説明

複合弁、及びその複合弁を備えるエンジンのブローバイガス還元装置

【課題】 流体が順方向に流れる際には流路抵抗を極力小さくし、かつ流体の逆流を防止すること。さらに、流路の下流側において圧力が所定値以上に上昇したときにのみ、前記圧力を逃がせるようにして、下流側の流体が頻繁に上流側に逆流しないようにすることを目的とする。
【解決手段】 本発明に係る複合弁は、流体の通路24に取付けられる構成で、流体が通路24の上流側から下流側に順方向に流れる際にはその流れを遮ることなく、流体が逆方向に流れようとするときは、その流れを遮断する逆流防止部と、逆流防止部の下流側の圧力が所定値以上に上昇したときに、その圧力で逆流防止部をバイパスする流路が開くように構成されている圧力調整部とを有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆流防止部、及び圧力調整部を備える複合弁、及びその複合弁を備えるエンジンのブローバイガス還元装置に関する。
【背景技術】
【0002】
上記した複合弁を備えるエンジンのブローバイガス還元装置に関する技術が特許文献1に記載されている。
ブローバイガス還元装置110は、図6(A)に示すように、エンジン100の各気筒(図示省略)からクランク室100cへ漏れ出たブローバイガスを吸気装置102に戻す装置である。ブローバイガス還元装置110は、エンジン100のクランク室100cと吸気装置102のサージタンク108とを連通させるブローバイガス還元通路113と、吸気管104のスロットルバルブ上流側とクランク室100cとを連通させる空気導入通路115とを備えている。
エンジンのクランク室100c内のブローバイガスは、ブローバイガス還元通路113を介して吸気装置102のサージタンク108内に吸引され、インテークマニホールド109を介して燃焼空気と共にエンジンの各々の気筒に供給される。また、ブローバイガスが吸引されることにより負圧となったエンジンのクランク室100cには空気導入通路115によってエアクリーナ105を通過した空気が供給される。さらに、空気導入通路115の途中には、ブローバイガス還元通路113の詰まり等によってクランク室100c内の圧力が上昇したときの安全弁としての機能と、逆流を抑制する機能とを有する複合弁120が取付けられている。
【0003】
複合弁120は、図6(B)に示すように、筒状のハウジング121と、そのハウジング121内を入口側と出口側とで仕切る円錐形の仕切り板123とを備えている。仕切り板123には、入口室122と出口室124とを連通させる複数の開口125が上部と下部とに形成されており、上部の開口125が出口室124側からゴム製の第1円板状弁127によって塞がれている。また、仕切り板123の下部の開口125が入口室122側から同じくゴム製の第2円板状弁129によって塞がれている。
このため、エアクリーナ105を通過した空気が空気導入通路115によってエンジンのクランク室100cに供給される際には、空気流がゴム製の第1円板状弁127を上流側(入口室122側)から押圧変形させることで、その空気が第1円板状弁127と開口125との隙間を通過する。なお、クランク室100cからの流体の逆流は、そのクランク室100c内の圧力が低い場合に第1円板状弁127及び第2円板弁129によって規制される。即ち、複合弁120は逆止弁に近い機能を有するようになる。
また、エンジンのクランク室100c内の圧力が上昇した場合には、クランク室100cから流出した流体がゴム製の第2円板状弁129を下流側(出口室124側)から押圧変形させることで、その流体が第2円板状弁129と開口125との隙間を通過する。これにより、複合弁120は安全弁としての機能を有するようになる。
【0004】
【特許文献1】特開平7−63036号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記した複合弁120では、空気がエンジンのクランク室100cに供給される際は、前記空気が上流側(入口室122側)からゴム製の第1円板状弁127を押圧変形させて開口125を開く構成であるため、複合弁120内での圧損が大きく空気が流れ難いという問題がある。
逆に、エンジンのクランク室100c内の圧力が上昇した場合には、その圧力が比較的低い場合でもゴム製の第2円板状弁129が変形して開口125が開かれるため、ブローバイガスが頻繁にスロットルバルブ107の上流側に戻されるという不具合がある。
【0006】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明の技術的課題は、流体が順方向に流れる際には流路抵抗を極力小さくし、かつ流体の逆流を防止すること。さらに、流路の下流側において圧力が所定値以上に上昇したときにのみ、前記圧力を逃がせるようにして、下流側の流体が頻繁に上流側に逆流しないようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題は、各請求項の発明によって解決される。
請求項1の発明は、流体の通路に取付けられる構成で、前記流体が前記通路の上流側から下流側に順方向に流れる際にはその流れを遮ることなく、前記流体が逆方向に流れようとするときは、その流れを遮断する逆流防止部と、前記逆流防止部の下流側の圧力が所定値以上に上昇したときに、その圧力で前記逆流防止部をバイパスする流路が開くように構成されている圧力調整部とを有することを特徴とする。
【0008】
本発明によると、逆流防止部は、流体が前記流路の上流側から下流側に順方向に流れる際にはその流れを遮ることないため、流路抵抗を極力小さくできる。また、流体が逆方向に流れようとするときは、その流れを遮断するため、流体の逆流防止を図ることができる。
さらに、圧力調整部は、逆流防止部の下流側の圧力が所定値以上に上昇したときに、その圧力で前記逆流防止部をバイパスする流路が開くように構成されているため、前記下流側の圧力が所定値以下のときに前記バイパス流路が開くことはない。このため、下流側の流体が頻繁に上流側に逆流することはなく、必要なときに確実に設備の安全確保を図ることができる。
【0009】
請求項2の発明によると、逆流防止部は、複合弁のハウジング内に形成された流路の開口を塞ぐ逆流防止本体部材と、その逆流防止本体部材に形成された流体通路と、その流体通路を開閉する弁体とを備え、前記流体が順方向に流れるときは前記弁体が前記流体通路を開き、前記流体が逆方向に流れようとするときは前記弁体が前記流体通路を閉じる構成であり、前記圧力調整部は、前記逆流防止本体部材が下流側から所定値以上の圧力を受けたときに、その逆流防止本体部材が上流側に変位して前記流路の開口を開き、前記逆流防止部をバイパスする流路が形成されるのを許容する構成であることを特徴とする。
【0010】
請求項3の発明によると、逆流防止部の弁体は、流体の順方向からの押圧力を受けて逆流防止本体部材の流体通路を開く方向に移動し、前記流体の逆方向からの押圧力を受けて前記逆流防止本体部材の流体通路を閉じる位置に戻されることを特徴とする。
請求項4の発明によると、前記逆流防止本体部材のシール面が弾性力により流路の開口縁に押し付けられることで、前記逆流防止部をバイパスする流路(バイパス流路)が閉じられることを特徴とする。このため、一定の押圧力で前記バイパス流路を閉じることができる。
請求項5の発明によると、逆流防止部の弁体は球体で、逆流防止本体部材は円盤状に形成されており、その逆流防止本体部材の中央に流体通路が形成されていることを特徴とする。このように、弁体が球体であるため、その弁体が流体の力を受けて移動し易くなる。したがって、弁体が逆流防止本体部材の流体通路を開く際に、大きな力を必要としない。このため、流体が順方向に緩やかに流れる場合にも、逆流防止本体部材の流体通路を容易に開けるようになる。
【0011】
請求項6の発明は、請求項1から請求項5のいずれかに記載の複合弁を備えるエンジンのブローバイガス還元装置であって、エンジンに燃焼空気を供給する吸気管のスロットルバルブ下流側とエンジンのクランク室内とを連通させるブローバイガス還元通路と、前記吸気管のスロットルバルブ上流側と前記クランク室内とを連通させる空気導入通路とを備え、前記複合弁は、エンジンの吸気管側を上流側とするように前記空気導入通路に取付けられていることを特徴とする。
このため、空気が吸気管からエンジンのクランク室に順方向に流れる際に流路抵抗を極力小さくできる。また、気体がクランク室から吸気管側に逆流しようとするときは、その流れを遮断するため、流体の逆流防止を図ることができる。
さらに、圧力調整部は、逆流防止部の下流側(クランク室)の圧力が所定値以上に上昇したときに、その圧力で前記逆流防止部をバイパスする流路が開くように構成されているため、前記クランク室の圧力が所定値以下のときにバイパス流路が開くことはない。このため、クランク室内の流体が頻繁に上流側に逆流することはない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、流体が流路の上流側から下流側に順方向に流れる際に流路抵抗を極力小さくでき、かつ流体の逆流を防止できる。さらに、流路の下流側で圧力が所定圧力以上に上昇したときには、前記圧力を上流側に逃がせるため、確実に設備の安全確保を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
[実施形態1]
以下、図1〜図5に基づいて本発明の実施形態1に係る複合弁の説明を行う。本実施形態に係る複合弁は自動車のエンジンにおけるブローバイガス還元装置において使用される弁である。ここで、図1は本実施形態に係る複合弁を備えるブローバイガス還元装置、及びエンジンの吸気装置を表す模式図であり、図2、図3は複合弁の縦断面図及び平面図、図4は複合弁の流量特性を表すグラフである。また、図5はエンジンの吸気装置、及びブローバイガス還元装置の変更例を表す模式図である。
【0014】
<エンジンの吸気装置10について>
先ず、エンジンの吸気装置10の概要について説明する。
エンジンの吸気装置10は、エンジン1の各々の気筒(図示省略)に燃焼空気を供給するための装置であり、図1に示すように、燃焼空気の通路である吸気管12を備えている。吸気管12には、上流側から順番にエアクリーナ14、流量計15、スロットルバルブ17が取付けられており、そのスロットルバルブ17の弁体17vが自動車の運転室内に設置されたアクセルペタル(図示省略)の動作と連動するように構成されている。さらに、吸気管12はスロットルバルブ17の下流側にサージタンク18を備えており、そのサージタンク18を介してインテークマニホールド19により各々の気筒毎に燃焼空気が供給される。
【0015】
<エンジンのブローバイガス還元装置20について>
次に、エンジンのブローバイガス還元装置20について説明する。
ブローバイガス還元装置20は、エンジン1の各気筒からクランク室1cへ漏れ出たブローバイガスを吸気装置10に戻し、大気への放出を防止する装置である。ブローバイガス還元装置20は、図1に示すように、エンジン1のクランク室1cと吸気装置10のサージタンク18とを連通させるブローバイガス還元通路22と、エンジン1のクランク室1cと吸気管12のスロットルバルブ上流側とを連通させる空気導入通路24とを備えている。
ここで、吸気管12のスロットルバルブ上流側は、ほぼ大気圧と等しい圧力(約0KPa)に保持されている。また、サージタンク18内の圧力は、スロットルバルブ17の開度がほぼ零に近い状態(アイドリング状態)では約−70KPa程度に保持されており、スロットルバルブ17の開度が大きくなるにつれて大気圧(約0KPa)に近づくようになる。このため、スロットルバルブ17の開度が零に近い状態(アイドリング状態)で、クランク室1c内のブローバイガスはサージタンク18内に吸引され易くなる。しかし、前記ブローバイガス還元通路22には、クランク室1c内とサージタンク18内との差圧の変動によりブローバイガスの吸引量が急変しないように、流量調節弁22fが設けられている。
【0016】
ブローバイガス還元通路22によってサージタンク18内に導かれたブローバイガスは、燃焼空気と共にインテークマニホールド19を介してエンジン1の各々の気筒に供給され、ここで再び燃焼される。
また、ブローバイガスが流出することによって負圧になったエンジン1のクランク室1c内には空気導入通路24によってエアクリーナ14を通過した空気が供給される。さらに、空気導入通路24の途中には、複合弁30が取付けられている。複合弁30は、クランク室1c側からブローバイガスが吸気管12側に逆流するのを防止する逆止弁機能と、ブローバイガス還元通路22の詰まり等によりクランク室1c内の圧力が所定値以上に上昇したときに、流路を開く安全弁機能とを備えている。
【0017】
<複合弁30について>
次に、図2〜図4に基づいて複合弁30の構成について説明する。ここで、図2(A)、図3は複合弁30の縦断面図を表しており、図2(B)は図2(A)のB−B矢視図を表している。また、図4はエンジン1のクランク室1c内の圧力と、複合弁30の通過流量との関係を表すグラフである。
複合弁30は、図2(A)等に示すように、入側ハウジング片32と出側ハウジング片34とから構成されるハウジング30hを備えている。入側ハウジング片32は、小径の管体部321と、その管体部321の軸端(後端)に形成された大径のフランジ部322とから構成されており、両者321,322が同軸に位置決めされている。管体部321は、複合弁30の入口管となる部分であり、上記した空気導入通路24の上流側に接続される。フランジ部322には、後端側(管体部321と反対側)にリング状の凹部322hが同軸に形成されており、そのリング状の凹部322hが管体部321の内部通路321tと連通している。なお、フランジ部322におけるリング状の凹部322hの内径寸法は、管体部321の内部通路321tの内径寸法よりも十分大きな値に設定されている。
さらに、フランジ部322の後端面322zには、リング状の凹部322hを囲んで円形溝322mがその凹部322hと同軸に形成されている。
【0018】
出側ハウジング片34は、上記した入側ハウジング片32と前後方向においてほぼ対称な形状に成形されている。出側ハウジング片34は、管体部341と、その管体部341の軸端(前端)に形成されたフランジ部342とから構成されており、両者341,342が同軸に位置決めされている。管体部341は、複合弁30の出口管となる部分であり、上記した空気導入通路24の下流側に接続される。フランジ部342には、先端側(管体部341と反対側)にリング状の凹部342hが同軸に形成されており、そのリング状の凹部342hの内径寸法が入側ハウジング片32の凹部322hの内径寸法と等しい値に設定されている。さらに、リング状の凹部342hの内周面には軸方向に延びる直線溝342x(点線参照)が円周方向に複数本形成されている。
出側ハウジング片34の管体部341には、後端部寄りの位置にその管体部341の内周面341wから内フランジ状に突出した弁体支持部344が形成されている。さらに、管体部341の内周面341wには、弁体支持部344の位置からフランジ部342の凹部342hの位置まで軸方向に延びる直線突条341yが円周方向に複数本形成されている。直線突条341yは、後記する球体状の弁体41を弁体支持部344の位置からフランジ部342の凹部342hの位置まで軸方向にガイドする部材であり、弁体41が管体部341内にある状態で、気体は各々の直線突条341y間に形成された溝状流路341x(点線参照)内を通過できるように構成されている。
【0019】
弁体支持部344は、図2(B)に示すように、中央に円形開口344cを備えており、その円形開口344cの周縁に弁体41が嵌るテーパ面344t(図2(A)参照)が形成されている。また、弁体支持部344の周縁部分には、各々の直線突条341y間に形成された溝状流路341xと連通する略扇形の開口344sがそれらの溝状流路341xと等しい数だけ形成されている。
また、出側ハウジング片34のフランジ部342には、先端面342fの外周縁に薄肉の円筒部342eが形成されている。ここで、円筒部342eの径寸法は、入側ハウジング片32の円形溝322mの径寸法と等しい値に設定されている。そして、出側ハウジング片34の円筒部342eが入側ハウジング片32の円形溝322mに嵌め込まれ、出側ハウジング片34のフランジ部342の先端面342fが入側ハウジング片32のフランジ部322の後端面322zに面接触した状態で、ハウジング30hが完成する。
【0020】
ハウジング30hには、入側ハウジング片32の凹部322hと出側ハウジング片34の凹部342hとにより構成された空間S内に、略円盤状の逆流防止本体部材43が軸方向に変位可能な状態で収納されている。逆流防止本体部材43は、円盤部435と、その円盤部435の中央から軸方向前方(図2(A)において右方)に突出する短管部437とから構成されており、その短管部437から円盤部435まで貫通するように流体通路438が形成されている。逆流防止本体部材43の円盤部435には、出側ハウジング片34の凹部342hの底面342bに当接して上記した各々の溝状流路341xを軸方向から閉鎖するシール面435sが形成されている。また、シール面435sには、流体通路438の周縁部分に球体状の弁体41が当接するテーパ面435tが形成されている。
球体状の弁体41は、出側ハウジング片34の管体部341の内部に収納されており、その管体部341の弁体支持部344の位置(図2(A) 二点鎖線参照)から逆流防止本体部材43の円盤部435のテーパ面435tに当接する位置(図2(A) 実線参照)まで軸方向に移動できるように構成されている。
さらに、逆流防止本体部材43の短管部437の周囲には、その逆流防止本体部材43を後方(図2(A)において左方向)に押圧して円盤部435のシール面435sを出側ハウジング片34の凹部342hの底面342bに当接させるコイルスプリング47が装着されている。
【0021】
<複合弁30の動作について>
次に、複合弁30の動作について説明する。
複合弁30に対して入口から出口の方向(順方向)に流体が流れる際には、管体部321の内部通路321tに流入した流体は逆流防止本体部材43の流体通路438に流入して、弁体41を押圧する。これにより、弁体41は回転しながら後方(弁体支持部344の方向)に移動し、逆流防止本体部材43の円盤部435のテーパ面435tから離れる。この結果、逆流防止本体部材43の流体通路438が開かれ、流体は、図2(A)の二点差線に示すように、その流体通路438から出側ハウジング片34の管体部341の溝状流路341x、及び弁体支持部344の略扇形の開口344sを通過して、複合弁30の出口から流出する。
また、流体が逆流しようとすると、複合弁30の出口から弁体支持部344の円形開口344cを介して流入した流体が弁体41を前方(図2(A)において右方向)に押圧し、その弁体41が逆流防止本体部材43の円盤部435のテーパ面435tに当接する(図2(A) 実線参照)。これによって、逆流防止本体部材43の流体通路438が閉じられる。さらに、この状態で、逆流防止本体部材43の円盤部435のシール面435sはコイルスプリング47のバネ力で出側ハウジング片34の凹部342hの底面342bに押圧されている。これにより、出側ハウジング片34の管体部341の溝状流路341xが塞がれている。
即ち、逆流防止本体部材43の流体通路438が閉じられ、さらに出側ハウジング片34の管体部341の溝状流路341xが閉じられるため、流体の逆流が阻止される。このように、逆流防止本体部材43、流体通路438、及び弁体41等が本発明の逆流防止部に相当する。
【0022】
しかし、この状態から下流側の圧力が上昇して、その圧力が所定値を超えると、図3に示すように、流体が弁体41、及び逆流防止本体部材43をコイルスプリング47のバネ力に抗して上流側(前方)に変位させる。これにより、逆流防止本体部材43の円盤部435のシール面435sが出側ハウジング片34の凹部342hの底面342bから離れ、出側ハウジング片34の管体部341の溝状流路341xが開かれる。そして、溝状流路341xを介して下流側の流体がハウジング30hの空間S内に流入する(矢印参照)。さらに、空間S内に流入した流体は、出側ハウジング片34の凹部342hの内周面に形成された直線溝342xを通って逆流防止本体部材43をバイパスし、上流側に流出する。
即ち、逆流防止本体部材43のシール面435s、出側ハウジング片34の凹部342hの底面342b、溝状流路341x、及び直線溝342x等が本発明の圧力調整部に相当し、コイルスプリング47が本発明の弾性体に相当する。さらに、溝状流路341x、及び直線溝342x等が本発明の逆流防止部をバイパスする流路(バイパス流路)に相当する。
【0023】
<エンジンのブローバイガス還元装置20の動作について>
次に、エンジンのブローバイガス還元装置20の動作について説明する。
エンジン1が、例えば、アイドリングに近い状態では、前述のように、サージタンク18内の圧力は約−70KPaに近い値であるため、エンジン1のクランク室1c内のブローバイガスはブローバイガス還元通路22を介してサージタンク18内に吸引される。そして、エンジン1のクランク室1c内は負圧になる。このため、エンジン1のクランク室1c内には空気導入通路24によってエアクリーナ14を通過した空気が供給される。即ち、複合弁30には入口から出口の方向(順方向)に空気が流れるようになる。このとき、空気は逆流防止本体部材43の流体通路438に流入して、弁体41を押圧する。これにより、弁体41は後方に移動し、流体通路438が開かれて、空気は、その流体通路438から出側ハウジング片34の管体部341の溝状流路341x、及び弁体支持部344の略扇形の開口344sを通過して、複合弁30の出口から流出する。
図4は、複合弁30の特性を表すグラフであり、横軸にクランク室1c内の圧力、縦軸に複合弁30を流れる気体流量を表している。即ち、エンジン1のクランク室1c内が負圧の状態で複合弁30は空気を順方向(上流から下流)に流せるようになる(特性I参照)。
【0024】
一方、スロットルバルブ17が開かれてエンジン1が高負荷になるとサージタンク18内の圧力が上昇して大気圧に近くなる。このため、エンジン1のクランク室1c内のブローバイガスがブローバイガス還元通路22を介してサージタンク18内に吸引され難くなり、前記クランク室1c内の圧力も大気圧に近くなる。このため、空気導入通路24によりクランク室1cに供給される空気の流量(複合弁30を順方向に流れる空気流量)が減少する(特性II参照)。
そして、例えば、ブローバイガス還元通路22の詰まりや開口面積の減少等で、エンジン1のクランク室1c内の圧力が正圧になると、クランク室1c内のガス等(流体)が空気導入通路24を通って吸気管12側に逆流しようとする。しかし、複合弁30の出口から流入した流体が弁体41を前方(上流方向)に押圧することで、その弁体41が逆流防止本体部材43の流体通路438が閉鎖される。さらに、逆流防止本体部材43の円盤部435のシール面435sはコイルスプリング47のバネ力で出側ハウジング片34の凹部342hの底面342bに押圧されて、前記管体部341の溝状流路341xが塞がれている。このため、流体の逆流が阻止される(特性III参照)。
しかし、エンジン1のクランク室1c内の圧力が所定値以上に上昇すると、流体の圧力で弁体41、及び逆流防止本体部材43がコイルスプリング47のバネ力に抗して上流側(前方)に変位する。これにより、逆流防止本体部材43の円盤部435のシール面435sが出側ハウジング片34の凹部342hの底面342bから離れ、管体部341の溝状流路341xが開かれる。そして、それらの溝状流路341xを介して下流側の流体がハウジング30hの空間S内に流入し、直線溝342xを通って逆流防止本体部材43をバイパスし、上流側に逃がされる(特性IV参照)。これによって、エンジン1のトラブルが回避される。
【0025】
<本実施形態に係る複合弁30の長所について>
本発明に係る複合弁30によると、逆流防止部(弁体41、逆流防止本体部材43等)は、流体が順方向に流れる際にはその流れを遮ることないため、流路抵抗を極力小さくできる。また、流体が逆方向に流れようとするときは、その流れを遮断するため、流体の逆流防止を図ることができる。
さらに、圧力調整部(逆流防止本体部材43、コイルスプリング47等)は、逆流防止部の下流側の圧力が所定値以上に上昇したときに、その圧力で前記逆流防止部をバイパスする流路(管体部341の溝状流路341x等)が開くように構成されているため、下流側の圧力が所定値以下のときに前記バイパス流路が開くことはない。このため、下流側の流体が頻繁に上流側に逆流することはなく、必要時に確実に設備の安全確保を図ることができる。
また、逆流防止本体部材43の周縁部が弾性力により溝状流路341xの開口縁に押し付けられることで、前記逆流防止部をバイパスする流路(バイパス流路)が閉じられるため、一定の押圧力で前記バイパス流路を閉じることができる。
また、弁体41が球体であるため、その弁体41が流体の力を受けて移動し易くなる。したがって、弁体41が逆流防止本体部材43の流体通路438を開く際に、大きな力を必要としない。このため、流体が順方向に緩やかに流れる場合にも、逆流防止本体部材43の流体通路438を容易に開けるようになる。
【0026】
<変更例>
本実施形態では、逆流防止部と圧力調整部とが一体化された複合弁30を備えるブローバイガス還元装置20を例示したが、図5に示すように、複合弁30を逆止弁51と圧力調整弁52とに分けることも可能である。即ち、エンジン1のクランク室1c内の圧力が負圧の場合、あるいは若干正圧の状態(特性I、特性II、特性III)では逆止弁51が動作して、クランク室1c内のガス等(流体)の逆流を防止する。そして、クランク室1c内の圧力が所定値以上に上昇した場合(特性IV)には、圧力調整弁52が流路を開く方向に動作する構成である。これにより、逆止弁51のみを有する既設のブローバイガス還元装置20に対して、後から圧力調整弁52を追加し、安全対策を施すことが可能になる。
また、本実施形態では、複合弁30をブローバイガス還元装置20の空気導入通路24の途中に設ける例を示したが、ブローバイガス還元装置20以外の装置に複合弁30を設けることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施形態1に係る複合弁を備えるブローバイガス還元装置、及びエンジンの吸気装置を表す模式図である。
【図2】複合弁の縦断面図(A図)、及び平面図(A図のB−B矢視図(B図))である。
【図3】複合弁の縦断面図である。
【図4】複合弁の流量特性を表すグラフである。
【図5】エンジンの吸気装置、及びブローバイガス還元装置の変更例を表す模式図である。
【図6】従来の複合弁を備えるブローバイガス還元装置、及びエンジンの吸気装置を表す模式図(A図)、及び前記複合弁の縦断面図(B図)である。
【符号の説明】
【0028】
20 ブローバイガス還元装置
22 ブローバイガス還元通路
24 空気導入通路
30 複合弁
41 弁体(逆流防止部)
43 逆流防止本体部材(逆流防止部、圧力調整部)
47 コイルスプリング(圧力調整部、弾性体)
438 流体通路
341x 溝状流路(バイパス流路)
342x 直線溝(バイパス流路)
342b 凹部の底面(圧力調整部)
435s シール面(圧力調整部)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の通路に取付けられる構成で、前記流体が前記通路の上流側から下流側に順方向に流れる際にはその流れを遮ることなく、前記流体が逆方向に流れようとするときは、その流れを遮断する逆流防止部と、
前記逆流防止部の下流側の圧力が所定値以上に上昇したときに、その圧力で前記逆流防止部をバイパスする流路が開くように構成されている圧力調整部と、
を有することを特徴とする複合弁。
【請求項2】
請求項1に記載の複合弁であって、
前記逆流防止部は、複合弁のハウジング内に形成された流路の開口を塞ぐ逆流防止本体部材と、その逆流防止本体部材に形成された流体通路と、その流体通路を開閉する弁体とを備え、前記流体が順方向に流れるときは前記弁体が前記流体通路を開き、前記流体が逆方向に流れようとするときは前記弁体が前記流体通路を閉じる構成であり、
前記圧力調整部は、前記逆流防止本体部材が下流側から所定値以上の圧力を受けたときに、その逆流防止本体部材が上流側に変位して前記流路の開口を開き、前記逆流防止部をバイパスする流路が形成されるのを許容する構成であることを特徴とする複合弁。
【請求項3】
請求項2に記載の複合弁であって、
前記逆流防止部の弁体は、流体の順方向からの押圧力を受けて逆流防止本体部材の流体通路を開く方向に移動し、前記流体の逆方向からの押圧力を受けて前記逆流防止本体部材の流体通路を閉じる位置に戻されることを特徴とする複合弁。
【請求項4】
請求項2又は請求項3のいずれかに記載の複合弁であって、
前記逆流防止本体部材のシール面が弾性力により流路の開口縁に押し付けられることで、前記逆流防止部をバイパスする流路が閉じられることを特徴とする複合弁。
【請求項5】
請求項2から請求項4のいずれかに記載の複合弁であって、
前記逆流防止部の弁体は球体で、前記逆流防止本体部材は円盤状に形成されており、その逆流防止本体部材の中央に流体通路が形成されていることを特徴とする複合弁。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれかに記載の複合弁を備えるエンジンのブローバイガス還元装置であって、
エンジンに燃焼空気を供給する吸気管のスロットルバルブ下流側とエンジンのクランク室内とを連通させるブローバイガス還元通路と、
前記吸気管のスロットルバルブ上流側と前記クランク室内とを連通させる空気導入通路とを備え、
前記複合弁は、エンジンの吸気管側を上流側とするように前記空気導入通路に取付けられていることを特徴とするエンジンのブローバイガス還元装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−198279(P2007−198279A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−18573(P2006−18573)
【出願日】平成18年1月27日(2006.1.27)
【出願人】(000116574)愛三工業株式会社 (1,018)
【Fターム(参考)】