説明

複合型太陽電池

【課題】色素増感太陽電池とシリコン太陽電池とを積層した複合型太陽電池の光電変換効率を向上させる手段を提供する。
【解決手段】半導体基板で形成したPN接合型のシリコン太陽電池の陰極上に、色素増感太陽電池の陽極を配置して積層した複合型太陽電池の、シリコン太陽電池の陰極と、色素増感太陽電池の陽極との間にシリサイド層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素増感太陽電池とシリコン太陽電池とを積層した複合型太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
地球全体に降り注ぐ太陽光エネルギは、全世界が消費する電力の10万倍ともいわれ、我々は特別な工業活動を行わなくても、既に膨大なエネルギ資源に囲まれており、この太陽光エネルギを人類が利用し易い電気エネルギに変換するための太陽電池は、50年の歴史がある。
現在生産されている太陽電池の90%以上はシリコン(Si)太陽電池であり、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコンの形態に分類され、これらのシリコン太陽電池は、光電変換効率、コスト、加工性能が異なり、搭載製品、用途、設置場所等に応じて選択されている。
【0003】
シリコン太陽電池の中では、単結晶シリコン太陽電池の光電変換効率が最も高く、実用レベルでの光電変換効率が20%に達する製品も製造されている。
また、人工衛星向け等の特殊用途においては、超高変換効率や優れた耐放射線劣化特性を有する化合物半導体が用いられる場合もある。
ところで、太陽電池を始めとした再生可能エネルギは環境負荷がほとんどない理想的なエネルギ資源と言われているが、これまでのところ、普及は十分には進んでいない状況にある。
【0004】
その理由は、主に高い発電コストにあり、現在、日本国内の電力単価は約20円/kWhであるが、一般家庭の消費電力3〜5kWを、ほぼ賄なえる太陽光発電システムの設置費用が200万円〜400万円であることを考えると、完全償却までに最低20年は必要になり、償却期間の長さと、高額な初期投資が要因となって、一般家庭用への普及は、あまり進んでいない状況である。
【0005】
このような状況下において、市場をより活性化させ、自然と調和するエネルギ供給システムを実現していくためには、発電の低コスト化が必要であり、これには技術面での進歩が必須で、具体的には2方向からのアプローチがある。
第1は、シリコン太陽電池それ自体の高効率化を実現していくことにある。仮に同じ製造コストでも発電効率が倍になれば、製品コストは半分になったことと同等である。
【0006】
第2は、材料、製造方法、あるいは構造自体を改良して、製品単価自体を下げる方法である。現在、主流のシリコン太陽電池は、高純度のシリコン材料を必要とすること以外に、その製造工程にて高温・高真空が必要であることや、大面積基板の生産においては、シリコン材料の生成・加工に生産設備の巨大化等が伴い、製造コストを効果的に下げられない状況にある。
【0007】
このため、シリコンとは別の材料を用いて材料コストを下げ、さらには高温工程や真空工程も極力除外することにより、製造過程でのエネルギ消費も抑え、結果的にトータルコストを大幅に抑えた太陽電池も各種提案されている。
この代表が湿式の色素増感太陽電池(グレッツェルセル)と、乾式の有機薄膜太陽電池である。
【0008】
前者の色素増感太陽電池は、構造が簡単で、構成材料としても資源的に豊富な材料を選択することができ、さらに製造工程でのエネルギ消費量が少なく、大掛かりな設備も不要なため、現在主流のシリコン太陽電池に比較して、発電コストが1/5以下に抑えられると試算されており、低コスト太陽電池の有力候補として注目されている。
このような色素増感太陽電池は低コスト化に関しては、他のシリコン太陽電池等をはるかに凌ぐ特長を有しているが、現状での光電変換効率は、トップデータでも11%程度で、単結晶シリコン太陽電池の半分以下となっており、実用化レベルの大面積セルとなると、その光電変換効率が面積の増加に伴い急激に低下するという問題を抱えている。
【0009】
これは、色素増感太陽電池が、全太陽光の半分以上のエネルギが含まれている800nm以上の波長領域の光をほとんど変換できないからであり、より長波長の光吸収が可能な増感色素の開発が活発に行われている一方、色素増感太陽電池と、800nm以上の波長領域も有効に光変換が可能なシリコン太陽電池とを組合せた複合型太陽電池が提案されている。
【0010】
従来の複合型太陽電池は、ガラス基板上に形成された透明導電膜上に白金を被覆したカソード電極と、ガラス基板上に形成された透明導電膜上に二酸化チタンからなる多孔質の金属酸化物膜を形成し、この金属酸化物膜にルテニウム金属錯体からなる増感色素を吸着させたアノード電極とを電解液を介して対向させて色素増感太陽電池を形成し、色素増感太陽電池のカソード電極のガラス基板の裏面に形成した透明導電膜に、P型シリコン基板で形成したPN接合型のシリコン太陽電池を重ね合せて積層し、色素増感太陽電池とシリコン太陽電池とを並列に配線して複合型太陽電池を形成している(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2002−231324号公報(第4頁段落0024−段落0027、段落0044、第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、上述した従来の技術においては、色素増感太陽電池とシリコン太陽電池とを絶縁体であるガラス基板を介して積層し、これらを外部で並列に配線しているため、色素増感太陽電池とシリコン太陽電池と間に位置するガラス基板の表裏に形成された透明導電膜からなる極板を流れる電流が、面方向に流れることになり、透明導電膜のシート抵抗による電圧低下が生じ、結果として複合型太陽電池の光電変換効率を低下させるという問題がある。
【0012】
このことは、色素増感太陽電池とシリコン太陽電池とを外部で直列に配線した場合も同様である。
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたもので、色素増感太陽電池とシリコン太陽電池とを積層した複合型太陽電池の光電変換効率を向上させる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記課題を解決するために、半導体基板で形成したPN接合型のシリコン太陽電池の陰極上に、色素増感太陽電池の陽極を配置して積層した複合型太陽電池であって、前記シリコン太陽電池の陰極と、前記色素増感太陽電池の陽極との間にシリサイド層を形成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
これにより、本発明は、シリコン太陽電池の極板と、色素増感太陽電池の極板とを内部で直列に接続することができ、内部で直列に接続されたシリコン太陽電池と色素増感太陽電池とのそれぞれの極板と流れる電流を、それぞれの厚さ方向に流すことができ、複合型太陽電池の内部における電圧損失を極めて小さくして、色素増感太陽電池とシリコン太陽電池とを積層した複合型太陽電池の光電変換効率を向上させることができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、図面を参照して本発明による複合型太陽電池の実施例について説明する。
【実施例1】
【0016】
図1は実施例1の複合型太陽電池の断面を示す説明図、図2、図3、図4は実施例1の複合型太陽電池の製造方法を示す説明図である。
図1に示す本実施例の複合型太陽電池1は、シリコン太陽電池3上に色素増感太陽電池10を積層して構成されている。
本実施例のシリコン太陽電池3は、ボロン(B)や二フッ化ボロン(BF)等のP型不純物を拡散させた抵抗率が10Ωcm以上のP型の単結晶シリコンからなる半導体基板としてのシリコン基板5で形成されたPN接合型のシリコン太陽電池であって、P型のシリコン基板5のおもて面側の表層に、リン(P)や砒素(As)等のN型不純物を比較的低濃度に拡散させて形成されたN型拡散層6と、N型拡散層6のおもて面に、N型不純物を比較的高濃度に拡散させて形成されたN型高濃度拡散層7と、シリコン基板5の裏面にチタン(Ti)やニッケル(Ni)等の金属材料を単層または積層して形成された金属電極8とで構成されている。
【0017】
本実施例の金属電極8は、シリコン基板5の裏面に形成されたチタン層8aと、チタン層8a上に形成されたニッケル層8bとを積層して形成されている。
これにより、シリコン基板5の内部に、P型のシリコン基板5とN型拡散層6とによるPN接合が形成され、N型高濃度拡散層7がシリコン太陽電池3の陰極3bとして機能すると共に、金属電極8のニッケル層8bがシリコン太陽電池3の陽極3aとして機能する。
【0018】
本実施例の色素増感太陽電池10は、絶縁性を有する透明なガラス基板11の一の面に、酸化スズ(SnO)にフッ素(F)をドーピングしたフッ素ドープ酸化スズ(FTO)やITO(Indium Tin Oxide)等からなる導電性を有する透明な透明導電膜12をコーティングして形成された透明基板と、この透明基板の透明導電膜12上の中央部に形成され、多孔質構造の表面にルテニウム(Ru)金属錯体等からなる増感色素13を吸着させた酸化チタン(TiO)等の金属酸化物からなる多孔質層14(図1に網掛けを付して示した部位。他の図において同じ。)と、窒化チタン(TiN)等からなる透光性(透明であること、または透明ではないが、膜厚が薄いこと等により光を透過させる性質をいう。)および導電性、不活性(後述する電解液18に対する触媒作用を持たない性質をいう。)を有する透光性導電層15(図1にハッチングを付して示した部位。他の図において同じ。)と、透光性導電層15上に形成された白金(Pt)やカーボン(C)等の電解液18の還元反応を促進する触媒からなる触媒層16とを備え、多孔質層14と触媒層16とを所定の隙間を介して対向させ、透明導電膜12上の多孔質層14の周囲に所定の間隔を開けてその周縁部に配置されたハイミラン(三井・デュポンケミカル株式会社の登録商標、商品名)からなるフィルム部材17を、透明導電膜12と触媒層16とに熱圧着して形成された空間に、ヨウ素(I)、ヨウ化リチウム(LiI)、アセトニトリル(CHCN)、tブチルプリジン(TBP)を混合した電解液18を封止して構成されている。
【0019】
これにより、中央部に層間色素13を吸着させた多孔質層14が形成されたガラス基板11上の透明導電膜12が色素増感太陽電池10の陰極10bとして機能すると共に、触媒層16が形成された透光性導電層15が色素増感太陽電池10の陽極10aとして機能する。
20はシリサイド層であり、チタン、コバルト(Co)、白金等のシリサイド化材料とシリコンとの化合物からなる導電層であって、シリコン太陽電池3の陰極3bであるN型高濃度拡散層7と、色素増感太陽電池10の陽極10aである透光性導電層15との間に形成されており、これらの間をオーミック接続により電気的に接続する機能を有している。
【0020】
これにより、シリコン太陽電池3の陰極3bと色素増感太陽電池10の陽極10aとが、シリサイド層20を介して複合型太陽電池1の内部で直列に接続され、シリコン太陽電池3の陽極3aと色素増感太陽電池10の陰極10bとを外部配線21により外部負荷Fに接続すれば、色素増感太陽電池10のガラス基板11側から太陽光が照射されると、図1に矢印で示すように、外部配線21に導かれて、シリコン太陽電池3の陽極3aである金属電極8から色素増感太陽電池10の陰極10bである透明導電膜12に向かって電流が流れ、色素増感太陽電池10とシリコン太陽電池3とが内部で直列に接続された本実施例の複合型太陽電池1が形成される。
【0021】
以下に、図2にPで、図3にPAで、図4にPBで示す工程に従って、本実施例の複合型太陽電池の製造方法について説明する。
まず、図2を用いて、本実施例の第1の構造体の製造方法について説明する。
P1(図2)、抵抗率が10Ωcm以上のP型のシリコン基板5を準備する。
P2(図2)、準備したシリコン基板5のおもて面を薄く酸化させて薄いシリコン酸化膜(不図示)形成した後、ドーズ量1×1013ions/cm、加速エネルギ200KeVの条件で、N型不純物であるリンをイオン注入し、窒素(N)雰囲気中での900℃、60分間のアニール処理を行い、P型のシリコン基板5の表層をN型に反転させてN型不純物を比較的低濃度に拡散させたN型拡散層6を形成する。これによりシリコン基板5の内部にPN接合が形成される。
【0022】
次いで、N型拡散層6にドーズ量1×1015ions/cm、加速エネルギ20keVの条件で、N型不純物である砒素をイオン注入し、窒素雰囲気中での900℃、60分間のアニール処理を行って、N型拡散層6のおもて面の最表面のN型不純物濃度を1×1019atoms/cc以上としてN型不純物を比較的高濃度に拡散させたN型高濃度拡散層7を形成し、シリコン基板5をフッ酸(HF)に浸漬して、シリコン基板5のおもて面に形成した薄いシリコン酸化膜を完全に除去する。
【0023】
P3(図2)、シリコン酸化膜を除去して露出させたN型高濃度拡散層7上に、スパッタ法により、シリサイド層20を形成するためのシリサイド化材料としてのチタンを堆積して膜厚100Å程度のチタン層20aを形成し、チタン層20a上に、スパッタ法により窒化チタンを堆積して膜厚100Å程度の透光性導電層15を形成する。
そして、750℃程度の温度でのRTA(Rapid Thermal Anneal)処理により、チタン層20aをその下層のN型高濃度拡散層7のシリコンとシリサイド反応させてチタンシリサイドからなるシリサイド層20を形成する。
【0024】
この場合に、チタン層20aのチタンが全てシリサイド化されることが望ましいが、チタン層20aと透光性導電層15との界面にチタンが残留したとしても、その機能に影響を及ぼすことはない。
シリサイド層20の形成後に、透光性導電層15上に、スパッタ法により白金を堆積して膜厚100Å以上、200Å以下の触媒層16を形成する。
【0025】
P4(図2)、触媒層16の形成後に、シリコン基板5の裏面を研磨して厚さ350μm程度にした後に、そのシリコン基板5の裏面にチタンを蒸着させてチタン層8aを形成し、チタン層8a上にニッケルを蒸着させてニッケル層8bを形成して、シリコン基板5の裏面に金属電極8を形成する。
このようにして、P型のシリコン基板5で形成されたPN接合型のシリコン太陽電池3の陰極3bであるN型高濃度拡散層7と、色素増感太陽電池10の陽極10aである透光性導電層15とをシリサイド層20により電気的に導通させ、透光性導電層15上に触媒層16を形成した本実施例の第1の構造体が形成される。
【0026】
次に、図3を用いて、本実施例の第2の構造体の製造方法について説明する。
PA1(図3)、ガラス基板11の一の面に、酸化スズを主成分としたFTOからなる膜厚0.5μm程度の、シート抵抗値が10Ω/□以下の透明導電膜12をコーティングした透明基板を形成する。
PA2(図3)、次いで、透明基板の透明導電膜12上の中央部に、スクリーン印刷法により、10〜30nm程度の酸化チタンの微粒子を含んだ酸化チタンペーストを50μm程度の厚さに塗布し、大気雰囲気中での500℃、2時間程度のアニール処理を行い、酸化チタンペーストを焼結して10μm程度の厚さの多孔質層14を形成する。
【0027】
これにより、酸化チタンペーストの溶剤が飛散し、かつ酸化チタンの微粒子が物理的および電気的に接合して、電子の拡散路が形成される。
そして、アセトニトリルとtブチルアルコール(2−ブチル−2−プロパノール)との混合溶媒に、ルテニウム金属錯体からなる増感色素13(例えば、Solaronix社製ルテニウム系増感色素、N719)を4mM(ミリモル)で溶かした溶液に、多孔質層14を12時間以上(本実施例では、20時間)浸漬し、多孔質状態の酸化チタンの表面に増感色素13を吸着させ、エタノール(CHCHOH)で洗浄した後に暗所にて乾燥させる。
【0028】
このようにして、色素増感太陽電池10の陰極10bである透明導電膜12上に増感色素13を吸着させた多孔質層14を形成した本実施例の第2の構造体が形成される。
上記のようにして、第1および第2の構造体を形成した後に、図4に示す工程に従って本実施例の複合型太陽電池1が製造される。
PB1(図4)、厚さ60μmのフィルム部材17を、図5に示すように、多孔質層14と所定の間隔を隔てた内周形状を有する枠状に形成し、その枠の一箇所に注入口17aを形成する。
【0029】
次いで、このフィルム部材17を第1の構造体の触媒層16の周縁部上に載置し、触媒層16に、第2の構造体の多孔質層14を対向させ、第2の構造体の透明導電膜12の周縁部の位置を、触媒層16の周縁部に合せて配置する。
PB2(図4)、そして、第2の構造体の透明導電膜12の周縁部をフィルム部材17に押圧し、130℃程度の温度で透明導電膜12および触媒層16と、フィルム部材17とをそれぞれ熱圧着する。
【0030】
これにより、透明導電膜12と触媒層16とフィルム部材17とにより囲まれた領域に多孔質層14が配置されると共に、多孔質層14と触媒層16との間に所定の隙間(本実施例では、50μm程度)が形成され、多孔質層14の周囲に空間が形成される。
次いで、フィルム部材17の注入口17aから、ヨウ素等を混合した電解液18を、多孔質層14の周囲の空間に注入して充填し、その後にフィルム部材17の注入口17aをエポキシ系樹脂材料等で封止する。
【0031】
このようにして、図1に示す、P型のシリコン基板5で形成されたPN接合型のシリコン太陽電池3の陰極3b上に、色素増感太陽電池10の陽極10aを配置し、これらをシリサイド層20を介して積層した本実施例の複合型太陽電池1が製造される。
このような複合型太陽電池1は、図6の太陽光スペクトルと、単結晶シリコンからなるシリコン基板5で形成されたシリコン太陽電池3、および色素増感太陽電池10の波長毎の光吸収特性に示すように、色素増感太陽電池10のガラス基板11側から太陽光が照射されると、色素増感太陽電池10で主に800nm以下の波長領域の光吸収を行った後、色素増感太陽電池10では吸収できない800nm以上、1.2μm以下の波長領域の光をシリコン太陽電池3により吸収して光電変換することができる。
【0032】
この複合型太陽電池1の色素増感太陽電池10における光吸収においては、そのガラス基板11側から太陽光が照射されると、多孔質層14の表面に吸着させた増感色素13が光を吸収して電子が励起され、増感色素13の励起順位に対して、多孔質層14の伝導帯は0.2eV程度エネルギ順位が低いため、この励起された電子は、多孔質層14側へ流れて行き、色素増感太陽電池10の陰極10bであるガラス基板11上の透明導電膜12へ流れ込む。
【0033】
一方、シリコン太陽電池3においては、色素増感太陽電池10を透過した光が、P型のシリコン基板5とN型拡散層6とで形成されるPN接合領域に入射すると、P型領域で発生した電子がPN接合の空乏層に入り、空乏層内を通過してP型領域であるシリコン基板5からN型拡散層6へ向かって電子が流れ、シリコン太陽電池3の陰極3bであるN型高濃度拡散層7へ流れ込む。
【0034】
このとき、本実施例のシリコン太陽電池3の陰極3bであるN型高濃度拡散層7と、色素増感太陽電池10の陽極10aである透過性導電層15とはシリサイド層20を介して直列に接続されているので、複合型太陽電池1の陰極として機能する色素増感太陽電池10の陰極10b(透明導電膜12)へ流れ込んだ電子は、外部配線21で接続する外部負荷Fを稼動させた後、外部配線21を介して接続された複合型太陽電池1の陽極として機能するシリコン太陽電池3の陽極3a(金属電極8)に達し、シリコン太陽電池3の内部の電子の流れに沿って、シリコン太陽電池3の内部を積層方向に流れて陰極3b(N型高濃度拡散層7)からシリサイド層20を経て、色素増感太陽電池10の陽極10a(透過性導電層15)に達し、陽極10aに達した電子は、触媒層16により促進された還元反応によって電解液18中のヨウ素イオンへ引き渡され、このヨウ素が拡散して酸化反応により励起された増感色素13へ電子を引き渡すサイクルが生ずる。
【0035】
この複合型太陽電池1の陽極として機能するシリコン太陽電池3の陽極3aである金属電極8から、複合型太陽電池1の陰極として機能する色素増感太陽電池10の陰極10bである透明導電膜12へ向かって、複合型太陽電池1の内部を積層方向に流れる電子の流れにより形成されるサイクルが繰り返されることによって、複合型太陽電池1に定常的な光照射に伴う光起電力が発生する。
【0036】
この場合の複合型太陽電池1の電圧は、シリコン太陽電池3と色素増感太陽電池10とがそれぞれ発生した電圧を加えた値になり、その電流はシリコン太陽電池3と色素増感太陽電池10とがそれぞれ発生する電流の少ない方の値になる。
このように、本実施例の複合型太陽電池1においては、それぞれの太陽電池が吸収できない波長領域の光を互いに補完しあって、より広範囲な太陽光スペクトルを吸収すること可能になる。
【0037】
また、本実施例の複合型太陽電池1は、シリコン太陽電池3上に色素増感太陽電池10を積層し、これらの間をシリサイド層20によりオーミック接続して、内部で直列に接続しているので、シリサイド層20の表裏に形成され、内部で直列に接続されたシリコン太陽電池3の陰極3bであるN型高濃度拡散層7と、色素増感太陽電池10の陽極10aである100Å程度の極薄の透過性導電層15とを流れる電流を面方向ではなく、厚さ方向に流すことができ、内部の直列抵抗成分を極めて小さしくて、内部における電圧損失を極めて小さくすることができ、結果として色素増感太陽電池10とシリコン太陽電池3とを積層した複合型太陽電池1の光電変換効率を向上させることができる。
【0038】
更に、シリコン基板5の裏面には蒸着により低抵抗の金属電極8を形成してあるので、内部の直列抵抗成分を更に小さくすることが可能になる。
更に、色素増感太陽電池10のシリコン太陽電池3の側の極板として形成された、色素増感太陽電池10の陽極10aである窒化チタンからなる極薄の透過性導電層15が透光性を有しているので、色素増感太陽電池10側から照射された光の透過性導電層15における反射を抑制して、色素増感太陽電池10を通過した太陽光をシリコン太陽電池3へ効率的に入射させることができる。
【0039】
更に、色素増感太陽電池10の陽極10aである透過性導電層15上に、電解液18の還元反応を促進する触媒からなる触媒層16が形成されているので、電解液18のヨウ素イオンへの電子の引き渡しを容易に行うことができる。
以上説明したように、本実施例では、シリコン基板で形成されたPN接合型のシリコン太陽電池の陰極上に、色素増感太陽電池の陽極を配置し、これらの間にシリサイド層を形成するようにしたことによって、シリサイド層によるオーミック接続により、シリコン太陽電池の陰極であるN型高濃度拡散層と、色素増感太陽電池の陽極である極薄の透過性導電層とを、内部で直列に接続することができ、シリサイド層の表裏に形成され、内部で直列に接続されたシリコン太陽電池の陰極と色素増感太陽電池の陽極とを流れる電流を、それぞれの厚さ方向に流すことが可能になり、内部における電圧損失を極めて小さくして、色素増感太陽電池とシリコン太陽電池とを積層した複合型太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。
【0040】
また、色素増感太陽電池のシリコン太陽電池の側の極板である色素増感太陽電池の陽極を、窒化チタンからなる極薄の透過性導電層で形成したので、透過性導電層の透光性を利用して、色素増感太陽電池側から照射された光の反射を抑制することが可能になり、色素増感太陽電池を通過した太陽光をシリコン太陽電池へ効率的に入射させることができる。
【実施例2】
【0041】
図7は実施例2の複合型太陽電池の断面を示す説明図、図8、図9は実施例2の複合型太陽電池の製造方法を示す説明図である。
なお、上記実施例1と同様の部分は、同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施例の複合型太陽電池1は、シリコン太陽電池23上に色素増感太陽電池30を積層して構成されている。
【0042】
本実施例のシリコン太陽電池23は、N型不純物を拡散させた抵抗率が20Ωcm以上のN型の単結晶シリコンからなる半導体基板としてのシリコン基板25で形成されたPN接合型のシリコン太陽電池であって、N型のシリコン基板25のおもて面側の表層に、P型不純物を比較的低濃度に拡散させて形成されたP型拡散層26と、P型拡散層26のおもて面に、P型不純物を比較的高濃度に拡散させて形成されたP型高濃度拡散層27と、上記実施例1と同様に、シリコン基板25の裏面にチタン層8aとニッケル層8bとを積層して形成された金属電極8とで構成されている。
【0043】
これにより、シリコン基板25の内部に、N型のシリコン基板25とP型拡散層26とによるPN接合が形成され、P型高濃度拡散層27がシリコン太陽電池23の陽極23aとして機能すると共に、金属電極8のニッケル層8bがシリコン太陽電池23の陰極23bとして機能する。
本実施例の色素増感太陽電池30は、上記実施例1と同様の材料で形成されているがその構成が異なっている。
【0044】
すなわち、色素増感太陽電池30は、透明基板と、その透明基板の透明導電膜12上に形成された触媒層16と、透光性導電層15と、この透光性導電層15上の中央部に形成された、増感色素13を吸着させた多孔質層14とを備え、多孔質層14と触媒層16とを所定の隙間を介して対向させ、透光性導電層15上の多孔質層14の周囲に所定の間隔を開けて配置されたフィルム部材17を、透光性導電層15と触媒層16とに熱圧着して形成された空間に電解液18を封止して構成されている。
【0045】
これにより、触媒層16が形成されたガラス基板11上の透明導電膜12が色素増感太陽電池30の陽極30aとして機能すると共に、中央部に増感色素13を吸着させた多孔質層14が形成された透光性導電層15が色素増感太陽電池30の陰極30bとして機能する。
これらのシリコン太陽電池23の陽極23aと色素増感太陽電池30の陰極30bとが、上記実施例1と同様に、シリサイド層20を介して複合型太陽電池1の内部で直列に接続され、色素増感太陽電池30の陽極30aとシリコン太陽電池23の陰極23bとを外部配線21により外部負荷Fに接続すれば、色素増感太陽電池30のガラス基板11側から太陽光が照射されると、図7に矢印で示すように、外部配線21に導かれて、色素増感太陽電池30の陽極30aである透明導電膜12からシリコン太陽電池23の陰極23bである金属電極8に向かって電流が流れ、色素増感太陽電池30とシリコン太陽電池23とが内部で直列に接続された本実施例の複合型太陽電池1が形成される。
【0046】
以下に、図8にPCで、図9にPDで示す工程に従って、本実施例の複合型太陽電池の製造方法について説明する。
まず、図8を用いて、本実施例の第1の構造体の製造方法について説明する。
PC1(図8)、抵抗率が20Ωcm以上のN型のシリコン基板25を準備する。
PC2(図8)、準備したシリコン基板25のおもて面を薄く酸化させて薄いシリコン酸化膜(不図示)形成した後、P型不純物をイオン注入し、窒素雰囲気中での900℃、60分間のアニール処理を行い、N型のシリコン基板25の表層をP型に反転させてP型不純物を比較的低濃度に拡散させたP型拡散層26を形成する。これによりシリコン基板25の内部にPN接合が形成される。
【0047】
次いで、P型拡散層26に、更にP型不純物をイオン注入し、窒素雰囲気中での900℃、60分間のアニール処理を行って、P型拡散層26のおもて面側にP型不純物を比較的高濃度に拡散させたP型高濃度拡散層27を形成し、シリコン基板25をフッ酸に浸漬して、シリコン基板25のおもて面に形成した薄いシリコン酸化膜を完全に除去する。
PC3(図8)、シリコン酸化膜を除去して露出させたP型高濃度拡散層27上に、上記実施例1の工程P3(図2)と同様にして、膜厚100Å程度のチタン層20aを形成し、その上に窒化チタンからなる膜厚100Å程度の透光性導電層15を形成し、RTA処理により、チタン層20aをその下層のP型高濃度拡散層27のシリコンとシリサイド反応させてチタンシリサイドからなるシリサイド層20を形成する。
【0048】
この場合に、チタン層20aのチタンが全てシリサイド化されることが望ましいが、チタン層20aと透光性導電層15との界面にチタンが残留したとしても、その機能に影響を及ぼすことはない。
シリサイド層20の形成後に、上記実施例1の工程P4(図2)と同様にして、シリコン基板25の厚さを350μm程度にした後に、そのシリコン基板25の裏面にチタン層8aとニッケル層8bを形成してシリコン基板25の裏面に金属電極8を形成する。
【0049】
PC4(図8)、金属電極8の形成後に、上記実施例1の工程PA2(図3)と同様にして、透光性導電層15上の中央部に、酸化チタンからなる厚さ10μm程度の多孔質層14を形成し、この多孔質状態の酸化チタンの表面に増感色素13を吸着させる。
このようにして、N型のシリコン基板25で形成されたPN接合型のシリコン太陽電池23の陽極23aであるP型高濃度拡散層27と、色素増感太陽電池30の陰極30bである透光性導電層15とをシリサイド層20により電気的に導通させ、透光性導電層15上に増感色素13を吸着させた多孔質層14を形成した本実施例の第1の構造体が形成される。
【0050】
本実施例の第2の構造体は、上記実施例1の工程PA1(図3)と同様にして形成されたガラス基板11上の色素増感太陽電池30の陽極30aである透明導電膜12上に、スパッタ法により白金を堆積して膜厚100Å以上、200Å以下の触媒層16を形成して構成される。
上記のようにして、第1および第2の構造体を形成した後に、図9に示す工程に従って本実施例の複合型太陽電池1が製造される。
【0051】
PD1(図9)、上記実施例1の工程PB1(図4)と同様にして、注入口17aを設けたフィルム部材17を形成し、このフィルム部材17を第1の構造体の透光性導電層15の周縁部上に載置して多孔質層14を枠状のフィルム部材17の内部に配置し、この透光性導電層15上の多孔質層14に、第2の構造体の触媒層16を対向させ、その周縁部の位置を透光性導電層15の周縁部に合せて配置する。
【0052】
PD2(図9)、そして、第2の構造体の触媒層16の周縁部をフィルム部材17に押圧し、130℃程度の温度で触媒層16および透光性導電層15と、フィルム部材17とをそれぞれ熱圧着する。
これにより、透光性導電層15と触媒層16とフィルム部材17とにより囲まれた領域に多孔質層14が配置されると共に、多孔質層14と触媒層16との間に所定の隙間(本実施例では、50μm程度)が形成され、多孔質層14の周囲に空間が形成される。
【0053】
次いで、フィルム部材17の注入口17aから、ヨウ素等を混合した電解液18を、多孔質層14の周囲の空間に注入して充填し、その後にフィルム部材17の注入口17aをエポキシ系樹脂材料等で封止する。
このようにして、図7に示す、N型のシリコン基板25で形成されたPN接合型のシリコン太陽電池23の陽極23a上に、色素増感太陽電池30の陰極30bを配置し、これらをシリサイド層20を介して積層した本実施例の複合型太陽電池1が製造される。
【0054】
このような複合型太陽電池1においても、上記実施例1と同様に、それぞれの太陽電池が吸収できない波長領域の光を互いに補完しあって、より広範囲な太陽光スペクトルを吸収すること可能になる。
この場合に、複合型太陽電池1の内部を流れる電子は、複合型太陽電池1の陽極として機能する色素増感太陽電池30の陽極30aである透明導電膜12から、複合型太陽電池1の陰極として機能するシリコン太陽電池23の陰極23bである金属電極8へ向かって複合型太陽電池1の内部を積層方向に流れ、これにより形成されるサイクルが繰り返されることによって、複合型太陽電池1に定常的な光照射に伴う光起電力が発生する。
【0055】
また、本実施例の複合型太陽電池1は、シリコン太陽電池23上に色素増感太陽電池30を積層し、これらの間をシリサイド層20によりオーミック接続して、内部で直列に接続しているので、シリサイド層20の表裏に形成され、内部で直列に接続されたシリコン太陽電池23の陽極23aであるP型高濃度拡散層27と、色素増感太陽電池30の陰極30bである100Å程度の極薄の透過性導電層15とを流れる電流を面方向ではなく、厚さ方向に流すことができ、内部の直列抵抗成分を極めて小さしくて、内部における電圧損失を極めて小さくすることができ、結果として色素増感太陽電池30とシリコン太陽電池23とを積層した複合型太陽電池1の光電変換効率を向上させることができる。
【0056】
更に、シリコン基板25の裏面には蒸着により低抵抗の金属電極8を形成してあるので、内部の直列抵抗成分を更に小さくすることが可能になる。
更に、通常、内部抵抗の影響が大きいとされている色素増感太陽電池30の陰極30bを窒化チタンからなる透光性導電層15で形成するので、実施例1の透明導電膜12で色素増感太陽電池30の陰極30bを形成する場合に較べて、内部抵抗の影響を更に小さくすることができる。
【0057】
更に、色素増感太陽電池30の陽極30a側には、酸化チタンペーストをアニール処理により焼結する多孔質層14を形成しないので、陽極30aをガラス基板11上に透明導電膜12をコーティングした透明基板に代えて、より軽量なPET(polyethylene terephthalate)フィルム上にITO等の透明導電膜12をコーティングした透明フィルムを用いることができ、その透明導電膜12上に薄く白金を蒸着して触媒層16を形成すれば、本実施例の複合型太陽電池1の軽量化を図ることができる。
【0058】
更に、色素増感太陽電池30のシリコン太陽電池23の側の極板として形成された、色素増感太陽電池30の陰極30bである窒化チタンからなる極薄の透過性導電層15が透光性を有しているので、色素増感太陽電池30側から照射された光の透過性導電層15における反射を抑制して、色素増感太陽電池30を通過した太陽光をシリコン太陽電池23へ効率的に入射させることができる。
【0059】
更に、色素増感太陽電池30の陽極30aである透明導電膜12上に、電解液18の還元反応を促進する触媒からなる触媒層16が形成されているので、電解液18のヨウ素イオンへの電子の引き渡しを容易に行うことができる。
以上説明したように、本実施例では、シリコン基板で形成されたPN接合型のシリコン太陽電池の陽極上に、色素増感太陽電池の陰極を配置し、これらの間にシリサイド層を形成するようにしたことによって、シリサイド層によるオーミック接続により、シリコン太陽電池の陽極であるP型高濃度拡散層と、色素増感太陽電池の陰極である極薄の透過性導電層とを、内部で直列に接続することができ、シリサイド層の表裏に形成され、内部で直列に接続されたシリコン太陽電池の陽極と色素増感太陽電池の陰極とを流れる電流を、それぞれの厚さ方向に流すことが可能になり、内部における電圧損失を極めて小さくして、色素増感太陽電池とシリコン太陽電池とを積層した複合型太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。
【0060】
また、色素増感太陽電池のシリコン太陽電池の側の極板である色素増感太陽電池の陰極を、窒化チタンからなる極薄の透過性導電層で形成したので、透過性導電層の透光性を利用して、色素増感太陽電池側から照射された光の反射を抑制することが可能になり、色素増感太陽電池を通過した太陽光をシリコン太陽電池へ効率的に入射させることができる。
なお、上記実施例1および本実施例では、シリコン太陽電池を形成する半導体基板は、100%純粋なシリコンからなるシリコン基板として説明したが、ゲルマニウム(Ge)を1%以上、20%以下の組成比で混入して単結晶化したシリコンゲルマニウム基板としてもよい。
【0061】
これにより、ゲルマニウムの組成比で、シリコン太陽電池の光吸収特性を決定するPN接合のバンドギャップを1.1eVから0.67eVまで変化させることができ、シリコン太陽電池の光吸収可能な波長領域の上限を1.2μmよりも更に広げることが可能になり、複合型太陽電池の光電変換効率を更に向上させることができると共に、複合型太陽電池の設計自由度を増すことができる。
【実施例3】
【0062】
図10は実施例3の複合型太陽電池の断面を示す説明図、図11、図12は実施例3の複合型太陽電池の製造方法を示す説明図である。
なお、上記実施例1および実施例2と同様の部分は、同一の符号を付してその説明を省略する。
本実施例の複合型太陽電池1は、上記実施例1および実施例2のPN接合型のシリコン太陽電池3、23に代えて、ショットキー接合型のシリコン太陽電池43を用い、その上に実施例2と同様の色素増感太陽電池30を積層して構成されている。
【0063】
本実施例のシリコン太陽電池43は、N型不純物を拡散させた抵抗率が20〜30ΩcmのN型の単結晶シリコンからなるシリコン基板45で形成されたショットキー接合型のシリコン太陽電池であって、N型のシリコン基板45のおもて面側に形成された白金からなる白金層46と、この白金層46とN型のシリコン基板45との界面をシリサイド化して形成された白金シリサイド層47と、上記実施例1と同様に、シリコン基板25の裏面にチタン層8aとニッケル層8bとを積層して形成された金属電極8とで構成されている。
【0064】
これにより、シリコン基板45の内部に、N型のシリコン基板45と白金シリサイド層47とによるショットキー接合が形成され、白金層46がシリコン太陽電池43の陽極43aとして機能すると共に、金属電極8のニッケル層8bがシリコン太陽電池43の陰極43bとして機能する。
本実施例の色素増感太陽電池30は、上記実施例2と同様であるので、その説明を省略する。
【0065】
これらのシリコン太陽電池43の陽極43aと色素増感太陽電池30の陰極30bとは、直接、複合型太陽電池1の内部で直列に接続され、色素増感太陽電池30の陽極30aとシリコン太陽電池43の陰極43bとを外部配線21により外部負荷Fに接続すれば、色素増感太陽電池30のガラス基板11側から太陽光が照射されると、図10に矢印で示すように、外部配線21に導かれて、色素増感太陽電池30の陽極30aである透明導電膜12からシリコン太陽電池43の陰極43bである金属電極8に向かって電流が流れ、色素増感太陽電池30とシリコン太陽電池43とが直列に接続された本実施例の複合型太陽電池1が形成される。
【0066】
以下に、図11にPEで、図12にPFで示す工程に従って、本実施例の複合型太陽電池の製造方法について説明する。
まず、図11を用いて、本実施例の第1の構造体の製造方法について説明する。
PE1(図11)、抵抗率が20〜30ΩcmのN型のシリコン基板45を準備する。
PE2(図11)、準備したシリコン基板45のおもて面に、スパッタ法により膜厚200Å程度の白金層46を形成し、白金層46上に、スパッタ法により膜厚100Å程度の窒化チタンからなる透光性導電層15を形成する。
【0067】
次いで、上記実施例1の工程P4(図2)と同様にして、シリコン基板45の厚さを350μm程度にした後に、そのシリコン基板45の裏面にチタン層8aとニッケル層8bを形成して、シリコン基板45の裏面に金属電極8を形成する。
そして、RTA処理により、N型のシリコン基板45のおもて面と白金層46との界面、およびN型のシリコン基板45の裏面とチタン層8aとの界面のそれぞれのシリサイド化材料をシリコンとシリサイド反応させてN型のシリコン基板45の裏面側にチタンシリサイドからなるチタンシリサイド層を形成すると共に、N型のシリコン基板45のおもて面側に白金シリサイドからなる白金シリサイド層47を形成する。これによりシリコン基板45の内部にショットキー接合が形成される。
【0068】
この場合に、白金層46のシリサイド化においては、白金が、形成された白金シリサイド層47のおもて面側に残留するようにする。
PE3(図11)、白金シリサイド層47の形成後に、上記実施例1の工程PA2(図3)と同様にして、透光性導電層15上の中央部に、酸化チタンからなる厚さ10μm程度の多孔質層14を形成し、この多孔質状態の酸化チタンの表面に増感色素13を吸着させる。
【0069】
このようにして、N型のシリコン基板45で形成されたショットキー接合型のシリコン太陽電池43の陽極43aである白金層46と、色素増感太陽電池30の陰極30bである透光性導電層15とを直接接合させ、透光性導電層15上に増感色素13を吸着させた多孔質層14を形成した本実施例の第1の構造体が形成される。
本実施例の第2の構造体は、上記実施例2と同様に、ガラス基板11上の色素増感太陽電池30の陽極30aである透明導電膜12上に、スパッタ法により白金を堆積して膜厚100Å以上、200Å以下の触媒層16を形成して構成される。
【0070】
上記のようにして、第1および第2の構造体を形成した後に、図12に示す工程に従って本実施例の複合型太陽電池1が製造される。
PF1(図12)、上記実施例1の工程PB1(図4)と同様にして、注入口17aを設けたフィルム部材17を形成し、このフィルム部材17を第1の構造体の透光性導電層15の周縁部上に載置して多孔質層14を枠状のフィルム部材17の内部に配置し、この透光性導電層15上の多孔質層14に、第2の構造体の触媒層16を対向させ、その周縁部の位置を、透光性導電層15の周縁部に合せて配置する。
【0071】
PF2(図12)、そして、第2の構造体の触媒層16の周縁部をフィルム部材17に押圧し、130℃程度の温度で触媒層16および透光性導電層15と、フィルム部材17とをそれぞれ熱圧着する。
これにより、透光性導電層15と触媒層16とフィルム部材17とにより囲まれた領域に多孔質層14が配置されると共に、多孔質層14と触媒層16との間に所定の隙間(本実施例では、50μm程度)が形成され、多孔質層14の周囲に空間が形成される。
【0072】
次いで、フィルム部材17の注入口17aから、ヨウ素等を混合した電解液18を、多孔質層14の周囲の空間に注入して充填し、その後に、フィルム部材17の注入口17aをエポキシ系樹脂材料等で封止する。
このようにして、図10に示す、N型のシリコン基板45で形成されたショットキー接合型のシリコン太陽電池43の陽極43a上に、色素増感太陽電池30の陰極30bを直接重ね合せて積層した本実施例の複合型太陽電池1が製造される。
【0073】
このような複合型太陽電池1においても、上記実施例1と同様に、それぞれの太陽電池が吸収できない波長領域の光を互いに補完しあって、より広範囲な太陽光スペクトルを吸収すること可能になる。
この場合に、複合型太陽電池1の内部を流れる電子は、複合型+太陽電池1の陽極として機能する色素増感太陽電池30の陽極30aである透明導電膜12から、複合型太陽電池1の陰極として機能するシリコン太陽電池43の陰極43bである金属電極8へ向かって複合型太陽電池1の内部を積層方向に流れ、これにより形成されるサイクルが繰り返されることによって、複合型太陽電池1に定常的な光照射に伴う光起電力が発生する。
【0074】
また、本実施例の複合型太陽電池1は、シリコン太陽電池43上に色素増感太陽電池30を積層し、これらの間を直接接続して内部で直列に接続しているので、内部で直列に接続されたシリコン太陽電池43の陽極43aである白金層46と、色素増感太陽電池30の陰極30bである100Å程度の極薄の透過性導電層15とを流れる電流を面方向ではなく、厚さ方向に流すことができ、内部の直列抵抗成分を極めて小さしくて、内部における電圧損失を極めて小さくすることができ、結果として色素増感太陽電池30とシリコン太陽電池43とを積層した複合型太陽電池1の光電変換効率を向上させることができる。
【0075】
更に、シリコン基板45の裏面には蒸着により低抵抗の金属電極8を形成してあるので、内部の直列抵抗成分を更に小さくすることが可能になる。
更に、通常、内部抵抗の影響が大きいとされている色素増感太陽電池30の陰極30bを窒化チタンからなる透光性導電層15で形成するので、実施例1の透明導電膜12で色素増感太陽電池30の陰極30bを形成する場合に較べて、内部抵抗の影響を更に小さくすることができる。
【0076】
更に、色素増感太陽電池30の陽極30a側には、上記実施例2と同様に、多孔質層14を形成しないので、ガラス基板11上に透明導電膜12をコーティングした透明基板に代えて、PETフィルム上にITO等の透明導電膜12をコーティングした透明フィルムを用いることができ、複合型太陽電池1の軽量化を図ることができる。
更に、色素増感太陽電池30のシリコン太陽電池43の側の極板として形成された、色素増感太陽電池30の陰極30bである窒化チタンからなる極薄の透過性導電層15が透光性を有しているので、色素増感太陽電池30側から照射された光の透過性導電層15における反射を抑制して、色素増感太陽電池30を通過した太陽光をシリコン太陽電池43へ効率的に入射させることができる。
【0077】
更に、色素増感太陽電池30の陽極30aである透明導電膜12上に、電解液18の還元反応を促進する触媒からなる触媒層16が形成されているので、電解液18のヨウ素イオンへの電子の引き渡しを容易に行うことができる。
更に、シリコン太陽電池43をショットキー接合型としたので、シリコン基板45内にPN接合を形成する必要がなくなり、実施例1および実施例2に較べて工程数を削減することが可能になり、複合型太陽電池1の低コスト化を図ることができる他、複合型太陽電池1の開放電圧を、色素増感太陽電池の開放電圧に、ショットキー接合によるバリアハイト(0.3〜0.5V)が加算された電圧にすることが可能になる。
【0078】
以上説明したように、本実施例では、シリコン基板で形成されたショットキー接合型のシリコン太陽電池の陽極上に、色素増感太陽電池の陰極を直接重ね合せて積層したことによって、シリコン太陽電池の陽極である白金層と、色素増感太陽電池の陰極である極薄の透過性導電層とを、内部で直列に接続することができ、直列に接続されたシリコン太陽電池の陽極と色素増感太陽電池の陰極とを流れる電流を、それぞれの厚さ方向に流すことが可能になり、内部における電圧損失を極めて小さくして、色素増感太陽電池とシリコン太陽電池とを積層した複合型太陽電池の光電変換効率を向上させることができる。
【0079】
また、色素増感太陽電池のシリコン太陽電池の側の極板である色素増感太陽電池の陰極を、窒化チタンからなる極薄の透過性導電層で形成したので、透過性導電層の透光性を利用して、色素増感太陽電池側から照射された光の反射を抑制することが可能になり、色素増感太陽電池を通過した太陽光をシリコン太陽電池へ効率的に入射させることができる。
なお、上記各実施例においては、色素増感太陽電池の多孔質層を形成するための酸化チタンペーストは、スクリーン印刷法により塗布するとして説明したが、塗布法により酸化チタンペーストを塗布するようにしてもよく、Solaronix社製の各種酸化チタンペーストを単層、もしくは積層して多孔質層を形成するようにしてもよい。
【0080】
また、上記各実施例においては、透光性導電層は、酸化チタンを薄く成膜して形成するとして説明したが、透光性導電層は前記に限らず、FTOやITO等により形成するようにしてもよい。
更に、上記各実施例においては、シリコン太陽電池は単結晶シリコンからなるシリコン基板で形成するとして説明したが、多結晶シリコンからなるシリコン基板やアモルファスシリコンからなるシリコン基板で形成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】実施例1の複合型太陽電池の断面を示す説明図
【図2】実施例1の複合型太陽電池の製造方法を示す説明図
【図3】実施例1の複合型太陽電池の製造方法を示す説明図
【図4】実施例1の複合型太陽電池の製造方法を示す説明図
【図5】実施例1の工程PB1におけるフィルム部材を示す斜視図
【図6】実施例1のシリコン太陽電池と色素増感太陽電池の光吸収特性を示すグラフ
【図7】実施例2の複合型太陽電池の断面を示す説明図
【図8】実施例2の複合型太陽電池の製造方法を示す説明図
【図9】実施例2の複合型太陽電池の製造方法を示す説明図
【図10】実施例3の複合型太陽電池の断面を示す説明図
【図11】実施例3の複合型太陽電池の製造方法を示す説明図
【図12】実施例3の複合型太陽電池の製造方法を示す説明図
【符号の説明】
【0082】
1 複合型太陽電池
3、23、43 シリコン太陽電池
3a、10a、23a、30a、43a 陽極
3b、10b、23b、30b、43b 陰極
5、25、45 シリコン基板
6 N型拡散層
7 N型高濃度拡散層
8 金属電極
8a、20a チタン層
8b ニッケル層
10、30 色素増感太陽電池
11 ガラス基板
12 透明導電膜
13 増感色素
14 多孔質層
15 透光性導電層
16 触媒層
17 フィルム部材
17a 注入口
18 電解液
20 シリサイド層
21 外部配線
26 P型拡散層
27 P型高濃度拡散層
46 白金層
47 白金シリサイド層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板で形成したPN接合型のシリコン太陽電池と色素増感太陽電池とを積層した複合型太陽電池であって、
前記シリコン太陽電池と前記色素増感太陽電池が積層された方向に、前記シリコン太陽電池と前記色素増感太陽電池との間の電流が流れることを特徴とする複合型太陽電池。
【請求項2】
半導体基板で形成したPN接合型のシリコン太陽電池の陰極上に、色素増感太陽電池の陽極を配置して積層した複合型太陽電池であって、
前記シリコン太陽電池の陰極と、前記色素増感太陽電池の陽極との間にシリサイド層を形成したことを特徴とする複合型太陽電池。
【請求項3】
半導体基板で形成したPN接合型のシリコン太陽電池の陽極上に、色素増感太陽電池の陰極を配置して積層した複合型太陽電池であって、
前記シリコン太陽電池の陽極と、前記色素増感太陽電池の陰極との間にシリサイド層を形成したことを特徴とする複合型太陽電池。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記半導体基板が、シリコン基板であることを特徴とする複合型太陽電池。
【請求項5】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記半導体基板が、シリコンゲルマニウム基板であることを特徴とする複合型太陽電池。
【請求項6】
シリコン基板で形成したショットキー接合型のシリコン太陽電池の陽極上に、色素増感太陽電池の陰極を、直接重ね合せて積層したことを特徴とする複合型太陽電池。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか一項において、
前記色素増感太陽電池の前記シリコン太陽電池側の極板が、透光性および導電性を有する透光性導電層で形成されていることを特徴とする複合型太陽電池。
【請求項8】
請求項7において、
前記透光性導電層は、窒化チタンで形成されていることを特徴とする複合型太陽電池。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか一項において、
前記色素増感太陽電池の陽極上に、電解液の還元反応を促進する触媒からなる触媒層が形成されていることを特徴とする複合型太陽電池。
【請求項10】
請求項9において、
前記触媒層は、膜厚100Å以上、200Å以下の白金で形成されていることを特徴とする複合型太陽電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−49247(P2009−49247A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−215175(P2007−215175)
【出願日】平成19年8月21日(2007.8.21)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】