定の一定圧力にさせる。これによって、製造装置100は、例えばチャンバ120内を常温から高温に温度を上昇させた場合に生じる、チャンバ120内の圧力変動を抑えることができる。即ち、製造装置100は、強誘電体薄膜の結晶化過程において、チャンバ120内の環境条件である圧力変動を一定にすることができ、再現性よく結晶化させることができる。
【0045】
以上のように、製造装置100は、適切な薄膜結晶を再現性よく形成できるので、同一の工程を繰り返すことによって、意図した膜厚の強誘電体薄膜を、クラックを発生させず、かつ、モフォロジを劣化させずに作製することができる。また、製造装置100は、強誘電体薄膜を適切に結晶化させるので、上部電極をバッファ層無しに適切に形成させることができる。これによって、強誘電体薄膜に適切な電界を印加させることができ、適切に作製した強誘電体薄膜の特性を有効に活用することができる。
【0046】
以上の実施例において、製造装置100は、熱処理装置110と、塗布装置160と、電極生成装置170と、アニール装置180とを備える例について説明した。これに代えて、製造装置100は、塗布装置160を熱処理装置110内部に有してもよい。また、製造装置100は、アニール装置180で実行するアニール処理を熱処理装置110で実行させてよい。
【0047】
これによって、製造装置100は、熱処理装置110および電極生成装置170の2つの装置が備わることで、意図した膜厚の強誘電体薄膜を作製することができる。本実施例の製造装置100は、良好な強誘電体薄膜を、材料の塗布およびアニール処理の極めて単純な処理で作製できるので、装置規模も小型にすることができる。
【0048】
また、製造装置100は、熱処理装置110内に更に電極生成装置170を備え、単独の装置としてもよい。例えば、電極生成装置170が実行する真空蒸着またはスパッタを、ラピッドサーマルアニール処理を実行するチャンバ120内で実行させてチャンバ120を共有させてもよい。これによって、製造装置100は、実質的に熱処理装置110そのものとなり、省スペースで意図した膜厚の強誘電体薄膜を作製することができる。
【0049】
図4から図9に、実際に作製した強誘電体膜の特性の一例を示す。製造装置100は、ゾルゲル溶液として、化学量論的組成に調節されたPZT(Zr/Ti=52/48)およびPLZT(La/Zr/Ti=8/65/35)を用いた。ここで、製造装置100は、熱処理段階でのPbの飛散を考慮して、化学量論的組成に対して10mol%から20mol%過剰なPbを混合させたゾルゲル溶液を用いた。
【0050】
製造装置100は、上記の動作フローで、行程1から行程3までを実行して、PZT膜およびPLZT膜を作製した。ここで、製造装置100は、圧力0.2〜0.3MPaの一定圧力でラピッドサーマルアニール処理を実行して結晶化させ、3μmの厚さのPZT膜およびPLZT膜を作製した。
【0051】
図4は、本実施形態に係る製造装置100で作製したPZT膜のAFM(原子間力顕微鏡:Atomic Force Microscope)像を示す。製造装置100は、平均表面粗さが0.4nmと、非常に平坦な表面モフォロジの強誘電体膜を作製できることがわかる。
【0052】
図5は、本実施形態に係る製造装置100で作製したPLZT膜の2θ/θスキャン法を用いたX線回折パターンを示す。横軸はPLZT膜へのX線の入射方向と反射方向との角度で、縦軸はX線の回折強度を示す。製造装置100は、基板10としてPt/SiO/TiO/Si基板を用い、その上にPLZT膜を作製した。誘電体膜中にパイクロア層が形成されると、X線回折パターンに特有のピークが生じることが知られているが、そのようなピークは観測されず、製造装置100は、良好な強誘電体を形成したことがわかる。また、PLZT(111)面に対応するピーク以外は観測されないので、製造装置100は、結晶性のよいPLZT膜を形成したことがわかる。
【0053】
図6は、本実施形態に係る製造装置100で単結晶基板上に作製したPLZT膜のφスキャン法を用いたX線特性を示す。横軸はPLZT膜へのX線の入射方向の角度であり、縦軸は回折強度である。製造装置100は、基板10としてSrTiO単結晶基板を用い、その上にPLZT膜を作製した。図中のX線回折パターンにも、パイクロア層のピークは観測されず、製造装置100は、良好な強誘電体を形成したことがわかる。また、3回対称の極点図が得られていることから、良好な結晶面の配向が形成されていることがわかり、製造装置100は、基板10の結晶面にそろえてPLZT膜を配列させつつ成長させるエピタキシャル成長を実行できたことがわかる。
【0054】
以上の結果より、製造装置100は、1nm以下の平均粗さで、膜厚3μmの強誘電体膜を作製できることがわかる。また、製造装置100は、単結晶基板上に成膜した場合は、エピタキシャル膜が形成されていることがわかる。これより、製造装置100は、適切な強誘電体膜を、所定の厚さで成膜できることがわかる。
【0055】
図7は、本実施形態に係る製造装置100で作製したPZT膜のP−Eヒステリシス特性を示す。ここでP−Eヒステリシス測定とは、強誘電体薄膜の分極反転の動作を調べる目的で用いられる。図中の横軸は印加電圧を、縦軸は誘電分極を示す。誘電体は、強い直流電界を加えると、分域が電界の方向に配列して結晶全体が単一の分域になるが、交流電界を加えると分極と電界の関係は、強磁性体のB−H曲線と同様ヒステリシスを描く。
【0056】
P−Eヒステリシスが、縦軸と正の領域で交わる点を残留分極、横軸と正の領域で交わる点を抗電界と呼び、残留分極が大きく、抗電界が小さいものが良好な結晶配向を示すことが知られている。図中の3つのヒステリシス特性は、製造装置100が、PZT膜をアルゴン、酸素、または空気雰囲気の加圧状態でそれぞれ誘電体膜を作製して、P−Eヒステリシスをそれぞれ測定した結果を示す。
【0057】
3つのヒステリシス特性を比較することにより、製造装置100は、酸素雰囲気で加圧した場合に、良好なPZT膜を作製できることがわかる。また、製造装置100は、空気雰囲気で加圧した場合に、アルゴン雰囲気よりも良好なPZT膜を作製したこともわかる。空気中における酸素濃度は21%程度あるので、この結果より、製造装置100は、雰囲気中の酸素濃度が増加するにしたがって、PZT膜の酸素欠損を補償させて、より良好なPZT膜を作製できることがわかる。
【0058】
図8は、本実施形態に係る製造装置100で作製したPZT膜およびPLZT膜をPt/SiO/TiO/Si基板に上記の条件で成膜し、さらに上部電極としてPt電極を形成した、PZTおよびPLZTキャパシタの分極疲労特性を示す。横軸は強誘電体膜に正負の電界を時間的に交互に印加して分極を反転させた回数を示し、縦軸は反転させた後の残留分極を示す。加圧なしのプロセスでは、10から10回程度の分極反転回数で、残留分極値が半分程度になり強誘電特性が劣化する分極疲労が起こることが知られており、これはPZT膜の酸素欠損に起因するものといわれている。
【0059】
一方、製造装置100を用いた場合には、1010回以上の分極反転を実行しても、残留分極値の低下を示さないPZT膜およびPLZT膜を作製できることがわかる。これより製造装置100は、強誘電体膜中または強誘電体膜表面での酸素欠損およびPbの蒸発による欠陥を抑制できていることがわかり、高信頼性の強誘電体薄膜が得られる。
【0060】
図9は、本実施形態に係る製造装置100で作製したPLZT膜の電気光学特性を示す。製造装置100は、基板10をサファイア基板として、PLZT膜を形成した。電気光学特性は、印加電界で物質の屈折率が変化する現象を観測したものであり、強誘電体の性質を評価する方法として知られている。製造装置100は、バルクPLZT結晶とほぼ同程度の電気光学特性である、EO係数値600pm/Vを持つPLZT膜を作製できることがわかる。これは、これまで報告されているPLZT薄膜において最大であり、製造装置100により実現可能となった。
【0061】
以上の本実施形態に係る製造装置100で作製した強誘電体膜の特性より、製造装置100は、特別な材料、複雑な構成、および複雑な処理等を用いずに、良好な強誘電体膜を所定の膜厚で作製できることがわかる。また、製造装置100は、材料の塗布とアニール処理を繰り返し実行することで強誘電体膜を作製できるので、装置規模を小さくすることができる。
【0062】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0063】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した装置、システム、プログラム、および方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の出力を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作フローに関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。
【符号の説明】
【0064】
10 基板、100 製造装置、110 熱処理装置、120 チャンバ、122 ステージ、124 ランプ、126 ガス導入口、128 排気口、130 圧力調整部、132 圧力センサ、134 圧力制御部、140 ガス供給部、150 ガス排出部、160 塗布装置、170 電極生成装置、180 アニール装置、300 シード層、310 強誘電体薄膜層、320 電極層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体膜を有する基板を製造する製造装置であって、
複合酸化物を含む原材料体が塗布された基板を、大気圧以上の圧力に加圧した、体積比20%以上の酸素を含む雰囲気中で熱処理して結晶化させる熱処理装置
を備える製造装置。
【請求項2】
当該製造装置は、光制御デバイスとして用いられる強誘電体膜を有する基板を製造する請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記熱処理装置は、
前記原材料が塗布された基板を前記雰囲気中に保持するチャンバと、
熱処理中における予め定められた期間の間、前記チャンバ内の前記雰囲気の圧力を予め定められた圧力に調整する圧力調整部と、
を有する請求項1または2に記載の製造装置。
【請求項4】
前記圧力調整部は、
前記チャンバ内の気圧を測定する圧力センサと、
前記圧力センサにより測定した気圧に応じて、前記チャンバから排出する前記雰囲気の量を調整する圧力制御部と、
を含む請求項3に記載の製造装置。
【請求項5】
前記圧力制御部は、前記圧力センサにより測定した気圧に応じて、前記チャンバに導入する前記雰囲気の量を更に調整する請求項4に記載の製造装置。
【請求項6】
前記熱処理装置は、前記チャンバ内の前記雰囲気の圧力を前記予め定められた圧力に調整した状態で、前記チャンバ内の温度を前記誘電体膜が結晶化する温度まで上昇させる請求項3から5のいずれかに記載の製造装置。
【請求項7】
前記熱処理装置は、前記チャンバ内の前記雰囲気の圧力を前記予め定められた圧力に調整した状態で、前記チャンバ内の温度を、前記誘電体膜が結晶化する温度まで1秒当たり1〜15℃の昇温速度で上昇させる請求項3から6のいずれかに記載の製造装置。
【請求項8】
前記熱処理装置は、ランプアニールにより前記原材料が塗布された基板を熱処理する請求項1から7のいずれかに記載の製造装置。
【請求項9】
前記熱処理装置は、前記熱処理装置によって結晶化された誘電体膜を有する基板上に前記原材料を塗布して、前記雰囲気中で熱処理して結晶化させる処理を、複数回繰り返す
請求項1から8のいずれかに記載の製造装置。
【請求項10】
前記原材料の塗布および結晶化の繰り返しにより成膜された前記誘電体膜上に電極を生成する電極生成装置と、
電極が生成された前記誘電体膜を有する基板をアニールするアニール装置と、
を備える請求項9に記載の製造装置。
【請求項11】
前記アニール装置は、電極が生成された前記誘電体膜を有する基板を、大気圧以上の圧力に加圧した、体積比20%以上の酸素を含む雰囲気中で加熱してアニールする請求項10に記載の製造装置。
【請求項12】
前記原材料体は、Pb、Ba、および、Biのうちの少なくとも1つを含むゾルゲル原料である請求項1から11のいずれかに記載の製造装置。
【請求項13】
誘電体膜を有する基板を製造する製造方法であって、
複合酸化物を含む原材料体を基板に塗布し、
前記原材料体が塗布された基板を、大気圧以上の圧力に加圧した、体積比20%以上の酸素を含む雰囲気中で熱処理して結晶化させる熱処理段階
を備える製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−79733(P2011−79733A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−198182(P2010−198182)
【出願日】平成22年9月3日(2010.9.3)
【出願人】(390005175)株式会社アドバンテスト (1,005)
【Fターム(参考)】