説明

複合体の製造方法

【課題】本発明は、多孔体の内部に薄膜化した金属充填層を有する複合体の製造方法を提供すること。
【解決手段】多孔質基材の片側から金属源(イオン、微粒子、化合物)あるいは金属源及びゲル化剤を含む前駆体溶液を浸透させたのち、反対側から前駆体溶液が滲出する前に該前駆体溶液を固化させて細孔複合体(A)を得る工程、前記細孔複合体(A)に、前記前駆体溶液を浸透させた反対側から、還元剤を含む溶液を浸透させることにより、前記細孔複合体(A)の細孔内に金属種核を担持させる工程、前記工程で得られた金属種核を担持した細孔複合体(B)を無電解メッキ処理する工程を含むことを特徴とする複合体の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素を含む混合ガスから水素ガスを選択的に透過分離するのに用いられる複合体の製造方法に関する。さらに、本発明は前記複合体を用いて水素ガスを分離する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素ガスは化成品の原料ガス、ガラスや電子材料の処理ガス、ロケットや燃料電池の燃料ガス等非常に多岐に渡って大量に利用されている工業的に重要なガスである。近年は、水素燃料電池の本格的な実用化を目前にして、改めて注目されており、高純度の水素を安価に製造する技術の開発が急務となっている。水素の製造方法としては、天然ガスや精油所のオフガス、ナフサ等の石油系炭化水素のスチームリフォーミング法、或いは、重質油やその他の原料炭化水素の熱分解法が代表的な方法であり、これらによって製造された水素含有ガスを水素分離膜により精製分離して高純度の水素ガスを製造する。
【0003】
このような水素分離膜として、無機質材料からなる多孔質支持体の表面にパラジウムを含有する薄膜を形成させてなる水素分離膜(特許文献1)や、金属多孔体の表面にバナジウムおよびパラジウムを含有する薄膜を形成させてなる水素分離膜(特許文献2)が知られている。しかしながら、前者の水素分離膜は高価なパラジウムを多量に使用しなければならず、実用的でない。また、後者の水素分離膜は高温下において合金化し、水素透過性能が低下してしまうため、やはり実用的な面で問題があった。そのため、パラジウム使用量を低減する目的でCVD、無電解メッキ等による水素分離膜の薄膜化が試みられていた(特許文献3、4)。しかしながら、薄膜化した場合、水素脆化、球状剥離等の問題があり(非特許文献1)、水素分離膜の耐久性が低くなるという問題が生じていた。
【0004】
一方、十分な耐久性を保持する水素分離膜としては、例えば、細孔を有する基材の表面に圧延パラジウム合金膜を付着させた膜が知られている(特許文献5)。この水素分離膜は、耐久性を高くするために、パラジウム合金膜を5μmもしくはそれ以上の膜厚とする必要があり、高価なパラジウムを大量に使用する必要があり、コスト面から実用化が困難である。
【0005】
以上の問題を解決するために、薄膜化し、かつ十分な耐久性を有する水素分離膜として、多孔質基材、多孔質材とその細孔隙に充填され該細孔隙を閉塞する金属とからなる金属緻密充填材および多孔質保護材が順に成層されてなる複合膜が提案されている(特許文献6)。
しかしながら、この水素分離膜では、三層構造をとっているため、製造が煩雑であるとともに、中間層である金属緻密充填材における金属が金属緻密充填材全体に分布しているため、熱膨張により金属緻密充填材内の金属の劣化が生じやすい。また、多孔質基材に金属層を形成したのち、さらに表面に酸化物微粒子を堆積させて焼結させる方法では、金属の融解温度(ケルビン温度)の1/2程度で金属間のシンタリングが生じるため、例えばパラジウムでは700℃以上で酸化物微粒子を焼結させることができない。そのため、例えばアルミナ酸化物微粒子が十分焼結する1250℃程度で複合体を形成することができず、実用的に十分な強度を得ることは困難である。このような問題を解決するため、多孔質材表面に微細孔を有する保護層をあらかじめ形成した後、対抗拡散手法により直接金属を充填する手法が提案されている(特許文献7)。しかしながら、この水素分離膜は従来法で調製した水素分離膜と比較して水素の透過速度が遅いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−121616号公報
【特許文献2】特開平5−285355号公報
【特許文献3】特開2002−153740号公報
【特許文献4】特開2003−135943号公報
【特許文献5】特開2006−175379号公報
【特許文献6】特開2006−95521号公報
【特許文献7】特開2009−189934号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.N.Paglieri,J.D.Way、「Separation and Purification Methods」、31巻、p.1〜169、2002年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、多孔体の内部に薄膜化した金属充填層を有する複合体の製造方法を提供することを目的とする。さらに、複合体を水素分離に用いる場合、水素透過性および耐久性に優れ、なおかつパラジウム等の金属の使用量を大幅に低減しうるため低コストで製造しうる複合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、多孔質基材の細孔内に金属を担持させるに際し、例えば多孔質基材が板状(平膜)の場合、還元剤を含む溶液と金属源を含む溶液の一方を多孔質基材の上表面から、他方を下表面からそれぞれ浸透、ゲル化させることにより、還元剤あるいは金属源の基材表面への移動を防止し、多孔質基材の細孔内に金属を選択的に充填することができ、それにより複合体内に成層された金属充填層を極めて薄膜化できることを見出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、
[1]複合体の製造方法であって、(1)金属源及びゲル化剤を含む前駆体溶液を作製し、該前駆体溶液を多孔質基材の片側から浸透させたのち、反対側から該前駆体溶液が滲出する前に、該前駆体溶液を固化させて複合体(A)を得る工程、(2)前記複合体(A)に、前記前駆体溶液を浸透させた反対側から、還元剤を含む溶液を浸透させることにより、前記複合体(A)の細孔内に金属種核を担持させる工程、(3)前記(2)の工程で得られた金属種核を担持した複合体(B)を無電解メッキ処理する工程、を含むことを特徴とする複合体の製造方法、
[2]複合体の製造方法であって、(1)還元剤及びゲル化剤を含む前駆体溶液を多孔質基材の片側から浸透させたのち、反対側から該前駆体溶液が滲出する前に、該前駆体溶液を固化させて複合体(C)を得る工程、(2)前記複合体(C)に、前記前駆体溶液を浸透させた反対側から金属源を含む溶液を浸透させることにより、前記複合体(C)の細孔内に金属種核を担持させる工程、(3)前記(2)の工程で得られた金属種核を担持した複合体(D)を無電解メッキ処理する工程、を含むことを特徴とする複合体の製造方法、
[3]さらに、前記(3)の工程の前又は(3)の工程の後に、上記(2)の工程で得られた複合体を洗浄及び/又は焼成する工程を含む前記[1]又は[2]に記載の製造方法、
[4]ゲル化剤が、アガロース、寒天、でんぷん、アラビアガム、サイリウムシードガム、プルラン、ゼラチン、デキストリン、トラガカント(tragacanth)、ペクチン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、キサンタンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、ジェランガム、カルボキシビニルポリマー、アクリルコポリマー、ポリアクリルアミド類、水溶性セルロース性ポリマー、ポリビニルピロリドン、ベントナイト、エチルセルロース、ポリエチレン、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ガッディーガム、アラビノガラクタン及びカードランからなる群から選ばれる1以上である前記[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法、
[5]還元剤が、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、クエン酸、クエン酸ナトリウム、タンニン酸、ジボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、グルコースおよび塩化スズからなる群から選ばれる1以上である前記[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法、
[6]金属源が、金属イオン、金属微粒子、又は、金属を含む化合物であることを特徴とする前記[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法、
[7]金属が、周期表の4族、5族、8〜11族のいずれかの遷移金属である前記[6]記載の製造方法、
[8]金属が、パラジウムである前記[6]記載の製造方法、
[9]前記[1]〜[8]のいずれかに記載の製造方法によって得られることを特徴とする水素分離膜、及び
[10]水素を含有する混合ガスを、前記[9]に記載の水素分離膜に接触させて、水素を選択的に透過させることを特徴とする水素分離方法、
に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る複合体は、それを構成する金属充填層において、充填された金属が多孔質基材中の狭い範囲に分布しているため、充填する金属の使用量の低減が可能となる。特に、本発明の複合体を水素分離に特化して用いる場合、パラジウム(Pd)充填層厚の低減、すなわちパラジウム使用量の大幅な低減が可能となる。また、金属を多孔質基材中に充填することにより、本発明に係る複合体は、優れた水素透過性を有するのみならず、基材表面からのはがれ及び損傷に高い耐性を有し、充填金属を基材中で成長させることにより水素脆化を大幅に緩和することができるという優れた耐久性を有する。さらに、基材表面に保護材を積層する必要がないため、製造が簡便であり、市販のあらゆる多孔質基材内部に金属を直接充填することを可能とし、無機膜のピンホール修復等にも応用可能である。また、金属膜モジュールを触媒反応器と一体型とした膜反応器(メンブレンリアクター)に適用する場合、多孔質基材表面に金属が露出していないため、リアクター内部で触媒との物理的接触による膜の破損や合金化による膜の劣化の防止が可能である。あるいは、膜モジュールの移動・メンテナンス時にも多孔質基材表面に金属が露出していないため壊れにくいという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、多孔質基材がアルミナ基板であり、金属源がパラジウムである場合の、本発明の第二の態様の概略図を示す。
【図2】図2は、本発明に係る複合体の断面図の一例を示す。
【図3】図3は、多孔質基材がアルミナ基板であり、前駆体溶液が塩化パラジウムゲルであり、還元剤がヒドラジンの場合の、本発明の第一の態様の概略図を示す。
【図4】図4は、実施例1で得られた複合体のレーザー顕微鏡観察の観察結果を示す。
【図5】図5は、実施例2で得られた複合体のレーザー顕微鏡観察の観察結果を示す。右図は、左図の拡大図である。
【図6】図6は、エネルギー分散型X線分析装置(EDX)での分析結果を示す。図6(a)は、一次めっき後の分析結果を示し、(b)は、二次めっき後の分析結果を示す。
【図7】図7は、気体透過試験装置模式図である。
【図8】図8は、実施例1の複合体の気体透過試験結果(500〜200℃)である。
【図9】図9は、実施例2の複合体の気体透過試験結果(600〜200℃)である。
【図10】図10は、実施例3の複合体の気体透過試験結果(500℃)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の第一の態様について説明する。本発明の複合体の製造方法は、(1)多孔質基材の片側から、金属源及びゲル化剤を含む前駆体溶液を浸透させたのち、反対側から該前駆体溶液が滲出する前に、該前駆体溶液を固化させて複合体(A)を得る工程、(2)前記複合体(A)に、前記ゾルを浸透させた反対側から、還元剤を含む溶液を浸透させることにより、前記複合体(A)の細孔内に金属種核を担持させる工程、(3)前記(2)の工程で得られた金属種核を担持した複合体(B)を無電解メッキ処理する工程、を含むことを特徴とする。以下、各工程について説明する。
【0014】
工程(1)は、多孔質基材の片側から、金属源及びゲル化剤を含む混合溶液(以下、前駆体溶液(A)ともいう)を浸透させたのち、反対側から該前駆体溶液が滲出する前に、該前駆体溶液(A)を固化させて複合体(A)を得る工程である。該工程により、多孔質基材の内部に金属源及びゲル化剤を含むゲル層を形成させることができる。
【0015】
多孔質基材としては、金属充填層を支持し、複合体全体として機械的強度を付与するものであれば特に制限はないが、耐熱性の観点から好ましくは多孔質セラミックス又は多孔質金属からなるものが挙げられ、市販品を用いてもよい。さらに、水素分離膜としてすでに使用したものを多孔質基材として用いることもできる。これにより、何度も複合膜を再生して利用できるためである。多孔質とは、細孔を有し、かつ前記細孔が連通して通気性があるものを意味する。
【0016】
前記多孔質セラミックスとしては、酸化物、窒化物または炭化物等が挙げられ、具体的にはアルミナ、ジルコニア、チタニア、ニオビア、セリア、シリカ、コージェライト、ムライト、窒化ケイ素、炭化ケイ素、酸化ニッケル、酸化コバルト、酸化鉄、酸化クロム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化タングステンまたは酸化モリブデン等が挙げられ、中でもアルミナ、シリカ、ジルコニア、コージェライト、ムライト、窒化ケイ素、炭化ケイ素等が好ましく挙げられるが、これらに限らず、種々の多孔質体を用いることができる。これらの多孔質セラミックスは単独で用いてもよく、2以上を混合して用いてもよい。
【0017】
前記多孔質金属については、その構造上からは、金属不織布、金属粉焼結多孔体、金属穿孔体等が、その物性上からは耐熱性や耐食性を有する金属や合金、例えばニッケル、ステンレス鋼等がそれぞれ挙げられる。これらの多孔質金属は単独で用いてもよく、2以上を混合して用いてもよい。
【0018】
多孔質基材の形態は、特に限定されず、必要に応じて適宜選択でき、例えば、管状(チューブ状)、板状等が挙げられる。前記「片側」は、例えば、多孔質基材が管状である場合、管の内側でもよく、外側でもよい。前記多孔質基材の細孔の孔径は、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されないが、通常、0.001〜20μmであり、好ましくは0.004〜1μmである。
【0019】
前駆体溶液(A)は、金属源を含む溶液を作製し、該溶液とゲル化剤とを混合撹拌することにより得ることができる。
【0020】
金属源を含む溶液の金属源としては、無電解メッキ処理の可能な金属であれば、特に限定されず、例えば、遷移金属の単体または合金が挙げられ、これらの金属のイオン、微粒子、化合物のいずれでもよい。前記遷移金属としては、周期表の4族、5族、8族、9族、10族または11族の金属が挙げられる。具体的には、銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、金、白金、イリジウム、オスミウム、銅、ニッケル、コバルト、鉄、バナジウムまたはチタン等が挙げられる。合金としては、例えばパラジウムと、銀、銅、ニッケル等の金属とからなるもの等が挙げられる。これらの金属は単独で用いてもよく、2以上を混合して用いてもよい。また、金属としては、パラジウム等の水素選択透過性金属が好ましい。金属源を含む溶液としては、前記金属源を適当な溶媒に溶解した溶液が挙げられる。金属をパラジウムとした場合、例えば酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、塩化パラジウム、塩化パラジウム酸、パラジウムアセチルアセトナート、パラジウムヘキサフルオロアセチルアセトナート等のパラジウム化合物が挙げられる。溶媒としては、水、エタノール、プロパノール、クロロホルム、塩酸等が挙げられる。金属源を含む溶液の濃度は、通常0.001〜10M程度、好ましくは0.005〜0.1M程度である。
【0021】
前記ゲル化剤としては、アガロース、寒天、でんぷん、アラビアガム、サイリウムシードガム、プルラン、ゼラチン、デキストリン、トラガカント(tragacanth)、ペクチン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、キサンタンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、ジェランガム、カルボキシビニルポリマー、アクリルコポリマー、ポリアクリルアミド類、水溶性セルロース性ポリマー、ポリビニルピロリドン、ベントナイト、エチルセルロース、ポリエチレン、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ガッディーガム、アラビノガラクタン、カードラン等が挙げられる。前記水溶性セルロース性ポリマーとしては、例えば、カルボキシアルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルアルキルセルロース等が挙げられる。前記ベントナイトとしては、例えば、Na−ベントナイト、Ca−ベントナイト等が挙げられる。ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとしては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
【0022】
前記ゲル化剤は、金属源を含む溶液に添加して混合攪拌してもよく、適当な溶媒(例えば、水、エタノール、プロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、酢酸エチル、トルエン等の無極性溶媒等)に溶解させたゲル化剤を含む溶液として、金属源を含む溶液と混合してもよい。ゲル化剤を含む溶液として使用する場合、ゲル化剤の種類に応じて、所望によりオートクレーブ等により加圧下(例えば1.1〜2気圧)で、加熱(例えば、100〜200℃、5分〜3時間等)して溶解させてもよい。例えば、アガロースをゲル化剤として用いる場合、0.5〜7%程度の濃度になるように水に添加し、オートクレーブで加熱してアガロース溶液を調製し、該アガロース溶液と金属源を含む溶液を混合して、前駆体溶液(A)を得ることができる。
【0023】
前駆体溶液(A)の粘度は、通常0.5mPa・s〜1×10mPa・sであり、1.0mPa・s〜1×10mPa・sが好ましく、多孔質基材の細孔内部まで前駆体溶液(A)を十分浸透させるという点から、1.0mPa・s〜1×10mPa・sが特に好ましく、形態としてはゾルが好ましい。0.5mPa・s未満では、多孔質基材に前駆体溶液(A)を浸透させた際に、前駆体溶液(A)が表面に達する前に該前駆体溶液(A)を固化させることが困難となるおそれがあり、1×10mPa・sを超えると、多孔質基材に接触して急激に冷却される過程で粘度が増加し、前駆体溶液(A)の浸透速度が極端に低下するため、前駆体溶液(A)を多孔質基材に十分に浸透させることが困難だからである。前駆体溶液(A)の粘度は、例えば、低粘度(1×10以下)の場合、ブルックフィールドデジタル粘度計 LVDV−I+C/P(商品名、商品番号:KN3312530、株式会社テックジャム製)等のブルックフィールド粘度計(回転式粘度計)を用いて測定でき、中粘度の場合、ブルックフィールド粘度計 RVDV-II +PRO 中粘度用/KN3312541 (商品名、商品番号:KN3312541、株式会社テックジャム製)等のブルックフィールド粘度計(回転式粘度計)を用いて測定できる。
【0024】
本工程において、前駆体溶液(A)を多孔質基材に浸透させる際の温度は、特に限定されないが、通常4〜100℃であり、40〜90℃が好ましい。前駆体溶液(A)を多孔質基材に浸透させる時間は、多孔質基材のサイズ(直径、細孔径等)と前駆体溶液(A)の粘度等により、適宜選択されるため、特に限定されないが、例えば、多孔質基材として、細孔径0.1μm、直径10mm、内径7mm、長さ30cm(両端ガラスシール、有効長さ:5cm)のアルミナ製チューブを用い、前駆体溶液(A)として、パラジウムを含む5%アガロースゾル(以下、パラジウム含有アガロースゾルともいう)を用いて、アルミナ製チューブの内側から前駆体溶液(A)を浸透させる場合、前駆体溶液(A)をアルミナ製チューブに5秒〜5分程度浸透させる。前駆体溶液(A)の浸透は、前駆体溶液(A)の粘度及び温度条件を適宜設定して、数分では前駆体溶液(A)が表面に出てこないようにし、目視で確認しながら、前駆体溶液(A)が表面に滲出する前に固化する。また、前駆体溶液(A)を多孔質基材に浸透させる際に、多孔質基材が管状である場合、中に芯材(例えば、発泡スチロール等)を入れた状態で、前駆体溶液(A)を多孔質基材に浸透させてもよい。これにより、使用する前駆体溶液(A)の量を減らすことができる。
【0025】
前記固化の方法としては、前駆体溶液を浸透させた側と反対側から該前駆体溶液が滲出する前にゲル化させることができれば、特に限定されず、ゲル化剤の凝固温度が室温以下の場合、室温で乾燥固化してもよく、ゲル化剤の凝固温度以下まで氷冷又は公知の冷却機により冷却固化してもよい。冷却温度は、本発明の目的を阻害しなければ特に限定されないが、多孔質基材内に充填したゲルがより均一に固化するという観点から、0℃〜40℃程度が好ましい。また、ゲル化剤の種類に応じて、架橋剤、重合開始剤等を適宜加えてもよい。例えば、ゲル化剤がアクリルアミド類の場合、架橋剤として、N,N´−メチレンビスアクリルアミドの存在下、ゾルに過酸化アンモニウムとN,N,N´,N´−テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)を重合開始剤として添加し、ラジカル重合することにより固化して、ポリアクリルアミドゲルが得られる。固化させることにより、多孔質基材の細孔に、金属源(例えば、塩化パラジウム等)を有する複合体(A)を得ることができる。
【0026】
工程(2)は、前記複合体(A)に、前記前駆体溶液(A)を浸透させた反対側から、還元剤を含む溶液を浸透させることにより、前記複合体(A)の細孔内に金属種核を担持させる工程である。
【0027】
前記還元剤としては、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、クエン酸、クエン酸ナトリウム、タンニン酸、ジボラン、ヒドラジン、アルデヒド類(例えばホルムアルデヒド)、グルコース、塩化スズ等が挙げられる。前記還元剤を適当な溶媒に溶解して、還元剤を含む溶液が得られる。溶媒としては、水、エタノール、クロロホルム等が挙げられる。前記還元剤は溶液で用いられるほうがより好ましい。還元剤溶液の濃度は、通常0.001〜1M程度、好ましくは0.01〜0.5M程度である。
【0028】
前記還元剤を含む溶液を多孔質基材への浸透は、通常2〜60℃程度、好ましくは20〜40℃程度にて、通常30秒〜100時間程度、好ましくは5〜48時間程度行う。次いで、溶液を水洗除去し、通常1〜48時間程度、好ましくは8〜16時間程度、20〜110℃程度にて乾燥させることにより、多孔質基材の細孔内に金属が担持される。上記の操作によって、前記したゲル内の金属源と前記還元剤を含む溶液とが接触した部分で金属源が還元されて金属種核が形成され、多孔質基材の細孔内に金属種核を担持する複合体(B)を得ることができる。なお、本発明の製造方法により得られる複合体は、金属が多孔質基材の表面に付着することはないため、多孔質基材の表面に保護材を積層することを要しない。
【0029】
工程(3)は、前記(2)の工程で得られた金属種核を担持した複合体(B)を無電解めっき処理する工程である。無電解めっき処理により、金属種核を成長させ、多孔質基材の細孔を成長した金属により閉塞させて金属充填層を形成させることができる。無電解めっき処理の方法としては、通常用いられる方法であれば、特に限定されず、前記特許文献6(特開2006−95521号公報)、特開2005−248192号公報等に示される方法と同様にして行うことができる。
【0030】
無電解めっき処理には、めっき液として、金属イオン、錯形成剤、還元剤、溶剤を含むものを用いるのが好ましい。この金属イオンは、適当な金属塩、例えば酢酸塩、塩化物、硝酸塩、硫酸塩等のメッキ液成分として供され、該金属イオンに相応する金属としては、前記したように、無電解メッキの可能な金属、例えば遷移金属等が挙げられ、遷移金属として好ましくは周期表の4族、5族、8族、9族、10族または11族の金属等が挙げられ、中でも銀、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、金、白金、イリジウム、オスミウム、銅、ニッケル、コバルト、鉄、バナジウムまたはチタン等が挙げられる。これらの金属は単独で用いてもよく、2以上を混合して用いてもよい。
【0031】
前記錯形成剤としては、金属イオンを安定に溶存させるものであればよく、その例として好ましくはアンモニアとキレート剤との組合せ、中でもアンモニアとEDTAとの組合せが挙げられ、キレート剤としては、EDTAの他、NTA(ニトリロトリ酢酸)や、クエン酸、酒石酸等の脂肪族オキシ酸等が挙げられる。無電解メッキ処理に用いる還元剤としては、前記したものが使用できる。無電解メッキ処理に用いる溶剤としては、錯形成剤の種類等にもよるが、水、あるいはアセトニトリル、ベンゼン、クロロホルム等の有機溶媒等が挙げられる。
【0032】
めっき液組成について、例えば金属イオン、キレート剤、アンモニアおよび還元剤を含有する場合、各濃度は、0.001〜0.05M程度、0.01〜0.5M程度、5〜15M程度、0.005〜0.05M程度がよい。メッキ液を調製する場合、前記無電解メッキ処理の直前に還元剤を加えることが好ましい。
【0033】
前記無電解めっき処理の温度は、適宜に設定できるが、通常1〜60℃程度であり、より好ましくは2〜50℃程度である。無電解めっき処理時間はめっき液温度や膜厚にもよるが、通常1分〜100時間程度、好ましくは1〜72時間程度である。前記無電解メッキ処理後、常法により、得られた複合体を洗浄し、乾燥させて本発明の複合体が得られる。
【0034】
本発明では、さらに必要に応じて、前記(3)工程の前又は前記(3)工程の後に、得られた複合体を洗浄及び/又は焼成処理し、不要なゲルおよび金属源等の担持された金属核種以外の余分な残留物を除去する工程を含んでいてもよい。洗浄方法としては、特に限定されないが、例えば、水、エタノール等に複合体を浸漬したのち、室温下、超音波洗浄を行なう方法、温浴(例えば、60〜90℃程度で1〜5時間)で不要物を除去する方法が挙げられる。超音波洗浄で得られた残留物(余剰金属源、ゲル等)を回収して再利用することもできる。また、ゲル等を完全に除去するために、焼成処理を行ってもよい。焼成処理の温度は、特に限定されないが、例えば、400〜900℃が好ましい。焼成処理の時間は、特に限定されないが、1〜48時間程度が好ましい。焼成処理は、空気中でもよく、不活性ガスの存在下でもよい。焼成時の昇温速度は、特に限定されないが、0.1〜1℃/分程度が好ましい。
【0035】
工程(3)の後に、上記洗浄及び/又は焼成処理をした場合、複合体中の金属の緻密化向上を目的として、必要に応じて、さらに、上記した条件で無電解めっき処理を行ってもよく、工程(2)から繰り返しもよく、工程(1)から繰り返してもよい。例えば、一度目は、工程(3)の無電解めっき処理を短時間(例えば、5〜30分程度)行い、上記洗浄及び/又は焼成処理をしたのち、工程(2)を再度行い、次いで、工程(3)の無電解めっき処理(例えば、1〜3時間程度)を行う方法が好ましく挙げられる。
【0036】
以下に、本発明の第二の態様について説明する。本発明の複合体の製造方法の第二の態様は、(1)多孔質基材の片側から還元剤及びゲル化剤を含む前駆体溶液を浸透させたのち、反対側から前駆体溶液が滲出する前に該前駆体溶液を固化させて複合体(C)を得る工程、(2)前記複合体(C)に、前記前駆体溶液を浸透させた反対側から金属源を含む溶液を浸透させることにより、前記複合体(C)の細孔内に金属種核を担持させる工程、(3)前記(2)の工程で得られた金属種核を担持した複合体(D)を無電解メッキ処理する工程、を含むことを特徴とする。多孔質基材がアルミナ基板であり、金属源を含む溶液が塩化パラジウムである場合の製造方法の概略図を図1に示す。以下、各工程について説明する。
【0037】
工程(1)は、多孔質基材の片側から、還元剤及びゲル化剤を含む混合溶液(以下、前駆体溶液(B)ともいう)を浸透させたのち、反対側から前駆体溶液が滲出する前に該前駆体溶液(B)を固化させて複合体(C)を得る工程である。多孔質基材、還元剤及びゲル化剤は、前記した第一の態様と同様のものを使用することができる。
【0038】
前駆体溶液(B)は、還元剤を含む溶液を作製し、該溶液とゲル化剤とを混合撹拌することにより得ることができる。
【0039】
前記ゲル化剤は、還元剤を含む溶液に添加して混合攪拌してもよく、適当な溶媒(例えば、水、エタノール、プロパノール、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の極性溶媒、酢酸エチル、トルエン等の無極性溶媒等)に溶解させたゲル化剤を含む溶液として、還元剤を含む溶液と混合してもよい。ゲル化剤を含む溶液として使用する場合、ゲル化剤の種類に応じて、所望によりオートクレーブ等により加圧下(例えば1.1〜2気圧)で、加熱(例えば、100〜200℃、5分〜3時間等)して溶解させてもよい。例えば、アガロースをゲル化剤として用いる場合、0.5〜7%程度の濃度になるように水に添加し、オートクレーブで加熱してアガロース溶液を調製し、該アガロース溶液と還元剤を含む溶液を混合して、前駆体溶液(B)を得ることができる。
【0040】
前駆体溶液(B)の粘度は、特に限定されないが、通常0.5mPa・s〜1×10mPa・sであり、1.0mPa・s〜1×10mPa・sが好ましく、多孔質基材の細孔内部まで前駆体溶液(B)を十分浸透させるという点から、1.0mPa・s〜1×10mPa・sが特に好ましく、形態としてはゾルが好ましい。0.5mPa・s未満では、多孔質基材に前駆体溶液(B)を浸透させた際に、前駆体溶液(B)が表面に達する前に該前駆体溶液(B)を固化させることが困難となるおそれがあり、1×10mPa・sを超えると、多孔質基材に接触して急激に冷却される過程で粘度が増加し、前駆体溶液(B)の浸透速度が極端に低下するため、前駆体溶液(B)を多孔質基材に十分に浸透させることが困難だからである。前駆体溶液(B)の粘度は、例えば、低粘度(1×10以下)の場合、ブルックフィールドデジタル粘度計 LVDV−I+C/P(商品名、商品番号:KN3312530、株式会社テックジャム製)等のブルックフィールド粘度計(回転式粘度計)を用いて測定でき、中粘度の場合、ブルックフィールド粘度計 RVDV-II +PRO 中粘度用/KN3312541 (商品名、商品番号:KN3312541、株式会社テックジャム製)等のブルックフィールド粘度計(回転式粘度計)を用いて測定できる。
【0041】
本工程において、前駆体溶液(B)を多孔質基材に浸透させる際の温度、時間等は、特に限定されず、前記した第一の態様と同様のものを使用することができる。固化の方法も、前記した第一の態様と同様の方法が挙げられ、固化により複合体(C)を得ることができる。
【0042】
工程(2)は、前記複合体(C)に、前記前駆体溶液(B)を浸透させた反対側から、金属源を含む溶液を浸透させることにより、前記複合体(C)の細孔内に金属種核を担持させる工程である。
【0043】
金属源を含む溶液としては、前記した第一の態様と同様のものを使用することができる。第二の態様では、前記した前駆体溶液(B)にゲル化剤を含めるため、金属源を含む溶液にゲル化剤は含まれることはない。
【0044】
前記金属源を含む溶液を多孔質基材への浸透は、通常2〜60℃程度、好ましくは20〜40℃程度にて、通常1〜120分程度、好ましくは10〜40分程度行う。次いで、溶液を除去し、通常1〜48時間程度、好ましくは8〜16時間程度、20〜110℃程度にて乾燥させることにより、多孔質基材の細孔内に金属が担持される。上記の操作によって、前記したゲル内の還元剤と前記金属源を含む溶液とが接触した部分で金属源が還元されて金属種核が形成され、多孔質基材の細孔内に金属種核を担持した複合体(D)を得ることができる。なお、本発明の製造方法により得られる複合体は、金属が多孔質基材の表面に付着することはないため、多孔質基材の表面に保護材を積層することを要しない。
【0045】
工程(3)は、前記(2)の工程で得られた金属種核を担持した複合体(D)を無電解メッキ処理する工程である。無電解メッキ処理は、前記した第一の態様と同様に行うことができる。
【0046】
さらに、前記した第一の態様と同様に、必要に応じて、前記(3)工程の前又は前記(3)工程の後に、得られた複合体を洗浄及び/又は焼成処理し、不要なゲルおよび金属源等の担持された金属核種以外の余分な残留物を除去する工程を含んでいてもよい。洗浄方法としては、特に限定されないが、例えば、水、エタノール等に複合体を浸漬したのち、超音波洗浄を行なう方法が挙げられる。超音波洗浄で得られた残留物(余剰金属源、ゲル等)を回収して再利用することもできる。また、ゲル等を完全に除去するために、空気中で焼成処理(例えば、400〜900℃)を行ってもよい。
【0047】
工程(3)の後に、上記洗浄及び/又は焼成処理をした場合、複合体中の金属の緻密化向上を目的として、必要に応じて、さらに、上記した条件で無電解めっき処理を行ってもよく、工程(2)から繰り返しもよく、工程(1)から繰り返してもよい。例えば、一度目は、工程(3)の無電解めっき処理を短時間(例えば、5〜30分程度)行い、上記洗浄及び/又は焼成処理をしたのち、工程(2)を再度行い、次いで、工程(3)の無電解めっき処理(例えば、1〜3時間程度)を行う方法が好ましく挙げられる。
【0048】
上記した本発明の製造方法により、多孔質基材の細孔に金属が充填され、層を形成しており、多孔質基材の表面に保護層を有しない複合体が得られる。
【0049】
本発明に係る複合体は上記の通り、多孔質基材の細孔に金属が充填されているとともに、該金属により細孔が閉塞されており、しかも該金属が多孔質基材の表面ではなく、基材の表面より内側に層を成して存在する。前記複合体の断面図を図2に示す。
【0050】
本発明に係る複合体における金属充填層の厚さは、特に限定されないが、1〜10μmとすることが好ましい。本発明の製造方法によって得られた複合体は、金属充填層の空隙率が30%程度であるため、充填金属(例えば、パラジウム)の使用量を低減させることが可能となる。
【0051】
次に、本発明の製造方法によって製造された複合体を水素分離膜として使用した場合の水素分離方法について説明する。本発明の水素分離方法は、水素を含有する混合ガス(以下、水素混合ガスという)を前記複合体に接触させて、水素を選択的に透過させることを特徴とする。
【0052】
本方法の具体的な態様としては、前記複合体の片側(例えば、管状複合体の場合、内側)に水素混合ガスを置き、その反対側(例えば、複合体の場合、外側)の水素分圧を水素混合ガスの水素分圧以下にすれば、複合体中を水素が選択的に透過し、水素混合ガス中にある水素を反対側に分離することができる。この水素分離方法は通常室温〜700℃程度、好ましくは300〜600℃程度の温度で好適に実施することができる。
【0053】
前記水素混合ガスとしては、水素を含有しているガスであれば特に限定されず、例えば、水素と、酸素、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン、フッ素、塩素、臭素、一酸化炭素、二酸化炭素、一酸化窒素、二酸化窒素、アンモニア、二酸化イオウ、硫化水素、塩化水素、水(水蒸気)、メタノール、エタノール、パラフィン系炭化水素またはオレフィン系炭化水素等との混合ガスが挙げられる。なお、前記パラフィン系炭化水素は、飽和鎖式炭化水素、アルカンまたはメタン系炭化水素とも呼ばれ、このようなパラフィン系炭化水素としては、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン等が挙げられる。
【実施例】
【0054】
以下に、実施例および試験例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、多孔質基材は、細孔径0.1μm、直径10mm、内径7mmのαアルミナ製のチューブ状(日本ガイシ株式会社製)の多孔質基材(以下、「アルミナ基板」と略称する)を使用した。
【0055】
[実施例1]
以下のようにして、複合体を製造した。全工程の合成スキームを図3に示す。
〔工程(1)〕
以下のようにして、アガロースゾル中にパラジウムの種結晶の原料となる塩化パラジウムを分散させて塩化パラジウムゾルを調製した。塩化パラジウム溶液は、0.025gの塩化パラジウム(和光純薬工業株式会社)を0.025mlの塩酸に溶解させ、脱イオン水を加えて全量を5mlとすることにより調製した。ガラス瓶に1.25gのアガロースL(株式会社ニッポンジーン)および脱イオン水20ml加え、100℃に温度設定した恒温槽内で3時間加熱を行い、5%アガロースゾル溶液を調製した。調製直後のアガロースゾル溶液は、水と変わらないほど粘度は極めて低かった(約1.0mPa・s)。得られたアガロースゾル溶液が固化し始めないために、調製直後のアガロースゾル溶液に前記塩化パラジウム溶液を加え、攪拌して、前駆体溶液として塩化パラジウムゾル溶液を調製した。調製直後の該塩化パラジウムゾル溶液をアルミナ基板の内筒側に注入し、溶液を室温で1分程度浸漬させた。次いで、容量3Lのプラスチックビーカーに水および氷を満たして氷浴槽を準備し、該氷浴槽中に脱イオン水をいれた丸底φ40×350mmのガラス試験管を挿入し、この中に塩化パラジウムゾル充填を行ったアルミナ基板を挿入することで、塩化パラジウムゾル溶液が表面から滲出する前に、塩化パラジウムゾル溶液を冷却させて凝固させ(アガロースの凝固温度:35℃)、塩化パラジウムゲルを固定化させた。
【0056】
〔工程(2)〕
多孔質アルミナ基板へのパラジウム複合化は以下の手順にて実施した。還元剤としてヒドラジン水溶液を用いた。ヒドラジン水溶液は、1mlの含水ヒドラジン(和光純薬工業株式会社)を脱イオン水で希釈し、全量を200mlとすることにより調製した。工程(1)で得られた塩化パラジウムゲルを充填したアルミナ基板をヒドラジン水溶液に、室温で30秒浸漬させ、還元剤を注入することで、ゲル中のパラジウムの還元処理を行い、パラジウム種核を形成させた。還元処理後、脱イオン水にて、十分に洗浄を行った。
【0057】
〔工程(3)〕
パラジウム種核形成後、パラジウム充填率の向上を目的として、以下のようにして、アルミナ多孔質基板へ無電解めっき処理を実施した。めっき液は市販のパラジウムめっき液であるパラトップ(商品名、還元剤:ギ酸ナトリウム、奥野製薬工業株式会社)を規定の濃度に希釈して使用した。すなわち、20mlのパラトップA液および20mlのパラトップB液に脱イオン水を加え、全量200mlとして使用した。めっき温度は50℃、めっき時間は1時間30分として反応を行った。無電解めっき後、複合体を80℃の脱イオン水に浸漬させ、めっき液の洗浄および塩化パラジウムゲルの除去を行い、複合体を得た。
【0058】
作製した複合体(複合膜)の構造をレーザー顕微鏡(VK−8500:商品名、株式会社キーエンス製)にて観察した。レーザー顕微鏡観察の観察結果を図4に示す。無電解めっき処理により形成されたパラジウム複合層は15μmであり、アルミナ基板内に選択的に複合層が形成されていることが確認された。これは、無電解めっきの反応場となるパラジウム核が、予めアルミナ支持体内に選択的に配されていることによる。
【0059】
[実施例2]
〔工程(1)〕
以下のようにして、アガロースゾル中に還元剤となる塩化すずを分散させてアガロースゾルと調製した。塩化すず溶液は0.05gの塩化すず(和光純薬工業株式会社)を0.05mlの塩酸に溶解させ、全量を10mlとすることにより調製した。ガラス瓶に0.75gのアガロースL(株式会社ニッポンジーン)および脱イオン水4.0mlを加え、100℃に温度設定した恒温槽内で3時間加熱を行い、5%アガロースゾル溶液を調製した。調製直後のアガロースゾル溶液は、水と変わらないほど粘度は極めて低かった(約1.0mPa・s)。得られたアガロースゾル溶液が固化し始めないために、調製直後のアガロースゾル溶液に前記塩化すず溶液を加え、攪拌して、前駆体溶液として還元剤ゾル溶液を調製した。調製直後の還元剤ゾル溶液をアルミナ基板の内筒側に注入し、溶液を室温で1分程度浸透させ、溶液が表面から滲出する前に、空気中で冷却させて凝固させ還元剤ゲルを固定化させた。
【0060】
〔工程(2)〕
多孔質アルミナ基板へのパラジウム複合化は以下の手順にて実施した。パラジウム源として塩化パラジウム酸水溶液を用いた。塩化パラジウム酸水溶液は、0.1gの塩化パラジウム(II)(和光純薬工業株式会社)を0.1mlの塩酸に溶解させ、全量を1000mlとして調製した。工程(1)で得られた還元剤ゲルを充填したアルミナ基板を、塩化パラジウム酸水溶液に室温で10分浸漬させることで、アルミナ基板内へパラジウムの担持を行った。パラジウム種核形成後、脱イオン水にて、十分に洗浄を行った。
【0061】
〔工程(3)〕
パラジウム種核形成後、パラジウム充填率の向上を目的として、以下のようにして、アルミナ多孔質基板へ無電解めっき処理を実施した。680mlの28%アンモニア水溶液(和光純薬工業株式会社)に、3.6gの塩化パラジウムおよび74.5gのエチレンジアミン4酢酸・2ナトリウム塩(和光純薬工業株式会社)を溶解させた後、脱イオン水を加えることにより1000mlとした。その後、無電解めっき処理直前に0.5mlのヒドラジン1水和物を添加し、無電解めっき液とした。無電解めっきはめっき液を多孔質基材の外側(還元剤ゾル溶液を注入した面とは反対側)から浸透させることにより行った。めっき温度は50℃、めっき時間は2時間として反応を行った。
【0062】
〔工程(4)〕
無電解めっき後、複合体を80℃の脱イオン水中に3時間浸漬し、めっき液の洗浄およびアガロースゲルの除去を行った。Pd層の緻密性を向上させることを目的として、無電解めっき処理後、複合体に焼結処理を行った。不活性ガス(窒素ガス)を流通させた条件(200ml/min)で700℃、20時間の焼成処理を行った。
【0063】
〔工程(5)〕
焼成処理後、Pd膜の緻密化向上を目的として行った。前記した無電解めっき処理を1時間行い、膜の緻密化を行った。
【0064】
作製した複合体(複合膜)の構造をレーザー顕微鏡(VK−8500:商品名、株式会社キーエンス製)にて観察し、およびエネルギー分散型X線分析装置(EDX、製品名:Genesis-XM2、エダックス・ジャパン株式会社)により分析した。レーザー顕微鏡観察の観察結果を図5に示す。レーザー顕微鏡観察の結果、無電解めっき処理により形成されたパラジウム複合層は20μmであり、アルミナ基板内に選択的に複合層が形成されていることが確認された。
【0065】
[実施例3]
実施例1の工程(3)の無電解めっき処理(一次めっき)を10分とする以外は、実施例1と同様に工程(3)まで行った。次いで、得られた複合体を80℃の脱イオン水に浸漬させてゲルを抽出したのち、850℃の空気条件で12時間焼成し、微量に残存しているゲルの除去を行った。得られた複合体をヒドラジン水溶液に一晩浸漬して還元処理を行った。ヒドラジン水溶液は、1mlの含水ヒドラジン(和光純薬工業株式会社)を脱イオン水で希釈し、全量を200mlとすることにより調製した。還元処理を行った後に、50℃、1時間30分の条件で二次めっき処理を行った。なお、一次めっき及び二次めっきは奥野製薬工業株式会社製のパラトップを規定の条件で調製しためっき液を使用した。図6(a)および図6(b)に作製した膜のEDX分析結果を示す。
【0066】
図6の結果から、パラジウム核析出担持後及び一次めっき後にPdピークが確認された位置に、二次めっき後にもPdピークが確認された。無電解めっきにより形成されたパラジウム充填層は8μmであり、本発明により、アルミナ基板内に金属を選択的に充填することができることが確認された。
【0067】
[試験例1]
実施例1で得られたパラジウム複合化アルミナ膜を用いて気体透過試験を行った。600℃から200℃の温度条件下で水素/窒素(H/N=50/50)混合ガス透過試験を下記条件にて実施した。気体透過試験装置の模式図を図7に示す。図7に示すように、H/N混合ガスを、実施例で得られた複合体に接触させて、前記複合体を透過したガス(透過ガス)をサンプリングして、下記実験条件にてガスクロマトグラフィー(GC)測定を行った。500℃から200℃におけるガス透過試験結果を図8に示す。
【0068】
(実験条件)
ガス分析:ガスクロマトグラフィー;GC(TCD)
カラム:Porapak−N 2m、Molecular Sieve 13X 2m(GLサイエンス株式会社)
キャリアガス:Ar
テストガス:H/N=50/50
ガス流量:2000ml/分
入口ガス圧力:50kPa(出口は真空ポンプ減圧で差圧が150kPa)
【0069】
(結果)
500℃における気体透過試験の結果、水素の透過度PH2は3.5×10−8−2−1Pa−1程度であり、水素選択性α=PH2/PN2は100程度で試験中ほぼ安定な性能を示した。また、試験温度を水素脆化が起こる200℃まで低下させても、50時間の試験時間において水素選択性は25程度を維持しており、水素透過度は1.1×10−8−2−1Pa−1程度の値を示した。試験開始100時間以降、再び500℃まで昇温したところ、初期状態と同等の3.5×10−8−2−1Pa−1の水素透過度および100程度の水素選択性を示した。
【0070】
[試験例2]
実施例2で得られたパラジウム複合化アルミナ膜を用いて気体透過試験を行った。500℃から200℃の温度条件下とする以外は、試験例1と同様の条件にて実施した。結果を図9に示す。
【0071】
(結果)
500℃における気体透過試験の結果、水素の透過度は1.8×10−8−2−1Pa−1程度であり、水素選択性は初期値700程度で試験中ほぼ安定な性能を示した。また、試験温度を水素脆化が起こる200℃まで低下させても、70時間の試験時間において水素選択性は80程度を維持しており、水素透過度は1.1×10−8−2−1Pa−1程度の値を示した。試験開始100時間以降、再び500℃まで昇温したところ、初期状態と同等の1.8×10−8−2−1Pa−1の水素透過度および700程度の水素選択性を示した。さらに600℃まで昇温させたところ、2.7×10−8−2−1Pa−1の水素透過度および800程度の水素選択性を示した。
【0072】
[試験例3]
実施例3で得られたパラジウム複合化アルミナ膜を用いて気体透過試験を行った。500℃の温度条件下とする以外は、試験例1と同様の条件にて実施した。結果を図10に示す。
【0073】
(結果)
500℃における気体透過試験の結果、水素の透過度は2.5×10−8−2−1Pa−1程度であり、水素選択性は初期値6000程度の値を示した。また、200時間の連続試験においても5000程度の水素選択性を保持していた。これはPd層の剥離などによる急激な膜の破壊がおこらなかったためであると考えられる。
【0074】
以上の試験例1〜3の結果より、本発明の製造方法は、得られる複合体を水素分離膜として使用する場合、水素耐久性を向上させ、膜の性能寿命を増加させることが可能であり、優れた透過速度を有する水素分離膜を作製することが可能である。さらに、本水素分離膜は、アルミナ基板内にパラジウム粒子が充填された構造を取っており、耐熱性の向上、膜表面の保護など、実用化面においても有用である。また、作製した複合体の構造から推定される空隙率は20〜30%程度であるため、Pdの使用量を低減させることもできる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の製造方法により得られる複合体は、水素透過性及び耐久性に優れ、安価かつ簡便な提供されるため、燃料電池システムに含まれる水素製造装置等に有用である。
【符号の説明】
【0076】
1 金属充填層
2 多孔質基材
3 複合体
4 金属核
5 ゲル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合体の製造方法であって、
(1)金属源及びゲル化剤を含む前駆体溶液を作製し、該前駆体溶液を多孔質基材の片側から浸透させたのち、反対側から該前駆体溶液が滲出する前に、該前駆体溶液を固化させて複合体(A)を得る工程、
(2)前記複合体(A)に、前記前駆体溶液を浸透させた反対側から、還元剤を含む溶液を浸透させることにより、前記複合体(A)の細孔内に金属種核を担持させる工程、
(3)前記(2)の工程で得られた金属種核を担持した複合体(B)を無電解メッキ処理する工程、を含むことを特徴とする複合体の製造方法。
【請求項2】
複合体の製造方法であって、
(1)還元剤及びゲル化剤を含む前駆体溶液を多孔質基材の片側から浸透させたのち、反対側から該前駆体溶液が滲出する前に、該前駆体溶液を固化させて複合体(C)を得る工程、
(2)前記複合体(C)に、前記前駆体溶液を浸透させた反対側から金属源を含む溶液を浸透させることにより、前記複合体(C)の細孔内に金属種核を担持させる工程、
(3)前記(2)の工程で得られた金属種核を担持した複合体(D)を無電解メッキ処理する工程、を含むことを特徴とする複合体の製造方法。
【請求項3】
さらに、前記(3)の工程の前又は(3)の工程の後に、上記(2)の工程で得られた複合体を洗浄及び/又は焼成する工程を含む請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
ゲル化剤が、アガロース、寒天、でんぷん、アラビアガム、サイリウムシードガム、プルラン、ゼラチン、デキストリン、トラガカント(tragacanth)、ペクチン、グルコマンナン、ガラクトマンナン、キサンタンガム、タマリンドシードガム、カラギーナン、ジェランガム、カルボキシビニルポリマー、アクリルコポリマー、ポリアクリルアミド類、水溶性セルロース性ポリマー、ポリビニルピロリドン、ベントナイト、エチルセルロース、ポリエチレン、プロピレングリコール、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ガッディーガム、アラビノガラクタン及びカードランからなる群から選ばれる1以上である請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
還元剤が、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、クエン酸、クエン酸ナトリウム、タンニン酸、ジボラン、ヒドラジン、ホルムアルデヒド、グルコースおよび塩化スズからなる群から選ばれる1以上である請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
金属源が、金属イオン、金属微粒子、又は、金属を含む化合物であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
金属が、周期表の4族、5族、8〜11族のいずれかの遷移金属である請求項6記載の製造方法。
【請求項8】
金属が、パラジウムである請求項6記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の製造方法によって得られることを特徴とする水素分離膜。
【請求項10】
水素を含有する混合ガスを、請求項9に記載の水素分離膜に接触させて、水素を選択的に透過させることを特徴とする水素分離方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−125818(P2011−125818A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−288496(P2009−288496)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【出願人】(591178012)財団法人地球環境産業技術研究機構 (153)
【Fターム(参考)】