説明

複合データ処理装置

【課題】 刺繍の良さと印刷の良さを両立させることで風合い感や立体感を十分に表現でき、しかも刺繍処理に要する処理時間の短縮化を図るようにすること。
【解決手段】 予め選択された刺繍データが読み込まれ(S11)、その刺繍データについて解析処理され(S12)、特殊な縫目であって、しかも複数の糸色の糸で刺繍される混色領域が存在する場合には(S14:Yes )、その混色領域に印刷する印刷データが色別刺繍領域毎に作成され(S15)、刺繍データの糸色情報が、例えば「白色」等に単一化される(S16)。そこで、刺繍枠にセットされた布地に対して、このように単一化された刺繍データに基づいて刺繍処理された後、作成された印刷データに基づいてインクジェットプリンタにより印刷される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、刺繍ミシンにより刺繍縫製を行う為の刺繍データとプリンタにより印刷処理を行う為の印刷データとを処理する複合データ処理装置に関し、特に刺繍枠にセットされた布地に刺繍処理と印刷処理とを併用することにより、刺繍による風合い感や立体感だけでなく、印刷によりアート的にも表現できるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、刺繍枠にセットされた布地に、刺繍データに基づいて刺繍処理することにより、動物や人物をアート的に表現するようにした刺繍データ作成装置が種々提案されている。例えば、特許文献1に記載の刺繍データ作成装置は、スキャナでカラーの写真画像を読込んでカラーの画像データを作成するとともに、その画像データに基づいてカラー画像を刺繍するための刺繍データを作成し、その刺繍データに基づいて刺繍処理することにより、写真画像を刺繍できるようにしてある。
【0003】
また、従来、多数の針落ち点データ(所謂、ステッチデータ)からなる刺繍データを用いて、布地に刺繍ミシンにより刺繍するだけでなく、最近では、刺繍データからビットマップデータである印刷データに展開し、刺繍模様をプリンタで印刷できるようになっている。
【0004】
例えば、特許文献2に記載の布帛(生地)処理方法は、画像データから作成された刺繍データに基づいて、刺繍領域の輪郭線を抽出し、更に、その輪郭線で規定される刺繍領域全体に亙ってビットマップデータに展開することにより、刺繍データから刺繍領域の少なくとも一部に印刷する印刷データを作成し、刺繍データに基づいて、刺繍ミシンにより布地に刺繍を行う一方、刺繍した上糸に重ねて、印刷データに基づいてインクジェットプリンタにより印刷するようにし、刺繍領域の全面で光沢を発揮でき、刺繍の風合いを表現するようにした刺繍と印刷の複合処理技術が開示されている。
【0005】
ところで、近年、布地に印刷が可能なプリンタが実用化されてきている。そこで、例えば、Tシャツ等の布地にプリンタを用いて印刷すると共に、刺繍ミシンにより刺繍を施すことにより、刺繍の良さと印刷の良さとを融合させて、風合いの有るTシャツを作成したいという要望がある。
【特許文献1】特開2003−290579号公報 (第5〜9頁、図3,図20)
【特許文献2】特開2004−263350号公報 (第6〜7頁、図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述した特許文献1に記載の刺繍データ作成装置においては、カラー写真画像から画像データを作成してから刺繍データを作成する刺繍データ作成技術が記載されている。この場合、刺繍処理された刺繍模様が、元の写真画像に近いようにリアルに表現するためには、できるだけ多く(例えば、16〜20色)の刺繍糸を使用するようになるので、大量の刺繍データに基づいて刺繍するだけでなく、刺繍ミシンを停止させて糸替えを行う糸替え操作を複数回も行うようになり、刺繍処理が複雑化且つ長期化すること、等の問題がある。
【0007】
また、前述した特許文献2に記載の布帛(生地)処理方法においては、刺繍領域の全体に亙って、刺繍データに基づいて刺繍処理するのに加えて、印刷データによる印刷処理を更に実行するだけであって、印刷処理により刺繍処理の簡略化(便宜)を図り、処理時間の短縮化を図るような複合処理技術ではないので、刺繍処理が長期化するという問題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る複合データ処理装置は、刺繍可能なミシンにより布地に刺繍模様を刺繍する為の刺繍データと、布地にプリンタで印刷する為の印刷データとを処理する複合データ処理装置であって、複数の糸色情報と針落ち点位置情報を含む刺繍データを解析し、複数の糸色の糸で刺繍される混色領域を求める混色領域演算手段と、混色領域演算手段で求めた混色領域に、その混色領域の複数の糸色と同じ色で印刷する印刷データを作成する印刷データ作成手段とを備えたものである。
【0009】
混色領域演算手段により複数の糸色情報と針落ち点位置情報を含む刺繍データが解析され、複数の糸色の糸で刺繍される混色領域が求められると、印刷データ作成手段によりその混色領域の複数の糸色と同じ色で混色領域に印刷する印刷データが作成される。それ故、作成された印刷データに基づいて、混色領域に、複数の糸色と同じ色でカラー印刷することができる。
【0010】
請求項2に係る複合データ処理装置は、請求項1の発明において、前記混色領域演算手段は、サテン縫いやタタミ縫いを含む所定の縫目形式以外の縫目となる刺繍領域を混色領域として抽出するものである。
【0011】
請求項3に係るデータ処理装置は、請求項1又は2の発明において、前記混色領域に属する刺繍データの全部の糸色情報を所定の単一の糸色を表す糸色情報に置き換える糸色情報変更手段を有するものである。
【0012】
請求項4に係る複合データ処理装置は、請求項1〜3の何れかの発明において、前記印刷データ作成手段は、前記混色領域の刺繍データから刺繍縫目通りにリアルに印刷するリアル印刷データを作成し、そのリアル印刷データに基づいて色別の領域である複数の色別領域を演算し、複数の色別領域のうち所定条件を満たす色別領域についてグラデーション処理を施すことにより印刷に供する印刷データを作成するものである。
【0013】
請求項5に係る複合データ処理装置は、請求項4の発明において、前記印刷データ作成手段は、色別領域の印刷色がそのRGB値を用いて演算される所定の中間色に属する色別領域についてグラデーション処理を施すものである。
【0014】
請求項6に係る複合データ処理装置は、請求項4の発明において、前記印刷データ作成手段は、色別領域の面積が所定値以下である色別領域についてグラデーション処理を施すものである。
【0015】
請求項7に係るデータ処理装置は、刺繍可能なミシンにより布地に刺繍模様を刺繍する為の刺繍データと、布地にプリンタで印刷する為の印刷データとを処理する複合データ処理装置であって、複数の糸色情報と針落ち点位置情報を含む刺繍データを解析し、刺繍模様に対応する画像を印刷する印刷データを作成する印刷データ作成手段と、刺繍データを解析し、刺繍模様において所定の特徴を有する特定領域を特定する特定領域抽出手段と、特定領域抽出手段により特定された特定領域を除く領域に該当する刺繍データを無効化する刺繍データ無効化手段とを備えたものである。
【0016】
印刷データ作成手段により複数の糸色情報と針落ち点位置情報を含む刺繍データが解析され、刺繍模様に対応する画像を印刷する印刷データが作成され、特定領域抽出手段により刺繍データが解析されて、刺繍模様において所定の特徴を有する特定領域が特定される。そこで、刺繍データ無効化手段は、特定領域抽出手段により特定された特定領域を除く領域に該当する刺繍データを無効化する。その為、その特定領域に対応する刺繍データだけが残され、特定領域にのみ刺繍が施される。
【0017】
請求項8に係る複合データ処理装置は、請求項7の発明において、前記特定領域抽出手段は、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域のうち、縫い順が所定の後半の順序となる刺繍領域を特定領域として抽出するものである。
【0018】
請求項9に係る複合データ処理装置は、請求項7の発明において、前記特定領域抽出手段は、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域のうち、面積が大きい方から数えて所定数の領域を特定領域として抽出するものである。
【0019】
請求項10に係る複合データ処理装置は、請求項7の発明において、前記特定領域抽出は、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域のうち、面積が所定の大きさ以上である領域を特定領域として抽出するものである。
【0020】
請求項11に係る複合データ処理装置は、請求項7の発明において、前記特定領域抽出手段は、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域の各々のうち、他の刺繍領域と重なり且つ縫い順が後の刺繍領域で覆われる領域を特定領域として抽出するものである。
【0021】
請求項12に係る複合データ処理装置は、請求項7の発明において、前記特定領域抽出手段は、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域の各々のうち、相互に重なる刺繍領域のうち下側の重なり部を除いた面積が大きい領域を特定領域として抽出するものである。
【0022】
請求項13に係る複合データ処理装置は、請求項7〜12の何れかの発明において、前記刺繍データ無効化手段により無効化される刺繍データに基づいて、当該刺繍データに対応する刺繍領域の画像を印刷する印刷データを作成するものである。
【発明の効果】
【0023】
請求項1の発明によれば、刺繍可能なミシンにより布地に刺繍模様を刺繍する為の刺繍データと、布地にプリンタで印刷する為の印刷データとを処理する複合データ処理装置であって、混色領域演算手段と、印刷データ作成手段とを備えたので、複数の糸色の糸で刺繍される混色領域に限って、刺繍に際して用いる複数の糸色と同じ色で印刷データによりカラー印刷が可能になる。
【0024】
従って、刺繍ミシンを用いた刺繍縫製時に、例えば、この混色領域を縫製するに際して白色の糸のみを用いて縫製を行い、その後、その白色の糸で縫製された混色領域に対して、刺繍する際の糸色を示す糸色情報を含む刺繍データに基づいて作成された印刷データを用いてプリンタにより印刷処理を施すことにより、実際に刺繍データに基づく糸色を用いて刺繍を行った場合と同じように、刺繍の風合いや立体感を維持した状態で刺繍模様を表現することができる。
【0025】
これにより、刺繍ミシンを用いてこの混色領域に対する刺繍縫製を行う際に、作業者による刺繍ミシンでの糸替え作業を省くことができ、作業者による作業量及び糸替えに要する時間が大幅に軽減されることになる。更に、この混色領域に関して、刺繍の風合いを表現しなくても良い場合には、この混色領域の刺繍処理を省略して布地に対する印刷処理のみを行うようにすれば、一層、刺繍縫製に要する時間が低減されることとなる。
【0026】
また、刺繍模様の全てに対して印刷データを作成して、全ての刺繍模様をプリンタによりカラー印刷する場合と比べて、プリンタの着色剤(インクジェットプリンタの場合はインク)の消費量を抑制することができる。
【0027】
請求項2の発明によれば、前記混色領域演算手段は、サテン縫いやタタミ縫いを含む所定の縫目形式以外の縫目(即ち、特殊な縫目)となる刺繍領域を混色領域として抽出するので、サテン縫いやタタミ縫い等の通常の縫目形式でない、例えば複数色により写真画像を表現するような無秩序(ランダム)な縫目で縫製されている混色領域にカラー印刷することができる。その他請求項1と同様の効果を奏する。
【0028】
請求項3の発明によれば、前記混色領域に属する刺繍データの全部の糸色情報を所定の単一の糸色を表す糸色情報に置き換える糸色情報変更手段を有するので、糸色が単一化された刺繍データにより、糸替えを行わずに一気に刺繍することができ、刺繍による風合いを残しつつ、刺繍処理に要する処理時間の短縮化を図ることができる。その他請求項1又は2と同様の効果を奏する。
【0029】
請求項4の発明によれば、前記印刷データ作成手段は、混色領域の刺繍データから刺繍縫目通りにリアルに印刷するリアル印刷データを作成し、そのリアル印刷データに基づいて色別の領域である複数の色別領域を演算し、複数の色別領域のうち所定条件を満たす色別領域についてグラデーション処理を施すことにより印刷に供する印刷データを作成するので、その印刷データで印刷することにより、所定条件を満たす色別領域について滑らかな階調表現にすることができ、混色領域における印刷処理によるリアル性を格段に高めることができる。その他請求項1〜3の何れかと同様の効果を奏する。
【0030】
請求項5の発明によれば、前記印刷データ作成手段は、色別領域の印刷色がそのRGB値を用いて演算される所定の中間色に属する色別領域についてグラデーション処理を施すので、薄いピンク系や薄いブルー系等の淡い色で印刷された中間色の色別領域に関してグラデーション処理を採用することにより、より滑らかな階調表現を実現することができ、混色領域におけるリアル表現をより一層高めることができる。その他請求項4と同様の効果を奏する。
【0031】
請求項6の発明によれば、前記印刷データ作成手段は、色別領域の面積が所定値以下である色別領域についてグラデーション処理を施すので、混色領域において小さな面積を占める繋ぎ的な色別領域に関してグラデーション処理を採用することにより、より滑らかな階調表現が可能になり、混色領域のリアル表現をより一層高めることができる。その他請求項4と同様の効果を奏する。
【0032】
請求項7の発明によれば、刺繍可能なミシンにより布地に刺繍模様を刺繍する為の刺繍データと、布地にプリンタで印刷する為の印刷データとを処理する複合データ処理装置であって、印刷データ作成手段と、特定領域抽出手段と、刺繍データ無効化手段とを備えたので、刺繍模様における特定された特定領域を除く領域に該当する刺繍データが無効化され、特定領域に対する刺繍が可能になる。その特定領域が、例えば人間の髪の毛や動物のたてがみの場合には、これら髪の毛やたてがみ等を刺繍糸により立体的に表現することが可能になる。
【0033】
従って、これら髪の毛やたてがみ等のように、その風合いや立体感の表現のために刺繍を行った方が良いと考えられる特定領域については刺繍処理を行い、その特定領域以外の領域については刺繍処理を行わず、例えばプリンタにより印刷処理を行うようにすれば、模様の表現に前述の風合いや立体感を維持しつつ、刺繍処理に要する時間を大幅に短縮化することができる。
【0034】
請求項8の発明によれば、前記特定領域抽出手段は、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域のうち、縫い順が所定の後半の順序となる刺繍領域を特定領域として抽出するので、縫い順において所定の後半に刺繍するようにした刺繍模様における特徴的な刺繍領域について、刺繍糸により風合い表現や立体表現だけでなく、リアルな表現が可能になる。更に、特定領域にだけ刺繍し、その他の領域については、刺繍処理に比べて処理時間の短い印刷処理をするので、刺繍処理に要する処理時間の短縮化を図ることができる。その他請求項7と同様の効果を奏する。
【0035】
請求項9の発明によれば、前記特定領域抽出手段は、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域のうち、面積が大きい方から数えて所定数の領域を特定領域として抽出するので、面積が比較的大きいが故にリアル表現させるような刺繍模様における特徴的な刺繍領域について、刺繍糸により風合い表現や立体表現だけでなく、リアルな表現が可能になる。更に、特定領域にだけ刺繍し、その他の領域については、刺繍処理に比べて処理時間の短い印刷処理をすることにより、刺繍処理に要する処理時間の短縮化を図ることができる。その他請求項7と同様の効果を奏する。
【0036】
請求項10の発明によれば、前記特定領域抽出手段は、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域のうち、面積が所定の大きさ以上である領域を特定領域として抽出するので、面積が所定の大きさ以上であって、刺繍領域が比較的大きいが故にリアル表現させるような刺繍模様における特徴的な刺繍領域について、刺繍糸により風合い表現や立体表現だけでなく、リアルな表現が可能になる。更に、特定領域にだけ刺繍し、その他の領域については、刺繍処理に比べて処理時間の短い印刷処理をすることにより、刺繍処理に要する処理時間の短縮化を図ることができる。その他請求項7と同様の効果を奏する。
【0037】
請求項11の発明によれば、前記特定領域抽出手段は、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域の各々のうち、他の刺繍領域と重なり且つ縫い順が後の刺繍領域で覆われる領域を特定領域として抽出するので、他の刺繍領域と重なり、しかも縫い順が後の刺繍領域で覆われる部分的な領域であって、刺繍模様における特徴的な部分的な領域について、刺繍糸により風合い表現や立体表現だけでなく、リアルな表現が可能になる。更に、特定領域にだけ刺繍し、その他の領域については、刺繍処理に比べて処理時間の短い印刷処理をすることにより、刺繍処理に要する処理時間の短縮化を図ることができる。その他請求項7と同様の効果を奏する。
【0038】
請求項12の発明によれば、前記特定領域抽出手段は、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域の各々のうち、相互に重なる刺繍領域のうち下側の重なり部を除いた面積が大きい領域を特定領域として抽出するので、他の刺繍領域と重なって下側に隠れる刺繍部を省略した相互に重なり関係を有する刺繍領域のうちの面積が大きく、刺繍模様における特徴的な刺繍領域について、刺繍糸により風合い表現や立体表現だけでなく、リアルな表現が可能になる。更に、特定領域にだけ刺繍し、その他の領域については、刺繍処理に比べて処理時間の短い印刷処理をすることにより、刺繍処理に要する処理時間の短縮化を図ることができる。その他請求項7と同様の効果を奏する。
【0039】
請求項13の発明によれば、前記刺繍データ無効化手段により無効化される刺繍データに基づいて、当該刺繍データに対応する刺繍領域の画像を印刷する印刷データを作成するので、刺繍模様の全てに対して印刷データを作成して、刺繍模様の全ての領域をプリンタによりカラー印刷する場合と比べて、プリンタの着色剤(インクジェットプリンタの場合はインク)の消費量を抑制することができる。その他請求項7〜12の何れかと同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
本実施例における複合データ処理装置は、布地に対して、刺繍ミシンにより刺繍模様を刺繍縫いするとともに、刺繍模様のうちの複数の糸色の糸で刺繍される混色領域にプリンタにより印刷することにより、刺繍による立体感や風合いを表現でき、しかも印刷によりリアル感を表現するものである。
【実施例】
【0041】
先ず、図1に示すように、複合データ処理装置1に、インクジェットプリンタ3を備えた刺繍ミシン2が電気的に接続され、この刺繍ミシン2に接続された枠駆動装置4は、各種の形状の刺繍枠5を着脱可能に装着し、刺繍縫いに際してだけでなく、インクジェットプリンタ3による印刷に際して、その刺繍枠5を直交する2方向(X方向とY方向)に移動駆動できるようになっている。
【0042】
複合データ処理装置1は、図2に示すようにパーソナルコンピュータからなり、制御全体を司る制御装置10、この制御装置10に接続されたマウス11と、キーボード12と、イメージスキャナ13と、カラーのディスプレイ14等を備えている。制御装置10は、CPU21とROM22とRAM23とこれらを接続するバス24とを含むマイクロコンピュータと、バス24に接続されハードディスク(HD)25を備えたハードディスクドライブ(HDD)26と、入出力インターフェース27等を有する。
【0043】
また、バス24には、フレキシブルディスクの為のフレキシブルディスクドライブ(FDD)28と、CD−ROMの為のCD−ROMドライブ29も接続されている。入出力インターフェース27には、キーボード12と、マウス11と、イメージスキャナ13と、ディスプレイ14を駆動する為の表示駆動回路30と、通信用インターフェース(通信用I/F)31を介して刺繍ミシン2とが夫々接続されている。
【0044】
ROM22には、パーソナルコンピュータの電源ON時に、パーソナルコンピュータを起動させる起動プログラム等が格納されている。RAM23には、イメージスキャナ13やフレキシブルディスクやCD−ROMから読み込んだ印刷図柄の為の画像データを格納する画像データメモリ、刺繍模様の為の刺繍データを格納する刺繍データメモリ、CPU21で演算処理した演算結果を収容する各種メモリ、バッファ、ポインタ、カウンタ等が必要に応じて設けられている。
【0045】
一方、ハードディスク25には、OS(オペレーティング・システム)や、マウス11とキーボード12とイメージスキャナ13とディスプレイ14等を使用可能とする為の各種のドライバ、アプリケーションプログラム等が組み込まれると共に、イメージスキャナ13やフレキシブルディスクやCD−ROMから記録されている画像データや刺繍データを読み込む読込み制御プログラム、その読み込まれた画像データや刺繍データを画像データメモリや刺繍データメモリに格納するデータ入力制御プログラム、画像データから印刷データを作成する印刷データ作成制御や画像データから刺繍データを作成する刺繍データ作成制御の制御プログラム、刺繍データから印刷データを作成する印刷データ作成制御プログラム、後述の複合データ処理制御の為の制御プログラム(図5,図7〜10参照)等、各種の制御プログラムも格納されている。
【0046】
ハードディスク25の刺繍データメモリには、更に、図4に示すように、図12に示す「シマウマ」の刺繍データ等多数の刺繍データが予め格納されている。即ち、この「シマウマ」の刺繍データは、複数の色別の刺繍領域E1〜ENからなり、これら色別刺繍領域E1〜ENの各々の縫目データは、次の縫目までの移動量(布送り量)を設定する相対座標であり、色別刺繍領域E1〜ENの各々には、その先頭部に「糸色コード」が設けられるとともに、その末尾部に「糸切りコード」が含まれている。
【0047】
但し、刺繍模様「シマウマ」に有する色別刺繍領域E1〜ENの各々の縫目は、サテン縫いやタタミ縫いを含む所定の縫目形式以外の特殊な縫目、例えば図12に示すように、無秩序(ランダム)な縫目で構成されている。また、「黄色刺繍領域」E3の一部と「黒色刺繍領域」ENの一部とが部分的に重なっており、「黒色刺繍領域」ENの面積が、その他(「橙色刺繍領域」E1、「赤色刺繍領域」E2、「黄色刺繍領域」E3・・・に比べて最も大きくなっている。
【0048】
図3に示すように、刺繍ミシン2の刺繍ミシン本体2aには、通信用インターフェース(通信用I/F)41介して複合データ処理装置1に接続された制御ユニット42、各種操作スイッチ43、主軸位置検出センサ44、ミシンモータ45及びその駆動回路46等が設けられている。ミシンモータ45により主軸(図示略)が回転駆動されて針棒上下駆動機構(図示略)により針棒が上下に往復駆動され、その針棒に取付けられた縫針と、ベッド部に設けられた糸捕捉機構(図示略)とが協動して、刺繍枠5に保持された布地Wに刺繍縫目が形成される。
【0049】
インクジェットプリンタ3には、制御ユニット51、各種操作スイッチ52、4色(シアン,マゼンタ,イエロー,ブラック)の為の4列のインクノズルをユニット化したプリントヘッド53、ヘッド昇降モータ54、パージ駆動モータ55、パージ移動モータ56、これらプリントヘッド53及び各モータ54〜56の為の駆動回路57〜60が設けられている。プリントヘッド53は、制御ユニット51から印字指令を受けると、圧電セラミックアクチュエータの撓みによりインクを下側の布地Wに向けてインクノズルからが噴射する。
【0050】
枠駆動装置4には、キャリッジ位置検出センサ61、枠駆動装置4に装着された刺繍枠5をX方向に移動させるX方向駆動モータ62とその駆動回路63、刺繍枠5をY方向に移動させるY方向駆動モータ64とその駆動回路65等が設けられている。枠駆動装置4は、刺繍ミシン本体2aの制御ユニット42やインクジェットプリンタ3の制御ユニット51から枠移動信号を受けると、X方向駆動モータ62とY方向駆動モータ64を駆動させて刺繍枠5をX方向とY方向とに移動させる。
【0051】
次に、複合データ処理装置1の制御装置で実行されるデータ処理制御のルーチンについて、図5のフローチャートに基づいて説明する。但し、図中の符号Si(i=11、12、13・・・)は各ステップである。
【0052】
ディスプレイ14に表示されたメインメニュー(図示略)のうちの「複合データ処理」を選択すると、例えば、図11に示すように、メニュー「複合データ処理設定」が表示されるので、作業者がブロックカーソルKにより、項目「1」の「色糸刺繍後に印刷」を選択すると、図5に示す標準複合データ処理制御が開始される。
【0053】
この制御が開始されると、先ず、CD−ROMやハードディスク25に格納された複数の刺繍データのうちから図4(図12参照)に示す「シマウマ」の刺繍データが読み込まれてRAM23の刺繍データメモリに格納される(S11)。次に、その刺繍データに基づいて、サテン縫目やタタミ縫目等の縫目形式や糸色で指定される色別刺繍領域、つまり刺繍模様に含まれる複数の色別刺繍領域の外形輪郭を求める為に、刺繍データの解析処理が実行される(S12)。
【0054】
その刺繍データの解析処理について簡単に説明すると、先ず、刺繍データに含まれる各針落ち点(合計n個とする)を、縫製順にPi(i=1,2,・・・,n)とする。変数iに初期値「1」をセットし、針落ち点Piを原点として直交座標系を設定する。図6−1,図6−2に示すように、針落ち点Piから針落ち点Pi+1 へ至る方向にX軸を設け、X軸に対して針落ち点Piを中心に反時計回りに90°回転した方向にY軸を設け、針落ち点Pi+1 の座標(Xi+1 ,0)と針落ち点Pi+2 の座標(Xi+2 ,Yi+2 )を読み込み、RAM23の座標メモリに記憶する。
【0055】
次に、Xi+1 とXi+2 との値を比較し、Xi+1の方が大きい場合には、針落ち点Pi+1 の属性を仮輪郭に設定し、Xi+2 ≧Xi+1 の場合には、針落ち点Pi+1 の属性を仮走りとして設定する。ここで、図6−1に示すように、針落ち点Pi+1 が輪郭点である場合、その両側のステッチSi,Si+1 に折り返しが発生する。この場合、Xi+2 の値はXi+1 の値よりも小さくなる(Xi+2 <Xi+1 )。
【0056】
そこで、この場合、針落ち点Pi+1 の属性を、輪郭点と推定できるという意味で仮輪郭とし、針落ち点Pi+1 が走り点である場合、図5−2に示すように、Xi+2 ≧Xi+1 となる。そこで、この場合、針落ち点Pi+1 の属性を、走り点と推定できるという意味で仮走りとする。尚、針落ち点P1 ,Pn には、強制的に仮走りの属性を付与する。
【0057】
このように、変数iの値を順次増加させながら、これらの処理を繰り返し実行し、i+1=nとなった場合、つまりi+1=2〜n−1の全ての針落ち点Pi+1 に対して仮輪郭または仮走りの属性を付与したことになる。そこで、次のように縫目形式の分類を行う。先ず、変数iに1,2,3,・・・を順次セットしながら、針落ち点Pi+1 に仮輪郭の属性が付与されているか否かを判断する。Pi+1 が仮走りの場合は、変数iに次の大きな値をセットして再度判断する。
【0058】
一方、針落ち点Pi+1 が仮輪郭の場合、その針落ち点Pi+1 が、仮走りの属性を付与された針落ち点と隣接しているか否か、すなわち、針落ち点Pi又はPi+2 の何れかが仮走りであるか否かを判断する。仮走りと隣接している場合、その針落ち点Pi+1 に仮輪郭の属性を付与したループで記憶したYi+2 を読み出す。
【0059】
その針落ち点Piの前後に配設される仮輪郭の針落ち点に対して同様に記憶されたYi+2 と異符号である場合には、針落ち点Pi+1 の縫目属性を仮タタミ輪郭とし、同符号である場合には、針落ち点Pi+1 の縫目属性を仮走りとする。
【0060】
一方、仮輪郭の針落ち点Pi+1 が仮走りの針落ち点と隣接していない場合であって、Yi+2 の符号が前後の仮輪郭で交互に入れ替わっている場合、その針落ち点Pi+1 を仮サテン輪郭とし、Yi+2 の符号が交互に入れ替わっていない場合は、その針落ち点Pi+1 を仮走りとする。
【0061】
そして、最終的に、仮タタミ輪郭の属性を付与された全ての針落ち点のデータについて、前後の針落ち点の形状や、糸密度、タタミパタン等を検出し、それに基づいて刺繍模様の外形輪郭を確定する処理を実行し、タタミ縫いを行うタタミ縫目による刺繍領域を確定する。
【0062】
また、仮サテン輪郭の属性を付与された全ての針落ち点のデータについて、前後の針落ち点の形状,糸密度等を検出し、それに基づいて刺繍模様の輪郭を確定する処理を実行し、サテン縫いを行うサテン縫目による刺繍領域を確定する。
【0063】
最後に、これら仮タタミ輪郭や仮サテン輪郭として確定されなかった残りの針落ち点のデータに対し、その針落ち点を走り点として縫目ピッチと形状に従った確定を行い、走り縫いを行う走り縫目による刺繍領域を確定する。
【0064】
次に、S12における刺繍データの解析処理の結果を受け、サテン縫目やタタミ縫目などの通常に用いられる縫目形式以外の特殊な縫目を有し、しかも複数の糸色で刺繍される混色領域の有無が演算で求められ(S13)、混色領域が無い場合には(S14:No)、この制御を終了して、メインルーチンにリターンする。
【0065】
ここで、図4に示す刺繍模様「シマウマ」の刺繍データは、サテン縫目やタタミ縫目等の所定の縫目形式ではなく、ランダムで特殊な縫目であるため、「シマウマ」全体が混色領域である。そこで、混色領域が検出された場合には(S14:Yes )、混色領域に該当する刺繍データに基づいて印刷データ作成処理制御(図7参照)が実行される(S15)。
【0066】
この制御が開始されると、先ず、刺繍データに基づいて、刺繍縫目通りにリアルに印刷するリアル印刷データを作成する作成処理が実行される(S21)。このリアル印刷データ作成処理について簡単に説明すると、先ず、図13−1に示すように、針落ち点Na、Nb、Nc、Nd・・・・Nnを順々に結んだ直線縫目I0,I1,I2,I3,I4・・・Inを表す印刷データが作成される。
【0067】
次に、図13−2に示すように、各直線縫目I0,I1,I2,I3,I4・・・Inについて、刺繍データ中の糸色コードにより示される糸色と同じ色であって、標準的な刺繍糸(ポリエステルやレーヨン)の太さ(例えば、60〜80番の糸太さ)を加味した直線縫目I0a,I1a,I2a,I3a,I4a・・・Inaを表す印刷データが作成される。
【0068】
そして、最終的に、図13−3に示すように、各直線縫目I0a,I1a,I2a,I3a,I4a・・・Inaについて、直線縫目の原点側、つまり図13−3において下側に陰影を付加する陰影処理を実行したリアルな直線縫目I0b,I1b,I2b,I3b,I4b・・・Inbを表す印刷データが作成される。
【0069】
この場合、刺繍模様「シマウマ」の印刷データは、図14に示すように、図12に示す元の刺繍模様「シマウマ」に対して、リアル表現が可能になっている。次に、色別刺繍領域が演算により求められる(S22)。
【0070】
この色別刺繍領域演算処理においては、S21で作成された印刷データに基づいて、図15−1に示すように、同じ印刷色の印刷データからなる複数の色別刺繍領域E1,E2,E3,E4,E5・・・ENが色毎に求められる。次に、これら複数の色別刺繍領域の各々に色別刺繍領域番号が附される一方、色別刺繍領域ポインタPに初期値「1」がセットされ(S23)、色別刺繍領域ポインタPで指示する色別刺繍領域について、その印刷色が検索される(S24)。
【0071】
ところで、一般に、印刷色はここでは、光の三原色であるRGBの値で指示されているため、その印刷色であるRGB値に基づいて、予め設定した所定の中間色か否かが判定され、所定の中間色の場合には(S25:Yes )、その色別刺繍領域について、グラデーション処理が実行される(S26)。ここで、グラデーション処理とは、階調表現だけでなく、色別刺繍領域の境界部分の色をぼかす為のぼかし処理を含むものである。
【0072】
例えば、図15−1に示すように、複数の色別刺繍領域E1,E2,E3,E4,E5・・・ENのうち、色別刺繍領域E2と色別刺繍領域E4とに挟まれた狭い中間の色別刺繍領域E3の印刷色のRGB値が中間色の場合には、図15−2に示すように、中間色別刺繍領域E3の左半部分E3Lが左側の色別刺繍領域E2の印刷色に近い印刷色のRGB値に変更されるとともに、中間色の別刺繍領域E3の右半部分E3Rが右側の色別刺繍領域E3の印刷色に近い印刷色のRGB値に変更して、グラデーション処理される。このようなグラデーション処理を複数回繰り返すことで、色別刺繍領域E3の境界部分にぼかし処理を施すようにしてもよい。
【0073】
次に、色別刺繍領域ポインタPの値が最大の色別刺繍領域番号でない場合には(S27:No)、色別刺繍領域ポインタPが1つインクリメントされ(S28)、S24以降が繰り返して実行される。そして、色別刺繍領域ポインタPの値が最大の色別刺繍領域番号に達して、全ての色別刺繍領域について検索処理が完了した場合には(S27:Yes )、全ての色別刺繍領域について、印刷データが作成されていない空白部の有無が検索され、空白部を検出した場合、その空白部に、周りの印刷色と同じ色の印刷のためのベタ状の印刷データを補足して追加する補足処理が実行され(S29)、この制御を終了して、標準複合データ処理制御のS16にリターンする。
【0074】
例えば、刺繍模様「シマウマ」は、図16に示すように、空白部がうめ埋めつくされ、しかもグラデーション処理された印刷データを部分的に含んだリアルな印刷データが作成される。次に、標準複合データ処理制御において、S11で読み込んだ刺繍データの全ての糸色情報を淡い色に単一化する糸色情報変更処理が実行され(S16)、この制御を終了する。例えば、図17に示すように、各色別刺繍領域E1,E2,E3・・・ENの糸色コードとして、「白」の糸色コードに変更される。
【0075】
その後、このようにリアルな印刷データが作成され、しかも印刷色が単一化された刺繍データが作成されたので、その刺繍データに基づいて刺繍ミシン2により単一色(この場合、白色)の刺繍糸で刺繍された後、リアル印刷データに基づいてインクジェットプリンタ3により印刷される。ここで、標準複合データ処理制御の、特にS13等から混色領域演算手段が構成され、標準複合データ処理制御の特にS15等から印刷データ作成手段が構成されている。
【0076】
このように、複数の糸色情報と針落ち点位置情報を含む刺繍データが解析された結果、複数の糸色の糸で刺繍され、しかもサテン縫いやタタミ縫いを含む所定の縫目形式以外の特殊な縫目となる刺繍領域「シマウマ」が混色領域として抽出され、その混色領域に、その混色領域の複数の糸色と同じ色で印刷する印刷データが作成されるので、複数の糸色の糸で刺繍される混色領域「シマウマ」を、刺繍に際して用いる複数の糸色と同じ色で印刷データによりカラー印刷することができる。
【0077】
また、混色領域に属する刺繍データを有する全部の糸色情報を所定の単一の糸色を表す糸色情報に置き換えるので、糸色が単一化された刺繍データにより、糸替えを行わずに一気に刺繍することができ、刺繍による風合いを残しつつ、刺繍処理に要する処理時間の短縮化を図ることができる。
【0078】
一般的に、写真画像に基づいてこの写真画像を刺繍ミシンにより刺繍縫製する為に作成された刺繍データにおいて、前述のような混色領域を縫製する為の刺繍データについては、混色により原画像の色合いを表現するため、針数が多いのみでなく、縫製に用いる糸色数についても相当多くなることが多い。従って、本実施例のように、このような混色領域については単一の糸(白色の糸)で刺繍を行い、刺繍縫製後、その混色領域に対してカラー印刷を行うことにより、刺繍処理の際に刺繍ミシンに対する色替えの処理を要することなく混色領域の刺繍縫製を行うことになるため、作業者による色替え作業負荷及びその色替えに要する時間を省略でき、刺繍処理に要する時間の大幅な短縮化が可能になる。
【0079】
更に、混色領域の刺繍データから刺繍縫目通りにリアルに印刷するリアル印刷データを作成し、そのリアル印刷データに基づいて色別の領域である複数の色別刺繍領域E1,E2,E3・・・Enを演算し、複数の色別刺繍領域E1,E2,E3・・・Enのうち所定条件を満たす色別刺繍領域E3についてグラデーション処理を施して印刷に供する印刷データを作成するので、その印刷データを用いて印刷することにより、所定条件を満たす色別刺繍領域E3について滑らかな階調表現にすることができ、混色領域における印刷処理によるリアル性を格段に高めることができる。
【0080】
ところで、ディスプレイ14に表示されたメインメニュー(図示略)のうちの「複合データ処理」を選択して、例えば、図18に示すように、「複合データ処理設定」のうちの 作業者がブロックカーソルKにより、選択項目「2」の「印刷後に第1特定領域に刺繍」を選択すると、図8に示す第1複合データ処理制御が開始される。
【0081】
この制御は、図5に基づいて説明した標準複合データ処理制御と略同じであるが、S16に代えて設けられたS16A とS16B についてのみ説明するものとする。即ち、S15に示す印刷データ作成処理の後、刺繍データに基づいて、縫い順が最も後になる色別刺繍領域を第1特定領域として抽出され(S16A ) 、その第1特定領域以外の色別刺繍領域の刺繍データが削除される(S16B )。ここで、第1特定領域以外の色別刺繍領域の刺繍データを、削除するのではなく、無効化するようにしてもよい。
【0082】
例えば、図19に示すように、縫い順が最後である「黒」の色別刺繍領域ENだけが残り、それ以外の色別刺繍領域E1,E2,E3・・・E (N−1) の刺繍データが削除(或いは無効化)される。それ故、S15で作成されたリアル印刷データにより印刷された後、このように作成された刺繍データにより黒のシマ模様が刺繍されるので、特徴的な黒のシマ模様により、風合い表現や立体表現が可能になる。
【0083】
このように、複数の糸色に対応する複数の色別刺繍領域のうち、縫い順が最も後になる色別刺繍領域を特定領域として抽出するので、縫い順において最後に刺繍する刺繍模様における特徴的な色別刺繍領域について、刺繍糸により風合い表現や立体表現だけでなく、リアルな表現が可能になる。
【0084】
更に、模様の風合いや立体感の表現のために刺繍処理を行った方が良いと考え得る特徴的な色別刺繍領域(特定領域)については刺繍を行い、その他の領域については刺繍処理に代えてプリンタによるカラー印刷処理を行うことが可能となるので、プリンタによる印刷処理と比べて処理時間を長く要する刺繍ミシンによる刺繍処理を省略することができ、刺繍処理に要する処理時間の大幅な短縮化が可能になる。
【0085】
但し、この特定領域の抽出については、縫い順が最後となる色別刺繍領域に限らず、縫い順が所定の後半の順序となる複数の色別刺繍領域を特定領域として抽出するようにしてもよい。この場合には、刺繍模様の縫い順において所定の後半(例えば、最後と最後から2番目)に刺繍する特徴的な色別刺繍領域について、刺繍糸により風合い表現や立体表現だけでなく、リアルな表現が可能になる。更に、特定領域にだけ刺繍するので、前述したのと同様に、刺繍処理に要する処理時間の短縮化を図ることができる。
【0086】
ところで、ディスプレイ14に表示されたメインメニュー(図示略)のうちの「複合データ処理」を選択して、例えば、図20に示すように、「複合データ処理設定」のうちから、作業者がブロックカーソルKにより、選択項目「3」の「印刷後に第2特定領域に刺繍」を選択すると、図9に示す第2複合データ処理制御が開始される。
【0087】
この制御は、図5に基づいて説明した標準複合データ処理制御と略同じであるが、S16に代えて設けられたS16C とS16D についてのみ説明するものとする。即ち、S15に示す印刷データ作成処理の後、刺繍データに基づいて、S12で求められた複数の色別刺繍領域のうち、面積が最も大きい色別刺繍領域が第2特定領域として抽出され(S16C)、その第2特定領域以外の色別刺繍領域の刺繍データが削除される(S16D )。ここで、第2特定領域以外の色別刺繍領域の刺繍データを、削除するのではなく、無効化するようにしてもよい。
【0088】
例えば、図19に示すように、面積が最も大きい「黒」の色別刺繍領域ENだけが残り、それ以外の色別刺繍領域E1,E2,E3・・・E (N−1) の刺繍データが削除(或いは無効化)される。それ故、S15で作成されたリアル印刷データで印刷された後、このように作成された刺繍データにより、黒のシマ模様が刺繍されるので、特徴的な黒のシマ模様により、風合い表現や立体表現が可能になる。
【0089】
このように、複数の糸色に対応する複数の色別刺繍領域のうち、面積が最も大きい色別刺繍領域を特定領域として抽出し、その特定領域を除く領域に該当する刺繍データを削除するので、面積が比較的大きいが故にリアル表現させるような刺繍模様における特徴的な色別刺繍領域について、刺繍糸による立体的且つリアルな表現が可能になる。更に、前述の場合と同様に、刺繍処理に要する処理時間の短縮化を図ることができる。
【0090】
また、複数の糸色に対応する複数の色別刺繍領域のうち、面積が大きい方から数えて所定数の領域、例えば、面積が大きい方から2番目までの色別刺繍領域を特定領域として抽出し、その特定領域を除く領域に該当する刺繍データを削除するようにしてもよく、この場合にも、面積が比較的大きいが故に、リアル表現させるような複数色の色別刺繍模様における特徴的な色別刺繍領域について、刺繍糸により風合い表現や立体表現だけでなく、リアルな表現が可能になる。更に、前述したのと同様に、刺繍処理に要する処理時間の短縮化を図ることができる。
【0091】
更に、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域のうち、面積が所定の大きさ以上である刺繍領域を特定領域として抽出し、その特定領域を除く領域に該当する刺繍データを削除するようにしてもよく、この場合には、面積が所定の大きさ以上であって、刺繍領域が比較的大きいが故にリアル表現させるような刺繍模様における特徴的な刺繍領域について、刺繍糸により風合い表現や立体表現だけでなく、リアルな表現が可能になる。更に、前述の場合と同様に、刺繍処理に要する処理時間の短縮化を図ることができる。
【0092】
ところで、ディスプレイ14に表示されたメインメニュー(図示略)のうちの「複合データ処理」を選択して、例えば、図21に示すように、「複合データ処理設定」のうちから、作業者がブロックカーソルKにより、選択項目「4」の「印刷後に第3特定領域に刺繍」を選択すると、図10に示す第3複合データ処理制御が開始される。
【0093】
この制御は、図5に基づいて説明した標準複合データ処理制御と略同じであるが、S16に代えて設けられたS16E とS16F についてのみ説明するものとする。即ち、S15に示す印刷データ作成処理の後、刺繍データに基づいて、相互に重なる刺繍領域のうち、重なりの下側になる重なり部を除いた下側の刺繍領域部と上側の刺繍領域との面積を比較し、面積が大きい領域が第3特定領域として抽出され(S16E)、その第3特定領域以外の刺繍領域の刺繍データが削除される(S16F )。ここで、第3特定領域以外の刺繍領域の刺繍データを、削除するのではなく、無効化するようにしてもよい。
【0094】
例えば、図4,図22に示すように、最後に刺繍する黒色領域ENの一部の刺繍領域ENa,Nb・・・Nnと、それ以前に刺繍される黄色領域E3の一部の刺繍領域E3a,E3b・・・E3nとが夫々部分的に重なり、しかもこれら刺繍領域ENa,Nb・・・Nnの各々が刺繍領域E3a,E3b・・・E3nに対して上側に重なっている。
【0095】
そこで、右下がり斜線で示す刺繍領域ENa,Nb・・・Nnと、刺繍領域E3a,E3b・・・E3nのうちから刺繍領域ENa,Nb・・・Nnとの重なり部を除いた左下がり斜線で示す領域の面積が比較され、面積が大きい黒色領域ENが第3特定領域として抽出される。
【0096】
その結果、面積が大きくて特徴部分である「黒」の色別刺繍領域ENだけが残り、それ以外の色別刺繍領域E1,E2,E3・・・E (N−1) の刺繍データが削除される。それ故、S15で作成されたリアル印刷データで印刷された後、このように作成された刺繍データにより黒のシマ模様が刺繍される。
【0097】
このように、他の刺繍領域と重なって下側に隠れる刺繍部を省略した相互に重なり関係を有する刺繍領域のうちの面積が大きく、刺繍模様における特徴的な黒のシマ模様について、刺繍糸により風合い表現や立体表現だけでなく、リアルな表現が可能になる。更に、刺繍処理に要する処理時間の短縮化を図ることができる。
【0098】
また、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域の各々のうち、他の刺繍領域と重なり且つ縫い順が後の刺繍領域で覆われる領域を特定領域として抽出し、その特定領域を除く領域に該当する刺繍データを無効化するようにしてもよく、この場合には、他の刺繍領域と重なり、しかも縫い順が後の刺繍領域で覆われる刺繍領域であって、特徴的な刺繍領域の模様を風合い表現や立体表現だけでなく、リアルな表現が可能になる。更に、刺繍処理に要する処理時間の短縮化を図ることができる。
【0099】
尚、上述の第2複合データ処理制御(図9参照)及び第3複合データ処理制御(図10参照)において、S14の混色領域の抽出に基づきS15の印刷データの作成処理を行うようにしているが、S14による混色領域の抽出の有無に関わらず、第2複合データ処理制御のS16Dや第3複合データ処理制御のS16Fにおける各々第2特定領域以外や第3特定領域以外の色別刺繍領域の刺繍データを削除(或いは無効化)する際に、その削除(或いは無効化)される刺繍データに基づいてその部分のみを印刷処理する印刷データを作成するようにしても良い。
【0100】
この場合、上述した刺繍処理に要する時間の短縮化といった効果に加え、特定部分以外の領域のみの印刷データを作成するようにするため、刺繍模様の全てを印刷処理する場合に比べて、プリンタの着色剤(インクジェットプリンタの場合はインク)の消費量を抑制することができる。
【0101】
次に、前記実施の形態の変更形態について説明する。
【0102】
1〕図7に示す印刷データ作成制御を部分的に変更し、面積が小さい色別刺繍領域についてグラデーション処理を施すようにしてもよい。即ち、図23に示すように、この制御のS21〜S23まで前述したように実行した後、色別刺繍領域ポインタPで指示する色別刺繍領域について面積が演算され(S24A ) 、その面積が所定値以下の場合に(S25A :Yes )、グラデーション処理が実行される(S26)。
【0103】
このように、面積が所定値以下である色別刺繍領域についてグラデーション処理を施すので、混色領域において小さな面積を占める繋ぎ的な色別刺繍領域に関してグラデーション処理を採用することにより、より滑らかな階調表現が可能になり、混色領域のリアル表現をより一層高めることができる。
【0104】
2〕図7に示す印刷データ作成制御を部分的に変更し、糸密度が小さい色別刺繍領域についてグラデーション処理を施すようにしてもよい。即ち、図24に示すように、この制御のS21〜S23まで前述したように実行された後、色別刺繍領域ポインタPで指示する色別刺繍領域について糸密度が演算され(S24B ) 、その糸密度が所定値以下の場合、つまり縫目が所定値よりも粗い場合に(S25B :Yes )、グラデーション処理が実行される(S26)。
【0105】
このように、糸密度が小さい色別刺繍領域についてグラデーション処理を採用することにより、より滑らかな階調表現が可能になり、混色領域のリアル表現をより一層高めることができる。
【0106】
3〕図5及び図8〜図10に示す複合データ処理制御のS11において夫々読み込まれる刺繍データは、イメージスキャナ13により読み込んだカラー画像の画像データから作成したものでもよい。
【0107】
4〕複合データ処理装置1は刺繍ミシン2とは別体に設けたが、刺繍ミシン2の制御ユニット42が複合データ処理装置1を兼ね備えるように構成するようにしてもよい。この場合、パーソナルコンピュータからなる複合データ処理装置1を別途準備しなくてもよく、刺繍ミシン2を有効活用することができる。
【0108】
5〕本発明は以上説明した実施の形態に限定されるものではなく、当業者でれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、前記実施例に種々の変更を付加して実施することができ、本発明はそれらの変更形態をも包含するものである。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の実施例に係る複合データ処理装置とインクジェットプリンタを有する刺繍ミシンと枠駆動装置の接続図である。
【図2】複合データ処理装置の制御系のブロック図である。
【図3】刺繍ミシンとインクジェットプリンタと枠駆動装置の制御系ブロック図である。
【図4】刺繍データのデータ構成を説明する図表である。
【図5】標準複合データ処理制御のフローチャートである。
【図6−1】折り返し縫目を含む場合の輪郭点の検出原理を説明する説明図である。
【図6−2】折り返し縫目を含まない場合の図6−1相当図である。
【図7】印刷データ作成制御のフローチャートである。
【図8】第1複合データ処理制御のフローチャートである。
【図9】第2複合データ処理制御のフローチャートである。
【図10】第3複合データ処理制御のフローチャートである。
【図11】複合データ処理設定の表示例を示す図である。
【図12】刺繍模様「シマウマ」の刺繍データを説明する説明図である。
【図13−1】針落ち点を結ぶ縫目データを説明する説明図である。
【図13−2】縫糸の太さに応じて修正した縫目データを説明する説明図である。
【図13−3】陰影を付加して更に修正した縫目データを説明する説明図である。
【図14】リアル印刷データを説明する図表である。
【図15−1】中間色の別刺繍領域を有する複数の色別刺繍領域の説明図である。
【図15−2】グラデーション処理後の複数の色別刺繍領域の説明図である。
【図16】修正後のリアル印刷データを説明する図表である。
【図17】糸色が単一化された図4相当図である。
【図18】複合データ処理設定の表示例を示す図である。
【図19】黒色刺繍領域に関する刺繍データを説明する図表である。
【図20】複合データ処理設定の表示例を示す図である。
【図21】複合データ処理設定の表示例を示す図である。
【図22】相互に重なる複数の色別刺繍領域を説明する説明図である。
【図23】変更形態に係る図7相当図である。
【図24】変更形態に係る図7相当図である。
【符号の説明】
【0110】
1 複合データ処理装置
2 刺繍ミシン
3 インクジェットプリンタ
10 制御装置
22 ROM

【特許請求の範囲】
【請求項1】
刺繍可能なミシンにより布地に刺繍模様を刺繍する為の刺繍データと、前記布地にプリンタで印刷する為の印刷データとを処理する複合データ処理装置であって、
複数の糸色情報と針落ち点位置情報を含む前記刺繍データを解析し、複数の糸色の糸で刺繍される混色領域を求める混色領域演算手段と、
前記混色領域演算手段で求めた混色領域に、その混色領域の複数の糸色と同じ色で印刷する印刷データを作成する印刷データ作成手段と、
を備えたことを特徴とする複合データ処理装置。
【請求項2】
前記混色領域演算手段は、サテン縫いやタタミ縫いを含む所定の縫目形式以外の縫目となる刺繍領域を前記混色領域として抽出することを特徴とする請求項1に記載の複合データ処理装置。
【請求項3】
前記混色領域に属する刺繍データの全部の糸色情報を所定の単一の糸色を表す糸色情報に置き換える糸色情報変更手段を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の複合データ処理装置。
【請求項4】
前記印刷データ作成手段は、前記混色領域の刺繍データから刺繍縫目通りにリアルに印刷するリアル印刷データを作成し、そのリアル印刷データに基づいて色別の領域である複数の色別領域を演算し、複数の色別領域のうち所定条件を満たす色別領域についてグラデーション処理を施すことにより印刷に供する印刷データを作成することを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の複合データ処理装置。
【請求項5】
前記印刷データ作成手段は、色別領域の印刷色がそのRGB値を用いて演算される所定の中間色に属する色別領域についてグラデーション処理を施すことを特徴とする請求項4に記載の複合データ処理装置。
【請求項6】
前記印刷データ作成手段は、色別領域の面積が所定値以下である色別領域についてグラデーション処理を施すことを特徴とする請求項4に記載の複合データ処理装置。
【請求項7】
刺繍可能なミシンにより布地に刺繍模様を刺繍する為の刺繍データと、前記布地にプリンタで印刷する為の印刷データとを処理する複合データ処理装置であって、
複数の糸色情報と針落ち点位置情報を含む前記刺繍データを解析し、刺繍模様に対応する画像を印刷する印刷データを作成する印刷データ作成手段と、
前記刺繍データを解析し、刺繍模様において所定の特徴を有する特定領域を特定する特定領域抽出手段と、
前記特定領域抽出手段により特定された特定領域を除く領域に該当する刺繍データを無効化する刺繍データ無効化手段と、
を備えたことを特徴とする複合データ処理装置。
【請求項8】
前記特定領域抽出手段は、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域のうち、縫い順が所定の後半の順序となる刺繍領域を特定領域として抽出することを特徴とする請求項7に記載の複合データ処理装置。
【請求項9】
前記特定領域抽出手段は、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域のうち、面積が大きい方から数えて所定数の領域を特定領域として抽出することを特徴とする請求項7に記載の複合データ処理装置。
【請求項10】
前記特定領域抽出手段は、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域のうち、面積が所定の大きさ以上である領域を特定領域として抽出することを特徴とする請求項7に記載の複合データ処理装置。
【請求項11】
前記特定領域抽出手段は、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域の各々のうち、他の刺繍領域と重なり且つ縫い順が後の刺繍領域で覆われる領域を特定領域として抽出することを特徴とする請求項7に記載の複合データ処理装置。
【請求項12】
前記特定領域抽出手段は、複数の糸色に対応する複数の刺繍領域の各々のうち、相互に重なる刺繍領域のうち下側の重なり部を除いた面積が大きい領域を特定領域として抽出することを特徴とする請求項7に記載の複合データ処理装置。
【請求項13】
前記印刷データ作成手段は、前記刺繍データ無効化手段により無効化される刺繍データに基づいて、当該刺繍データに対応する刺繍領域の画像を印刷する印刷データを作成することを特徴とする請求項7〜12の何れかに記載の複合データ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6−1】
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【図6−2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13−1】
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【図13−2】
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【図13−3】
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【図14】
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【図15−1】
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【図15−2】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2006−204368(P2006−204368A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−17143(P2005−17143)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】