説明

製鋼スラグからの鉄、マンガン酸化物の回収方法

【課題】スラグから回収する鉄−マンガン酸化物の回収率を向上することができるようにする。
【解決手段】CaO−SiO2−P25相及び(Fe,Mn)OX相を含む製鋼スラグに対して地金を除去する地金除去処理を行ってから鉄、マンガン酸化物を回収する方法であって、処理後に塩基度が1.5〜2.5となっている製鋼スラグ、又は処理後に塩基度が1.5〜2.5になるように調整した製鋼スラグに対して、1200℃までの平均冷却速度が20℃/min以下となるように当該製鋼スラグを冷却する冷却処理を行っておき、地金除去処理及び冷却処理を行った製鋼スラグに対して、粉砕後の代表粒径が50μm以下となるように粉砕処理を行い、粉砕処理後のスラグを粗粒と微粒とに分級する分級処理の際に、粗粒の代表粒径と微粒の代表粒径との比が2.5倍以上となるよう処理し、分級処理後に粗粒を回収する点にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグから、鉄、マンガン酸化物などの有価金属を回収する回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
溶銑の脱りん処理を行ったり、脱りん処理後の溶銑に対して脱炭処理を行ったときには、副産物として製鋼スラグが生成される。このように脱りん処理や脱炭処理によって生成された製鋼スラグから有価金属等を回収して、回収した有価金属を再利用しようという様々な技術が開発されている(例えば、特許文献1〜4)。
特許文献1では、脱燐用の副原料として、主または石灰と蛍石を用いる転炉吹錬、又は溶銑脱燐処理において生成した滓の組成がCaF2≧2.5%及び2.17×(%P25)≧0.76×(SiO2)となるように処理条件を調整して造滓を行い、得られた滓に浮遊選鉱法を施して滓中に析出したP25濃度の高い相を分離している。
【0003】
特許文献2では、溶銑を脱燐してCaOとP25の濃度比がCaO/P25≦5のスラグを得る第1工程と、前記スラグが凝固を開始する温度から前記スラグ全体が凝固する温度までの範囲を平均冷却速度が5℃/min以下で冷却して凝固させ、凝固後の前記スラグ中に3CaO・P25相および/または4CaO・P25相を晶出させる第2工程と、前記第2工程後のスラグを粉砕した後に、3CaO・P25相および/または4CaO・P25相を主成分とするスラグとFeOを主成分とするスラグとに分離し、3CaO・P25相および/または4CaO・P25相を主成分とするスラグを回収する第3工程とを含むことを特徴としている。
【0004】
特許文献3では、製鋼スラグのリサイクル処理工程において、少なくともりんが含まれる結晶相を、スラグ内で成長させる結晶相成長処理工程と、前期結晶相成長処理工程にて結晶相成長処理されたスラグを磁力を用いて前期結晶相を主に含むスラグとその他のスラグとに分離する磁力分離処理工程とを含むことを特徴としている。
特許文献4では、溶融状態の転炉スラグにSiO2含有物質の添加によりCaO/SiO2(モル比)=1.5〜2.5にする塩基度調整処理と溶融状態での酸化処理、あるいは核塩基度調整処理とその後のスラグ凝固過程または凝固後の酸化処理とを施して得られたMg-Mnフェライト相とカルシウムシリケート相またはこれらの相とMg−Mnウスタイト相を主構成分とする改質転炉スラグを湿式の磁選処理に付し、得られたスラリー状尾鉱に、高炉スラグ、粘土または石灰石などの調整剤を加え、湿式キルンにて焼成することを特徴としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−61210号公報
【特許文献2】特開2009−132544号公報
【特許文献3】特開2006−130482号公報
【特許文献4】特公昭58−046461号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した特許文献1では、製鋼する際にスラグの成分を調整した後、浮遊選鉱法を行うことによってP25濃度の高い相を分離していることとしているが、この特許文献1の技術では、P25濃度の高い相の形成に影響を与える塩基度が明確に示されておらず、これらの技術を用いても、P25濃度の高い相を分離することは難しいのが実情である。
一方、特許文献2〜4では、製鋼で生成した製鋼スラグを粉砕したり磁選することによって、金属を含むものと金属を含まないものとに分離し、分離後に製鋼スラグから有価金属を回収している。しかしながら、これら特許文献2〜4では、製鋼スラグの粉砕/分級条件や磁選条件(磁場強度、磁場勾配など)が詳細に開示されておらず、これらの技術を用いても、十分に有価金属を回収することができないのが実情である。
【0007】
そこで、本発明は、上記問題点に鑑み、製鋼スラグから回収する鉄−マンガン酸化物の回収率を向上することができる製鋼スラグからの鉄、マンガン酸化物の回収方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は、次の手段を講じた。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、CaO−SiO2−P25相及び(Fe,Mn)OX相を含む製鋼スラグに対して地金を除去する地金除去処理を行ってから鉄、マンガン酸化物を回収する方法であって、処理後に塩基度が1.5〜2.5となっている製鋼スラグ、又は処理後に塩基度が1.5〜2.5になるように調整した製鋼スラグに対して、1200℃までの平均冷却速度が20℃/min以下となるように当該製鋼スラグを冷却する冷却処理を行っておき、前記地金除去処理及び冷却処理を行った製鋼スラグに対して、粉砕後の代表粒径が50μm以下となるように粉砕処理を行い、粉砕処理後のスラグを粗粒と微粒とに分級する分級処理の際に、前記粗粒の代表粒径と微粒の代表粒径との比が2.5倍以上となるよう処理し、分級処理後に粗粒を回収する点にある。
【0009】
前記代表粒径は、粉砕処理後のスラグを粒子径が小さいものから大きいものへ順番に並べ、並べた後のスラグの体積を小さい方から積算してゆき、積算した体積がスラグ全体の体積の50%となった時点でのスラグの粒子径のことである。
前記分級処理後に得られた粗粒に対して、再び、粉砕処理及び分級処理を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、製鋼スラグから鉄−マンガン酸化物を回収するに際し、その回収率を確実に向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】製鋼スラグからの有価金属を回収する流れを示したものである。
【図2】鉄濃縮率と製鋼スラグの塩基度との関係図である。
【図3】鉄濃縮率と平均冷却速度との関係図である。
【図4】鉄濃縮率と50%体積粒径との関係図である。
【図5】鉄濃縮率と粒径比(粗粒側の50%体積粒径/微粒側の50%体積粒径)との関係図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき説明する。
製鋼工程では、高炉から出銑した溶銑に対して脱珪処理や脱硫処理を行った後、脱りん処理及び脱炭処理を行うのが一般的である。これらの脱珪処理、脱硫処理、脱りん処理、脱炭処理ではスラグが生成されるが、このような製鋼工程(製鋼精錬プロセス)にて発生した製鋼スラグ(脱珪処理、脱硫処理、脱りん処理、脱炭処理の少なくとも1つを含むスラグ)を本発明では処理することとしている。
【0013】
製鋼工程の中でも、脱りん処理及び脱炭処理では、大量の気体及び固体酸素により、溶銑中のりん及び炭素を除去する。そのため、脱りん処理や脱炭処理で生成したスラグには、鉄の酸化物やマンガンの酸化物(マンガン酸化物)が含まれていて、製鋼原料として再利用可能な鉄やマンガンなどの有価金属が存在することとなる。
即ち、脱りん処理や脱炭処理後に生成された製鋼スラグを冷却してSEM(Scanning Electron Microscope)にて観察すると、主に、CaO−SiO2−P25系の鉱物相、CaO−FeOX系の鉱物相、CaO−SiO2−FeOX系の鉱物相、(Fe,Mn)OX相の鉱物相が存在する。
【0014】
本発明では、有価金属をリサイクルすべく、鉄−マンガン酸化物(Fe,Mn)OX相を製鋼スラグから回収することとしている。
以下、回収方法を具体的に説明する。
上述したように、製鋼スラグ内には、回収目的としている鉄−マンガン酸化物の他、酸化によって発生したりん酸化物(CaO−SiO2−P25系の鉱物相)も含まれている。このりん酸化物は、再利用をし難いことから出来る限り、鉄−マンガン酸化物を含む回収物にりん酸化物が混在しないことが好ましい。
【0015】
鉄−マンガン酸化物とりん酸化物とを分ける方法として、特開昭54−88894号公報に示されているものがある。この技術では、鉄−マンガン酸化物とりん酸化物とは磁気的性質が異なるため、磁選処理により分離する方法をとっている。
しかしながら、この技術で効率よく鉄−マンガン酸化物を回収するためには、磁着し易いようにFe2+をFe3+に酸化処理する必要がある。さらに、磁選時の粒子同士の凝集を防ぐために、湿式処理を実施する必要がある。
【0016】
つまり、特開昭54−88894号公報には、鉄−マンガン酸化物とりん酸化物とを分ける方法が開示されているものの、酸化処理や湿式処理を行う必要があり、装置が大掛かりとなるばかりか、分離処理した後に分離物の乾燥処理や高pH排水の処理等を行わなければなず工程が複雑となる。
そのため、本発明では、出来るだけ酸化処理や湿式処理を行わずに乾式処理にて鉄−マンガン酸化物とりん酸化物とを分離することとしている。具体的には、鉄−マンガン酸化物とりん酸化物との機械的性質の違い(破砕しやすい/破砕し難い)に着目し、斯かる機械的性質を利用することによって鉄−マンガン酸化物とりん酸化物とを分離している。
【0017】
以下、鉄−マンガン酸化物とりん酸化物とを分離について詳しく説明する。
本発明では、鉄−マンガン酸化物とりん酸化物とを分離するにあたっては、まず、製鋼スラグから地金を除去する磁選処理、すなわち、製鋼スラグを粉砕して、粉砕後のスラグに磁石等を近づけて当該磁石に地金を付着させることによりスラグと地金とを分離する地金除去処理を行う。
【0018】
次に、地金除去された製鋼スラグを粉砕する粉砕処理を行い、その後、粉砕処理後のスラグを分級する分級処理を行う。
ここで、製鋼スラグを粉砕したとき、粉砕する製鋼スラグ(粉砕対象となる製鋼スラグ)が鉄−マンガン酸化物[(Fe,Mn)OX相]とりん酸化物[CaO−SiO2−P25系の鉱物相]とに分かれやすい状態であることが好ましい。
【0019】
製鋼スラグを粉砕する前には、必ず製鋼スラグを冷却することから、本発明では、冷却したときの製鋼スラグを特性(冷却特性)を積極的に利用して、(Fe,Mn)OX相CaO−SiO2−P25系の鉱物相]との2相に分かれやすい状態にしている。
具体的には、塩基度が1.5〜2.5となっている製鋼スラグを冷却することとしている。詳しくは、脱りん処理や脱炭処理などの処理後(精錬後)において冷却対象となる製鋼スラグの塩基度が1.5〜2.5となっている場合は、処理後に排滓された製鋼スラグをそのまま冷却する。
【0020】
一方、処理後において冷却対象とする製鋼スラグの塩基度が1.5〜2.5の範囲から外れている場合は、まずは冷却前の製鋼スラグの改質を行う。例えば、塩基度が3.0以上となっている製鋼スラグに対しては、珪石などのSiO2源を添加(供給)して冷却前の製鋼スラグの塩基度を下げ、塩基度が1.5未満の製鋼スラグに対しては、石灰石などのCaO源を添加(供給)して冷却前の製鋼スラグの塩基度を上げる。
【0021】
なお、冷却前の製鋼スラグの改質において、SiO2源やCaO源の種類や調整方法については特に限定されず、例えば、塩基度が3.0以上の製鋼スラグと塩基度が1.5未満の製鋼スラグとを混合して、冷却前の製鋼スラグの塩基度を1.5〜2.5の範囲にしてもよい。
上記の如く、塩基度が1.5〜2.5となる製鋼スラグを冷却すると、鉄−マンガン酸化物[(Fe,Mn)OX相]とりん酸化物[CaO−SiO2−P25系の鉱物相]との2相に分かれやすいという性質がある。また、塩基度が1.5〜2.5となる製鋼スラグ(スラグ)を粉砕すると、鉄−マンガン酸化物は硬度が高く破砕しづらいため粒径の粗い粒子(粗粒と呼ぶ)となりやすく、その一方で、りん酸化物は硬度が低く破砕し易く粒径の細かい粒子(微粒と呼ぶ)となりやすい。
【0022】
一方、冷却前の製鋼スラグの塩基度が2.5を超えてしまうと、当該製鋼スラグを冷却したときに、(Fe,Mn)OX相及びCaO−SiO2−P25系の鉱物相の他に、CaO−FeOX系の鉱物相が形成されてしまい、このCaO−FeOX系の鉱物相は、CaO−SiO2−P25系の鉱物相と同様に微粒側に偏り、最終的に、(Fe,Mn)OX相の回収率が低下してしまう。また、冷却前の製鋼スラグの塩基度が1.5未満であると、当該製鋼スラグを冷却したときに、(Fe,Mn)OX相及びCaO−SiO2−P25系の鉱物相の他に、CaO−SiO2−FeOX系の鉱物相が形成されてしまい、このCaO−SiO2−FeOX系の鉱物相は、CaO−SiO2−P25系の鉱物相と同様に微粒側に偏り、最終的に、(Fe,Mn)OX相の回収率が低下してしまう。
【0023】
それ故、本発明では、製鋼スラグの塩基度が1.5〜2.5となるようにしている。
ところで、製鋼スラグの冷却過程において、(Fe,Mn)OX相の粒径を大きくすることができれば、粉砕したときに(Fe,Mn)OX相が単相になり、有価金属の回収が効果的に行える。
そのため、本発明では、塩基度を1.5〜2.5としてからの製鋼スラグの冷却処理を行うにあたって、1200℃までの平均冷却速度を20℃/min以下とし、(Fe,Mn)OX相を大きくしている。
【0024】
例えば、処理後(精錬後)に製鋼スラグの塩基度が既に1.5〜2.5の範囲となっている場合は、スラグを精錬炉(脱りん炉や脱炭炉)に残して徐々に冷却し、製鋼スラグの温度が1200℃未満となった時点で製鋼スラグを脱りん炉や脱炭炉から排出する。
また、精錬後に一旦製鋼スラグを排出して当該製鋼スラグの改質を行う場合は、まず、製鋼スラグの排出後に珪石や石灰石を供給して塩基度を1.5〜2.5の範囲内とし、その後の平均冷却速度を20℃/min以下として改質した製鋼スラグを徐々に冷却する。
【0025】
平均冷却速度とは、製鋼スラグの改質を行わない場合は、処理後から冷却終了(1200℃になるまで)するまでの平均速度であり、製鋼スラグの改質を行う場合は、改質を終了してから冷却終了(1200℃になるまで)までの平均温度である。スラグの温度の測定方法は、放射温度計によるものでも熱電対によるものでも、他の測定器を用いるものであってもよい。
【0026】
なお、製鋼スラグの改質を行う場合は、改質が終了するまで一旦製鋼スラグを加熱して製鋼スラグの温度を1250℃以上にすることが好ましい。
製鋼スラグを冷却したとき、(Fe,Mn)OX相の晶出は当該製鋼スラグの温度が1200℃までにほぼ終了することから、平均冷却速度を管理する温度を1200℃としている。ここで、製鋼スラグを冷却するに際して、1200℃よりも低い温度域での平均冷却速度を管理することも可能であるが、1200℃よりも低い温度域では(Fe,Mn)OX相を大きくする効果は少なく、冷却時間も大幅に増加するため、1200℃までの温度を管理することが好ましい。
【0027】
平均冷却速度の管理を行うにあたって、平均冷却速度を20℃/minよりも大きくした場合、急激に(Fe,Mn)OX相が小さくなる傾向があることから、この値を採用している。
さて、地金除去処理や冷却処理が終了した製鋼スラグに対しては、当該スラグの粉砕を行う(粉砕処理)と共に、分級処理・有価金属回収処理を行う。
【0028】
具体的には、図1(a)に示すように、地金除去後のスラグにおいて粉砕後の代表粒径が50μm以下となるように粉砕機1を用いて粉砕処理を行うこととしている。
なお、粉砕機1は、スラグをジェットエアーに乗せてスラグ同士を衝突させることにより粉砕するジェットミル方式であってもよく、スラグと共に硬質のボールを容器内に入れて回転させることによってスラグを粉砕するボールミル方式であってもよい。
【0029】
ここで、代表粒径とは、粉砕処理後のスラグを粒子径が小さいものから大きいものへ順番に並べ、並べた後のスラグの体積を小さい方から積算してゆき、積算した体積がスラグ全体の体積の50%となった時点でのスラグの粒子径である。この代表粒径のことを50%体積粒径ということがある。
まとめると、本発明では、50%体積粒径が50μm以下となるように、スラグを粉砕する粉砕機1の能力(粉砕時間など)を設定し、設定した粉砕機1でスラグを粉砕する。尚、50%体積粒径は、マイクロトラック等の粒子分析計で求めることができる。
【0030】
粉砕処理後のスラグにおいて、50%体積粒径が50μm以下でないと、粉砕が不十分である。この場合、粉砕後のスラグを見ると、粗粒子側に偏り易い(Fe,Mn)OX相と微粒子側に偏り易いCaO−SiO2−P25系の鉱物相とに分かれずに、(Fe,Mn)OX相とCaO−SiO2−P25系との両方が一つの粒子中に混在したもの(所謂片刃粒子)の割合多くなるため、粉砕後に行われる分級処理により両相を分離することができなくなる。このため、再利用が難しいCaO−SiO2−P25系の鉱物相が粗粒側に増え、粗粒を製鉄原料の一部として使用することが難しくなる。
【0031】
次に、粉砕処理が終了すると、粉砕処理後のスラグに対して、図1(a)に示すように、分級機2によって分級処理を行う。分級機2は、サイクロン式のものであって、エアーによってロータ内でスラグを螺旋状に回転させる一方でロータの下部側に設けた回転羽を回転させることで微粒と粗粒とに分級するものである。なお、分級機2は、この方式に限定されず、微粒と粗粒とに分級するものであればどのようなものであってもよい。
【0032】
この分級処理では、粗粒と微粒との2つに分けた分級後のスラグを見たとき、粗粒の50%体積粒径と微粒の50%体積粒径との比が2.5倍以上となるように処理を行う。
詳しくは、分級処理では、粉砕後のスラグを分級機2に入れてサイクロン式の当該分級機2を可動させることにより、粗粒と微粒との2つに分ける。同時に、粗粒の50%体積粒径と微粒の50%体積粒径との比が2.5倍以上となるように、分級機2の回転羽の回転数を制御することにより、粉砕後のスラグを分級する。
【0033】
この分級処理において、粗粒側の代表粒径/微粒側の代表粒径の値が2.5未満であると、粗粒側に多量のCaO−SiO2−P25系の鉱物相が入ることとなり、粗粒に分けられたスラグを製鉄原料の一部として使用することが難しくなる。
以上の処理により得られた粗粒は、(Fe,Mn)OX系の鉱物相を多く含む粒子(破砕後のスラグ)であり、この粗粒を回収することで、製鋼スラグから回収する鉄−マンガン酸化物の回収率を向上することができるようになる。分級後に回収した(Fe,Mn)OX相のスラグ(鉄、マンガン酸化物濃縮物、回収物)は、脱りん処理や脱炭処理において、インジェクション、ブラスティングで溶湯中に吹き込んだり、塊成化して炉上から上方投入することにより、製鉄原料としてリサイクルすることができる。
【0034】
なお、図1(b)の如く、ミル方式の粉砕機1と気体分級する分級機2との両方を備えた複合装置3を用いて、分級処理後に得られた粗粒のスラグを再び、粉砕機1に戻して、粉砕処理及び分級処理を繰り返し行う(閉回路分級処理)を行っても良い。ここで、分級処理後に得られたスラグ(微粒のスラグ)は外部に排出し、廃棄処分することとしてもよい。代表粒径は、外部に排出されたスラグと複合装置3に残して回収するスラグによって求めることができる。
【0035】
ところで、前述した地金除去処理は、少なくとも粉砕処理を行う前に実施していればよく、製鋼スラグの改質前に行ってもよいし冷却処理後に行ってもよい。
例えば、磁選処理と粉砕処理とを連続して行う場合は、磁選処理の前段階で製鋼スラグを冷却させる際には、(改質処理)→冷却処理→磁選処理→粉砕処理の順で行えばよく、磁選処理後に加熱処理等が入る場合は、磁選処理→加熱処理→(改質処理)→冷却処理→粉砕処理の順で行えばよい。
【実施例】
【0036】
上記した実施形態の手法により製鋼スラグから有価金属を回収した実施例について、以下述べる。
表1及び2は、本発明の製鋼スラグからの鉄、マンガン酸化物の回収方法に基づいて処理を行った実施例と、本発明とは異なる方法で処理を行った比較例とをまとめたものである。実施例Aは、粉砕処理及び分級処理を1回行った結果であり、実施例Bは、粉砕処理及び分級処理を繰り返し行った、即ち、上述した閉回路分級処理を行った結果である。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
まず、実施例及び比較例の実施条件について説明する。
表中のスラグの種類の欄で改質とは、溶銑を脱炭処理した際に発生した脱炭スラグと、脱珪処理(脱りん処理の前に行った脱珪処理)にて発生した脱珪スラグとを用意し、両者を混合して塩基度が1.5〜2.5となるよう製鋼スラグの改質を行ったものを示している。製鋼スラグの改質にあたっては、当該製鋼スラグの温度を1250〜1400℃の範囲として1時間で改質を行った。
【0040】
スラグの種類の欄で脱りんとは、脱りん処理(脱炭処理前に行った脱りん処理)にて発生した脱りんスラグ(塩基度が1.5〜2.5の範囲になっている脱りんスラグ)を製鋼スラグとしてそのまま用いた。
脱炭スラグ、脱珪スラグ、脱りんスラグの組成は表3の通りである。
【0041】
【表3】

【0042】
地金除去処理(磁選処理)に関し、脱炭スラグ及び脱珪スラグに対しては改質を行う前に、脱りんスラグに対しては排出後に行った。磁選処理では、ローラミルにより各スラグを5mmアンダーに粉砕後に地金分を除去した。
脱炭スラグ及び脱珪スラグの改質は、電気抵抗加熱炉(抵抗炉)の中にMgO坩堝を入れ、この坩堝に脱炭スラグと脱珪スラグとを混合した混合スラグを投入し、1250〜1400℃の範囲で混合スラグを1時間加熱を行った(混合スラグを溶融させた)。
【0043】
冷却処理における平均冷却速度の管理(制御)において、改質した製鋼スラグの場合は、抵抗炉の出力をコントロールすることにより1200℃までの平均冷却速度を5〜40℃/minとした。また、脱りんスラグの場合は、脱りん処理後(精錬処理後)に脱りんスラグを脱りん炉内に留めておき、放射温度計で脱りんスラグの温度を測定して、脱りんスラグの温度が1200℃以下になったことを確認して脱りんスラグの排出(排滓)を行った。なお、脱りんスラグの場合、脱りん処理後での温度を測定すると共に脱りん処理後から1200℃になるまでの時間を測定することによって、1200℃になるまでの平均冷却速度を算出することができる。
【0044】
粉砕処理は、ボールミル又はジェットミルで行った。また分級処理は2次エア方式の気流分級にて行った。
実施例及び比較例においては、粗粒[(Fe,Mn)OX相のスラグ]の回収率を式(1)により求めた。式(1)に示すように、回収率は、粉砕前のスラグ重量に対する回収した粗粒の割合のことであり、高ければ高いほどよい。また、実施例及び比較例においては、有価金属(T・Fe,Mn)がどれほど効率よく回収されたか分かり易くするために式(2)によって濃縮率を求めた。濃縮率では、有価金属(T・Fe,Mn)は高ければ高いほどよく、P25は低ければ低いほどよい。
【0045】
【数1】

【0046】
図2は、T・Feの濃縮率(鉄濃縮率)とスラグの塩基度との関係をまとめたものである。図2及び表1、2に示すように、製鋼スラグの塩基度が1.5〜2.5である実施例は、比較例に比べて鉄濃縮率が非常に高いものとなった。なお、実施例及び比較例における製鋼スラグ(スラグ)の塩基度は式(3)により求めた。
【0047】
【数2】

【0048】
図3は、冷却処理においてT・Feの濃縮率(鉄濃縮率)と平均冷却速度との関係をまとめたものである。図3及び表1、2に示すように、平均冷却速度が20℃/min以下である実施例は、平均冷却速度が20℃/minよりも大きい比較例に比べて鉄濃縮率が非常に高いものとなった。
図4は、粉砕処理においてT・Feの濃縮率(鉄濃縮率)と50%体積粒径との関係をまとめたものである。図4及び表1、2に示すように、粉砕処理において50%体積粒径が50μm以下である実施例は、比較例に比べて鉄濃縮率が非常に高いものとなった。
【0049】
図5は、分級処理においてT・Feの濃縮率(鉄濃縮率)と粒径比との関係をまとめたものである。図5及び表1、2に示すように、粉砕処理において粒径比(粗粒側の50%体積粒径/微粒側の50%体積粒径)が2.5以上である実施例は、比較例に比べて鉄濃縮率が非常に高いものとなった。
以上、本発明によれば、精錬処理後(処理後)に塩基度が1.5〜2.5となっている製鋼スラグ又は処理後に塩基度が1.5〜2.5になるように調整した製鋼スラグを用意し、用意した製鋼スラグに対して1200℃までの平均冷却速度が20℃/min以下となるように当該製鋼スラグを冷却する冷却処理を行っておき、地金除去処理及び冷却処理を行った製鋼スラグに対して、粉砕後の代表粒径が50μm以下となるように粉砕処理を行い、粉砕処理後のスラグを粗粒と微粒とに分級する分級処理の際に、粗粒の代表粒径と微粒の代表粒径との比が2.5倍以上となるよう処理し、分級処理後に粗粒を回収すれば、有価金属(T・Fe,Mn)の回収率を向上させることができる(表中、評価、◎、○)。
【0050】
なお、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な事項を採用している。
【符号の説明】
【0051】
1 粉砕機
2 分級機
3 複合装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
CaO−SiO2−P25相及び(Fe,Mn)OX相を含む製鋼スラグに対して地金を除去する地金除去処理を行ってから鉄、マンガン酸化物を回収する方法であって、
処理後に塩基度が1.5〜2.5となっている製鋼スラグ、又は処理後に塩基度が1.5〜2.5になるように調整した製鋼スラグに対して、1200℃までの平均冷却速度が20℃/min以下となるように当該製鋼スラグを冷却する冷却処理を行っておき、
前記地金除去処理及び冷却処理を行った製鋼スラグに対して、粉砕後の代表粒径が50μm以下となるように粉砕処理を行い、
粉砕処理後のスラグを粗粒と微粒とに分級する分級処理の際に、前記粗粒の代表粒径と微粒の代表粒径との比が2.5倍以上となるよう処理し、
分級処理後に粗粒を回収することを特徴とする製鋼スラグからの鉄、マンガン酸化物の回収方法。
【請求項2】
前記代表粒径は、粉砕処理後のスラグを粒子径が小さいものから大きいものへ順番に並べ、並べた後のスラグの体積を小さい方から積算してゆき、積算した体積がスラグ全体の体積の50%となった時点でのスラグの粒子径であることを特徴とする請求項1に記載の製鋼スラグからの鉄、マンガン酸化物の回収方法。
【請求項3】
前記分級処理後に得られた粗粒に対して、再び、粉砕処理及び分級処理を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の製鋼スラグからの鉄、マンガン酸化物の回収方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−153917(P2012−153917A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11875(P2011−11875)
【出願日】平成23年1月24日(2011.1.24)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】